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感染性心内膜炎に強膜炎とぶどう膜炎を併発した1 例

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1348.1352,2021c感染性心内膜炎に強膜炎とぶどう膜炎を併発した1例小林崇俊*1岡本貴子*1高井七重*1庄田裕美*1丸山耕一*1,2多田玲*1,3池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2川添丸山眼科*3多田眼科CACaseofScleritisandUveitisAccompaniedbyInfectiveEndocarditisTakatoshiKobayashi1),TakakoOkamoto1),NanaeTakai1),YumiShoda1),KouichiMaruyama1,2),ReiTada1,3)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)KawazoeMaruyamaEyeClinic,3)TadaEyeClinicC目的:感染性心内膜炎(IE)にぶどう膜炎と強膜炎を併発したC1例を経験したので報告する.症例:40歳,男性.2カ月前からときどきC37.39℃台の発熱,頭痛,膝関節痛,太腿部痛などがあり,近医内科に通院中であった.1週間前から左眼歪視,充血,眼痛,視力低下を自覚して大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科を受診した.初診時視力は,右眼矯正C1.2,左眼矯正C0.3.左眼は上方の充血と角膜後面沈着物,1+の前房内炎症細胞,黄斑にはCRoth斑と,OCTで中心窩下に隆起性病変を認めた.当院内科に入院して精査を行い,血液培養からCStreptococcusCmitis/oralisが検出され,心エコーからCIEと診断された.その後,抗菌薬の点滴治療により全身状態は改善し,強膜炎,ぶどう膜炎も軽快した.左眼矯正視力はC1.0に回復した.結論:不明熱を伴った強膜炎やぶどう膜炎を診察した場合,IEも鑑別診断の一つとして重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCinfectiveendocarditis(IE)accompaniedCbyCscleritisCandCuveitis.CCase:A40-year-oldmalepresentedwithafeverrangingfrom37℃to40℃,headache,kneejointpain,andthighpainfrom2monthspriortoadmission,andvisitedourdepartmentafterbecomingawareofdistortedvision,hyperemia,eyepain,CandCdecreasedCvisualacuity(VA)inChisCleftCeyeCfromC1CweekCearlier.CUponCexamination,ChisCbest-correctedVA(BCVA)was1.2CODand0.3COS.Hislefteyeexhibitedhyperemia,especiallyintheupperside,keraticprecipi-tates,CcellsCofCgradeC1+inCtheCanteriorCchamber,CRothCspotsConCtheCmacula,CandCopticalCcoherenceCtomographyCexaminationrevealedanelevatedlesionunderthefovea.Streptococcusmitis/oralisCwasdetectedfromexaminationofChisCbloodCculture,CandCheCwasCdiagnosedCasCIECbyCechocardiography.CIntravenousCantibioticsCadministrationCimprovedChisCgeneralCcondition,CandCcuredCtheCscleritisCandCuveitis.CPostCtreatment,ChisCVACrecoveredCtoC1.0COS.CConclusion:Whenpatientsareseenwhoexhibituveitisorscleritiswithafeverofunknownorigin,IEshouldbeconsideredasadi.erentialdiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(11):1348.1352,C2021〕Keywords:感染性心内膜炎,ぶどう膜炎,強膜炎,不明熱,Roth斑.infectiveendocarditis,uveitis,scleritis,fe-verofunkownorigin,Rothspots.Cはじめに感染性心内膜炎(infectiveendocarditis:IE)は,弁膜や心内膜,大血管内膜に細菌集簇を含む疣腫を形成し,菌血症,血管塞栓,心障害などの多彩な臨床症状を呈する全身性の敗血症性疾患である1).その診断は必ずしも容易ではなく2),長期間不明熱として診断がつかないケースもあり,的確な診断をして適切に治療されなければ,心臓だけではなく,さまざまな臓器の合併症を起こし,死に至ることもある3).また,眼病変を併発することも知られており,過去にはCRoth斑4),転移性内因性眼内炎5)などの報告が多いが,なかには眼科受診が契機となり,感染性心内膜炎の診断に至ったとする報告も散見される6).しかし,強膜炎7)やぶどう膜〔別刷請求先〕小林崇俊:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakatoshiKobayashi,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machiTakatsuki,Osaka569-8686,JAPANC炎7,8)を併発したとする報告は比較的少ない.今回,2カ月間,不明熱として経過したのちに,眼痛を自覚して眼科を受診.強膜炎,ぶどう膜炎,網膜出血を指摘されたことが契機となり,IEの診断に至ったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:40歳,男性.主訴:左眼歪視,充血,眼痛,視力低下.現病歴:2018年(X-2)月ごろからときどきC37.39℃台の発熱があり,近医内科へ通院していた.同じころ,頭痛,膝関節痛,太腿部痛,足底部痛を自覚.右手の環指,小指には圧痛があり,大腿部には,有痛性の腫瘤があった.同年CX月上旬,左眼歪視を自覚.そのC2日後から左眼充血と,眼痛,視力低下を生じたため,近医眼科を受診し,左眼黄斑部出血を指摘された.それから約C1週間後に精査加療目的にて大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科(以下,当科)を紹介受診した.既往歴:心雑音(若年時から指摘),気管支喘息,化膿性脊椎炎.家族歴:特記すべきことなし.当科初診時所見:視力は,右眼C0.25(1.2C×sph.1.25D(cylC.0.50DAx90°),左眼C0.09(0.3C×sph.2.50D(cyl.0.75DAx165°).眼圧は右眼C12mmHg,左眼C12mmHg.左眼はおもに上方に強膜充血を認め,眼痛の訴えが強かった.左眼前房内は,1+程度の炎症細胞があり,微細な角膜後面沈着物を認めた.隅角検査では,耳側にC1カ所出血を認めた(図1).眼底は,左眼黄斑部に線状の白色病変を認め,その周囲に数カ所CRoth斑様の網膜出血を認めた.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では中心窩下に隆起性病変を認め,網膜外層の構造が崩れていた(図2).なお,右眼は前眼部,眼底とも病変はなかった.初診日にC39℃台の発熱があり,眼科だけではなく当院内科も受診した.長期間発熱が持続していたことや,CRP(C-reactiveCpro-tein)が高値であったことなどから同日に不明熱の精査加療目的にて当院内科に入院となった.同日の採血では,赤血球C4.58×106/μl(4.35-5.55C×106/μl),白血球C11.03C×103/μl(基準値:3.30-8.60C×103/μl),血小板C205C×103/μl(基準値:C158-348×103/μl),CRPはC6.43mg/dl(基準値:0.14mg/dl以下)であった.また,ぶどう膜炎セットの採血も行い,梅毒トレポネーマ抗体陰性,RPR(rapidplasmareagin)検査陰性,トキソプラズマCIgM抗体C0.1CIU/ml(基準値<0.8),トキソプラズマCIgG抗体≦3CIU/ml(基準値<6),結核菌特異的インターフェロンCg遊離試験は陰性であった.眼科としては,持続する発熱があり,CRPが高値であったことから,全身疾患に強膜炎とぶどう膜炎が併発している可能性が高いと考え,レボフロキサシン点眼左C4,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムCPF点眼左C4,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼左C2で経過をみることとした.