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涙管チューブ挿入術後の点眼負荷による涙液メニスカス高の検討

2017年9月30日 土曜日

《第5回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科34(9):1314.1317,2017c涙管チューブ挿入術後の点眼負荷による涙液メニスカス高の検討谷吉オリエ鶴丸修士公立八女総合病院眼科CTearMeniscusHeightMeasurementwithSalineInstillation,afterNasolacrimalDuctIntubationOrieTaniyoshiandNaoshiTsurumaruCDepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital目的:点眼負荷した涙液メニスカス高(TMH)を涙管チューブ挿入術前後に測定し,涙液排出能を他覚的に検討する.方法:涙管チューブ挿入術を施行した涙道閉塞患者C34眼を対象に,点眼前および点眼負荷C5分間の下方CTMHを測定記録し,治療前,チューブ留置中,抜去C1カ月後のCTMH推移を比較した.結果:点眼前CTMHは治療前と比べ留置中と抜去後は有意に低下していたが,点眼負荷CTMHは抜去後のみ低下していた.また,点眼前CTMHは治療成績による差はなかったが,点眼負荷C2分以後は症状残存群より治癒群のほうが有意に低下していた.留置中は点眼負荷TMHが高値を維持する例の割合が増し,抜去後は正常型が増えた.結論:涙道閉塞症の治療評価は,自覚症状と通水検査が用いられることが多いが,本法は低侵襲に治療成績を反映することができ,新たな客観的な評価指標となりうる.CPurpose:ToCevaluateCtearCclearanceCafterCnasolacrimalCductCintubation(NLDI),CbyCmeasuringCtearCmeniscusheight(TMH).Materialandmethods:Thisstudyincluded34eyesofpatientswithnasolacrimalductobstruction(NLDO)whoCunderwentCNLDI.CLowerCTMHCwasCmeasuredCbeforeCintubation,CduringCtubeCretentionCandCatConeCmonthaftertuberemoval.Ineachcase,measurementwasmadewithoutsalineinstillation,thenfor5minutesaftersalineinstillation,undernaturalblinkingconditions.ChangeinTMHoverthecoursewasexamined.Results:TMHasCmeasuredCwithoutCsalineCinstillationCdecreasedCsigni.cantlyCduringCtubeCretentionCandCafterCtubeCremoval,CbutCTMHmeasuredwithsalineinstillationdecreasedonlyaftertuberemoval.TMHwithoutsalineinstillationwasnotin.uencedbythesurgicaloutcome.TMHdecreasedsigni.cantlyaftertwominutesfollowinginstillation,withreso-lutionofsymptomsascomparedwithepiphora.Duringtuberetention,alargepercentageofpatientsshowedhighTMHbothwithandwithoutinstillation.Aftertuberemoval,thenumberofpatientswithnormalTMHincreasedbothwithandwithoutinstillation.Conclusion:SubjectivesymptomsandirrigationtestingarecommonlyusedtoevaluateCsurgicalCoutcomeCinCNLDO.CTMHCmeasurementCwithCsalineCinstillationCcanCre.ectCsurgicalCoutcomeCandCcanbeausefulindicatorfortreatmentoutcome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(9):1314.1317,C2017〕Keywords:涙液メニスカス高,涙管チューブ挿入術,涙液排出能,前眼部光干渉断層計.tearCmeniscusCheight,nasolacrimalductintubation,lacrimaldrainagefunction,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.Cはじめに眼表面の涙液量のC90%は上下の涙液メニスカス部分に貯留しており1),下方の涙液メニスカス高(tearCmeniscusheight:TMH)が総涙液量に比例するといわれている.