‘極小切開白内障手術’ タグのついている投稿

鈍的外傷により無虹彩症となった極小切開白内障手術後の 1 例

2023年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科40(2):266.270,2023c鈍的外傷により無虹彩症となった極小切開白内障手術後の1例富永千晶多田香織水野暢人伴由利子京都中部総合医療センター眼科CACaseofBlunt-TraumaAniridiaafterMicroincisionCataractSurgeryChiakiTominaga,KaoriTada,NobuhitoMizunoandYurikoBanCDepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenterC目的:鈍的外傷により無虹彩症となった極小切開白内障手術後の症例を報告する.症例:78歳,男性.当科で左眼超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行.眼内レンズを.内固定し,2.4Cmmの角膜切開創は無縫合で終了した.術後矯正視力はC1.2であった.術後C1年C3カ月時,転倒し左眼を打撲,霧視,眼痛を自覚し当科を受診した.左眼視力は手動弁(矯正不能)で,前房出血のため透見不良であったが全周の虹彩が消失していた.眼球の裂創や角膜切開創の離解,眼内レンズの偏位はなく,切開創に色素性組織の付着がみられた.2日後には前房出血は消退し,網膜に異常はなく矯正視力はC1.0に回復した.羞明の自覚が残存したが,人工虹彩付きソフトコンタクトレンズの装用により症状の改善が得られた.結論:外傷により全周性に離断した虹彩が角膜切開創から脱出し,その後切開創は自然閉鎖したと考えられた.極小切開白内障手術の長期経過後においても外傷により創離解を生じる可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCblunt-traumaCaniridiaCafterCmicroincisionCcataractsurgery(MICS).CCaseReport:AC78-year-oldCmaleCunderwentCMICSCinChisCleftCeyeCthroughCaC2.4CmmCself-sealingCcornealCincision.CHisCpostoperativeCvisualacuity(VA)wasC1.2,CyetC15CmonthsClaterCheCvisitedCourCdepartmentCcomplainingCofCblurredCvisionandpaininhislefteyeimmediatelyafterexperiencingblunttrauma2daysbefore.Onclinicalexamination,moderatehyphemaandcompleteabsenceoftheiriswasobservedwithoutdehiscenceofthecornealincision.Sincetheintraocularlensandallotherocularstructuresremainedintact,hisVAimprovedto1.0afterresolutionofthehyphema.Theuseofasoftcontactlenswithanarti.cialiriswassuccessfulagainsthisphotophobia.Conclusion:CThe.ndingsinthiscasesuggestthatthetotalirisexpelledthroughthecornealincisionandthattheincisionwasself-sealed,andthattraumamightcausewounddehiscenceeveninthelongtermafterMICS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(2):266.270,C2023〕Keywords:極小切開白内障手術,無虹彩症,鈍的外傷,虹彩付きソフトコンタクトレンズ.microincisioncataractsurgery,aniridia,blunttrauma,softcontactlenswithanarti.cialiris.Cはじめに白内障手術は年々進歩を遂げ,今では極小切開白内障手術が主流となり安全性が高まっているが,術後合併症はいまだ存在する.今回,極小切開白内障手術施行よりC1年C3カ月後に鈍的に眼球を打撲し,外傷性無虹彩症をきたしたが,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の脱出や偏位,その他の眼組織に異常がみられなかった症例を経験したので報告する.I症例患者:78歳,男性.主訴:左眼霧視,眼痛.既往歴:左眼白内障に対し,当科で超音波乳化吸引術(phacoemulsi.cationCandaspiration:PEA)およびCIOL挿入術を施行した.