経過:入院後の内科での精査の結果,血液培養からCStrep-tococcusmitis/oralisが検出され,心エコーと,それに続いて経食道心エコーが行われた.その結果,僧房弁逸脱症が判明し,僧房弁に付着している疣贅が観察された.また,頭部MRI検査が行われ,無症候性の脳梗塞が判明した.その結果,修正CDuke診断基準3)で大基準C1項目,小基準C5項目を満たすことから,IEと確定診断された.Cb-ラクタマーゼ系の抗生物質(スルバシリン)の点滴投与が開始され,投与開始翌日には眼痛は消失し,発熱も数日以内に治まった.その後,右眼の周辺部にも網膜出血が散在性に出現した.治療開始約C4週間後には左眼の充血と網膜出血は消退し,矯正視力はC1.0に改善した.点滴治療は約C4週間続けられ,再度行った頭部CMRI検査にて新たな部位に脳梗塞病変が発見されたが,麻痺症状はなく,膿瘍もないことからそのまま経過観察となった(図3).また,入院中に歯科と整形外科に図1初診時左眼前眼部写真a:左眼上方に強い充血を認める.Cb:左眼耳側の隅角にC1カ所出血(C.)を認めた.図2初診時左眼眼底画像a:眼底写真.黄斑部に複数のCRoth斑と,中心窩に白色病変を認めた.Cb:OCT画像.中心窩下に隆起性病変(.)を認めた.b図3頭部MRI画像後頭葉に脳梗塞病変(C.)を認めた.て精査した結果,歯科では中等度の歯周病があり,抜歯処置が必要な状態であった.整形外科では大腿部のしこりは炎症性結節との診断であり,入院中にしこりは徐々に縮小したため,とくに処置は行われなかった.入院から約C5週間後に,眼科,内科とも経過良好にて当院を退院となった.点眼薬はC3カ月間続け,その後中止とした.現在,発症から約C2年が経過しており,左眼矯正視力は1.0であるが,OCTではCellipsoidzoneに不整な箇所が残存している(図4).CII考按IEは,心臓だけではなく,全身の諸臓器が関係する急性,亜急性の感染症である.わが国におけるC114施設からのC2年間の大規模調査の報告によると,513症例中,男性C320例,女性C193例となっており,発症年齢の中央値はC61歳(最年少1歳.最年長97歳),約80%以上に基礎疾患として循環器疾患を認めた.また,誘因として,う蝕,歯周病が全体の25%と最多を占める結果となっている9).本症例も,起因菌は口腔内に多く存在する緑色レンサ球菌の一種のCStreptococ-cusmitis/oralisであり,入院中の精査によって歯周病が発見され,歯科にて治療を受けた.cIEは内科的に診断が困難な場合2)もあり,また,眼科受診を契機に診断に至るケースも報告されており6),疾患の概要については眼科医としても熟知しておくべきである.仲松らの総論によると,IEの症状は,非特異的症状(倦怠感,食思不振,体重減少など),心臓に由来する症状,塞栓による症状の組み合わせからなり,多彩な症状を呈し,約C90%の患者に発熱を認める10).本症例でもC37.39℃台の発熱と,僧房弁逸脱症によると考えられる心雑音を呈しており,また,脳梗塞などの塞栓症があった.さらに,眼科受診以前から膝関節痛,太腿部痛,足底部痛や,右手の環指,小指に圧痛があり,大腿部には結節も認めたことから,疣贅が血流によって全身に移動し,各部位に塞栓症を起こしていたものと考えられた.今回,発熱が先行し,おそらく前医眼科受診の直前になって強膜炎とぶどう膜炎が発症し,歪視や眼痛などの自覚症状が出現したものと考えられた.発熱を伴う強膜炎やぶどう膜炎の患者を診察した場合,膠原病関連疾患や悪性腫瘍も鑑別疾患として重要であるが,まずは感染症を鑑別することがも図4発病から2年経過時点の各種所見a:前眼部写真.左眼上方強膜の充血は消退している.Cb:左眼眼底写真.Roth斑と白色病変は消退している.c:左眼COCT画像.中心窩下の隆起性病変は消退したが,ellipsoidzoneの不整はわずかに残存している(.).っとも大切であると考えられる.そのまま内科へ速やかに受診できればよいが,それが無理であれば,眼科で少なくとも採血検査だけは行うべきと考える.もしそれで異常値が見つかれば,より積極的な全身検査を行う必要があることは言うまでもないが,それが緊急性を要するかどうかの判断は眼科単独では難しいことが多く,今後の課題である.本症例では当科初診日に内科も受診することができ,迅速な対応が可能であったが,普段から眼科以外の他科との連携をスムーズに行えるように配慮しておくべきである.IEに伴う眼疾患としては,内因性転移性眼内炎や,網膜中心動脈閉塞症11),ぶどう膜炎などの報告があるが,もっとも多いのは網膜出血の報告である.中心部分に白色部分を含む特徴的な網膜出血はCRoth斑とよばれ,今回も当初からRoth斑と考えられる網膜出血が,左眼は黄斑部付近に,右眼も経過中に周辺部に数カ所認められた.筆者の一人(担当医)は,初診時にCRoth斑は視認したものの,すでに他院内科に通院していたことから,感染症の可能性は低いと安易に考え,採血で血球系にも異常値を認めたため,血液疾患を強く疑った.しかし,CRP高値で不明熱が長期間に及んでいたことから,その後の精査によってCIEと診断されるに至った.本症例のように,IEに強膜炎を併発したとする報告は少なく7),ぶどう膜炎を生じたとする報告もまれである7,8).強膜炎は,強膜血管に免疫複合体が沈着し,血管内に沈着した免疫複合体に補体が結合し,補体系活性化により炎症細胞浸潤が誘導され,強膜血管炎が発生する,とされている12).今回も,おそらく疣腫を含めた免疫複合体が原因となり,上方の強膜血管に沈着して炎症が惹起され,強膜炎が生じたものと考えられる.また,中心窩下の白色の隆起性病変の詳細は不明であるが,眼症状としてまず歪視を自覚していることから,同様な疣腫を含めた免疫複合体が先に脈絡膜にたどり着いたものではないかと考えている.前述のように,IEの起因菌はさまざまであるが,緑色レンサ菌など,口腔内由来のものが多くを占めている.最近,口腔内細菌とCIEの関連を調べた研究が数多く行われ,多くの知見が得られている.たとえば,緑色レンサ球菌でう蝕を生じる主要な細菌であるCStreptococcusmutansの研究がある13).その菌体表層に存在するコラーゲン結合蛋白質であるCnmとCCbmは,それぞれC10.20%と,2%にしか存在していない.しかし,Cbmを有するものは,心臓の弁膜に漏出したコラーゲンに付着するだけではなく,血漿中に含まれるフィブリノーゲンにも付着し,それを架橋とした血小板凝集能を惹起することが明らかとなっており13),疣贅形成に直結する.つまり,細菌の種類のみではなく,それに発現している蛋白質の違いによって,IEのなりやすさに差があることがわかってきている.一方,緑色レンサ球菌のヒト培養網膜色素上皮細胞(ARPE-19)に対する細胞毒性をみた研究では,Streptococ-cusmitis/oralisでは強い毒性はなかったものの,Streptococ-cuspseudoporcinusではCARPE-19に強い毒性を示した14).このように,同じ系統の細菌でも,菌種によって生体組織へ与えるダメージや,付着のしやすさに差があることが徐々に明らかになってきている.本症例では発熱の期間が長く,菌血症であった時間が比較的長期であったにもかかわらず,眼病変が軽症で回復した背景には,起因菌がCStreptococcusmitis/oralisであったために,組織へ与えるダメージが少なかった可能性が考えられる.今回は過去の報告と異なり,中心窩下にも病変を認めていた.経過中,病変は徐々に縮小したものの,OCTではC2年が経過したあともCellipsoidzoneの不整がわずかではあるが残存している.しかし,初診時の病変が比較的大きかったにもかかわらず,歪視や視力低下は残存していない.それはCStreptococcusmitis/oralisが起因菌であったために,上記の研究結果のように網膜色素上皮や網膜へのダメージが最小限に抑えられた可能性が考えられる.発現している蛋白質や,眼組織への付着のしやすさまではわらないが,本症例ではむしろ付着しにくかったのかもしれない.したがって,同様の隆起性病変が生じた場合,起因菌の種類や性質によっては組織が大きく障害され,視力低下を生じるケースも起こりうると考えられる.症例の蓄積と研究の進展によって,今後さらに詳細が明らかになってくるものと考えられる.最後に,不明熱を伴った強膜炎やぶどう膜炎の患者を診察した場合,IEも鑑別診断の一つとして重要であると考えられた.今回の論文の要旨は,第C53回日本眼炎症学会にて発表した.文献1)中谷敏:感染性心内膜炎の病態生理.