———————————————————————-Page1(123)8730910-1810/08/\100/頁/JCLS《第18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(6):873876,2008cはじめにマイトマイシンC(MMC)併用トラベクレクトミーは眼圧コントロール成績の向上に寄与する反面,数%の症例に濾過胞感染という重篤な合併症を起こす1).濾過胞感染は術後数カ月から数年で発症するとされる14)が,今回同術後4年で濾過胞破損に伴う細菌性眼内炎を発症し,硝子体手術と濾過胞再建術を併施し良好な結果を得た1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕森秀夫:〒534-0021大阪市都島区都島本通2-13-22大阪市立総合医療センター眼科Reprintrequests:HideoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaCityGeneralHospital,2-13-22Miyakojima-Hondori,Miyakojima-ku,OsakaCity534-0021,JAPAN濾過瘢痕よりの感染性眼内炎に硝子体手術と濾過胞再建術を施行した1例森秀夫三村真士大阪市立総合医療センター眼科ACaseInvolvingBothVitrectomyandFilteringBlebReconstructionforSepticEndophthalmitiswithBlebInfectionHideoMoriandMasashiMimuraDepartmentofOphthalmology,OsakaCityGeneralHospital4年前両眼にマイトマイシンC併用トラベクレクトミーを受けた83歳女性が,2006年11月9日朝右眼に暖かい流涙を,午後には眼痛,眼脂,霧視を自覚し,近医にて濾過胞穿孔に伴う細菌性眼内炎と診断され,同夜当科を受診した.右眼は眼瞼腫脹著しく,結膜は充血・浮腫著明で膿が付着し,11時に膿性に混濁した無血管性かつ胞状の濾過胞を認め,Seidel現象陽性であった.角膜は軽度混濁し,前房は細胞(+++)・蓄膿(1mm)を認め,虹彩前と眼内レンズ周囲にフィブリンの付着を認めた.硝子体混濁は軽中等度で,眼底はある程度透見可能であり,網膜に著変はなかった.視力は矯正0.2で眼圧は正確に測定できなかった.同夜緊急に前房洗浄,硝子体切除,感染濾過胞切除を行い,後方結膜を伸展前進することにより濾過胞再建を試みた.術後2週間で眼内炎症は消失し,術後1カ月で視力0.7を得,有血管性に濾過胞が再建され,眼圧は正常化した.起炎菌は肺炎球菌であった.InthemorningonNovember9,2006an83-year-oldfemale,whohadundergonetrabeculectomywithmitomy-cinCinbotheyes4yearsbefore,experiencedwarmlacrimationinherrighteye.Thatafternoon,shesueredocu-larpain,mucusandblurredvision.Anophthalmologistdiagnosedherconditionassepticendophthalmitiswithleakinglteringblebandreferredhertoourclinicthatnight.Hereyelidswelledseverely,theconjunctivawasveryinjectedandchemoticwithpus.Atthe11-o’clockpositionwasanavascularandcysticblebcontainingpus.Seidel’sphenomenonwaspositive.Thecorneawasslightlyclouded.Theanteriorchamberwascloudedwithcells(+++),hypopyon(1mm)andbrinmembrane.Thevitreousbodywasmoderatelycloudedandtheocularfundusdidnotappeartobeveryabnormal.Hervisionwas0.2.Intraocularpressurecouldnotbemeasuredprecisely.Thatnight,aftertheanteriorchamberwaswashed,vitrectomywasperformed,theinfectedblebwasexcisedandtheconjunctivawasadvancedtoreconstructthebleb.Theinammationsubsidedintwoweeks;hervisionwas0.7onemonthlater.Theblebcontainedbloodvessels.Theintraocularpressurewasnormal.ThecausativebacteriumwasfoundtobePneumococcus.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):873876,2008〕Keywords:眼内炎,濾過胞感染,濾過胞再建,トラベクレクトミー,硝子体手術.endophthalmitis,blebinfection,blebreconstruction,trabeculectomy,vitrectomy.