《第6回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科35(5):689.692,2018c生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測による涙.鼻腔吻合術鼻内法の客観的術後評価谷吉オリエ鶴丸修士公立八女総合病院眼科CObjectiveEvaluationofSurgicalOutcomeofEndonasalDacryocystorhinostomyUsingTearMeniscusHeightMeasurementafterSalineInstillationOrieTaniyoshiandNaoshiTsurumaruCDepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital目的:生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測により涙.鼻腔吻合術の治療効果を評価する.対象および方法:対象は涙.鼻腔吻合術鼻内法を施行した涙道閉塞C24例C24側(平均C71.8歳).術前,手術C1.2カ月後,3.5カ月後,6.11カ月後,12カ月以降に前眼部光干渉断層計を用いて,自然瞬目下で,生理食塩水点眼前と点眼後C20秒ごとC2分間の下眼瞼涙液メニスカス高を記録した.結果:術前の涙液メニスカス高(中央値)は,点眼試験前C471Cμm,点眼試験2分後761Cμmであった.術後C1.2カ月では点眼試験前C218Cμm,点眼試験C2分後C447Cμmで,点眼試験前も点眼試験後も有意に低下し,術後C3.5カ月,6.11カ月,12カ月以降に実施した点眼試験も同様に術前より低値を示した.結論:本法は侵襲が少なく,涙道治療効果の客観的評価法として有用と考えられた.Toevaluatethesurgicaloutcomeofendonasaldacryocystorhinostomy(En-DCR)bymeasuringthelowertearmeniscusheight(TMH)aftersalineinstillation.Thisstudyincluded24eyesof24patients(meanage,71.8years)CwithCnasolacrimalCductCobstructionCwhoCunderwentCEn-DCR.CTheClowerCTMHCwasCmeasuredCwithCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomographyCbeforeCsurgeryCandCatC1CtoC2Cmonths,C3CtoC5Cmonths,C6CtoC11CmonthsCandC12Cmonthsorlateraftersurgery.Eachmeasurementwasperformedbeforesalineinstillationandevery20secondsfor2CminutesCafterCinstillationCinCnaturalCblinkingCconditions.CPreoperativeCTMHCwasC471CμmCbeforeCsalineCinstillationCand761Cμm2minutesafterinstillation.TMHduringpostoperative1to2monthswas218Cμmbeforesalineinstilla-tionand447Cμm2minutesafterinstillation,asigni.cantdecreasecomparedwithpreoperativeTMH.PostoperativeTMHsat3to5months,6to11monthsand12monthsorlateraftersurgerywerealsolowerthanpreoperativeTMH.TMHmeasurementwithsalineinstillationisminimallyinvasiveandusefulinobjectivelyevaluatingtheout-comeofEn-DCR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):689.692,C2018〕Keywords:涙.鼻腔吻合術鼻内法,涙液メニスカス高,点眼試験,前眼部光干渉断層計.endonasalCdacryocysto-rhinostomy(En-DCR),tearmeniscusheight(TMH),instillationtest,anteriorsegmentopticalcoherencetomog-raphy.Cはじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は鼻涙管閉塞の手術治療として基本的な術式であり,涙.