《原著》あたらしい眼科43(4):449.452,2026cアトピー性皮膚炎に対する治療強化により角結膜所見の改善を認めた難治性春季カタルの2例齋藤寛剛*1長島崇充*1清水俊輝*1,2加藤直子*1水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野CTwoCasesofTreatment-ResistantVernalKeratoconjunctivitiswithImprovedCorneoconjunctivalFindingsFollowingIntensifiedTreatmentforAtopicDermatitisHirotakaSaito1),TakamitsuNagashima1),ToshikiShimizu1,2)C,NaokoKato1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,DepartmentofVisualScience,NihonUniversitySchoolofMedicineC重症のアトピー性皮膚炎と春季カタルを合併したC2症例に対し,タクロリムス点眼に加えステロイド点眼や巨大乳頭切除でも改善がみられなかったが,アトピー性皮膚炎の治療強化により春季カタルの所見改善を認めたC2例を経験したので報告する.アトピー性皮膚炎が重症で春季カタルの治療反応性が悪い場合には,眼科的治療と並行して皮膚科でのアトピー性皮膚炎治療強化を行うことが有用な場合がある.CWeCreportCtwoCcasesCofCvernalkeratoconjunctivitis(VKC)inCpatientsCwithCsevereCatopicdermatitis(AD)C,CinCwhichCstandardCophthalmicCtreatmentsCincludingCtacrolimusCeyeCdrops,CcorticosteroidCeyeCdrops,CandCevenCgiantCpapillaCexcisionCfailedCtoCproduceCsigni.cantCimprovement.CHowever,CnotableCclinicalCimprovementCinCVKCCwasCobservedinbothcasesfollowingtheintensi.cationofdermatologictherapyforAD.The.ndingsinthesetwocas-essuggestthatinpatientswithpoorly-controlledsevereADandaninadequateresponsetoconventionalophthal-mictreatmentforVKC,amultidisciplinaryapproachthatincludesaggressivemanagementofADbyadermatolo-gistmaybebene.cialinachievingbetterocularoutcomes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(4):449.452,C2026〕Keywords:春季カタル,アトピー性皮膚炎.vernalkeratoconjunctivitis,atopicdermatitis.はじめに春季カタルは眼瞼結膜の巨大乳頭や輪部結膜の堤防状隆起などの増殖性変化を伴うアレルギー性結膜疾患であり,アトピー体質の小児に好発するが,一部には成人になってから発症する例もある.重症例の場合は角膜びらん,角膜シールド潰瘍などの角膜上皮病変を合併し,強い眼痛や視力低下を引き起こす.治療は抗アレルギー点眼薬に加えて重症例ではステロイド点眼薬が用いられ,点眼治療のみで効果不十分な患者に対して以前はステロイド瞼結膜下注射や内服,乳頭切除などが行われることもあった.2006年にシクロスポリン点眼薬,タクロリムス点眼薬のC2種類の免疫抑制薬の点眼が使用可能になり,ステロイド瞼板下注射や乳頭切除まで必要となる症例は激減した.しかし,まれに免疫抑制薬の点眼を用いても治療効果が不十分な症例が存在する.筆者らは,タクロリムス点眼処方でも改善がみられなかったが,合併するアトピー性皮膚炎の治療強化により春季カタルの所見の改善を認めたC2例を経験した.CI症例[症例1]42歳,男性.主訴:両眼充血,眼瞼腫脹,眼脂.既往歴:アトピー性皮膚炎.現病歴:中学生の頃から春季カタル,角膜潰瘍を繰り返しフルメトロンC0.02%点眼,タクロリムス点眼,巨大乳頭切除を受けていた.XX年CX月に左眼異物感を主訴として近〔別刷請求先〕齋藤寛剛:〒C236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HirotakaSaito,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9,Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama-shi,Kanagawa236-0004,JAPANC図1症例1の外眼部写真a:初診よりC1カ月後.左眼上眼瞼結膜に巨大乳頭と強い充血,浮腫がみられる.Cb:初診よりC1カ月後.左眼角膜の広範囲にびらんを認める.c:デュピルマブ投与C4カ月後.左眼上眼瞼結膜の巨大乳頭は消退している.Cd:デュピルマブ投与C4カ月後.