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涙管チューブ挿入術前後における涙液クリアランス試験の検討

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1688.1691,2018c涙管チューブ挿入術前後における涙液クリアランス試験の検討松尾早希子*1,2渡辺彰英*1横井則彦*1脇舛耕一*1,3山中行人*1中山知倫*1山中亜規子*1古澤裕貴*1,2後藤田遼介*1小泉範子*1,2外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*2同志社大学生命医科学部*3バプテスト眼科クリニックCTearClearanceExaminationatPre-andPost-lacrimalIntubationforLacrimalDuctObstructionSakikoMatsuo1,2)CAkihideWatanabe1)CNorihikoYokoi1)CKoichiWakimasu1,3)CYukitoYamanaka1),,,,,TomomichiNakayama1),AkikoYamanaka1),YukiFurusawa1,2),RyosukeGotouda1),NorikoKoizumi1,2)CandChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)GraduateSchoolofLifeMedicalSciences,DoshishaUniversity,3)BaptistEyeClinicC目的:涙管チューブ挿入術前後の涙液クリアランスについて検討すること.対象および方法:涙道閉塞症に対して涙管チューブ挿入術を施行し,チューブ抜去後C1カ月まで経過観察可能であったC15例C18眼(男性C3例,女性C12例,平均年齢C70.1C±13.2歳)を対象に,BSS点眼液C20Cμlを負荷後,video-meniscometerを用いてC1分ごとに計C5回涙液メニスカスを計測し,曲率半径CRを求め,点眼負荷前の涙液貯留量の変化,および点眼負荷後の涙液貯留量の変化により涙液クリアランスの変化を検討した.結果:点眼負荷前の涙液貯留量は,術前がC0.75C±0.50Cmm,チューブ挿入後1カ月がC0.26C±0.12Cmm,挿入後C2カ月がC0.27C±0.11Cmm,抜去後C1カ月がC0.27C±0.11Cmmとなり,術後は涙液貯留量が有意に減少した.涙液クリアランスを術前後で比較すると,術後は涙液クリアランスが有意に改善した.涙液貯留量,涙液クリアランスともに内視鏡併用の有無による有意差は認めなかった.結論:涙管チューブ挿入術により,術後は内視鏡の有無にかかわらず涙液貯留量の減少,涙液クリアランスの改善が認められた.CToassesstearclearancechangeafterlacrimalintubationforlacrimalductobstruction,18eyesof15patients(3male,C12female,CaverageCageC70.1years)underwentClacrimalCintubation.CACvideo-meniscometerCwasCusedCtoCexamineCtearCmeniscuscurvature(R)forCtearCvolumeCassessment.CTearCclearanceCexaminationCwasCperformedCasfollows:20CμlCBSSsolutionwasinstilledtoincreasetearvolume,andRwasexaminedfor5minutesatpre-intuba-tion,1monthafter,2monthsafter(justbeforetuberemoval)and1monthaftertuberemoval.Tearvolumewassigni.cantlydecreasedbyintubationateverypostoperativeperiod.Tearclearancewasalsosigni.cantlyimprovedatCeveryCpostoperativeCperiod.CThereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCbetweenCuseCandCnon-useCofCtheCdacryoendo-scope,CinCtermsCofCtearCvolumeCorCtearCclearanceCafterCintubation.CLacrimalCintubationCdecreasedCtearCvolumeCandCimprovedtearclearance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1688.1691,C2018〕Keywords:涙道閉塞症,涙管チューブ挿入術,涙液貯留量,涙液クリアランス,メニスコメトリー.lacrimalCductobstruction,lacrimalintubation,tearvolume,tearclearance,meniscometory.C〔別刷請求先〕渡辺彰英:〒602-8566京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:AkihideWatanabe,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,KawaramachiHirokojiagaru,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC1688(112)はじめに涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータである1,2).涙液クリアランスが高い場合,涙液は速やかに涙道へ排出されるが,涙液クリアランスが低い場合は涙液の流れが悪く涙液の質的異常をきたす.また,涙液中の炎症性サイトカインなどが眼表面に貯留し結膜炎を生じたり,外的内的環境の影響を受けやすくなり,防腐剤を含む点眼薬などの上皮障害性物質の影響を強く受けやすくなるため,角結膜上皮障害を生じることもある3).涙液クリアランスの代表的な評価方法の一つにCSchirmer試験があるが,試験紙のずれにより角結膜を刺激し涙液分泌を促すこともあるため,測定結果にばらつきが大きいことが欠点である3).しかし近年,非接触かつ低侵襲な評価方法が考案されてきた.Zhengら1,2)は前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)を用いて点眼負荷涙液クリアランス試験を行い,横井ら3.6)はメニスコメトリー法を開発した.メニスコメトリー法は下方涙液メニスカスを測定し,曲率半径CRを求める方法であり4),涙液メニスカスの曲率半径CRは涙液貯留量と正の相関があることが報告されている5).涙道閉塞症の治療法は大きく分けて二つあり,涙管チューブ挿入術と涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhynostomy:DCR)であるが,今回筆者らは涙道閉塞症に対し涙管チューブ挿入術を適用した症例の涙液クリアランスを評価したので報告する.なお,本研究では涙液メニスカスの曲率半径CRを涙液貯留量の指標とし,BSS点眼液を点眼することで一時的に涙液貯留量を増やし,時間ごとの涙液貯留量の変化を涙液クリアランスの評価の指標とした.CI対象対象はC2017年C3月.2017年C12月に京都府立医科大学附属病院眼科にて,総涙小管閉塞症または鼻涙管閉塞症に対し涙管チューブ挿入術を施行し,チューブ抜去後C1カ月まで経過観察可能であったC15例C18眼(男性C3例,女性C12例,平均年齢C70.1C±13.2歳)である.