鼻腔吻合術鼻内法(endonasalCdacryocystorhinostomy:En-DCR)は涙.のCmarsupialization(涙.内腔を満開の花弁のように展開すること)の概念1)が広められ飛躍的に成功率が向上した2).その治療効果は,自覚症状や吻合孔形成状態,通水検査により判断されることが一般的だが,近年では光干渉断層計を用い低侵襲で涙液貯留量を評価する方法が報告されている3.6,9).今回,En-DCRの治療効果を客観的に評価することを目的として,生理食塩水を用いた点眼試験により涙液動態評価を試みたので報告する.〔別刷請求先〕谷吉オリエ:〒834-0034福岡県八女市高塚C540-2公立八女総合病院眼科Reprintrequests:OrieTaniyoshi,DepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital,540-2Takatsuka,Yame,Fukuoka834-0034,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(125)C689I対象および方法2014年C11月.2016年C2月までに当科でCEn-DCRを施行した24例24側(女性23側,男性1側),年齢は42.83歳(71.8C±8.7歳)を対象とした.涙道内視鏡所見による涙道の閉塞部位の内訳を図1に示す.En-DCRは全例全身麻酔下にて施行した.鼻粘膜を中鼻甲介起始部から弧状に切開したのち,鼻粘膜をC.ap状に形成し上顎骨を露出させた.上顎骨をケリソンパンチ(回転式および通常型),上方の厚い部分は骨ノミを用いて内総涙点の高さまで切除し,涙.を露出させ,眼科用クレセントナイフにて涙.を切開,できるだけ大きく展開した.涙.前弁は鼻粘膜と,涙.後弁は温存した鼻粘膜と並置し,血漿分画製剤(ボルヒールCR,べリプラストRP)を塗布して接着させた.涙管チューブ(LACRIFASTCR)を挿入し,タンポナーデとしてベスキチンガーゼを挿入し手術終了した.術後C1カ月は1.5%レボフロキサシンとC0.1%フルオロメトロン点眼,およびモメタゾンフランカルボン酸エステル水和物点鼻薬を継続した.涙液メニスカスの撮影は自然開瞼,自然瞬目を指示し,他の眼科学的検査に先がけて行った.前眼部COCT(NIDEK製光干渉断層計CRS-3000Advance)を用いて涙液メニスカス高(tearCmeniscusCheight:TMH)を計測した後,5Cmlの点眼ボトルで常温の生理食塩水をC1滴点眼し,20秒ごとC2分間を経時的に撮影した(以下,点眼試験とする).OCT測定プログラムは,スキャンポイント数C1,024,スキャン長4.0Cmmの隅角ラインで,下眼瞼の角膜中央を通る垂直ラインで撮影した.TMHはCOCTで撮影できたメニスカス断面の上下の頂点から引いた垂線の長さを測定した.一人の検者が撮影および解析を行い,アーチファクトなどによりCOCT像が解析不能であった場合は除外した.点眼試験は,術前(n=24),En-DCRC1.2カ月後(n=20),3.5カ月後(n=24),6.11カ月後(n=21),12カ月以降(n=12)に施行し,統計学的解析はCWilcoxonCt-testwithCBonferroniCcorrectionを用いてCTMHの術後変化を検討した.CII結果術後に,18側(75%)は流涙が自覚的に改善し,骨窓形成や通水が良好で解剖学的交通があった.自覚症状は残存するが解剖学的交通があるのがC4側(17%),涙小管の狭小化や骨窓の膜状再閉塞により追加涙道治療が必要だったのはC2側(8%)であった.En-DCR術前のCTMHは,点眼試験前C479C±235Cμm(中央値471μm),点眼試験2分後C808C±312Cμm(761Cμm)であった.術後C1.2カ月では点眼試験前C222C±107Cμm(218広範型鼻涙管閉塞広範型鼻涙管閉塞+眼瞼下垂広範型鼻涙管閉塞+涙小管閉塞広範型鼻涙管閉塞+総涙小管閉塞限局型鼻涙管閉塞総涙小管閉塞急性涙.炎副鼻腔炎術後10430246810(側)図1閉塞部位ごとの症例数(n=24)μm),点眼試験C2分後C501C±376Cμm(447Cμm)となり,点眼試験前も点眼試験後も有意に低下していた(p<0.01).術後3.5カ月,6.11カ月,12カ月以降に実施した点眼試験も術前より低値を示した(図2).図3に急性涙.炎で術後再閉塞した症例の点眼試験結果を示す.術前CTMHは約C800Cμmであったが,En-DCR1カ月後は点眼試験前後ともCTMHが低下した(図3a).2カ月後は点眼試験後にCTMH上昇傾向があったものの,自覚も通水検査も良好だった(図3b).6カ月後には,眼脂症状の訴えがあり,TMHは術前とほぼ同程度の高値を示し,吻合孔の膜状再閉塞および涙小管高度狭窄がみられた(図3c).