手術はC2.4Cmmの角膜切開創で,foldableIOL(AMO社製CZCV300)を.内固定し,切開創は無縫合で終了した.術中合併症はなく,術後視力はC1.2(矯正不能)〔別刷請求先〕富永千晶:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野C25京都中部総合医療センター眼科Reprintrequests:ChiakiTominaga,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,25YagiUeno,Yagi-cho,Nantan,Kyoto629-0197,JAPANC266(128)図1初診時の左眼前眼部写真白内障手術における角膜切開創の拡大・離解はなく,前房深度は深く維持され,軽度の前房出血がみられた.前房出血のため透見不良ではあったが,全周の虹彩が確認できなかった.眼内レンズの明らかな偏位はみられなかった.図2受傷4日後の左眼前眼部写真角膜切開創に虹彩とおぼしき色素性組織の付着(.)がみられた.図3左眼隅角鏡写真全周にわたり虹彩組織は確認できず,毛様突起が観察された.と良好であった.現病歴:左眼白内障術後C1年C3カ月時,泥酔し駐車場で転倒した際に車止めで左眼を打撲した.受傷後から左眼の霧視,眼痛を自覚し,2日後に当科を受診した.初診時所見:視力は右眼C0.7(0.9C×sph+2.25D(cyl.1.75CDCAx85°),左眼30cm/m.m.(矯正不能),眼圧は右眼18CmmHg,左眼C28CmmHgであった.左眼は前房出血のため眼内透見不良であったが,前房深度は深く,全周の虹彩が確認できなかった(図1).IOLは.内に固定され偏位はなく,Seideltestは陰性で,Bモード超音波検査では硝子体出血や網膜.離を疑う所見はみられなかった.これらの所見から眼球破裂の合併はないものと判断し,降圧薬を内服のうえ,保存的に経過観察を行った.経過:前房出血は徐々に吸収され,受傷C4日後には全周の虹彩欠損が明らかとなった.受傷C11日後には左眼視力はC0.4(1.0C×sph.0.75D(cyl.0.25DAx145°)に回復し,眼圧は16CmmHgに下降した.白内障手術切開創の拡大・離解はなく,切開創に虹彩とおぼしき色素性組織の付着がみられた(図2).眼底の透見も可能となり,異常はみられなかった.後日行った隅角鏡検査では,虹彩組織の残存はなく,全周性に毛様体突起が確認された(図3).受傷からC5カ月が経過し,羞明に対して人工虹彩付きソフトコンタクトレンズ(soft図4「シード虹彩付ソフト」装用時の左眼前眼部写真a:茶(C),瞳孔が透明なタイプ(No.3).僚眼に似た最濃の茶色を選択したが,ソフトコンタクトレンズを通して眼内レンズの全貌が透見され,羞明の改善もみられなかった.Cb:黒(D),瞳孔が透明なタイプ(No.3).眼内レンズは透見されず,羞明の訴えも解消した.Ccontactlense:SCL)の装用を希望された.「シード虹彩付ソフト」(シード社)のなかで,僚眼の虹彩色に近いもっとも濃い茶色の茶(C)で,瞳孔が透明なタイプCNo.3のCSCLを選択し,虹彩径C12Cmm,瞳孔径C2Cmmでオーダーした.しかし,実際にレンズを装用すると肉眼的に僚眼よりやや薄い色調であり,細隙灯顕微鏡下においてはCSCLを通してCIOLの全貌が透見され(図4a),羞明の改善にも至らなかった.そこでCSCLの虹彩色を黒色(黒(D))へ変更したところ,整容的な違和感もなくなり,羞明の訴えも解消した.患者はコンタクトレンズ使用歴がなく,着脱練習に時間を要したが,高い満足度を得られている(図4b).CII考按白内障手術創は,水晶体.外摘出術(extracapsularcata-ractextraction:ECCE)が主流の時代にはC12Cmmの切開が必要であったが,PEAの普及やCIOLの進歩により現在では2Cmm台にまで狭小化し,安定性や安全性は高まっている1).CBallら2)は,同一施設,同一術者により施行されたCECCE症例とCPEA症例における術後鈍的外傷後の創離解率について比較検討し,ECCE症例における創離解はC5,600例中C21例(0.40%)であったのに対し,PEA症例ではC4,800例中C1例(0.02%)であったと報告している.外傷のエネルギーや術後経過年数は症例によって異なるが,PEA症例での創離解率はCECCE症例の約C20分のC1であり,術式の進歩が術創の安定性に大きく貢献しているといえる.一方で,わが国においては高齢化が急速に進行しており,白内障手術の適応となる年齢層の人口が増加している.高齢者の場合,転倒リスクが高く3),したがって白内障手術後鈍的眼外傷の患者は今後も増加することが予想される.また,術後C6年経過後に鈍的外傷で無虹彩症を生じた症例報告もあり4),小切開白内障手術の長期経過後であっても創離解を生じる可能性があるという認識を医師・患者ともにもつ必要がある.