———————————————————————-Page1538あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(00)538(106)0910-1810/09/\100/頁/JCLS42回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科26(4):538541,2009cはじめに潰瘍性大腸炎は特発性の炎症性腸疾患で,皮膚病変,関節病変,肝病変などの多臓器にわたる多彩な症状を呈し,眼合併症は3.511.8%にみられるといわれている1).非肉芽腫性虹彩毛様体炎が多くみられるが,汎ぶどう膜炎の報告もある2).一方,潰瘍性大腸炎に真菌性眼内炎を合併したとする症例はまれであり,わが国での報告は過去に一報のみである3).今回筆者らは,潰瘍性大腸炎加療中に真菌性眼内炎を発症し,その治癒過程で汎ぶどう膜炎を合併したと思われるまれな症例を経験したので報告する.I症例患者:59歳,男性.主訴:右眼変視.〔別刷請求先〕石﨑英介:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:EisukeIshizaki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,TakatsukiCity,Osaka569-8686,JAPAN潰瘍性大腸炎に真菌性眼内炎と汎ぶどう膜炎を合併した1例石﨑英介福本雅格藤本陽子佐藤孝樹高井七重南政宏植木麻理池田恒彦大阪医科大学眼科学教室EndogenousFungalEndophthalmitisandPan-UveitisinaCaseofUlcerativeColitisEisukeIshizaki,MasanoriFukumoto,YokoFujimoto,TakakiSato,NanaeTakai,MasahiroMinami,MariUekiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege潰瘍性大腸炎に真菌性眼内炎と汎ぶどう膜炎を合併した症例を経験した.症例は59歳,男性で,潰瘍性大腸炎にてステロイド経静脈投与を受けていた.初診時両眼眼底に多発性の白斑を認めた.その後左眼白斑の拡大および硝子体混濁が出現し,真菌性眼内炎を疑い抗真菌薬の点滴を開始したが硝子体混濁が増悪したため,硝子体手術を施行した.術後炎症は速やかに消退し経過良好であったが,術5日後に急激な左眼硝子体混濁の再発を認めた.真菌性眼内炎の再燃を疑い,左眼硝子体再手術を施行した.術中,真菌性眼内炎の網脈絡膜病巣は鎮静化しており,再手術後炎症は消退した.本症例では,真菌性眼内炎が治癒する過程で潰瘍性大腸炎に続発する汎ぶどう膜炎が発症したものと考えられる.汎ぶどう膜炎に対しては硝子体手術は結果的に不要であった可能性もあるが,眼底が透見不能であったため,診断目的としても硝子体手術は有用であったと考える.Wereportacaseofulcerativecolitiswithendogenousfungalendophthalmitisandpan-uveitis.Thepatient,a59-year-oldmalewithulcerativecolitis,wastreatedwithcorticosteroid.Hislefteyeshowedwhitemassandvitre-ousopacity;theendophthalmitisprogresseddespitetreatmentwithantifungalagents.Weperformedvitreoussur-geryonhislefteye.Theinammationreducedsoonaftersurgery,butat5daysaftertheoperationheagainpre-sentedwithmassivevitreousopacity.Wesuspectedthereccurenceoffungalendophthalmitisandagainperformedvitreoussurgery,butthefundusndingsshowedchorioretinalscarringandnoinammatorylesion.Inthiscase,wesusupectthatthepan-uveitissecondarytotheulcerativecolitisoccurredinthecourseoffungalendophthalmi-tishealing;vitreoussurgerywasusefulnotonlyfortreatment,butalsofordiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):538541,2009〕Keywords:潰瘍性大腸炎,真菌性眼内炎,汎ぶどう膜炎,硝子体手術.ulcerativecolitis,fungalendophthalmitis,pan-uveitis,vitreoussurgery.