そのうち内視鏡併用群はC4例6眼(男性C1例,女性C3例,平均年齢C76.3C±8.5歳),内視鏡非併用群はC11例C12眼(男性C2例,女性C11例,平均年齢C68.7±14.7歳)である.治療眼の閉塞部位の内訳は表1に示す.チューブは全例C2カ月で抜去を行った.今回抗癌剤の影響による涙道閉塞症例,涙道狭窄症例,機能性流涙症例などは除外した.対象患者には京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得たうえでインフォームド・コンセントを行い,同意を得て測定を行った.表1閉塞部位鼻涙管閉塞総涙小管閉塞内視鏡併用症例5眼1眼内視鏡非併用症例5眼7眼II方法Video-meniscometerを用いて点眼負荷前の下方涙液メニスカスを測定して曲率半径CRを算出し,涙液貯留量を比較,検討した.BSS点眼液C20Cμlを点眼後,点眼直後,点眼後C1分,2分,3分,4分,5分にCvideo-meniscometerを用いて下方涙液メニスカスを測定し曲率半径CRを求め,点眼負荷後のCRの変化を涙液クリアランスの指標として比較,検討した(涙液クリアランス試験).また,治療眼を内視鏡併用群と内視鏡非併用群に分け,点眼負荷前の涙液メニスカスの曲率半径CR,および点眼負荷後のCRの変化を比較,検討した.測定時期は術前,チューブ挿入後C1カ月,チューブ挿入後2カ月(抜去直前),チューブ抜去後C1カ月である.使用したチューブは,PFカテーテルCR(TORAY社製,ポリウレタン),ラクリファストR(カネカメディックス社製,スチレン・イソブチレン・スチレン共重合体とポリウレタンの混合樹脂),FCIヌンチャクCR(Zeiss社製,シリコン)のC3種類で,内視鏡併用群にCPFカテーテルCR,内視鏡非併用群にC3種類すべてのチューブを使用した.このとき内視鏡併用群はシース誘導内視鏡下穿破法(sheath-guidedCendoscopicprobing:SEP)により閉塞部位を突破し,シースに接続しやすいという理由でCPFカテーテルCRを使用した.CIII結果点眼負荷前の涙液貯留量の変化を図1に示す.治療眼全体の術前後を比較すると,すべての時期で有意差が認められ,術後の涙液貯留量は減少したことが示された.また,内視鏡併用群の点眼負荷前の涙液貯留量の変化,内視鏡非併用症例の点眼負荷前の涙液貯留量の変化を術前後で比較すると,両群ともに術後は有意差が認められ,涙液貯留量は減少したことが示された.治療眼全体の涙液メニスカス曲率半径CRの変化を図2に示す.術前と比較すると,術後のすべての時期(挿入後C1カ月,挿入後C2カ月,抜去後C1カ月)において点眼負荷前のCR値は有意に減少し,涙液クリアランスの指標である点眼負荷後のCR値の減少率においても明らかな改善を認めた.内視鏡併用群における涙液メニスカス曲率半径CRの変化を図3に示す.術前と比較すると,挿入C1カ月の点眼後C1分,2分,■術前■挿入後1カ月■挿入後2カ月1.81.6メニスカスの曲率半径R(mm)メニスカスの曲率半径R(mm)メニスカスの曲率半径R(mm)1.41.210.80.60.40.20点眼前点眼点眼後点眼後点眼後点眼後点眼後治療眼全体内視鏡併用内視鏡非併用直後1分2分3分4分5分(n=18)(n=6)(n=12)n=18平均値±標準偏差*p<0.05平均±標準偏差Steel検定図2点眼負荷後の涙液貯留量の変化図1点眼負荷前の涙液貯留量の変化メニスカスの曲率半径R(mm)1.41.210.80.60.40.201.81.61.41.210.80.60.40.2点眼前点眼点眼後点眼後点眼後点眼後点眼後直後1分2分3分4分5分n=6平均値±標準偏差図3内視鏡併用群における点眼負荷後の涙液貯留量の変化3分,4分,5分,挿入後C2カ月の点眼後C1分,2分,3分,4分,5分,抜去後C1カ月の点眼後C1分,3分,4分,5分でR値は有意に減少していた.有意差が認められなかった時間はあるものの,術後は涙液貯留量が減少し,涙液貯留量の減少率すなわち涙液クリアランスの改善が認められた.内視鏡非併用群の涙液メニスカス曲率半径CRの変化を図4に示す.術前と比較すると,チューブ挿入後C1カ月の点眼直後以外で有意差が認められた.内視鏡非併用群においても有意差が認められなかった時間はあるものの,術後は涙液貯留量が減少し,涙液クリアランスの改善が認められた.CIV考按涙液貯留量の指標である涙液メニスカスの曲率半径CRの正常値は約C0.25.0.3Cmmといわれている3).これをもとに点眼負荷前の涙液貯留量を術前後で比較すると,治療眼全体の涙液貯留量は涙管チューブ挿入術後各時点で正常値となり,また内視鏡併用非併用の有無にかかわらず,涙液貯留量は術後各時点でほぼ正常値となった(図1).このことから涙管チューブ挿入術により,涙液貯留量は挿入術後C1カ月で正0点眼前点眼点眼後点眼後点眼後点眼後点眼後直後1分2分3分4分5分n=12平均値±標準偏差図4内視鏡非併用群における点眼負荷後の涙液貯留量の変化常化することがわかった.点眼負荷後の涙液貯留量の変化を涙液クリアランスの指標として術前後で比較すると,治療眼全体では治療後のすべての時期で点眼負荷後の涙液貯留量が減少し,涙液クリアランスの改善を認めた(図2).これより涙管チューブ挿入術により涙液貯留量の減少,涙液クリアランスの両方が改善することが示唆された.また,内視鏡併用群では,チューブ抜去後1カ月ではチューブ挿入中より涙液貯留量が高い結果となった(図3).この結果よりチューブを留置することで内眼角が引き締まり眼輪筋のポンプ機能がよくなることや,毛細管現象により涙液が引き込まれやすい状態になっていることが考えられる.しかし,内視鏡非併用群では,チューブ挿入中よりもチューブ抜去後C1カ月のほうが涙液貯留量は低くなった(図4).これよりチューブが仮道に挿入されていたり,正しく鼻腔内へ留置されていないために,涙液が涙道から鼻腔へとうまく排出されていない症例が含まれている可能性が示唆される.涙管チューブ挿入術は従来,盲目的にチューブ挿入を行うことが一般的であり,涙道外組織にチューブが挿入されることや仮道形成のリスクがあった7,8).しかし,2000年代初めには涙道内視鏡が開発され,涙道内を可視化できるようになると,涙道粘膜の性状評価ができるようになった7).また,近年,SEPが行われるようになると,より正確にチューブ挿入を行うことができるようになった8).本研究ではCSEP症例と盲目的操作によるチューブ挿入症例を比較し検討したが,どちらの症例においても,涙液の静的変化である涙液貯留量と涙液の動的変化である涙液クリアランスの両要素の改善が示唆された.また,チューブ挿入によって流涙が改善されることにより視機能(qualityCofvision:QOV)の改善が得られるという報告もあり9,10),涙管チューブ挿入術による涙液貯留量の減少および涙液クリアランスの改善は,QOVの改善に寄与すると考えられる.チューブ留置期間について,本研究ではチューブ留置期間をC2カ月としたが,上述のとおりチューブ留置の効果として涙道閉塞部位が開放されることのほか,チューブが挿入されることで内眼角が引き締まり眼輪筋のポンプ機能がよくなることや,毛細管現象により涙液が引き込まれやすい状態になることがあげられる.しかし,チューブの長期留置はバイオフィルムの付着や異物反応,粘膜の扁平上皮化成を引き起こすことがある.そのためチューブ留置期間はC2.3カ月が最適であり,留置中は定期的な洗浄をすることでチューブの清潔さを保つことも必要であるとされている7).本研究では点眼負荷直後からの涙液貯留量の変化を涙液クリアランスの指標としているが,実際は点眼後にCvideo-meniscometerを用いて涙液メニスカス半径を測定するまでには数秒のタイムラグが存在するため,厳密には点眼直後の数値ではないといえ,真の点眼直後の値より小さく測定されている可能性を考慮する必要がある.