下方の涙液メニスカスが涙道手術後に変化する現象は手術の涙液排出効果をよく反映すると考えられ,この経過を調べることは手術効率の他覚的評価の一助となりうる2).しかし,患者が検査直前に涙を拭いてしまうことや測定部位の違いによっても結果の再現性が低下する.筆者らは健常者と涙道閉塞患者に対し,生理食塩水を点眼負荷して下方CTMHの推移を〔別刷請求先〕谷吉オリエ:〒830-0034福岡県八女市高塚C540-2公立八女総合病院眼科Reprintrequests:OrieTaniyoshi,DepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital,540-2Takatsuka,Yame,Fukuoka830-0034,JAPAN1314(102)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(102)C13140910-1810/17/\100/頁/JCOPY検討し,涙液排出能低下を客観的に記録する方法を報告した3).今回は,涙管チューブ挿入術(nasolacrimalCductCintu-bation:NLDI)前後に本法を施行し,治療評価に応用可能か検討した.CI対象および方法対象は,2014年C12月.2016年C5月に当科受診し,内視鏡直接穿破法(directCendoscopicprobing)およびシース誘導チューブ挿入術(sheathCguidedCintubation:SGI)を施行した後天性涙道閉塞のうち,チューブ抜去後C1カ月以上経過観察ができた女性C29眼,男性C5眼の計C34眼,平均年齢C68.2C±12.5歳(43.88歳)である.チューブは全例CLACRIFASTCR(直径C1.0Ccm,全長C10.5Ccm,カネカメディクス)を使用した.チューブ留置中はC0.1%フルオロメトロン(フルメトロンR)とC1.5%レボフロキサシン(クラビットCR)を1日4回点眼し,2.4週ごとに定期的に外来で涙道洗浄を行った.チューブ抜去後はC0.1%プラノプロフェン(ニフランCR)を約1カ月点眼した.事前に研究に対する説明を行い,本人の同意を得た.外傷や経口抗がん剤CTS-1CR内服,顔面神経麻痺,眼涙.より近位の閉塞涙.より近位の閉塞+鼻涙管閉塞鼻涙管閉塞その他§Wilcoxont.testwithBonferronicorrectionp<0.01図3点眼前TMHの治療成績による比較治癒群の点眼前CTMHは治療前と比し留置中と抜去後に有意な低下がみられた.C瞼下垂術後,機能性流涙は対象から除外した.対象の詳細を図1に示す.TMH撮影には,前眼部観察用アダプタを取り付けたNIDEK製光干渉断層計CRS-3000Advance(以下,OCT)を用いた.測定プログラムは,OCTスキャンポイント数C1,024,スキャン長C4.0Cmmの隅角ラインで,下眼瞼の角膜中央を通る垂直ラインで撮影した.まず他の眼科学的検査の前に点眼前CTMHを測定した後,常温の生理食塩水の入った点眼ボトル(5Cml)でC1滴点眼し,20秒ごとに点眼負荷CTMHをC5分間,自然瞬目のまま継続測定した.TMHはCOCTで撮影できたメニスカス断面の上下の頂点から引いた垂線の長さを測定した.一人の検者が撮影および解析を行い,アーチファクトなどによりCOCT像の解析不能であった場合は除外した.C涙.より近位の閉塞涙.より近位の閉塞+鼻涙管閉塞鼻涙管閉塞■治癒群(n=23)■症状残存群(n=8)■ドライ群(n=3)Wilcoxont-testwithBonferronicorrection§§p<0.01§p<0.05図4点眼負荷TMH(5分後)の治療成績による比較治癒群の点眼負荷CTMHは治療前と留置中では有意差はなく,抜去後に有意に低下した.(103)あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1315●治癒群(n=23)■症状残存(n=8)▲ドライ(n=3)治療前チューブ留置中抜去後TMH(μm)1,5001,5001,5001,0001,0001,000変化なし§5005005000pre1’2’3’4’5’0pre1’2’3’4’5’0pre1’2’3’4’5′§Wilcoxont-testwithBonferronicorrectionp<0.01図5TMHの経時変化TMHは点眼直後から漸減し,1分C40秒以降は一定になった.C正常型点眼後異常型異常型.3カ月後),③チューブ抜去C1カ月後(NLDIのC4.5カ月1,000後)の計C3回行った.CTMHの検討は,①治療前,②チューブ留置中(NLDIのC1II結果NLDI後の治療成績は,チューブ抜去後に通水可能で自覚的に症状が完治したもの(以下,治癒群)23眼(68%),通水不可または自覚的に症状が残存していたもの(以下,症状残存群)8眼(23%),通水可能になり,乾燥感を自覚したもの(以下,ドライ群)3眼(9%)であった.