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2013年に細菌性角膜炎を疑った病変部からの分離細菌のレボフロキサシン耐性率

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):584〜588,2016©2013年に細菌性角膜炎を疑った病変部からの分離細菌のレボフロキサシン耐性率石山惣介岩崎琢也野口ゆかり森洋斉子島良平宮田和典宮田眼科病院LevofloxacinResistanceinBacteriaIsolatedfromLesionsofSuspectBacterialKeratitisin2013SosukeIshiyama,TakuyaIwasaki,YukariNoguchi,YosaiMori,RyoheiNejimaandKazunoriMiyataDepartmentofOphthalmology,MiyataEyeHospital目的:2013年に細菌性角膜炎を疑った症例の病変部擦過検体より分離された細菌のレボフロキサシン耐性率を明らかにする.方法:2013年に宮田眼科病院を受診し,細菌性角膜炎を疑った122例123眼を対象とした.初診時に角膜病変擦過物の塗抹鏡検と培養検査を行い,グラム染色所見・分離菌種・レボフロキサシンの薬剤耐性を検討した.結果:塗抹鏡検は38眼(30.9%)が陽性となった.その内訳は,グラム陽性球菌が20眼(51.3%),グラム陽性桿菌が15眼(38.5%),グラム陰性球菌が1眼(2.6%),グラム陰性桿菌が3眼(7.7%)であった.細菌培養は92眼(74.8%)が陽性となり,147株を分離した.内訳は,Propionibacteriumacnes(P.acnes)57株(38.8%),Staphylococcusepidermidis(SE)26株(17.7%),coagulase-negativestaphylococcus(CNS)21株(14.3%),Staphylococcusaureus(SA)18株(12.2%),Corynebacterium属10株(6.8%),その他の細菌が15株(10.2%)であった.レボフロキサシン耐性率はP.acnes5.3%,SE57.7%,CNS28.6%,methicillin-susceptibleSA25.0%,methicillin-resistantSA100.0%,Corynebacterium属60.0%であった.結論:細菌性角膜炎の疑い症例におけるP.acnesを除く主要分離菌におけるレボフロキサシン耐性の増加が示唆された.起因菌の薬剤耐性の傾向を把握することが,適切な抗菌薬選択において重要である.Purpose:Torevealthelevofloxacinresistanceofisolatesfromcorneallesionsofsuspectbacterialkeratitisofpatientswhovisitedin2013.Subjectsandmethods:123corneallesionsof122patientswerescrapedforcytologicalexaminationandforbacterialisolation.IsolatedbacteriawereassessedforlevofloxacinsusceptibilityusingtheClinicalandLaboratoryStandardsInstitutestandard.Results:Microscopicexaminationrevealedbacterialpresencein38lesions(30.9%):Gram-positivecocciin20lesions(51.3%),Gram-positivebacilliin15lesions(38.5%),Gram-negativecocciin1lesion(2.6%)andGram-negativebacilliin3lesions(7.7%).Bacterialexaminationresultedin147isolatesfrom92corneallesions(74.8%):57isolatesofPropionibacteriumacnes(P.acnes)(38.8%);26Staphylococcusepidermidis(SE)(17.7%);21coagulase-negativestaphylococcus(CNS)(14.3%);18Staphylococcusaureus(SA)(12.2%);10Corynebacteriumsp(6.8%);and15otherspecies(10.2%).Levofloxacinresistancesoftheisolatesfromthecorneallesionswere:P.acnes5.3%,SE57.7%,CNS28.6%,methicillin-susceptibleSA25.0%,methicillin-resistantSA100.0%andCorynebacteriumspp.60.0%.Conclusion:Themajoragentscausingbacterialkeratitisshowedincreasedresistancetolevofloxacininpatientswhovisitedin2013.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):584〜588,2016〕Keywords:細菌性角膜炎,検出菌,レボフロキサシン,抗菌薬耐性.bacterialkeratitis,isolatedbacteria,levofloxacin,antibioticresistanceはじめに耐性菌の出現は感染症を扱うすべての科に共通した問題である.抗菌薬の使用により耐性菌が選択的に増殖することが知られ,眼科領域においても抗菌点眼薬の反復投与による耐性菌の出現が報告されている1,2).米国のClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)は2008年に肺炎球菌について,髄膜炎と非髄膜炎とで異なるペニシリン感受性判定基準を提唱した3).これは,感染臓器が血液脳関門で守られている中枢神経系の場合,薬剤移行性が悪く,通常の量の抗菌薬では濃度が不十分となり,治療に失敗する可能性がある細菌が存在することを示している.つまり,病巣における抗菌薬濃度が不十分であれば,軽度耐性菌に対しても治療はうまくいかない可能性が高くなる.眼科においては,福田らがキノロン系点眼抗菌薬の眼内移行率について定量的に解析しているが4),眼科領域の抗菌薬の薬物動態についての情報は乏しい.薬剤の抗菌作用だけでなく,薬剤の組織移行性が治療の成否(臨床的な薬剤感受性)にかかわる重要な要素であることが認識されている.耐性菌の全国における発生状況については,厚生労働省が2007年より院内感染対策サーベイランスを実施し,サーベイランス事業に参加医療機関で分離された細菌の情報を把握し,その情報を提供している5).このサーベイランスは,全国的な耐性菌の発生状況を表わしているので,耐性菌を考慮した抗菌薬の選択を適切に行うためには,地域ごとに耐性菌の分離状況を把握する必要がある.眼科領域において細菌感染症の治療薬として広く用いられているのは,キノロン系点眼抗菌薬であり6),オフロキサシン・ノルフロキサシン・ロメフロキサシン・トスフロキサシン・レボフロキサシン・ガチフロキサシン・モキシフロキサシンと,7種類の製剤が入手可能である.本研究では,2013年に宮崎県都城市にある宮田眼科(以下,当院)外来を受診し,細菌性角膜炎を疑い,角膜病変を擦過し,塗抹ならびに細菌分離を行った症例の分離した細菌とそのレボフロキサシン耐性率を検討した.I対象および方法1.対象2013年1月1日〜12月31日に当院を受診した患者のうち,角膜上皮障害と角膜実質内細胞浸潤の存在より,臨床的に細菌性角膜炎を疑った122例123眼を対象とした.症例の性別は男性55例,女性67例.平均年齢は52.4±22.7歳であった.単純ヘルペスウイルス・アカントアメーバ・真菌感染の確定診断例は除外した.2.