《原著》あたらしい眼科35(12):1688.1691,2018c涙管チューブ挿入術前後における涙液クリアランス試験の検討松尾早希子*1,2渡辺彰英*1横井則彦*1脇舛耕一*1,3山中行人*1中山知倫*1山中亜規子*1古澤裕貴*1,2後藤田遼介*1小泉範子*1,2外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*2同志社大学生命医科学部*3バプテスト眼科クリニックCTearClearanceExaminationatPre-andPost-lacrimalIntubationforLacrimalDuctObstructionSakikoMatsuo1,2)CAkihideWatanabe1)CNorihikoYokoi1)CKoichiWakimasu1,3)CYukitoYamanaka1),,,,,TomomichiNakayama1),AkikoYamanaka1),YukiFurusawa1,2),RyosukeGotouda1),NorikoKoizumi1,2)CandChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)GraduateSchoolofLifeMedicalSciences,DoshishaUniversity,3)BaptistEyeClinicC目的:涙管チューブ挿入術前後の涙液クリアランスについて検討すること.対象および方法:涙道閉塞症に対して涙管チューブ挿入術を施行し,チューブ抜去後C1カ月まで経過観察可能であったC15例C18眼(男性C3例,女性C12例,平均年齢C70.1C±13.2歳)を対象に,BSS点眼液C20Cμlを負荷後,video-meniscometerを用いてC1分ごとに計C5回涙液メニスカスを計測し,曲率半径CRを求め,点眼負荷前の涙液貯留量の変化,および点眼負荷後の涙液貯留量の変化により涙液クリアランスの変化を検討した.結果:点眼負荷前の涙液貯留量は,術前がC0.75C±0.50Cmm,チューブ挿入後1カ月がC0.26C±0.12Cmm,挿入後C2カ月がC0.27C±0.11Cmm,抜去後C1カ月がC0.27C±0.11Cmmとなり,術後は涙液貯留量が有意に減少した.涙液クリアランスを術前後で比較すると,術後は涙液クリアランスが有意に改善した.涙液貯留量,涙液クリアランスともに内視鏡併用の有無による有意差は認めなかった.結論:涙管チューブ挿入術により,術後は内視鏡の有無にかかわらず涙液貯留量の減少,涙液クリアランスの改善が認められた.CToassesstearclearancechangeafterlacrimalintubationforlacrimalductobstruction,18eyesof15patients(3male,C12female,CaverageCageC70.1years)underwentClacrimalCintubation.CACvideo-meniscometerCwasCusedCtoCexamineCtearCmeniscuscurvature(R)forCtearCvolumeCassessment.CTearCclearanceCexaminationCwasCperformedCasfollows:20CμlCBSSsolutionwasinstilledtoincreasetearvolume,andRwasexaminedfor5minutesatpre-intuba-tion,1monthafter,2monthsafter(justbeforetuberemoval)and1monthaftertuberemoval.Tearvolumewassigni.cantlydecreasedbyintubationateverypostoperativeperiod.Tearclearancewasalsosigni.cantlyimprovedatCeveryCpostoperativeCperiod.CThereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCbetweenCuseCandCnon-useCofCtheCdacryoendo-scope,CinCtermsCofCtearCvolumeCorCtearCclearanceCafterCintubation.CLacrimalCintubationCdecreasedCtearCvolumeCandCimprovedtearclearance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