閉塞部位により治療成績に有意差はみられなかった(図2).点眼前CTMHは,治癒群において治療前よりチューブ留置TMH(μm)5000中と抜去後に有意に低下した.症状残存群,ドライ群は治療治療前前,留置中,抜去後のいずれの検討時期でも有意差はなかった(図3).点眼C5分後の点眼負荷CTMHは,治癒群の治療前留置中と留置中に差はなく,抜去後に有意に低下した(図4).点眼負荷CTMHは治療前ではC1分C40秒以降,留置中では抜去後pre1’2’3’4’5’323532正常型点眼後異常型異常型4141187615940秒以降,抜去後ではC1分C40秒以降は有意な変化がみられなくなった(図5).TMHの経時推移を個々に観察すると,点眼前CTMHも点眼負荷CTMHもほぼ正常のもの(正常型),点眼前CTMHは正常だが点眼負荷CTMHが高値を示すもの(点眼後異常型)点眼前CTMHも点眼負荷CTMHも高値であるもの(異常型),のC3タイプに分類できた.今回は正常CTMHをC500μm以下と定義して検討したところ,治療前はC3タイプがほぼ同じ割合で存在していたが,チューブ留置中は正常型(41%)と点眼後異常型(41%)の割合が増し,抜去後は正常型(76%)が増加していた(図6).また,点眼負荷CTMHの経時変化のパターンを治療成績別に比較してみると,治療前およびチューブ留置中には治療成績間の差はないが,抜去後には点眼C2分以降の点眼負荷CTMHは治癒群より症状残存群が有意に高値を示していた(表1).C020406080100(%)図6TMH推移のタイプ点眼後のCTMH推移の模式図(上段).留置中は正常型と点眼後異常型の割合が増え,抜去後は正常型が増えた(下段).III考按筆者らはCNLDIを施行した患者を対象に,点眼負荷CTMHを指標とし,涙液排出能の評価を行った.永岡ら4)はCSGI前後のCTMHを比較したところ,術前(平均C554Cμm)より,留置中(437Cμm)および抜去後(439Cμm)は有意にCTMHが低下したことを報告している.今回の結果も永岡らと同様,通水良好なものは点眼前CTMHが留置中と抜去後は術前より低下していたがチューブ留置中に点眼後異常型がC41%と増加していた.高度眼瞼下垂例は除外したものの,軽度老人性眼瞼下垂や結膜弛緩例は混在していたことからチューブ以外のC(104)表1NLDI治療成績別TMH平均治療前チューブ留置中抜去後(中央値)点眼前2分後5分後点眼前2分後5分後点眼前2分後5分後治癒C504±315984±638799±614245±157725±653640±607289±208458±291n=23C(4C14)C(8C81)C(7C07)C(1C87)C(5C21)C(4C68)C(1C64)C(3C55)C症状残存C416±248966±550811±310578±4611376±9671274±1119497±261897±508n=8C(3C55)C(7C18)C(7C66)C(3C82)C(9C95)C(C1011)C(4C44)C(7C25)CドライC681±252929±244963±210444±184825±318719±317217±121276±154n=3C(7C31)C(C1026)C(C1063)C(3C55)C(9C95)C(8C67)C(2C43)C(2C60)C400±264*(339)*731±444(549)341±186(251)点眼前CTMHは治療成績による差はなかった.抜去後の点眼負荷C2分以降のCTMHは治癒群より有意に症状残存群が高かった.*Mann-WhitneyU-testwithBonferronicorrectionp<0.05(単位:μm)表2前眼部OCTを用いた他のメニスカス測定法との比較内容特徴CZhengXetal8)5Cμlの生理食塩水を点眼負荷し,点眼からC30秒までの急速相の涙液メニスカスを評価する.低刺激で短時間に測定可能.急速相の評価であるため測定するタイミングが重要.井上ら7)レバミピドC10Cμl点眼後の涙液メニスカスを撮影し,レバミピド濃度の経時変化を評価する.涙液クリアランスの評価が可能.C5分以降の測定や懸濁液の改良が課題.本法点眼ボトルC1滴分(約C50Cμl)の生理食塩水を点眼負荷し,5分間の涙液メニスカスを評価する.簡便でマイクロピペットが不要.負荷点眼量が多いため,再現性に課題.涙液排出能を評価導涙障害も含まれている可能性があるが,抜去後に正常型が76%と増加したことから,留置チューブが導涙機能を妨げている例があることが示唆された.正常型と点眼後異常型を合わせたC82%については点眼前CTMHがほぼ正常であり,加齢に伴う涙液分泌の低下5)により涙液量の均衡を保っていると考えられた.一般的にCNLDIはCDCRに比べると治癒率が低いことが知られており,鶴丸ら6)はCSGI後のC27.4%が再閉塞したと報告している.