外傷性無虹彩症は虹彩が根部で全周にわたって離断したものをいい,重篤な眼外傷に生じることが多く,前房出血を伴う5).鈍的眼外傷時,外力は組織の脆弱な部分にもっとも強く作用するため,過去に内眼手術の既往がある場合には手術創の離解を生じ,内眼手術の既往がない場合では輪部あるいは直筋付着部付近の強膜に破裂創を生じやすいことが知られている3,5).本症例でも術創以外に裂創はなく,離断した虹彩は角膜切開創から脱出し,その後切開創は自然閉鎖したと考えられた.術創からの虹彩脱出については,①外傷により手術切開創が一時的に歪み,房水が流出,②持ち上げられた虹彩が創口に引き寄せられ,創口に嵌頓,③創口の内側と外側に生じる圧勾配により虹彩離断が生じ,創口から房水とともに眼外に脱出,④創口の自己閉鎖性や凝固血によって房水流出が遮断されるというメカニズムが提唱されている6,7).ここで前述したCBallら2)の報告において創離解をきたした症例の虹彩所見に着目すると,ECCE症例のC21例中,3例は虹彩損傷なし,18例で部分的な虹彩の断裂・脱出をきたしたが,無虹彩となった症例はなかった.それに対しCPEA症例のC1例は無虹彩であったと報告されている.これにはPEAにおける小切開創のほうが無虹彩症を生じやすいメカニズムがあると考える.ECCEのような大きな切開創では比較的眼内圧が低い時点から創離解を生じてしまうが,創が大きいがゆえ,圧が下がりやすく,また房水流出時に虹彩が引き込まれた場合にも創の完全閉塞には至りにくく,部分的な虹彩損傷に終わる.一方,PEAの小切開創は安定性が高く,創離解率も低いが,小切開創が離解する場合には,より高い(130)眼内圧が生じているといえる.その高まった圧により小さな創から房水が押し出され,その際に虹彩が引き込まれると比較的容易に創を閉塞する.房水流出はいったん遮断されるが,その時点で眼内圧が十分に下降していない場合には,嵌頓部を起点に全周の虹彩離断を生じ,房水とともに全虹彩の脱出に至ると考えられる.このことから白内障術後外傷性無虹彩症は,小切開化に伴い,生じるリスクがより高くなった病態である可能性も考えられる.小切開強角膜切開創と角膜切開創の外力に対する抵抗性について,Ernestら8)は猫眼において幅C1.7CmmC×トンネル長C3.0Cmmの切開創を比較し,術翌日では角膜切開創のほうが強角膜切開創より低い外力で変形を生じたこと,創部の治癒過程にみられる線維血管反応が強角膜切開創ではC7日以内に生じたのに対し,角膜切開創ではC60日かかったことを報告している.また,角膜切開創の形状と外力に対する抵抗性について,Mackoolら9)はヒト摘出眼球に幅C3.0Cmmもしくは3.5Cmm,トンネル長C1.0Cmm.3.5Cmm(0.5Cmm間隔)の角膜切開創を作製し外力を投じたところ,トンネル長C2.0Cmm以上で大きな耐性を示したと報告している.このように強角膜切開創であるか角膜切開創であるか,またトンネル長の違いによって術創の外力に対する抵抗性に差がみられるが,本症同様の白内障術後外傷性無虹彩症の既報において,筆者らが調べた限り,角膜切開創4,10,11)と強角膜切開創2,6,12)いずれの報告も同程度であった.以上より,切開創の大きさ,位置,術後経過期間による創の安定性と,鈍的外傷のエネルギーの大きさ,タイミングなど条件が揃うと外傷性無虹彩症に至ると考えられる.切開創が小さいほど術創の安定性は高く,術後経過期間が長くなるほど外力に対する抵抗性は増すと考えられるが,本症のように極小切開白内障手術の長期経過後においても外傷により創離解を生じる可能性があり,その場合にはそれだけ高い眼内圧が生じていることを意味するため注意が必要である.本症例では外傷性無虹彩症をきたしたが,IOLの偏位や脱出はみられなかった.同様に自己閉鎖創白内障手術後にCIOLの偏位や脱出がみられなかった症例としては,筆者らが調べた限りC1997年にCNavoCn6)が報告した強角膜切開C5.5mm,術後C4カ月の症例が最初である.無虹彩症をきたすほどの衝撃が加わったにもかかわらず,IOLの偏位を生じず,水晶体.やCZinn小帯に損傷がみられなかった要因の一つには,前述の虹彩脱出のメカニズムからも推測されるとおり,角膜または強角膜切開創が衝撃による外圧を逃がすバルブの機能を果たすことがあげられる6,10)が,その他の要因としてCIOLの材質の関与が考えられる11).白内障術後鈍的外傷性無虹彩症の既報に,IOLが硝子体内へ落下し,その後網膜.離をきたした症例がある2).この症例で使用されていたCIOLは硬い素材のCpolyCmethylmethacrylate(PMMA)で,受傷時の衝撃を吸収できずに重症化した可能性が考えられている.術式の進化とともにCIOLの開発も進み,今ではCfoldableIOLが一般的に使用されている.小切開,極小切開創から安全に挿入できることをめざし開発されたCfoldableIOLであるが,その柔軟性により本症例でも受傷時の衝撃を吸収し,水晶体.やCZinn小帯の損傷を防ぐことができた可能性が考えられる.