《原著》あたらしい眼科40(1):106.110,2023c低加入度数分節型眼内レンズ挿入後の3年間の成績松本栞音蕪龍大岩崎留己福田莉香子古島京佳竹下哲二上天草市立上天草総合病院眼科CThree-YearFollow-UpofClinicalEvaluationofaBiaspheric,Segmented,RotationallyAsymmetricIntraocularLensImplantationAfterCataractSurgeryKanonMatsumoto,RyotaKabura,RumiIwasaki,RikakoFukuda,KyokaFurushimaandTetsujiTakeshitaCDepartmentofOphthalmoiogy,KamiamakusaGeneralHospitalC目的:白内障手術にて低加入度数分節型眼内レンズ(IOL)を挿入した患者のC3年間の長期成績について調べた.対象および方法:上天草総合病院で白内障手術を受け,レンティスコンフォート(以下,LC)を両眼に挿入したC19例(38眼)の患者を対象に,3年間の術後視機能および満足度を評価した.術後C1週間,1カ月,3カ月,1年,2年,3年に,遠見視力(裸眼・矯正),遠見矯正下C70Ccm・50Ccm視力,眼鏡処方率,Nd:YAGレーザーによる後.切開術施行率(以下,YAG施行率)を調べた.結果:術後C3年時の遠見視力はClogMAR±標準偏差値(小数換算値)で裸眼・矯正視力の順に.0.03±0.13(1.07),.0.06±0.05(1.15),遠見矯正下C70cm視力はC0.05±0.15(0.89),遠見矯正下50Ccm視力はC0.16±0.22(0.69)で,術後C1週間からC3年時まで有意な経時的変化はなかった.眼鏡処方率はC15.8%,YAG施行率はC10.5%だった.結論:LC挿入後C3年間の成績は,遠見,70Ccm視力ともに良好で安定し,眼鏡処方率が低く,高い患者満足度が維持されていた.CPurpose:Toinvestigatethe3-year-postoperativeoutcomesinpatientswhounderwentLENTISComfort(LC)Cintraocularlens(IOL)implantationduringcataractsurgery.SubjectsandMethods:In19patients(38eyes)whounderwentCcataractCsurgeryCandCLCCimplantationCinCbothCeyesCatCKamiamakusaCGeneralCHospital,CvisualCfunctionCandCsatisfactionCwasCevaluatedCforC3-yearsCpostoperative.CCorrectedCdistanceCvisualacuity(VA),CcorrectedC70CcmCVACatCfromC1CweekCtoC3CyearsCpostCsurgery,CandCrateCofNd:YAGClasercapsulotomy(YAG)wasCexamined.CResults:AtC3-yearsCpostoperative,CtheClogMARC±standarddeviation(decimalequivalent)ofCdistanceCVACwasC.0.06±0.05(1.15)forCcorrectedCVA.CTheCdistance-correctedC70cmCVACwasC0.05C±0.15(0.89),CshowingCnoCsigni.cantchangeovertimefrom1-weekto3-yearspostoperative.TherateofYAGimplementationwas10.5%.Conclusions:AtC3CyearsCpostCLCCimplantation,CbothCdistanceCvisionCandC70CcmCVACwereCgoodCandCstableCwithCaChighpercentageofpatientsatisfaction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(1):106.110,C2023〕Keywords:レンティスコンフォート,3年,長期成績,アンケート,満足度.LentisComfort,three-year,long-termoutcomes,questionnaire,satisfaction.Cはじめに近年,白内障手術は乱視矯正用(トーリック)眼内レンズ(intraocularlens:IOL)や多焦点CIOLといった付加価値のあるCIOLの登場によって,従来の混濁した水晶体を除去するだけの手術ではなく,屈折矯正としての意味合いが強くなった1).良好な裸眼視力を求める患者のなかには,矯正視力がよくても手術結果に満足しない人が存在する.