《第6回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科35(4):529.532,2018c涙小管結石および涙.結石に対しての結石成分分析久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科CAnalysisofDacryolithsandCanalicularConcretionsbyInfraredSpectroscopyMasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospital目的:尿管結石分析で用いられる赤外分光分析法(IS法)にて涙小管結石および涙石の結石成分分析を試みた.方法:対象は,涙.鼻腔吻合術および涙小管切開時に採取した結石を用い,IS法による結石成分分析を行い同時に病理検査も行った.結果:症例の年齢はC53.83歳,平均C68.2歳.涙小管炎症例の年齢が有意に高かった.涙.炎C2例,涙小管炎C4例で男性C2例,女性C4例の計C6例.手術後に抗菌薬+消炎鎮痛薬の内服,2種類の点眼を行った.全例治癒し,検査不能の症例はなかった.IS法で,蛋白質型C4例,カルシウム型C1例および混合型C1例に分類された.病理検査では放線菌C3例,放線菌疑C1例,真菌(カンジタ疑)1例および感染なしがC1例だった.涙小管結石では,蛋白質型を一番多く認め,全例放線菌感染を確認した.結論:IS法により結石の成分分析が可能でC3型に分類できた.涙小管結石では蛋白質型を多く認め,放線菌の感染が多かった.CPurpose:ToCpresentCtheCcompositionCofCchemicalCanalysisCofCdacryolithsCandCcanalicularCconcretionsCusinginfraredspectroscopy(IS)C.Method:Thestudyincluded6patients(2male,4female)C.Agesrangedfrom53to83years.Weperformeddacryocystorhinostomy(DCR)in2patientsandoperatedon4consecutivepatientswithcan-aliculitis.CConcretionsCwereCdetectedCcompletelyCunderClocalCanesthesia.CACminimalCportionCofCtheCconcretionsCwasC.xedinformaldehydesolutionandsenttothelaboratoryforpathologicalstudy.TheremainingconcretionswereusedforIS.Result:ChemicalanalysisbyISwassuccessful.Concretionsweredividedinto3groups;1maleand3femaleswereclassi.edintheproteingroup,1femalewasclassi.edinthecalciumgroupand1malewasclassi.edinCtheCmixedCgroup.CConclusion:UsingCIS,CweCwereCableCtoCclassifyCdacryolithsCandCcanalicularCconcretionsCintoCthreegroups,theproteingroupbeingthemajorgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(4):529.532,C2018〕Keywords:涙.鼻腔吻合術,涙小管結石,涙石,赤外分光光度計.dacryocystorhinostomy,canalicularconcre-tions,dacryolith,infraredspectroscopy.Cはじめに涙.鼻腔吻合術鼻外法(dacryocystorhinostomy:DCR)の約C10%に涙.結石(涙石)を認め1,2),涙小管炎には,結石が伴うことが多く,結石が感染の原因となっていることが考えられている2.4).これらの涙小管結石および涙石の分析には,病理検査が用いられ報告され,細菌感染の有無および真菌を含む細菌の種類により分類されてきた2.4).涙石の結石分析については,国内ではC1症例の報告があるのみで5,6),まとまった症例数の報告は海外のみだった7,8).涙小管結石の成分分析を行っている報告も少なかった3).今回筆者らは,尿道結石に用いられている赤外分光分析法(IS法)9,10)で涙小管結石および涙石の分析を行い,IS法の有用性および当院での涙石および涙小管結石の結石成分について結果を検討した.CI対象および方法対象は,2016年C08月.2017年C7月に当院で行ったCDCR2例および涙小管切開C4例中に採取した結石を用い,病理検査およびCIS法による結石成分分析を行った.〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上C2-10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10Fukiage,Hachinohe-shi,Aomori031-0003,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(111)C529表1結石成分による症例の内訳結石成分個数(個)男性:女性年齢(歳)場所(涙.:涙小管)病理検査蛋白型C41:353.C83(C69.3C±12.7)1:3放線菌:3感染無:1カルシウム型C11:0C641:0真菌(カンジタ疑)混合型C10:1C680:1放線菌疑表2結石の場所からの症例の内訳場所個数(個)男性:女性年齢(歳)蛋白型:カルシウム型:混合型病理検査真菌(カンジタ疑):1涙.21:1C58.5±7.81:1:0感染無:1*C放線菌:3涙小管C41:3C73.0±7.53:0:1放線菌疑:1*統計学的に有意差を認めた.すべての患者に対し,局所麻酔下でCDCRおよび涙小管切60開を行った.前投薬は行わず,手術中に緊張が高い場合はドミタゾラム(10Cmg/2Cml:ドルミカムCR)およびペンタゾシン(15Cmg/1Cml:ソセゴンCR)の希釈溶液を,血圧が高い場合は,ニカルジピン塩酸塩(2Cmg/2Cml:ペルジピンCR)を側管より静注した.DCR鼻外法は,手術前に半切した深部体腔創傷被覆・保吸光度(%T)4020護剤(ベスキチンCR,ニプロ)とメロセル(スタンダードネイザルドレッシング,モデル番号C400400.メドロニック)を鼻内に留置した.高周波メス(エルマン)で皮膚切開を行い,骨窓はドリルおよび骨パンチで作製した.涙.および鼻粘膜は前弁,後弁をそれぞれ作製し吻合した.鼻内留置物はC1週間後に抜去した.全例シリコーンチューブ留置術を併用した11).涙小管切開術は,涙点周囲を局所麻酔したあと,涙点から鼻側に粘膜と皮膚の境界に沿って高周波メスで切開し,涙小管内部を観察できるようにした.涙小管結石は鈍的鋭匙で除去し,すべて検査に提出した.シリコーンチューブの挿入や涙小管縫合は行わなかった12).IS法には,蒸留水で洗浄し乾燥したC5Cmg以上の結石が必要なため,最小限を病理検査に提出し残りを成分分析に提出した.手術後より抗菌薬+消炎鎮痛薬の内服のほかに,オフロキサシン+トラニスト点眼を行い,全員流涙などの症状は軽減した.手術前検査として,涙.造影,涙道内視鏡検査は行わなかった.涙石症例と涙小管結石症例の年齢比較の統計処理に,対応のないCt検定を用いて検討し,p<0.05を統計学的に有意差ありとした.C04,0003,5003,0002,5002,0001,5001,000400波数(cm-1)図1蛋白質型蛋白質型では,波数C1,650CcmC.1の波数にピークを認めた.II結果症例は男性C2例,女性C4例の計C6例で女性が多かった.年齢はC53.83歳で,60歳代がC3例と一番多かった(表1).涙小管結石の症例は,涙石の症例より有意に高齢だった(表2).涙小管結石は,蛋白質型がC3例と多く.涙石は蛋白質型とカルシウム型がC1例ずつだった(表2).涙.炎および涙小管炎は全例治癒した.結石分析では,蛋白質型C4例,カルシウム型C1例,混合型1例を認めた(表1).蛋白質型では,波数C1,650CcmC.1(図1),1例のカルシウム型ではシュウ酸カルシウムの波数C1,600Ccm.1の波数にピークを認めた(図2).1例の混合型では蛋白質型と波数C1,100CcmC.1にピークを認めるリン酸カルシウムと類似のピークを認めた(図3).蛋白質型は,涙小管から530あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018(112)50706040吸光度(%T)吸光度(%T)30402020004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,0004004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,000400波数(cm-1)波数(cm-1)図2カルシウム型図3混合型カルシウム型ではシュウ酸カルシウムの波数C1,600CcmC.1波数C1,100CcmC.1にリン酸カルシウムと類似のピークをの波数にピークを認めた.C認めた.CがC3例で涙.からC1例認めた.カルシウム型は涙.からC1例,混合型で涙小管からC1例を認めた(表1).病理検査については,蛋白質型では,涙小管から摘出した3例全例で放線菌が確認され(図4a),1例は,細菌の感染を認めなかった.カルシウム型でC1例が真菌(図4b),混合型は放線菌疑い(図4c)だった.CIII考察尿管結石の結石成分の分析に,IS法,X線解析法,分光図4病理検査(グラム染色)Ca:蛋白質型Cb:カルシウム型Cc:混合型光度分析法や原子吸光分光法などが知られている9,10).IS法は,結石の粉末試料に赤外線を照射し,透過光を分光して得られる赤外線吸収スペクトルから結石成分を同定する9,10).利点は,比較的安価で感度や精度に優れていることで,欠点は,ヒドロキシアパタイトとリン酸水素カルシウムの区別がなくリン酸カルシウムと報告されること,またカーボネートアパタイトが誤って炭酸カルシウムと報告され,またシュウ酸カルシウム一水和物と二水和物の区分は困難である9,10).C(113)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C531X線解析法は未知物質にCX線を照射し,回析が起きる角度と回析強度を調べ,未知物を同定する10).ほかに分光光度分析法7)や原子吸光分光法8)などがあるが,X線解析法と同様に外注先を検索したが,みつけることはできなかった.研究所,大学レベルでのみ施行可能と考えられる.