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塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼薬の球結膜充血

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(107)563《原著》あたらしい眼科28(4):563.567,2011cはじめに現在,緑内障の第一選択薬であるプロスタグランジン(PG)関連薬は,強力な眼圧下降効果を示し,かつ全身副作用が少ない1).しかし,結膜充血,虹彩・眼瞼色素沈着,睫毛異常などのPG関連薬特有の眼局所副作用2)が懸念される.トラボプロスト点眼薬は,PG関連薬の一つであり,眼圧下降効果に密接に関連していると考えられるFP受容体に選択的なフルアゴニストである3).日本で承認されたトラボプラスト点眼薬は,ベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAC)を含まず,防腐剤としてsofZiaTMを含有し〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼薬の球結膜充血比嘉利沙子*1井上賢治*1塩川美菜子*1菅原道孝*1増本美枝子*1若倉雅登*1相原一*2富田剛司*3*1井上眼科病院*2東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学*3東邦大学医学部眼科学第二講座ConjunctivalHyperemiaafterTreatmentwithBAC-FreeTravoprostOphthalmicSolutionRisakoHiga1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MichitakaSugahara1),MiekoMasumoto1),MasatoWakakura1),MakotoAihara2)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine2008年4月から2009年2月に,井上眼科病院でベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAC)非含有トラボプラスト点眼薬を新規処方した正常眼圧緑内障患者60例60眼を対象とした.BAC非含有トラボプロスト点眼薬による結膜充血について調査した.BAC非含有トラボプロスト点眼薬は,1日1回点眼し,点眼開始前と点眼1カ月後に撮影した耳側球結膜のスリット写真より,結膜充血の発現率と程度を評価した.結膜充血の程度は,独自に作成した基準写真の6段階グレード分類で,変化なし18例(30%),1段階変化31例(51%),2段階変化10例(17%),3段階変化1例(2%)であり,2段階以上の顕著な充血増強は全体の19%であった.自記式質問調査による自覚的評価では,2週間まで29例(49%)が結膜充血を自覚したが,最終的には19例(32%)が持続して自覚した.6段階評価によるBAC非含有トラボプロスト点眼薬の結膜充血増強は42例(70%)に認めたが,増強例の74%は1段階の軽微な変化であり,点眼継続に支障をきたすことはなかった.Thisstudyinvolved60eyesof60Japanesenormal-tensionglaucomapatientstreatedwithtravoprostwithoutbenzalkoniumchloride(BAC)atInouyeEyeHospitalbetweenApril2008andFebruary2009.Theconjunctivalhyperemiaofeachpatientwasgradedandassessedfromphotographsofthetemporalconjunctivatakenbothbeforeandat1monthaftertreatment.Findingsshowedconjunctivalhyperemiainvariousdegreesofchangebetweenpre-andpost-treatment.Hyperemiawithnochangewasseenin18cases(30%),onedegreeofchangein31cases(51%),twodegreesofchangein10cases(17%)andthreedegreesofchangein1case(2%).Patients’self-assessmentfoundconjunctivalhyperemiain29cases(49%).Althoughconjunctivalhyperemiaincreasewasfoundin42cases(70%),mostofsuchincreasesweremild;nocasesrequireddiscontinuationoftreatmentbytravoprostwithoutBAC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):563.567,2011〕Keywords:トラボプロスト点眼薬,副作用,結膜充血,正常眼圧緑内障,プロスタグランジン関連薬.travoprost,adversereaction,conjunctivalhyperemia,normal-tensionglaucoma,prostaglandinanalogs.564あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(108)ている.結膜充血は,トラボプロスト点眼薬の最も頻度の高い眼局所副作用であり4~10),アドヒアランスを左右する要素である.しかし,これまで,日本人を対象としたBAC非含有トラボプロスト点眼薬の結膜充血の発現率や程度については,十分な検証は行われていない.そこで,筆者らは眼局所作用のなかでも結膜充血に着眼し,BAC非含有トラボプロスト点眼薬による結膜充血の客観的評価を試みた.I対象および方法2008年4月から2009年2月に,井上眼科病院でBAC非含有トラボプロスト点眼薬(トラバタンズR0.004%点眼液,日本アルコン)を新規に処方した正常眼圧緑内障患者60例60眼(男性23例,女性37例)を対象とした.年齢(平均値±標準偏差値)は55.1±13.2歳(28~83歳),観察期間は31.8±5.8日(22~48日)であった.正常眼圧緑内障の診断基準は,①日内変動を含む複数回の眼圧測定で眼圧が21mmHg以下であり,②視神経乳頭と網膜神経線維層に緑内障に特有な形態的特徴(視神経乳頭辺縁部の菲薄化,網膜神経線維層欠損)を有し,③それに対応する視野異常が高い信頼性と再現性をもって検出され,④視野異常の原因となりうる他の眼疾患や先天異常がなく,⑤さらに隅角鏡検査で両眼正常開放隅角を示すものとした.両眼点眼例では,右眼を解析眼とした.緑内障患者60名に,BAC非含有トラボプロスト点眼薬を,1日1回,夕方以降就寝前の同一時間帯に点眼し,1カ月後の来院まで継続使用することを指示した.他覚的評価は写真判定とし,点眼開始前に140万画素CCD(KD-140C,興和)を搭載したフォトスリットランプ(SC-1200,興和)で,耳側球結膜を一定照度,30°方向からのスリット照明下で撮影した.1カ月後は,点眼開始前の写真と比較をせずに条件のみを統一し撮影した.写真撮影は,熟練した写真撮影技師3名が行った.写真判定に際しては,点眼前後のペア写真を提示して行った.その際,点眼した事実が認識されるため点眼後の充血スコアが高く評価されるというバイアスがかかることが十分考えられる.そのため,意図的に未点眼群の1カ月おいて撮影した写真2枚をコントロールとして緑内障患者群の点眼前後の写真に混在させることで,点眼の有無にかかわらず充血スコアを正当に評価できるよう努めた.そのためのコントロール群は,井上眼科病院職員よりコンタクトレンズ未使用,点眼薬未使用,眼疾患および眼合併症の可能性のある全身疾患の既往がないことを条件に有志を募り,屈折異常以外に器質的眼疾患がないことが確認された5名5眼(男性2例,女性3例)とした.年齢は40.1±15.1歳(24~64歳),右眼を解析眼とした.結膜充血スコア分類および判定方法結膜充血を評価するために独自に6段階のグレード分類基準写真を作成した(図1).眼疾患を有しない健常人ボランティア30名に対し,BAC非含有トラボプロスト点眼薬を1回点眼することにより惹起される耳側結膜充血をスリットランプにより撮影した.耳側30°方向からの撮影を,9時点眼充血なしグレード1グレード2グレード3グレード4グレード5グレード0図1結膜充血のグレード分類独自に作成した6段階のグレード分類を基準写真として用いた.(109)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011565直前,および点眼後1,2,3,6,12時間にわたり6回撮影し,最も充血が顕著であった症例を基準として採用し,充血スコア0から5までの6段階にスコア化した.この基準写真を元に,写真判定は,該当患者を診察したことのない3名の眼科専門医が個別に行った.判定医には,画像ファイリングシステム(VK-2,興和)より印刷した写真に,症例別に点眼前後のみを表記したペア写真で提示した.さらに判定には,未点眼のコントロール群の1カ月おいて撮影したペア写真をランダムに混入させた.結膜充血の程度は,基準写真を用いたグレード分類によるスコア差(1カ月後.点眼前)が,判定医2名が一致した評価を採用し,一致しなかった場合,第3の判定医の判断により評価を決定した.自記式質問調査方法点眼開始から1カ月後の再来院時に,アドヒアランスに問題がなかったことを問診で確認のうえ,検査員より自記式質問調査表(表1)を患者に配布した.問1の設問に対しては,1時間単位で記載し,問2から4の設問に対しては,回答肢より選択した結果を自己記入後,診察前に検査員が回収した.判定医間のスコア値はKruskal-Wallis検定およびk係数,点眼前と1カ月後のスコア値はWilcoxon符号付順位検定を用い,統計学的解析を行った.有意水準をp<0.05とした.本臨床研究は,井上眼科病院倫理審査委員会で承認後,文書による同意を得て実施した.II結果緑内障患者60名に1カ月間BAC非含有トラボプロスト点眼薬を点眼したところ,副作用や未来院による脱落症例はなかった.1.他覚的評価緑内障患者60名に対する判定医3名の合計充血スコア値は,点眼前は57,51,51(スコア平均値53),点眼1カ月後は合計103,121,105(スコア平均値110)であり,判定医間に有意差を認めなかった(Kruskal-Wallis検定p=0.57,0.21).k係数は,点眼前0.51,点眼1カ月後0.51であった.点眼前と1カ月後のスコア値は,それぞれ有意差を認めた(p<0.0001,Wilcoxon符号付順位検定).結膜充血の程度は,基準写真のグレード分類で変化なし18例(30%),1段階変化31例(51%),2段階変化10例(17%),3段階変化1例(2%)であった.変化のあった42例中31例(74%)は,基準写真を用いたグレード分類で,1段階変化と軽微な変化であった(図2).程度分類については,判定医2名とも不一致な症例はなかった.コントロール症例の結膜充血の変化はなかった.2.自覚的評価点眼薬のアドヒアランスは全例良好で,自記式質問調査の回収率は100%であった.点眼時間は,20時前が10例(17%),20時以降22時前が13例(22%),22時以降24時前が33例(55%),24時以降が4例(6%)であった.表1自記式質問調査表問1:毎日,何時ごろに点眼をしましたか?問2:点眼をはじめてから,今までに充血が気になることはありましたか?①気になることはなかった②はじめは気になったが,今は気にならない③少し気になる④気になる⑤かなり気になる問3:問2の②を選択した方にお伺いします.充血が気になっていた期間は,どれくらいですか?①3日目まで②1週間目まで③2週間まで④1カ月まで問4:問2の③④⑤を選択した方にお伺いします.充血が気になった時間は,点眼後どれくらいですか?①約2時間②翌朝まで③それ以上点眼後の充血について10例(17%)10例(17%)気になる時間2時間まで2例翌朝まで10例それ以上7例気になっていた期間3日まで6例1週間まで2例2週間まで2例気にならない31例(51%)はじめだけ気になったかなり気になる4例(7%)気になる5例(8%)少し気になる図3結膜充血の自覚的評価変化なし30%(18例)1段階変化51%(31例)2段階変化17%(10例)3段階変化2%(1例)図2結膜充血の程度基準写真を用いたグレード分類を基に評価した.566あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(110)自記式質問調査では,結膜充血について,31例(51%)は「気にならない」と回答した(図3).つぎに「はじめだけ気になった」症例が10例(17%)を占めたが,全例2週間までに気にならなくなった.したがって,期間終了時では41例(68%)が「気にならない」と評価した.一方,観察期間終了時点でも「気になる」症例は19例(32%)であった.内訳は図3のとおり,半数以上が「少し気になる」10例(全体の17%)であり,明らかに「気になる」症例は9例(15%)であった.結膜充血の自覚と他覚的評価の対応を表2に示す.自覚的に「気にならない」と回答した31例中6例は他覚的評価では基準写真によるグレード分類で2段階以上の変化であり,「気になる」,「かなり気になる」と回答した9例中5例は他覚的には変化なしであり,自覚と他覚的評価には解離があった(表2).III考按本試験では,BAC非含有トラボプロスト点眼液により1カ月の連続点眼後70%の症例で充血が増強したが,そのうち74%(全体の51%)は1段階の軽微な増強であった.全体の19%で2段階以上の充血スコアの増強を認めた.自覚的には51%が充血を気にならないと評価したが,約半数は充血を気にしていることになった.本調査では,結膜充血を客観的に評価するため,①写真判定,②複数医師による同時判定,③基準スケールには画像採用,④患者背景は非公開,⑤判定には非点眼の正常眼を含むなどの工夫を行った.しかし,最終点眼から写真撮影時間が統一されていないことや,同一眼で異なった日時で評価の再現性を確認していないこと,など評価方法の課題が残ることは否めない.PG関連薬の副作用の大部分は充血である.特に,ラタノプロスト以降発売されたPG関連薬,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストのほうが,充血が強いと報告されている11,12).ところが,結膜表面に及ぼす副作用のメカニズムについては,これまで明らかにされていない.しかも点眼薬製剤では主剤と基剤の両面から副作用を考える必要がある.主剤であるPG関連薬はFP受容体刺激により眼圧下降効果を惹起する13)が,そのFP受容体に対する直接刺激が血管拡張を起こす可能性と,FP受容体刺激により内因性のPGが産生されることで二次的に血管拡張を起こす可能性がある14).眼表面ではPG関連薬は基本的にプロドラッグであるはずであるが,プロドラッグのままのトラボプロストとその代謝されて活性型となったトラボプロスト酸型が,どの程度結膜血管に作用するかは,今後の検討を要する課題である.また,今回BAC非含有トラボプロスト点眼薬(トラバタンズR0.004%点眼液)を用いたが,他のPG関連薬についても,同判定方法で結膜充血の発現率を評価し比較検討する必要がある.一方,点眼薬は基剤としてさまざまな薬剤が混入されている.特に防腐剤であるBACは,易水溶性,室温での長期安定性,広域な抗菌性,強力な抗菌力を有することなどから,点眼薬に広く用いられているが,一方では,細胞毒性による角膜上皮障害やアレルギー反応など眼表面にさまざまな障害をひき起こすことが問題視されてきた15).この主剤と基剤の面からみると,過去の文献ではBAC含有量が等しい0.0015%と0.004%のトラボプロスト点眼薬の結膜充血の発現率は38.0%と49.5%であった4).Lewisら10)は,BAC含有とBAC非含有トラボプロスト点眼薬を比較し,結膜充血は9.0%と6.4%,角膜上皮障害は1.2%と0.3%にみられたことを報告している.安全性については,同等であったと結論付けているが,BAC非含有トラボプロスト点眼薬が結膜充血,角膜上皮障害ともに発現率が少ない傾向にあった.このことから,過去のBAC含有トラボプロスト点眼薬の結膜充血発現率は,主剤のトラボプロスト濃度依存性とともにBACの影響と捉えられることができる.トラボプロスト点眼薬の結膜充血発現率は6.3~58.0%と報告4~10)され(表3),対象(人種差,年齢)や研究デザイン(BAC含有の有無,判定方法)などの違いにより単純に比較することはできないが,本試験はBAC非含有トラボプロストにもかかわらず,70%で充血表3トラボプロスト点眼薬による結膜充血の発現率報告者報告年濃度(%)防腐剤(BAC)症例数(眼)発現率(%)Netland4)20010.0015+20538.00.004+20049.5Parrish5)20030.004+13858.0Parmaksiz6)20060.004+1838.9Chen7)20060.004+3713.5Garcia-Feijoo8)20060.004+326.3Konstas9)20070.004+4038.0Lewis10)20070.004+3399.00.004.3226.4表2結膜充血の自覚と他覚的評価の比較自覚的評価他覚的評価変化計なし1段階変化2段階変化3段階変化気にならない9165131はじめのみ280010少し気になる262010気になる40105かなり気になる11204計183110160他覚的評価は基準写真を用いたグレード分類からの変化を示す.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011567スコアが増加した.しかし不変であった例も含めた全体の51%が1段階の変化であり,臨床的に問題となる変化ではないと考える.19%は2段階以上の変化であり,これは明らかな充血増強と捉えることができる.この充血スコア変化と過去の充血の出現率の直接の比較は困難であるが,少なくともBAC非含有トラボプロスト点眼薬であるため,純粋にトラボプロストの副作用として評価できよう.本試験での充血変化が高かった理由としては,基準となるグレード分類を6段階とかなり詳細なものを用いたため,微細な変化も捉えた結果と考えた.他覚的評価と自覚的評価が一致しなかったことについては,処方時に結膜充血を含む眼局所副作用について統一した説明を行ったが,説明を受けたため気にならなかった患者と逆に意識的に自己チェックした患者の個性が反映された結果と考えた.このような臨床試験への参加は患者の意識を過剰にさせる可能性があり,通常臨床投与の際はこの副作用頻度より少ない可能性もある.本試験では1カ月点眼であったが,長期投与での変化については今後の検討を要する.本試験中は,副作用による脱落はなかったが,臨床的には約半数が自覚的に充血を気にすることを考えると,トラボプロストに限らず,PG関連薬の共通の副作用である充血に対して,投与の際には十分留意させるとともに眼圧下降の重要性を指導することで脱落を防ぎ,アドヒアランスを保つことが重要である.本論文の要旨は,第113回日本眼科学会総会で報告した.文献1)WatsonP,StjernschantzJ,theLatanoprostStudyGroup:Asix-month,randomized,double-maskedstudycomparinglatanoprostwithtimololinopen-angleglaucomaandocularhypertension.Ophthalmology103:126-137,19962)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:ラタノプロスト使用患者の眼局所副作用.日眼会誌110:581-587,20063)HellbergMR,SalleeVL,McLaughlinMAetal:Preclinicalefficacyoftravoprost,apotentandselectiveFPprostaglandinreceptoragonist.JOclPharmcolTher17:421-432,20014)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20015)ParrishRK,PalmbergP,SheuWPetal:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:A12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20036)ParmaksizS,YukselN,KarabasVLetal:Acomparisonoftravoprost,latanoprost,andthefixedcombinationofdorzolamideandtimololinpatientswithpseudoexfoliationglaucoma.EurJOphthalmol16:73-80,20067)ChenMJ,ChenYC,ChouCKetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprostandtravoprostonintraocularpressureinchronicangle-glaucoma.JOculPharmacolTher22:449-454,20068)Garcia-FeijooJ,delaCasaJM,CastilloAetal:CircatianIOP-loweringefficacyoftravoprost0.004%ophthalmicsolutioncomparedtolatanoprost0.005%.CurrMedResOpin22:1689-1697,20069)KonstasAG,KozobolisVP,KatsimprisIEetal:Efficacyandsafetyoflatanoprostversustravoprostinexfoliativeglaucomapatients.Ophthalmology114:653-657,200710)LewisRA,KatzGL,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,200711)StewartWC,KolkerAE,StewartJAetal:Conjunctivalhyperemiainhealthysubjectsaftershort-termdosingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprost.AmJOphthalmol135:314-320,200312)HonrubiaF,Garcia-Sanchez,PoloVetal:Conjunctivalhyperaemiawiththeuseoflatanoprostversusotherprostaglandinanaloguesinpatientswithocularhypertensionorglaucoma:ameta-analysisofrandomisedclinicaltrials.BrJOphthalmol93:316-321,200813)OtaT,AiharaM,NarumiyaSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonIOPinprostanoidFP-receptordeficientmice.InvestOphthalmolVisSci46:4159-4163,200514)HinzB,RoschS,RamerRetal:Latanoprostinducesmatrixmetalloproteinase-1expressioninhumannonpigmentedciliaryepithelialcellsthroughacyclooxygenase-2-dependentmechanism.FASEBJ19:1929-1931,200515)相良健:オキュラーサーフェスへの影響─防腐剤の功罪.あたらしい眼科25:789-794,2008***

