《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(7):1027.1031,2015c赤外線画像により観血的濾過胞再建術を観察した1例野村英一*1安村玲子*1伊藤典彦*2野村直子*1長島崇充*1石戸岳仁*1武田亜紀子*1国分沙帆*3遠藤要子*4杉田美由紀*5水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2鳥取大学農学部動物医療センター*3横浜労災病院眼科*4長後えんどう眼科クリニック*5蒔田眼科クリニックInfraredRayImagingofaFiltrationBlebRevisionEiichiNomura1),ReikoYasumura1),NorihikoItoh2),NaokoNomura1),TakamitsuNagashima1),TakehitoIshido1),AkikoTakeda1),SahoKokubu3),YokoEndo4),MiyukiSugita5)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)3)YokohamaRosaiHospital,4)ChogoEndoEyeClinic,5)MaitaEyeClinicTottoriUniversityVeterinaryMedicalCenter,緒言:観血的濾過胞再建術で手術操作に有用な,結膜,Tenon.,強膜弁下の手術器具の視認性が赤外線(IR)画像により改善するか観察した.症例:86歳,男性.3年前に開放隅角緑内障に対し左眼の線維柱帯切除術を施行された.3カ月前から左眼漏出濾過胞となった.初診時VS=(0.4),左眼眼圧=3mmHg.観血的濾過胞再建術を施行時,手術顕微鏡に可視光のカラー画像用chargecoupleddevice(CCD)と,IR透過フィルター付のIR画像用CCDを設置した.結膜下のBlebknifeおよび剪刀,Tenon.の増生組織下の剪刀,強膜弁下の27G針およびBlebknifeの視認性を,1.全く見えない,2.先の形状まではわからない,3.先の形状まではっきりわかる,の3群に分け,可視光画像とIR画像で比較した.Tenon.の増生組織下の剪刀でIR画像は2,可視光画像は1,その他部位および器具でIR画像は3,可視光画像は2で,IR画像の視認性が良好であった.結論:IR画像は器具の視認性を改善する可能性がある.Purpose:Thevisualizationofsurgicalinstrumentsundertheconjunctiva,Tenon’scapsule,andscleralflapisdifficultwhenperformingsurgicalrevisionofafiltrationbleb.Thepurposeofthisstudywastoinvestigateinstrumentvisualizationbyuseofinfraredrays(IR)duringsurgery.Case:Thisstudyinvolvedan86-year-oldmalewhohadundergoneatrabeculectomy3yearspreviouslyduetoprimaryopen-angleglaucomaandwhowasdiagnosedwithaleakingblebinhislefteye3monthspriortopresentation.Visualizationofthesurgicalinstrumentsviacharge-coupleddevice(CCD)IRimagingwascomparedwiththatviaCCDvisiblerayimagingonasurgicalmicroscope.Thevisibilitywasclassifiedinto3groups:1)unabletoseeanything,2)unabletoseethepointofsurgicalinstrument,and3)abletoclearlyseethepointofsurgicalinstrument.ThevisibilityofallinstrumentsviaIRwasgrade3,whilethatviavisiblerayswasgrade2,exceptforthevisibilityofscissorsundertheTenon’scapsule,whichwasgrade2andgrade1,respectively.Conclusions:IRimagingholdspotentialasamethodforimprovingthevisualizationofsurgicalinstrumentsduringfiltrationblebrevision.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1027.1031,2015〕Keywords:赤外線,緑内障手術,漏出濾過胞,濾過胞再建術,画像化.infraredrays,glaucomasurgery,leakingbleb,filtrationblebrevision,imaging.はじめに波長がおよそ0.75.1,000μmの電磁波は赤外線(IR)とよばれる.そのうち,近赤外線はおよそ0.75.2.5μmの電磁波である.赤色の可視光線に近い特性のため,人間に感知できない光として,IRカメラや情報機器などに応用されている1).医療領域では,その組織深達度を利用したIRカメラシステムによる乳癌のセンチネルリンパ節生検への応用が知られる2.4).眼科領域ではインドシアニングリーンを用いた蛍光眼底造影検査が加齢黄斑変性症などの脈絡膜疾患に広く利用されている5.8).