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点眼麻酔20 秒後と5 分後の涙管通水検査時の痛みの検討

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1561.1563,2022c点眼麻酔20秒後と5分後の涙管通水検査時の痛みの検討頓宮真紀*1加治優一*1松村望*2松本雄二郎*1*1松本眼科*2神奈川県立こども医療センター眼科CExaminationofPainDuringLacrimalDuctDrainageTestafter20Secondsand5MinutesofOphthalmicAnesthesiaMakiHayami1),YuichiKaji1),NozomiMatsumura2)andYujiroMatsumoto1)1)MatsumotoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenterC目的:涙道疾患の涙管通水検査は外来で行われる日常的検査であるが,繊細な検査でもあり,被検者の痛みに対する恐れや訴えも少なくない.本検討では,点眼麻酔後,涙管通水検査施行のタイミングによって,痛みが変わるかどうか検討した.対象および方法:対象はボランティアC19名(男性C3名,女性C16名)で,まず両眼にC0.4%オキシブプロカイン塩酸塩を点眼した.つぎに右側は点眼C20秒後に,左側は点眼C5分後にC2段針で涙管通水検査をそれぞれ行った.検査に伴う痛みの程度を視覚評価スケールを用いC0.100のレベルで評価した.その差をCWilcoxon符号付検定にて,統計学的に検討した.結果:麻酔C20秒後に通水検査を行った際の痛みの評価は最低値C0.最高値C50(中央値C7.5),麻酔C5分後に通水検査を行った際の痛みの評価は最低値C0.最高値C30(中央値0)であった.麻酔C5分後に通水検査を行ったほうが,有意に痛みが少なかった(p=0.0027).考按:涙管通水検査の際,点眼麻酔後のC20秒後よりも,5分後に通水検査を行った場合,検査に伴う痛みの程度が有意に少ない傾向にあった.点眼麻酔をしたのちC5分待って検査を行えば,麻酔の効果は高まると考えた.CPurpose:Toexaminewhetherthetimingofthelacrimalductdrainagetest,aroutineoutpatientexaminationforClacrimal-ductCdefects,CafterCophthalmicCanesthesiaCaltersCtheCamountCofCpainCexperiencedCbyCtheCpatient.CSub-jectsandMethods:Thisstudyinvolved19volunteersubjects(3malesand16females)whounderwentlacrimalductCdrainageCtestingCusingCaCtwo-stageCneedleCafterCinstillationCofCoxybuprocaineChydrochloride0.4%CophthalmicCsolutionanesthesia,i.e.,20secondspostinstillationontherightsideand5minutespostinstillationontheleftside,respectively.Thedegreeoftest-associatedpainexperiencedbyeachsubjectwasratedonavisualanaloguescalefrom0to100.Thedi.erenceswerethenstatisticallyexaminedwiththeWilcoxonsigned-ranktest.Results:Painratingsrangedfromaminimumof0toamaximumof50(median:7.5)forwaterdrainagetestsperformedat20secondsafteranesthesiaandfromaminimumof0toamaximumof30(median:0)forwaterdrainagetestsper-formedCatC5CminutesCafterCanesthesia.CTheCwaterCdrainageCtestCperformedCatC5CminutesCafterCanesthesiaCwassigni.cantlylesspainful(p=0.0027)C.CConclusion:Painassociatedwithlacrimaldrainageducttestingtendedtobesigni.cantlylesswhenthetestwasperformedat5minutesafterthanat20secondsafterophthalmicanesthesia,thussuggestingthattheanesthesiaismoree.ectiveifthetestisperformedataround5minutesaftertheanes-thesiaisadministered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(11):1561.1563,C2022〕Keywords:涙管通水検査,点眼麻酔,涙管通水検査タイミング,痛み.lacrimalirrigation,ocularanesthesia,tim-ingofthelacrimalductdrainagetest,pain.Cはじめに行の有無や回数などは,多くの施設で検査手技の施行者に任涙管通水検査は,周知のとおり,涙道外来においてもっとされているのが現状である.