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線維柱帯切除術後早期の限局性濾過胞からの房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで房水漏出が消失した3例

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):493?496,2020?線維柱帯切除術後早期の限局性濾過胞からの房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで房水漏出が消失した3例相原佑亮陳進輝木嶋理紀大口剛司新明康弘石田晋北海道大学大学院医学研究院眼科学教室ThreeCasesthatRequiredSurgicalBlebRevisiontoResolveaLeakingBlebafterTrabeculectomyYusukeAihara,ShinkiChin,RikiKijima,TakeshiOhguchi,YasuhiroShinmeiandSusumuIshidaDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversityはじめにマイトマイシンC併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:LEC)後早期の房水漏出は,低眼圧のみならず,感染症や脈絡膜?離,低眼圧黄斑症,角膜内皮障害などさまざまな合併症の原因となるため,積極的な処置が必要となる.対処法として,自己血清点眼などの保存的療法のほか,結膜縫合などさまざまな観血的治療法が報告されている.術後早期の房水漏出に関しては,術直後で漏出量がごくわずかな自然治癒が期待される症例を除き,結膜縫合による観血的処置を行うことが基本である1).〔別刷請求先〕陳進輝:〒060-8648北海道札幌市北区北14条西5丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室Reprintrequests:ShinkiChin,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversity,N-14,W-5,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8648,JAPAN図1濾過胞再建術と結膜縫合の併用法症例1に行ったシューレース縫合であるが,症例2と症例3にはブロック縫合を行った.針を用いて行った場合には,①の部位の結膜を穿刺して2%キシロカインを結膜下注射しながら?離していったが,癒着が強く?離できなかった場合には以下のように行った.まず輪部から離れた結膜部を小さく切開し(①),癒着した濾過胞部周囲を円蓋部側までスプリング剪刀で?離した(②),最後は輪部の結膜を10-0ナイロン丸針で結膜縫合を行った(③).しかしながら,術後早期に限局性の濾過胞となって房水漏出がみられる場合,房水を十分に吸収できる機能的な濾過胞とならないためか,単純な結膜縫合のみでは改善せずに治療に苦慮することがある.今回筆者らは,円蓋部基底切開によるLEC術後早期に生じた限局性濾過胞の輪部付近から房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで漏出を止めることに成功した3例4眼を経験したので報告する.I症例〔症例1〕37歳,男性.4年前に両眼の原発開放隅角緑内障と診断され点眼治療を行ったが視野障害が進行してきたため,手術目的に北海道大学病院眼科(以下,当院)に紹介となった.入院時視力は右眼0.01(0.5×sph?10.50D(cyl?1.00DAx165°),左眼0.01(0.1×sph?10.25D(cyl?1.75DAx180°),眼圧は右眼21mmHg,左眼19mmHg.視野はHumphrey30-2SITA-standard(Humphrey30-2)にて,右眼が重度視野欠損(MD値?17.16dB),左眼も重度視野欠損(MD値?18.35dB)であった.眼圧日内変動検査にて,右眼19?25mmHg,左眼19?26mmHgと両眼の眼圧上昇が認められたため,両眼にLECを施行した.左眼はLEC後6日目より濾過胞が限局化し,輪部側に虚血性の濾過胞が出現した.術後8日目に輪部から房水漏出がみられたため,同日輪部の結膜を縫合し,0.3%ヒアルロン酸ナトリウム1日6回点眼を開始.術後12日目に0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を自己血清点眼に変更したが,房水漏出は消失しなかった.術後14日目にはabcd図2限局性濾過胞と輪部からの房水漏出の経過aは症例1の左眼.LEC術後19日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.bは症例1の右眼.LEC術後14日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.cは症例2.LEC術後18日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.dは症例3.LEC術後14日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,その後は房水漏出の再発はなかった(術後4日目のoozingによる房水漏出は,輪部から離れたブレブの中央部分であり,図から省いた).図3症例1の右眼の濾過胞再建術併用結膜縫合術前の濾過胞(a)と術後1日目の濾過胞(b)濾過胞再建術併用結膜縫合術前には,虚血部を伴う限局性の濾過胞を認め,周囲の結膜は充血し,輪部結膜からの房水漏出を認めた.術後はびまん性の濾過胞が形成され房水漏出は消失した.輪部に縫合を追加したが房水漏出は改善しなかった.術後19日目にスプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部の結膜縫合を行ったところ(図1),びまん性の濾過胞が形成され,房水漏出は停止した(図2a).右眼は左眼と同様な経過をたどり,LEC後7日目より,輪部に接する部分に虚血部を伴う限局性の濾過胞となった.術後13日目には輪部結膜から房水漏出が出現したため自己血清点眼1日6回を開始した(図3).しかしながら,術後14日目になっても房水漏出に改善がみられず,眼圧も18mmHgに上昇したため,スプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞を形成して虚血部位は消失し,房水漏出は消失した(図2b,3).〔症例2〕63歳,男性.6年前に両眼の原発開放隅角緑内障と診断されて点眼治療が行われていたが,右眼の視野進行を認めたため,手術目的にて紹介となった.入院時視力は,右眼0.04(0.5×sph?6.50D(cyl?1.00DAx155°),左眼0.09(0.3×sph?1.50D(cyl?3.00DAx90°),眼圧は右眼20mmHg,左眼20mmHg.視野はHumphrey30-2にて右眼は重度視野欠損(MD値?13.73),左眼は早期視野欠損(MD値?5.88)がみられた.眼圧日内変動検査にて,右眼17?20mmHg,左眼17?19mmHgであったが,右眼は重度視野欠損であり,かつ視野進行が認められたため,LECを行った.LEC後12日目に輪部に接した部分が虚血性となって濾過胞が限局化し,輪部側からの房水漏出がみられた.房水漏出は軽微であったため,0.1%ベタメタゾン点眼を中止して0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を1日6回開始した.術後13日目になっても房水漏出に改善がないため,自己血清点眼1日6回に変更した.術後15日目も房水漏出が続いていたため,輪部結膜に縫合を行い,0.1%ベタメタゾン点眼右眼1日6回を再開,自己血清点眼を終了した.しかし,術後17日目になって,輪部結膜からの房水漏出が再発したため,術後18日目にスプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜の縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞が形成され,虚血部位が消失して房水漏出もなくなった(図2c).