1688.1691,C2018〕Keywords:涙道閉塞症,涙管チューブ挿入術,涙液貯留量,涙液クリアランス,メニスコメトリー.lacrimalCductobstruction,lacrimalintubation,tearvolume,tearclearance,meniscometory.C〔別刷請求先〕渡辺彰英:〒602-8566京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:AkihideWatanabe,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,KawaramachiHirokojiagaru,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC1688(112)はじめに涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータである1,2).涙液クリアランスが高い場合,涙液は速やかに涙道へ排出されるが,涙液クリアランスが低い場合は涙液の流れが悪く涙液の質的異常をきたす.また,涙液中の炎症性サイトカインなどが眼表面に貯留し結膜炎を生じたり,外的内的環境の影響を受けやすくなり,防腐剤を含む点眼薬などの上皮障害性物質の影響を強く受けやすくなるため,角結膜上皮障害を生じることもある3).涙液クリアランスの代表的な評価方法の一つにCSchirmer試験があるが,試験紙のずれにより角結膜を刺激し涙液分泌を促すこともあるため,測定結果にばらつきが大きいことが欠点である3).しかし近年,非接触かつ低侵襲な評価方法が考案されてきた.Zhengら1,2)は前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)を用いて点眼負荷涙液クリアランス試験を行い,横井ら3.6)はメニスコメトリー法を開発した.メニスコメトリー法は下方涙液メニスカスを測定し,曲率半径CRを求める方法であり4),涙液メニスカスの曲率半径CRは涙液貯留量と正の相関があることが報告されている5).涙道閉塞症の治療法は大きく分けて二つあり,涙管チューブ挿入術と涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhynostomy:DCR)であるが,今回筆者らは涙道閉塞症に対し涙管チューブ挿入術を適用した症例の涙液クリアランスを評価したので報告する.なお,本研究では涙液メニスカスの曲率半径CRを涙液貯留量の指標とし,BSS点眼液を点眼することで一時的に涙液貯留量を増やし,時間ごとの涙液貯留量の変化を涙液クリアランスの評価の指標とした.CI対象対象はC2017年C3月.2017年C12月に京都府立医科大学附属病院眼科にて,総涙小管閉塞症または鼻涙管閉塞症に対し涙管チューブ挿入術を施行し,チューブ抜去後C1カ月まで経過観察可能であったC15例C18眼(男性C3例,女性C12例,平均年齢C70.1C±13.2歳)である.そのうち内視鏡併用群はC4例6眼(男性C1例,女性C3例,平均年齢C76.3C±8.5歳),内視鏡非併用群はC11例C12眼(男性C2例,女性C11例,平均年齢C68.7±14.7歳)である.治療眼の閉塞部位の内訳は表1に示す.チューブは全例C2カ月で抜去を行った.今回抗癌剤の影響による涙道閉塞症例,涙道狭窄症例,機能性流涙症例などは除外した.対象患者には京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得たうえでインフォームド・コンセントを行い,同意を得て測定を行った.表1閉塞部位鼻涙管閉塞総涙小管閉塞内視鏡併用症例5眼1眼内視鏡非併用症例5眼7眼II方法Video-meniscometerを用いて点眼負荷前の下方涙液メニスカスを測定して曲率半径CRを算出し,涙液貯留量を比較,検討した.BSS点眼液C20Cμlを点眼後,点眼直後,点眼後C1分,2分,3分,4分,5分にCvideo-meniscometerを用いて下方涙液メニスカスを測定し曲率半径CRを求め,点眼負荷後のCRの変化を涙液クリアランスの指標として比較,検討した(涙液クリアランス試験).また,治療眼を内視鏡併用群と内視鏡非併用群に分け,点眼負荷前の涙液メニスカスの曲率半径CR,および点眼負荷後のCRの変化を比較,検討した.測定時期は術前,チューブ挿入後C1カ月,チューブ挿入後2カ月(抜去直前),チューブ抜去後C1カ月である.