以前筆者らは,松下眼科(以下,も重要で簡便な検査手技の一つであり,ほとんどの眼科施設当院)で無麻酔下にて涙管通水検査を行っていた経験より,で行われている.しかし,その簡便さゆえに,点眼麻酔の施麻酔の有無による検査時の痛みの検討を行い,麻酔の有無に〔別刷請求先〕頓宮真紀:〒302-0014茨城県取手市中央町C2-25松本眼科Reprintrequests:MakiHayami,MatsumotoEyeClinic,2-25Chuocho,Toride,Ibaraki302-0014,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(121)C1561女性男性p=0.002760504040VAS302010020秒後5分後図1被検者ごとの麻酔後涙管通水検査時の痛みの評価点眼麻酔後の涙管通水検査のタイミングにより痛みの感じ方に差がみられた.VAS:visualanaloguescale.よる痛みの差に有意差はなく,必ずしも点眼麻酔は必要でないと報告した1).しかし,点眼麻酔の後に一定の時間をおいた場合,患者の痛みは減少する可能性もある.そこで,点眼麻酔後に涙管通水検査を施行するタイミングを変えた場合の,涙管通水検査に伴う患者の痛みの違いを検討した.CI対象および方法ボランティアC19名(男性C3名,女性C16名)を対象とした.検者はC1名であった.涙道疾患の既往はなく,すべての被検者は通水可能であった.まず両眼にC0.4%オキシブプロカイン塩酸塩を点眼した.つぎに,右側は点眼C20秒後に,左側は点眼C5分後に,2段針で涙管通水検査を行った.その後,被験者に検査に伴う痛みの程度を視覚評価スケール(visualCanaloguescale:VAS)を用いC0.100のレベルで評価した.その差をCWilcoxon符号付検定にて,統計学的に検討した.本検討は院内の倫理委員会の承認を得て行われた(倫理委員会番号:MAT2021-02).CII結果涙管通水検査に伴う痛みの程度を,点眼麻酔C20秒後とC5分後で評価してもらった結果を図1に示す.男女ともに点眼麻酔C5分後のほうが,明らかに痛みは弱かった.涙管通水時の痛みの程度の分布を図2に示す.点眼麻酔C20秒後とC5分後の涙管通水検査時の痛みの程度を比較すると,点眼麻酔後5分での痛みのほうが有意に低かった(p=0.0027).麻酔C20秒後の痛みの評価は,最低値C0.最高値C50,中央値C7.5であった.麻酔C5分後の痛みの評価は,最低値C0.最高値C30,中央値C30であった.CIII考按以上の結果より,点眼麻酔施行C20秒後より,5分後に涙50VAS3020100図2点眼麻酔20秒後と5分後の涙管通水検査時の痛みの評価点眼麻酔C20秒後より点眼麻酔C5分後のほうが痛みは低く,統計学的有意差があった(p=0.0027).VAS:visualanaloguescale.管通水検査を施行するほうが,より検査時の痛みを軽減できる可能性が示唆された.以前,筆者らは涙管通水検査における点眼麻酔の有無で,検査時の被検者の痛みに差があるかどうか検討した1).このときは,点眼麻酔後,時をおかずに検査を施行していたため,麻酔の有無で痛みの有意差は出なかった.しかし,正常眼の角膜と結膜をC18エリアに分けた知覚についての論文では,各部位によってかなりの差を認めたと報告されている2)そこで今回は,点眼麻酔の作用時間が点眼直後C16秒.約C18分と複数の論文で報告されていること3,4)を念頭に,右眼は点眼麻酔効果が始まった直後C20秒,左眼は点眼麻酔後C5分と間隔をあけ,差が出るかどうか,前回の筆者らの報告に追加すべき点がないかどうかを調べた.その結果,点眼麻酔後の涙管通水検査施行タイミングによって,被検者の感じる痛みに統計学的有意差が出た.これにより点眼麻酔の効果を十分に享受するには,点眼したあと検査するまでの時間にも留意するべきであると考えられた.前回の報告では,涙管通水検査を施行する際に点眼麻酔を施行したかどうかに注目したが,点眼麻酔後に涙管通水検査施行までどの程度待てば点眼麻酔が最大限効果を発揮するかに考えが至らなかった1).今回は,その麻酔作用時間に注目し,十分かつ有効な麻酔時間をC5分と仮定して検討した.その理由は,点眼薬剤が涙道全体に行き渡るのに,5分程度かかることが報告されているからである5).今後,通常の外来診療において涙管通水検査をする際は,必ずしも点眼麻酔を必要とはしないが,痛みに弱い,もしくは検査を怖がっている初めての患者などには,点眼麻酔をしてC5分待ってから検査を施行すれば,かなりの痛みを軽減することが可能と考える.点眼麻酔C20秒後よりC5分後のほうが,明らかに痛みが減った理由を考按し,以下の三つの説を考えた.1)麻酔の組織深達度が違うのではないか.2)点眼麻酔後C5分の場合は,20秒後5分後1562あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022(122)麻酔の効果が涙小管内組織の深部にも及び,涙小管内壁の痛覚自由神経終末枝6)や,圧受容器に麻酔がかかり,痛みが減少しているのではないか.3)麻酔直後では,麻酔の組織深達度が浅く,涙小管内壁の痛覚神経終末枝まで麻酔効果が浸透していない可能性がある.