良好な裸眼遠見視力,中間から近見視の際の眼鏡からの解放は,患者満足度の向上につながる.2019年発売の低加入度数分節型屈折型CIOLであるレンティスコンフォート(LS-313MF15,参天製薬:以下,LC)は,+1.50D加入の分節部分をもつプレートハプティクス型CIOLで,厚生労働省が保険診療適用としているCIOLにはCLCに類似した光学特性を有するものは現在のところな〔別刷請求先〕松本栞音:〒866-0293熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸C1419-19上天草市立上天草総合病院眼科Reprintrequests:KanonMatsumoto,DepartmentofOphthaimoigy,KamiamakusaGeneralHospital,1419-19RyugatakemachiTakado,Kamiamakusa-shi,Kumamoto866-0293,JAPANC106(106)い2).LCはその特異的な形状と性質から術後視機能が注目されているが,術後C1年を超えた長期成績の報告はない.LC挿入からC3年経過した成績および術後アンケートによる満足度を後ろ向きに検討した.CI対象および方法対象はC2018年C12月.2019年C4月に,上天草総合病院にて白内障手術で非トーリックのCLCを挿入した患者のうち,術前検査にて視力に影響を及ぼす疾患の既往がなく,発売当初トーリックモデルがなかったため,角膜乱視がおよそ0.50D以下で他社CwebカリキュレーターではトーリックIOLの適応とならない症例を対象に,LCを挿入しC3年の経過を追うことができた症例とした.また,術後C1週間の矯正遠見視力がC0.7以上で,LCを両眼挿入した患者を対象とし,僚眼未手術および片眼挿入の患者は除外した.本研究は,上天草総合病院の倫理審査委員会の承認を得たのち,ヘルシンキ宣言に準拠して実施した.IOL度数は角膜曲率波面収差解析装置COPDCScanIII(ニデック)および眼軸長はCUS-4000エコースキャン(ニデック)で測定しCSRK/T式を用いて球面度数を決定した(A定数:118.0).OPDCScanIIIの測定設定は0.01Dステップだった.目標屈折値は全例C0Dとした.LCは健康保険が適用されるCIOLで,発売当初は単焦点レンズに分類されており,低加入度数で近方視力は望めず,中間視力もどの程度見えるか不明であったため患者に過大な期待をもたせないよう,あえてCIOL特性についての事前説明はしなかった.白内障手術はすべて同一の術者が行った.前.切開は連続円形切.(continuousCcurvilinearcapsulorhexis:CCC)でIOL前面をCcompletecoverできる大きさとし,2.2Cmm幅の上方強角膜切開から水晶体乳化吸引術を行った.IOL挿入にはエタニティCLCJインジェクターと専用カートリッジ(いずれも参天製薬)を用いた.挿入時の粘弾性物質にはヒアルロン酸CNa(千寿製薬)を用い,IOL挿入後にCI/AチップでIOLをタッピングする方法で十分に除去した.切開創は無縫合とした.検討項目は視機能評価として,術後C1週間,1カ月,3カ月,1年,2年,3年の遠見視力(裸眼・矯正),遠見矯正下のC70CcmおよびC50Ccm視力,自覚等価球面度数(sphericalequivalent:以下,自覚CSE)および他覚屈折等価球面度数算して行った.自覚CSEは遠見矯正視力測定時の屈折値から,他覚CSEはオートレフラクトメータ(ニデック:TONOREFII)の値から求めた.アンケートは術後C3カ月およびC3年経過時に行い,内容は術後満足度および日常生活満足度とした.術後満足度はCNEIVFQ-25(日本語版Cver1.4)を使用しC0.10点のスコアとした.日常生活満足度はCCatquest-9SFの英語版を翻訳した項目を使用し,「新聞・読書」「値札・ラベル」「顔・表情」「テレビの字幕」のC4項目について各C1.4点のスコアとした.両スコアとも高得点のほうがより満足度が高くなるよう設定した.連続変数に対してCShapiro-Wilk検定にてデータの正規性を評価し,視力および屈折の経時的な変化に対してはCFried-man検定を行い,有意な変動がある場合にはCHolmの多重比較を行った.自覚CSEと他覚CSEの差についてはCMann-WhitneyU検定を用いた.アンケート結果の比較では,Wilcoxonの符号付順位検定を行った.統計解析ソフトはIBMSPSSStatisticsVer25.0forWindows(日本IBM)を使用し,統計学的有意水準をC5%未満(両側検定)とした.結果は,平均±標準偏差で標記する.CII結果LCはC65眼に挿入されていたが,選択基準に合わない症例(僚眼未手術C4眼,片眼CLC挿入C1眼,術後C3年まで経過観察できなかった症例など)を除き,19例(男性C6例,女性13例)38眼を解析対象とした.手術時の平均年齢はC70.7C±4.7歳だった.