そのため,En-DCR9カ月後に,涙管チューブ挿入術〔LacrifastEX(カネカ)外径C1.5mm,全長C105mm〕を施行した.チューブ留置C1.5カ月(En-DCR11カ月後)で再びCTMHが低下し(図3d),チューブ留置C4カ月(En-DCR14カ月後)では点眼試験後CTMHの上昇がみられた(図3e)が,チューブ抜去(En-DCR16カ月後)すると点眼試験後CTMHも低値を示した(図3f).CIII考按前眼部OCTは低侵襲で涙液メニスカスを観察できるため,刺激などで容易に量的変化が生じる涙液を評価するには大変有用なツールであるが3.5),DCR後のCTMHを経過観察した研究は少ない.DCR鼻外法例を対象にCTMHを検討した研究6)では,中央値が術前C707Cμm,術後C2週目C334Cμm,術後2カ月C278μm,術後C6カ月C277μmで術直後から有意にTMHが低下したと報告しているが,これまでCEn-DCRに関しては細隙灯顕微鏡によるCTMH測定7)の他にはない.今回の点眼試験前CTMH中央値は,術前C471Cμm,手術1.2カ月後C218μm,3.5カ月後C262μm,6.11カ月後C269μm,12カ月以降C275Cμmで,点眼試験後CTMHも術後の全時期で低下したことから,En-DCRにおいても術後の涙液貯留690あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(126)C1,5001,0005000点眼試験前20.40.1’1’20.1’40.2’■術前■1~2M■3~5M■6~11M■12M~図2涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)術前後の点眼試験結果術後C1.2カ月から点眼試験前と点眼試験後すべての涙液メニスカス高(TMH)が低下し,術後C12カ月経過しても効果は継続していた.En-DCR前1M(a)量低下を評価できた.2M(b)本法を涙管チューブ挿入術施行例で行うと,術前,涙管チューブ留置中,涙管チューブ抜去後の順でCTMHが低下す6M(c)チューブ留置1.5M(d)チューブ留置4M(e)る4)が,CEn-DCRは術後C1.C2カ月には涙管チューブ抜去後抜去1M(f)と同等の低下を示した(図4).CDCRは術後早期から自覚症1,000状や通水が改善し,涙管チューブ挿入術よりも確実な治癒が800TMH(μm)期待できる8)とされている.通水検査は解剖学的交通を確認するために有用な検査ではあるが,通常時の涙液動態と異なり涙点への涙洗針の挿入や水圧が加わるため,軽微な膜状閉塞などは検出できない可能性があるが,通水検査以外の客観的方法においてもCDCRの早期治癒効果が実証できたと考え6004002000ている.点眼試験は健常者でも年齢によって結果が異なり,点眼C2分後平均CTMHは,60歳未満C247.1Cμm,60歳以上C452.0Cμmで,高齢群は点眼試験後CTMHが有意に高値になる3).また,涙管チューブ挿入術成功例を対象にした場合,点眼C2分後平均TMHは458Cμmであった4).点眼試験に関するこれまでの研究をまとめると,En-DCR術後(対象平均C71.8歳)は健常者の高齢群,涙管チューブ挿入術成功例とほぼ同等であるが,健常者の若年群ほどは低下しないということがわかった(図5).FujimotoらはCEn-DCR術後C2カ月時点で涙液クリアランスを評価したところ,術後メニスカスは低下するが,若い正常者に比べると涙液排出機構は不完全と報告している9).今回対象の平均年齢はCEn-DCRも涙管チューブ挿入術もC70歳前後であり,涙道閉塞以外にも結膜弛緩や眼瞼下垂などの加齢に伴う機能的導涙障害が含まれていると想定されるが,いずれの涙道治療を選択しても年齢相応の涙液排出力が期待できることが示唆された.涙液に量的負荷をかけた場合,点眼後C2分間は反射分泌および量的負荷状態における急速相があり,その後基礎分泌下(127)図3涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)後に再閉塞した症例(82歳,女性)の点眼試験経過の緩徐相が生じる3,10.12).点眼試験を用いた過去の研究で点眼C2分以降に有意なCTMH変化がなかったことから,今回は測定時間を点眼C2分間に設定した.