———————————————————————-Page2874あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(124)手術計画として,健常結膜を最大限温存するため,毛様体扁平部のポートなどはすべて上方に設置した(図2a).手順としては感染した濾過胞に接して11時半の位置に20ゲージ眼内灌流ポートを縫着した.2時と8時の角膜輪部を切開し,前房水を採取した後,前房内を抗生物質を含まない液で灌流しながら膿およびフィブリン膜を除去した.採取した前房水,膿,フィブリン膜などは培養に供した.この後前房内を1.3μg/mlゲンタマイシンを含む灌流液にて灌流洗浄した.眼内レンズは温存した.続いて硝子体を切除するため,10時と12時の毛様体扁平部に20ゲージのポートを追加し,硝子体カッターと眼内内視鏡(ファイバーテック社,東京)を刺入した.1.3μg/mlゲンタマイシン含有の灌流下に,浅部の硝子体切除は顕微鏡直視下で,深部の硝子体切除は眼内内視鏡のみで施行し,硝子体手術用のコンタクトレンズは使用しなかった(図2b).眼内内視鏡下のみで硝子体を切除した理由は,角膜混濁と小さな水晶体前切開孔(径約3mm)のため,コンタクトレンズによる術野の視認性不良が予想さI症例患者:83歳,女性の右眼.既往歴:2002年某施設にて両眼MMC併用トラベクレクトミーを,2003年某施設にて両眼白内障手術を受けた.現症:2006年11月9日午前10時頃より右眼に暖かい流涙が始まり,同日14時頃より右眼眼痛,眼脂,霧視を自覚した.同日夕方約1年ぶりに近医を受診し,右眼濾過胞感染による眼内炎と診断され,同夜急遽大阪市立総合医療センターを紹介されて受診した.全身的には高血圧がある.糖尿病はない.初診時所見:視力は右眼0.1(0.2×sph0.25D(cyl0.5DAx90°),左眼0.5(0.7×sph0.5D),眼圧は右眼21mmHg,左眼13mmHgであったが,右眼の測定値は眼瞼腫脹により不正確であった.右眼には,眼瞼腫脹(++)を認め,結膜は充血・浮腫著明で,膿が付着していた(図1).膿は培養に供した.11時の結膜に過去のトラベクレクトミーによる無血管性かつ胞状の濾過胞を認め,濾過胞内は膿性に混濁していた.フルオレセインにて染色すると濾過胞中央より房水漏出がみられた(Seidel現象陽性).角膜は軽度混濁し,前房は細胞(+++)で混濁著明であり,前房蓄膿(1mm)を認め,虹彩前および眼内レンズ周囲にフィブリンの付着を認めた.眼内レンズは内に固定されていた.硝子体混濁は幸い軽度ないし中等度であり,眼底はある程度透見可能で,網膜に著明な変化は認めなかった.左眼にも無血管性かつ胞状の濾過胞を認めたが,炎症やSeidel現象は認めなかった.治療:右眼の濾過胞破損による細菌性眼内炎と診断し,初診日の夜間に緊急手術を施行した.術式は①前房液採取および前房洗浄,②経毛様体扁平部硝子体切除,③感染した濾過胞の切除および濾過胞再建であった.図1初診時前眼部写真炎症高度.結膜に膿付着,前房蓄膿1mmあり.図2硝子体手術時a:各ポート配置の模式図.健常結膜を残すためポートはすべて上方に設置した.b:硝子体切除は内視鏡下で施行し,コンタクトレンズは使用しなかった.灌流ポート内視鏡ポート感染濾過胞カッターポートa———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008875(125)眼底透見性は悪かった.以後前房炎症・硝子体混濁は順調に軽快し,術後2週間でほぼ消失した.網膜障害はなかった.術後2週(退院時)で視力0.4(矯正0.5)を得た.眼圧は13mmHgであった.術後1カ月で視力は0.4(矯正0.7)を得,有血管性の濾過胞が形成されていた(図4).術後1年を経過してもこの濾過胞は維持され,良好な眼圧コントロールを得ている.なお,起炎菌は眼脂の培養にてペニシリン感受性の肺炎球菌と同定されたが,眼内サンプルの培養結果は陰性であった.II考按トラベクレクトミー術後の濾過胞炎,眼内炎の発症率は数%といわれる1).濾過胞破損が感染の原因と思われるが,濾過胞炎発見時に房水漏出がみられない症例も存在する1,2,4).眼内炎の予後は,発症からの時間や起炎菌の毒性によって異なるが,本症例の起炎菌は肺炎球菌であった.わが国での起炎菌の検出率は1768%24)とまちまちで,検出菌種も多種にわたるが,日本緑内障学会による最新の調査では,37例の濾過胞感染中黄色ブドウ球菌と肺炎球菌が各3例で,起炎れたこと,レンズリング縫着による結膜損傷を避けること,術者が眼内内視鏡下硝子体切除に習熟していることによる.幸い網膜に眼内炎の波及による所見はみられず,安全に単純硝子体切除が施行できた.硝子体切除終了後,膿の貯留した濾過胞を切除し,強膜を露出した後,硝子体手術のポートを縫合閉鎖した.強膜にはトラベクレクトミーの強膜弁が認められた.本症例では幸い切除した濾過胞周辺の結膜の瘢痕化が軽度であったため,濾過胞の後方の結膜を剥離し,結膜欠損部を埋めるように前方に進展し,10-0ナイロン糸にて角膜輪部と結膜断端に縫着して濾過胞を再建した(図3).術後はイミペネム(チエナムR)500mgを朝夕2回3日間点滴静注し,レボフロキサシン(クラビットR),セフメノキシム(ベストロンR)を各4回/日点眼した.