対象者の術前平均眼軸長はC23.54C±1.40Cmm,平均角膜乱視度数はC0.55C±0.28D,挿入されたCIOLの平均度数はC19.59C±3.93Dだった.術後C3年時の遠見視力値は,裸眼C.0.03±0.13,矯正C.0.06±0.05で,ともに平均小数視力がC1.07以上と良好となり,どちらも術後C1週間からC3年にわたり有意な差はなかった(裸眼:p=0.41,矯正:p=0.13)(図1a).同様に,遠見矯正下C70cm視力は0.05C±0.15(p=0.16),遠見矯正下50Ccm視力はC0.16C±0.22(p=0.052)で経時的変化に有意な差0.38D)C±0.22.週間(C1).自覚SEは,術後C1b図はなかった(と比較しC3年(-.0.07C±0.35D)で,有意に遠視化していた(p<0.01).他覚CSEも遠視化しており術後C1週間(C.1.06±0.41D)とC3カ月(C.0.73±0.46D)(p<0.05),1年(C.0.61±(以下,他覚CSE),術後C3年間の眼鏡装用率,Nd:YAGレ4.0.,3年.05)C0<p)(D8C0±0.59.,2年(.01)C0<p)(D04Cーザー後.切開術の施行率(以下,YAG施行率)とした.後.切開術はC1.0以上出ていた視力が後発白内障によってC0.9以下に低下したときや,1.0以上あっても患者が霧視を訴えそれが後発白内障によるものと判断した場合に行った.視力はC5Cm小数視力表にて最高C1.2まで測定し,統計解析の際にはClogarithmicminimumangleofresolution(logMAR)に換(.0.58D±0.58D)(p<0.01)で有意差を認め,また術後C1カ月(C.0.85±0.46D)とC1年でも有意差を認めた.また,自覚CSEと他覚CSEの差については術後C1週間からC3年まですべて有意差を認めた(すべてp<0.01)(図2).眼鏡を使用していたのはC3例で,使用目的は遠方視用C0例,近方視用C2例,遠近両用C1例で,装用率はC15.8%,近a(logMAR)-0.20p=0.13-0.10-0.07-0.07-0.08-0.06-0.07-0.060.00-0.01-0.010.010.00-0.030.000.020.10矯正0.20裸眼p=0.410.30BasedonFriedmantest0.390.40術前1週間1カ月3カ月1年2年3年b(logMAR)p=0.16BasedonFriedmantest-0.20-0.100.00-0.020.050.100.130.160.200.300.401週間1カ月3カ月1年2年3年図1術後視力の経時変化a:術前から術後C3年までの遠見裸眼および矯正視力の経時変化を示す.術後C1週間からC3年までの経時変化は統計学的な有意差を認めず視力が維持された.Cb:は遠方矯正下のC70CcmおよびC50Ccmの経時変化を示す.遠見視力と同様,術後C1週間からC3年までの経時変化は統計学的な有意差を認めず視力が維持された.方視用の平均加入度数はC2.00C±0.43Dだった.YAG施行率はC10.5%(4眼)で,施行時期は術後C22.37カ月(平均C31カ月)だった.アンケートによる術後満足度のスコアは術後C3カ月ではC8.13±2.28,術後C3年ではC8.44C±1.21で,有意な変化はなかった(p=0.76).日常生活満足度では術後C3カ月・3年の順に,「新聞・読書」はC3.2C±0.9,3.3C±1.2(p=0.99),「値札・ラベル」はC3.8C±0.8,3.8C±1.0(p=0.71),「顔・表情」はC3.6C±0.9,3.8C±1.0(p=0.94),「テレビの字幕」はC3.5C±0.8,3.6C±1.1(p=0.92)でいずれも有意差はなかった(図3).CIII考按LC挿入後C3年間の成績について調査した.遠見視力は裸眼も矯正も術後C1週間で良好だったがそのままC3年間維持されていた.術後C1年の成績の報告2)と比較しても差異はなかった.中間視力に該当するC70Ccm視力については術後C1週間でClogMAR値C.0.02(小数視力C1.05)と日常生活に十分と思われる視力が得られており,3年間変化はなかった.50Ccm視力は術後C1週間でClogMAR値C0.13(小数視力C0.74)ではあったがC3年間で低下することはなく,眼鏡装用率は15.8%で眼鏡は不要とする患者のほうが多かった.術後C1週間では自覚CSEC.0.22D,他覚CSEC.1.06Dと乖離しており,これは筆者らの過去の報告同様である3).また,高須らは術後1カ月での乖離量がC0.75Dだと報告4)しているが同等の乖離量だといえる.他覚CSEは術後C3年の間に徐々に遠視化したが,術後C3年目でも自覚CSEと他覚CSEの間には有意差があった.FindlらはCIOLデザインの違いによって術後C1カ月までは前房深度変化が顕著であり,術後C1年まで図2術後屈折値の変化自覚等価球面および他覚等価球面の経時変化と両者の差を示す.