《原著》あたらしい眼科38(5):584.587,2021c円錐角膜に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植の術後経過の比較關口(色川)真理奈水野未稀内野裕一榛村重人坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CComparisonofthePostoperativeCoursebetweenPenetratingKeratoplastyandDeepAnteriorLamellarKeratoplastyforKeratoconusMarina(Irokawa)Sekiguchi,MikiMizuno,YuichiUchino,ShigetoShimmuraandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC目的:円錐角膜患者に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植の術後経過について比較検討する.対象:2008年3月.2017年C1月に行った円錐角膜患者に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植のうち,術後C2年以上経過を追跡できたC20症例(全層角膜移植群C11名C11眼,深層層状角膜移植群C9名C10眼)を対象とした.縫合糸は緩み,断裂,感染があった場合にのみ抜糸とした.結果:術後C3年までの眼鏡矯正視力(logMAR換算視力),球面度数,乱視度数,等価球面度数,角膜形状,角膜内皮細胞密度について,両群間に差はなかった.結論:円錐角膜患者に対する全層角膜移植群および深層層状角膜移植群のC3年までの術後経過は両群に差はなかった.CPurpose:ToCcompareCtheCpostoperativeCcourseCbetweenpenetratingCkeratoplasty(PK)andCdeepCanteriorClamellarkeratoplasty(DALK)forCkeratoconus.CMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC20CkeratoconusCpatientswhounderwentPK(PKGroup,11eyesof11patients)orDALK(DALKGroup,10eyesof9patients)atKeioCUniversityCHospital,CTokyo,CJapanCfromCMarchC2008CtoCJanuaryC2017,CandCwhoCcouldCbeCfollowedCforCmoreCthanC2-yearsCpostoperative.CInCallCpatients,CpostoperativeCbestCspectacle-correctedCvisualacuity(BSCVA;Log-MAR),CsphericalCpower,astigmatism,CsphericalCequivalent(SE),CcornealCtopography,CandCcornealCendothelialCcelldensity(ECD)wereretrospectivelyexamined,andthencomparedbetweenthetwogroups.Results:BetweenthePKGroupandDALKGroup,nodi.erencesinBSCVA,sphericalpower,astigmatism,SE,cornealtopography,andcornealCECDCwereCobservedCoverCtheC3-year-postoperativeCperiod.CConclusions:TheCpostoperativeCcourseCofCPKCandDALKforkeratoconuswasfoundtobesimilarforupto3-yearspostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(5):584.587,C2021〕Keywords:円錐角膜,全層角膜移植,深層層状角膜移植.keratoconus,penetratingkeratoplasty,deepanteriorlamellarkeratoplasty.Cはじめに円錐角膜に対する移植術として,全層角膜移植(penetrat-ingkeratoplasty:PK)または深層層状角膜移植(deepante-riorClamellarkeratoplasty:DALK)が選択される.DALKはCPKのようなCopenskysurgeryはなく,内皮型拒絶反応のリスクがないことで1),術後の長期免疫抑制が不要となる.近年,円錐角膜に対する角膜移植は障害された組織のみを置き換える選択的層状角膜移植が主流となってきている2).