《原著》あたらしい眼科30(1):113.116,2013c正常眼圧緑内障に対するタフルプロストとラタノプロストの眼圧下降効果と安全性の比較中室隆子中野聡子清崎邦洋山田喜三郎久保田敏昭大分大学医学部眼科学講座ComparisonofEfficacyandSafetyofTafluprostandLatanoprostinPatientswithNormalTensionGlaucomaTakakoNakamuro,SatokoNakano,KunihiroKiyosaki,KisaburoYamadaandToshiakiKubotaDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineラタノプロストで治療中の正常眼圧緑内障患者14例28眼を対象に,タフルプロストに切り替え後,4週目,12週目の眼圧,有害事象を観察した.その後再度ラタノプロストに戻して4週目,12週目に同様に観察した.開始時の眼圧は12.9±2.0mmHg,タフルプロスト切り替え後12週目の眼圧は11.8±1.9mmHg,再度ラタノプロストに戻して12週目の眼圧は12.9±2.0mmHgで,タフルプロスト切り替えにより12週目で有意な眼圧下降を認めた(p=0.017).また,ラタノプロストへの戻しにより,タフルプロスト12週目とラタノプロスト12週目の眼圧に有意な眼圧上昇を認めた(p=0.009).両薬剤で治療中の有害事象はいずれも軽度であった.ラタノプロストで治療中の正常眼圧緑内障患者に対して,タフルプロストに切り替えることで,さらなる眼圧下降効果が認められた.Thesubjectsofthisstudycomprised28eyesof14normaltensionglaucomapatientsthatwerefollowedfor12weeksafterswitchingfromlatanoprosttotafluprost.Thefollow-upwascontinuedforanadditional12weeks,afterswitchingbackfromtafluprosttolatanoprost.Weinvestigatedtheeffectonintraocularpressure(IOP)andsideeffectsbeforetheswitchings,andat4and12weeksafter.MeanIOPbeforeswitchingfromlatanoprosttotafluprostwas12.8±2.0mmHg;at12weeksaftertheswitch,ithadreducedto11.8±1.9mmHg.At12weeksaftertheswitchbackfromtafluprosttolatanoprost,meanIOPwas12.9±2.0mmHg.ThereweresignificantdifferencesinIOPbetweenbeforeandat12weeksafterswitchingfromlatanoprosttotafluprost,andbetweenbeforeandat12weeksafterswitchingbackfromtafluprosttolatanoprost.Therewerenoseveresideeffects.TafluprostwassuperiorinreducingIOPforpatientswithnormaltensionglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):113.116,2013〕Keywords:タフルプロスト,ラタノプロスト,正常眼圧緑内障,アドヒアランス.tafluprost,latanoprost,normaltensionglaucoma,adherence.はじめにプロスタグランジン関連薬はプロストン系とプロスト系に大別され,プロスト系プロスタグランジン関連薬は,1日1回点眼で終日持続する強力な眼圧下降・日内変動抑制効果を有するので,緑内障治療の第一選択薬となっている.わが国では4種の薬剤が使用可能で,それぞれの特徴を踏まえ,患者ごとに有効性,安全性,アドヒアランス,経済性を鑑みながら選択する必要がある1).点眼薬の変更により,点眼薬の眼圧下降効果を比較する場合,点眼変更によりアドヒアランスが改善し,変更後の薬剤が有利になる可能性がある.本研究では日本人の正常眼圧緑内障(NTG)患者におけるラタノプロストとタフルプロストの有効性と安全性について比較検討した.そして点眼薬の切り替えによるアドヒアランス改善の影響を除外するため,ラタノプロストをタフルプロストに切り替えた後,さらにタフルプロストからラタノプロストに戻して,それぞれの眼圧の下降率,副作用を検討した.