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ステロイドの局所投与が有効であった眼窩乳児毛細血管腫の1例

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):705.710,2012cステロイドの局所投与が有効であった眼窩乳児毛細血管腫の1例木下哲志*1鈴木康夫*2横井匡彦*1加瀬学*1*1手稲渓仁会病院眼科*2手稲渓仁会病院眼窩・神経眼科センターACaseofOrbitalInfantileCapillaryHemangiomaSuccessfullyTreatedwithIntralesionalSteroidInjectionSatoshiKinoshita1),YasuoSuzuki2),MasahikoYokoi1)andManabuKase1)1)DepartmentofOphthalmology,TeineKeijinkaiHospital,2)OrbitalDisease&Neuro-OphthalmologyCenter,TeineKeijinkaiHospital乳児毛細血管腫は5歳頃までに自然退縮する良性腫瘍だが,視力や眼球運動などに影響を及ぼす可能性がある場合は積極的な治療介入が必要とされている.ステロイドの局所投与はその主要な治療法の一つであるが,標準的な治療法は確立されてはいない.今回筆者らは,乳児毛細血管腫が下眼瞼から眼窩の筋円錐内に伸展し,著明な眼窩の変形も伴っていた症例に少量ステロイドの局所投与を行った.症例は右眼瞼腫瘍の急激な増大と眼窩内浸潤を主訴に近医眼科から当科(手稲渓仁会病院眼科)へ紹介された3カ月の男児である.乳児毛細血管腫を疑ったが,腫瘍の部位と経過,眼窩の変形から,視機能障害が危惧されたため,早期の診断,治療に踏み切った.腫瘍の部分切除を施行し,乳児毛細血管腫の病理学的診断を得たうえで,メチルプレドニゾロン20mgを腫瘍内へ投与した.投与3週後までには腫瘍に消退傾向が生じ,投与12カ月後にはほぼ消失し,視機能,美容的にも良好な結果が得られた.Infantilecapillaryhemangiomaisabenigntumorthatdevelopsrapidgrowthorregression.Ifaperiorbitaltumorissuspectedofimpairingvision,aggressivetreatmentisrequired.Althoughintralesionalcorticosteroidinjectionhasbeenreportedaseffective,thetreatmenthasnotyetbeenstandardized.Inthepresentcase,a3-montholdmalewasreferredtousbecauseofrapidgrowthofatumorinhisrightorbit,withsevereeyelidswelling.CT(computedtomography)-scanshowedthetumoroccupyingtheinferotemporalspaceoftherightorbit,withconsequentprotrusionoftheorbitalwall,extendingtotheintramuscularcone.Asthistumorwasthoughttoposeriskofvisualimpairment,4weekslaterweperformedintralesionalinjectionof20mgmethylprednisolone,basedonthepathologicaldiagnosisofcapillaryhemangioma.Thetumorbegantoregresswithin3weeksafterinjection.Thetumorandorbitalasymmetryhaddisappearedby21months,withnoopticnerveimpairment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):705.710,2012〕Keywords:毛細血管腫,眼窩,乳児,ステロイド局所投与.capillaryhemangioma,orbit,infant,intralesionalsteroidinjection.はじめに乳児毛細血管腫は生後間もない時期に出現し,急速に増大する腫瘍である.大部分は5歳頃までに自然退縮する1)が,視機能などに影響を及ぼす可能性がある場合は積極的な治療介入が必要とされる.これまで試みられてきている治療法としてはステロイドの全身投与,あるいは局所投与,さらには外科的切除,レーザー治療,インターフェロン投与などがあり1),特に眼周囲領域の乳児毛細血管腫に対してステロイド局所治療が奏効した症例は,わが国でも報告されている2.5).しかしながら,局所投与に用いるステロイドの種類や投与量の標準化はいまだなされていない.今回筆者らは,眼窩の筋円錐内にまで及ぶ乳児毛細血管腫に対して比較的少量のステロイドの局所投与を行い良好な結果を得ることができた.