方法初診時に以下の方法を用いて,細菌学的解析のための検体を角膜病変より採取した.0.4%オキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシール®)にて表面麻酔を行い,実体顕微鏡下でスパーテルを用いて上皮を剝離し,病巣を擦過した.院内検査室で塗抹標本を作製し,グラム染色後に鏡検した.培養検査は阪大微生物病研究会に依頼した.感受性の判定はCLSIの基準に準拠した.この基準では薬剤感受性についてはMIC値より判断し,S(感受性)・I(中間)・R(耐性)の3カテゴリに分類する.本研究ではIとRは耐性菌と判断した.レボフロキサシン耐性率を(I+R)/(S+I+R)×100%と定義した.II結果1.角膜病変の擦過検体の形態学的解析123眼の擦過塗抹標本をグラム染色後に鏡検した.38眼(30.9%)の検体に細菌を検出した.1眼の検体では2種類の菌形状(グラム陽性球菌とグラム陰性桿菌)を認めた.その他の眼では1検体につき1つの菌形状を検出した.その内訳は,グラム陽性球菌とグラム陽性桿菌の検出率が高く,グラム陰性球菌とグラム陰性桿菌の検出率は5%未満であった(表1).2.角膜病変の擦過検体からの細菌分離123眼中92眼(74.8%)の角膜擦過検体より細菌が分離された.分離株総計は147株であった.嫌気性菌であるグラム陽性桿菌のPropionibacteriumacnesがもっとも多く分離され(n=57),ついでStaphylococcusepidermidis(n=26),その他のcoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)(n=21),Staphylococcusaureus(n=11)(うち6株がmethicillin-resistantS.aureus)と,分離株におけるグラム陽性球菌の割合は半数近くを占めている.グラム陽性桿菌のCorynebacterium属は10検体より分離された.これ以外に,Streptococcus属,Enterococcusfaecalis,Streptococcuspneumoniae,Micrococcus属,Bacillus属,Neisseriagonorrhoeae,Serratia属,Pseudomonasaeruginosaが分離された(表2).3.角膜病変の塗抹鏡検所見と分離菌の一致率グラム陽性球菌が塗抹検体に検出された場合,75%の症例でグラム陽性球菌が分離された.塗抹標本にグラム陽性桿菌を検出した場合のグラム陽性桿菌の分離率は低く,3例はCorynebacterium属,1例はP.acnesであり,グラム陽性球菌が分離される頻度が高かった(66.6%).グラム陰性球菌が塗抹検体で検出された1例はN.gonorrhoeaeが分離され,両者が一致していた.グラム陰性桿菌の例では1例が一致し,P.aeruginosaが分離され,残りの2例ではグラム陽性球菌が分離されている(表3).4.分離細菌のレボフロキサシン耐性率主要分離細菌のレボフロキサシン耐性率はmethicillinresistantS.aureus(MRSA)の全分離株が耐性菌であり,S.epidermidisとCorynebacterium属,Serratia属は半数以上が耐性であり,coagulase-negativeStaphylococcusとmethicillin-susceptibleS.aureus(MSSA)は20%台の耐性,P.acnesは5%台であった(表4).III考按2013年の当院において細菌性角膜炎を疑った123眼の角膜病変中74.8%が培養陽性であり,約4分の1の症例が分離陰性であった.微生物性角膜炎の病変部からの細菌分離の陽性率は1955〜1979年のNewYorkでは49%7),1985〜1989年のBaltimoreでは40%,1977〜1996年の熊本県では83.3%9),1999〜2003年の栃木県では49.2%10)(真菌感染を除いて算定),2002〜2007年の愛媛県では60%であり11),さらに2003年のわが国の感染性角膜炎サーベイランスでは43.3%(261例中113例)であった6).細菌性角膜炎を臨床的に疑っても病原体が全例より分離できない背景として,分離率が異なる背景として角膜病変が小さいこと,角膜ゆえの過剰の擦過が困難なこと,検査前の抗生物質投与があげられている6,10〜12).本研究で分離された菌種は,それぞれの分離率は異なるものの,これまでの報告とほぼ類似し,2013年の当院における細菌性角膜炎の起因菌は他の年代あるいは他の地域と大幅に異なってはいなかったが,S.pneumoniaeは1例と少なく,Moraxellaは分離されていない.竹澤ら10),木村ら11)の報告でもS.pneumoniaeは少なく,最近の傾向のようである.Moraxella例は熊本大の宮嶋らの解析でも少なく,その理由として地域特異性を挙げている9).本研究で分離されたS.epidermidisのレボフロキサシン耐性率は57.7%であった.2003年の感染性角膜炎全国サーベイランスにおけるS.epidermidisのレボフロキサシン耐性率は22.2%であり13),2013年の当院におけるS.epidermidis分離株のレボフロキサシン耐性率の増加とともに,S.epidermidis以外のCNS,MSSA,Corynebacterium属の耐性菌の割合も増加していた.一方で,2004〜2009年にかけて行われた細菌性結膜炎の5年間の動向調査では,レボフロキサシン耐性菌の増加はないと報告されているが14),木村らの2002〜2009年の解析ではレボフロキサシン耐性菌の増加が指摘されている11).今回の結果と過去の報告の違いは,レボフロキサシン耐性菌の近年における増加を示唆している.その原因としては,キノロン系点眼抗菌薬の使用量の増加があげられる.眼科においてキノロン系点眼抗菌薬の多用と,点眼薬が長期に投与される例の増加が背景と推定されている1).本研究において,角膜病変からもっとも分離されたのはP.acnesであった.しかし,眼表面は好気的環境であり,絶対的嫌気性菌の発育には不適と考えられる.事実,P.acnesが起因と判断した角膜炎の報告は少なく15,16),Underdahlらの報告例は外傷などにより脆弱化した角膜に感染し,視力障害を生じた特殊な例であった.P.acnesはMeibom腺に常在し,眼表面の一過性常在菌であり,本研究において分離されたP.acnesの大多数は一過性に角膜上を通過した細菌で,角膜炎の起因菌ではない可能性が高い.なお,P.acnesのレボフロキサシン耐性率は以前の報告に比較し,ほとんど変化しておらず,前述の他の眼表面常在菌とは抗菌薬感受性に関して異なる推移を示しており,この点について検討する必要性を感じた.上記のP.acnesのように,眼表面には常在細菌叢が存在し,病巣擦過検体に常に紛れ込む可能性を考慮する必要がある.本研究における角膜病巣擦過の培養陽性率は74.8%であったが,塗抹鏡検陽性率は30.9%にすぎなかった.塗抹鏡検陰性のとき,分離細菌株が起因菌か常在細菌かを区別することは難しい.塗抹標本と分離細菌が一致したグラム陰性球菌(N.gonorrhoea)とグラム陰性桿菌(P.aeruginosa)の例では分離細菌を起因菌と判断することに問題はないが,グラム陽性細菌の場合は臨床像を踏まえて総合的に判断する必要を感じる.一方,本来眼表面細菌叢に存在しない細菌が分離された場合は,塗抹標本陰性でも起因菌である可能性は高くなる.感受性菌が起因菌であっても,病変に混在していた耐性をもつ常在菌が分離されることは防げない.今回の研究では受診前の点眼薬を解析していないが,診察前に抗菌薬の点眼を受けていたような細菌性角膜炎例では,耐性菌のみが分離される可能性があり,このような症例で耐性をもつ細菌を起因菌と判定してしまうと,不適切な抗菌薬を選択することが起こりうる.今回の解析では2013年の細菌性角膜炎疑い症例において,起因菌あるいは病変に混入した眼表面細菌叢由来の細菌において,レボフロキサシン耐性率が増加しつつあることが明らかにされた.このような状況下では,起因菌を確定し,その感受性を把握することが重要である.感染性角膜炎の起因菌の診断精度を上げるため,頻回の塗抹鏡検と培養検査は非常に重要と考える.IV結論細菌性角膜炎において,P.acnesを除く主要分離菌におけるレボフロキサシン耐性率の増加が示唆された.