《原著》あたらしい眼科40(5):697.700,2023cトラベクトームが有効であった遅発性水晶体起因性続発緑内障の1例小野萌古畑優貴子松原美緒杉山敦柏木賢治山梨大学医学部眼科学講座CACaseofLate-onsetLens-inducedSecondaryGlaucomaSuccessfullyTreatedbyAb-InternoTrabeculotomyMoeOno,YukikoFuruhata,MioMatsubara,AtsushiSugiyamaandKenjiKashiwagiCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashiC目的:白内障手術後C30年を経て発症した残存皮質起因性の続発緑内障のC1例を報告する.症例:66歳,男性.幼少時に右眼外傷性白内障となり,33歳時に白内障手術を施行,39歳時に眼内レンズ二次挿入を行った.問題なく経過していたが術後C30年を経たC2020年C7月,右眼の眼痛とかすみを自覚し,近医を受診した.右眼眼圧C35CmmHgと高値を認めたため,点眼加療が行われたが,眼圧下降が得られず,精査加療のため同月山梨大学医学部附属病院眼科(以下,当院)紹介となった.当院初診時,右眼眼圧C42CmmHg,角膜浮腫,前房内炎症細胞,残存水晶体皮質を認め,隅角は周辺虹彩前癒着などの異常所見は認めず開放していた.右眼水晶体起因性続発緑内障と診断し,トラベクトーム+眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術を施行した.術翌日に一過性の眼圧上昇がみられたものの,その後眼圧下降が得られた.結論:外傷性白内障の手術からC30年を経過して,誘因なく発症した水晶体起因性続発緑内障に対し,トラベクトーム+眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術を行い良好な術後経過を得た.水晶体起因性続発緑内障の眼圧上昇例において,開放隅角眼ではトラベクトームが有効な可能性がある.CPurpose:Toreportacaseoflate-onsetlens-inducedsecondaryglaucomasuccessfullytreatedbyab-internotrabeculotomy.Casereport:Thisstudyinvolveda66-year-oldmalepatientwhohadpreviouslyundergonesur-geryinhisrighteyewhenhewas33yearsoldforatrauma-relatedcataractthatdevelopedatchildhood,andsub-sequentCintraocularlens(IOL)implantationCinCthatCeyeCinC1992.CInCJulyC2020,CheCvisitedCaClocalCclinicCdueCtoCblurredCvisionCandCocularCpainCinCthatCeye,CandChighCintraocularpressure(IOP)andCresidualClensCparticlesCwereCobserved.CSinceClocalCsteroidCandCglaucomaCtreatmentCfailedCtoCcontrolCtheCelevatedCIOP,CheCwasCreferredCtoCourCdepartment.CUponCexamination,ChighCIOP,CcornealCedema,CintracameralCin.ammation,CandCresidualClensCcortexCwasCobserved.CForCtreatment,Cab-internoCtrabeculotomyCwithCIOLCextraction,CsecondaryCIOLCimplantation,CandC.xationCatCtheCintrascleralCspace,CandCvitrectomyCforClens-inducedCsecondaryCglaucomaCwasCperformedCinChisCrightCeye,CwhichCsuccessfullyCloweredCtheCIOP.CConclusion:Ab-internoCtrabeculotomyCmayCbeCe.ectiveCevenCforCcasesCofClate-onsetlens-inducedsecondaryglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(5):697.700,C2023〕Keywords:水晶体起因性続発緑内障,遅発性,白内障手術,残存皮質,トラベクトーム.lens-inducedsecondaryglaucoma,late-onset,cataractsurgery,residuallensparticles,trabeculotomy.Cはじめに後の残存皮質はC0.1.1.5%程度に発症すると報告されている水晶体に起因した続発緑内障は,水晶体の膨化による隅角が2.4),多くの場合は自然吸収される.