今回の検討で,チューブ留置中は通水可能であっても,点眼負荷CTMHが高いまま推移する例においては,抜去後に流涙症状が残存し,通水陰性になる例が少なからず存在した.チューブ留置中から治療成績の予測ができる可能性があるが,さらに症例数を増やして検討する必要がある.健常者で点眼負荷CTMH推移を調べると,点眼直後は反射分泌と量的負荷状態の急速相となり,点眼C2分後には量的負荷のない緩徐相が生じる3,7).今回も点眼C2分以降のCTMHは変化せず推移していたため,今後は測定時間を点眼C2分間に短縮できると考える.前眼部COCTを用いた他の涙液動態試験との比較を表2に示した.涙道診療において,前眼部COCTなどによる非侵襲的メニスカス測定はますます重要度が増すと考えられ,検査方法の標準化と評価法の確立が必要である.本法はCTMHを指標にして涙液貯留量を評価しているため涙液クリアランスの測定ができないのが課題であるが,簡便かつ事前に患者が涙を拭いていても評価が可能という利点があり,臨床現場で有用な検査の一つになりえると考えられた.(105)利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HollyCFJ:PhysicalCchemistryCofCtheCnormalCandCdisor-deredtear.lm.TransOphthalmolSocUK104:374-380,C19852)鈴木亨:光干渉断層計(OCT)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価.あたらしい眼科30:923-928,C20133)谷吉オリエ,鶴丸修士:生理食塩水点眼による涙液メニスカス高の経時的測定.あたらしい眼科C33:1209-1212,C20164)永岡卓,堀裕一,金谷芳明ほか:涙管チューブ挿入術前後の涙液動態の変化.臨眼68:1031-1035,C20145)HigashiharaCH,CYokoiCN,CAoyagiCMCetCal:UsingCsynthe-sizedConionClachrymatoryCfactorCtoCmeasureCage-relatedCdecreasesinre.ex-tearsecretionandocular-surfacesen-sation.JpnJOphthalmol54:215-220,C20106)鶴丸修士,野田佳宏,山川良治:涙道閉塞症に対する涙管チューブ挿入術後の再閉塞の検討.眼科手術C29:473-476,C20167)井上康,越智進太郎,山口昌彦ほか:レバミピド懸濁点眼液をトレーサーとして用いた光干渉断層計涙液クリアランステスト.あたらしい眼科31:615-619,C20148)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:NewmethodforevaluationCofCearlyCphaseCtearCclearanceCbyCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomography.CActaCOphthalmolC92:105-111,C2014あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1317

生理食塩水点眼による涙液メニスカス高の経時的測定

2016年8月31日 水曜日

《第4回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科33(8):1209?1212,2016c生理食塩水点眼による涙液メニスカス高の経時的測定谷吉オリエ鶴丸修士公立八女総合病院眼科SerialMeasurementsofTearMeniscusHeightwithInstillationofSalineOrieTaniyoshiandNaoshiTsurumaruDepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital前眼部光干渉断層計により撮影した涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)を指標とし,生理食塩水点眼後の涙液排出能を検討した.対象は健常成人36眼(60歳未満17眼,60歳以上19眼)と涙道閉塞例48眼で,自然瞬目下で,生理食塩水点眼前と点眼後5分間の下眼瞼TMHを記録した.点眼前平均TMHは健常成人(216.0μm)より,涙道閉塞例(606.8μm)のほうが有意に高かった.健常成人においては,60歳未満が点眼2分後に点眼前と有意差がなくなったのに対し,60歳以上は次第に低下するものの,5分経過後も点眼前より有意に高かった.涙道閉塞例は,点眼後TMHが高いまま変化せず推移していた.自覚症状とTMHの間に相関はなかった.