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Florid Diabetic Retinopathy の1 例

2021年5月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科38(5):588.594,2021cFloridDiabeticRetinopathyの1例石郷岡岳喜田照代大須賀翔河本良輔佐藤孝樹小林崇俊池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CACaseofReversalFloridDiabeticRetinopathyGakuIshigooka,TeruyoKida,ShouOosuka,RyohsukeKohmoto,TakakiSato,TakatoshiKobayashiandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC目的:Floriddiabeticretinopathy(FDR)は若年女性に多く,線維性増殖膜を伴わずに視神経乳頭周囲に隆々とした放射状の新生血管を認める病態で,急速に網膜症が悪化しやすいとされている.今回筆者らはCFDRのC1例を経験したので報告する.症例:19歳,女性.近医にて糖尿病網膜症を指摘され大阪医科大学附属病院眼科紹介受診となった.初診時視力は両眼とも矯正C1.0で,自覚症状はとくに認めなかった.11歳時にC1型糖尿病を指摘されていたが,血糖コントロール不良でCHbA1cはC12%,定期的な眼科受診も受けていなかった.眼底は両眼とも視神経乳頭周囲に放射状の太い新生血管を認めたが黄斑浮腫はみられなかった.フルオレセイン蛍光造影検査では新生血管からの漏出を認めた.ただちに汎網膜光凝固を開始した.同時に内科にて持続皮下インスリン注入療法(continuoussubcutaneousinsu-lininfusion:CSII)が開始され,HbA1cは徐々に低下し,8%程度になった.その後右眼に後部硝子体.離の進行による硝子体出血をきたしたが,自然吸収した.初診C1年C3カ月後の時点で網膜症は鎮静化し,矯正視力は両眼ともC1.0を維持している.結論:FDRのC1例を経験した.早期の網膜光凝固と,CSIIによる厳格な血糖コントロールがCFDRの進行抑制に有効であったと考えられるが,今後も注意深い経過観察が必要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofC.oridCdiabeticretinopathy(FDR).CCasereport:AC19-year-oldCfemaleCwasCreferredtoourhospitalduetodiabeticretinopathy.Sincetheageof11,shehadpoorlycontrolledandveryunsta-bletype1diabetes.Shehadnotundergoneregularophthalmologyexaminations,andherHbA1cwas12%.Oph-thalmoscopicCexaminationCrevealedCthatCherCbest-correctedCvisualacuity(BCVA)wasC1.0CinCbothCeyes,CandCthatCsheChadCnoCsymptoms.CHowever,CfundusCexaminationCshowedCretinalCneovascularizationCradiallyCaroundCtheCopticCdiscinbotheyes.Fluoresceinangiographyshowedsomeleakagefromtheneovascularizations,andpanretinalpho-tocoagulationwasimmediatelyperformedinbotheyes.Simultaneously,aninternistatourhospitalinitiatedcontin-uoussubcutaneousinsulininfusion(CSII)therapy,andtheHbA1cgraduallydeclinedto8%.VitreoushemorrhageoccurredCdueCtoCtheCprogressionCofCposteriorCvitreousCdetachment,CyetCitCwasCspontaneouslyCabsorbed.CAtC1-yearCand3-monthspostinitialpresentation,herFDRhasimprovedandBCVAinbotheyeshasbeenmaintainedat1.0.Conclusion:WeCreportCaCyoungCpatientCwithCFDRCinCwhomCearlyCretinalCphotocoagulationCandCgoodCandCstableCmetaboliccontrolofdiabetesviaCSIIwase.ectiveinsuppressingtheprogressionofFDR.However,strictfollow-upisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(5):588.594,C2021〕Keywords:.orid糖尿病網膜症,若年女性,増殖糖尿病網膜症,1型糖尿病,汎網膜光凝固..oriddiabeticreti-nopathy,youngfemale,progressivediabeticretinopathy,type1diabetes,panretinalphotocoagulation.Cはじめに1972年にCBeaumontとCHollowsが急速に進行する予後不良CFloridCdiabeticretinopathy(FDR)は増殖糖尿病網膜症のCPDRの特殊型を報告し,急激な虚血に対する二次性変化(progressiveCdiabeticretinopathy:PDR)の特殊型である.であると提唱した1).1976年にCKohnerらはC1型糖尿病,40〔別刷請求先〕石郷岡岳:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:GakuIshigooka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANC歳未満,非増殖糖尿病網膜症からCPDRまたはその危険がきわめて高い状態に至るまでC6カ月未満で進行するこの特殊型をCFDRとした2).Lattanzioらはその危険因子として若年(平均C27歳),女性,インスリン依存性糖尿病の罹病期間がC15年以上であること,血糖コントロールの不良をあげている3).FDRでは両眼性に視神経乳頭周囲に隆起性で「サンゴ状」とも称される4)放射状の新生血管を認める.フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)ではこの新生血管は通常よりも漏出が軽度なことがあるため注意が必要で3.5),また黄斑浮腫の合併の程度も症例による差が大きい6).一般に,FDRの発症早期は視力良好であるが,急速に網膜症が悪化しやすいとされている1.5).そのため,早期診断と適切な汎網膜光凝固(panretinalCphotocoagulation:PRP),必要に応じて硝子体手術の選択が重要となる3.7).今回筆者らはCFDRと考えられる若年女性のC1例について経験したので報告する.CI症例患者:19歳,女性.身長C162.2cm,体重C63kg,BMI(bodymassindex)24.主訴:自覚症状なし.家族歴:特記事項なし.既往歴:出生時特記事項なし.現病歴:8年前にC1型糖尿病と診断を受け,強化インスリン療法が開始されたが,血糖コントロールは不良で,病識にも乏しく,HbA1cはC12%程度で推移していた.他院と当院で計C4回教育入院したが,退院後血糖コントロール状況は再度増悪し改善しなかった.Ca3年前に持続皮下インスリン注入療法(continuoussubcu-taneousCinsulininfusion:CSII)であるセンサー付ポンプ療法が導入されたが,本人の病識や治療への意欲が薄く,操作の煩雑性などを理由に数カ月で中止となった.血糖コントロールの改善はみられず,低血糖発作を月に数回繰り返していた.7年前より近医眼科に通院を開始し,年C1回程度受診していた.2018年C6月近医受診時,両眼に点状,しみ状出血を生じており単純糖尿病網膜症と診断された.2019年C2月末,両眼視神経乳頭周囲に著明な放射状の新生血管と左眼には視神経乳頭上に増殖膜がみられ,大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)紹介となった.初診時所見:初診時視力CVD=1.2,VS=0.8(1.5C×.1.5D).