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濾過胞形成不全に対するニードリングの成績

2020年6月30日 火曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):735.737,2020c濾過胞形成不全に対するニードリングの成績嵜野祐二田村弘一郎横山勝彦木許賢一久保田敏昭大分大学医学部眼科学講座CResultsofNeedlingforBlebFailureYujiSakino,KouichiroTamura,KatsuhikoYokoyama,KenichiKimotoandToshiakiKubotaCDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)後の濾過胞形成不全に対するニードリングの成績について検討した.対象および方法:ニードリングを施行したC20例C20眼が対象.ニードリング施行前後の眼圧,ニードリング施行回数につき検討した.結果:ニードリングのみ施行はC13眼,ニードリングが奏効せず追加観血的手術を要したのはC7眼であった.初回ニードリングからの観察期間は平均C10.2C±14.6カ月.ニードリング回数はC2.3C±1.7回(1.6回)であった.眼圧はC27.0C±5.9CmmHg(12.35CmmHg)からC17.5C±7.5CmmHg(9.36mmHg)と優位に下降した(p=0.0009).合併症は硝子体出血,脈絡膜.離がC2例ずつみられたが自然軽快した.結論:ニードリングは重篤な合併症が少なく,およそ半数の症例で奏効する可能性があり,積極的に施行してよいと考える.CPurpose:ToCevaluateCtheCresultsCofCneedlingCrevisionCforCblebCfailurefollowingCtrabeculectomy(TLE)withmitomycinC(MMC)C.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved20eyesof20patientswhounderwentneedlingrevision.Inallpatients,intraocularpressure(IOP)andthenumberofneedlingrevisionsrequiredduringtheobser-vationCperiodCwasCexamined.CResults:ThirteenCeyesCunderwentCneedlingCrevisionCalone,CwhileC7CeyesCrequiredCadditionalCsurgeryCdueCtoCtheCneedlingCrevisionCbeingCunsuccessful.CTheCmeanCobservationCperiodCfollowingC.rstCneedlingrevisionwas10.2±14.6months.Themeannumberofneedlingrevisionswas2.3±1.7times(range:1-6times).MeanIOPsigni.cantlydecreasedfrom27.0±5.9CmmHg(range:12-35mmHg)to17.5±7.5CmmHg(range:9-36CmmHg)(p=0.0009)C.CComplicationsCincludedCvitreousChemorrhageCinC2CcasesCandCchoroidalCdetachmentCinC2Ccases,CyetCtheyCwereCspontaneouslyCrelieved.CConclusions:NeedlingCrevisionChadCfewCseriousCcomplications,CandCwase.ectivein50%ofthepatientswithfailingblebsfollowingtrabeculectomywithMMC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(6):735.737,C2020〕Keywords:線維柱帯切除術,ニードリング,濾過胞形成不全.trabeculectomy,needling,blebfailure.はじめにマイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は緑内障に対するもっとも標準的な外科手術で,眼圧下降効果が高い1).2012年にCglau-comaCdrainagedevice(GDD)を用いた緑内障手術が,2018年には水晶体再建術併用眼内ドレナージ挿入術が保険適用となり,治療の選択肢が広がったが,依然として緑内障手術の中でもっとも施行件数が多いのはCTLEである2).しかしながら,術後の濾過胞形成不全による房水流出障害,眼圧上昇が生じ,ニードリングを要することがある3.5).ニードリング施行後の合併症には過剰濾過,低眼圧,脈絡膜.離,硝子体出血などがあるが,外来で簡便に施行でき,良好な濾過胞形成や眼圧下降が得られるため,濾過胞再建の第一選択として施行されることが多い.