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涙点閉鎖術後に涙.炎を発症したSjögren症候群の1例

2013年9月30日 月曜日

《第1回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科30(9):1298.1301,2013c涙点閉鎖術後に涙.炎を発症したSjogren症候群の1例植木麻理*1三村真士*2今川幸宏*2佐藤文平*2勝村浩三*3池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2大阪回生病院眼科*3八尾徳洲会総合病院眼科ACaseofAcuteDacryocystitisafterSurgicalPunctalOcclusioninSjogren’sSyndromeMariUeki1),MasashiMimura2),YukihiroImagawa2),BunpeiSato2),KozoKatsumura3)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaKaiseiHospital,3)DepartmentofOphthalmology,YaoTokusyukaiGeneralHospital目的:涙点閉鎖術後に急性涙.炎を発症した1例を報告する.症例:74歳,女性.Sjogren症候群によるドライアイにて涙点プラグを挿入したが脱落を繰り返し,涙点閉鎖術施行となった.術3年後ごろより時折,鼻根部の腫脹,疼痛を自覚するようになった.疼痛,腫脹,眼脂が強くなり受診したところ鼻根部の発赤,腫脹を認め,涙点は閉塞していた右眼鼻側結膜より排膿を認めた.CT(コンピュータ断層撮影)にて涙.の腫脹があり,急性涙.炎を診断.抗生物質点滴加療後,涙.摘出術を施行.その後,疼痛,眼脂は消失.角膜障害も悪化していない.結論:涙点閉鎖術後に涙道が閉鎖腔となると急性涙.炎を発症することがあり,このような症例に対して涙.摘出術は有効な術式と思われる.Purpose:Wepresentacaseofacutedacryocystitisaftersurgicalpunctalocclusion.Case:Thepatient,a74-year-oldfemale,hadseveraltimesundergonepunctalocclusionwithpunctalplugfordryeyecausedbySjogren’ssyndrome,althoughtheplugfellouteachtime.Shethenunderwentsurgicalpunctalocclusion.At3yearsafterthatsurgery,therootofhernosewasswellingandshefeltseverepain.Herconditionworsenedandshevisitedourclinic;herpunctawereclosed,althoughitelcameoutfromthenasalsideoftheconjunctiva.computedtomographyshowedlacrimalductswelling;Shewasdiagnosedwithacutedacryocystitisandunderwentadacryocystectomy.Aftersurgery,herpainanditeldisappearedandcornealconditionremainedgood.Conclusion:Surgicalpunctalocclusionmightinduceacutedacryocystitisifthelacrimalductbecomesoccluded.Dacryocystectomyisapossibleeffectivetreatmentinsuchacase.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(9):1298.1301,2013〕Keywords:Sjogren症候群,涙点閉鎖術後,涙.炎,涙.摘出術.Sjogren’ssyndrome,afterpunctalocclusion,dacryocystitis,dacryocystectomy.はじめにSjogren症候群は涙腺と唾液腺を標的とする自己免疫疾患の一つで,臓器特異的自己免疫疾患であり,多くの症例で強い眼や口の乾燥症状が出現することが知られている.Sjogren症候群によるドライアイでは点眼治療のみで効果が不十分なことがしばしばあり,難治症例では積極的に涙点プラグや涙点縫合などが行われている.一方,ドライアイに対する涙点閉鎖術後の涙小管炎や涙.炎の報告も散見される1.3).今回,筆者らは涙点閉鎖術3年後に急性涙.炎による蜂巣炎を発症した症例を経験したので報告する.I症例患者:74歳,女性.現病歴:平成14年より前医にて涙液減少症にて角膜障害,異物感が出現し,人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼による治療に加えて,両側上下涙点に涙点プラグ挿入も施行されていたが脱落を繰り返していた.角膜障害の悪化,疼痛が出現したため,平成18年7月大阪医科大学(以下,当院)眼科,紹介受診となった.