《原著》あたらしい眼科30(9):1309.1313,2013cカプサイシン処置による角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果竹治康広中嶋英雄香川陽人浦島博樹篠原久司大塚製薬株式会社赤穂研究所EffectofRebamipideOphthalmicSuspensiononCapsaicin-inducedCornealEpithelialDamageinRatsYasuhiroTakeji,HideoNakashima,YotoKagawa,HirokiUrashimaandHisashiShinoharaAkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.レバミピド点眼液は,角膜および結膜においてムチン産生促進作用を有するドライアイ治療薬である.今回,カプサイシン処置を施したラットにおける角膜上皮障害および涙液安定性の低下に対する効果について検討した.カプサイシン処置を行ったラットに2%レバミピド点眼液または基剤を1日4回,15日間点眼した.角膜上皮障害はフルオレセイン染色スコアにより評価した.また,涙液量,涙液層破壊時間(BUT)および涙液中Muc5AC量を測定した.カプサイシン処置により,角膜上皮障害,涙液量の低下およびBUTの短縮が観察された.レバミピド点眼液により,経時的なフルオレセイン染色スコアの低下が観察され,さらに涙液量の回復,BUTの延長および涙液中Muc5AC量の増加が認められた.レバミピド点眼液は,カプサイシン処置を施したラットにおける涙液の減少を伴う角膜上皮障害を抑制することが明らかとなり,この作用は涙液中のムチン増加を介して涙液保持能を高めることにより,涙液安定性を向上させた可能性が示唆された.Rebamipideophthalmicsuspensionisatherapeuticagentfordryeyethatpromotestheproductionofmucininthecorneaandconjunctiva.Thisstudyinvestigatedtheeffectofrebamipideophthalmicsuspensiononcornealepithelialdamageanddecreaseintearstabilityinrats.Rebamipideophthalmicsuspension(2%)orvehiclewasadministeredtopically4timesdailyfor15daystoratstreatedwithcapsaicin.Cornealepithelialdamagewasevaluatedbyscoringfluoresceinstaining.Tearvolume,breakuptime(BUT)andtearMuc5ACweremeasured.Theadministrationofcapsaicininducedcornealepithelialdamage,decreaseintearvolumeanddepressionoftearstability.Rebamipideophthalmicsuspensionshowedtime-dependentimprovementofcornealepithelialdamage,restorationoftearvolume,shorteningofBUTandincreaseintearMuc5AC.Rebamipideophthalmicsuspensionwasshowntoimprovecapsaicin-inducedcornealepithelialdamageinrats.TheactionofrebamipideophthalmicsuspensionmayimprovetearstabilitybyenhancingtearretentionviaincreasedtearMuc5AC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(9):1309.1313,2013〕Keywords:レバミピド点眼液,涙液減少,角膜上皮障害,涙液安定性,ムチン.rebamipideophthalmicsuspension,tear-deficiency,cornealepithelialdamage,tearstability,mucin.はじめにドライアイは涙液の状態から涙液減少型と涙液蒸発亢進型の2つに大別される.涙液減少型ドライアイは,Sjogren症候群や,術後の知覚神経の障害などの要因により,涙腺からの涙液の供給の低下を生じ,涙液減少に伴い涙液交換の低下,浸透圧上昇など涙液の質の悪化がひき起こされる1).涙液蒸発亢進型ドライアイは,内的および外的なさまざまな要因による涙液の安定性低下が原因である.涙液安定性低下の因子の一つとして,眼表面のムチン減少による角膜表面の水濡れ性低下があげられる.実際,ドライアイ患者において,分泌型ムチン2)および膜型ムチン3)発現が低下していることが報告されている.