‘日内変動’ タグのついている投稿

緑内障患者に対する炭酸脱水酵素阻害薬の点眼回数が及ぼす眼圧の検討

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(113)1435《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(10):1435.1438,2010c緑内障患者に対する炭酸脱水酵素阻害薬の点眼回数が及ぼす眼圧の検討大槻智宏*1森田哲也*1庄司信行*1,2冨岡敏也*3有本あこ*4原直人*4鈴木宏昌*5清水公也*1*1北里大学医学部眼科学教室*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*3日立横浜病院眼科*4神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科*5社会保険相模野病院眼科IntraocularPressure-loweringEffectsofTopicalCarbonicAnhydraseInhibitorsinGlaucomaTomohiroOtsuki1),TetsuyaMorita1),NobuyukiShoji1,2),ToshiyaTomioka3),AkoArimoto4),NaotoHara4),HiromasaSuzuki5)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,KitasatoUniversity,SchoolofAlliedHealthSciences,3)DepartmentofOphthalmology,HitachiYokohamaHopspital,4)DepartmentofOphthalmology,KanagawaDentalCollegeYokohamaClinic,5)DepartmentofOphthalmology,SagaminoHospital炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)であるブリンゾラミドとドルゾラミドでは推奨される点眼回数が異なるため日中眼圧変動を測定し,眼圧下降効果の維持の違いについて前向き研究を行った.ブリンゾラミド1日2回点眼を2カ月以上継続している緑内障患者18例34眼(男性6例11眼,女性12例23眼)を対象とした.変更前とドルゾラミド点眼(1日3回)に変更後2カ月目に眼圧を測定した(9時,12時,15時).両点眼とも朝7時に点眼し,ドルゾラミドの昼の点眼は13時とした.そして,各測定時間における眼圧および,12時から15時にかけての眼圧変動を両点眼で比較した.各測定時間において,両点眼薬で眼圧に有意差はなかったが,12時と15時の眼圧の変動幅を比較すると,ブリンゾラミドでは0.7±2.2mmHg上昇したのに対して,ドルゾラミドでは.0.3±1.6mmHgと低下しており,統計学的に有意に眼圧低下を認めた(p=0.02,対応のあるt検定).CAI2回点眼時に12時から15時の眼圧が2mmHg以上上昇していた8眼についてみると,1日3回点眼に変更し昼の点眼を追加したことで,12時よりも15時の眼圧が下がった症例は4眼,残りの4眼も上昇幅が±1mmHg以内に小さくなり,すべての症例で昼の点眼が有効であったことが示された.CAI患者の日中の眼圧が高い場合は,昼の点眼を追加したほうが午後の眼圧下降効果に有効な可能性が示唆された.Purpose:Tocompareintraocularpressure-loweringeffectbetweentwocarbonicanhydraseinhibitors,brinzolamideanddorzolamide,inpatientswithglaucoma.Patientsandmethods:Subjectsofthisprospectivestudycomprised34eyesof18glaucomapatients(11eyesof6males,23eyesof12females;meanage63±10years).Intraocularpressurewasmeasuredat9,12,and15o’clockduringathree-times-dailyregimenwithtopicalbrinzolamideonly,followedbytwomonthsofathree-times-dailyregimenoftopicaldorzolamideonly.Results:At9,12,and15o’clock,therewasnosignificantdifferencebetweenthetwocarbonicanhydraseinhibitorsintermsofintraocularpressure.Inthecaseofbrinzolamide,however,themeasurementsat15o’clockwerehigherby0.7±2.2mmHgthanthoseat12o’clock,whileinthecaseofdorzolamidethemeasurementsat15o’clockwerelowerby.0.3±1.6mmHgthanthoseat12o’clock.Thedifferenceineffectbetweenthetwodrugsaccordingtothetimeadministeredwasstatisticallysignificant(p=0.02,pairedt-test).Conclusions:Theresultssuggestthatadditionalapplicationatnoonwouldbeeffectiveinpatientswhoseintraocularpressureincreasedindaytimewithtopicalcarbonicanhydraseinhibitorsb.i.d.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1435.1438,2010〕〔別刷請求先〕大槻智宏:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TomohiroOtsuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN1436あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(114)はじめに緑内障薬物治療においては,プロスタグランジン製剤,b遮断薬が第一選択薬としておもに使用され1),効果不十分な場合に炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)などが併用薬として使用されている2~4).