《第5回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科34(9):1305.1308,2017c涙.鼻腔吻合術鼻内法施行後に診断された涙.悪性腫瘍の4例佐久間雅史*1,2廣瀬浩士*1鶴田奈津子*1田口裕隆*1伊藤和彦*1服部友洋*1久保田敏信*1*1国立病院機構名古屋医療センター眼科*2つしま佐久間眼科CFourCasesofMalignantLacrimalSacTumorDiagnosedafterEndoscopicEndonasalDacryocystorhinostomyMasashiSakuma1,2)C,HiroshiHirose1),NatsukoTsuruta1),HirotakaTaguchi1),KazuhikoIto1),TomohiroHattori1)CToshinobuKubota1)and1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganization,NagoyaMedicalCenter,2)TsushimaSakumaEyeClinic目的:涙.鼻腔吻合術鼻内法施行後に診断された涙.悪性腫瘍のC4例について報告する.症例:対象はC2008年C4月.2014年C8月に名古屋医療センターを紹介受診し,涙.鼻腔吻合術鼻内法施行後に涙.悪性腫瘍と診断されたC4例で,男性C1例,女性C3例で,年齢はC41.70歳(平均C58歳)だった.診断は,扁平上皮癌がC1例,MALTリンパ腫がC1例,びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫がC2例であった.結論:涙.腫瘍はまれであるが今回のC4症例のように悪性腫瘍例もありうる.鼻涙管閉塞や慢性涙.炎でも,常に涙.腫瘍との鑑別が必要であり,積極的に術前後の画像診断や,DCR施行時や施行後でも生検を行うことが重要であると考えられた.CPurpose:Wereportonfourcasesofmalignantlacrimalsactumordiagnosedafterendoscopicendonasaldac-ryocystorhinostomy.CCases:CWeCreviewedCfourCpatients,ConeCmaleCandCthreeCfemale,CwhoCwereCreferredCtoCandCexaminedatNagoyaMedicalCenterfromApril2008toAugust2016andsubsequentlydiagnosedwithmalignantlacrimalCsacCtumorsCafterCendoscopicCendonasalCdacryocystorhinostomy.CSubjectCagesCrangedCfromC41-70Cyears(mean58yrs).Onecasewasdiagnosedwithsquamouscellcarcinoma,onewithMALTlymphoma,andtwowithdi.uselargeB-celllymphoma.Conclusion:Whilelacirmalsactumorsarerare,malignantcases,suchasthefourinthisstudy,arepossible.Evenincaseofnasalcavityobstructionandchronicin.ammationofthelacrimalsac,itisCnecessaryCtoCdi.erentiateCfromClacrimalCsacCtumors.CItCisCimportantCtoCactivelyCperformCimageCdiagnosisCbeforeCandaftersurgery,andbiopsiesduringandafterdacryocystorhinostomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(9):1305.1308,C2017〕Keywords:涙.悪性腫瘍,涙.鼻腔吻合術鼻内法,慢性涙.炎,涙道閉塞.malignantlacrimalsactumor,endo-scopicendonasaldacryocystorhinostomy,chronicin.ammationofthelacrimalsac,obstructionofthenasalcavity.Cはじめに涙.腫瘍は比較的まれな疾患であるが,悪性腫瘍の頻度が高い1,2).しかし,初期症状が,流涙,眼脂,涙.腫脹など,慢性涙.炎と酷似しているため,その鑑別は非常に重要である.また,涙.腫瘍は,罹患率が非常に低いこともあり,初期治療で慢性涙.炎として治療され,見過ごされてしまい,診断が遅れることがある3).涙.鼻腔吻合術には,鼻外法と鼻内法があるが,近年,低侵襲な治療をめざす流れから,鼻内法が広く普及しつつあり,皮膚切開を必要とする鼻外法は減少傾向にある.ただし,狭鼻腔や巨大涙.結石,腫瘍などの場合は,直視下で涙.を操作する必要があるため,鼻外法が適していると考えられる.今回筆者らは,涙.