正常眼圧緑内障に対するイソプロピル ウノプロストン3 年間点眼の眼圧およびセクター別の視野に及ぼす効果

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(111)1593《原著》あたらしい眼科27(11):1593.1597,2010cはじめに緑内障治療の最終目標は視野障害の進行を停止または遅延させ,残存視野を維持することで,そのために唯一高いエビデンスが得られている治療が眼圧下降である1,2).眼圧下降治療の第一選択は通常点眼薬治療である.イソプロピルウノプロストン(以下,ウノプロストン)はプロスタグランジンF2a代謝型化合物で,ぶどう膜強膜流出路経由の房水流出を増加させることで眼圧を下降させる.ウノプロストンはその他に血管弛緩による微小循環血流の改善作用,線維柱帯細胞の弛緩によるconventionaloutflowの増加作用,神経系の細胞膜の過分極による神経保護作用を有し,眼圧下降以外にこれらの作用が視野維持に寄与していると考えられている3~10).点眼薬の評価は単剤投与での眼圧下降と,視野検査による視野障害の確認で行われるが,特に正常眼圧緑内障の視野障害進行は通常緩徐で,その判定には長期的な経過観察が必要である.さらに視野障害進行の判定法は多数あり,判〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN正常眼圧緑内障に対するイソプロピルウノプロストン3年間点眼の眼圧およびセクター別の視野に及ぼす効果井上賢治*1澤田英子*1増本美枝子*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座EffectofIntraocularPressureandVisualFieldsDividedinto6SectorsforNormal-TensionGlaucomaPatientsTreatedwithIsopropylUnoprostonefor3YearsKenjiInoue1),HidekoSawada1),MiekoMasumoto1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineイソプロピルウノプロストンを正常眼圧緑内障患者に3年間以上単剤投与した際の眼圧や視野に及ぼす影響を検討した.イソプロピルウノプロストンを単剤で新規に投与し,3年間以上継続して使用でき,上方のみに視野障害を有する正常眼圧緑内障患者20例20眼を対象とした.眼圧,視野検査におけるmeandeviation(MD)値を1年ごとに比較した.視野障害はトレンド解析,イベント解析でも評価した.視野を6セクターに分類して1年ごとに各セクターのtotaldeviation(TD)値を比較した.眼圧は3年間にわたり有意に下降した.MD値は投与前後で同等であった.トレンド解析,イベント解析ともに3年間で各2例が視野障害進行と判定された.TD値は6セクターとも投与前後で変化なかった.イソプロピルウノプロストンは正常眼圧緑内障に対して,3年間持続的な眼圧下降作用をもち,視野維持におおむね有用である.Wereporttheeffectof3yearsoftreatmentwithisopropylunoprostoneineyeswithnormal-tensionglaucoma.Thisstudyinvolved20eyesof20patientswithnormal-tensionglaucomawhoreceivedisopropylunoprostoneformorethanthreeyears.Intraocularpressure(IOP)andmeandeviationofHumphreyvisualfieldtestweremonitoredandevaluatedevery6months.Humphreyvisualfieldtesttrendsandeventswerealsoanalyzed.Visualfieldsweredividedinto6sectorsandthetotaldeviation(TD)ofeachsectorwascomparedbetweenbeforeandaftertreatment.MeanIOPdecreasedsignificantlyaftertreatment.Meandeviationdidnotchangesignificantlyduringthethreeyears.Visualfieldperformanceworsenedfor2patientsintrendanalysis,andforanother2patientsineventanalysis.TheTDforeachsectorwassimilarbetweenbeforeandaftertreatment.IsopropylunoprostoneshowedIOPreductionandanearlystabilizedvisualfieldfor3years.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1593.1597,2010〕Keywords:正常眼圧緑内障,イソプロピルウノプロストン,眼圧,視野,セクター.normal-tensionglaucoma,isopropylunoprostone,intraocularpressure,visualfield,sector.1594あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(112)定基準法,ステージ分類法,直線回帰解析(トレンド解析),イベント解析などがあげられる.このように多数の判定法が存在し,同一患者でも判定法により評価が異なることもあり,点眼薬の視野に対する治療効果の評価は困難である.ウノプロストンの単剤投与による長期治療成績は多数報告されている11~16)が,視野障害の進行をmeandeviation(MD)値やmeandefect値以外で検討した報告は少ない11,12).そこで今回,ウノプロストン点眼薬の正常眼圧緑内障に対する眼圧および視野への長期間投与の効果を,視野障害についてはさまざまな評価法を用いてレトロスペクティブに検討した.I対象および方法2003年8月から2006年7月の間に井上眼科病院で0.12%ウノプロストン点眼薬を単剤で投与し,3年間以上継続して使用でき,投与開始時に上方のみに視野障害を有する正常眼圧緑内障患者20例20眼(男性13例13眼,女性7例7眼)を対象とした.平均年齢は58.9±10.1歳(平均±標準偏差)(28~75歳)であった.投与前眼圧は15.1±2.1mmHg,Humphery視野プログラム中心30-2SITA-StandardのMD値は.5.4±3.7dBであった.正常眼圧緑内障の診断基準は1)日内変動を含む,無治療時および経過中に測定した眼圧が21mmHg以下であり,2)視神経乳頭と網膜神経線維層に緑内障性変化を有し,それに対応する視野異常を認め,3)視野異常をきたしうる緑内障以外の眼疾患や先天異常,全身疾患を認めず,4)隅角検査で正常開放隅角を示すものとした.過去に内眼手術やレーザー治療,局所的あるいは全身的ステロイド治療歴を有するものは除外した.ウノプロストン点眼(1日2回朝夜点眼)を開始した.眼圧は1~3カ月ごとにGoldmann圧平眼圧計を用いて,患者ごとに同一検者が測定した.視野検査は6カ月ごとにHumphery視野プログラム中心30-2SITA-Standardを行った.投与前と投与1,2,3年後の眼圧を比較した〔ANOVA(Analysisofvariance)およびBonferroni/Dunnet〕.投与前と投与1,2,3年後の視野検査におけるMD値を比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet).視野障害進行の判定はトレンド解析とイベント解析を行った.トレンド解析はMD値の経時的変化を直線回帰分析したもので,これにより算出された年単位のMD値の変化量(dB/年)を統計学的有意性とともに表した指標である.イベント解析は経過観察当初の2回の検査結果をベースラインとして,その後の検査でベースラインと比較して一定以上の悪化が認められた時点で進行と判定する.GlaucomaProgressionAnalysisを使用し,2回連続して同一の3点以上の隣接測定点に有意な低下を認めれば「進行の可能性あり」,3回連続して同一の3点以上の隣接測定点に有意な低下を認めれば「進行の傾向あり」とする.今回は「進行の傾向あり」となった時点を視野障害の進行とした.さらに視野検査結果はGarway-Heathら17)の分類に従い,図1に示す6セクターに分類し,各視野検査結果についてセクターごとのtotaldeviation(TD)値の平均値を算出し,投与前と投与1,2,3年後で比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet).有意水準は,p<0.05とした.II結果眼圧は,投与1年後は14.0±1.4mmHg,2年後は14.1±2.0mmHg,3年後は14.2±1.9mmHgであった(図2).投与前(15.1±2.1mmHg)に比べ各観察時点で眼圧は有意に下降した(p<0.05).視野のMD値は,投与1年後は.5.0±3.5dB,2年後は.5.1±3.2dB,3年後は.5.1±3.5dBで,投与前(.5.4±3.7dB)と同等であった(図3).トレンド解析で有意な悪化を示したのは2例(10%),イベント解析で「進行の傾向あり」を示したのは2例(10%)であった.トレンド解析,イベント解析ともに視野障害の進行を示していた症例はなかった.注:左眼は反転となるエリア1エリア4エリア2エリア5エリア3エリア6図1視野の6セクターによる分類投与前眼圧(mmHg)20181614121086420投与1年後投与2年後投与3年後***図2ウノプロストン投与前後の眼圧(平均±標準偏差)(*p<0.05,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet)(113)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101595TD値はすべてのセクターにおいて投与前と投与1,2,3年後で変化なかった(図4).セクター1は投与前.4.0±4.5dB,投与1年後.3.6±4.8dB,2年後.3.5±4.0dB,3年後.3.3±4.7dBであった.セクター2は投与前.1.8±1.6dB,投与1年後.1.9±1.8dB,2年後.1.7±1.4dB,3年後.1.6±1.6dBであった.セクター3は投与前.1.8±1.7dB,投与1年後.1.5±1.8dB,2年後.1.0±1.9dB,3年後.1.2±1.7dBであった.セクター4は投与前.2.4±3.1dB,投与1年後.2.0±2.9dB,2年後.1.6±2.7dB,3年後.1.4±2.8dBであった.セクター5は投与前.7.7±8.5dB,投与1年後.7.7±8.8dB,2年後.7.8±9.1dB,3年後.7.8±9.4dBであった.セクター6は投与前.13.4±9.9dB,投与1年後.12.6±10.1dB,2年後.13.0±9.5dB,3年後.13.6±9.6dBであった.III考按原発開放隅角緑内障や正常眼圧緑内障に対するウノプロストンの単剤長期投与の眼圧下降効果については多くの報告11~16)があり,その眼圧下降幅は0.5~2.8mmHg,眼圧下降率は3.1~17.7%であった.小川ら11)は投与前眼圧が13.7±3.0mmHgの正常眼圧緑内障48例に6年間投与したところ,眼圧下降幅は1.7mmHg,眼圧下降率は12.4%であったと報告した.新田ら12)は投与前眼圧が16.3±2.4mmHgの正常眼圧緑内障37例に24カ月間以上投与したところ,眼圧下降幅は0.5~1.0mmHg,眼圧下降率は3.1~6.1%であったと報告した.石田ら13)は投与前眼圧が15.1±2.2mmHgの正常眼圧緑内障49眼に24カ月間投与したところ,眼圧下降幅は1.4mmHg,眼圧下降率は9.3%であったと報告した.筆者ら14)は正常眼圧緑内障患者を投与前眼圧によりHighteen群(16mmHg以上,30眼)とLow-teen群(16mmHg未満,22眼)に分けて24カ月間投与したところ,眼圧下降幅はHigh-teen群で2.5~2.8mmHg,Low-teen群で1.1~1.7mmHg,眼圧下降率はHigh-teen群で14.2~15.8%,Low-teen群で7.1~11.5%であったと報告した.飯田ら15)は投与前眼圧が17.7±2.8mmHgの(広義)原発開放隅角緑内障19例に2年間投与したところ,投与8カ月後と12カ月後に有意な眼圧下降を示したと報告した.斎藤ら16)は投与前眼圧が14.7±4.3mmHgの(広義)原発開放隅角緑内障32例に4年間投与したところ,眼圧下降幅は1.4~2.6mmHg,眼圧下降率は9.5~17.7%であったと報告した.今回の眼圧下降幅(0.9~1.1mmHg)と眼圧下降率(4.7~6.0%)は過去の報告11~16)に比べやや低値だったが,その原因として緑内障病型が異なることや投与前眼圧が今回(15.1±2.1mmHg)より高値の報告が多いためと考えられる.原発開放隅角緑内障や正常眼圧緑内障に対するウノプロストンの単剤長期投与の視野維持効果についても多くの報告11~16)がある.飯田ら15)は24カ月間投与によりHumphrey視野のMD値,correctedpatternstandarddeviation(CPSD)値に有意な進行はなく,MD値は投与8カ月後,CPSD値は投与8カ月後,12カ月後に有意に改善し,視野維持効果を示したと報告した.石田ら13)は投与24カ月後のMD値(.4.9±4.6dB)は投与前(.5.7±4.4dB)に比べ有意に改善していたが,CPSD値は投与24カ月後(4.8±3.9dB)と投与前(5.0±4.1dB)で変わらなかったと報告した.MD値が3dB以上悪化した症例は6.3%であった.筆者ら14)は24カ月間投与でMD値はHigh-teen群で投与前(.4.5±3.2dB)と投与24カ月後(.3.8±4.3dB),Low-teen群で投与前(.4.8±3.8dB)と投与24カ月後(.4.9±4.3dB)で同等で,MD値が2dB以上悪化した症例はなかったと報告した.齋藤ら16)は4年間投与で無治療時よりmeandefect値が4dB以上悪化したときをendpointとした場合の視野障害の非進行率は88.0±8.5%であったと報告した.小川ら11)は投与6年間で視野をトレンド解析で評価し,MDスロープが悪化していたのが18.8%(9眼/48眼)であったと報告した.今回はウノプロストン投与により視野のMD値は維持されたが,トレンド解析による評価では小川ら11)の報告(18.8%)と同様に今回も10.0%の症例で視野障害進行を認めた.一方,過去にウノプロストンのイベント解析による視投与前0.0-5.0-10.0-15.0TD値(dB)投与1年後投与2年後投与3年後:セクター1:セクター4:セクター2:セクター5:セクター3:セクター6図4ウノプロストン投与前後の各セクターのTD値(平均±標準偏差)(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet)投与前0-5-10-15MD値(dB)投与1年後投与2年後投与3年後図3ウノプロストン投与前後の視野のMD値(平均±標準偏差)(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet)1596あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(114)野の報告は1報12)しかない.新田ら12)はウノプロストンとチモロールとの24カ月間以上の投与の比較で,ウノプロストンは有意な眼圧下降(眼圧下降幅0.5~1.0mmHg)を示さなかったと報告した.視野進行の定義を個別点の進行とし,イベント解析を行った.2回連続して10dB以上の進行が隣接する2点で認められる,あるいは隣接する3点で5dB以上進行していて,そのうち1カ所では10dB以上の悪化をしている時点を視野障害進行とした.その結果,投与48カ月後の視野維持率はウノプロストン(73.2%)とチモロール(64.9%)で同等であった.今回のイベント解析では10.0%の症例で「視野障害進行の傾向あり」であったが,この違いは評価法や投与期間が異なることが考えられる.いずれにしろ視野の評価を平均MD値やTD値を用いて全症例で評価すると変化ないが,トレンド解析やイベント解析で個々の症例を評価すると視野進行例が存在するので,個々の症例について注意深い経過観察が必要である.一方,今回の20例のうちウノプロストン投与前に視野検査を1回以上経験していた症例は15例,はじめての経験だった症例が5例であった.視野検査には学習効果がみられることもあるが,これら5例においては経過観察中に学習効果と思われる視野の改善は認めなかった.また,視野進行例(トレンド解析2例+イベント解析2例)と視野維持例(16例)の眼圧は,視野進行例では投与前15.3±1.5mmHg,投与1年後13.3±2.2mmHg,2年後14.3±3.4mmHg,3年後13.5±2.5mmHg,視野維持例では投与前15.4±2.0mmHg,投与1年後14.0±1.3mmHg,2年後14.0±1.6mmHg,3年後14.3±1.6mmHgであった.各群の投与1年後,2年後,3年後における眼圧下降幅および眼圧下降率に差はなかった.つまり,視野維持例では眼圧下降に加えて脈絡膜循環改善作用や神経保護作用がより強力であった可能性が考えられる.視野をセクターに分類して解析した報告もある15,18).飯田ら15)は視野をWirtschafter分類に従い,10セクターに分類し,それぞれのセクターのTD値を比較した.耳側330~30度のセクターで投与24カ月後に有意な視野改善効果を認めた.このセクターはBjerrum領域とその鼻側領域にあたり早期緑内障性視野障害の出現しやすい領域でウノプロストンの治療効果が高いと報告している.高橋ら18)は原発開放隅角緑内障および正常眼圧緑内障11例22眼にウノプロストンを52週間投与した.視野を白色背景野に白色検査視標を呈示する通常の視野検査であるwhite-on-whiteperimetry(W/W)と黄色背景野に青色検査視標を呈示し青錐体系反応を測定するblue-on-yellowperimetry(B/Y)で測定し,上方視野を5つのゾーン,下方もミラーイメージで同様に5つのゾーンに分割し解析した.MD値はW/Wでは原発開放隅角緑内障および正常眼圧緑内障ともに変化なく,B/Yでは原発開放隅角緑内障および正常眼圧緑内障ともに投与52週後に有意に改善した.さらにB/Yの網膜感度は原発開放隅角緑内障では上側1,2ゾーン(比較的中心部),正常眼圧緑内障では上側4,5ゾーン(Bjerrum領域近傍)で改善を認めた.今回はW/Wを用いて解析を行ったが,分類した6つのセクターすべてで平均TD値は改善しなかったが,悪化もしなかった.今回のイベント解析で視野の進行がみられた2例では,それぞれセクター1とセクター5で視野障害が進行していた.セクター1は中心部付近なので今後注意深い経過観察が必要であると考える.今回,ウノプロストンの正常眼圧緑内障に対する長期的な眼圧あるいは視野に及ぼす効果を検討した.眼圧は3年間にわたり有意に下降した.視野は平均MD値やセクターに分類したときの平均TD値においては3年間にわたり維持されていたが,トレンド解析あるいはイベント解析では10%の症例で視野障害が進行していた.ウノプロストンは正常眼圧緑内障に対して3年間持続的な眼圧下降作用をもち,視野維持効果はおおむね良好である.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)ThiemeH,StumpffF,OttleczAetal:Mechanismsofactionofunoprostoneontrabecularmeshworkcontractility.InvestOphthalmolVisSci42:3193-3201,20014)HayashiE,YoshitomiT,IshikawaHetal:Effectofisopropylunoprostoneonrabbitciliaryartery.JpnJOphthalmol44:214-220,20005)YoshitomiT,YamajiK,IshikawaHetal:Vasodilatorymechanismofunoprostoneisopropylonisolatedrabbitciliaryartery.CurrEyeRes28:167-174,20046)MelamedS:Neuroprotectivepropertiesofasyntheticdocosanoid,unoprostoneisopropyl:clinicalbenefitsinthetreatmentofglaucoma.DrugsExpClinRes28:63-72,20027)SugiyamaT,AzumaI:EffectofUF-021onopticnerveheadcirculationinrabbits.JpnJOphthalmol39:124-129,19958)PolakaE,DoelemeyerA,LukschAetal:Partialantagonismofendothelin1-inducedvasoconstrictioninthehumanchoroidbytopicalunoprostoneisopropyl.ArchOphthalmol120:348-352,20019)HayamiK,UnokiK:Photoreceptorprotectionagainstconstantlight-induceddamagebyisopropylunoprostone,aprostaglandinF2ametabolite-relatedcompound.OphthalmicRes33:203-209,2001(115)あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010159710)西篤美,江見和雄,伊藤良和ほか:レスキュラR点眼が眼循環に及ぼす影響.あたらしい眼科13:1422-1424,199611)小川一郎,今井一美:ウノプロストンによる正常眼圧緑内障の長期視野─6年後の成績─.眼紀54:571-577,200312)新田進人,湯川英一,峯正志ほか:正常眼圧緑内障患者に対する0.12%イソプロピルウノプロストン点眼単独投与の臨床効果.あたらしい眼科23:401-404,200613)石田俊郎,山田祐司,片山寿夫ほか:正常眼圧緑内障に対する単独点眼治療効果─視野維持効果に対する長期単独投与の比較─.眼科47:1107-1112,200514)増本美枝子,井上賢治,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障に対するイソプロピルウノプロストンの2年間投与.あたらしい眼科26:1245-1248,200915)飯田伸子,山崎芳夫,伊藤玲ほか:開放隅角緑内障の視野変化に対するイソプロピルウノプロストン単独点眼効果.眼臨99:707-709,200516)斎藤代志明,佐伯智幸,杉山和久:広義原発開放隅角緑内障に対するイソプロピルウノプロストン単独投与による眼圧および視野の長期経過.日眼会誌110:717-722,200617)Garway-HeathDF,PoinoosawmyD,FitzkeFWetal:Mappingthevisualfieldtotheopticdiscinnormaltensionglaucomaeyes.Ophthalmology107:1809-1815,200018)高橋現一郎,青木容子,小池健ほか:イソプロピルウノプロストン投与後のblue-on-yellowperimetryの変動.眼臨96:657-662,2002***

