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ディスク法で多剤耐性を示したコリネバクテリウム状グラム陽性桿菌が分離された前眼部感染症の5症例の検討

2020年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科37(5):619.623,2020cディスク法で多剤耐性を示したコリネバクテリウム状グラム陽性桿菌が分離された前眼部感染症の5症例の検討萩原健太*1,2北川和子*2神山幸浩*2谷村直紀*2飯沼由嗣*3佐々木洋*2*1公立宇出津総合病院眼科*2金沢医科大学眼科学講座*3金沢医科大学臨床感染症学CFiveCaseswithOcularSurfaceInfectionsinwhichMultidrugResistantCoryneformBacteriawasDetectedbytheDiskDi.usionMethodCKentaHagihara1,2)C,KazukoKitagawa2),YukihiroKoyama2),NaokiTanimura2),YoshitsuguIinuma3)andHiroshiSasaki2)1)DepartmentofOphthalmology,UshitsuGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,3)DepartmentofInfectiousDisease,KanazawaMedicalUniversityC眼表面から分離されるコリネバクテリウム属菌のキノロン耐性率はC50%を超えているが,多剤耐性株についての報告は少ない.2008.2017年に多剤耐性コリネバクテリウム状グラム陽性桿菌が検出された前眼部感染症C5例(男性1例,女性C4例)について調査した.男性例はCStevens-Johnson症候群で,両眼の充血・眼脂を主徴とする結膜炎であった.女性C4例はドライアイ治療目的で挿入した涙点プラグ汚染による感染症であり,プラグ挿入部を中心とする充血と眼脂を主徴とし,いずれも片眼発症であった.うちC3例でCSjogren症候群の合併がみられた.分離菌の薬剤感受性試験では,キノロン以外に,ペニシリン,セフェム,カルバペネムなどの多種の系統の抗菌薬に耐性がみられた.治療としてはプラグ抜去と点眼治療で全例とも改善した.Stevens-Johnson症候群などの眼表面疾患,涙点プラグ挿入,自己免疫疾患の存在などが多剤耐性コリネバクテリウム状グラム陽性桿菌感染の誘因と思われた.CThequinoloneresistancerateofCorynebacteriumCspp.isolatedfromtheocularsurfaceisover50%,yettherehavebeenfewreportsonstrainsofCorynebacteriumCspp.resistanttomultipleantibiotics.Weexamined5patients(1maleCandC4females)seenCbetweenC2008andC2017withCCoryneformCbacteriaCresistantCtoCmultipleCantibiotics.CThemalepatienthadeyemucusandhyperemiainbotheyes.The4femalepatientshadinfectionoftheanteriorocularCsegmentCbyCcontaminatedCpunctalCplugsCinsertedCforCdry-eyeCtherapy,CwithCeyeCmucusCandChyperemiaCaroundCtheCplugs.CThreeCofCthoseCcasesCwereCcomplicatedCwithCSjogren’sCsyndrome.CTheCcasesCwereCresistantCtoCquinolones,Cpenicillin,Ccephems,CandCcarbapenem.CTheCpatientsCwereCe.ectivelyCtreatedCwithCtopicalCeye-dropCadministrationCandCremovalCofCtheCinsertedCpunctalCplugs.COcularCsurfaceCdiseasesCsuchCasCStevens-JohnsonCsyn-drome,infectionofinsertedpunctalplugs,andthepresenceofautoimmunediseasesappeartobetriggersformul-tidrug-resistantCoryneformCbacteria.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(5):619.623,C2020〕Keywords:コリネバクテリウム,コリネバクテリウム状グラム陽性桿菌,Coryneformbacteria,多剤耐性,前眼部感染症,乾性角結膜炎,涙点プラグ,シェーグレン症候群,スティーブンス・ジョンソン症候群.Corynebacteriumsp.,CCoryneformCbacteria,multidrugresistant,ocularsurfaceinfection,keratoconjunctivitissicca,punctualplugs,CSjogren’ssyndrome,Stevens-Johnsonsyndrome.Cはじめにまた,薬剤感受性としてはキノロンに対する耐性率が高いコリネバクテリウムは結膜.常在菌であるが,前眼部感染ことが知られており,筆者らの検討でも,術前に分離された症の起炎菌としても注目されている1).850株のうちキノロン耐性株は半数程度に観察されてい〔別刷請求先〕萩原健太:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学C1-1金沢医科大学眼科学講座Reprintrequests:KentaHagihara,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinada,Kahoku,Ishikawa920-0293,JAPANC表15症例におけるコリネバクテリウムの薬剤感受性の比較症例C1症例C2症例C3症例C4症例C5涙点プラグなしありありありありCABPCCRCRCRCRCRCABPC/SBTCRCRCRCRCAMPC/CVACRCCCLCRCRCSCRCRCCTXCRCRCSCRCSCCTRXCRCRCSCRCSCMEPMCSCRCRCRCSCGMCRCRCSCSCRCEMCRCRCRCICRCTCCRCRCSCSCSCVCMCSCCPCRCRCRCRCLVFXCRCSCRCRCRCSTCRCSCRCSCR感受性(S),中間感受性(I),耐性(R)にて判定.セフェム系にC3例,メロペネムにC3例,ペニシリンで全例に耐性を認めた.VCMについてはC1例のみの測定であるが,感受性であった.る2,3).しかし,セフェム系・ペネム系抗菌薬に対する耐性株はみられず,これらの抗菌薬がキノロン耐性コリネバクテリウムにおける治療の特効薬と考えられた.キノロン以外の多剤に耐性を有するコリネバクテリウム(多剤耐性コリネバクテリウム)は他科領域では報告がみられているが4.6),眼科領域では,筆者らの検索した範囲ではC1例のみ7)であった.今回Cbラクタム系を含む多剤に対して耐性であるコリネバクテリウム状グラム陽性桿菌が分離された前眼部感染症C5例を経験したので報告する.CI細菌学的検査方法細菌学的検査法は以下のとおりである.5例中C4例が涙点プラグ感染症と思われたため,眼脂あるいは摘出プラグを検体とした.プラグを検体とした場合には液体培地で増菌培養しているため菌量は不明である.コリネバクテリウム属菌の同定は,増菌培養後のグラム陽性桿菌の形態確認とカタラーゼ試験陽性の有無で判定した.なお,今回の検討では分離菌の同定精度が問題となるため,検出された菌名をコリネバクテリウム状グラム陽性桿菌(Coryneformbacteria)と記載することとした8).薬剤感受性はディスク法で検査し,施設基準に基づく阻止円直径値に照らして感受性(susceptible,17Cmm以上),中間感受性(intermediate,14.16Cmm),耐性(resistant,13Cmm以下)の判定をした.検査部で採用されている検討薬剤は以下のとおりであるが,検査時期により若干種類が異なる.アンピシリン(ABPC),アンピシリン/スルバクタム(ABPCC620あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020/SBT),アモキシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA),セファクロル(CCL),セフォタキシム(CTX),セフトリアキソン(CTRX),メロペネム(MEPM),ゲンタマイシン(GM),エリスロマイシン(EM),テトラサイクリン(TC),レボフロキサシン(LVFX),クロラムフェニコール(CP),バンコマイシン(VCM),ST合剤(ST).CII症例〔症例1〕60歳,男性.既往歴:市販の風邪薬を服用後,Stevens-Johnson症候群(以下,SJS)発症.現病歴:SJSに伴う眼表面障害のため視力は両眼ともC0.02(n.c.)であり,フルオロメトロン点眼(0.1%),生理食塩水点眼による外来治療を受けていた.2012年に両眼の充血と眼脂を認め受診した.眼脂培養でCCoryneformbacteriaがC2+検出された.薬剤感受性では,MEPMにのみ感受性を示し,その他の薬剤には耐性を示した(表1).有効な抗菌点眼薬がなく,種々の抗菌薬点眼に対する過敏反応の既往があったことより,生理食塩水による洗浄を追加したところ約C1カ月で結膜炎は改善したが,8カ月後にも多剤耐性傾向を示すCCoryneformbacteriaが分離された.