鼻腔吻合術鼻内法(endoscopicCdac-〔別刷請求先〕佐久間雅史:〒496-0071愛知県津島市新開町C1-40-1つしま佐久間眼科Reprintrequests:MasashiSakuma,TsushimaSakumaEyeClinic,1-40-1Shingai,Tsushima,Aichi496-0071,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(93)C1305ryocystorhinostomy:EnDCR)施行後に診断された涙.悪性腫瘍C4例を経験したので報告する.CI対象対象はC2008年C4月.2014年C8月に,名古屋医療センターにてCEnDCR施行後に涙.悪性腫瘍と診断されたC4例で,男性C1例,女性C3例であった.年齢はC41.70歳(平均C58歳)で,扁平上皮癌C1例,悪性リンパ腫C3例であった.〔症例1〕64歳,男性,右側.右側鼻涙管閉塞を主訴に当院を紹介受診した.右側通水検査陰性のため,右側ブジー+涙管チューブ挿入術(directsiliconeCtubeCintubation:DSI)を施行した.涙管チューブ抜去後に,再閉塞し,眼瞼腫脹と結膜浮腫を認めた(図1a,b).右側CEnDCR施行時に,骨の脆弱性と易出血性を認めた症例1図1症例1(64歳,男性,右側)Ca:右側眼瞼腫脹を認める.Cb:右側結膜浮腫を認める.Cc:HE染色にて,小蜂巣状に浸潤する,あるいは,導管内を充満する扁平上皮癌を認める.Cd:初診時CCT画像,水平断.肥厚した右側涙.を認める.Ce:EnDCR後CCT画像,水平断.右側涙.腫瘤の篩骨洞内の軟部組織への連続性を認める.Cf:2年C6カ月後CCT画像,水平断.再発は認めない.Cg:2年C6カ月後CCT画像,冠状断.再発は認めない.ため,術中に生検を施行した.病理組織では扁平上皮癌と診断された(図1c).再度試行したCCTでは,初診時と比較して右涙.部が腫大し,副鼻腔内に連続する内部が均一な腫瘤性病変を認めた(図1d,e).右側拡大涙.腫瘍摘出術と有茎皮弁移植術を施行し,2年C6カ月経過したが,再発は認めていない(図1f,g).〔症例2〕57歳,女性,右側.右側鼻涙管閉塞を主訴に当院を紹介受診した.乳癌の既往があった.右側通水検査陽性だったが,膿の逆流も認めた.右側CEnDCRを施行したが,術後C3週間で涙管チューブが自然抜落した.再挿入するも,再度自然抜落した.また,涙襄部に硬結を認めたため,CTを施行したところ,副鼻腔に浸潤する内部が均一の腫瘤性病変を認め(図2a,b),涙.腫瘍が疑われ,経皮的に生検を行った.病理検査で,びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫(di.useClargeCBCcellClymphoma:DLBCL)と診断された(図2c,d).化学療法を施行し,4年10カ月経過したが再発は認めていない(図2e,f).〔症例3〕41歳,女性,左側.左側涙.炎を主訴に当院を紹介受診した.左側通水検査陰症例2図2症例2(57歳,女性,右側)Ca:EnDCR後CCT画像,水平断.副鼻腔に浸潤する内部が均一の腫瘤性病変を認める.Cb:EnDCR後CCT画像,冠状断.副鼻腔に浸潤する内部が均一の腫瘤性病変を認める.Cc:HE染色にて,大型異型核をもつ細胞のびまん性増生を認める.Cd:CD20免疫染色にて,Bcell性を認める.Ce:4年C10カ月後CMRI画像,T2強調水平断.再発は認めない.Cf:4年C10カ月後CMRI画像,T2強調冠状断.再発は認めない.1306あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(94)症例3図3症例3(41歳,女性,左側)Ca:初診時CCT画像,水平断.均一で腫大した左側涙.を認めた.Cb,c:左側涙.部に限局する硬結を認める.Cd:8年C6カ月後CMRI画像,T2強調水平断.再発は認めない.性で膿の逆流を認めた.CTを施行し,内部が均一で腫大した涙.を認めた(図3a).左側CEnDCRを施行し,左側通水陽性となったが,涙.部の腫脹が改善されないため(図3b,c),左側涙.切除術(生検術)を施行した.病理検査にてMALTリンパ腫と診断された.放射線治療を施行し,8年C6カ月経過したが再発は認めていない(図3d).〔症例4〕70歳,女性,左側.左側涙.炎を主訴に当院を紹介受診した.既往症にCDLBCL(10年前に寛解)があった.左側通水検査陰性で膿の逆流を認め,左側シース誘導内視鏡下穿破法(sheathguidedendoscopicprobing:SEP)+シース誘導内視鏡下穿破法(sheathCguidedCintubation:SGI)を施行した.涙管チューブ抜去後に再閉塞を認め,涙.部に硬結を認めたため(図4a),CTを施行した.CTにて,副鼻腔に連続する内部が均一な腫瘤性病変を認めた(図4b).左側CEnDCR施行時に,粘膜組織の浮腫と骨の脆弱性など明ら症例4図4症例4(70歳,女性,左側)Ca:左側涙.部に内眥靭帯を超えて上方に及ぶ硬結を認める.Cb:中型.大型異型核をもつ細胞のびまん性増生を認める.Cc:CD20免疫染色にて,Bcell性を認める.Cd:EnDCR前CCT画像,水平断:副鼻腔に浸潤する内部が均一の腫瘤性病変を認める.Ce:1年C9カ月後CCT画像,水平断:再発は認めない.