わが国ではCAI点眼液として1999年5月に0.5%ならびに1%のドルゾラミド点眼薬が,2002年12月に1%ブリンゾラミド点眼薬が承認された.臨床試験により,それぞれの薬剤の点眼回数は1%ドルゾラミド点眼薬では「1回1滴,1日3回点眼」が推奨され,一方,1%ブリンゾラミド点眼薬では「通常1回1滴,1日2回点眼,十分な効果が得られない場合は1日3回点眼する」が推奨されている.筆者らの調べた限り,ブリンゾラミド点眼薬から1%ドルゾラミド点眼薬への変更の報告は3報しかなく,1%ドルゾラミド点眼薬3回点眼にしても眼圧下降効果に変化がなかったという報告5,6)と,有意に眼圧下降したという報告7)がある.切り替えにより眼圧が有意に下降した理由として,眼圧測定時間が症例ごとに異なっていたために薬剤の効果発現時間と測定時間の関係が結果に影響している可能性が示唆されていた.つまり,症例によって点眼効果のピーク値とトラフ値の時間の眼圧が混在していたため有意差が出た可能性がある.そこで今回,筆者らはブリンゾラミド点眼薬(1日2回点眼)を使用中の緑内障患者を1%ドルゾラミド(1日3回点眼)に変更し,日中の眼圧変動を測定しCAIの点眼回数の違いが日中の眼圧変動に及ぼす影響を検討した.I対象および方法対象はブリンゾラミド1日2回点眼を2カ月以上継続している原発開放隅角緑内障(広義)患者のうち,文書で同意のとれた症例18例34眼(男性6例11眼,女性12例23眼)を対象とした.病型は原発開放隅角緑内障(狭義)8眼,正常眼圧緑内障26眼であった.平均年齢は63.9±10.9歳(平均±標準偏差51~81歳)であり,併用薬剤は,b遮断薬(4例7眼),ab遮断薬(4例6眼),プロスタグランジン系薬剤(12例24眼)であった.併用薬剤の点眼時間はCAI変更前後ともに,それぞれの添付文書の使用方法に基づき,1日2回点眼の薬剤は7時,19時に点眼し,プロスタグランジン系薬剤は23時に点眼とした.炎症のある症例や術後早期などの症例は除外した.併用薬剤はそのまま継続した.眼圧測定当日のスケジュールはブリンゾラミド点眼薬1日2回点眼(7時,19時)を2カ月以上継続している患者を対象に,朝7時の1回目点眼後,9時,12時,15時にGoldmann圧平眼圧計で眼圧を測定し,その後休薬期間なしで1%ドルゾラミド3回点眼(7時,13時,19時)に変更し,2カ月以上継続した後に,朝7時の1回目点眼後,9時,12時に眼圧測定し,13時にドルゾラミド2回目点眼後の15時に再度眼圧を測定した.眼圧の前後の測定は同一検者が行った.CAIブリンゾラミド2回点眼時とCAIドルゾラミド3回点眼時の各時間での眼圧,および眼圧変動幅について検討した.なお,本研究は北里大学病院の倫理委員会の承認を得て行った(北里大学医学部・大学病院倫理委員会承認番号:C倫07-367).II結果18例のうち1例はドルゾラミド点眼薬に変更後2週間で頭痛,動悸を自覚したため中止とし,残り17例32眼での眼圧の検討とした.眼圧はブリンゾラミド2回点眼時(ベースライン眼圧),9時15.4±3.2mmHg,12時15.6±3.7mmHg,15時16.1±3.2mmHgであり,ドルゾラミド3回点眼時9時15.6±3.2mmHg,12時16.1±3.7mmHg,15時15.7±3.5mmHgであった(表1).各時間において変更することによる眼圧下降効果に有意差は認めなかった(9時p=0.60,12時p=0.24,15時p=0.40).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):0000.0000,2010〕Keywords:緑内障,炭酸脱水酵素阻害薬,眼圧,日内変動.glaucoma,carbonicanhydraseinhibitor,intraocularpressure,diurnalvariation.表1結果―各時間での比較9時12時15時CAI2回点眼時(ベースライン眼圧)15.4±3.2mmHg15.6±3.7mmHg16.1±3.2mmHgCAI3回点眼時(切り替え後眼圧)15.6±3.2mmHg16.1±3.7mmHg15.7±3.5mmHgp=0.60p=0.24p=0.40Paired-ttest:各時間で有意差なし.n=32.表2眼圧変動幅9時~12時CAI2回点眼時0.2±2.2mmHgCAI3回点眼時0.5±2.0mmHg有意差なしp=0.54(paired-ttest)12時~15時CAI2回点眼時0.7±2.2mmHgCAI3回点眼時.0.3±1.6mmHg有意差ありp=0.02(paired-ttest)(n=32)(115)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101437つぎに9時と12時の眼圧変動幅(12時の眼圧.9時の眼圧)で比較したところ2回点眼時0.2±2.2mmHg,3回点眼時0.5±2.0mmHgと両薬剤で有意差はみられなかった(p=0.54)が,12時と15時の眼圧変動幅(15時の眼圧.12時の眼圧)では,2回点眼時0.7±2.2mmHg,3回点眼時.0.3±1.6mmHgとなり有意差を認めた(p=0.02)(表2).また,2回点眼時に12時から15時の眼圧が2mmHg以上上昇していた8眼は,1日3回したことで,12時よりも15時の眼圧が下がった症例は4眼,残りの4眼も上昇幅が±1mmHg以内に小さくなった(表3).一方,2回点眼時,12時から15時にかけての変動幅が±1mmHg以内であった不変例18眼では,昼の点眼後2mmHg以上の下降がみられた改善例が4眼,不変のままが13眼であった.最後に2回点眼時に2mmHg以上下降していた6眼においては,昼の点眼を加えてもさらに下降した症例はなかった(表3).III考按これまで,1%ドルゾラミド点眼薬(1日3回点眼)をブリンゾラミド点眼薬(1日2回点眼)に変更した報告は多数あり,変更後有意に下降した報告8,9)や,変わらなかったとする報告10~13)があることから,両薬剤の眼圧下降作用はほぼ同等と考えられている.しかし,眼圧測定時間が1回であり,同時刻でない報告が多いため,薬剤の眼圧降下作用のピーク値やトラフ値などの持続時間の影響は検討されていないことが結果に影響している可能性がある.今回の結果では,ブリンゾラミド点眼薬(1日2回点眼)を1%ドルゾラミド点眼薬(1日3回点眼)に変更し,2カ月間投与して眼圧を測定したところ,各測定時間における平均眼圧値は,ブリンゾラミド2回点眼時(ベースライン眼圧)とドルゾラミド3回点眼時で差はみられなかった(表1).このことより,今回の筆者らの結果でも同等の眼圧下降効果と考えられる.つぎに9時と12時の眼圧変動幅(12時の眼圧.9時の眼圧)は2回点眼時も3回点眼時も両薬剤で有意差はみられなかった.9時,12時では眼圧,眼圧変動幅に有意差がないことより,両薬剤の午前中の効果は同等と考えられる.しかし12時と15時の眼圧変動幅(15時の眼圧.12時の眼圧)は2回点眼時0.7±2.2mmHgと眼圧は上昇傾向を示したのに対し,3回点眼時.0.3±1.6mmHgとなり眼圧変動幅は小さくなり,有意な眼圧下降を認めた.