涙小管結石症例と涙石の症例の年齢を比較すると,涙小管結石の年齢が有意に高いこと,70歳代という点も以前の報告と同様3)だった.また,涙石症例の平均年齢もC50歳代で以前の報告と同様だった3).Duke-Elderは,涙小管結石の種類は,異物の周囲に沈着したカルシウム,放線菌によるドルーゼの形成,無定形物質のC3種類があると述べられている14).涙小管結石の成因は放線菌が原因・主成分とされている2.4,12,13).放線菌が主成分であれば,成分分析で蛋白型を示すと考えられ,筆者らの涙小管結石成分分析でも,蛋白型がC3例,混合型がC1例で,従来の報告同様と考えられた1,2).岩崎らはC2例が柔らかく,1例が固かったと報告しており,柔らかいC2例は蛋白質型で,固いC1例がカルシウム型もしくは混合型だったと推測している13).涙石の主成分は,ムコペプチド2)と報告とされ,またほとんどが蛋白質やムコプロテインと報告されている1,7).これらはCIS分析では蛋白質型に属するものと考えた.また,涙石へのカルシウムの沈着は病理学的には報告されているが,この症例が成分分析でカルシウム型になるかどうかは不明である.今までの報告から涙石では蛋白型が多く認められるはずだが,今回C2症例と少ないため結論は出なかった.さらに症例を集める必要があると考える.体内で形成される他の結石と比較した場合,尿路結石は,カルシウム含有結石がC90%以上占め10),鼻石でも,リン酸カルシウムがC90%以上と報告されている15).蛋白質が多い涙石や涙小管結石と,尿路結石や鼻石では発症機序が違うと思われた.IS法による成分分析は,少ない結石量で全例施行可能だった.涙小管結石では蛋白質型が多く,従来と同様な結果が得られた.涙石では症例が少なく傾向は不明だった.健康保険の範囲内で行えるCIS法で涙石や涙小管結石の成分分析行うことは十分可能で,従来の報告と同様の結果が得られる可能性が高いと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KominekCP,CDoskarovaCS,CSvangeraCetCal:LacrimalCsacdacryoliths(86Csammples):chmemicalCandCmineralogicCanalysis.GrafesArchClinExpOphthalmolC252:523-529,C20142)PerryCLJ,CJakobiecCFA,CZakkaCFR:BacterialCandCmuco-peptideCconcretionsCofCtheClacrimalCdrainageCsystem:anCanalysisof30cases.OphthalPlastReconstrSurgC28:126-133,C20123)ReppCDJ,CBurkatCCN,CLucarelliCMJ:LacrimalCexcretorysystemconcretions:canalicularandlacrimalsac.Ophthal-mologyC116:2230-2235,C20094)久保勝文,櫻庭知己,板橋智映子:涙小管炎病因で精査での涙小管結石の病理検査の有用性.眼科手術C21:399-402,C20085)坂上達志,有本秀樹,久保田伸枝:涙.結石のC1例.眼臨C72:1241-1243,C19786)岩崎雄二,陳華岳:停留チューブに形成された涙石を伴う涙.炎のC1例.眼科手術27:607-613,C20147)IlidadelisCE,CKarabataksCV,CSofoniouCM:DacryolithsCinchronicdacryocystitisandtheircomposition(spectrophto-metricanalysis)C.EurJOphthalmolC9:266-268,C19998)IlidadelisCED,CKarabatakisCVE,CSofoniouCMK:DacryolithsinCaCseriesCofCdacryocystorhinostomies:histologicalCandCchemicalanalysis.EurJOphthalmolC16:657-662,C20069)矢野一行,若松英男:赤外・近赤外分光法の臨床医学への応用.真興交易(株)医書出版部,p43-44,200810)山口聡:尿路結石症と臨床検査.生物試料分析C32:200-214,C200911)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法C18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,C200512)北田瑞恵,大島浩一:大きな涙小管結石の手術療法.臨眼C60:1313-1316,C200613)岩崎雄二,河野吉喜,宇土一成ほか:涙道内視鏡所見による涙小管炎の結石形成と治療の考察.眼科手術C24:367-371,C201114)Duke-ElderS:Lacrimal,orbitalandpara-orbitaldiseases.In:SystemCofCOphthalmology.CVolC13,CLondon,CHenryCKimpton,Cp768-770,C197415)蔵川涼世,井上博之,石田春彦ほか:鼻腔放線菌による鼻石の一例.日本鼻科学会会誌45:8-11,C2006***532あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018(114)