化学療法の領域C34:220-223,C20182)SumitaniS,KagiyamaN,SaitoCetal:Infectiveendocar-ditiswithnegativebloodcultureandnegativeechocardio-graphic.ndings.JEchocardiogrC13:66-68,C20153)CahillTJ,PrendergastBD:Infectiveendocarditis.LancetC387:882-893,C20164)RuddySM,BergstromR,TivakaranVS:Rothspots.Stat-Pearls[Internet]C,CStatPearlsCPublishing,CTreasureCIsland(FL),20205)AoyamaCY,CObaCY,CHoshideCSCetal:TheCearlyCdiagnosisCofendophthalmitisduetoGroupBStreptococcusCinfectiveendocarditisanditsclinicalcourse:acasereportandlit-eraturereview.InternMedC58:1295-1299,C20196)FujiokaS,KarashimaK,InoueAetal:CaseofinfectiousendocarditisCpredictedCbyCorbitalCcolorCDopplerCimaging.CJpnJOphthalmolC49:46-48,C20057)MitakaCH,CGomezCT,CPerlmanDC:ScleritisCandCendo-phthalmitisCdueCtoCStreptococcusCpyogenesCinfectiveCendo-carditis.AmJMedC133:e15-e16,C20208)HaCSW,CShinCJP,CKimCSYCetal:BilateralCnongranuloma-tousuveitiswithinfectiveendocarditis.KoreanJOphthal-molC27:58-60,C20139)NakataniCS,CMitsutakeCK,COharaCTCetal:RecentCpictureCofCinfectiveCendocarditisCinCJapanC─ClessonsCfromCcardiacCdiseaseregistration(CADRE-IE)C.CCircCJC77:1558-1564,C201310)仲松正司,藤田次郎:発熱と感染症全身感染・細菌性心内膜炎.臨牀と研究90:1026-1031,C201311)ZiakasCNG,CKotsidisCS,CZiakasCACetal:CentralCretinalCarteryocclusionduetoinfectiveendocarditis.IntOphthal-molC34:315-319,C201412)堀純子:強膜炎発症機構.眼科52:1149-1154,C201013)野村良太,仲野和彦:口腔バリアと疾患その破綻とう蝕病原性細菌が引き起こす全身疾患.実験医学C35:1182-1188,C201714)MarquartME,BentonAH,GallowayRCetal:Antibioticsusceptibility,Ccytotoxicity,CandCproteaseCactivityCofCviri-dansCgroupCstreptococciCcausingCendophthalmitis.CPLoSCOneC13:e0209849,C2018

長期不明熱を併発した内因性眼内炎の1例

2018年6月30日 土曜日

《第51回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科35(6):811.814,2018c長期不明熱を併発した内因性眼内炎の1例藤井敬子馬詰和比古後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野CCaseofEndogenousEndophthalmitiswithLong-termUnidenti.edFeverKeikoFujii,KazuhikoUmazumeandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity長期不明熱を併発した内因性眼内炎のC1例を経験したので報告する.症例はC75歳の女性.左眼の視力低下を自覚し,当院を紹介受診となった.初診時,左眼の視力は光覚弁,左眼には毛様充血,結膜浮腫とフィブリンの析出が観察され,6時間後には前房蓄膿も出現した.内因性眼内炎を疑い,同日中に水晶体摘出術と硝子体切除術を行った.術後の病歴聴取より繰り返す発熱,原因不明の両膝関節炎の既往がわかり,齲歯を自分で削っていたことも判明した.さらに心臓超音波検査で大動脈弁に疣贅を認め,硝子体液と血液培養からグラム陽性球菌が検出された.感染性心内膜炎の診断で抗菌薬の投与を開始,術後C45日目に眼内レンズの二次挿入を,50日目に大動脈弁置換術を施行した.初診から3カ月後の矯正視力はC0.6で,全身状態と併せ経過良好である.易感染性につながる基礎疾患がなくても,内因性眼内炎が疑われた際には詳細な病歴聴取が診断の鍵となることがある.CWereportacaseofendogenousendophthalmitiswithlong-termunidenti.edfever.A75-year-oldfemalerec-ognizedblurredvisioninherlefteye.Visualacuitywaslightperceptioninthelefteye;ciliaryinjection,conjuncti-valchemosisand.brinintheanteriorchamberwereobserved.Moreover,hypopyonappeared6hourslater.Thepatientunderwentphacoemulsi.cationandvitrectomyonthatday,withsuspicionofendogenousendophthalmitis.Aftersurgery,welearnedmorepreciselyofherhistoryofrepeatedfever,unidenti.edarthritisanddentalcaries.InCaddition,CechocardiographyCrevealedCvegetationConCherCaorticCvalve.CFurthermore,Cgram-positiveCcoccusCwasCdetectedCinCherCbloodCspecimenCandCvitreousCsample.CSheCwasCtreatedCwithCsystemicCadministrationCofCantibioticsCforadiagnosisofendocarditis.Intraocularlensimplantationandaorticvalvereplacementwereperformed45daysand50dayslater,respectively.Herbest-correctedvisualacuitywasimprovedto0.6withgoodphysicalconditionafter3monthsfromtheinitialexamination.Itissuggestedthatdetailedmedicalhistorycouldleadtothediagnosisofendogenousendophthalmitiseveninnon-immunocompromisedpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(6):811.814,C2018〕Keywords:内因性眼内炎,感染性心内膜炎,問診,齲歯.endogenousendophthalmitis,endocarditis,medicalin-terview,dentalcaries.Cはじめに内因性感染性眼内炎は眼外臓器の感染巣から血行性に細菌や真菌が眼内へ移行し発症する.とくに細菌性眼内炎はいったん発症すると短時間で病態が悪化することが多く,失明率も高いため,早期診断,早期治療が良好な視機能の維持のために必要となる.一般に細菌性眼内炎は肝膿瘍や腎盂腎炎などに続発し,基礎疾患として糖尿病・悪性腫瘍を合併することが多いと報告されているが1),まれながらこれらの基礎疾患のない健常人にも発症することもある2).今回,内因性眼内炎の発症と診断を契機に,長期不明熱の原因が判明したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:75歳,女性.主訴:左眼の視力低下.既往歴:特記すべきことはないが,遷延する微熱あり.現病歴:2016年C9月末の昼頃から左眼の飛蚊症を自覚し,その後,視力低下も出現したため,同日夕刻に近医を受診し〔別刷請求先〕藤井敬子:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:KeikoFujii,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN図1初診から6時間後の左眼所見a:前房内のフィブリンの析出が増加し,前房蓄膿も出現している.Cb:超音波CBモード検査では硝子体腔に高反射エコーがみられる.C図2術2日後に施行された心エコー検査大動脈弁にC7C×5Cmm大の疣贅(矢印)を認める.た.左眼矯正視力はC0.6まで低下しており,網膜出血が観察されたため,網膜静脈分枝閉塞症の疑いで,翌日,東京医科大学八王子医療センター眼科を紹介受診となった.初診時眼所見と経過:視力は右眼C0.8(0.9C×sph.0.25D(cyl.1.00DCAx95°),左眼光覚弁(矯正不能)で,眼圧は右眼C7CmmHg,左眼C21CmmHgであった.左眼には毛様充血,結膜浮腫,前房内にフィブリンの析出が観察され,眼底は透見不能であった.右眼は軽度白内障を認めるのみで,前眼部,中間透光体,眼底に異常を認めなかった.初診からC6時間後には左眼前房中のフィブリンが増加し,前房蓄膿も出現していることが確認された(図1a).超音波CBモード検査では硝子体腔に高反射エコーを認めた(図1b).眼痛と全身倦怠感も増強し,眼所見と臨床経過から内因性感染性眼内炎を疑った.なお,入院時の全身検査所見は体温C37.2℃,採血では白血球数C4,340/ml(好中球C53%),CRPC3.20Cng/dlと軽度上昇していたが,胸部CX腺,胸腹部Ccomputedtomog-raphy(CT)ではとくに異常はなかった.