眼圧CRT=16CmmHg,LT=19CmmHg.前眼部中間透光体に異常なく,虹彩に新生血管はみられなかった.眼底検査で両眼視神経乳頭周囲に放射状に伸長する新生血管を認め,左眼は視神経乳頭上に線維血管性増殖膜を伴っていた.両眼に多数のしみ状出血を認めるものの硬性白斑,軟性白斑はみられず,視神経乳頭周囲以外に明らかな新生血管は認めなかった(図1).両眼の光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomog-raphy:OCT)では,明らかな糖尿病黄斑浮腫は認められず,中心窩陥凹は保たれていた(図2).FAを施行したところ,両眼中間周辺部に無灌流領域を生じていた.網膜新生血管からの漏出を認めたが,漏出の程度は軽度であった(図3).経過:当科初診時,患者より就職活動中で定期的な通院が困難であるとの申し出があったが,眼科だけでなく当院代謝内科の定期的な通院を指示した.初診時よりCPRPの必要性を説明したが,内科治療に専念したいとの患者希望により,PRPの同意は得られなかった.しかし,同年C4月右眼飛蚊症を自覚,右眼後極部に網膜前出血を生じていた.患者よりCb図1初診時眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼とも視神経乳頭から放射状に伸長する新生血管を認める.左眼は線維血管性増殖膜を認める.b図2フルオレセイン蛍光造影検査の写真a:右眼,Cb:左眼.中間周辺部に網膜無灌流域を認めるが,視神経乳頭周囲の新生血管からの漏出は比較的軽度である.糖尿病黄斑浮腫も併発している.PRPの積極的希望があったため同日右眼よりCPRPを開始した.左眼は同年C5月初めよりCPRPを開始し両眼ともにC1,000発程度(アルゴンレーザーにてC150CmW,250Cμm,200Cmsec,yellow,SuperQuadレンズ)照射された(図4).同年C7月より内科にてCCSIIが再開され,HbA1cは徐々に低下しC8%程度まで改善した.その後患者の希望によりCCSIIは中止となったが,強化インスリン療法にて血糖値は悪化せず同程度で推移している.初診C1年C3カ月後の時点で両眼の新生血管は初診時に比べて退縮傾向であり,糖尿病網膜症は鎮静化した(図5).矯正視力は両眼ともにC1.0を維持しており,現在もHbA1cは8%程度で推移している.CII考按若年女性のコントロール不良C1型糖尿病患者におけるFDRのC1例を経験した.本症例においては早期の網膜光凝固と,CSIIによる厳格な血糖コントロールがCFDRの進行抑制に有効であったと考えられた.FDRは詳細な発症機序について明らかにされていないが,広範で急速な血液網膜関門の破綻を生じる虚血変化により著明な新生血管を生じると考えられている1.5).Kohnerらは,図3OCT画像a:右眼,b:左眼.FAで蛍光漏出を認めるが,OCTでは中心窩陥凹は保持されていた.図4PRP施行後の眼底写真a:右眼,b:左眼.右眼はCPRP施行後に硝子体出血をきたした.硬性白斑の出現は認めなかった.図5現在(初診より1年3カ月後)の眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼新生血管は退縮傾向であり,右眼硝子体出血は吸収されている.血中成長ホルモン(growthhormone:GH)濃度高値が原因とする仮説を示し,かつてCPDRの治療であった下垂体焼灼術の有効性を報告した2).ただし下垂体破壊術はその副作用の面から現在,標準治療とはなっていない3).わが国においても高取らが乳頭周囲に新生血管を伴うCPDRのC4例に下垂体破壊術を施行した症例を報告し,有効例における内分泌機能検査ではアルギニン負荷後のCGH抑制を認めたとしている8).Kitanoらは低血糖発作を繰り返すC2型糖尿病のCFDRのC2例において血清中のインスリン様増殖因子(insulinlikegrowthfactor:IGF)-1の濃度上昇と硝子体中の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の濃度上昇を示し,FDRの発症につながる可能性を示した9).若年者におけるGH,IGF-1の血中濃度高値を背景として,広汎な血液網膜関門の破綻が生じることで硝子体中CVEGFの濃度が上昇し,FDRの特徴である著明な血管新生と網膜症の急速進行をきたしていると考えられる.なお上述した危険因子である女性に関して,その理由について既報では検討されていない.近年,網膜には性ホルモン受容体が存在し,その発生や維持に関与していることが明らかになり,網膜症における性ホルモンの関与が推察されている10).しかし,エストロゲン投与を行ったコホート研究で糖尿病網膜症の重症度や糖尿病黄斑浮腫の発症率との関連は認めなかったとする報告11)もあり,エストロゲンと糖尿病網膜症との関連は不明である.一方でCGH分泌量は性差による影響が大きく,男性は睡眠に関連したCGH分泌が顕著であるのに対して,女性では男性より高頻度のCGHのパルス状分泌がみられ12,13),男性に対するエストロゲン投与によりCGH分泌パターンが女性化したとの報告もある14).エストロゲンはGHの分泌や機能に関して調節機構を有している15)ため糖尿病網膜症,とくにCFDRの発症においてはエストロゲンが二次的に関与している可能性が考えられる.FDRでみられる視神経乳頭周囲の放射状の新生血管は通常よりも漏出が軽度なことがあり6),本症例でも蛍光漏出は少なかったので注意が必要である.FDRにおける新生血管も通常のCPDRでみられる新生血管と構造が異なるのかもしれない.過去の報告では,FDRの黄斑浮腫は,血液網膜関門の破綻につながる著明な虚血性変化が原因である可能性が指摘されており7),Gaucherらは通常の糖尿病黄斑浮腫はPRP後炎症性反応により増悪するが,FDRではC17例中C15眼でCPRPおよび血糖コントロールにより速やかに浮腫や視力が改善し再発はなかったと報告した6).若年発症で血糖コントロール不良のC1型糖尿病ではCFDRが生じていることがあり3),早期に眼底検査を施行し,内科的治療と並行してPRPなどの適切な眼科的治療の時期を逃さず施行することが重要と考えられる.FDRにおいてはCPRPを早急に施行することが治療の原則であるが,経過中に硝子体手術が必要となる症例も多く,予後は概して不良とされている1.7).また,通常のCPRPよりもより多くの照射数が必要とされる3,7).LattanzioらはCFDRに対してCPRPを施行した後に硝子体手術が必要となった群と,初診時より硝子体手術の適応であった群に分けて,その予後について比較検討をしており,最終視力が前者は平均0.47であるのに対して後者は平均C0.14と不良で,さらに失明に至る危険性も後者が前者のC6倍であったと示した3).PRPとトリアムシノロンアセトニド硝子体注射の併用が新生血管の蛍光漏出に対して有効であったとする報告16)や,硝子体手術とベバシズマブの併用が網膜症と視力両者の改善に有効であるとする報告もみられる17).FDRにおいては強化インスリン療法やCCSIIの有用性を示した報告が散見される18.20).CSIIに関してはインスリン頻回注射に比べてCHbA1cの改善と重症低血糖に対してメタ解析で優位性を示されており21),米国ではC1型糖尿病患者の40%がCCSIIを行っていると報告されている22)が,わが国におけるC2011年時点でのCCSIIの使用はC4,000.5,000人程度である23).CSIIを含むインスリン療法の向上により,血糖コントロール不良や低血糖発作が減少したことはCFDRの発症を低下させたことに寄与している可能性がある.ただしCCSII導入開始後網膜症が増悪し,FDRを生じた例もあり18,19)注意を要する.この悪化原因としては急速な血糖是正による網膜血流の低下が疑われている18).わが国においてもCCSII療法によりC10%で開始後C0.3.4年の短期間で前増殖糖尿病網膜症まで進展しCPRPを要したが,その後もCSII継続により網膜症が安定化したとする報告がある24).内科的治療のみで,FDRが自然に退縮したとする報告もあり25),早期の内科的治療の介入は視力を保持するうえでもとくに重要と考えられる.なお,わが国におけるCFDRの報告は少ない.上述した高取らの下垂体破壊術を施行した乳頭周囲に新生血管を伴う増殖糖尿病網膜症C4例8),KitanoらのC2型糖尿病のCFDR2例9)のほか,北室のC1例26)の報告がある.また,小嶋らはC57眼のCPDR症例のうちCPRPの施行後も急速に増悪するC.oridtypeがC21%であったと報告している27).わが国でのCFDRの報告が少ないことに関しては,GH,IGF-1の血中濃度の違いで日本人に生じにくい,あるいはCSIIを含めたインスリン療法の向上に伴う血糖コントロールの改善により発症が抑制されているなどの可能性がある.本症例は血糖コントロール不良の期間が長い若年C1型糖尿病の女性患者で典型的なCFDR像である.本症例においては発症前に一度CCSIIを試されているが,血糖是正に至っておらず,発症原因になったとは考えにくい.