使用したチューブは,PFカテーテルCR(TORAY社製,ポリウレタン),ラクリファストR(カネカメディックス社製,スチレン・イソブチレン・スチレン共重合体とポリウレタンの混合樹脂),FCIヌンチャクCR(Zeiss社製,シリコン)のC3種類で,内視鏡併用群にCPFカテーテルCR,内視鏡非併用群にC3種類すべてのチューブを使用した.このとき内視鏡併用群はシース誘導内視鏡下穿破法(sheath-guidedCendoscopicprobing:SEP)により閉塞部位を突破し,シースに接続しやすいという理由でCPFカテーテルCRを使用した.CIII結果点眼負荷前の涙液貯留量の変化を図1に示す.治療眼全体の術前後を比較すると,すべての時期で有意差が認められ,術後の涙液貯留量は減少したことが示された.また,内視鏡併用群の点眼負荷前の涙液貯留量の変化,内視鏡非併用症例の点眼負荷前の涙液貯留量の変化を術前後で比較すると,両群ともに術後は有意差が認められ,涙液貯留量は減少したことが示された.治療眼全体の涙液メニスカス曲率半径CRの変化を図2に示す.術前と比較すると,術後のすべての時期(挿入後C1カ月,挿入後C2カ月,抜去後C1カ月)において点眼負荷前のCR値は有意に減少し,涙液クリアランスの指標である点眼負荷後のCR値の減少率においても明らかな改善を認めた.内視鏡併用群における涙液メニスカス曲率半径CRの変化を図3に示す.術前と比較すると,挿入C1カ月の点眼後C1分,2分,■術前■挿入後1カ月■挿入後2カ月1.81.6メニスカスの曲率半径R(mm)メニスカスの曲率半径R(mm)メニスカスの曲率半径R(mm)1.41.210.80.60.40.20点眼前点眼点眼後点眼後点眼後点眼後点眼後治療眼全体内視鏡併用内視鏡非併用直後1分2分3分4分5分(n=18)(n=6)(n=12)n=18平均値±標準偏差*p<0.05平均±標準偏差Steel検定図2点眼負荷後の涙液貯留量の変化図1点眼負荷前の涙液貯留量の変化メニスカスの曲率半径R(mm)1.41.210.80.60.40.201.81.61.41.210.80.60.40.2点眼前点眼点眼後点眼後点眼後点眼後点眼後直後1分2分3分4分5分n=6平均値±標準偏差図3内視鏡併用群における点眼負荷後の涙液貯留量の変化3分,4分,5分,挿入後C2カ月の点眼後C1分,2分,3分,4分,5分,抜去後C1カ月の点眼後C1分,3分,4分,5分でR値は有意に減少していた.有意差が認められなかった時間はあるものの,術後は涙液貯留量が減少し,涙液貯留量の減少率すなわち涙液クリアランスの改善が認められた.内視鏡非併用群の涙液メニスカス曲率半径CRの変化を図4に示す.術前と比較すると,チューブ挿入後C1カ月の点眼直後以外で有意差が認められた.内視鏡非併用群においても有意差が認められなかった時間はあるものの,術後は涙液貯留量が減少し,涙液クリアランスの改善が認められた.CIV考按涙液貯留量の指標である涙液メニスカスの曲率半径CRの正常値は約C0.25.0.3Cmmといわれている3).これをもとに点眼負荷前の涙液貯留量を術前後で比較すると,治療眼全体の涙液貯留量は涙管チューブ挿入術後各時点で正常値となり,また内視鏡併用非併用の有無にかかわらず,涙液貯留量は術後各時点でほぼ正常値となった(図1).このことから涙管チューブ挿入術により,涙液貯留量は挿入術後C1カ月で正0点眼前点眼点眼後点眼後点眼後点眼後点眼後直後1分2分3分4分5分n=12平均値±標準偏差図4内視鏡非併用群における点眼負荷後の涙液貯留量の変化常化することがわかった.点眼負荷後の涙液貯留量の変化を涙液クリアランスの指標として術前後で比較すると,治療眼全体では治療後のすべての時期で点眼負荷後の涙液貯留量が減少し,涙液クリアランスの改善を認めた(図2).これより涙管チューブ挿入術により涙液貯留量の減少,涙液クリアランスの両方が改善することが示唆された.また,内視鏡併用群では,チューブ抜去後1カ月ではチューブ挿入中より涙液貯留量が高い結果となった(図3).この結果よりチューブを留置することで内眼角が引き締まり眼輪筋のポンプ機能がよくなることや,毛細管現象により涙液が引き込まれやすい状態になっていることが考えられる.しかし,内視鏡非併用群では,チューブ挿入中よりもチューブ抜去後C1カ月のほうが涙液貯留量は低くなった(図4).これよりチューブが仮道に挿入されていたり,正しく鼻腔内へ留置されていないために,涙液が涙道から鼻腔へとうまく排出されていない症例が含まれている可能性が示唆される.涙管チューブ挿入術は従来,盲目的にチューブ挿入を行うことが一般的であり,涙道外組織にチューブが挿入されることや仮道形成のリスクがあった7,8).しかし,2000年代初めには涙道内視鏡が開発され,涙道内を可視化できるようになると,涙道粘膜の性状評価ができるようになった7).