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慢性移植片対宿主病による重症ドライアイが軽快した1例

2020年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(6):752.757,2020c慢性移植片対宿主病による重症ドライアイが軽快した1例箱崎瑠衣子*1,2矢津啓之*1,3清水映輔*1明田直彦*1内野美樹*1鴨居瑞加*1西條裕美子*1立松由佳子*1山根みお*1加藤淳*4森毅彦*4岡本真一郎*4坪田一男*1小川葉子*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2横浜市立市民病院眼科*3鶴見大学歯学部附属病院眼科*4慶應義塾大学医学部血液内科CTreatmentOutcomeinaCaseofChronicGVHD-RelatedSevereDryEyeRuikoHakozaki1,2),HiroyukiYazu1,3),EisukeShimizu1),NaohikoAketa1),MikiUchino1),MizukaKamoi1),YumikoSaijo1),YukakoTatematsu1),MioYamane1),JunKato4),TakehikoMori4),ShinichiroOkamoto4),KazuoTsubota1)andYokoOgawa1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMunicipalCitizen’sHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TsurumiUniversitySchoolofDentalMedicine,4)DivisionofHematology,DepartmentofMedicine,KeioUniversitySchoolofMedicineC緒言:慢性移植片対宿主病(cGVHD)重症ドライアイが体外循環式光化学療法(ECP)と眼局所治療後に軽快した1例を報告する.症例:46歳,女性.急性リンパ性白血病に対して非血縁者間骨髄移植を施行.移植C1年C5カ月後に眼,口腔,皮膚,肺に重症CcGVHDを発症した.近医眼科にて重症ドライアイに対し涙点プラグ挿入を施行するも症状は改善しなかった.移植C2年C3カ月後,ステロイド治療抵抗性重症CcGVHDに対するCECPの治験に参加するため慶應義塾大学病院に入院.眼科初診時所見として,著明なびまん性角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(BUT)短縮,涙液分泌低下を認めた.プレドニゾロン内服治療,ヒアルロン酸点眼とレバミピド点眼治療を行ったが改善なく,ECPが開始された.ECP中は眼所見は改善したが,ECP治療終了後は悪化し,ジクアホソル点眼,レバミピド点眼,涙点プラグを追加,その後,涙点プラグは一部脱落したが,眼表面障害とCBUTは改善した.結論:局所療法に加え,ECP療法によりCcGVHD重症ドライアイが改善した本症例は,今後の治療に資するものと考えられる.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCchronicCgraft-versus-hostdisease(cGVHD)-relatedCsevereCdryeye(DE)thatshowedrecoveryafterextracorporealphotopheresis(ECP)andtopicaltherapy.Case:A46-year-oldfemaledevel-opedCcGVHD-relatedCDECaccompaniedCbyCoralCcavity,Cskin,CandClungCinvolvementsCatC1yearCandC5monthsCafterCundergoingCboneCmarrowtransplantation(BMT)forCanCacuteClymphoblasticCleukemia.CAlthoughCpunctal-plugCimplantationwaspreviouslyperformedatanotherclinic,shewasdiagnosedatinitialpresentationwithsevereDEsymptomswithdi.usesuper.cialpunctatekeratitis,shorttear-.lmbreakuptime,andalowSchirmer’stestvalue.TheCpatientCwasCtreatedCviaCtheCsystemicCadministrationCofCtacrolimusCandCprednisolone,CandCtopicalCrebamipideCandhyaluronicacid,yetherconditiondidnotimprove.SheunderwentECPforthesteroid-refractorycGVHDasaparticipantinaclinicaltrial,andthecGVHD-relatedDEimproved.However,theDEworsenedaftercessationoftheCECP,CsoCtreatmentCwithCtopicalCdiquafosolCandCpunctal-plugCimplantationCwasCadded.CFiveCyearsClater,CanCimprovementCofCtheCocularCsurfaceCandCtearCdynamicsCwasCobserved,CalthoughCtheCadditionalCpunctalCplugsCwereCextruded.Conclusion:TheclinicalcourseofourcaseshowedanimprovementofcGVHD-relatedDEbyECPandtopicaltherapy,thussuggestingtheimportanceofevaluatingtheclinicalfeaturesforthefuturetreatmentofthisintractabledisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(6):752.757,C2020〕〔別刷請求先〕箱崎瑠衣子:〒240-8555横浜市保土ケ谷区岡沢町C56横浜市立市民病院眼科Reprintrequests:RuikoHakozaki,DepartmentofOphthalmology,YokohamaMunicipalCitizen’sHospital,56Okazawamachi,Hodogaya-ku,YokohamaCity,Kanagawa240-8555,JAPAN矢津啓之:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室CHiroyukiYazu,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35CShinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC752(108)Keywords:同種造血幹細胞移植,炎症,慢性移植片対宿主病,重症ドライアイ,治療,慢性眼移植片対宿主病.Callogeneichematopoieticstemcelltransplantation,in.ammation,chronicgraft-versus-hostdisease,severedyeeye,treatment,chronicocularGVHD.Cはじめに同種造血幹細胞移植後は白血病などの造血器腫瘍に対する根治療法として確立されている.しかし,同種造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(graft-versus-hostdisease:GVHD)はときに致死的となり,眼科領域では重症ドライアイとして角膜穿孔に至ることもあり,対策が求められている1,2).造血幹細胞移植の件数は全世界で増加しており,2030年には約C50万人の造血幹細胞移植後の長期生存者が存在すると報告されている3).同種造血幹細胞移植症例の視力予後および生活の質や視覚の質の改善のためには,眼CGVHDの病態解明が重要となる一方で,症例ごとの臨床経過と治療内容を詳細に検討することが,治療の時期,治療方法の決定に必要と思われる.造血幹細胞移植後の慢性CGVHDによるドライアイは主要な合併症の一つである1,4).移植後約C50.60%に発症し,その後急速に進行していく症例が多い5).重症ドライアイは瞼球癒着や涙点自然閉鎖,角膜輪部機能不全,角膜の結膜化などをきたし,難治であることが多い.病態にはCT細胞と抗原提示細胞の相互作用により角結膜,涙腺,マイボーム腺の上皮障害および間質の高度な病的線維化が関与している2).重症慢性CGVHDに多いCGVHDによるドライアイは,現在のところ根治療法がなく,既存の点眼治療薬を症状に応じて使用していかざるをえないため,新しい有効な治療法を検討することは喫緊の課題である.今回筆者らは,全身体外循環式光化学療法(extracorpore-alphotopheresis:ECP)により難治性CGVHDによるドライアイの眼所見が軽快し,ECP治療終了後の眼局所治療がさらに眼所見の改善に寄与したと考えられるC1例を経験したので報告する.ECPは患者の白血球を体外へ無菌的に取り出しメトキサレン溶液を注入のうえ,紫外線照射処理後に体内へ戻すことにより,活性化CTリンパ球などを制御し病的な免疫過剰状態を調整する治療法である.本症例は,造血幹細胞移植後に高度な重症ドライアイを発症し,治療に抵抗性であったが,その後,ステロイド抵抗性慢性CGVHDと診断され内科でのCECPを開始した.CI症例患者:46歳,女性.急性リンパ性白血病に対して,他院にて非血縁者間骨髄移植を施行した.移植前の眼科検診ではドライアイは認めなかった.移植C12日後に急性CGVHD(皮膚,肝臓,腸管)を発症した.移植C1年C5カ月後に口腔,肺,眼に慢性CGVHDを発症したため,近医眼科にてドライアイに対して精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレインミニ点眼C0.3%,参天製薬)1日C6回とレバミピド(ムコスタ点眼CUD0.2%,大塚製薬)1日C4回の点眼治療を行った.右眼下方の涙点プラグを施行したが,自他覚所見とも改善しなかった.