低血糖発作は網膜症悪化要因と疑われており18),以前より血糖コントロール不良でありかつ頻回に低血糖発作を生じていたことが,FDRを発症する原因であった可能性がある.PRPを施行するとともに内科的治療を行うことで血糖是正を長期的に図ることで新生血管の退縮,網膜症の鎮静化を得られた例であった.CIII結語今回,若年女性のコントロール不良C1型糖尿病患者におけるCFDRのC1例を経験した.本症例においては早期の網膜光凝固と,CSIIによる厳格な血糖コントロールがCFDRの進行抑制に有効であったと考えられた.若年発症のC1型糖尿病の患者にはCFDRが生じている可能性がある3)ので,長期の血糖コントロール不良,低血糖発作を繰り返す患者では定期的に眼底検査を施行し,初期CFDRを早期に診断し,内科的治療と並行してCPRPなどの適切な眼科的治療時期を逃さず施行することが重要である.本症例は今後も注意深い経過観察が必要である.文献1)BeaumontCP,CHollowsFC:Classi.cationCofCdiabeticCreti-nopathy,CwithCtherapeuticCimplications.CLancetC299:419-425,C19722)KohnerEM,HamiltonAM,JoplinGFetal:Floriddiabet-icCretinopathyCandCitsCresponseCtoCtreatmentCbyCphotoco-agulationorpituitaryablation.Diabetes25:104-110,C19763)LattanzioCR,CBrancatoCR,CBandelloCFMCetal:FloridCdia-beticretinopathy(FDR):aClong-termCfollow-upCstudy.CGraefesArchClinExpOphthalmol239:182-187,C20014)AhmadCSS,CGhaniSA:FloridCdiabeticCretinopathyCinCaCyoungpatient.JOphthalmicVisRes7:84-87,C20125)KingsleyR,GhoshG,LawsonPetal:Severediabeticret-inopathyinadolescents.BrJOphthalmolC67:73-79,C19836)GaucherCD,CFortunatoCP,CLecleire-ColletCACetal:Sponta-neousresolutionofmacularedemaafterpanretinalphoto-coagulationin.oridproliferativediabeticretinopathy.Ret-ina29:1282-1288,C20097)FavardCC,CGuyot-ArgentonCC,CAssoulineCMCetal:FullCpanretinalphotocoagulationandearlyvitrectomyimproveprognosisCofC.oridCdiabeticCretinopathy.COphthalmologyC103:561-574,C19968)高取悦子,高橋千恵子,劉瑞恵ほか:糖尿病性網膜症に対する下垂体破壊術施行例の臨床経過について.糖尿病C20:205-217,C19779)KitanoS,FunatsuH,TanakaYetal:VitreousLevelsofIGF-1CandCVEGFCinCFloridCDiabeticCRetinopathy.CInvestCOphthalmolVisSci46:347-347,C200510)GuptaPD,JoharKSr,NagpalKetal:Sexhormonerecep-torsCinCtheChumanCeye.CSurvCOphthalmolC50:274-284,C200511)KleinCBE,CKleinCR,CMossSE:ExogenousCestrogenCexpo-suresandchangesindiabeticretinopathy.TheWisconsinEpidemiologicCStudyCofCDiabeticCRetinopathy.CDiabetesCCareC22:1984-1987,C199912)ObalFJr,KruegerJM:GHRHandsleep.SleepMedRevC8:367-377,C200413)VanCCauterCE,CEsraTasali:EndocrineCphysiologyCInC:CRelationCtoCsleepCandCsleepCdisturbance.CprinciplesCandCpracticeCofCsleepmedicine(KrygerCMH,CRothCT,CDemenWC,eds)C.6thed,p203-204,Elsevier,201714)FrantzCAG,CRabkinMT:E.ectsCofCestrogenCandCsexCdif-ferenceConCsecretionCofChumanCgrowthChormone.CJCClinCEndocrinolMetabC25:1470-1480,C196515)LeungKC,JohannssonG,LeongGMetal:Estrogenreg-ulationCofCgrowthChormoneCaction.CEndocrCRevC25:693-721,C200416)BandelloCF,CPognuzCDR,CPirracchioC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パターンスキャンレーザーを用いた網膜光凝固部位のSD-OCT による経時的評価

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1435.1439,2013cパターンスキャンレーザーを用いた網膜光凝固部位のSD-OCTによる経時的評価平野隆雄赤羽圭太鳥山佑一家里康弘村田敏規信州大学医学部眼科学教室EvaluationofTime-dependentMorphologicChangesCausedbyPhotocoagulationwithPatternScanLaserTakaoHirano,KeitaAkahane,YuuichiToriyama,YasuhiroIesatoandToshinoriMurataDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine目的:パターンスキャンレーザーと従来条件で光凝固を行い,凝固斑の形態変化をスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)で経時的に比較検討する.対象および方法:対象は未治療の増殖前・増殖糖尿病網膜症患者7例10眼.パターン照射と従来照射で5眼ずつ汎網膜光凝固を施行.各症例で3カ所の凝固部位をSD-OCTで1分・20分・1週間後に測定.横径・縦径・網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚を比較検討した.結果:パターン照射群では凝固斑横径が1分後に比し20分後に拡大し,1週間後に縮小を認めた(各373±46μm,407±36μm,283±33μm).GCC厚は従来照射群で1分後に比し20分後に増加し1週間後に減少したが(各71±10μm,87±20μm,53±17μm),パターン照射群では観察期間に有意な変化を認めなかった(各55±11μm,54±8μm,59±8μm).結論:パターン照射では従来照射と異なり,照射20分後に横径は拡大し,1週間後には縮小した.