片眼投与によるラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果の検討

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(107)1273《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1273.1278,2010c〔別刷請求先〕山林茂樹:〒464-0075名古屋市千種区内山3丁目31-23医療法人碧樹会山林眼科Reprintrequests:ShigekiYamabayashi,M.D.,Ph.D.,YamabayashiEyeClinic,31-23,Uchiyama-3,Chigusa-ku,Nagoya464-0075,JAPAN片眼投与によるラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果の検討山林茂樹*1石垣純子*2加藤基寛*3近藤順子*4杉田元太郎*4冨田直樹*5三宅三平*2安間正子*6*1山林眼科*2眼科三宅病院*3かとう眼科クリニック*4眼科杉田病院*5尾張眼科*6安間眼科OcularHypotensiveEffectandSafetyofTafluprostvs.LatanoprostinOpen-AngleGlaucomaandOcularHypertensionwithUnilateralSwitchtoTafluprost:12-WeekMulticenterParallel-GroupComparativeTrialShigekiYamabayashi1),JunkoIshigaki2),MotohiroKato3),JunkoKondo4),GentaroSugita4),NaokiTomida5),SampeiMiyake2)andMasakoYasuma6)1)YamabayashiEyeClinic,2)MiyakeEyeHospital,3)KatoEyeClinic,4)SUGITAEYEHOSPITAL,5)OwariGanka,6)YasumaEyeClinic原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者におけるラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果を片眼投与による多施設共同並行群間比較試験にて検討した.両眼ラタノプロスト単剤使用例で,直近3回の眼圧左右差がいずれも3mmHg以下かつ3回の眼圧左右差の平均が2mmHg以下の患者48例を対象とした.無作為に片眼をタフルプロスト切り替え眼,僚眼をラタノプロスト継続眼へ割り付け,休薬期間を設けずに切り替えを行い,12週間にわたって眼圧下降効果および安全性を検討した.眼瞼色素沈着,睫毛変化および充血については,写真撮影し比較検討した.タフルプロスト切り替え群およびラタノプロスト継続群の開始時眼圧はそれぞれ16.7±3.1mmHg,16.4±3.0mmHg,点眼12週間後の眼圧はそれぞれ15.9±2.9mmHg,15.3±2.8mmHgであった.点眼12週間後の眼圧と安全性について両群間に有意な差を認めなかったが,タフルプロスト切り替え群で2例の眼瞼色素沈着の軽減例がみられた.タフルプロストはラタノプロストと同等の眼圧下降効果および安全性を有することが確認された.Theobjectiveofthisstudywastocomparetheefficacyandsafetyof0.0015%tafluprostophthalmicsolutiontothatoflatanoprostophthalmicsolutioninprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionviaunilateralswitchingtrialinamulticenterparallel-groupstudy.Studysubjectscomprised48patientswhoreceivedlatanoprostophthalmicsolutiononlybeforethestudyandwhoseinter-eyeintraocularpressure(IOP)differentialwaswithin3mmHg-andremainedwithin2mmHgoftheaverage-in3examinations.TheIOPatbaselineaveraged16.7±3.1mmHginthetafluprostgroupand16.4±3.0mmHginthelatanoprostgroup.AverageIOPat12weekswas15.9±2.9mmHgand15.3±2.8mmHg,respectively.Adverseeventswererecordedandocularsafetywasevaluated.Twocasesinthetafluprostgroupshoweddecreasedlidhyperpigmentation.TheIOP-loweringeffectoftafluprostwasequivalenttothatoflatanoprost.Thepresentdataindicatethattafluprostisclinicallyusefulinthetreatmentofprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1273.1278,2010〕Keywords:原発開放隅角緑内障,高眼圧症,正常眼圧緑内障,タフルプロスト,眼瞼色素沈着.primaryopenangleglaucoma,ocularhypertension,normal-tensionglaucoma,tafluprost,eyelidpigmentation.1274あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(108)はじめにb遮断点眼液は1980年代に登場して以来,緑内障治療薬の主流であったが,1990年代の終わりに強力な眼圧下降効果を有するプロスタグランジン(PG)系眼圧下降薬であるラタノプロスト点眼液が登場し,現在ではPG系眼圧下降薬が緑内障の薬物療法の主たる治療薬となった.2010年2月までにトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストが市場に加わり,ラタノプロストを含め4種類のプロスト系のPG製剤が第一選択薬の座を占めるようになった.しかし,日常診療上の選択肢は増えたものの,各点眼薬の薬理学的特徴ならびに臨床的特徴などは,治験のデータをみる限り大きな差を見いだせず,薬剤選択における指標が定まっていないのが実情である.今回の研究の対象となるタフルプロストは他のプロスト系の点眼薬と異なり,C-15の位置にフッ素原子を2つ有することが特徴のPGF2a誘導体である1).フッ素の数と付加位置に関する研究の結果,この構造が分子の安定性,角膜移行性に寄与していることが示唆された2,3).新薬開発における臨床試験では,安全性の面から高齢者や併用薬使用者が治験対象から除外されることや,眼圧下降作用を限られた例数で統計学的に検出する目的で対象者の眼圧が比較的高めに設定される傾向があり1),それらの結果を実際の日常診療にそのまま適用することには慎重になるべきと考える.ゆえに,市販後の臨床研究の果たす責任は重大と考える.本研究の目的は,新しく開発されたタフルプロストの有効性と安全性について市販後臨床研究により比較検討することである.I対象および方法1.実施医療機関本試験は,2009年2月から2009年8月の間に実施した.本試験に先立ち,医療法人湘山会眼科三宅病院内倫理審査委員会で上記6参加施設の本研究の倫理的および科学的妥当性が審議され承認を得た.2.対象対象は,両眼ともラタノプロスト単剤を4週間以上使用継続し,直近3回の眼圧左右差がいずれも3mmHg以下で,3回の眼圧左右差の平均が,2mmHg以下であった広義の原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者とした.試験開始前に,すべての患者に対して研究内容およびタフルプロストに関する情報を十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.表1観察・測定スケジュール同意取得開始日(0週)4週8週12週来院許容範囲──±2週±2週±2週文書同意(開始日までに取得)←●→───患者背景─●───自覚症状─●●●●他覚所見─●●●●角膜所見(AD分類)─●●●●視力検査(矯正)─●──●点眼遵守状況──●●●眼圧測定(Goldmann圧平式眼圧計)*右眼から測定─●●●●眼底検査─●●●●写真撮影(充血)─●●●●写真撮影(眼瞼色素沈着,睫毛変化)─●──●有害事象─●●(発症時)同意取得1日1回夜点眼ラタノプロスト(両眼)(片眼)ラタノプロスト(片眼)タフルプロスト多施設共同平行群間比較試験4週以上12週0週4週8週12週図1試験デザイン(109)あたらしい眼科Vol.27,No.9,201012753.試験方法と観察評価項目本研究のデザインを図1に,観察・測定スケジュールを表1に示す.本研究は多施設共同並行群間比較試験として実施した.両眼とも4週間以上ラタノプロスト単剤を使用継続している患者に対し,片眼をラタノプロスト継続眼,もう片眼をタフルプロスト切り替え眼に乱数表にて無作為に割りつけた.各薬剤とも1日1回夜に1滴,12週間の点眼とし,開始後4,8および12週時点の来院で観察した.ラタノプロスト使用時に洗顔などの処置を行っている症例は,処置を変更せずそのまま続けさせた.眼圧は,Goldmann型圧平式眼圧計で右眼から測定し,試験期間を通して同一症例に対しては同一検者がほぼ同じ時間帯に測定した.自覚症状は問診にて確認し,眼科検査として視力検査,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を実施した.角膜所見については,フルオレセイン染色を行い,宮田ら4)の報告に基づきAD分類を行った.すなわち点状表層角膜症(SPK)の重症度を範囲(area)と密度(density)に分け,それぞれをA0(正常)からA3(角膜全体の面積の2/3以上に点状のフルオレセインの染色を認める),D0(正常)からD3(点状のフルオレセイン染色のほとんどが隣接している)の4段階で評価し,A+Dのスコアの推移について検討した.充血,眼瞼色素沈着,睫毛変化については,各施設で撮影条件を一定にして両眼同時にデジタルカメラで撮影した.充血所見については,充血の程度を「(.)なし」,「(+)軽度充血」,「(++)顕著な充血」の3段階で判定した.眼瞼色素沈着および睫毛変化については,0週と12週の写真を比較し,左右眼の差を「(.)なし」,「(+)わずかに左右差あり」,「(++)顕著な左右差あり」の3段階で判定した.写真判定は割り付け薬剤をマスクした状態で,2人の検者が判定し,2人の意見が一致したものを最終判定とした.試験期間中に観察された患者にとって好ましくない,あるいは有害・不快な症状や所見については薬剤との因果関係を問わず有害事象として収集した.有効性の評価は,各薬剤の点眼12週後の点眼0週眼圧に対する眼圧下降値とした.また,各薬剤の点眼12週後の実測値および点眼0週眼圧に対する眼圧下降率についても検討した.本試験結果の統計解析として,点眼12週の眼圧値,点眼12週の点眼0週眼圧に対する下降値および下降率に対し,各薬剤間のStudent-t検定を行った.また,点眼12週での両眼の眼圧下降率の回帰分析を行った.角膜所見ではA+Dのスコアについて,各薬剤の0週と12週の比較をWilcoxonの符号付順位検定,12週の各薬剤間の比較をWilcoxonの順位和検定で検定した.各薬剤の有害事象発現件数について,c2検定を実施した.有意水準は,両側5%とした.II結果1.症例の内訳本試験には49例(男性20例,女性29例)が参加した.うち1例が,文書同意後,投与開始までに「新しい薬は心配なため」脱落し,投与開始した症例は48例であった.うち4例が有害事象の発現のため中止,1例が脱落,1例が12週時の来院が許容範囲外(17週+3日)であったため,12週のデータが得られた症例は42例であった.2.患者背景患者背景は,表2に示すとおりであり,年齢65.8±12.6歳(平均±標準偏差),ラタノプロスト使用期間29.2±26.8月(平均±標準偏差),原発開放隅角緑内障22例(44.9%),正常眼圧緑内障20例(40.8%)および高眼圧症7例(14.3%)であった.3.有効性眼圧値は点眼0週(開始時)において,ラタノプロスト継続群16.4±3.0mmHg,タフルプロスト切り替え群16.7±3.1mmHgであった.点眼12週での眼圧値は,ラタノプロスト継続群15.0±3.0mmHg(p<0.0001),タフルプロスト切り表2患者背景ラタノプロストタフルプロスト年齢(歳)65.8±12.6性別男性(%)20(40.8)女性(%)29(59.2)ラタノプロスト使用期間(月)29.2±26.8診断名原発開放隅角緑内障(%)22(44.9)正常眼圧緑内障(%)20(40.8)高眼圧症(%)7(14.3)0週視力1.1±0.21.0±0.30週眼圧(mmHg)16.4±3.016.7±3.10週角膜スコア(mmHg)0.7±1.00.7±1.10W(49)4W(46)8W(47)12W(42)22201816141210(病例数):ラタノプロスト:タフルプロスト眼圧値(mmHg)図2眼圧(実測値)1276あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(110)替え群15.6±3.4mmHg(p=0.0028)で有意差があった(図2).点眼0週から点眼12週にかけての眼圧変化値は,ラタノプロスト継続群.1.57±2.1mmHg,タフルプロスト切り替え群.1.24±2.5mmHgで,眼圧変化率は,ラタノプロスト継続群.8.8±13.5%,タフルプロスト切り替え群.6.8±15.7%であった.試験期間中を通して両薬剤間の眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率に有意差はなかった.また,個々の症例の点眼12週における眼圧下降率について,ラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼との間に強い相関がみられた(r=0.74,p<0.001)(図3).4.安全性試験期間中に認められた有害事象は,ラタノプロスト継続群20例(41.7%)およびタフルプロスト切り替え群25例(52.1%)であった.両群間の有害事象発現例数に有意差は認められなかった.おもな有害事象は,ラタノプロスト継続群で刺激感9例(18.8%),掻痒感7例(14.6%),タフルプロスト切り替え群で,掻痒感11例(22.9%),刺激感8例(16.7%)であった.試験中止に至った症例は,タフルプロスト切り替え群の4例(8.2%)であり,刺激感,異物感,掻痒感,眼痛,頭痛,鈍痛,眼脂などが認められたが,すべて軽度であり,問題となる他覚所見は認めなかった.眼瞼色素沈着について,タフルプロスト切り替え群の4例(9.8%)の患者から点眼液の切り替えで軽減が認められたとの申告があった.点眼0週と点眼12週とで写真の比較が可能であった症例は41例であり,うち2例(4.9%)でラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼の間の左右差が認められ,いずれもタフルプロスト点眼眼の眼瞼色素沈着が薄かった.眼瞼色素沈着の左右差について,自覚症状のみが3例,他覚所見のみが1例,自覚症状と他覚所見の一致が認められたのは1例であった.他覚所見で左右差が認められた2症例の写真を図4に示す.睫毛変化について,患者からの訴えはなかった.点眼0週と点眼12週とで写真の比較が可能であった症例は41例であり,うち2例(4.9%)でラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼の間に左右差が認められ,いずれもタフルプロスト点眼眼の睫毛が長い傾向が認められたが,顕著な差とはいえなかった.充血について写真判定を行った結果,点眼0週よりラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼で同様のスコア推移を示し,片眼のみスコアの悪化もしくは改善が認められた症例はなかった.角膜所見について,A+Dスコアの推移を検討した結果,両薬剤とも点眼0週と点眼12週の間に有意な差はなかった.また,点眼0週および点眼12週において,両薬剤間に有意な差を認めなかった.その他,眼科検査において変動を認めなかった.-40-20020406080806040200-20-4012週眼圧下降率(%)ラタノプロストタフルプロスト図3点眼12週における眼圧下降率にみるラタノプロストとタフルプロストの相関ラタノプロストとタフルプロストの眼圧下降率は強く相関している.相関係数0.74,p<0.001.12週症例A症例Bラタノプロストタフルプロストラタノプロストタフルプロスト0週図4眼瞼色素沈着に左右差がみられた2例(111)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101277III考察本研究において,タフルプロスト点眼液はラタノプロスト点眼液と同等の眼圧下降を示した.タフルプロスト点眼薬の第III相臨床試験におけるキサラタンRとの比較でも両点眼薬とも同等の有効性を示していた1).さらに,個々の症例に注目すると,点眼12週におけるタフルプロスト点眼眼とラタノプロスト点眼眼の眼圧下降率が強く相関したことから,多くの症例では両点眼薬がともに有効であることが示唆された.その一方で,タフルプロスト点眼がラタノプロスト点眼よりも有効な眼圧下降作用を示した症例があり,逆に,ラタノプロスト点眼がタフルプロスト点眼よりも有効性を示した症例もみられた(図3).このことからPG関連点眼薬における有効性にはノンレスポンダーを含めて個人差があると考えられる.PG系の点眼薬が緑内障薬物治療における第一選択薬になってから久しく,現在でも効果不十分な場合は,異なる機序の緑内障治療薬を2剤目,3剤目と加えていくことが治療戦略としてよく採られている.しかし,本研究の結果から,1剤目で効果不十分な場合に,まず他のPG関連点眼薬に変更する意義はあると考えられた.本研究では,少なくとも1カ月以上のラタノプロスト単剤使用例が対象であり,ラタノプロスト継続群においては研究開始以前と比較して眼圧下降は認められないと予想したにもかかわらず有意な眼圧下降が認められた.この原因としては,「新たな研究への参加」ということで患者のコンプライアンスが向上したためと考えられた.本研究では片眼投与を採用した.その理由として,対象がすでにラタノプロスト点眼液を使用していることから,タフルプロスト点眼液に変更することによる眼圧変化がほとんどないか,非常に小さいことが予想されたために,眼圧日内変動や日日変動などの要因を除く必要があったためである.また,b遮断点眼薬の場合は,片眼投与により他眼にも影響を与える可能性があるが,少なくともラタノプロスト点眼薬が他眼には影響を与えないとされている6)ため,他眼への影響はないと考えた.ラタノプロスト点眼薬は防腐剤として塩化ベンザルコニウムが含有されており,緑内障治療薬が非常に長期に使用されることも相まって角膜上皮障害の発現が危惧される.今回の研究では両薬剤群ともに,点眼0週と点眼12週との間には有意な差がなく,角膜への影響はラタノプロスト点眼薬と同等と考えた.タフルプロスト点眼薬については,2010年より点眼液中の塩化ベンザルコニウム含有量が大幅に低減されていることから,防腐剤による角膜への影響はさらに減少するものと考える.睫毛の伸長については,すでにラタノプロスト点眼薬の使用によって両眼とも変化をきたしており,新たにタフルプロスト点眼薬に変更しても変化は認められなかった.今回は点眼0週と点眼12週時点の写真の比較判定により変化を検討したが,両眼とも同じ条件での撮影ではあるものの,睫毛の本来の長さや伸びる角度にばらつきがあって正確な判定が困難であった.睫毛への影響に関する詳細な評価については今後の研究を待ちたい.緑内障点眼薬においてPG関連製剤は強力な眼圧下降作用を有しており,b遮断点眼薬でみられるような全身性の副作用は少ないが,眼瞼色素沈着は頻度の高い副作用と考えなければならない.日本人においては虹彩色素沈着が発症しても細隙灯顕微鏡での観察以外では判別しにくいが,下眼瞼の色素沈着は美容的な見地から見逃すことができず,患者によっては精神的なダメージを与える可能性がある.臨床試験の結果を考慮すると,当初,本研究ではタフルプロスト点眼薬への切り替えによっても,眼瞼色素の変化はまず変わらないものと予想したが,患者からの「眼瞼の黒さが減少した」という自覚の訴えが4例あった.そのなかの1例と自覚がなかった1例の計2例について,2人の医師による写真判定の結果,明らかにタフルプロスト点眼眼でラタノプロスト点眼眼と比較して色素沈着が少ないことが判明した.培養メラノーマ細胞を使用したinvitro試験の結果,タフルプロストのメラニン合成能をラタノプロストと比較した結果,ラタノプロストが用量依存性にメラニン合成を増加させるのに対して,タフルプロストではほとんど変化がみられなかったこと2)から,タフルプロストのメラニン合成能が臨床でも低い可能性は十分考えられた.臨床では,ラタノプロスト中止により約7週間で消失するか減弱し8),ラタノプロストから他の薬剤に変更後6カ月で約30%の症例で眼瞼色素沈着が軽減したという報告9)や,またラタノプロストによる眼瞼色素沈着がワセリン塗布後の点眼指導によって3カ月後に色素軽減を認めた報告6)から,本研究においても,タフルプロスト点眼液へ変更して12週間が経過することによりラタノプロスト点眼薬の影響が減少したことも考えられる.しかし一方で,タフルプロスト点眼薬単剤使用例でも眼瞼色素沈着がみられた文献報告がある7).また,タフルプロスト点眼薬の眼内移行に関する研究はすでに行われているが,眼瞼皮膚への移行や皮膚での代謝に関する研究は存在しないことから,薬物動態面を含めて考察するに際しては,今後の研究成果を待たなければならないと考える.なお,PG系緑内障点眼薬の色素沈着の研究調査としては,24カ月の長期使用によるタフルプロストとラタノプロストの無作為割り付け二重盲検比較試験においては,写真による判定で,虹彩色素沈着についてタフルプロストのほうが若干少ない傾向を示したものの統計学的有意差はなかったという報告7)や,皮膚科領域で使用されている装置を使用して皮膚の色素量を定量化して検討したところ,ウノプロストン,ラ1278あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(112)タノプロスト,チモロールのいずれの点眼液の使用によっても下眼瞼の色素沈着は同等であったという報告10)があり,対象とする組織や色素沈着の判定方法などによって結果が異なる.本研究においても他の報告と同様に写真判定を採用しているが,同じ条件で両眼を同一写真で撮影することによって片眼のみの切り替え効果を観察したために,眼瞼色素沈着の非常に小さい変化を左右差として示した症例を検出することができたと考える.以上より,タフルプロスト点眼液では眼瞼色素沈着が少ない可能性があるものの,いまだ症例数が少ないため,眼圧下降作用でも明らかになったように個体差による可能性があり,今後の研究成果を待ちたい.今回の研究によって,タフルプロスト点眼液はラタノプロスト点眼液と同等の眼圧下降効果ならびに安全性を有することが確認された.眼圧下降効果においてはラタノプロスト点眼液と同様に効果不十分の症例が少数みられた.安全性は同等であったが,眼瞼色素沈着はラタノプロスト点眼剤よりも少ない可能性も示唆された.タフルプロストはラタノプロストと同等に臨床使用できる有用性のある薬剤と考えられる.文献1)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20082)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:NewfluoroprostaglandinF2aderivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20033)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20044)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)ZiaiN,DolanJW,KacereRDetal:TheeffectsonaqueousdynamicsofPhXA41,anewprostaglandinF2aanalogue,aftertopicalapplicationinnormalandocularhypertensivehumaneyes.ArchOphthalmol111:1351-1358,19936)大友孝昭,貴田岡マチ子:プロスタグランジン系点眼薬の眼瞼色素沈着の発現を少なくするための一工夫.あたらしい眼科24:367-369,20077)UsitaloH,PillunatLE,RopoA:Efficacyandsafetyoftafluprost0.0015%versuslatanoprost0.005%eyedropsinopen-angleglaucomaandocularhypertension:24-monthresultsofarandomized,double-maskedphaseIIIstudy.ActaOphthalmol88:12-19,20108)WandM,RitchR,IsbeyEKetal:Latanoprostandperiocularskincolorchanges.ArchOphthalmol119:614-615,20019)泉雅子,井上賢治,若倉雅登ほか:ラタノプロストからウノプロストンへの変更による眼瞼と睫毛の変化.臨眼60:837-841,200610)井上賢治,若倉雅登,井上次郎ほか:プロスタグランジン関連薬点眼薬およびチモロール点眼薬による眼瞼色素沈着頻度の比較検討.あたらしい眼科24:349-353,2007***

タフルプロスト片眼トライアルによる短期眼圧下降効果

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(107)967《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):967.969,2010cはじめにタフルプロストは平成20年12月に発売されたわが国における第3のプロスト系プロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬)である.眼圧下降に関与するプロスタノイドFP受容体に高い親和性をもつPGF2a誘導体のなかから,15位に2つのフッ素を導入し,活性増強,選択性向上,安定性向上,薬物動態の改善を目的とし開発された.FP受容体へのフルアゴニストであり,その親和性の高さにより正常眼圧緑内障においても眼圧下降効果が臨床試験において証明されている.今回,新規緑内障患者にタフルプロスト片眼投与を行い,その眼圧下降効果および副作用の発現頻度を検討したので報告する.I対象および方法平成21年1月.4月までに弘前大学医学部附属病院眼科(以下,当科)で緑内障および高眼圧症と診断した新規患者39例(平均年齢68.5±11.1歳,男性8例,女性31例)を対象とした.病型の内訳は高眼圧症(ocularhypertension:OH)2眼(5.2%),狭義原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma,以下,狭義POAG)7眼(17.9%),正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)30眼(76.9%)である.初診時から眼圧ベースラインを1週間ごとに3回測〔別刷請求先〕宮川靖博:〒036-8562弘前市在府町5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Reprintrequests:YasuhiroMiyagawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HirosakiUniversityGraduateSchoolofMedicine,5Zaifucho,Hirosaki-shi036-8562,JAPANタフルプロスト片眼トライアルによる短期眼圧下降効果宮川靖博山崎仁志中澤満弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Short-TermEfficacyofTafluprostMonotherapyforUntreatedGlaucomaYasuhiroMiyagawa,HitoshiYamazakiandMitsuruNakazawaDepartmentofOphthalmology,HirosakiUniversityGraduateSchoolofMedicine新規緑内障患者にタフルプロスト片眼投与を行い,その眼圧下降効果を検討した.対象は新規の狭義原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)7眼,正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)30眼および高眼圧症(ocularhypertension)2眼の全39眼である.眼圧ベースラインを3回測定後,治療期12週まで4週おきに眼圧を測定した.治療眼全体で治療期12週の眼圧変化値は.3.2±2.9mmHgで,治療期0週と比し有意に下降した(p<0.001).眼圧下降率が30%以上であった症例は12.8%,20%以上であった症例は51.3%と,NTG眼が多数であったため低かったが,ラタノプロストで調査した既報に比し,眼圧15mmHg以下のlow-teenNTG群において,眼圧変化値は.2.3±1.1mmHg(p<0.001),30%以上下降は14.3%,20%以上下降は50.0%と良好な結果を示した.タフルプロストはNTG症例においても第一選択薬になりうる薬剤である.Weevaluatedthehypotensiveeffectoftafluprostmonotherapyin39casesofuntreatedglaucoma.Theseriescomprised2eyeswithocularhypertension(OH),7eyeswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)and30eyeswithnormal-tensionglaucoma(NTG).At12weeksoftreatment,meanintraocularpressure(IOP)reductionfrombaselinewas3.2±2.9mmHginalltreatedeyes.IOPreductionby30%ormorewasachievedin12.8%ofallpatients,by20%ormorein51.3%.SinceNTGeyescomprisedthemajority,thisresultwaspoor,butcomparedwithpreviousreportsinvestigatinglatanoprost,tafluprostachievedgoodresultsinthelow-teenNTGgroup,i.e.,2.3±1.1mmHgIOPreduction,withIOPreductionby30%ormorein14.3%,andby20%ormorein50.0%.Thesefindingsshowthattafluprostmaybeeffectiveforuntreatedlow-teenNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):967.969,2010〕Keywords:タフルプロスト,片眼トライアル,正常眼圧緑内障.tafluprost,monotherapy,normal-tensionglaucoma.968あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(108)定後,緑内障診療ガイドラインが推奨する片眼トライアルを採用した.視野がより進行している眼を治療眼としタフルプロスト点眼を開始し,4週おきに治療期12週まで眼圧を測定した.OH症例は眼圧が高い眼を治療眼とした(有意差はなし).左右の眼圧に有意差がある症例,過去1年以内に内眼手術の既往がある症例は除外した.眼圧は全例同一検者がGoldmann接触型眼圧計を用い,患者ごとに午前中のほぼ同時刻に測定した.なお,統計学的手法はベースライン眼圧の左右差にはStudentt-testを,全治療眼と対照眼の眼圧変化値および各病期のベースライン眼圧と治療期眼圧の差にはpairedt-testを用いた.II結果眼圧ベースラインは各病型で左右の眼圧に有意差がないことを確認した(表1).全治療眼と対照眼の眼圧変化値を図1に示した.各治療期で眼圧変化値は治療期0週と比し有意に下降した(p<0.001).なお,最終治療期である12週の眼圧変化値は.3.2±2.9mmHgであった.対照眼は各治療期で治療期0週と比し有意差はなかった.治療眼全体の治療期12週での眼圧下降率は19.9±9.4%,眼圧下降率が30%以上であった症例は12.8%,20%以上であった症例は51.3%であった.病型別での眼圧変化はいずれの病型でもすべての病期で有意に眼圧が下降した(図2).病型別の眼圧変化値,眼圧下降率,30%以上下降,20%以上下降はそれぞれ,OH+POAG群で.4.9±2.8mmHg(p<0.01),24.1%,33.3%,55.6%,NTG群で.2.7±1.7mmHg(p<0.001),18.6%,6.7%,50.0%.さらに眼圧15mmHg未満のlow-teenNTG群(14眼)で.2.3±1.1mmHg(p<0.001),18.4%,14.3%,50.0%であった(表2).眼圧下降率がベースライン眼圧から10%未満の場合をノンレスポンダーと定義した場合,ノンレスポンダーは4例(10.5%)であった.副作用発現率は38.5%で,重複例を含め,充血30.1%,眼瞼発赤15.4%,睫毛増多12.8%,掻痒感7.7%の順に多かったが,角膜上皮障害は今回の対象眼ではみられなかった.充血を生じた症例も点眼継続により33.3%において軽減していき,副作用により点眼継続が不能になった症例はいなかった.III考察わが国では10年前に最初のPG関連薬であるラタノプロ210-1-2-3-4-5-60眼圧変化値(mmHg)治療期間(週)4812:治療眼NSNSNS:対照眼***図1全症例の眼圧変化値治療期12週で治療眼.3.2±2.9mmHg,対照眼.0.9±3.0mmHgであった.*p<0.001.:POAG+OH:NTG:Low-teenNTG***************2520151050048治療期間(週)眼圧変化値(mmHg)12図2治療眼の病型別眼圧変化値*p<0.01,**p<0.001.表2病型別の眼圧変化値,眼圧下降率,30%以上下降率,20%以上下降率眼圧変化値(mmHg)眼圧下降率30%以上下降20%以上下降全体(n=39).3.2±2.9(p<0.001)19.9%12.8%51.3%OH+狭義POAG群(n=9).4.9±2.8(p<0.01)24.1%33.3%55.6%NTG群(n=30).2.7±1.7(p<0.001)18.6%6.7%50.0%Low-teenNTG群(n=14).2.3±1.1(p<0.001)18.4%14.3%50.0%OHは症例数が少ないためPOAG群と合併.表1治療眼と対照眼の眼圧ベースライン値眼圧ベースライン治療眼対照眼全体(n=39)16.5±3.016.3±3.2OH+狭義POAG群(n=9)22.7±1.822.4±3.2NTG群(n=30)15.2±1.815.1±1.9Low-teenNTG群(n=14)13.6±1.013.6±1.2(mmHg)NS全体および各病型でベースライン眼圧に有意差はない.(109)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010969ストが発売され,その強力な眼圧下降作用から,今日ではPG関連薬が緑内障治療の第一選択薬として使用されてきている.近年,ベンザルコニウム塩化物を含有しないトラボプロスト,薬剤安定性が向上したタフルプロスト,また両者に共通してFP受容体への親和性向上といった,さらに付加価値のついたPG関連薬が立て続けに発売され,われわれ眼科医にとっては治療の選択肢の幅が広がった.タフルプロストはFP受容体への親和性がラタノプロストの12倍1)とされているが,市販後の眼圧下降効果および副作用発現率は報告がない.本研究の狭義POAGおよびOH群の眼圧下降率は,同じ対象群で調査した第III相検証的試験2)の結果(治療期4週で.27.6±9.6%)より低かった.これは今回の調査では,既存のPG関連薬との比較を行っておらず,狭義POAG+OH群の症例数が少なかったためと考えられる.CollaborativeNTGStudyGroupの報告3,4)によると,NTG患者では眼圧下降率30%以上を達成することが視野進行の防止に重要であるとしているが,今回NTG群で,30%下降は6.7%にとどまる結果となった.対象となったNTG群の眼圧ベースラインが15.2±1.8mmHgと低めであったこと,さらに眼圧15mmHg未満のlow-teenNTGがNTG群の47%を占めていたことが原因であり,NTG患者で30%以上の眼圧下降を達成するのは困難である.ぶどう膜強膜流出路を増加させても,上強膜静脈圧を下回ることはできないという薬物療法の限界を示唆する結果であった.しかし,20%以上の眼圧下降の割合は病型を問わず50%程度得られたことは,日本人の新規NTG患者にラタノプロストを単独投与した既報5,6)(表3)での眼圧15未満のNTGの眼圧下降率は低かったことから,FP受容体への親和性の差によるタフルプロストの眼圧下降効果かもしれない.副作用発現率に関して,眼局所以外のものは問診による確認しか行っていないが,明らかな有害事象はなく,眼局所の副作用は第III相検証的試験2)の結果とほぼ同等であり,ラタノプロストの副作用発現率よりやや低かったため安全に使用できる薬剤と考えられる.動物実験の報告,および今回の調査におけるNTG患者の眼圧を有意に下降させた結果と併せNTGへの有効性が期待されるが,タフルプロストを第一選択薬として処方するのは①眼圧15未満のlow-teenNTG患者,②携帯することを希望する患者(常温保存可能であるため)がより有効と考えられる.文献1)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20042)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20083)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19984)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19985)岩田慎子,遠藤要子,斉藤秀典ほか:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科20:709-711,20036)椿井尚子,安藤彰,福井智恵子ほか:投与前眼圧16mmHg以上と15mmHg以下の正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の比較.あたらしい眼科20:813-815,2003***表3新規NTG患者にラタノプロストを単独投与した既報眼圧下降幅30%以上下降岩田らLow-teenNTG.1.3mmHg5.6%15より高いNTG.3.3mmHg24%(あたらしい眼科20,2003)5)眼圧下降率椿井らLow-teenNTG3.6~9.4%(有意差なし)15より高いNTG15.0~18.8%(有意差あり)(あたらしい眼科20,2003)6)ラタノプロストでは眼圧15未満のNTGの眼圧下降率は低い.