無虹彩症による羞明の対症療法として,わが国では遮光眼鏡,人工虹彩付きCSCLが推奨されている.現在わが国で唯一認可されている人工虹彩付きCSCLは,「シード虹彩付ソフト」(シード社)のみである13).このCSCLは現在主流のC1日交換型あるいは頻回交換型CSCLと異なり,使用後に適切な洗浄・消毒のケアが必要な従来型に分類される.5種類の虹彩デザイン(周辺透明部の有無,瞳孔の有無の組み合わせ)とC4色の虹彩色の全C19パターンから選択し,度数,虹彩径,瞳孔径,瞳孔色をオーダーして作製することができる.現物サンプルはあるがトライアルレンズはなく,購入後C1回限り交換可能となっている.羞明に対する処方の場合,薄い色では本症例のように透けて症状改善に至らないことがあり,その際は虹彩色の変更が望ましいと考える.シード虹彩付ソフトの素材はメタクリル酸C2-ヒドロキシエチル,通称ハイドロゲルであり,一般的な頻回交換型のCSCLに比べると酸素透過係数は低い.今後は基本的な眼科検査・診察に加え,SCLの装用状況やケアの適正性,SCLの状態やフィッティングを確認し,角膜上皮障害などCSCL装用に伴う合併症にも注意して経過観察していく必要があると考える.今回の症例はC2.4Cmmの極小切開で施行した白内障術後C1年C3カ月が経過していたが,鈍的外傷により創離解が生じた.その後切開創は自然閉鎖したが,無虹彩症をきたした.白内障手術の進歩に伴い,術創は狭小化し手術時間も短縮しているが,それゆえ患者の術後眼球保護に対する意識の低下が懸念される.極小切開白内障手術の長期経過後においても外傷により創離解を生じる可能性があることを認識し,患者の年齢,性格,生活環境などに応じて術後患者指導を行うことの重要性を再確認する必要がある.また,外傷性無虹彩症は小切開創で生じやすい可能性があり,症例の蓄積が重要と考える.文献1)三戸岡克哉:白内障手術法の進化.あたらしい眼科C26:C1009-1016,C20092)BallCJL,CMcLeodBK:TraumaticCwoundCdehiscenceCfol-lowingCcataractsurgery:aCthingCofCtheCpast?CEyeC15:C42-44,C20013)相馬利香,森田啓文,久保田敏昭ほか:高齢者における鈍的眼外傷の検討.臨眼C63:93-97,C20094)MikhailM,KoushanK,ShardaRetal:Traumaticanirid-iaCinCaCpseudophakicCpatientC6CyearsCfollowingCsurgery.CClinOphthalmolC6:237-241,C20125)矢部比呂夫:鈍的眼外傷.日本の眼科C68:1317-1320,C19976)NavonES:Expulsiveiridodialysis:AnCisolatedCinjuryCafterCphacoemulsi.cation.CJCCataractCRefractCSurgC23:C805-807,C19977)AllanB:Mechanismofirisprolapse:Aqualitativeanaly-sisCandCimplicationsCforCsurgicalCtechnique.CJCCataractCRefractSurgC21:182-186,C19958)ErnestCP,CTippermanCR,CEagleCRCetal:IsCthereCaCdi.e-renceCinCincisionChealingCbasedConClocation?CJCCataractCRefractSurgC24:482-486,C19989)MackoolCR,CRussellR:StrengthCofCclearCcornealCincisionsCinCcadaverCeyes.CJCCataractCRefractCSurgC22:721-725,C199610)BallJ,CaesarR,ChoudhuriD:Mysteryofthevanishingiris.JCataractRefractSurgC28:180-181,C200211)Muza.arCW,CO’Du.yD:TraumaticCaniridiaCinCaCpseudo-phakiceye.JCataractRefractSurgC32:361-362,C200612)三田覚,坂本拡之,堀貞夫:白内障術後外傷性無虹彩症のC1例.東女医大誌82:220-225,C201213)大口泰治:虹彩付ソフトコンタクトレンズによる羞明への対応.あたらしい眼科C38:775-782,C2021***

極小切開白内障・硝子体同時手術の成績

