———————————————————————-Page1838あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(00)838(114)0910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(6):838840,2009cはじめにJuvenilechroniciridocyclitis(JCI)は,15歳以下で発症し慢性の経過をとる非肉芽腫性の虹彩毛様体炎である.通常両眼性であり,帯状角膜変性,虹彩後癒着を伴うことが多く,若年性特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis:JIA)の合併例が多いが,約2割は全身疾患を合併しない1).JCIに伴う白内障に対する手術で眼内レンズ(IOL)を挿入しても,術後に強い炎症を起こし視力不良となるため禁忌2)とされたこともあり,近年でもその可否は議論の多いところ35)である.今回筆者らは,JCIに続発した白内障の手術でIOLを挿入し,術後の炎症も問題なく,感覚性外斜視もFresnel膜プリ〔別刷請求先〕木ノ内玲子:〒078-8510旭川市緑ヶ丘東2条1丁目1-1旭川医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ReikoKinouchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalCollege,2-1-1-1Midorigaoka-higashi,Asahikawa078-8510,JAPAN眼内レンズ挿入後の経過が良好であった感覚性外斜視を伴うJuvenileChronicIridocyclitis山賀郁木*1木ノ内玲子*1,2広川博之*1菅原一博*1河原温*1高橋淳一*1吉田晃敏*1*1旭川医科大学医学部眼科学講座*2同医工連携総研講座ExcellentCourseafterIntraocularLensImplantationinPatientwithJuvenileChronicIridocyclitiswithSensoryExotropiaIkukoYamaga1),ReikoKinouchi1,2),HiroyukiHirokawa1),KazuhiroSugawara1),AtsushiKawahara1),JunichiTakahashi1)andAkitoshiYoshida3)1)DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalCollege,2)DepartmentofMedicineandEngineeringCombinedResearchInstitute,AsahikawaMedicalCollege目的:Juvenilechroniciridocyclitis(JCI)では,眼内レンズ(IOL)を挿入すると術後炎症が強くなり予後不良とされてきた.今回,IOLの挿入を行い経過が良好であったJCIの1例を経験したので報告する.症例:初診時,5歳の女児.両眼に帯状角膜変性,前房細胞(++),フレア(+),ほぼ全周の虹彩後癒着,軽度の後下白内障,30Δの間欠性外斜視があった.左眼視力は0.5であったが,白内障の進行により2年後に0.01に低下し恒常性外斜視となり,水晶体吸引術,前部硝子体切除術とIOL挿入術を行った.矯正視力は1.0に改善し,術後炎症も問題なかった.50Δの外斜視のため複視を自覚し,プリズム眼鏡を処方し輻湊訓練を行った.4カ月後,25Δと外斜位となり眼鏡なしで複視もなくなった.結論:JCIでも手術前に十分に炎症のコントロールを行えば,IOL挿入は可能であると考えられた.Wereportacaseofjuvenilechroniciridocyclitis(JCI)withsensoryexotropiainwhichthecoursewasexcel-lentafterintraocularlens(IOL)implantation.Thepatient,a5-year-oldfemale,atherrstvisittoourhospitalexhibitedbilateralbandkeratopathy,anteriorcells(++),are(+),nearly360°posteriorsynechia,mildposteriorcapsularcataractand30prismintermittentexotropia.Over2years,visualacuityinherlefteyegraduallydecreased0.5to0.01duetocataract,andexotropiabecameconstantat50prism.Afterlensectomy,anteriorvit-rectomyandintraocularlensimplantation,hervisualacuityrecoveredto1.0anddiplopiaappeared.After4monthsofprismspectacleswearandconvergencetraining,exotropiabecameexophoriaanddiplopiadisappearedwithoutspectacles.Eyepositionandvisualacuityremainstableat18monthsaftersurgery.IOLimplantationwasper-formedsafelyandthepostoperativecoursewasgood.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):838840,2009〕Keywords:juvenilechroniciridocyclitis(JCI),感覚性外斜視,輻湊訓練,眼内レンズ.juvenilechronicirido-cyclitis(JCI),sensoryexotropia,convergencetraining,intraocularlens.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009839(115)ズム眼鏡と輻湊訓練によって改善した1例を経験したので報告する.I症例患者:7歳(白内障手術時),女児.主訴:充血と角膜混濁.既往歴:特記事項なし.現病歴:2005年7月2日(5歳),充血と角膜混濁を主訴に近医眼科を受診,ぶどう膜炎の診断で7月4日に当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼1.2(矯正不能),左眼0.4(0.5×+1.50D(cyl2.00DAx50°),眼圧は両眼とも16mmHg.両眼に帯状角膜変性症(図1a)と,ほぼ全周の虹彩後癒着(図1b)がみられ,前房細胞(++),フレア(+)であった.軽度の後下白内障を認めたが,眼底には異常を認めなかった.眼位(表1)は,交代プリズム遮閉試験(alternatingprismcovertest:APCT)で30Δ間欠性外斜視であった.検査所見では抗核抗体は160倍と高値であったが,ヒト白血球抗原(HLA)-B27は認めず,リウマチ因子,C反応性蛋白,赤血球沈降速度,アンギオテンシン変換酵素,リゾチームは正常範囲内であった.胸部X線に異常はなく,小児科を受診し精査したが,全身的な疾患は認められなかった.経過:リン酸ベタメタゾンの点眼により虹彩炎は1カ月で前房細胞(±),フレア(+)に沈静化した.2006年3月(6歳)に瞳孔ブロックを予防するため,両眼の周辺虹彩切除術を施行した.左眼は白内障の進行(図1c)により,2007年4月には左眼の視力が0.01(矯正不能)まで低下し,Hirschberg法で約30°の恒常性外斜視となった.白内障手術:2007年7月(7歳)に左眼の水晶体吸引術,後のcontinuouscurvilinearcapsulorrhexis,前眼部硝子図1左眼の前眼部所見a:初診時,角膜帯状変性症(矢印)を認める.右眼も同様の所見を認めた.b:散瞳剤点眼後であるが,ほぼ全周の虹彩後癒着(矢印)のため散瞳しない.右眼も同様の所見であった.c:白内障手術前,瞳孔領に白内障を認める.d:白内障の手術でIOLを挿入した.手術の際,虹彩後癒着を離し瞳孔を拡大したので,瞳孔がやや不整となっている.初診時白内障手術前後表1眼位の経過遠見近見初診時1416ΔXT30ΔX(T)¢白内障手術時約30°XT¢(Hirschberg)術後1カ月30ΔXT50ΔXT¢術後4カ月20ΔX25ΔX¢———————————————————————-Page3840あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(116)体切除術,IOL(SA60ATR,Alcon)内挿入術を施行した.手術前後の1カ月間はメトトレキサート(6mg)/週を投与した.術後経過:術後(図1d),前房細胞は(++)であったが,リン酸ベタメタゾン点眼で10日後には(±)になった.視力は0.5(1.0×+1.75D(cyl1.00DAx180°)に改善したが,術直後から複視を自覚し,手術後1カ月で眼位(表1)はAPCT遠見30Δ外斜視で,近見50Δ外斜視であった.複視の矯正のためFresnel膜プリズム眼鏡を40Δbase-inを左眼に処方した.