かな異常を認めたため,術中に中鼻甲介と涙.の一部を生検した.病理組織よりCDLBCL(再発)と診断された(図4c,d).化学療法を施行し,1年C9カ月経過したが,寛解中である(図4e).CII考按涙.腫瘍は比較的まれではあるが,悪性腫瘍の頻度がC55.60%と非常に高く,その死亡率は,種類やステージにもよるが平均C38%であると報告されている1,2).また,上皮性腫瘍の割合がおよそC70%と多く4),その内訳としては,良性では乳頭腫,悪性では扁平上皮癌や移行上皮癌が多い.また,非上皮性腫瘍では,悪性リンパ腫や悪性黒色腫が多いと報告されている5).涙.腫瘍でもっとも多い症状は,流涙症,再発する涙襄炎,涙.腫脹であり,慢性涙.炎との鑑別が重要である3).本例でも,2例に流涙症,2例に涙.炎,4例で涙.腫脹を認め,全例で初診時より腫瘍を疑うことはできなかった.涙.腫瘍の慢性涙.炎に対し,鑑別すべき症状は,血清流涙と内眥靭帯を超えて上方に及ぶ腫瘤の有無がある.血清流涙に関しては,腫瘍の増殖のために豊富な血管が必要であることから生じるが,今回の症例では,症例C1のCEnDCR時に易出血性を認めたのみで,他の症例には認めなかった.ま(95)あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1307た,慢性涙.炎では,膿が重力により下方に溜まる傾向にあるが,腫瘍の場合は,内眥靭帯を超えて上方に及ぶ腫瘤を認めることがあるが,今回の症例の場合は,症例C4のC1例しか認めなかった.画像診断では,CTでは腫瘍による骨破壊などの所見を評価し,MRIでは,軟部組織の病変の範囲や内部構造の質的な評価が重要である.慢性涙.炎はCT1強調画像では低信号,T2で高信号を示すのに対し,悪性リンパ腫などの実質性腫瘍はCT1,T2強調画像ともに低信号を示すと報告されている6).涙道内視鏡に関しては,症例C4でCSEP+SGIを施行したが,術中に明らかな異常に気づくことはできなかった.逆に,本症例で共通していた点は,4例とも涙.炎や鼻涙管閉塞を主訴に他院からの紹介例であり,初診時に血清流涙は認めなかったが,EnDCR施行後も涙.腫脹や眼瞼腫脹が改善しないことであった.また,CTで,4例とも腫脹した涙.部が軟部吸収で均一に描出され,3例で副鼻腔への浸潤が疑われた.涙.腫瘍が疑われる場合は,術中,直視下で涙.内部および周囲を全体的に観察することができるので,涙.鼻腔吻合術鼻外法(externalCDCR:ExDCR)が適していると考えられる3).今回の報告例では,術前より腫瘍を診断する情報が確実でなく,生検も念頭に置きながら治療方針を考えていたため,すべて,侵襲の少ない鼻内法により手術を行ったが,当初から腫瘍が強く疑われれば,ExDCRによるアプローチが第一選択と考える.症例C4は,既往歴も含め,術前より腫瘍の疑いがあり,ExDCRによるアプローチも考慮したが,腫瘍の進展が鼻内にも拡大している可能性も否定できず,鼻内組織の生検が可能で,より侵襲の少ないCEnDCRを行うことで診断を確定し,以後の方針を考慮する方法を選択した.結果的に,以前の腫瘍の再発であり,化学療法で寛解が得られたため,本症例では,鼻内法によるアプローチが有効であったと考えている.ただし,鼻内に腫瘍がなく,涙.限局,もしくは涙.周囲に少しでも腫瘍が疑われる場合は,ExDCRに適応があると思われた.画像診断を詳細に行い,よりに情報を収集することが6),手術法を選択するうえでも重要である.CIII結語今回筆者らは,涙.鼻腔吻合術(EnDCR)施行後に診断された涙.悪性腫瘍C4例を経験した.鼻涙管閉塞や慢性涙.炎では,症状が類似していることから,まれではあるが,涙.悪性腫瘍との鑑別が必要であると考えられ,少しでも疑わしい場合は,術前に造影を含めたCT,MRI撮影を施行し方針を決めるとともに,術後でも画像検査の追加や新たな生検を行うべきであると考えられた.また,涙.限局,もしくは涙.周囲の腫瘍にはCExDCRによるアプローチが必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)StefanyszynCMA,CHidayatCAA,CPe’erCJJCetCal:LacrimalCsacCtumor.COphthalCPlastCReconstrCSurgC10:169-184,C19942)JosephCCF:LacrimalCtumors.COphthalmologyC85:1282-1287,C19783)辻英貴:涙道悪性腫瘍.眼科58:423-431,C20164)HeindlCLM,CJunemannCAG,CKruseCFECetCal:TumorsCofCthelacrimaldrainagesystem.OrbitC29:298-306,C20105)有田量一,吉川洋,田邊美香ほか:涙.悪性腫瘍C6例の診断と治療.あたらしい眼科32:1041-1045,C20156)児玉俊夫,野口毅,山西茂喜ほか:涙.部腫瘍性疾患の頻度と画像診断の有用性についての検討.臨眼C66:819-826,C2012***1308あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(96)