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(157)7330910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(5):733736,2008cはじめに2002年にFujiiとDeJuanらが経結膜的強膜創にカニューレを設置する25ゲージ(G)硝子体手術システムを開発して以来,小切開かつ経結膜的無縫合硝子体手術が可能となり1),近年,その適応の拡大,他の手術との併用の可能性が注目されている.従来,25Gシステムは強膜創の閉鎖を得るために周辺硝子体を残存させる必要性があること,器具の剛性が弱いため周辺部硝子体切除がむずかしいこと,内視鏡などの周辺部をみるための補助器具がないなどの点から,眼内操作が多く増殖膜処理の必要な増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症においてはあまりよい適応でないと考えられてきた2,3)が,トロカールを斜めに刺入することによる自己閉鎖の改善4),wideangleviewingsystemや眼内照明の改良などによる観察系の進歩により,25Gシステムはその適応が拡大してきている.しかし,白内障手術との同時手術を行う際,角膜切開や従来の2.8mmの強角膜切開白内障手術では,25G硝子体手術時のトロカール刺入に際し白内障切開創が解離するため,硝子体手術開始前に同切開創を1針縫合する必要がしばしばあった.また,25G硝子体手術後に比較的高頻度に生じる一過性低眼圧のために強角膜切開創の閉鎖不〔別刷請求先〕松原明久:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学院大学医学研究科視覚科学Reprintrequests:AkihisaMatsubara,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1-Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya-shi467-8601,JAPAN極小切開白内障・硝子体同時手術の成績加藤崇子松原明久倉知豪久保田文洋吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学SurgicalOutcomeofMicroincisionVitrectomySurgeryCombinedwithMicroincisionCataractSurgeryTakakoKato,AkihisaMatsubara,TakeshiKurachi,FumihiroKubota,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences極小切開白内障手術と25ゲージ極小切開硝子体手術を併用した同時手術の成績を検討した.対象は2005年12月から2006年8月に当院で同時手術を施行した31例33眼(男性9例9眼,女性22例24眼).年齢は平均63.7歳(4579歳).症例の内訳は,黄斑上膜,黄斑円孔,増殖糖尿病網膜症各9眼,裂孔原性網膜離2眼,ピット黄斑症候群,網膜細動脈瘤,網膜中心静脈閉塞症,網膜静脈分枝閉塞症各1眼.術中に大きな合併症は認めなかった.2段階以上の視力改善例は17眼(51.5%),不変例15眼(45.5%),2段階以上の視力悪化例は1眼(3.0%)で,術後低眼圧となった症例は3眼あったが全例1週間以内で回復した.長期予後を検討する必要があるが,極小切開硝子体手術はほとんどの症例に対応することができ,極小切開白内障手術と併用することでより低侵襲な同時手術が行えると考えられた.Wereportthesurgicaloutcomeof25-gauge(25G)microincisionvitrectomycombinedwithmicroincisioncata-ractsurgery(MICS)in33eyesof31cases.Forthecataractsurgery,a2.22.3mmsclerocornealorcornealinci-sionwasused.Vitrectomywascarriedoutbyusinga25Gsystem.Whensiliconeoilwasinjected,one25Gwoundwasexpandedto20G.Therewerenoseriouscomplications.Ocularhypotonyoccurredin3eyes,butintraocularpressurerecoveredwithinafewdaysinallcases.Postoperatively,best-correctedvisualacuityimprovedmorethan2linesin17eyes(51.5%),remainedunchangedin15eyes(45.6%),andworsenedin1eye(3.0%).Nosutureswererequiredinanypatientsafterevulsionofmicrocannula.Althoughitrequireslong-termobservation,25GmicroincisionvitrectomycombinedwithMICSiseectiveandlessinvasivefortreatmentofvitreoretinaldisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):733736,2008〕Keywords:極小切開白内障手術,極小切開硝子体手術,25ゲージ経結膜硝子体手術.microincisioncataractsur-gery,microincisionvitrectomysurgery,25-gaugetransconjunctivalsuturelessvitrectomy.