また,GCC厚の経時的変化が少ないことからパターンスキャンレーザーによる光凝固では従来条件に比し網膜内層への障害が少ないと考えられた.Purpose:Usingspectraldomainopticalcoherencetomography(SD-OCT),tocomparetime-dependentmor-phologicchangesinretinallaserlesionsmadebypatternscanlaserwiththosemadebyconventionallaserphoto-coagulation.Methods:Studieswere10eyesof7patientswithtreatment-naiveproliferativeorpreproliferativediabeticretinopathy;5eyesweretreatedwithpatternscanlaserand5weretreatedwithconventionallaserpho-tocoagulation.Inalleyes,SD-OCTwasperformedat1minute,20minutesand1weekafterphotocoagulation,toevaluatethetransversediameter,longitudinaldiameterandganglioncellcomplex(GCC)thicknessofburnlesions.Results:Themeantransversediameterofthepatternscanlaserburnswasgreaterat20minutesthanat1min-ute,butsmaller1weekpostoperatively(373±46μm,407±36μm,and283±33μm,respectively).Inburnscreatedbypatternscanlaser,GCCthicknessremainedstableateachtimepoint(55±11μm,54±8μmand59±8μm,respectively),whereasinburnscreatedbyconventionallaserphotocoagulation,GCCshowedaneventualdecrease(71±10μm,87±20μmand53±17μm,respectively).Conclusions:Burnsmadebypatternscanlaserexpandoverthe.rst20minutesandlaterreduceinsize.ThestabilityofGCCthicknessfollowingpatternscanburnssug-geststhatthistypeoflasercausesconsiderablylessdamagetotheinnerretina.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1435.1439,2013〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固,網膜神経節細胞複合体,パターンスキャンレーザー,スペクトラルドメイン光干渉断層計.diabeticretinopathy,panretinalphotocoagulation,ganglioncellcomplex,patternscanlaser,spectraldomainopticalcoherencetomography.〔別刷請求先〕平野隆雄:〒390-8621松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakaoHirano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto390-8621,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(91)1435はじめにDiabeticRetinopathyStudyが糖尿病網膜症に対する有効性を報告して以降1),汎網膜光凝固術(panretinalphotoco-agulation:PRP)は,糖尿病網膜症治療のスタンダードとして広く臨床の場で用いられている.しかし,PRPの問題点として凝固時の疼痛や手術時間の長さなどが依然としてあげられる.そんななか,ショートパルス・高出力のパターン照射を特徴としたパターンスキャンレーザーのPASCALR(TOPCON社)登場以降,多くのパターンスキャンレーザーが市場に出てPRPのそれらの問題点は解決されつつある2.3).従来条件による凝固斑が経時的に拡大してatrophiccreepなどの問題を起こすのに対して,パターンスキャンレーザーによる凝固斑は月・年単位で縮小することが報告されている4).このため従来条件によるPRPでは凝固斑間隔が1.0.2.0凝固斑に設定されるが,パターンスキャンレーザーでは0.5.1.0凝固斑が推奨されている.ところが,実際の臨床の場では0.5凝固斑間隔でパターンスキャンレーザーによる照射を行うと照射後すぐの眼底検査で凝固斑が拡大することを経験し凝固間隔の設定にとまどうことがある.パターンスキャンレーザーによる凝固斑のOCTを用いた日・週単位での経時変化の報告はあるが,分単位での報告は筆者らの確認したところなされていない.また,動物実験でショートパルス・高出力照射は従来の照射条件に比し網膜神経線維層などの網膜内層への障害が少ないことが報告され5),タイムドメイン光干渉断層計を用いた糖尿病網膜症に対するPRPの凝固斑の検討においても同様の結果が報告されている6).本研究ではトラッキング機能を用いることにより,撮影時間が異なっても正確に網膜同一部位のより詳細な撮影が可能となったスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)を用いてパターンスキャンレーザーと従来条件による凝固斑の形態的変化を凝固直後より経時的に比較検討したので報告する.I対象および方法本研究は,信州大学附属病院倫理委員会の承認を得て行った.対象は2012年6月から10月に信州大学附属病院でPRPが必要と判断された未治療の増殖前糖尿病網膜症・増殖糖尿病網膜症7例10眼(平均年齢:58.6±10.6歳,性別:男性4例,女性3例).光凝固装置は全例でパターンスキャンレーザーを搭載したVixiR(NIDEK社)を使用し,凝固条件はパターンスキャンレーザーと従来条件によるPRPについて比較検討した既報と同条件に設定した7).5眼をパターン照射群とし比較検討を行う部位の凝固条件は凝固出力400mW,凝固時間0.02秒,3×3のパターンを用い,凝固間隔は0.5凝固斑間隔とした.対照として5眼を従来照射群とし凝固条件は凝固出力1436あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013図1SD-OCTにおける凝固斑横径,凝固斑縦径,GCC厚の評価(図3fと同じ従来照射群20分後のSD-OCT画像)内境界膜(赤色),内網状層/内顆粒層(黄色),網膜色素上皮/Bruch膜(紫色)で層別化.凝固斑横径として網膜色素上皮高輝度反射領域(A),凝固斑縦径として凝固斑中央部の内境界膜・網膜色素上皮/Bruch膜(B),GCC厚として内境界膜・内網状層/内顆粒層(C)を測定した.200mW,凝固時間0.2秒,凝固間隔は1.0凝固斑間隔とした.2群とも接触レンズはMainsterPRP165R(Ocular社)を用い,波長(577nm)と設定照射サイズ(200μm)は同条件とした.各症例において照射直後(1分後)に上方網膜アーケード血管直上の連続する3カ所の照射部位でSD-OCT(RS-3000R,NIDEK社)を用いて120枚のトレーシング加算画像を撮影(図2c,3c).撮影部位をベースラインとしてフォローアップ機能を用い20分後(実際の臨床の場で光凝固施行後,倒像鏡で凝固状況を確認するタイミングとして照射20分後を設定した),1週間後に同部位を撮影.取得した画像において1分後・20分後は網膜色素上皮において網膜外層における高輝度領域と連続した範囲,1週間後は網膜色素上皮における高輝度反射領域を計測し凝固斑横径とした.また,取得した画像を内境界膜,内網状層/内顆粒層,網膜色素上皮/Bruch膜で層別化し,凝固斑中央部で測定した内境界膜・網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)/Bruch膜間のカリキュレーターによる測定値を凝固斑縦径,内境界膜・内網状層/内顆粒層間の測定値を網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚とした.凝固斑横径,縦径そして中央網膜厚,網膜内層への影響を検討するためにGCC厚についてパターン照射群・従来照射群それぞれについて検討した(図1).統計処理はWilcoxon符号順位和検定(Wilcoxonsignedrankstest)を用いたノンパラメトリック検定で行い危険率5%以下(p<0.05)をもって有意差ありとした.II結果パターン照射群では照射1分後に灰白色の凝固斑が,20分経過後にはより鮮明な白色調となり拡大傾向を認めた.1週間後には凝固部位で色素沈着を認め,径は照射20分後に比し縮小傾向を認めた(図2a,b,d,e,g,h).従来照射群で(92)図2パターンスキャン群の眼底所見とSD-OCT画像a,b,c:照射直後(1分後),d,e,f:20分後,g,h,i:1週間後.a,d,g:カラー眼底写真.b,e,h:a,d,gの黒破線部位を拡大したもの.c,f,i図中の赤矢印は各凝固斑において計測した横径の両端を示す.照射1分後に灰白色の凝固斑が20分後にはより鮮明な白色調となり拡大傾向を示す.1週間後には凝固部位で色素沈着を認め,径は20分後に比し縮小傾向を示す.c,f,i:b,e,hの白線部位におけるSD-OCT画像.眼底所見と同様の経時的変化を認める.は照射1分後からパターン照射群より鮮明な白色調の凝固斑を認め,20分後の径の拡大は認められなかった.1週間後には凝固部位で色素沈着がみられたが,照射20分後と比し径の変化は認められなかった(図3a,b,d,e,g,h).SD-OCTの結果では,パターン照射群で凝固斑横径の平均値(標準偏差)は1分後373±46μm,20分後407±36μm,1週間後283±33μmで20分後は1分後に比し有意に拡大し,1週間後には有意な縮小を認めた(各p=0.0006,0.0007<0.01)(図2c,f,i,図4).