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原発性Sjögren症候群に眼類天疱瘡様所見を合併した1例

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):395.398,2018c原発性Sjogren症候群に眼類天疱瘡様所見を合併した1例上月直之小川葉子山根みお内野美樹西條裕美子坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CACaseofPrimarySjogren’sSyndromewithOcularCicatricialPemphigoid-likeCicatrizingConjunctivitisNaoyukiKozuki,YokoOgawa,MioYamane,MikiUchino,YumikoSaijoandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineSjogren症候群(SS)は涙腺・唾液腺のリンパ球浸潤を特徴としドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である.筆者らは,長期加療をしているCSSに眼類天疱瘡(OCP)様の高度な結膜線維化を併発しているまれなC1例を経験したので報告する.症例はC81歳,女性.49歳時に原発性CSSの診断を受けた.診断時より甲状腺機能低下症を認めた.55歳当科受診時,SSに特徴的な角膜所見に加え,瞼球癒着,眼瞼結膜線維化,広範囲な睫毛乱生症を認め,繰り返し睫毛抜去術を必要とした.レーザー共焦点顕微鏡像は角膜上皮下神経の吻合,枝分かれの異常形態を認め,SSとCOCPに認められる所見を呈していた.SS症例に結膜線維化が合併することはまれであり,本症例は慢性甲状腺炎による異常な免疫応答を契機として,OCP様の高度な結膜線維化所見を併発した可能性が考えられた.Sjogren’ssyndrome(SS)ischaracterizedbydryeyeanddrymouthwithlymphocyticin.ltrationintolacrimalglandsCandCsalivaryCglands.CCicatricialCchangesConCtheCocularCsurfaceCrarelyCoccurCinCSSCpatients.CWeCreportCtheCrarecaseofan81-year-oldfemaleSSpatientwithcicatricialchangesontheocularsurface.Shehadsu.eredfromchronicthyroiditisatthediagnosisofSSin1985.Clinical.ndingsoftheocularsurfaceandteardynamicsrevealeddryeyediseaseaccompaniedbysymblepharon,severetarsalconjunctival.brosisandextensivetrichiasisinbotheyes.InvivoCconfocalimagesrevealedabnormalanastomosisofnervevessels,tortuosity,branchesandanincreaseinthenumberofsubbasalin.ammatorycellsinthecornea,similartoocularcicatricialpemphigoidandSSimages.Conclusion:OurcasesuggestedthatpatientswithSSaccompaniedbyautoimmunethyroiditismaydevelopseveredryeyediseasewithcicatrizingconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):395.398,C2018〕Keywords:シェーグレン症候群,眼類天疱瘡,ドライアイ,慢性甲状腺炎,結膜線維化.Sjogren’ssyndrome,oc-ularcicatricialpemphigoid,dryeyedisease,chronicthyroiditis,cicatrizingconjunctivitis.CはじめにSjogren症候群(SjogrenC’sCsyndrome:SS)は,涙腺と唾液腺にリンパ球浸潤が生じ,ドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である1).好発年齢は中高年であり,男女比はC1:17と女性に圧倒的に多い2).SSの病態には多因子が関与すると考えられ,これまでに遺伝的素因,Epstein-Barr(EB)ウイルスなどの微生物感染,環境要因,免疫異常による組織障害の原因が考えられている3).全身的に他の膠原病の合併症のない原発性CSSと,全身性エリテマトーデス,強皮症,関節リウマチなどを合併する二次性CSSに分類される.原発性CSSは涙腺唾液腺内に病変がとどまる腺症状と,それ以外の臓器に病変が認められる腺外症状がある.典型的なCSSでは通常,高度な結膜線維化はきたさない点で他の重症ドライアイの亜型である眼類天疱瘡(ocularcica-tricialCpemphigoid:OCP),Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病と臨床像の違いがある4).OCPは中高年に好発する粘膜上皮基底膜に対する自己抗体による慢性炎症性眼疾患である.眼表面の線維化が慢性的に進行することにより,瞼球癒着,結膜.