その治療経過を若干の考察を含めて〔別刷請求先〕鈴木康夫:〒006-8555札幌市手稲区前田1条12丁目1-40手稲渓仁会病院眼窩・神経眼科センターReprintrequests:YasuoSuzuki,M.D.,OrbitalDisease&Neuro-OphthalmologyCenter,TeineKeijinkaiHospital,1-40Maeda1Jou,Teine-ku,Sapporo006-8555,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(125)705 AB図1ステロイド治療前および治療後の容貌A:治療前.右上眼瞼と右下眼瞼の腫脹,眼窩の左右非対称がみられる.B:治療2年2カ月後.眼瞼の腫脹は改善し,右頬部にわずかな発赤を残すのみとなっている.眼窩の変形も改善している.報告する.I症例患者:生後3カ月,男児.主訴:右眼瞼腫脹.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成19年7月出生.経腟正常分娩であり出生直後は特に症状はなかったが,平成19年9月に右眼瞼腫脹を主訴に近医眼科を受診した.血管腫疑いで経過観察されていたが,MRI(magneticresonanceimaging)で腫瘍の増大と眼窩内への伸展が認められ,精査加療目的で当科(手稲渓仁会病院眼科)を紹介され,平成19年11月19日に初診した.初診時所見:対光反応は両眼とも迅速でRAPD(relativeafferentpupillarydefect)は陰性であった.眼球に特記すべき所見はなかったが,右上眼瞼と右下眼瞼にやや青みを呈した腫脹があり,右頬部皮膚にも同様の色調の小さな病変を認めた(図1A).CT(computedtomography)では右側の頬部から下眼瞼,また眼窩深部の筋円錐内へ伸展する均一なCT値をもつ占拠性病変を認めた(図2).右眼窩の外壁と下壁はこの病変に圧排され,右眼窩は著明に拡大していた.占拠性病変は,MRIのT1強調像で均一な等信号,T2強調像でも均一な高信号を呈しており(図3),脂肪抑制T1強調造影でも占拠性病変全体に均一な造影効果が認められた.以上の画像所見から占拠性病変は充実性の腫瘍と診断した.経過:平成19年12月6日に右下眼瞼縁アプローチで腫瘍の部分切除を施行した.病理診断は,内皮細胞に裏打ちされた毛細血管の密な増生が認められる「乳児毛細血管腫」であった(図4).平成19年12月13日にメチルプレドニゾロン(デポメドロールR)20mg/1mlを26ゲージ針を用いて経右下眼瞼で腫瘍内に局所注入した.CT画像を参考に,下眼瞼中央部やや耳側で皮膚上から触知した眼窩下縁から7mm上方を刺入部位とした.投与3週後のCTでは,投与前と比べ腫瘍の増大は認めず,逆に部分的ではあるが縮小が認められた.視診における右上下眼瞼の腫脹と眼窩の左右非対称は,投与2カ月後では残存していたが徐々に改善し,上眼瞼の腫脹は投与1年後に,下眼瞼の腫脹は投与1年9カ月後に図2初診時の眼窩CT(Bar=1cm)眼窩深部の筋円錐内へ及ぶ占拠性病変がみられ,右眼窩の外壁と下壁の変形を認める.706あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(126) 図3治療前の眼窩MRI上段:T1強調画像,下段:T2強調画像,Bar=1cm.占拠性病変はT1強調像で均一な等信号,T2強調像で均一な高信号を示していた.図4病理組織所見(HE染色,×200)内皮細胞に覆われる毛細血管が密に増生している.は消失し,眼窩の左右非対称は認めなくなった.CTにおいても,腫瘍陰影は徐々に消退し,投与12カ月後には眼瞼周囲から眼窩下方の腫瘍陰影の大部分が消失していた.この腫瘍の縮小と眼窩の発育に伴う右眼窩の変形・拡大の軽減も認められた(図5).経過中,対光反応は左右差なく,前眼部・中間透光体・眼底にわたって特記すべき所見は認めなかった.視力測定と屈折検査は患児の協力が得られず苦慮したが,生後3歳7カ月時点で右眼視力(0.5×cyl(.2.5DAx150°),左眼視力(0.7×cyl(.1.0DAx40°),シクロペントラート点眼による毛様体弛緩後の屈折度数は,右眼がsph.1.5D(cyl.2.75DAx150°,左眼がsph.0.5D(cyl.1.5DAx35°であった.乱視度数と視力の左右差を軽度認めたため,眼鏡処方をして経過観察中である.II考按乳児毛細血管腫はほとんどの症例において5歳までに自然退縮するとされている1)が,症例によってさまざまである.皮下から眼窩内までに及ぶ毛細血管腫7症例の経過観察を行った報告では,4.5歳の時点までに十分な退縮が得られずに全例で手術が必要となったと述べられており6),眼窩領域の血管腫が深部に及ぶものは,表層近くに限局する場合と比較し,退縮に要する期間がより長い傾向にあるとされている7).さらに眼窩に及ぶ巨大な乳児毛細血管腫において視神経の圧迫による視力低下が生じたとの報告もある8).本症例は生後間もない発症であること,またその後当科を初診するまでの約2カ月間で持続的かつ急速な腫瘍の増大を認めたことから,自然退縮の性質をもつ乳児毛細血管腫を念頭にこれらの報告を踏まえて治療方針を検討した.