その株は,以前に分離された株同様CABPC耐性を示した.その後現在(2018年)まで多剤耐性CCoryneformbacteriaの分離はみられていない.〔症例2〕25歳,女性.既往歴:近視のため頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用中以外,とくになし.現病歴:2008年,ドライアイのためC4涙点に涙点プラグ(パンクタルプラグ)を挿入した.4カ月後,右眼の充血・眼脂を認め受診.右眼下涙点のプラグを中心とする眼瞼・結膜の発赤を認めた(図1)ことから,涙点プラグの汚染による感染症を疑い,プラグを抜去した.眼脂の塗沫検査にて好中球1+,培養でCCoryneformbacteriaがC1+検出された.薬剤感受性の結果,LVFX,STに感受性を示し,他の薬剤には耐性を示した(表1).感受性のあったオフロキサシン眼軟膏にて右眼結膜炎は治癒し,翌月に施行した右眼の培養結果は陰性であった.消炎後にプラグを再挿入したが結膜炎の再発は現在までみられていない.〔症例3〕63歳,女性.既往歴:Sjogren症候群(以下,SS).SSに対して,内科で副腎皮質ステロイド内服をC4年間,9カ月前まで受けていた.現病歴:2012年,左眼の痛みと充血を訴え受診.14カ月前に重症ドライアイのため,左上涙点にパンクタルプラグを挿入されている.左上涙点プラグを中心とする充血を認めたため涙点プラグ感染症を疑い,プラグを抜去した(図2).他(118)図1症例2の前眼部写真右眼結膜と下涙点周囲が充血(矢印はプラグ).左眼は感染徴候なし.のC3涙点はすでに焼灼により閉鎖されていたが,感染徴候は認めなかった.抜去したプラグを培養したところCCoryneformbacteriaが検出された.薬剤感受性の結果,CCL,CMX,CTRX,GM,TCに感受性を示し,他の薬剤には耐性を示した(表1).感受性のあったセフメノキシム点眼にて,2週間後には結膜炎は消退した.1カ月後の結膜.培養は陰性であった.その後ドライアイの悪化があり左上涙点を焼灼した.現在まで結膜炎の再発はない.〔症例4〕79歳,女性.既往歴:原発性胆汁性肝硬変,SS.内科的にはウルソデオキシコール酸内服による治療が行われていた.現病歴:2015年に左眼の眼脂を自覚し受診.原発性胆汁性肝硬変とCSSに合併した重症ドライアイがあり,3涙点の焼灼閉鎖と左下涙点はC20カ月前にパンクタルプラグが挿入されている.今回,そのプラグに粘液膿性の眼脂が付着し,その部を中心とする左眼結膜の充血を認めたため,プラグ感染症を疑い,涙点プラグを抜去した.プラグに付着した眼脂の鏡検にてグラム陽性球菌C1+,グラム陽性桿菌C1+,培養にてCCoryneformbacteriaがC20コロニー検出された.薬剤感受性の結果,GM,TC,VCM,STに感受性を示し,EMに中間耐性を示し,他の薬剤には耐性を示した(表1).また,StaphylococcusCschleiferi20コロニー(薬剤耐性なし)とCStreptococcusoralis少数(ミノサイクリンとマクロライドにのみ耐性)が同時に分離されている.プラグ抜去およびセフメノキシム点眼,人工涙液による洗浄にて,眼脂は改善し,培養も陰性化した.その後,左下涙点は自然閉鎖し,現在まで結膜炎再発は認めていない.〔症例5〕66歳,女性.図2症例3の前眼部写真プラグ抜去後の所見.涙点周囲の発赤がみられる.右眼は感染徴候なし.既往歴:Sjogren症候群1年前からミゾリビン内服中.現病歴:2013年,左眼の充血,眼脂があり受診.SSに伴う重症ドライアイがあり,4年前にC4涙点にイーグルプラグが挿入されていた.今回,左下涙点プラグの汚染とそれを中心とする結膜充血を認めたことより,プラグ関連感染症を疑い,プラグを抜去した.抜去した涙点プラグの培養によりCCoryneformbacteriaが検出された.CMX,CTRX,MEPM,TCに感受性を示し,他の薬剤には耐性を示した(表1).セフメノキシム点眼を行い,充血と眼脂は改善し,次月に施行した左眼の培養結果は陰性となっていた.涙点の自然閉鎖がみられ,その後現在まで感染症の再発はない.CIII考按コリネバクテリウム属菌(Corynebacteriumsp.)はグラム陽性桿菌であり,皮膚,粘膜上の常在細菌叢を構成する主要な菌群であるが,近年CC.jeikeium,C.striatum,C.Cresistensなどで多種の抗菌薬に耐性を示す菌種が報告されており9,10),感染症としては,敗血症や気道感染症,心内膜炎,人工弁感染などが報告されている.これまでの報告では,多剤耐性コリネバクテリウムはグリコペプチド系(バンコマイシン,テイコプラニン)に感受性があり,治療薬としてバンコマイシンが選択されることが多い.CCorynebacteriumCsp.の薬剤感受性試験は微量液体希釈法による最小発育阻止濃度(minimumCinhibitoryCconcentra-tion:MIC)値が判定基準として用いられているが,自動機器での判定が困難であり,わが国の多くの検査室ではディスク法がおもに用いられている.しかしながらディスク法の判定基準は確定されておらず,ディスク法では実際のCMICより感受性に判定されるとされているとの報告もある10)ことより,今回の耐性であったことへの判定には影響がないと考える.また,筆者らの施設から術前に分離されたコリネバクテリウム(Coryneformbacteria)850株の検討ではCbラクタム系抗菌薬に耐性を示す株がみられなかった2)ことより,今回のC5株はきわめてまれな多剤耐性菌であると判断した.眼科領域については,わが国において多剤耐性CCoryne-bacteriumCsp.が検出された角膜潰瘍のC1例が報告7)されており,薬剤感受性検査で,ペニシリン,セフェム,テトラサイクリン,グリコペプチド,クロラムフェニコール系に感受性があり,ニューキノロン,アミノグリコシド,マクロライド,リンコマイシン,ホスホマイシン系に耐性を示していた.同定法,薬剤感受性検査法についての記載がないため,正確な比較検討は困難であるが,筆者らの症例ではペニシリン,セフェム,カルバペネムにも耐性を認める株が検出されており,より高度に耐性化していると考えられた.今回のC5例の内訳は男性C1例,女性C4例であり,年齢は25.79歳(平均C59C±18歳)であった.男性のC1例はCSJS罹患,女性のC4例はいずれもドライアイ,SSによる乾性角結膜炎に対して挿入された涙点プラグによる感染症であった.SJS患者では両眼の結膜炎であるのに対して,プラグ関連結膜炎は片眼であり,起炎プラグ周囲を中心とする発赤を特徴としていた.プラグ関連結膜炎ではプラグ抜去と抗菌薬点眼で速やかに改善し,多剤耐性CCoryneformbacteriaがその後分離されることはなかったが,SJSではその後C8カ月間にわたり多剤耐性CCoryneformbacteriaが分離された.SJSでは眼表面のバリア機能の低下,ステロイド点眼の長期使用,抗菌薬過敏があり抗菌薬が使用できなかったことなどにより,結膜炎改善後も長期にわたり多剤耐性CCoryneformbacteriaが検出され続けたと考えられた.涙点プラグは,とくに涙液減少型のドライアイの治療として有効である.一定期間挿入された涙点プラグには高率に細菌が付着しており,菌のなかでもコリネバクテリウムが最多であったとされている11).涙点プラグは生体材料の一種であり,長く留置することによりその表面に種々の微生物がバイオフィルムにより定着するリスクがある12).涙点プラグ挿入後の定期的な経過観察は重要であり,眼脂の増加や涙点プラグの汚染状態によっては涙点プラグの交換を考慮すべきと考えられる11).SJSではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の感染例も多く13),今回もそのような素因のもとに多剤耐性CCoryneformbacteriaが感染を起こし,かつ結膜.に長期存在したものと考えられた.症例C3.5においてはCSSや原発性胆汁性肝硬変に対するステロイドや免疫抑制剤内服治療を受けていたことが本来弱毒菌と考えられるコリネバクテリウム定着の誘引と考えられたが,症例C2については既往歴もなく誘引は不明であった.多剤耐性コリネバクテリウムが検出された角膜潰瘍の既報7)においてもコントロール不良の糖尿病,ステロイドの長期点眼,水疱性角膜症による局所のバリア機能低下が感染の誘引となったと推定されている.コリネバクテリウムの多剤耐性化のメカニズムに関しては,現在のところ不明である.キノロン耐性メカニズムとしてCDNAジャイレースのアミノ酸変異が指摘されている14).その他の可能性としてはCgyrA遺伝子の変異による耐性獲得なども考えられ,今後の検討が待たれる.治療については涙点プラグ関連感染症において,バイオマテリアル除去を最初のステップとし,そのうえで感受性の高い抗菌薬治療が有効であると考えられた.今回の症例も涙点プラグ抜去と点眼治療で改善している.症例C4においては耐性のあるセフメノキシム点眼を使用し改善しているが,これは細菌の供給源となるプラグを抜去したこと,人工涙液による洗浄が有効であった可能性がある.SSに伴う重度のドライアイにおいては,涙点プラグの脱落やプラグ汚染による前眼部感染のリスクがあり,流涙のリスクがなければ涙点焼灼による永続的な閉鎖は有効な手段と考えられた.また,多剤耐性コリネバクテリウムによる全身感染症にはグリコペプチド系抗菌薬が有効薬とされているが,今回の結果ではバンコマイシン感受性検査を行ったのがC1例のみであるが感受性を示しており(症例4),本菌による重症感染症にバンコマイシンは有効と推測された.コリネバクテリウムではキノロン耐性率が高いことより,キノロンにのみ注目が集まっている現状があるが,SJSのようなCcompromisedhostや,SS患者にプラグを挿入する場合には,多剤耐性コリネバクテリウムによる感染の可能性を念頭におく必要がある.