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009539(107)現病歴:平成8年他院内科にて潰瘍性大腸炎と診断された後,再燃,寛解をくり返していた.平成19年10月17日より発熱,頸部リンパ節腫脹が出現したため,10月26日からプレドニゾロン60mgの経静脈投与を受けていた.11月初めから右眼変視を自覚したため,11月6日当科紹介初診となった.初診時所見:初診時視力は右眼矯正0.8,左眼矯正1.0,眼圧は右眼10mmHg,左眼12mmHg,中間透光体は両眼に軽度白内障を認めたが,前房内および硝子体中に炎症細胞は確認できなかった.眼底所見は右眼黄斑部耳下側に白色の隆起性病変を認め,変視の自覚症状はこれによるものと考えられた.両眼とも上方に白色の滲出斑を認めた(図1).経過:11月21日再診時には左眼滲出斑の拡大および著明な硝子体混濁が出現し(図2),真菌性眼内炎を強く疑いホスフルコナゾール(プロジフR)400mgの点滴を開始した.点滴開始後,右眼の病変は速やかに瘢痕化したが,左眼硝子体混濁はさらに増悪し,著明な結膜充血,前房内の多数の炎症細胞,虹彩後癒着もみられたため,11月30日左眼超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術および硝子体切除術を施行した.術中,網膜面上にはフィブリン析出によると考えられる膜様物が全面に付着していたため,ダイアモンドダストイレーサーで周辺部に向かって可及的に除去した.下方の白色滲出性病巣は無理に除去しようとすると裂孔を形成する危険性があるため,そのまま残存させた.手術時,灌流前に採取した硝子体液中のb-D-グルカンは394.3pg/ml(血中基準値:11.00pg/ml)であった.また,硝子体細胞培養にてCandidaalbicansが検出された.術前に測定した血中b-D-グルカンは10.95pg/mlと基準値上限程度であった.術後,炎症は速やかに消退し,経過良好であったが,術5日後に急激な左眼硝子体混濁の再発を認めた.前眼部には結膜充血を認め,前房内の細胞数が著明に増加しており,硝子体内は多数の炎症細胞で白色に混濁していたが,明らかなフィブリンの析出は認めなかった.真菌性眼内炎の再燃を疑い,12月7日左眼硝子体再手術を施行した.再手術の術中所見では,下方の滲出斑は鎮静化していた.周辺部にも特に残存硝子体図1初診時両眼眼底写真(平成19年11月6日)右眼黄斑部耳下側に白色の隆起性病変を認め,両眼とも上方に白色の滲出斑を認める.図2増悪時左眼眼底写真(平成19年11月21日)左眼滲出斑の拡大および著明な硝子体混濁が出現している.———————————————————————-Page3540あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(108)は認めず,真菌性眼内炎が原因と考えられる炎症の再燃所見を認めなかった.ステロイド投与は真菌性眼内炎の治療を開始した時点で内科に依頼して60mgから漸減しており,炎症再燃の2日前である12月3日に中止となっていた.抗真菌薬の投与はホスフルコナゾール(プロジフR)400mg点滴を11月21日から12月21日まで続行した後,12月28日までフルコナゾール(ジフルカンR)400mg内服を行った.経過中,潰瘍性大腸炎の症状には特に変化を認めなかった.再手術後炎症は速やかに消退し,平成20年2月19日現在,矯正視力は右眼1.5,左眼1.0と改善している.術後眼底は両眼ともに滲出性病巣は瘢痕化している(図3).前眼部にも,虹彩後癒着や前房内炎症を認めていない(図4).II考按潰瘍性大腸炎に合併するぶどう膜炎は非肉芽腫性前部ぶどう膜炎が特徴的で,後眼部病変は少ないとされている4).わが国での十数例の報告を検討したところ,虹彩毛様体炎は大半の症例でみられ,網膜血管炎や乳頭浮腫などの眼底病変も半数以上の症例で認められた5)とされている.本疾患の原因は不明であるが,自己抗体がぶどう膜の血管内皮細胞を障害することや免疫複合体によりぶどう膜炎が惹起されるのではないかと考えられている.