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強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(115)14430910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14431446,2008cはじめに弘前大学眼科(以下,当科)では改良非穿孔トラベクレクトミー(advancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)の変法として強膜弁を無縫合で終了し,サイヌソトミーを併施しない強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)を独自に行っている.本法は強膜弁を無縫合にすることによって,濾過量の増加およびlaser-suturelysisなどの術後処置の簡略化を期待して発案された.以前,筆者らは本術式の短期間の手術成績を報告した1).しかし,術後平均観察期間は約5カ月と短かったので,今回は,本法を用い最低12カ月以上(平均観察期間24カ月)経過が観察できた症例をad-Nと比較検討して報告する.I対象および方法1.対象対象は2002年4月から2007年3月までにad-Nまたはad-Nを施行された緑内障患者48例75眼で,その内訳はad-N群が30例46眼(男性15例女性15例,平均年齢67.1±10.4歳),ad-N群が18例29眼(男性8例,女性10例,平均年齢67.6±8.45歳)である.なお,この期間中2005年4月以降はほぼ全症例をad-Nではなくad-Nで行ってい〔別刷請求先〕盛泰子:〒036-8562弘前市在府町5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Reprintrequests:TaikoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HirosakiUnivesitySchoolofMedicine,5Zaifu-cho,Hirosaki036-8562,JAPAN強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績盛泰子石川太山崎仁志伊藤忠竹内侯雄木村智美中澤満弘前大学大学院医学研究科眼科学講座SurgicalResultofFree-FlapAdvancedNon-PenetratingTrabeculectomyTaikoMori,FutoshiIshikawa,HitoshiYamazaki,TadashiIto,KimioTakeuchi,SatomiKimuraandMitsuruNakazawaDepartmentofOphthalmology,HirosakiUnivesitySchoolofMedicine弘前大学眼科で独自に行っている強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(ad-N)と従来の改良非穿孔トラベクレクトミー(ad-N)の手術成績を比較検討した.対象は2002年4月から2007年3月までに当院でad-Nまたはad-Nを施行され,術後12カ月以上観察された48例75眼である.術前眼圧(平均±標準偏差)はad-N群,ad-N群で18.2±4.1mmHg,17.5±4.3mmHg,最終眼圧(平均±標準偏差)はad-N群,ad-N群で13.6±2.6mmHg,13.6±2.2mmHgであった.術後合併症は両群とも一過性の脈絡膜離をきたした症例が1眼ずつあったが,その他重篤な合併症はなかった.以上の結果からad-Nは従来のad-Nと同等の手術成績を有すると考えられた.Toevaluatetheoutcomesofnon-penetratingtrabeculectomiesperformedatHirosakiUniversityHospitalfromApril2002toMarch2007,werecordedintraocularpressure(IOP)andcomplicationsforatleast12monthsaftersurgeryin75eyesof48patientswhounderwentfree-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-N)oradvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-N).ThemeanpreoperativeIOPwas18.2±4.1mmHginthead-Ngroupand17.5±4.3mmHginthead-Ngroup.ThemeanpostoperativeIOPwas13.6±2.6mmHgand13.6±2.2mmHg,respectively.Therewasonecaseofchoroidaldetachmentineachgroup,buttherewerenoothersignicantcomplications.Theseresultssuggestthatad-Nseemstoachievealmostthesamesurgicalresultsasad-N.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14431446,2008〕Keywords:非穿孔トラベクレクトミー,改良非穿孔トラベクレクトミー,強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー,手術成績,緑内障.non-penetratingtrabeculectomy,advancednon-penetratingtrabeculectomy,free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy,surgicaloutcome,glaucoma.———————————————————————-Page21444あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(116)る.両群とも観察期間は最低12カ月以上で角膜切開白内障手術を併施した症例を対象とし,後ろ向き研究を行った.これらの患者背景を表1にまとめる.両群間の年齢に有意差はなかった(p<0.05,t検定).2.手術手技今回の検討対象となった2つの術式を表2にまとめる.両術式は表のごとく手技⑨以外は共通手技である.当科で独自に行っているad-Nの特徴はサイヌソトミー非併施かつ強膜外方弁を無縫合のまま結膜縫合することにある.