この論文の要旨はC2018年第C55回日本眼感染症学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)井上幸次,大橋裕一,秦野寛,ほか:前眼部・外眼部感染症における起炎菌判定─日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第一報)─.日眼会誌C115:801-813,C20112)神山幸浩,北川和子,萩原健太ほか:術前に結膜.より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性動向調査(2005.2016年).あたらしい眼科35:1536-1539,C20183)櫻井美晴,林康司,尾羽澤実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科22:97-100,C20054)高橋洋,庄司淳,藤村茂ほか:多剤耐性コリネバクテリウムによる下気道感染症例の増加傾向について.感染症学雑誌C83:181,C20095)大塚喜人,吉部貴子,室谷真紀子ほか:血液培養より検出されたコリネフォルム菌の起炎判定基準に関する検討.医学検査C51:24,C20046)水野史人,三上直宣,清澤旬ほか:コリネバクテリウム属による劇症CDICを合併した感染性心内膜炎のC1例.北陸外科学会雑誌28:35,C20097)岸本里栄子,田川義継,大野重昭:多剤耐性のCCorynebac-teriumspeciesが検出された角膜潰瘍のC1例.臨眼C58:C1341-1344,C20048)藤原里紗,大塚喜人,芝直哉ほか:血液内科とその他の科における血液培養分離菌の比較検討.医学検査C68:150-155,C20199)IshiwadaCN,CWatanabeCM,CMurataCSCetal:ClinicalCandCbacteriologicalCanalysesCofCbacteremiaCdueCtoCCorynebac-teriumstriatum.JInfectChemotherC22:790-793,C201610)大塚喜人:注目のCCorynebacterium属菌.臨床と微生物C40:515-521,C201311)柴田元子,服部貴明,森秀樹ほか:涙点プラグ付着物からの細菌検出.あたらしい眼科C33:1493-1496,C201612)YokoiCN,COkadaCK,CSugitaCJCetal:AcuteCconjunctivitisCassociatedwithbio.lmformationonapunctalplug.JpnJOphthalmolC44:559-560,C200013)外園千恵:MRSA角膜炎との戦い.臨眼70:8-12,C201614)長谷川麻理子,江口洋:コリネバクテリウム感染症「キノロン耐性との関係」.医学と薬学C71:2243-2247,C2014***

涙点プラグの付着物からの細菌の検出

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1493?1496,2016c涙点プラグの付着物からの細菌の検出柴田元子服部貴明森秀樹嶺崎輝海片平晴己熊倉重人後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野DetectionofBacteriafromPunctalPlugHolesMotokoShibata,TakaakiHattori,HidekiMori,TeruumiMinezaki,HarukiKatahira,ShigetoKumakuraandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity涙点プラグ挿入後ではプラグインサーター挿入口に白色の塊状物をみることがあり,バイオフィルムの形成や細菌による汚染が懸念される.そこで,この塊状物に病原微生物が存在するか否かを検討した.対象は上下左右いずれかの涙点に涙点プラグが挿入された22例(男性2例,女性20例),27眼,32涙点プラグである.プラグが挿入されたままの状態でインサーター挿入口から圧出された塊状物を細菌培養検査に提出した.全22例中,20例(90.9%)25眼(92.6%)29プラグ(90.6%)で細菌もしくは真菌が検出された.検出された36株の内訳は,Corynebacteriumsp.が18株ともっとも多く,Streptococcusa-Hemolyticstreptococciが5株,Staphylococcusaureusが3株,ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌が3株,Staphylococcusepidermidisが2株,グラム陰性桿菌が2株,Coagulase-negativestaphylococciが2株,Pseudomonasaeruginosa,Aspergillussp.がそれぞれ1株ずつだった.以上から,一定期間挿入された涙点プラグには高率に細菌が付着していることが確認された.Ithasbeenclinicallyobservedthattheholesofpunctalplugsoftenaccumulatewhitematerial,indicatingbiofilmformationandbacterialinfectionofpunctalplugs.Weherestudiedwhetherwhitematerialfrompunctalplugscontainsmicroorganisms.Weexamined22patients(27eyes,including32punctalplugs).Thematerialcollectedfrompunctalplugswassubjectedtobacterialculture.Amongthe22patients,bacteriaorfungiweredetectedfrom20patients(90.9%)in25eyes(92.6%)and29plugs(90.6%).The36bacteriafoundincluded18ofCorynebacteriumsp.,5ofStreptococcusa-Hemolyticstreptococci,3ofStaphylococcusaureus,3ofnon-fermentinggramnegativerods,2ofStaphylococcusepidermidis,2ofgram-negativerods,2ofCoagulase-negativestaphylococciand1ofPseudomonasaeruginosaandAspergillussp.Itisconcludedthattherearebacteriainpunctalplugsplacedinthepunctumforacertainperiodoftime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1493?1496,2016〕Keywords:涙点プラグ,細菌,感染.punctalplug,bacteria,infection.はじめに涙点プラグは,点眼治療のみでは改善のみられない重症ドライアイ患者に対する安全で有効性の高い治療法として日常診療で使用されている1?5).涙点プラグ挿入の合併症として,プラグの脱落,肉芽形成,涙道内への迷入があり1?8),これらの欠点を補うべく新たな涙点プラグも開発されている.涙点プラグ挿入にはプラグそれぞれ専用のインサーターを使用して挿入するため,涙点プラグにはインサーター用の挿入口が設けられている.涙点プラグ挿入後,しばしばこのインサーター挿入口を中心にデブリスが貯留している症例に遭遇し,涙点プラグに細菌が付着していることが疑われる.しかし,涙点プラグへの細菌付着について検討した報告は少ない9,10).そこで本研究では,涙点プラグのインサーター挿入口から採取した白色塊に対して細菌培養検査を行い,菌の検出率,菌の種類について検討した.I対象対象は上下左右の涙点のいずれかに涙点プラグが挿入され,東京医科大学病院眼科で経過観察を行っていた22例(男性2例,女性20例),27眼,32涙点プラグである.平均年齢は69.0±13.1歳で,疾患の内訳はドライアイ15例,Sjogren症候群7例であった.Foxの診断基準11)によるSjogren症候群の確定例が7例で,涙液減少型ドライアイが15例であった.Sjogren症候群のうち,1例が関節リウマチを合併し,1例が全身性エリテマトーデスを合併していた.また,Sjogren症候群以外のドライアイ症例における全身疾患として,糖尿病が2例,骨髄移植を行っていない白血病が2例,関節リウマチが2例,原発性胆汁性肝硬変が1例であった.涙点プラグが挿入されていた期間は3?123カ月(平均45.5±38.4カ月)であった.プラグの種類はパンクタルプラグR14例,スーパーイーグルR3例,種類不明が5例であった.プラグ挿入後に使用していた点眼薬または眼軟膏は,副腎皮質ステロイドが3例,抗菌薬が5例であった.涙点プラグ挿入術の適応としては,点眼治療によっても症状および角膜上皮障害の改善がみられない患者で,点状表層角膜症の程度がフルオレセイン染色によるAD分類12)でA2D2以上の患者とした.II方法0.4%オキシプロカインを点眼した後に,患者の涙点にプラグが挿入されたままの状態でシャフト部分を鑷子で圧迫し,インサーター挿入口から圧出された白色塊を滅菌綿棒で擦過し,カルチャースワブにて当院微生物検査室に移送した.微生物検査室で血液寒天培地,クロムアガーオリエンテーション寒天培地を用いて直接分離培養を,GAM半流動高層培地で増菌培養を行った.