キノロン系点眼薬が角膜炎の治療として妥当かは,医療施設のある地域の耐性菌分離状況によって判断すべきである.耐性菌分離率が上昇した場合,塗抹鏡検・培養検査を行い,起因菌とその薬剤感受性を把握することが,適切な抗菌薬選択において重要となる.文献1)FintelmannRE,HoskinsEN,LietmanTMetal:Topicalfluoroquinoloneuseasariskfactorforinvitrofluoroquinoloneresistanceinocularcultures.ArchOphthalmol129:399-402,20112)KimSJ,TomaHS:Antimicrobialresistanceandophthalmicantibiotics:1-yearresultsofalongitudinalcontrolledstudyofpatientsundergoingintravitrealinjections.ArchOphthalmol129:1180-1188,20113)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:PerformanceStandardsforAntimicrobialSusceptibilityTesting;24thInformationalSupplement.CLSIdocumentM100-S24,20144)FukudaM,SasakiH:CalculationofAQCmax:Comparisonoffiveophthalmicfluoroquinolonesolutions.CurrMedResOpin24:3479-3486,20085)厚生労働省院内感染対策サーベイランスhttp://www.nihjanis.jp/report/index.html6)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス:分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,20067)AsbellP,StensonS:Ulcerativekeratitis:Surveyof30years’laboratoryexperience.ArchOphthalmol100:77-80,19828)WahlJC,KatzHR,AbramsDA:InfectiouskeratitisinBaltimore.AnnOphthalmol23:234-237,19919)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去20年間の細菌性角膜潰瘍の検討.あたらしい眼科15:223-226,199810)竹澤美貴子,小幡博人,中野佳希ほか:自治医科大学における過去5年間の感染性角膜潰瘍の検討.眼紀56:494-497,200511)木村由衣,宇野俊彦,山口昌彦ほか:愛媛大学眼科における細菌性角膜炎症例の検討.あたらしい眼科26:833-837,200912)三木篤也,井上幸次,大黒伸行ほか:大阪大学眼科における角膜感染症の細菌の動向.あたらしい眼科17:839-843,200013)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染症角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibioticeffectの比較.日眼会誌110:973-983,200614)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,201115)UnderdahlJP,FlorakisGJ,BraunsteinREetal:Propionibacteriumacnesasacauseofvisuallysignificantcornealulcers.Cornea19:451-454,200016)OvodenkoB,SeedorJA,RitterbandDCetal:TheprevalenceandpathogenicityofPropionibacteriumacneskeratitis.Cornea28:36-39,2009〔別刷請求先〕石山惣介:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6街区3号宮田眼科病院Reprintrequests:SosukeIshiyama,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo-shi,Miyazaki885-0051,JAPAN0598140-181あ0/た160910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(103)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016585表12013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変部(n=123)の擦過標本の細菌検出陽性眼数検出率(%)*検出菌における割合(%)**グラム陽性球菌2016.351.2グラム陽性桿菌1512.238.5グラム陰性球菌10.82.6グラム陰性桿菌32.47.7計3930.9100*検出率:陽性例/解析眼数(n=123).**検出菌における割合:グラム染色で検出された菌における割合.表22013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変からの分離菌(n=147)株数%*%**好気性グラム陽性球菌7047.677.8Staphylococcusepidermidis2617.728.9coagulase-negativeStaphylococcus***2114.323.3Staphylococcusaureus****1812.220Streptococcus属21.42.2Enterococcusfaecalis10.71.1Streptococcuspneumoniae10.71.1Micrococcus属10.71.1好気性グラム陽性桿菌1510.216.7Corynebacterium属106.811.1Bacillus属42.74.4未同定10.71.1好気性グラム陰性球菌10.71.1Neisseriagonorrhoeae10.71.1好気性グラム陰性桿菌42.74.4Serratia属21.42.2Pseudomonasaeruginosa21.42.2嫌気性菌5738.8Propionibacteriumacnes5738.8*全分離菌における割合.**Propionibacteriumacnesを除いた分離菌における割合.***Staphylococcusepidermidisを除く.****6株がmethicillin-resistantStaphylococcusaureus.表32013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変の塗抹鏡検陽性例(n=39)における細菌分離塗抹陽性菌塗抹陽性眼数aGPC分離aGPR分離aGNC分離aGNR分離嫌気性菌分離分離なしグラム陽性球菌201510022グラム陽性桿菌151030011グラム陰性球菌1001000グラム陰性桿菌3200100aGPC:好気性グラム陽性球菌,aGPR:好気性グラム陽性桿菌,aGNC:好気性グラム陰性球菌,aGNR:好気性グラム陰性桿菌.586あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(104)表42013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変からの分離菌(n=147)のレボフロキサシン耐性率菌種SIR耐性率(%)好気性グラム陽性球菌Staphylococcusepidermidis1101557.7coagulase-negativeStaphylococcus151528.6methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus90325.0methicillin-resistantStaphylococcusaureus006100Streptococcus属2000Enterococcusfaecalis1000Streptococcuspneumoniae1000Micrococcus属010100好気性グラム陽性桿菌Corynebacterium属41560.0Bacillus属4000未同定1000好気性グラム陰性球菌Neisseriagonorrhoeae001100好気性グラム陰性桿菌Serratia属11050.0Pseudomonasaeruginosa2000嫌気性菌Propionibacteriumacnes54035.3(105)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016587588あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(106)