〔症例3〕78歳,女性.両眼の原発開放隅角緑内障の診断で約20年前から点眼治療が開始され,7年前に右眼のLECが施行されていた.今回は右眼視野が進行したため,手術目的にて当院紹介となった.視力は右眼0.2(0.2×sph+0.25D(cyl?1.00DAx110°),左眼0.01(0.02×sph+2.00D).眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHg.Goldmann動的視野検査にて,右眼は湖崎分類III-b,左眼は湖崎分類V-bであった.眼圧日内変動検査にて右眼15?22mmHg,左眼16?27mmHgと両眼とも眼圧上昇が認められたため,両眼にLECを施行した.左眼はLEC後とくに問題なく経過した.右眼のLECは,前回行われた上耳側を避けて上鼻側に行った.LEC術後4日目に角膜輪部から離れたブレブ中央の菲薄部分からoozingが出現したため,1日4回点眼していた0.1%ベタメタゾンを中止し,0.3%ヒアルロン酸ナトリウムを1日6回開始したところ,翌日には房水漏出は停止した.術後6日目には0.1%ベタメタゾン点眼を1日4回で再開した.術後12日目に限局性となった濾過胞の輪部側から房水漏出が出現したため,結膜縫合を行った.翌日には房水漏出は停止し0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を中止としたが,術後14日目に再び輪部より房水漏出が出現したため,25G鋭針を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜の縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞を形成し,房水漏出は停止した.(図2d).II考按一般に,円蓋部基底結膜切開によるLECの早期合併症の一つとして輪部付近からの房水漏出があり2),輪部結膜切開創に対するさまざまな縫合法が考案されてきた1,3).LEC術後,濾過胞周囲に癒着が生じるのに伴い,局所的な濾過胞となって濾過機能を失い,眼圧上昇を伴う場合がある4).このような濾過胞に対し行う濾過胞再建術として,鋭針やナイフなどを用いて結膜?強膜間の瘢痕癒着を解除し,結膜下腔への房水の流れを回復させる手法があり4),さらなる緑内障手術を回避するために有効な手段とされる5).LEC術後早期の段階で限局性の濾過胞となってしまい,輪部結膜からの房水漏出が生じた際に,通常の結膜縫合だけでは改善せず,房水漏出を繰り返す症例をしばしば経験する.このような症例では,濾過胞が限局化したことにより,濾過胞内の前房水による圧力負荷が高くなっているものと推察される.その結果として結膜が伸展され,圧力の低い結膜の細血管や毛細血管が虚脱2),虚血性の濾過胞様の所見になっているのではないかと考えられる6).今回筆者らは,結膜縫合のみでは房水漏出を止められなかった症例に対して,濾過胞再建術を併用することで房水漏出を止めることに成功した.癒着が強く,針では解除できない症例に対しては,先端の細いスプリング剪刀を用いて行った.房水漏出直前の平均眼圧は7.0±2.5mmHg(4?11mmHg)であり,眼圧が上昇しはじめた頃に漏出が起こっている(図2).漏出が起こったのは術後平均11.3±1.6日目(8?13日)であり,いずれも濾過胞の限局化が生じてから1週間以内に発生していた.このことから,創傷治癒に伴う限局化によって起こる濾過胞機能低下と濾過胞内圧の上昇が,漏出に関与している可能性が示唆された.また,漏出が止まったときの平均眼圧は10.0±3.5mmHg(3?16mmHg)であり,症例2を除き,縫合前より上昇した症例はみられなかった.これは結膜縫合に併用した濾過胞再建による機能性濾過効果と考えられる.さらに,この眼圧下降に加え,濾過胞周囲の癒着を?離したことにより,限局化して輪部方向へ集中していた水圧が減圧され,その結果,水圧によって生じていた縫合不全が起こらず,創部は上皮化され房水漏出の停止に至ったと考えられた.症例2で濾過胞再建術併用後の眼圧下降が小さかったのは(図2c),外見上びまん性の機能性濾過胞様にみえても,内部の瘢痕化や肉芽形成などにより機能性濾過胞効果が低下7)していた可能性がある.また,濾過胞再建術併用後に濾過胞の虚血部位が消失した理由としては,前述のような濾過胞内圧の上昇によって一過性に虚脱した結膜の細血管や毛細血管が,濾過胞再建によってびまん性の濾過胞となり,局所性にかかる圧力が低下したことによって結膜血管が復元した結果と推測された.今回,術後早期の限局化した濾過胞の輪部からの房水漏出に対して濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行った結果,房水漏出を止めることができた.一方,症例1の右眼に関しては,房水漏出を繰り返した左眼と同様の経過をたどり房水漏出に至ったため,結膜縫合を単独で行うことなく初めから濾過胞再建術を併用し,良好な結果を得た.術後早期の限局化した濾過胞からの房水漏出で,濾過胞内の圧力負荷がその一因と疑われる症例では,結膜縫合を縫合する際に,初めから濾過胞内圧を下げる濾過胞再建術を併用した結膜縫合をすべきであると考えられた.文献1)陳進輝:トラベクレクトミー術後の房水漏出について.FrontiersinGlaucoma54:172-176,20172)相原一:線維柱帯切除術における切開部位と創傷治癒の検討.FrontiersinGlaucoma7:226-232,20063)庄司信行:結膜切開方法による違いは?緑内障(根木昭,相原一編),眼手術学6,97-99,文光堂,20124)LinS,BylesD,SmithM:Long-termoutcomeofmitomy-cinC-augmentedneedlerevisionoftrabeculectomyblebsforlatetrabeculectomyfailure.Eye(Lond)32:1893-1899,20185)AminiH,EsmailiA,ZareiRetal:O?ce-basedslit-lampneedlerevisionwithadjunctivemitomycin-Cforlatefailedorencapsulated?lteringblebs.MiddleEastAfrJOphthal-mol19:216-221,20126)HirookaK,MizoteM,BabaTetal:Riskfactorsfordevel-opingavascular?lteringblebafterfornix-basedtrabecu-lectomywithmitomycinC.JGlaucoma18:301-304,20097)金本尚志:濾過胞維持─増殖・瘢痕抑制のための試み.眼科手術21:179-184,2008◆**

緑内障術後早期に発症したLeaking Blebに対する羊膜移植併用濾過胞再建術の有用性

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1268.1275,2018c緑内障術後早期に発症したLeakingBlebに対する羊膜移植併用濾過胞再建術の有用性立花学*1,2小林顕*2新田耕治*1,2東出朋巳*2横川英明*2大久保真司*3杉山和久*2*1福井県済生会病院眼科*2金沢大学附属病院眼科*3おおくぼ眼科クリニックCTheUsefulnessofBlebRevisionwithAmnioticMembraneTransplantationforEarly-onsetLeakingBlebDevelopedafterGlaucomaSurgeryGakuTachibana1,2),AkiraKobayashi2),KojiNitta1,2),TomomiHigashide2),HideakiYokogawa2),ShinjiOkubo3)andKazuhisaSugiyama2)1)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,3)OhkuboEyeClinic線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)あるいは濾過胞再建術(blebrevision,以下revision)の術後早期(early-onset)に発症した濾過胞からの房水漏出(leakingCbleb)に対する羊膜移植(amnioticCmembraneCtransplantation:AMT)併用Crevisionの有用性を検討した.