直接分離培養で検出されたすべての分離菌に対するPCG(ペニシリンG),MPIPC(オキサシリン),ABPC(アンピシリン),CEZ(セファゾリン),CTM(セフォチアム),FMOX(フロモキセフ),IPM/CS(イミペネム/シラスタチン),GM(ゲンタシン),ABK(アベカシン),EM(エリスロマイシン),CLDM(クリンダマイシン),MINO(ミノサイクリン),TEIC(テイコプラニン),VCM(バンコマイシン),LVFX(レボフロキサシン),ST(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)のMICを微量液体希釈法で測定した.III結果1.培養結果32の涙点プラグインサーター挿入口に貯留している白色塊を採取し培養したところ,29検体(90.6%)とほぼすべての検体から何らかの細菌が検出された(表1).挿入期間が3カ月の検体で培養結果が陽性であったものもあれば挿入期間が48カ月の検体で培養結果が陰性となったものもあった.挿入期間の平均値(32カ月)で2群に分け培養陽性率を比較すると,32カ月以下で87.5%(16検体中14検体)の陽性率であり,32カ月以上で91.7%(12検体中11検体)の陽性率となった.プラグ挿入の部位では上涙点で87.5%(8検体中7検体),下涙点では90.0%(20検体中18検体)の陽性率であった.また,抗菌薬の使用有無について培養陽性率を検討したところ,抗菌薬使用群では72.7%(11検体中8検体),抗菌薬未使用群では100%(18検体中18検体)であった.さらに,副腎皮質ステロイドの使用有無について培養陽性率を検討したところ,副腎皮質ステロイド使用群では100%(7検体中7検体),副腎皮質ステロイド未使用群では86.4%(22検体中19検体)であった.2.検出菌の内訳細菌が35株,真菌が1株検出された(表2).挿入されていた涙点プラグ別に検出された菌を記載したものを表3に示した.Corynebacteriumsp.が18株ともっとも多く検出され,Streptococcusa-Hemolyticstreptococciが5株,Staphylococcusaureusが3株,ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌が3株,Staphylococcusepidermidisが2株,菌種が同定できなかったグラム陰性桿菌が2株,Coagulase-negativestaphylococci,Pseudomonasaeruginosa,Aspergillussp.がそれぞれ1株ずつ検出された.また,薬剤感受性検査の行えた株のうち,7株中4株(57.1%)でレボフロキサシン耐性株がみられた.その内訳は,Staphylococcusepidermidisが2株,StaphylococcusaureusとCoagulase-negativestaphylococciがそれぞれ1株ずつであった(表4).4株のレボフロキサシン耐性株のなかでレボフロキサシン点眼薬を使用していたものは1株だった.また,4株のレボフロキサシン耐性株のなかで副腎皮質ステロイド点眼を使用している症例はなかった.3.臨床所見白色塊から検出された細菌により眼所見が悪化したと考えられた症例は1例のみであり,この症例は眼脂の増加のみで感染性角膜炎の所見や結膜充血など感染性結膜炎の所見はなかった.ほぼすべての症例は涙点プラグに細菌が存在していたにもかかわらず,眼表面に明らかな感染症としての所見は認めなかった.IV考按今回の検討により,涙点プラグのインサーター挿入部には,高率に細菌が存在していることが判明した.これまでも筆者らの結果と同様に,涙点プラグには高率に細菌が存在し,バイオフィルムが形成されていると報告されている9,10).本検討では以前の報告と比較して,涙点プラグ挿入後3カ月から約10年と比較的長期に挿入されていたプラグを対象としている.長期的に挿入されていても,以前の報告と比較して細菌の検出率,検出された菌の種類に大きな差はなかった.さらに,このように高率に涙点プラグから細菌が検出されていても,眼表面への感染を認めた症例はほとんど存在しなかった.涙点プラグには高率に細菌が存在するが,これらの菌が眼表面へ影響する可能性は少ないことが示唆された.検出された菌は,Corynebacteriumsp.が約半数と最も多く,Streptococcusa-Hemolyticstreptococci,Staphylococcusaureusと続いていた.Corynebacteriumsp.は以前の筆者らの報告でも白内障手術前患者の結膜?内に多く存在する常在菌として検出されており13),結膜?に存在していたCorynebacteriumsp.が直接涙点プラグに付着したと考えられる.一方,ドライアイ患者の結膜?内の細菌分布を検討した報告では,表皮ブドウ球菌が最も多く検出され,Corynebacteriumsp.は2%程度と低い検出率であることが報告されている14).結膜?の常在菌の分布と涙点プラグに付着した細菌の分布とに関連性があるか否かについては今後の検討が必要である.薬剤感受性試験を行うことのできた細菌のうち,約半数がレボフロキサシンに耐性であった.また,耐性菌が検出された患者のうち1例はレボフロキサシン点眼を使用していた.ドライアイ患者の結膜?内にはレボフロキサシン耐性菌が多く検出されるとの報告もあり14),涙点プラグ挿入後の抗菌薬点眼が薬剤耐性と関連性があるとは一概にいえないものの,安易に長期にわたって抗菌薬を投与することは避けるべきであろう.挿入された涙点プラグに高率に細菌が付着していたことが,涙点プラグを定期的に交換する必要性を示唆しているのか否かについては議論の余地がある.長期間涙点プラグが挿入されていても,感染性角膜炎などの重篤な眼表面の感染症を発症しておらず,眼表面には大きな影響を与えていない可能性もある.しかし,涙点プラグの約90%に細菌が付着している結果は無視できない事実であり,少なくとも涙点プラグ挿入後の定期的な経過観察は重要であり,眼脂の増加や涙点プラグの汚染状態によっては涙点プラグの交換を考慮すべきであると考えられる.文献1)FreemanJM:Thepunctalplug:evaluationofanewtreatmentforthedryeye.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol79:874-879,19752)WillisRM,FolbergR,KrachmerJHetal:Thetreatmentofaqueous-deficientdryeyewithrernovablepunctalplugs.Aclinicalandimpression-cytologicstudy.Ophthalmology94:514-518,19873)GilbardJP,RossiSR,AzarDTetal:EffectofpunctalocclusionbyFreemansiliconepluginsertionontearosmolarityindryeyedisorders.CLAOJ15:216-218,19894)太田啓雄,広瀬浩士,粟屋忍ほか:涙点栓子挿入による乏涙症の治療成績.臨眼48:628-629,19945)MurubeJ,MurubeE:Treatmentofdryeyebyblockingthelacrimalcanaliculi.SurvOphthalmol40:463-480,19966)小嶋健太郎,横井則彦,中村葉ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,20027)那須直子,横井則彦,西井正和ほか:新しい涙点プラグ(スーパーフレックスプラグ⑧)と従来のプラグの脱落率と合併症の検討.日眼会誌112:601-606,20088)薗村有紀子,横井則彦,小室青ほか:スーパーイーグル⑧プラグにおける脱落率と合併症の検討.日眼会誌117:126-131,20139)YokoiN,OkadaK,SugitaJetal:Acuteconjunctivitisassociatedwithbiofilmformationonapunctalplug.JpnJOphthalmol44:559-560,200010)SugitaJ,YokoiN,FullwoodNJetal:Thedetectionofbacteriaandbacterialbiofilmsinpunctalplugholes.Cornea20:362-365,200111)FoxRI,RobinsonCA,CurdJGetal:Sjogren’ssyndrome.Proposedcriteriaforclassification.ArthritisRheum29:577-584,198612)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,199413)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜?内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,200114)HoriY,MaedaN,SakamotoMetal:Bacteriologicprofileoftheconjunctivainthepatientswithdryeye.AmJOphthalmol146:729-734,2008〔別刷請求先〕熊倉重人:〒113-0024東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科医局Reprintrequests:ShigetoKumakuraM.