細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究)

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(77)679《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(5):679.687,2011c細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究)小早川信一郎*1井上幸次*2大橋裕一*3下村嘉一*4臼井正彦*5COI細菌性結膜炎検出菌スタディグループ*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2鳥取大学医学部視覚病態学*3愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学*4近畿大学医学部眼科学教室*5東京医科大学Five-YearTrendSurveyinJapan(MulticenterStudy)ofBacterialConjunctivitisIsolatesandTheirDrugSensitivityShinichiroKobayakawa1),YoshitsuguInoue2),YuichiOhashi3),YoshikazuShimomura4),MasahikoUsui5)andCore-NetworkofOcularInfectionStudyGroupofIsolatefromBacterialConjunctivitisinJapan1)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMeidicine,5)TokyoMedicalUniversityわが国における細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の現状を把握するため,2004年11月から2009年12月までの5年間,全国27施設を受診し,その臨床所見から細菌性結膜炎と診断された症例615例を対象に,結膜から検体を採取後,阪大微生物病研究会に送付して培養を行い,症例背景(年齢,地域,受診施設など),検出菌種,薬剤感受性についてその経年変化を検討した.症例背景では,調査年による大きな差はみられず,年齢においては高齢者が多数を占めた(65歳以上45.9%).全被験者615例より検体採取が可能であり,1,156株の細菌が検出された.検出菌の内訳は,Staphylococcusepidermidis19.3%,Propionibacteriumacnes14.4%,Streptococcusspp.13.0%,Staphylococcusaureus10.8%などで,調査期間を通じてグラム陽性菌が約60%,グラム陰性菌が約20.25%,嫌気性菌が約15.20%検出され,地域にかかわらず同様の傾向を示した.薬剤感受性は累積発育阻止率曲線で比較した場合,全菌種を合わせるとレボフロキサシン(LVFX)と塩酸セフメノキシム(CMX)の感受性が高かった.菌種別のLVFXに対する薬剤感受性では,S.aureus(MSSA〔メチシリン感受性黄色ブドウ球菌〕)とP.acnesは高い感受性を示したが,Corynebacteriumspp.に対する感受性は低かった.薬剤感受性は5年間を通じて大きな変化を認めなかった.ToinvestigatethecurrenttendencyinJapanregardingbacterialconjunctivitiscasesandthedrugsensitivityoftheisolatedbacteria,conjunctivalswabsweretakenfrompatientswithsuspectedbacterialconjunctivitisat27institutionsnationwidebetweenNovember2004andDecember2009.TheswabbedsamplesweresenttotheResearchInstituteofMicrobialDiseasesatOsakaUniversity,whereweinvestigatedpatientbackground(e.g.,age,area,institution),isolatedbacterialstrainsanddrugsensitivityduringthatperiod.Therewerenosignificantchangesinbackgroundthroughoutthesurveyperiod.Agedpatientsaccountedforalargeportionofthecases(45.9%ofthepatientswereover65yearsold).Swabswerecollectedfrom615patients,and1,156bacterialstrainswerecollected.Ofthosestrains,19.3%wereStaphylococcusepidermidis,14.4%werePropionibacteriumacnes,13.0%wereStreptococcusspp.and10.8%wereStaphylococcusaureus.Ofthestrainsfoundduringthesurveyperiod,approximately60%weregram-positive,20-25%weregram-negativeand15-20%wereanaerobic,regardlessofarea.Whendrugsensitivitywascomparedusingcumulativegrowthinhibitioncurves,thosestrainsshowedhighsensitivitytolevofloxacin(LVFX)andcefmenoxime(CMX),overall.S.aureus(MSSA〔methicillinsensitiveStaphylococcusaureus〕)andP.acnesshowedhighsensitivitytoLVFX;however,Corynebacteriumspp.showedlowsensitivity.Therewerenosignificantchangesindrugsensitivitythroughoutthe5-yearperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):679.687,2011〕〔別刷請求先〕小早川信一郎:〒143-8541東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医療センター大森病院眼科Reprintrequests:ShinichiroKobayakawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,7-5-23Omori-Nishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPAN680あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(78)はじめに細菌性結膜炎に対する抗菌薬の選択・投与方法は,起炎菌を検出したうえでその細菌に最も感受性のある薬剤を選択することである.