対象は,初回ないしは別部位からの追加手術後C1カ月以内にCleakingblebをきたし,結膜縫合あるいは自己結膜移植にてCleakingblebの消失を認めなかったC8例C8眼である.これらの症例に対してCAMT併用Crevisionを施行した.その結果,8眼全例で一過性のCleakingbleb再発を認めたものの,そのうちC4眼は無処置で治癒,3眼で結膜縫合,1眼で羊膜再移植を施行し,最終的にCleakingblebは全例で消失した.眼圧は漏出原因となった手術または処置後のCleakingbleb確認時が平均C12.6±8.8CmmHg,leakingblebの最終消失時が平均C18.9C±5.4CmmHgであった.眼圧コントロール不良例に対しては追加手術を施行した.これらの結果により,TLEあるいはCrevision後のCearly-onsetに発症したCleakingblebに対してCAMT併用のCrevisionは有用であることが示唆された.CThepurposeofthisstudywastoinvestigatetheusefulnessofblebrevisionwithAMTforearly-onsetleakingblebthatdevelopedafterglaucomasurgery.Enrolledwere8eyesof8patientswithearly-onsetleakingblebwith-inC1CmonthCafterCTLECorCblebCrevisionCwhoCshowedCnoCimprovementCwithCconjunctivalCsutureCorCautologousCcon-junctivalCtransplantation.CAlthoughCtransientCaqueousChumorCleakageCwasCobservedCafterCAMTCinCallCeyes,C4CeyesCwerecuredthroughobservationonly,withnotreatment,3eyesrequiredconjunctivalsutureand1eyerequiredre-AMT.CAsCaCresult,CaqueousChumorCleakageCwasC.nallyCimprovedCinCallCeyes.CIntraocularCpressureCwasC12.6±8.8CmmHgCwhenCleakingCblebCwasCcon.rmedCafterCtheCtreatmentCthatChadCcausedCit,CandC18.9±5.4CmmHgCatCtheCtimeofleakingbleb.nalimprovement.WeperformedadditionalglaucomasurgeryincaseswithpoorIOPcontrol.Inconclusion,AMTisquiteusefulforearly-onsetleakingblebafterTLEor.lteringblebrevisionsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(9):1268.1275,C2018〕Keywords:緑内障,線維柱帯切除術,濾過胞再建術,房水漏出,羊膜移植.glaucoma,trabeculectomy,blebrevi-sion,leakingbleb,amnioticmembranetransplantation.Cはじめに効性は確立している.しかし,術後の合併症の一つとして濾マイトマイシンCC併用の線維柱帯切除術(trabeculecto-過胞からの房水漏出(leakingCbleb)がしばしば問題視されmy:TLE)は,緑内障において点眼による薬物療法によっる.leakingblebの治療法として保存的加療あるいは縫合・ても眼圧コントロール不良の症例に対して施行され,その有自己結膜移植(autologousCconjunctivalCtransplantation:〔別刷請求先〕立花学:〒920-8641石川県金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:GakuTachibana,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takaramachi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPAN1268(112)表1患者背景症例年齢性別病型直近の手術漏出部位漏出パターンAMT前処置回数(回)結膜移植結膜縫合C1C45CMCSOAGCTLE(EX-PRESS)角膜輪部CEC0C7C2C69CFCPOAGCTLEbleb上のCholeCBC0C2C3C68CFCPOAGCneedling結膜縫合部CAC1C0C4C64CFCPOAGCneedling結膜縫合部CAC0C2C5C70CMCSOAGCTLEbleb上のCholeCCC0C5C6C40CMCtraumaticCglaucomaCneedling結膜縫合部CAC0C4C7C58CMCPOAGCTLEbleb上のCholeCBC0C1C8C53CMCtraumaticCglaucomaCneedlingbleb上のCholeCBC0C2M:男性,F:女性,SOAG:続発開放隅角緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,TLE:線維柱帯切除術,AMT:羊膜移植.ACT)などの観血的処置が第一選択であるが,奏効しない症例もしばしば認められる.そのような状況下で注目されているのが羊膜の利用である.羊膜は子宮内の胎児と羊水を直接に包む半透明の膜で,その抗炎症・瘢痕化作用や拒絶反応の起こりにくい良質な器質となりうる性質から,外科手術の際の癒着防止や皮膚熱傷の覆膜などに利用されてきた1.3).とくにCKimらによる家兎眼を用いた眼表面再建における羊膜利用の有用性に関する報告により眼科領域でも羊膜移植(amnioticmembranetransplantation:AMT)が注目されるようになった4).日本ではCTsubotaらにより眼類天庖瘡,Stevens-Johnson症候群といった高度の瞼球癒着を有する難治性角結膜疾患に対して,眼表面再建を目的に初めて羊膜が用いられた5).それ以後,角膜上皮の再生あるいは結膜の再建における治療材料としての有効性も確認され,AMT症例数は増加しつつある.緑内障領域でも,TLEあるいは濾過胞再建術(blebCrevi-sion,以下Crevision)におけるCAMT併用の報告が散見されるようになった.ShehaらおよびCSarnicolaらはCTLEにおけるCAMTの安全性を確認し,術後の眼圧コントロールも良好であると報告している6,7).Fujishimaらは眼圧コントロール不良な症例に対しCAMT併用CTLEを施行し,良好な眼圧コントロールを得たことを報告している8,9).JiらはCAMTを併用したCTLEは眼圧の降下と術後合併症の頻度軽減に有効で成功率が高い術式であると報告している10).樋野らは,抗緑内障点眼により薬剤性偽眼類天庖瘡を生じた患者に対しAMT併用CTLEを施行し,良好な眼圧コントロールを得たことを報告した11).また,leakingCbleb症例に対するCAMTの適用例も僅少ながら報告されているが,それらは術後C1カ月以上経過した後にCleakingblebを合併した晩期発症(late-onset)の報告が大半であり,早期発症(early-onset)の報告はない.そこで筆者らは術後C1カ月以内にCleakingblebをきたし観血的処置でも消失しなかったCearly-onsetの難治症例に対するCAMT併用Crevisionの成績を検討した.CI対象および方法対象はC2004年C8月.2014年C7月に金沢大学附属病院(以下,当院)でCTLEを施行したC1,664眼のうち,TLEあるいはCrevision(needlingを含む)の術後C1カ月以内にCSeidel試験にてCleakingblebを確認し,結膜縫合やCACTにて消失を認めなかった難治CleakingblebのC8例C8眼(平均C58.4C±10.8歳)である.これらの症例についてCAMT併用Crevisionを施行した.