〔別刷請求先〕竹治康広:〒678-0207兵庫県赤穂市西浜北町1122-73大塚製薬株式会社赤穂研究所Reprintrequests:YasuhiroTakeji,AkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,1122-73Nishihamakita,Ako,Hyogo678-0207,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(109)1309また,これらドライアイの発症・増悪のコア・メカニズムとして,涙液層の安定性の低下に伴い角膜上皮に障害がひき起こされ,上皮の水濡れ性が低下して,再び涙液層の安定性低下へと続く悪循環が問題とされている.レバミピド点眼液は,角膜および結膜においてムチン産生促進作用を有するドライアイ治療薬である.N-アセチルシステイン処置によるムチン被覆障害モデルにおいて,レバミピド点眼液は,ムチン被覆障害,涙液安定性および角結膜表面の微細構造を改善することを報告している4,5).このムチン被覆障害モデルでは涙液量の低下は認められていないことより,レバミピド点眼液は,ムチンの減少が原因で涙液安定性が低下したドライアイには有効であると考えられるが,涙液が減少したドライアイにおける角膜上皮障害に対する効果については明らかにされていない.今回,カプサイシン処置を施したラットを用いて,涙液の刺激性分泌の低下を伴う角膜上皮障害および涙液安定性の低下に対するレバミピド点眼液の効果について検討した.I実験方法1.カプサイシンの処置カプサイシンの処置は香川らの方法6)を参考にした.生後4日齢のWister/ST雌性ラット(日本エスエルシー)に50mg/kgのカプサイシン(和光純薬)を皮下投与することによりモデルを作製した.カプサイシンは10%エタノール(和光純薬),10%Tween80(Sigma)を含有した生理食塩水で溶解させ使用した.正常群は,非処置とした.カプサイシン投与4週後に,涙液量測定および角膜フルオレセイン染色を行い,群分けを実施した.本研究は,「大塚製薬株式会社動物実験指針」を遵守し実施した.2.薬物の投与カプサイシンを処置したラットのうち,レバミピド群には2%レバミピド点眼液を,コントロール群には基剤を1回5μL,1日4回,15日間点眼した.正常群は点眼を実施しなかった.3.涙液量および涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の測定涙液量の測定は,1.5mm幅に切断したシルメル試験紙を下側結膜に挿入し,1分間保持した.測定は点眼開始13日目の薬物点眼30分後に実施した.BUTの測定は,既報を一部改変した7).0.2%フルオレセイン溶液を5μL点眼し,強制的に瞬きさせた後,細隙灯顕微鏡(SL-7E,TOPCON)を用いて測定した.測定は点眼開始14日目の点眼30分後に実施した.4.角膜上皮障害の観察ラットの角膜上皮障害の観察は麻酔下で行った.麻酔は吸入麻酔剤であるイソフルラン(フォーレン吸入麻酔液,ア1310あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013表1スコア評価基準スコア角膜の染色状態0点状染色がない(正常)1点状染色が疎である2点状染色が密でもなく疎でもない3点状染色が密であるボット)を実験動物ガス麻酔システム(片山化学)を用いて実施した.1%フルオレセイン溶液を1μL点眼した後,余分な染色液を生理食塩水で洗浄した.共焦点走査型ダイオードレーザー検眼鏡(F-10,NIDEK)にて角膜を撮影し,スコア評価は角膜を上部・中央部・下部に分け,各領域の染色状態を戸田らの方法8)に従って0.3点にスコア化し,角膜全体を9点満点とした(表1).角膜上皮障害の観察は,すべて盲検下で点眼前,点眼5,10および15日後に実施した.5.涙液中ムチンMuc5AC量の測定点眼開始13日目にシルメル試験紙を用いて涙液を採取した.シルメル試験紙をあらかじめ0.15mLリン酸緩衝生理食塩水〔PBS(.)〕が入ったチューブに入れ,撹拌することにより抽出した.遠心(15,000rpm,10分,4℃)後,上清を0.1mL採取し,Muc5AC量をRatMuc5ACELISAkit(CUSABIOBIOTECH)を用いて測定した.6.統計解析データは平均値±標準誤差で示し,統計解析は,SAS(Release9.1,SASInstituteJapan,Ltd)を用いて実施した.角膜上皮障害について,コントロール群とレバミピド群の間で繰り返し測定による分散分析を,各時間における2群間の違いを対応のないt-test(両側)を実施した.涙液量,BUTおよび涙液中Muc5ACについて,正常群とコントロール群の間およびコントロール群とレバミピド群の間で対応のないt-test(両側)を行った.いずれの検定も5%を有意水準として解析した.II結果1.角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果について,点眼開始15日目の典型的な角膜フルオレセイン染色の観察像を図1に示す.コントロール群では,正常群に比べ多数の点状染色が出現したのに対し,レバミピド群では点状染色は減少した.図2はフルオレセイン染色スコアの経時変化を示し,正常群のスコアは最大でも開始10日目の1.2±0.3であり,観察期間を通して低い値を示した.