心電図では左軸偏位と完全左脚ブロックがみられた.内因性感染性眼内炎の診断のもと,紹介同日に白内障手術および硝子体手術を計画した.手術直前に血液培養を施行し,バンコマイシン,セフタジジムを含む灌流液の灌流前に前房水および硝子体液を採取し,培養検査に提出した.手術方法は,瞳孔領を覆っていた前眼部のフィブリンを除去し,水晶体摘出後,硝子体手術に移行した.術中の眼内所見であるが,硝子体腔に高度の混濁を認め,眼底には広範囲にフィブリンが析出し,網膜血管は白鞘化を呈しており,網膜内出血も眼底のすべての象限で確認された.術翌日は角膜浮腫が強く,眼底は透見不能であったが,前房蓄膿はみられず,感染については一定の制御が得られていると判断し,バンコマイシンとセフタジジムの頻回点眼による治療を継続した.術後に改めて病歴を聴取したところ,数年前より原因不明の熱発を認め,さらにC3年前に両膝関節炎に罹患し,他院で精査するも原因は不明であったことが判明した.全身的精査目的に当院の総合診療内科を受診したところ,聴診により心雑音が聴取されたため心臓血管外科で精査となった.後に心臓超音波検査を行ったところ,大動脈弁にC7C×5Cmm大の疣贅を認めた(図2).また,術中に採取した硝子体液と静脈血の双方からグラム陽性球菌であるCAerococcus属が検出され,菌血症と心エコーの所見から感染性心内膜炎の診断に至った.その後,再度病歴を聴取したところ,齲歯を自分自身で削り取っていたことが判明し,未治療の齲歯が原因とされる感染性心内膜炎に続発した内因性眼内炎であったことが推察された.感染性心内膜炎に対しては硝子体手術のC2日後から4週間のアンピシリンとC2週間のゲンタマイシンの点滴加療を開始した.術後の眼所見は前眼部炎症,硝子体混濁も徐々に軽快していったため,術後C16日目よりレボフロキサシンとセフメノキシムに点眼を変更し,術後C45日目に眼内レンズの二次挿図3初診から3カ月後の左眼所見a:前眼部に異常はなく,矯正視力はC0.6まで改善した.Cb:眼底には周辺部にわずかな点状出血を認めるのみである.C入を行った.初診からC3カ月後には左眼視力はC0.6(矯正不能)まで改善し,眼底には周辺部に点状出血をわずかに認めるのみとなり,良好な経過をたどっている(図3a,b).感染性心内膜炎については抗菌薬による治療後,血液培養は陰性となったものの,大動脈弁に疣贅が残存していたため,硝子体手術からC50日目に大動脈弁置換術が行われ,その後は今日に至るまで経過良好である.CII考按内因性眼内炎は体内にある何らかの感染巣から,細菌や真菌が血行性に眼内に転移して生じる.秦野らによれば,悪性腫瘍,感染症,糖尿病,膠原病などの背景因子や,大手術,intravenoushyperalimentation(IVH),ステロイド投与を契機に発症することが多いとされるが1),まれながら健常人にも発症することがある2).そのような場合にはとくに診断に苦慮することが推察され,実際,本疾患は誤診率の高い疾患としても知られている3).細菌性眼内炎の場合,グラム陰性桿菌が起炎菌となることが多く,おもな原発感染巣として尿路,消化器,呼吸器における感染が多いとされる1).また,わが国においては比較的まれではあるが,米国では感染性心内膜炎による眼内炎が40%を占めるといわれている4).感染性心内膜炎は心内膜に疣贅を形成し,塞栓症や心障害など,多彩な臨床症状を呈する全身性・敗血症性疾患である5).起炎菌はグラム陽性球菌によることがC80%以上で,何らかの基礎心疾患を有する症例がC80%を占めるが,まれに心疾患の既往がない例に発症することもあるとされる6).また,歯科治療を契機に発症した例がC30%を占め,そのほか消化管・泌尿生殖器処置後や,中心静脈カテーテル留置などの背景因子をもつことが多いといわれている6).今回の症例では,病歴の聴取と治療開始前の検体採取により,未治療の齲歯が原因で感染性心内膜炎に罹患し,遷延する微熱を経て眼内炎を発症したことが判明した.特記すべき基礎疾患がないにもかかわらず感染性心内膜炎を発症したことと,その感染性心内膜炎が感染巣となって内因性感染性眼内炎を発症した点は,比較的まれな症例であったと思われる.いずれにしても詳細な病歴聴取が診断につながったといえよう.細菌性眼内炎は初診の段階で正しく診断されるのはC50%程度との報告もあり,誤診率の高い疾患である7).発症すると進行が早く,著しく視機能を損なう可能性があるため,視力予後の改善には早期診断に加え,抗菌薬の全身・硝子体投与と硝子体手術が必要とされる7).本症例においても早期発見,診断に加え,抗菌薬の投与,硝子体手術によって視力の回復を得ることができた.明らかな既往歴や眼科受診歴などがなくても,疑わしき眼所見が観察された際には眼内炎の可能性を念頭に入れ,早期の治療介入が必要である.わが国では感染性心内膜炎が感染巣となって発症することは少ないものの,あらゆる可能性を考慮しながら全身的精査を行っていくことが肝要であろう.CIII結論長期不明熱のみられた患者が転移性内因性眼内炎を契機に感染性心内膜炎の診断に至り,治療によって視機能および全身症状の回復が得られたC1例を経験した.特記すべき基礎疾患がなくても,内因性眼内炎の原因検索として詳細な病歴聴取が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状─発症動機と起炎菌.日眼会誌95:369-376,C19912)MatsuoCK,CNakatsukaCK,CYanoCYCetCal:GroupCBCstrepto-coccalCmetastaticCendophthalmitisCinCelderlyCmanCwithoutCpredisposingillness.JpnJOphthalmolC42:304-307,C19983)BinderCMI,CChuaCJ,CKaiserCPKCetCal:EndogenousCendop-thalmitis:An18-yearreviewofculture-positivecasesatatertiarycarecenter.MedicineC82:97-105,C20034)PringleSD,McCartney,MarshallDAetal:Infectiveendo-carditisCcausedCbyCStreptococcusCagalactiae.CIntCJCCardiolC24:179-183,C19895)宮武邦夫,赤石誠,石塚尚子ほか:感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン.JCS,20086)NakataniCS,CMitsutakeCK,COharaCTCetCal:RecentCpictureCofCinfectiveCendocarditisCinCJapan.CCircCJC77:1558-1564,C20137)OkadaAA,JohnsonRP,LilesWCetal:Endogenousbac-terialCendohthalmitis.CReportCofCten-yearCretrospectiveCstudy.OphthalmologyC101:832-838,C1994***

骨髄異形成症候群の患者に生じた転移性感染性眼内炎の1症例

2014年10月31日 金曜日

1540あたらしい眼科Vol.4100,211,No.3(00)1540(118)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(10):1540.1544,2014cはじめに転移性感染性眼内炎の原因疾患としては肝膿瘍,尿路感染症などが多いとされる1)が,心内膜炎が原因となることがまれにある.筆者らの施設でも小林ら2),盛ら3)が心内膜炎に続発する転移性感染性眼内炎の症例を報告している.今回,基礎疾患に骨髄異形成症候群を持つ患者に生じた心内膜炎が原因と思われる転移性感染性眼内炎の1例を経験したので報告する.I症例症例は63歳,男性.平成22年9月中旬頃から左眼飛蚊症を自覚したため,同年9月30日,近医眼科を受診したと〔別刷請求先〕平本裕盛:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:YuseiHiramoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-3-1Shin-machi,Hirakatacity,Osaka573-1191,JAPAN骨髄異形成症候群の患者に生じた転移性感染性眼内炎の1症例平本裕盛山田晴彦星野健髙橋寛二関西医科大学附属枚方病院眼科ACaseofMetastaticInfectiousEndophthalmitiswithMyelodysplasticSyndromeYuseiHiramoto,HaruhikoYamada,TakeshiHoshinoandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:骨髄異形成症候群を基礎疾患にもつ患者に生じた,感染性心内膜炎が感染源として考えられる転移性感染性眼内炎の症例を報告する.症例:63歳,男性.既往に骨髄異形成症候群がありステロイド内服治療を受けていた.左眼飛蚊症を自覚して近医眼科を受診.真菌性眼内炎として前医に紹介され加療されたが,硝子体混濁の悪化を認め当院を紹介された.初診時,左眼視力は矯正0.5で濃厚な硝子体混濁を認め,眼底の下方半分が透見不能であった.前医の血液培養でa溶血性レンサ球菌が検出されており,転移性感染性眼内炎を疑い初診日に硝子体手術を行った.術後2日目に循環器内科で感染性心内膜炎と診断され転科となり,後日僧帽弁置換術を行い全身状態は軽快に向かった.