年齢・性別・病型・直近の手術・漏出部位・濾過胞からの房水漏出の類型(以下,漏出型)・AMT前処置回数などの患者背景を表1に示す.また,対象C8眼で認めた漏出型は,a)縫合部から漏出,b)bleb上のCholeから漏出,c)lasersuturelysis(LSL)の際に照射レーザー光によるCbleb上Choleから漏出,d)術前のCTLEで結膜が薄くなった部分からの漏出,e)輪部結膜の薄い部位からの漏出であり,この概略を図1に示す.AMT併用CrevisionはC3名の術者によって次のような方針abcde図1Leakingblebのパターンa:縫合部からの漏出.Cb:blebの上のCholeからの漏出.Cc:laserCsutureClysisの際の照射レーザー光によるCbleb上のholeからの漏出.Cd:以前のCTLEで結膜薄くなった部分からの漏出.Ce:輪部の結膜が薄い部位からの漏出.Cで施行された.羊膜を羊膜上皮側が強膜側を向くように,症例によっては上皮側が外側になるようにC2重翻転した状態で強膜フラップを含む範囲で結膜の裏打ちを行い,結膜創に羊膜を挟みこんで結膜縫合を施行した.結膜欠損の大きさに応じて,縫合を以下のC3通りの方法で行った.すなわち,①創が小さい場合は結膜同士を縫合,②創が大きい場合はCACTを併用,③創が大きいがCACTを併用せず羊膜を露出,であり,そのシェーマを図2に示す.CII結果AMT併用Crevision後のC8症例の個別の病歴,経過,経過日数,眼圧の経過,追加処置などについて以下および図3に示す.〔症例1〕45歳,男性,漏出型:E(図3a).続発開放隅角緑内障(secondaryCopen-angleCglaucoma:SOAG)に対しC2013年C1月に線維柱帯切開術(trabeculoto-my:TLO),6月CTLE(EX-PRESSCR)施行.術後C5日目のLSL後に角膜輪部よりCleakingCbleb(+),縫合をいくどか試みたがたびたび再漏出するため,漏出確認後C27日目にAMT併用Crevision+ACTを施行.術後CleakingCbleb再発,結膜縫合を追加し消失した.後に眼圧コントロール不良となり,AMT術後C511日目にトラベクトーム手術を施行したが,術後眼内炎をきたしたためC528日目にCvitrectomyを施行.2016年C3月時点で術後の経過観察中である.〔症例2〕69歳,女性,漏出型:B(図3b).abc羊膜自己結膜露出した羊膜図2AMTを用いたrevisiona:結膜縫合のみ.Cb:ACTの併用.Cc:羊膜を露出させた状態.原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)に対しC2011年C7月CTLO,8月CTLE施行.TLE術後4日目で濾過胞が輪部で一部引きちぎれleakingbleb(+),結膜縫合やCneedling+結膜縫合などで対処したが別部位でのCholeとCleakingCbleb(+),holeが徐々に拡大したため漏出確認後C12日目にCAMT併用Crevision+ACTを施行.術後leakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例3〕68歳,女性,漏出型:A(図3c).POAGに対しC2012年C5月CTLE,2013年C6月Cneedling施行.術後C13日目に結膜縫合部位よりCleakingblebと創口離開(+),ACT+needlingを施行したが消失せず,漏出確認後C24日目にCAMT併用Crevision+needling+ACTを施行.術後Cleakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例4〕64歳,女性,漏出型:A(図3d).POAGに対しC2011年C2月CTLE,2013年C6月Cneedlingを2回施行.術後C6日目より創口からCleakingbleb(+),nee-dling+結膜縫合を行ったが別部位からのCleakingbleb(+),結膜縫合を追加したが消失せず,漏出確認後C8日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合を施行.術後Cleakingblebが再発したが,結膜縫合を追加し消失.のちに眼圧コントロール不良となりCAMT術後C126日目にTLO,719日目にCTLEを追加.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例5〕70歳,男性,漏出型:C(図3e).SOAGに対し前医でC2010年C11月TLE,当院でC2011年C3月別部位からCTLEを施行.術後C3日目にCLSLでレーザーが出血部に吸収されCleakingCbleb(+),結膜縫合を追加し消失.その後眼圧上昇したためCneedlingを追加,術翌日からleakingCblebが再発し,結膜縫合を追加したが,前医CTLEでの菲薄化した結膜縫合部からのCleakingbleb(+),漏出確認後C21日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合を施行.翌日C図3各症例の日数と眼圧経過a:症例①:45歳,男性,漏出型:ECb:症例②:69歳,女性,漏出型:BCc:症例③:68歳,女性,漏出型:ACd:症例④:64歳,女性,漏出型:ACe:症例⑤:70歳,男性,漏出型:CCf:症例⑥:40歳,男性,漏出型:ACg:症例⑦:58歳,男性,漏出型:BCh:症例⑧:53歳,男性,漏出型:Bleak期間羊膜移植線維柱帯切除術needlingblebrevision結膜縫合結膜移植入院退院a.症例1(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100b.症例2(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100c.症例3(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100d.症例4(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100e.症例5(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100f.症例6(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)g.症例7h.症例8から消失したが,羊膜が結膜に嵌頓していたため術後C10日目に嵌頓部を縫合したところ,同部位からCleakingbleb再発を認めたが,保存的加療で消失.2014年頃より眼圧コントロール不良となり,AMT術後C1,133日目にCTLOを追加し,その後眼圧は安定.2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例6〕40歳,男性,漏出型:A(図3f).眼球破裂に対してC2008年C5月Cvitrectomy(硝子体切除術)+強角膜縫合術を施行.その後眼圧上昇しC6月CTLO,10月TLE施行.2009年C3月末にCneedling施行したところ低眼圧と術後C3日目からCleakingCbleb(+),2度の結膜縫合後にCneedling+結膜縫合,その後結膜縫合も追加したが消失せず,漏出確認後C9日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合+保存強膜移植を施行.術後Cleakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.後に眼圧コントロール不良となり,AMT術後C2,048日目にバルベルト緑内障インプラント術を施行した.その後眼圧は安定し,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例7〕58歳,男性,漏出型:B(図3g).POAGに対してC2007年C12月CTLEを施行.術翌日よりleakingCbleb(+)のため結膜縫合を施行,2008年C1月にleakingCbleb増悪を認めたため漏出確認後C25日目にCAMT併用Crevisionを施行した.しかし術後も消失せず,結膜縫合をC2回追加したがCleakingCbleb(+)持続したため,漏出確認後C32日目に再度のCAMT併用Crevisionを施行.