また,本研究では測定期間を抜去後C1カ月までに限定し検討を行ったが,今後経過観察期間を延長し,抜去後C1カ月以降も涙液クリアランスが維持されるかどうかの検討が必要である.また,経過観察期間を延長して検討を行うと再閉塞を引き起こす症例が出る可能性があるため,再閉塞率の検討も同時に行う必要があると考えられる.さらに今回の対象は15例C18眼と少なく,そのうち内視鏡併用群はC4例C6眼,内視鏡非併用群はC11例C12眼と症例数に差があることで有意差を認めにくかったこともあり,今後症例数を増やしての検討が必要である.今回,涙管チューブ挿入術後の涙液貯留量および涙液クリアランスを客観的に評価した.その結果,涙道内視鏡併用の有無にかかわらず涙管チューブ挿入術によって,涙液貯留量の減少,涙液クリアランスの改善が得られることが示唆され,涙道閉塞症に対する涙管チューブ挿入術の客観的有用性が示された.文献1)鄭暁東,小野眞史:前眼部COCT点眼負荷涙液クリアランス試験.あたらしい眼科31:1645-1646,C20142)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:NewmethodforevaluationCofCearlyCphaseCtearCclearanceCbyCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomography.CActaCOphthalmologi-caC92:105-111,C20143)横井則彦,加藤弘明,小野眞史ほか:メニスコメトリ法.涙液メニスカスを指標とした涙液の量的評価.涙液クリアランステスト.専門医のための眼科診療クオリファイC19ドライアイスペシャリストへの道,中山書店,20134)YokoiCN,CBronCA,CTi.anyCJCetal:Re.ectiveCmeniscome-try:aCnon-invasiveCmethodCtoCmeasureCtearCmeniscusCcurvature.BrJOphthalmolC83:92-97,C19995)YokoiCN,CBronCA,CTi.anyCJCetal:RelationshipCbetweenCtearCvolumeCandCtearCmeniscusCcurvature.CArchCOphthal-molC122:1265-1269,C20046)横井則彦,濱野孝:メニスコメトリーとビデオメニスコメーター.あたらしい眼科C17:65-66,C20007)三村真士:涙点から鼻涙管までの狭窄や閉塞―涙管チューブ挿入術―.あたらしい眼科32:1681-1686,C20158)井上康:テフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術.あたらしい眼科25:1131-1133,C20089)井上康,下江千恵美:涙道閉塞に対する涙管チューブ挿入術による高次収差の変化.あたらしい眼科C27:1709-1713,C201010)井上康:涙道閉塞と視機能.あたらしい眼科C30:929-936,C2013C***

正常ウサギの涙液量に対するジクアホソルナトリウム点眼とレバミピド点眼の効果

2013年7月31日 水曜日

《第32回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科30(7):1007.1010,2013c正常ウサギの涙液量に対するジクアホソルナトリウム点眼とレバミピド点眼の効果堀裕一前野貴俊東邦大学医療センター佐倉病院眼科EffectsofDiquafosolOphthalmicSolutionsandRebamipideOphthalmicSuspensiononTearFluidVolumeinNormalRabbitsYuichiHoriandTakatoshiMaenoDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenterジクアホソルナトリウム点眼およびレバミピド点眼のウサギ涙液量に対する効果について比較した.ジクアホソルナトリウム点眼およびレバミピド点眼を単回点眼し,Schirmer値および涙液メニスカス面積値を測定した.点眼10.30分後のジクアホソルナトリウム点眼群のSchirmer値および涙液メニスカス面積値は無点眼群に比べ有意に高値を示した(p<0.01,Dunnettの多重比較検定)が,レバミピド点眼群では無点眼群と同程度であった.また,点眼5.30分後のSchirmer値および涙液メニスカス面積値は,ジクアホソルナトリウム点眼群はレバミピド点眼群に比べ有意に高値を示した(p<0.05,Studentのt検定).以上より,ジクアホソルナトリウム点眼はレバミピド点眼に比べ早期から正常ウサギの涙液量を増加させることが明らかとなった.両剤は,ムチン産生/分泌促進作用を有しているが,ジクアホソルナトリウム点眼は涙液分泌促進作用も有しており,薬剤の特性に基づく治療選択が重要と考えられる.Wecomparedtheeffectsofdiquafosolophthalmicsolutionswithrebamipideophthalmicsuspensionstodeterminetearfluidvolumechangesinnormalrabbits.WeperformedSchirmer’stestandmeasuredthetearmeniscustodeterminechangesintearfluidvolumebeforeandat5,10,15,30,and60minutesaftereyedropinstillation.Schirmer’stestandtearmeniscusareaincreasedsignificantlyat5,10,15,and30minutesafterinstillationofdiquafosolophthalmicsolutions,ascomparedwithbeforeeyedropinstillation(p<0.01,Dunnett’smultiplecomparison)andwithinstillationofrebamipideophthalmicsuspensions(p<0.05,Student-t).TherewerenosignificantchangesinSchirmer’stestandtearmeniscusareaafterinstillationofrebamipideophthalmicsuspensions.Theseresultsindicatethatdiquafosolophthalmicsolutionsincreasedtearfluidvolumemorethandidrebamipideophthalmicsuspensionsintheearlyphase.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(7):1007.1010,2013〕Keywords:ジクアホソルナトリウム点眼,レバミピド点眼,涙液貯留量,正常ウサギ.diquafosolophthalmicsolutions,rebamipideophthalmicsuspensions,tearfluidvolume,normalrabbits.はじめにドライアイは,日本では,「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮障害の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義され1),涙液層の安定性低下がそのコア・メカニズムと考えられている2).