また,今後は涙道疾患を有する患者の涙管通水検査時の痛みについても検討して,涙道診療検査時の痛みのさらなる軽減に努力していきたい.文献1)頓宮真紀,加治優一,松村望ほか:点眼麻酔の有無による涙管通水検査時の痛みの検討.あたらしい眼科C38:203-1206,C20212)NornMS:ConjunctivalCsensitivityCinCnormalCeyes.CActaCOphthalmologicaC51:58-66,C19733)清水好恵,今村日利:外眼部手術の麻酔のコツ.眼科手術C31:579-584,C20184)金子吉彦:点眼麻酔薬ベノキシールとキシロカインの麻酔効果の比較.眼臨紀3:266-1267,C20105)HurwitzCJJ,CMaiseyCMN,CWelhamRAN:QuantitativeClac-rimalscintillography.BrJOphthalmolC59:308-312,C19756)BurtonH:SomaticCsensationsCfromCtheCeye.In:AdlerC’sCPhysiologyCofCtheEye(LevinCL,ed)C,Cp71-83,CSaunders,CPhiladelphia,2011C***(123)あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C1563

点眼麻酔の有無による涙管通水検査時の痛みの検討

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1203.1206,2021c点眼麻酔の有無による涙管通水検査時の痛みの検討頓宮真紀*1加治優一*1松村望*2松本雄二郎*1*1松本眼科*2神奈川県立こども医療センター眼科CPainofLacrimalIrrigationWithorWithoutLocalAnesthesiaMakiHayami1),YuichiKaji1),NozomiMatsumura2)andYujiroMatsumoto1)1)MatsumotoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenterC目的:涙管通水検査は,涙道疾患の診療でもっとも頻用される検査である.ところが涙管通水検査時に点眼麻酔を用いるべきかどうか,統一した見解がない.本検討では点眼麻酔の有無によって涙管通水検査時の痛みがどのように異なるかを検討した.対象および方法:ボランティアC16名(男性C7名,女性C9名)に対して,右側を点眼麻酔なし,左側を点眼麻酔(0.4%オキシブプロカイン塩酸塩)ありで涙管通水検査を行った.検査に伴う痛みの程度を,視覚評価スケールを用いてC0.100のレベルで評価し,スケールの差についてCWilcoxon符号付検定を用いて統計学的に検討した.結果:痛みの中央値は点眼麻酔前でC15,点眼麻酔後でC17.5であり,涙管通水検査時の痛みには有意差がなかった(p=0.433).点眼麻酔を用いない場合,男性の痛みの中央値はC45,女性の痛みの中央値はC10であり,男性のほうが痛みを強く感じる傾向にあった(p=0.027).点眼麻酔を用いた場合,男性の痛みの中央値はC20,女性の痛みの中央値はC10であり,男性のほうが痛みを強く感じる傾向にあった(p=0.026).考按:涙管通水検査を行う際には事前に点眼麻酔薬を投与することが一般的である.しかし,点眼麻酔薬の投与によりアレルギーやショックが誘発されることもありうる.今回の検討の結果,点眼麻酔は涙管通水検査時の痛みに有意な影響を与えないことが明らかになった.さらに女性よりも男性のほうが痛みを訴えやすいという傾向がみられた.涙管通水検査前の点眼麻酔の投与は,必ずしも全例に行うのではなく,患者ごとに選択するという手法もあると考えられた.結論:点眼麻酔の有無によって涙管通水検査時の痛みに大きな差はなかった.涙管通水検査の際,点眼麻酔が不要な場合もあると考えられた.CPurpose:TheClacrimalCirrigationCtestCisConeCofCtheCmostCfrequentlyCusedCtestsCinCtheCtreatmentCofCtearCductCdiseases.However,thereiscurrentlynoconsensusonwhetherornotocularanesthesiashouldbeusedduringthetest.CTheCpurposeCofCthisCstudyCwasCtoCinvestigatedCtheCdi.erenceCinCpainCduringCtheClacrimalCirrigationCtestCdepend-ingConCtheCpresenceCorCabsenceCofCocularCanesthesia.CSubjectsandMethods:Sixteenvolunteers(7Cmales,C9females)underwentCtheClacrimalCirrigationCtestCinCtheCrightCsideCwithCocularanesthesia(0.4%Coxybuprocainehydrochloride)andintheleftsidewithoutocularanesthesia.Thedegreeofexaminationpainwasratedonascalefrom0to100usingavisualratingscale,andthedi.erencesbetweenthescaleswerestatisticallyanalyzedusingtheWilcoxonsigned-ranktest.Results:Themedianpainwas15beforeand17.5afterocularanesthesia,withnosigni.cantdi.erenceinpainduringthelacrimalirrigationtest(p=0.433)C.Intheabsenceofocularanesthesia,themedianpainwas45formenand10forwomen,withmentendingtoexperiencemorepain(p=0.027)C.Withtheuseofocularanesthesia,themedianpainwas20formenand10forwomen,withmentendingtoexperiencemorepain(p=0.026)C.CConclusion:Thepresenceorabsenceofocularanesthesiamadenosigni.cantdi.erenceinpainatthetimeofthelacrimalirrigationtest,thusindicatingthatanesthesiamaynotbenecessary.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(10):1203.1206,C2021〕Keywords:涙管通水検査,痛み,点眼麻酔.lacrimalirrigation,pain,ocularanesthesia.〔別刷請求先〕頓宮真紀:〒302-0014茨城県取手市中央町C2C-25松本眼科Reprintrequests:MakiHayami,M.D.,MatsumotoEyeClinic,2-25Chuocho,Toride,Ibaraki302-0014,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(71)C1203はじめに涙管通水検査は,涙道疾患の診断や治療において頻用される検査手技の一つである.涙管通水検査を行う際に点眼麻酔を併用するかどうかについては,十分に点眼麻酔を行う,角膜に涙洗針が触れる可能性があるときに行う,原則的に点眼麻酔を用いないなど,施設によって異なっていると思われる.涙管通水検査時に行われる点眼麻酔は,検査に伴う疼痛を軽減させるために用いられるが,過去に点眼麻酔が涙管通水検査時の痛みを減らしているかどうか検討した報告はない.点眼麻酔に一般に用いられるオキシブプロカイン(ベノキシール)を点眼されること自体に強い疼痛を感じる場合や,薬剤によるアレルギーやショック反応なども生じうることより,点眼麻酔を用いることなく涙管通水検査を行うことができれば,それに越したことはない.今回,涙管通水検査時において点眼麻酔の有無によって痛みの程度がどのように影響を受けるかについて検討をした.涙管通水検査は涙道疾患を有する患者に対して行われることが多いために,本来はそのような患者に対して涙管通水検査時の痛みについて評価すべきである.しかし,今回バックグラウンドをそろえるために,涙道疾患を有さないボランティアを対象として検討を行うこととした.CI対象および方法ボランティアC16名(男性C7名,女性C9名)を対象とした.同一検者がC2段針を用いて,仰臥位の被験者に,右側は点眼麻酔なし,左側はC0.4%オキシブプロカイン塩酸塩をC1滴点眼してC20秒後に涙管通水検査を行った.検査直後にそれぞれの側の通水検査に伴う痛みの程度を,視覚評価スケールを用いてC0.100のレベルで評価した.両群間の痛みのスケールの差についてCWilcoxon符号付検定を用いて統計学的に検討した.本研究は松本眼科の倫理委員会で承認を経て行われた.CII結果1.点眼麻酔の有無による痛みの程度の違い被験者ごとの右眼(麻酔なし)と左眼(麻酔あり)の痛みの程度を図1に示す.点眼麻酔の有無で痛みの程度は変わらない場合が多かった.さらに男性のほうが痛みを訴えやすい傾向にあった.痛みの程度の分布を箱ひげ図に示した結果を図2に示す.痛みの中央値は点眼麻酔ありでC15,点眼麻酔なしでC17.5であり,かつ涙管通水検査時の痛みの程度には統計学的な有意差がなかった(p=0.433).C2.痛みの程度と性差点眼麻酔を用いなかった右眼の男女別痛みの程度の分布を図3に示す.男性の痛みの中央値はC45,女性の痛みの中央値はC10であり,男性のほうが痛みを強く感じる傾向にあった(p=0.027).点眼麻酔を用いた場合の男女別痛みの程度の分布を図4に示す.点眼麻酔を用いた場合,男性の痛みの中央値はC20,女性の痛みの中央値はC10であり,男性のほうが痛みを強く感じる傾向にあった(p=0.026).CIII考按本検討は涙管通水検査に伴う痛みに対する点眼麻酔の影響を,ボランティアを対象にして検討したものである.結果は,点眼麻酔の有無で痛みの中央値に差はなく,統計学的にも有意差を認めなかった.よって,点眼麻酔により涙管通水検査に伴う痛みが軽減するということは証明できなかった.