移植C2年C3カ月後,ステロイド抵抗性の重症CGVHDに対するCECPの治験に参加するために慶應義塾大学病院(以下,当院)血液内科に受診した.ECP治験前に,タクロリムス水和物C0.2Cmg/日(プログラフ,アステラス製薬)とミコフェノール酸モフェチルC1,000Cmg/日(ミコフェノール酸モフェチルカプセル,マイラン製薬)プレドニゾロン(プレドニン錠,5Cmg武田薬品,1Cmg旭化成ファーマ)12.5Cmg/日の内服治療が行われた.ECPの治験は,わが国のステロイド治療抵抗性の難治性慢性CGVHD患者を対象として,ECPの安全性と有効性の検証のため多施設オープンラベル試験として行われた.ECPの治療スケジュールは最初のC1週目はC1.3日目の連続C3日間,2.12週目はC1日目C2日目の連続C2日間,その後C16週目,20週目とC24週目の各週はC1日目C2日目の連続C2日間,それぞれC1日C1回行われた.本症例の全身の評価項目を総合した効果は良好であり,全身ステロイド治療の量が軽減でき,有効と判断された.治験開始直前の当院眼科受診時所見は,矯正視力が右眼0.04(0.7C×sph.7.00D(cyl.0.75DCAx140°),左眼C0.04(0.8C×sph.7.50D(cyl.0.75DAx120°)であった.2006年ドライアイ診断基準の角結膜上皮障害と涙液動態の評価を行い6),GVHDによるドライアイの眼CGVHD角膜フルオレセインスコア評価方法に基づき評価した7).前医での右下涙点プラグ挿入後であったが,フルオレセイン染色C6/6(右/左)点(9点中),ローズベンガル染色C5/5(右/左)点(9点中),涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)2/2(右/左)秒,島崎分類によりマイボーム腺機能不全スコアC3/3(右/左)点(3点中)8),国際眼CGVHD診断基準による充血スコア2/2(右/左)点(2点中)1,9)と重症ドライアイを認めた(図1).精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,1日C6回とレバミピド1日C4回の点眼治療を行った.ECP治療開始後C6カ月の眼所見はフルオレセイン染色4/3(右/左)点,ローズベンガル染色C2/1(右/左)点,BUT3/3秒,マイボーム腺機能不全スコアはC2/2(右/左)点,充図1本症例のGVHDによるドライアイ重症時の細隙灯顕微鏡所見a,b:フルオレセイン角結膜染色所見(Ca:右眼,Cb:左眼).c,d:ローズベンガル角結膜染色所見(Cc:右眼,Cd:左眼).両眼ともに高度の角結膜上皮障害を認め,左眼は糸状角膜炎を認める.血はC0/0(右/左)点と改善した.また,ECP開始C5カ月にCD(cyl.1.00DAx15°),左眼(0.9C×sph.7.50D(cyl.1.00は眼表面状態は軽快していた.ECPは7カ月間継続され,CDAx60°),フルオレセイン染色0/0(右/左)点,リサミンその間,眼表面状態は軽快したが,ECP治験終了後C7カ月グリーン染色C2/0(右/左)点,BUT7/10(右/左)秒,マイ時に,フルオレセイン染色C8/8(右/左)点,リサミングリーボーム腺機能不全スコアC1/1(右/左)点(3点中),充血C0/0ン染色C8/7(右/左)点(9点中),BUT3/3(右/左)秒,マイ(右/左)点(2点中)と改善した(図2,3).現在,当科初診ボーム腺機能不全スコアC2/3(右/左)点,糸状角膜炎あり,時と同様右下のみ涙点プラグが入っている状態である.充血C2/2(右/左)点と眼所見は悪化した.その後,局所療法CII考按としてジクアホソル点眼(ジクアス点眼3%,参天製薬)1日6回,レバミピド点眼C1日C4回の併用療法に加え10),精製ヒ本症例は,同種骨髄移植後,高度な重症ドライアイを発症アルロン酸ナトリウム点眼C0.3%C1日C5回,人工涙液点眼(ソし,眼科局所治療に抵抗性であった.しかし,ECP併用中フトサンティア点眼,参天製薬)1日頻回点眼を加え治療をに重症ドライアイが軽快し,その後眼科的には防腐剤無添加行った.点眼治療のみでは効果不十分であったため,残存し人工涙液点眼とC0.3%ヒアルロン酸に加えジクアホソルとレている右下の涙点以外のC3涙点に両眼涙点プラグ(スーパーバミピド,さらには涙点プラグを施行し,長期局所治療を継イーグルプラグCM,EagleVision社製)を追加した.涙点プ続することで重症ドライアイの角結膜上皮障害とCBUTが軽ラグ追加後,重症ドライアイは軽快,やや悪化を繰り返した快した貴重なC1例であった.が,涙点プラグ追加後C10カ月後には右上,左下が脱落し,本症例の重症ドライアイの改善理由は,眼局所治療に加以後初診時と同様に右下の涙点プラグのみ残存したが眼所見え,従来行われている全身的な免疫抑制薬治療,そしてとくは軽快した状態を保っていた.に本症例に特異的な治療であったCECP11)が相互に協調してECP終了C3年C7カ月後,矯正視力は右眼(1.2C×sph.7.00奏効したことによると考えられる.図2軽快時の細隙灯顕微鏡眼表面所見a,b:フルオレセイン角結膜染色所見.(a:右眼,Cb:左眼).c,d:リサミングリーン角結膜染色所見(Cc:右眼,Cd:左眼).両眼ともに角結膜上皮障害および結膜充血は著明に軽快し,ドライアイがほぼ正常化するまで軽快している.