日本国内における円錐角膜に対する術式の違いによる経過報告はいまだ少なく,今回筆者らはCPKとCDALKのC2年の術後経過を比較検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2008年C3月.2017年C1月に慶應義塾大学病院でPKあるいはCDALKを受けた円錐角膜患者のうち,少なくとも術後C2年の経過観察ができた症例とし,PK群はC11名〔別刷請求先〕關口真理奈:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MarinaSekiguchi,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35ShinanomachiShinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC584(104)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(104)C5840910-1810/21/\100/頁/JCOPY11眼(男性C10名,女性C1名,平均年齢C41.9C±17.2歳),DALK群は9名10眼(男性4名,女性5名,平均年齢43.5C±19.2歳)であった.平均年齢については,2群間に有意差はなかった.急性水腫の既往がある症例C2眼と内皮細胞密度が測定できない瘢痕性混濁がある症例C3眼,複数回の円錐角膜手術(有水晶体眼内レンズ挿入,角膜内リング挿入,角膜クロスリンキング)の既往がある症例C1眼はCPKを第一選択とし,DALKを予定していたが術中CPKへ変更した症例C4眼はCPK群とした.また,術後C2年以内に角膜感染をきたし,その後視力が改善しなかった症例,エキシマレーザーによる屈折矯正手術や翼状片に対する手術を施行した症例は対象から除外した.手術はC13眼(PK群C7眼,DALK群C6眼)では,ドナー角膜径C7.75Cmm,レシピエント角膜径C7.5Cmmとした.PK群のC1眼は高度円錐角膜であったためドナー角膜径C8.25Cmm,レシピエント角膜径C8.0Cmmとし,また眼軸長C25Cmm以上の症例C7眼(PK群C3眼,DALK群C4眼)ではドナー角膜径,レシピエント角膜径ともにC7.5Cmmとした.ドナー角膜径はPK群C7.70C±0.14Cmm,DALK群C7.65C±0.12Cmm(p=0.38),またレシピエント角膜径はCPK群C7.57C±0.22Cmm,DALK群7.5Cmm(p=0.35)であり,2群間に有意差はなかった.DALK群のCDescemet膜はすべて粘弾性物質を注入し.離した3).縫合法は両群ともにC10C.0ナイロン糸を用いたC24針連続縫合とし,縫合糸は緩み,断裂,感染があった場合のみ抜糸とした.術後,抗菌薬点眼はC1日C5回より開始し,上皮化が得られればC3カ月程度で減量しC6カ月程度で終了とした.ステロイド点眼はベタメタゾンC1日C5回より開始し,術後C3カ月程度より徐々に漸減,またはフルメトロンへ変更とした.また,活動性のアトピー性皮膚炎に合併した症例C2眼では強角膜炎の予防目的に術後ステロイド全身投与を行った.各群の術後半年,1年,2年,3年における術後経過をCt検定により比較検討した.評価項目は,眼鏡矯正視力(log-MAR換算視力),球面度数,乱視度数,等価球面度数,角膜形状,角膜内皮細胞密度とした.屈折度数はすべて自覚評価とした.角膜形状解析にはCTMS-2NまたはC5(トーメーコーポレーション)を用いCaveragekeratometry(AveK),CsurfaceCregularityindex(SRI),surfaceCasymmetryCindex(SAI)について評価した.合併症についても,その種類と頻度について比較検討した.なお本研究は慶應義塾大学病院倫理審査委員会の承認を得たうえで調査を開始した(承認番号:20190130).CII結果1.眼鏡矯正視力(logMAR換算視力)術前のClogMAR換算視力はCPK群C1.46C±1.10,DALK群0.99±0.56(p=0.25)でC2群間に有意差はなかった.術後C2年のClogMAR換算視力はCPK群C0.009C±0.15,DALK群C0.13C±0.29(p=0.25),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C0.003C±0.080,DALK群C0.15C±0.32(p=0.19)であり両群間に有意差はなかった(表1).術後C2年においてハードコンタクトレンズを装用した症例はCPK群でC5眼,DALK群でC1眼であり,いずれもClogMAR換算視力はC.0.080±0であった.C2.球面度数,乱視度数,等価球面度数術前の球面度数はCPK群C.7.71±5.95D,DALK群C.11.93C±7.70D(p=0.61),術後C2年の球面度数はCPK群C0.25C±5.13D,DALK群C1.42C±4.31D(p=0.61),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C0.58C±5.22D,DALK群C0.36±4.56D(p=0.93)であり両群間に有意差はなかった.術前の乱視度数は測定が可能であった症例においてCPK群C.1.00±2.66D,DALK群C.2.04±2.11D(p=0.50),術後C2年の乱視度数はCPK群C.4.32±2.62D,DALK群C.3.94±1.61D(p=0.71),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはPK群C.4.92±3.49D,DALK群C.4.08±1.78D(p=0.56)であり両群間に有意差はなかった(表2).