マイトマイシンC 併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)963《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):963.966,2010cはじめに緑内障においてエビデンスのある治療は眼圧下降のみである1).しかし一方で,眼圧を十分に下降させても視野障害進行を抑制できない例が存在するという事実もある2).近年,眼圧日内変動幅3)および仰臥位眼圧上昇幅4,5)が,緑内障視野障害進行と関係していることを示唆する報告が散見される.眼圧日内変動幅に関しては,薬物治療でもある程度小さくすることができる6)が,仰臥位眼圧上昇幅は,薬物治療7)およびレーザー線維柱帯形成術8)では抑制効果が少ないことが報告されている.線維柱帯切除術はマイトマイシンC(MMC)の併用により眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となっているが,仰臥位眼圧上昇幅に対する抑制効果に関しては現時点では明らかではない.今回,MMC併用線維柱帯切除術後眼の体位変換による眼圧変化を測定し,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,平成21年4月20日から8月31日に東京警察病〔別刷請求先〕小川俊平:〒164-8541東京都中野区中野4-22-1東京警察病院眼科Reprintrequests:ShumpeiOgawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,4-22-1Nakano,Nakano-ku,Tokyo164-8541,JAPANマイトマイシンC併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化小川俊平中元兼二福田匠里誠安田典子東京警察病院眼科PosturalChangeinIntraocularPressureinPrimaryOpen-AngleGlaucomafollowingTrabeculectomywithMitomycinCShumpeiOgawa,KenjiNakamoto,TakumiFukuda,MakotoSatoandNorikoYasudaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital初回マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後6カ月以上無治療で観察できた広義の原発開放隅角緑内障20例32眼を対象に,Pneumatonometerを用いて座位と仰臥位の眼圧を測定した.眼圧は,座位から仰臥位へ体位変換直後有意に上昇し,仰臥位10分後も有意に上昇した(p<0.05).また,再度,座位へ体位変換後,眼圧は速やかに下降した(p<0.05).仰臥位眼圧上昇幅は,仰臥位直後で1.95±1.4mmHg,仰臥位10分後で3.43±1.8mmHgであった.座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅には有意な正の相関があった(仰臥位直後:r2=0.41,r=0.64,p<0.0001,仰臥位10分後:r2=0.43,r=0.66,p<0.0001).In32untreatedeyesof20patientswithprimaryopen-angleglaucomaornormal-tensionglaucoma,weevaluatedtheposturalchangeinintraocularpressure(IOP)followingtrabeculectomywithmitomycinC.UsingaPneumatonometer,IOPwasmeasuredafter5minutesinthesittingposition,andat0and10minutesinthesupineposition.SittingIOP,and0and10minutessupineIOPwere10.2±3.3mmHg,12.2±4.2mmHgand13.7±4.5mmHg,respectively.Thedifferencebetweensupine0minIOPandsittingIOP(ΔIOP0min)was1.95±1.4mmHg(p<0.05);thedifferencebetween10minsupineIOPandsittingIOP(ΔIOP10min)was3.43±1.8mmHg(p<0.05).ThereweresignificantcorrelationsbetweensittingIOP,ΔIOP0min(r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)andΔIOP10min(r2=0.43,r=0.66,p<0.0001).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):963.966,2010〕Keywords:仰臥位,体位変換,眼圧,正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,線維柱帯切除術.supineposition,posturalchange,intraocularpressure,normal-tensionglaucoma,primaryopen-angleglaucoma,trabeculectomy.964あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(104)院眼科外来に受診した原発開放隅角緑内障(広義)20例32眼である.年齢は57.6±10.8(平均値±標準偏差)歳,男性5例8眼,女性15例24眼,病型は原発開放隅角緑内障(狭義)22眼,正常眼圧緑内障10眼である.選択基準は,熟練した2人の術者による初回のMMC併用線維柱帯切除術後6カ月以上無治療で観察されたものである.除外基準は,術後6カ月以内のもの,初回手術以外にレーザー治療を含む内眼手術既往のあるもの,白内障同時手術例,僚眼へb遮断点眼薬を使用しているもの,Seidel試験で濾過胞に明らかな漏出点があるもの,高血圧・糖尿病の既往のあるものである.なお,本試験は東京警察病院治験倫理審査委員会において承認されており,試験開始前に,患者に本試験の内容について十分に説明し文書で同意を得た.線維柱帯切除術の方法を以下に記す.まず,輪部基底の結膜弁を作製し,4×3mmの強膜半層三角弁作製後,0.04%MMC0.25mlを浸した小片状スポンジェルRを4分間結膜下に塗布した.その後400mlの生理食塩水で洗浄し,線維柱帯切除,周辺虹彩切除後,強膜半層弁を10-0ナイロン糸で房水がわずかに漏出する程度に5針縫合した.最後に結膜を連続縫合した.眼圧測定は,Pneumatonometer:PT(MODEL30CLASSICTMPneumatonometer,Reichert社)とGoldmann圧平式眼圧計(GAT)を用いて行った.眼圧測定は,外来ベッド上でPTを用いて,座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再度座位へ体位変換した直後に眼圧を測定した.同時に,各測定時に自動眼圧計で右上腕の血圧および脈拍数を測定した.その後,診察室へ移動し,細隙灯顕微鏡検査およびSeidel試験を行った.最後に座位安静5分後にGATを用いて眼圧を測定した(図1).すべての眼圧測定は,同一検者(S.O.)が午後2時から4時の間に行った.眼圧測定は,すべて右眼より行い,仰臥位眼圧測定時は枕を使用しなかった.まず,PT測定値とGAT測定値の一致度を調べるため,GAT眼圧と座位安静5分後および再座位直後の眼圧をBland-Altman分析を用いて比較した.さらに,体位変換により眼圧および血圧が変動するかを検討するため,全対象の座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再座位直後の眼圧を,ボンフェローニ(Bonferroni)補正pairedt-testを用いて比較した.また,座位安静5分後の眼圧と座位安静5分後から仰臥位直後の眼圧上昇幅(ΔIOP直後)および仰臥位10分後の眼圧上昇幅(ΔIOP10分後)の関係について回帰分析を用いて検討した.有意水準はp<0.05(両側検定)とした.II結果手術日から本試験眼圧測定日までの期間は,2,385±1,646(214.5,604)日であった.Bland-Altman分析ではGATと座位安静5分後の眼圧〔95%信頼区間(mmHg):.1.0..2.1,r2=0.030,p=0.35〕および再座位直後の眼圧〔95%信頼区間(mmHg):.1.2.GAT-再座位直後眼圧(GAT+座位安静5分後眼圧)/2(GAT+再座位直後眼圧)/2GAT-座位安静5分後眼圧05101520531-1-3-505101520531-1-3-5図2GATとPTの一致度Bland-Altman分析では,GATと座位安静5分後の眼圧[95%信頼区間(mmHg):.1.0..2.1,r2=0.030,p=0.35]および再座位直後の眼圧[95%信頼区間(mmHg):.1.2..2.2,r2=0.005,p=0.69]の間に比例誤差はなかったが,座位安静5分後の眼圧はGAT眼圧より1.5±1.4mmHg,再座位直後の眼圧は1.7±1.5mmHg高かった.座位安静5分後仰臥位直後仰臥位10分後再座位直後ベッド上PT診察室GAT図1眼圧測定順序眼圧は,Pneumatonometer(PT)を用いて,座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再度座位直後に測定した.最後にGoldmann圧平式眼圧計(GAT)で眼圧を測定した.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010965.2.2,r2=0.005,p=0.69〕の間に比例誤差はなかったが,座位安静5分後の眼圧はGAT眼圧より1.5±1.4mmHg,再座位直後の眼圧は1.7±1.5mmHg高かった(図2).各体位の全症例の眼圧は,座位安静5分後:10.8±3.7mmHg,仰臥位直後:12.6±4.9mmHg,仰臥位10分後:14.1±5.1mmHg,再座位直後:10.9±4.1mmHg,GAT:9.2±3.9mmHgであった.仰臥位直後および仰臥位10分後の眼圧は,いずれも座位安静5分後,再座位直後より有意に高かった(p<0.05).また,仰臥位10分後の眼圧が他の測定値のなかで最も有意に高かった(p<0.05)(図3).体位変換による仰臥位眼圧上昇幅(ΔIOP)は,仰臥位直後で1.95±1.4mmHg(ΔIOP直後),仰臥位10分後で3.43±1.8mmHg(ΔIOP10分後)であった.座位安静5分後の眼圧とΔIOP直後(r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)およびΔIOP10分後(r2=0.43,r=0.66,p<0.0001)の間には有意な正の相関があった(図4).血圧は,収縮期,拡張期ともに再座位直後が最も高かった(p<0.05).また,脈拍数は,座位安静5分で最も多かった(p<0.05)(表1).血圧および脈拍数は,ΔIOP直後およびΔIOP10分後のいずれとも有意な相関はなかった.III考按緑内障における確実な治療法は,眼圧下降治療のみであり,薬物治療やレーザー治療によっても十分な眼圧下降が得られない場合は観血的手術を行う必要がある.線維柱帯切除術はMMCの併用により眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となった1).しかし,手術治療で十分な眼圧下降効果が得られても,視野障害が進行する症例が少なくないことはよく知られている.近年,外来眼圧2)や眼圧日内変動幅3)のみならず仰臥位眼圧上昇幅も,緑内障視野障害進行と関与している可能性が指摘されている4,5).Hirookaら5)は,原発開放隅角緑内障患者11例を対象にして,同一症例の左右眼のうち視野障害がより高度な眼と軽度な眼の仰臥位眼圧上昇幅を比較したところ,視野障害がより高度な眼が軽度な眼より仰臥位眼圧上昇幅が有意に大きかったと報告している.Kiuchiら4)は,正常眼圧緑内障患者を対象に,座位眼圧,仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅とMDslopeとの関係を調べたところ,MDslopeと座位眼圧には有意な相関はなかったが,MDslope表1体位変動と血圧,脈拍数の変化座位仰臥位直後仰臥位10分再座位直後収縮期血圧(mmHg)129.7±15.0129.8±21.0126.1±16.1137.8±19.5*拡張期血圧(mmHg)80.7±9.675.8±12.174.6±10.984.7±9.6*脈拍数(回/分)73.4±15.0*68.7±14.267.0±13.270.9±13.9*:他の3体位との比較(p<0.05,Bonferroni補正pairedt-test).平均値±標準偏差.血圧は,収縮期,拡張期ともに再座位直後で最も高かった.脈拍数は,座位安静5分で最も多かった.6543210-1-205101576543210-1051015ΔIOP直後(mmHg)座位安静5分後の眼圧(mmHg)ΔIOP10分後(mmHg)座位安静5分後の眼圧(mmHg)図4座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅座位安静5分後の眼圧とΔIOP直後(ΔIOP直後=.0.26+0.23×GAT,r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)およびΔIOP10分後(ΔIOP10分後=0.59+0.30×GAT,r2=0.43,r=0.66,p<0.0001)の間には有意な正の相関があった.0510152025仰臥位直後座位安静5分後再座位直後仰臥位10分後n=32Mean±SE眼圧(mmHg)*****図3体位変換による眼圧変化各体位の平均眼圧は,座位安静5分後:10.8±3.7mmHg,仰臥位直後:12.6±4.9mmHg,仰臥位10分後:14.1±5.1mmHg,再座位直後:10.9±4.1mmHgであった.PTで測定された体位変換後の眼圧は仰臥位10分後が最も高かった(*p<0.05).966あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(106)と仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅との間には有意な負の相関を認めたと報告している.眼圧下降治療の質を向上させるためには,仰臥位眼圧上昇幅も可能な限り小さくすることが望まれる.線維柱帯切除術により,仰臥位眼圧上昇幅が抑制できるかは,Parsleyらによりすでに報告されている9).Parsleyらは,座位から仰臥位への体位変換により,眼圧が対照群では1.08mmHgの上昇であったのに対して,片眼手術群では3.31mmHg,両眼手術群では5.49mmHgと大きく上昇したことから,線維柱帯切除術の仰臥位眼圧上昇抑制効果はほとんどなかったと述べている.しかし,この報告では線維柱帯切除術施行時にMMCの併用はなく,手術群の術後眼圧は15.6.17.7mmHgと比較的高値であった.そこで,今回筆者らは,原発開放隅角緑内障(広義)患者を対象として,MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧が体位変換によりどの程度変化するかについて検討したところ,座位から仰臥位への体位変換により,仰臥位直後平均1.90mmHg,仰臥位10分後平均3.40mmHg有意に上昇した.その後,再度座位へ体位変換すると,眼圧は速やかに有意に下降した.仰臥位眼圧上昇のおもな機序の一つとして,上強膜静脈圧の上昇が考えられている10.12).体位変換による上強膜静脈圧の上昇とともに,眼圧も1.3分で速やかに上昇することが知られている13,14).Fribergら11)によれば,健常人において,眼圧は体位変換後10.15秒以内に上昇幅の80%が上昇し,30.45秒で最大となり体位を保持するかぎり上昇幅は保たれていた.また,体位変換1分後と5分後では差がなく,座位に戻ると2.3分でベースラインへ戻ったと報告している.Tsukaharaら15)は,健常人と手術既往のない緑内障患者のいずれも,仰臥位直後より仰臥位30分後のほうが眼圧は高かったと報告している.今回の結果とあわせ,MMC併用線維柱帯切除術後も体位変換により,眼圧は速やかに変動することが確認できた.座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅(ΔIOP)の間には有意な正の相関があり,術後座位眼圧が低いほど,仰臥位眼圧上昇幅がより小さかった.仮にMMC併用線維柱帯切除術により仰臥位眼圧上昇幅が抑制されるとすると,その機序は座位から仰臥位への体位変換後,房水が濾過胞へ速やかに流出するためと推測される.これは術後座位眼圧が低い症例ほど,術後の濾過機能がより良好であった可能性が高いためと考えられる.このことから,できるだけ座位眼圧が低い,良好な濾過機能をもった濾過胞を形成することで,仰臥位眼圧上昇幅をより小さくできる可能性が示唆された.今回の検討では,術前の仰臥位眼圧上昇幅を測定していないため,MMC併用線維柱帯切除術により仰臥位眼圧上昇幅を,術前より術後で抑制できたかについては明らかでない.この点に関して検証するためには,今後,MMC併用線維柱帯切除術前後に仰臥位眼圧上昇幅を前向きに測定し比較する必要があると考える.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)AsraniS,ZeimerR,WilenskyJetal:Largediurnalfluctuationsinintraocularpressureareanindependentriskfactorinpatientwithglaucoma.JGlaucoma9:134-142,20004)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofprogressionofvisualfielddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientwithnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology113:2150-2155,20075)HirookaK,ShiragaF:Relationshipbetweenposturalchangeoftheintraocularpressureandvisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.JGlaucoma12:379-382,20036)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,20047)SmithDA,TropeGE:Effectofabeta-blockeronalteredbodyposition:inducedocularhypertension.BrJOphthalmol74:605-606,19908)SinghM,KaurB:Posturalbehaviourofintraocularpressurefollowingtrabeculoplasty.IntOphthalmol16:163-166,19929)ParsleyJ,PowellRG,KeightleySJetal:Posturalresponseofintraocularpressureinchronicopen-angleglaucomafollowingtrabeculectomy.BrJOphthalmol71:494-496,198710)KrieglsteinGK,WallerWK,LeydheckerW:Thevascularbasisofthepositionalinfluenceontheintraocularpressure.AlbrechtvonGraefesArchklinexpOphthalmol206:99-106,197811)FribergTR,SanbornG,WeinrebRN:Intraocularandepiscleralvenouspressureincreaseduringinvertedposture.AmJOphthalmol103:523-526,198712)BlondeauP,TetraultJP,PapamarkakisC:Diurnalvariationofepiscleralpressureinhealthypatients:apilotstudy.JGlaucoma10:18-24,200113)WeinrebR,CookJ,FribergT:Effectofinvertedbodypositiononintraocularpressure.AmJOphthalmol98:784-787,198414)GalinMA,McIvorJW,MagruderGB:Influenceofpositiononintraocularpressure.AmJOphthalmol55:720-723,196315)TsukaharaS,SasakiT:PosturalchangeofIOPinnormalpersonsandinpatientswithprimarywideopen-angleglaucomaandlow-tensionglaucoma.BrJOphthalmol68:389-392,1984