ヒアルロン酸点眼レバミピド点眼重症GVHDジクアホソル点眼ドライアイ発症,前医にて涙点プラグ他院当科骨髄移植初診涙点プラグ涙点プラグ涙点プラグのECP(7カ月間)追加脱落再挿入なしECP直前ECP開始後6カ月ECP終了後涙点プラグ追加涙点プラグ脱落ECP後3年7カ月フルオレセイン染色6/64/38/80/02/00/0ローズベンガル染色5/52/1──リサミングリーン染色──8/70/01/02/0BUT(秒)2/23/33/310/106/107/10MGD3/32/22/31/1充血2/20/02/20/0図3治療経過とドライアイ所見(スコア)の変化ECP治療開始前,重症CGVHDによるドライアイを認め,ECP開始後,ECP加療中はドライアイが改善した.ECP治療終了後に悪化した.ECPおよび眼局所のジクアホソルとレバミピドの長期併用療法と涙点プラグの加療による経過.現時点でステロイド抵抗性慢性CGVHDに対しては,高用量ステロイド,わが国では未承認であるCECP,ソラレン紫外線療法(PUVA),サリドマイド,リツキシマブなどが試みられるが,その治療法は確立していない.本症例において,ECP併用中は眼所見は改善していたが,中止後に悪化を認め,レバミピドおよびジクアホソルの併用局所療法と涙点プラグを行ったことにより改善が認められた.これらの経過から,ステロイドおよびタクロリムスの全身投与,ECP,そして局所療法の併用があらゆる治療に抵抗性で難治性の慢性CGVHDによるドライアイを改善に導いたと考えられる.ジクアホソルとレバミピドは同じムチン分泌促進薬であるが,作用機序が異なる.ジクアホソルは結膜上皮および結膜杯細胞膜上にあるCP2YC2受容体の作動薬で,細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させ,水分およびムチン分泌促進作用を有することで,涙液を質的および量的の両側面から改善する.GVHDによるドライアイのように涙腺障害が高度であっても結膜からの水分を分泌させる効力がある12,13).レバミピドは,角膜上皮細胞のムチン遺伝子発現を亢進させ,細胞内のムチン量を増加させる.また,角膜上皮細胞の増殖を促進し,結膜ゴブレット細胞数を増加させることが報告されている14,15).またドライマウスに対しての抗炎症効果も報告されている16).ジクアホソルとレバミピドは軽症から中等症のGVHDによるドライアイに対し長期併用効果が報告されている10).本症例は全身治療の併用により重症ドライアイが中等症まで軽快した時点で,ジクアホソルとレバミピド併用療法および涙点プラグを行ったことがより効果的であった可能性がある.ジクアホソルおよびレバミピドの併用療法および局所涙点プラグのみでは,治療抵抗性のCGVHDによる重症ドライアイが本症例のような状態まで軽快することはむずかしいと考えられる.従来行われるプレドニゾロンおよびタクロリムスの全身治療17)に加え,今回とくに行ったCECPより涙腺,マイボーム腺,角結膜上皮の障害が軽減されていたことが考えられる.GVHDに関連したドライアイは難治性で重症に至ることが多く,治療に難渋することが多い.本症例はCECPの全身療法中ドライアイが軽快し,ECP治療終了後悪化したことから,ECP治療がCGVHDドライアイに有効であることが示唆された.その後,ECP治療をもとに局所治療も奏効し,難治性重症CGVHDによるドライアイの角結膜上皮障害,BUTが改善するに至ったと考えられた.軽快することがまれな難治性CGVHDドライアイに対する治療法がないなか,今後の治療方法に資する貴重な症例と考える.利益相反:坪田一男:ジェイアエヌ【F】,参天製薬【F】,興和【F】,大塚製薬【F】,ロート【F】,富士ゼロックス【F】,アールテック・ウエノ【F】,坪田ラボ【F】,オフテスクス【F】,わかさ生活【F】,ファイザー【F】,日本アルコン【F】,QDレーザ【F】,坪田ラボ【R】,花王【R】,Thea,Thea社【R】,【P】岡本真一郎:ノバルティス【F】,アステラス【F】.中外製薬【F】森毅彦:ノバルティス【F】,アステラス【F】,中外製薬【F】小川葉子:参天製薬【F】,キッセイ薬品【F】,【P】,日本アルコン内野美樹:参天製薬【F】ノバルティス【F】,千寿【F】,アルコン【F】矢津啓之:OuiInc【P】清水映輔:OuiInc【P】,大正製薬【F】.JSR【F】,近藤記念医学財団【F】明田直彦:OuiInc【P】文献1)OgawaCY,CKimCSK,CDanaCRCetal:InternationalCChronicCOcularGraft-vs-Host-Disease(GVHD)ConsensusGroup:CProposedCdiagnosticCcriteriaCforCchronicGVHD(PartI)C.ScirepC3:3419,C20132)ShikariCH,CAntinCJH,CDanaR:OcularCgraft-versus-hostdisease:areview.SurvOphthalmolC58:233-251,C20133)稲本賢:移植後長期フォローアップと慢性CGVHD.