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インフルエンザワクチン接種後に発症した抗MOG 抗体陽性 視神経脊髄炎の1 例

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):206.213,2021cインフルエンザワクチン接種後に発症した抗MOG抗体陽性視神経脊髄炎の1例多田香織*1伴由利子*1大槻陽平*1内田真理子*1山口達之*2*1京都中部総合医療センター眼科*2京都中部総合医療センター脳神経内科ACaseofAnti-MyelinOligodendrocyteGlycoprotein(MOG)AntibodyPositiveNeuromyelitisOpticaFollowingSeasonalIn.uenzaVaccinationKaoriTada1),YurikoBan1),YoheiOtsuki1),MarikoUchida1)andTatsuyukiYamaguchi2)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,2)DepartmentofNeurology,KyotoChubuMedicalCenterC近年,抗ミエリンオリゴデンドロサイトプロテイン(MOG)抗体は,抗アクアポリンC4抗体陰性視神経脊髄炎や再発性視神経炎の一部で陽性になることが明らかとなり,注目されている.今回,インフルエンザワクチン接種後に発症した抗CMOG抗体陽性視神経脊髄炎の症例を経験したので報告する.症例はC22歳,女性,インフルエンザワクチン接種のC1週間後に両下肢の感覚異常,左眼視力低下,眼痛を自覚した.初診時,VD=1.2(1.5),VS=0.3(1.0),中心フリッカー値は右眼C36CHz,左眼C20CHz,左眼相対的瞳孔求心路障害陽性,視野検査で両眼のCMariotte盲点の拡大と左眼の傍中心暗点がみられた.頭部・眼窩・全脊髄CMRIの所見より視神経脊髄炎と診断した.ステロイドパルスC1クールで症状は改善傾向を示し,経過中に血清抗CMOG抗体陽性と判明した.抗CMOG抗体陽性視神経脊髄炎は長期の免疫抑制が必要とされる.本症例ではステロイド内服継続により発症C7カ月まで眼症状の再発はない.CPurpose:Toreportacaseofanti-myelinoligodendrocyteglycoprotein(MOG)antibodypositiveneuromyelitisoptica(NMO)thatdevelopedfollowingaseasonalin.uenzavaccination.Case:A22-year-oldfemalewashospital-izedduetoparesthesiainthebilaterallowerextremitiesandreducedvisualacuityinthelefteyewithopticpain1weekCafterCbeingCadministeredCaCseasonalCin.uenzaCvaccination.CTheCcorrectedCvisualCacuityCwasC1.5inCtheCrightCeyeandC1.0CinCtheCleft.CHerCleftCeyetestedCpositiveforCarelativeCa.erentCpupillarydefect.CAvisualC.eldtestshowedanCexpandedCMariotte’sCspotCinCtheCbothCeyesCandCeccentricCscotomaCinCtheCleftCeye.CMagneticCresonanceCimagingCFLAIRimagesrevealedhyperintenselesionsinthecerebralcortex,cervicalspinalcord,andbilateralopticnerve.UnderthediagnosisofNMO,shereceivedsteroidpulsetherapyandhervisionimproved.Aftersteroidpulsether-apy,heranti-MOGantibodywasfoundtobepositivewhileheranti-aquaporin-4antibodywasnegative.Thus,shewasC.nallyCdiagnosedCwithCanti-MOGCantibodyCpositiveCNMO.CConclusion:ContinuousCtreatmentCwithCoralCpred-nisolonesuccessfullysuppressedtherecurrenceofNMO.