さらに,点眼麻酔の有無によらず,男性のほうが女性よりも涙管通水検査に伴う痛みを訴えやすい傾向が示された.本検討では,点眼麻酔の有無によって涙管通水検査時の痛みに有意な差を認めなかった.成書によっては,涙洗針が角膜に触れない限り,点眼麻酔は必ずしも必要ないと記載されており,今回も涙洗針は涙点から涙小管にしか触れていなかったことより,痛みを感じにくい状況であった可能性がある.涙点あるいは涙小管上皮には,結膜上皮と同様に痛覚受容器が分布していると考えられるが,丁寧な涙管通水検査の手技により痛みを惹起しなかった可能性がある.涙管通水検査時に痛みを生じる機序として,涙洗針が涙点や涙小管上皮に触れることだけではなく,涙小管や鼻涙管が水圧により拡張することもありうる.さらに涙道に炎症が生じていれば,麻酔が効きにくく,痛覚が通常より過敏になる.しかし,今回は涙道疾患のないボランティアを対象にして行われたために,涙管通水時に涙小管や鼻涙管に加えられる圧力や,粘膜の炎症の影響を検討することができなかった.今後は涙道疾患のある患者に対しても対象を広げる必要があると思われる.また.本検討では,女性よりも男性が涙管通水検査時の痛みを訴えやすい傾向にあった.事実,群発頭痛,ヘルペス後の神経痛,膵炎の痛み,外傷後の痛みなど,男性のほうが痛みの発症頻度の多い疾患もある1).しかしながら,眼科手術後の痛みについては男女差がない2),あるいは女性のほうが痛みを訴えやすい3)という報告がある.動物実験では男性ホルモンであるテストステロンは痛みを和らげ,女性ホルモンであるエストロゲンが減少すると痛みを感じやすくなることが示されている4).また,エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが痛みの軽減に役立つという報告もある5).痛みの性差については,まだ研究途上であり,今回の検討では,男性のほうが女性よりも痛みを訴えやすかった明確な理由を見出すことはできなかった.涙点が小さいほど涙洗針を涙点より挿入することがむずか1204あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021(72)p=0.4336050506040痛みの程度403020痛みの程度3020100点眼麻酔なし(右眼)図1被験者ごとの涙管通水検査時の痛みの程度点眼麻酔の有無によって痛みの程度は変わらない場合が多い.点眼麻酔の刺激により逆に痛みが増強する例もある.Cp=0.0276050痛みの程度403020男性女性100図2涙管通水検査時の痛みの程度分布男女分けずに検討すると,痛みの中央値は点眼麻酔なし(右眼)でC15,点眼麻酔あり(左眼)でC17.5であり,涙管通水検査時の痛みには統計学的な有意差がなかった(p=0.433).Cp=0.0266050痛みの程度403020男性女性点眼麻酔なし点眼麻酔あり点眼麻酔あり(左眼)100図3点眼麻酔なしの涙管通水検査時の痛みの男女差男性の痛みの中央値はC45,女性の痛みの中央値は10,男性のほうが痛みを強く感じる傾向がある(p=0.027).しく,痛みを生じやすくなることも予想される.女性より男性の体格が大きいことが多いため,涙点や涙小管のサイズは男性のほうが女性よりも小さいとは考えにくい.しかし,本研究では涙点の大きさを事前に測定していないために,男性ボランティアにおいて涙点が小さかった可能性は否定できない.点眼麻酔に用いられる薬剤としてオキシブプロカインが広く用いられている.点眼麻酔薬には主剤だけではなく塩化ベンザルコニウムを中心とした防腐剤も含まれている.そのためにたとえ点眼麻酔であったとしても,アレルギー症状やショック6),ぶどう膜炎などを生じることがあることが知られている7).一般に,眼科手術と異なり,涙管通水検査を行う際には同意書などをとることは少ないために,合併症が生じた際には問題となるかもしれない.よって,点眼麻酔を用いることなく涙管通水検査を行うという考えもありうる.実100図4点眼麻酔ありの涙管通水検査時の痛みの男女差男性の痛みの中央値はC20,女性の痛みの中央値は10,男性のほうが痛みを強く感じる傾向がある(p=0.026).際,筆者らの施設では涙管通水検査時に原則として点眼麻酔を用いていないが,眼科医や看護師がともに痛みの少ない検査を行うことができている8).本検討は正常ボランティアを対象としたものであり,涙道疾患の診療にただちに応用することには限界がある.先にも述べたとおり,対象となったボランティアは涙道疾患を有していなかったことより,涙管通水時の内圧の上昇や粘膜の炎症の関与を知ることはできなかった.涙管通水検査を行った検者が右利きであったため,右側と左側の涙道通水検査の手技がまったく同等ではなかった可能性もある.最後に,涙管通水検査についての理解度がボランティアによって異なっており,事前に検査内容を十分に周知させることによって痛みを軽減させることができた可能性がある.今回,筆者らは,涙管通水検査に伴う痛みに対する点眼麻酔の影響について検討をした.限られた条件下であるもの(73)あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021C1205の,点眼麻酔は必ずしも検査に伴う疼痛を軽減させるわけではないことが明らかになった.すなわち涙道通水検査には,点眼麻酔は必ずしも必須ではないと考えられた.