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3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):527.535,2012c3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験山口昌彦*1坪田一男*2渡辺仁*3大橋裕一*1*1愛媛大学大学院高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3関西ろうさい病院眼科TheSafetyandEfficacyofLong-termTreatmentwith3%DiquafosolOphthalmicSolutionforDryEyeMasahikoYamaguchi1),KazuoTsubota2),HitoshiWatanabe3)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KansaiRosaiHospital3%ジクアホソルナトリウム点眼液の長期投与時の安全性と有効性を検討するため,ドライアイ患者を対象としたオープンラベルによる多施設共同試験を実施した.被験薬は1回1滴,1日6回,28または52週間点眼とした.Sjogren症候群患者11例,Stevens-Johnson症候群患者2例を含む365例に被験薬が投与された.安全性では,発現率が高かった副作用は,眼脂(6.6%),結膜充血(5.5%),眼刺激(4.4%)および眼痛(3.3%)であった.副作用の程度については,ほとんどが軽度であり,被験薬投与継続中または終了後に,試験開始時と同程度か医学的に問題のない程度まで回復した.有効性では,角膜におけるフルオレセイン染色スコア,角結膜におけるローズベンガル染色スコアおよび涙液層破壊時間(BUT)は,治療期のすべての評価時点においてベースライン値と比較して有意なスコアの低下,もしくはBUTの延長を示し,28週間または52週間の点眼により効果が減弱することはなかった.自覚症状については,治療期のすべての評価時点で異物感,羞明感,.痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感および眼不快感は投与4週目までに改善し,28週間または52週間まで改善した状態を維持した.眼脂と流涙は改善効果が認められなかったが,投与期間中の悪化も認められなかった.以上より,3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイ患者に対する長期投与における安全性および有効性が確認された.Thesafetyandefficacyoflong-termtreatmentwith3%diquafosolophthalmicsolutionwereevaluatedin365patientswithdryeyediseaseinanopen-labelstudy(onedrop,6×-dayinstillationfor28or52weeks).Oftheadversedrugreactionsthatoccurredduringthetreatmentperiod,themostfrequentwere“eyedischarge”(6.6%),“conjunctivalhyperemia”(5.5%),“eyeirritation”(4.4%)and“eyepain”(3.3%).Mostoftheadversedrugreactionsweremild,allresolvingtoalevelequivalenttobaselineortoamedicallynon-problematiclevel,eitherduringcontinuanceofthestudydrugorafteritsdiscontinuance.Meanchangeinfluoresceincornealstainingscoreandrosebengalcorneal/conjunctivalstainingscoreshowedasignificantdecreasecomparedtobaseline(Week0)atallevaluationpointsduringthetreatmentperiod.MeanchangeinBUTwasfoundtoextendsignificantlycomparedtobaseline(Week0)atallevaluationpointsduringthetreatmentperiod.Regardingmeanchangeinsubjectivesymptoms,althoughnoimprovingtendencywasseenineyedischargeorlacrimationscores,scoresforforeignbodysensation,eyepain,dryfeeling,dullsensation,blurredvision,eyefatigue,oculardiscomfortandtotalsubjectivesymptomsshowedsignificantdecreasescomparedtobaseline(Week0)atallevaluationpointsduringthetreatmentperiod.Theaboveresultsconfirmthesafetyandefficacyoflong-termtreatmentwith3%diquafosolophthalmicsolutionindryeyepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):527.535,2012〕〔別刷請求先〕山口昌彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)Reprintrequests:MasahikoYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Touon-shi,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(93)527 〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):000.000,2012〕Keywords:ジクアホソルナトリウム点眼液,安全性,有効性,ドライアイ,長期試験,ムチン.diquafosolophthalmicsolution,safety,efficacy,dryeye,long-termstudy,mucin.はじめにドライアイは,2006年ドライアイ診断基準によれば,「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義されている1).わが国の疫学調査では,visualdisplayterminals(VDT)作業者におけるドライアイ罹患率は男性で10.1%,女性で21.5%とされている2)が,近年,VDT作業者,エアコン使用機会,コンタクトレンズ装用者や屈折矯正手術の増加などによってドライアイ患者数は増加傾向にあり3.8),日常臨床において最も遭遇する機会が多い疾患の一つになってきている.涙液層は,マイボーム腺より分泌される脂質,涙腺・結膜上皮より分泌される涙液水層,おもに結膜杯細胞より分泌される分泌型ムチンから構成されている9,10).分泌型ムチンは涙液水層中に濃度勾配をもって存在し,涙液水層の表面張力を低下させることによって涙液水層が角結膜上皮表面に広がりやすくしている11).また,角膜および結膜上皮表層には膜結合型ムチンが存在し,陰性に帯電していることによって,陽性に帯電している水分子を角結膜上皮表層にとどめる作用をもっていると考えられており10),分泌型と膜結合型の両方のムチンの働きによって涙液層は角結膜上皮の上に安定して存在することが可能になっている.したがって,涙液水層や分泌型および膜結合型ムチンの減少は,涙液の安定性を低下させ,ドライアイを発症させる要因となる12).ドライアイ治療の点眼薬としては,人工涙液や精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液がこれまで用いられてきたが,近年,新たなドライアイ治療薬として,水分およびムチンの分泌を促進する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%)が開発され,すでに臨床使用されている.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に対してアゴニスト作用を有するジヌクレオチド誘導体で,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,結膜上皮細胞からの水分分泌および結膜杯細胞からのムチン分泌を促進させる作用を示し13,14),涙液水層と涙液中ムチンを改善させることにより,ドライアイに対する治療効果を発揮すると考えられる.慢性疾患であるドライアイの治療では,長期間の点眼治療が必要となる場合が多く,点眼の安全性と有効性の確保はきわめて重要である.本報告では,ドライアイ患者を対象に3%ジクアホソルナトリウム点眼液の長期投与による安全性および有効性を検討した.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および方法1.対象本臨床試験は全国30医療機関において実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.対象はドライアイと診断された患者であり,選択基準は年齢20歳以上の性別を問わない外来患者で,観察期開始時に両眼が1995年のドライアイ研究会による診断基準においてのドライアイ確定例でフルオレセイン染色スコアが1点以上の症例とし,除外基準とともに表2に示した.試験開始前に,すべての被検者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.表1試験実施医療機関一覧医療機関名試験責任医師名医療法人社団深相会青木眼科青木繁医療法人平心会大阪治験病院安藤誠医療法人社団アイクリニック静岡菊川眼科池田宏一郎医療法人社団さくら有鄰堂板橋眼科医院板橋隆三医療法人社団博陽会おおたけ眼科つきみ野医院大竹博司医療法人健究社スマイル眼科クリニック岡野敬医療法人社団明医会上野眼科医院木村泰朗堀之内駅前眼科黒田章仁医療法人朔夏会さっか眼科医院属佑二さど眼科佐渡一成東京歯科大学市川総合病院眼科島﨑潤清水眼科清水裕子医療法人社団高友会立飛ビルクリニック眼科髙橋義徳医療法人社団もとい会谷津駅前あじさい眼科田中まりたはら眼科田原恭治慶應義塾大学病院眼科坪田一男医療法人社団聖愛会中込眼科中込豊医療法人社団富士青陵会中島眼科クリニック中島徹たなし中村眼科クリニック中村邦彦スカイビル眼科医院秦誠一郎医療法人知世会林眼科林直樹大阪大学医学部附属病院眼科前田直之医療法人社団真愛会真鍋クリニック眼科真鍋勉三橋眼科医院三橋正忠医療法人社団ルチア会みやざき眼科宮崎明子医療法人社団平和会葛西眼科医院村瀬洋子むらまつ眼科医院村松知幸国立大学法人愛媛大学医学部附属病院眼科山口昌彦独立行政法人国立病院機構東京医療センター眼科山田昌和渡辺眼科医院渡邉広己528あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(94) 表2選択基準および除外基準1)選択基準1.20歳以上2.