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(2):206.213,C2021〕Keywords:ミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン(MOG),視神経脊髄炎,ステロイドパルス,抗MOG抗体関連疾患,インフルエンザワクチン接種後.myelinoligodendrocyteglycoprotein(MOG),neuromyelitisoptica(NMO),steroidpulsetherapy,MOGantibody-relateddisease,in.uenzavaccination.Cはじめに視神経脊髄炎における抗アクアポリン(aquaporin:AQP)4抗体の病原性が証明されて以来,とくに自己抗体と視神経炎との関連が注目されている1).近年,抗ミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン(myelinColigodendrocyteglycoprotein:MOG)抗体は,抗CAQP4抗体陰性視神経脊髄炎や再発性視神経炎の一部で陽性になることがわかってきた2,3).AQP4はアストロサイトに豊富に存在するのに対し,MOGは中枢神経においてミエリン鞘とオリゴデンドロサイトの細胞表面に発現し,神経の髄鞘化,ミエリン構造の維持〔別刷請求先〕多田香織:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野C25京都中部総合医療センター眼科Reprintrequests:KaoriTada,DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,25YagiuenoYagi,Nantan,Kyoto629-0197,JAPANC206(90)における接着分子として働いている糖蛋白である.免疫原性が強く,MOGが抗原として認識された場合,脳脊髄だけでなく,視神経にも脱髄を生じることがマウスを用いた研究で証明されている4).今回筆者らは,インフルエンザワクチン接種後に発症した抗CMOG抗体陽性視神経脊髄炎の症例を経験したので報告する.CI症例患者:23歳,女性.既往歴,内服歴:とくになし.現病歴:インフルエンザワクチン接種のC2日後から頭痛と起立時の浮動感が出現し,かかりつけ内科を受診したところワクチンの副反応が疑われた.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方され,その後頭痛は軽快した.しかし,ワクチン接種よりC1週間後から両側の手指振戦や上下肢の疼痛が出現(発症C1日目),そのC2日後に左眼の眼痛,眼球運動時痛,見え方が暗いなどの症状が出現したため,かかりつけ内科を再診,近医眼科を受診した.眼科受診時(発症C6日目),視力はCVD=1.2(n.c.),VS=0.7(1.2C×.0.25D)であり,左眼の視力低下および外眼筋と視神経の炎症を指摘されステロイド点眼を処方された.しかし,全身的に症状の改善は乏しく,発症C7日目(ワクチン接種後C13日)にかかりつけ内科より京都中部総合医療センター(以下,当院)脳神経内科に紹介となった.脳神経内科外来初診時の神経学的所見は,意識清明,発語に問題なく,左眼視力低下の訴えがあった.瞳孔や眼球運動に異常はみられず,四肢の麻痺や失調もみられなかった.両側上下肢に姿勢時振戦と異常感覚がみられたが,歩行に問題はなかった.過去に何度もインフルエンザワクチンを接種したことはあるが,このような症状は初めてということであった.初診日に抗CAQP4抗体を調査項目に含めた血液検査を施行し,当日に結果が得られた血算や生化学の一般的な項目は正常範囲内であった.髄液検査ではリンパ球優位の細胞増多がみられ,オリゴクローナルバンドは陰性であったが,中枢神経の髄鞘破壊やその程度の指標であるミエリン塩基性蛋白(myelinbasicprotein:MBP)は測定限界値を超える高値であった.胸部CX線,心電図に異常所見はみられなかった.図1頭部・眼窩MRIa:発症C7日目の頭部CMRIFRAIR画像.