正常眼圧緑内障に対するラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(113)827《原著》あたらしい眼科27(6):827.830,2010cはじめに正常眼圧緑内障(NTG)の治療方法については,CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy(CNTGS)1,2)の大規模臨床試験結果によっても眼圧下降が有効であると報告されている.日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン3)においても,原発開放隅角緑内障と同様に眼圧下降がエビデンスに基〔別刷請求先〕湖.淳:〒545-0021大阪市阿倍野区阪南町1-51-10湖崎眼科Reprintrequests:JunKozaki,M.D.,KozakiEyeClinic,1-51-10Hannan-cho,Abeno-ku,OsakaCity545-0021,JAPAN正常眼圧緑内障に対するラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果湖.淳*1鵜木一彦*2安達京*3稲本裕一*4岩崎直樹*5尾上晋吾*6杉浦寅男*7平山容子*8大谷伸一郎*9宮田和典*9*1湖崎眼科*2うのき眼科*3アイ・ローズクリニック*4稲本眼科医院*5イワサキ眼科医院*6尾上眼科*7杉浦眼科*8平山眼科*9宮田眼科病院EfficacyofSwitchingfromLatanoprosttoTafluprostinPatientswithNormal-TensionGlaucomaJunKozaki1),KazuhikoUnoki2),MisatoAdachi3),YuichiInamoto4),NaokiIwasaki5),ShingoOnoue6),ToraoSugiura7),YokoHirayama8),ShinichiroOhtani9)andKazunoriMiyata9)1)KozakiEyeClinic,2)UnokiEyeClinic,3)EyeroseClinic,4)InamotoEyeClinic,5)IwasakiEyeClinic,6)OnoueEyeClinic,7)SugiuraEyeClinic,8)HirayamaEyeClinic,9)MiyataEyeHospital目的:正常眼圧緑内障(NTG)眼における,ラタノプロスト(LAT)点眼からタフルプロスト(TAF)点眼への変更による効果を検討する.対象および方法:対象は,9施設においてLAT単剤点眼治療で3カ月以上眼圧が安定していたNTG眼で,TAFに変更し3カ月間経過観察できた101例である.眼圧,点状表層角膜症(SPK)の程度を,変更前と,変更後1,3カ月で比較した.検討は1症例1眼に対して行った.結果:眼圧は,変更前14.7±2.6mmHgから,1カ月14.2±2.5mmHg(p=0.003),3カ月14.0±2.6mmHg(p<0.001)と有意に下降した.変更時16mmHg以上の症例では17.5±1.6mmHgから,1カ月16.4±1.8mmHg,3カ月16.0±2.3mmHgと有意に眼圧下降効果がみられた(p<0.001).SPKの程度は,A1D1は,34眼から,1,3カ月で25眼,18眼に減少した.A1D1を超える症例数はほぼ変化はなかった.結論:正常眼圧緑内障において,LATからTAFへの変更により眼圧下降効果は維持し,角膜障害は減少した.Purpose:Toassesstheefficacyofswitchingfromlatanoprosttotafluprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma(NTG).SubjectsandMethods:Thisstudy,conductedat9affiliates,comprised101NTGpatientswhohadhadstableintraocularpressure(IOP)forover3monthswithlatanoprostmonotherapy,andwerethenswitchedtotafluprost.WeinvestigatedtheeffectonIOPandcorneaat3monthsaftertheswitch.Results:MeanIOPbeforeswitching(14.7±2.6mmHg)wassignificantlyreducedto14.0±2.6mmHgat3monthsafterswitching(p<0.001).InpatientswithIOP≧16mmHgbeforeswitching,themeanIOP(17.5±1.6mmHg)wassignificantlyreducedto16.0±2.3mmHgat3monthsafterswitching(p<0.001).Beforeswitching,therewere34patientswithA1D1superficialpunctuatekeratopathy(SPK)scores;thisnumberhaddecreased18patientsat3monthsafterswitching.TherewasnochangeinthenumberofpatientswithSPKscoreshigherthanA1D1.Conclusion:TafluprostmaintainedtheefficacyoflatanoprostandimprovedSPKinNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):827.830,2010〕Keywords:正常眼圧緑内障,ラタノプロスト,タフルプロスト,単剤点眼治療,点状表層角膜症.normal-tensionglaucoma,latanoprost,tafluprost,monotherapy,superficialpunctuatekeratopathy.828あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(114)づいた唯一の治療法であると推奨されている.NTGを含む緑内障治療薬としては,現在,プロスタグランジン(PG)関連薬が第一選択薬として使用されることが多い.タフルプロスト点眼液(タプロスR点眼液0.0015%)(以下TAF)は,2008年に発売された新しいPG関連薬,タフルプロストを有効成分とした眼圧下降点眼薬である4).タフルプロストのプロスタノイドFP受容体親和性は,同じPGF2a誘導体であるラタノプロスト点眼液(キサラタンR点眼液)(以下LAT)より約12倍高いことが確認されている5).また,TAFは,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたLATとの第III相比較試験6)において,眼圧下降効果と安全性がLATと同等であることが確認された.しかし,NTGに対するLATとTAFの眼圧下降効果の比較に関する報告はない.今回,筆者らは,LATによる単剤治療を3カ月以上継続しているNTGに対し,TAFに変更し眼圧下降効果を検討したので報告する.I対象および方法1.対象参加9施設で通院中の,眼圧変動がおおむね2mmHg以内と眼圧が安定しているNTG患者で,3カ月以上LATを単剤で投与されている101例(年齢64.4±13.5歳),男性42例,女性59例を対象とした.評価対象眼は,両眼点眼の場合,TAFに変更時の眼圧の高いほうの眼とし,同じ場合は右眼を対象とした.本試験はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,共同設置の倫理委員会の承認を得,患者から文書による同意を取得したうえで実施した.2.方法エントリー時にLATをTAFに変更し,変更前および変更1カ月後,3カ月後に,視力検査と眼圧測定を行い,角結膜所見を観察した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計により同一被検者に対して同一検者が測定した.角膜所見は,フルオレセイン染色による点状表層角膜症(SPK)をAD分類7)を用いて評価した.結膜所見は,日本眼科学会アレルギー性結膜炎ガイドライン8)に準じ,眼球結膜充血を,正常範囲,軽度,中等度,重度の4段階で評価した.また,変更後3カ月時に患者アンケート調査を行った.注し心地に関しては,刺激感,ゴロゴロ感,掻痒感,霧視,乾燥感,充血を,使いやすさに関しては,保存性,持ちやすさ,点眼しやすさ,開封しやすさ,デザイン性を,変更前の点眼液と比較して質問した.II結果眼圧は,変更前14.7±2.6mmHgに対し,変更1カ月後14.2±2.5mmHg,3カ月後14.0±2.6mmHg,と有意に眼圧が下降した(いずれもp<0.005,対応のあるt検定).変更時眼圧を15mmHg以下(65例)と16mmHg以上(36例)に分けても集計した.その結果,変更前15mmHg以下では,変更前13.2±1.5mmHgに対し,変更1カ月後12.9±1.9mmHg,3カ月後12.9±2.2mmHgとTAF点眼液への変更によって眼圧はほとんど変わらなかった.一方,変更前16mmHg以上では,変更前17.5±1.6mmHgに対し,変更1カ月後16.4±1.8mmHg,3カ月後16.0±2.3mmHgと有p=0.003a:全体での眼圧変化(n=101)眼圧(mmHg)1816141210p<0.001変更前~3カ月後の眼圧変化10(10%)59(58%)32(32%)2mmHg以上上昇±2mmHg未満2mmHg以上下降b:変更時16mmHg以上症例の眼圧変化(n=36)眼圧(mmHg)2018161412p<0.001p<0.001変更前~3カ月後の眼圧変化1(3%)18(50%)17(47%)2mmHg以上上昇±2mmHg未満2mmHg以上下降NS変更前1カ月後3カ月後NS例数(%)眼圧(mmHg)161412108変更前~3カ月後の眼圧変化9(14%)41(63%)15(23%)2mmHg以上上昇±2mmHg未満2mmHg以上下降c:変更時15mmHg以下症例の眼圧変化(n=65)図1点眼変更前後の眼圧変化(115)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010829意に下降した(いずれもp<0.005,対応のあるt検定).また,変更前から変更3カ月後への眼圧変化値を,2mmHg以上上昇,±2mmHg未満,2mmHg以上下降の3つに分類し,症例全体,変更時16mmHg以上の症例および変更時15mmHg以下の症例について集計した.その結果,症例全体と変更時15mmHg以下の症例では,2mmHg以上上昇が各々10,14%,±2mmHg未満が各々58,63%,2mmHg以上下降が各々23,32%とほぼ同様の割合であったが,変更前16mmHg以上の症例では,それぞれ3%,50%,47%と眼圧下降の割合が高かった(図1).結膜充血は,変更前:軽度5例,5.0%であった.変更後は1カ月:軽度6例,5.9%,3カ月:軽度7例,6.9%であり,変化はなかった(表1).SPKは,変更前にA1D1:34例,A1D2:1例,A2D1:2例と36.6%にみられた.変更後には,1カ月にA1D1:25例,A1D2:3例と27.7%にみられた.3カ月にはA1D1:18例,A1D2:1例,A2D1:1例,A3D2:1例と20.8%にみられた(表2).結膜充血およびSPKで問題となる所見は認められず,これら副作用による中止例はなかった.使用感アンケートについて,注し心地は,刺激感,ゴロゴロ感,掻痒感,霧視,乾燥感,充血の項目に関する質問の結果,LATに比べTAFが良い事例もみられるが,大きな違いはなかった.使いやすさは,保存性,持ちやすさ,点眼しやすさ,開封しやすさ,デザイン性のよさの項目に関する質問の結果,総じてTAFのほうが使いやすかった(表3).特にTAFの便利な点の問い(複数回答可)に対し,保存のしやすさ,点眼しやすさ,持ちやすさ,開封しやすさ,デザイン性の順に印象が良かった.III考按LATから他のPG関連薬への切り替えによる報告はいくつかある9.13)が,今回のようにLATからTAFへ切り替えた場合の報告はない.本試験は,正常眼圧緑内障を対象としたLATからTAFへの切り替え試験である.本試験の結果,眼圧は,変更前に対し,変更1カ月後および3カ月後に有意に下降した.変更前眼圧が15mmHg以下と16mmHg以上に分けた場合,15mmHg以下では眼圧はほとんど変わらなかったのに対し,16mmHg以上では眼圧は,変更前に比べ有意に下降した.変更前の眼圧が15mmHg以下の場合,LATにより十分な眼圧下降が得られている患者が多いと考えられ,その結果,TAFに変更しても眼圧下降が得られなかった可能性が推察される.一方,変更前の眼圧が16mmHg以上の場合,LATによる眼圧下降が十分でない,あるいはさらに眼圧が下降する患者が含まれる可能性があり,その結果,TAFへの変更によって眼圧が下降した可能性が考えられる.安全性として,結膜充血およびSPKについて評価したが,SPKの認める症例が減少傾向であった以外に変化はなかった.SPKの減少が認められた理由として,LATに比べて主薬の濃度が低いことや,ベンザルコニウム塩化物の濃度がLATは0.02%,TAFが0.01%と低いことなどが考えられる.使用感について,注し心地はTAFとLATで大きな違いはなかったが,TAFの保存性の良さが患者にとって最も印象が良く,ついで点眼しやすさや容器の持ちやすさが良かった.昨今,アドヒアランスに配慮した治療の必要性が求められているが,長期管理を必要とする緑内障治療においても例外ではない.患者の点眼液に対する使用感は,緑内障治療への表3注し心地と利便性のアンケート結果(変更後3カ月時)(LATと比べたTAFについての結果)注し心地少ない同じ多い刺激感41%49%11%ゴロゴロ感40%55%5%掻痒感33%63%4%霧視31%59%10%乾燥感26%70%4%充血29%64%7%利便性そう思うわからない思わない保存しやすい83%6%11%持ちやすい68%18%14%点眼しやすい69%17%14%開封しやすい81%11%8%デザインが良い53%30%17%表1変更前から変更後1,3カ月での視力,角結膜所見(n=101)変更前1カ月3カ月矯正視力1.101.111.06点状表層角膜炎(SPK)37例37%28例28%21例21%結膜充血なし96例95%95例94%94例93%軽度5例5%6例6%7例7%中等度から重度0例0例0例表2点状表層角膜症(SPK)の変化(変更前→変更後1カ月→3カ月)A0A1A2A3D064→73→80D134→25→182→0→10→0→0D21→3→10→0→00→0→1D30→0→00→0→00→0→0(数値:各時期の例数)830あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(116)患者の積極的な参加が重要な要素と考えられることから,TAFの使用感の良さがアドヒアランスの向上や維持に期待できるものと考えられる.今回の検討は,TAFの点眼期間が3カ月と短期間の成績であるが,その眼圧下降効果は,LATと同等かそれ以上であることが確認できたと思われる.今後,長期的な経過観察やTAFとLATとの直接比較,LATで効果不十分例へのTAFの効果などの検討が必要である.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン(第2版):日眼会誌110:777-814,20064)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:NewfluoroprostaglandinF2aderivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20035)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20046)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20087)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctuatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20038)日本眼科学会アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:100-140,20069)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypotensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,200310)KumarRS,IstiantoroVW,HohSTetal:Efficacyandsafetyofasystematicswitchfromlatanoprosttotravoprostinpatientswithglaucoma.JGlaucoma16:606-609,200711)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,200812)湖.淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,200913)McKinleySH,SinghR,ChangPTetal:IntraocularpressurecontrolamongpatientstransitionedfromlatanoprosttotravoprostataVeteransAffairsMedicalCenterEyeClinic.JOculPharmacolTher25:153-157,2009***

エタンブトール視神経症が合併し,急速に進行したようにみえた正常眼圧緑内障の1例

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(101)8250910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(6):825828,2009cはじめにエタンブトール視神経症は,典型的には視力低下,中心暗点を特徴とする.したがって,通常,エタンブトール視神経症が緑内障に合併しても,その認識や鑑別は比較的容易である.しかし,エタンブトール視神経症のなかには,まれに周辺視野狭窄を生ずるものも報告されている.その認識がないと,エタンブトール視神経症を緑内障と診断する可能性がある.さらに,緑内障にそのようなエタンブトール視神経症を合併すると,あたかも緑内障が急速に進行したようにみえ,点眼追加や手術加療など,誤った治療を選択する可能性がある.今回筆者らは,実際に経過観察していた緑内障患者に,周辺視野に視野欠損を生じるエタンブトール視神経症が合併し,あたかも緑内障の視野の悪化のようにみえた症例を経験〔別刷請求先〕井上由希:〒889-1692宮崎県宮崎郡清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学Reprintrequests:YukiInoue,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofMiyazaki,5200Kihara,Kiyotake,Miyazaki889-1692,JAPANエタンブトール視神経症が合併し,急速に進行したようにみえた正常眼圧緑内障の1例井上由希*1中馬秀樹*1河野尚子*1中馬智巳*1直井信久*1沖田和久*2*1宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学*2国民健康保険中部病院眼科ACaseofNormal-TensionGlaucoma(NTG)withApparentlyRapidProgressionduetoComplicationofEthambutol-ToxicOpticNeuropathyYukiInoue1),HidekiChuman1),NaokoKawano1),TomomiChuman1),NobuhisaNao-i1)andKazuhisaOkita2)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofMiyazaki,2)DepartmentofOphthalmology,KokuhoTyubuHospital緑内障に,周辺視野に視野欠損を生じる非典型的なエタンブトール視神経症を合併し,あたかも緑内障が急速に進行したようにみえた症例を報告する.症例は65歳,女性.近医にて緑内障を指摘され,外来にて経過観察されていたが,眼圧コントロール良好にもかかわらず急速に視野が悪化したとして紹介された.結核の既往があり,エタンブトール内服中であった.緑内障に対してはラタノプロストが点眼されていた.Humphrey静的視野にて上下に弓状に広がる視野欠損を認め,4カ月前と比較してMD(meandefect)値で右眼は2.74Dから17.46D,左眼は4.0Dから17.81Dへ悪化していた.エタンブトール内服を中止し,7カ月後右眼は5.82D,左眼は4.36Dへ改善した.典型例ではないエタンブトール視神経症では,周辺視野の狭窄をみる例がある.緑内障に周辺視野の狭窄が重なれば,あたかも緑内障が悪化したようにみえるため,注意が必要である.Wereportacaseofglaucomathatappearedtoprogressrapidlybecauseitwasassociatedwithatypicalethambutolopticneuropathy.Thepatient,a65-year-oldfemale,wasreferredtoourhospitalforevaluationofrap-idlyprogressingvisualelddefectinglaucoma,despitegoodcontrolofintraocularpressure.Shehadbeentreatedwith750mg/dayethambutolfortuberculosis.Humphreystaticvisualeldexaminationshowedanerveberbun-dletypedefect,whichwasconsistentwiththelocationoftheopticdiscrimdefect.Themeandefect(MD)wors-enedfrom2.74dBto17.46dBoculusdexter(OD)andfrom4.0dBto17.81dBoculussinister(OS)overthe4-monthevaluationperiod.MDrecoveredto5.82dBODand4.36dBOSat7monthsafterethambutoldis-continuation.Ethambutoltoxicopticneuropathyrarelydevelopsasaperipheralvisualelddefect.Inglaucomapatientswithethambutoltoxicopticneuropathy,thevisualelddefectappearstoprogressrapidly.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):825828,2009〕Keywords:正常眼圧緑内障,エタンブトール視神経症,周辺視野狭窄.normal-tensionglaucoma,ethambutol-toxicopticneuropathy,constrictionofperipheralvisualeld.———————————————————————-Page2826あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(102)したので報告する.I症例および臨床経過症例は,65歳,女性.2006年末頃より両眼のちらつきを自覚していた.2007年4月,近医眼科を受診した.眼圧は両眼14mmHgであったが,緑内障性視神経乳頭所見を認め,それに一致した視野欠損を呈していたため,両眼の正常眼圧緑内障と診断された.このときの中心フリッカー値は右眼47Hz,左眼48Hzであった.ラタノプロスト点眼が開始され,外来にて経過観察されていた.同年10月,眼圧コントロールが良好であるにもかかわらず,急速に視野が悪化してきたとして宮崎大学眼科(以下,当科)紹介初診となった.この間自覚症状には変化はなかった.既往歴として,40歳頃肺結核を指摘され,1998年よりエタンブトールを断続的に投与されていた.2000年に右肺上葉を切除され,2006年8月からエタンブトール750mg/day内服中であった.高脂血症を指摘されていたが,高血圧や糖尿病は指摘されていない.また,片頭痛や急速な血圧低下の既往もなかった.当科初診時,視力はVD=0.5(1.2×sph+3.50(cyl1.50DAx50°),VS=0.5(1.2×sph+3.25(cyl1.25DAx95°)であった.瞳孔は正円,同大.対光反応は迅速,完全で,RAPD(relativeaerentpupillarydefect)は陰性であった.眼球運動は正常で,眼位は正位.眼圧は,両眼16mmHgであった.隅角は両眼とも開放隅角で,Shaer分類でGrade4,Scheie分類でGrade0であった.色覚は石原式色覚検査表ですべて正答した.中心フリッカー値は,右眼37Hz左眼38Hz.前眼部,中間透光体は,両眼とも軽度白内障を認めた.眼底では,視神経乳頭が両眼ともに垂直C/D(cup/図1本症例の眼底写真視神経乳頭は垂直C/D比0.8.特に下方のリムの菲薄化を認めた.左:右眼,右:左眼.図2当科初診時の静的視野MD値は右眼17.46dB,左眼17.81dB.〔左眼〕〔右眼〕———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009827(103)disc)比0.8で,下方のリムの菲薄化を認めた(図1).Hum-phrey静的視野検査にて上下に弓状に広がる視野欠損を認め(図2),当科受診4カ月前の視野(図3)と比較すると,MD値で右眼は2.74dBから17.46dBへ,左眼は4.0dBから17.81dBへと悪化していた.静的視野検査の結果は視野の信頼係数も良好で,また,再現性も認められ,有意な視野欠損と考えた.2007年4月に前医を受診して以来,本人の自覚症状に変化はなかった.図4エタンブトール中止7カ月後の静的視野MD値は右眼5.82dB,左眼4.36dBと改善している.〔左眼〕〔右眼〕図3当科受診4カ月前の静的視野MD値は右眼2.74dB,左眼4.0dB.〔左眼〕〔右眼〕———————————————————————-Page4828あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(104)エタンブトール視神経症の可能性を考え,エタンブトール中止としたうえで経過観察を行った.抗緑内障薬の追加やその他の点眼,内服の追加は行わなかった.エタンブトール中止後,静的視野検査の結果は次第に改善し,エタンブトール中止7カ月後にはMD(meandefect)値は右眼が17.46dBから5.82dBに,左眼が17.81dBから4.36dBに改善した(図4).II考按本症例では,当科初診時の静的視野(図2)における視野欠損の形態からは,一見緑内障が進行したかのようにみえた.しかし,眼圧コントロールが良好であったにもかかわらず,きわめて急速に視野障害が進行していること,視野障害の進行に一致した緑内障性視神経乳頭陥凹所見を認めないこと,2006年8月以来1年以上にわたってエタンブトール内服中であり,前医初診時と比較すると中心フリッカー値の著明な悪化を認めたことなどから,非典型的ではあったが,エタンブトールの関与を考えた.そのほか,アーチファクトや,心因性のものも考慮された.しかし,視野検査の再現性が良かったこと,視野の信頼係数も良好であったことから,アーチファクトや,心因性のものは除外した.加えて,抗緑内障薬の追加をせず,エタンブトール中止のみで,視野は次第に改善したことから,本症例においてみられた視野の悪化は,緑内障によるものではなく,エタンブトール視神経症の合併によるものであったと考えた.現在でも結核治療の主要薬剤として使用されているエタンブトールは,Carrら1)による最初のエタンブトール視神経症の報告以来,数多くの報告がなされており2),眼科領域では中毒性視神経症の原因薬剤として広く認識されている.典型的な臨床症状としては視力低下,中心暗点,色覚異常,中心フリッカー値の低下を特徴とする.一方で,こうした典型的な臨床症状を呈さないタイプのエタンブトール視神経症も数多く報告されている.Leibold3,4)はエタンブトール視神経症を中心暗点型と周辺視野狭窄型の2つに分け,そのほかに特殊なタイプとして視神経乳頭の発赤・腫脹をきたす乳頭網膜障害型があることを報告している.近年でも,頻度は少ないながら,両耳側半盲や周辺視野感度が低下する症例も報告されている5).通常,典型的なエタンブトール視神経症が緑内障に合併しても,視力低下や中心暗点が表現され,その認識や,鑑別は比較的容易であることが多い.しかし,本症例のように,緑内障に,周辺視野狭窄を生ずるエタンブトール視神経症を合併すると,あたかも緑内障が急速に進行したようにみえる可能性がある.エタンブトール視神経症では早期発見し薬剤を中止することにまさる治療法はなく,発見が遅れ高度に視力低下が進んだ症例では,視機能の改善がみられない,あるいは視機能障害が残存することが報告されている6).緑内障および他疾患にて経過観察中の場合でも急激な視力低下,視野欠損をみたときには,エタンブトール視神経症を念頭において内服の有無を確認する必要があると考えられた.本症例では,あたかも緑内障が進行したかのような弓状暗点の増悪をみた.この点については,エタンブトールは網膜神経節細胞(RGC)に有害であるとの研究報告もあることから7),緑内障眼にエタンブトール視神経症が合併した場合,Bjerrum領域のRGCが傷害されやすい可能性が示唆されると考えられた.近年opticalcoherencetomography(OCT)による視神経線維層厚の解析はさかんに行われており,エタンブトール視神経症についても,エタンブトールの中止および視機能の改善に伴い,浮腫の軽減などによると思われる視神経線維層厚の減少を認めることが報告されている8,9).今回はOCTによる視神経線維層厚の解析を行っていないが,今後の経過観察をするにあたってはこうした点にも留意していく必要があると思われた.また,本症例ではエタンブトール中止7カ月後の静的視野でも投与前のMD値まで回復していない.エタンブトール中止を継続していくが,緑内障が進行している可能性も否定できない.今後も注意深く経過観察を継続する必要があると思われた.文献1)CarrRE,HenkindP:Ocularmanifestationofethambutol.ArchOphthalmol67:566-571,19622)BarronGJ,TepperL,IovineG:Oculartoxicityfromethambutol.AmJOphthalmol77:256-260,19743)LeiboldJE:Theoculartoxicityofethambutolanditsrelationtodose.AnnNYAcadSci135:904-909,19664)LeiboldJE:Drugshavingatoxiceectontheopticnerve.IntOphthalmolClin11:137-157,19715)比嘉利沙子,塩川美菜子,深作貞文ほか:エタンブトール視神経症の耳側感度低下.臨眼62:473-478,20086)横山哲朗,田川博,菅野晴美ほか:高度に視力低下したエタンブトール視神経症.あたらしい眼科9:1623-1626,19927)HengJE,VorwerkCK,LessellEetal:Ethambutolistoxictoretinalganglioncellsviaanexcitotoxicpathway.InvestOphthalmolVisSci40:190-196,19998)ZoumalanCI,SadunAA:Opticalcoherencetomographycanmonitorreversiblenerve-verlayerchangesinapatientwithethambutol-inducedopticneuropathy.BrJOphthalmol91:839-840,20079)ChaiSJ,ForoozanR:Decreasedretinalnerveberlayerthicknessdetectedbyopticalcoherencetomographyinpatientwithethambutol-inducedopticneuropathy.BrJOphthalmol91:895-897,2007