術翌日には眼痛はなく,眼圧は12mmHgであった.角膜の浮腫(+)(++)を認めた.濾過胞の形成を認め,房水の漏出はなかった.前房は形成されており,前房内は細胞(++)(+++)で,新たなフィブリン析出は認めなかった.軽い硝子体出血があり,ab4術後3カ月の前眼部写真a:有血管性に再建された耳上側の濾過胞.b:同部のスリット写真.b3濾過胞再建a:模式図.後方周辺の結膜を剥離し,前進して強膜を被覆する.b:結膜を前進して輪部に縫着するところ.周辺結膜を前進し被覆a———————————————————————-Page4876あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(126)れにも縫合不全が起こる危惧があり注意を要する.筆者らは縫合不全対策として半層角膜弁つきの遊離結膜弁移植を考案し,難症例に施行して良い成績を収めたことを報告した10)が,本症例では幸い切除した濾過胞周辺の結膜の瘢痕化が軽度であったため,周辺結膜を前進することで有血管性に濾過胞も再建でき,術後良好な視力と眼圧コントロールを得た.濾過胞破損による細菌性眼内炎に対し,硝子体切除と濾過胞再建を同時に行うことは有効な方法と思われる.文献1)望月清文,山本哲也:線維芽細胞増殖阻害薬を併用する緑内障濾過手術の術後眼内炎.眼科手術11:165-173,19982)杉山和歌子,福地健郎,須田生英子:線維柱帯切除後の濾過胞感染症の7例.眼紀52:956-959,20013)坂隆裕,日本緑内障学会濾過胞感染全国登録事業研究班:日本緑内障学会濾過胞感染全国登録事業の概要.日眼会誌111(増刊号):185,20074)緒方美奈子,古賀貴久,谷原秀信:線維柱帯切除後の濾過胞炎,眼内炎の検討.あたらしい眼科22:817-820,20055)SongA,ScottIU,FlynnHWetal:Delayed-onsetblebassociatedendophthalmitis:clinicalfeaturesandvisualacuityoutcomes.Ophthalmology109:985-991,20026)BusbeeBG,RecchiaFM,KaiserRetal:Bleb-associatedendophthalmitis:clinicalcharacteristicsandvisualout-comes.Ophthalmology111:1495-1503,20047)白柏基宏,八百枝潔:Ⅱ.内眼手術と術後眼内炎.3.緑内障術後.眼科プラクティス1,術後眼内炎(大鹿哲郎編),p80-84,文光堂,20058)BrownRH,YangLH,WalkerSDetal:Treatmentofblebinfectionafterglaucomasurgery.ArchOphthalmol112:57-61,19949)BurnsteinAL,WuDunnD,KnottsSLetal:Conjunctivaladvancementversusnonincisionaltreatmentforlate-onsetglaucomalteringblebleaks.Ophthalmology109:71-75,200210)森秀夫,林央子:半層角膜弁つきの遊離結膜弁移植による損傷した濾過胞の再建術.臨眼58:1695-1698,2004菌不明が12例あった3).海外の多数例の検討ではStrepto-coccus属,Staphylococcus属が優位とされる5,6).感染が成立しても,炎症がまだ前房に波及していない濾過胞炎では,一般に保存的治療によって予後良好である4,5,7)ので,この時点での発見と治療が望まれる.緑内障症例は,手術の有無によらず,定期的な眼科管理下に置くことが必要であるが,特に濾過胞のある患者には,常に濾過胞炎の危険があることを承知させ,発症すればすぐに受診させる患者教育が重要である4,5).しかし,本症例は緑内障手術後4年,白内障手術後3年という長期が経過し,自覚的に良好な日常生活を送り,また高齢でもあることから,濾過胞炎の危険性を失念し,近医に通院することを1年にわたり中断していた.発症自体は急激で,午前に流涙を自覚し,午後には眼痛,眼脂,霧視が始まるというもので,その日のうちに近医を受診するという迅速な対応を取ったことが良い結果につながったものの,もし,定期的に近医を受診していれば,濾過胞からの漏出や軽度の濾過胞炎が存在した時点で発見できた可能性は否定できない.濾過胞からの感染が眼内,特に硝子体内に及べば緊急手術が必要となる4,6).本症例では前房炎症は強くとも,幸い硝子体炎症の軽度な時点で,前房洗浄・硝子体切除(抗生物質の眼内灌流併施)を施行でき,良好な視機能を回復することができた.その際,できるだけ低侵襲かつ正常結膜を温存するためにポートの位置は濾過胞付近に限定し,眼内レンズも温存した.濾過胞の再建をせずに眼内炎の治療のみを行った場合,消炎には成功しても濾過胞損傷部からの房水漏出が持続したり4),逆に濾過胞の機能が低下して眼圧コントロールが悪化する可能性が危ぶまれる7).濾過胞からの房水漏出が持続する場合,保存的治療か手術的治療が必要となるが,Burnsteinら9)は圧迫眼帯,コンタクトレンズ,アクリル糊,自己血注射などの保存的治療での成功率は32%にとどまり,16%に濾過胞炎や眼内炎が発症したと報告している.濾過胞を切除して結膜弁を移植する方法には,濾過胞周囲の結膜を移動する方法と遊離結膜弁を用いる方法4)があるが,いず***