涙液層は,油層と液層(水層+ムチン層)から構成されおり,各層の機能異常がドライアイを誘発するため,それらを改善することがドライアイ治療につながる.近年,ドライアイ治療薬としてジクアホソルナトリウム点眼(ジクアスR点眼液3%,以下,ジクアス)およびレバミピド点眼(ムコスタR点眼液UD2%,以下,ムコスタ)が上市された.P2Y2受容体作動薬であるジクアスは,涙液分泌促進作用3),ムチン分泌促進作用4,5)および膜型ムチン遺伝子(MUC1,MUC4およびMUC16)発現促進作用6)を有することが報告されている.ムコスタは,杯細胞増殖作用7),ムチン様糖蛋白質産生促進作用および膜型ムチン遺伝子〔別刷請求先〕堀裕一:〒285-8741佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科Reprintrequests:YuichiHori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,564-1Shimoshizu,Sakura,Chiba285-8741,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(125)1007 (MUC1およびMUC4)発現促進作用8)を有することが報告されている.両剤はムチンに対する作用を有する点では類似しているが,独自の薬理作用も兼ね備えており,薬剤の特性を理解してドライアイ治療に使用することが重要と考えられる.本研究では,ジクアスとムコスタの薬理学的特性を明らかにするために,涙液分泌に対する作用の違いを正常ウサギにてSchirmer値と涙液メニスカス面積法で比較検討した.I方法1.点眼液ジクアスR点眼液3%(参天製薬),ムコスタR点眼液UD2%(大塚製薬)を用いた.2.実験動物ウサギ(雄性白色日本)は北山ラベスより購入し,1週間馴化飼育した.本研究は,「動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年10月1日,法律第105号)」および「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年4月28日,環境省告示第88号)」を遵守し,実施した.3.Schirmer値測定ウサギにジクアス(30眼)あるいはムコスタ(30眼)を50μl点眼した.シルメル試験紙(昭和薬品化工)挿入の約3分前に,ベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬)を10μl点眼し,眼表面を局所麻酔した.被験点眼液点眼5,10,15,30および60分後(各6眼)に下眼瞼にシルメル試験紙を1分間挿入し,Schirmer値を測定した.4.涙液メニスカス面積測定法ウサギにジクアス(32眼)あるいはムコスタ(32眼)を50μl点眼した.点眼5,10,15および30分後(各8眼)に生理食塩水に溶解した0.1%フルオレセイン溶液3μlを下眼瞼に添加し,直後に眼表面の撮影を行った.眼表面の撮影および涙液メニスカス面積の測定は,阪元らの方法9)に従い,デジタルカメラ(FUJIXDS-560,富士フィルム)で眼の全体像を正面から撮影し,画像解析ソフト(WinROOF,三谷商事)にて涙液メニスカスの面積を算出した.無点眼群(0分,32眼)では,眼表面の撮影直前に0.1%フルオレセイン溶液3μlを添加し,同様に撮影した.5.統計解析生物実験データ統計解析システムEXSUS(シーエーシー)を用いて5%を有意水準として解析した.2群間の解析ではStudentのt検定(等分散),経時変化の解析ではDunnettの多重比較検定を行った.II結果1.Schirmer値による比較図1のとおり,ジクアス群のSchirmer値は,点眼5分後1008あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013■:ジクアスR点眼液3%■:ムコスタR点眼液UD2%20.015.010.05.00.0無点眼図1ジクアスR点眼液3%およびムコスタR点眼液UD2%のSchirmer値に及ぼす影響各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,無点眼群との比較(Dunnettの多重比較検定).##:p<0.01,ムコスタR点眼液UD2%点眼群との比較(Studentのt検定).から増加し,10.15分後に最大値に達し,その後経時的に低下して,60分後にはベースライン(無点眼群)に戻った.無点眼群に比べ,点眼10.30分後のSchirmer値は有意に高値を示した(p<0.01,Dunnettの多重比較検定)が,ムコスタ群ではいずれの時間においても無点眼群と同程度であった.また,両群のSchirmer値を比較したところ,点眼5.30分後においてジクアス群は有意に高値を示した(p<0.01,Studentのt検定).2.涙液メニスカス面積値による比較図2aに点眼後の涙液メニスカス像(5.30分)を,図2bに涙液メニスカス面積値(0.30分)を示す.ジクアス群の涙液メニスカス面積値は,点眼15分後に最大値に達し,5.30分後において0分に比べ有意に高値を示した(p<0.01,Dunnettの多重比較検定)が,ムコスタ群では,いずれの時間においても変化はなかった.両点眼群の涙液メニスカス面積値は,点眼5.30分後においてジクアス群は有意に高値を示した(点眼5.15分後:p<0.01,点眼30分後:p<0.05,Studentのt検定).III考按本研究にてウサギの涙液貯留量に対するジクアスとムコスタの点眼後早期における影響をSchirmer値および涙液メニスカス面積値で比較したところ,ジクアスは,点眼10.30分後において点眼前に比べ有意に涙液貯留量が増加し,点眼5.30分後においてムコスタに比べ有意に涙液貯留量が上回っていた.今回,Schirmer値および涙液メニスカス面積測定法の2種類の方法で涙液量を評価した.Schirmer値は,局所麻酔により反射性分泌の影響を除外した値を採用した.本方法(126)Schirmer値(mm)####**##**##**510153060点眼後の時間(分) ジクアスR点眼液3%ムコスタR点眼液UD2%5101530点眼後の時間(分)涙液メニスカス面積値(mm2)20.015.010.05.0■:ジクアスR点眼液3%:ムコスタR点眼液UD2%**##**##**##**#図2ジクアスR点眼液3%およびムコスタR点眼液UD2%の涙液メニスカス面積値に及ぼす影響a:涙液メニスカス像.b:涙液メニスカス面積値.点眼後0分の値は両群共通で32例,ジクアスR点眼液3%点眼後30分の値は7例,それ以外は8例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,0分値との比較(Dunnettの多重比較検定).#:p<0.05,##:p<0.01,ムコスタR点眼液UD2%群との比較(Studentのt検定).0.00102030点眼後の時間(分)は,簡便に涙液貯留量を評価できるが,粘稠性のある点眼液などの評価には不向きであると考えられる.一方,涙液メニスカス面積測定法は,結果の解析に時間を要するが,無麻酔下で非侵襲的に測定でき,涙液の質に影響されない測定法である.本方法は,眼瞼や結膜の状態に影響を受ける欠点はあるが,涙液貯留量の評価法として確立されており9),今回,涙液メニスカス面積値による結果とSchirmer値による結果は,ほぼ同様であった.ジクアホソルナトリウムの水分分泌促進作用メカニズムは,本薬剤が結膜上皮細胞膜上のP2Y2受容体に作用すると,細胞内カルシウムイオン濃度が増加してカルシウム依存型クロライドチャネルの活性化が生じ,クロライドイオンが涙液側に放出され,それによって生じる浸透圧差により実質側から涙液側への水分分泌が誘導される10,11).