ニプラジロール点眼の眼圧日内変動に与える薬剤効果 ─正常眼圧緑内障における検討─

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page11426あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(00)1426(98)0910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14261432,2008c〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島4-2-78大阪厚生年金病院眼科Reprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,PhD.,DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,4-2-78Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPANニプラジロール点眼の眼圧日内変動に与える薬剤効果─正常眼圧緑内障における検討─桑山泰明*1狩野廉*1中田敦子*1鈴木三保子*1菅波秀規*2,3浜田知久馬*3吉村功*3*1大阪厚生年金病院眼科*2興和株式会社臨床解析部*3東京理科大学大学院工学研究科EfectofNipradilolonCircadianVariationofIntraocularPressureinNormal-TensionGlaucomaYasuakiKuwayama1),KiyoshiKano1),AtsukoNakata1),MihokoSuzuki1),HidekiSuganami2,3),ChikumaHamada3)andIsaoYoshimura3)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,2)BiostatisticsandDataManagementDepartment,KowaCompanyLimited,3)GraduateSchoolofEngineering,TokyoUniversityofScience目的:正常眼圧緑内障(NTG)患者の眼圧日内変動に対するニプラジロール点眼の効果を検討した.対象および方法:NTG28例の眼圧日内変動を3時間ごとに自己測定空気眼圧計で測定した.ニプラジロール点眼の治療前,治療開始後1日目および3カ月目について,各時刻の眼圧の比較,交互作用項を含む線形モデルを用いた日内変動パターンの変化の検討を行った.さらに,コサインカーブに薬剤効果を表すパラメータを加えた周期線形混合効果モデルにより,本剤の効果を解析した.結果:治療開始後1日の21,3,9,12時と3カ月の21,0,9,12時で有意な眼圧下降が認められた(p<0.05).日内変動のパターンは治療前後で変化していた(交互作用:p<0.001)が,1日と3カ月では変化がなかった(交互作用:p=0.317,時期効果:p=0.965).日内変動は周期線形混合効果モデルによってよく説明でき,薬剤効果を表すパラメータは昼間と夜間で差がなかった(切片:p=0.71,傾き:p=1.00).結論:ニプラジロール点眼の効果は,3カ月継続使用でも減弱せず,昼夜で差がないことが示された.Theeectofnipradiloloncircadianvariationofintraocularpressure(IOP)wasexaminedin28patientswithnormal-tensionglaucoma(NTG).IOPwasmeasuredevery3hours,usingaself-measuringpneumatictonometer,before,1dayafterand3daysaftertreatmentwithnipradilol.Changesinthepatternofcircadianvariationwereexaminedusingalinearmodelthatincludedinteractionterms.Theeectofthedrugwasalsoanalyzedusingacircularlinearmixed-eectmodel,towhichwasaddedaparametershowingthedrugeectinacosinecurve.IOPreducedsignicantlyat21:00,03:00,09:00and12:00after1day,andat21:00,0:00,09:00and12:00after3monthsoftreatment(p<0.05).Thepatternofcircadianvariationchangedaftertreatment(interaction:p<0.001),butnochangewasobservedbetweentherstdayandafter3monthsoftreatment(interaction:p=0.317,periodeect:p=0.965).Circadianvariationwaswellexplainablebythecircularlinearmixed-eectmodel,andtheparametershowingdrugecacydidnotdierbetweendaytimeandnighttime(intercept:p=0.71,slope:p=1.00).Theeectofnipradilolwasnotreducedevenafter3monthsofcontinuoususe,andtheeectdidnotdierbetweendayandnight.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14261432,2008〕Keywords:ニプラジロール,正常眼圧緑内障,眼圧,日内変動,自己測定眼圧計.nipradilol,normal-tensionglaucoma,intraocularpressure,circadianvariation,self-measuringtonometer.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081427(99)はじめに緑内障はさまざまな要因により視神経障害をきたし,その結果として視野障害をひき起こす疾患であるが,正常眼圧緑内障(NTG)を含め緑内障性視神経症の最大の危険因子は眼圧とされている1).眼圧は常に一定の値を示すわけではなく,日内変動,季節変動などさまざまな周期で変動することが知られている24).診療時眼圧が目標値に調整されていると判断されても,診療時間外に眼圧が上昇している可能性があるため,NTG患者における眼圧日内変動の測定は,緑内障の病態把握,治療方針の決定,治療効果の判定を行ううえで重要な情報を提供する.筆者らは,NTG患者に持ち運び可能な自己測定空気眼圧計を貸し出し,自宅で眼圧日内変動を測定し,診療に活用してきた.しかし,眼圧日内変動は,個体,時点,周期性など多数の因子を含んだ複雑な構造を擁しており,薬物治療の効果を評価するうえでその解析方法は定まっていない.今回,a1,b遮断薬であるニプラジロール点眼液(ハイパジールコーワR点眼液)を使用したNTG患者の眼圧日内変動に対して統計モデルを当てはめた解析を行うことにより,ニプラジロールの薬剤効果の特徴を明らかにすることができたので報告する.I対象および方法1.対象本調査は,ハイパジールコーワR点眼液の眼圧日内変動に関する特別調査として「医薬品の市販後調査の基準に関する省令(GPMSP)」および「医療用医薬品の使用成績調査等の実施方法に関するガイドライン」に則り実施した.2000年8月1日から2003年7月31日までに大阪厚生年金病院眼科を受診したNTG患者のうち,緑内障手術の既往がなく,無治療時の眼圧日内変動を把握する必要があり,ニプラジロール点眼単独による治療を開始した患者28名を本研究の対象として登録した.なお,NTGの診断基準は,初診時およびそれ以降の複数回の外来診察時の眼圧がGoldmann圧平式眼圧計による測定で常に21mmHg以下であること,正常開放隅角であること,緑内障性視神経乳頭変化(網膜神経線維層欠損を含む)とそれに対応する緑内障性視野変化を有すること,視神経乳頭の緑内障性変化をきたしうる他疾患の既往もしくは存在がないこととした.対象の内訳は,男性12例,女性16例で,年齢は51.7±9.4歳(平均値±標準偏差)であった.2.眼圧日内変動の測定眼圧日内変動の測定には,自己測定空気眼圧計(Home-tonometer)5)を用いた.Hometonometerの測定値と,Gold-mann圧平眼圧計,通常の非接触式空気眼圧計の測定値の相関については,以前に85例85眼を対象に検討している.同一症例に対し,眼圧計ごとに異なる検者が,他の眼圧計の測定結果をマスクした状態で眼圧測定したところ,Home-tonometerとGoldmann圧平眼圧計の相関係数はr=0.86,Hometonometerと非接触式空気眼圧計の相関係数はr=0.84と,互いに高い相関があることを確認された(未発表データ).Hometonometerの使用方法を説明したうえで患者に貸し出し,自宅で患者自身が眼圧日内変動を測定した.ニプラジロール点眼の処方開始日にHometonometerを貸し出し,点眼開始前24時間の無治療時(0日)と点眼後24時間(1日)の眼圧日内変動を測定した.また,点眼後3カ月(3カ月)にもHometonometerを貸し出し,眼圧日内変動を測定した.眼圧は21時から3時間ごとに計8点/日(21,0,3,6,9,12,15,18時)を24時間1日とし,それぞれの時刻に両眼を5回ずつ測定するように指導した.ニプラジロール点眼は,用法・用量に従い,1回1滴,1日2回,朝は78時の間に,夜は1920時の間に両眼に点眼するよう指導した.3.眼圧日内変動の解析各時刻の,5つの測定値のうち,最大値と最小値を除いた3つの測定値の平均を各眼で算出し,左右眼の平均値をその時刻の眼圧とした69).まず,0日,1日および3カ月における各時刻(21,0,3,6,9,12,15,18時)の眼圧値について,繰り返しの1標本t-検定を用いて,0日と1日,0日と3カ月および1日と3カ月との間で比較した.つぎに,時期(測定日)を固定効果,患者を変量効果とした線形混合効果モデル10)を用い,一日の最高眼圧を0日,1日および3カ月の間で比較した.また,時刻と時期を主効果とし,時刻×時期の交互作用項を含む線形モデルの当てはめ11)により,点眼後に眼圧日内変動のパターンが変化しているかどうかを検討した.眼圧(mmHg)時間b0b1b2図1コサインカーブモデルIOP=(b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))IOP:モデルより推定された眼圧値,b0:位置(平均眼圧),b1:振幅(日内変動幅),b2:位相(最高眼圧時刻),t:時刻.全症例の眼圧日内変動データに一つのコサインカーブを当てはめ,個体差は変量効果を示すパラメータ(b0,b1,b2)を導入することで表現した.———————————————————————-Page31428あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(100)さらに,眼圧日内変動に及ぼす薬剤効果の解析を統計モデルによって試みた.線形モデルの当てはめによる検討から1日と3カ月の眼圧日内変動は変わっていないとみなすことができたため,周期性を利用した解析においては,1日と3カ月の眼圧は投与後の測定としてまとめて取り扱った.無治療時(0日)の眼圧日内変動には,個体差を変量効果としてコサインカーブを当てはめ(図1),得られたパラメータ(位置,振幅,位相)から一日の平均眼圧,眼圧変動幅,最高眼圧時刻を推定した.点眼後(1日,3カ月)の眼圧日内変動には,コサインカーブに,点眼後の眼圧下降作用を線形モデルとして追加した周期線形混合効果モデルを当てはめ(図2),得られたパラメータから眼圧下降作用を推定した.ここで用いた周期線形混合効果モデルとは,非線形混合効果モデル12)の一種であり,眼圧の周期的な変動に個体差があることを認めたうえで,眼圧日内変動の大きさと点眼による眼圧の下降の程度とを分離して推定ができる方法である.なお,有意水準は両側5%未満とした.本研究で使用した統計解析手法の詳細と統計学的な解説は別報を参照されたい13).II結果登録した28例のうち,4例はニプラジロール点眼を中止したなどの理由により,3カ月時の測定値が欠測となった.副作用としては,眼瞼炎が1例に,点状表層角膜症が2例に認められた.無治療時(0日),点眼後1日および3カ月における3時間ごとの各時刻における眼圧の推移を図3に,各時刻での眼圧表1各時刻での眼圧の変化測定時刻1日0日p値*3カ月0日p値*3カ月1日p値*21時1.64±1.23mmHg<0.0011.37±1.60mmHg0.0010.36±1.57mmHg0.2990時0.43±1.61mmHg0.1820.76±1.38mmHg0.0130.12±1.12mmHg0.6023時0.75±1.56mmHg0.0300.31±2.02mmHg0.4660.29±1.55mmHg0.4106時0.20±1.05mmHg0.3240.04±1.76mmHg0.9090.30±1.39mmHg0.3049時1.55±1.24mmHg<0.0011.56±1.90mmHg<0.0010.05±1.41mmHg0.88112時1.00±1.37mmHg0.0011.28±1.67mmHg0.0010.28±1.45mmHg0.37615時0.16±1.22mmHg0.4990.44±1.68mmHg0.2350.23±1.76mmHg0.55618時0.26±1.65mmHg0.4260.54±1.97mmHg0.1910.59±1.55mmHg0.088*:1標本t-検定.眼圧(mmHg)時刻(時)216+918b3b4b5b6図2周期線形混合効果モデル21=<t=<6のとき,IOP= (b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))+b3+b4・│t21│9=<t=<18のとき,IOP= (b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))+b5+b6・│t9│b0b2,b0b2,tの説明は図1参照のこと.b3:夜点眼切片(夜点眼直後の眼圧変化量).b4:夜点眼傾き(夜点眼後に眼圧下降が経時的に変化する割合).b5:朝点眼切片(朝点眼直後の眼圧変化量).b6:朝点眼傾き(朝点眼後に眼圧下降が経時的に変化する割合).もともと存在する生理的な日内変動を表すコサインカーブに,ニプラジロール点眼の薬剤効果として,点眼直後が最大となりその後経時的に一定の割合で眼圧下降作用が変化する線形モデルを加えた.1日2回の点眼時刻から,9時から18時までを昼間,21時から翌朝6時までを夜間とし,薬剤効果を示す定数(b3,b4,b5,b6)は昼間と夜間に分割した.薬剤効果の項をいずれも0とすると,無治療時(0日)の眼圧に当てはめたコサインカーブモデルとなる.眼圧(mmHg)211615141312点眼0#3691215:0日:1日:3カ月18時刻(時)点眼#*#*#**図3ニプラジロール点眼前後における眼圧の変化平均値(mmHg).0日n=28,1日n=27,3カ月n=24点眼時刻を矢印で示す.各時刻の眼圧を1標本t-検定にて比較した.*:1日目の眼圧が0日と比較し有意に低下(p<0.05).#:3カ月の眼圧が0日と比較し有意に低下(p<0.05).1日目と3カ月の比較では差はなかった.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081429(101)の変化量を表1に示す.点眼後1日では0日と比較して,21,3,9,12時に眼圧の有意な低下がみられ,点眼後3カ月でも0日と比較して,21,0,9,12時において眼圧の有意な低下が認められた(p<0.05,1標本t-検定).一方,点眼後1日と3カ月との比較では,いずれの時刻においても有意な差は認められなかった.線形混合効果モデルから推定された1日の最高眼圧は,0日,1日および3カ月で,それぞれ16.5mmHg,15.5mmHgおよび15.7mmHgとなり,1日と3カ月の最高眼圧は0日と比較して有意に低下していた(0日対1日:p=0.001,0日対3カ月:p=0.016).1日対3カ月では,最高眼圧に有意な差は認められなかった(p=0.685).交互作用項を含む線形モデルの当てはめでは,0日対1日および0日対3カ月の比較においていずれも交互作用が有意となり(p<0.001),ニプラジロール点眼後は眼圧日内変動の形状が変化していることが統計学的に示された.一方,1日対3カ月の比較では,交互作用は有意とならず(p=0.317),時期効果も認められなかった(p=0.965).無治療時(0日)の眼圧にコサインカーブを当てはめた結果を図4に示す.推定されたコサインカーブのパラメータは,位置(b0)が14.70mmHg,振幅(b1)が0.60mmHg,位相(b2)は0.49(およそ12時を指す)であった.点眼後(1日,3カ月)の眼圧に周期線形混合効果モデルを当てはめた結果を図5に,モデルから得られたパラメータを表3統計モデル当てはめにより得られた薬剤効果に関するパラメータパラメータ夜点眼朝点眼朝と夜の差p値*切片**b3=1.30(0.19)mmHgb5=1.29(0.19)mmHg<0.01mmHg0.71傾き***b4=0.13(0.03)mmHg/時間b6=0.12(0.03)mmHg/時間0.01mmHg/時間1.00*:1標本t-検定.**:ニプラジロール点眼直後の眼圧下降量(mmHg).***:点眼後,経時的に眼圧下降が減弱する割合(mmHg/時間).各パラメータの説明は図2を参照.表中かっこ内の数値は標準誤差.表2統計モデル当てはめにより得られた生理的日内変動に関するパラメータパラメータ無治療時(0日)点眼後(1日,3カ月)前後差p値*位置:b014.70(0.29)mmHg14.69(0.28)mmHg──振幅:b10.60(0.10)mmHg0.57(0.11)mmHg0.040.71位相:b2**0.49(0.04)0.49(0.04)0.010.90*:1標本t-検定.**:21時を起点に表示.b2=0.49は午前11時46分に相当する.眼圧日内変動に,無治療時はコサインカーブモデルを,点眼後は周期線形混合効果モデルを当てはめた.各パラメータの説明は図1,2を参照.表中かっこ内の数値は標準誤差.眼圧(mmHg)1615141312:測定値:推定値210369121518時刻(時)図4無治療時の眼圧日内変動に対するコサインカーブモデルの当てはめコサインカーブモデルによって得られた眼圧値(推定値)は,実際の眼圧測定値の平均(測定値)によく一致した.(コサインカーブモデルの式)IOP(mmHg)=(14.70+b0)+(0.60+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))図5点眼後の眼圧日内変動に対する周期線形混合効果モデルの当てはめ周期線形混合効果モデルによって得られた眼圧値(推定値)は,実際の眼圧測定値の平均(測定値)によく一致した.(周期線形混合効果モデルの式)21=<t=<6のとき,IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))1.30+0.13・│t21│9=<t=<18のとき,IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))1.29+0.12・│t9│点眼時刻を矢印で示す.眼圧(mmHg)211615141312点眼0369121518時刻(時)点眼:測定値:推定値———————————————————————-Page51430あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(102)表2,3にそれぞれ示す.周期線形混合効果モデルから得られた推定値のカーブは,実際の測定値のカーブとよく一致しており,当てはまりは良好であった.モデルから得られたパラメータのうち,夜の点眼時における点眼直後の眼圧変化量(b3:1.30mmHg)と朝の点眼時における点眼直後の眼圧変化量(b5:1.29mmHg)に差は認められなかった(p=0.71).また,夜間点眼後(21翌朝6時)に眼圧下降が経時的に変化する割合(b4:0.13mmHg/hr)と昼間点眼後(918時)に眼圧下降が経時的に変化する割合(b6:0.12mmHg/hr)の間にも差は認められなかった(p=1.00).無治療時の眼圧日内変動から得られたコサインカーブと周期線形混合効果モデルのコサインカーブ成分では,振幅と位相に有意な差はみられなかった(振幅:p=0.71,位相:p=0.90).III考按眼圧日内変動は,緑内障の病態把握,治療方針の決定,治療効果の判定を行ううえで重要な情報を提供する.薬剤の日内変動に及ぼす影響については,これまで各時刻について点眼前後の眼圧値を1標本t-検定で比較するという手法が用いられてきた.今回のニプラジロール点眼についても,点眼後1日では0日と比較して21,3,9,12時に,点眼後3カ月では21,0,9,12時に眼圧が有意に低下していた(表1).しかし,薬剤効果を精密に評価するためには,個体,時刻,周期性など多数の因子を含んでいるため,各時刻の眼圧を薬剤点眼前後で比較するだけでは十分に評価できないことがある.たとえば,ニプラジロール点眼の使用前後の眼圧日内変動のプロット(図3)からは,「点眼直後(21,9時)と比較して,つぎの点眼直前(6,18時)の眼圧下降は小さくなっている」,「昼間のほうが夜間と比べて眼圧下降が大きい」などの解釈が直感的に得られる.また,1日と3カ月では眼圧日内変動は同じにみえる.点眼前後で各時刻の眼圧を1標本t-検定により比較した結果(表1)は,上述の解釈の幾つかをよく裏付けてはいるが,夜間と昼間の違いを説明できていない.また,1日と3カ月で検定結果が異なる時刻が存在したことを1日と3カ月の違いと捉えるか,ばらつきの結果と捉えるかで,薬剤の効果の維持性に対する解釈が異なることになる.1標本t-検定のみでは十分納得のいく解析法とはいえない.そこで,これらの問題に対し客観的な回答を与える解析手法を考案し,ニプラジロール点眼の効果を評価することを試みた.統計学的な詳細は別報に譲るが,その概要は以下のとおりである.一つ目は,「1日の最高眼圧」の解析である.1日の最高眼圧が低下したかどうかは,薬剤治療の効果を評価する単純で明確な指標と考えた.この検討では,各患者の「1日の最高眼圧」を0日,1日および3カ月で比較するため,時期を固定効果,患者を変量効果とした線形混合効果モデルを用いた.二つ目は,「眼圧日内変動の形状」の解析である.各測定時刻で得られた眼圧の測定値を直線で結ぶことで,眼圧日内変動の形状がイメージされる.この形状が薬剤効果により変化したか否かを検討することで,日内変動の変化の有無がわかる.この検討では,時点(測定時刻)と時期(0日,1日,3カ月)を主効果とし,時点×時期の交互作用項を有する線形モデルを用いた.線形モデルの交互作用が有意であるという場合には,時期効果が各時点で一定ではなく,日内変動の形状が変化したということになる.一方,交互作用が有意ではないが,時期効果が有意という場合には,日内変動の形状が保持された状態で,日内変動が上下に平行移動するように変化したということになる.また,交互作用も時期効果も有意でない場合には,各測定時期の間で眼圧日内変動が変化したとはいえないことを意味している.三つ目は,「眼圧日内変動への統計モデルの当てはめ」である.Horieらは無治療時の原発開放隅角緑内障患者の日内変動にコサインカーブモデルを当てはめた14).筆者らは,先の1標本t-検定の結果からニプラジロール点眼は,点眼直後の時刻では眼圧下降効果が最大で,点眼直前の時刻ではその効果が減弱していると推察した.薬剤効果が点眼後速やかに発現し,時間の経過とともに徐々に減少していくことが前後差の比較から読み取れたため,これを線形項としてコサインカーブモデルに追加した.この日内変動を表す部分と薬剤効果を表す部分を同時にもつ“周期線形混合効果モデル”を当てはめることにより,ニプラジロール点眼の効果を数値で表現できると考えたわけである.これら三つの手法を用いてニプラジロール点眼の効果を解析した結果から,つぎのような解釈が成り立つ.線形混合効果モデルによる「1日の最高眼圧」の比較からは,点眼後1日と3カ月のいずれにおいても有意に最高眼圧を低下させていること,点眼後1日と3カ月の間では最高眼圧に差はみられないことが示された.交互作用項を含む線形モデルの当てはめによる「眼圧日内変動の形状」の解析結果から,眼圧日内変動の形状はニプラジロール点眼を点眼することにより変化し,1日と3カ月の間では変化していないことが示された.これら二つの解析結果から,ニプラジロール点眼は一日のなかの最高眼圧を有意に低下させているものの,時刻によって眼圧下降量が異なり,また,その眼圧下降効果は3カ月後も維持されているといえる.緑内障治療薬のなかでも特にb遮断薬は,長期間使用を継続した際に眼圧下降効果が減弱する,いわゆる薬剤耐性がみられることがあり,臨床上の問題の一つとなっている15).a1遮断作用とb遮断作用を併せ持———————————————————————-Page6あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081431(103)つニプラジロール点眼では眼圧下降効果が3カ月後も維持されることが示されたのは,興味深い結果である.「眼圧日内変動への統計モデルの当てはめ」の結果では,無治療時の日内変動から推定されたコサインカーブは,Yamagamiらの報告16)と比較すると日内変動幅を表す振幅が小さめであったが,平均眼圧および最高眼圧を示す時刻はほぼ一致した.また,NTG患者における日内変動の挙動に関する既存の報告と比べても,平均的な眼圧日内変動とみなせるものであった(表2)5).周期線形混合効果モデルから推定されたパラメータのうち,生理的日内変動に該当するコサインカーブ成分は振幅,位相のいずれも,無治療時のものと変わらなかった(表2).すなわち,このモデルによって,点眼後の眼圧日内変動は生理的な眼圧日内変動とニプラジロール点眼の効果に分離されたといえる(図6).分離されたニプラジロール点眼の効果は,点眼直後に最大の眼圧下降を示し,その後は時間の経過に伴い一定の割合で減弱するという線形項で十分に説明された.このモデルは測定値から直感的に得られた解釈のうち,「点眼後一定の割合で薬効が減弱する」ということを支持している.一方,「昼間のほうが夜間と比べて眼圧下降が大きい」という直感的解釈に対しては,朝点眼と夜点眼の間で薬剤効果に該当する成分のパラメータに違いはみられないという否定的な結果となった(表3).代表的なb遮断薬の一つであるチモロール点眼は,昼間は有意に眼圧を下降させるが,夜間,特に明け方にかけて眼圧下降作用がみられない時刻が存在することが報告されている17,18).このように緑内障治療薬の眼圧下降効果に日内変動がみられる原因は,それぞれの薬剤の眼圧下降機序によると考えられている19).すなわち,b遮断薬の眼圧下降機序は房水産生の抑制によるものであり,房水産生の多い昼間は眼圧下降効果が大きく,房水産生の少ない夜間は眼圧下降効果が小さくなると考えられる.一方,a1遮断薬の眼圧下降機序は,ぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進によるものと考えられている.ぶどう膜強膜流出路からの房水流出は眼圧非依存性であるので,ぶどう膜強膜流出を促進する薬剤は,一般的に眼圧が高いとされる昼間も,眼圧が低いとされる夜間も同じように眼圧を下降させると考えることができる.今回,ニプラジロール点眼では夜間にも昼間と同様の眼圧下降効果が認められたが,これはニプラジロール点眼が,b遮断作用に加えa1遮断作用を併せ持つことに起因していると推測される.今までの解析方法ではグラフから読み取れることを直接証明できなかったが,周期線形混合効果モデルを用いることで,眼圧日内変動および薬剤効果についてこれまで以上に詳細な解析結果を得ることができた.本検討により,ニプラジロール点眼は夜間も昼間と同様の眼圧下降作用を示し,その作用は3カ月の継続使用においても維持されていることが示された.このような薬剤効果の特性は,治療薬の選択や治療効果を確認するうえで有用な情報である.ニプラジロール以外の緑内障治療薬についても,今後これらの統計学的手法を用いることにより薬剤効果の特性がさらに明らかになれば,眼圧日内変動に合わせた薬剤選択に役立つと考える.文献1)桑山泰明:眼圧.正常眼圧緑内障(新家眞,谷原秀信編),p17-23,金原出版,20002)ZeimerRC:Circadianvariationsinintraocularpressure.TheGlaucomas(edbyRitchRetal),p429-445,Mosby,StLouis,19963)ShieldsMB:TextbookofGlaucoma4thed.p48-49,Wil-liams&Wilkins,Baltimore,19974)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼55:1519-1522,20015)狩野廉,桑山泰明:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌107:375-379,20036)石井玲子,山上淳吉,新家眞:低眼圧緑内障における眼圧日内変動測定の臨床的意義.臨眼44:1445-1448,19907)山上淳吉,新家眞,白土城照ほか:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌95:495-499,19918)堀江武:眼圧日内変動に関する臨床的研究.日眼会誌79:232-249,19759)梶浦祐子,坂井護,溝上國義:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.あたらしい眼科8:587-590,1991図6周期線形混合効果モデルの生理的日内変動および薬剤効果への分割周期線形混合効果モデル(推定値)を,もともとの生理的な眼圧日内変動(生理的日内変動)と,ニプラジロール点眼液による眼圧下降(薬剤効果,眼圧変化量として図に示す)に分割して示した.(生理的日内変動を表す項の式)IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))(薬剤効果を表す項の式)21=<t=<6のとき,IOP(mmHg)=1.30+0.13・│t21│9=<t=<18のとき,IOP(mmHg)=1.29+0.12・│t9│眼圧(mmHg)眼圧変化量(mmHg)210369121518161514131210-1-2時刻(時):生理的日内変動:薬剤効果:推定値———————————————————————-Page71432あたらしい眼科Vol.25,No.10,200810)松山裕,山口拓洋:医学統計のための線型混合モデル─SASによるアプローチ初版.p43-46,株式会社サイエンティスト社,200111)鷲尾泰俊:実験の計画と解析.p102-115,岩波書店,198812)GeertM,GeertV:ModelsforDiscreteLongitudinalData.p265-276,Springer,NewYork,200513)SuganamiH,KanoK,KuwayamaYetal:Comparisonofestimationmethodsforparametersinthecircularlinearmixedeectmodelincorpotatingdiurnalvariationforevaluatingglaucomatherapy.JapaneseJournalofBiomet-rics28:1-18,200714)HorieT,KitazawaY:Theclinicalsignicanceofdiurnalpressurevariationinprimaryopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol23:310-333,197915)WilliamPB:Shortterm“Escape”andlongterm“Drift”Thedissipationeectofthebetaadrenergicblockingagents.SurvOphthalmol28:235-240,198316)YamagamiJ,AraieM,AiharaMetal:Diurnalvariationinintraocularpressureofnormal-tensionglaucomaeyes.Ophthalmology100:643-650,199317)吉冨健志,春野功:低眼圧緑内障の眼圧日内変動に対するチモロールの効果.あたらしい眼科10:965-967,199318)McCannelCA,HeinrichSR,BrubakerRF:Acetazolamidebutnottimolollowersaqueoushumorowinsleepinghumans.GraefesArchClinExpOphthalmol230:518-520,199219)赤石貴浩,島崎敦,松木雄ほか:自動眼圧測定系を用いた家兎眼圧日内変動に対する各種眼圧下降剤の評価.日眼会誌107:513-518,2003(104)***