本研究では,当院におけるCMMC併用CTLE後の濾過胞形成不全に対し,ニードリングを施行した症例について検討した.CI対象および方法対象は2013年1月.2019年5月末にMMC併用TLEを施行したC465例C465眼中,濾過胞形成不全でニードリング〔別刷請求先〕嵜野祐二:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ケ丘C1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YujiSakino,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama,Yufu-city,Oita879-5593,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(91)C735表1対象症例の詳細症例年齢性別病型既往手術歴TLEから初回ニードリングまでの期間(週)ニードリング回数()はその内MMC使用回数追加手術観察期間*(月)眼圧(mmHg)合併症前後C1C69男性CPOAGCTLOTLEC172(0)なしC6C28C16なしC2C64男性CPOAGCTLOTLEC201(0)なしC16C20C18なしC3C57男性CPOAGCTLOC41(0)なしC7C12C9なしC4C81男性CPOAGC381(0)なしC5C21C15なしC5C84男性CPOAGCPEA+IOLC51(0)なしC4C26C16CCDC6C83男性CPOAGCPEA+IOLC81(0)なしC8C19C15なしC7C64男性CEXGC133(0)なしC9C29C10なしC8C69男性CEXGC41(0)なしC64C25C14なしC9C86男性CEXGC51(0)なしC5C30C9なしC10C81男性CEXGC51(0)なしC6C25C15なしC11C68男性CNVGC91(0)なしC3C33C12なしC12C51男性CNVGC352(1)なしC6C31C15CVHC13C80男性CSGC41(0)なしC16C35C10CCDC14C61男性CPOAGCPPVtripleC43(1)CTLEC28C24C18なしC15C85男性CEXGCTLOC54(0)CTLEC12C29C24なしC16C78男性CEXGCTLOTLEC94(1)CTLEC12C32C22なしC17C37女性CNVGCPPVtripleC36(2)再建,TLE,BGIC7C32C36なしC18C46女性CNVGCPPVtripleC93(2)再建C6C23C16CVHC19C22男性CSGCTLOC71(0)再建,BGIC3C30C32なしC20C71男性CCGCTLOtripleC86(2)再建,TLE,BGIC4C35C29なしPOAG:原発開放隅角緑内障,EXG:落屑緑内障,NVG:血管新生緑内障,SG:続発緑内障,CG:小児緑内障,TLO:線維柱帯切開術,TLE:線維柱帯切除術,PEA+IOL:水晶体再建術+眼内レンズ挿入術,PPV:硝子体切除術,再建:観血的濾過胞再建術,BGI:バルベルト緑内障インプラント,CD:脈絡膜.離,VH:硝子体出血.*観察期間は,ニードリングのみ施行した症例は最終受診時まで,追加観血的手術を施行した症例は追加手術前まで.を施行したC20例C20眼(男性C18眼,女性C2眼)である.診療録を後ろ向きに調査した.年齢はC66.7C±16.9歳(22.86歳).病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglau-coma:POAG)7眼,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)6眼,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)4眼,EXG以外の続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)2眼,小児緑内障(childhoodglaucoma:CG)1眼であった.MMC併用CTLEは全例で円蓋部基底結膜切開であった.手術既往のあるものはC12眼.TLEから初回ニードリングまでの期間はC10.6C±9.9週(3.38週)であった(表1).初回ニードリングは円蓋部結膜下にC0.2%キシロカインを注射後,濾過胞から十分離れた上方球結膜よりC25CG針を刺入し,濾過胞周囲結膜下の癒着を.離した.濾過胞形成が不十分の際は,針を強膜弁下に刺入して弁を浮かせ,良好な濾過胞が形成されるのを確認した.MMC結膜下注射を併用する場合は,0.04%CMMCとC0.2%キシロカインを1:1で混合したものを結膜下注射した後に施行した.術後に抗菌薬およびステロイド点眼を使用した.術後成績の評価にはCStudentのCt検定,Kaplan-Meier法を用いた.CII結果結果を表1に示す.単回あるいは複数回のニードリングを施行したのがC13眼,ニードリングが奏効せず追加手術を要したのがC7眼であった.追加観血的手術はCMMC併用CTLEがC5眼,観血的濾過胞再建術がC4眼.バルベルト緑内障インプラントがC3眼(重複あり)であった.ニードリング施行前および施行後(ニードリングのみ施行した症例は最終受診時,追加観血的手術を施行した症例は追加手術前)の眼圧は,C27.0±5.9mmHg(12.35mmHg)からC17.5C±7.5CmmHg(9.36CmmHg)と有意に下降した(p=0.0009).初回ニードリング後C15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となった症例,あるいは追加観血的手術を施行した症例を死亡と定義し,最終736あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(92)観察時までに死亡したのはC11眼であった(最終生存率C45%)(図1).