観察期開始時において,両眼ともにドライアイ研究会による診断基準(1995年)に沿ってドライアイ確定例*と診断,かつ,フルオレセイン染色スコアが1点以上3.少なくとも片眼において,観察期終了時にフルオレセイン染色スコアが1点以上*ドライアイ確定例診断基準(1995年)に沿って,次の①および②を満たす患者をドライアイ確定例とする.①無麻酔下Schirmer試験で5分間に5mm以下または涙液層破壊時間(BUT)が5秒以下②フルオレセイン染色スコアが1点以上(3点満点)またはローズベンガル染色スコアが3点以上(9点満点)2)除外基準1.眼類天疱瘡と診断されている2.角結膜化学腐食または熱腐食と診断されている3.ドライアイ以外の治療を必要とする眼疾患を有する4.眼瞼が解剖学的および機能的に異常である(閉瞼不全など)5.同種造血幹細胞移植の既往を有する6.角膜屈折矯正手術の既往を有する7.アレルギー性結膜炎を有し,試験期間中に症状が増悪する恐れがあり,薬効評価上不適当と判断された8.観察期開始前3カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往を有する9.涙点の閉塞を目的とした治療(涙点プラグ挿入術,外科的涙点閉鎖術など)を観察期開始前1カ月以内まで継続していた10.心,肝,腎,血液疾患,その他の中等度以上の合併症をもち,薬効評価上不適当と判断された(中等度以上とは,例えば「1992年薬安第80号医薬品等の副作用の重篤度分類の基準について」のグレード2以上に相当)11.妊娠中,授乳中または妊娠している可能性がある,または予定の試験期間終了後1カ月以内に妊娠を希望する12.試験期間中に使用する予定の薬剤(フルオレセイン,ローズベンガル,塩酸オキシブプロカインなどの点眼麻酔剤)に対し,アレルギーの既往がある13.試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする14.試験期間中に併用禁止薬を使用する予定および/または併用禁止療法を実施する予定がある15.過去にジクアホソルナトリウム点眼液の治験に参加した(ただし,被験薬を点眼しなかった被検者は可とする)16.観察期開始前1カ月以内に他の治験に参加した2.被験薬被験薬である3%ジクアホソルナトリウム点眼液は,1ml中にジクアホソルナトリウム(図1)を30mg含有する無色澄明の水性点眼液である.観察期用プラセボ点眼液は,3%ジクアホソルナトリウム点眼液の基剤点眼液(有効成分を含有しない点眼液)である.3.用法・用量被験薬は1回1滴,1日6回(2.3時間毎),観察期2週間および治療期28週間または52週間,両眼に点眼した.観察期間中は観察期用プラセボ点眼液を,治療期間中は3%ジクアホソルナトリウム点眼液を,それぞれ点眼した.4.検査・観察項目試験期間中は表3のごとく検査・観察を行った.5.併用薬および併用療法試験期間を通じて,すべての眼科疾患に対する治療薬,副腎皮質ステロイド剤(眼瞼以外への皮膚局所投与は可とする),他の治験薬の併用は投与経路を問わず禁止した.併用禁止薬を除く薬剤の併用は可とした.試験期間を通じて涙点プラグ,外科的涙点閉鎖術,ドライアイ保護用眼鏡などの薬効評価に影響を及ぼす併用療法は行わないこととした.(95)OHNOOONNaOPOOOHHNaOPHHOOOHOOHNaOPOOHNNaOPOONOHHHHHOOH図1ジクアホソルナトリウムの構造式6.評価項目a.安全性の評価有害事象および副作用,臨床検査,眼科的検査をもとに安全性を評価した.あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012529 表3検査・観察項目観察項目観察期治療期観察期開始時(.2週)0週2週4週8.28または52週(4週ごとに来院)被検者背景,文書同意●点眼遵守状況●●●●自覚症状●●●●●前眼部所見●●●●●涙液層破壊時間(BUT)●●●●●フルオレセイン染色●●●●●Schirmer試験Ⅰ法(麻酔なし)●ローズベンガル染色●●●●眼科検査(眼底,視力,眼圧)●●●臨床検査●結果判定▲有害事象●●●●▲:治療期12週,28週および52週に実施.0~30~30~30点障害なし1点一部に障害あり2点半分以上に障害あり3点全体に障害あり図2フルオレセイン染色スコアの評価基準角膜の上部,中央部および下部の3箇所をそれぞれ0.3点の4段階でスコア化した(9点満点).0~30~30~30~30~30点障害なし1点一部に障害あり2点半分以上に障害あり3点全体に障害あり図3ローズベンガル染色スコアの評価基準角膜の上部,中央部および下部,結膜の耳側および鼻側の5箇所をそれぞれ0.3点の4段階でスコア化した(15点満点).b.有効性の評価評価対象眼はフルオレセイン染色スコアのベースライン値(0週評価時スコア)が高いほうの眼とした.左右眼のフルオレセイン染色スコアが同じ場合は,右眼を評価対象眼とした.なお,本試験におけるフルオレセイン染色スコアおよびローズベンガル染色スコアの評価基準を図2,3に示した.評価項目は,フルオレセイン染色スコア変化量,ローズベンガル染色スコア変化量,涙液層破壊時間(BUT)の変化量,自覚症状(11項目:異物感,羞明感,.痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感,眼不快感,眼脂,流涙,および11項目の合計スコア)の変化量の推移とした.530あたらしい眼科Vol.29,No.4,20127.解析方法安全性の解析では,被験薬を1回でも点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被検者を安全性解析対象集団とした.有効性の解析では,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet)を有効性の検討に使用し,投与前後の比較には対応のあるt検定を用いた.安全性および有効性に関する検定の有意水準は両側5%とした.解析ソフトはSAS(SASInstitute,Cary,NC)を用いた.II結果1.症例の内訳症例の内訳を図4に示した.文書同意を得た症例は395例で,そのうち30例が観察期中に中止・脱落し,治療期用被験薬が投与された症例は365例であった.治療期用被験薬投与開始後,28週以前の中止・脱落例は24例で,治療期用被験薬が28週間投与された症例は341例であった.そのうち,222例が28週間で投与を終了し,119例が52週までの延長登録を実施した.延長登録後,7例が中止・脱落し,治療期用被験薬が52週間投与された症例は112例であった.2.被検者背景安全性解析対象集団における被検者背景を表4に示した.3.安全性に関する成績a.有害事象および副作用治療期には有害事象が365例中245例に認められ,そのうち被験薬との因果関係が否定できない副作用は92例であった.治療期に認められた副作用(1%以上)を表5に示した.おもな副作用は,眼脂(6.6%),結膜充血(5.5%),眼刺激(4.4%),眼痛(3.3%)であり,これら以外はすべて3%以下であった.4週までに発現した副作用のうち,発現率(96) が高かった事象は眼脂(3.6%),眼刺激(3.3%)であり,その他の事象の発現率は3%未満であった.これら副作用の発現率は4週以降に減少し,長期投与により発現率が上昇することはなかった.他の副作用に関しても,長期投与により発現率が上昇することはなく,投与期間後期に多く発現する遅発性の副作用も認められなかった.b.臨床検査被験薬との因果関係が否定できない臨床検査値の異常変動は3.8%に認められた.すべての臨床検査値の異常変動は,治療期中止・脱落例24例治療期用被験薬が28週投与された症例341例文書同意を得た症例395例治療期用被験薬が投与された症例365例52週延長の登録症例119例治療期用被験薬が52週投与された症例112例観察期中止・脱落例30例28週で投与を終了した症例222例治療期中止・脱落例(28週以降)7例図4被検者の構成被験薬投与継続中または被験薬投与終了後に,試験開始時と同じ程度か医学的に問題のない程度まで回復した.c.眼科検査前眼部所見,眼圧値,眼底所見,矯正視力については,各群とも被験薬投与前後で医学的に問題となる変動は認められなかった.4.有効性に関する成績フルオレセイン染色スコアの0週からの平均実測値の推移を図5に示した.フルオレセイン染色スコアのベースライン値からの平均変化量(平均値±標準誤差)は,4週で.1.32±0.07,28週で.1.83±0.08,52週で.1.83±0.13と,いずれもスコアの有意な低下が52週間にわたり認められた.ローズベンガル染色スコアの0週からの平均実測値の推移を図6に示した.ベースライン値からの平均変化量(平均値±標準誤差)は,4週で.1.58±0.10,28週で.2.22±0.12,表4被検者背景例数安全性解析対象集団365年齢(歳)平均±標準偏差49.8±17.6性別男性女性79(21.6%)286(78.4%)Sjogren症候群の合併なしあり354(97.0%)11(3.0%)Stevens-Johnsonなし363(99.4%)症候群の合併あり2(0.6%)0週フルオレセイン染色スコア平均±標準偏差2.6±1.60週ローズベンガル染色スコア平均±標準偏差3.3±2.70週BUT平均±標準偏差3.0±1.2観察期Schirmer試験平均±標準偏差7.4±8.0表5治療期に認められた副作用(1%以上)例数(%)安全性解析対象集団:365発現時期0.4週4.8週8.12週12.16週16.20週20.24週24.28週28.36週36.44週44.52週合計眼障害結膜出血1(0.3)────1(0.3)1(0.3)1(0.3)2(0.5)─6(1.6)眼脂13(3.6)3(0.8)──2(0.5)─3(0.8)2(0.5)─1(0.3)24(6.6)眼刺激12(3.3)─2(0.5)1(0.3)1(0.3)─────16(4.4)眼痛4(1.1)2(0.5)2(0.5)1(0.3)─2(0.5)──1(0.3)─12(3.3)霧視2(0.5)─1(0.3)──1(0.3)────4(1.1)眼の異物感4(1.1)2(0.5)───1(0.3)─1(0.3)1(0.3)─9(2.5)結膜充血8(2.2)─3(0.8)1(0.3)2(0.5)─3(0.8)1(0.3)1(0.3)1(0.3)20(5.5)眼.