今回のCAI2回点眼時と,CAI3回点眼時の違いは12時に眼圧測定後の13時の点眼の有無である.ブリンゾラミド,ドルゾラミドは点眼後約2時間でピーク値を認め,12時間でトラフ値を認めるとされている14).このことより,CAI2回点眼時は朝と夜の2回の12時間おきの点眼になるため,夕方になると薬剤の効果が低下し眼圧が上昇してきてしまう可能性が考えられる.今回,眼圧変動幅に有意差が認められた12時.15時は,ドルゾラミドによる13時の点眼による点眼の効果のピークを再度迎えることにより,日中の眼圧上昇を抑えられたことが考えられる.しかし一方で,アドヒアランスを考えると1日2回点眼のほうが良いと考えられ,はたしてすべての症例で3回点眼する必要があるのかどうかも検討が必要と考えた.そこで今回の症例を3つの群に分けて検討した.まず2回点眼時に12時から15時の眼圧が2mmHg以上上昇していた症例についてみると,1日3回に変更し昼の点眼を追加したことで,4眼は12時よりも15時の眼圧が下がり,残りの4眼も上昇幅が±1mmHg以内に小さくなり,すべての症例で昼の点眼が有効であったことが示された.一方,2回点眼時,12時から15時にかけての変動幅が±1mmHg以内であった不変例18眼では,昼の点眼後2mmHg以上の下降がみられた改善例が4眼,不変のままが13眼であった.最後に2回点眼時に2mmHg以上下降していた6眼においては,昼の点眼を加えてもさらに下降した症例はなかった.以上の結果から,すべての症例を1日3回点眼にするのではなく,昼から夕方にかけての眼圧上昇がみられる症例の場合は昼の点眼を追加し,そうでない症例はあえて昼の点眼を行う必要はないのではないかと考えられる.なお,1例のみドルゾラミド点眼後に頭痛を訴えた症例があった.直接の因果関係ははっきりしないが,同薬剤を中止後に軽減しており,その後とくに後遺障害を残すことはなかった.しかし,同薬剤の臨床試験時の安全性評価症例602例中0.3%にやはり頭痛がみられたと報告されており(薬剤添付文書),使用時には注意が必要である.結論としてCAIはアドヒアランスの面からは点眼回数が少ないほうが有利と考えられるが,昼の点眼を行ったほうが午後の眼圧下降効果に有効な可能性があるので,薬剤選択や点眼回数の決定の際は患者の日中の眼圧変動を測定し,その変動に応じた選択が望ましい.今後の課題として,今回は眼圧変動に左右差があるという報告15)に基づき1例2眼を対象としたが,今後症例数を増やし1例1眼でも同様の結果となるか検討する必要性がある表3昼の点眼の効果2回点眼時,12時.15時の眼圧変動幅による分類①上昇例(2mmHg以上):8眼3回点眼で下降:4眼,上昇幅の減少:4眼→すべての症例で昼の点眼有効②不変例(±1mmHg以内):18眼3回点眼で改善4眼,不変のまま13眼,悪化1眼③下降例(2mmHg以上):6眼3回点眼でさらに下降した症例はなかった→昼の点眼はあまり効果がなかった1438あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(116)と思われる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)ShojiN:Brinzolamide:efficacy.safetyandroleinthemanagementofglaucoma.ExpertReviewofOphthalmology2:695-704,20073)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressureloweringeffectofbrinzolamide1.0%asadjunctivetherapytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglaucomaorocularhypertension:anuncontrolled,openlabelstudy.CurrMedResOpin21:503-507,20054)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧降下効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20065)今井浩二郎,森和彦,池田陽子ほか:2種の炭酸脱水酵素阻害点眼薬の相互切り替えにおける眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科22:987-990,20056)NakamuraY,IshikawaS,SakaiHetal:24-hourintraocularpressureinglaucomapatientsrandomizedtoreceivedorzolamideorbrinzolamideincombinationwithlatanoprost.ClinOphthalmol3:395-400,20097)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:ブリンゾラミド2回点眼からブリンゾラミド,ドルゾラミド3回点眼への変更による眼圧下降効果.臨眼63:63-67,20098)長谷川公,高橋知子,川瀬和秀:ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え効果の検討.臨眼59:215-219,20059)秦桂子,田中康一郎,杤久保哲男:1%ドルゾラミドから1%ブリンゾラミドへの切り替えにおける降圧効果.あたらしい眼科23:681-683,200610)TsukamotoH,NomaH,MukaiSetal:Theefficacyandoculardiscomfortofsubstitutingbrinzolamidefordorzolamideincombinationtherapywithlatanoprost,timolol,anddorzolamide.JOculPharmacolTher21:395-399,200511)小林博,小林かおり,沖波聡:ブリンゾラミド1%とドルゾラミド1%の降圧効果と使用感の比較─切り替え試験.臨眼58:205-209,200412)InoueK,WadaSA,WakakuraMetal:Switchingfromdorzolamidetobrinzolamide:effectonintraocularpressureandpatientcomfort.JpnJOphthalmol50:68-69,200613)久保田みゆき,原岳,久保田俊介ほか:ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え試験後の眼圧下降効果の比較.臨眼58:301-303,200414)ValkR,WeberC,SchoutenJetal:Intraocularpressureloweringeffectsofallcommonlyusedglaucoma.DrugsOphthalmol112:1177-1185,200515)TakahashiM,HigashideT,SugiyamaKetal:Discrepancyoftheintraocularpressureresponsebetweenfelloweyesinone-eyetrialsversusbilateraltreatment:Verificationwithnormalsubjects.Glaucoma17:169-174,2008***