緑内障領域でIRを利用した研究としては,Kawasakiらのサーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦三丁目9番地横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(105)1027報告がある9).また,前眼部opticalcoherencetomography(OCT)はIRを光源とするが,これにより濾過胞形状を調べ,濾過機能の評価や10),濾過胞再建術に役立てた報告がある11).筆者らは,IR画像を用いることで,IRの組織深達性により,術前に以前の緑内障手術の強膜弁の位置を確認できることを報告した12).また,Ex-PRESSTM併用濾過手術の術後に,組織深達度の高いIR画像を用いて強膜弁下のExPRESSTMのプレートの部分を観察できることを報告した13).観血的濾過胞再建術の術中に,結膜下,Tenon.下,強膜弁下の手術器具の視認性が良いことは手術操作に有用である.今回,組織深達性があるIR画像で観血的濾過胞再建術の術中に,各種器具の視認性が改善されるか観察したので報告する.I症例患者:86歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:30年前,両眼の開放隅角緑内障と診断され,他院で右眼の線維柱帯切除術,その後,白内障手術を施行された.3年前,近医で左眼2時方向に円蓋部基底の結膜切開にて,マイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行された.2年前,左眼水晶体再建術(眼内レンズ挿入)を施行された.3カ月前より左眼濾過胞の輪部側の血管の乏しい菲薄化した部分から漏出があり,2013年1月当科初診となった.家族歴および既往歴:特記すべき事項はなかった.初診時所見:VD=0.04×IOL(0.06×IOL×sph.3.00D(cyl.0.75DAx130°),VS=0.2×IOL(0.4×IOL×sph.1.00D(cyl.1.75DAx170°),右眼眼圧=12mmHg,左眼ABC図1手術顕微鏡へのカラー可視光用CCDおよび赤外線用CCDの取り付け位置A:カラー可視光用CCD,B:赤外線用CCD,C:IR透過フィルター内蔵位置.眼圧=3mmHg.C/D比(陥凹乳頭比)は右眼0.95,左眼0.8であった.湖崎分類で右眼V期,左眼IIIb期であった.手術希望なく自己血清点眼にて経過観察された.経過:2014年4月より漏出量が増加し,左眼眼圧1mmHgと低下し,Descemet膜皺襞が生じたため,左眼の濾過胞再建術を施行された.濾過胞を円蓋部基底で再度切開し,結膜下を.離,菲薄化した強膜弁も.離後,縫合した.強膜弁の菲薄化部はTenon.で覆った.結膜の裏側の増生した組織は結膜より.離した.結膜は漏出部を切除後,強膜弁上を覆うように前方移動させ縫合した.手術顕微鏡(OPMIRVISU210,CarlZeiss,Oberkochen,Germany)に可視光のカラー画像用chargecoupleddevice(CCD)(MKC-307,IKEGAMITSUSHINKI,Tokyo,Japan)と,波長860nm以上のIRを透過するフィルター(IR-86,Fujifilm,Tokyo,Japan)を付けたIR画像用CCD(XC-EI50,Sony,Tokyo,Japan)を設置し,可視光画像とIR画像を同時に記録した(図1).①結膜.離時の濾過胞再建用クレセントナイフBlebknife(BKS-10AGF,KAI,Tokyo,Japan)およびマイクロ剪刀の視認性,②Tenon.の増生組織.離時のマイクロ剪刀の視認性,③強膜弁.離時の27G針およびBlebknifeの視認性について,1.まったく見えない,2.先の形状まではわからない,3.先の形状まではっきりわかる,の3群に分け,検者1名(術者・助手以外の者)により液晶モニター上で可視光画像とIR画像を比較した.今回の研究に際し,当院の倫理委員会の承認(承認番号B1000106015),および本人の文書による同意を得た.結膜の.離時,および強膜弁の.離時ではすべての器具でIR画像は3,可視光画像は2の視認性であった.Tenon.の増生組織の.離時のマイクロ剪刀は,IR画像は2,可視光画像は1の視認性であった(表1).図2~4に部位ごとの各器具の視認性を示した.矢頭部に器具の先端部を示した.2014年12月,VS=(0.4),左眼眼圧=4mmHg,濾過胞からの漏出は消失した.脈絡膜.離はみられず,OCTで黄斑浮腫はみられなかった.表1各部位における手術器具の可視光画像とIR画像による視認性の比較部位器具可視光IR結膜下Blebknifeマイクロ剪刀2233Tenon.の増生組織下マイクロ剪刀12強膜弁下27G針Blebknife22331028あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(106)Blebknifeマイクロ剪刀IR可視光IR図2結膜の.離時におけるBlebknifeおよびマイクロ剪刀の視認性上段:Blebknifeを用いて菲薄部周辺の固い癒着を.離している.可視光ではBlebknifeの先端の平滑な部分が先の形状まではわからない(=2)が,IRでは白く高反射で先の形状まで視認できた(=3).下段:マイクロ剪刀を用いて菲薄部周辺の固い癒着を.離している.可視光ではマイクロ剪刀は先の形状まではわからない(=2)が,IRでは白く高反射で先の形状まで視認できた(=3).マイクロ剪刀可視光IR図3Tenon.増生組織の.離時におけるマイクロ剪刀の視認性マイクロ剪刀を用いて円蓋部側のTenon.の増生組織を強膜から.離している.マイクロ剪刀は可視光ではまったくわからない(=1)が,IRでは白く高反射で先の形状まではわからないが視認できた(=2).II考察め,器具の視認性は組織の厚みや透過性の影響も受けることがわかった.Tenon.