《原著》あたらしい眼科39(10):1417.1420,2022c緑内障眼に対する白内障手術併用AbInternoTrabeculotomyの手術成績石部智也*1八坂裕太*1,2久保田敏昭*1*1大分大学医学部眼科学教室*2九州大学大学院医学研究院眼科学教室SurgicalOutcomesofAb-InternoTrabeculotomyCombinedwithCataractSurgeryforGlaucomaTomoyaIshibe1),YutaYasaka1,2)andToshiakiKubota1)1)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine白内障手術併用abinternotrabeculotomyの術後短期成績について報告する.対象は2018.2021年に大分大学医学部附属病院眼科にて白内障手術と併施してマイクロフックを用いて線維柱帯切開術を施行した26例37眼.年齢は47.89歳(平均73.7歳),術前眼圧は8.25mmHg(平均14.1mmHg),術後観察期間は6.21カ月(平均7.7カ月)であった.病型は原発開放隅角緑内障14例18眼,落屑緑内障10例16眼,続発開放隅角緑内障2例3眼であった.術後3カ月で13.5±3.7mmHg,術後12カ月の眼圧は13.3±3.4mmHgと術前と比較して有意な変化はみられなかったが,薬剤スコアが術前2.6±1.3点から術後3カ月で0.4±0.7点,術後12カ月で0.9±1.4点とぞれぞれ有意に減少した.眼圧のコントロール不良により追加手術が必要となった症例は存在せず,また術後感染症や低眼圧をきたした症例もみられなかった.術後黄斑浮腫が1例にみられたが,その他白内障手術に関連した合併症はみられなかった.白内障手術併用abinternotrabeculotomyは良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させる.緑内障眼に対して,白内障併用abinternotrabeculotomyは良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させるのに有用であった.Purpose:Toreporttheshort-termsurgicaloutcomesofab-internotrabeculotomy(TLO)combinedwithcat-aractsurgeryforglaucoma.PatientsandMethods:Thisstudyinvolved37eyesof26glaucomapatients[meanage:73.7years(range:47.89years)]whounderwentmicrohookab-internoTLOcombinedwithcataractsur-geryattheDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityHospital,Oita,JapanfromDecember2018toJune2021.Themeanfollow-upperiodwas7.7months(range:6.21months).Results:Meanintraocularpressure(IOP)priortosurgerywas14.7mmHg(range:8.25mmHg),whilethatat3-and12-monthspostoperativewas13.5±3.7mmHgand13.3±3.7mmHg,respectively.Themedicationscoredecreasedfrom2.6±1.3priortosurgeryto0.4±0.7and0.9±1.4,respectively,at3-and12-monthspostoperatively(p<0.01).Nopatientrequiredanadditionaloperation,andnohypotonyorpostoperativeinfectionwasobserved.Therewerenocomplicationsassociatedwithcataractsurgery,except1caseinwhichpostoperativemaculaedemaoccurred.Conclusion:Inglaucomapatients,ab-internoTLOtrabeculotomycombinedwithcataractsurgerycanreducethemedicationscorewithgoodIOPcontrol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(10):1417.1420,2022〕Keywords:線維柱帯切開術,白内障手術,手術成績.trabeculotomy,cataractsurgery,surgicaloutcomes.はじめにり,おもに眼球外からアプローチする眼外法(abexterno)緑内障眼に対する線維柱帯切開術(trabeculotomy)は線維と眼内からアプローチする眼内法(abinterno)が存在する.