ニプラジロール点眼の眼圧日内変動に与える薬剤効果 ─正常眼圧緑内障における検討─

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page11426あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(00)1426(98)0910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14261432,2008c〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島4-2-78大阪厚生年金病院眼科Reprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,PhD.,DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,4-2-78Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPANニプラジロール点眼の眼圧日内変動に与える薬剤効果─正常眼圧緑内障における検討─桑山泰明*1狩野廉*1中田敦子*1鈴木三保子*1菅波秀規*2,3浜田知久馬*3吉村功*3*1大阪厚生年金病院眼科*2興和株式会社臨床解析部*3東京理科大学大学院工学研究科EfectofNipradilolonCircadianVariationofIntraocularPressureinNormal-TensionGlaucomaYasuakiKuwayama1),KiyoshiKano1),AtsukoNakata1),MihokoSuzuki1),HidekiSuganami2,3),ChikumaHamada3)andIsaoYoshimura3)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,2)BiostatisticsandDataManagementDepartment,KowaCompanyLimited,3)GraduateSchoolofEngineering,TokyoUniversityofScience目的:正常眼圧緑内障(NTG)患者の眼圧日内変動に対するニプラジロール点眼の効果を検討した.対象および方法:NTG28例の眼圧日内変動を3時間ごとに自己測定空気眼圧計で測定した.ニプラジロール点眼の治療前,治療開始後1日目および3カ月目について,各時刻の眼圧の比較,交互作用項を含む線形モデルを用いた日内変動パターンの変化の検討を行った.さらに,コサインカーブに薬剤効果を表すパラメータを加えた周期線形混合効果モデルにより,本剤の効果を解析した.結果:治療開始後1日の21,3,9,12時と3カ月の21,0,9,12時で有意な眼圧下降が認められた(p<0.05).日内変動のパターンは治療前後で変化していた(交互作用:p<0.001)が,1日と3カ月では変化がなかった(交互作用:p=0.317,時期効果:p=0.965).日内変動は周期線形混合効果モデルによってよく説明でき,薬剤効果を表すパラメータは昼間と夜間で差がなかった(切片:p=0.71,傾き:p=1.00).結論:ニプラジロール点眼の効果は,3カ月継続使用でも減弱せず,昼夜で差がないことが示された.Theeectofnipradiloloncircadianvariationofintraocularpressure(IOP)wasexaminedin28patientswithnormal-tensionglaucoma(NTG).IOPwasmeasuredevery3hours,usingaself-measuringpneumatictonometer,before,1dayafterand3daysaftertreatmentwithnipradilol.Changesinthepatternofcircadianvariationwereexaminedusingalinearmodelthatincludedinteractionterms.Theeectofthedrugwasalsoanalyzedusingacircularlinearmixed-eectmodel,towhichwasaddedaparametershowingthedrugeectinacosinecurve.IOPreducedsignicantlyat21:00,03:00,09:00and12:00after1day,andat21:00,0:00,09:00and12:00after3monthsoftreatment(p<0.05).Thepatternofcircadianvariationchangedaftertreatment(interaction:p<0.001),butnochangewasobservedbetweentherstdayandafter3monthsoftreatment(interaction:p=0.317,periodeect:p=0.965).Circadianvariationwaswellexplainablebythecircularlinearmixed-eectmodel,andtheparametershowingdrugecacydidnotdierbetweendaytimeandnighttime(intercept:p=0.71,slope:p=1.00).Theeectofnipradilolwasnotreducedevenafter3monthsofcontinuoususe,andtheeectdidnotdierbetweendayandnight.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14261432,2008〕Keywords:ニプラジロール,正常眼圧緑内障,眼圧,日内変動,自己測定眼圧計.nipradilol,normal-tensionglaucoma,intraocularpressure,circadianvariation,self-measuringtonometer.