両側大脳に白質病変が多発している(.).b:発症C7日目の眼窩MRIガドリニウム(gadolinium:Gd)造影像.両側視神経の腫脹,蛇行,異常濃染がみられる.Cc:ステロイドパルスC1クール後C10日目の頭部CMRIFRAIR画像.初診時に多数みられた大脳白質病巣はいずれも縮小した(.).d:ステロイドパルスC1クール後C3日目の眼窩CMRIGd造影像.右側で若干の造影効果が残存していたが,左側優位にみられた視神経の腫脹および異常造影効果は明らかに改善した.図2脊髄MRI(T2強調画像)a:発症C8日目.3椎体にわたる脊髄に高信号がみられる.Cb:発症C9日目.頸髄の高信号領域はおよそC6椎体長まで拡大した.Cc:発症C9日目.脊髄円錐部にも高信号域が出現した.Cd:cの脊髄円錐の病変の拡大画像.Ce:ステロイドパルスC1クール後C10日目.脊髄の異常陰影は消退した.a図3眼底写真a:眼科初診時.両眼とも視神経乳頭の境界は不明瞭で,とくに左眼の乳頭腫脹が著しい.Cb:ステロイド加療後(発症後C5カ月).両眼の視神経乳頭腫脹は消退した.ab同日,精査加療目的で脳神経内科に入院となった.翌日(発症C8日目)のCMRIでは,頭部のCFRAIR画像で大脳に多発する白質病変がみられ(図1a),年齢から虚血は考えにくいため脱髄性疾患が疑われた.さらに,頸椎C3椎体にわたり脊髄の腫脹およびCT2強調画像で高信号を呈し(図2a),脊髄炎の病態であった.この頃には左眼だけなく右眼の見えにくさの自覚も出現しており,MRIでも両眼視神経の腫脹,蛇行,およびガドリニウム(gadolinium:Gd)造影像で異常濃染が図4光干渉断層計(OCT)a:眼科初診時(CirrusHD-OCT,CarlZeissMeditec).黄斑部の水平断(上段)では異常所見はみられず,とくに左眼に強い視神経乳頭腫脹がみられた(下段右).両眼の黄斑部網膜内層厚(GCC)の経度菲薄化がみられた(下段左).b:ステロイド加療後(発症後C5カ月)(RS-3000Advance,ニデック).黄斑部の水平断(上段)では異常所見はみられず,視神経乳頭腫脹は消退した(下段右)が,両眼の黄斑部網膜内層厚の菲薄化は初診時と比較し進行した(下段左).みられた(図1b).さらにその翌日(発症C9日目)には排尿困難となり,脊椎CMRIで頸髄病変の拡大とともに脊髄円錐にも新たな病変が確認された(図2b~d).同日当院眼科に紹介となり,視力はCVD=1.2(1.5C×.0.5D),VS=0.3(1.0C×.0.75D)と左眼視力は近医受診時より低下していた.中心フリッカー値(critical.ickerfrequency:CFF)は右眼C36Hz,左眼C20CHzととくに左眼で低値であり,左眼相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)陽ab図5動的視野検査a:眼科初診時.両眼のCMariotte盲点の拡大と左眼に散在する傍中心暗点がみられた.Cb:ステロイド加療後(発症後C7カ月).左眼の傍中心暗点は消失し,両眼のCMariotte盲点の軽度拡大が残存している.性であった.前眼部・中間透光体に異常所見はなく,眼底検査で両眼の視神経乳頭の境界は不明瞭で,とくに左眼に著しい乳頭腫脹がみられた(図3a).黄斑部には顕眼鏡的に異常所見はなく,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では黄斑周囲網膜内層厚の軽度菲薄化がみられた(図4a).動的視野検査では,両眼のCMariotte盲点の拡大と,左眼に散在する傍中心暗点がみられた(図5a).抗CAQP4抗体の結果は未確定の段階であったが,急性視神経脊髄炎の診断で,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000Cmg/日×5日間)を開始した.パルスC1クール終了翌日には,視力CVD=1.0(1.5),VS=0.8(1.5),CFFは右眼C40CHz,左眼35CHzと視機能の回復がみられ,全身症状も改善傾向を示した.ステロイド治療に対する反応は良好であり,後療法としてプレドニゾロン(PSL)40Cmgを開始した.ステロイドパルス療法終了後C3日目に施行した眼窩CMRIでは,右眼で若干の造影効果が残存していたが,左眼優位にみられた視神経の腫脹および異常造影効果は明らかに改善していた(図1d).ステロイドパルス療法終了後C10日目には,初診時に多数みられた大脳白質病巣はいずれも縮小しており(図1c),脊髄の異常陰影は消退した(図2e).