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ポリープ状脈絡膜血管症と診断された成人発症Coats病の1例

2024年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(11):1366.1371,2024cポリープ状脈絡膜血管症と診断された成人発症Coats病の1例福山崇哲櫻田庸一菊島渉柏木賢治山梨大学医学部眼科学講座CAdult-OnsetCoats’DiseasePresentingasPolypoidalChoroidalVasculopathy:ACaseReportTakanoriFukuyama,YoichiSakurada,WataruKikushima,KenjiKashiwagiCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashiC目的:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)として治療後,成人発症CCoats病と診断されたC1例を経験したので報告する.症例:71歳,女性.左眼の視力低下と変視症を主訴に近医を受診後,黄斑浮腫と出血を認め,山梨大学医学部附属病院紹介となった.黄斑部に橙赤色隆起病変と硬性白斑,出血を認め,光干渉断層計(OCT)では網膜下高輝度物質(SHRM)と漿液性網膜.離を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査(FA)で蛍光漏出とインドシアニングリーン蛍光造影検査(IA)で同箇所の過蛍光を認めCPCVを疑った.アフリベルセプト硝子体内注射を計C13回行うも,視力改善は認められず,滲出が残存し,再度造影検査と同時撮影のCOCTを行い,網膜血管瘤が確認された.成人発症CCoats病の診断で網膜血管瘤に直接光凝固を行ったが,黄斑萎縮のため視力改善は限定的だった.結論:IAで網膜血管瘤およびポリープ状病巣はいずれも過蛍光で描出されるため,診断時には同時撮影のCOCTを用いて血管瘤の位置を確認することが重要である.CPurpose:Toreportacaseofadult-onsetCoats’diseasethatinitiallypresentedaspolypoidalchoroidalvascu-lopathy(PCV).Case:A71-year-oldfemalewhocomplainedofdecreasedvisualacuity(VA)anddistortedvisioninherlefteyefor1weekwasreferredtoourhospitalfortreatmentofamacularhemorrhageandmacularedema.ExaminationCrevealedCdecreasedCVACinCtheCleftCeye,CandCfundoscopyCshowedChardCexudates,Chemorrhages,CandCorange-redCelevatedClesionsCinCtheCmacula.COpticalCcoherencetomography(OCT)imagingCrevealedCsubretinalChyperre.ectiveCmaterialCandCserousCretinalCdetachment.CFluoresceinCangiographyCandCindocyanineCgreenCfundusangiography(IA)showedChyper.uorescentCleakageCatCtheCsameClocation,CsoCPCVCwasCinitiallyCsuspected.CDespiteCtheadministrationof13intravitrealinjectionsofa.ibercept,therewasnosigni.cantimprovementofVAandsub-retinal.uidexudation.Hence,acontrastscanandsimultaneousOCTimagingwereperformed,andaretinalvascu-larCaneurysmCwasCobserved.CThus,CtheCpatientCwasCthenCdiagnosedCasCaCcaseCofCadult-onsetCCoats’CdiseaseCandCdirectClaserCphotocoagulationsCwereCperformed,CwhichCultimatelyCresultedCinCtheCdisappearanceCofCtheCaneurysm.CHowever,CimprovementCofCVACwasClimitedCdueCtoCtheCmacularCatrophy.CConclusions:SinceCbothCretinalCvascularCaneurysmsCandCpolypoidClesionsCareChyper.uorescentConCIA,CitCisCimportantCtoCdetectCandCcon.rmCtheClocationCofCtheaneurysmbysimultaneouslyperformingOCTimagingwhenmakingadiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(11):1366.1371,C2024〕Keywords:成人発症CCoats病,ポリープ状脈絡膜血管症,網膜血管瘤.adult-onsetCoats’disease,polypoidalchoroidalvasculopathy,retinalaneurysm.Cはじめにを形成し,重症例では滲出性網膜.