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081427(99)はじめに緑内障はさまざまな要因により視神経障害をきたし,その結果として視野障害をひき起こす疾患であるが,正常眼圧緑内障(NTG)を含め緑内障性視神経症の最大の危険因子は眼圧とされている1).眼圧は常に一定の値を示すわけではなく,日内変動,季節変動などさまざまな周期で変動することが知られている24).診療時眼圧が目標値に調整されていると判断されても,診療時間外に眼圧が上昇している可能性があるため,NTG患者における眼圧日内変動の測定は,緑内障の病態把握,治療方針の決定,治療効果の判定を行ううえで重要な情報を提供する.筆者らは,NTG患者に持ち運び可能な自己測定空気眼圧計を貸し出し,自宅で眼圧日内変動を測定し,診療に活用してきた.しかし,眼圧日内変動は,個体,時点,周期性など多数の因子を含んだ複雑な構造を擁しており,薬物治療の効果を評価するうえでその解析方法は定まっていない.今回,a1,b遮断薬であるニプラジロール点眼液(ハイパジールコーワR点眼液)を使用したNTG患者の眼圧日内変動に対して統計モデルを当てはめた解析を行うことにより,ニプラジロールの薬剤効果の特徴を明らかにすることができたので報告する.I対象および方法1.対象本調査は,ハイパジールコーワR点眼液の眼圧日内変動に関する特別調査として「医薬品の市販後調査の基準に関する省令(GPMSP)」および「医療用医薬品の使用成績調査等の実施方法に関するガイドライン」に則り実施した.2000年8月1日から2003年7月31日までに大阪厚生年金病院眼科を受診したNTG患者のうち,緑内障手術の既往がなく,無治療時の眼圧日内変動を把握する必要があり,ニプラジロール点眼単独による治療を開始した患者28名を本研究の対象として登録した.なお,NTGの診断基準は,初診時およびそれ以降の複数回の外来診察時の眼圧がGoldmann圧平式眼圧計による測定で常に21mmHg以下であること,正常開放隅角であること,緑内障性視神経乳頭変化(網膜神経線維層欠損を含む)とそれに対応する緑内障性視野変化を有すること,視神経乳頭の緑内障性変化をきたしうる他疾患の既往もしくは存在がないこととした.対象の内訳は,男性12例,女性16例で,年齢は51.7±9.4歳(平均値±標準偏差)であった.2.眼圧日内変動の測定眼圧日内変動の測定には,自己測定空気眼圧計(Home-tonometer)5)を用いた.Hometonometerの測定値と,Gold-mann圧平眼圧計,通常の非接触式空気眼圧計の測定値の相関については,以前に85例85眼を対象に検討している.同一症例に対し,眼圧計ごとに異なる検者が,他の眼圧計の測定結果をマスクした状態で眼圧測定したところ,Home-tonometerとGoldmann圧平眼圧計の相関係数はr=0.86,Hometonometerと非接触式空気眼圧計の相関係数はr=0.84と,互いに高い相関があることを確認された(未発表データ).Hometonometerの使用方法を説明したうえで患者に貸し出し,自宅で患者自身が眼圧日内変動を測定した.ニプラジロール点眼の処方開始日にHometonometerを貸し出し,点眼開始前24時間の無治療時(0日)と点眼後24時間(1日)の眼圧日内変動を測定した.また,点眼後3カ月(3カ月)にもHometonometerを貸し出し,眼圧日内変動を測定した.眼圧は21時から3時間ごとに計8点/日(21,0,3,6,9,12,15,18時)を24時間1日とし,それぞれの時刻に両眼を5回ずつ測定するように指導した.ニプラジロール点眼は,用法・用量に従い,1回1滴,1日2回,朝は78時の間に,夜は1920時の間に両眼に点眼するよう指導した.3.眼圧日内変動の解析各時刻の,5つの測定値のうち,最大値と最小値を除いた3つの測定値の平均を各眼で算出し,左右眼の平均値をその時刻の眼圧とした69).まず,0日,1日および3カ月における各時刻(21,0,3,6,9,12,15,18時)の眼圧値について,繰り返しの1標本t-検定を用いて,0日と1日,0日と3カ月および1日と3カ月との間で比較した.つぎに,時期(測定日)を固定効果,患者を変量効果とした線形混合効果モデル10)を用い,一日の最高眼圧を0日,1日および3カ月の間で比較した.また,時刻と時期を主効果とし,時刻×時期の交互作用項を含む線形モデルの当てはめ11)により,点眼後に眼圧日内変動のパターンが変化しているかどうかを検討した.眼圧(mmHg)時間b0b1b2図1コサインカーブモデルIOP=(b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))IOP:モデルより推定された眼圧値,b0:位置(平均眼圧),b1:振幅(日内変動幅),b2:位相(最高眼圧時刻),t:時刻.全症例の眼圧日内変動データに一つのコサインカーブを当てはめ,個体差は変量効果を示すパラメータ(b0,b1,b2)を導入することで表現した.———————————————————————-Page31428あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(100)さらに,眼圧日内変動に及ぼす薬剤効果の解析を統計モデルによって試みた.線形モデルの当てはめによる検討から1日と3カ月の眼圧日内変動は変わっていないとみなすことができたため,周期性を利用した解析においては,1日と3カ月の眼圧は投与後の測定としてまとめて取り扱った.無治療時(0日)の眼圧日内変動には,個体差を変量効果としてコサインカーブを当てはめ(図1),得られたパラメータ(位置,振幅,位相)から一日の平均眼圧,眼圧変動幅,最高眼圧時刻を推定した.点眼後(1日,3カ月)の眼圧日内変動には,コサインカーブに,点眼後の眼圧下降作用を線形モデルとして追加した周期線形混合効果モデルを当てはめ(図2),得られたパラメータから眼圧下降作用を推定した.ここで用いた周期線形混合効果モデルとは,非線形混合効果モデル12)の一種であり,眼圧の周期的な変動に個体差があることを認めたうえで,眼圧日内変動の大きさと点眼による眼圧の下降の程度とを分離して推定ができる方法である.なお,有意水準は両側5%未満とした.本研究で使用した統計解析手法の詳細と統計学的な解説は別報を参照されたい13).II結果登録した28例のうち,4例はニプラジロール点眼を中止したなどの理由により,3カ月時の測定値が欠測となった.副作用としては,眼瞼炎が1例に,点状表層角膜症が2例に認められた.