本法は非侵襲的に涙液排出能を定量することができ,涙道診療において有用な検査法になる可能性がある.Purpose:Toevaluatetearclearanceaftersalineinstillationbymeasuringtearmeniscusheight(TMH)withanteriorsegmentopticalcoherencetomography(AS-OCT).Materials:Thisstudyincluded36eyesofnormalsubjects(17eyesofsubjectslessthan60yearsofageand19eyesofsubjects60yearsorolder)and48eyesofsubjectswithnasolacrimalductobstruction(NLDO).LowerTMHwasmeasuredundernaturalblinkingbeforesalineinstillationandfor5minutesafterinstillation.Results:MeanTMHbeforeinstillationwassignificantlyhigherinsubjectswithNLDO(606.8μm)thaninnormalsubjects(216.0μm)(p<0.01).Innormalsubjectsbelow60yearsofage,TMHat2minutesafterinstillationdidnotdiffersignificantlyfrombeforeinstillation,whereasinsubjects60yearsandolder,TMHgraduallydecreasedafterinstillation,butat5minutesremainedhigherthanbeforeinstillation.InsubjectswithNLDO,TMHincreasedafterinstillationandremainedincreased.TherewasnocorrelationbetweensubjectivesymptomsandTMH.Conclusions:TearclearancecanbequantitativelyandnoninvasivelyevaluatedbymeasuringTMHwithAS-OCT,andTMHmeasurementcanbeusefulindiagnosinglacrimaldrainagefunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1209?1212,2016〕Keywords:涙液メニスカス高,前眼部光干渉断層計,涙道閉塞,涙液排出能.tearmeniscusheight,anteriorsegmentopticalcoherencetomography,nasolacrimalductobstruction,lacrimaldrainagefunction.はじめに流涙症はさまざまな要因により,涙液の分泌過多あるいは排出障害を生じる疾患の総称であり,眼不快感や視機能異常を伴うと定義されている1).これまで眼表面の涙液貯留量を評価する目的で,涙液メニスカスの高さ(tearmeniscusheight:TMH),奥行き,曲率半径など,さまざまな側面から検討されてきた.なかでも,下方TMHは診断精度が高く2.),睫毛や眼瞼縁の影響が少ないことから,涙液量を評価する代表的な指標となっている.前眼部光干渉断層計(以下,前眼部OCT)を用いたTMH撮影は,従来の方法と比べ,非侵襲的で客観性に優れており,ドライアイ鑑別に有用との報告がある3).しかし,流涙症患者の場合は,違和感から涙を拭くことが習慣になっている場合も多く,本来のメニスカス撮影ができないことがある.また,メニスカス自体が,瞬目や測定部位,眼瞼形状の影響を受けるため,そのデータの信頼性や再現性が問題になることがある.そこで,今回筆者らは,点眼負荷により検査直前の条件を統一し,同一部位を経時的に測定することで,正確なTMH評価の可能性を検討した.I対象および方法対象は,流涙や眼脂,ドライアイ症状がなく,通水検査陽性であった健常成人36眼と,平成26年10月~平成27年8月に当科受診し,涙道内視鏡により涙道閉塞と診断された48眼である.健常成人は,60歳未満の17眼と60歳以上の19眼に分けて年齢間の比較検討を行った(表1).事前に研究に対する説明を行い,本人の同意を得た.外傷性や経口抗がん剤TS-1R内服,顔面神経麻痺,眼瞼下垂,高度結膜弛緩症,涙道狭窄例は対象から除外した.TMH撮影には,前眼部観察用アダプタを取り付けた光干渉断層計RS-3000Advance(NIDEK)を用いた.測定プログラムは,OCTスキャンポイント数1024,スキャン長4.0mmの隅角ラインで,下眼瞼の角膜中央を通る垂直ラインで撮影した.まず他の検査に先駆けて対象のTMHを測定した後,常温の生理食塩水の入った点眼ボトル(5ml)で1滴点眼し,20秒ごとに5分間測定した.測定中の5分間は顔を顎台に乗せたまま自然な瞬目を心掛けていただくよう説明した.TMHはOCTで撮影できたメニスカス断面の上下の頂点から引いた垂線の長さを測定した.1人の検者が撮影および解析を行い,アーチファクトなどによりOCT像の解析不能であった場合はデータから除外した.