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity.6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo113-0024,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(107)1493表1プラグ数,患者数,眼数における培養陽性数と培養陽性率培養陽性数培養陽性率プラグ数29/3290.60%患者数20/2290.90%眼数25/2792.60%表2検出された細菌の種類と検出率検出された細菌no(%)Corynebacteriumsp.18(50)Streptococcusa-Hemolyticstreptococci5(13.4)Staphylococcusaureus3(8.3)non-fermentinggram-negativerod3(8.3)Staphylococcusepidermidis2(3.0)gram-negativerod2(3.0)coagulase-negativestaphylococci(CNS)2(3.0)Pseudomonasaeruginosa1(2.8)Aspergillussp.1(2.8)1494あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(108)表3全症例のまとめ症例年齢(歳)性別プラグ挿入部位プラグ挿入期間(カ月)培養結果182女UR3Staphylococcusepidermidis2UL72女UL7(-)2LL72女LL7(-)3UL85男UL15Corynebacteriumsp.3LL85男LL15Corynebacteriumsp.475女LR16StaphylococcusaureusCorynebacteriumsp.574男LR18Corynebacteriumsp.6LL58女LL19non-fermentinggram-negativerodStreptococcusa-Hemolyticstreptococci6UL58女UL19non-fermentinggram-negativerod6UR58女UR19Staphylococcusaureus775女LL19Corynebacteriumsp.876女LL20Corynebacteriumsp.982女LR20Corynebacteriumsp.1079女LR20Corynebacteriumsp.1173女UR23Corynebacteriumsp.1245女LR30Corynebacteriumsp.1381女LL32StaphylococcusepidermidisStreptococcusa-Hemolyticstreptococci14LL60女LL40Streptococcusa-Hemolyticstreptococcigram-negativerod14LR60女LR39gram-negativerod1536女LL48(-)1663女LR54PseudomonasaeruginosaStreptococcusa-Hemolyticstreptococci1760女LL60Corynebacteriumsp.18LL67女LL71Corynebacteriumsp.18UR67女UR22Corynebacteriumsp.18LR67女LR60Corynebacteriumsp.Streptococcusa-Hemolyticstreptococci19UL71女UL89Corynebacteriumsp.19UR71女LR89Corynebacteriumsp.2087女UL98Coagulase-negativestaphylococciCorynebacteriumsp.Aspergillussp.2154女LR122Staphylococcusaureus22UL63女UL123Corynebacteriumsp.22LL63女LL123Corynebacteriumsp.22LL63女LL123Corynebacteriumsp.U:上涙点,L:下涙点,R:右眼,L:左眼.表4レボフロキサシン耐性であった株のまとめ症例培養結果使用していた点眼薬1Staphylococcusepidermidisレボフロキサシンレバミピド13Staphylococcusepidermidisヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウム20Coagulase-negativestaphylococci生理食塩水21Staphylococcusaureus人工涙液ヒアルロン酸ナトリウム(109)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201614951496あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(110)

涙点プラグ留置後2年で太鼓締め様脱出をきたした1例の臨床経過と組織学的検討

2014年8月31日 日曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(8):1211.1214,2014c涙点プラグ留置後2年で太鼓締め様脱出をきたした1例の臨床経過と組織学的検討五嶋摩理近藤亜紀亀井裕子三村達哉松原正男東京女子医科大学東医療センター眼科Two-YearClinicalCourseandHistopathologicalInvestigationofaCaseofExtrudedPunctalPlugEncircledwithMucosalLoopExtendingfromthePunctumMariGoto,AkiKondo,YukoKamei,TatsuyaMimuraandMasaoMatsubaraDepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast目的:涙点プラグ挿入後から太鼓締め様脱出をきたすまでの2年間の経過を観察し,組織学的検討を行った症例を報告する.症例:70代,女性.ドライアイに対して涙点プラグ挿入後,1年10カ月で,プラグ留置中の2涙点が突出してきた.2年8カ月後,右上のプラグが涙点から脱出して涙点を覆うように横向きに位置し,涙点内腔と連絡した軟部組織がプラグ頸部を帯状に覆っていた.軟部組織を涙点近傍で切断し,組織学的検討を行ったところ,断裂した涙小管粘膜と考えられた.結果:涙点プラグの太鼓締め様脱出は,涙小管粘膜の断裂が原因で,涙点の突出が先行する可能性が示唆された.Purpose:Toreportonthetwo-yearclinicalcoursefollowingpunctalplugimplantationandthehistopathologicaloutcomeofacasepresentingextrudedplugencircledwithsofttissueextendingfromthepunctum.Case:Afemaleinher70sunderwentpunctalpluginsertionfordryeye.Oneyearand10monthslater,twopunctashowedprotrusion.Twoyearsand8monthslater,oneoftheplugs,havingbeenextruded,layoverthepunctumwithaloopofsofttissue,extendingfromthepunctum,firmlyencirclingtheplug.Thetissuewasdissectedandhistologicallysuggestedlaceratedmucosaofthecanalicularlumen.Findings:Itishypothesizedthatplugextrusionaccompaniedbyamucosalloopresultsfromlacerationofthecanalicularmucosa.Punctalprotrusionmayprecedeplugextrusion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(8):1211.1214,2014〕Keywords:涙点プラグ,太鼓締め様脱出,合併症,涙点突出,組織病理.punctalplug,plugextrusionaccompaniedbymucosalloop,complication,punctalprotrusion,histopathology.はじめに点眼治療のみでは効果不十分なドライアイに対し,涙点プラグは簡便に挿入や抜去ができ,有効性も高いことから,わが国でも1998年の発売以来広く普及している.ゲージを用いたプラグサイズの測定や,プラグ形状の改良などとともに,脱落,陥入,肉芽などの合併症は少なくなっているとされるが1.5),一部では,プラグの脱落や脱出時に,涙小管内に肉芽が発生する可能性が指摘されている6.8).筆者らは,涙点プラグ留置後定期受診中に太鼓締め様の涙点プラグ脱出をきたし,プラグ除去後涙点閉塞した症例を経験し,挿入から脱出までの2年間の経過観察と,摘出組織の病理組織学的検討を行ったので報告する.I症例患者:70代,女性.既往歴:右角膜変性症に対して2005年に全層角膜移植術を施行した.家族歴:特記すべきことはない.現病歴:両眼のドライアイに対して2010年2月に右上下と左下に涙点プラグ(いずれもスーパーイーグルRプラグ,〔別刷請求先〕五嶋摩理:〒116-8567東京都荒川区西尾久2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科Reprintrequests:MariGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2-1-10Nishi-ogu,Arakawa,Tokyo116-8567,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(131)1211 acdbacdb図1涙点部の突出プラグ留置後1年10カ月:右上涙点(a)と左下涙点(b)が突出してきた.