術後Cleak-ingbleb再発に無処置で経過観察し消失.その後眼圧は安定し,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例8〕53歳,男性,漏出型:B(図3h).1990年に針金が左目に刺さり,白内障手術+角膜縫合術施行.その後眼圧コントロール不良となりC1992年C10月末にCTLE施行.2002年頃から眼圧が再上昇し,2004年C2月に別部位にてCTLE施行.術後CleakingCbleb(+)に結膜縫合で消失したが,眼圧が上昇したためC4月にCneedling,5月にrevision,7月にCneedlingを施行.needling後C8日目にleakingCbleb(+)を認めCneedling+結膜縫合を施行したが,leakingCbleb再発しCrevision+結膜縫合を施行.しかし高眼圧とCleakingCbleb(+)持続し,漏出確認後C25日目にCAMT併用Crevisionを施行.術後CleakingCblebが再発したが,無処置で消失.以後の眼圧は不安定であったため術後C3,733日目にCTLOを追加.その後眼圧は安定し,2014年C4月に転院のため終診となった.表2には,8症例のCAMT直近のCTLE,AMT直近のCnee-dling,緑内障手術後のCleakingbleb,AMTの術後,についてまとめる.また,表3に,8症例の経過および術後処置についてまとめる.CIII考察羊膜の抗瘢痕化・炎症作用に関する先行研究を以下に示す.Bauerらは,ネズミの単純ヘルペス角膜炎モデルにおいて,移植した羊膜間質に付着したリンパ球,マクロファージが急速にアポトーシスを起こすことを報告した12).Heらは,羊膜から分離した水溶性物質CHC・HA(inter-a-inhibitorheavyCchain・hyaluronan)はCCD80,CCD86,主要なCClassCII抗原複合体の発現を減少させ,増殖を抑制し,アポトーシスを増強させると報告した13).さらにCHeらは,眼組織線維芽細胞において,TGF-bのシグナル伝達を転写の段階で抑制すると報告した14).Espanaらは,培養液中で角膜細胞の樹枝状形態を維持し,生理学的に角膜細胞形態を維持する作用を認めるとともに,TGF-bのシグナル伝達阻害以外の抗瘢痕化作用も関与していると考察している15).以上のような基礎検討に基づいて,羊膜の有する抗炎症・抗瘢痕化作用,結膜上皮の分化促進,線維組織増生の抑制効果などから,結膜瘢痕化症例や角膜不全症例などに対するCTLEあるいはCrevi-sionにおいて起こりうる晩期発症のCleakingCblebや濾過胞感染,濾過胞瘢痕形成などによる濾過胞不全に対して,AMTを併用することは有用であると考えられてきた.しかしながら,AMT併用のCTLE・revisionの手術成績については,濾過胞形成不全に陥るリスクの高い患者の眼圧下降維持に有用であるとした報告6)がある一方で,AMTと結膜前方移動術とのランダム化臨床試験では,最終的な眼圧や点眼数,Kaplan-Meier法による術後成績のいずれにも有意差は認めなかったとする報告16)もあり,統一的な見解は得られていないのが現状である.以上の報告は術後Clate-onsetのleakingCblebに対してであり,術後Cearly-onsetのCleakingblebにおいては,治療用コンタクトレンズ装用や自己血清眼など非観血的処置,あるいは縫合追加やCACTなどの観血的処置を施すことが通例である.そのため,early-onsetのleakingCblebに対してCAMT併用のCrevisionを施行した報告はなく,その臨床的な有用性については検討すべき課題である.当院ではCearly-onsetのCleakingCblebに対する治療方針として,下記の枠組みに沿って対応している.この概略を図4に示す.(1)Seidel試験でCleakingblebの有無を確認し,結膜に明らかな裂隙があり漏出が著明で低眼圧や浅前房が改善しない場合には,その時点で観血的処置を施す.(2)患者が流涙を自覚しない程度のわずかな漏出であれば非観血的処置を施し,改善を認めない場合に観血的処置を施す.(3)観血的処置ではCdirectCsutureやCcompressionCsutureなどの縫合,あるいは結膜前転,保存強膜移植,ACTを漏表2眼圧の経過症例AMT直近のCTLEAMT直近のCneedling緑内障手術後のCleakingblebAMTの術後術前術後術前術後確認時初回消失時最終消失時3カ月6カ月1年最終C1C22C5C–8C7C18C22C16C17C27C2C18C6C–9C11C19C20C20C17C19C3C18C6C26C8C10C4C20C8C11C9C8C4C22C4C23C10C6C13C13C20C17C19C10C5C48C4C–27C12C12C14C12C11C14C6C37<1C0C17C3C3C26C30C22C23C16C8C7C19C4C–25C11C16C14C-14C12C8C40不明不明C17不明C21C23C25C16C14C18AMT:羊膜移植,TLE:線維柱帯切除術.表3経過日数と追加処置経過日数(日)術後処置症例緑内障手術後のCleakingbleb確認時漏出確認.AMT最終的な漏出消失確認AMT後leakingblebに対する処置直近CTLE直近CneedlingC1C5C-27C57結膜縫合C2C4C-12C32C-3C-13C24C36C-4C-6C8C9結膜縫合C5C3C-21C68C-6C-3C9C15結膜縫合C7C1C-25C29結膜縫合×2再CAMTC8C-8C25C22C-AMT:羊膜移植,TLE:線維柱帯切除術.CACT=自己結膜移植図4Early.onsetのleakingblebに対する当院での治療方針出の状態に応じて施し,それでも消失を認めない場合にはフラップ縫合で漏出を止めて別の位置で濾過手術を施すか,AMT併用のCrevisionを施す.本研究の対象となったCTLE施行のC1,664眼のうちのCear-ly-onsetのCleakingblebに対する最終手段としてCAMT併用のCrevisionを施行したC8眼の結果は,全症例でCAMT併用のCrevision後に一時的にCleakingCbleb再発を認め,1眼で羊膜再移植,3眼で観血的処置,4眼で経過観察の後,最終的には全例で消失を認めた.術後の一時的なCleakingbleb再発の理由としては,各症例において羊膜の機械的な裏打ちのみでは結膜が脆弱であったためと考えられる.しかしながら,最終的に全例でCleakingblebが消失したのは,羊膜のもつ抗炎症・抗瘢痕化作用や結膜上皮の分化促進作用が奏効したものと推定される.術後の眼圧についてはCleakingbleb消失の確認時,術後C3カ月後,術後半年後,術後C1年後の段階でそれぞれの平均値がC18.9CmmHg,18.1CmmHg,16.4CmmHg,14.7CmmHgと比較的良好であったと評価できる.しかしながら,後に眼圧コントロールが不良となったため追加の緑内障手術を要した症例が半数のC4例であった.その内訳は,TLE:2眼,バルベルト緑内障インプラント術:1眼,トラベクトーム手術:1眼であった.結膜瘢痕化症例に対するCAMT併用のCTLEによって長期の眼圧経過でも最終的にコントロールが得られた例が多かったとする報告17)がある一方で,化学熱傷や外傷,薬剤障害,感染症などを原因とする難治で重篤な角膜不全(後に水疱性角膜症を発症したため全層角膜移植術を施行した症例などを含む)を合併した緑内障に対するCAMT併用のCTLEの成績に関しては,術後長期の経過で眼圧のコントロールが悪化したケースが認められたとの報告18)もあり,より難治な症例ほどCAMT併用のCTLEやCrevisionのみでは長期経過での眼圧コントロールが不十分となり,追加の処置や手術などが必要となる可能性が示唆されている.最近,当院ではハイリスク症例に初回手術の際に結膜の裏打ちとしてCTenon.を前転し,より広範な濾過胞が形成されるように工夫している.今回の羊膜の設置方法は,全例で羊膜上皮が強膜側を向くように強膜フラップを含む範囲で結膜の裏打ちを行い結膜創に羊膜を挟みこんだが,結膜縫合においては全C9回のCAMT(1眼の再移植を含む)のうち,単純に結膜同士を縫合して閉創可能であった症例がC4眼,結膜創が大きく別部位から結膜を採取してパッチとして使用した症例がC4眼,結膜創が大きいものの別部位を含め結膜の状態が非常に悪く,次善の策として結膜-羊膜を縫合し,羊膜が一部露出した状態となった症例がC1眼であった.