また,近年,SEPが行われるようになると,より正確にチューブ挿入を行うことができるようになった8).本研究ではCSEP症例と盲目的操作によるチューブ挿入症例を比較し検討したが,どちらの症例においても,涙液の静的変化である涙液貯留量と涙液の動的変化である涙液クリアランスの両要素の改善が示唆された.また,チューブ挿入によって流涙が改善されることにより視機能(qualityCofvision:QOV)の改善が得られるという報告もあり9,10),涙管チューブ挿入術による涙液貯留量の減少および涙液クリアランスの改善は,QOVの改善に寄与すると考えられる.チューブ留置期間について,本研究ではチューブ留置期間をC2カ月としたが,上述のとおりチューブ留置の効果として涙道閉塞部位が開放されることのほか,チューブが挿入されることで内眼角が引き締まり眼輪筋のポンプ機能がよくなることや,毛細管現象により涙液が引き込まれやすい状態になることがあげられる.しかし,チューブの長期留置はバイオフィルムの付着や異物反応,粘膜の扁平上皮化成を引き起こすことがある.そのためチューブ留置期間はC2.3カ月が最適であり,留置中は定期的な洗浄をすることでチューブの清潔さを保つことも必要であるとされている7).本研究では点眼負荷直後からの涙液貯留量の変化を涙液クリアランスの指標としているが,実際は点眼後にCvideo-meniscometerを用いて涙液メニスカス半径を測定するまでには数秒のタイムラグが存在するため,厳密には点眼直後の数値ではないといえ,真の点眼直後の値より小さく測定されている可能性を考慮する必要がある.また,本研究では測定期間を抜去後C1カ月までに限定し検討を行ったが,今後経過観察期間を延長し,抜去後C1カ月以降も涙液クリアランスが維持されるかどうかの検討が必要である.また,経過観察期間を延長して検討を行うと再閉塞を引き起こす症例が出る可能性があるため,再閉塞率の検討も同時に行う必要があると考えられる.さらに今回の対象は15例C18眼と少なく,そのうち内視鏡併用群はC4例C6眼,内視鏡非併用群はC11例C12眼と症例数に差があることで有意差を認めにくかったこともあり,今後症例数を増やしての検討が必要である.今回,涙管チューブ挿入術後の涙液貯留量および涙液クリアランスを客観的に評価した.その結果,涙道内視鏡併用の有無にかかわらず涙管チューブ挿入術によって,涙液貯留量の減少,涙液クリアランスの改善が得られることが示唆され,涙道閉塞症に対する涙管チューブ挿入術の客観的有用性が示された.文献1)鄭暁東,小野眞史:前眼部COCT点眼負荷涙液クリアランス試験.あたらしい眼科31:1645-1646,C20142)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:NewmethodforevaluationCofCearlyCphaseCtearCclearanceCbyCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomography.CActaCOphthalmologi-caC92:105-111,C20143)横井則彦,加藤弘明,小野眞史ほか:メニスコメトリ法.涙液メニスカスを指標とした涙液の量的評価.涙液クリアランステスト.専門医のための眼科診療クオリファイC19ドライアイスペシャリストへの道,中山書店,20134)YokoiCN,CBronCA,CTi.anyCJCetal:Re.ectiveCmeniscome-try:aCnon-invasiveCmethodCtoCmeasureCtearCmeniscusCcurvature.BrJOphthalmolC83:92-97,C19995)YokoiCN,CBronCA,CTi.anyCJCetal:RelationshipCbetweenCtearCvolumeCandCtearCmeniscusCcurvature.CArchCOphthal-molC122:1265-1269,C20046)横井則彦,濱野孝:メニスコメトリーとビデオメニスコメーター.あたらしい眼科C17:65-66,C20007)三村真士:涙点から鼻涙管までの狭窄や閉塞―涙管チューブ挿入術―.あたらしい眼科32:1681-1686,C20158)井上康:テフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術.あたらしい眼科25:1131-1133,C20089)井上康,下江千恵美:涙道閉塞に対する涙管チューブ挿入術による高次収差の変化.あたらしい眼科C27:1709-1713,C201010)井上康:涙道閉塞と視機能.あたらしい眼科C30:929-936,C2013C***