左眼角膜上皮欠損は上皮化している.実質には血管新生を伴った瘢痕がみられる.医眼科を受診し,春季カタル,カタル性角膜潰瘍の診断でレボフロキサシンC0.5%点眼左眼C1日C4回,フルオロメトロン0.1%点眼左眼C1日C4回,ヒアルロン酸点眼左眼C1日C4回,オフロキサシン眼軟膏左眼C1日C2回を処方されたが,改善しないためCXX+1年CX月に当科に紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.8p(1.0C×sph+0.50DCcyl-1.00DAx35°),左眼1.0(矯正不能),眼圧は右眼9mmHg,左眼C16CmmHg.細隙灯顕微鏡観察では,両眼の球結膜充血と強い結膜浮腫,充血,眼脂を伴う上眼瞼結膜巨大乳頭を認めた.上眼瞼結膜巨大乳頭は左眼でとくに顕著だった.左眼には点状表層角膜症と角膜びらんを認めた.経過:春季カタルと判断し,タクロリムス点眼両眼C1日C2回を開始したところ,翌月再診時には右眼の巨大乳頭は消退した.しかし,左眼では巨大乳頭が残存し角膜びらんが遷延した.びらん周囲の堤防状の上皮を掻把し,巨大乳頭切除を施行するも改善を認めなかった(図1a,b).局所の治療のみで春季カタル改善は困難と判断し,皮膚科にアトピー性皮膚炎の治療強化を依頼した.皮膚科では,もともと投与されていた体幹のモメタゾンフランカルボン酸エステル軟膏,顔面のタクロリムス軟膏に加え,XX+1年CX+4月よりデュピルマブ皮下注射の投与が開始された.デュピルマブ投与開始以降左眼の巨大乳頭は徐々に改善した(図1c).左眼角膜病変はシールド潰瘍を形成していたため,潰瘍底掻把を行ったところ角膜上皮は速やかに上皮化した(図1d).デュピルマブ投与C2カ月後,結膜の炎症所見はほぼ消失し実質に混濁を残したものの角膜の上皮化も得られたため,タクロリムス点眼を終了した.[症例2]17歳,男性.主訴:両眼充血,眼脂.既往歴:アトピー性皮膚炎,小児喘息.現病歴:XX年春頃より両眼の掻痒,充血を主訴に近医眼科を受診し半年ほど治療を受けるも改善せず,他院を受診して両眼春季カタル,左眼角膜潰瘍と診断され,精査加療のため当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.15(0.5C×sph-4.00DCcyl-2.25DAx5°),左眼C0.1(0.5C×sph-3.75DCcyl-1.25DAx110°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C19CmmHg.両眼上眼瞼結膜に強い結膜浮腫,充血,眼脂を伴う巨大乳頭増殖(図2a,b)と右眼角膜には点状表層角膜症を認めた.左眼角膜にはシールド潰瘍(図2c,d)を認めた.図2症例2の外眼部写真a:初診時.右眼上眼瞼結膜に巨大乳頭と充血,浮腫,眼脂を認める.Cb:初診時.左眼上眼瞼結膜には巨大乳頭と充血,浮腫,わずかだが眼脂を認める.Cc:初診時.左眼角膜下方にシールド潰瘍を認める.Cd:フルオレセインでシールド潰瘍部に一致し染色されている.Ce:デルゴシチニブ投与開始C6カ月後.右眼巨大乳頭は横ばいだが眼脂は改善している.f:デルゴシチニブ投与開始C6カ月後.左眼巨大乳頭は消退した.経過:初診時より両眼にタクロリムス点眼C1日C2回,ベタ療のみでの改善は困難と判断し,同院皮膚科にアトピー性皮メタゾン点眼C1日C4回,エピナスチンC0.1%点眼C1日C2回,膚炎の治療を依頼した.プレドニゾロン眼軟膏C1日C1回を開始した.1カ月後の受診皮膚科では,近医で処方されていたプレドニゾロン眼軟時には左眼のシールド潰瘍は上皮化した.しかし,右眼にシ膏,d-クロルフェニラミンマレイン酸塩内服から,顔面のールド潰瘍が出現したためタクロリムス軟膏両眼皮膚C1日C1デルゴシチニブ軟膏,体幹のベタメタゾン軟膏とワセリン軟回を追加し,潰瘍底掻把を行ったところ,徐々に上皮化傾向膏に変更となり,アトピー性皮膚炎はC2カ月で改善がみられがみられ,矯正視力は右眼(0.9),左眼(1.2)まで改善した.た.それに伴い,右眼巨大乳頭は横ばいであったが左眼巨大しかし,両眼上眼瞼結膜巨大乳頭の改善が乏しく,局所の治乳頭は消退した(図2e,f).II考按今回,重症の春季カタルで眼科的な局所の投薬,外科的治療で治癒せず難渋したが,皮膚科に依頼して全身のアトピー性皮膚炎の治療を強化したことにより眼症状の改善がみられたC2例を経験した.春季カタルで形成される結膜巨大乳頭は,CD4陽性CT細胞,NK細胞,好酸球,好塩基球,マスト細胞などから産生されるC2型ヘルパーCT細胞(Th2)サイトカインであるインターロイキン(interleukin:IL)-4やCIL-13によって活性化された多核白血球から分泌される蛋白融解酵素による正常な結膜下組織の破壊,線維芽細胞による新たな細胞外マトリックスの産生亢進によるリモデリングの結果生じると考えられている1).また,IL-4,IL-13などのCTh2サイトカインや腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)-αは角膜への好酸球遊走を促進させることで角膜上皮びらんやシールド潰瘍の形成に寄与していると考えられている2).近年使用されるシクロスポリン点眼,タクロリムス点眼などのカルシニューリン阻害薬は,T細胞のクローン増殖を引き起こすCIL-2のT細胞内での発現を抑制することにより春季カタルの炎症を改善させる.