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抗アレルギー薬によるマスト細胞からのメディエーター 遊離抑制効果の比較

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(103)103《原著》あたらしい眼科29(1):103?108,2012cはじめにスギ花粉症をはじめとする季節性アレルギー性結膜炎では,アレルギー反応の即時相を抑えることが重要である.初期療法はヒスタミン,ロイコトリエン(LT)といったアレルギー反応の主要なメディエーターの遊離を抑制する抗アレルギー点眼液を花粉飛散時期の2週間前から点眼することにより,飛散期におけるマスト細胞の脱顆粒を抑制し,痒みをはじめとする自覚症状を軽減できる治療法である1?4).近年,メディエーター遊離抑制作用を併せ持つヒスタミンH1受容体拮抗点眼液を使用した初期療法も効果的であると報告されている5).初期療法に関して,メディエーター遊離抑制点眼液またはメディエーター遊離抑制作用を併せ持つヒスタミンH1受容体拮抗点眼液のいずれがより効果的であるのか,同一試験下で比較検討した報告はない.本研究では,現在市販されている抗アレルギー点眼液の主薬を使用して,invitroにおける同一試験下でのメディエーター遊離抑制効〔別刷請求先〕福島敦樹:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮高知大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AtsukiFukushima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KochiMedicalSchool,Kohasu,Oko-cho,Nankoku-city,Kochi783-8505,JAPAN抗アレルギー薬によるマスト細胞からのメディエーター遊離抑制効果の比較角環*1山田美絵*2高橋佑次*2今井俊佑*2葛西洋芳*2石田わか*1福島敦樹*1*1高知大学医学部眼科学教室*2わかもと製薬株式会社相模研究所ComparisonofInhibitoryEffectsofAnti-AllergicDrugsonMastCellReleaseofMediatorsTamakiSumi1),MieYamada2),YujiTakahashi2),ShunsukeImai2),HiroyoshiKasai2),WakaIshida1)andAtsukiFukushima1)1)DepartmentofOphthalmology,KochiMedicalSchool,2)SagamiResearchLaboratory,WakamotoPharm.Co.,Ltd.目的:抗アレルギー薬のマスト細胞からのメディエーター遊離抑制効果を比較すること.方法:ラット腹腔滲出細胞,モルモット肺切片およびマウス骨髄由来マスト細胞にcompound48/80または抗原で刺激を加え,遊離メディエーター量(ヒスタミン・ロイコトリエン)を測定した.抗アレルギー点眼液の主薬(アシタザノラスト水和物,クロモグリク酸ナトリウム,トラニラスト,オロパタジン塩酸塩およびレボカバスチン塩酸塩)を添加し,メディエーター遊離抑制能を比較した.結果:アシタザノラスト水和物とクロモグリク酸ナトリウムはヒスタミン遊離を有意に抑制した.アシタザノラスト水和物,トラニラストとオロパタジン塩酸塩はロイコトリエンの遊離を有意に抑制した.結論:アシタザノラスト水和物は優れたメディエーター遊離抑制能を有することが明らかとなった.Purpose:Tocomparetheinhibitoryeffectsofanti-allergicdrugsonmastcellsreleaseofmediators.Method:Ratperitonealexudatecells,guineapiglungfragmentsandmousebonemarrow-derivedmastcellswerestimulatedwithcompound48/80orantigenandtheamountsofreleasedmediators(histamineandleukotrienes)weremeasured.Majorcomponentsofanti-allergicdrugs(acitazanolasthydrate,sodiumcromoglycate,tranilast,olopatadinehydrochlorideandlevocabastinehydrochloride)wereaddedtotheincubationtoevaluatetheinhibitoryeffectsofthesemoleculesonmediatorrelease.Result:Acitazanolasthydrateandsodiumcromoglycatesignificantlyinhibitedthereleaseofhistamine.Acitazanolasthydrate,tranilastandolopatadinehydrochloridesignificantlyinhibitedthereleaseofleukotrienes.Conclusion:Itappearsthatacitazanolasthydrateissuperiortoothertesteddrugsintermsofinhibitingmediatorrelease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):103?108,2012〕Keywords:抗アレルギー薬,初期療法,メディエーター遊離抑制薬,ヒスタミンH1受容体拮抗薬.anti-allergicdrug,preventivetherapy,mediatorreleaseinhibitor,histamineH1-receptorantagonist.104あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(104)果を比較検討することを目的とした.I実験材料および実験方法1.実験動物実験にはSD(Sprague-Dawley)系雄性ラット(日本チャールス・リバー株式会社),Hartley系雄性モルモット(株式会社日本医科学動物資材研究所)およびBDF1(C57BL/6とDBA/2のF1)系雄性マウス(日本エスエルシー株式会社)を使用した.動物は,温度23±3℃,湿度50±20%(わかもと製薬株式会社)または温度23±3℃,湿度55±5%(高知大学医学部)に設定した動物室で飼育し,飼料および飲料水は自由に摂取させた.なお,動物実験は,「ARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)ガイドライン」,「高知大学動物倫理規定」または「わかもと製薬における動物を用いる試験の実施指針」に基づき実施した.2.使用薬物実験には抗アレルギー薬として,メディエーター遊離抑制作用のみをもつアシタザノラスト水和物(わかもと製薬株式会社),クロモグリク酸ナトリウム(東進ケミカル株式会社),トラニラスト(和光純薬工業株式会社),ヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の両者をもつオロパタジン塩酸塩(和光純薬工業株式会社),ヒスタミンH1受容体拮抗作用のみをもつレボカバスチン塩酸塩(和光純薬工業株式会社)を用いた.5-リポキシゲナーゼ阻害薬としてザイリュートン(Sigma-Aldrich社)を使用した.いずれもジメチルスルホキシド(DMSO)で一旦溶解後,10mMHEPES-Tyrode液(pH7.4)で希釈し1,10および100μg/mL(最終濃度)で使用した.なお,DMSO濃度は0.2%以下(最終濃度)に調製した.実験に使用した試薬は,compound48/80(Sigma-Aldrich社)および卵白アルブミン(ovalbumin:OA,Sigma-Aldrich社)であり,それぞれ生理食塩液で溶解し1および10μg/mL(最終濃度)で使用した.また,マウス骨髄液採取には,RPMI(RosewellParkMemorialInstitute)Glutamax(Invitrogen社)に非働化させたウシ胎児血清(最終濃度10%,CellCultureTechnologies社),ピルビン酸ナトリウム(最終濃度1mM,Sigma-Aldrich社),非必須アミノ酸(最終濃度0.1mM,Sigma-Aldrich社)を添加した培養液を使用し,細胞継代には培養液に2-メルカプトエタノール(最終濃度50μM,Sigma-Aldrich社),リコンビナントマウスinterleukin-3(最終濃度10ng/mL,Peprotech社)およびリコンビナントマウス幹細胞因子(最終濃度50ng/mL,Peprotech社),ペニシリン-ストレプトマイシン(最終濃度100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン,Invitrogen社)を添加した培養液を使用した.3.実験方法a.ラット腹腔滲出細胞(PEC)からのヒスタミン遊離に対する各抗アレルギー薬の効果ペントバルビタールナトリウム溶液にて全身麻酔を施したラットを,頸動脈より放血致死させた.ラットの腹腔内にTyrode液を10mL投与し,腹部をマッサージ後,開腹し,PECを回収した.さらに2?3回同様な操作を繰り返した.