離に至ることもある疾患Coats病は網膜血管拡張や血管瘤形成を特徴とし,拡張しである.若年男子の片眼に好発するが,成人でも発症しインた血管の透過性亢進による滲出液の沈着が広範囲に硬性白斑ドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyaninegreenangi-〔別刷請求先〕福山崇哲:〒409-3898山梨県中央市下河東C1110山梨大学医学部眼科学講座tfukuyama@yamanashi.ac.jpReprintrequests:TakanoriFukuyama,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashi,1110,Shimokato,Chuo,Yamanashi,409-3898JAPANC1366(96)ography:IA)ではポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)と類似する所見を示すため,診断に難渋することもある1).今回筆者らは初診時にCPCVと診断し,13回抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注射を行ったあとにCIA/光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)同時撮影により診断に至った成人発症CCoats病のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:71歳,女性.現病歴:2016年,1週間前から継続する左眼の変視症と図1初診時の左眼眼底所見a:眼底写真.黄斑と視神経乳頭の間に橙赤色隆起病変(C←)と硬性白斑を認める.Cb:OCT画像(DRICOCT-1Atlantis,トプコン).網膜下高輝度物質(C▲)と漿液性網膜.離(C★)を認める.Cc:FA写真.眼底写真の橙赤色隆起病変と同箇所に蛍光漏出を認める.Cd:IA写真.FAの蛍光漏出と一部重なるポリープ状病巣の過蛍光を認める.図2初回注射から1年半後の左眼眼底所見a:旺盛な硬性白斑の沈着を黄斑周囲に認める.b:FA写真.ポリープ状病巣の過蛍光を認める.c:IA写真.FAと同箇所の過蛍光を認める.d:Spectralis(Heidelberg社)によるCOCT.FA/IAの過蛍光箇所の中心に血管瘤を認める(○).視力低下を主訴に近医を受診したところ,黄斑部出血と黄斑であった.眼底写真で黄斑と視神経乳頭の間に橙赤色隆起病浮腫を認めたため翌日に山梨大学医学部附属病院紹介となっ変と硬性白斑を認め(図1a),OCTでは網膜下高輝度物質た.と漿液性網膜.離(図1b),フルオレセイン蛍光造影検査既往歴:非結核性抗酸菌症.(.uoresceinangiography:FA)/IAでは蛍光漏出(図1c)来院時所見:視力は左眼(0.3),右眼は篩骨洞原発悪性リおよびポリープ状病巣の過蛍光を認めた(図1d).ンパ腫による視神経障害により失明,眼圧は左眼C18CmmHg経過:PCVを疑い,アフリベルセプトによる抗CVEGF薬図3直接光凝固後の左眼眼底写真a:直接光凝固後C2カ月後.硬性白斑の消退開始を認める.Cb:直接光凝固後C8カ月後(経過中に白内障手術施行).硬性白斑はほぼ消退している.c:直接光凝固後C2年後.硬性白斑は消失しているが網膜萎縮の残存を認める.光凝固の照射条件(アルゴンレーザー,yellow):1回目,100μm,0.1second,0.1W,10shots,2回目,100Cμm,0.1second,0.1W,9Cshots硝子体内注射をC1年半の間に計C13回行ったが視力はC0.3.0.5で推移し改善を認めず,滲出液は残存し,眼底写真ではCII考按黄斑周囲の輪状白斑の悪化を認めていたため(図2a),再度PCVは滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegen-造影検査および同時撮影のCOCTを行ったところ,PCVにeration:AMD)の一亜型であり,病巣の成分はポリープ状特徴的な異常血管網,OCTでの急峻な網膜色素上皮.離や病巣と異常血管網で構成されている.