痒感3(0.8)2(0.5)─1(0.3)1(0.3)2(0.5)─1(0.3)──10(2.7)眼部不快感3(0.8)1(0.3)──1(0.3)─────5(1.4)合計(件数)501084777652106(MedDRA/JVer.10.1より)(97)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012531 ScoreScoreScore3210:3%ジクアホソル******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)0481216202428323640444852Weekn=(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)図5フルオレセイン染色スコアの平均実測値の推移43210:3%ジクアホソル******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)0481216202428323640444852Weekn=(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)図6ローズベンガル染色スコアの平均実測値の推移532あたらしい眼科Vol.29,No.4,201252週で.1.54±0.17と,いずれもスコアの有意な低下が52週間にわたり認められた.BUTの0週からの平均変化量の推移を図7に示した.BUTのベースライン値からの平均変化量(平均値±標準誤差)は,4週で0.88±0.07,28週で1.72±0.12,52週で1.95±0.19と,いずれも有意なBUTの延長が52週間にわたり認められた.Stevens-Johnson症候群(以下,S-J症候群)合併例2例の評価眼におけるフルオレセイン染色スコア,ローズベンガル染色スコアおよびBUTは,いずれの症例でも点眼開始前後(0週→28週)で改善が認められた(フルオレセイン染色スコア:4→2〈症例1〉,6→3〈症例2〉,ローズベンガル(98)654321004812162024Week28323640444852(363)(361)(358)(354)(350)(345)(343)(341)(119)(118)(116)(114)(113)(112)n=:3%ジクアホソル******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)図7涙液層破壊時間(BUT)の平均実測値の推移 ScoreScoreScore1.51.00.50.004812162024Week28323640444852(236)(140)(235)(139)(234)(138)(233)(136)(230)(136)(226)(133)(225)(133)(224)(132)(84)(52)(84)(52)(83)(51)(81)(49)(81)(48)(81)(48)n=:異物感:羞明感:.痒感:眼痛平均値(159)(158)(157)(156)(155)(153)(152)(153)(57)(56)(54)(53)(53)(53)(153)(153)(152)(151)(150)(146)(145)(143)(59)(58)(57)(56)(56)(56)図8自覚症状推移(異物感,羞明感,.痒感,眼痛)1.5:乾燥感:鈍重感:霧視:眼疲労感1.00.50.00481216202428323640444852Weekn=(325)(324)(322)(318)(315)(310)(308)(306)(110)(109)(107)(105)(104)(103)(165)(164)(161)(160)(160)(158)(157)(157)(59)(59)(58)(57)(57)(57)平均値(129)(128)(127)(126)(123)(120)(120)(118)(47)(47)(46)(45)(44)(44)(248)(246)(244)(242)(241)(238)(237)(236)(82)(81)(79)(77)(77)(76)図9自覚症状推移(乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感)1.5:眼不快感:眼脂:流涙平均値1.00.50.0n=0481216202428323640444852Week(223)(222)(220)(218)(217)(215)(215)(213)(69)(69)(68)(66)(66)(65)(209)(209)(207)(206)(204)(201)(200)(200)(72)(71)(69)(68)(68)(67)(102)(101)(100)(99)(98)(97)(97)(97)(42)(42)(41)(40)(40)(39)図10自覚症状推移(眼不快感,眼脂,流涙)(99)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012533 Score7654321004812162024Week28323640444852:自覚症状合計スコア******************************************平均値±標準誤差***:p<0.001検定:対応のあるt検定(0週との比較)n=(360)(358)(355)(351)(347)(342)(340)(338)(118)(117)(115)(113)(112)(111)図11自覚症状合計スコアの平均実測値の推移染色スコア:6→1〈症例1〉,3→0〈症例2〉,BUT:3.3秒→6.0秒〈症例1〉,2.0秒→3.3秒〈症例2〉).自覚症状の推移を図8.10に,自覚症状合計スコアの推移を図11に示した.異物感,羞明感,.痒感,眼痛,乾燥感,鈍重感,霧視,眼疲労感,眼不快感および自覚症状合計スコアは,投与4週目までに改善し,52週目まで改善した状態を維持した.眼脂と流涙については,改善効果が認められなかったが,長期投与期間中の悪化も認められなかった.III考察ジクアホソルナトリウム点眼液は水分およびムチンを含む涙液の分泌を促進し,涙液の量的・質的改善を図ることによって,ドライアイの病態に即した治療が期待できる点眼薬である.まず,本剤の安全性であるが,発現率の高かった副作用は,眼脂(6.6%),結膜充血(5.5%),眼刺激(4.4%)および眼痛(3.3%)であり,特に投与開始4週間以内に発現率の高かったのは眼脂(3.6%)と眼刺激(3.3%)で,その他の発現率はいずれも3%未満であった.また,ほとんどの有害事象および副作用は投与初期の4週までに発現し,すべての有害事象および副作用は長期投与により発現率が上昇することはなく,投与期間後期にのみ発現する遅発性の事象も認められなかった.ほとんどの副作用が軽度で点眼の継続が可能な程度であり,点眼継続中に消失するか,点眼終了もしくは中止することにより消失したことから,3%ジクアホソルナトリウム点眼液の長期投与における安全性および忍容性に問題はないと考えられた.つぎに,本剤の有効性であるが,フルオレセイン染色スコアおよびローズベンガル染色スコアのベースライン値からの平均変化量は,52週間にわたり有意なスコアの低下が認められた.すなわち,角結膜上皮障害に対する有効性は,長期投与において持続し減弱しないことが示された.本臨床試験534あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012では,ローズベンガル染色スコアを角膜および結膜上皮のムチン被覆障害の評価方法として用いた.涙液の異常や眼表面環境の悪化に起因して上皮細胞の分化異常が生じ,角膜や結膜上皮が変性あるいは角化してムチンの被覆が不十分となった箇所が,ローズベンガル染色により染色される15.17).眼表面におけるムチンは,涙液の水分以外のおもな構成成分として存在しており,結膜上皮の杯細胞などから供給され,その作用としては,外界からのバリア機能,涙液の表面張力の低下,角結膜表面の潤滑作用,涙液の安定化などがあげられる.ドライアイでは,角結膜表面のムチン被覆障害により,涙液の眼表面への均一な伸展が阻害され,涙液層の厚みが不均一になることにより眼表面環境悪化の悪循環に陥ると考えられるため,ドライアイにおいてムチン被覆障害を改善させることは,治療においてきわめて重要である.本臨床試験での,ローズベンガル染色スコアの結果から,角膜および結膜上皮のムチン被覆障害に対する有効性は,長期投与において持続し減弱しないことが示された.また,海外における臨床試験では2%ジクアホソルナトリウム点眼液の投与6週における涙液分泌効果が示されており18),ジクアホソルナトリウム点眼液のムチンおよび涙液分泌促進作用により角結膜上皮改善効果が得られたと考えられる.さらに,BUTは,ベースラインからの平均変化量は,52週間にわたり有意な延長がみられた.BUTは,涙液層全体,すなわち油層,水層,分泌型ムチン,角膜上皮表層の膜型ムチンなどの状態を含めた涙液層の安定性を総合的に評価する検査である.よって,ジクアホソルナトリウムは涙液水層および分泌型ムチンの状態を改善させることによって,涙液層を長期にわたって安定させる効果があると考えられる.また,ジクアホソルナトリウムは膜型ムチンの遺伝子発現を促進させるという実験的報告もあり19),もし実際に本剤投与後にヒトでも膜型ムチンの改善が起こっているとすれば,BUTの改善に寄与している可能性がある.(100) また,今回,S-J症候群合併例が2例含まれていたが,2例とも角結膜上皮障害スコアおよびBUTともに本剤投与前後で改善傾向を示しており,S-J症候群に合併するドライアイにも有効である可能性が示された.自覚症状についても,多くの項目において投与4週目までに有意に改善し,52週目まで改善効果は持続した.このことは,角結膜上皮障害やBUTの改善する傾向と一致しており,他覚所見と自覚症状の改善において整合性のある結果といえる.結論として,ジクアホソルナトリウム点眼液は,ドライアイの病態に即した作用機序を示すことによって長期的にドライアイを改善させる点眼薬であり,長期投与における安全性についても問題がないことが確認された.