日本造血細胞移植学会雑誌C6:84-97,20174)InamotoY,Valdes-SanzN,OgawaYetal:Oculargraft-versus-hostCdiseaseCafterChematopoieticCcellCtransplanta-tion:ExpertreviewfromtheLateE.ectsandQualityofLifeCWorkingCCommitteeCofCtheCCIBMTRCandCTransplantCComplicationsWorkingPartyoftheEBMT.BoneMarrowTransplantC54:662-673,C20195)UchinoM,OgawaY,UchinoYetal:ComparisonofstemcellCsourcesCinCtheCseverityCofCdryCeyeCafterCallogeneicChaematopoieticstemcelltransplantation.BrJOphthalmolC96:34-37,C20126)島崎潤,坪田一男,木下茂ほか:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科C24:181-184,C20077)WangCY,COgawaCY,CDogruCMCetal:BaselineCpro.lesCofCocularsurfaceandteardynamicsafterallogeneichemato-poieticCstemCcellCtransplantationCinCpatientsCwithCorCwith-outCchronicCGVHD-relatedCdryCeye.CBoneCMarrowCTrans-plantC45:1077-1083,C20108)ShimazakiJ,GotoE,OnoMetal:Meibomianglanddys-functioninpatientswithSjogrensyndrome.Ophthalmolo-gyC105:1485-1488,C19989)EfronN:GradingCscalesCforCcontactClensCcomplications.COphthalmicPhysiolOptC18:182-186,C199810)YamaneM,OgawaY,FukuiMetal:Long-termrebamip-ideCandCdiquafosolCinCtwoCcasesCofCimmune-mediatedCdryCeye.OptomVisSci92(Suppl1):S25-S32,201511)OkamotoCS,CTeshimaCT,CKosugi-KanayaCMCetal:Extra-corporealCphotopheresisCwithCTC-VCinCJapaneseC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造血幹細胞移植後の新規ドライアイ発症例に近視化を伴った3症例

2019年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科36(5):684.688,2019c造血幹細胞移植後の新規ドライアイ発症例に近視化を伴った3症例伊藤賀一小川葉子清水映輔鈴木孝典西條裕美子内野美樹栗原俊英坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CThreeCasesofDevelopingMyopiainNewlyDevelopedDryEyeDiseaseafterHematopoieticStemCellTransplantationYoshikazuIto,YokoOgawa,EisukeShimizu,TakanoriSuzuki,YumikoSaijo,MikiUchino,ToshihideKuriharaandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC移植片対宿主病(GVHD)によるドライアイ(DE)発症に伴い近視化を伴うC3症例を経験したので報告する.症例1はC32歳,男性.Fanconi貧血(先天性再生不良性貧血)に対し非血縁者骨髄移植を行った.移植前の自覚的視力検査による等価球面度数(SE)は右眼.2.75Dと左眼.3.00Dであった.移植後C4カ月時CGVHDによるCDEを発症し,同時期のCSEは右眼.2.75Dと左眼.4.50Dで左眼の近視化を認めた.移植後C7カ月時のCSEは右眼.3.00Dと左眼C.4.625Dで時期の差があるが両眼の近視化を認めた.症例C2はC34歳,女性.急性リンパ性白血病に対し非血縁骨髄移植を行った.移植前の自覚的視力検査によるCSEは右眼+3.375Dと左眼+0.50D.移植後C13カ月時にCGVHDによるDEを発症し,同時期のCSEは右眼+2.50Dと左眼C0.00Dと両眼の近視化を認めた.症例C3はC40歳,女性.急性骨髄性白血病に対し血縁末梢血幹細胞移植を行った.移植前の自覚的視力検査のCSEは右眼.1.50Dと左眼C0.00D.移植後9カ月時にCDEを発症し,同時期のCSEは右眼.1.50Dと左眼.0.625Dで左眼の近視化を認めた.他覚的検査では移植前後のSEの差が右眼1.125D,左眼C1.75Dと両眼の近視化を認めた.3症例ともに白内障は認めず,眼底に異常は認められなかった.