涙道閉塞患者には症状に関する問診を行い(図1),自覚症状とTMHの関連性についても検討した.II結果1.健常成人について(図2)点眼前TMHは60歳未満が173.5±38.1μm,60歳以上が251.1±125.8μmであった.点眼により一時的にTMHが高くなり,60歳未満が2分後には点眼前と差がなくなったのに対し,60歳以上は徐々に低下するものの,5分経過しても点眼前より有意に高かった.点眼前TMHでは年齢による差がなかったが,点眼後のTMH推移では60歳以上のほうが有意に高い結果となった.2.涙道閉塞例について(図3)点眼前TMHは,涙道閉塞例616.8±319.9μmで健常成人の216.0±104.3μmより有意に高かった.涙道閉塞例は,点眼前と比べ,点眼後すべての時点において有意にTMHが高く,健常成人と比べると,全時点で涙道閉塞例のほうが高いTMHを示した.3.自覚症状との関連について(図4)8項目の問診項目それぞれにおいて,TMHとの相関を検討した.その結果,点眼前から点眼後TMHのいずれにおいても各種自覚症状とTMHに明らかな関連はなかった.III考按今回筆者らは,前眼部OCTを用いて,生理食塩水点眼後5分間のTMHの変化を測定した.健常成人の点眼後の結果は,若年者よりも高齢者のほうが元のTMH水準まで戻るのに時間を要した.Zhengら5)は,筆者らと同様に生理食塩水を点眼負荷し,点眼直後と30秒後のTMHの減少率から涙液クリアランス率[(TMH0sec?TMH30sec)/TMH0sec]を算出したところ,正常若年群35.2%,正常高齢群12.4%で有意な変化があったとしている.今回の検討では,点眼液を確実に結膜?に入れるため,いったん頭位を上に向け検者が点眼したのちOCTの顎台に顔を乗せて測定した.また,点眼直後は瞬目過多となり撮影困難であったため,点眼20秒後を最初の測定ポイントに設定した.この点眼20秒後と40秒後から算出した平均涙液クリアランス率は,健常若年28.3%,健常高齢12.8%,涙道閉塞2.5%で,Zhengらとほぼ同様の結果が得られた.高齢者で涙液クリアランス率が低下することについては,眼瞼ポンプや涙小管ポンプ作用の動力源である眼輪筋やHorner筋が加齢に伴って弱まる6)ことによる涙液排出能低下が考えられる.また,涙液メニスカス遮断を引き起こす結膜弛緩の影響も無視できない.今回対象から高度結膜弛緩症の患者を除外しているものの,結膜弛緩そのものは加齢とともに増加し,60歳以上の眼では98%以上に多少なりとも存在しているというデータがある7).結膜弛緩の多くが無症候性である8)ため,自覚症状がなく通水検査陽性の健常者であっても,結膜弛緩による導涙機能の低下が反映された可能性は否定できない.涙道閉塞例について,点眼前TMHは既報9)と同様,涙道閉塞患者は健常成人より有意に高かった.下眼瞼TMHの正常値については機種により差があるものの,およそ0.23~0.29mm9~12)である.仮に正常値上限を0.3mmとすると,今回対象にした涙道閉塞例の10.4%(5眼)が正常範囲内であり,通常の撮影法から涙道閉塞の有無を鑑別することはむずかしい(図5).点眼前に正常値を示した5眼について,詳細を表2に示す.点眼5分後には高いTMHを示した例(No.2,5)については,検査前に涙を拭いてしまったため点眼前のTMHが低く撮影されたか,もともと涙液分泌量が少なく涙液排出能が低下した状態でバランスがとれていた可能性がある.また,全例涙道内視鏡による直視下で閉塞所見を呈しているにもかかわらず,5眼中3眼はやはり点眼後も正常値まで回復することができていた.涙道閉塞があっても涙液排出能が良好な例に関しては,今後閉塞状況などのデータをふやしてさらに検討する予定である.前眼部OCTによる涙液メニスカス測定は簡便に定量が可能で,客観性の高いデータを示すことができる.しかし,流涙症状が強ければ涙液貯留状態が刻々と変化するため,測定するタイミングによって計測結果が大きく異なることがある.本法は検査の汎用性を高める目的で,マイクロピペットを用いず,一般的な点眼ボトルを用いた.そのため,点眼液の大半が結膜?からあふれ,点眼直後のTMHには個体差が大きかった.しかし,同一部位を経時的に測定することで,測定部位の影響をうけることなく固体内の涙液排出能を客観的に記録することができた.従来から導涙機能評価に用いられているJones法やフルオレセインクリアランス試験に比べ,本法は定量性に優れ,検査による侵襲もない13).ただし,より測定時間が短縮でき,解析結果をリアルタイムで表示ができるようになれば,より臨床的な検査法となることが期待できる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)横井則彦:巻頭言─流涙症の定義に想う─.眼科手術22:1-2,20092)鈴木亨:光干渉断層計(OCT)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価.