一方,コントロール群に関して,開始前のスコア(4.9±0.3)は正常群に比べ明らかに高く,開始15日目においても3.5±0.5を示し,観察期間を通して高いスコアを維持した.レバミピド群は,経時的な染色(110)図1角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果点眼開始15日目の角膜フルオレセイン染色像を示す.コントロール群では,正常群に比べ,点状の染色が観察された.一方,レバミピド群では,点状の染色は減少した.正常ラットコントロールレバミピドカプサイシン投与ラット:正常ラット##**0123456涙液量(mm)6543:コントロール:レバミピド051015*角膜フルオレセイン染色スコア#*210正常ラットコントロールレバミピド時間(日)図2角膜上皮障害に対するレバミピド点眼液の効果値は平均値±標準誤差を示す.(n=12)*:p<0.05vsコントロール〔対応のないt-test(両側)〕.#:p<0.05vsコントロール〔繰り返し測定による分散分析〕.スコアの低下を示し,点眼開始10および15日後のレバミカプサイシン投与ラット図3涙液量に対するレバミピド点眼液の効果値は平均値±標準誤差を示す.(n=12)点眼開始13日目に測定した.##:p<0.01vs正常〔対応のないt-test(両側)〕.**:p<0.01vsコントロール〔対応のないt-test(両側)〕.ピド群のスコア(2.0±0.6,1.7±0.6)は,コントロール群のスコア(3.9±0.5,3.5±0.5)に比べて有意に低下した.2.涙液量およびBUTに対するレバミピド点眼液の効果涙液量およびBUTに対するレバミピド点眼液の効果の結果を図3および図4に示す.正常群の涙液量は4.4±0.2mmを示すのに対し,コントロール群の涙液量は2.6±0.1mmに有意に低下した.それに対してレバミピド群は3.1±0.1mmに有意に増加させた.BUTに関して,正常群は10.0±0.7秒を示したのに対し,コントロール群では5.9±0.5秒に有意に短縮した.レバミピド群のBUT(8.9±0.8秒)は,コントロール群に対して有##**024681012BUT(秒)正常ラットコントロールレバミピド意な延長を示した.3.涙液中Muc5ACに対するレバミピド点眼液の効果涙液中Muc5ACに対するレバミピド点眼液の効果の結果を図5に示す.コントロール群のMuc5AC量(19.7±2.8pg)は,正常群(26.6±3.5pg)に対して有意な差はないが低値を示した.一方,レバミピド群(52.4±9.3pg)は,コントロー(111)カプサイシン投与ラット図4BUTに対するレバミピド点眼液の効果値は平均値±標準誤差を示す.(n=12)点眼開始14日目に測定した.##:p<0.01vs正常〔対応のないt-test(両側)〕.**:p<0.01vsコントロール〔対応のないt-test(両側)〕.あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131311涙液中Muc5AC量(pg)706050403020100NS##正常ラットコントロールレバミピドカプサイシン投与ラット図5涙液中Muc5AC量に対するレバミピド点眼液の効果値は平均値±標準誤差を示す.(n=11.12)点眼開始13日目に採取した涙液を測定した.##:p<0.01vsコントロール〔対応のないt-test(両側)〕.NS:有意差なしvs正常〔対応のないt-test(両側)〕.ル群(19.7±2.8pg)に対して有意な増加を示した.III考按涙液の減少を伴う角膜上皮障害の治療は,涙液量を増加させることであり,人工涙液あるいはヒアルロン酸ナトリウム点眼液が用いられている.しかし,人工涙液の頻回点眼は,涙液の希釈を誘導し眼表面に悪影響を及ぼすこと9),涙液が極度に減少している患者に対してヒアルロン酸ナトリウム点眼液の効果が低いこと10)が報告されており,涙液の量だけでなく質の改善も必要と考えられる.そこで,涙液の減少を伴う角膜上皮障害および涙液安定性に対するレバミピド点眼液の効果について検討した.涙液分泌の低下を示す動物モデルとしては,涙腺を摘出したモデル11)や,副交感神経遮断薬であるスコポラミンの投与により涙腺からの涙液分泌を遮断するモデル12)が報告されているが,今回筆者らは,涙腺自身は正常な機能を保っているカプサイシン処置モデルを用いた.カプサイシンは知覚神経の伝達物質であるサブスタンスPの枯渇をひき起こすため,知覚神経からの栄養物質の欠如,および刺激による涙液分泌の低下を伴う角膜上皮障害を発症することが報告されている6,13).筆者らは,本モデルにおいて涙液量低下および角膜上皮障害だけでなく,涙液安定性の指標となるBUTも短縮していることを確認した.Pengらの報告によれば正常ラットのBUTは14.3.15.3秒であり14),筆者らは既報と大きな違いがない測定系において,カプサイシンモデルにおけるBUT短縮を明らかにした.レバミピド点眼液を反復投与すると,角膜上皮障害が改善することが明らかになった.