しかし,術後に角膜閉塞,膨化水晶体.や外傷による水晶体蛋白の房水中漏出に浮腫や長期化する眼内炎症などを発症するものは残存皮質の対する炎症反応などさまざまな原因で発症する1).白内障術除去が通常術後数カ月程度で行われる.既報では白内障の術〔別刷請求先〕小野萌:〒409-3898山梨県中央市下河東C1110山梨大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MoeOno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashi,1110Shimokato,ChuoCity,YamanashiPref.409-3898,JAPANC後C30年以上経過して角膜浮腫や眼内炎症をきたした症例の報告があるが5),水晶体起因性続発緑内障は,手術後数日以内の発症が多数である1).今回白内障手術後C30年を経て発症した残存皮質起因性の続発緑内障のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:66歳,男性.主訴:右眼の眼痛,かすみ.現病歴:右眼を幼少時に受傷し,外傷性白内障となった.1987年C12月(33歳時)に右眼水晶体乳化吸引術を施行,1992年C11月に眼内レンズ二次挿入術を施行した.以後近医を定期受診し,経過は良好であった.2020年C7月C15日に右眼の眼痛とかすみを自覚し,前医を受診した.右眼前房内炎症細胞および高眼圧(35CmmHg)を認め,抗炎症薬および抗緑内障薬点眼開始となった.同年C7月C25日前医再診時,右眼眼圧がさらに上昇(37CmmHg)し,瞳孔領に水晶体上皮細胞の塊と思われる白色物質を認めた.図1前眼部写真残存水晶体皮質を認めた.右眼水晶体起因性続発緑内障が疑われ,2020年C7月C27日に山梨大学医学部附属病院(以下,当院)へ紹介となった.当院初診時の所見としては,VD=0.2(1.0CpC×IOL×sphC.2.25D(cyl.1.75DCAx165°),VS=1.0(1.5C×IOL×sphC.0.75D),眼圧は右眼C42mmHg,左眼C16CmmHgであった.右眼は角膜浮腫と前房内炎症細胞,残存水晶体皮質を認め(図1),広角眼底写真で鼻側上方に残存皮質を確認できた(図2).隅角は両眼開放隅角で,隅角新生血管や周辺虹彩前癒着,隅角後退を認めなかった(図3).右眼は視神経乳頭陥図2広角眼底写真鼻側上方に残存皮質を確認できた.図3隅角写真開放隅角で,隅角新生血管や周辺虹彩前癒着,隅角後退を認めなかった.図4右眼Humphrey視野検査下鼻側の視野障害を認めた.凹拡大を認め,視野では乳頭所見に一致する右眼下鼻側の視野障害を認めた(図4).血液検査や手術時に採取した房水を用いて行ったぶどう膜炎マルチスクリーニング検査では特記すべき異常所見は認めなかった.経過:右眼水晶体起因性続発緑内障と診断,残存水晶体皮質の膨化進行,眼圧コントロールの悪化を認めたため,2020年C8月C6日右眼トラベクトーム+眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術(25ゲージ)を施行した.残存した.の赤道部から前部硝子体に膨張した水晶体・硝子体が絡んでおり,眼内レンズと.を残したまま残存水晶体のみを完全に処理するのは困難と判断,眼内レンズ摘出・強膜内固定も行った.術中所見としては,残存水晶体皮質は白色に膨化しており,水晶体.ごと除去した.前房出血は少量であった.術後経過:術翌日に右眼眼圧C36CmmHgと一過性の上昇を認めたが,タフルプロストとブリンゾラミド・チモロール配合薬の再開により術後C2日目には右眼眼圧C15CmmHgと速やかに下降が得られ,術後炎症も比較的軽度であった.術後C8日目に右眼眼圧C15CmmHg,VD=0.9Cp(1.2C×IOL×sph+0.50D(cyl.1.75DAx75°)で,退院とした.外来でも眼圧上昇なく経過,前医へ紹介とした.II考按水晶体起因性続発緑内障のメカニズムとして,水晶体小片による物理的線維柱帯閉塞や免疫反応・炎症によるアナフィラキシー機序などがあると考えられる1).水晶体小片による物理的線維柱帯閉塞は水晶体.外摘出術,超音波水晶体乳化吸引術,YAGレーザー後.切開術,穿孔性水晶体外傷後などで発生した水晶体小片が線維柱帯間隙を閉塞することで生じる1).免疫反応・炎症によるアナフィラキシー機序では,水晶体物質を異物と認識し,免疫機序によって炎症を生じ眼圧上昇が発症する.既報における水晶体起因性続発緑内障は,手術後数日以内の発症が多数である1).治療は残存水晶体皮質除去などの外科的加療例が中心であることが多く,本症例のような遅発性水晶体起因性続発緑内障の報告は少ない.Barnhorstらは術後C65年を経て発症した水晶体小片緑内障を報告している6).また,多田らは術後C10年以上経過して発症したC4例を報告している7).そのうちC2例は抗炎症および抗緑内障薬点眼・内服加療で軽快,1例はプラトー虹彩形状を認めレーザー隅角形成術で加療,1例は水晶体遺残物を水晶体.