得られたPECは10mMHEPES-Tyrode液(pH7.4)で懸濁した後,0.05%トルイジンブルー染色でマスト細胞を計数後,5×104個/tubeとなるように分注し,37℃でインキュベートした.5分後,各抗アレルギー薬(最終濃度1,10および100μg/mL)およびcompound48/80(最終濃度1μg/mL)を同時添加し,さらに37℃でインキュベートした.15分後,氷冷した10mMHEPES-Tyrode液(pH7.4)を加え反応を停止させた.4℃で10分間,1,200rpmにて遠心分離して得た上清中のヒスタミン濃度を,蛍光法(励起波長/蛍光波長:360/450nm)にて測定した.各抗アレルギー薬のヒスタミン遊離に対する効果を,ヒスタミン遊離率により比較した.ヒスタミン遊離率は,各群の上清中ヒスタミン濃度を煮沸により細胞を破壊したときに放出された上清中ヒスタミン濃度で除し,百分率で表した.b.モルモット肺切片からのLT遊離に対する各抗アレルギー薬の効果モルモットに抗OAモルモットIg(免疫グロブリン)E血清(受身皮膚アナフィラキシー,力価256倍)1mLを静脈内投与し受動感作した.48時間後にペントバルビタールナトリウム溶液にて全身麻酔を施し,放血致死させ,開胸し肺動脈よりTyrode液を灌流した.肺を摘出して気管を除去した後,ハサミで細切し,肺切片を作製した.続いて,この肺切片を大量のTyrode液で洗浄した後,濾紙で余分な水分を除去した.肺切片浮遊液は,湿重量で0.1g/tube10mMHEPES-Tyrode液(pH7.4)になるよう分注し,37℃でインキュベートした.5分後,各抗アレルギー薬(最終濃度1,10および100μg/mL)を加えさらに5分間インキュベートし,OA(最終濃度10μg/mL)を添加した.15分後,氷冷したメタノールを加え反応を停止後,4℃で10分間,3,000rpmにて遠心分離して得た上清中のLTB4およびCysteinyl(Cys)-LTs濃度をそれぞれenzymeimmunoassay(EIA)Kit(Cayman社およびAssayDesigns社)を使用して測定した.c.マウス骨髄由来マスト細胞(BMMC)からのLT遊離に対する各抗アレルギー薬の効果マウスを頸椎脱臼後,大腿骨を摘出した.無菌的に大腿骨両側骨端部を切断し,断端から注射針で培養液を注入し,骨髄液を採取後,骨髄細胞を分離した.採取した骨髄細胞はCO2インキュベーター(37℃,5%CO2)で継代培養して(105)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012105BMMCに分化させた.骨髄液採取から10週間以上経過したBMMCに抗OAラットIgE血清(受身皮膚アナフィラキシー,力価256倍)を培養液の10分の1量加え一晩受動感作させた.感作させたBMMCを10mMHEPES-Tyrode液(pH7.4)で懸濁した後,0.05%トルイジンブルー染色でマスト細胞を計数後,1×105個/tubeとなるよう分注し,37℃でインキュベートした.5分後,各抗アレルギー薬(最終濃度1,10および100μg/mL)を加えさらに5分間インキュベートし,OA(最終濃度10μg/mL)を添加した.15分後,氷冷したメタノールを加え反応を停止させた.4℃で10分間,1,200rpmにて遠心分離して得た上清中のLTB4およびCys-LTs濃度をそれぞれEIAKit(Cayman社およびAssayDesigns社)を用いて測定した.4.統計処理実験結果はすべて平均値±標準誤差で示した.無処置群と対照群との2群間においてF検定を行い,いずれの試験においても不等分散であったので,Aspin-Welchのt検定を行った.対照群と抗アレルギー薬群の4群間において各々Bartlett検定を行い,等分散であればDunnett検定,不等分散であればノンパラメトリックなDunnett検定を行った.いずれの検定も有意水準5%および1%で実施し,検定統計量が有意水準5%における棄却限界値以上である場合を有意とした.II実験結果1.ラットPECからのヒスタミン遊離に対する各抗アレルギー薬の効果ラットPECをcompound48/80で刺激することにより,無刺激群と比較して有意なヒスタミン遊離が認められた.これに対し,アシタザノラスト水和物は10および100μg/mL,クロモグリク酸ナトリウムは100μg/mLの濃度で有意なヒスタミン遊離抑制効果を示した(図1).一方,トラニラスト,オロパタジン塩酸塩およびレボカバスチン塩酸塩はヒスタミン遊離に対して抑制効果を示さなかった(図1).2.モルモット肺切片からのLT遊離に対する各抗アレルギー薬の効果抗OAモルモットIgE血清で受動感作したモルモットから摘出した肺切片を,OAで刺激することにより無刺激群と比較して有意なLTB4およびCys-LTs遊離が認められた(図2,3).