以前,レバミピド点眼液はムチ1312あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013ン被覆障害モデルにおいて,角結膜表面の微細構造を改善し,それには角結膜のムチン増加が関与していることを報告している5).本モデルにおいても涙液中Muc5ACの増加が観察されていることより,上皮障害改善作用にはムチン増加が関与していると推測される.さらに,涙液量の回復とBUTの延長を示していることより,レバミピド点眼液は眼表面のムチン増加を介して,涙液保持能の向上および角膜上皮障害の改善により安定した涙液層の形成を促したことが示唆された.なお,レバミピド点眼液は本モデルにおける知覚の低下に対して効果を示さないことを確認しており,涙液量の増加および角膜上皮障害の改善は,知覚神経自身の機能の改善を介したものではないと考えられる.LASIK(laserinsitukeratomileusis)術後の知覚神経の障害に伴う涙液分泌低下,BUTの短縮は,ドライアイの要因の一つとされていること15)から,カプサイシン処置ラットを用いた今回の結果より,レバミピド点眼液は涙液の刺激性分泌の減少に起因した角膜上皮障害が生じているドライアイ患者に対しても有効な治療薬として期待される.文献1)TheInternationalDryEyeWorkShop:Thedefinitionandclassificationofdryeyedisease:reportoftheDefinitionandClassificationSubcommitteeoftheInternationalDryEyeWorkShop.OculSurf5:291-297,20072)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:DecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACintearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,20023)ArguesoP,Spurr-MichaudS,RussoCLetal:MUC16mucinisexpressedbythehumanocularsurfaceepitheliaandcarriestheH185carbohydrateepitope.InvestOphthalmolVisSci44:2487-2495,20034)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20045)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,20126)KagawaY,ItohS,ShinoharaH:Investigationofcapsaicin-inducedsuperficialpunctatekeratopathymodelduetoreducedtearsecretioninrats.CurrEyeRes38:729735,20137)JainP,LiR,LamaTetal:AnNGFmimetic,MIM-D3,stimulatesconjunctivalcellglycoconjugatesecretionanddemonstratestherapeuticefficacyinaratmodelofdryeye.ExpEyeRes93:503-512,20118)TodaI,TsubotaK:Practicaldoublevitalstainingforocularsurfaceevaluation.Cornea12:366-367,19939)大竹雄一郎,山田昌和,佐藤直樹ほか:点眼薬中の防腐剤による角膜上皮障害について.あたらしい眼科8:15991603,1991(112)10)高村悦子:ドライアイのオーバービュー.FrontiersinDryEye1:65-68,200611)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,200212)DursunD,WangM,MonroyDetal:Amousemodelofkeratoconjunctivitissicca.InvestOphthalmolVisSci43:632-638,200213)FujitaS,ShimizuT,IzumiKetal:Capsaicin-inducedneuroparalytickeratitis-likecornealchangesinthemouse.ExpEyeRes38:165-175,198414)PengQH,YaoXL,WuQLetal:EffectsofextractofBuddlejaofficinaliseyedropsonandrogenreceptorsoflacrimalglandcellsofcastratedratswithdryeye.IntJOphthalmol3:43-48,201015)TodaI:LASIKandtheocularsurface.Cornea27:S7076,2008***(113)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131313