眼科での術後経過は良好であり,術後5カ月経過した現在まで視力は矯正1.5を維持し,再発を認めていない.結論:骨髄異形成症候群および感染性心内膜炎は転移性感染性眼内炎の基礎疾患,感染巣として念頭に置いておくべきである.Purpose:Wereportacaseofmetastaticinfectiousendophthalmitiscausedbyinfectiveendocarditisaccompa-niedwithmyelodysplasticsyndrome.Case:Thepatient,a63-year-oldmalewithmyelodysplasticsyndrome,hadbeentreatedwithsystemiccorticosteroidforyears.Hepresentedwithfloatersinhislefteye,hadbeendiagnosedashavingfungalendophthalmitisandwastreatedwithananti-fungaldrugs.Despitetheanti-fungaltherapy,how-ever,vitreousopacityincreasedandheconsultedourhospital.Onhisfirstvisit,thelowerfundusofhislefteyewasinvisibleduetothickvitreousopacity.Aspeciesofa-Streptococcushadbeenisolatedfromhisbloodatapre-vioushospital.Wediagnosedthepatientashavingmetastaticinfectiousendophthalmitis,andperformedvitrectomyonthedayofhisfirstvisittoourhospital.Twodaysafterthesurgery,hewasdiagnosedwithinfectiousendocar-ditis.Hewasstartedonsystemicantibacterialtherapyandlaterunderwentmitralvalvereplacementsurgery.Hehadagoodpostoperativecourseinbothsystemicandophthalmologicoperations.Hefinallyachievedvisualacuityof1.5.Conclusion:Myelodysplasticsyndromeandinfectiousendocarditisseemtobeimportantasfundamentaldiseasesandprimaryfociofmetastaticendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1540.1544,2014〕Keywords:骨髄異形成症候群,感染性心内膜炎,眼内炎,硝子体手術.myelodysplasticsyndrome,infectiveen-docarditis,endophthalmitis,vitrectomy.(00)1540(118)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(10):1540.1544,2014cはじめに転移性感染性眼内炎の原因疾患としては肝膿瘍,尿路感染症などが多いとされる1)が,心内膜炎が原因となることがまれにある.筆者らの施設でも小林ら2),盛ら3)が心内膜炎に続発する転移性感染性眼内炎の症例を報告している.今回,基礎疾患に骨髄異形成症候群を持つ患者に生じた心内膜炎が原因と思われる転移性感染性眼内炎の1例を経験したので報告する.I症例症例は63歳,男性.平成22年9月中旬頃から左眼飛蚊症を自覚したため,同年9月30日,近医眼科を受診したと〔別刷請求先〕平本裕盛:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:YuseiHiramoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-3-1Shin-machi,Hirakatacity,Osaka573-1191,JAPAN骨髄異形成症候群の患者に生じた転移性感染性眼内炎の1症例平本裕盛山田晴彦星野健髙橋寛二関西医科大学附属枚方病院眼科ACaseofMetastaticInfectiousEndophthalmitiswithMyelodysplasticSyndromeYuseiHiramoto,HaruhikoYamada,TakeshiHoshinoandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:骨髄異形成症候群を基礎疾患にもつ患者に生じた,感染性心内膜炎が感染源として考えられる転移性感染性眼内炎の症例を報告する.症例:63歳,男性.既往に骨髄異形成症候群がありステロイド内服治療を受けていた.左眼飛蚊症を自覚して近医眼科を受診.真菌性眼内炎として前医に紹介され加療されたが,硝子体混濁の悪化を認め当院を紹介された.初診時,左眼視力は矯正0.5で濃厚な硝子体混濁を認め,眼底の下方半分が透見不能であった.前医の血液培養でa溶血性レンサ球菌が検出されており,転移性感染性眼内炎を疑い初診日に硝子体手術を行った.術後2日目に循環器内科で感染性心内膜炎と診断され転科となり,後日僧帽弁置換術を行い全身状態は軽快に向かった.眼科での術後経過は良好であり,術後5カ月経過した現在まで視力は矯正1.5を維持し,再発を認めていない.結論:骨髄異形成症候群および感染性心内膜炎は転移性感染性眼内炎の基礎疾患,感染巣として念頭に置いておくべきである.Purpose:Wereportacaseofmetastaticinfectiousendophthalmitiscausedbyinfectiveendocarditisaccompa-niedwithmyelodysplasticsyndrome.Case:Thepatient,a63-year-oldmalewithmyelodysplasticsyndrome,hadbeentreatedwithsystemiccorticosteroidforyears.Hepresentedwithfloatersinhislefteye,hadbeendiagnosedashavingfungalendophthalmitisandwastreatedwithananti-fungaldrugs.Despitetheanti-fungaltherapy,how-ever,vitreousopacityincreasedandheconsultedourhospital.Onhisfirstvisit,thelowerfundusofhislefteyewasinvisibleduetothickvitreousopacity.Aspeciesofa-Streptococcushadbeenisolatedfromhisbloodatapre-vioushospital.Wediagnosedthepatientashavingmetastaticinfectiousendophthalmitis,andperformedvitrectomyonthedayofhisfirstvisittoourhospital.Twodaysafterthesurgery,hewasdiagnosedwithinfectiousendocar-ditis.Hewasstartedonsystemicantibacterialtherapyandlaterunderwentmitralvalvereplacementsurgery.Hehadagoodpostoperativecourseinbothsystemicandophthalmologicoperations.Hefinallyachievedvisualacuityof1.5.Conclusion:Myelodysplasticsyndromeandinfectiousendocarditisseemtobeimportantasfundamentaldiseasesandprimaryfociofmetastaticendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1540.1544,2014〕Keywords:骨髄異形成症候群,感染性心内膜炎,眼内炎,硝子体手術.myelodysplasticsyndrome,infectiveen-docarditis,endophthalmitis,vitrectomy. 図1初診時眼底写真右眼は網膜滲出斑を1カ所認めた.左眼は硝子体混濁にて眼底透見不良であった.図2初診時眼底写真左眼周辺部網膜には1.5乳頭径大の網膜内膿瘍を認め,膿瘍に向かう白線化した動脈に沿って瘤状の滲出塊が多数観察された.ころ,左眼の網膜滲出斑を指摘された.その際には硝子体混濁はなく,滲出斑も小さかったために,特に治療を行うことなく経過観察となっていた.しかし,2回目の近医再診時に滲出斑が拡大傾向を認め,軽度の硝子体混濁が出現したため,前医眼科を紹介された.前医では左眼の真菌性眼内炎を疑われ抗真菌薬の全身投与が行われたが奏効せず,硝子体混濁の悪化をきたしたため,平成22年10月26日,関西医科大学附属枚方病院眼科(以下,当科)を紹介され受診した.既往症として平成22年6月より骨髄異形成症候群があり,その他脳梗塞,狭心症もあり前医内科で経過観察されていた.家族歴に特記すべきことはなかった.