また,本薬剤はムチン分泌4,5)および膜ムチン遺伝子の発現6)を促進することから,液層(水層+ムチン層)を全般的に改善することによりドライアイに対して治療効果を示すと考えられる.一方,レバミピドは,杯細胞増殖作用7),ムチン様糖蛋白質産生促進作用8)などが報告されているが,これらの詳細なメカニズムは不明である.本研究から本薬剤に涙液分泌促進作用は認められなかったが,元来本薬剤は,胃粘膜保護剤と(127)してわが国で長年使用されている薬剤であり,上述した作用により主に角結膜上皮の改善に効果を示すと思われる.涙液の安定性を維持することがドライアイ治療において重要であるが,近年,ジクアスとムコスタが登場したことで,ドライアイを涙液層別に治療する概念が生まれた12).したがって,各点眼液の薬理特性を十分に理解して,ドライアイ治療を行うことが重要である.今回の結果から,ジクアスはおもに液層(水層+ムチン層)を改善させてドライアイを治療する特長があると類推され,薬剤の特性を理解して治療を行うことが重要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)横井則彦,坪田一男:ドライアイのコア・メカニズム─涙液安定性仮説の考え方─.あたらしい眼科29:291-29720123)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクあたらしい眼科Vol.30,No.7,20131009 アホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,20114)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20115)七條優子,阪元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,20116)七條優子,中村雅胤:培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,20117)UrashimaH,TakejiY,OkamotoTetal:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20128)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreasesthemucin-likeglycoproteinproductionincornealepithelialcells.JOculPharmacolTher28:259-263,20129)阪元明日香,七條優子,山下直子ほか:正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果.あたらしい眼科29:1141-1145,201210)LiY,KuangK,YerxaBRetal:Rabbitconjunctivalepithelialtransportsfluid,andP2Y2receptoragonistsstimulateCl.andfluidsecretion.AmJPhysiol281:C595C602,200111)MurakamiT,FujiharaT,HoribeYetal:DiquafosolelicitsincreasesinnetCl.transportthroughP2Y2receptorstimulationinrabbitconjunctiva.OphthalmicRes36:89-93,200412)山口昌彦,松本幸裕,高静花ほか:TFOT(TearFilmOrientedTherapy)時代における点眼薬の使い方.FrontiersinDryEye7:112-120,2012***1010あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(128)

正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1141.1145,2012c正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果阪元明日香七條優子山下直子中村雅胤参天製薬株式会社眼科研究開発センターCombinedEffectofDiquafosolTetrasodiumandPurifiedSodiumHyaluronateOphthalmicSolutionsonTearFluidVolumeinNormalRabbitsAsukaSakamoto,YukoTakaoka-Shichijo,NaokoYamashitaandMasatsuguNakamuraOphthalmicResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用による涙液貯留量への影響について,涙液メニスカス面積値を指標に評価した.涙液メニスカス面積測定法では,眼表面へのフルオレセイン溶液添加量に比例して,涙液メニスカス面積値は増加した.0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の点眼2および5分後において,シルメル試験紙を用いて涙液貯留量を1分間測定した場合(局所麻酔下測定),Schirmer値の増加が認められなかったが,涙液メニスカス面積測定法では,涙液メニスカス面積値が人工涙液点眼に比して有意に増加した.また,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用群の涙液メニスカス面積値は,2剤目点眼5および30分後において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液単独群あるいは3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液との併用群に比して有意に高値を示した.さらに3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液を先に点眼したほうが0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を先に点眼するよりも涙液メニスカス面積値は高値を示したが,2剤目点眼30分後においてはどちらも同程度であった.以上の結果より,涙液メニスカス面積測定法において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用により涙液貯留量の持続的増加作用が認められた.Thisstudyevaluatedthecombinedeffectofdiquafosoltetrasodiumandpurifiedsodiumhyaluronateophthalmicsolutionsontearfluidvolumeinnormalrabbits,usingthetearmeniscusarea.Thevolumeofexternalfluoresceininstilledtotheocularsurfacewascorrelatedwiththetearmeniscusarea.Theefficacyof0.1%sodiumhyaluronatecouldnotbedetectedbytheSchirmermeasuringstripfor1min,butthetearmeniscusareaof0.1%sodiumhyaluronatewasgreaterthanthatofartificialtearsat2and5minafterinstillation.Thecombinedeffectof3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateonthetearmeniscusareawasgreaterthanthatof3%diquafosoltetrasodiummonotherapyorcombinedtreatmentwith3%diquafosoltetrasodiumandartificialtearsat5and30minafterasecondinstillation.Furthermore,thecombinedefficacyof0.1%sodiumhyaluronateafter3%diquafosoltetrasodiuminstillationonthetearmeniscusareawasgreaterthanthatof3%diquafosoltetrasodiumafter0.1%sodiumhyaluronateinstillation.However,bothwerealmostequalintearmeniscusareaat30minaftersecondinstillation.Combinedtreatmentwith3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateseemstocauseretentionofmoretearfluidontheocularsurface,andforalongertime,than3%diquafosoltetrasodiummonotherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1141.1145,2012〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,精製ヒアルロン酸ナトリウム,涙液貯留量,涙液メニスカス面積,正常ウサギ.diquafosoltetrasodium,purifiedsodiumhyaluronate,tearfluidvolume,tearmeniscusarea,normalrabbits.〔別刷請求先〕阪元明日香:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社眼科研究開発センターReprintrequests:AsukaSakamoto,OphthalmicResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma-shi,Nara630-0101,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(115)1141 はじめにドライアイ患者の眼表面では,涙液の分泌低下あるいは蒸発亢進により,涙液3層(油層・水層およびムチン層)構造が崩れ,各涙液層の役割が正常に機能せず,異常をきたしている.したがって,その治療には,眼表面における涙液を質的・量的に正常化させることが望まれる1,2).現在,国内でドライアイ治療に使用されている薬剤には,ジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液がある.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に結合し,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,水分およびムチンの分泌促進作用を示す3,4).一方,精製ヒアルロン酸ナトリウムは,数十万からなる高分子多糖類であり,その分子内に水分を保持できる特性をもつことにより保水作用を示す5).両剤はともに,眼表面の涙液貯留量を増大させる作用を示すものの,それらの作用機序が異なるため,ドライアイ治療において,両剤の併用による効果(相加あるいは相乗作用)が期待できる.涙液の貯留量を測定する方法として,臨床では綿糸法が古くから汎用されている.綿糸法は,簡便な方法で被験者の負担が軽度ではあるものの,微量の涙液の変化も測定値に反映される難点がある.またSchirmerテストは,おもに涙液分泌量を測定する方法であり,その侵襲性と涙液の質,特に粘稠性により値が左右される懸念がある.近年では,涙液メニスカス高をフルオレセイン溶液を用いて観察する方法6,7),メニスコメトリーによる涙液メニスカス曲率半径の測定8),あるいは最近では,opticalcoherencetomographyシステムによるメニスカス面積の測定9)などが開発されている.これらはより侵襲性が低く,涙液の質に影響されない測定方法として確立されている.動物実験においても,Murakamiら10)は,正常ネコのメニスカス面積の測定を実施し,ジクアホソルナトリウムの涙液貯留量の増加作用を報告している.本研究では,正常ウサギでの涙液メニスカス面積値を測定する新たな方法を確立し,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用による涙液貯留量への影響を検討した.I実験方法1.点眼液3%ジクアホソルナトリウム(3%ジクアホソル)点眼液として,ジクアスR点眼液3%(参天製薬),0.1%ヒアルロン酸ナトリウム(0.1%ヒアルロン酸)点眼液として,ヒアレインR点眼液0.1%(参天製薬),人工涙液として,ソフトサンティア(参天製薬)を用いた.2.実験動物雄性日本白色ウサギは北山ラベスより購入し,1週間馴化飼育した後,65匹を試験に使用した.本研究は,「動物実験1142あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.涙液メニスカス面積測定法ウサギの下眼瞼涙液メニスカス上に生理食塩水に溶解した0.1%フルオレセイン溶液3μLを添加し,マクロレンズ(AFMICRONIKKOR105mm,ニコン)を接続したデジタルカメラ(FUJIXDS-560,富士フィルム)にブルーフィルター(BPB45,富士フィルム)を付けて,涙液メニスカスを含む眼の全体像を正面から撮影した.得られた画像から画像解析ソフト(WinROOF,三谷商事)を用いて涙液メニスカスの面積を算出した.ただし,本測定値の妥当性を評価する目的で実施した眼表面への添加量と涙液メニスカス面積値の相関性を確認する試験では,15匹29眼に0.1%フルオレセイン溶液を3,10,20,30,40および50μL添加した.フルオレセイン溶液の添加量は,正常ウサギの結膜.における涙液貯留量が30.50μLという報告11)を考慮して,最大量を50μLに設定した.また,各種点眼液の涙液メニスカス面積値への影響を検討する際には,点眼液を50μL点眼した前後で涙液メニスカス面積値を算出し,その差(Δ涙液メニスカス面積値)を点眼液の薬効として評価した.Schirmer値との比較検討では15匹30眼,単剤点眼と併用点眼の比較検討では17匹34眼,併用点眼における点眼順序の検討では18匹36眼を使用した.同一個体を複数回使用する場合は,一定期間を空けて使用した.測定時に半眼,閉目など,結果に影響を与えると思われる所見が認められた眼は除外した.なお,併用点眼の点眼間隔は,基本的に臨床での点眼間隔を考慮して5分間とした.また,ウサギはヒトに比べて涙液排出率が低く,瞬目回数も著しく少ないため12),点眼間隔を短くすると1剤目の点眼液量が眼表面に十分残ったまま,2剤目を点眼することになり,両剤とも溢出し,薬効を適切に評価できない可能性も考慮した.測定時間については,3%ジクアホソル単剤の予備的検討として,点眼2,5,10,15,30および60分後のΔ涙液メニスカス面積値を測定したところ,点眼10分後に最大値を示した.したがって,3%ジクアホソル点眼10分後を含む測定時間を設定した.すなわち,3%ジクアホソルを1剤目としてのみ使用した試験では,2剤目点眼5分後,1剤目および2剤目に使用した試験では,2剤目点眼5および10分後を含めて測定した.4.シルメル試験紙による涙液貯留量測定法15匹30眼にベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬)を10μL点眼し,眼表面を局所麻酔した.