また,両術式ともに利点や予想される合併症を十分に説明した後,文書による同意を得て行った.3.検討項目各群の術前平均眼圧,術後1,3,6,12,24カ月での眼圧,眼圧下降率,術前,術後1,3,6,12,24カ月での薬剤スコア,術中,術後合併症,術後処置,再手術の有無について検討した.術前平均眼圧は術直前3回の平均眼圧とした.再手術例は再手術前の最終受診時を最終眼圧とし,それ以降は検討から除外とした.術前および術後各時点での眼圧値の比較はWilcoxon符号付き順位検定で評価した.眼圧下降率は術前平均眼圧と最終受診時眼圧から算出した.また,眼圧はすべてGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した.薬剤スコアは抗緑内障点眼薬を1剤1点,内服薬を2点とした.薬剤スコアの術前後の比較はSpearman順位相関係数検定で行った.再手術は術後,眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例と定義した.II結果1.眼圧(平均±標準偏差)術前眼圧はad-N群が18.2±4.1mmHg,ad-N群が17.5±4.3mmHgで,両群間に統計学的有意差はなかった(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定).術後眼圧は術後1,3,6,12,24カ月の順にad-N群で13.2±3.1mmHg,12.6±3.7mmHg,13.0±2.7mmHg,13.7±1.8mmHg,13.6±2.5mmHgであり,ad-N群では13.7±2.9mmHg,13.8±2.9mmHg,14.0±2.9mmHg,13.9±2.7mmHg,13.4±1.9mmHgであった.術後各時点の眼圧値は術前に比較して両群ともに有意に低下していた(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定)が,両群間には統計学的な有意差はなかった(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定).両群の眼圧経過を図表2手術手技adN①結膜輪部切開②4×4mm強膜外方弁作製③0.04%mitomycinC塗布,4分間④300ml生理食塩水で洗浄⑤超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥4×3.5mmの強膜内方弁作製⑦線維柱帯内皮網擦過,除去⑧強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨強膜外方弁を縫合後半円形切除2カ所⑩結膜縫合adN①結膜輪部切開②4×4mm強膜外方弁作製③0.04%mitomycinC塗布,4分間④300ml生理食塩水で洗浄⑤超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥4×3.5mmの強膜内方弁作製⑦線維柱帯内皮網擦過,除去⑧強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨強膜外方弁を縫合せず整復⑩結膜縫合⑨以外は共通手技である.表1患者背景ad-Nad-N性差(男:女)眼25:2111:18年齢(歳・平均±標準偏差)67.1±10.467.6±8.45病型:開放隅角緑内障4125性緑内障32発達緑内障10閉塞隅角緑内障12合計(眼)4629術前平均眼圧(mmHg・平均±標準偏差)17.5±4.318.2±4.1術前平均薬剤スコア(点・平均±標準偏差)2.7±0.92.6±0.8ad-N:advancednon-penetratingtrabeculectomy,ad-N:free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy.1カ月術前3カ月6カ月12カ月24カ月2520151050眼圧(mmHg):ad-N:ad-N図1平均眼圧経過各時点で両群間に統計学的な有意差なし(Wilcoxon符号付き順位検定p<0.05).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081445(117)1に示す.2.眼圧下降率ad-N群の平均眼圧下降率は19.6%であった.眼圧下降率30%以上の症例は8眼(27.6%),20%以上30%未満の症例は6眼(20.7%),0%以上20%未満の症例は13眼(44.8%)であった.ad-N群の平均眼圧下降率は19.6%であった.眼圧下降率30%以上の症例は13眼(28.3%),20%以上30%未満の症例は8眼(17.4%),0%以上20%未満の症例は17眼(40.0%)であった.ad-N群とad-N群の眼圧下降率散布図を図2に示す.3.薬剤スコア(平均±標準偏差)術前の薬剤スコアはad-N群で2.6±0.8点,ad-N群で2.7±0.9点,最終受診時の薬剤スコアはad-N群で1.2±0.9点,ad-N群で1.0±0.9点であり,両群ともに術前に比較して有意に低下していた(p<0.05,Spearman順位相関係数検定).両群間差は術前,術後ともになかった(p<0.05,Spear-man順位相関係数検定).ad-N群とad-N群の薬剤スコアの経過を図3に示す.4.術後処置Lasersuturelysisはad-N群で0眼(0%),ad-N群で13眼(28.2%),lasergoniopunctureはad-N群で18眼(62.0%),ad-N群で25眼(54.3%),lasergonioplastyが14眼(48.2%),ad-N群で19眼(41.3%),needlingがad-N群で1眼(3.4%),ad-N群で2眼(6.9%)行われていた.5.合併症術後に一過性の脈絡膜離がad-N群で1眼(3.4%),ad-N群で1眼(2.2%)みられたが,その他重篤な合併症は両群ともになかった.6.再手術術後,眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例はad-N群で2眼(6.9%),ad-N群で4眼(8.7%)みられた.III考按緑内障における外科的眼圧降下法には種々の方法がある.進行期緑内障では,緑内障治療で唯一エビデンスが得られている治療が眼圧下降であるため,眼圧下降効果の大きさから流出路再建術よりも濾過手術が選択される場合が多い.濾過手術の中でもトラベクレクトミー(trabeculectomy:TLE)は主流の術式であるが,その強い眼圧下降効果の一方で,過剰濾過に伴う前房消失,低眼圧,ひいては低眼圧黄斑症などの忌むべき合併症が多い術式であることも知られている24).