柱帯を切開することで生理的房水流出を再建する術式であ近年低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasur-〔別刷請求先〕久保田敏昭:〒879-5593大分県由布市挟間町医大ケ丘1-1大分大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToshiakiKubota,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama-machi,Yufu,Oita879-5593,JAPANgery:MIGS)とよばれる低侵襲な緑内障手術が開発され,角膜の小切開創から施行でき,重篤な術後合併症が非常に少ない手術法として注目を浴びている.2016年に谷戸らが報告したマイクロフックを用いた線維柱帯切開術は簡便な手術器具によって短時間のうちに行える新たなabinternotra-beculotomyであり,眼圧下降効果も従来のabexternotra-beculotomyと遜色ないことが報告されている1.3).今回筆者らは,大分大学医学部付属病院眼科(以下,当院)で施行した白内障手術併用のマイクロフックを用いたabinternotra-beculotomy(以下μLOT)の短期手術成績について報告する.I対象および方法対象は2018年12月.2021年6月に当院で白内障手術と表1患者背景症例数37眼/26例年齢,歳平均±標準誤差(レンジ)73.7±10.5(47.89)歳性別男性女性16眼/13例21眼/13例病型原発開放隅角緑内障落屑緑内障続発緑内障18眼16眼3眼logMAR視力平均±標準誤差(レンジ)0.34±0.35(0.1.7)眼圧平均±標準誤差(レンジ)14.1±4.3(8.32)mmHg屈折値平均±標準誤差(レンジ).3.6±6.92(.25.2)D内皮細胞数平均±標準誤差(レンジ)2,496±281(1,934.3,114)個/mm2MD値平均±標準誤差(レンジ).10.6±8.71(.30.3.0.01)dB併用して谷戸氏abinternoトラベクロトミーマイクロフック(以下,谷戸氏フック)(M-2215S,イナミ)を用いてtra-beculotomyを施行した26例37眼である.性別は男性13人16眼,女性13人21眼であった.平均年齢は73.7±10.5歳(47.89歳),平均観察期間は7.7±4.2カ月(6.21カ月)であった.病型は原発開放隅角緑内障14例17眼,落屑緑内障10例16眼,続発開放隅角(ステロイド)緑内障2例3眼であった(表1).全例白内障手術との併用手術であり,耳側からのアプローチで白内障手術を施行し,眼内レンズを挿入後に角膜サイドポートから直の谷戸氏フックを挿入し,隅角プリスムでの観察下に鼻側の線維柱帯を約120°切開した.術前後の眼圧値,薬剤スコア,視力,屈折誤差,角膜内皮細胞数について比較検討,術後合併症についても検討した.薬剤スコアは緑内障点眼薬を1点,配合剤点眼薬を2点,アセタゾラミド内服を2点とした.緑内障点眼薬は術後に原則的にすべて中止とし,術後の眼圧に応じて適宜点眼,内服薬を再開した.眼圧値と薬剤スコアはDunnett法を用いて統計学的検討を行い,有意水準5%未満を有意差ありとした.II結果術前と術後の眼圧値,薬剤スコア,視力について示す(図1~3).術前の眼圧値は14.7±5.2mmHg(8.32mmHg),術後の眼圧値は術後1週間で17.5±9.0mmHg(7.4328n=37logMAR視力眼圧(mmHg)24201612840術前124132652(週)図1術前後の眼圧経過術前と比較してすべての時点で有意差を認めなかった.3.50.83.00.62.5薬剤スコア(点)0.42.01.51.00.20術前124132652(週)-0.2術前42652(週)図2術前後の点眼スコア経過図3術前後の視力経過術前と比較して各時点で有意な減少を認めた(p<0.01).術後早期より有意な改善を認めた(p<0.01).mmHg),術後2週間で15.0±4.8mmHg(7.29mmHg),術後1カ月で12.6±3.0mmHg(7.19mmHg),術後3カ月で13.5±3.7mmHg(7.22mmHg),術後6カ月で12.6±3.6mmHg(7.20mmHg),術後12カ月で13.3±3.4mmHg(9.21mmHg)であった.術前と比較してすべての時点で有意差を認めなかった.薬剤スコアは術前が2.6±1.3点(0.5点),術後1週間で0.5±0.9点(0.3点),術後2週間で0.5±0.9点(0.3点),術後1カ月で0.4±0.7点(0.2点),術後3カ月で0.4±0.7点(0.3点),術後6カ月で0.5±0.8点(0.4点),術後12カ月で0.9±1.4点(0.4点)であった.薬剤スコアは術前と比較して各時点で有意に減少した(p<0.01).視力は平均logMAR視力にて術前0.35±0.35(0.+1.70),術後1カ月で0.04±0.14(.0.08.+0.40),術後6カ月で0.01±0.11(.0.20.+0.10),術後12カ月で.0.02±0.09(.0.20.+0.10)と術前と比較して有意に改善した(p<0.01).(1,934角膜内皮細胞数は術前2,496±281個/mm2.3,114個/mm2),術後1.3カ月で2,499±269個/mm2(1,669.3,073個/mm2).術後1.3カ月での角膜内皮細胞数は0.4±9.0%で術前とほぼ変化はなかった.術後3カ月における平均屈折誤差は.0.09±0.54D(.1.25.+0.75D)で,73%(27眼)が目標屈折の±0.5D以内,97%(36眼)が±1.0D以内の誤差であった.術後合併症を表2に示す.線維柱帯を切開した際に認める逆流性出血は92%(34眼)にみられた.術後1日目にニーボーを形成する前房出血は27%(10眼)にみられたが,いずれも1週間以内に吸収された.一過性眼圧上昇(術後1週間以内で一過性に眼圧30mmHg以上)は16%(6眼)にみられた.