最終的には羊膜が露出した状態となった1例も含め,全例で最終的なCleakingblebの消失を認めたことからどの術式も有効性が認められるが,結膜の状態に応じて三つの術式を使い分けることがより妥当であると考えられる.また本研究ではCAMT前に4.7回の結膜縫合を行ったが,leakingblebの改善を認めなかった症例がC3例あり,術後C3回目までの結膜縫合やCACTでCleakingblebの改善を認めない場合は,早期に積極的なCAMTを検討すべきであると考えられる.本研究の問題点,限界は,同一術者による統一された手術方法ではなかったこと,症例数がC8例C8眼と母数が小さいこと,難治となった原因としての患者背景が症例ごとに異なること,などがあげられる.CIVまとめTLE後Cearly-onsetにCleakingblebを発症した難治のC8例8眼に対してCAMT併用のCrevisionを施行し,一過性のleakingCbleb再発を認めたものの最終的に全例で消失した.今後,より多くの症例に対して詳細な検討が必要であり,AMTを併用しないCrevisionとの比較検討が重要な課題であると思われる.文献1)Troensegaard-HansenE:Amnioticgraftsinchronicskinulceration.LancetC255:859-860,C19502)BennettJP,MatthewsR,FaulkWP:Treatmentofchron-iculcerationofthelegswithhumanamnion.LancetC315:C1153-1156,C19803)DuaCHS,CGomesCJA,CKingCAJCetCal:TheCamnioticCmem-braneCinCophthalmology.CSurvCOphthalmolC49:51-77,C20044)KimCJC,CTsengCSC:TransplantationCofCpreservedChumanCamnioticmembraneforsurfacereconstructioninseverelydamagedrabbitcorneas.CorneaC14:473-484,C19955)TsubotaCK,CSatakeCY,COhyamaCMCetCal:SurgicalCrecon-structionoftheocularsurfaceinadvancedocularcicatri-cialCpemphigoidCandCStevens-JohnsonCsyndrome.CAmJOphthalmolC122:38-52,C19966)ShehaCH,CKheirkhahCA,CTahaCH:AmnioticCmembraneCtransplantationCinCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCCforCrefractoryglaucoma.JGlaucomaC17:303-307,C20087)SarnicolaCV,CMillacciCC,CToroCIbanezCPCetCal:AmnioticCmembraneCtransplantationCinCfailedCtrabeculectomy.CJGlaucomaC24:154-160,C20158)FujishimaH,ShimazakiJ,ShinozakiNetal:Trabeculec-tomywiththeuseofamnioticmembraneforuncontrolla-bleglaucoma.OphthalmicSurgLasersC29:428-431,C19989)森川恵輔:先進医療として実施された羊膜移植の適応と有効性.日眼会誌120:291-295,C201610)JiCQS,CQiCB,CLiuCLCetCal:ComparisonCofCtrabeculectomyCandtrabeculectomywithamnioticmembranetransplanta-tionCinCtheCsameCpatientCwithCbilateralCglaucoma.CIntJOphthalmolC6:448-451,C201311)樋野景子,森和彦,外園千恵ほか:羊膜移植併用線維柱帯切除術を施行した薬剤性偽眼類天庖瘡のC1例.日眼会誌C110:12-317,C200612)BauerCD,CWasmuthCS,CHennigCMCetCal:AmnioticCmem-branetransplantationinducesapoptosisinTlymphocytesinCmurineCcorneasCwithCexperimentalCherpeticCstromalCkeratitis.InvestOphthalmolVisSciC50:3188-3198,C200913)HeH,LiW,ChenSYetal:SuppressionofactivationandinductionCofCapoptosisCinCRAW264.7CcellsCbyCamnioticCmembrane.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:4468-4475,C200814)HeCH,CLiCW,CTsengCDYCetCal:BiochemicalCcharacteriza-tionandfunctionofcomplexesformedbyhyaluronanandtheCheavyCchainsCofCinter-a-inhibitor(HC・HA)puri.edCfromextractsofhumanamnioticmembrane.JBiolChem284:20136-20146,C200915)EspanaEM,HeH,KawakitaTetal:Humankeratocytesculturedonamnioticmembranestromapreservemorphol-ogyCandCexpressCkeratocan.CInvestCOphthalmolCVisCSciC44:5136-5141,C200316)KiuchiCY,CYanagiCM,CNakamuraCT:E.cacyCofCamnioticCmembrane-assistedCblebCrevisionCforCelevatedCintraocularCpressureafter.lteringsurgery.ClinOphthalmolC4:839-843,C201017)山田裕子:羊膜移植併用緑内障手術.あたらしい眼科C28:C827-828,C201118)MoriCK,CIkedaCY,CMaruyamaCYCetCal:AmnioticCmem-brane-assistedCtrabeculectomyCforCrefractoryCglaucomaCwithcornealdisorders.IntMedCaseRepJC9:9-14,C2016***

線維柱帯切除術後の晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の成績