当科初診時すでに腫瘍は眼窩深部の筋円錐内にまで及んでおり,乳児毛細血管腫であったとしても自然経過で腫瘍が退縮し始める見込みは少なく,経過観察を選択した場合は筋円錐内の腫瘍増大による視神経障害が生じる可能性があると考え,病理学的に診断を確定させたうえで積極的治療に踏み切ることとした.乳児毛細血管腫に対する治療法としては今回選択したステロイド投与の他に,外科的切除,レーザー照射,インター(127)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012707 ACBDACBD図5ステロイド投与後の眼窩CT(Bar=1cm)A:投与3週後.眼窩下方に伸展する充実性の眼窩腫瘍を認める.B:投与6カ月後.腫瘍陰影の濃度が低下している.C:投与1年後.眼窩下方の腫瘍陰影の濃度はさらに低下している.D:投与1年7カ月後.腫瘍はほぼ消失し,眼窩の左右非対称は目立たなくなった.フェロン全身投与などがあり,さらに最近ではプロプラノロール全身投与が注目を浴びている.外科的切除は確実に腫瘍を小さくすることができるが,術後瘢痕や出血,眼球運動障害などを含む視機能障害の合併症のリスク1)を考慮すると,本症例のように眼窩深部の筋円錐内にまで伸展している症例で腫瘍を全摘出することは困難である.本症例で行った腫瘍切除も当初から全摘出を目標とはしておらず,先述した合併症を生じさせないことを最優先にした部分切除に留めた.つぎにレーザー治療であるが,この治療は皮膚表面の乳児毛細血管腫には効果的である一方で深部の腫瘍には効果が得られにくく9),本症例の場合は十分な治療効果は見込めないと考えられた.さらに,インターフェロン投与療法は体表面積当たり100万.300万単位の皮下注射が提唱されているが,全身的副作用として倦怠感・嘔気・白血球減少症などがあり10),本症例のような新生児期の初期治療としては選択しづらい.実際にはステロイド投与に反応しない場合に用いられることが多いようである10).プロプラノロール全身投与療法は2008年にClemensら11)が乳児の毛細血管腫に対して有効であると報告して以降,近年注目される治療法であり,Hogelingら12)は経過観察と比較した無作為割り付け試験で有意に腫瘍を縮小させたと述べている.しかし,本症例においては当時十分なデータがなかったために選択しなかった.一方,ステロイド治療は血管収縮因子の感受性増強や血管新生の阻害などの作用機序は依然推察の域を出ないものの,708あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012その有用性は広く支持されてきている13).全身投与による治療に関しては,1967年にZaremら14)が病理学的に同定された毛細血管腫を含む生後3カ月から21カ月の血管腫7症例に対し,同治療法が有効であったことを報告し,現在でも治療法の一つとして広く用いられている.投与法はプレドニゾロンを1.2mg/kg/日を毎日,あるいは2.4mg/kg/日の隔日投与から開始し,数カ月をかけて漸減することが提唱されているが,長期間の投与になるために副作用として発育遅延やCushing徴候,また易感染性のリスクを伴うことが指摘されている1).一方で,筆者らが選択したステロイド局所投与は,1979年にKushnerら15)が報告して以来広く用いられており,わが国でも報告されている2.5).治療にはおもにトリアムシノロンなどの長期間作用型のステロイドとベタメタゾンなどの短期間作用型のステロイドが使われ,投与法も単剤あるいは複数の薬剤を併用する場合が報告されている.わが国における報告でも,トリアムシノロン20.24mgの複数回投与3),メチルプレドニゾロン25mgとトリアムシノロン25mgの併用2),トリアムシノロン40.50mgとベタメタゾン6mgの併用5),トリアムシノロン45.50mgとベタメタゾン9.10mgの併用4)など,多彩な投与法が用いられており,やはり標準的な投与法は確立されていない.また,ステロイド局所投与の副作用は全身投与に比べて少ないものの,眼瞼壊死,眼窩脂肪萎縮や網膜動脈閉塞などが報告されている16).合併症としての報告は少ないが,血管組織豊富な(128) 腫瘍であることから,注射針の穿刺による出血のリスクも考えられる.Wassermanら17)はこの手技によって局所の出血や血腫を生じる頻度は3.85%と報告している.毛細血管腫は血管組織は豊富であるものの血流の多い腫瘍ではないために,重篤な出血に至ることは少ないとされる18)が,青紫色の色調変化や腫脹などの出血を示す徴候があった場合は,圧迫止血を行った後に画像診断で血腫の有無や範囲を確認する必要があると思われる.本症例では投与時期が生後5カ月と比較的早期であったことから,副作用を考慮して他の報告に比べるとやや少量であるメチルプレドニゾロン20mg(2.5mg/kg)の局所投与を選択した.初回投与後も腫瘍の増大傾向が続くようであれば追加の局所投与を行い,それでもなお効果が得られない場合は全身投与の施行を検討していたが,幸い初回の局所投与3週後には腫瘍の退縮傾向が確認されたために追加の局所投与は行わず,最終的に重篤な副作用もなく視神経障害を回避することができた.