一方で,アトピー性皮膚炎は免疫グロブリンCE(immuno-globulinE:IgE)を産生しやすい素因や皮膚の脆弱性を背景に,外的刺激により表皮角化細胞からのCIL-33,IL-25,胸腺間質性リンパ球新生因子(thymicCstromalClymphopoi-etin:TSLP)が産生され,IL-4,IL-5,IL-13,IL-31が産生される.2型炎症はアレルゲン特異的CIgEを誘導し,それはマスト細胞上のCIgE高親和性受容体に結合し炎症を惹起する3).今回アトピー性皮膚炎の治療強化で追加された薬剤のうちデュピルマブはCIL-4,IL-13のシグナル伝達を抑制する作用をもっており,カルシニューリン阻害薬の薬理作用点より下流にて直接CTh2系サイトカインを阻害することにより眼瞼のさらなる病勢の改善を得たと考えられる.また,症例C2で用いられたデルゴシチニブはサイトカイン受容体の細胞質部分であるヤヌスキナーゼを阻害し,IL-4,IL-13などのTh2サイトカインの伝達を抑制することで線維芽細胞の活性化を抑制して,結膜炎症の改善に寄与したと考えられる.春季カタルとアトピー性皮膚炎はともに,リンパ球,好酸球などの炎症細胞,IL-4,IL-13などのCTh2サイトカインが病態の中心となっている.全身的に重度のアトピー性皮膚炎を合併している症例では,局所的な春季カタルの治療を行っても十分な炎症コントロールが得られない場合があり,そのような場合には,眼局所の治療と並行して皮膚科に薬剤治療の強化を依頼し,全身的にアレルギー炎症の抑制が必要と考えられる.既報には今回の症例と同様に眼局所治療に反応性の悪い症例に対して,合併するアトピー性皮膚炎に対する治療強化として抗CIgE抗体製剤であるオマリズマブやヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)1阻害薬であるウパダシチニブを用いたことにより春季カタルの治療効果を得た報告や4.6),デュピルマブを用いたことにより巨大乳頭を伴うアトピー性角結膜炎や春季カタルの治療効果を得た報告もある7,8).それらにおいても全身のアレルギー炎症の抑制が春季カタルの改善に寄与した可能性が指摘されており,今回の症例もそれを支持するものと考える.気をつけるべき点としては,デュピルマブでは結膜炎など眼局所の副作用の出現が報告されており,また,デルゴシチニブでは過量投与では全身への影響が懸念され,局所の免疫低下による合併症も報告されているため3),投与中は注意深い経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FukudaCK,CKumagaiCN,CFujitsuY:FibroblastsCasClocalCimmunemodulatorsinocularallergicdisease.AllergolIntC55:121-129,C20062)福田憲:重症アレルギー性結膜疾患の病態と今後の治療展望C.アレルギー70:171-177,C20213)日本皮膚科学会,日本アレルギー学会,アトピー性皮膚炎診療ガイドライン策定委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2024.日皮会誌134:2741-2843,C20244)ZengariniCC,CRodaCM,CSchiaviCCCetal:SuccessfulCtreatmentCofCsevereCrecalcitrantCvernalCkeratoconjunctivitisCandCatopicdermatitisassociatedwithelevatedIgElevelswithomalizumab.ClinExpDermatolC47:604-606,C20225)MimaY,TsutsumiE,OhtsukaTetal:Acaseofrefrac-toryCvernalCkeratoconjunctivitisCshowingCimprovementCafterCtheCadministrationCofCupadacitinibCforCtheCtreatmentofatopicdermatitis.Diagnostics(Basel)C14:1272,C20246)KitoK,CFukudaCK,CKishimotoTCetal:TreatmentCofCvernalCkeratoconjunctivitisCusingCupadacitinib.CJAMACOpthalmolC142:680-681,C20247)FukudaK,EbiharaN,KishimotoTetal:AmeliorationofconjunctivalCgiantCpapillaeCbyCdupilumabCinCpatientsCwithCatopicCkeratoconjunctivitis.CJCAllergyCClinCImmunolCPractC8:1152-1155,C20208)TsuiMC,ChiangBL,WangIJetal:Successfultreatmentandpreventionoftherecurrenceofrefractoryvernalker-atoconjunctivitisCwithCdupilumab.CClinCExpCOphthalmolC50:1100-1103,C2022***