無治療時(0日),点眼後1日および3カ月における3時間ごとの各時刻における眼圧の推移を図3に,各時刻での眼圧表1各時刻での眼圧の変化測定時刻1日0日p値*3カ月0日p値*3カ月1日p値*21時1.64±1.23mmHg<0.0011.37±1.60mmHg0.0010.36±1.57mmHg0.2990時0.43±1.61mmHg0.1820.76±1.38mmHg0.0130.12±1.12mmHg0.6023時0.75±1.56mmHg0.0300.31±2.02mmHg0.4660.29±1.55mmHg0.4106時0.20±1.05mmHg0.3240.04±1.76mmHg0.9090.30±1.39mmHg0.3049時1.55±1.24mmHg<0.0011.56±1.90mmHg<0.0010.05±1.41mmHg0.88112時1.00±1.37mmHg0.0011.28±1.67mmHg0.0010.28±1.45mmHg0.37615時0.16±1.22mmHg0.4990.44±1.68mmHg0.2350.23±1.76mmHg0.55618時0.26±1.65mmHg0.4260.54±1.97mmHg0.1910.59±1.55mmHg0.088*:1標本t-検定.眼圧(mmHg)時刻(時)216+918b3b4b5b6図2周期線形混合効果モデル21=<t=<6のとき,IOP= (b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))+b3+b4・│t21│9=<t=<18のとき,IOP= (b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))+b5+b6・│t9│b0b2,b0b2,tの説明は図1参照のこと.b3:夜点眼切片(夜点眼直後の眼圧変化量).b4:夜点眼傾き(夜点眼後に眼圧下降が経時的に変化する割合).b5:朝点眼切片(朝点眼直後の眼圧変化量).b6:朝点眼傾き(朝点眼後に眼圧下降が経時的に変化する割合).もともと存在する生理的な日内変動を表すコサインカーブに,ニプラジロール点眼の薬剤効果として,点眼直後が最大となりその後経時的に一定の割合で眼圧下降作用が変化する線形モデルを加えた.1日2回の点眼時刻から,9時から18時までを昼間,21時から翌朝6時までを夜間とし,薬剤効果を示す定数(b3,b4,b5,b6)は昼間と夜間に分割した.薬剤効果の項をいずれも0とすると,無治療時(0日)の眼圧に当てはめたコサインカーブモデルとなる.眼圧(mmHg)211615141312点眼0#3691215:0日:1日:3カ月18時刻(時)点眼#*#*#**図3ニプラジロール点眼前後における眼圧の変化平均値(mmHg).0日n=28,1日n=27,3カ月n=24点眼時刻を矢印で示す.各時刻の眼圧を1標本t-検定にて比較した.*:1日目の眼圧が0日と比較し有意に低下(p<0.05).#:3カ月の眼圧が0日と比較し有意に低下(p<0.05).1日目と3カ月の比較では差はなかった.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081429(101)の変化量を表1に示す.点眼後1日では0日と比較して,21,3,9,12時に眼圧の有意な低下がみられ,点眼後3カ月でも0日と比較して,21,0,9,12時において眼圧の有意な低下が認められた(p<0.05,1標本t-検定).一方,点眼後1日と3カ月との比較では,いずれの時刻においても有意な差は認められなかった.線形混合効果モデルから推定された1日の最高眼圧は,0日,1日および3カ月で,それぞれ16.5mmHg,15.5mmHgおよび15.7mmHgとなり,1日と3カ月の最高眼圧は0日と比較して有意に低下していた(0日対1日:p=0.001,0日対3カ月:p=0.016).1日対3カ月では,最高眼圧に有意な差は認められなかった(p=0.685).交互作用項を含む線形モデルの当てはめでは,0日対1日および0日対3カ月の比較においていずれも交互作用が有意となり(p<0.001),ニプラジロール点眼後は眼圧日内変動の形状が変化していることが統計学的に示された.一方,1日対3カ月の比較では,交互作用は有意とならず(p=0.317),時期効果も認められなかった(p=0.965).無治療時(0日)の眼圧にコサインカーブを当てはめた結果を図4に示す.推定されたコサインカーブのパラメータは,位置(b0)が14.70mmHg,振幅(b1)が0.60mmHg,位相(b2)は0.49(およそ12時を指す)であった.点眼後(1日,3カ月)の眼圧に周期線形混合効果モデルを当てはめた結果を図5に,モデルから得られたパラメータを表3統計モデル当てはめにより得られた薬剤効果に関するパラメータパラメータ夜点眼朝点眼朝と夜の差p値*切片**b3=1.30(0.19)mmHgb5=1.29(0.19)mmHg<0.01mmHg0.71傾き***b4=0.13(0.03)mmHg/時間b6=0.12(0.03)mmHg/時間0.01mmHg/時間1.00*:1標本t-検定.**:ニプラジロール点眼直後の眼圧下降量(mmHg).***:点眼後,経時的に眼圧下降が減弱する割合(mmHg/時間).各パラメータの説明は図2を参照.表中かっこ内の数値は標準誤差.表2統計モデル当てはめにより得られた生理的日内変動に関するパラメータパラメータ無治療時(0日)点眼後(1日,3カ月)前後差p値*位置:b014.70(0.29)mmHg14.69(0.28)mmHg──振幅:b10.60(0.10)mmHg0.57(0.11)mmHg0.040.71位相:b2**0.49(0.04)0.49(0.04)0.010.90*:1標本t-検定.**:21時を起点に表示.b2=0.49は午前11時46分に相当する.眼圧日内変動に,無治療時はコサインカーブモデルを,点眼後は周期線形混合効果モデルを当てはめた.各パラメータの説明は図1,2を参照.表中かっこ内の数値は標準誤差.眼圧(mmHg)1615141312:測定値:推定値210369121518時刻(時)図4無治療時の眼圧日内変動に対するコサインカーブモデルの当てはめコサインカーブモデルによって得られた眼圧値(推定値)は,実際の眼圧測定値の平均(測定値)によく一致した.(コサインカーブモデルの式)IOP(mmHg)=(14.70+b0)+(0.60+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))図5点眼後の眼圧日内変動に対する周期線形混合効果モデルの当てはめ周期線形混合効果モデルによって得られた眼圧値(推定値)は,実際の眼圧測定値の平均(測定値)によく一致した.(周期線形混合効果モデルの式)21=<t=<6のとき,IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))1.30+0.13・│t21│9=<t=<18のとき,IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))1.29+0.12・│t9│点眼時刻を矢印で示す.