プラグ留置後2年半:右上涙点(c)と左下涙点(d)の突出がやや進行していた.(点線部円内,いずれもフルオレセイン染色後)*a*b図2右上涙点におけるプラグ脱出と太鼓締め様現象プラグ留置2年8カ月後,プラグが涙点から脱出し(点線部円内),涙点と連絡した軟部組織(*)がプラグ頸部を覆っていた.a:上眼瞼反転前,b:上眼瞼反転後.1212あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(132) ×20×40vvv*図3太鼓締めをきたした組織の病理標本(ヘマトキシリン・エオジン染色)重層扁平上皮層(*)において角化は認めず,結合組織内に多数のリンパ球と少数の好中球の浸潤を認めた.上皮下には,新生血管(v)も認めた.×20×40vvv*図3太鼓締めをきたした組織の病理標本(ヘマトキシリン・エオジン染色)重層扁平上皮層(*)において角化は認めず,結合組織内に多数のリンパ球と少数の好中球の浸潤を認めた.上皮下には,新生血管(v)も認めた.イーグルビジョン社,米国)を挿入した.プラグサイズはいずれもゲージ測定で決定した.右下のプラグは半年で脱落した.経過1:2カ月ごとの診察中,プラグ挿入後1年10カ月で右上と左下の涙点が突出してきた(図1a,b).挿入後2年半で,両涙点突出に若干の進行がみられたが(図1c,d),この時点まで自覚症状はなかった.プラグ挿入から2年8カ月後,右眼の異物感と眼脂を訴えて受診した.右上涙点のプラグが涙点から脱出して涙点を覆うように横向きに位置し,プラグの頸部に,涙点内腔と連絡した軟部組織が強固に巻きついていた(図2).涙点近傍で軟部組織を切断し,プラグと軟部組織を摘出した.組織学的検討:摘出した軟部組織を,ヘマトキシリン・エオジン染色後,病理組織学的に検討した.角化を認めない重層扁平上皮で覆われた結合組織内に,多数のリンパ球と少数の好中球の浸潤を認めた.上皮下には新生血管も認めた(図3).摘出部位と組織学的特徴から涙小管粘膜と考えられた.経過2:プラグ留置後2年9カ月で,今度は左下涙点の突出がさらに進行し(図4),異物感が出現したため,プラグを抜去した.抜去時抵抗はなかった.プラグ抜去後,2涙点は,いずれも完全閉鎖した(図5).(133)ab図4左下涙点部の突出進行プラグ留置2年9カ月後,左下の涙点突出が進行し(a),涙点周囲粘膜が浮腫状となり(b),異物感が出現した.直後にプラグを抜去した.II考按西井・横井6)が,涙点プラグの特異な脱出様式として,“太鼓締め”様脱出と形容したように,本例は,涙点プラグの頸部に涙点内腔とつながった粘膜が強固に巻きついた状態になっていた.太鼓締め様脱出は,プラグによる機械的刺激が続いた結果,涙小管粘膜が断裂をきたし,肉芽形成も起こって,断裂部より近位の涙小管垂直部がプラグに巻きついたままプラグが脱出した状態と考えられるが,パンクタルプラグR(FCI社,フランス)7)以外での詳細な報告はみられない.このような特徴的なプラグ脱出の発生には,プラグの形状やサイズの不適合が関係していると推測されている7).本例で使用したスーパーイーグルRプラグは,パンクタルプラグRと同様に,プラグのノーズ径がシャフト幅と比べて幅広くなっているという特徴がある4).このため,プラグが脱落しにくい反面,ノーズが瞬目などのたびに涙小管粘膜を刺激する可能性があり,こうしたプラグの形状が涙小管粘膜の断裂に関与したと考えられる8).一方,サイズに関しては,本あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141213 ab図5プラグ抜去後の涙点右上涙点(a),左下涙点(b)ともにプラグ抜去後閉鎖した(点線部円内).ab図5プラグ抜去後の涙点右上涙点(a),左下涙点(b)ともにプラグ抜去後閉鎖した(点線部円内).例では,ゲージによるプラグサイズの選択を行っており,挿入後2年間プラグが安定していたことからも,挿入時にサイズの不適合はなかったといえる.太鼓締め様脱出出現時の自覚症状として,本例では異物感や眼脂が出現しており,無症状,ないしは軽度の掻痒感のみであったパンクタルプラグR留置例7)と対照的であった.スーパーイーグルRプラグは,パンクタルプラグRと比べてノーズ先端の角度がやや鋭角であるため,瞬目や眼球運動に伴い,脱出プラグのノーズ先端が球結膜や涙丘を刺激しやすかった可能性がある.本例においては,右上涙点からのプラグ脱出から1カ月後に左下涙点部の異物感と涙点の突出進行がみられ,右上プラグ脱出時と同様の症状であったことから,プラグ脱出の前駆症状である可能性を考えてプラグを抜去した.過去の報告でも,プラグが脱出した部位は,上涙点が4例,下涙点が2例で7),上下涙点いずれでも起こりうる合併症といえる.プラグ脱出に先行してみられた涙点部の突出は,涙小管粘膜の断裂に伴う内腔の収縮を示唆している可能性がある.また,プラグ除去後,両涙点は閉鎖したため,涙小管内に肉芽を形成していたと考える.涙点の完全閉鎖では,プラグと同等の効果を維持することができるため,患者にとっては有益な面があるといえる.本例は,涙点プラグ留置後,定期受診中に,涙点突出が徐々に進行し,留置後2年でプラグの太鼓締め様脱出をきたすまでの経過を観察できた初めての報告である.プラグ脱落の過程で太鼓締め様脱出が生じた可能性が考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Horwath-WinterJ,ThaciA,GruberAetal:Long-termretentionratesandcomplicationsofsiliconepunctalplugsindryeye.AmJOphthalmol144:441-444,20072)西井正和,横井則彦,小室青ほか:新しい涙点プラグ(フレックスプラグR)の脱落についての検討.日眼会誌108:139-143,20043)SakamotoA,KitagawaK,TatamiA:EfficacyandretentionrateoftwotypesofsiliconepunctalplugsinpatientswithandwithoutSjogrensyndrome.Cornea23:249-254,20044)五嶋摩理:涙点プラグ挿入・抜去のトラブルと対策.若倉雅登監修,宮永嘉隆・中村敏編,眼科小手術と処置,p98104,金原出版,20125)海道美奈子:BUT短縮型タイプのドライアイに対する治療法.あたらしい眼科53:1575-1579,20116)西井正和,横井則彦:肉芽に対する処置.あたらしい眼科23:1189-1190,20067)FayetB,AssoulineM,HanushSetal:Siliconepunctalplugextrusionresultingfromspontaneousdissectionofcanalicularmucosa.Ophthalmology108:405-409,20018)薗村有紀子,横井則彦,小室青ほか:スーパーイーグルRプラグにおける脱落率と合併症の検討.日眼会誌117:126-131,2013***1214あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(134)

LASIK 術後のドライアイに対するアテロコラーゲン涙点プラグの効果

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)1187《原著》あたらしい眼科28(8):1187?1190,2011cはじめに代表的な角膜屈折矯正手術であるlaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,術後早期から良好な裸眼視力が得られるという利点がある一方で,術後に一過性のドライアイが生じることが知られている1~6).その症状は術後3~6カ月程度で改善すると報告されている2,4,5)が,遷延,または重症化することもある.この一過性ドライアイに対して,人工涙液およびヒアルロン酸ナトリウム点眼により治療が行われ,改善しない症例には,シリコーン製の涙点プラグが有効な場合もある.しかし,シリコーン製涙点プラグは挿入時に疼痛を伴ううえに,術後,感染7~9)や脱落9,10),肉芽形成10,11),涙道内への迷入9)などの合併症が生じるため,積極的に使用しにくい面がある.アテロコラーゲン涙点プラグ「キープティアR」(高研)は,タイプIコラーゲンから抗原性の高いテロペプタイドの部分を除去したアテロコラーゲンが主成分で,この水溶液は4℃〔別刷請求先〕森洋斉:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:YosaiMori,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANLASIK術後のドライアイに対するアテロコラーゲン涙点プラグの効果森洋斉*1加藤貴保子*1南慶一郎*1宮田和典*1天野史郎*2*1宮田眼科病院*2東京大学大学院医学系外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学EfficacyofAtelocollagenPunctalOcclusionforDryEyeDuetoLaserInSituKeratomileusisYosaiMori1),KihokoKato1),KeiichiroMinami1),KazunoriMiyata1)andShiroAmano2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine目的:Laserinsitukeratomileusis(LASIK)術後のドライアイに対するアテロコラーゲン涙点プラグの有効性と安全性を検討した.対象および方法:対象は,LASIK術後のドライアイ遷延例に対して,涙点プラグを挿入した16例29眼.