既往歴:平成3年より関節リウマチにて当院膠原病内科にて加療中であり,平成14年に抗SS-A抗体が陽性であり〔別刷請求先〕植木麻理:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:MariUeki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN1298(98)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY abab図1初診時前眼部所見(a:右眼,b:左眼)両眼に角膜上皮障害,および左眼には著明なmucusplaqueを認める.ab図2再診時所見左眼の上下涙点は完全に閉鎖しており(a),内眼角部眼瞼が発赤腫脹,内眼角部結膜より排膿を認めた(b).Sjogren症候群と診断されていた.初診時所見:視力はVD=0.1(0.4×sph+3.0D(cyl.1.0DAx50°),VS=0.07(0.1×sph+2.0D(cyl.1.5DAx25°).眼圧はRT=15mmHg,LT=19mmHg.前眼部・中間透光体:両眼点状表層角膜症,左眼には著明なmucusplaqueを認めた(図1).右眼下涙点に挿入された涙点プラグが残存していた.同月(平成18年7月),右眼上涙点に涙点プラグ挿入および左眼上下涙点縫合術が施行された.治療後,両眼とも涙液メニスカスは上昇し,角膜障害は改善,視力も右眼(0.9),左眼(0.9)まで改善した.涙点縫合術2年9カ月後左眼流涙,充血が出現し,近医にて流行性角結膜炎と診断された.その後,継続する眼脂,間欠性の眼瞼腫脹,疼痛を自覚し,眼脂培養にてMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が検出された.クロラムフェニコール点眼にて一時的には軽快していたが,術3年8カ月後,眼瞼腫脹,疼痛が増悪し,当院眼科を再診した.再診時,左眼の上下涙点は完全に閉鎖しており,内眼角部眼瞼が発赤腫脹,内眼角部結膜より排膿を認めた(図2).膿の培養ではMRSAが検出された.CT(コンピュータ断層撮影)により涙.腫脹を認め(図3),涙.炎による蜂巣炎と判断し,バンコマイシン点滴,ガチフロキサシン点眼による治療,消炎後,左側涙.摘出術を施行した.術中所見で涙.は膿で満たされており,拡張していた.病理組織では涙.は下部で閉塞しており,涙.周囲には多数の形質細胞を中心とする炎症細胞浸潤が認められ,慢性炎症の存在が示唆された.また,涙.の多列円柱上皮は一部壊死による破壊像はあるものの粘液分泌細胞も良好に保たれていた(図4).術後,眼脂は消失,現在まで再発はない.(99)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131299 図3CT所見(左:冠状断,右:水平断)涙.部に涙.炎と思われるhighdensityareaを認める.強拡大図4病理組織所見涙.は下部で閉塞しており(左下),涙.周囲には多数の形質細胞を中心とする炎症細胞浸潤が認められ,慢性炎症の存在が示唆弱拡大された.II考按過去にも涙点閉鎖後に涙.炎を発症したという報告はあり,涙点閉鎖術から涙.炎の発症まで3週間と早期のものはもともと涙.炎の既往があったものであり,その他の者は外界と涙.との連絡があり,菌が侵入可能であったため発症したと考察されている1.3).今回の症例では涙点閉鎖後3年以上を経過して発症しており,涙.炎発症時には涙点は完全に1300あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013閉塞しているにもかかわらず,内眼角の結膜より排膿していた.流行性角結膜炎罹患後に発症しており,結膜炎発症時に結膜が障害され,結膜と涙小管に瘻孔が形成,菌が侵入することにより涙.炎を発症したと考えられる.涙液は涙.粘膜から90%が再吸収されるといわれており,涙液減少症では涙.以降の鼻涙管に閉塞があっても流涙症状がなく,診断が困難な症例も多い1,4).本症例に涙点閉鎖術前から鼻涙管閉塞があったかは不明であるが,病理組織所見(100) より長期にわたり閉塞していたものと推察される.涙点プラグなど涙点閉鎖術前には通水検査による鼻涙管閉塞の有無を確認することが必要であり,鼻涙管閉塞が存在する場合に涙点閉鎖を施行すれば涙.を閉鎖腔とすることになり,術後,涙.炎を発症する可能性も高くなると考えられる.また,総涙小管閉塞症において涙液の排出が少なくなるため鼻涙管が萎縮閉塞することがあるとされており,涙点閉鎖時に鼻涙管閉塞がなくても経過中に閉塞する可能性は考えられる.このような症例に対してドライアイの治療として涙.摘出術も選択肢の一つであると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GlattHJ:Acutedacryocystitisafterpunctalocclusionofkeratoconjunctivitissicca.AmJOphthalmol111:769770,19912)MarxJL,HillmanDS,HinshawKDetal:Bilateraldacryocystitisafterpunctalocclusionwiththermalcautery.OphthalmicSurg23:560-561,19923)RumeltS,RemullaH,RubinPA:Siliconepunctalplugmigrationresultingindacryocystitisandcanaliculitis.Cornea16:377-379,19974)HurwitzJJ,MaiseyMN,WelhamRA:Quantitativelacrimalscintillography.I.Methodandphysiologicalapplication.BrJOphthalmol59:308-312,1975***(101)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131301