同時に輻湊訓練を開始し,眼鏡装用から3カ月後,眼位は遠見20Δ外斜位で近見25Δ外斜位と改善され,プリズム眼鏡は不用となった.術後1年6カ月現在,視力,眼位とも変わっていない.II考按JCIは両眼性の非肉芽腫性虹彩毛様体炎を示し,角膜帯状変性症,虹彩後癒着,白内障,緑内障などを合併することがあり,本症例では,初診時に両眼に強い虹彩炎があり,角膜帯状変性症と軽度の後下白内障,虹彩後癒着を認めた.JIAの合併はなかったが,典型的な眼所見からJCIと診断した.本症例では,虹彩炎はリン酸ベタメタゾンの点眼のみで1カ月後に虹彩炎は軽快したが,全周の虹彩後癒着があり,瞳孔ブロックを予防するために両眼の周辺虹彩切除術を施行した.その後,左眼の白内障が徐々に進行した.原因として,虹彩炎が弱いながらも前房細胞(±)程度で持続していたことと,周辺虹彩切除術の際,瞳孔縁の虹彩後癒着部で水晶体前に負荷がかかった影響が考えられる.従来,JCIに続発する白内障の手術では,術後炎症が遷延し管理が困難なためIOL挿入は議論の多いところ15)とされてきたため,本症例では視力低下が強くなるまで手術を遅くし,手術前後の1カ月間はインフォームド・コンセントのうえメトトレキサートを投与した.手術後にはフィブリン析出や眼圧上昇はなく,術後1年6カ月現在まで良好な視力が維持されている.2006年にKotaniemiらは,JIAによるぶどう膜炎でも炎症をコントロールしたうえでのIOL挿入は有用であると報告した6).その後もIOL挿入に肯定的な報告7)がでてきており,十分な炎症のコントロールと前部硝子体切除を併用する近年の小児白内障に適応される術式で行うことで,IOL挿入は安全に行えると考えられた.本症例では,左眼の白内障手術前には視力0.01まで低下し,Hirschberg法で約30°の感覚性外斜視となっている.手術後は左眼の視力が回復し複視が出現したが,Fresnel膜プリズム眼鏡で複視をなくし両眼視を維持させて,眼位が安定した時点での斜視手術を考えていた.本症例では近見でおもに複視を訴えていたので,左眼に40Δbase-inで処方したが,これにより複視が解消された.Fresnel膜プリズムは12Δを超すと,反射による光量の減少のため12段階の視力低下を起こすといわれており,高いパワーで視力低下が大きいとされる8)が,今回は40Δを装用しても極端な視力低下なく両眼視を促すことができた.4カ月後には,APCT遠見20Δ外斜位,近見25Δ外斜位となり,Fresnel膜プリズムを使用しなくても複視がなくなり,良好な結果が得られた.眼位が改善した要因として,手術により左眼の視力が1.0に改善し,Fresnel膜プリズムの装用によって両眼視が成立した状態での輻湊訓練が有効であったことが考えられる.今回,IOL挿入により手術後速やかにプリズム治療や視能訓練を開始することができた.術前に十分な炎症のコントロールが可能なJCIの症例では,IOL挿入は可能と考えられた.文献1)KanskiJJ:Lensectomyforcomplicatedcataractinjuve-nilechroniciridocyclitis.BrJOphthalmol76:72-75,19922)中村聡:若年性関節リウマチ.眼科診療プラクティス8:76-79,19933)南場研一:ぶどう膜炎併発白内障における手術適応の決定・術後の処置.あたらしい眼科21:3-6,20044)BenEzraD,CohenE:Cataractsurgeryinchildrenwithchronicuveitis.Ophthalmology107:1255-1260,20005)HeiligenhausA:Whenshouldintraocularlensesbeimplantedinpatientswithjuvenileidiopathicarthritis-associatediridocyclitis.OphthalmicRes38:316-317,20066)KotaniemiK,PenttilaH:Intraocularlensimplantationinpatientswithjuvenileidiopathicarthritis-associateduveitis.OphthalmicRes38:318-323,20067)ZaborowskiAG,QuinnAG,GibbonCEetal:Cataractsurgerywithprimaryintraocularlensimplantationinchildrenwithchronicuveitis.ArchOphthalmol126:583-584,20088)Veronneau-TroutmanS:視力に対するFresnelプリズムの効果.プリズムと斜視(不二門尚,斎藤純子訳),p35,文光堂,1998***