しかし日常臨床では,患者の苦痛の早期軽減や社会生活への影響を考慮して,起炎菌の検出を待たずに治療を行う場合がほとんどであり,起炎菌の同定を行う前に汎用されている抗菌点眼薬を処方するのが現状である.一方,細菌の抗菌薬感受性には経年変化が認められること,近年メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌による感染症の拡大に伴い,耐性菌対策が必須であることから,日常臨床における抗菌薬選択の重要性は高く,細菌性結膜炎の起炎菌の動向を把握しておくことは意義あることと思われる.そこで,筆者らCore-NetworkofOcularInfection(COI)のメンバーは,多施設における細菌性結膜炎の検出菌の動向と薬剤感受性の現状を把握し,今後の抗菌薬投与の指標となる有益な情報を得るために,新たな共同研究組織であるCOI細菌性結膜炎検出菌スタディグループを組織した.そして,2004年11月より2009年までの5年間,全国27施設を受診し,その臨床所見から細菌性結膜炎と診断された症例615例を対象に,結膜から検体を採取して同一施設で培養を実施し,症例背景(年齢,地域,受診施設),検出菌種,薬剤感受性について検討を行った.初年度の結果についてはすでに報告した1)が,今回,5年間の予定調査期間を終了したので,その結果を報告する.I対象および方法対象は,全国の約27施設(大橋眼科[北海道],くろさき眼科[新潟県],栃尾郷病院[新潟県],阿部眼科[秋田県],東京医科大学[東京都],東京医科大学八王子医療センター[東京都],東邦大学[東京都],とだ眼科[埼玉県],鹿嶋眼科クリニック[茨城県],いずみ記念病院[東京都],上沼田クリニック[東京都],ルミネはたの眼科[神奈川県],稲田登戸病院[神奈川県],いこま眼科医院[石川県],バプテスト眼科クリニック[京都府],大橋眼科[大阪府],岡本眼科クリニック[愛媛県],愛媛大学[愛媛県],鷹の子病院[愛媛県],町田病院[高知県],魚谷眼科医院[鳥取県],大分県立病院[大分県],新別府病院[大分県],NTT西日本九州病院[熊本県],熊本赤十字病院[熊本県],熊本大学[熊本県],中頭病院[沖縄県].ただし,研究参加年数が4年以下の施設も含む.)を,初年度(第1回:2004年11月,第2回:2005年2月,第3回:2005年5月,第4回:2005年8月),2年度(第5回:2006年2月,第6回:2006年11月),3年度(第7回:2007年11月),4年度(第8回:2008年11月,第9回:2009年2月),5年度(第10回:2009年11月.12月)の各調査期間に受診し,その臨床所見から細菌性結膜炎と診断された患者である.症例総数は615例(男性266例,女性344例,不明5例)で,年齢は生後0~99歳(平均年齢52.2歳)で,年齢不明を除き50.2%(309名)が60歳以上であった(図1).また,7.2%(44例)がコンタクトレンズ(CL)を装用していた.患者から同意を得た後,症状の重いほうの片眼の結膜を擦過して採取した検体を,輸送用培地「AMIESCARBON」を用いて阪大微生物病研究会(阪大微研)に送付し,好気・嫌気培養を行い,細菌の分離・同定を行った.そして,検出菌,地域別の検出菌,施設別の検出菌,年齢別の検出菌,季節別の検出菌,CL装用の有無による検出菌のそれぞれの内訳を検討した.また,検出菌に対して日本化学療法学会の標準法により,レボフロキサシン(LVFX),ミクロノマイシン(MCR),エリスロマイシン(EM),クロラムフェニコール(CP),スルベニシリンナトリウム(SBPC),塩酸セフメノキシム(CMX)の6剤の最小発育阻止濃度(MIC)を測定し,その結果を累積発育阻止率曲線で表した.なお,調査期間中,MCRの製造中止に伴い,4年度からはトブラマイシン(TOB)に変更した.さらに,今回の研究では,結膜炎以外の外眼部疾患を有する症例および参加施設の受診以前に抗菌薬が投与されていた症例は除外した.II結果1.細菌分離率全症例615例のなかで細菌が分離されたのは587例(細菌陽性率95.4%)であり,男性263例,女性319例で,年齢は生後0~99歳(平均年齢52.2歳)であった.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):000.000,2011〕Keywords:多施設共同研究,細菌性結膜炎,検出菌,薬剤感受性.multicenterstudy,bacterialconjunctivitis,bacterialisolates,drugsensitivity.20~29歳40~49歳10~19歳1390~99歳17不明141歳未満274230~39歳533360~69歳911~9歳80~89歳618070~79歳12150~59歳63図1症例の年齢分布(期間合計)(79)あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116812.検出菌の種類と頻度細菌が分離された587例から1,156株の細菌が検出された(1症例当たり1~8株).初年度から5年度までのすべての検出菌のうち最も多かったのは,Staphylococcusepidermidis(S.epidermidis)223株(19.3%),ついでPropionibacteriumacnes(P.acnes)166株(14.4%),Streptococcusspp.150株(13.0%),Staphylococcusaureus(S.aureus)125株(10.8%),Corynebacteriumspp.122株(10.6%),Haemophilusinfluenzae53株(4.6%),Moraxellaspp.40株(3.5%)であった(図2).S.aureus125株中,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が99株,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が26株であった.嫌気性菌は178株で,そのうちの169株がPropionibacteriumspp.であった.グラム陽性菌が全体の63.6%を占めていた.経年変化では,初年度は,検体総数が429株でS.epidermidisが102株(23.7%)と最も高頻度に検出され,ついでS.aureus66株(15.4%),Streptococcusspp.59株(13.8%),P.acnes40株(9.3%)の順であった.2年度から5年度まではP.acnesが最も多く,次いでS.epidermidisの順であったが,5年間を通して大きな傾向の変化は認められなかった(図3).グラム染色別の検出菌の内訳・経年変化については,初年度,グラム陽性球菌が59.2%(254株)と最多であったが,2年度50.2%(87株),3年度47.9%(82株),4年度45.1%(84株),5年度42.6%(84株)と,初年度から5年度まで検出菌の約50%はグラム陽性球菌で占められていた(図4).グラム陽性球菌は5年間を通して最も多く検出されていたものの,経年的には検出比率が減少した.3.地域別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)地域別(北海道・東北,関東,中部,関西,中国・四国,九州・沖縄)検出菌の内訳・経年変化は,グラム陽性球菌が地域・年度を問わず高頻度であった.初年度は,関西地域でグラム陰性菌が少なく,関西・関東で嫌気性菌の比率がやや高かった.しかし,2年度以降は地域間で参加施設の偏り(施設数,施設のタイプ)が生じたために,地域によってはばらつきがみられたものの,全体的な検出菌の頻度については,経年的,地域的に大きな差は認められなかった(図5).4.施設別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)全症例615例の施設別内訳は,大学病院57例,総合病院127例,眼科クリニック431例であった.