一方,従来照射群において凝固斑横径は1分後481±47μm,20分後488±49μm,1週間後472±58μmで,経過中に有意な変化は認められなかった(図3c,f,i,図4).凝固斑縦径はパターン照射群で1分後233±13μm,20分後246±8μm,1週間後217±12μm,従来照射群は1分後268±33μm,20分後292±31μm,1週間後226±35μmで両群ともに20分後は1分後に比し有意に増加し(各p=0.0007,0.0008<0.01),1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.0015,0.0007<0.01).GCC厚はパターン照射群において1分後55±11μm,20分後54±8μm,1週間後59±8μmで観察期間中には有意な変化は認められなかったが,従来照射群では1分後71±10μm,20分後87±20μm,1週間53±17μmで凝固斑縦径と同様に,20分後は1分後に比し有意に増加し1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.007,0.0095<0.01)(図5).III考按パターンスキャンレーザーのパイオニアであるPASCALRは動物実験において同等の凝固斑を得るために必要な凝固出力と凝固時間を比較したところ,ショートパルス・高出力設定のほうが結果的に総エネルギーを少なくでき,凝固時の熱拡散を抑制するという結果をもとにBlumenkranzらによって開発された2).パターンスキャンレーザーの特長である1回の照射で複数の凝固斑を得ることができるパターン照射はPRPの問題点である長い手術時間と手術回数を減少させ,(93)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131437図3従来照射群の眼底所見とSD-OCT画像a,b,c:照射直後(1分後),d,e,f:20分後,g,h,i:1週間後.a,d,g:カラー眼底写真.b,e,h:a,d,gの黒破線部位を拡大したもの.c,f,i図中の赤矢印は各凝固斑において計測した横径の両端を示す.照射1分後(a)からパターン照射群より鮮明な凝固斑を認め,20分後(d)にも径の拡大は認めない.1週間後(g)には凝固部位で色素沈着を認めるが20分後(d)と比し径の変化は認められない.c,f,i:b,e,hの白線部位におけるSD-OCT画像.眼底所見と同様の経時的変化を認める.凝固斑横径(μm)600550500481472488450407400373350:凝固斑横径3002832502001分20分1週1分20分1週照射からの経過時間図4SD-OCTにおける凝固斑横径の経時的変化凝固斑横径はパターン照射群で,照射1分後に比し20分後に有意に拡大し1週間後に有意な縮小を認める(各p=0.0006,0.0007<0.01).従来照射群では経過中,有意な変化は認められなかった.ショートパルス・高出力設定による凝固時の熱拡散抑制は同じくPRPの問題点としてあげられる施行時の疼痛を有意に減少させた8).しかし,従来条件による凝固斑が拡大傾向を示す9)のに対し,パターンスキャンレーザーによる凝固斑は1週間,4週間と経時的に縮小することからパターンスキャンレーザーでPRPを行う際には凝固間隔を従来条件より小さくすることが推奨されている.ところが,実際の臨床の場では分単位でパターンスキャンレーザーによる凝固斑が拡大することを経験し凝固間隔の設定にとまどうことがある.今回のSD-OCTによる観察では,臨床の場での印象のとおりパターンスキャンレーザーによる凝固斑横径は1分後に比し,筆者らがレーザー後,倒像鏡で眼底を観察する時間帯として設定した20分後で有意に拡大し,1週間後には凝固斑横径が既報のとおり有意に縮小することが確認された.この結果からパターンスキャンレーザーを用いたPRPを行う際には凝固後数分の凝固径の拡大にとらわれず,凝固間隔を従来条件(1.0.2.0凝固斑)より小さくする(0.5.1.0凝固斑)1438あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(94)凝固斑縦径とGCC厚(μm)3503002502001501005001分20分1週1分20分1週照射からの経過時間図5SD-OCTにおける凝固斑縦径とGCC厚の経時的変化凝固斑縦径はパターン照射群,従来照射群ともに20分後で1分後に比し有意に増加し(各p=0.0007,0.0008<0.01),1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.0015,0.0007<0.01).GCC厚はパターン照射群で経過中,有意な変化は認められなかったが,従来照射群では中央網膜厚と同様に,20分後は1分後に比し有意に増加し1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.007,0.0095<0.01).ことが効果的な治療を行うために重要であることが示唆された.GCC厚が緑内障の視野障害と相関するという報告は多く,GCC厚は神経線維層・神経節細胞層障害の指標として用いられている10).PRPの標的は酸素需要の高い網膜色素上皮と視細胞であり,網膜内層,特に神経線維層・神経節細胞層への障害はより少ないことが望まれる.従来条件のPRPが網膜内層を障害すること11)やパターンスキャンレーザーによる照射は網膜内層への障害が少ないという報告6)は散見されるが,従来条件とパターンスキャンレーザーによる照射のGCC厚への影響についてSD-OCTを用いて検討した報告はいまだなされていない.今回筆者らは網膜内層への影響を比較するためにGCC厚についても検討を行った.従来照射では凝固斑縦径・GCC厚ともに1分後に比し20分後に有意に増加し1週間後に減少したのに対し,パターン照射では凝固斑縦径が同様の変化を示したが,GCC厚は経過中に著明な変化は認められなかった.この結果からパターンスキャンによる光凝固のほうが従来条件に比し神経線維層・神経節細胞層への障害が少ないことが示唆された.今回,筆者らが用いた凝固条件は過去の報告7)を踏まえて設定した.総エネルギーはパターン照射群で20ms,400mW(95)で8mJ,従来照射群で200ms,200mWで40mJとなる.この総エネルギーの差が凝固斑の経時的な形態変化と網膜内層への障害の差の要因の一つと考えられる.パターンスキャンレーザーを用いた反網膜光凝固を行う際にはこれらの従来条件との違いを踏まえることが効果的な治療のために重要と思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Prelim-inaryreportone.ectsofphotocoagulationtherapy.AmJOphthalmol81:383-396,19762)BlumenkranzMS,YellachichD,AndersenDEetal:Semiautomatedpatternedscanninglaserforretinalphoto-coagulation.Retina26:370-376,20063)Al-HussainyS,DodsonPM,GibsonJM:Painresponseandfollow-upofpatientsundergoingpanretinallaserpho-tocoagulationwithreducedexposuretimes.Eye22:96-99,20084)MuqitMM,GrayJC,MarcellinoGRetal:Invivolaser-tissueinteractionsandhealingresponsesfrom20-vs100-millisecondpulsePascalphotocoagulationburns.ArchOphthalmol128:448-455,20105)JainA,BlumenkranzMS,PaulusYetal:E.ectofpulsedurationonsizeandcharacterofthelesioninretinalpho-tocoagulation.ArchOphthalmol126:78-85,20086)植田次郎,野崎実穂,吉田宗徳ほか:網膜光凝固後の組織反応の光干渉断層計による評価─PASCALRと従来レーザーとの比較.