これに対し,アシタザノラスト水和物およびザイリュートンは,いずれのLT遊離に対しても有意な抑制効果を示した(図2,3).一方,アシタザノラスト水和物以外の抗アレルギー薬はいずれのLT遊離に対しても抑制効果を示さなかった(図2,3).3.マウスBMMCからのLT遊離に対する各抗アレルギー薬の効果抗OAIgEラット血清で受動感作したBMMCを,OAで刺激することにより無刺激群と比較して有意なLTB4およびCys-LTs遊離が認められた(図4,5).これに対し,アシタザノラスト水和物およびザイリュートンは,いずれのLT遊806040200対照Compound48/80(1μg/mL)無刺激110100110100110100110100110100(μg/mL)ヒスタミン遊離率(%)アシタザノラストトラニラスト水和物レボカバスチン塩酸塩オロパタジン塩酸塩クロモグリク酸ナトリウム##******図1ラット腹腔滲出細胞からのヒスタミン遊離に対する各抗アレルギー薬の効果各カラムは5例の平均値±標準誤差で表示.##:p<0.01,無刺激群との統計学的有意差(Aspin-Welchのt検定).**:p<0.01,対照群との統計学的有意差(Dunnett検定).106あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(106)離に対しても抑制効果を示し,アシタザノラスト水和物は100μg/mL,ザイリュートンは10および100μg/mLの濃度で有意な抑制効果を示した(図4,5).また,オロパタジン塩酸塩はLTB4に対し,トラニラストはCys-LTsに対し,いずれも100μg/mLの濃度で有意な抑制効果を示した(図4,5).一方,クロモグリク酸ナトリウムおよびレボカバスチン塩酸塩はいずれのLT遊離に対しても抑制効果を示さなかった(図4,5).III考察今回指標としたメディエーターは,ヒスタミンおよびLT(LTB4およびCys-LTs)であり,これらのメディエーターはマスト細胞から遊離される.ヒスタミンはアレルギー性結膜炎患者の多くが自覚症状を訴える痒みや充血に関与しており6),LTB4は白血球の遊走・活性化作用,Cys-LTsは好酸球遊走作用および血管透過性亢進作用を有しており7,8),そ2.52.01.51.00.50卵白アルブミン(10μg/mL)無刺激対照110100110100110100110100110100110100(μg/mL)LTB4遊離量(ng/0.1gtissue)レボカバスチンザイリュートン塩酸塩オロパタジン塩酸塩アシタザノラスト水和物クロモグリク酸ナトリウムトラニラスト##********図2モルモット肺切片からのLTB4遊離に対する各抗アレルギー薬の効果各カラムは5例の平均値±標準誤差で表示.##:p<0.01,無刺激群との統計学的有意差(Aspin-Welchのt検定).*:p<0.05,**:p<0.01,対照群との統計学的有意差(Dunnett検定).卵白アルブミン(10μg/mL)無刺激対照110100110100110100110100110100110100(μg/mL)レボカバスチンザイリュートン塩酸塩オロパタジン塩酸塩アシタザノラスト水和物クロモグリク酸ナトリウムトラニラスト8.06.04.02.00Cys-LTs遊離量(ng/0.1gtissue)****#図3モルモット肺切片からのCys?LTs遊離に対する各抗アレルギー薬の効果各カラムは5例の平均値±標準誤差で表示.#:p<0.05,無刺激群との統計学的有意差(Aspin-Welchのt検定).*:p<0.05,**:p<0.01,対照群との統計学的有意差(Dunnett検定).(107)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012107れぞれアレルギー疾患において重要な役割を果たしていると考えられる.これらのメディエーター遊離を抑制することは初期療法を含めたアレルギー性結膜炎の治療において重要であると考えられるため検討した.抗アレルギー薬のメディエーター遊離抑制効果をメディエーター遊離抑制薬の薬効評価で報告されている試験系9,10)を参考にして比較した結果,メディエーター遊離抑制薬であるアシタザノラスト水和物は,今回実施したすべての試験において抑制効果を示し,クロモグリク酸ナトリウムはラットPECからのヒスタミン遊離に対して,トラニラストはマウスBMMCからのCys-LTs遊離に対して抑制効果を示した.一方,メディエーター遊離抑制作用を併せ持つヒスタミンH1受容体拮抗薬であるオロパタジン塩酸塩はマウスBMMCからのLTB4遊離に対してのみ抑制効果を示したが,レボカ卵白アルブミン(10μg/mL)無刺激対照110100110100110100110100110100110100(μg/mL)レボカバスチンザイリュートン塩酸塩オロパタジン塩酸塩アシタザノラスト水和物クロモグリク酸ナトリウムトラニラストLTB4遊離量(pg/105cells)10008006004002000##******図4マウスBMMCからのLTB4遊離に対する各抗アレルギー薬の効果各カラムは5例の平均値±標準誤差で表示.