前者はいわゆる血管瘤Cdoublelayersignなどは認められなかったが,FAとCIAでから網膜下への出血や滲出性変化をきたし,後者は新生血管同部位の過蛍光を認め,OCTで網膜血管瘤が確認された(図と同様と考えられ,網膜色素上皮(retinalCpigmentCepitheli-2b~d).網膜血管瘤を中心とした硬性白斑,輪状滲出斑もum:RPE)萎縮と持続する滲出性変化をきたす.治療には認めており,成人発症CCoats病の診断で網膜血管瘤に対して他の滲出型CAMDの治療同様に抗CVEGF薬硝子体内注射が直接光凝固をC2度行い,血管瘤は消退し(図3),硬性白斑と光線力学的療法との併用療法と並んで第一選択となってい網膜下の滲出液は徐々に改善を認めた(図4)が,黄斑萎縮る.Kokameらの報告では,抗CVEGF薬注射をC4回施行しのため視力改善は(0.5)と限定的だった.ても所見に改善が認められない抗CVEGF薬に抵抗性がある図4直接光凝固前後の左眼眼底OCT画像a:直接光凝固前.血管瘤を認める(○).b:直接光凝固後C2カ月後.血管瘤の消退を認める.c,d:直接光凝cd固後C3年後.網膜下の滲出液の消失を認める.滲出型CAMDのうちC50%はCPCVであった2).また,MentesらはC6回以上注射を施行しても抵抗性がある新生血管を伴うAMDのうちC63.9%はCPCVであったと報告している3).その原因として,PCVに多くみられる脈絡膜血管透過性亢進所見とサイズの大きなポリープ状病巣があげられる.本症例もCIAで大きなChotspot(過蛍光)が認められたため,PCVとの診断を再評価することなく,追加の抗CVEGF薬硝子体内注射を繰り返した可能性が高いと考えられた.PCVは日本CPCV研究会による診断基準では,眼底所見で燈赤色隆起病巣もしくはCIAで特徴的なポリープ状病巣が検出されると確実例となり,現在ではCIAがCPCVの診断のゴールドスタンダードになっているが,他疾患(糖尿病網膜症や静脈閉塞症)の網膜レベルの血管瘤も同様にCIAで過蛍光を呈し類似するため,診断に難渋することもある.PermadiらのCOCTによるCPCVの診断に関するメタ分析では,感度はC0.91,特異度はC0.88と高く,PCVによくみられるCOCT所見である漿液性網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED),subretinalChyperre.ectiveCmaterial(SHRM),doublelayerCsign,急峻CRPEの隆起などの検出にきわめて有効と報告している4).しかし,本症例で最終診断となったCCoats病は網膜血管拡張や血管瘤形成を特徴とし,拡張した血管の透過性亢進による滲出液の沈着が広範囲に硬性白斑を形成し,重症例では滲出性網膜.離に至ることもある疾患である.若年男子の片眼に好発するが,成人でも発症し,IAでCPCVと酷似した過蛍光を網膜レベルの血管瘤により呈する.これら二つの疾患を二次元的な画像で診断するのは困難なため,IAでの眼底写真で認められた所見が網膜層あるいはCRPE下,脈絡膜レベルにあるかを判断する必要がある.共焦点レーザー走査型眼底検査装置CHeidelbergCRetinaAngiograph(HRA)とCspectralCdomainOCTを融合させた三次元画像解析装置であるCSpectralis(Heidelberg社)は,HRA画像とCOCT画像を同時に撮影することが可能で,HRA観察画像の特定部位のCOCT画像を取得することができるため,IAで過蛍光となった部位の血管瘤が網膜レベルに存在するのか,もしくはCRPE下レベルに存在するのかを確認することが可能であった(図2d).網膜血管瘤に対する治療は直接光凝固や冷凍凝固があげられるが,近年は新たに抗CVEGF薬硝子体内注射が補助的な治療法としてあげられている.既報ではC18歳,男性のCoats病患者にC16回のアフリベルセプト注射単独で初診時視力C0.1からC0.8までの改善を認めた例も報告されている5)が,現段階ではこのような抗CVEGF薬硝子体内注射単独に(100)よる治療の症例報告は数が限られており,有用性についてはまだ議論の余地がある.なぜなら,VEGFはCCoats病患者で上昇しているため,抗CVEGF薬により黄斑浮腫の改善,滲出の減少は期待できるが,多くの症例で根本的治療にはならないためである6).本症例でも病変が傍中心窩で,血管瘤のサイズが大きく滲出も旺盛だったため,繰り返しの注射を行ったにもかかわらずCdrymaculaは得られず,顕著な視力改善は認められなかった.しかし,直接光凝固により血管瘤は消退し,網膜萎縮は残存するものの硬性白斑と滲出は時間とともに改善を認めた.Spectralisは本症例のように直接光凝固を行った血管瘤のフォローが必要となる場合にも有用で,フォローアップ時にはベースラインの撮影位置と同じ個所のCOCT画像が得られるため,血管瘤の消退の正確な判断が可能であった.本症例では当初CPCVとして治療が進められたが,成人発症CCoats病ではなくCPCVと診断された理由は以下が考えられた.