初診時所見としては,視力は右眼0.8(1.5×sph.0.25D(cyl.0.50DAx75°),左眼0.5(0.5×sph+2.00D(cyl.1.50DAx90°),眼圧は両眼とも15mmHgであった.両眼ともに結膜充血,毛様充血を認めず,右眼前眼部には異常所見なく,左眼は前房内に炎症細胞を2+認めた.中間透光体は両眼ともに軽度白内障を認め,右眼は硝子体混濁は認めなかったが,左眼は滲出物を伴う濃厚な硝子体混濁を認め,眼底下方半周は透見不良であった(図1).右眼眼底は黄斑部鼻上側に1/2乳頭径×1/4乳頭径大の網膜滲出斑を1カ所認めたが,血管炎の所見はなかった.左眼耳上側周辺部網膜に1.5乳頭径大の黄白色の網膜内膿瘍の所見を認め,その部から硝子体内に濃厚な硝子体混濁が立ち上っていた.また,膿瘍に向かう白線化した動脈に沿って瘤状の滲出塊が多数観察された(図2).フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)を行ったところ,右眼の網膜滲出斑の部は造影全期を通じて低蛍光であった.左眼は硝子体混濁により描出不良であったが,造影早期から網膜血管,視神経乳頭からの蛍光漏出による過蛍光を認めた(図3).また,左眼耳上側周辺部の滲出斑の部は終始ブロックによると思われる低蛍光を示していた.血液生化学検査ならびに血算では,白血球は6,400/μl,赤血球332×104/μl,ヘモグロビン9.5g/dl,ヘマトクリット31.0%,血小板29×104/μlであり,白血球分画において好中球の増加がみられ,CRPは2.198mg/dlと軽度上昇を認めた.また,前医に問い合わせたところ,静脈血の血液培養でグラム陽性球菌(a-Streptococcus)が検出されたとのことであった.骨髄異形成症候群に対して内科でステロイド内服治療中であり,加えて血液培養でグラム陽性球菌が検出されていることから,何らかの感染巣からの転移性感染性眼内炎であると診断した.左眼の硝子体混濁は濃厚であり,抗菌薬の硝子体(119)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141541 図3初診時FA右眼滲出斑は低蛍光を示し,左眼は網膜血管,視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた.図4初診時心エコー僧帽弁に疣贅を認める.図5初診から5カ月後FA右眼の低蛍光は消失.左眼の蛍光漏出も消失した.注射などの保存的治療では不十分であると考え,当科初診日術を行った.超音波乳化吸引にて水晶体を摘出したが,眼内に緊急入院のうえ,同日に硝子体手術を行った.手術は25レンズは挿入せず,後に眼内レンズ2次挿入が容易なようにゲージ3ポートシステムを用いた経毛様体扁平部硝子体切除後.を含め水晶体.は温存しておいた.術中,当科での術後(120) 眼内炎の治療方針に準じて眼内灌流液に抗菌薬(バンコマイシン,セフタジジム各々20μg/ml,40μg/ml)を添加した.術中所見として硝子体混濁は網膜膿瘍部にみられた滲出斑と同じ性状の菌塊を疑う滲出物を多く含んでおり,膿瘍部から立ち上るように硝子体中に拡散していた.毛様体付近にも白色の濃厚な滲出物が付着しており,硝子体カッターにて可能な限り切除した.周辺部網膜は脆弱で,硝子体カッターによる硝子体切除時に容易に小さな医原性裂孔を2カ所生じた.眼内に抗菌薬を十分に残存させる目的で液-空気置換は行わず,網膜裂孔周辺の硝子体を十分に郭清しレーザー光凝固を行って手術を終了した.切除した硝子体の細菌培養の結果は陰性であった.術後,感染の原発巣の全身検索のため術翌日に内科にコンサルトしたところ,心雑音を指摘され,心不全症状もみられた.心臓エコー検査を行ったところ,僧帽弁に疣贅が見つかり(図4),感染性心内膜炎と診断された.術後2日目に循環器内科に転科となり,抗菌薬(ペニシリンG2,400万単位/日,ゲンタシン70mg/日,4週間)の点滴が行われたが僧帽弁閉鎖不全のため心不全症状は改善せず,2カ月後の12月20日に循環器外科で僧帽弁置換術が施行された.心臓手術後全身状態は徐々に改善し退院となった.眼科的には硝子体手術後2日目に上方周辺部網膜に裂孔を生じてレーザー光凝固を行ったが,その後の経過は良好で術後5カ月目に行ったFAでは網膜血管,視神経乳頭からの蛍光漏出は消失し(図5),視力は左眼矯正1.5に回復した.また,右眼黄斑部近傍にみられた滲出斑は平成23年3月16日受診時には消失していた.II考按転移性感染性眼内炎のうち感染性心内膜炎が原発感染巣である頻度は0.13.9%1,5,6)と比較的まれであるが,症例報告は散見される2.4).感染性心内膜炎は抜歯やカテーテル治療などを契機に心内膜(主として心弁膜)に病原微生物が侵入して感染巣(疣贅)をつくる疾患で,感染症状・心症状・塞栓症など多彩な症状を呈し,適切な治療を行わないと死に至る重篤な疾患である.感染性心内膜炎の起炎菌としては緑色レンサ球菌(Streptococcusviridans)が最も多く,黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus),表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis)がそれに次ぐとされるが,細菌以外にも真菌やクラミジアなども原因となりうる.一方,骨髄異形成症候群は骨髄に造血幹細胞の異型クローンが生じることで血球減少,無効造血,血球形態異常が引き起こされる症候群で,造血不全や急性白血病を生じることもある.治療としてステロイド薬や免疫抑制薬が使用される.眼合併症として角膜潰瘍,虹彩炎などが報告されているが,眼内炎を合併する症例も少ないながら報告がある7.9).本症例は基礎疾患に骨髄異形成症候群があり,長期間ステ(121)ロイド内服治療がなされていた.このことからステロイド内服による易感染性が基礎になり感染性心内膜炎を発症し,転移性眼内炎を生じたものと思われた.発症当初,前医で抗真菌薬の全身投与にても改善がみられず,硝子体混濁の悪化を認め当科紹介となった.前医での経過と病歴から非感染性眼内炎の可能性は低く,真菌性眼内炎の悪化もしくは細菌性眼内炎のいずれかであると考えた.術中の培養では原因菌は検出されず,内科での感染性心内膜炎の治療中にも血液培養が行われていたが,抗菌薬による治療開始後であったということもあり原因菌は検出されなかった.治療については濃厚な硝子体混濁を生じていることから,抗菌薬全身投与などの保存的治療では不十分と思われ,手術加療が必要であると判断した.一般に転移性感染性眼内炎の場合,敗血症を起こすなど全身状態が重篤なケースが多くみられる10).本症例においても初診時に全身倦怠感を強く訴えており,原因も不明であったため,眼科的治療を先に行うのか,全身精査,加療を行うのかどちらを優先させるべきか苦慮した.しかし,直前まで前医内科で全身管理され全身状態が安定していたこと,採血でCRPが高値でなかったことから,全身状態については急を要しないと判断し,初診日に緊急で硝子体手術を行い,術後速やかに全身検索をする方針とした.幸い術後2日目に内科で感染性心内膜炎の診断がつき,遅滞なく全身治療を開始することができた.一般に転移性感染性眼内炎の予後はきわめて不良であるが,本症例では例外的に良好な視力を維持することができた.早期に硝子体手術を行えたこともその一因と考えられるが,起炎菌が弱毒菌であり,進行が比較的緩徐であったことの影響が大きいと考えられた.また,前医で行われた血液培養は陽性であったが,当科で行った培養検査では血中,硝子体中,前房水中いずれも陰性であり,眼内液からは起炎菌は証明されなかった.今後,このような症例の場合にPCR法を利用し,少量のサンプルからでも原因菌の検索ができるようなシステムを導入することが必要であると考えられた.感染性心内膜炎による転移性眼内炎の報告は過去に散見することができ,筆者らの施設でも過去に2報の症例報告を行っている.小林ら2)は視力低下を自覚してから2日後に全眼球炎に至り,抗菌薬の全身投与でも消炎できず眼球摘出に至った症例を報告している.この症例の起炎菌はB群溶連菌であり,眼球摘出後,僚眼に炎症の再燃を認め,その際の全身検索で感染性心内膜炎と診断されている.一方,盛ら3)の報告は,抜歯の3カ月後から発熱,全身倦怠感を自覚し,5カ月後に内科で感染性心内膜炎と診断された症例で,両眼ともに前眼部に軽度の炎症と視神経乳頭の充血,網膜下滲出斑およびRoth斑を認めた.この症例の経過は長く,抗菌薬の全身投与のみによって眼の炎症所見は消失し,視力予後は良好であった.この症例の起炎菌は弱毒菌であるStreptococあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141543 cussanguisであった.これら2例ともに本症例と同様に心内膜炎が原因の眼内炎ではあるが,臨床経過は大きく異なっており,その違いは起炎菌の毒性の差によるものであると推察された.本症例も弱毒菌による転移性細菌性眼内炎であり,良い条件がそろえば良好な予後を得ることが可能であると思われた.手術加療を行うことで眼球を温存できる可能性が上がるという報告もある.よって,このような症例においては全身状態が許す限り迅速な手術の適応決定が重要であると考えられた.以上,骨髄異形成症候群を基礎疾患にもつ患者に生じた感染性心内膜炎からの転移性感染性眼内炎の症例を報告した.骨髄異形成症候群,感染性心内膜炎は転移性感染性眼内炎の基礎疾患,感染病巣として念頭に置いておくべき疾患であると思われた.文献1)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状─発症動機と起炎菌─.