———————————————————————-Page2734あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(158)製)を使用した.シリコーンオイルを注入した増殖糖尿病網膜症の1眼では,オイル注入時に強膜創の1つを20Gに拡大し,強膜創を縫合した.術中・術後合併症および術後最高視力について検討した.II結果1.術中合併症虹彩脱出などの大きな合併症はなかった.白内障手術後に粘弾性物質を吸引除去したが,硝子体手術中に前房が消失する症例はなかった.シリコーンオイルを注入した1例以外,トロカール抜去後強膜創を縫合した症例はなかった.ほとんどの症例において術翌日の前眼部所見はきれいで,結膜の出血,充血および浮腫は軽度であった.2.術後合併症術後合併症を表2に示す.術後に7mmHg未満の低眼圧となった症例は3眼(9.1%)で,黄斑円孔,黄斑上膜,増殖糖尿病網膜症がそれぞれ1例であった.全例,無処置のまま数日で眼圧は正常化した.脈絡膜離をきたした症例はなかった.25mmHg以上の高眼圧となった症例は3眼(9.1%)あったが,その内訳はSF6(六フッ化硫黄)ガスを注入した黄斑円孔の症例2眼とシリコーンオイルを注入した症例1眼であった.網膜再離をきたした症例が2眼(6.1%)あった.1眼はピット黄斑症候群の症例で,SF6ガスタンポナーデを併用したトリプル手術を施行したがガス残存中から網膜離が出現し,最終的には20Gで再手術を施行しシリコーンオイル下で現在網膜は復位している.もう1眼は,裂孔原性網膜離で,この症例でも初回はSF6ガスタンポナーデを併用したトリプル手術を施行したがガス残存中から再離してきたため,再度SF6ガスタンポナーデ併用の20G硝子体手術を施行し,現在網膜は復位している.これら再離をきたした症例に医原性網膜裂孔は認められなかった.経過観察中,眼内炎は認められなかった.視力予後は,術後最高視力が術前視力より2段階以上の改善を認めた症例は17眼(51.5%),不変であった症例は15眼(45.5%),2段階以上の悪化を認めた症例は1眼(3.0%)であった(図1).悪化した症例はピット黄斑症候群で再離全が起こるという危険性も危惧されている5).近年,白内障手術においてもbimanual法やcoaxial法などによる極小切開手術が可能となり,より低侵襲の手術法が確立されてきている5,6).今回筆者らは,25G極小切開硝子体手術に約2.3mmの極小切開白内障手術を併用したトリプル手術を施行したので,その成績を報告する.I対象および方法対象は2005年12月から2006年8月までに名古屋市立大学病院にて極小切開白内障手術と25G極小切開硝子体手術を施行し,術後6カ月以上の経過観察を行えた31例33眼である.男性9例9眼,女性22例24眼で,年齢は45歳から79歳(平均63.7歳)であった.症例の内訳は,黄斑上膜9例9眼,黄斑円孔9例9眼,増殖糖尿病網膜症7例9眼(増殖膜・牽引性網膜離を伴う症例4眼,硝子体出血を伴う症例1眼,黄斑浮腫が高度な症例4眼),裂孔原性網膜離2例2眼(ともに黄斑部離なし),ピット黄斑症候群1例1眼,網膜細動脈瘤1例1眼,網膜中心静脈閉塞症1例1眼,網膜静脈分枝閉塞症1例1眼であった(表1).白内障手術方法は,InnitiR(Alcon社製)にウルトラスリーブを用いたcoaxialphaco法で行い,切開幅は2.22.3mmであった.切開方法は,強角膜切開31眼,角膜切開2眼であった.角膜切開の症例では眼内レンズ挿入前に切開幅を2.5mmに拡大した.使用した眼内レンズは,YA-60BBR(HOYA社製)21眼,SA-60AT(Alcon社製)10眼,SN-60AT(Alcon社製)2眼であった.眼内レンズ挿入後に粘弾性物質を吸引除去した.強角膜切開創の自己閉鎖を確認後,続けて硝子体手術を施行した.当初は前房の安定化を図るために,強膜にトロカールを刺入する前に白内障手術時の強角膜切開創を8-0バイクリル糸で1針縫合した症例が6例存在するが,現在は行っていない.硝子体手術は,AccurusR(Alcon社製)を用いた3ポートによる25G経結膜無縫合硝子体手術で行った.硝子体レンズはディスポーザブルのコンタクトレンズ(DORC社製)を使用した.