〔別刷請求先〕中室隆子:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ヶ丘1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakakoNakamuro,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama-machi,Yufu-shi,Oita879-5593,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(113)113表1副作用スコア(有害事象をスコア化して比較を行った)調査項目スコア自覚症状/他覚所見刺激感0123しみない少ししみるしみる大変しみて我慢できない掻痒感0123痒くない少し痒いが,掻かずに我慢できる痒い大変痒く我慢できない異物感0123コロコロする感じがない少しコロコロする感じがあるがあまり気にならないコロコロする感じがあって気になるコロコロする感じが大変強く,気になって仕方がないフルオレセイン染色0123フルオレセインで染色されない限局的に点状のフルオレセイン染色が認められる限局的に密なまたはびまん性のフルオレセイン染色が認められるびまん性に密な点状のフルオレセイン染色が認められる充血0123充血は認められない限局的に軽微な充血が認められる眼瞼結膜または眼球結膜に軽度な充血が認められる眼瞼結膜または(および)眼球結膜に著しい充血が認められるI対象および方法本研究は,2010年4月から2011年11月の間に臨床研究参加の同意を患者から取得し,参加登録を行った.参加施設は,大分県内の大分大学医学部附属病院,大分県立病院,大分赤十字病院,杵築市立山香病院,健康保険南海病院,天心堂へつぎ病院の6施設で行った.本研究に先立ち,大分大学医学部倫理委員会で研究実施の承認を得た.対象は,参加6施設に通院中の20歳以上の正常眼圧緑内障患者で,両眼ともラタノプロストで4週間以上治療中の患者14例28眼であった.性別は男性6例,女性8例.年齢は平均65.7±9.3歳(42.76歳)であった.両眼とも4週間以上ラタノプロストを使用している患者に対し,タフルプロストに切リ替え後,4週目,12週目の眼圧,有害事象を観察した.その後,タフルプロストからウォッシュアウト期間なしに再度ラタノプロストに戻して,4週目,12週目に同様に眼圧,有害事象を観察した.有害事象については,自覚症状として刺激感,掻痒感,異物感について問診し,他覚所見として細隙灯顕微鏡で角膜のフルオレセイン染色,結膜充血を観察した.自覚症状,他覚所見は表1のようにスコア化した.開始時と点眼変更後3カ月のスコアを比較し,スコアが1以上低下したものを改善,1以上上昇したものを悪化として比較した.ラタノプロスト単独治療症例は10例20眼で,他剤併用症例は4例8眼であった.他の緑内障点眼薬を併用している患者はラタノプロスト以外の緑内障点眼薬を変114あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013更せずに観察を行った.眼圧の有意差の検定にはt検定を行い,p<0.05を有意差ありと判定した.II結果試験開始時の眼圧は,12.9±2.0mmHg,タフルプロスト切り替え後4週目の眼圧は12.4±1.9mmHg,12週目の眼圧は11.8±1.9mmHg,再度ラタノプロストに戻した後4週目の眼圧は12.6±1.9mmHg,12週目の眼圧は12.9±2.0mmHgであり,タフルプロスト切り替えにより12週目で有意な眼圧下降を認めた(p=0.017).また,ラタノプロストへの戻しにより,タフルプロスト12週目とラタノプロスト12週目の眼圧に有意な眼圧上昇を認めた(p=0.009)(図1).眼圧変動について1mmHg以上低下を改善,1mmHg以上上昇を悪化,眼圧変動がなかった例を不変と定義すると,ラタノプロストからタフルプロストへの変更12週で改善12眼,不変12眼,悪化4眼であった.一方,タフルプロストからラタノプロストへの変更で改善6眼,不変9眼,悪化13眼であった(図2,3).有害事象のうち刺激感については,タフルプロストに変更後改善が2例,悪化が2例,ラタノプロストに変更後改善が1例,悪化が2例であった.掻痒感は,タフルプロストに変更後改善が2例,悪化が0例,ラタノプロストに変更後はすべて不変であった.異物感は,タフルプロストに変更後改善が1例,悪化が0例,ラタノプロストに変更後改善は0例,悪化が1例であった.角膜のフルオレセイン染色は,タフル(114)p=0.017p=0.009刺激感掻痒感異物感フルオレセイン染色充血1111.51212.51313.5眼圧(mmHg)(週)0.000.050.100.150.200.250.300.350.4004812162024副作用スコア(週)0412162412W12W4W~ラタノタフルプロストラタノプロストプロスト図1観察期間中の眼圧変動タフルプロスト切り替えにより12週目で有意な眼圧下降を認めた.また,ラタノプロストへの戻しにより,タフルプロスト12週目とラタノプロスト12週目の眼圧に有意な眼圧上昇を認ラタノ12W12W4W~タフルプロストラタノプロストめた.プロスト図4副作用スコアの経過中の変動改善12不変12悪化4化は図4のようであり,経過中変動は軽微であった.なお,両薬剤で治療中に発現した有害事象はいずれも軽度かつ一過性であり,使用中止例はなかった(図4).III考按点眼薬切り替え試験では,被験者選定でアドヒアランスが向上し,薬効が過大評価されるHawthorne効果が生じるとされる2).本研究では,4週間以上ラタノプロストを使用している患者を選定し,全例をタフルプロストに切り替え後,4週目,12週目の眼圧,有害事象を観察した.