ニードリング回数はC2.3C±1.7回(1.6回)であった.MMC結膜下注射を併用したニードリングはC6眼(計C9回)であった.MMC結膜下注射を併用したのはC2回目以降の施行であり,6眼のうちC5眼は追加観血的手術を要した.さらにこれらのC5眼には全例で内眼手術の既往があった(表1).合併症は硝子体出血,脈絡膜.離が各C2眼ずつみられたが,いずれも自然経過した.CIII考按ニードリングで使用する注射針としては一般的にC25CG,27CG,30CGが多い.23CGを用いた報告もあるが5),径が太いと結膜縫合が必要となることがある.当院では初回施行時にはすべてC25CGを使用した.2回目以降は,結膜下組織が固いため注射針での.離が不十分な症例もあった.その際にブレブナイフ6)を使用したものがC2眼あったが,結膜縫合を要した症例はなかった.結膜下癒着の.離のみで十分な眼圧下降が得られない場合には,強膜弁下の増殖組織を解除する必要があるが7,8),その際にもC25CGは径や強度がほどよく有用性が高いと考える.初回ニードリング後C15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となった症例,あるいは追加観血的手術を施行した症例を死亡と定義したところ,最終観察時での生存率がC45%であった.死亡したC11眼のうちC9眼で内眼手術の既往があり,手術既往のある眼は線維芽細胞の活動性が高くなることにより濾過胞の瘢痕化が生じやすく,ニードリングの効果が持続しづらくなるものと考える5).2回目以降のニードリングや追加手術を要さなかったものはC6眼(30%)で,既報とほぼ同様であった5).2回目以降を施行した症例のうち,MMC結膜下注射併用ニードリングを施行したのはC6眼(計C9回)であった.そのうちC5眼で内眼手術の既往があった.POAGではC7眼中C6眼で内眼手術の既往があったものの,単回のニードリングのみで最終的にC4眼が生存し,追加観血的手術を必要としたのはC1眼のみで,他の病型と比べニードリングが奏効した.追加観血的手術の内訳は濾過胞再建術C4眼,MMC併用CTLE5眼,バルベルト緑内障インプラントC3眼(重複あり)であった.最終的にはC3.18mmHg(9.4C±5.4CmmHg)と十分な眼圧下降が得られた.手術既往のある眼は,複数回のニードリングあるいは追加手術が必要となる症例が多く,線維芽細胞の活性化と濾過胞の瘢痕化が繰り返し生じて眼圧上昇すると考えられる.合併症は硝子体出血,脈絡膜.離が各C2眼ずつみられたが,いずれも自然軽快しており,眼内炎や水疱性角膜症などの重篤な合併症はなかった.本研究の限界は,対象がC20眼と少ない点であり,今後さ生存率(%)100806045%402000123456図1生存曲線初回ニードリング後,15CmmHgを超える眼圧がC2回以上となったもの,あるいは追加観血的手術を施行したものを死亡と定義.4カ月を過ぎて以降,新たな死亡症例なし.らに症例を増やして検討を重ねる必要がある.ニードリングは手技が簡便で重篤な合併症が少なく,本研究ではC20眼のうちC9眼で奏効しており,濾過胞形成不全に対する第一選択として積極的に施行してよいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ErricoCD,CScrimieriCF,CRiccardiCRCetal:TrabeculectomyCwithCdoubleClowCdoseCofCmitomycinCCC-twoCyearsCofCfol-low-up.ClinOphthalmolC5:1679-1686,C20112)橋本洋平,道端伸明,松井宏樹ほか:本邦における近年の緑内障手術の傾向:大規模データベースを用いた記述研究.日眼会誌C123:815-823,C20193)TsaiCAS,CBoeyCPY,CHtoonCHMCetal:BlebCneedlingCout-comesCforCfailedCtrabeculectomyCblebsCinCAsianeyes:aC2-yearfollowup.IntJOphthalmolC8:748-753,C20154)LaspasP,CulmannPD,GrusFHetal:Revisionofencap-sulatedCblebsCaftertrabeculectomy:Long-termCcompari-sonCofCstandardCblebCneedlingCandCmodi.edCneedlingCpro-cedurecombinedwithtransconjunctivalscleral.apsutures.PLoSOneC12:e0178099,C20155)狩野廉,桑山泰明:注射針による濾過胞再建術(Needling)の術後成績.眼科手術C20:267-273,C20076)相良健:濾過胞再建用極細クレッセントナイフ「ブレブナイフ」.眼科手術23:71-74,C20107)相原一:線維柱帯切除術後の再発─同一創濾過胞再建術の実際─.MBOCULISTAC42:1-9,C20168)野村英一,安村玲子,石戸岳仁ほか:ニードリングによる濾過胞再建術の術前に施行した赤外線画像を用いた強膜弁の位置決め.あたらしい眼科C34:1178-1181,C2017***(93)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C737