そのため真の意味での涙あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C6911,000NLDI前チューブ留置中En-DCR前1~2M3~6M1,500チューブ抜去後median1,5006~12M12M~median5001,00050000’.1’.240’.1’2’1.20’1.40’1.20’1NLDIEn-DCRTMH(μm)8006004002000図4涙管チューブ挿入術(NLDI)4)と涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)の比較NLDIはチューブ抜去までの過程において涙液メニスカス高(TMH)が漸減するが,En-DCRは術後早期からCTMHの低下があり,効果も持続した.youngnormal3)oldnormal3)文献postNLDI4)En-DCR(post6~12M)1)CTsirbasCA,CWormaldCPJ:CMechanicalCendonasalCdacryo-cystorhinostomyCwithCmucosalC.aps.CBrCJCOphthalmolC87:C43-47,C20032)鈴木亨:目指せC!眼の形成外科エキスパート(第C30回)涙道編DCR鼻外法Cvs鼻内法.臨眼71:C226-230,C20173)谷吉オリエ,鶴丸修士:生理食塩水点眼による涙液メニスカス高の経時的測定.あたらしい眼科33:C1209-1212,C20164)谷吉オリエ,鶴丸修士:涙管チューブ挿入術後の点眼負荷による涙液メニスカス高の検討.あたらしい眼科C34:C1314-1317,C2017’.240’1.20’1’.15)鈴木亨:光干渉断層計(OCT)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価.あたらしい眼科30:923-928,C20136)OhtomoCK,CUetaCT,CFukudaCRCetCal:TearCmeniscusCvol-umeCchangesCinCdacryocystorhinostomyCevaluatedCwithC図5点眼試験の対象別比較涙.鼻腔吻合術鼻内法(En-DCR)の点眼試験後涙液メニスカス高(TMH)は健常者の高齢群3),涙管チューブ挿入術(NLDI)成功例4)と同等であるが,健常者の若年群3)ほどは低下しない.液のターンオーバーは不明だが,TMHを指標とした残留涙液貯留量が評価できた.TMHは細隙灯顕微鏡で観察できるメニスカスの様子を直感的に表現でき,眼科スタッフによる検査が可能なため臨床上大きな利便性があるが,瞬目などによる測定誤差要因も多い5).本法は眼科で頻用される点眼ボトルを用いるため,負荷量の大半は結膜.から流出してしまい標準偏差が大きくなる.そのためCTMHの基準値を定めることはむずかしいが,固体内での治療評価や再閉塞などによる涙液動態の変化は検出できる可能性があり,涙道治療の客観的評価法として有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし692あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018quantitativeCmeasurementCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:C2057-2061,C20147)RohCJH,CChiCMJ:E.cacyCofCdyeCdisappearanceCtestCandCtearCmeniscusCheightCinCdiagnosisCandCpostoperativeCassessmentCofCnasolacrimalCductCobstruction.CActaCOph-thalmolC88:e73-e77,C20108)中島未央,後藤聡,小原由実ほか:涙.鼻腔吻合術の適応と手術成績.眼臨紀4:650-652,C20119)FujimotoCM,COginoCK,CMiyazakiCCCetCal:EvaluationCofCdacryocystorhinostomyCusingCopticalCcoherenceCtomogra-phyandrebamipideophthalmicsuspension.ClinOphthal-molC8:1441-1445,C201410)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:NewmethodforevaluationCofCearlyCphaseCtearCclearanceCbyCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomography.CActaCOphthalmolC92:105-111,C201411)井上康,越智進太郎,山口昌彦ほか:レバミピド懸濁点眼液をトレーサーとして用いた光干渉断層計涙液クリアランステスト.あたらしい眼科31:615-619,C201412)坂井譲,井上康,越智進太郎:前眼部光干渉断層計を用いたレバミピド懸濁粒子濃度測定.あたらしい眼科C31:C1867-1871,C2014(128)