臨眼64:1111-1115,20107)NagpalM,MarlechaS,NagpalK:Comparisonoflaserphotocoagulationfordiabeticretinopathyusing532-nmstandardlaserversusmultispotpatternscanlaser.Retina30:452-458,20108)MuqitMM,MarcellinoGR,GrayJCetal:PainresponsesofPascal20msmulti-spotand100mssingle-spotpanreti-nalphotocoagulation:ManchesterPascalStudy,MAPASSreport2.BrJOphthalmol94:1493-1498,20109)MaeshimaK,Utsugi-SutohN,OtaniTetal:Progressiveenlargementofscatteredphotocoagulationscarsindiabet-icretinopathy.Retina24:507-511,200410)RolleT,BriamonteC,CurtoDetal:Ganglioncellcom-plexandretinalnerve.berlayermeasuredbyfourier-domainopticalcoherencetomographyforearlydetectionofstructuraldamageinpatientswithpreperimetricglau-coma.ClinOphthalmol5:961-969,201111)LimMC,TanimotoSA,FurlaniBAetal:E.ectofdiabet-icretinopathyandpanretinalphotocoagulationonretinalnerve.berlayerandopticnerveappearance.ArchOph-thalmol127:857-862,2009あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131439

糖尿病網膜症に対する光凝固法の日欧間の差

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1429.1433,2013c糖尿病網膜症に対する光凝固法の日欧間の差廣瀬晶*1加藤聡*2北野滋彦*1*1東京女子医科大学糖尿病センター糖尿病眼科*2東京大学大学院医学系研究科眼科学教室Di.erencesbetweenJapanandEuropeinPhotocoagulationMethodforDiabeticRetinopathyAkiraHirose1),SatoshiKatou2)andShigehikoKitano1)1)DepartmentofDiabeticOphthalmology,DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyo,GraduateSchoolofMedicine糖尿病網膜症に対する光凝固法(対黄斑浮腫を除く)の日欧間の差の有無を調べるため,欧州と日本の施設に勤務する眼科医に対し文書を用いたアンケート調査を対面・聞き取り方式で行い,欧州では9名,日本では17名の計26名から回答を得た.日本では汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)の他に,蛍光眼底造影検査上の毛細血管無灌流域などの限局した領域に選択的に光凝固を開始し必要に応じ追加してゆく選択的光凝固(selectivephotocoag-ulation:S-PC)が広く考慮されるのに対し,欧州ではPRPのみでS-PCは考慮されず,光凝固の開始時期は遅い傾向であった.糖尿病網膜症に対する光凝固法には日欧間で差があるようで,しかもこの差の存在に両者とも気づいていない可能性が高い.自分の方法を再評価したりより良い治療を目指すために,比較糖尿病眼科学的な視点も重要と思われる.Toidentifyanydi.erencesbetweenJapanandEuropeintermsofphotocoagulationmethodfordiabeticretin-opathy(excludingdiabeticmacularedema),oneofus(AH)conductedaquestionnairesurveythatreceivedresponsesfrom9and17ophthalmologistsworkinginEuropeandJapan,respectively.Panretinalphotocoagulation(PRP)wasconsideredinbothregions,butselectivephotocoagulation(S-PC)wasconsideredonlyinJapan,neverinEurope,andphotocoagulationseemstohavebeeninitiatedlaterinEurope.Thereseemstobedi.erencesbetweenthetworegionsintermsofphotocoagulationmethodfordiabeticretinopathy.Moreover,bothregionsseemtobeunawareofthesedi.erences.Acomparativediabeticophthalmologicperspectivemaybeimportantintermsofrecheckingourownroutineophthalmicmethodsandseekingtoimprovethem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1429.1433,2013〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固,選択的光凝固,日欧の差,比較糖尿病眼科学.diabeticretinopathy,panretinalphotocoagulation(PRP),selectivephotocoagulation(S-PC),di.erencesbetweenJapanandEurope,com-parativediabeticophthalmology.はじめに増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR),またはその前段階の重症非増殖糖尿病網膜症(severenon-proliferativediabeticretinopathy:severeNPDR)に対する周辺部網膜への光凝固法(対黄斑浮腫を除く)として,後極部以外の眼底全周を凝固する汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)が世界的に認知されている1).日本ではこのPRPに加え,蛍光眼底造影検査上の毛細血管無灌流域(non-perfusionarea:NPA)などの限局した領域に選択的に光凝固を開始し,必要に応じ追加してゆく選択的光凝固(selectivephotocoagulation:S-PC)2,3)も広く施行されていると思われる.ところが,米国眼科学会の糖尿病網膜症ガイドライン4)に記載されている光凝固法は,黄斑浮腫に対するもの以外はPRPのみで,S-PCに類する凝固法への言及はなく,日本と海外で糖尿病網膜症に対する光凝固の方法に差があるようにみえる.今回アイルランドでの学会に参加する機会を得たので,特に欧州でのS-PCの状況は実際の臨床の現場でどうなのかと考え,日本と欧州との差がないかどう〔別刷請求先〕廣瀬晶:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学糖尿病センター糖尿病眼科Reprintrequests:AkiraHirose,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabeticOphthalmology,DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicine,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(85)1429MayIaskyousomequestionsaboutphotocoagulationforPDRorearlierstagesinyourdailyclinicalpractice(principallynotformacularedema)?1.Whendoyouinitiatethephotocoagulation?(multipleanswersallowed)□MildorModerateNPDR□SevereNPDR□Non-High-RiskPDR□High-RiskPDR2.Howdoyoucoagulate?(multipleanswersallowed)□PRP(panretinalphotocoagulation:scatterphotocoagulation)□Otherphotocoagulationmethod(s)Reference(PreferredPracticePatternGuidelinesofAAO,2008)“PRPisusedforthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.”