その反省から前房に穿孔しない,いわゆる非穿孔トラベクレクトミー(non-penetratingtrabeculectomy:NPT)が考案された5,6).NPTにおいては過剰濾過に伴う合併症は少なくなったものの,逆に眼圧下降の面が不十分になるという新たな問題が生じた.そのためNPTの眼圧下降効果を補うため改良非穿孔トラベクレクトミー(advancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)がその後さらに考案された7).当科ではこのad-Nの変法として強膜弁を無縫合で終了35302520151050術後眼圧(mmHg)15105020術前眼圧(mmHg)25303520下降30下降35302520151050術後眼圧(mmHg)05101520253035術前眼圧(mmHg)20下降30下降ad-N?ad-N図2眼圧下降率左:ad-N群,右:ad-N群.両群ともに平均眼圧下降率は19.6%.1カ月術前3カ月6カ月12カ月24カ月4.03.02.01.00.0薬剤スコア:ad-N:ad-N図3平均薬剤スコア各時点で両群間に統計学的な有意差なし(Spearman順位相関係数検定p<0.05).———————————————————————-Page41446あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(118)し,サイヌソトミーを併施しない強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(free-apadvancednon-penetratingtra-beculectomy:ad-N)を独自に行っている1).本法は強膜弁を無縫合にすることによって,濾過量の増加およびlasersuturelysisなどの術後処置の簡略化を期待して発案した術式である.また,無縫合かつサイヌソトミーを行わないことで強膜弁の欠損は生じえず,眼圧下降が不十分な場合,同一創からのTLEでの再手術が可能であるという利点を併せもっている.今回の検討では,術後最終眼圧平均(平均±標準偏差)は術前眼圧平均(平均±標準偏差)に比較して両群ともに有意に低下していた.また,術後各時点の眼圧値は術前に比較して両群ともに有意に低下していたが,両群間には統計学的な有意差はなかった.眼圧下降率も両群間に有意差はなかった.最終受診時の薬剤スコア(平均±標準偏差)は術前の薬剤スコア(平均±標準偏差)と比較して両群ともに有意に低下していたが,両群間差は術前,術後ともにみられなかった.眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例はad-N群で2眼(6.9%),ad-N群で4眼(8.7%)であった.以上の結果はすなわちad-Nは眼圧下降効果,眼圧下降率,術後薬剤スコア,再手術の頻度においてad-Nと同等の成績であることを示し,強膜弁を無縫合にすることによって濾過量を増加させるという試みはさほど効果がなかったと考えられた.合併症の面では両群ともに術後に一過性の脈絡膜離が1眼みられたのみで,その他重篤な合併症はなかった.ad-Nでは強膜弁無縫合にすることによる特別な合併症もみられなかった.この点においてもad-Nはad-Nと同等の成績といえる.ad-Nとad-Nは眼圧下降,合併症などの手術成績は同等であるが,ad-Nにはサイヌソトミー非併施,強膜外方弁無縫合と若干の手術手技簡略化という利点があると思われた.術後処置については,ad-N群においてlasersuturelysisが0眼(0%)なのは強膜弁無縫合であるから当然であり,この点に関しては術後処置の簡略化に成功したと考えてよい.ad-N群,ad-N群ともに濾過胞の維持,眼圧下降のために必要に応じてlasergoniopuncture,lasergonioplasty,nee-dling施行が必要であり,この術後管理は術後の眼圧下降効果維持のために非常に重要であったと思われる.両術式ともに結膜輪部切開での施行であること,濾過量がTLEよりも少ないことから濾過胞は扁平になる傾向があり,当科では術後2週間をめどに積極的にlasergoniopuncture,lasergonioplasty,needlingを施行している.したがってこれらの処置は施行率が高い傾向にあったと思われる.今回の検討では濾過胞の維持率は検討していない.後ろ向き研究であるので濾過胞の生存を客観的に,厳密に判断することがむずかしいと考えたためである.この点については光学的干渉断層計などの前眼部解析装置を用いての厳密な検討を今後,考慮する必要があると思われる.また,両術式は眼圧下降効果,合併症の面で同等の手術成績であるという結果が得られた.しかしad-Nでは手術手技,術後処置の面でad-Nに比較して若干の簡略化があり,その点に関しては有用と思われた.文献1)大黒浩,大黒幾代,山崎仁志ほか:理想的な術後濾過胞形成を目指した強膜弁非縫合非穿孔トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績.あたらしい眼科23:515-518,20062)JongsareejitB,TomidokoroA,MimuraTetal:EcacyandcomplicationsaftertrabeculectomywithmitomycinCinnormal-tentionglaucoma.JpnJOphthalmol49:223-227,20053)大黒幾代,大黒浩,中澤満:弘前大学眼科における緑内障手術成績.あたらしい眼科20:821-824,20034)八鍬のぞみ,丸山幾代,清水美穂ほか:札幌医科大学眼科における0.04%マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの長期成績.あたらしい眼科17:263-266,20005)Gonzalez-BouchonJ,Gonzalez-MathiesenI,Gonzalez-GalvezMetal:NonpenetratingdeeptrabeculectomytreatedwithmitomycinCwithoutimplant.Aprospectiveevaluationof55cases.JFrOphtalmol27:907-911,20046)ShyongMP,ChouJC,LiuCJetal:Non-penetratingtrab-eculectomyforopenangleglaucoma.ZhonghuaYiXueZaZhi(Taipei)64:408-413,20017)黒田真一郎,溝口尚則,寺内博夫ほか:Non-PenetratingTrabeculectomyを改良した緑内障手術(advancedNPT:仮称)の評価.あたらしい眼科17:845-849,2000***