発症C17日目に,入院時(発症C7日目)に採取した血液で抗CAQP4抗体が陰性(enzyme-likedCimmune-sorbentassay:ELISA法)と判明した.同保存血清でのCcell-basedassay(CBA)法による抗AQP4抗体の再検と抗CMOG抗体の測定を,東北大学医学部神経内科学教室に依頼した.最終的に治療開始からC1カ月半ほどで抗CMOG抗体陽性の結果を得た.抗CAQP4抗体はCBA法を用いた再検査でも陰性であった.発症後C7カ月が経過しCPSL10Cmg内服中であるが,視力はCVD=1.5(n.c.),CVS=1.5(2.0C×.0.25D),CFFは右眼50Hz,左眼C48Hzと良好であり,乳頭腫脹は改善した(図3b).視野検査では,左眼の傍中心暗点は消失したが,両眼のCMariotte盲点の軽度拡大が残存しており(図5b),OCTでは初診時には軽度であった両眼の黄斑部網膜内層厚の菲薄化の増悪がみられた(図4b下段左).CII考按MOGはミエリン鞘やオリゴデンドロサイトの細胞表面に限局して発現し,細胞外に免疫グロブリン(Ig)様ドメインを有しており,グリア細胞に発現する他の蛋白に比べて自己抗原の標的となりやすい2).そのため実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimentalCautoimmuneencephalomyelitis:EAE)のマウスを作製する際の刺激抗原として利用されている.MOGは,中枢神経系の他の部位より視神経に多く発現していることがマウスで証明されており5),EAEでは脳脊髄のみでなく視神経にも脱髄をきたす4).EAEは多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)の動物モデルとして古くから用いられているため,MOGは長い間,MSの標的抗原の一つと推測されてきた.また,従来のCELISA法やウェスタンブロット法で解析された報告では,抗CMOG抗体はCMSの疾患活動性を測るマーカー候補としても注目されてきたが,その結果は報告により大きく異なっていた6,7).さらに近年,CBA法が開発されると,生体内と同じ高次構造で膜上に発現するCMOGに対する抗CMOG-IgG1抗体が特異的に同定できるようになり,最近ではむしろCMSとの関連性は否定的と考えられている8).一方,将来的にCMSとなりうる患者が初めて臨床症状を示した段階をCclinicallyisolatedsyndrome(CIS)とよぶが,この病態とときに鑑別が困難となる疾患に,急性散在性脳脊髄炎(acuteCdisseminatedencephalomyelopathy:ADEM)がある.ADEMは代表的な中枢神経系の脱髄性疾患であり,おもに小児の脳,脊髄,視神経に同時多発的な脱髄性病変を認める.小児例を中心に,多くの症例で先行する感染症やワクチン接種歴を有し,それらを契機とした自己免疫機序が病態に関与していると考えられている.このCADEMを含む小児の中枢神経炎症性脱髄疾患では,高率に抗CMOG抗体が陽性となることが以前から知られていたが,多くは一過性で病的意義は不明であった9).しかし,小児の抗CMOG抗体陽性例の報告が増えるにつれ,その臨床症状は視神経炎による視力障害を伴うことが多く,視神経炎の再発も多いがステロイド反応性がよい症例が多いことがわかってきた.最近では,抗CMOG抗体陽性視神経炎でも感染後CADEM同様に先行感染がみられる症例10)や,ステロイド依存性で両眼性,有痛性の慢性再発性視神経炎(chronicCrelapsingCin.ammatoryopticCneuropathy:CRION)において抗CMOG抗体陽性となる症例の報告11)もあり,抗CMOG抗体関連疾患の臨床像の特徴が解明されつつある.そして近年,視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitisopticaspectrumdisorders:NMOSD)においても,抗CMOG抗体は,抗CAQP4抗体に続く重要な疾患マーカーとして注目されている.抗CAQP4抗体はC2004年にCLennonらにより視神経脊髄炎にみられる特異的な抗体として報告され12),2006年,Wingerchukらによる視神経脊髄炎の改訂基準13)に盛り込まれた.