文献1)島﨑潤,ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)UchinoM,SchaumbergDA,DogruMetal:Prevalenceofdryeyediseaseamongjapanesevisualdisplayterminalusers.Ophthalmology115:1982-1988,20083)UchinoM,DogruM,YagiYetal:ThefeaturesofdryeyediseaseinaJapaneseelderlypopulation.OptomVisSci83:797-802,20064)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayterminals.NEnglJMed328:584,19935)HikichiT,YoshidaA,FukuiYetal:PrevalenceofdryeyeinJapaneseeyecenters.GraefesArchClinExpOphthalmol233:555-558,19956)MossSE,KleinR,KleinBEK:Prevalenceofandriskfactorsfordryeyesyndrome.ArchOphthalmol118:12641268,20007)UchinoM,DogruM,UchinoYetal:JapanMinistryofHealthstudyonprevalenceofdryeyediseaseamongJapanesehighschoolstudents.AmJOphthalmol146:925-929e2,20088)TodaI,Asano-KatoN,Komai-HoriYetal:Dryeyeafterlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol132:1-7,20019)WolffE:AnatomyoftheEyeandOrbit.Ed4,p207-209,BlakistonCo,NY,195410)ArguesoP,Gipson,IK:Epithelialmucinsoftheocularsurface:structure,biosynthesisandfunction.Exp.EyeRes73:281-289,200111)DillyPN:Structureandfunctionofthetearfilm.AdvExpMedBiol350:239-247,199412)DanjoY,WatanabeH,TisdaleASetal:Alterationofmucininhumanconjunctivalepitheliaindryeye.InvestOphthalmolVisSci39:2602-2609,199813)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,201114)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖タンパク質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,201115)KinoshitaS,KiorpesTC,FriendJetal:Gobletcelldensityinocularsurfacedisease.ArchOphthalmol101:12841287,198316)FeenstaRPG,TsengSCG:Whatisactuallystainedbyrosebengal?ArchOphthalmol110:980-993,199217)TsengSCG,ZhangSH:Interactionbetweenrosebengalanddifferentproteincomponents.Cornea14:427-435,199518)TauberJ,DavittWF,BokoskyJEetal:Double-masked,placebo-controlledsafetyandefficacytrialofDiquafosol(INS365)ophthalmicsolutionforthetreatmentofdry-eye.Cornea23:784-792,200419)七條優子,中村雅胤:培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,2011***(101)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012535

タフルプロスト点眼薬のβ 遮断点眼薬への追加効果

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(99)959《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):959.962,2010cはじめに緑内障の進行を予防する効果的な治療方法として,エビデンスが得られているのは,眼圧下降のみである1).1999年にプロスト系プロスタグランジン(PG)関連薬が臨床の場に登場して以来,これまで,長年,使用されてきたb遮断薬に代わり,PG関連薬が第一選択となる症例が増えている.その理由として,PG関連薬は,1日1回の点眼で強力な眼圧下降効果が得られること,全身への副作用が少ないことがあげられる2).現在,国内では4種類のプロスト系PG関連薬が臨床使用されている.そのなかで,タフルプロスト点眼薬は,唯一,国内で開発されたプロスト系PG関連薬であり3),強力な眼圧下降効果が示されている4,5).眼圧下降機序には,房水産生,経Schlemm管流出路,経ぶどう膜強膜流出路が関与するが,各薬剤により房水動態に及ぼす影響は異なる.緑内障の薬物治療は,通常,単剤の点眼薬から開始する6)が,単剤では,目標眼圧に到達しない症例も多数ある.眼圧下降薬を併用する場合,各薬剤の作用機序を考慮して選択する必要がある.たとえば,房水産生を抑制するb遮断薬には,房水流出を促進するPG関連薬を組み合わせることが選択肢の一つである.しかし,臨床では,個体の薬剤反応性も大きく,薬剤の相加効果,相殺効果は必ずしも理論どおりにはいかない7).これまで,わが国ではb遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した臨床報告はない.今回,(広義)開放隅角緑〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANタフルプロスト点眼薬のb遮断点眼薬への追加効果比嘉利沙子*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座AdditiveEffectofTafluprostwithb-BlockerRisakoHiga1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,UniversityofTohob遮断点眼薬を3カ月間以上単剤使用している原発開放隅角緑内障患者にタフルプロスト点眼薬を追加投与した21例21眼の有効性と安全性を検討した.眼圧は,追加前,投与1カ月後,3カ月後を比較した.問診と細隙灯顕微鏡所見より安全性を確認した.眼圧は,追加前18.0±2.0mmHg,1カ月後15.7±1.6mmHg,3カ月後15.2±2.2mmHgで,タフルプロスト点眼薬追加後,有意に下降した(p<0.0001).眼圧下降幅は,1カ月後2.2±1.7mmHg,3カ月後2.8±1.8mmHgで,両者に有意差はなかった.眼圧下降率は,1カ月後12.0±8.0%,3カ月後15.6±9.1%で,両者に有意差はなかった.副作用として,タフルプロスト点眼薬追加後より1例に眼瞼発赤を認めた.タフルプロスト点眼薬をb遮断薬に追加投与した場合,眼圧は有意に下降し,眼圧下降効果は3カ月間持続した.安全性も良好であった.In21eyesof21glaucomapatientstreatedwithb-blockermonotherapy,weevaluatedtheefficacyandsafetyoftafluprostaddition.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredbeforeandat1and3monthsaftertafluprostaddition.Safetywasjudgedonthebasisofquestionnaireresponsesandslitlampfindings.IOPdecreasedsignificantly,from18.0±2.0mmHgto15.7±1.6mmHgafter1month,andto15.2±2.2mmHgafter3months.IOPreductionwas2.2±1.7mmHgafter1monthand2.8±1.8mmHgafter3months;therewerenosignificantdifferences.IOPreductionrateswas12.0±8.0%after1monthand15.6±9.1%after3months;therewerenosignificantdifferences.Adverseeffectssuchaslidrednesswereobservedin1patient.Additionalstudyisthereforeneededtofurtherestablishtheefficacyandsafetyofadjunctiveuseoftafluprostwithb-blockerfor3months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):959.962,2010〕Keywords:タフルプロスト,b遮断薬,追加効果,眼圧,有効性,安全性.tafluprost,b-blocker,additiveeffect,intraocularpressure,efficacy,safety.960あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(100)内障患者を対象とし,b遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した際の有効性と安全性を検討した.I対象および方法登録期間は2009年1月から8月までで,井上眼科病院で行った.症例の選択基準は,①(広義)開放隅角緑内障患者,②(広義)b遮断点眼薬を3カ月間以上単剤使用している患者,③20歳以上で同意能力がある患者,④文書で同意が得られた患者の4項目をすべて満たしていることを条件とした.副腎皮質ステロイド(点眼または内服)使用中のほか,3カ月以内の内眼手術,角膜屈折矯正手術,虹彩炎の既往歴のある症例は除外した.点眼は,使用中のb遮断薬(1日1回の点眼薬は朝点眼)にタフルプロスト点眼薬を1日1回夜に追加投与した.眼圧は,Goldmann圧平式眼圧計で,追加前,投与1カ月後,3カ月後に,診療時間内(9時から17時)の同一時間帯に同一検者が測定した.眼圧の解析は,1例1眼とし,両眼とも選択基準を満たした症例では,追加前の眼圧が高い眼,同値の場合は右眼を解析眼とした.眼圧は,b遮断薬単剤使用中の3回の平均値を基準値とし,1カ月後,3カ月後と比較した.統計学的解析には,repeatedANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.眼圧下降幅,眼圧下降率を算出し,それぞれ投与1カ月後と3カ月後を比較した.統計学的解析には,対応のあるt検定を用いた.有意水準を0.05以下とした.安全性については,問診と細隙灯顕微鏡の前眼部所見より判定した.本臨床研究は,井上眼科病院倫理審査委員会の承認(2008年11月20日取得)を得て実施した.II結果登録数は,22例33眼であった.そのうち,1例は,タフルプロスト点眼後より眼瞼発赤を認め点眼を中止としたため,脱落症例とした.解析症例数は,21例21眼(pseudophakia4例4眼を含む)であった.経過病型は,原発開放隅角緑内障7例(33%),正常眼圧緑内障14例(67%)であった.