遷延性の眼圧上昇(術後3カ月以降で眼圧21mmHg以上)は8.1%(3眼)にみられ,緑内障点眼再開により眼圧下降している.眼圧のコントロール不良により線維柱帯切除術などの追加手術が必要となった症例は存在しなかった.また,術後感染症や5mmHg以下の術後低眼圧をきたした症例はみられなかった.角膜上皮障害が5.4%(2眼)にみられたが,いずれも点眼加療にて3日以内に軽快した.また,黄斑浮腫が2.7%(1眼)にみられたが,点眼加療により増悪なく経過している.III考按従来,緑内障に対する観血的治療は線維柱帯切除術および眼外から行う線維柱帯切開術が主であったが,2011年にわが国で認可されたTrabectomeを皮切りにiStent,KahookDualBladeなど,低侵襲の緑内障手術を可能とするさまざまなデバイスが登場してきた.欧米では成人の開放隅角緑内障に対する標準術式は線維柱帯切除術とされているが,このようなデバイスを用いた線維柱帯切開術も行われるようになっている1).利点として,結膜を温存することができるため,表2術後合併症逆流性出血34眼(92%)術後1日目にニボー形成する前房出血10眼(27%)一過性眼圧上昇(術後1週間以内で一過性に眼圧30mmHg以上)6眼(16%)遷延性の眼圧上昇(術後3カ月以降で眼圧21mmHg以上)3眼(8.1%)角膜上皮障害2眼(5.4%)黄斑浮腫1眼(2.7%)術後に眼圧のコントロールが困難となった場合でも追加で線維柱帯切除術やインプラント手術を行うことができる.谷戸氏フックはそれらのデバイスと同様に角膜小切開創から施行でき,手術時間も短時間で行うことができる.また,比較的安価な手術器具によって手術を行うことができることは他のデバイスと比較して秀でている点である2,3).谷戸氏フックの登場からまだ年月が浅いことや海外では一般的でないこともあるが,μLOTの手術成績に関する報告はあまり多くない.既報では2017年に谷戸らがμLOT単独手術で術前眼圧25.9±14.3mmHgおよび薬剤スコア3.3±1.0が,188.6±68.8日の平均観察期間で14.7±3.6mmHgおよび2.8±0.8に,白内障手術併用のμLOTで術前眼圧16.4±2.9mmHgおよび薬剤スコア2.4±1.2が,術後9.5カ月で11.8±4.5mmHgおよび2.1±1.0に低下したと報告している1).当院における手術では術後にすべての緑内障点眼薬を中止し,その後の経過観察中に必要に応じて点眼薬を再開しており一概に比較ができないが,術前の眼圧をほぼ維持しながら薬剤スコアを顕著に減少させており非常に良好な手術成績を得られていると思われる.術後になんらかの合併症を認めた頻度は30%(37眼中11眼)と既報3.6)より低めであった.低眼圧,感染症などの重篤な合併症は過去の報告も当院でも存在しなかった.筆者らは白内障手術を併用したμLOTを行い良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させることができた.緑内障眼に対して白内障手術を行う際,点眼加療でコントロールできている症例に対しμLOTは点眼を減らすために有用と思われる.今回の報告は観察期間が短期間かつ症例が少数であり,今後はさらなる長期的かつ多数例での観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TanitoM,SanoI,IkedaYetal:Short-termresultsofmicrohookabinternotrabeculotomy,anovelminimallyinvasiveglaucomasurgeryinJapaneseeyes:initialcaseseries.ActaOphthalmol95:e354-e360,20172)TanitoM,SanoI,IkedaYetal:Microhookabinternotrabeculotomy,anovelminimallyinvasiveglaucomasur-gery,ineyeswithopen-angleglaucomawithscleralthin-ning.ActaOphthalmol94:e371-e372,20163)TanitoM,IkedaY,FujiharaEetal:E.ectivenessandsafetyofcombinedcataractsurgeryandmicrohookabinternotrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmol61:457-464,20174)EsfandiariH,ShahP,TorkianPetal:Five-yearclinicaloutcomesofcombinedphacoemulsi.cationandtrabectomesurgeryatasingleglaucomacenter.GraefesArchClinExpOphthalmol257:357-362,20195)MoriS,MuraiY,UedaKetal:Acomparisonofthe1-yearsurgicaloutcomesofabexternotrabeculotomyandmicrohookabinternotrabeculotomyusingpropensityscoreanalysis.BMJOpenOphthalmol5:e000446,20206)石田暁,庄司信行,森田哲也ほか:TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の短期成績.あたらしい眼科30:265-268,2013***