とともに除去し,脱臼眼内レンズ摘出/縫着,トラベクレクトミーで加療を行っており,トラベクトームのような流出路手術による改善例の報告はなかった.Konoらはトラベクトームの術後成績には緑内障の病型は有意には影響しないと報告しているが8),流出路手術は.性緑内障やステロイド緑内障において原発開放隅角緑内障に対してよりも大きな眼圧下降効果が得られるという報告もみられ9,10),まだ結論は出ていない.流出路手術は一般的にステロイド緑内障を除き,続発緑内障には有効性が低いとされているが,これはCSchlemm管内腔の閉鎖が成立していることが影響していると考えられる.今回の症例の眼圧上昇機序は,線維柱帯路に近年になって膨化した水晶体線維や反応性物質が沈着し,流出路抵抗が上がったためと考えられる.眼圧上昇が急速に発症したが,発症から外科的治療までが比較的短期間であり,Schlemm管内の器質的閉塞が完成しなかったため,トラベクトームが有効であった可能性が考えられた.このため,水晶体起因性の続発開放隅角緑内障でも,発症から比較的短期間で,Schlemm管腔の閉鎖が発症する前には流出路手術が有効な場合があると考えられた.既報11)では残存水晶体皮質の除去のみで眼圧が正常化した報告があるが,本症例では術後も眼圧コントロールのためにタフルプロストとブリンゾラミド・チモロール配合薬の継続的処方が必要であったため,なんらかの緑内障手術は必要であった可能性が高い.CIII結論外傷性白内障の手術からC30年を経過して,誘因なく発症した遅発性水晶体起因性続発緑内障に対し,トラベクトーム手術と眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術を行い,良好な術後経過を得た.水晶体起因性続発緑内障の眼圧上昇例において,開放隅角眼ではトラベクトームが有効な可能性がある.文献1)RichterCU:Lens-inducedopen-angleglaucoma.In:Theglaucomas(edbyRitchR,ShieldsMB,KrupinT)C,Vol2,2ndCed,p1023-1031,Mosby,StLouis,19962)PandeM,DabbsTR:IncidenceoflensmatterdislocationduringCphacoemulsi.cation.CJCCataractCRefractCSurgC22:C737-742,C19963)KageyamaCT,CAyakiCM,COgasawaraCMCetal:ResultsCofCvitrectomyCperformedCatCtheCtimeCofCphacoemulsi.cationCcomplicatedCbyCintravitrealClensCfragments.CBrCJCOphthal-molC85:1038-1040,C20014)AasuriMK,KompellaVB,MajjiAB:RiskfactorsforandmanagementCofCdroppedCnucleusCduringCphacoemulsi-.cation.JCataractRefractSurgC27:1428-1432,C20015)TienT,CrespoMA,MilmanTetal:Retainedlensfrag-mentpresenting32yearsaftercataractextraction.AmJOphthalmolCaseRepC26:2022-06-016)BarnhorstCD,CMeyersCSM,CMyersT:Lens-inducedCglau-comaC65CyearsCafterCcongenitalCcataractCsurgery.CAmJOphthalmolC118:807-808,C19947)多田香織,上野盛夫,森和彦ほか:白内障術後に生じた遅発型水晶体起因性続発緑内障のC4例.あたらしい眼科C30:569-572,C20138)KonoY,KasaharaM,HirasawaKetal:Long-termclini-calCresultsCofCtrabectomeCsurgeryCinCpatientsCwithCopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC258:C2467-2476,C20209)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndromeCArchOphthalmolC111:1653-1661,C199310)IwaoK,InataniM,TaniharaH:Successratesoftrabecu-lotomyCforCsteroid-inducedglaucoma:aCcomparative,Cmulticenter,retrospectivecohortstudy.AmJOphthalmolC151:1047-1056,C201111)KeeC,LeeS:Lensparticleglaucomaoccurring15yearsaftercataractsurgery.KoreanJOphthalmolC15:137-139,C2001C***