術前の等価球面度数は測定が可能であった症例においてPK群C.8.21±6.38D,DALK群C.12.95±7.28D(p=0.27),術後C2年の等価球面度数はCPK群C.1.91±4.79D,DALK群C.0.56±4.48(p=0.54),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C.1.88±4.68D,DALK群C.1.68±4.88D(p=0.94)であり両群間に有意差はなかった(表2).C3.角.膜.形.状角膜形状解析では,術前のCSRI,SAI,AveKにおいて両群間に有意差はなく,術後C2年のCAveKはCPK群C43.68C±5.14D,DALK群C44.05C±5.16D(p=0.88),SRIはPK群1.49C±0.56D,DALK群C1.56C±0.86D(p=0.84),SAIはCPK群C1.84±1.11D,DALK群C1.60C±1.03D(p=0.64)であり両群間に有意差はなかった.術後C3年の経過を追跡できた症例においてもC2群間に有意差はなかった(表3).C4.角膜内皮細胞密度術前の角膜内皮細胞密度はCPK群C2,750C±375Ccell/mm2,DALK群C2,527C±228Ccell/mm2(p=0.16),術後C2年の角膜内皮細胞密度はCPK群C1,678C±736Ccell/mm2,DALK群C2,100C±605Ccell/mm2(p=0.20),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C1,487C±658Ccell/mm2,DALK群C1,868C±554Ccell/mm2(p=0.29)であり両群間に有意差はなかった(図1).C5.合併症術後C3年以内の合併症はCPK群にて高眼圧症C2眼,真菌性角膜潰瘍C1眼,DALK群では高眼圧症C3眼(そのうち手術加療が必要となった症例はC1眼)を認めた.それ以降の合併症(105)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C585表1眼鏡矯正視力(logMAR換算視力)の比較表2等価球面度数,乱視度数の比較PK群DALK群p値PK群DALK群p値視力(logMAR)等価球面度数術前C1.46±1.10(11)C0.99±0.56(10)C0.25術前C.8.21±6.38D(6)C.12.95±7.28D(7)C0.27術後2年C0.009±0.15(11)C0.13±0.29(10)C0.25術後2年C.1.91±4.79D(11)C.0.56±4.45D(9)C0.54術後3年C0.003±0.08(10)C0.15±0.32(10)C0.19術後3年C.1.88±4.68D(9)C.1.68±4.88D(9)C0.94()内は眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角乱視度数膜移植.2群間に有意差はなかった(t-test).術前C.1.00±2.66D(6)C.2.04±2.11D(7)C0.50術後2年C.4.32±2.62D(11)C.3.94±1.61D(9)C0.71術後3年C.4.92±3.49D(9)C.4.08±1.78D(9)C0.56表3角膜形状解析の比較()内は眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角PK群DALK群p値膜移植.2群間に有意差はなかった(t-test).CAveK術前C46.03±6.75(11)C46.14±4.36(9)C0.97術後2年C43.68±5.14(11)C44.05±5.16(9)C0.88C3,500術後3年C43.04±5.35(8)C44.55±6.41(8)C0.64Cn=8PK群SRIC3,000術前C2.73±0.76(11)C2.88±0.60(9)C0.65術後2年C1.49±0.56(11)C1.56±0.86(9)C0.84C術後3年C1.33±0.50(8)C1.70±0.83(8)C0.34CSAIC術前C4.15±1.84(C11)C3.91±1.01(C9)C0.73術後2年C1.84±1.11(C11)C1.60±1.03(C9)C0.64術後3年C1.58±0.79(C8)C1.62±0.84(C8)C0.94()内は眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植.AveK:averagekeratometry,SRI:surfaceregular-角膜内皮細胞密度(cell/mm2)2,5002,0001,5001,000n=10ityindex,SAI:surfaceCasymmetryindex.2群間に有意差はなかった(t-test).表4合併症PK群DALK群高眼圧症C2C3真菌性角膜潰瘍C1C0縫合糸感染0(1)0(1)ヘルペス角膜炎C00(2)拒絶反応0(1)C0()内は術後C3年以降の眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植.としては,PK群にて縫合糸感染C1眼,拒絶反応C1眼,DALK群ではヘルペス角膜炎C2眼,縫合糸感染C1眼を認めた(表4).CIII考按今回,円錐角膜に対するCPKとCDALKの術後成績を比較した.海外の報告では,円錐角膜に対するCPKとCDALKの術後半年からC5年にかけての追跡で,術後視力の中央値はPK群のほうが良好であったが統計学的には有意な差がなかった4.6).国内の植松らの報告では,術後C12カ月では術後500術前術後半年1年2年3年図1角膜内皮細胞密度の経時的変化PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植.