しかしその後,抗CAQP4抗体が陽性であるものの視神経炎単独もしくは脊髄炎単独の発症が多く存在することが判明し,さらにC2012年にはCKitleyらが成人の視神経脊髄炎で抗CAQP4抗体陰性かつ抗CMOG抗体が陽性となるC4例をまとめて報告した14).このことからC2015年に再びCWing-erchukらにより,前述のような症例を包括するCNMOSDの診断基準が提唱された15).この診断基準では抗CAQP4抗体が陽性であることが重要視されているが,抗CAQP4抗体陰性でも,1回以上の臨床的増悪で,少なくともC2つの主要臨床症候があり,空間的多発するCMRI所見がみられた場合,他疾患が除外されればCNMOSDと診断される.本症例では,視神経炎,脊髄炎症状とそれを説明するCMRI画像上での多発する病巣がみられ,経過中に症状,画像所見の増悪がみられた.他疾患の除外について,本症例は,比較的若年でインフルエンザワクチン接種後C1週間での発症であり,とくにワクチン接種後CADEMとの鑑別を要した.鑑別点として,まず本症例ではCADEMの特徴ともされる脳症症状(意識変容や行動変化)を伴わなかった.また,本症例の脊髄病変はC3椎体以上にわたる長病変であり,NMOSDに特徴的といえる.さらに典型的なCADEM症例と比較して回復経過が早かった.以上の点からからワクチン接種後CADEMを除外し,抗CMOG抗体陽性視神経脊髄炎と診断した.本症例では今後,再発の可能性はもちろん,今回の事象がCCISであり,のちにCMSに進行する可能性も完全に否定はできないため,眼症状のみならず全身症状にも注意を向けつつ,他科と連携をとり長期的な経過観察が必要と考える.インフルエンザワクチンと視神経脊髄炎発症との関連性について考えるにあたり,Karussisらによるワクチン接種後炎症性中枢神経系脱髄疾患に関する論文のレビュー16)が参考になる.このレビューでは,1979.2013年に発表された71症例について分析されている.原因となったワクチンでもっとも報告が多かったのはインフルエンザワクチン(21例:30.0%)であるが,これにはC2009.2012年における新型インフルエンザ(H1N1)のパンデミックによるワクチン接種者数増加が影響している可能性が言及されている.ワクチン接種から発症までの平均期間はC14.2日であり,いずれの症例においてもワクチン接種と発症の因果関係を証明する手段は明確にされていないが,時間的な関係性からワクチン接種が原因とされている.興味深いことに,全C71例では半数以上に,インフルエンザワクチンが関与しているC21例ではC8例に視神経炎がみられた.視神経炎の原因を考える際に,ワクチン接種の既往は重要な要因であることを知っておく必要がある.また,2014年に世界で初めてわが国から,インフルエンザ感染後に発症した抗CMOG抗体陽性脊髄炎の症例が報告された10).症例はC32歳男性,インフルエンザCA型に罹患し,オセルタミビル内服加療で症状は回復したが,インフルエンザ感染C9日日目に全身の痛み,尿閉,下肢の筋力低下で抗MOG抗体陽性脊髄炎を発症した.視神経炎は伴わず,ステロイド加療で経過良好であった.この症例は,インフルエンザウイルスに対する免疫反応と抗CMOG抗体との関連の可能性を示唆しており,大変興味深い.2019年C10月に,2015年から日本神経眼科学会を中心に行われた視神経炎の疫学調査結果が発表された17).日本全国のC33施設で非感染性視神経炎と診断された症例から,虚血性,圧迫性,遺伝性,中毒性視神経炎を除外したC531例を対象に,その特性について調査した.その結果,531例中,血清検査での抗CAQP4抗体陽性例がC66例(12%),抗CMOG抗体陽性例がC54例(10%)と同程度であり,両抗体陰性例がC410例(77%),両抗体陽性例がC1例であった.発症平均年齢は抗CAQP4抗体陽性群でC52.5(13.84)歳,抗CMOG抗体陽性群の平均年齢はC47.0(3.82)歳,両抗体陰性群で47.5(4.87)歳と明らかな差はみられなかった.しかし,抗AQP4抗体陽性群は年齢の増加とともに増加し,抗CMOG抗体陽性群はC40歳代とC60歳代に,両抗体陰性群はC50歳代にピークがみられ,各群の年齢分布には差がみられた.また,抗CAQP4抗体陽性群ではC84%が女性であったのに対し,抗MOG抗体陽性群ではC51%であった.治療前視力は抗CAQP4抗体陽性例で優位に低く,指数弁の割合も優位に高かったが,治療前視力から抗CAQP4抗体の予測ができるほどの特異性はなかった.