2013年1月31日 木曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(1):107.111,2013c線維柱帯切除術後の晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の成績有本剛丸山勝彦土坂麻子後藤浩東京医科大学眼科学教室OutcomeofTransconjunctivalScleralSuturingforLate-OnsetBlebLeakageFollowingTrabeculectomyGoArimoto,KatsuhikoMaruyama,AsakoTsuchisakaandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityマイトマイシンC併用線維柱帯切除術後晩期に無血管性濾過胞からの房水漏出が原因で低眼圧を生じた6例6眼に対して経結膜的強膜縫合を行った.縫合前眼圧は3.5±2.3(レンジ:0.6)mmHg,線維柱帯切除術から縫合までの期間は15カ月.30年であった.10-0ナイロン丸針を用いて房水漏出部位を結膜上から強膜に達するまで通糸し結紮した.縫合1週間後の眼圧は9.2±5.8(3.20)mmHg,1カ月後は7.8±6.2(2.19)mmHgであった.縫合後,1眼を除いてニードリングや経結膜的強膜縫合の追加を要した.最終的に房水漏出は2眼で消失し,これらの症例の最終観察時の眼圧(経過観察期間)はそれぞれ3mmHg(21カ月),14mmHg(24カ月)で,低眼圧黄斑症や脈絡膜.離は認めなかった.房水漏出に伴う低眼圧が改善しなかった4眼に対しては観血的手術を施行した.Weevaluatedtheefficacyoftransconjunctivalscleralsuturing(TCSS)forthemanagementoflate-onsetblebleaksaftertrabeculectomywithmitomycinC.Sixeyesof6patientswithhypotonycausedbyavascularblebleakageunderwentTCSSusinga10-0nylonsuturewitharound,taperedneedle.TheperiodbetweentrabeculectomyandTCSSrangedbetween15monthsand30years.Theintraocularpressure(IOP)(mean±standarddeviation),3.5±2.3mmHg(range:0-6mmHg)beforeTCSS,was9.2±5.8mmHg(range:3-20mmHg)at1weekand7.8±6.2mmHg(range:2-19mmHg)at1monthafterTCSS.Fivecasesrequiredneedlerevisionand/orTCSStotreatpersistentblebleakage,whereastheblebleakageresolvedin2cases.TheIOP(follow-upperiod)inthese2caseswas3mmHgat21monthsand14mmHgat24months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):107.111,2013〕Keywords:線維柱帯切除術,濾過胞,晩期,房水漏出,経結膜的強膜縫合.trabeculectomy,late-onset,blebleak,transconjunctivalscleralsuture.はじめに線維柱帯切除術後の晩期房水漏出は無血管性濾過胞を有する症例に生じやすく1),その頻度は1.10%とされ2),マイトマイシンCなどの代謝拮抗薬を併用した場合にはさらに高頻度になることが知られている3).房水漏出の存在は濾過胞関連感染症の発症リスクを高めるだけではなく4),低眼圧による視力低下,ならびに浅前房に伴う角膜内皮障害や白内障発生の原因となるため濾過胞の修復を要する.房水漏出を伴う無血管性濾過胞に対する処置として,これまで遊離結膜弁移植術5),結膜前方移動術6),羊膜移植術7),血清点眼8),コンタクトレンズ装用9),濾過胞内自己血注入10)などが報告されているが,低侵襲性かつ確実性の高い方法はなかった.結膜上から強膜を直接縫合する経結膜的強膜縫合は,線維柱帯切除術後の過剰濾過に対する処置として報告された手技である11).この経結膜的強膜縫合は,房水漏出部に行うことによって瘻孔部にかかる圧力を減弱させ修復を促すことができるため,線維柱帯切除術後晩期に房水漏出をきたした症例に対しても有効である可能性があるが,これまで報告されて〔別刷請求先〕有本剛:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室Reprintrequests:GoArimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishi-Shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(107)107 はいない.今回,線維柱帯切除術後の晩期房水漏出に対して経結膜的強膜縫合を行い,有効性と安全性を検討したので報告する.I対象および方法マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後,無血管性濾過胞からの房水漏出が原因で6mmHg以下の低眼圧をきたし,経結膜的強膜縫合を施行した6例6眼について診療録をもとに後ろ向きに調査した.対象の背景を表1に示す.縫合前眼圧は3.5±2.3mmHg(平均±標準偏差)で,症例2では脈絡膜.離を,その他の症例では低眼圧黄斑症を認めたが,角膜内皮と虹彩が接触するほどの浅前房をきたしていた症例はなかった.また,線維柱帯切除術での結膜弁作製方法は症例2のみ輪部基底結膜弁で,他の症例は円蓋部基底結膜弁であった.なお,いずれの症例も経結膜的強膜縫合前に房水漏出に対する処置は行われていなかった.無血管性濾過胞は細隙灯顕微鏡による観察で表面が白色調に透き通り湿潤で,血管が観察されない濾過胞と定義した.また,房水漏出は細隙灯顕微鏡の青色光による観察で判定し,湿ったフルオレセイン試験紙を濾過胞壁に静かに接触させ,濾過胞を圧迫しなくても漏出点から自然に房水が漏出する場合を陽性とした.経結膜的強膜縫合は以下のような方法で行った.リドカイン点眼液(キシロカインR点眼液4%,アストラゼネカ)による点眼麻酔後,クロルヘキシジングルコン酸塩(ステリクロンRW液0.05,健栄製薬)による消毒を行い,バラッケ氏開瞼器で開瞼を行った.続いて細隙灯顕微鏡で観察しながら滅菌綿棒で濾過胞を圧迫し濾過胞丈を減少させ,ただちに10-0ナイロン丸針(10-0針付縫合糸ナイロンブラック・モノ,品番1475,マニー)を用いて房水漏出部位を結膜上から強膜に達するまで通糸,結紮した(図1).その後,房水漏出が持続あるいは再発した場合には経結膜的強膜縫合を追加し,濾過胞の限局化が強い症例に対してはニードリングを行って濾過胞境界の癒着組織を切開し濾過胞内圧の減圧を試みた.縫合後はレボフロキサシン点眼薬(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬)とベタメタゾン酸エステルナトリウム液(リンデロンR点眼・点耳・点鼻液0.1%,塩野義製薬)の点眼を1日4回行い,適宜漸減した.経結膜的強膜縫合を行った翌日と,縫合後1カ月間は1週間ごとに,その後は1カ月ごとの診療記録を調査した.II結果各症例の縫合後の経過を示す(表2).初回の経結膜的強膜縫合後1カ月まで追加処置を行った症例はなく,縫合1週間後の眼圧は9.2±5.8mmHg,1カ月後は7.8±6.2mmHgであった(平均±標準偏差).症例1は経結膜的強膜縫合後,房水漏出は消失したが縫合後6.12カ月の間に眼圧が高度に上昇したため眼圧下降目的のニードリングを計6回施行し,その後は最終観察時まで眼圧調整は良好であった.症例2は,1回目の経結膜的強膜縫合で一度房水漏出は消失したものの,縫合21カ月後に再度房水漏出をきたして低眼圧となったため経結膜的強膜縫合を追加し,その後は最終受診時まで房水漏出の再発はみられなかった.症例3は,初回の経結膜的強膜縫合直後は房水漏出が消失したものの経過とともに再発を繰り返し,縫合1週後に経結膜的強膜縫合を1回と,縫合1.6カ月の間に濾過胞内圧の減圧を目的としたニードリングを計3回追加した.その結果,最終的に房水漏出が消失しなかったため縫合後12カ月で結膜前方移動術を行った.症例4は経結膜的強膜縫合後も房水漏出が消失せず,縫合後2カ月で結膜前方移動術を,15カ月で水晶体再建術を行った.症例5は,縫合後1カ月で濾過胞内圧の減圧目的のニードリングを1回施行したが房水漏出が持続したため,縫合2カ月後に観血的手術を追加した.手術術式は,限局化した濾過胞の濾過胞境界に増殖した結合組織を切開する目的で,濾過胞再建用ナイフ(BlebknifeIIR,カイインダストリ表1対象の背景症例年齢性別左右病型*緑内障手術以外の手術既往期間縫合時眼圧線維柱帯切除術.房水漏出房水漏出.