正常眼圧緑内障のラタノプロストによる長期視野─ 3,5,6,8 年群の比較─

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(107)12950910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):12951300,2008c〔別刷請求先〕小川一郎:〒957-0056新発田市大栄町1-8-1慈光会小川眼科Reprintrequests:IchiroOgawa,M.D.,JikokaiOgawaEyeClinic,1-8-1Daiei-cho,ShibataCityNiigata957-0056,JAPAN正常眼圧緑内障のラタノプロストによる長期視野─3,5,6,8年群の比較─小川一郎今井一美慈光会小川眼科Long-TermEectsofLatanoprostonVisualFieldinEyeswithNormal-TensionGlaucoma─Comparisonof3,5,6,8-YearGroups─IchiroOgawaandKazumiImaiJikokaiOgawaEyeClinic先にラタノプロスト単独点眼による正常眼圧緑内障の3年,5年,6年群の長期視野を報告した.今回は8年群の成績を述べ,縦列的に各群の経過を比較検討した.8年群は52例52眼Humphrey視野30-2計測(Fastpac)を平均11.2±1.2回施行.全例長期視野を目的とするトレンド型視野変化解析を採用した.平均偏差(meandeviation:MD)スロープの回帰解析で有意(p<0.05)を示した症例を進行眼とした.各群の最終視野測定時の年MDスロープdBを年MD進行度として治療効果比較の指標とした.これにより3年群90眼,5年85眼,6年71眼,8年52眼の治療成績を比較検討した.治療経過3年,5年,6年,8年群の視野障害進行眼比率はそれぞれ10%,17.6%,19.7%,21.2%.年MD進行度(dB)は全例で0.34,0.31,0.21,0.17と漸減し,進行眼群では1.53,1.11,0.83,0.57と著明(t検定有意)に減速している.治療前平均眼圧は14.1±2.2mmHg.眼圧下降率は各群でそれぞれ18.4±10.2%,15.3±9.9%,14.1±10.8%,14.6±9.7%.正常眼圧緑内障にラタノプロスト単独点眼8年で視野障害進行率は経過とともに増加はするが,その程度は漸減する.年MD進行度は全例では3年後と比較して減速しているものの有意ではなかった.進行眼群では3年後と比較して5,6,8年後では有意な減速が認められ,点眼が長期にわたり有効に作用していることがうかがわれた.Thelong-termstatusofvisualeldineyeswithnormal-tensionglaucoma(NTG)treatedbymonotherapywithlatanoprostwasfollowedin3,5,6and8-yeargroups.Atotalof52Japanesepatients(52eyes)werestudiedinthe8-yeargroup.UsingtheHumphrey30-2program(Fastpac),perimetrywasperformedanaverageof11.2±1.2timesoneachpatient.Visualeldchangetrendanalysiswasperformed.Signicant(p<0.05)changeinthemeandeviation(MD)slopeonlinearregressionanalysiswasconsideredtorepresentvisualeldprogression.TheaverageMDdBperyearineachcasewasregardedastherateofMDdBprogressionperyear.Theprogressionratesofthe3,5,6and8-yeargroupswere10%,17.6%,19.7%and21.2%,respectively.EachaverageMDslope(dB)peryeargraduallydecreased(0.34dB,0.31dB,0.21dBand0.17dB)inallcases.Theaveragevalueoftheprogressivegroupclearlydecreased(1.53dB,1.11dB,0.83dBand0.57dB).Theaveragedecrease(rates)ofintraocularpressureoverthecourseoftreatmentwere18.4±10.2%,15.3±9.9%,14.1±10.8%and14.6±9.7%,respectively.Therateofvisualeldimpairmentgraduallyincreasedeachyear,thoughitsgradegraduallydecreased.TheaverageMDslope(dB)peryeardecreasedslightlyintheallcasesgroupandsignicantlyintheprogressivegroup,comparedtothe3-yeargroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):12951300,2008〕Keywords:正常眼圧緑内障,ラタノプロスト,3,5,6,8年群視野比較,視野変化解析,年平均偏差進行度dB.normal-tensionglaucoma,latanoprost,comparsionofvisualeldson3,5,6,8yearsgroup,visualeldchangeanalysis,averagemeandeviationslopedBperyear.———————————————————————-Page21296あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(108)はじめにラタノプロスト単独点眼による正常眼圧緑内障(NTG)の多数例の5年を超える長期視野についてはいまだほとんど報告されていない.筆者らは先にラタノプロスト単独点眼による3年後視野(2003)1),5年後(2006)2),6年後(2006)3)を報告した.今回は8年群の成績を述べ,各群の経過を比較検討した.治療による効果としては,すでに対象となるNTG症例群の進行度,視野進行の判定法も異なるので直接比較は困難であるが,米国のCollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup(CNTGS)(1998)4,5)はOctopusまたはHum-phrey視野計のevent法による評価で30%以上眼圧下降させた症例では,視野障害進行率は3年でも5年でも20%であったと述べている.筆者らのラタノプロスト単独点眼では3年後(90眼)1)で10%,5年後(85眼)2)で17.6%,6年後(71眼)3)19.7%で,眼圧下降率もそれぞれ18.4%,15.3%,14.1%とCNTGSに比し,はるかに低いがほとんど劣らない成績を示したことを述べた.I対象および方法対象はNTGで先のウノプロストン長期治療を参考として,100例以上の蓄積(一部ウノプロストン症例を中止,移行)と,視野計測,眼圧測定などの予備検査を行った.ラタノプロスト単独点眼で1999年5月1日より4カ月のうちに治療開始した.満3年経過時に規則正しく通院,検査,点眼継続を行っていたかを点検し,条件を満たした症例について第1回報告(2003)1)がなされたNTG90例90眼が登録患者である.死亡,重大身体疾患で通院不可能となった患者,白内障などの内眼手術を受けた患者は報告時には登録から除外された.当然治療開始4カ月以降新たに発見,治療された患者は経過年数を満たさないので登録されてはいない.なお,年平均偏差(meandeviation:MD)進行度が1dB以上となり進行傾向を示した症例に対してもラタノプロスト単独の長期視野経過を観察する目的のため除外ないし,点眼変更,2剤投与などは行わなかった.今回の対象はNTG患者8年群,男性19例19眼,女性33例33眼,計52例52眼で,いずれも満3年継続時の第1回報告の基本登録に入っておりかつ6年報告例のうちで8年まで経過をみることができた症例である.治療開始時年齢(平均±標準偏差)は68.8±8.9歳.観察期間は91.3±3.4カ月.Humphrey30-2プログラム測定(Fastpac)は11.2±1.2回施行.なお,経過途中で23症例にSITA-Standardを試みたが連結せず経過観察症例はそのままFastpacで行った.視野の判定には,視野変化解析で最低5回以上の計測を要するが,薬剤の長期効果を判定するのに有効とされるtrend-typeanalysisで行った.MDslopedBの線形回帰解析で有意(p<0.05)を示した症例を進行眼とした.最終視野測定時の年MDスロープ(MDslopedBperyear)を年MD進行度としてこの2項目を指標として,全症例,進行眼群について,3年,5年,6年,8年群経過の比較検討を行った.症例の選択は1症例1眼で,原則として右眼としたが,右眼に眼底疾患やすでに内眼手術を認めた場合,矯正視力0.7以下,すでに水晶体後混濁を認め,視力低下が予測される白内障,および視野変化解析でMD値信頼性不良で×印が検査回数の3分の1を超える場合は左眼を選択し,あるいは左眼も適切でないと判定した場合には症例から除外した.なお,白内障の進行が予測される糖尿病患者も除外した.視野における症例の選択ではHumphrey30-2プログラム測定で治療開始時に早期の孤立暗点のみの症例は除外し,少なくとも弓状暗点などの初期病変以上の確実な緑内障性視野障害が証明された症例とした.なお,MDは末期では25dBまでとし,かつ視野障害の進行を判定するため周辺にも残存視野が認められるものに限った.眼圧測定は全例外来患者であったため,測定は通常午前9時12時の間に行われた.Goldmann圧平眼圧計を使用し,眼圧は常に20mmHgを超えず,治療前3回測定を行い,平均値をベースラインとした.最終眼圧は最終測定時および前回,ならびに前々回測定値を含め計3回の平均値をとった.ニデック社製無散瞳ステレオ眼底カメラ(3-DxNM)による視神経乳頭のポラロイド写真をステレオ・ビューアで観察,明瞭な緑内障様陥凹が認められる症例とした.乳頭周囲網脈絡膜萎縮(peripapillaryretinochoroidalatropty)(b-zone)の横最大幅と乳頭横径の比をPPA/D,乳頭陥凹縦径と乳頭縦径の比をC/D(cup/discratio)とした.原則として3週1カ月ごとに細隙灯顕微鏡,眼圧測定,視力検査,612カ月ごとにHumphrey視野30-2プログラム測定,視神経乳頭立体撮影を行った.副作用として点眼による眼瞼色素沈着などが著明で患者が気にかける場合には点眼を変更する旨の承諾を得た.II結果1.正常眼圧緑内障のラタノプロストによる3,5,6,8年群の治療成績比較正常眼圧緑内障のラタノプロストによる3年治療群90眼,5年85眼,6年71眼,8年52眼の治療成績を縦列的に比較したのが表1である.これらの症例群はいずれも3年時の基本登録例からの症例であるため,治療前MDdBはそれぞれ8.92±5.72dB,9.2±6.0,9.71±6.15,9.05±6.16でいずれも当然近似する数値であり,correctedpatternstandarddeviation(CPSD)もそれぞれ8.17±3.9dB,8.12±4.1,8.58±4.25,8.54±4.04と大差のない数値であった.視野障害進行眼数(率)はそれぞれ9/90眼(10%),15/———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081297(109)85眼(17.6%),14/71眼(19.7%),11/52眼(21.2%)と増加しているが,その程度は微増の傾向である.年MD進行度dBも前述したごとく,全例でそれぞれ0.34±0.76dB,0.31±0.19,0.21±0.43,0.17±0.34と下降速度がきわめてなだらかで有意ではないが減速傾向を示している.進行眼群では1.53±0.55dB,1.11±0.25,0.83±0.21,0.57±0.17で有意な減速傾向が認められた(t検定p<0.0001).眼圧については治療前眼圧は各群でそれぞれ14.1±1.9mmHg,14.1±2.2,14.2±2.2,13.7±2.3とほとんど等しい数値である.最終眼圧下降幅(率)はそれぞれ2.6±1.9mmHg(18.4±10.2%),2.2±1.5mmHg(15.3±9.9%),2.1±1.6mmHg(14.1±10.8%),2.0±1.4mmHg(14.6±9.7%)で軽度に減少している.2.ラタノプロスト3,5,6,8年の年MD進行度dBの比較先に報告したラタノプロスト3年群の90眼,5年群85眼,6年群71眼,今回の8年群52眼における各例の年MD進行度を示したのが図1である.そのうちMDスロープの線形回帰解析で有意(p<0.05)と判定された進行眼は▲印で示した.一般的には観察期間が短く,視野測定回数が少ないほど症例の分布が大きい傾向であった.ラタノプロスト3年群では視野測定回数が5.3±0.4回で分布が大きく+1.52.0dBに及んでいたが,5年群になると測定回数7.7±1.1回で+1.01.5dBに,6年群になると測定回数9.3±1.1回で+0.561.23dB,8年群では測定回数11.2±1.2回,0.610.36dBとなった.3年群1.0dB以下の症例は5年群ではほとんど進行眼と判定された.各群全例の年MD進行度は3年群0.34±0.76dB,5年群0.31±0.19,6年群0.21±0.43,8年群0.17±0.34で漸減している.t検定では3年後と比較して有意でなかった.進行眼群は3年1.53±0.55dB,5年1.11±0.25,6年0.83±0.21,8年0.57±0.17で3年後と比較して5,6,8年後では有意(p<0.0001)な減速が認められた.8年群で1.0dB以下に留ま表1正常眼圧緑内障のラタノプロストによる3,5,6,8年群の治療成績比較治療経過数3年群5年群6年群8年群例(眼)数90857152治療前平均偏差(MD)dB8.92±5.729.2±6.09.71±6.159.05±6.16治療前補正パターン標準偏差(CPSD)dB8.17±3.918.12±4.148.58±4.258.54±4.04進行眼数(進行率)9(10%)15(17.6%)14(19.7%)11(21.2%)年MD進行度dB全例0.34±0.760.31±0.190.21±0.430.17±0.34進行眼群1.53±0.551.11±0.250.83±0.210.57±0.17治療前眼圧(mmHg)14.1±1.914.1±2.214.2±2.213.7±2.3眼圧下降幅(率)(mmHg)全例2.6±1.92.2±1.52.1±1.62.0±1.4(18.4±10.2%)(15.3±9.9%)(14.1±10.8%)(14.6±9.7%)年群年群年群年群+1.0+0.50-0.5-1.0-1.5-2.0(dB):進行眼:非進行眼全例(眼)3年群5年群例数(眼数)90眼85眼進行眼数(%)9眼(10%)16眼(17.6%)測定回数5.8±0.47.7±1.1全眼年MD進行度dB0.34±0.760.31±0.19進行眼年MD進行度dB1.53±0.551.11±0.256年群8年群例数(眼数)71眼52眼進行眼数(%)14眼(19.7%)11眼(21.2%)測定回数9.3±1.111.2±1.2全眼年MD進行度dB0.21±0.430.17±0.34進行眼年MD進行度dB0.83±0.210.57±0.17各群の年MD進行度dBは全眼中央値を結んだ実線はきわめて緩除に進行眼の破線は有意な減速傾向が認められた.図1正常眼圧緑内障のラタノプロストによる3,5,6,8年群の年MD進行度———————————————————————-Page41298あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(110)っているのは52眼中1眼(1.9%)のみであった.これらの各群の平均値を結んだ全例(実線),進行眼群(破線)も図1にみられるように経過年数とともに一見して明らかに減速傾向を示している.なお,年MD進行度の(+)側になった症例数は3年群26/90眼(28.9%),5年群25/85眼(29.4%),6年群25/71眼(35.2%),8年群15/52眼(28.8%)であるが,全体としてはその分布は()側と同様に経過とともに収束してきている(図1).NTGのラタノプロストによる3年後と比較した3,5,6,8年群の年MD進行度dBの成績は表2のごとくである.統計方法については表2の欄外の説明で述べたごとくである.全症例では全評価時期において,年MD進行度dBの有意の変化は認められなかった.3年後の年MD進行度が0.50.5dBの症例でも有意の変化は認められなかった.3年後の年MD進行度が0.5dB以下の症例は経時的に減速し,3年後に比較してすべての評価時期で有意の改善が認められた(表2).III考按NTG視野障害の長期自然経過について,白井ら(1994)6)はOctopus視野で42例56眼につき48カ月の観察でMDが4dB以上に下降した進行眼率は44.5%であったと述べている.Araieら(1994)7)は56眼につきHumphrey視野で緑内障変化確率解析で65カ月で80%と報告している.またCollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup(CNTGS)(1989)4,5),同Group(2001)8)はOctopusまたはHumphrey視野で4of5endpointsイベント法で測定した視野障害進行は3年で40%,5年で60%としている.なお,同Groupは3年以上7)で視野変化解析を行った109眼でMDスロープの有意の下降例を47眼(43%)に認め,年間0.52.0dBの有意の下降を示したと述べている.治療による効果としては,米国のCNTGS(1998)4,5)は4of5endpointsイベント法による評価で,手術,レーザー,薬物療法を含み30%以上眼圧下降した症例では,視野障害進行率は3年でも5年でも20%であった述べている.山本ら(1999)9)は120週で3dB以上の悪化はラタノプロスト23例のうち20%,チモプトール24例のうち20%と述べている.小関,新家ら(2000)10)は進行症例のNTG23例23眼に線維芽細胞増殖阻害薬を使用して線維柱帯切除術を行い,視野変化解析により3眼(13%)に進行を認めた.小川らは表2のごとく,ラタノプロスト単独点眼によるNTG3年群90眼1),5年群85眼2),6年群71眼3),8年群52眼の視野変化解析で進行眼率はそれぞれ10%,17.6%,19.7%,21.2%で,増加はするが,その程度は漸減傾向であった.なお,小川らはNTG48眼へのウノプロストン単独でのトレンド型視野変化解析による視野障害進行率は6年で17.8%(2003)11),41眼への10年(2006)12)で22.5%と報告している.視野進行判定法にはevent-typeanalysisとtrendtype表2正常眼圧緑内障のラタノプロストによる3,5,6,8年後の治療成績(3年後と比較)3年後の症例情報評価時期症例数平均値±標準誤差3年後からの変化量平均値±標準誤差p値全眼3年後5年後6年後8年後907562460.34±0.080.27±0.050.22±0.050.26±0.05─0.07±0.070.12±0.070.08±0.08─0.34890.09640.327年MD進行度dB0.5以下3年後5年後6年後8年後352822141.05±0.080.46±0.100.38±0.090.34±0.08─0.58±0.090.66±0.110.71±0.11─<0.0001<0.0001<0.00010.50.53年後5年後6年後8年後453732260.07±0.050.19±0.060.12±0.050.17±0.05─0.12±0.070.05±0.060.10±0.06─0.0660.42050.09153年後に測定データがある同一症例(90例)の治療経過.年MD進行度dBによる治療成績(3年後と比較)は上記のごとくである.長期経過に伴う脱落例の欠測メカニズムにMCA(missingcompletelyatrandom)を仮定し,線形混合モデルを用いて,各評価時期の最小二乗平均値を推定した.また,分散の推定に,サンドウィッチ分散を用いて,3年後と各評価時期間の平均値の差の検定を行った.全症例では全評価時期において,年MD進行度の有意な変化はみられず,3年後の年MD進行度が0.50.5dBの症例でも有意な変化は認められなかった.しかし3年後の年MD進行度が0.5dB以下の症例では,年MD進行度は経時的に減速し,3年後と比較してすべての評価時期で有意な改善が認められた(p<0.001).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081299(111)analysisがあり,event-typeanalysisでは比較的短期間に判定ができ,局所的の視野障害の検出に有効であるが,変動の影響を受けやすい.Trend-typeanalysisでは,継続的なデータをすべて使って,回帰直線の傾きにより進行を評価する.全体的な視野障害の進行検出に有効であり,微妙な変化をとらえる可能性があるため,治療効果の比較試験に適しているとされている.CNTGSでのNTGの自然経過および眼圧30%下降による視野障害進行の判定は4of5endpoints法によるevent-typeanalysisで行われている.その他多くの多施設研究および従来の研究でもevent法で行われた.筆者らの行った視野変化解析(MDslope)はtrend-typeanal-ysisでHumphrey視野計による5回以上の測定を要するが,視野障害進行の判定は客観的に有意か否かが視野用紙に印刷され一見して容易に行われるため,日常臨床ではきわめて実施しやすい方法であると考える.したがってCNTGSの結果の数値は筆者らの数値とは同一判定方式でないため,さらに治療群の進行状態も異なるため,直接比較は困難である.年MD進行度についてはTomitaら(2004)13)はNTGラタノプロスト24眼,チモプトール24眼で3年間の経過観察によりラタノプロスト群では0.34±0.17dB,チモロール群で1.0±0.18dBであったが,両群間に有意の差は認めなかったとしている.筆者らの3,5,6,8年の比較では表1のごとく,全例ではそれぞれ0.34±0.76dB,0.31±0.19,0.21±0.43,0.17±0.34と3年後と比較して減速してはいるものの有意ではなかった.進行眼群ではそれぞれ1.53±0.55dB,1.11±0.25,0.83±0.21,0.57±0.17と3年後群と比較して5,6,8年後では下降速度が有意な減速が認められた.このことから単独点眼が長期にわたり全例にも進行眼群にも有効に作用し続けていることがうかがわれた.このことは各群の平均値を結んだ全例(実線),進行眼(破線)の傾きからも一見して明らかである.8年群で年MD進行度が1.0dB以下に留っているのは52眼中1眼(1.9%)のみであった.年MD進行度dBでは表2に示すごとく,3年後と比較して全症例および0.50.5dBの軽度症例では有意の減速は認められなかったが,0.5dB以下の進行眼症例ではむしろ経時的に減速し,有意の改善が認められた.ラタノプロスト単独点眼でも進行眼症例に長期にわたり,有効に作用していることが示唆された.先に報告したウノプロストン単独点眼を行ったNTG48例48眼と10年40眼における年MD進行度11,12)をみると,全例では6年群平均が0.31±0.54dB,10年群では0.16±0.32dBと減速している.進行眼群では6年群9眼の平均が1.09±0.57dBから,10年群の9眼0.56±0.15dBと約半分近くに減速している成績が認められた.以上,ラタノプロスト,ウノプロストンともいずれも長期使用にかかわらず効果が減弱することなく年MD進行度(下降速度)が減速し点眼が長期にわたり有効に作用している状態がうかがわれた.このことはプロスタグランジン系点眼薬に特徴的なことなのか,他の眼圧下降点眼薬でも同様の所見が認められるものか,あるいは統計学的に計測を重ねることにより分布が収束されてくることによるものか,NTG経過に特徴的なことなのかなどについては不明であり,今後の検討を要するところである.ラタノプロストの眼圧に関する報告は数多いが,NTGについて長期使用に関するものは比較的少ない.Tomitaら13)はラタノプロスト24例,チモプトール24例について,3年間の眼圧下降率は1315%で両群間に差を認めなかったと述べている.橋本ら(2003)14)はラタノプロスト・ノンレスポンダー(NR)の定義として眼圧下降率が10%以下とすることが最も適しており,欧米の報告に比し日本では多く,各種緑内障46例46眼について12カ月で26.3%であり,投与前眼圧が低いほどNRの割合は多かったとしている.Camarasら(2003)15)は最初にラタノプロストに反応しなかった患者の多くがチモロールに比べても6カ月の継続使用によりレスポンダーになったと述べている.筆者らが別研究で経過観察を行ったNTG50例50眼の同一症例の同一眼にウノプロストン点眼4年後と,2週間の休薬期間をおいた後の,ラタノプロスト各4年間点眼との比較(2004)16)では,眼圧下降率はウノプロストン12.1±4.9%に対しラタノプロスト17.9±9.1%で有意差を認めた.治療開始時眼圧を15mmHg以上と14.9mmHg以下の2群に分けて治療効果を検討すると視野進行眼(率)は初め4年間投与されたウノプロストン群では15mmHg以上群は4/15眼(26.7%),14.9mmHg以下群は1/35眼(2.9%)であったのに対し,つぎの4年間投与されたラタノプロストでは15mmHg以上群は1/15眼(6.3%),14.9mmHg以下群は8/34眼(33.5%)であった.薬剤投与の順序にも関連があるのかもしれないが,ラタノプロストはハイティーン群で優り,ウノプロストンはむしろローティーン群で有効な成績が認められた.56年以上にわたる長期視野観察期間は老化による水晶体混濁が進行し視野に影響を与えると考えられる.Smithら(1997)17)は白内障手術により視野改善とともにMDが改善したことを認めている.したがって,症例の選択にあたってはすでに水晶体混濁,特に後下混濁を認めた場合,矯正視力0.7以下,糖尿病患者などは除外した.8年群で経過中白内障手術を施行した9症例は除外している.8年群の視野の非進行群では初診時に比し視力低下はきわめて軽度であり,進行眼群では,視力表の1段階程度視力が下降しているが,高齢者の水晶体混濁の進行はMD,CPSDなどに行われてい———————————————————————-Page61300あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(112)る年齢による補正と相まって,今回の視野進行判定には大きな影響を与えていないと考えられた.またReardonら(2004)18)は総計28,741名の患者に各種眼圧下降薬,ラタノプロスト,チモロール,ベタキソロール,ドルゾラミド,プリモニジン,トラボプロスト,バイマトプロストなどを12カ月投与し,そのうちラタノプロストの患者が有意に最も点眼の維持性を示したと述べている.以上のごとく,NTGへのラタノプロスト単独点眼8年の経過観察により視野障害進行率は経過とともに増加するが,その程度は漸減した.年MD進行度は全例ではごく微度の,進行眼群では有意な減速傾向が認められ,点眼が長期にわたり有効に作用していることが示唆された.文献1)小川一郎,今井一美:ラタノプロストによる正常眼圧緑内障の3年後視野.あたらしい眼科20:1167-1172,20032)小川一郎,今井一美:ラタノプロストによる正常眼圧緑内障の長期視野─5年後の成績─.眼紀56:342-348,20053)小川一郎,今井一美:ラタノプロストによる正常眼圧緑内障の長期視野─3,5,6年群の経過比較─.緑内障15(臨増):117,20054)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sure.AmJOphthalmol126:487-497,19985)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnomal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19986)白井久行,佐久間毅,曽我野茂也ほか:低眼圧緑内障における視野障害の経過と視野進行因子.日眼会誌86:352-358,19927)AraieM,SekineM,SuzukiYetal:Factorscontributingtotheprogressionofvisualelddamageineyeswithnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology101:1440-1444,19948)AndersonDR,DranceSM,SchulzerM;CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Naturalhistoryofnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology108:247-253,20019)山本哲也:正常眼圧緑内障の診療戦略.p26-35,メディカル葵出版,199910)小関信之,新家真:正常眼圧緑内障の手術療法.正常眼圧緑内障,p149-154,金原出版,200011)小川一郎,今井一美:ウノプロストンによる正常眼圧緑内障の長期視野─6年後の成績─.眼紀54:571-577,200312)小川一郎,今井一美:単独点眼による正常眼圧緑内障の長期視野経過─10年後の成績─.眼紀57:132-138,200613)TomitaG,AraieM,KitazawaYetal:Athree-yearpro-spective,randomizedandopencomparisonbetweenlatanoprostandtimololinJapanesenormal-tensionglau-comapatients.Eye18:984-989,200414)橋本尚子,原岳,高橋康子:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲルとラタノプロスト点眼に対するノンレスポンダーの検討.日眼会誌108:288-291,200315)CamarasCB,HedmanKfortheLatanoprostStudyGroup:Rateofresponsetolatanoprostortimololinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.JGlauco-ma12:466-469,200316)小川一郎,今井一美:ウノプロストン後ラタノプロスト各4年点眼による正常眼圧緑内障の視野比較.眼紀55:740-746,200417)SmithO,KatzJ,QuigleyHA:Eectofcataractextrac-tionontheresultsofautomatedperimetryinglaucoma.ArchOphthalmol115:1515-1519,199718)ReardonG,GailF,SchiwartzGFetal:Patientpersisten-cywithtopicalocularhypotensivetherapyinamanagedcarepopulation.AmJOphthalmol137:S3-S12,2004***