日眼会誌95:369-376,19912)小林香陽,藤関義人,髙橋寛二ほか:B群溶連菌による心内膜炎が原因であった内因性転移性眼内炎.日眼会誌110:199-204,20063)盛秀嗣,山田晴彦,石黒利充ほか:感染性心内膜炎から転移性眼内炎を発症し,治癒後に硝子体黄斑牽引症候群を発症した1例.あたらしい眼科28:411-414,20114)髙本やよい,國友隆二,佐々利明ほか:細菌性眼内炎により両眼摘出にいたった三尖弁位感染性心内膜炎の1例.日心外会誌36:348-351,20075)GreenwaldMJ,WohlLG,SellCHetal:Matastaticbacterialendophthalmitis:Acontemporaryreappraisal.SurvOphthalmol31:81-101,19866)JacksonTL,EykynSJ,GrahamEMetal:Endogenousbacterialendophthalmitis:A17yearprospectiveseriesandreviewof267reportedcases.SurvOphthalmol48:403-423,20037)KezukaT,UsuiN,SuzukiEetal:Ocularcomplicationinmyelodysplasticsyndromeaspreleukemicdisorders.JpnJOphthalmol49:377-383,20058)伊丹優子,神林裕行,木村悟ほか:G群b溶連菌による敗血症,眼内炎を認めた骨髄異形成症候群の一例.太田綜合病院学術年報44:1-4,20099)蒸野寿紀,松岡広,藤田識人ほか:低形成骨髄異形成に対する免疫抑制療法後に発症した真菌性眼内炎の1例.和歌山医学60:160,200910)中西秀雄,喜多美穂里,榎本暢子ほか:硝子体手術を施行した転移性細菌性眼内炎の5例.臨眼60:1697-1701,200611)YoonYH,LeeSU,SohnJHetal:ResultofearlyvitrectomyforendogenousKlebsiellapneumoniaendophthalmitis.Retina23:366-370,2003***(122)

感染性心内膜炎から転移性眼内炎を発症し,治癒後に硝子体黄斑牽引症候群を発症した1 例

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(103)411《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(3):411.414,2011cはじめに転移性眼内炎は,眼以外の部位にある感染巣から血行性に真菌や細菌が眼内に転移し発症する疾患である.転移性眼内炎で最も多い起炎菌はカンジダを初めとした真菌性眼内炎であるが,細菌性眼内炎も転移性眼内炎の25~31%を占めている1,2).いずれも重篤であれば失明率が高い.筆者らは比較的若年で元来健康な成人に,抜歯後に感染性心内膜炎を発症してほぼ同時期に転移性眼内炎を生じ,眼内炎治癒後に硝子体黄斑牽引症候群(vitreomaculartractionsyndrome:VMTS)を発症し,手術療法にて治癒した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕盛秀嗣:〒573-1191枚方市新町2丁目3番1号関西医科大学枚方病院眼科Reprintrequests:HidetsuguMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2-3-1Shinmachi,Hirakata,Osaka573-1191,JAPAN感染性心内膜炎から転移性眼内炎を発症し,治癒後に硝子体黄斑牽引症候群を発症した1例盛秀嗣山田晴彦石黒利充髙橋寛二関西医科大学枚方病院眼科ACaseofMetastaticEndophthalmitisandSubsequentVitreomacularTractionSyndromeSecondarytoInfectiveEndocarditisHidetsuguMori,HaruhikoYamada,ToshimitsuIshiguroandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital目的:感染性心内膜炎が原発巣である転移性細菌性眼内炎の症例報告.症例:37歳,女性.抜歯が原因と考えられる感染性心内膜炎のため内科治療中に左眼の視力低下と飛蚊症を自覚した.初診時の左眼の矯正視力は0.15で,前房内に炎症細胞,網膜にRoth斑,滲出斑を認めた.経過から感染性心内膜炎による転移性眼内炎と診断した.血液培養の結果,Streptococcussanguisが検出されたが,薬物治療のみで眼内炎は治癒し,矯正視力は0.7まで回復した.その後左眼に硝子体黄斑牽引症候群を生じ,矯正視力は0.4まで低下したため,硝子体切除術を行い,術後視力は0.7まで回復した.結語:Streptococcussanguisによる感染性心内膜炎が原因であった転移性細菌性眼内炎の報告はまれである.感染性心内膜炎の症例においては眼症状の発現の有無に十分注意する必要がある.Purpose:Toreportacaseofmetastaticendophthalmitisduetoinfectiveendocarditis.Case:A37-year-oldfemalenoticedlossofvisioninherlefteyeandconsultedourclinic.Shehadbeentreatedinthedepartmentofcardiologyforinfectiveendocarditisfollowingtoothextraction.Atthefirstconsultationthebest-correctedvisualacuity(BCVA)inherlefteyewas0.15andtherewerecellsintheanteriorchamber.Severalhemorrhagesandexudatesintheretinawereobservedinbotheyes.Accordingtosystemicsymptomsandophthalmologicfindings,shewasdiagnosedwithmetastaticendophthalmitissecondarytoinfectiousendocarditis.Streptococcussanguiswasfoundinherbloodspecimen.Asshehadalreadybeensystemicallytreatedwithantibioticagents,themetastaticendophthalmitisresolvedandBCVArecoveredto0.7OS.Threeweekslater,vitreomaculartractionsyndromedevelopedinherlefteye,andBCVAdecreasedto0.4OS.Wethenperformedvitrectomyonherlefteye.Postoperatively,BCVAinthelefteyerecoveredto0.7.Conclusion:Metastaticendophthalmitiscausedbyinfectiveendocarditisisrare.Inapatientwhohasendophthalmitiscomplicatedwithendocarditis,metastaticendophthalmitiscanresult.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):411.414,2011〕Keywords:感染性心内膜炎,細菌,転移性眼内炎,緑色レンサ球菌,硝子体黄斑牽引症候群.infectiveendocarditis,bacillus,metastaticendophthalmitis,Streptococcussanguis,vitreomaculartractionsyndome.412あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(104)I症例患者:37歳,女性.初診日:2009年2月24日.主訴:左眼視力低下,飛蚊症.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:2008年9月に歯科で抜歯を受けたあと,12月から発熱・関節痛を認め,抗菌薬を処方され内服したが軽快しなかった.発熱が持続し,全身倦怠感が続くため2009年2月23日関西医科大学枚方病院総合診療科を受診した.感染性心内膜炎が疑われたため,同日循環器内科にて心エコー検査の結果,感染性心内膜炎と診断され,CCU(集中治療室)に即日入院となった.入院日に左眼の視力低下および飛蚊症を訴えたため,翌日の2月24日に当科を受診した.眼科初診時所見:視力は右眼0.3(1.5p×sph.3.00D(cyl.1.25DAx10°),左眼0.05(0.15p×sph.1.00D(cyl.3.25DAx10°)であった.眼圧は右眼16mmHg,左眼15mmHg.前眼部は,角膜は両眼ともに透明平滑であったが,前房には右眼に浮遊細胞を少数,左眼に浮遊細胞をやや多数認めた.虹彩,隅角,中間透光体は両眼ともに異常所見を認めなかった.両眼の眼底に視神経乳頭の発赤・腫脹と多数の網膜滲出斑およびRoth斑,左眼の黄斑部には内境界膜下出血を認めた(図1).全身所見として感染性心内膜炎に特徴的なJaneway斑点,Osler結節と四肢の関節痛を認めた.