今後,涙道疾患を有する患者を対象に含めることにより,涙管通水検査に伴う痛みの機序を解明するとともに,少しでも苦痛の少ない検査法の確立に寄与できるものと考える.文献1)BelferI:Paininwomen.AgriC29:51-54,C20172)LesinCM,CDzajaCLozoCM,CDuplancic-SundovCZCetal:RiskCfactorsCassociatedCwithCpostoperativeCpainCafterCophthal-micsurgery:aprospectivestudy.TherClinRiskManagC12:93-102,C20163)LesinM,DomazetBugarinJ,PuljakL.FactorsassociatedwithCpostoperativeCpainCandCanalgesicCconsumptionCinCophthalmicsurgery:aCsystematicCreview.CSurvCOphthal-molC60:196-203,C20154)CraftRM:ModulationCofCpainCbyCestrogens.CPainC132(S1):S3-12,C20075)SmithCYR,CStohlerCCS,CNicholsCTECetal:PronociceptiveCandCantinociceptiveCe.ectsCofCestradiolCthroughCendoge-nousCopioidCneurotransmissionCinCwomen.CVersionC2.CJNeurosciC26:5777-5785,C20066)SewellWA,CroucherJJ,BirdAG:Immunologicalinvesti-gationsCfollowingCanCadverseCreactionCtoCoxybuprocaineCeyedrops.BrJOphthalmolC83:632,C19997)HaddadR:FibrinousCiritisCdueCtoCoxybuprocaine.CBrJOphthalmolC73:76-77,C19898)頓宮真紀,松村望,加藤祐司ほか:看護師による涙管通水検査の正確性と安全性.あたらしい眼科C36:415-417,C2019C***1206あたらしい眼科Vol.38,No.10,2021(74)

看護師による涙管通水検査の正確性と安全性

2019年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(3):415.417,2019c看護師による涙管通水検査の正確性と安全性頓宮真紀*1松村望*2加藤祐司*3高橋寧子*4松本雄二郎*1加治優一*1宮崎千歌*5*1松本眼科*2神奈川県立こども医療センター*3札幌かとう眼科*4東京慈恵会医科大学付属病院眼科*5兵庫県立尼崎総合医療センターCAccuracyandSafetyofLacrimalIrrigationTestingConductedbyNursesMakiHayami1),NozomiMatsumura2),YujiKato3),YasukoTakahashi4),YujirouMatsumoto1),YuichiKaji1)andChikaMiyazaki5)1)MatsumotoEyeClinic,2)KanagawaChildren’sMedicalCenter,3)SapporoKatoEyeClinic,4)CJikeiUniversitySchoolofMedicine,5)HyogoPrefecturalAmagasakiGeneralMedicalCenterCDepartmentofOphthalmology,目的:重要なメディカルスタッフである看護師の涙管通水検査を医師の涙管通水検査と比較し,看護師による涙管通水検査の正確性と安全性を検討した.対象および方法:涙管通水検査を看護師,医師ともに行ったC155名C290眼(男性C37名,女性C118名)について検討した.結果:155名C290眼について医師(以下,Dr)と看護師(以下,Ns)の涙管通水検査結果の内訳は,Dr・Nsとも通水可がC253眼(87.2%),Dr通水可・NS通水不可がC11眼(3.7%),Dr・Nsとも通水不可がC25眼(8.6%),Dr通水不可・Ns通水可がC1眼(0.3%)であった.以上の結果からCNsによる涙管通水検査の感度はC96.2%,特異度はC95.8%であった.安全性についても今回の検討では有害事象は認めず,全例(100%)Nsによる涙管通水検査は施行可能であった.結論:Nsによる涙管通水検査はCDrによるものとほぼ同等の正確性と安全性があると考えられた.CPurpose:ToCevaluateCtheCaccuracyCandCsafetyCofClacrimalCirrigationCtestingCconductedCbyCnurses,CimportantCmedicalsta.,incomparisonwithtestingconductedbydoctors.Methods:Weanalyzedtheresultsoflacrimalirri-gationtestson290eyesof155patients(37male,118female)conductedbynursesandbydoctors.Results:Theresultsareasfollows:253eyes(87.3%)werepassedbybothnursesanddoctors,11eyes(3.8%)werepassedbydoctorsCbutCnotCbyCnurses,C25eyes(8.6%)wereCnotCpassedCbyCeitherCnursesCorCdoctors,CandC1eye(0.3%)waspassedbyanursebutnotbyadoctor.Thesensitivityoflacrimalirrigationtestingconductedbynursesis96.2%,andthespeci.cityofsuchtestsis95.8%.Astothesafetyaspect,nursesconductedlacrimalirrigationtestingonallthepatients(100%)withnoadverseevents.Conclusion:Thedataindicatethatlacrimalirrigationtestingcon-ductedbynursesisofasaccurateandsafeastestingconductedbydoctors.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):415.417,C2019〕Keywords:涙管通水検査,看護師.lacrimalirrigation,nurse.Cはじめに涙管通水検査は,涙道診療における重要な検査の一つであり,また涙管チューブ挿入術後のチューブ管理にも必要である.しかし,多忙な外来診療において,すべての検査を医師が行うのは困難な場合もある.今回筆者らは,涙管通水検査を,重要なメディカルスタッフである看護師が施行したときの結果と医師のそれとを比較して,正確性や安全性に問題がないか検討した.CI対象および方法対象:2015年C11.12月に,茨城県取手市松本眼科外来にて涙管通水検査を看護師・医師ともに行ったC155名C290眼(男性C37名,女性C118名)について検討した.方法:検者は医師C1名,看護師C6名で,外来ベッド上仰臥〔別刷請求先〕頓宮真紀:〒302-0014茨城県取手市中央町C2-25松本眼科Reprintrequests:MakiHayami,MatsumotoEyeClinic,2-25Tyuocho,Toride,Ibaraki302-0014,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(113)C415位直視下にて,同一眼を同一ゲージの涙管洗浄針(一段針曲もしくは二段針曲)で同一涙点より,看護師,医師の順で行った.今回の検討では,上下涙点のどちらかでも通水しなかった場合は,通水不可とした.通水の不可の判定については,患者の鼻咽頭への通水到達自覚ありを,通水可,自覚なしを通水不可とした.CII結果医師(以下,Dr)・看護師(以下,Ns)とも通水可はC290眼中C253眼(87.3%),Dr通水可・Ns通水不可はC11眼(3.8%),Dr・Nsとも通水不可がC25眼(8.6%),Dr通水不可・Ns通水可はC1眼(0.3%)であった.以上の結果から看護師による涙管通水検査の感度はC96.2%,特異度はC95.8%であった.安全性についても今回の検討で,涙管通水検査が原因と思われる出血や,検査後の疼痛などの有害事象は認められなかった.CIII考按今回筆者らは,外来において日常的に必要な涙管通水検査を,医師と看護師がそれぞれ行った際の結果について検討した.涙管通水検査は,外来で簡便に行える涙道診療のルーチン検査である.涙管通水検査は涙管の通水障害がないかどうかのチェックはもちろんのこと,涙道感染症におけるデブリスを洗い出す効果ももつため1),涙道外来において,頻回に行うものである.その際,すべての症例に対して医師が行うのは,多忙な外来ではむずかしい.厚生労働省医政局看護課に問い合わせたところ,涙管通水検査は,保健師助産師看護師法第C5条の診療の補助に該当し,医師の指導・管理のもとに看護師が行うことは可能であるとの回答で,法律的に問題がないことを確認した.また,海外でも,やはり医師の管理のもと,熟練した看護師が日常的に涙管通水検査を行っている2).もちろん,看護師による通水検査の際,一段針もしく二段針どちらの針で行うのか,涙小管のどのレベルまで涙管通水針を挿入するかなどの決定は,医師の指導のもとで行われる必要がある.今回の検討では,看護師による涙管通水検査は,感度,特異度とも高く,医師によるものと比較しても遜色がなく,信頼性および安全性について問題ないことを確認できた.結果が一致しなかった症例について,いくつかその原因を考察してみた.まず,涙管通水検査の順序が影響した可能性がある.今回の検討では,涙管通水検査を看護師が先に行い,その後,医師が行った.この方法では,最初に看護師が通水した際,通水不可でもデブリスなどが洗浄され,2回目に医師が行った際に通水が可能になったのかもしれない.また,涙道内に散見される涙石の動きが,涙管通水検査の結果を左右することもありうる.あるいは,涙小管のどのレベルまで涙管通水針を進めているかも,結果不一致に関係しているかもしれない.ただし,通水可にするために,無理に涙小管内奥に針を進めると,総涙小管閉塞の場合,総涙小管を穿破し,かえってより強い再閉塞をきたすおそれもあり3),やはり医師の指導のもと,解剖を踏まえたうえでの施行が重要で,今後の涙道診療においても,看護師との連携がますます重要になると思われた.