抗CMOG抗体陽性群では眼痛,視神経乳頭腫脹をきたす症例の割合が他群に比べ優位に高く(76%),これはCMRI所見で,抗CMOG抗体陽性視神経炎の炎症が視神経全長にわたる,もしくは視神経前方に病変が限局する症例が多いことからも説明される.一方,抗CAQP4抗体陽性視神経炎では球後型が多く,眼痛も少なく,MRI所見でも視神経後方に病変が限局する傾向にあり,視神経乳頭腫脹は視神経炎の鑑別において重要な所見であることがわかった.治療反応性は他群に比べ抗CMOG抗体陽性群でよい結果であった.ステロイド治療による視力改善が良好であっても,なかには視野障害が残存する症例があること,抗CMOG抗体と抗CAQP4抗体の双方が陽性となる症例では,ステロイド抵抗性で再発を繰り返す傾向にあり,視力予後が非常に悪い症例があることなども報告されるため18)注意が必要である.抗CAQP4抗体は一度陽性になると数年にわたり陽性であることが多いが,抗CMOG抗体は発症早期や寛解期に測定しても検出されにくく,陽性となる期間が短く限られている19).本症例では,ステロイド治療開始前の発症C7日目に採取した血液で抗CAQP4抗体陰性(ELIZA法)であり,その結果を受け,同保存血清で抗CMOG抗体検査を依頼したところ,CBA法で陽性であった.ほかにも初発時には陰性でも再発時に陽性となった視神経炎症例の報告20)もあり,抗CMOG抗体の検出には検査のタイミングも重要となる.わが国における全国調査が終了し,抗CMOG抗体陽性例の臨床的特徴が少しずつ解明されつつある.治療方針を決定するうえでも,抗体の存在を確認しておくことは有用であると考える.今後,さらなる症例の蓄積および長期経過観察による抗CMOG抗体の臨床的意義,治療予後を含む疾患概念の確立,ガイドラインの作成が待たれる.謝辞:本症例における抗CMOG抗体を測定していただきました東北大学大学院医学系研究科多発性硬化症治療学講座高橋利幸先生に深謝いたします.文献1)LennonVA,WingerchukDM,KryzerTJetal:Aserumautoantibodymarkerofneuromyelitisoptica:distionctionfrommultiplesclerosis.LancetC364:2106-2112,C20042)KezukaCT,CUsuiCY,CYamakawaCNCetal:RelationshipCbe-tweenCNMO-antibodyCandCanti-MOGCantibodyCinCopticCneuritis.JNeuro-OphthalmolC32:107-110,C20123)SatoDK,CallegaroD,Lana-PeixotoMAetal:DistinctionbetweenMOGantibody-positiveandAQP4antibody-pos-itiveCNMOCspectrumCdisorders.CNeurologyC82:474-481,C20144)ShaoCH,CHuangCZ,CSunCSLCetal:Myelin/oligodendrocyteCglycoprotein-speci.cCT-cellsCinduceCsevereCopticCneuritisCinCtheCC57BL/6mouse.CInvestCOphthalmolCVisCSciC45:C4060-4065,C20045)BettelliCE,CPaganyCM,CWeinerCHLCetal:MyelinColigoden-drocyteCglycoprotein-speci.cCTCcellCreceptorCtransgenicCmiceCdevelopCspontaneousCautoimmuneCopticCneuritis.CJExpMedC197:1073-1081,C20036)BergerCT,CRubnerCP,CSchautzerCFCetal:AntimyelinCanti-bodiesCasCaCpredictorCofCclinicallyCde.niteCmultipleCsclero-sisCafterCaC.rstCdemyelinatingCevent.CNCEngCJCMedC349:C139-145,C20037)KuhleCJ,CPohlCC,CMehlingCMCetal:LackCofCassocitionCbe-tweenCantimyelinCantibodiesCandCprogressionCtoCmultipleCsclerosis