症例によっては周辺部の硝子体切除にwideangleviewingsystemであるBin-ocularIndirectOphthalmomicroscope(BIOM:Oculus社表1症例の内訳疾患名症例数黄斑上膜9例9眼黄斑円孔9例9眼増殖糖尿病網膜症7例9眼裂孔原性網膜離2例2眼ピット黄斑症候群1例1眼網膜細動脈瘤1例1眼網膜中心静脈閉塞症1例1眼網膜静脈分枝閉塞症1例1眼表2術後合併症低眼圧(<7mmHg)3眼(9.1%)黄斑上膜1眼黄斑円孔1眼増殖糖尿病網膜症1眼高眼圧(≧25mmHg)3眼(9.1%)黄斑円孔2眼増殖糖尿病網膜症1眼網膜再離2眼(6.1%)眼内炎0眼———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008735(159)21%(8mmHg以下)と報告している.今回の症例には,増殖糖尿病網膜症7例9眼,裂孔原性網膜離2例2眼が含まれており,これらの症例では周辺部まで硝子体を切除したものの,シリコーンオイルを注入した症例以外はマイクロカニューレ抜去後の強膜創を縫合した症例はなく,7mmHg未満の一過性低眼圧となった症例は3眼(9.1%)とこれまでの報告と比較しても低い割合であった.Shimadaらはトロカール刺入の際に,最初は眼球に対して30°斜めに刺入し,その後眼球中心方向に刺入すると創の閉鎖が得られやすいと報告している4).当初は,トロカールを強膜に垂直に刺入していたが,斜めに刺入するようになってからは低眼圧の問題はほとんど起きなくなった.今回低眼圧となった3眼はすべて垂直に刺入していた症例で,一過性低眼圧となった症例が少なかった理由は斜めに刺入した症例が混在しているためと考えられた.従来,極小切開硝子体手術は周辺部硝子体切除があまり必要でない黄斑疾患にはよい適応となるが,増殖硝子体網膜症や増殖糖尿病網膜症などには不向きと考えられてきた2,3).この検討には増殖糖尿病網膜症の症例が7例9眼含まれているが,wideangleviewingsystemを使用することにより周辺部硝子体の観察,処理も十分可能であった.増殖膜の処理に関しては,硝子体剪刀などの器具が充実していない点,器具の剛性面など,若干の不利な点は否めないが,Alcon社製の25Gカッターは吸引口が20Gカッターより先端付近にあるため,カッターによる硝子体や増殖膜の処理をより網膜に近いところで行うことができ,吸引力も強くないので網膜により近づいて操作を行っても網膜が接近しにくく安全であるという利点がある.そのため,硝子体剪刀をほとんど用いずにカッターだけで膜処理を行うことができる場合もあり,器具の出し入れによる合併症も減ると思われる.また,25Gのシャンデリア照明を利用することで双手法での増殖膜処理が簡便に行え,今後その適応は拡大していくと思われる.症例数は少ないものの網膜離の症例(2眼中1眼)とピット黄斑症候群で網膜再離をきたし,20Gによる再手術となった.ピット黄斑症候群の黄斑部離に対して,初回は25Gで硝子体手術を施行したが術後に裂孔が多発し再手術となった.裂孔は硝子体基底部に形成され,硝子体手術時の強膜創につながる硝子体索や増殖膜は認めず,硝子体手術時の強膜創へ嵌頓した硝子体の牽引よりも,局所での硝子体基底部の残存した硝子体の収縮によるものと思われた.また,もう1例の網膜離の症例はもともと裂孔が多発しており,残存した硝子体の収縮によって再離をきたしたと思われた.Scartozziら11)は黄斑疾患の硝子体手術における強膜創関連の網膜裂孔の発生を25Gシステムと20Gシステムで比較し,有意差はなかったものの,25Gシステムでその発生が低い傾向にあったとしている.今回の検討では,鋸状縁断をきたした症例で,最終的にシリコーンオイル注入となった症例であった.III考按25G硝子体手術と白内障手術を同時に行う際,白内障切開創をどうするかという問題がある.筆者らの施設では白内障手術は術後感染のことを考慮し,強角膜切開で行っている術者がほとんどであるが,25G手術との同時手術の場合は当初角膜切開で白内障手術を施行することがあった.しかし,増殖糖尿病網膜症の症例で,角膜創周囲の浮腫が著明で,硝子体手術時の眼底透見性に障害をきたしたことを経験し,以降は強角膜切開で行っている.また,眼内レンズは硝子体手術前に挿入し,粘弾性物質を除去してから硝子体手術を開始している.白内障手術を従来の2.8mmで施行した後にトロカールを刺入すると,眼球圧迫により白内障切開創が解離して虹彩が脱出することがあり,硝子体手術開始前に同切開創を1針縫合することがあった.そのため,2.3mmの極小切開白内障手術との同時手術でも,当初トロカール刺入前に最初から白内障切開創を1針縫合しておいた症例が6例あったが,その後極小切開では創の解離が起きないことがわかり,現在は白内障切開創の縫合は行っていない.白内障手術の切開幅が小さくなることで,創の閉鎖性が向上し,前房を閉鎖腔として保つことができ,硝子体手術前に眼内レンズを挿入して粘弾性物質を除去してもその後の操作で前房が虚脱することがないと考えられた.25G硝子体手術の合併症として,低眼圧の問題がある.白内障手術との同時手術を行う際,一過性低眼圧のために強角膜切開創の閉鎖不全が起こるという危険性も危惧されている5).Faiaら7)は術後1日目の眼圧が10mmHg未満となったのは32.3%,6mmHg未満の眼圧が14.5%と報告している.