《原著》あたらしい眼科40(5):685.688,2023c先天鼻涙管閉塞に対する他院におけるプロービング不成功例の検討大野智子*1松村望*1後藤聡*2近藤紋加*1渕野恭子*1熊谷築*1浅野みづ季*1水木信久*3*1神奈川県立こども医療センター眼科*2聖マリアンナ医科大学眼科学教室*3横浜市立大学医学部眼科学教室CAStudyofPatientswithCongenitalNasolacrimalDuctObstructionwhowereTreatedafteranUnsuccessfulProbingatAnotherHospitalTomokoOhno1),NozomiMatsumura1),SatoshiGoto2),AyakaKondo1),YasukoFuchino1),KizukuKumagai1),MizukiAsano1)andNobuhisaMizuki3)1)DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildrenMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicineC目的:先天鼻涙管閉塞症に対する他院におけるプロービング不成功例の神奈川県立こども医療センター眼科(以下,当科)での治療と転帰について検討する.対象および方法:2011年C6月.2021年C11月に当科を紹介初診した,先天鼻涙管閉塞の診断で他院でのプロービングが不成功であったC3歳未満の患児を対象とし,患者背景,当科での治療と転帰を後ろ向き検討した.結果:対象はC112例C124側(平均C11.6C±5.4カ月),男児C69,女児C43例,患側は右C59側,左65側(両側C12例)であった.涙点閉鎖,欠損を除くC119側の治療と転帰は,自然治癒C48側(40%),局所麻酔下再プロービングC50側(42%)中,成功はC48/50側(96%),全身麻酔下涙道内視鏡再プロービングC17側(14%)中,成功は17/17側(100%),経過観察中C4側(3%)であった.局所麻酔下再プロービング不成功C2例は涙道内視鏡プロービングにて全例治癒した.結論:再プロービングの成功率は高く,プロービング不成功例は専門施設への紹介が望ましいと考えられた.CInthisretrospectivestudy,weevaluatedthebackground,treatment,andoutcomesofpatientswithcongenitalnasolacrimalCductCobstructionCwhoCwereCreferredCtoCtheCDepartmentCofCOphthalmologyCatCKanagawaCChildren’sCMedicalCenterbetweenJune2011andNovember2021aftertheoutcomeofaprobeperformedattheotherhos-pitalwasunsuccessfully.Thisstudyinvolved124nasolacrimalducts(59rightsideand65leftside)of112children(69boysand43girls,meanage:11.6months).Thetreatmentandoutcomerecordsof119sides,excludingpunc-talclosureanddefects,showedthat48sides(40%)healedspontaneously,that50sides(42%)wereprobedunderlocalanesthesia,andthat48/50(96%)weresuccessful.Of17sides(14%)thatunderwentdacryoendoscopyundergeneralanesthesia,17/17(100%)weresuccessful,and4sides(3%)wereunderfollow-up.In2casesinwhichre-probingunderlocalanesthesiawasunsuccessful,thepatientsweresuccessfullytreatedbydacryoendoscopicprob-ing.The.ndingsinthisretrospectivestudyshowthatthesuccessrateofre-probingwashigh,andthatifaprob-ingisunsuccessful,thepatientshouldbereferredtoaspecializedfacility.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(5):685.688,C2023〕Keywords:先天鼻涙管閉塞,再プロービング,涙道内視鏡.congenitalnasolacrimalductobstruction,re-prob-ing,dacryoendoscopy.Cはじめに乳児のC82.9%がC1歳までに保存的な経過観察で治癒したと先天鼻涙管閉塞症は自然治癒率の高い疾患であり,日本のの報告がある1).しかし,なかには改善せず,眼脂,流涙が〔別刷請求先〕大野智子:〒232-8555神奈川県横浜市南区六ッ川C2-138-4神奈川県立こども医療センター眼科Reprintrequests:TomokoOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildrenMedicalCenter.2-138-4Mutsukawa,Minami-ku,Yokohama-shi,Kanagawa232-8555,JAPANCバスタオル抑制帯バックロック図1当科における体動抑制の方法患児にトリクロリールシロップC0.8Cml/kgを内服させ,入眠後にバスタオルで包み,体動制御用の抑制帯およびバックロックにて固定,オキシブプロカイン塩酸塩点眼(ベノキシール)を行い,看護師1.2名で患児の顔を制御して行う.