その後,タフルプロストからウォッシュアウト期間なしに再度ラタノプロストに戻して,同様な検査を行った.このswitchback法図2ラタノプロストからタフルプロストへの変更後の眼圧変動改善6不変9悪化13によって切り替えによるアドヒアランス改善の影響を除外した.正常眼圧緑内障において,ラタノプロストからタフルプロストへ切り替えた結果,有意に眼圧が下降した.また,ラタノプロストへの戻しにより,タフルプロスト点眼12週目とラタノプロスト点眼12週目の眼圧に有意な眼圧上昇を認めた.プロスト系プロスタグランジン関連薬には,プロスタノイド誘導体とプロスタマイド誘導体がある.プロスタノイド誘図3タフルプロストからラタノプロストへの変更後の眼圧変動プロストに変更後改善が1例,悪化が3例,ラタノプロストに変更後改善は0例,悪化が4例であった.タフルプロスト変更後悪化した3例のうち,ラタノプロスト変更後に改善が1例,悪化が0例,不変は2例であった.充血は,タフルプロストに変更後改善が3例,悪化が3例,ラタノプロストに変更後改善は1例,悪化が1例であった.副作用スコアの変(115)導体にはラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストがある.プロスタマイド誘導体にはビマトプロストがある.海外のメタ解析では,眼圧下降効果はラタノプロスト≒トラボプロスト≦ビマトプロストの傾向にあるとされる3,4).ラタノプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの3剤を比較した自験例では,ビマトプロストが最も眼圧下降が良好であった1).原発開放隅角緑内障にはプロスタノイド誘導体3剤の効果はほぼ同等で,プロスタマイド誘導体であるビマトプロストはやや効果が強い.正常眼圧緑内障に対するプロスあたらしい眼科Vol.30,No.1,2013115タグランジン関連薬の比較に関しては,まだ報告は少ない5,6).正常眼圧緑内障患者でラタノプロストからタフルプロストに変更して3カ月経過観察した報告では,有意な眼圧下降が報告されている5).本研究ではさらにタフルプロストからラタノプロストに戻して,下降した眼圧が上昇したことを観察した.眼圧下降は有意であったが,平均で1mmHg程度の眼圧の動きであり,また症例数も多くないので,今後多数例の検討が必要であると考える.プロスタグランジン関連薬には,期待された眼圧下降が得られないノンレスポンダーの存在も指摘されている7,8).今回の対象者にノンレスポンダーが含まれていたかどうかの検討はできていない.ラタノプロストとタフルプロストのノンレスポンダー比率の違いが本研究の結果に影響した可能性は否定できない.本研究では症例数が少ないために両眼とも対象にして解析した.1例1眼で解析するほうが望ましい.また,ラタノプロスト単独症例と他剤併用症例が含まれているが,症例数が少ないので,解析は両者を含めて行った.今後は多数例での検討が必要である.有害事象については,フルオレセイン染色による角膜上皮障害スコアは,タフルプロスト,ラタノプロスト変更後ともに,やや悪化傾向にある.長期に薬剤を使用するほど角膜上皮障害が悪化する確率が上がってくるので,このような結果になるのは点眼薬を使用した結果だと考え,タフルプロストとラタノプロストによる差異ではないと判断した.ラタノプロスト,タフルプロストともに3カ月の点眼期間の観察では副作用は軽微なものであり,角膜のフルオレセイン染色以外の副作用スコアで変動はほぼ認めなかったことから,両点眼とも忍容性は高いことが推測される.文献1)中野聡子,久保田敏昭:プロスタグランジン関連薬の比較.あたらしい眼科28:511-512,20112)FrankeRH,KaulJD:TheHawthorneexperiments:Firststatisticalinterpretation.AmSociolRev43:623-643,19783)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20084)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20055)湖﨑淳,鵜木一彦,安達京ほか:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果.あたらしい眼科27:827-830,20106)大谷伸一郎,湖崎淳,鵜木一彦ほか:日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:687-690,20107)RossettiL,GandolfiS,TraversoCetal:Anevaluationoftherateofnonresponderstolatanoprosttherapy.JGlaucoma15:238-243,20068)IkedaY,MoriK,IshibashiTetal:Latanoprostnonresponderswithopen-angleglaucomaintheJapanesepopulation.JpnJOphthalmol50:153-157,2006***116あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(116)