“TheETDRSsuggestedthat…”MildorModerateNPDR…PRPshouldnotberecommended,providedthatfollow-upcouldbemaintained.SevereNPDRandNon-High-RiskPDR…PRPshouldbeconsidered.High-RiskPDR…PRPshouldnotbedelayed.BackgroundInJapan,asigni.cantnumberofophthalmologistsperform‘selectivescatterphotocoagulation’inwhichnonperfusionareas(NPA)con.rmedby.uorestinangiography(FA)arecoagulatedatsevereNPDRstage,intendingtoinhibititsprogressiontoPDR.3.WouldyouconsiderphotocoagulationontheNPAsshownbelow?□Yes□No□Other(JpnJOphthalmol56:52-59,2012)Thankyouforyourcooperation!図1質問票(蛍光眼底造影写真は,転載許可を得てJpnJOphthalmol56:p53の.g.1,2012を転載)1430あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013かアンケート調査を行い調べてみた.I対象および方法欧州の施設に勤務する眼科医に対し,第22回EASDec(EuropeanAssociationfortheStudyofDiabetesEyeComplicationsStudyGroup:欧州糖尿病学会眼合併症研究会)の2012meeting会場(アイルランド・ダブリン)で,また関東の施設に勤務する眼科医に対し東京での各種講演会会場で,同一の英文質問票(図1)を用いたアンケート調査を個別面接法・他記式(聴き取り方式)ですべて筆頭著者が行った.「あなたの日常診療でのPDRまたはその前段階への光凝固(対黄斑浮腫を除く)について」と前置きしたうえで,1)光凝固をはじめる時期,2)光凝固の方法,3)S-PCについて,の3項目について質問した(図1).米国眼科学会の糖尿病網膜症ガイドラインでの推奨を参考としてあげ,1)ではMildorModerateNPDR/SevereNPDR(ほぼ前増殖期と同等と日本では口頭で補足)/Non-High-RiskPDR/High-RiskPDRの4つを,また2)ではPRPと他の方法の2つの選択肢を提示し,複数回答可として尋ねた.3)については,欧州では背景として日本でのS-PC施行について説明したうえで,文献2)の標準写真を提示し光凝固施行を考慮する(consider)かどうか尋ねた.「No」の回答の場合,引用提示した標準写真のNPA領域はかなり小範囲であるため「この症例については」光凝固施行をconsiderしないと答えている可能性を考え,もっと病変の範囲が広い症例であってもS-PCの類の光凝固を行うことはないのかどうかを,口頭で追加して尋ねた.日本でも,標準写真の症例に限らず選択的光凝固施行を考慮するかどうかを尋ねた.II結果(表1)1.回答者の数と背景回答者数は,欧州では計9名(英国4名,アイルランド2名,フランス1名,デンマーク1名,ロシア1名),日本では計17名の総数26名であった.年齢や眼科医経験年数は原則として調べなかったが,アイルランドとロシアの各1名はそれぞれ眼科医になって5年目と3年目で,欧州の他の7名は推定40歳代以上でかなりベテランの眼科医と思われ,このうち英国2名,フランスとデンマーク各1名の計4名はEASDecの幹部クラスの医師であった.日本の17名は全員推定40歳代以上であった.勤務施設は,欧州の6名は大学または病院勤務と思われ,他の3名は不明であった.日本では9名が大学または病院勤務医で,8名は開業医であった.検者は欧州の9名全員,日本の開業医の4名とは面識がなかった.日本の回答者の出身教室は,関東圏の少なくとも7大学にわたると推定された.(86)表1回答のまとめ勤務国勤務施設いつ始めるか?光凝固法S-PC考慮?コメントなどフランス大学/病院PDR.PRPNosegmentalPCは効かない英国大学/病院PDR.PRPNo英国不明PDR.PRPNoPC前FA必ず施行/ガイドラインと現場で施行していることとは違うことも英国不明PDR.PRPNo英国大学/病院severeNPDR.PRPNoPCするときは×1,000.2,000のfullscatterアイルランド不明severeNPDR.PRPNoPRPするときは熟慮する/severeNPDRへのPCはfollowupできないときアイルランド大学/病院severeNPDR.PRPNo眼科医5年目デンマーク大学/病院severeNPDR.PRPNosectionalPCはエビデンスがない/severeNPDRへのPCは対眼PDRのときロシア大学/病院severeNPDR.PRPNo眼科医3年目日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes3/4象限以上のNPAに対しPC開始日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes3/4象限以上のNPAに対しPC開始日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRPNo昔はS-PC施行していた日本開業severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRP/otherYessevereNPDRへのPCはHbA1C10%以上のときなど日本開業severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRP/otherYesFA:.uoresceinangiography,HbA1C:GlycohemoglobinA1C,NPDR:non-proliferativediabeticretinopathy,PC:photocoagulation,PDR:proliferativediabeticretinopathy,PRP:panretinalphotocoagulation,S-PC:selectivephotocoagulation.2.光凝固についての回答1)の光凝固をはじめる時期については,欧州では英国の3名とフランスの1名の計4名はNon-High-RiskPDR以降と答えた.念のため口頭で確認したがsevereNPDRは否定したので,この4名は「常にPDR以降でしか施行しない」と思われる.他の5名はsevereNPDR以降と答えた.日本では17名全員がsevereNPDR以降と答えた.「常にPDR以降でしか施行しない」ことに関して,日欧間で有意な差を認めた(p<0.01:Fisher’sexacttest).2)の光凝固の方法については,欧州では9名全員がPRPのみであったのに対し,日本では17名全員がPDRに加え他の方法も選択し,日欧間で有意な差を認めた(p<0.01:Fisher’sexacttest).3)のS-PCについては,欧州では9名全員が明確にNoと答えた.このうち,フランスの1名とデンマークの1名(両者ともにEASDecの幹部)は,それぞれsegmentalPC,sectionalPCという具体的な用語をあげたうえで,すなわちS-PCに類する凝固法を明らかに認識したうえで否定した.しかし,他の欧州の回答者の多くではS-PC的な光凝固法についての概念自体をもっていないのではないか,という印象を受けた.日本では,17名中16名がS-PC施行を考慮することがあると回答し,S-PC考慮に関して日欧間で有意な差を認めた(p<0.01:Fisher’sexacttest).日本で現在はPRPしかしないとした開業医の1名も,以前はS-PCを施行していたと答えた.III考按今回の,PDRまたはその前段階への光凝固法(対黄斑浮腫以外)についての日欧でのアンケート調査からは,日本ではPRPの他にS-PC施行を考慮するのに対し,欧州ではPRPしか考慮せず,両者の間に差が認められた.また,欧州での凝固開始時期は日本より遅い傾向で,これらから欧州では,日本に比べ糖尿病網膜症がある程度進行するまで光凝固を行わず,凝固するときは「いきなりPRPを施行」している可能性が大きい.前述の米国眼科学会の糖尿病網膜症ガイドライン4)にはS-PCに類する光凝固法への言及はないため,併せて考えると,少なくともS-PCに関しては日本と欧米で光凝固法に差があることが推測される.今回の調査では,まったく面識のない欧州の眼科医に学会場で短時間のうちにアンケート調査を行うという制約があったため,サンプル数が特に欧州で9名と少ないことが問題で,結果の解釈には注意を要する.