経時的に角膜内皮細胞密度の減少が認められたが,2群間に有意差はなかった(t-test).視力はCPK群で有意に良好であったが,術後C24カ月程度では両群で有意差を認めなかった7).本検討では,術後半年,1年,2年における経過を比較できたCPK群C11眼,DALK群C10眼で,術後視力に有意差はなかった.また,術後C3年まで経過を追えたCPK群C10眼,DALK群C10眼で比較しても,術後視力に有意差はなかった.両群の術後視力に有意差はないもののCPK群において視力が良好であったのは,DALK群においてCDescemet膜露出が不十分な症例が含まれていたことなどが要因として考えられる8).術後等価球面度数は,両群間で差がないという報告と4,7,9),DALK群のほうがより近視が強いという報告がある5,6).本検討では,術後半年,1年,2年における経過を比較できたPK群C11眼,DALK群C9眼で,術後等価球面度数に有意差はなかった.また,術後C3年まで経過を追えたCPK群C9眼,DALK群C9眼で比較しても,等価球面度数に有意差はなか(106)った.角膜形状解析に関しては,SRIのみCPK群で有意に高値であったとの報告がある7).本検討ではCAveK,SRI,SAIいずれの項目においても両群に有意差はなかった.術後拒絶反応に関しては,海外のCWatsonらの報告では,PKではC28%の症例において術後に拒絶反応を認め,DALKではC8%の症例で拒絶反応を認めたが,実質型拒絶反応または上皮型拒絶反応のみで内皮型拒絶反応は認められなかった5).国内では,PKにおいて,植松らの報告ではC6.3%,安達らの報告ではC4.8%の症例において術後に拒絶反応を認めたが,DALKでは軽度の拒絶反応のみであった7,9,10).本検討では,PK群のC11眼中C1眼(9.1%)に内皮型拒絶反応を認め,DALK群では認めなかった.これらの結果からCDALKは術後の内皮型拒絶反応のリスクを減らすと考えられた.PKはCDALKと比較して,術後角膜内皮細胞密度が有意に低く,最終角膜内皮細胞減少率が有意に高いとの報告ある7,9).しかし,本検討では術後の角膜内皮細胞密度は両群間に有意差はなかった.円錐角膜は若年者に多く,残存した角膜周辺の角膜内皮機能が保たれている可能性が示唆された.DALKによる術後経過はCPKと同等であり,内皮型拒絶反応のリスクなしに有効な治療効果が期待できる.今後症例数と経過観察期間を増やし,さらなる術後長期予後について検討していく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ShimazakiCJ,CShimmuraCS,CIshiokaCMCetal:RandomizedCclinicalCtrialCofCdeepClamellarCkeratoplastyCvsCpenetratingCkeratoplasty.AmJOphthalmolC134:159-165,C20022)島﨑潤:これで完璧角膜移植.p10-13,南山堂,20093)ShimmuraCS,CShimazakiCJ,COmotoCMCetal:DeepClamellarCkeratoplastyCinCkeratoconusCpatientsCusingCviscoadptiveCviscoelastics.CorneaC24:178-181,C20054)CohenAW,GoinsKM,SutphinJEetal:Penetratingker-atoplastyCversusCdeepCanteriorClamellarCkeratoplastyCforCtheCtreatmentCofCkeratoconus.CIntCOphthalmolC30:675-681,C20105)WatsonSL,RamsayA,DartJKetal:ComparisonofdeeplamellarCkeratoplastyCandCpenetratingCkeratoplastyCinCpatientsCwithCkeratoconus.COphthalmologyC111:1676-1682,C20046)JonesCMN,CArmitageCWJ,CAyli.eCWCetal:Penetratinganddeepanteriorlamellarkeratoplastyforkeratoconus:CaCcomparisonCofCgraftCoutcomesCinCtheCUnitedCKingdom.CInvestOphthalmolVisSciC50:5625-5629,C20097)植松恵,横倉俊二,大家義則ほか:円錐角膜に対する全層角膜移植と深層表層角膜移植の術後経過の比較.臨眼C65:1413-1417,C20118)NavidA,ScottH,JamesCMetal:QualityofvisionandgraftCthicknessCinCdeepCanteriorClamellarCandCpenetratingCcornealallografts.AmJOphthalmolC143:228-235,C20079)安達さやか,市橋慶之,川北哲也ほか:深層層状角膜移植術と全層角膜移植術の長期成績比較.臨眼67:85-89,C201310)谷本誠治,長谷部治之,増本真紀子ほか:円錐角膜に対する深層角膜移植術の成績.臨眼54:789-793,C2000***(107)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C587