局所麻酔3分後に各種点眼液を50μL点眼し,点眼2および5分後に,ウサギの下眼瞼にシルメル試験紙(昭和薬品化工)の折り目5mm部分を1分間挿入し,ろ紙が濡れた長さ(Schirmer値)を指標として涙液貯留量を測定した.なお,点眼液の点眼前後の(116) Schirmer値を測定し,その差(ΔSchirmer値)を点眼液の薬効として評価した.5.統計解析生物実験データ統計解析システムEXSUS(シーエーシー)を用いて,5%を有意水準として解析した.各測定時間での2群間の解析はF検定後,Studentのt検定(等分散)あるいはAspin-Welchのt検定(不等分散)を行った.各測定時間における3群以上の解析はTukeyの多群比較検定を行った.II結果1.正常ウサギを用いた涙液メニスカス面積測定法の妥当性涙液メニスカス面積測定法にて得られた値(Δ涙液メニスカス面積値)の妥当性を評価する目的で,ウサギの眼表面に3.50μLの0.1%フルオレセイン溶液を添加した際のΔ涙液メニスカス面積値を算出し,添加量とΔ涙液メニスカス面積値の相関性について検討した.図1に示すように,両者間には正比例の関係式(y=0.9504x+0.5113)が成り立ち,重相関係数(0.9078)も良好であった.また,3μLフルオレセイン溶液の添加は,Δ涙液メニスカス面積値にほとんど影響を及ぼさなかった.したがって,涙液メニスカス面積測定法を用いた涙液貯留量の測定には,3μLフルオレセイン溶液を用いることにした.つぎに,0.1%ヒアルロン酸の涙液貯留量に対する効果をシルメル試験紙による測定法と涙液メニスカス面積測定法で比較検討した.ΔSchirmer値は,対照に用いた人工涙液群では点眼2分後に最大値を示し,その後減少するのに対し,0.1%ヒアルロン酸群では,点眼2分後においてSchirmer値の増加作用は認められず,人工涙液群に比して有意に低値を示した(図2a).一方,Δ涙液メニスカス面積値は,人工涙液群および0.1%ヒアルロン酸群のいずれも点眼2分後に最大値を示し,その後減少した.また,0.1%ヒアルロン酸群の点眼2および5分後のΔ涙液メニスカス面積値は,人工涙液群に比して有意に高値を示した(図2b).2.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼が正常ウサギの涙液貯留量に及ぼす影響涙液貯留量に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果について検討した.図3に示す群構成で,1剤目点眼5分後(図3a,2剤目点眼後0分)に2剤目を点眼した後,5および30分後に涙液メニスカス面積値を測定した.図3aにΔ涙液メニスカス面積値,図3bに2剤目点眼5分後の代表的な涙液メニスカス像を示す.3%ジクアホソルのΔ涙液メニスカス面積値(mm2)60y=0.9504x+0.511350r2=0.907840302010001020304050フルオレセイン溶液添加量(μL)図1正常ウサギにおけるフルオレセイン溶液添加量とΔ涙液メニスカス面積値との関係点眼5分後に2剤目として人工涙液を併用した群の2剤目点眼5および30分後のΔ涙液メニスカス面積値は,3%ジクアホソル単剤群と同程度であった.一方,2剤目として0.1%ヒアルロン酸を併用した群の2剤目点眼5および30分後のΔ涙液メニスカス面積値は,3%ジクアホソル単剤群あるいは3%ジクアホソルと人工涙液の併用群に比して有意に高値を示し,持続的な効果が認められた.3.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の点眼順序が正常ウサギの涙液貯留量に及ぼす影響涙液貯留量に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果に2剤の点眼順序が影響するか検討した結果を各値は,4あるいは5例の平均値±標準誤差を示す.3.0025:AT:0.1%HA*涙液メニスカス面積値(mm2)Δa4.03.02.01.00.0-1.0025:AT:0.1%HA**#bΔSchirmer値(mm)2.01.00.0-1.0-2.0点眼後の時間(分)点眼後の時間(分)図2人工涙液(AT)および0.1%ヒアルロン酸(HA)のSchirmer値(a)および涙液メニスカス面積値(b)に及ぼす影響各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01,AT群との比較(Studentのt検定).#:p<0.05,AT群との比較(Aspin-Welchのt検定).(117)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121143 a2015a:各値は,8例の平均値±標準誤差を示す.Δ涙液メニスカス面積値(mm2)Δ涙液メニスカス面積値(mm2)10:3%ジクアホソル:3%ジクアホソル+0.1%HA:3%ジクアホソル+AT500**##**:p<0.01,3%ジクアホソル+AT群との比較(Tukeyの多重比較検定).##:p<0.01,3%ジクアホソル群との比較**(Tukeyの多重比較検定).5##b:2剤目点眼5分後の涙液メニスカスのフルオレセイン染色像を示す.2剤目点眼後の時間(分)b3%ジクアホソル3%ジクアホソル+AT3%ジクアホソル+0.1%HA30201510503010502剤目点眼後の時間(分)**:3%ジクアホソル+0.1%HA:0.1%HA+3%ジクアホソル図33%ジクアホソル,3%ジクアホソルと人工涙液(AT)あるいは0.1%ヒアルロン酸(HA)の併用の涙液メニスカス面積値に及ぼす影響―Δ涙液メニスカス面積値(a),涙液メニスカス像(b)―III考按図43%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸(HA)の点眼順序が涙液メニスカス面積値に及ぼす影響本研究では,ウサギの涙液貯留量に対する各種点眼液の影響を涙液メニスカス面積値で評価した.まず,図1のとおりフルオレセイン溶液の添加量とΔ涙液メニスカス面積値間に正の相関性があることを確認した.つぎに,0.1%ヒアルロン酸および人工涙液が涙液貯留量に及ぼす影響をシルメル試験紙による測定法と涙液メニスカス面積測定法で比較検討した(図2).涙液メニスカス面積法では,0.1%ヒアルロン酸は人工涙液に比して点眼5分後まで有意に高値を示しており,ヒトの涙液メニスカス曲率半径を指標とした結果6)と類各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,0.1%HA+3%ジクアホソル群との比較(Studentのt検定).図4に示す.1剤目点眼5分後(図4,2剤目点眼後0分)に2剤目を点眼した後,5,10および30分後に涙液メニスカス面積値を測定した.3%ジクアホソルの点眼5分後に0.1%ヒアルロン酸を併用した群の2剤目点眼5分後のΔ涙液メニスカス面積値は,0.1%ヒアルロン酸の点眼5分後に3%ジクアホソルを併用した群に比して有意に高値を示した.1剤目に0.1%ヒアルロン酸,2剤目に3%ジクアホソルを点眼した場合,Δ涙液メニスカス面積値は2剤目点眼10分後に最高値に達したが,1剤目に3%ジクアホソル,2剤目に0.1%ヒアルロン酸を点眼した群のそれよりは低値であった.2剤目点眼30分後では,どちらの群も同程度のΔ涙液メニスカス面積値を示した.1144あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012似していた.なお,今回シルメル試験紙による涙液貯留量測定法で0.1%ヒアルロン酸の効果が認められなかったのは,ヒアルロン酸の粘稠性がシルメル試験紙の吸収速度を減速させたためと推測している.