正常眼圧緑内障におけるカリジノゲナーゼの網膜中心動脈血流への効果

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(131)8810910-1810/08/\100/頁/JCLS《原著》あたらしい眼科25(6):881884,2008cはじめに正常眼圧緑内障の治療では眼圧の無治療時ベースラインを調べ,30%以下の眼圧下降が目標とされている1).しかし,十分に眼圧を下降しても視野障害が進行する症例をしばしば経験することがある.今回筆者らは眼圧のコントロールが良好であるにもかかわらず,1年間で視野の悪化が進行する正常眼圧緑内障と視野の悪化の進行を認めない正常眼圧緑内障の網膜中心動脈血流を検討した.網膜中心動脈血流は超音波カラードップラー法(colorDopplerimaging:CDI)を用い測定した.これらの症例に対し,カリジノゲナーゼ製剤カルナクリンR(三和化学)を1日量として150単位を投与し網膜中心動脈血流に対する影響を検討した.経過観察中点眼薬は中止せず,継続とした.〔別刷請求先〕前田貴美人:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KimihitoMaeda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,South-1,West-16,Chuo-ku,Sapporo060-8543,JAPAN正常眼圧緑内障におけるカリジノゲナーゼの網膜中心動脈血流への効果前田貴美人*1舟橋謙二*2今井浩一*3三嘴肇*3大黒浩*1*1札幌医科大学医学部眼科学講座*2真駒内みどり眼科*3市立小樽病院放射線科EectofOralKallidinogenaseonCentralRetinalArteryBloodFlowinNormal-TensionGlaucomaKimihitoMaeda1),KenjiFunahashi2),KouichiImai3),KaoruMisumi3)andHiroshiOhguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)MakomanaiMidoriGankaClinic,3)SectionofRadiologicalTechnology,OtaruMunicipalHospital緑内障患者の網膜中心動脈血流を測定し,カリジノゲナーゼが血流への影響を超音波カラードップラー法(colorDopplerimaging:CDI)を用いて検討した.市立小樽病院に通院治療中の眼圧コントロール良好な33例の緑内障患者を検査の対象とした.緑内障患者の内訳は正常眼圧緑内障25例34眼,原発開放隅角緑内障8例9眼であった.カリジノゲナーゼ投与は全員からインフォームド・コンセントを得た.点眼はカリジノゲナーゼ投与期間中も継続した.カリジノゲナーゼ150IU(or単位)投与前,および1カ月後にCDIを行い網膜中心動脈の血流速度を測定した.1カ月後にCDIの検査を行えた正常眼圧緑内障12例16眼にカリジノゲナーゼ投与前後で収縮期最高血流速度(Vmax)の有意な増加が認められた.したがって,正常眼圧緑内障において,カリジノゲナーゼは網膜中心動脈の血流改善に有効であると思われた.WeusedultrasoundcolorDopplerimaging(CDI)toinvestigatebloodowinthecentralretinalarterybeforeandonemonthafteroralkallidinogenasetreatmentinpatientswithglaucoma.Thestudyinvolved33patients(25withnormal-tensionglaucoma,8withprimaryopen-angleglaucoma),whoweretreatedafterinformedconsenthadbeenobtainedfororalkallidinogenase.Thetreatmentswerecarriedoutduringoralkallidinogenaseadminis-trationwithanti-glaucomadrugs.Wemeasuredthepeak-systolicandend-diastolicbloodowvelocityandresis-tanceindexinthecentralretinalartery.Afteronemonthtreatmentwithoralkallidinogenase,wemonitored16eyes(12patients)withnormal-tensionglaucoma.Oraladministrationofkallidinogenasesignicantlyincreasedcen-tralretinalarteryowovelocityinpatientswithnormal-tensionglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):881884,2008〕Keywords:正常眼圧緑内障,眼血流,超音波カラードップラー法,カリジノゲナーゼ.normal-tensionglaucoma,ocularbloodow,colorDoppolerimaging,kallidinogenase.———————————————————————-Page2882あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(132)(cm/s),Vmean(cm/s),RIの結果は表3のとおりであった.正常者群,POAG群,NTG群,OH群とでVmax,Vmin,Vmean,RIを検定したところ,正常者群とNTG群・POAG群,OH群とNTG群・POAG群ではVmaxのみ有意差を認めた(Man-Whitney’sUtest,図1).カルナクリンR投与1カ月後NTG群ではVmaxの有意な増加を認めた(p<0.05,Wilcoxonsigned-rankstest,表4).図に示していないがNTG群において,片眼視野正常は8眼であり,カルナクリンR投与前のVmaxは9.3±2.4であった.カルナクリンR投与後のVmaxは9.1±1.7であり,I対象および方法市立小樽病院に2002年4月より通院中の眼圧コントロール良好な緑内障患者と高眼圧症患者に検査の説明を行い,同意を得た患者にCDIを行った.緑内障は33例,年齢は66.9±11.0歳(平均±標準偏差),男性14例,65.6±10.2歳,女性19例,67.1±11.1歳であった.このうち原発開放隅角緑内障(POAG)は8例,65.0±9.9歳(男性3例,70.7±1.3歳,女性5例,66.6±9.9歳),正常眼圧緑内障(NTG)は25例,67.5±11.5歳(男性11例,64.2±10.6歳,女性14例,70.1±11.9歳)であった.高眼圧症(OH)は5例(男性2例,64.2±10.6,女性3例,65.6±10.1歳)であった.CDIは東芝製SSA-550Aと検査用リニア式電子プローブ12MHzを用い測定した.測定方法は報告2)にあるとおり患者を仰臥位安静にし,眼球を圧迫しないように注意し,視神経・視神経乳頭が描出する部位を選び,血流波形を得た.収縮期最高血流速度(Vmax),拡張期最低血流速度(Vmin),平均速度(Vmean),抵抗指数〔resistanceindex:RI=(VmaxVmin)/Vmax〕を血流波形から算出した.網膜中心動脈(CRA)の描出に際し,視神経陰影内,乳頭後方約3mmの部位を選び,全例同一の検者が担当した.エコーの情報の精度を高めるため,超音波でのスキャニングポイントの幅を狭くし,ドップラーエコーの感度を高くした.CRAは腹腔臓器とは異なりガスによる影響がなく,超音波進入角度が60°以上のため,描出の再現性は良好であった.患者の視野は全員Humphrey静的量的視野30-2Sita-Standardを行った.視野悪化の評価としてMD(meandeviation)値が前回の検査,すなわち1年前と比較し3dB以上進行したものを選んだ.眼圧は全例Goldmann圧平眼圧計にて午前中に測定した.CRAの血流を測定した後に,インフォームド・コンセントを得て,カリジノゲナーゼの投与を行った.カリジノゲナーゼは三和化学株式会社のカルナクリンR1日量150単位を投与し,1カ月後に再度CRAの血流を測定した.1カ月後に再検査できた患者はNTG12例16眼,POAG2例3眼,OH5例10眼であった.他症例は1カ月以内もしくは1カ月以降に来院したため,検査から除外した.カルナクリンR投与は1カ月間と短期間のため,視野検査の追試を行わなかった.コントロールとして,全身的な基礎疾患および眼疾患のない健康体ボランティア4例8眼(男性1例,女性3例,31±10.7歳)のCRAの血流を測定した.II結果点眼薬は表1に示すとおり,各群に単剤もしくは2剤併用を行い,眼圧は治療前と比較し有意に下降していた(表2).カルナクリンR投与前のCRAの血流を測定したところ,正常者群とPOAG群,NTG群,OH群でVmax(cm/s),Vmin表1使用点眼薬遮断剤b遮断剤ab遮断剤PG製剤CAI製剤OH群02040POAG群03271NTG群525152PG製剤:プロスタグランジン系製剤,CAI製剤:炭酸脱水酵素阻害薬.表2正常眼圧緑内障(NTG)群,原発開放隅角緑内障(POAG)群,高眼圧症(OH)群の治療前後眼圧群群群眼治療前眼圧±1.8OH群17.8±1.9NTG群20.9±2.4POAG群治療後眼圧(mmHg)16.4±2.514.2±2.015.2±2.0§p=0.0051,*p<0.001,†p=0.004(Wilcoxonsigned-rankstest).§*†表3各疾患群と正常者群の網膜中心動脈血流の結果眼正常者群±2.24.0±0.77.0±1.10.7±0.1OH群1011.8±2.73.0±0.96.7±1.50.8±0.1NTG群509.1±2.62.6±0.85.3±1.20.7±0.1POAG群149.8±2.83.0±0.95.2±2.00.7±0.1収縮期最高血流速度(Vmax),拡張期最低血流速度(Vmin),平均速度(Vmean),抵抗指数(resistanceindex:RI)表4カルナクリンR投与前後での正常眼圧緑内障(NTG)群,原発開放隅角緑内障(POAG)群の網膜中心動脈収縮期血流速度群群眼治療前±2.47.3±2.1投与後Vmax(cm/s)9.2±1.78.0±2.4NTGでは有意差あり.*:p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest.*———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008883(133)用いており,筆者らが用いた検査用リニア式電子プローブが12MHzであったため,より浅い部位の血流の信号を得やすかった可能性がある.Yehの報告にもあるように,周波数が高くなればより精密に血流のドップラーの信号を捉えることが可能である10).正常者群で得たCRAの血流値は,各疾患群と比較し若年ではあるが報告11,12)にもあるように正常範囲であった.片眼緑内障片眼正常眼で,片眼正常眼患者の眼血流(Vmax)は正常者群の血流と有意差を認めなかった.眼血流は加齢に伴い低下する11)が,正常者群よりもVmaxの低値を示した理由が加齢によるものか不明であった.レーザードップラー法でOHと正常者を比較したところ,OHでは視神経乳頭血流が速かったという報告がある13).測定方法および測定部位が異なるためか,今回の検査ではOH群では正常者群とのCRAのVmax,Vmin,Vmean,RIのいずれも有意差を認めなかった.すでに治療をされて,有意に眼圧が低下しているOHであったため,初診時にCRAの血流が正常者群と同じなのかは不明であった.POAGを発症するビーグル犬において,眼圧上昇を呈するようになる以前よりCRAのVmaxの低下を示すことが報告されている14).ヒトとビーグル犬とでは比較することはできないが,今後もOH群の初診患者では治療前にCDIを行い正常者群と差がないか検討し,また,OH群の一部は緑内障に移行することが報告されているので15),今後も注意して血流を検討する必要があると思われる.杉山らはカルナクリンR150単位/日の内服を併用した緑内障患者を10年間追跡し,重症の緑内障では視野障害の進行を抑制できなかったことを報告している16).しかし,このような視野障害が進行した症例はHumphrey視野計では検査できない重症例が多く,Humphrey視野計で測定できた患者では有意に視野障害を抑制できたことも述べている16).今回筆者らは全例Humphrey視野計で測定できる患者であったため,今後も追跡する必要があるものの,杉山らの報告のように視野障害の進行を抑制できる可能性があると思われる.NTGでの内服での治療はエビデンスがないが,カルナクリンRの神経保護作用17)も併せて考慮すると,NTG治療に点眼薬だけでは視野障害の進行を止められない患者に対し,カルナクリンRは有用である可能性が示唆された.謝辞:外来を支えてくださった市立小樽病院前院長森岡時世先生ならびに献身的に患者に対応された小樽市立病院眼科外来スタッフの皆様に心から感謝を申し上げる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障の治療総論.日眼会誌107:143-152,2003投与前後で有意差を認めなかった.また,カルナクリンR投与前の片眼緑内障のVmaxと比較したが有意差を認めなかった.同様に正常者群と比較し,Vmaxに有意差を認めなかった.III考按NTGの原因に眼循環障害が示唆される34)一方で,緑内障治療点眼薬による眼循環改善の報告が増えている57).そのため,正常眼圧緑内障の治療に眼圧下降と眼循環改善の両面を考えることには意味があると思われる.しかし,点眼薬による眼圧のコントロールが良好であるにもかかわらず,視野の悪化を認める症例を日常診療で経験する.この場合,すでに点眼薬でfullmedicationとなっている症例ではつぎの手は多く残されてはいない.筆者らは,1カ月間ではあったが,カルナクリンR投与でCRAのVmaxの増加をCDIにて確認することができた.視野の悪化したNTG群ではさらに他剤へ変更するか,追加する方法も残っていたと思われるが,点眼薬が増えることによるコンプライアンスの低下が懸念され,内服だと楽であるとの外来患者からの声を受け,点眼を追加することを行わず,脈絡膜循環改善作用11)のあるカルナクリンRを選んだ.楊らは網膜分枝静脈閉塞症に150単位/日のカルナクリンRを投与し,CRAではVmaxの増加は認めなかったものの,網脈絡膜循環の改善を示唆している9).筆者らの症例では3例に,カルナクリンR投与後にVmaxの低下を認めたが,Vminが増加していたため,RIが低下し,結果的に眼循環の改善に変わりはなかったと思われる.楊らと筆者らとの結果が異なった理由は不明だが,楊らは7.5MHzのプローブを図1網膜中心動脈収縮期血流速度各群の網膜中心動脈収縮期血流速度(Vmax)を示す.正常者群とOH群,NTG群とPOAG群では有意差を認めなかったが,それ以外では有意差を認めた.*:p<0.05,**:p<0.01(Man-Whitney’sUtest).NS*1614121086420正常者群NTG群POAG群Vmax(cm/s)*NS****OH群———————————————————————-Page4884あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(134)tionalvascularassessmentwithultrasound.IEEETransMedImaging23:1263-1275,200411)ButtZ,O’BrienC,McKillopGetal:Dopplerimaginginuntreatedhigh-andnormal-pressureopen-angleglauco-ma.InvestOphthalmolVisSci38:690-696,199712)GalassiF,NuzzaciG,SodiAetal:Possiblecorrelationsofocularbloodowparameterswithintraocularpressureandvisual-eldalterationsinglaucoma:astudybymeansofcolorDopplerimaging.Ophthalmologica208:304-308,199413)FekeGT,SchwartzB,TakamotoTetal:Opticnerveheadcirculationinuntreatedocularhypertension.BrJOphthalmol79:1088-1092,199514)GelattKN,MiyabayashiT,Gelatt-NicholsonKJetal:ProgressivechangesinophthalmicbloodvelocitiesinBea-gleswithprimaryopenangleglaucoma.VetOphthalmol6:77-84,200315)HigginbothamEJ,GordonMO,BeiserJAetal:Topicalmedicationdelaysorpreventsprimaryopen-angleglau-comainAfricanAmericanindividuals.ArchOphthalmol122:113-120,200416)杉山哲也,植木麻理:正常眼圧緑内障の10年間の視野障害進行と治療薬の検討.FrontiersinGlaucoma6:126-129,200517)XiaCF,YinH,BorlonganCVetal:Kallikreingenetrans-ferprotectsagainstischemicstrokebypromotingglialcellmigrationandinhibitingapoptosis.Hypertension434:452-459,20042)丹羽義明,山本哲也,松原正幸ほか:緑内障眼の眼窩内血流動態に対する二酸化炭素の影響─超音波カラードップラー法による検討─.日眼会誌102:130-134,19983)YamazakiY,DranceSM:Therelationshipbetweenpro-gressionofvisualelddefectsandretrobulbarcirculationinpatientswithglaucoma.AmJOphthalmol124:217-295,19974)NicolelaMT,WalmanBE,BuckleyARetal:Variousglaucomatousopticnerveappearances.Acolordopplerimagingstudyofretrobulbarcirculation.Ophthalmology103:1670-1679,19965)井戸正史,大澤俊介,伊藤良和ほか:イソプロピルウノプロストン(レスキュラR)点眼が正常眼圧緑内障患者における眼循環動態に及ぼす影響.あたらしい眼科16:1557-1579,19996)西村幸英,岡本紀夫:イソプロピルウノプロストン(レスキュラR)点眼が眼動脈血流速度に及ぼす影響─正常眼圧緑内障眼における検討─.あたらしい眼科15:211-214,19917)MizunoK,KoideT,SaitoNetal:Topicalnipradilol:eectsonopticnerveheadcirculationinhumansandperioculardistributioninmonkeys.InvestOphthalmolVisSci43:3243-3250,20028)小林ルミ,森和彦,石橋健ほか:カリジノゲナーゼの網脈絡膜血流に対する影響.臨眼57:885-888,20039)楊美玲,望月清文,丹羽義明ほか:カリジノゲナーゼの網脈絡膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科17:1433-1436,200010)YehCK,FerraraKW,KruseDE:High-resolutionfunc-***