施設別の検出菌内訳・経年変化は,5年間を通じ,眼科クリニック,総合病院ではグラム陽性球菌の割合が突出していた.大学病院では,検体数が少ないため,各検出菌の頻度に大きなばらつきがみられ,一定の傾向を得ることはできなかった(図6).5.年齢別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)全症例615例中の年齢別内訳をみると,65歳以上は282例(45.9%)であり,細菌性結膜炎の半数を高齢者が占めた.各年代(14歳以下,15~64歳,65歳以上)における検出菌の内訳・経年変化をみると,各年代を通じてグラム陽性球菌が最も高頻度であり,5年間を通してその傾向は変わらなかったものの,15歳以上の年代ではグラム陽性球菌の割合が経年的に減少しており,特に3年度以降ではその検出比率は半数を切っていた(図7).0%20%40%60%80%100%5年度4年度3年度2年度初年度3729271021110121650341216941113142822202134201820301091413186105102278441733182517662839302940052122859■:Staphylococcusepidermidis■:MSSA■:MRSA■:その他のStaphylococcusspp.■:Streptococcusspp.■:Corynebacteriumspp.■:その他の好気性グラム陽性菌■:Haemophilusinfluenzae■:Moraxellaspp.■:その他の好気性グラム陰性菌■:Propionibacteriumacnes■:その他の嫌気性菌図3検出菌の経年変化(主要菌種別)MSSA9%その他の好気性グラム陰性菌14%その他の嫌気性菌1%MRSA2%その他の好気性グラム陽性菌6%Staphylococcusepidermidis19%その他のStaphylococcusspp.4%Streptococcusspp.13%Propionibacteriumacnes14%Moraxellaspp.3%Haemophilusinfluenzae5%Corynebacteriumspp.10%図2検出菌の種類(期間合計)0%20%40%60%80%100%5年度4年度3年度2年度初年度84848287254392223253546363431962844323044■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌図4検出菌の内訳・経年変化(グラム染色別)682あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(80)6.季節別の検出菌内訳・経年変化初年度に季節を4回に分けて行った調査では,2月にグラム陽性桿菌が少なく,嫌気性菌が多かった.冬期に多いとされるHaemophilusinfluenzaeであるが,11月に6株,2月に6株,5月に6株,8月に4株検出されており,季節による大きな変化はみられなかった.なお,こうした初年度の結果1)を受け,2年度以降では季節別の比較は行わなかった(図8).7.CL装用の有無との関連性CLは88.5%が装用しておらず,装用者は7.2%にとどまった.CL装用の有無でグラム陽性菌と陰性菌の比率に大きな差はなかったが,CL装用者にグラム陽性桿菌が少なく,嫌気性菌が多い傾向を認めた(図9).8.薬剤感受性結膜炎由来臨床分類株である全検出菌1,156株(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)に対するLVFX,MCR,TOB,EM,CP,SBPC,CMXの抗菌力を,累積発育阻止率曲線で示した(図10).全体としてのMIC80,MIC90はLVFX,CMXがその他の薬剤と比べて低い値となっており,結膜炎の主要な起炎菌に対する高い感受性が認められた.全検出菌に対する各薬剤の抗菌力の経年変化を,累積発育0%20%40%60%80%100%■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度九州・沖縄中国・四国関西中部関東北海道・東北51311631148112860117819542091024347231414627242892914315924881032510833106237139740362111472111030755789349145104017121494134341435795372513834622842148181176図5地域別検出菌の内訳・経年変化(グラム染色別)0%20%40%60%80%100%5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度65歳以上15~64歳14歳以下26411513216262025932832194729402110125247761810541932016198521276827131391517121213012132316628392244■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌図7年齢別の内訳・経年変化(グラム染色別)0%20%40%60%80%100%■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度5年度4年度3年度2年度初年度眼科クリニック総合病院大学病院78645867144612161986148124371816182114561100213383432284952234020072337232324435510044210図6施設別(眼科クリニック,総合病院,大学病院)検出菌の内訳・経年変化0%20%40%60%80%100%2004年11月2005年2月2005年5月2005年11月6942529115811130151239562211■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌図8季節別の検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)(81)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011683阻止率曲線で示した(図11~17).LVFXは5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンを描いた(図11).MIC80,MIC90は低値を示しており,全検出菌に対する高い感受性が認められた.MCR(初年度~4年度)およびTOB(4~5年度)は5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンを描いた(図12~13).EM,CP,SBPCについても5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンであった(図14.16).CMXは5年間の調査期間で大きな変化はなく,累積発育阻止率曲線はほぼ同じパターンを描いた(図17).MIC80,MIC90は低値を示しており,全検出菌に対する高い感受性が認められた.