眼圧(mmHg)211615141312点眼0369121518時刻(時)点眼:測定値:推定値———————————————————————-Page51430あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(102)表2,3にそれぞれ示す.周期線形混合効果モデルから得られた推定値のカーブは,実際の測定値のカーブとよく一致しており,当てはまりは良好であった.モデルから得られたパラメータのうち,夜の点眼時における点眼直後の眼圧変化量(b3:1.30mmHg)と朝の点眼時における点眼直後の眼圧変化量(b5:1.29mmHg)に差は認められなかった(p=0.71).また,夜間点眼後(21翌朝6時)に眼圧下降が経時的に変化する割合(b4:0.13mmHg/hr)と昼間点眼後(918時)に眼圧下降が経時的に変化する割合(b6:0.12mmHg/hr)の間にも差は認められなかった(p=1.00).無治療時の眼圧日内変動から得られたコサインカーブと周期線形混合効果モデルのコサインカーブ成分では,振幅と位相に有意な差はみられなかった(振幅:p=0.71,位相:p=0.90).III考按眼圧日内変動は,緑内障の病態把握,治療方針の決定,治療効果の判定を行ううえで重要な情報を提供する.薬剤の日内変動に及ぼす影響については,これまで各時刻について点眼前後の眼圧値を1標本t-検定で比較するという手法が用いられてきた.今回のニプラジロール点眼についても,点眼後1日では0日と比較して21,3,9,12時に,点眼後3カ月では21,0,9,12時に眼圧が有意に低下していた(表1).しかし,薬剤効果を精密に評価するためには,個体,時刻,周期性など多数の因子を含んでいるため,各時刻の眼圧を薬剤点眼前後で比較するだけでは十分に評価できないことがある.たとえば,ニプラジロール点眼の使用前後の眼圧日内変動のプロット(図3)からは,「点眼直後(21,9時)と比較して,つぎの点眼直前(6,18時)の眼圧下降は小さくなっている」,「昼間のほうが夜間と比べて眼圧下降が大きい」などの解釈が直感的に得られる.また,1日と3カ月では眼圧日内変動は同じにみえる.点眼前後で各時刻の眼圧を1標本t-検定により比較した結果(表1)は,上述の解釈の幾つかをよく裏付けてはいるが,夜間と昼間の違いを説明できていない.また,1日と3カ月で検定結果が異なる時刻が存在したことを1日と3カ月の違いと捉えるか,ばらつきの結果と捉えるかで,薬剤の効果の維持性に対する解釈が異なることになる.1標本t-検定のみでは十分納得のいく解析法とはいえない.そこで,これらの問題に対し客観的な回答を与える解析手法を考案し,ニプラジロール点眼の効果を評価することを試みた.統計学的な詳細は別報に譲るが,その概要は以下のとおりである.一つ目は,「1日の最高眼圧」の解析である.1日の最高眼圧が低下したかどうかは,薬剤治療の効果を評価する単純で明確な指標と考えた.この検討では,各患者の「1日の最高眼圧」を0日,1日および3カ月で比較するため,時期を固定効果,患者を変量効果とした線形混合効果モデルを用いた.二つ目は,「眼圧日内変動の形状」の解析である.各測定時刻で得られた眼圧の測定値を直線で結ぶことで,眼圧日内変動の形状がイメージされる.この形状が薬剤効果により変化したか否かを検討することで,日内変動の変化の有無がわかる.この検討では,時点(測定時刻)と時期(0日,1日,3カ月)を主効果とし,時点×時期の交互作用項を有する線形モデルを用いた.線形モデルの交互作用が有意であるという場合には,時期効果が各時点で一定ではなく,日内変動の形状が変化したということになる.一方,交互作用が有意ではないが,時期効果が有意という場合には,日内変動の形状が保持された状態で,日内変動が上下に平行移動するように変化したということになる.また,交互作用も時期効果も有意でない場合には,各測定時期の間で眼圧日内変動が変化したとはいえないことを意味している.三つ目は,「眼圧日内変動への統計モデルの当てはめ」である.Horieらは無治療時の原発開放隅角緑内障患者の日内変動にコサインカーブモデルを当てはめた14).筆者らは,先の1標本t-検定の結果からニプラジロール点眼は,点眼直後の時刻では眼圧下降効果が最大で,点眼直前の時刻ではその効果が減弱していると推察した.薬剤効果が点眼後速やかに発現し,時間の経過とともに徐々に減少していくことが前後差の比較から読み取れたため,これを線形項としてコサインカーブモデルに追加した.この日内変動を表す部分と薬剤効果を表す部分を同時にもつ“周期線形混合効果モデル”を当てはめることにより,ニプラジロール点眼の効果を数値で表現できると考えたわけである.これら三つの手法を用いてニプラジロール点眼の効果を解析した結果から,つぎのような解釈が成り立つ.線形混合効果モデルによる「1日の最高眼圧」の比較からは,点眼後1日と3カ月のいずれにおいても有意に最高眼圧を低下させていること,点眼後1日と3カ月の間では最高眼圧に差はみられないことが示された.交互作用項を含む線形モデルの当てはめによる「眼圧日内変動の形状」の解析結果から,眼圧日内変動の形状はニプラジロール点眼を点眼することにより変化し,1日と3カ月の間では変化していないことが示された.これら二つの解析結果から,ニプラジロール点眼は一日のなかの最高眼圧を有意に低下させているものの,時刻によって眼圧下降量が異なり,また,その眼圧下降効果は3カ月後も維持されているといえる.緑内障治療薬のなかでも特にb遮断薬は,長期間使用を継続した際に眼圧下降効果が減弱する,いわゆる薬剤耐性がみられることがあり,臨床上の問題の一つとなっている15).a1遮断作用とb遮断作用を併せ持———————————————————————-Page6あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081431(103)つニプラジロール点眼では眼圧下降効果が3カ月後も維持されることが示されたのは,興味深い結果である.「眼圧日内変動への統計モデルの当てはめ」の結果では,無治療時の日内変動から推定されたコサインカーブは,Yamagamiらの報告16)と比較すると日内変動幅を表す振幅が小さめであったが,平均眼圧および最高眼圧を示す時刻はほぼ一致した.また,NTG患者における日内変動の挙動に関する既存の報告と比べても,平均的な眼圧日内変動とみなせるものであった(表2)5).周期線形混合効果モデルから推定されたパラメータのうち,生理的日内変動に該当するコサインカーブ成分は振幅,位相のいずれも,無治療時のものと変わらなかった(表2).すなわち,このモデルによって,点眼後の眼圧日内変動は生理的な眼圧日内変動とニプラジロール点眼の効果に分離されたといえる(図6).分離されたニプラジロール点眼の効果は,点眼直後に最大の眼圧下降を示し,その後は時間の経過に伴い一定の割合で減弱するという線形項で十分に説明された.このモデルは測定値から直感的に得られた解釈のうち,「点眼後一定の割合で薬効が減弱する」ということを支持している.