このことは,今後の同様な症例に対するステロイド治療の選択肢を広げるものと考える.視神経障害以外の眼窩部乳児毛細血管腫の合併症として,弱視と眼窩の変形に起因した容貌の変化がある.弱視は眼周囲の毛細血管腫をもつ患者の44.63%に生じると報告されており19.21),弱視となる可能性を認める場合は,積極的な治療介入の適応があるとされている19).Robbら21)は腫瘍が角膜を圧迫して乱視をもたらすことで不同視弱視になる可能性があり,さらに腫瘍の消退後も乱視は残存する傾向があると報告しているが,一方でステロイド局所注入治療によって得られた腫瘍縮小に伴い乱視率が63%軽減したとの報告22)もあり,弱視が確認されなくても疑われる症例に対して早期から積極的な治療を行うことの有効性が示唆される.本症例は不同視性弱視の発症を疑わせるような著しい屈折異常はなく,視軸遮断もなく経過した.3歳7カ月の時点で可能となった視力検査で,患側眼の矯正視力が(0.5)と健側眼の矯正視力(0.7)よりも不良であり,健側眼より強い乱視を認めたため,眼鏡を装用させて経過をみている.眼窩は,生後3歳まで急速に発育し,5歳までに成人の約90%の大きさに達するといわれている23)ことから,出生直後の眼窩内病変は眼窩の発育異常をきたしやすいと考えられる.今回の症例では腫瘍が片側眼窩内に広く伸展していたために,初診時すでに腫瘍の圧排による眼窩の非対称が顕著であった.しかしその後,眼窩が発育する期間内に腫瘍の増大が止まり,徐々に消退していった.CT(図5)で眼窩の形状を経時的に比較すると,右眼窩において腫瘍に圧排されていた部位は腫瘍が消退した後は拡大せず,右眼窩のその他の部位と左眼窩は徐々に発育拡大し,生後2歳の時点で眼窩の左右非対称はほぼ消失した.本症例は眼窩深部に至る血管腫であり,これまでの報告6)にあるように,腫瘍の自然退縮が4(129).5歳以降となり眼窩が急激に発育する期間内23)に生じなかった場合,あるいは腫瘍による眼窩の変形と拡大が成熟した眼窩の大きさを上回った場合は,腫瘍の自然退縮後にも眼窩の左右非対称が大きく残存した可能性がある.本症例のような眼窩深部に至る乳児毛細血管腫では,眼窩の変形に起因する容貌上の問題を防ぐためにも早期治療が有効であることが示唆された.文献1)HaikBG,KarciogluZA,GordonRAetal:Capillaryhemangioma(infantileperiocularhemangioma).SurvOphthalmol38:399-426,19942)大黒浩,関根伸子,小柳秀彦ほか:ステロイド局所注射で退縮をみた眼窩頭蓋内血管腫瘍の1例.臨眼50:10151017,19963)三河貴子,片山智子,田内芳仁ほか:眼瞼と眼窩に認められた苺状血管腫の1例.あたらしい眼科14:155-158,19974)玉井求宜,宗内巌,木暮鉄邦ほか:ステロイドの局所注射が著効した顔面苺状血管腫の1例.日形会誌25:30-33,20055)松本由美子,宮本義洋,宮本博子ほか:頭頸部の巨大苺状血管腫4例の報告重大な合併症を回避するために速効性のある治療を行った4例の経過.日形会誌27:809-815,20076)RootmanJ:Vascularlesions.DiseasesoftheOrbit,p525532,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,19887)TambeK,MunshiV,DewsberyCetal:Relationshipofinfantileperiocularhemangiomadepthtogrowthandregressionpattern.JAAPOS13:567-570,20098)SchwartzSR,BleiF,CeislerEetal:Riskfactorsforamblyopiainchildrenwithcapillaryhemangiomasoftheeyelidsandorbit.JAAPOS10:262-268,20069)AlBuainianH,VerhaegheE,DierckxsensLetal:Earlytreatmentofhemangiomaswithlasers.Areview.Dermatology206:370-373,200310)EzekowitzRA,MullikenJB,FolkmanJ:Interferonalfa2atherapyforlife-threateninghemangiomasofinfancy.NEnglJMed326:1456-1463,199211)SchiestlC,NeuhausK,ZollerSetal:Efficacyandsafetyofpropranololasfirst-linetreatmentforinfantilehemangiomas.EurJPediatr170:493-501,201112)HogelingM,AdamsS,WargonO:Arandomizedcontrolledtrialofpropranololforinfantilehemangiomas.Pediatrics128:e259-266,201113)BrucknerAL,FriedenIJ:Hemangiomasofinfancy.JAmAcadDermatol48:477-493,200314)ZaremHA,EdgertonMT:Inducedresolutionofcavernoushemangiomasfollowingprednisolonetherapy.PlastReconstrSurg39:76-83,196715)KushnerBJ:Localsteroidtherapyinadnexalhemangioma.AnnOphthalmol11:1005-1009,197916)DroletBA,EsterlyNB,FriedenIJ:Hemangiomasinchildren.NEnglJMed341:173-181,1999あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012709 17)WassermanBN,MedowNB,Homa-PalladinoMetal:Treatmentofperiocularcapillaryhemangiomas.JAAPOS8:175-181,200418)NeumannD,IsenbergSJ,RosenbaumALetal:Ultrasonographicallyguidedinjectionofcorticosteroidsforthetreatmentofretroseptalcapillaryhemangiomasininfants.JAAPOS1:34-40,199719)StigmarG,CrawfordJS,WardCMetal:Ophthalmicsequelaeofinfantilehemangiomasoftheeyelidsandorbit.AmJOphthalmol85:806-813,197820)HaikBG,JakobiecFA,EllsworthRMetal:Capillaryhemangiomaofthelidsandorbit:ananalysisoftheclinicalfeaturesandtherapeuticresultsin101cases.Ophthalmology86:760-792,197921)RobbRM:Refractiveerrorsassociatedwithhemangiomasoftheeyelidsandorbitininfancy.AmJOphthalmol83:52-58,197722)WeissAH,KellyJP:Reappraisalofastigmatisminducedbyperiocularcapillaryhemangiomaandtreatmentwithintralesionalcorticosteroidinjection.Ophthalmology115:390-397,200823)FarkasLG,PosnickJC,HreczkoTMetal:Growthpatternsintheorbitalregion:amorphometricstudy.CleftPalateCraniofacJ29:315-318,1992***710あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(130)

外科的に摘出した眼瞼・眼窩乳児血管腫の2例

2011年12月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科28(12):1747.1752,2011c外科的に摘出した眼瞼・眼窩乳児血管腫の2例林憲吾嘉鳥信忠板倉秀記上田幸典聖隷浜松病院眼形成眼窩外科TwoCasesofOrbitalandEyelidInfantileHemangiomawithSurgicalTreatmentKengoHayashi,NobutadaKatori,HidekiItakuraandKousukeUedaDepartmentofOcularPlastic&OrbitalSurgery,SeireiHamamatsuGeneralHospital目的:眼瞼から眼窩へ及ぶ乳児血管腫2例の外科的治療の経過を報告する.症例1:5カ月,女児.初診時,左上眼瞼から眼窩へ及ぶ血管腫を認めた.ステロイド内服を開始したが残存した.2歳時に血管腫を摘出し減量した.3歳時左眼視力0.01(0.03)で,健眼遮閉を開始した.5歳時に血管腫を再度摘出したが左眼の弱視は残存した.症例2:2カ月,女児.左上眼瞼から内眼角にかけて血管腫を認め,増大傾向にあった.視機能障害のリスクがあると考え外科的に摘出した.1歳9カ月時,視力は左右差なく良好であった.