あたらしい眼科30:923-928,20133)CzajkowskiG,KaluznyBJ,LaudenckaAetal:Tearmeniscusmeasurementbyspectralopticalcoherencetomography.OptomVisSci89:336-342,20124)SmirnovG,TuomilehtoH,KokkiHetal:Symptomscorequestionnairefornasolacrimalductobstructioninadults─anoveltooltoassesstheoutcomeafterendoscopicdacryocystorhinostomy.Rhinology48:446-451,20105)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearlyphasetearclearancebyanteriorsegmentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmol92:105-111.20146)栗橋克昭:導涙機構の加齢による変化.ダクリオロジー─臨床涙液学─,p57-58,メディカル葵出版,19987)MimuraT,YamagamiS,UsuiTetal:Changeofconjunctivochalasiswithageinahospital-basedstudy.AmJOphthalmol147:171-177,20098)横井則彦:結膜弛緩症と流涙症の関係について教えてください.あたらしい眼科30(臨増):52-54,20139)ParkDI,LewH,LeeSY:TearmeniscusmeasurementinnasolacrimalductobstructionpatientswithFourierdomainopticalcoherencetomography:novelthree-pointcapturemethod.ActaOphthalmol90:783-787,201210)SaviniG,GotoE,CarbonelliMetal:Agreementbetweenstratusandvisanteopticalcoherencetomographysystemsintearmeniscusmeasurements.Cornea28:148-151,200911)BittonE,KeechA,SimpsonTetal:Variabilityoftheanalysisofthetearmeniscusheightbyopticalcoherencetomography.OptomVisSci84:903-908,200712)OhtomoK,UetaT,FukudaRetal:Tearmeniscusvolumechangesindacryocystorhinostomyevaluatedwithquantitativemeasurementusinganteriorsegmentopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:2057-2061,201413)鄭暁東:前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験.あたらしい眼科31:1645-1646,2014〔別刷請求先〕谷吉オリエ:〒830-0034福岡県八女市高塚540-2公立八女総合病院眼科Reprintrequests:OrieTaniyoshi,DepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital,540-2Takatsuka,Yame,Fukuoka830-0034,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY表1対象の内訳1210あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(128)(129)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161211図1問診項目NLDO-SS4)を参考に自作した.8項目の症状の強さを10段階で回答する図2健常成人のTMH推移60歳未満は点眼2分後には点眼前のTMHと差がなくなったが,60歳以上は点眼5分後においても点眼前のTMHより高かった.図3健常成人と涙道閉塞におけるTMH推移の比較涙道閉塞例は,点眼によりTMHが上昇したまま,5分経過後も変化がなかった.図4質問の1例とTMHの関係すべての質問項目において,TMHと有意な相関はなかった.図5点眼前の健常成人と涙道閉塞のTMH分布涙道閉塞例のうち5眼(10%)はTMH300μm以下であった.表2点眼前にTMH300μm以下であった涙道閉塞5症例1212あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(130)