##:p<0.01,無刺激群との統計学的有意差(Aspin-Welchのt検定).*:p<0.05,**:p<0.01,対照群との統計学的有意差(Dunnett検定).Cys-LTs遊離量(pg/105cells)5004003002001000##******卵白アルブミン(10μg/mL)無刺激対照110100110100110100110100110100110100(μg/mL)レボカバスチンザイリュートン塩酸塩オロパタジン塩酸塩アシタザノラスト水和物クロモグリク酸ナトリウムトラニラスト図5マウスBMMCからのCys?LTs遊離に対する各抗アレルギー薬の効果各カラムは4例の平均値±標準誤差で表示.##:p<0.01,無刺激群との統計学的有意差(Aspin-Welchのt検定).*:p<0.05,**:p<0.01,対照群との統計学的有意差(Dunnett検定).108あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012バスチン塩酸塩はいずれの試験においても抑制効果を示さなかった.試験系により抑制の程度は異なったが,アシタザノラスト水和物はいずれの試験系でもメディエーターの遊離を抑制したことから,他の抗アレルギー薬に比してメディエーター遊離抑制能が優れていると考えられた.アレルギー反応の最も主要なメディエーターはヒスタミンである.その遊離抑制にはさまざまなメカニズム(細胞内のカルシウム上昇抑制や膜安定化など)3,11)が考えられているが,薬物ごとの抑制メカニズムについては詳細には検討されていない.したがって,今回の抑制作用の差がどのようなメカニズムによるのかについては明らかではない.いずれの試験においても,ザイリュートンでは濃度依存的に最も強い抑制効果を認めた.ザイリュートンはすべての細胞に対しLT産生抑制作用を示す.気管支ではLTB4を産生する主要細胞は好中球であると考えられていること,またFceRIを発現している細胞はマスト細胞のみではないことが知られている.抗アレルギー薬の効果と比較し,ザイリュートンの効果が強いことから,いずれの試験系においてもマスト細胞以外の細胞が関与している可能性を念頭に置く必要がある.ただし,マスト細胞単独で評価したマウスBMMC実験系の結果とモルモット肺切片実験系の結果で同様の結果が得られたことから,いずれの実験系においてもマスト細胞に対する効果を主に評価していると考えられる.メディエーター遊離抑制作用に関して,メディエーター遊離抑制薬またはメディエーター遊離抑制作用を併せ持つヒスタミンH1受容体拮抗薬を同一試験下で比較した報告がなかったため,その効果の優劣についてはこれまでは不明であった.今回,同一試験下で比較した結果,メディエーター遊離抑制作用を併せ持つヒスタミンH1受容体拮抗薬であるオロパタジン塩酸塩やレボカバスチン塩酸塩と比較し,アシタザノラスト水和物はメディエーター遊離抑制能が高いことが確認された.今回,いずれの試験においてもメディエーター遊離抑制効果を示したアシタザノラスト水和物は優れたメディエーター遊離抑制効果を示しており,アシタザノラスト水和物を主薬とした点眼液は初期療法を含め,マスト細胞を治療ターゲットとする治療においてより効果的である可能性が考えられた.文献1)庄司純:季節性および通年性アレルギー性結膜炎の診療指針.あたらしい眼科22:725-732,20052)山岸哲哉,奥村直毅,中井孝史ほか:アシタザノラスト水和物点眼液の季節性アレルギー性結膜炎に対する季節前投与の効果.臨眼61:313-317,20073)福島敦樹:アレルギー性結膜疾患─点眼治療薬と作用機序─.あたらしい眼科22:749-753,20054)海老原伸行:抗アレルギー薬点眼の現在.あたらしい眼科27:1371-1376,20105)ShimuraM,YasudaK,MiyazawaAetal:Pre-seasonaltreatmentwithtopicalolopatadinesuppressestheclinicalsymptomsofseasonalallergicconjunctivitis.AmJOphthalmol151:697-702,20116)FukushimaY,NabeT,MizutaniNetal:Multiplecedarpollenchallengediminishesinvolvementofhistamineinallergicconjunctivi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