続く場合がある.プロービングは以前より存在する治療であるが,盲目的な手技であり,治療がむずかしいケースも存在する.初回プロービング不成功例への再プロービングについて,過去の報告は存在するが少ない.今回,筆者らは先天鼻涙管閉塞に対する他院におけるプロービング不成功例の神奈川県立こども医療センター眼科(以下,当科)での治療と転帰を調査した.CI対象および方法2011年C6月.2021年C11月に当科を紹介初診した患児で,先天奇形症候群,顔面奇形を除外した先天鼻涙管閉塞の診断で他院でのプロービングが不成功であったC3歳未満の患児112例C124側を対象とし,患者背景,他院での不成功の理由,当科での治療と転帰を後ろ向き検討した.当科での治療は,生後C3.6カ月未満は原則経過観察,生後C6カ月以降は家族の希望を確認し,経過観察もしくは局所麻酔下盲目的プロービングを施行,また局所麻酔下では困難な症例はC2歳前後を目安に全身麻酔下涙道内視鏡によるプロービングを施行した.局所麻酔下再プロービングは,外来処置室にて患児にトリクロリールシロップC0.8Cml/kgを内服,催眠させ,その後,バスタオルで体をくるみ,体動制御用の抑制帯,バックロックにて固定,オキシブプロカイン塩酸塩点眼(ベノキシール)を行い,看護師1.2名で患児の顔を制御した状態で涙道を専門とする医師が施行した(図1).まず,顕微鏡下にて拡張針で涙点を拡張し,涙道洗浄を施行した後,04-05ボーマンブジーにてプロービングを施行し,最後に再度涙道洗浄を行い,通水を確認した.術後レボフロキサシン点眼C1日C4回,0.1%フルメトロン点眼C1日C2回をC1週間行い,1カ月後症状の確認と色素残留試験を施行し,治癒を判定した.全身麻酔下涙道内視鏡による再プロービングは,手術室にて,涙道内視鏡を使用しプロービングを行い,その後涙管チューブ(ラクリファーストshorttype)を挿入し,再度涙道内視鏡にて涙道内を確認した.術後レボフロキサシン点眼C1日C4回,リンデロン点眼C1日C2回を約C1週間施行したのち,リンデロン点眼をC0.1%フルメトロンに変更し,眼圧に注意しながら術後C1カ月間使用した.術後C1カ月後に涙管チューブを抜去した.CII結果対象はC112例C124側で平均月齢はC11.6C±5.4カ月であった.男児C69,女児C43例,患側は右眼C59,左眼C65側,うちC12例は両側であり,性別と患側に有意差はなかった.前医でのプロービング回数は平均C1.6C±1.1回で,最多C8回であった.紹介状の情報に基づく前医でのプロービング不成功の理由は,①涙小管の狭窄,涙点閉鎖などの涙点・涙小管C12例(10%),②開通困難などの涙.鼻涙管C89例(72%),③体動制御困難C8例(6%),④不明・その他C15例(12%)であった.当科での治療と転帰は,涙点閉鎖,欠損を除く先天鼻涙管閉塞である全C119側で調査をした(表1).自然治癒は48側(40%)(11.0C±5.2カ月),局所麻酔下再プロービング(9.6C±3.3カ月)はC50側(42%)に施行し,成功はC48/50側(96%),全身麻酔下涙道内視鏡による再プロービングおよび涙管チューブ挿入(16.9C±6.0カ月)はC17側(14%)に施行し,成功は17/17側(100%),経過観察中はC4側(3%)(18.3C±8.4カ月)であった.局所麻酔下再プロービング不成功C2例は後日,全身麻酔下涙道内視鏡プロービングを施行した.1例目はC2歳表1当科における治療と転帰n(眼数)平均月齢成功率自然治癒局麻ブジー全麻涙道内視鏡経過観察中48(40%)C50(42%)C17(14%)C4(3%)C11.0±5.2C9.6±3.316.9±6.018.3±8.4C-48/50(C96%)17/17(C100%)-表2過去の報告と当科での再プロービング成功率の比較ChaDS(2C010)HungCH(2C015)本報告月齢6.7C1カ月0.6C0カ月3.2C0カ月麻酔方法局所麻酔局所麻酔局所麻酔初回プロービングの病院同一同一他院初回プロービングの成功率80%81%CN.S.再プロービングの成功率61%64%94%11カ月男児(初診時生後C3カ月前医でのプロービング回数C1回)で,左鼻涙管下端の開口部の閉塞と鼻涙管遠位半分の.brosis様の所見であった.2例目はC1歳C11カ月女児(初診時C1歳C3カ月前医でのプロービング回数C2回)で,左鼻涙管開口部の膜状閉塞があり,いずれも涙道内視鏡プロービングおよび涙管チューブ挿入にて治癒した.CIII考察先天鼻涙管閉塞症のプロービング不成功後の自然治癒について,林らは,初回早期プロービングの不成功後,生後C12カ月でC51.2%(42/82側),18カ月でC78.0%(64/82側),生後C24カ月でC86.6%(71/82側)が自然治癒したと報告している2).当科でのプロービング不成功後の自然治癒率はC40%であったが,生後C18カ月を待たずに再プロービングを施行しているため,さらに長期に経過観察を行えば,自然治癒となり得た症例が存在している可能性が考えられた.先天鼻涙管閉塞症の盲目的再プロービングの治療成績について,過去の報告では,海外ではおもに全身麻酔下で行われており,また,プロービングに加えてステント留置を実施し,その際に鼻内視鏡を使用するなどの施行方法が報告によって異なっていたが,再プロービング成功率はC75.85%であった3.6).また,本報告の方法と同様の局所麻酔下でブジーのみ使用下で施行された盲目的再プロービングの過去の報告2編7,8)を調査し,本報告の成績と比較した(表2).局所麻酔下再プロービング成功率はCChaらの報告ではC61%,Hungらの報告ではC64%であったのに対し,当科での成功率はC94%であり,他の二つの報告と比較すると成功率が高かった.