短縮などをきたし〔別刷請求先〕上月直之:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:NaoyukiKozuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN重症ドライアイをきたす.角膜輪部疲弊により角膜への結膜侵入と結膜杯細胞の減少または消失を認める.手術や感染の際に急性増悪することもある5).今回,筆者らは,SSによる重症ドライアイ症例の眼表面にCOCP様の結膜線維化所見を呈したまれなC1例を経験したので報告する.CI症例症例はC81歳,女性.1985年C49歳時に原発性CSSを発症した.既往歴として高血圧,骨粗鬆症,慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症を認めた.当科初診よりC1年前には手,胸部,首周囲の皮膚に湿疹が出現したことがあるが内服はしていなかった.SSによるドライアイ,ドライマウスに対し当科と内科にて通院,加療を行うためC1989年に当科受診となった.初診時眼所見はCSchirmer値C5Cmm/5Cmin,ローズベンガル染色スコアC9点中C6点,フルオレセイン染色スコアC9点中C3点,左眼に糸状角膜炎を認めた.SSによるドライアイにはまれな結膜線維化,瞼球癒着,広範囲な睫毛乱生症を認め,OCPに類似した所見を認めた(図1).口唇生検C1Cfocus/C4Cmm2であり,耳下腺腫脹を認めた.経過観察中の所見はフルオレセイン染色スコアC9点中C7点からC9点,ローズベンガル染色スコアC9点中C6点からC8点,涙液層破壊時間(tear.lmbreakuptime:TFBUT)8秒からC2秒に悪化を認め,ドライアイに進行性の悪化を認めた.1991年C7月に反射性涙液分泌,基礎的涙液分泌ともにC0Cmmとなり眼表面障害の所見はフルオレセイン染色スコアC9点中8点,ローズベンガル染色スコアC9点中C9点,涙液動態の所見は,BUTC2秒,反射性涙液分泌C0Cmmとなり重症化を認めた.2017年C6月自覚症状のCocularCsurfaceCdiseaseCindex(OSDI)はC40.9ポイント,IgGは常にC1,500以上と高値を推移して現在に至っている.SS重症度について,ヨーロッパリウマチ学会の疾患活動性基準であるCEULARCSjogrenC’sSyndromeDiseaseActivitiyIndex(ESSDAI)はC5点以上で活動性が高いとする.本症例はリンパ節腫脹,腺症状,関節症状,生物学的所見よりCESSDAIはC9点であった.採血結果として補体CC3はC84Cmg/dl,補体CC4はC17Cmg/dlで正常範囲内,抗CANA抗体C640倍,リウマチ因子C23CIU/ml,抗SSA抗体C1,200CU/ml,抗CSSB抗体C100CU/mlと高値,IgGはC1,700Cmg/dlを超えることもあり高値を示した.IgGサブクラスのCIgG4はC41Cmg/dlと正常範囲内であった.抗セントロメア抗体はC13であった.甲状腺機能低下症に対し,レ図1結膜線維化を伴う原発性Sjogren症候群によるドライアイ症例の眼瞼所見a,b:眼瞼内反症による粘膜皮膚移行部の前方移動.結膜.短縮(Ca:★).マイボーム腺開口部の位置異常(b:△).Marxlineの著明な前方移動.Cc,d:上眼瞼結膜の線維化(Cc:.).下眼瞼の瞼球癒着(Cd).Cabc図2本症例のレーザー共焦点顕微鏡角膜所見(原発性Sjogren症候群と慢性甲状腺炎の罹病期間32年)Ca,b:側副路吻合形成(Ca:☆)角膜神経の異常走行,枝分かれ(Cb:△)を認める.Cc:ごく少数のリンパ球(Cc:.)および樹状細胞様細胞(Cc:▲)を認める.Cボチロキシンナトリウムを内服中であり,遊離CT3はC3.0Cpg/ml,遊離CT4はC1.5Cng/dl,甲状腺刺激ホルモンC2.61CμIU/mlと正常範囲内であった.これまでに報告されているCSSおよびCOCPの角膜所見と類似するか否かを確認するため,生体共焦点レーザー顕微鏡検査(inCvivoCconfocalCmicroscopyCassessment:IVCM)を行った(倫理委員会承認番号C20130013).両眼ともに,角膜神経の走行異常,神経分岐の異常,側副路の形成とごく少数の炎症細胞と樹状細胞の角膜内浸潤を認めた(図2).IVCM施行時,フルオレセイン染色スコアC2点,リサミングリーン染色スコアC0点,BUT2秒,マイボーム腺スコアC63点,軽度の充血を認め,Schirmer値C3Cmmであった.投与点眼薬はラタノプロスト点眼(1回/日両眼)およびC0.1%ヒアルロン酸点眼(5回/日両眼)であるが,視野に異常がなくラタノプロスト投与は中止となった.CII考按一般的にCOCP症例では抗CSSA抗体,抗CSSB抗体は陰性であるが,本症例は抗CSSA抗体陽性,抗CSSB抗体陽性,リウマチ因子陰性,抗CANA抗体C640倍であり,眼所見CSchirm-er値,フルオレセイン染色像とあわせて,1999年厚生省改訂CSSの診断基準によりCSSの確定診断に至っている2).OCPの結膜瘢痕化は手術や感染症を契機として急性憎悪することがあるとされる.本症例はCSSの診断後,当院へ受診するC1年前に,内服とは関係なく手,胸部,首の皮膚に湿疹が出現したことがある.本症例は慢性甲状腺炎が基礎疾患にあり,甲状腺機能低下症が存在した.結膜線維化の原因として,湿疹の原因となった何らかの感染症,または慢性甲状腺炎としての甲状腺機能低下による免疫応答異常の要因が重なり,OCP類似の結膜線維化に至った可能性がある.甲状腺機能低下と他の臓器の線維化に関する報告では,肝臓の線維化との関連が示唆されている7).また,甲状腺機能低下症を伴う場合,特発性肺線維症を合併する頻度が高いことが報告され,甲状腺機能低下が肺線維症の予後予測因子とされている8).