また,僧帽弁閉鎖不全に特徴的な心尖部の収縮期雑音を聴取した.血液検査では白血球数10,700/ml(好中球80.2%)と増多があり,CRP(C反応性蛋白)は6.2mg/dlと強陽性を呈した.心エコーでは僧帽弁前尖に10mmを超える大きさの細菌性疣贅を認め,心ドップラーエコーでは軽度の僧帽弁閉鎖不全(図2)を認めた.脳のMRI(磁気共鳴画像)のT1強調画像(図3)では大脳深部白質・右前頭葉,側脳室下角の白質に複数の点状高図1初診時の眼底所見上:右眼.視神経乳頭の発赤腫脹,網膜の滲出斑(白矢印)を認めた.下:左眼.視神経乳頭の発赤腫脹,滲出斑およびRoth斑(黄矢印),さらに黄斑部に滲出斑と内境界膜下出血(白矢印)を認めた.図2心エコー(上)および脳MRI(下)上:僧帽弁前尖に10mm以上の疣贅(白矢印)を認め(右図),心ドップラーエコー(図左)では左室にモザイクパターンを示し,僧帽弁閉鎖不全症の所見を認めた.下:右前頭葉,側脳室下角の白質に複数の点状高信号域を認めた(白矢印).(105)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011413信号域を認め,ラクナ梗塞の所見がみられた.血液培養では後日,口腔内常在菌である緑色レンサ球菌の一種であるStreptococcussanguisが検出された.以上の所見より,眼科的には感染性心内膜炎に伴う両眼の転移性眼内炎と診断した.臨床経過:眼科初診時よりすでに循環器内科にてゲンタマイシンおよびペニシリンGの静脈内投与が行われており,眼内炎症所見も軽微であったことから,これらの薬物治療に追加治療を行うことなく経過観察を行った.眼内炎の所見は徐々に消失し,3月初旬には左眼の矯正視力は0.15から0.7まで改善した.また,僧帽弁部の疣贅と僧帽弁閉鎖不全に対して,3月中旬に循環器外科で僧帽弁形成術が行われ,術後の経過は良好であった.しかし,3月下旬に左眼の視力は0.4と再び低下した.右眼の視神経乳頭の発赤・腫脹は消失し,網膜滲出斑,Roth斑も消失していた.左眼も同様に視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜滲出斑,Roth斑・内境界膜下出血は消失していたが,黄斑上膜の発生と網膜皺襞がみられた.2009年6月の左眼の光干渉断層計(OCT)所見では,肥厚した後部硝子体膜が中心窩網膜を牽引しており,一部網膜分離を認めた(図4).これらの所見から続発性にVMTSを生じたと診断した.2009年7月28日,左眼に経毛様体扁平部硝子体切除術と内境界膜.離術を行った.術後経過は良好で,自覚症状も著しく改善した.術後4カ月の左眼のOCT所見では中心窩網膜の牽引は消失し,中心窩陥凹は回復して解剖学的治癒が得られた(図5).同年10月13日の再診時には左眼視力は0.7まで改善し,その後眼内炎やVMTSの再燃をみていない.II考按転移性眼内炎は眼以外の部位にある全身の感染巣から血行性に真菌や細菌が眼内に転移し発症する疾患である.転移性眼内炎のうちで起炎菌として最も多いのは,Candidaalbi図3初診3週間後の眼底所見(上:右眼,下:左眼)両眼とも視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜滲出斑・Roth斑は消失していた.左眼の黄斑部では内境界膜下出血は吸収していたが,黄斑上膜と網膜皺襞を認めた.図5術後4カ月の右眼OCT所見中心窩網膜の牽引は消失し,網膜形態は回復した.図4術前1カ月の右眼OCT所見肥厚した後部硝子体膜による中心窩網膜の牽引を認めた.414あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(106)cansで29%と最も多く,つぎにKlebsiella16%,大腸菌13%とグラム陰性細菌が続く3).真菌性眼内炎は悪性腫瘍・膠原病・大手術後・血液透析などの免疫抑制状態や中心静脈高カロリー輸液(IVH)のためのカテーテル留置,ステロイド使用などが要因となり4),経過も細菌に比べ緩慢で両眼性のことが多い2).細菌性転移性眼内炎は原疾患として肝膿瘍が最も多く,ついで尿路感染症が多い.そして起炎菌はグラム陰性菌によるものが多いが,病原性が強いため,一旦発症すれば症状は急激に進行し,経過も早い.片眼性が多く,失明率が高く予後不良の疾患である5).感染性心内膜炎に眼内炎を合併する報告例はわが国で数例6~8)と少なく,検出された菌はそれぞれB群溶連菌,肺炎球菌,B群レンサ球菌であった.眼内炎の起炎菌としてStreptococcussanguisが検出された症例は,わが国では白内障術後に認めた外因性眼内炎の1例9)があるのみで,転移性眼内炎をひき起こした症例は筆者らが検索した限りでは本報告が初めてであった.両眼ほぼ同時に発症しているという点も本症例は非常にまれな症例であったといえる.Streptococcussanguisは口腔内常在菌であるため,感染性心内膜炎の起炎菌としては最もよくみられる菌10)で,抜歯後に発症しやすいという点で本症例は典型的であった.全身所見として,心エコーにより疣贅が証明され,感染性心内膜炎の診断基準であるDuke基準10)の大項目2個を満たし,かつJaneway斑,Osler結節,ラクナ梗塞などの塞栓症や38℃以上の発熱を認めたためDuke基準の小項目3個を満たした.これらのことから感染性心内膜炎の診断がほぼ確定しているところに抜歯後の発熱という典型的な病歴から感染性心内膜炎の診断が迅速かつ的確に可能であった.その後に当科を受診し,前眼部に軽度の炎症所見と網膜にRoth斑と滲出斑を認めたことから,眼科的にも感染性心内膜炎を原発巣とする転移性眼内炎と早期に確定診断が可能であった.転移性眼内炎は早期診断・早期治療が視力予後に大きく影響する.転移性眼内炎の起炎菌の同定には時間がかかることが多く,治療としてはこれらをカバーする広域の抗菌薬の全身投与および局所投与,硝子体手術などがある.しかし実際には,感染性眼内炎の診断やその原発巣の同定には苦慮することも多く,失明率は高いことが認識されている2).本症例では感染性心内膜炎と診断した後すぐに抗生物質の静脈内投与が開始されていたこと,眼内炎が常在菌で弱毒性グラム陽性菌によるもので,細菌の網膜浸潤が起こりかけた早期に発見できたことなどから良好な予後を得た.VMTSに対しては,手術治療を行って黄斑上膜と内境界膜を.離することで解剖学的治癒と視機能回復を得ることができた.VMTSを生じた原因として,以下の発生機序を考察した.まず最初に,網膜内への細菌の浸潤により局所的炎症を生じ,そのために病巣での網膜血管壁の障害がひき起こされて内境界膜下血腫を生じた.その後局所的な炎症や内境界膜下血腫が消失する過程で黄斑部に接していた後部硝子体皮質に何らかの細胞増殖が起こって硝子体皮質が肥厚し,その結果黄斑上膜が発生した.続いて硝子体ゲルの液化変性を生じて部分的後部硝子体.離を生じたため,黄斑部への牽引がかかりVMTSを生じたと推察した.Canzanoら11)も続発性硝子体黄斑牽引症候群を生じた症例報告のなかで筆者らと同様の考察を行っているが,今後,詳しい組織学的検討や病態解明が期待される.本症例は典型的な病歴や症状をもって内科的診断が迅速に可能で,診断がついたうえで眼科を受診したため,眼科的診断は比較的容易であった.かつ起炎菌が弱毒であったため,速やかに治癒して良好な視力予後を得た.このように全身的な感染症の徴候に眼症状を伴う場合には,転移性眼内炎の可能性が常にあることを忘れず,血液培養などによって原因菌を特定しつつ,迅速に眼科での診断を行って集学的治療を行うことが視力予後に大きく影響することを認識する必要がある.文献1)藤関義人,高橋寛二,松村美代ほか:過去5年間の内因性細菌性眼内炎の検討.臨眼56:447-450,20022)武田佐智子,馬場高志,井上幸次ほか:肝膿瘍由来Citrobacterfreundiiによると考えられる両眼眼内炎の1例.あたらしい眼科24:1261-1264,20073)村瀬裕子,吉本幸子,上田幸生ほか:B群b溶連菌による転移性眼内炎を合併した糖尿病の1例.糖尿病42:215-219,19994)山田晴彦,星野健,松村美代:アトピー性皮膚炎患者に発症した内因性感染性眼内炎の1例.臨眼62:1667-1671,20085)秦野寛,井上克洋,北野周作ほか:日本の眼内炎の現状(発症動機と起炎菌).日眼会誌95:369-375,19916)小林香陽,藤関義人,高橋寛二ほか:B群溶連菌による心内膜炎が原因であった内因性転移性眼内炎.日眼会誌110:199-204,20067)宮里均,荒川幸弘,富間嗣勇ほか:肺炎球菌性心内膜炎により転移性眼内炎,恥骨結合炎をきたした一例.沖縄医学会雑誌40:65-67,20028)妹尾健,西上尚志,真鍋憲市ほか:両眼の細菌性眼内炎を合併した感染性心内膜炎の1例.JCardiol39:171-176,20029)中村秦介,萬代宏,古谷朱美ほか:Streptococcussanguisによる白内障術後眼内炎の2例.眼臨97:80,200310)宮武邦夫,赤石誠,石塚尚子ほか:感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン.循環器病の診断と治療に関するガイドライン.2007年度合同研究班報告書,p1-46,200811)CanzanoJC,ReedJB,MorseLS:VitreomaculartractionsyndromefollowinghighlyactiveantiretroviraltherapyinAIDSpatientswithcytomegalovirusretinitis.Retina18:443-447,1998