まずはじめに,本症例ではCPCVの眼底所見に酷似する橙赤色隆起病変ともとらえられる所見とその周囲に硬性白斑が認められたが,治療開始時はCCoats病に特徴的な黄色滲出斑がめだたなかった.RishiやCSmithenらの報告では,成人発症CCoats病患者のそれぞれC94%7)とC100%8)に滲出斑が認められており,滲出斑はC8割以上が周辺部に出現し,傍黄斑部に限局するケースは全体のC3割にも満たないため,本症例のように経過の初期に特徴的所見がめだたず,かつ傍黄斑部に限局していた場合鑑別にあがるのは容易ではなかった.次に,OCTで認められた網膜下高輝度物質については網膜下の出血とフィブリンを含んだ滲出液を想定していたため,PCVの所見に矛盾せず,最終診断となったCCoats病の血管瘤は網膜内に認められるため,この網膜下高輝度物質を血管瘤ととらえるのは否定的だった.加えて,本症例では造影検査でCPCVに特徴的な異常血管網が認められなかったが,HuangらはCIAによるCPCVの異常血管網の検出率はC72%9)と報告しており,異常血管網を認められなかったとしてもPCVの可能性は否定できなかった.結論として,IAは通常CRPE下や脈絡膜レベルの病変を観察する目的で施行するが,出血を伴う網膜細動脈瘤や網膜血管腫状増殖なども過蛍光で描出されるため,同じく過蛍光を呈するCRPE下にあるポリープ状病巣と網膜血管瘤とを二次元的に鑑別することは困難である.よって,過蛍光を示す病変がどのレベルにあるのかを同時撮影のCOCTを用いて確認することが正しい診断と治療法の選択につながる可能性がある.文献1)HiranoCY,CYasukawaCT,CUsuiCYCetal:IndocyanineCgreenCangiography-guidedClaserCphotocoagulationCcombinedCwithCsub-Tenon’sCcapsuleCinjectionCofCtriamcinoloneCace-tonideforidiopathicmaculartelangiectasia.BrJOphthal-molC94:600-605,C20102)KokameGT,deCarloTE,KanekoKNetal:Anti-vasucu-larendothelialgrowthfactorresistanceinexudativemac-ularCdegenerationCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.COphthalmologyRetinaC3:744-752,C20193)MentesCJ,CBarisME:PrevalanceCofCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCeyesCwithCneovascularCage-relatedCmacu-larCdegenerationCresistanceCtoCintravitrealCanti-VEGFCtreatment.TurkJOphthalmolC52:338-341,C20224)PermadiCAC,CDjatikusumoCA,CAdrionoCGACetal:OpticalCcoherenceCtomographyCinCdiagnosingCpolypoidalCchoroidalvasculopathy:LookingCintoCthefuture:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CIntCJCRetinaCVitreousC8:14,20225)GeorgakopoulosCCD,CTsapardoniCFN,CMakriCOECetal:CTwo-yearCresultsCofCintravitrealCinjectionsCofCa.iberceptCinCCoatsdisease:ACcaseCreport.CRetinCCasesCBriefCRepC16:473-478,C20226)SenCM,CShieldsCCL,CHonavarCSGCetal:Coatsdisease:anCoverviewCofCclassi.cation,Cmanagement,CandCoutcomes.CIndianJOphthalmol67:763-771,C20197)RishiCE,CRishiCP,CAppukuttanCBCetal:Coats’CdiseaseCofCadult-onsetin48eyes.IndianJOphthalmolC64:518-523,C20168)SmithenLM,BrownGC,BruckerAJetal:Coats’diseasediagnosedCinCadulthood.COphthalmologyC112:1072-1078,C20059)HuangCCH,CYehCPT,CHsiehCYTCetal:CharacterizingCbranchingCvascularCnetworkCmorphologyCinCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.Scienti.creportC9:595,C2019***