つぎに,細菌性結膜炎に対して最も広く使用されているLVFXの主要検出菌に対する抗菌力について,累積発育阻止率曲線で示した(図18~22).S.epidermidis221株(初年度100株,2年度27株,3年度29株,4年度37株,5年度28株)では,年度間にて多少の変動は認められるものの,LVFXはS.epidermidisに対する高い感受性を5年間を通して維持していた(図18).P.acnes166株(初年度40株,2年度29株,3年度30株,4年度39株,5年度28株)およびS.aureus(MSSA)101株(初年度50株,2年度16株,3年度12株,4年度10株,0%20%40%60%80%100%なしあり■:好気性グラム陽性球菌■:好気性グラム陽性桿菌■:好気性グラム陰性菌■:嫌気性菌5年度4年度3年度2年度5年度4年度3年度2年度初年度初年度79807383227235416372217253300400443429298611027274127303613406図9CL装用の有無による検出菌内訳・経年変化(グラム染色別)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml):LVFX:EM:SBPC:TOB:MCR:CP:CMX累積発育阻止率RangeMIC80MIC90LVFX≦0.06~128<28MCR≦0.06~128<32128TOB≦0.06~128<64128EM≦0.06~128<128128<CP≦0.06~128816SBPC≦0.06~128<1632CMX≦0.06~128<28図10全検出菌1,156株に対する全薬剤の累積発育阻止率曲線100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度LVFX:2年度LVFX:3年度LVFX:4年度LVFX:5年度LVFXRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<482年度≦0.06~128<283年度≦0.06~128<124年度≦0.06~128<285年度≦0.06~128<416図11全検出菌1,156株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度MCR:2年度MCR:3年度MCR:4年度MCRRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<321282年度≦0.06~128<32643年度≦0.06~128<16644年度≦0.06~128<32128<図12全検出菌959株に対するMCRの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株)684あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(82)5年度11株)では,5年間を通して左に強くシフトした同様の曲線を描いており,P.acnesおよびMSSAに対するLVFXのきわめて高い感受性が示された(図19,20).Streptococcusspp.150株(初年度59株,2年度21株,3年度20株,4年度22株,5年度28株)は,曲線が左にシフトしており,Streptococcusspp.に対するLVFXの高い感受性が示された(図21).Corynebacteriumspp.118株(初年度30株,2年度20株,3年度18株,4年度20株,5年度30株)では,LVFXの感受性は低かったものの5年間の変化はほとんど認められず,LVFXに対する耐性化は進行していないと考えられた(図22).III考按細菌性結膜炎は,眼感染症のなかで最も高頻度に発症する疾患であるが,日常診療で結膜炎症例の起炎菌を確定することは困難である.今回のスタディは5年間にわたる全国多施設による細菌性結膜炎の細菌の検出状況と薬剤感受性の検討であり,2007年の本スタディグループの報告1)に引き続き,細菌性結膜炎の現状把握と今後の適切な治療薬選択につながる臨床上有用な情報と考えられる.眼感染症における多施設100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:4年度TOB:5年度TOBRangeMIC80MIC904年度≦0.06~128<128128<5年度≦0.06~128<3264図13全検出菌383株に対するTOBの累積発育阻止率曲線(全菌種:4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度EM:2年度EM:3年度EM:4年度EM:5年度EMRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<128<128<2年度≦0.06~128<1281283年度≦0.06~128<641284年度≦0.06~128<128<128<5年度≦0.06~128<64128図14全検出菌1,156株に対するEMの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度CP:2年度CP:3年度CP:4年度CP:5年度CPRangeMIC80MIC90初年度0.25~64882年度0.25~128883年度≦0.06~1288164年度≦0.06~1288325年度≦0.06~128832図15全検出菌1,156株に対するCPの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度SBPC:2年度SBPC:3年度SBPC:4年度SBPC:5年度SBPCRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<16642年度≦0.06~128<8163年度≦0.06~128<161284年度≦0.06~128<16325年度≦0.06~128<1632図16全検出菌1,156株に対するSBPCの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)(83)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011685スタディとしては,眼感染症学会による感染性角膜炎サーベイランス2,3)があり,感染性角膜炎診療ガイドライン4)の礎となった.本スタディは同一の全国多施設において5年間細菌性結膜炎の動向を観察した結果であり,意義深いものと考えられる.まず5年間にわたる細菌性結膜炎の細菌の検出状況についてであるが,起炎菌の累積頻度は,S.epidermidis(19.3%),P.acnes(14.5%),Streptococcusspp(.13.0%),S.aureus(10.8%),Corynebacteriumspp(.10.5%),Haemophilusinfluenzae(4.6%),Moraxellaspp.(2.7%)であり,S.aureusではMSSAが79%,MRSAが21%であった.西澤らは検出菌データの多いものから順に,S.epidermidis,S.aureus,Streptococcusspp.,Propionibacteriumspp.,Corynebacteriumspp.,Haemophilusinfluenzaeとレビューしている1,5~10)が,本スタディとほぼ同様の結果を示しており,わが国における細菌性結膜炎の検出菌はこれら7菌種が4分の3を占めているものと推測される.また,細菌性結膜炎は世代により検出菌と臨床経過が異なり,小児ではHaemophilus100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度CMX:2年度CMX:3年度CMX:4年度CMX:5年度CMXRangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<2162年度≦0.06~128<483年度≦0.06~128<2164年度≦0.06~128<145年度≦0.06~128<216図17全検出菌1,156株に対するCMXの累積発育阻止率曲線(全菌種:初年度429株,2年度173株,3年度171株,4年度186株,5年度197株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度0.13~40.50.52年度0.25~80.50.53年度≦0.06~20.50.54年度≦0.06~20.50.55年度≦0.06~10.50.5図19P.acnes166株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度40株,2年度29株,3年度30株,4年度39株,5年度28株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度0.13~128<482年度0.13~8883年度0.13~128<444年度0.13~128485年度0.13~128<832図18S.epidermidis221株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度100株,2年度27株,3年度29株,4年度37株,5年度28株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128<0.5162年度0.13~160.583年度≦0.06~0.250.250.254年度0.13~0.50.50.55年度0.13~128<0.52図20S.aureus(MSSA)99株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度50株,2年度16株,3年度12株,4年度10株,5年度11株)686あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(84)influenzaeや,S.pneumoniaeが多く,高齢者ではS.aureusやCorynebacteriumspp.