.NEnglJMedC356:371-378,C20078)WatersCP,CWoodhallCM,CO’ConnorCKCCetal:MOGCcell-basedCassayCdetectsCnon-MSCpatientsCwithCin.ammatoryCneurologicCdisease.CNeurolCNeuroimmunolCNeuroin.ammC2:e89,C20159)OC’ConnorCKC,CMcLaughlinCKA,CDeCJagerCPLCetal:Self-antigenCtetramersCdiscriminateCbetweenCmyelinCautoanti-bodiesCtoCnativeCorCdenaturedCprotein.CNatCMedC13:211-217,C200710)AmanoCH,CMiyamotoCN,CShimuraCHCetal:In.uenza-associatedMOGantibody-positivelongitudinallyextensivetransversemyelitis:aCcaseCreport.CBMCCNeurologyC14:C224-227,C201411)西川優子,奥英弘,戸城匡宏ほか:抗CMOG抗体が強陽性であったCChronicCrelapsingCin.ammatoryCopticneuropa-thy(CRION)のC1例.神経眼科C33:27-33,C201612)LennonVA,WingerchukDM,KryzerTJetal:AserumautoantibodyCmarkerCofCneuromyelitisoptica:distinctionCfrommultiplesclerosis.LancetC364:2106-2112,C200413)WingerchukCDM,CLennonCVA,CPittockCSJCetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCneuromyelitisCoptica.CNeurologyC66:1485-1489,C200614)KitleyCJ,CWoodhallCM,CWatersCPCetal:Myelin-oligoden-drocyteglycoproteinantibodiesinadultswithaneuromy-elitisopticaphenotype.NeurologyC79:1273-1277,C201215)WingerchukDM,BanwellB,BennetJLetal:Internation-alCconsensusCdiagnosticCcriteriaCforCneuromyelitisCopticaCspectrumdisorders.NeurologyC85:177-189,C201516)KarussisCD,CPetrouP:TheCspectrumCofCpost-vaccinationCin.ammatoryCNSdemyelinatingsyndromes.AutoimmunRevC13:215-224,C201417)IshikawaH,KezukaT,ShikishimaKetal:Epidemiologi-calCandCclinicalCcharacteristicsCofCopticCneuritisCinCJapan.COphthalmologyC126:1385-1398,C201918)NakajimaH,MotomuraM,TanakaKetal:AntibodiestomyelinColigodendrocyteCglycoproteinCinCidiopathicCopticCneuritis.CBMJCOpenC5:e007766,doi:10.1136/bmjopen-2015-007766,C201519)MiyauchiCA,CMondenCY,CWatanabeCMCetal:PersistentCpresenceCofCtheCanti-myelinColigodendrocyteCglycoproteinCautoantibodyinapediatriccaseofacutedisseminateden-cephalomyelitisfollowedbyopticneuritis.NeuropediatricsC45:196-199,C201420)毛塚剛:抗CMOG抗体─眼科の立場から.眼科59:7-12,C2017C***