結論:視機能障害をきたすリスクのある眼瞼・眼窩乳児血管腫には外科的摘出を含めた早期治療を検討する必要があると考えられた.Objective:Toreport2casesoforbitalandeyelidinfantilehemangiomawithsurgicaltreatment.Case1:A5-month-oldfemalewithhemangiomainthelefteyelidandorbit.Thehemangiomarespondedsomewhattosystemiccorticosteroidtreatment,butthegreaterpartofthetumorremainded.Wesurgicallyexcisedtheeyelidhemangiomawhenthepatientwas2yearsofage.Thevisualacuityofthelefteyewaspoorat3yearsofage,soweperformedocclusiontherapyonthefelloweye.Althoughwesurgicallyexcisedtheorbitalhemangiomaat5yearsofage,theform-deprivationamblyopiaremained.Case2:A2-month-oldfemalewithhemangiomainthelefteyelidandglabella.Thetumortendedtoincrease.Sincehighriskofform-deprivationamblyopiawassuspected,weperformedsurgicalexcision.Thevisualacuityofthebotheyeswasnearlyequivalent,andgood.Conclu-sions:Earlytreatment,includingsurgicalexcisioncanbeconsiderediforbitaleyelidinfantilehemangiomaposeshighriskofcausingpermanentamblyopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(12):1747.1752,2011〕Keywords:苺状血管腫,乳児血管腫,毛細血管腫,外科的治療,プロプラノロール.strawberrymarkhemangioma,infantilehemangioma,capillaryhemangioma,surgicaltreatment,propranolol.はじめに乳児血管腫(=苺状血管腫)は,生後1.2週後より赤色斑として生じ,その後6カ月頃まで増大する隆起性の腫瘤である.一般的に1年以内にその増大傾向を失い学童期までに自然に退縮するため,経過観察となることが多い.しかし,眼瞼や眼窩の乳児血管腫は血管腫の増大時期と視覚発達時期が一致するので,形態覚遮断弱視など視機能障害をきたす場合がある.今回筆者らは,眼瞼から眼窩へ及ぶ巨大な乳児血管腫2例に対して外科的治療を行ったので,その治療経過について報告する.I症例〔症例1〕5カ月,女児.主訴:左上眼瞼腫脹.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:生後2週間後から左上眼瞼に紅色腫瘤を認め,その後増大傾向を認めたため聖隷浜松病院(以下,当院)形成外科に受診.乳児血管腫で3カ月間経過観察していたが,増大傾向が著明なため眼形成眼窩外科(以下,当科)へ紹介受診となった.初診時所見:左上眼瞼鼻側に顆粒状の赤色隆起腫瘍が2カ〔別刷請求先〕林憲吾:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科Reprintrequests:KengoHayashi,M.D.,DepartmentofOcularPlastic&OrbitalSurgery,SeireiHamamatsuGeneralHospital,2-12-12Sumiyoshi,Naka-ku,Hamamatsu-shi430-8558,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(85)1747 AB図1症例1のステロイド内服前後の写真A:初診時,左眼開瞼困難な状態.B:ステロイド内服4カ月後,若干開瞼状態が改善したが依然残存している.ABC図2初診時のMRI画像A:T2強調画像の冠状断,左眼窩上内側に不整形な腫瘍.B:T2強調画像の矢状断,眼瞼皮下から眼窩筋円錐外へ及ぶ腫瘍.C:ガドリニウム造影画像の水平断,強い造影効果.内部にflowvoidを認める.所あり,眼瞼広範囲にわたり皮下血管拡張しており皮下に青紫色弾性軟の腫瘤が認められた.眼瞼腫脹が著明で開瞼困難な状態であった(図1A).耳側から瞳孔領が若干観察可能であった.眼内には異常はみられなかった.血液検査・凝固機能は正常範囲内であった.画像所見:眼窩部magneticresonanceimaging(以下,MRI)画像で左上眼瞼から眼窩上内側部の筋円錐外へ及ぶT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号の内部不均一な不整形な腫瘤が認められた.ガドリニウムによる強い造影効果がみられ,腫瘍内に管状のflowvoidが認められ,腫瘍内部の拡張した血管の存在が疑われた.腫瘍は上斜筋と上直筋を含んだ状態で,眼球は外下方へ偏位していた(図2).経過:以上の検査結果から腫瘤型の乳児血管腫と診断した.腫瘍はMRI画像所見では外眼筋との境界は不鮮明で手術による安全な摘出は困難と考えプレドニゾロン2mg/kg/day内服を開始した.3カ月後に若干縮小傾向がみられ開瞼状態は改善したが,依然第一眼位で瞳孔中央に眼瞼が覆う状態で腫瘍は残存した(図1B).