経結膜的強膜縫合178歳女性左SG水晶体再建術全層角膜移植4年0カ月1カ月0mmHg284歳男性右POAG水晶体再建術30年0カ月1カ月6mmHg362歳男性左POAG水晶体再建術1年3カ月1カ月5mmHg465歳女性右POAGなし5年3カ月1カ月2mmHg570歳男性左NVG水晶体再建術硝子体切除術1年7カ月3カ月3mmHg666歳男性右SG水晶体再建術5年0カ月2カ月5mmHg病型*SG:ぶどう膜炎に伴う続発緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,NVG:血管新生緑内障.108あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(108) abcd図1房水漏出を伴う無血管性濾過胞に対する経結膜的強膜縫合例a:縫合前,b:房水漏出を認める,c:縫合直後,d:最終観察時(ニードリングならびに経結膜的強膜縫合追加後).表2縫合後の経過症例縫合1週後眼圧縫合1カ月後眼圧縫合後追加処置(回数)房水漏出の転機追加した観血的手術経過観察期間19mmHg8mmHgニードリング*(6)消失なし21カ月‡220mmHg19mmHg経結膜的強膜縫合(1)消失なし24カ月‡39mmHg10mmHgニードリング†(3)経結膜的強膜縫合(1)持続濾過胞前方移動術12カ月¶48mmHg5mmHgなし持続濾過胞前方移動術水晶体再建術2カ月¶53mmHg3mmHgニードリング†(1)持続ブレブナイフによる濾過胞再建術2カ月¶66mmHg2mmHgニードリング†(1)持続緑内障チューブシャント手術5カ月¶*:高度眼圧上昇に対するニードリング,†:濾過胞内圧の減圧目的のニードリング,‡:縫合から最終経過観察期間,¶:縫合から観血的手術追加までの期間.ーズ)を用いた濾過胞再建術とした.症例6も縫合後1カ月能を消失させたうえで,他部位に緑内障フィルトレーションで濾過胞内圧の減圧目的のニードリングを1回施行したが房デバイス(アルコンエクスプレスR,日本アルコン)による水漏出が改善せず,縫合5カ月後に観血的手術を行った.本緑内障チューブシャント手術を行った.症例は無血管性濾過胞が広範囲で結膜前方移動術の施術が困このように,経結膜的強膜縫合後,症例4を除く6眼中5難だったため,経結膜的強膜縫合により元の濾過胞の濾過機眼には追加処置が必要となり,その結果,房水漏出は6眼中(109)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013109 2眼(症例1,症例2)で消失し,房水漏出が消失した症例の最終観察時眼圧ならびに経過観察期間はそれぞれ3mmHgと14mmHg,21カ月と24カ月で,低眼圧黄斑症や脈絡膜.離は認めなかった.なお,全経過を通じて処置に伴う結膜損傷や濾過胞関連感染症をきたした症例はなかった.III考按マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後晩期に無血管性濾過胞からの房水漏出が原因で低眼圧をきたした6例6眼に対して経結膜的強膜縫合を行った結果,経結膜的強膜縫合の追加やニードリングなどの処置の併用は要したものの,2眼では房水漏出が消失し観血的手術の追加を回避することができた.房水漏出に対する低侵襲な処置として,血清点眼8)やコンタクトレンズ装用9),濾過胞内自己血注入10)などが行われることがあるが,確実に房水漏出を改善させることは困難なことが少なくない.血清点眼についてはMatsuoら8)が,代謝拮抗薬併用線維柱帯切除術後晩期にoozingあるいはpointleakをきたした症例に対する有効性を検討しているが,血清点眼を1日4回12週間使用した結果,oozingは63%で消失したのに対し,pointleakの消失率は27%に留まったとし,中等度以上の房水漏出を有する症例に対する血清点眼の効果の限界が示唆される.また,コンタクトレンズ装用についてはBlokら9)が直径20.5mmの大型コンタクトレンズ装用による房水漏出消失率は8割と比較的良好な結果を示しているが,一方でBurnsteinら6)は,コンタクトレンズ装用をはじめとする非侵襲的な治療よりも結膜前方移動術を行ったほうが持続する房水漏出や濾過胞関連感染症の予防には優れていると報告しており,評価が一定していない.さらに,濾過胞内自己血注入についてはBurnsteinら10)が,注入後5カ月での房水漏出消失率は28%であったとしている.いずれにしても,これらの侵襲の小さい処置は,房水漏出を改善させるには確実性に乏しい方法であることがうかがえる.一方,房水漏出を伴う無血管性濾過胞に対する観血的手術に関しては,菲薄化し脆弱化した結膜を切除し,その結果生じた結膜欠損部位を他の組織で被覆する手術が行われており,これまで遊離結膜弁移植術5),結膜前方移動術6),羊膜移植術7)などが報告されている.これらの報告の成績をまとめると,各術式により50.80%の症例は術後数年間の眼圧調整は良好で,かつ房水漏出なく経過するとされているが,同一部位への再手術は侵襲が大きく,手術操作も煩雑になるため施術には熟練を要する.また,羊膜は医療材料として使用できる施設が限られるという難点もある.今回行った経結膜的強膜縫合は,追加処置の併用は必要な場合もあるが,1/3の症例で房水漏出に対する改善効果があ110あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013った.経結膜的強膜縫合は,房水漏出部にかかる圧力を低下させることで瘻孔部の修復を促す処置であるのに対し,コンタクトレンズ装用や血清点眼,濾過胞内自己血注入の効果は脆弱化した濾過胞壁の補強のみが期待される処置である.このことから経結膜的強膜縫合は,コンタクトレンズ装用や血清点眼,濾過胞内自己血注入より房水漏出改善の確実性が高い可能性がある.今回の対象のうち,4眼については経結膜的強膜縫合による房水漏出の改善はみられなかった.線維柱帯切除術後の無血管性濾過胞は,濾過胞境界の結合組織の増殖に伴って濾過胞の限局化が生じ,濾過胞内圧が上昇して濾過胞壁が菲薄化し,それに代謝拮抗薬の影響も加わった結果生じると考えられる.この無血管性濾過胞の形成機序を考えると,経結膜的強膜縫合は一時的に瘻孔部にかかる圧力を低下させるものの,濾過胞の限局化が高度な症例では濾過胞内圧がかえって上昇し,結果的には結膜菲薄部位に再度圧力がかかるため,瘻孔部の閉鎖が得られにくくなる.今回は初回の経結膜的強膜縫合を単独で行ったが,今後は縫合時にニードリングや濾過胞再建用ナイフを使用した濾過胞再建術を併用することにより成績が向上するか検証を行いたいと考えている.本研究は少数例を対象とした後ろ向き調査であり,症例の背景や経結膜的強膜縫合に併用した処置も一定していない.また,晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の有効性を検証するには,他の対処方法との比較を行う必要がある.しかし,今回の結果から経結膜的強膜縫合により観血的手術の追加が回避できる症例があり,線維柱帯切除術後晩期に房水漏出をきたした症例に対して侵襲の大きな追加手術を行う前に試みる価値のある処置と考えられた.今後症例数を重ね,他の処置との比較を行って晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の有効性についてさらに検討したい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MatsuoH,TomidokoroA,SuzukiYetal:Late-onsettransconjunctivaloozingandpointleakofaqueoushumorfromfilteringblebaftertrabeculectomy.AmJOphthalmol133:456-462,20022)WilenskyJ:Lateblebleaks.In:ShaarawyTMetal(eds):GlaucomaSurgicalManagement2,p243-246,Elsevier,20093)GreenfieldDS,LiebmannJM,JeeJetal:Late-onsetblebleaksafterglaucomafilteringsurgery.ArchOphthalmol116:443-447,19984)MochizukiK,JikiharaS,AndoYetal:IncidenceofdelayedonsetinfectionaftertrabeculectomywithadjunctivemitimycinCor5-fluorouraciltreatment.BrJOph(110) 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