涙液メニスカス面積測定法は,シルメル試験紙による涙液貯留量測定法に比べて結果の解析に時間を要するものの,無麻酔下で非侵襲的に涙液貯留量を測定できるだけでなく,粘稠性など涙液の質に影響されないこともメリットとしてあげられる.以上より,涙液メニスカス面積値を指標とした涙液貯留量の評価法の妥当性を確認した.続いて,図3aのとおり3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用群では,2剤目点眼5および30分後において,3%ジクアホソル単剤群あるいは3%ジクアホソルと人工涙液の併用群に比べてΔ涙液メニスカス面積値が有意に増加し,涙液貯留量に対する併用効果が認められた.また,図4において3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼にお(118) ける点眼順序の影響を検討したところ,3%ジクアホソルを先に点眼したほうがΔ涙液メニスカス面積値の最大値は大きいことが明らかになった.しかし,2剤目点眼30分後において,Δ涙液メニスカス面積値に点眼順序の違いは認められず,持続効果に点眼順序は影響しないと考えられた.図3bで認められる併用効果を,そのままヒトに置き換えると,流涙さらに霧視などの副作用が懸念される.しかし,ヒトはウサギに比べて涙液の排出率が高い12)ため,臨床では流涙に至らない可能性もある.したがって,涙液貯留量に対する併用効果と併用使用による副作用については,今後さらに臨床検討も必要と思われる.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果の機序の一つとして,ジクアホソルの涙液分泌促進作用3)とヒアルロン酸の保水作用5)により,ジクアホソルにより分泌された涙液をヒアルロン酸が保持していることが推察される.さらに,ヒアルロン酸にはムチンとの相互作用による粘度上昇作用があることも報告されている13).したがって,ジクアホソルのムチン分泌促進作用4,14)により眼表面に分泌されたムチンにヒアルロン酸が相互作用し,ヒアルロン酸自身がもつ保水作用を持続させている可能性も考えられる.また,図4に示すように0.1%ヒアルロン酸を先に点眼した場合,Δ涙液メニスカス面積値は2剤目点眼10分後に最大値を示したが,3%ジクアホソルを先に点眼した場合に比べて低値であった.これは,先に点眼した0.1%ヒアルロン酸が眼表面に滞留している15)ため,3%ジクアホソルが細胞に作用しにくく,涙液分泌促進作用が十分に発揮されていない可能性も考えられる.一方で,3%ジクアホソルの単剤点眼と比べて,1剤目に0.1%ヒアルロン酸,2剤目に3%ジクアホソルを併用点眼すると眼表面の涙液貯留量を持続できる可能性も考えられ,ヒアルロン酸がジクアホソルの眼表面との接触時間を延長させているのかもしれない.併用効果の詳細な機序については,さらなる検討が必要と思われる.また,併用点眼の場合,前述した霧視に加えて,点眼液に含まれる塩化ベンザルコニウムの眼表面への曝露量が増加する可能性が懸念される.角膜上皮障害に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の影響をラットのドライアイモデルで検討した結果16)では,上皮障害の改善に対して併用効果が認められ,併用点眼による塩化ベンザルコニウムの明らかな影響は認められていないが,臨床上の併用点眼においては注意が必要と思われる.涙液メニスカス面積測定法は,侵襲性が低く,粘稠性など涙液の質に影響されないため,涙液貯留量をより正確に測定する方法として有用であることが明らかとなった.また,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸を併用することにより,3%ジクアホソルの単剤点眼に比して,涙液貯留量の持続的(119)増加作用を示す可能性が示唆され,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用は,ドライアイ治療において有用な治療法として期待される.文献1)横井則彦:ドライアイのEBM.臨眼55:72-85,20012)本田理恵,ムラトドール:ドライアイ治療Overview.あたらしい眼科22:329-336,20053)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,20114)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20115)NakamuraM,HikidaM,NakanoTetal:Characterizationofwaterretentivepropertiesofhyaluronan.Cornea12:433-436,19936)GoldingTR,BruceAS,MainstoneJC:Relationshipbetweentear-meniscusparametersandtear-filmbreakup.Cornea16:649-661,19977)KawaiM,YamadaM,KawashimaMetal:Quantitativeevaluationoftearmeniscusheightfromfluoresceinphotographs.Cornea26:403-406,20078)YokoiN,KomuroA:Non-invasivemethodsofassessingthetearfilm.ExpEyeRes78:399-407,20049)WangJ,AquavellaJ,PalakuruJetal:Relationshipsbetweencentraltearfilmthicknessandtearmeniscioftheupperandlowereyelids.InvestOphthalmolVisSci47:4349-4355,200610)MurakamiT,FujitaH,FujiharaTetal:Novelnoninvasivesensitivedeterminationoftearvolumechangesinnormalcats.OphthalmicRes34:371-374,200211)ChanPK,HayesAW:Principlesandmethodsforacutetoxicityandeyeirritancy.PrinciplesandMethodsofToxicology,secondedition,p169-220,RavenPress,NewYork,198912)LeeVH,RobinsonJR:Review:Topicaloculardrugdelivery:Recentdevelopmentsandfuturechallenges.JOculPharmacol2:67-108,198613)川原めぐみ,平井慎一郎,坂本佳代子ほか:ヒアルロン酸点眼液の角膜球面不正指数を指標としたウサギ涙液層安定化作用.あたらしい眼科21:1561-1564,200414)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,200215)MochizukiH,YamadaM,HatoSetal:Fluorophotometricmeasurementoftheprecornealresidencetimeoftopicallyappliedhyaluronicacid.BrJOphthalmol92:108-111,200816)堂田敦義,中村雅胤:ドライアイモデルラットに対するジクアホソルナトリウム点眼液とヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果.あたらしい眼科28:1477-1481,2011あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121145