性別は男性7例,女性14例,年齢は63.8±16.1歳(平均±標準偏差)(20.86歳),観察期間は3.2±0.4カ月(2.6.4.0カ月)であった.追加前の平均眼圧は18.0±2.0mmHg(15.22mmHg)であった.Humphrey視野中心30-2プログラムSITA-standardのmeandeviation(MD)値は,.6.54±4.83(.18.01..0.37dB)であった.使用しているb遮断薬は,熱応答ゲル化,イオン応答ゲル化,水溶性を含むマレイン酸チモロールが10眼(47%),持続型を含む塩酸カルテオロールが6眼(29%),ニプラジロールが3眼(14%),塩酸レボブノロールが2眼(10%)であった(図1).1.有効性眼圧は,追加前18.0±2.0mmHg,投与1カ月後15.7±1.6mmHg,3カ月後15.2±2.2mmHgであった.眼圧は,投与1カ月後,3カ月後とも,追加前と比較して,有意に下降した(p<0.0001)(図2).眼圧下降幅は,1カ月後2.2±1.7mmHg,3カ月後2.8±1.8mmHgで,有意差を認めなかった(p=0.21)(図3).眼圧下降率は,1カ月後12.0±8.0%,3カ月後15.6±9.1%で,有意差を認めなかった(p=0.18)(図4).眼圧下降率10%未水溶性マレイン酸チモロール(1日2回朝夕点眼)ニプラジロール(1日2回朝夕点眼)塩酸カルテオロール(1日2回朝夕点眼)塩酸レボブノロール(1日2回朝夕点眼)熱応答ゲル化マレイン酸チモロール(1日1回朝点眼)イオン応答ゲル化マレイン酸チモロール(1日1回朝点眼)持続型塩酸カルテオロール(1日1回朝点眼)4眼(19%)4眼(19%)3眼(14%)3眼(14%)2眼(10%)2眼(10%)3眼(14%)図1使用しているb遮断点眼薬20181614120追加前1カ月後眼圧(mmHg)3カ月後22****図2タフルプロスト点眼薬追加前後の眼圧眼圧は点眼前に比較して,点眼投与1カ月後および3カ月後で有意に下降した.repeatedANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)**p<0.0001.64201カ月後眼圧下降幅(mmHg)3カ月後53178NS図3タフルプロスト点眼薬追加後の眼圧下降幅(101)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010961満が8眼(38.1%),20%以上が9眼(42.9%),30%以上の症例はなかった.2.安全性脱落症例1例(4.8%)は,タフルプロスト点眼開始時より,眼瞼発赤がみられたが,点眼中止により改善した.2例(9.5%)は,b遮断薬使用中より,軽度の表層角膜炎を認めたが,タフルプロスト点眼薬追加投与による悪化はみられなかった.結膜充血の自覚は,なしか軽微であり,点眼継続不可能な症例はなかった.また,眼症状以外の全身的副作用は,自覚的に認めなかった.III考按b遮断点眼薬単剤では,眼圧下降効果が不十分と判断した場合,眼圧下降効果が高いPG関連薬への切り替え8)またはPG関連薬や炭酸脱水酵素阻害薬などの追加投与を行う6).b遮断薬には,short-termescape,long-termdriftの2層性の眼圧変化が生じることが知られている9).今回は,b遮断薬を3カ月間以上単剤使用している患者で,さらに安定した眼圧が持続している症例を選択した.b遮断薬では,眼圧の変動が大きいが,本研究では点眼時間と眼圧測定時間を一貫することはできなかった.眼圧測定時間により,ピーク値あるいはトラフ値を測定している可能性がある.追加投与前の基準値となる眼圧は,眼圧変動も考慮して,b遮断薬使用期間中の3回の平均値とした.追加投与後の眼圧は,個々の症例において,同一時間帯で測定した.わが国では,b遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した臨床報告はない.海外では,b遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した臨床報告が一報10)ある.Egorovら10)は,チモロール点眼薬使用時の眼圧が22.30mmHgの緑内障,高眼圧症患者にタフルプロスト点眼薬を追加投与した場合,眼圧下降幅は6.22.6.79mmHgと有意に下降したと報告している.本研究では,投与3カ月後の眼圧下降幅は2.8±1.7mmHgであった.既報との眼圧下降幅の差は,追加投与前の眼圧の違いが大きな要因と考える.b遮断薬に他のPG関連薬を追加投与した臨床報告も散見される11,12).中井ら11)は,b遮断薬にラタノプロスト点眼薬を追加投与した場合,眼圧下降率は19.4±10.3%と報告している.Orengo-Naniaら12)は,b遮断薬にトラボプロスト点眼薬を追加投与した場合,眼圧下降幅は5.7.7.2mmHg,眼圧下降率は23.1.27.7%と報告している.試験デザインが異なるため,単純に数値を比較することはできないが,b遮断薬に他のPG関連薬を追加投与すると,有意に眼圧が下降することが示されている.タフルプロスト点眼薬の単独投与では,桑山ら5)は投与1カ月後の下降幅は6.6±2.5mmHg(投与前眼圧23.8±2.3mmHg)であったと報告している.タフルプロスト点眼薬は,第1剤として使用した場合に比べ,本研究のように第2剤目として使用した場合では,眼圧下降幅は小さくなることが推察される.眼圧下降薬を追加する場合,同じ作用機序を有する薬剤では,理論上,眼圧下降に対する相加効果はない.しかし,臨床では,薬剤の相加効果,相殺効果は必ずしも理論どおりにはいかない.副交感神経刺激薬であるピロカルピンは,経Schlemm管流出路の排出は促進するが,経ぶどう膜強膜流出路からの流出は減少させる.一方,PG関連薬は経ぶどう膜強膜流出路からの流出を促進する.一見,両薬剤は,相反する作用機序を有するようにみえるが,Fristromら7)は,ピロカルピンとラタノプロストを併用した場合の眼圧下降に対する相加効果を報告している.実際に,眼圧下降薬の併用療法を行う場合,作用機序や薬剤のもつ眼圧下降率のみでは,眼圧下降効果を予想することはむずかしい.本研究では,投与3カ月後の眼圧下降率は,15.6±9.1%であった.30%以上の眼圧下降が得られた症例はなかったが,20%以上の眼圧下降が得られた症例は9眼(42.9%)であった.一方,眼圧下降率が10%未満のノンレスポンダーも8眼(38.1%)存在したため,標準偏差値は大きくなったと考える.タフルプロスト点眼薬のおもな副作用は,結膜充血・眼充血(27.3%),眼掻痒症(9.1%),眼刺激(7.3%)と報告されている4).そのうち,中等度以上の副作用は,紅斑および眼瞼紅斑の2例(3.6%)のみと報告されている4).今回,1例(4.8%)は眼瞼発赤がみられ点眼薬を中止したため除外症例とした.この症例は,タフルプロスト点眼薬の中止により,症状は改善している.自覚的な結膜充血は,なしか軽微であり,点眼薬の継続は除外症例を除き,全例とも可能であった.虹彩や眼瞼の色素沈着や睫毛異常などのPG関連薬特有の眼合併症は,今回の経過観察期間中にはみられなかったが,今後,注意深く観察していく必要がある.緑内障治療は,長期にわたる薬物療法が中心であり,眼圧1カ月後眼圧下降率(%)3カ月後30NS20100402515535図4タフルプロスト点眼薬追加後の眼圧下降率962あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(102)下降効果を最大に得るには,点眼薬のアドヒアランスも重要な要素である.現在,b遮断薬と各PG関連薬の合剤の臨床報告13,14)も散見される.今後,これらの臨床成績にも注目したい.結論として,タフルプロスト点眼薬は,b遮断点眼薬に追加投与した場合,有意に眼圧が下降し,眼圧下降効果は3カ月間持続した.点眼薬の安全性も良好であった.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy-Group:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOphthalmol114:929-932,19963)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:NewfluoroprostaglandinF2aderivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20034)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20085)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(Tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20046)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20067)FristromK,NilssonSE:InteractionofPhXA41,anewprostaglandinanalogue,withpilocarpine.Astudyonpatientswithelevatedintraocularpressure.ArchOphthalmol111:662-665,19938)WatsonP,StjernschantzJ,LatanoprostStudyGroup:Asix-months,randomized,double-maskedstudycomparinglatanoprostwithtimololinopen-angleglaucomaandocularhypertension.Ophthalmology103:126-137,19969)BogerWP,PuliafitoCA,SteinertRFetal:Long-termexperiencewithtimololophthalmicsolutioninpatientswithopenangleglaucoma.Ophthalmology58:259-267,197810)EgorovE,RopoA:Adjunctiveuseoftafluprostwithtimololprovidesadditiveeffectsforreductionofintraocularpressureinpatientswithglaucoma.EurJOphthalmol19:214-222,200911)中井正基,井上賢治,若倉雅登ほか:bブロッカー点眼薬にラタノプロストを追加した症例の眼圧下降効果.あたらしい眼科22:693-696,200512)Orengo-NaniaS,LandryT,VonTressMetal:Evaluationoftravoprostasadjunctivetherapyinpatientswithuncontrolledintraocularpressurewhileusingtimolol0.5%.AmJOphthalmol132:860-868,200113)ArendKO,RaberT:Observationalstudyresultsinglaucomapatientsundergoingregimenreplacementtofixedcombinationtravoprost0.004%/timolol0.5%inGerman.JOcularPharmacoTher24:414-420,200814)RossiGC,PasinettiGM,BracchinoMetal:Switchingfromconcomitantlatanoprost0.005%andtimolol0.5%toafixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:a6-month,multicenter,cohortstudy.OpinPharmacoTher10:1705-1711,2009***

ブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントールR 0.01%点眼液)使用成績調査における安全性および有効性の検討

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(123)4050910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):405412,2009cはじめに現在,緑内障の薬物治療においては,b遮断薬やプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬が第一選択薬として用いられているが,単剤では十分な眼圧下降が得られず,多剤併用を要する症例も少なくない.また,長期にわたる治療では副作用などの問題で薬剤の変更を余儀なくされる場合もある.そのため,緑内障治療には複数の作用機序の異なる治療薬から患者の状態に応じて選択できることが望ましい.デタントールR0.01%点眼液(以下,「本剤」と略す)は参天製薬株式会社が開発し,2001年9月に発売した緑内障・高眼圧症治療点眼薬である.本剤は,ブナゾシン塩酸塩を有効成分とし,選択的交感神経a1受容体遮断作用を有する唯〔別刷請求先〕樋口直子:〒533-8651大阪市東淀川区下新庄3-9-19参天製薬株式会社市販後調査グループReprintrequests:NaokoHiguchi,PMSGroup,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-9-19Shimoshinjo,Higashiyodogawa-ku,Osaka533-8651,JAPANブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントールR0.01%点眼液)使用成績調査における安全性および有効性の検討樋口直子*1宮本悦代*1神田佳子*1岡本紳二*1橋本公子*1國廣英一*1石田智恵美*2柳井知子*2福本充*2*1参天製薬株式会社市販後調査グループ*2参天製薬株式会社安全性管理室SafetyandEcacyofBunazosinHydrochlorideOphthalmicSolution(DetantolR0.01%OphthalmicSolution)inaPost-marketingObservationalStudyNaokoHiguchi1),EtsuyoMiyamoto1),YoshikoKanda1),ShinjiOkamoto1),MasakoHashimoto1),EiichiKunihiro1),ChiemiIshida2),TomokoYanai2)andMitsuruFukumoto2)1)PMSGroup,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)Drug&DeviceSafetyInformationManagementOce,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.ブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントールR0.01%点眼液)の市販後の使用実態下における安全性および有効性を検討するため,ブナゾシン塩酸塩点眼液が新たに投与された緑内障および高眼圧症患者を対象とし,中央登録方式による前向きな使用成績調査を実施した.852施設より6,740例を収集した.副作用発現症例率は4.11%(254/6,178)で,おもな副作用は眼充血(結膜充血を含む)107件などの眼障害が233例(3.77%)279件であった.眼圧は,平均観察期間76.5日で,投与開始時19.2±5.8mmHgに対して2.7±5.0mmHgの有意な下降を示した(p<0.001).ブナゾシン塩酸塩点眼液は市販後の使用実態下においてもその安全性および有効性が確認され,緑内障および高眼圧症治療の第二選択薬として有用な薬剤であると考えられた.Toclarifythesafetyandecacyofbunazosinhydrochlorideophthalmicsolution(DetantolR0.01%ophthalmicsolution)inareal-worldsetting,weprospectivelyperformedthispost-marketingobservationalstudyonpatientswithglaucomaorocularhypertensionwhowereadministeredbunazosinhydrochlorideforthersttime.Atotalof6,740caseswerecollectedfrom852medicalinstitutions.Theincidenceofadversedrugreactions(ADR)was4.11%(254/6,178).AstomajorADR,279eyedisorderswerenotedin233patients(3.77%)includedhyperaemia(1.73%).Meanintraocularpressurewassignicantlydecreasedby2.7±5.0mmHgatamean76.5daysafteradminis-tration,ascomparedto19.2±5.8mmHgbeforeadministration(p<0.001).Thisstudyshowsbunazosinhydrochlo-rideophthalmicsolutiontobesafeandeectiveasasecond-linedrugforthetreatmentofglaucomaorocularhypertension,inareal-worldsetting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):405412,2009〕Keywords:ブナゾシン塩酸塩点眼液,使用成績調査,安全性,有効性.bunazosinhydrochlorideophthalmicsolution,post-marketingobservationalstudy,safety,ecacy.———————————————————————-Page2406あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(124)一の緑内障治療薬で,ブドウ膜強膜流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させる13).本剤は他の緑内障治療薬で効果不十分な場合,または副作用などにより他の緑内障治療薬の使用が継続できない場合に使用される第二選択薬であり,おもに併用あるいは他の緑内障治療薬から切り替えて使用されるが,このような使用状況における開発時のデータは限られている4,5).今回,承認後6年間の再審査期間中に,本剤の市販後の使用実態下における安全性および有効性に関する情報収集を目的とした使用成績調査を実施した.その結果を基に,使用状況による影響も含め,本剤の安全性および有効性につき検討したので報告する.I対象および方法1.調査方法本調査は「医薬品の市販後調査の基準に関する省令(GPMSP)」および「医療用医薬品の使用成績調査等の実施方法に関するガイドライン」に従い,目標症例数を6,000例,調査期間を2001年9月2004年8月で実施した.調査対象は,本調査の契約を締結した医療機関にて本剤が新たに投与された症例とし,中央登録方式にて実施した.すなわち,医療機関との契約締結日以降,本剤を投与開始した症例について投与開始から2週間以内に症例登録し,登録症例について標準4週間の観察期間終了後,調査票に記入することとした.調査項目は,患者背景,緑内障治療歴,本剤の投与状況,併用薬剤,眼圧などの臨床経過,有害事象とした.2.安全性の検討本剤の投与中または投与後に発現した医学的に好ましくないすべての事象を有害事象とし,有害事象のうち本剤との因果関係が否定できないものを副作用とした.収集症例のうち,登録の不備および初診以降来院がなく有害事象の有無を確認できなかった症例を除いた集団を安全性解析対象とし,副作用の種類,重篤度,発現率などを検討した.また,安全性に影響を及ぼす要因を探索するため,要因別の副作用発現率を検討した.さらに,本剤と併用される可能性の高いb遮断点眼薬やPG関連点眼薬では角膜障害の副作用が知られているため68),角膜障害の発現状況について検討した.なお,副作用用語はMedDRA/J(MedicalDictionaryforReg-ulatoryActivities/Japaneseedition:ICH国際医薬用語集日本語版)のVer.8.1を用いて集計した.3.有効性の検討有効性の指標には眼圧変化値(最終観察時眼圧値投与開始時眼圧値)を用いた.安全性解析対象症例のうち,効能・効果外使用および眼圧変化値評価不能症例を除いた集団を有効性解析対象とし,眼圧の推移を検討した.有効性評価対象眼は,本剤投与眼のうち,投与開始時眼圧値の高いほうの眼を,同じ場合には右眼とした.有効性に影響を及ぼす要因を探索するため,要因別,使用状況別の眼圧の推移を検討した.なお,眼圧および眼圧下降度は平均±標準偏差mmHgで示した.4.統計解析手法要因別の副作用発現率の検討にはc2検定を,眼圧の推移には対応のあるt検定を使用し,また,投与開始時眼圧値と眼圧変化値との関連性を検討するため,ピアソン(Pearson)の積率相関係数と回帰係数を求めた.有意水準は両側5%とした.II結果1.症例構成(図1)852施設より6,740例の調査票を収集した.このうち,登録の不備および初診以降来院なしの症例562例を除く6,178例を安全性解析対象症例とした.また,安全性解析対象症例より効能・効果外使用および眼圧変化値評価不能の症例727例を除いた5,451例を有効性解析対象症例とした.2.安全性a.副作用発現状況(表1)安全性解析対象症例6,178例における副作用発現率は4.11%(254/6,178)で,承認時までの臨床試験における副作用発現率3.30%(17/515)と比較して有意差は認められなかった(p=0.435,c2検定).