眼症状と腸管症状の活動性,罹病期間の関連性の有無については意見が分かれているが,一般的に副腎皮質ステロイド薬の治療に反応がよく,視力予後は良好とされている.一方,真菌性眼内炎は,肉芽腫性脈絡膜炎で,約90%が経中心静脈高カロリー輸液(intravenoushyperalimenta-tion:IVH)使用例とされている6)が,副腎皮質ステロイド投与中などの免疫力の低下した状態での発症も報告されている7,8).その原因は腸管粘膜の機能が低下している場合に,通常では通過できない腸管壁バリアを真菌が通過して,血管やリンパ管に侵入するのではないか,と考えられている7).今回の症例においても,副腎皮質ステロイド投与による免疫力の低下,および潰瘍性大腸炎に伴う腸管機能低下が真菌性眼内炎の原因となったと考えられる.真菌性眼内炎の確定診断は眼内から真菌が分離・培養されることであるが,硝子体培養の陽性率は3050%,血液培養の陽性率は50%程度と低く,硝子体中b-D-グルカン測定の診断への有用性が報告されている9).硝子体中のb-D-グルカンの基準値は10pg/mlとする報告があり10),今回の症例でも,硝子体液からCandidaalbicansが検出され,確定診断が可能であったが,硝子体液中のb-D-グルカンも394.3pg/mlと基準値を大幅に上回っていた.今回の症例では,初発の眼内炎については臨床所見より真菌性眼内炎を強く疑い,抗真菌薬の投与にても症状の改善がないため,硝子体手術に踏み切った.術中に採取した硝子体液の培養より真菌性眼内炎の確定診断が可能であり,術翌日より炎症は速やかに消退し,術後経過良好で硝子体手術が効果的であったと思われた矢先に炎症の再発を認めた.再発時の炎症は強く,硝子体中の大量の炎症細胞のため眼底は透見不能であった.初回手術時の残存硝子体を足場とした真菌性眼内炎の再発を疑い,硝子体再手術を行ったが,真菌性眼内炎の網脈絡膜病巣は鎮静化しており,眼内の所見からは真菌性眼内炎の再発は否定的であった.そこで,2回目の炎症は,真菌性眼内炎が治癒する過程で潰瘍性大腸炎に続発する汎ぶどう膜炎が発症したものである可能性が高いと考えた.今回のタイミングで続発性汎ぶどう膜炎が発症した原因としては,真菌性眼内炎の治療を開始した時点からステロイドの投与を漸減し,ちょうど炎症再燃の2日前に中止となっていたことから,ステロイド投与によって食い止められていた炎症がステロイドの減量,中止に伴い出現した可能性も考え図3術後左眼眼底写真(平成19年12月26日)両眼ともに滲出性病巣は瘢痕化している.図4術後左眼前眼部写真(平成20年1月29日)虹彩後癒着や前房内炎症を認めていない.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009541(109)られた.汎ぶどう膜炎に対しては硝子体手術は結果的に不要であった可能性もあるが,眼底が透見不能であったため,真菌性眼内炎の状態を確認し,続発性汎ぶどう膜炎の診断を下すために硝子体手術は有用であったと考えられた.文献1)HanchiFD,RembackenBJ:Inammatoryboweldiseaseandtheeye.SurvOphthalmol48:663-676,20032)越山健,中村宗平,田口千香子ほか:潰瘍性大腸炎に合併した汎ぶどう膜炎の3例.臨眼60:1237-1243,20063)高橋明宏,鹿島佳代子,明尾康子ほか:潰瘍性大腸炎加療中に合併したと思われるカンジダ眼内炎の1例.眼臨81:357-361,19874)小暮美津子:腸疾患とぶどう膜炎.ぶどう膜炎(増田寛次郎,宇山昌延,臼井正彦ほか編),p282-287,医学書院,19995)唐尚子,南場研一,村松昌裕ほか:大量の線維素析出を伴うぶどう膜炎を発症した潰瘍性大腸炎の1例.臨眼59:1609-1612,20056)松本聖子,藤沢佐代子,石橋康久ほか:わが国における内因性真菌性眼内炎─19871993年末の報告例の集計─.あたらしい眼科12:646-648,19957)薬師川浩,林理,東川昌仁ほか:経中心静脈高カロリー輸液(IVH)の既往がない内因性真菌性眼内炎の2症例.眼紀54:139-142,20038)呉雅美,西川憲清,三ヶ尻研一:中心静脈栄養の既往がないにもかかわらず真菌性眼内炎が疑われた1例.あたらしい眼科23:225-228,20069)若林俊子:真菌性眼内炎.眼科プラクティス16.眼内炎症診療のこれから(岡田アナベルあやめ編),p90-93,文光堂,200710)真保雅乃,伊藤典彦,門之園一明:硝子体液中b-D-グルカン値の臨床的意義の検討.日眼会誌106:579-582,2002***