一方,「昼間のほうが夜間と比べて眼圧下降が大きい」という直感的解釈に対しては,朝点眼と夜点眼の間で薬剤効果に該当する成分のパラメータに違いはみられないという否定的な結果となった(表3).代表的なb遮断薬の一つであるチモロール点眼は,昼間は有意に眼圧を下降させるが,夜間,特に明け方にかけて眼圧下降作用がみられない時刻が存在することが報告されている17,18).このように緑内障治療薬の眼圧下降効果に日内変動がみられる原因は,それぞれの薬剤の眼圧下降機序によると考えられている19).すなわち,b遮断薬の眼圧下降機序は房水産生の抑制によるものであり,房水産生の多い昼間は眼圧下降効果が大きく,房水産生の少ない夜間は眼圧下降効果が小さくなると考えられる.一方,a1遮断薬の眼圧下降機序は,ぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進によるものと考えられている.ぶどう膜強膜流出路からの房水流出は眼圧非依存性であるので,ぶどう膜強膜流出を促進する薬剤は,一般的に眼圧が高いとされる昼間も,眼圧が低いとされる夜間も同じように眼圧を下降させると考えることができる.今回,ニプラジロール点眼では夜間にも昼間と同様の眼圧下降効果が認められたが,これはニプラジロール点眼が,b遮断作用に加えa1遮断作用を併せ持つことに起因していると推測される.今までの解析方法ではグラフから読み取れることを直接証明できなかったが,周期線形混合効果モデルを用いることで,眼圧日内変動および薬剤効果についてこれまで以上に詳細な解析結果を得ることができた.本検討により,ニプラジロール点眼は夜間も昼間と同様の眼圧下降作用を示し,その作用は3カ月の継続使用においても維持されていることが示された.このような薬剤効果の特性は,治療薬の選択や治療効果を確認するうえで有用な情報である.ニプラジロール以外の緑内障治療薬についても,今後これらの統計学的手法を用いることにより薬剤効果の特性がさらに明らかになれば,眼圧日内変動に合わせた薬剤選択に役立つと考える.文献1)桑山泰明:眼圧.正常眼圧緑内障(新家眞,谷原秀信編),p17-23,金原出版,20002)ZeimerRC:Circadianvariationsinintraocularpressure.TheGlaucomas(edbyRitchRetal),p429-445,Mosby,StLouis,19963)ShieldsMB:TextbookofGlaucoma4thed.p48-49,Wil-liams&Wilkins,Baltimore,19974)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼55:1519-1522,20015)狩野廉,桑山泰明:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌107:375-379,20036)石井玲子,山上淳吉,新家眞:低眼圧緑内障における眼圧日内変動測定の臨床的意義.臨眼44:1445-1448,19907)山上淳吉,新家眞,白土城照ほか:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌95:495-499,19918)堀江武:眼圧日内変動に関する臨床的研究.日眼会誌79:232-249,19759)梶浦祐子,坂井護,溝上國義:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.あたらしい眼科8:587-590,1991図6周期線形混合効果モデルの生理的日内変動および薬剤効果への分割周期線形混合効果モデル(推定値)を,もともとの生理的な眼圧日内変動(生理的日内変動)と,ニプラジロール点眼液による眼圧下降(薬剤効果,眼圧変化量として図に示す)に分割して示した.(生理的日内変動を表す項の式)IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))(薬剤効果を表す項の式)21=<t=<6のとき,IOP(mmHg)=1.30+0.13・│t21│9=<t=<18のとき,IOP(mmHg)=1.29+0.12・│t9│眼圧(mmHg)眼圧変化量(mmHg)210369121518161514131210-1-2時刻(時):生理的日内変動:薬剤効果:推定値———————————————————————-Page71432あたらしい眼科Vol.25,No.10,200810)松山裕,山口拓洋:医学統計のための線型混合モデル─SASによるアプローチ初版.p43-46,株式会社サイエンティスト社,200111)鷲尾泰俊:実験の計画と解析.p102-115,岩波書店,198812)GeertM,GeertV:ModelsforDiscreteLongitudinalData.p265-276,Springer,NewYork,200513)SuganamiH,KanoK,KuwayamaYetal:Comparisonofestimationmethodsforparametersinthecircularlinearmixedeectmodelincorpotatingdiurnalvariationforevaluatingglaucomatherapy.JapaneseJournalofBiomet-rics28:1-18,200714)HorieT,KitazawaY:Theclinicalsignicanceofdiurnalpressurevariationinprimaryopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol23:310-333,197915)WilliamPB:Shortterm“Escape”andlongterm“Drift”Thedissipationeectofthebetaadrenergicblockingagents.SurvOphthalmol28:235-240,198316)YamagamiJ,AraieM,AiharaMetal:Diurnalvariationinintraocularpressureofnormal-tensionglaucomaeyes.Ophthalmology100:643-650,199317)吉冨健志,春野功:低眼圧緑内障の眼圧日内変動に対するチモロールの効果.あたらしい眼科10:965-967,199318)McCannelCA,HeinrichSR,BrubakerRF:Acetazolamidebutnottimolollowersaqueoushumorowinsleepinghumans.GraefesArchClinExpOphthalmol230:518-520,199219)赤石貴浩,島崎敦,松木雄ほか:自動眼圧測定系を用いた家兎眼圧日内変動に対する各種眼圧下降剤の評価.日眼会誌107:513-518,2003(104)***