甲状腺機能低下と臓器線維化に関連性が示唆され,本症例の結膜線維化,高度な瞼球癒着と広範囲な睫毛乱生症に至った可能性がある.本症例はC2016年より緑内障初期の疑いがあり,一時,ラタノプロスト点眼薬を使用していたが,諸検査後,緑内障は否定的で点眼を中止していること,結膜線維化は診断当時から存在していたことから,緑内障点眼薬による偽類天疱瘡は否定的である.肺癌に対する放射線治療に関しても,治療以前にCOCP様の所見が出現していたことから,放射線治療は原因として否定的である.近年,新しい疾患概念としてCIgG4関連疾患が報告されているが,その一亜型として甲状腺機能低下症が注目されている.甲状腺CIgG4関連疾患には高度の炎症と特徴的な線維化が生じることが報告されている9).本症例では最近の血清IgG値が高値であるが,IgG4値は正常であり,IgG4関連疾患は否定的と思われる.本症例の角膜,輪部のCIVCMについて検討した.SSでは発症初期より角膜の神経に変化を認め,SSの診断として有用であることが報告されている.OCPのCIVCMについては,Longらにより角膜実質細胞の活性化と樹状細胞の浸潤が報告されている10).また,小澤らは,OCP患者の角膜神経およびその周辺領域の所見についてC2症例の報告をし,IVCM角膜神経所見では走行異常と神経周囲への樹状様細胞浸潤を認め,慢性炎症により神経形態に変化をきたすこと,神経周囲にも炎症があることを報告している11).本症例においても角膜神経の走行異常と神経細胞数の増加,および異常な神経の吻合を多数認め,IVCM像からもCSSとCOCPに報告されている特徴的所見を併せもっていた.結膜瘢痕化の所見はCOCPに類似しているが,確定診断には結膜生検を行い,基底膜への免疫グロブリンの沈着を確認する必要がある.本症例においては,SSと慢性甲状腺炎の併発がCOCP様の高度な結膜線維化所見の原因の一つとして考えられる.本症例では,SSと慢性甲状腺炎が併発したことにより,背景にある自己免疫疾患としての異常な免疫応答の修復機構が働き,OCPに認められるような免疫性線維化をきたしたことが考えられた.SS症例の診療に際し,病像は長期にわたるため重症化に常に注意を払うこと,また他の疾患を併発することにより典型像と異なる所見を呈する場合があることを念頭におく必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SarauxA,PersJO,Devauchelle-PensecV:TreatmentofprimarySjogrensyndrome.NatRevRheumatolC12:456-471,C20162)TsuboiCH,CHagiwaraCS,CAsashimaCHCetCal:ComparisonCofCperformanceofthe2016ACR-EULARclassi.cationcrite-riaforprimarySjogren’ssyndromewithothersetsofcri-teriaCinCJapaneseCpatients.CAnnCRheumCDisC76:1980-1985,C20173)FoxRI:Sjogren’ssyndrome.LancetC366:321-331,C20054)BronAJ,dePaivaCS,ChauhanSKetal:TFOSDEWSIIpathophysiologyreport.OculSurfC15:438-510,C20175)AhmedCM,CZeinCG,CKhawajaCFCetCal:OcularCcicatricialpemphigoid:pathogenesis,CdiagnosisCandCtreatment.CProgCRetinEyeResC23:579-592,C20046)ShimazakiJ,GotoE,OnoMetal:Meibomianglanddys-functioninpatientswithSjogrensyndrome.Ophthalmolo-gyC105:1485-1488,C19987)KimD,KimW,JooSKetal:Subclinicalhypothyroidismandlow-normalthyroidfunctionareassociatedwithnon-alcoholicCsteatohepatitisCandC.brosis.CClinCGastroenterolCHepatolC16:123-131,C20188)OldhamCJM,CKumarCD,CLeeCCCetCal:ThyroidCdiseaseCisCprevalentandpredictssurvivalinpatientswithidiopathicpulmonary.brosis.ChestC148:692-700,C20159)RaessCPW,CHabashiCA,CElCRassiCetCal:OverlappingCMor-phologicandImmunohistochemicalFeaturesofHashimotoThyroiditisCandCIgG4-RelatedCThyroidCDisease.CEndocrCPatholC26:170-177,C201510)LongCQ,CZuoCYG,CYangCXCetCal:ClinicalCfeaturesCandCinvivoCconfocalCmicroscopyCassessmentCinC12CpatientsCwithCocularCcicatricialCpemphigoid.CIntCJCOphthalmolC9:730-737,C201611)小澤信博,小川葉子,西條裕美子ほか:眼類天疱瘡C2症例における角膜神経の病的変化生体レーザー共焦点顕微鏡による観察.あたらしい眼科C34:560-562,C2017***