評価項目は,涙液層破壊時間(BUT),点状表層角膜症(SPK),角結膜上皮障害(リサミングリーンスコア)とし,挿入前,挿入後1週,4週および8週で評価した.また,挿入前と挿入後8週でドライアイの自覚症状を比較した.結果:BUTは挿入前と比較して,挿入後1週(p<0.001;Wilcoxonの符号付順位和検定),4週(p<0.001)および8週(p<0.01)で有意に延長していた.SPK,リサミングリーンスコアは挿入前と比較して,挿入後1週,4週および8週(すべてp<0.001)でともに有意に改善していた.ドライアイの自覚症状は,16例中12例(75.0%)で改善していた.結論:アテロコラーゲン涙点プラグによる涙道閉鎖は,LASIK術後のドライアイに対して有用であった.Purpose:Toevaluatetheefficacyofpunctalocclusionwithatelocollagenfordryeyeafterlaserinsitukeratomileusis(LASIK).SubjectsandMethod:Subjectscomprised29eyesof16patientswhohaddryeyeover6monthsafterLASIKandreceivedatelocollageninjectionintothecanaliculi.Tearbreak-uptime(BUT),superficialpunctatekeratopathy(SPK)andkeratoconjunctivitissicca(lissaminegreenstainscore)wereexaminedbeforeandat1,4and8weeksaftertreatment.Thepatientswereaskedtoratetheirimprovementofsymptoms,usingselfassessment,beforeandat8weeksaftertreatment.Results:BUTsignificantlyincreasedat1,4and8weeksaftertreatments(p<0.001,p<0.001andp<0.01,respectively;Wilcoxonsigned-rankstest).SPKandlissaminegreenscorealsoimprovedafter1,4and8weeks(p<0.001).Improvementofsymptomswasreportedin12patients(75.0%).Conclusion:PunctalocclusionwithatellocollagenimprovesocularsurfacedisordersindryeyeafterLASIK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1187?1190,2011〕Keywords:涙点プラグ,ドライアイ,LASIK,アテロコラーゲン.punctalplug,dryeye,LASIK,atelocollagen.1188あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(128)以下では液状で,体温程度になるとゲル化する.涙液貯留効果の持続期間は数週間から数カ月と限られるが,シリコーン製涙点プラグでみられる重篤な合併症を起こさずに,同様の治療効果を得られると期待されている.濱野らはドライアイ症例69例135眼に対して有効性を検討し,涙液量の増加,角結膜上皮障害の軽減が8週間持続したと報告している12).また,Miyataらはドライアイ症例で,涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)の延長,角結膜上皮障害の軽減,角膜上皮バリア機能の改善を認めたと報告している13).そこで本研究では,LASIK術後のドライアイが6カ月以上遷延した症例に対してアテロコラーゲン涙点プラグを挿入し,その有効性を検討した.I対象および方法対象は,2002年6月から2008年10月の間に宮田眼科病院でLASIKを受け,術後のドライアイが6カ月経過しても十分な寛解が得られず,アテロコラーゲン涙点プラグを挿入した16例29眼(男性2例4眼,女性14例25眼,平均年齢44.5±14.0歳).挿入時期は,LASIK後28.8±29.0カ月(6.1~81.9カ月)であった.挿入前のBUTは2.86±1.33秒で,全例2006年のドライアイの診断基準でドライアイ確定例であった.SchirmerI法変法は11.3±9.6mmであった.仰臥位にて,塩酸オキシブプロカイン点眼液(0.4%ベノキシールR点眼液)を点眼し,27ゲージ針でアテロコラーゲン涙点プラグを約150μlずつ上下涙小管に充?した.その後15分間温罨法を行い,確実にゲル化させ涙点を閉塞した.挿入前に行っていた点眼液(人工涙液およびヒアルロン酸ナトリウム)はそのまま継続とした.他覚的検査項目は,BUT,点状表層角膜症(superficialpunctuatekeratopathy:SPK),角結膜上皮障害である.BUTはストップウォッチにて3回測定し,その平均値を用いた.SPKは,フルオレセインの染色状態を染色面積(area),染色密度(density)の組み合わせで評価したMiyataらのAD分類を用い14,15),areaとdensityのスコアの和(6点満点)で評価した.角結膜上皮障害は,リサミングリーン染色を行い,鼻側球結膜,角膜,耳側球結膜の3象限に分けて,各々0~3点の4段階で判定し,合計した点数で評価した(リサミングリーンスコア)16,17).評価時期は挿入前,挿入1週後,4週後,8週後とした.自覚症状は,ドライアイの自覚症状13項目(眼の疲れ,乾燥感,異物感,眼が重い,痛い,痒い,不快感,かすみ,光がまぶしい,眼脂,眼を開けられない,流涙,充血)9)について,それぞれ5段階(悪化するほど高スコア)で挿入前と挿入後8週に患者へのアンケートを行い,比較した.さらに各症状の改善率〔改善した症例数/全体の症例数×100(%)〕を算出した.また,総合的なドライアイ症状の改善について,「とても良くなった」,「良くなった」,「かわらない」,「悪くなった」の4段階評価でアンケートを行った.各検査項目の統計解析は,挿入前を基準とするWilcoxonの符号付順位和検定を行い,有意水準は両側5%とした.II結果BUTは挿入前2.86±1.33秒であったのが,挿入後1週で4.35±1.65秒(p<0.001)と有意に改善し,4週で5.50±3.23秒(p<0.001),8週で4.72±3.14秒(p<0.01)と,その効果は8週間持続していた(図1).SPKはAD分類のスコア(A+D)にて挿入前3.00±0.80であったのが,挿入後1週で1.66±1.11(p<0.001),4週で1.52±1.21(p<0.001),8週で1.52±1.21(p<0.001)となり,挿入後1週で有意に改善し,その効果は8週間持続していた(図2).角結膜上皮障害はリサミングリーンスコアで挿入前3.41±1.57であったのが,挿入後1週で1.38±1.37(p<0.001),4週で1.48±1.33(p<0.001),8週で1.59±1.24(p<0.001)となり,挿入後1週で有意に改善し,その効果は8週間持続していた(図3).ドライアイの各自覚症状は,13項目中11項目が挿入前に比べて,挿入後で有意に改善していた(図4).各症状の改善***0123456挿入前1W後1M後2M後*p<0.001(Wilcoxonの符号付順位和検定)AreaとDensityのスコアの和図2点状表層角膜症〔areaとdensityのスコアの和(AD分類)〕の変化挿入前と比較して,挿入後1週,1カ月,2カ月において,点状表層角膜症は有意に軽減していた.0246810挿入前1W後1M後2M後*p<0.01(Wilcoxonの符号付順位和検定)涙液層破壊時間(秒)***図1涙液層破壊時間(BUT)の変化挿入前と比較して,挿入後1週,1カ月,2カ月において,BUTは有意に延長していた.(129)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111189率は,眼の疲れ56.3%,乾燥感75.0%,異物感37.5%,眼が重い37.5%,痛み25.0%,痒み37.5%,不快感43.75%,かすみ37.5%,光がまぶしい43.75%,眼脂37.5%,眼を開けられない31.25%,流涙25.0%,充血50.0%であった.自覚症状の総合的な評価は,16例中12例(75.0%)で「とても良くなった」あるいは「良くなった」であった(図5).また,16例中4例(25.0%)で「かわらない」という評価であったが,「悪くなった」という評価は1例もなかった.観察期間内に角結膜の炎症,発赤,かゆみなどアテロコラーゲンの抗原性によるアレルギー反応,あるいはコラーゲンに対する過敏症状が1症例2眼に発症した.しかし無処置にて軽快した.ほかに重篤な合併症は認めなかった.III考按今回の検討により,LASIK術後のドライアイ遷延例に対するアテロコラーゲン涙点プラグの挿入は,BUTの延長,SPK,角結膜上皮障害の軽減および自覚症状の改善において有効であり,その効果は8週間持続することが確認された.アテロコラーゲン涙点プラグ挿入により,涙液排出を抑制することで,角膜表面を覆う涙液が増加し,BUTの延長および角結膜上皮障害の改善が促されたと考えられる.自覚症状別では,流涙,眼が重い以外の症状は有意に改善しており,乾燥感の改善率が最も高かった.流涙に関しては,スコア上の改善は認めなかったが,これはドライアイに伴う症状ではなく,涙液の増加による流涙症状が主であり,ドライアイ症状の改善を示唆していると考えられる.LASIK術後のドライアイの病態は,マイクロケラトームやエキシマレーザーにより,角膜知覚神経が切断,切除されることによって生じる角膜知覚低下が関与していると報告されている2,5).