プレドニゾロンは4カ月間で漸減し中止した.その後,腫瘍の増減はない状態が続いたため,2歳時に外科的治療を施行した.手術では画像所見どおり血管腫は周辺組織との境界不明瞭であったため,眼窩内の腫瘍は残して,眼瞼部の腫瘍のみ摘出し減量した.病理検査の結果capillaryhemangiomaであった.3歳時(初回手術から1年後)VD=1.0(n.c.),VS=0.01(0.03×+3.0D(cyl.3.5DAx30°)で,アイパッチを使用し健眼遮閉を開始した(6.8時間/日).5歳時にMRI画像診断で境界が明瞭となってきたため,眼瞼・眼窩部の残存血管腫を再度外科的摘出した.術中に腫瘍へ栄養する後篩骨動脈へ連続する動脈を確認し,これを結紮切断した.腫瘍は上斜筋と分離可能で40mm大の血管腫が摘出された(図3).術後,MRIで血管腫の容積は著明に減少した(図4).眼位は正位で眼球運動制限はなく,開瞼状態が改善し整容的にも良好であった.その後1748あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(86) AB図3術中所見A:眼輪筋下,周辺組織と.離した血管腫.B:摘出した血管腫,40mm大.ACDB図4眼窩の血管腫摘出前後の比較A:術前のMRIT2強調画像水平断,眼瞼皮下から眼窩へ及ぶ血管腫(白矢印).B:術前の顔面写真.左眼瞼腫脹と皮下の青紫色の血管拡張がみられる.外斜視の状態.C:術後のMRIT2強調画像水平断,血管腫が著明に減少(白矢印).D:術後の顔面写真.左眼瞼に腫脹なく色調正常.眼位も正位.(87)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111749 ABC図5症例2の手術前後A:初診時,眉根部から左眼瞼にかけて腫脹.軽度外斜視.B:手術後1週間,摘出により軽度陥凹がみられる.C:手術後1年6カ月,眉根部平坦化.左右差なく整容的良好.眼位も正位.ABもアイパッチを使用し視能訓練は継続した.しかしながら8歳時VD=1.0(1.2×.0.25D),VS=0.04(0.1×+0.5D(cyl.3.0DAx45°)と左眼の弱視は残存した.〔症例2〕2カ月,女児.主訴:眼瞼および眉根部の腫脹.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:生後1カ月頃から,左上眼瞼から眉根部にかけて腫脹を認め,増大したため当科を受診した.初診時所見:眉根部から左上眼瞼にかけて著明に腫脹しており,内眼角付近に2カ所点状の紅斑が認められた(図5A).開瞼は可能で瞳孔領には及んでいなかった.眼内には異常はみられなかった.血液検査・凝固機能は正常範囲内であった.画像所見:MRI画像で眉根部から左上眼瞼の皮下と眼窩浅部にT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号の内部不均一な不整形な腫瘤が認められた.ガドリニウムによる強い造影効果がみられ,腫瘍内に管状のflowvoidが認められ,腫瘍内部の拡張した血管の存在が疑われた.左眼球は外側へ偏位していた(図6).経過:以上の検査結果から腫瘤型の乳児血管腫と診断した.その後も増大傾向があり視機能障害のリスクがあると考え,月齢3カ月時に外科的に治療した(図5B).手術は眉根部正中切開でアプローチし多房性の脆弱な赤色腫瘤と術中拍動性の出血がみられた.腫瘍は全摘出可能であった.組織は病理検査にてcapillaryhemangiomaであった.1歳時,1歳9カ月時ともにgratingacuitycard法にて視力は左右差なく良好で,整容的にも良好であった(図5C).II考按乳児血管腫(いわゆる苺状血管腫)は組織学的には未熟な毛細血管内皮細胞の異常増殖を主体とするcapillaryhemangioma(毛細血管腫)である.一般的には生後数日から数週間で出現し,増殖期,退縮期,消退期と自然退縮傾向がある1).そのため重篤な合併症がない場合,経過観察となること図6症例2の初診時MRI画像A:T2強調画像の水平断,眉根部皮下から眼窩浅部へ不整形な腫瘍.左眼は外側へ偏位.B:脂肪抑制法(STIR法)の矢状断,内部にflowvoidがみられる.1750あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(88) が多い.増殖期の臨床像から3つの型に分類されその頻度・経過・予後に違いがある2.4).最も頻度の多い局面型は血管腫の主体が真皮内にあり,外見が赤色の苺状あるいは顆粒状の扁平な隆起を呈する.つぎに多い腫瘤型は真皮内と皮下に血管腫があり,三次元的な血管腫の塊となり大きな隆起を呈する.稀な皮下型は皮下のみに血管腫があり,外見上正常な皮膚色あるいは青色調を呈する.自然経過として局面型と皮下型は6カ月頃に増大の極期を迎え,その後1歳頃より退縮期に入り学童期(5.6歳)には消退期となり自然消退する.一方,顔面の腫瘤型は9カ月以降も増大を続けることがあり,7歳時でも約半数の症例で残存するといわれている4).いずれの臨床型であっても乳幼児期には増大期であり,眼瞼や眼窩の乳児血管腫の場合,その増大時期と視覚発達時期が一致するため形態覚遮断弱視・斜視・乱視など視機能障害をきたす場合がある5).