両者ともFriedman検定にて有意差を認め,Holm法による多重比較を行ったところ,自覚等価球面は術後C1週間とC1年の屈折値に有意差を認めた.また,他覚等価球面は術後C1週とC3カ月以降の各値,術後C1カ月とC1年の屈折値に有意差を認めた.他覚等価球面の術後C1年以降は値が維持された.自覚等価球面と他覚等価球面の値の差は術後C1週間からC3年までのすべてで有意差を認めた.変化することを報告した5).また,杉山らは術後C4日を起点として術後C1年までは前房深度が有意に深くなり,他覚屈折値もC3カ月までは徐々に遠視化したとしている6).LCは水晶体.の変化によって後方に移動するため,遠視化するものと思われる.術後C1カ月と術後C1年の間でも他覚CSEに有意差があったことから,LCも術後C1年は他覚CSEの遠視化が続くといえる.そのC1年の間に約C0.50Dの変化があるものの,遠見.70,50Ccm視力は屈折の変化に伴うことなく維持しており,LCのCIOL特性と考えられる.後発白内障に対し術後C3年までにC10.5%でCNd:YAGレーザー後.切開術が施行されていた.LCと同形状,同素材で加入度数のみが異なるCLS-313MF20およびCMF20Tの報告では発生率がC10.2%(93/913眼)とされており,本研究でも同等の結果だった7).疎水性アクリル素材の多焦点CIOLについてC3年間追跡した報告ではCYAG施行率がC2.4.5.1%とされている8).LCにおける後発白内障の発生頻度は高いと思われる.LCは親水性アクリル素材であるが,それが後発白内障のリスクに影響するのかどうか,さらに長期の経過観察が必要である.筆者らは前回,満足度に関するアンケート調査の結果,LCを挿入した患者のなかには手術直後は視力が良好にもかかわらず満足度が低く,満足度が上昇するのに時間がかかる患者がいると報告した9).今回の調査で,術後C3カ月ではC10点満点中C8.13点,術後C3年においてもC8.44点と,術後C3カ月からC3年では高い満足度が維持されることがわかった.今21BasedonWilcoxonsignedranktestp=0.71p=0.94p=0.92図3日常生活満足度の比較日常生活満足度の術後C3カ月とC3年のアンケートスコアを示す.すべての項目で経時的変化は認めずスコアは維持された.回は術直後のアンケートは行っていないが,一定期間日常生活を送るうちに順応が生じ,LCの明視域の広さを理解できるようになったものと推察する.LCは挿入後C3年間,良好で安定した遠見およびC70Ccm視力が得られ,眼鏡処方率は低く,患者満足度が高かった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)神谷和孝:眼内レンズ度数計算の現状と今後.視覚の科学C42:39-43,C20212)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRepC9:13117,C20193)橋本真佑,蕪龍大,川下晶ほか:低加入度数分節型眼内レンズ挿入眼の測定機器による他覚屈折値の相違.眼科C62:69-72,C20204)高須逸平,高須貴美,貝原懸斗ほか:レンティスCRコンフォート挿入眼のオートレフラクトメータ値と自覚的屈折値との乖離.臨眼78:965-969,C20205)FindlO,HirnschallN,MaurinoVetal:Capsularbagper-formanceCofCaChydrophobicCacrylicC1-pieceCintraocularClens.JCataractRefractSurgC41:90-97,C20156)杉山沙織,後藤聡,小川佳子ほか:低加入度数分節型眼内レンズの術後前房深度経時的変化.日眼会誌C124:395-401,C20207)KimCWJ,CEomCY,CYoonCGECetal:ComparisonCofNd:CYAGClaserCcapsulotomyCratesCbetweenCrefractiveCseg-mentedCmultifocalCandCmultifocalCtoricCintraocularClenses.CAmJOphthalmolC222:359-367,C20218)HawardCT,CEnderCF,CSamavedamCSCetal:E.ectCofCAcrySofCversusCotherCintraocularClensCpropertiesConCtheCriskCofNd:YAGCcapsulotomyCafterCcataractsurgery:ACsystematicCliteratureCreviewCandCnetworkCmeta-analysis.CPLoSOneC14:e0220498,C20199)蕪龍大,川下晶,岩崎留己ほか:レンティスコンフォートR挿入後における満足度に影響する因子の検討.IOLC&RSC35:623-631,C2021***