下の増生組織は可視光,IRともに他すべての部位で,同一器具においては,IR画像は可視光の部位よりは視認性が低く,逆に前房内は可視光もIRも視画像より視認性が高い傾向がみられた(表1).これはIRの認性は高かった.図3のTenon.下のマイクロ剪刀は,透組織深達性が可視光より高いことによると考えられた.過性の低いTenon.の増生組織がある場所では器具の視認近赤外線は組織深達性があるが可視光に近い性質ももつた性が低下し,増生組織が少ない部分ではIR画像での視認性(107)あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015102927G針Blebknife可視光IR図4強膜弁の.離時における27G針およびBlebknifeの視認性上段:27G針を用いて強膜弁を強膜床から.離した.27G針が強膜弁下にある部分は可視光では先の形状まではわからない(=2)が,IRでは先の形状まで視認できた(=3).下段:Blebknifeを用いて強膜弁を強膜床から.離した.可視光では先の形状まではわからない(=2)が,IRでは先の形状まで視認できた(=3).が得られた.このことを利用すると,Tenon.の増生の広がりを器具の視認性の変化で知ることできると考えられた.Blebknifeの刃の支持部,マイクロ剪刀の刃の部分,27G針のベベル部分などはIRで高輝度に描写される(図2~4).器具の平滑部分の反射によりIRは高反射となるため,平滑部分のある器具形状は視認性の改善に寄与すると考えられた.IR画像を確認しながら濾過胞再建術を行うと,器具の位置がわかるので,結膜の穿孔などのリスクを軽減できる.これにより手術の安全性が向上することが期待される.注意点としてIR画像は透過性がよいので操作に一定の慣れが必要であることがあげられる.今後,IRの波長の変更や画像処理を加えることでIR画像の視認性が改善する可能性がある.また,IR画像の表示も液晶モニターから,手術顕微鏡への小型モニターを搭載するなどにより術者の姿勢が改善され,作業効率の改善が期待される.前眼部OCTによる濾過胞の内部形状の確認が濾過胞再建術のガイドとなったという報告がある10).本症例に用いたIR画像用CCDは比較的安価であり,術中に器具の先端の位置情報を簡便な方法で得られることは濾過胞再建術の手術操作に有用であると考えられた.1030あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015III結論IR画像は,観血的濾過胞再建術における手術器具の視認性の改善に有用である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiT,InomotoT,MiwaMetal:Fluorescencenavigationwithindocyaninegreenfordetectingsentinellymphnodesinbreastcancer.BreastCancer12:211-215,20053)小野田敏尚,槙野好成,橘球ほか:インドシアニングリーン(ICG)蛍光色素による乳癌センチネルリンパ節生検の経験.島根医学27:34-38,20074)鹿山貴弘,三輪光春:赤外観察カメラシステム(PDE)の開発と医用応用.MedicalScienceDigest34:78-80,20085)米谷新,森圭介:脈絡膜循環と眼底疾患.清水弘一(監修):ICG蛍光眼底造影─読影の基礎,p9-18,医学書院,20046)FlowerRW,HochheimerBF:Clinicaltechniqueandapparatusforsimultaneousangiographyoftheseparate(108)retinalandchoroidalcirculations.InvestOphthalmolVisSci12:248-261,19737)林一彦:赤外線眼底撮影法.眼科27:1541-1550,19858)YannuzziLA,SlakterJS,SorensonJAetal:Digitalindocyaninegreenangiographyandchoroidalneovascularization.Retina12:191-223,19929)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationoffilteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmol93:1331-1336,200910)KojimaS,InoueT,KawajiTetal:Filtrationblebrevisionguidedby3-dimensionalanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucoma23:312-315,201411)TominagaA,MikiA,YamazakiYukoetal:Theassessmentofthefilteringblebfunctionwithanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucoma19:551-555,201012)野村英一,伊藤典彦,野村直子ほか:赤外線を用いた強膜弁の観察.あたらしい眼科28:879-882,201113)野村英一,伊藤典彦,澁谷悦子ほか:赤外線画像により強膜弁下のEx-PRESSTMフィルトレーションデバイスを観察した1例.あたらしい眼科31:909-912,2014***(109)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151031