炎症性疾患であるCGVHDによるCDE発症時期に,近視化するC3症例を認めた.GVHDと近視化との関連に関する因子について今後さらなる検討が必要である.CIn.ammatoryCdisease,CincludingCautoimmuneCdiseaseCandCallergicCconjunctivitis,CisConeCofCtheCriskCfactorsCforCdevelopingmyopia.Wereport3casesofdevelopingmyopiaalongwithnewonsetofdryeyeafterhematopoieticstemCcellCtransplantation.CCaseC1.CAC32-year-oldCmaleCunderwentCunrelatedCboneCmarrowtransplantation(BMT)CforFanconianemia.Sphericalequivalent(SE)wasC.2.75DrighteyeandC.3.00DlefteyebeforeBMT.Hedevel-opeddryeyerelatedtochronicgraft-versus-hostdisease(GVHD),withmouthinvolvement,4monthsafterBMT.SECchangedCtoC.2.75DCrightCeyeCandC.4.50DCleftCeyeCatConsetCofCGVHD-relatedCdryCeye.CThreeCmonthsCafterConset,CSEChadCincreasedCtoCmyopiaCofC.3.00DCrightCeyeCandC.4.625DCleftCeye.CCaseC2.CAC34-year-oldCfemaleCunderwentunrelatedBMTforacutelymphocyticleukemia.SEwas+3.375Drighteyeand+0.50DlefteyebeforeBMT.CSheCdevelopedCdryCeyeCrelatedCtoCchronicGVHD(cGVHD)13monthsCafterCBMT.CSECchangedCto+2.50DCrightCeyeCandC0.00DCleftCeyeCatConset.CCaseC3.CAC40-year-oldCfemaleCunderwentCunrelatedCperipheralCbloodCstemCcelltransplantation(PBSCT).SEwasC.1.50Drighteyeand0.00Dlefteyebeforetransplantation.ShedevelopedcGVHD-relateddryeye9monthsafterPBSCT.SEofherlefteyechangedC.0.625Datonset.Objectivemeasure-mentofrefractionandmyopicchangeinbotheyeswereobserved9monthsafterPBSCT.The3casesexhibitednoCcataractCorCfundusCabnormalCchangesCatCtheConsetCofCdryCeye.CTheseCcasesCsuggestCthatCcGVHD-relatedCin.ammationorcornealmorphologicalchangesduetodryeyein.uencerefractivechangesindevelopingmyopia.〔別刷請求先〕伊藤賀一:〒210-0013神奈川県川崎市川崎区新川通C12-1川崎市立川崎病院〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YoshikazuIto,M.D.,DepartmentofOphthalmologyKeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC684(114)(114)C684AdditionalCexaminationCwithCgreaterCnumbersCofCpatientsCwillCbeCrequiredCtoCcon.rmCtheCrelationshipCbetweenCGVHDandmyopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(5):684.688,2019〕Keywords:造血幹細胞移植,慢性移植片対宿主病,ドライアイ,近視,炎症.hematopoieticstemcelltransplan-tation,chronicgraft-versus-hostdisease,drydyedisease,myopia,in.ammation,Cはじめに近年,近視は世界的に増加傾向にあり,その対策は社会的な重要課題となっている1).近視に至る原因は現在のところ正確には解明されておらず,遺伝的な要因に,環境的な要因が加わって近視化が進んでいくものと考えられている.近年,近視化の要因の一つとして,systemicClupusCery-thematosus,リウマチを含む自己免疫疾患2,3)やアレルギー性結膜炎などのアレルギー性疾患の炎症性疾患が報告されている4,5).片眼性の近視化に伴う片眼性の毛様体炎の報告もある6).しかし,近視化と炎症との関連についての報告は少なく,その詳細な病態機序に関しても情報が限られている.移植片対宿主病(graft-versus-hostdisease:GVHD)は造血幹細胞移植後に生じる免疫反応異常によって生じる急性および慢性炎症による合併症である7).GVHDによる眼合併症のなかでもっとも多い疾患がドライアイであり,レシピエントの約半数が発症することが知られている8).造血幹細胞移植後,平均半年後にCGVHDに伴うドライアイが発症するとされる.また,そのなかの約半数は急速に重症化することが多い8).GVHDにおける病態はドナーの免疫担当細胞と,レシピエントの組織との高度な慢性炎症による免疫応答異常が病態の中心となる9).筆者らの施設では,造血幹細胞移植前から経時的に眼所見の経過を診察し移植後の合併症であるCGVHDによるドライアイの発症に遭遇する機会が多い.