しかし,通常のアンケー(87)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131431ト調査では比較的多数の対象者に質問紙を渡し文章だけでのし広く調べてみると,必ずしも「欧=米」ばかりではないよ質問に対し自己記入で回答してもらうことが多いため,語句うにも思われる点である.たとえば,英国王立眼科学会の糖や言い回しの解釈の違いによる質問の誤解や回答者の集中力尿病網膜症ガイドライン7,8)をみると,TheNationalScreen-の低下などによる信頼性低下の問題がある.これに対し,今ingCommitteeのスクリーニング用網膜症分類(NSC-UK回はすべて1人の検者が個別面接・聞き取りの方法で追加のclassi.cation)で用いられるBackground/Preproliferative/説明・質問を適宜しながら行ったため,誘導尋問的効果の危Proliferativeという用語は,日本で使われる改変Davis分類険性はあるものの,回答の内容についての信頼性はかなり高と同じで,これについては「日≒英」⇔米である.また,いと思われる.EASDecは参加者約120名と小規模で,ア2005年版の同ガイドライン7)では,光凝固(=PRP)の適応カデミックななかにも非常にfriendlyな集まりであるためかと推奨されている網膜症病期はPDRのみで,この前段階と欧州の眼科医も皆集中して真摯に回答してくれたが,かなり思われるverysevereBDR(backgrounddiabeticretinopa-念を押して尋ねてみても,S-PCあるいはS-PCに類する凝thy)に対しては明確にNoと記されていた.PDRより前の固法については拍子抜けするほど9名全員がはっきりと否定病期での光凝固開始の余地がある日米3,4)と違い,これに関した.なお,このうち4名はオピニオンリーダー的な眼科医しては英⇔「日≒米」であったのではないかと思われる(なと思われた.日本では,出身教室や勤務施設で回答が異ならお,2012年12月に出された2012年版8)では,PRPはpre-ないかと注意して調べたが,少なくとも今回の範囲ではこれproliferativeに対して考慮されるべき,と米国のガイドライらにかかわりなく,予想どおり国内でS-PCが広く考慮されンと同じ表現4)に変更されている).考えてみれば当然のこていることが確認された.とだが,単に「日本と欧米」というわけではなく,「日」とアンケート調査をしてみて特に感じたのは,欧州では日本「欧」と「米」のそれぞれの間で違いや同じところがあり,で常識的なS-PCの概念自体があまり認識されておらず,知また,同じ英国内でもスコットランドでの網膜症分類が上記っているが施行しないのではなく,そもそも選択肢として意のNSC-UKclassi.cationと微妙に異なっている7,8)ことをみ識すらされていないことが多いのではないか,という強い印ると,「欧」のなかにも同様に多様性がありそうである.こ象であった.Francoisらは1977年に,無作為に汎光凝固すれらから類推すると,日本や欧米に限らず,さらにアジアやるrandomizedPRPに対比したdirectedPRPという名称でその他の地域を含めた世界中で,糖尿病眼科診療における考S-PC的な考え方を発表している5)が,筆者らが調べた限りえ方や方法にいろいろな差があり,しかも,互いにその差がでは,その後欧米ではこの方向での研究は進まなかったようあることに気がついていない可能性がある.日常診療におけである.米国をはじめ現在多くの国々で糖尿病網膜症ガイドる診断や治療の方法については,個々の医師がそのすべてのラインの重要な根拠となっているEarlyTreatmentDiabetic最適性を検証することは不可能なため,地域やグループごとRetinopathyStudyにおいても,PRPに関しては凝固密度をに意識されないまま同一化・慣例化してゆく傾向があると思変えた群間で比較したのみで,S-PC的に凝固範囲を変えてわれる.こうした状況のなかでは,他との差異を知ることにの比較はしていない6).現時点でS-PCはかなり日本独特のより,はじめて自分の位置を知り,自分では常識の,または方法である可能性が高く,隔離された環境で独自に進化し他常識だと思い込んでいる日頃の方法について改めて再確認やの世界とは異なっているという意味で,日本はガラパゴス化改良する機会が得られるわけで,この意味で「比較糖尿病眼しているのかもしれない.蛍光眼底造影検査施行への積極性科学」的な感覚を持つことが大切なのかもしれない.の違いが影響している可能性も考えられる.S-PCには,必最後に,協力して頂いたすべての回答者に深く感謝申し上要性が少ない症例に対し安易に施行されてしまうという欠点げます.も危惧される半面,PRPより侵襲が少ないため比較的早期からきめ細かく施行しやすいことによる利点も考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし少なくとも,光凝固に際してS-PCという選択肢をもっておくことは,糖尿病網膜症に対するより良い治療を考えるうえできわめて重要であり2),今後さらにS-PCについてのエビ文献デンスを示していくことが必要であると思われる.1)MohamedQ,GilliesMC,WongTY:Managementofdia-今回の結果をみるとき,もう一つ大事な点があげられる.beticretinopathy:asystematicreview.JAMA298:902-われわれはともすると無意識に欧=米と考え,「日本と欧米」916,2007すなわち日⇔「欧=米」と捉えがちで,確かに今回のS-PC2)TheJapaneseSocietyofOphthalmicDiabetology,Subcom-mitteeontheStudyofDiabeticRetinopathyTreatment:の結果に関してはそのとおりかもしれない.しかし,網膜症Multicenterrandomizedclinicaltrialofretinalphotocoag-の分類や光凝固の適応など糖尿病眼科の診療に関してもう少ulationforpreproliferativediabeticretinopathy.JpnJ1432あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(88)Ophthalmol56:52-59,20123)清水弘一:分担研究報告書平成6年度糖尿病調査研究報告書.厚生省,p346-349,19954)AmericanAcademyofOphthalmologyRetinaPanel,Pre-ferredPracticePatternGuidelines.DiabeticRetinopathyPPP-2008(4thprinting:October2012)(米国眼科学会糖尿病網膜症ガイドライン)http://one.aao.org/CE/PracticeGuidelines/PPP_Content.aspx?cid=d0c853d3-219f-487b-a524-326ab3cecd9a2013.2.11アクセス5)FrancoisJ,CambieE:Argonlaserphotocoagulationindiabeticretinopathy.Acomparativestudyofthreedi.er-entmethodsoftreatment.MetabOphthalmol1:125-130,19776)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Techniquesforscatterandlocalphoto-coagulationtreatmentofdiabeticretinopathy.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyReportno.3.IntOphthalmolClin27:254-264,19877)TheRoyalCollegeofOphthalmologists:GuidelinesforDiabeticRetinopathy2005(英国王立眼科学会糖尿病網膜症ガイドライン2005年版):www.rcophth.ac.uk/core/core_picker/download.asp?id=3412012.11.19アクセス〔文献8)の2012年版公開後はアクセス不能〕8)TheRoyalCollegeofOphthalmologists:GuidelinesforDiabeticRetinopathy2012(英国王立眼科学会糖尿病網膜症ガイドライン2012年版)http://www.rcophth.ac.uk/page.asp?section=451&sectionTitle=Clinical+Guidelines2013.2.11アクセス***(89)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131433