おもな副作用の種類は,眼障害233例(3.77%)279件で,内訳は,眼充血(結膜充血を含む)107件,眼刺激および霧視が各16件,角膜炎15件,角膜びらんおよび眼の異物感が各14件,眼そう痒症および眼瞼炎が各12件,眼痛および点状角膜炎が各10件などであった.重篤な副作用は脳梗塞1件であった.本症例は85歳,女性で,本剤投与開始後1カ月以内に脳梗塞を発症し,本剤投与継続中に軽快した.b.要因別副作用発現状況(表2)検討した要因のうち,性別,年齢別,医薬品副作用歴有無別,緑内障薬物治療歴有無別および本剤1日平均投与回数別安全性解析対象除外症例562例安全性解析対象症例6,178例有効性解析対象除外症例727例有効性解析対象症例5,451例調査票収集症例6,740例図1症例構成———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009407(125)の副作用発現率に有意差が認められた.性別では女性,年齢別では65歳未満の非高齢者,医薬品副作用歴有無別では副作用歴「有」,緑内障薬物治療歴有無別では治療歴「有」で副作用発現率が高かったが,要因ごとの層別における副作用の種類に差は認められなかった.本剤1日平均投与回数別では,1日2回投与の症例が99.2%(6,129/6,178)を占めていたが,1日2回未満の副作用発現率が最も高く,投与回数の多い層で副作用が多いわけではなかった.緑内障治療点眼薬の併用が安全性に及ぼす影響を検討したところ,併用の有無で副作用発現率に有意差は認められず,表1副作用発現状況一覧表承認時迄の状況使用成績調査計安全性解析対象症例数5156,1786,693副作用発現症例数17254271副作用発現件数27308335副作用発現症例率3.30%4.11%4.05%副作用の種類承認時迄の状況使用成績調査計副作用種類別発現症例(件数)率(%)精神障害1(0.02)1(0.01)不眠症1(0.02)1(0.01)神経系障害2(0.39)11(0.18)13(0.19)異臭感頭痛頭皮異常感覚脳梗塞浮動性めまい2(0.39)1(0.02)7(0.11)1(0.02)1(0.02)1(0.02)1(0.01)9(0.13)1(0.01)1(0.01)1(0.01)眼障害16(3.11)233(3.77)249(3.72)アレルギー性眼瞼炎アレルギー性結膜炎ブドウ膜炎角膜びらん角膜炎角膜障害角膜上皮欠損角膜浸潤乾性角結膜炎眼そう痒症眼の異物感眼の違和感眼の乾燥感眼圧迫感眼乾燥眼刺激眼充血(結膜充血を含む)眼精疲労眼痛眼部不快感眼瞼そう痒症眼瞼炎眼瞼下垂眼瞼紅斑眼瞼湿疹眼瞼皮膚炎1(0.19)1(0.19)1(0.19)4(0.78)4(0.73)11(2.14)1(0.19)1(0.02)5(0.08)1(0.02)14(0.23)15(0.24)2(0.03)2(0.03)1(0.02)1(0.02)12(0.19)14(0.23)3(0.05)3(0.05)1(0.02)1(0.02)16(0.26)107(1.78)1(0.02)10(0.16)1(0.02)2(0.03)12(0.19)2(0.03)1(0.02)1(0.02)8(0.13)1(0.01)6(0.09)1(0.01)14(0.21)16(0.24)2(0.03)2(0.03)1(0.01)1(0.01)13(0.19)18(0.27)3(0.04)3(0.04)1(0.01)1(0.01)20(0.30)118(1.76)2(0.03)10(0.15)1(0.01)2(0.03)12(0.18)2(0.03)1(0.01)1(0.01)8(0.12)副作用の種類承認時迄の状況使用成績調査計副作用種類別発現症例(件数)率(%)眼障害(つづき)眼瞼浮腫強膜炎結膜炎結膜出血結膜乳頭状増殖結膜浮腫結膜濾胞点状角膜炎虹彩毛様体炎霧視網膜静脈閉塞流涙増加涙液分泌低下1(0.19)1(0.19)2(0.03)1(0.02)1(0.02)2(0.03)1(0.02)1(0.02)1(0.02)10(0.16)2(0.03)16(0.26)1(0.02)3(0.05)1(0.02)2(0.03)1(0.01)1(0.01)2(0.03)1(0.01)1(0.01)2(0.03)10(0.15)2(0.03)17(0.25)1(0.01)3(0.04)1(0.01)心臓障害4(0.06)4(0.06)動悸4(0.06)4(0.06)血管障害2(0.03)2(0.03)高血圧潮紅1(0.02)1(0.02)1(0.01)1(0.01)呼吸器,胸郭および縦隔障害1(0.02)1(0.01)喘息1(0.02)1(0.01)胃腸障害2(0.03)2(0.03)悪心2(0.03)2(0.03)全身障害および投与局所様態2(0.03)2(0.03)気分不良浮遊感1(0.02)1(0.02)1(0.01)1(0.01)臨床検査6(0.10)6(0.09)眼圧上昇血圧上昇血圧低下4(0.06)1(0.02)1(0.02)4(0.06)1(0.01)1(0.01)———————————————————————-Page4408あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(126)発現率を高めるような種類の併用薬もなかった.また,併用薬剤数別の検討で発現率に有意差が認められたが,薬剤数が多いほど発現率が高いという傾向はなかった.c.角膜障害発現状況(表3)角膜障害の発現率は0.71%(44/6,178)であった.内訳は,角膜炎15件,角膜びらん14件,点状角膜炎10件などで,重篤なものはなかった.緑内障治療点眼薬の併用が角膜障害表2要因別副作用発現状況一覧表要因症例数副作用発現症例数副作用発現症例率(%)検定安全性解析対象症例6,1782544.11性男性女性2,6023,576831713.194.78p=0.002年齢平均:67.7歳65歳未満65歳以上2,0314,147991554.873.74p=0.041使用理由緑内障高眼圧症その他複数疾患5,461634127122724034.163.7904.23p=0.869合併症無有不明・未記載1,5124,5181485619353.704.273.38p=0.375医薬品副作用歴無有不明・未記載4,87791238916367243.347.356.17p<0.001緑内障薬物治療歴無有不明・未記載1,5864,555374620712.904.542.70p=0.006本剤1日平均投与回数平均:2.0回2回未満2回2回超256,129244250016.004.080p=0.007緑内障治療併用点眼薬無有不明・未記載1,9974,181378217214.114.112.70p=1.000薬剤種類プロスタグランジン関連点眼薬無有3,2992,8791231313.734.55p=0.119b遮断点眼薬無有4,0012,177188664.703.03p=0.002ab遮断点眼薬無有5,787391242124.183.07p=0.347交感神経作動点眼薬無有6,1255325134.105.66p=0.824副交感神経作動点眼薬無有6,04613224954.123.79p=1.000炭酸脱水酵素阻害点眼薬無有5,532646237174.282.63p=0.058薬剤数無1剤2剤3剤4剤5剤1,9972,5111,24838536182118467014.114.703.691.820100p<0.001検定手法:c2検定(不明・未記載を除く).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009409(127)発現に及ぼす影響を検討したところ,併用の有無および併用薬剤数別で発現率に有意差は認められず,発現率を高めるような種類の併用薬もなかった.3.有効性a.眼圧の推移有効性解析対象症例5,451例における眼圧変化値は2.7±5.0mmHgで,投与開始時の19.2±5.8mmHgから最終観察時(平均観察期間76.5日)の16.5±5.0mmHgへ有意な下降を示した(p<0.001).また,投与開始時眼圧値と眼圧変化値には相関が認められ(r2=0.340,p<0.001,y=0.494x+6.802),投与開始時眼圧値が高いほど眼圧変化値は大きかった(図2).b.要因別使用状況別の眼圧の推移(表4)性別,使用理由別,投与開始時眼圧値別,緑内障薬物治療歴有無別でそれぞれ眼圧の推移を検討した.眼圧変化値は,各要因とも投与開始時眼圧値に相応した差は認められるものの,いずれの層も有意な下降を示した.使用状況別として,他の緑内障治療薬から切り替えて本剤を使用した場合,すでに使用されている緑内障治療薬に本剤を追加投与した場合,および少なくとも最終観察時に他の緑内障治療薬を併用していた場合についてそれぞれ検討した.他剤から切り替えて本剤を使用した症例は14.0%(763/5,451)であり,前治療薬の種類は,PG関連点眼薬(切り替え症例の45.5%),b遮断点眼薬(38.8%)が多かった.眼圧変化値は,切り替え例全体で1.0±4.9mmHg,前治療薬の種類別で0.92.8mmHgで,いずれも有意な下降を示した.他剤への追加併用で本剤を使用した症例は44.1%(2,404/5,451)であり,被併用薬剤の種類は,PG関連点眼薬(追加併用症例の67.5%),b遮断点眼薬(53.2%)が多かった.眼圧変化値は,追加併用症例全体で2.7±4.0mmHg,被併用20-15-10-505100510152025303540投与開始時眼圧値(mmHg)眼圧変化値(mmHg)r=-0.583y=-0.494x+6.802r2=0.340p<0.001図2投与開始時眼圧値と眼圧変化値の散布図表3角膜障害発現状況要因症例数角膜障害発現検定症例数症例率(%)安全性解析対象症例6,178440.71併用薬剤数無1剤2剤3剤4剤5剤1,9972,5111,2483853611316132000.650.641.040.5200p=0.748併用薬剤種類プロスタグランジン関連点眼薬無有3,2992,87918260.550.90p=0.130b遮断点眼薬無有4,0012,17731130.770.60p=0.525ab遮断点眼薬無有5,7873914130.710.77p=1.000交感神経作動点眼薬無有6,125534310.701.89p=0.841副交感神経作動点眼薬無有6,0461324400.730p=0.645炭酸脱水酵素阻害点眼薬無有5,5326464040.720.62p=0.960検定手法:c2検定.———————————————————————-Page6410あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(128)薬剤の種類別で2.53.5mmHgと,いずれも有意な下降を示した.他の緑内障治療薬を最終観察時に併用していた症例は67.4%(3,675/5,451)であった.内訳は,1剤併用2,252例(併用症例の61.3%),2剤併用1,095例(29.8%),3剤併用299例(8.1%)で,4剤以上の併用も29例あった.