が多いとされる5).本スタディでも,14歳以下では初年度にグラム陰性菌が32%を占め,その約半数がHaemophilusinfluenzaeであったが,その後経年的にグラム陰性菌の割合は減少した.また,各年代を通じてグラム陽性球菌が最も高頻度であり,5年間を通してその傾向はかわらなかったものの,15歳以上の年代ではグラム陽性球菌の割合が経年的に減少していた.つぎに検出菌における地域差については,経年変化や地域別に一定の傾向はみられなかった.施設別では,眼科クリニック,総合病院ではグラム陽性球菌の割合が多く,大学病院では嫌気性菌が多いものの,各検出菌の頻度に大きなばらつきがみられ,一定の傾向はなかった.CL装用の有無については,88.5%が装用しておらず,装用者は7.2%にとどまり,CL装用の有無でグラム陽性菌と陰性菌の比率に大きな差はなかった.以上より,2007年の報告と同様,今日の細菌性結膜炎の主要検出菌は,S.epidermidis,S.aureus,Streptococcusspp.,Corynebacteriumspp.,Haemophilusspp.と推察された.全検出菌に対する薬剤感受性(MIC80,MIC90)は,LVFX,CMXがその他の薬剤と比べて低い値となっており,結膜炎の主要な起炎菌に対する高い感受性が認められた.また,この5年間の調査期間中に,細菌性結膜炎の主要検出菌に対する薬剤感受性に大きな変化がみられなかったことから,急速な菌の変化,耐性化の進行は生じていないと考えられた.本来,細菌性結膜炎に対する抗菌薬の選択,投与方法は,起炎菌を検出したうえで検出された細菌に対する最も抗菌力の強い薬剤を選択し使用することに尽きるが,日常臨床では,患者苦痛の軽減,qualityoflife(QOL)低下の防止,感染拡大の阻止,病態の遷延化・難治化の阻止を治療の要点とし,起炎菌の検出を待たずに早期治療開始の必要性が迫られる.これらの事情を考慮すると,広域の抗菌スペクトルを示し,他の抗菌点眼薬と比較して高い感受性から,細菌性結膜炎の日常診療においてLVFX,CMXを第一選択としてよいと思われる.以上のように,今回の5年間にわたる調査により,細菌性結膜炎の検出菌の急速な変化や耐性化は進行していないことが明らかとなったが,初年度の報告の考按で示したごとく,多剤耐性菌の出現や菌交代現象の要因としてあげられている抗菌薬の過剰投与や広域スペクトルを有する薬剤の濫用の弊害を常に念頭に置き,上記のような広域抗菌点眼薬の投与は必要最低限にとどめるべきであると考える.COI細菌性結膜炎検出菌スタディグループ(50音順)注記:所属が眼科の場合は部門を省略,所属は調査参加当時のもの青木功喜(大橋眼科/札幌),浅利誠志(大阪大学医学部附属病院感染制御部),阿部達也(くろさき眼科),阿部徹(阿部眼科),有賀俊英(札幌社会保険総合病院),生駒尚秀(いこま眼科医院),稲森由美子(横浜市立大学),井上幸次(鳥取大学),魚谷純(魚谷眼科医院),薄井紀夫(総合新川橋病院),臼井正彦(東京医科大学),内尾英一(福岡大学),宇野敏彦(愛媛大学),卜部公章(町田病院),大橋勉(大橋眼科/札幌),大.秀行(大橋眼科/大阪),大橋裕一(愛媛大学),岡本茂樹(岡本眼科クリニック),奥村直毅(京都府立医科大学),亀井里実(バプテスト眼科クリニック),亀井裕子(東京女子医科大学東医療センター),川崎尚美(岡本眼科100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:2年度:3年度:4年度:5年度RangeMIC80MIC90初年度≦0.06~128442年度0.5~64223年度0.5~2114年度0.5~2225年度0.5~6412図21Streptococcusspp.150株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度59株,2年度21株,3年度20株,4年度22株,5年度28株)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%≦0.060.130.250.51248163264128128<MIC(μg/ml)累積発育阻止率:初年度:3年度:5年度:2年度:4年度RangeMIC80MIC90初年度0.13~128<641282年度≦0.06~128<32643年度≦0.06~128<32644年度≦0.06~128<641285年度≦0.06~128<64128図22Corynebacteriumspp.118株に対するLVFXの累積発育阻止率曲線(初年度30株,2年度20株,3年度18株,4年度20株,5年度30株)(85)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011687クリニック),岸本里栄子(大橋眼科/札幌),北川和子(金沢医科大学),木村格(岡本眼科クリニック),久志雅和(中頭病院),小鹿聡美(東京医科大学),小嶋健太郎(京都府立医科大学),古城美奈(バプテスト眼科クリニック),小早川信一郎(東邦大学医療センター大森病院),坂本雅子(阪大微生物病研究会),渋谷翠(東京医科大学),島袋あゆみ(琉球大学),下村嘉一(近畿大学),白石敦(愛媛大学),鈴木崇(愛媛大学),外園千恵(京都府立医科大学),瀧田忠介(大分県立病院),田中康一郎(鹿嶋眼科クリニック),田中裕子(愛媛大学),中井義典(バプテスト眼科クリニック),中川尚(徳島診療所),中村行宏(NTT西日本九州病院),西崎暁子(バプテスト眼科クリニック),橋田正継(町田病院),橋本直子(岡本眼科クリニック),秦野寛(ルミネはたの眼科),原祐子(愛媛大学),檜垣史郎(近畿大学),東原尚代(京都府立医科大学),平野澄江(岡本眼科クリニック),福田正道(金沢医科大学),松本光希(NTT西日本九州病院),松本治恵(松本眼科),箕田宏(とだ眼科),宮嶋聖也(熊本赤十字病院),宮本仁志(愛媛大学医学部附属病院診療支援部),山口昌彦(愛媛大学),山崎哲哉(町田病院),横井克俊(東京医科大学)文献1)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科24:647-654,20072)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス.日眼会誌110:961-972,20063)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibioticeffectの比較.日眼会誌110:973-983,20064)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,20075)西澤きよみ,秦野寛:わが国の細菌性結膜炎の起炎菌は?あたらしい眼科26(臨増):65-68,20096)宮尾益也,本山まり子,坂上富士男ほか:新潟大学眼感染症クリニックでの10年間の検出菌.臨眼45:969-973,19917)松井法子,松井孝治,尾上聡ほか:細菌性結膜炎の検出菌についての検討.臨眼59:559-563,20058)堀武志,秦野寛:急性細菌性結膜炎の疫学.あたらしい眼科6:81-84,19899)西原勝,井上慎三,松村香代子:細菌性結膜炎における検出菌の年齢分布.あたらしい眼科7:1039-1042,199010)秋葉真理子,秋葉純:乳幼児細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の検討.あたらしい眼科18:929-931,2001***