角膜知覚が低下すると,反射性の涙液分泌の低下や瞬目の低下による涙液蒸発の増加を起こし,ドライアイ症状をきたすと考えられている.通常,LASIK術後のドライアイ症状は一過性であることが多いが,今回の対象のようにLASIK術後6カ月以上経ってもドライアイ症状が遷延化することもしばしば経験する.その理由として,角膜知覚の回復遅延が考えられる.これまでの報告では,角膜知覚はLASIK術後3~6カ月で術前レベルまで改善する4,18)としているものがある一方で,術後1年以上経っても術前レベルまで改善しないとしているものもあり19,20),症例によって角膜知覚の回復期間に差が生じる可能性が推測される.角膜知覚の回復遅延の危険因子として,BenitezらはLASIK術前のコンタクトレンズ(CL)装用をあげている21).長期のCL装用は,角膜への酸素供給の低下をきたし,神経終末が障害されるため,角膜知覚の低下をひき起こす.ゆえにCL装用者は,術前から角膜知覚低下を認めているため,正常レベルまで回復するのに時間を要すると推察される.本研究の対象をレトロスペクティブに調べてみると,LASIK術前のCL装用者が83%と多く,角膜知覚の回復遅延によるドライアイ症状の遷延化の一因となった可能性が示唆される.さらに,本研究では調べていないが,LASIK術前にドライアイがあ543210自覚症状のスコア***********眼の疲れ乾燥感異物感眼が重い痛い痒い不快感かすみ光がまぶしい眼脂眼を開けられない流涙充血*p<0.05(Wilcoxonの符号付順位和検定)図4アテロコラーゲン涙点プラグ挿入前後での各自覚症状の比較流涙,眼が重い以外のすべての自覚症状が有意に改善した.0123456*p<0.001(Wilcoxonの符号付順位和検定)挿入前1W後1M後2M後リサミングリーンスコア***図3角結膜上皮障害(リサミングリーンスコア)の変化挿入前と比較して,挿入後1週,1カ月,2カ月において,リサミングリーンスコアは有意に軽減していた.:とても良くなった:良くなった:かわらない43.8%31.3%25.0%図5アテロコラーゲン涙点プラグ挿入による改善度の自覚的評価16例中12例(75.0%)が,アテロコラーゲン涙点プラグ挿入後にドライアイの自覚症状が改善したと回答した.また,悪化したと回答した例はなかった.1190あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(130)る症例では,術後の角膜知覚の回復が遅延することが報告されている22).角膜知覚の回復遅延をきたしやすいと予想される症例では,術後のドライアイ症状が遷延化する可能性が高いため,術後早期からドライアイに対する治療を考慮したほうがよいと考えられる.点眼治療で十分改善が得られないドライアイに対して,アテロコラーゲン涙点プラグによる涙道閉鎖が有効であるとの報告は幾つかある12,13,23)が,いずれも挿入後2カ月までの評価であり,その後の治療効果については検討されていない.アテロコラーゲン水溶液は4℃以下では液体であるが,体温程度になるとゲル化する性質をもっており,涙小管内でゲル化して保持され,涙液排出抑制効果を発揮する.しかしながら,ゲルは時間とともに分解されて,最終的に鼻腔内へ排出されるため,その効果は永続的ではない.ゆえに,通常の涙液減少型のドライアイでは,数カ月ごとにアテロコラーゲン涙点プラグの挿入が必要になることが考えられる.一方,本研究の対象であるLASIK術後のドライアイは,角膜知覚が術前レベルまで回復すれば,症状が改善すると推測される.つまり,角膜知覚が改善するまでの間一時的に,涙液排出抑制効果が持続していればよいため,アテロコラーゲン涙点プラグは良い適応であると考えられる.今回の症例では,アテロコラーゲンの抗原性によるアレルギー反応,あるいはコラーゲンに対する過敏症状が1症例2眼に発症したが,無処置にて軽快した.ほかに重篤な合併症は認めなかった.この結果から,アテロコラーゲン涙点プラグの安全性も確認された.アテロコラーゲン涙点プラグによる涙道閉鎖は,LASIK術後のような一過性のドライアに対して,有効で安全な治療法であることが示唆された.文献1)ArasC,OzdamarA,BahceciogluHetal:Decreasedtearsecretionafterlaserinsitukeratomileusisforhighmyopia.JRefractSurg16:362-364,20002)StevenE,WilsonSE:Laserinsitukeratomileusisinducedneurotrophicepitheliopathy.Ophthalmology108:1082-1087,20013)MelkiSA,AzarDT:LASIKcomplications:Etiology,management,andprevention.SurvOphthalmol46:95-116,20014)TodaI,Asano-KatoN,Komai-HoriYetal:Dryeyeafterlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol132:1-7,20015)AmbrosioRJr,WilsonSE:Complicationsoflaserinsitukeratomileusis:etiology,prevention,andtreatment.JRefractSurg17:350-379,20016)SugarA,RapuanoCJ,CulbertsonWWetal:Laserinsitukeratomileusisformyopiaandastigmatism:safetyandefficacy:AreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology109:175-187,20027)YokoiN,OkadaK,SugitaJetal:Acuteconjunctivitisassociatedwithbiofilmformationonapunctualplug.JpnJOphthalmol44:559-560,20008)SugitaJ,YokoiN,FullwoodNJetal:Thedetectionofbacteriaandbiofilmsinpunctualplugholes.Cornea20:362-365,20019)小嶋健太郎,横井則彦,中村葉ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,200210)FayetB,AssoulineM,HanushSetal:Siliconepunctalplugextrusionresultingfromspontaneousdissectionofcanalicularmucosa:Aclinicalandistopathologicreport.Ophthalmology108:405-409,200111)那須直子,横井則彦,西井正和ほか:新しい涙点プラグ(スーパーフレックスプラグR)と従来のプラグの脱落率と合併症の検討.日眼会誌112:601-606,200812)濱野孝,林邦彦,宮田和典ほか:アテロコラーゲンによる涙道閉鎖-涙液減少69例における臨床試験.臨眼58:2289-2294,200413)MiyataK,OtaniS,MiyaiTetal:Atelocollagenpunctalocclusionindryeyepatients.Cornea25:47-50,200514)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200315)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,199416)vanBijsterveldOP:Diagnostictestsinsiccasyndrome.ArchOphthalmol82:10-14,196917)味木幸,尾形徹也,小西美奈子ほか:リサミングリーンBによる角結膜上皮障害の観察.眼紀50:536-539,199918)MichaeliA,SlomovicAR,SakhichandKetal:Effectoflaserinsitukeratomileusisontearsecretionandcornealsensitivity.JRefractSurg20:379-383,200419)NejimaR,MiyataK,TanabeTetal:Cornealbarrierfunction,tearfilmstability,andcornealsensationafterphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol139:64-71,200520)BattatL,MacriA,DursunDetal:Effectsoflaserinsitukeratomileusisontearproduction,clearance,andtheocularsurface.Ophthalmology108:1230-1235,200121)BenitezdelCastilloJM,delRioT,IradierTetal:Decreaseintearsecretionandcornealsensitivityafterlaserinsitukeratomileusis.Cornea20:30-32,200122)TodaI,Asano-KatoN,Hori-KomaiYetal:Laser-assistedinsitukeratomileusisforpatientswithdryeye.ArchOphthalmol120:1024-1028,200223)平井香織,内尾英一,安藤展代ほか:新しいドライアイ治療・アテロコラーゲン液状プラグによる涙道閉鎖の治療効果.眼臨紀3:236-239,2010***