検査の多い眼科診療において,たとえば,フルオレセイン蛍光造影は視機能訓練士が写真撮影を担当している医療機関が多い.検査,診療の質を担保しつつ,外来での患者の待ち時間を短縮するために何ができるのか.看護師や視能訓練士などコメディカルとの外来検査での役割分担を考えていくことも,これからの医療の質向上のために必要と思われる.文献1)StevensS:LacrimalCsyringing.CCommunityCEyeCHealthC22:31,C20092)BeigiCB,CUddinCJM,CMcMullanCTFCetal:InaccuracyCofCdiagnosisCinCaCcohortCofCpatientsConCtheCwaitingClistCforCdacryocystorhinostomyCwhenCtheCdiagnosisCwasCmadeCbyConlyCsyringingCtheClacrimalCsystem.CEurCJCOphthalmolC17:485-489,C20073)藤本雅大:検査編.あたらしい眼科C30(臨増):143-144,C2013注記:眼科の検査を,看護師が医師の指示のもとに実施する場合,「保健師助産師看護師法」第C5条および第C37条(下記に抜粋)を参照すると,医師または歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為の禁止は,医師の指示があれば,適用されないとあります.したがって,看護師であれば,医師の指示により涙道通水通色素検査を行うことは直ちに法律違反とは考えられません.ただし,医師の指示がなければこのような行為をすることはできません.一方,視能訓練士は,厚生労働省令により涙道通水通色素検査を行うことは禁止されています(下記に法および施行規則を抜粋).涙道通水通色素検査は特定行為ではありませんが,看護師によるこの検査を積極的に推し進めていく考えであれば,日本眼科学会,日本眼科医会と調整していただく必要があるように思われます.〇保健師助産師看護師法第五条この法律において「看護師」とは,厚生労働大臣の免許を受けて,傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう.416あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019(114)第三十七条保健師,助産師,看護師又は准看護師は,主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか,診療機械を使用し,医薬品を授与し,医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない.ただし,臨時応急の手当をし,又は助産師がへその緒を切り,浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は,この限りでない.第三十七条の二特定行為を手順書により行う看護師は,指定研修機関において,当該特定行為の特定行為区分に係る特定行為研修を受けなければならない.2この条,次条及び第四十二条の四において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる.一特定行為診療の補助であつて,看護師が手順書により行う場合には,実践的な理解力,思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるものとして厚生労働省令で定めるものをいう.二手順書医師又は歯科医師が看護師に診療の補助を行わせるためにその指示として厚生労働省令で定めるところにより作成する文書又は電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう.)であつて,看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲及び診療の補助の内容その他の厚生労働省令で定める事項が定められているものをいう.三特定行為区分特定行為の区分であつて,厚生労働省令で定めるものをいう.四特定行為研修看護師が手順書により特定行為を行う場合に特に必要とされる実践的な理解力,思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能の向上を図るための研修であつて,特定行為区分ごとに厚生労働省令で定める基準に適合するものをいう.五指定研修機関一又は二以上の特定行為区分に係る特定行為研修を行う学校,病院その他の者であつて,厚生労働大臣が指定するものをいう.〇視能訓練士法第C17条第一項視能訓練士は,第二条に規定する業務のほか,視能訓練士の名称を用いて,医師の指示の下に,眼科に係る検査(人体に影響を及ぼす程度が高い検査として厚生労働省令で定めるものを除く.次項において「眼科検査」という.)を行うことを業とすることができる.〇視能訓練士法施行規則第十四条の二法第十七条第一項の厚生労働省令で定める検査は,涙道通水通色素検査(色素を点眼するものを除く.)とする.文責:木下茂(あたらしい眼科編集主幹),今井浩二郎(京都府立医科大学医療フロンティア展開学,元厚生労働省医政局研究開発振興課専門官)***(115)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C417