今回,筆者らは造血幹細胞移植後の新規ドライアイ発症時期に近視化を伴ったC3症例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕32歳,男性.2014年C5月,Fanconi貧血に対し非血縁者骨髄移植を行った.造血幹細胞移植前所見:矯正視力は,右眼=(1.2C×sph.2.25D(cyl.1.00DAx5°),左眼=(1.2C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx25°).等価球面度数は,右眼.2.75Dと左眼.3.00Dであった.移植後4カ月時にGVHDによるドライアイを発症し,等価球面度数は,右眼C.2.75Dと左眼C.4.50Dと左眼の近視化を認めた.ドライアイの所見は自覚症状として眼異物感と霧視が出現し,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreakuptime:BUT)はC5/5秒,フルオレセイン染色スコアはC0/0点,リサミングリーン染色スコアC1/1点であった.さらにドライアイ発症からC3カ月後の,移植後C7カ月時の等価球面度数は,右眼がC.3.00Dと左眼C.4.625Dと両眼の近視化を認めた.全身的には皮膚,口腔のCGVHDを併発していた.〔症例2〕34歳,女性.2015年C2月,急性リンパ性白血病に対し非血縁骨髄移植を行った.移植前の矯正視力は右眼=(1.0C×sph+4.00D(cyl.1.25DAx180°),左眼=(1.2C×S+0.50D°).等価球面度数は,右眼+3.375Dと左眼+0.50D.移植後C13カ月時にドライアイを発症した.ドライアイの所見は,自覚症状として,眼掻痒感および眼乾燥感があり,Schirmer値はC6/6mm,BUT右眼=5/3秒,フルオレセイン染色スコアC1/3点であった.同時期の等価球面度数は,右眼+2.50Dと左眼+0.00Dと両眼の近視化を認めた.全身的には皮膚のGVHDを併発していた.〔症例3〕40歳,女性.2015年C7月,急性骨髄性白血病に対し血縁者末梢血幹細胞移植を行った.移植前の矯正視力は,右眼=(1.2C×sph.1.00D(cyl.1.00DAx100°),左眼=1.2(n.c.).等価球面度数は,右眼C.1.50Dと左眼C0.00D.移植後9カ月時にドライアイを発症した(図1).ドライアイの所見は自覚症状として,ドライアイの発症前に眼脂が先行し,その後,眼乾燥感と眼羞明感が認められた.Schirmer値はC1/2Cmm,BUTは2/2秒,フルオレセイン染色スコアはC5/7点であった.ドライアイ発症時の等価球面度数は右眼.1.50D,左眼C.0.625Dと左眼の近視化を認めた.全身的には肺のCGVHDを併発していた.他覚的検査では造血幹細胞移植前後の等価球面度数の差が右眼C1.125D左眼C1.75Dと両眼の近視化を認めた.3症例の臨床的背景を表1に示す.経過中に眼圧,前眼部,中間透光体に異常はなかった.3症例については他覚的視力検査,自覚的視力検査の両方で,またはどちらか一方で近視化を認めた(図2).CII考按これまでに,造血幹細胞移植前後の屈折度の変化に関する報告は認められない.今回,筆者らは,造血幹細胞移植後の免疫性ドライアイの発症とほぼ同時期に,または遅れて近視化を認めたC3症例を経験した.自覚的,他覚的屈折度の変化両者を考慮するとC3例ともに両眼に近視化を認めた.表13症例の臨床的背景と経過症例症例C1症例C2症例C3年齢32歳34歳40歳性別男性女性女性原疾患Fanconi貧血急性リンパ性白血病急性骨髄性白血病移植方法非血縁骨髄移植非血縁骨髄移植血縁者末梢血幹細胞移植移植前CSE(自覚)C.2.75D/.3.00D+3.375/+0.50DC.1.50D/0.00D発症時CSE(自覚)C.3.00D/.4.625D+2.50D/0.00DC.1.50D/.0.625D移植前CSE(他覚)C.5.00D/.6.125D+3.625D/+0.25DC.1.75D/.0.75D発症時CSE(他覚)C.4.875D/.6.75D+2.50D/0.00DC.2.875D/.2.50Dドライアイ発症時期4カ月13カ月9カ月近視進行時期(自覚)左眼4カ月(DEと同時期)右眼7カ月両眼1C3カ月(DEと同時期)左眼9カ月(DEと同時期)近視進行度(自覚)右眼C0.25,左眼C1.625右眼C0.875,左眼C0.50左眼C0.625近視進行度(他覚)左眼C0.625右眼C1.125,左眼C0.25右眼C1.125,左眼C1.75水晶体透明透明透明眼底異常なし異常なし異常なし全身CGVHD皮膚,口腔皮膚肺SE:等価球面度数,DE:ドライアイ,GVHD:移植片対宿主病.図1症例3におけるGVHDによるドライアイ発症時の所見a:フルオレセイン染色角膜所見.涙液層が早期に破綻し,角膜中央から下方にびまん性の高度な上皮障害を認める.b:ドライアイ発症早期から瞼結膜上皮に線維化所見を認める.造血幹細胞移植後の合併症の一つにCGVHDがあり,移植片のドナーリンパ球や抗原提示細胞とレシピエントにおける組織および免疫担当細胞との間の反応により制御不能で高度な免疫応答が惹起される10).眼,口腔,肺,消化管,肝臓,皮膚が標的臓器となる.造血幹細胞移植後に生じるCGVHDによる合併症のなかで,眼科領域でもっとも頻度が高いのがドライアイであるが,その他にマイボーム腺機能不全,虹彩炎,白内障,網膜出血が認められる8).