投与開始時眼圧値は,併用症例が19.8±6.0mmHg,非併用症例(本剤単剤治療症例)が18.0±5.3mmHgと併用症例のほうが高く,また,併用薬剤数が多いほど高かった.投与開始時眼圧値に相応した眼圧変化値の差は認められたものの,併用薬の有無あるいは併用薬剤数にかかわらず眼圧は有意な下降を示した.III考按現在,臨床に供されているおもな緑内障治療薬の種類には,房水産生抑制作用を有するb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI),房水流出促進作用を有するPG関連薬,房水産生抑制と房水流出促進作用を併せもつab遮断薬があり,a1遮断薬である本剤は房水流出促進系の薬剤に分類される.このうち,緑内障治療の第一選択薬はb遮断薬,PG関連薬およびab遮断薬であり,CAIおよびa1遮断薬は第二選択薬に位置付けられる.第二選択薬の多くは緑内障治療の2剤目,3剤目として使われるため,他剤併用時の安全性および有効性の検討が必要だが,表4要因別使用状況別の眼圧推移要因症例数眼圧値眼圧変化値(mmHg)検定投与開始時(mmHg)最終観察時(mmHg)有効性解析対象症例5,45119.2±5.816.5±5.02.7±5.0p<0.001性男性女性2,3063,14520.0±6.418.7±5.417.0±5.316.2±4.82.9±5.52.5±4.5p<0.001p<0.001使用理由緑内障高眼圧症4,84660518.8±5.922.6±4.016.2±5.118.8±3.72.6±5.03.8±4.7p<0.001p<0.001投与開始時眼圧値15mmHg未満15mmHg以上20mmHg未満20mmHg以上25mmHg未満25mmHg以上1,1001,8861,73872712.3±1.717.0±1.421.7±1.429.4±6.212.0±2.715.4±3.018.6±3.821.1±7.20.3±2.41.6±2.93.1±3.78.2±8.8p<0.001p<0.001p<0.001p<0.001緑内障薬物治療歴無有不明・未記載1,3904,0342720.0±7.018.9±5.319.2±9.115.8±4.516.8±5.115.0±4.34.2±6.02.2±4.44.2±7.3p<0.001p<0.001p=0.006他剤からの切替無有4,68876319.5±5.917.5±5.316.5±4.916.4±5.53.0±4.91.0±4.9p<0.001p<0.001前治療薬種類(重複集計)プロスタグランジン関連点眼薬b遮断点眼薬ab遮断点眼薬炭酸脱水酵素阻害点眼薬3472961354517.2±5.417.7±5.117.5±5.419.6±6.316.3±4.916.4±5.716.1±4.916.8±6.40.9±4.91.3±5.11.4±4.22.8±8.1p<0.001p<0.001p<0.001p=0.027他剤への追加併用無有3,0472,40419.1±6.319.3±5.216.4±5.116.6±4.92.7±5.62.7±4.0p<0.001p<0.001被併用薬剤種類(重複集計)プロスタグランジン関連点眼薬b遮断点眼薬ab遮断点眼薬炭酸脱水酵素阻害点眼薬1,6221,27823132219.3±5.119.8±5.219.0±4.821.8±6.816.6±4.817.1±5.116.5±4.618.3±6.22.7±4.12.7±4.22.5±3.53.5±5.2p<0.001p<0.001p<0.001p<0.001緑内障治療併用点眼薬無有1,7763,67518.0±5.319.8±6.015.8±4.716.9±5.12.2±4.32.9±5.2p<0.001p<0.001薬剤数1剤2剤3剤4剤5剤2,2521,09529928119.0±5.320.6±6.622.4±7.024.5±5.147.016.2±4.517.8±5.718.3±5.919.4±7.120.02.8±4.62.9±5.94.1±6.25.1±8.727.0p<0.001p<0.001p<0.001p=0.004平均±標準偏差.検定手法:対応のあるt検定(投与開始時との比較).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009411開発時に把握できる事項は限られる.したがって,市販後の使用実態下において,種々の使用状況における安全性および有効性を検討し,適正使用情報として提供することが重要と考える.本調査では,使用状況別に十分検討できるよう,目標症例数6,000例にて実施し,その結果,全国852施設より6,740例の調査票を収集した.安全性は6,178例において検討し,副作用は254例(4.11%)308件に認められた.1990年以降に上市された他の緑内障治療点眼薬,ベタキソロール塩酸塩,ニプラジロール,イソプロピルウノプロストンおよびラタノプロストの市販後の調査における副作用発現率はそれぞれ10.17%(ベトプティックR添付文書),8.07%(ハイパジールRコーワ添付文書),13.70%(レスキュラRインタビューフォーム),25.5%(キサラタンR添付文書)であり,調査時期や調査方法の違いを考慮する必要はあるものの,本剤の副作用発現率はこれらの薬剤と比べ高いものではなかった.おもな副作用の種類は眼障害で,233例(3.77%)に認められた.このうち,最も高頻度であったのは眼充血(結膜充血を含む)で,発現率は1.73%であったが,重篤なものはなかった.眼充血は,本剤のa1遮断作用により,眼局所の末梢血管が拡張して起こるものと考えられた.全身性の副作用に関しては,b遮断点眼薬で全身性の副作用が問題とされていること9),また,本剤の有効成分ブナゾシン塩酸塩の内服薬は高血圧治療薬として使用され,起立性低血圧,動悸などの副作用が知られていることから,循環器系副作用の発現状況を検討した.本調査における循環器系副作用は,動悸4件,高血圧,潮紅,血圧上昇および血圧低下が各1件であり,いずれも非重篤であった.安全性に影響を及ぼす要因の検討で,性別,年齢別,医薬品副作用歴有無別などで副作用発現率に有意差が認められたが,各層別の副作用の種類に差はなく,安全性に影響を与える患者集団は見当たらなかった.また,他の緑内障治療薬の併用についても,本剤の安全性に影響を及ぼすような薬剤はなく,併用薬剤数と副作用発現率との間にも一定の傾向は認められなかった.b遮断点眼薬やPG関連点眼薬では角膜障害の副作用が知られており68),これらの併用時には発現頻度が高まるとの報告もあることから6),角膜障害の発現状況を検討した.本調査において,角膜炎,角膜びらんなどの角膜障害の発現率は0.71%であった.前述の4種類の緑内障治療薬では,市販後の調査において,ベタキソロール塩酸塩で角膜びらん,角膜炎などの角膜障害が1.50%,ニプラジロールで表層角膜炎が1.17%,イソプロピルウノプロストンで角膜びらん,角膜炎などの角膜症状が5.49%,およびラタノプロストで点状表層角膜炎が4.8%,角膜びらんが2.5%認められている.副作用用語の集計方法,調査方法などに違いはあるものの,本剤の角膜障害発現率はこれらの薬剤と比べ高いものではなかった.また,緑内障治療薬の併用の有無,薬剤数および種類と角膜障害発現との関連を検討したが,併用による影響は認められなかった.有効性は5,451例において検討した.本剤投与後に眼圧は平均2.7mmHg下降し,投与開始時眼圧値が高いほど眼圧の下降は大きかった.有効性に影響を及ぼす要因として,性別,使用理由別などの要因別に眼圧の推移を検討したところ,いずれの層も有意な眼圧の下降を示した.各層別で眼圧下降度にやや差が認められたものの,いずれも投与開始時眼圧値に相応したものと推察された.使用状況別では,他の緑内障治療薬から切り替えて本剤を使用した症例は14.0%で,眼圧は切り替え後に平均1.0mmHg下降した.また,他の緑内障治療薬への追加併用で本剤を使用した症例は44.1%で,眼圧は本剤追加後に平均2.7mmHg下降した.なお,被併用薬剤の種類により眼圧の下降は2.53.5mmHgとやや差が認められた.併用効果が最も小さかったものはab遮断薬で,投与開始時眼圧値は19.0mmHgであった.一方,最も大きかったものはCAIで,投与開始時眼圧値は21.8mmHgであった.これより,眼圧変化値の差は投与開始時眼圧値に相応したもので,本剤の追加併用効果は被併用薬剤の種類には関連しないと考えられた.以上の調査結果より,デタントールR0.01%点眼液は,市販後の使用実態下においても安全性および有効性が確認され,他の緑内障治療薬と併用した場合にも,その種類にかかわらず安全性に問題点を認めず,明らかな眼圧下降を示したことから,緑内障・高眼圧症治療の第二選択薬として有用な薬剤であると考えられた.謝辞:稿を終えるにあたり,本調査にご協力賜り,貴重なデータをご提供いただきました多数の先生方に厚く御礼申し上げます.文献1)NishimuraK,KuwayamaY,MatsugiTetal:SelectivesuppressionbyBunazosinofalpha-adrenergicagonistevokedelevationofintraocularpressureinsympathecto-mizedrabbiteyes.InvestOphthalmolVisSci34:1761-1766,19932)景山正明,西村和夫,松木雄ほか:家兎における塩酸ブナゾシン点眼液の眼圧下降作用機序.眼紀46:1066-1070,19953)西村和夫,白沢栄一,木下満紀子ほか:a1遮断点眼剤Bunazosinのウサギおよびネコにおける眼圧下降作用.日眼会誌95:746-751,19914)土坂寿行,金恵媛,石綿丈嗣ほか:塩酸ブナゾシン(DE-(129)———————————————————————-Page8412あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009070)点眼液,b遮断剤からの切り替え試験.眼臨88:1562-1568,19945)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液とマレイン酸チモロール点眼液の併用効果の検討─塩酸ジピベフリン点眼液との比較─.あたらしい眼科19:261-266,20026)高橋奈美子,籏福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤あるいは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,19997)橘信彦,木村泰朗,石井るみ子ほか:イソプロピルウノプロストン(レスキュラ)点眼液によると思われる角膜上皮障害.あたらしい眼科13:1097-1101,19968)田聖花,中島正之,植木麻理ほか:ラタノプロストによると考えられる角膜上皮障害.臨眼55:1995-1999,20019)福地健郎:緑内障の治療─緑内障の薬物治療,緑内障治療薬・交感神経阻害剤b遮断薬.眼科44:1458-1463,2002(130)***