過去の二つの報告では初回プロービングと再プロービングは同一の病院で施行したのに対して,本報告は初回と再プロービングは異なる施設であることから,体動制御などが初回と異なる環境で,熟練した術者が施行することが,高い成功率が得られた要因と考えられた.先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン9)では,CQ5の推奨文で「初回盲目的プロービング不成功例に対し,再度の盲目的プロービング(麻酔の如何は問わず)は行わないことを提案する」と示されているが,経験豊富な術者に代わる,体動抑制がより確実な状態で行うなどのより良い条件下であれば,再度の盲目的プロービングの施行価値はある可能性が考えられた.全身麻酔下涙道内視鏡を使用した再プロービングの過去の報告で,FujimotoらはC21側(平均月齢C13C±8カ月)に施行し,術後C1年でC93.3%(14/15側)成功したと報告している10).当科での涙道内視鏡再プロービングの成功率はC100%であり,Fujimotoらの報告と同様に高率であった.また,当科での局所麻酔下再プロービング不成功例C2例に対しても涙道内視鏡再プロービングにより治癒しており,同一術者と同一施設であっても,局所麻酔下再プロービング不成功例に対して,全身麻酔下涙道内視鏡プロービングおよび涙管チューブ挿入は有用であった.麻酔方法の違い,涙道内視鏡を使用した可視化のプロービング,涙管チューブ挿入などが成功の要因と考えられた.本研究はレトロスペクティブ研究であり,今後,ランダム化比較試験などのバイアスの少ない比較試験を行うことで,さらなる正確な比較が可能であると考えられる.今回,先天鼻涙管閉塞に対する他院におけるプロービング不成功例の当科での治療と転帰を調査した.その結果,専門施設において,確実な体動抑制と経験豊富な術者に代わることで,局所麻酔下盲目的再プロービングが有効であった.また,局所麻酔下盲目的プロービング不成功例に対し,全身麻酔下涙道内視鏡プロービングおよび涙管チューブ挿入が有用であり,プロービング不成功例は専門施設への紹介が望ましいと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KakizakiCH,CTakahashiCY,CKinoshitaCSCetal:TheCrateCofCsymptomaticimprovementofcongenitalnasolacrimalductobstructionCinCJapaneseCinfantsCtreatedCwithCconservativeCmanagementduringthe1styearofage.ClinOphthalmolC2:291-294,C20082)林憲吾,嘉鳥信忠,小松裕和ほか:先天鼻涙管閉塞の自然治癒率および月齢C18カ月以降の晩期プロービングの成功率.日眼会誌C118:91-97,C20053)ValchevaCKP,CMurgovaCSV,CKrivoshiiskaEK:SuccessCrateCofCprobingCforCcongenitalCnasolacrimalCductCobstruc-tioninchildren.FoliaMed(Plovdiv)C61:97-103,C20194)BeatoJ,MotaA,GoncalvesNetal:FactorspredictiveofsuccessCinCprobingCforCcongenitalCnasolacrimalCductCobstruction.CJCPediatrCOphthalmolCStrabismusC54:123-127,C20175)BachA,VannerEA,WarmanR:E.cacyofo.ce-basednasolacrimalCductCprobing.CJCPediatrCOphthalmolCStrabis-musC56:50-54,C20196)SinghM,SharmaM,KaurMetal:Nasalendoscopicfea-turesandoutcomesofnasalendoscopyguidedbicanalicu-larintubationforcomplexpersistentcongenitalnasolacri-malCductCobstructions.CIndianCJCOphthalmolC67:1137-1142,C20197)ChaDS,LeeH,ParkMSetal:ClinicaloutcomesofinitialandCrepeatedCnasolacrimalCductCo.ce-basedCprobingCforCcongenitalCnasolacrimalCductCobstruction.CKoreanCJCOph-thalmolC24:261-266,C20108)HungCCH,CChenCYC,CLinCSLCetal:NasolacrimalCductCprobingCunderCtopicalCanesthesiaCforCcongenitalCnasolacri-malCductCobstructionCinCTaiwan.CPediatrCNeonatolC56:C402-407,C20159)先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン作成委員会:先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン.日本眼科学会雑誌.日眼会誌C126:11-41,C202210)FujimotoM,OginoK,MatsuyamaHetal:SuccessratesofCdacryoendoscopy-guidedCprobingCforCrecalcitrantCcon-genitalCnasolacrimalCductCobstruction.CJpnCJCOphthalmolC60:274-279,C2016***