乳幼児期は1週間程度の片眼遮光でも不可逆的な弱視をきたす可能性があることがいわれている6,7).さらに視機能障害は眼瞼部の血管腫が眼瞼の1/2を超える大きさで退縮の遅いものに生じやすく,重症度は遮閉の期間と相関することが報告されている8).特に上記の腫瘤型の場合,長期にわたり増大し残存するため合併症をきたす可能性が懸念される9).そのため,視機能障害をきたす可能性のある眼瞼・眼窩乳児血管腫は治療の対象となる.治療にはステロイド内服やステロイド局所注射,色素レーザー,bブロッカー(プロプラノロール)投与,インターフェロンa皮下注射,放射線治療,外科的摘出などがある.ステロイド内服は従来から血管腫に対して広く行われてきた治療法でプレドニゾロン2.3mg/kg/dayの量で有効な場合,通常2週間程度で効果が発現し血管腫の増大が停止または衰退するといわれている10).また,生後4カ月までの増殖期が最も効果が高く,1歳を過ぎると効果が少なくなるといわれている10).ステロイド内服にはさまざまな副作用があり,特に乳幼児期における長期にわたるステロイド投与では易感染性,成長遅延,副腎皮質機能不全などの危険性があるため,小児科医による全身管理が必要不可欠である5,8).隆起の少ない3カ月までの局面型や早期の腫瘤型には,ステロイド局所注射や色素レーザーの有効性が知られている11,12).しかし大型の腫瘤型や深部例には無効である.特に本症例の症例1のような眼窩の深部に及ぶ例では,注射による不測の球後出血による重篤な合併症をきたす可能性がある12).眼瞼に血管腫がみられる症例は74%と高率に眼窩内血管腫を伴っていることが報告されている5).眼瞼に血管腫がみられた場合,眼窩内の検索とそれに応じた治療が必要である.2008年,非選択性のbブロッカーであるプロプラノロールの内服の有用性が初めて報告された13).その後も良好な成(89)績とその安全性が数多く報告され,頭頸部血管腫の第一選択療法とする報告もある14.16).Missoiらは17名19眼瞼の乳児血管腫(月齢中央値:4.5カ月)に対してプロプラノロールの経口投与を治療期間中央値6.8カ月で全症例の血管腫サイズの縮小がみられ,その減少率は中央値39%であったと報告している17).さらにステロイド抵抗性の眼瞼・眼窩乳児血管腫に対してもプロプラノロールの有効性が報告されている17,18).国内では血管腫10例に対してプロプラノロール内服を使用した結果,退縮期の1例を除く増殖期9例には数日後から2週間以内の早期退縮が認められ,その安全性と効果発現の早さが報告されている19).しかし,プロプラノロールはbブロッカーのため徐脈,低血圧,低血糖,末梢冷感などの副作用があげられ,投与導入時は循環動態のモニターリングが必要である20).現在,当院でも血管腫に対する治療方針としてプロプラノロール内服あるいは点滴を第一選択としている.プロプラノロールの無効例で早期の根治が必要な場合は第二選択として外科的摘出を検討している.しかし外科的治療は血流に富む腫瘍のため丹念な止血操作が必要であり,さらに血管腫と他の組織との境界がときに不明瞭で神経や筋肉などの組織を損傷する可能性があり,その難易度が問題点としてあげられる.本症例1は眼瞼から眼窩へ及ぶ巨大な腫瘍型の血管腫で,乳幼児期にステロイドの内服を開始し,2歳時と5歳時に腫瘍を摘出したが,8歳時に弱視が残存した.これは治療のタイミングとそれに続く視能訓練の遅れが結果的に不可逆的な視機能障害をきたしたものと考えられる.本症例2は眉根部から眼瞼・眼窩へ及ぶ腫瘤型で,生後3カ月時に早期の外科的摘出を施行し,1歳9カ月に視機能の左右差はみられず良好な経過であった.これは早期の予防的な治療が良好な結果につながったものと考えられる.視機能障害をきたす可能性のある眼瞼・眼窩の乳児血管腫には外科的治療も含めた可及的早期の治療と早期の視能訓練を検討する必要があると思われる.文献1)ThomasJ,GampperMD,RaymondFetal:Vascularanomalies:Hemangiomas.PlastReconstrSurg110:572585,20022)NakayamaH:Clinicalandhistologicalstudiesoftheclassificationandthenaturalcourseofthestrawberrymark.JDermatol8:277-291,19813)倉持朗:乳児血管腫/苺状血管腫.皮膚臨床47:15891606,20054)水谷ひろみ:小児の血管腫.皮膚科MOOK9:59-73,19875)HaikBG,JakobiecFA,EllsworthRMetal:Capillaryhemangiomaofthelidsandorbit:ananalysisoftheclinicalfeaturesandtherapeuticresultsin101cases.Ophthalあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111751 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