国内の報告では,宗ら8)は術後の低眼圧を34.3%(10mmHg以下),北岡9)は30%(8mmHg以下),木村ら10)は術前小数視力術後小数視力0.11.01.00.1図1視力予後———————————————————————-Page4736あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(160)文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuture-lessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,20022)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Initialexperi-enceusingthetransconjunctivalsuturelessvitrectomysystemforvitreoretinalsurgery.Ophthalmology109:1814-1820,20023)LakhanpalRR,HumayunMS,DeJuanEJretal:Out-comesof140consecutivecasesof25-gaugetransconjunc-tivalsurgeryforposteriorsegmentdisease.Ophthalmolo-gy112:817-824,20054)ShimadaH,NakashizukaH,MoriRetal:25-gaugescler-altunneltransconjunctivalvitrectomy.AmJOphthalmol142:871-873,20065)井上真:極小切開と25ゲージ硝子体手術.眼科手術18:495-499,20056)小林貴樹,黒坂大次郎:ナノ・ウルトラスリーブを使用した極小切開白内障手術.IOL&RS19:428-431,20057)FaiaLJ,McCannelCA,PulidoJSetal:Outcomesfollow-ing25-gaugevitrectomies.Eye2007(advanceonlinepub-lication20April2007)8)宗今日子,藤川亜月茶,宮村紀毅ほか:25ゲージ経結膜無縫合硝子体手術の成績.臨眼58:937-939,20049)北岡隆:25ゲージ硝子体手術.眼科48:313-318,200610)木村英也,黒田真一郎,永田誠:25ゲージシステムを用いた経結膜的硝子体手術の試み.臨眼58:475-477,200411)ScartozziR,BessaAS,GuptaOPetal:Intraoperativesclerotomy-relatedretinalbreaksformacularsurgery,20-vs25-gaugevitrectomysystems.AmJOphthalmol143:155-156,200712)井上真:25ゲージ硝子体手術システムのまとめ.眼科手術18:373-377,200513)吉田宗徳,小椋祐一郎:25ゲージ硝子体手術.眼科手術20:27-31,2007裂をきたした症例はなく,トロカールシステムは強膜創付近の硝子体を牽引することがないため強膜創関連の網膜裂孔はきたしにくいと考えられるが,20Gと比較すると周辺硝子体は残存しやすく,裂孔原性網膜離の手術への適応は今後症例を増やし,再検討する必要があると考えられた.視力予後に関しては,術後最高視力が術前視力より2段階以上の悪化を認めた症例は1眼(3.0%)であり,おおむね良好であった.悪化したのは,ピット黄斑症候群で術後再離をきたして最終的にシリコーンオイル注入となった症例である.極小切開硝子体手術では,切開創が小さく,眼内灌流量も減少するため低侵襲となり術後の炎症が少なく,術後視力の改善を促進すると考えられている12).今回の検討ではさまざまな疾患が含まれているが,今後は疾患ごとに症例数を増やし,術後視力の経時変化について20Gと比較検討したいと考えている.手術創が小さいことには多くのメリットがあると考えられる.25G硝子体手術は結膜温存,無縫合,炎症の軽減などの長所がある反面,強膜層の閉鎖不全,低眼圧,眼内炎の危険性,低い切除効率,弱い器具の剛性といった短所もある13).極小切開白内障手術は術後の乱視軽減にとどまらず術後眼内炎の減少が見込まれ,硝子体手術をはじめとした同時手術においては術中の前房の安定性が増すと考えられる.しかし,従来の手術方法と比較して手術成績が同等でなければこれらの極小切開のメリットも意味がない.現在筆者らの施設では,周辺部の増殖性変化が強い増殖糖尿病網膜症・増殖硝子体網膜症などで内視鏡手術の必要な症例,毛様体へのレーザー光凝固の必要な症例,前部硝子体線維血管増殖以外では,初回硝子体手術は25Gで行うようになってきた.今回の結果からも,ほとんどの症例が25G硝子体手術で対応することができた.適応疾患の選択は慎重を期すべきであるが,極小切開硝子体手術の適応の拡大に伴い,極小切開同時手術は今後増加していくと思われる.***