移植後のドライアイの発症時期には標的臓器の免疫状態が急速に変化すると考えられる.これまでにヒト,マウスの涙腺,結膜への多数の免疫担当細胞の浸潤が報告されている11,12).病的線維化と異常な修復過程により病的に変化した細胞外器質が涙腺および結膜に沈着することが報告されている11,12).近年,近視マウスモデルでの近視の病態メカニズムの解明が進められている.近視マウスモデルでは近視に伴う,炎症関連分子CnuclearCfactorCkB(NF-kB),interleukin(IL)C-6,CtumorCnecrosisfactor(TNF)C-aの上昇が報告されている2).これらの分子はCGVHDにおける涙液,マウス涙腺,全身CGVHD標的臓器での発現の上昇が報告されている9,13,14).GVHDによる高度な急性および慢性炎症は近視化(D)症例1(D)症例2(D)症例3--2.52移植前7カ月3.54移植前13カ月0.51移植前9カ月---3.5342.53-0.502-4.51.5-1--5.550.51--1.52-6-6.50-2.5-7-0.5-3右眼(自覚)左眼(自覚)右眼(自覚)左眼(自覚)右眼(自覚)左眼(自覚)右眼(他覚)左眼(他覚)右眼(他覚)左眼(他覚)右眼(他覚)左眼(他覚)図23症例の移植前後における自覚的,他覚的屈性度の変化自覚的視力検査での等価球面度数の変化(青),他覚的視力検査での等価球面度数の変化(赤).3症例ともに他覚的検査,自覚的検査両方で,またはどちらか一方で,近視化を認める.直線(右眼),点線(左眼).に影響を与える可能性があると考えられる.GVHDの異常な免疫応答による炎症のおもな部位としての涙腺,結膜の隣接組織である強膜への炎症の波及がある可能性が考えられる.とくに症例C1は両眼性でドライアイの発症時期に一致して2D以上の屈折変化をきたしたことは興味深い.症例C2,症例C3は片眼性であるが,ドライアイの発症時期とほぼ同じ時期に近視化を認めた症例がC1例,約C1年後の近視化を検出したC1例を経験したことは意義深い(図3).発症後に継続している慢性炎症の結果として近視化に影響を与えることも報告されており,GVHDによる慢性炎症が近視化に与える可能性は否定できない.近年,造血幹細胞移植件数は世界的に年間C60,000例,わが国でもC5,000例以上が行われ15),新規ドライアイ症例は2,500例を超える.晩期合併症の対策が向上し,長期生存者が増加しているなか15),ドライアイの発症に伴う屈折度の変化の詳細を検討することは喫緊の課題と考えられ,また近視と慢性炎症のメカニズムの一つを検討するうえでも意義深いと考えられる.今回の症例の近視化の要因として,慢性炎症に伴う眼軸の延長,ドライアイによる角膜形状の変化,水晶体の前方移動,水晶体の核硬化があげられる.今回の症例は全例C40歳以下であり,水晶体核硬化は認められなかった.中間透光体,眼底にも全例病的変化は認められなかった.GVHDによるドライアイは慢性炎症が病態の中心的役割を担うため,ドライアイの発症に伴い,または遅れて近視化に影響を与えた可能性は否定できない.当科では造血幹細胞移植前から移植症例を診察し,移植前後とドライアイの発症前後の屈折度の変化との関連性を調べることが可能であった.今後,ドラ骨髄移植ドライアイ発症症例14M7M左眼近視化右眼近視化(自他覚)骨髄移植ドライアイ発症症例213M両眼近視化(自他覚)末梢血管細胞移植ドライアイ発症症例39M左眼近視化(自覚)両眼近視化(他覚)図33症例のドライアイ発症と近視化の時期の関係ドライアイの発症とほぼ同時期に近視化が進む症例(症例C2,3)と発症後に時期をずらして近視化が進む症例(症例C1)が認められた.また,両眼同時に近視化が進む症例(症例C2)と時期をずらして片眼ずつ近視化が進む症例(症例C1)が認められた.C.:造血幹細胞移植時,.:ドライアイ発症時,.:自覚的視力検査で近視化が進んだ時期.イアイの発症と屈折度の変化の関連性を多数例で調べることは意義深いと考えられる.一方で,ドライアイの発症と同時か発症から近視化した期間が比較的短いことから眼炎症とは別の要因が関与したことも考えられる.とくにドライアイの発症に伴う角膜形状の変化が要因となった可能性も否定できない.今後,多数例での検討が必須と考えられ,現在症例数を増やして研究を進めている.移植前とドライアイ発症後の眼軸長の変化,角膜形状解析,波面収差の変化,涙液中の炎症メディエーターの解析,さらに基礎研究における分子レベルでの病態解明などが今後の検討課題と思われる.謝辞:稿を終えるにあたり,医療法人湖崎会湖崎眼科前田直之先生によるご助言とご示唆に深謝いたします.利益相反:坪田一男:ジェイアエヌ【F】,参天製薬【F】,興和【F】,大塚製薬【F】,ロート【F】,富士ゼロックス【F】,アールテック・ウエノ【F】,坪田ラボ【F】,オフテスクス【F】,わかさ生活【F】,ファイザー【F】,日本アルコン【F】,QDレーザ【F】,坪田ラボ【R】,花王【R】,Thea,Thea社【R】,【P】小川葉子:参天製薬【F】,キッセイ薬品【F】,【P】内野美樹:参天製薬【F】,ノバルティス【F】,千寿【F】,アルコン【F】栗原俊英:富士ゼロックス【F】,興和【F】,坪田ラボ【F】,参天製薬【F】,ロート製薬【F】,レストアビジョン【I】,坪田ラボ【I】,【P】文献1)ToriiCH,CKuriharaCT,CSekoCYCetal:VioletClightCexposureCcanbeapreventivestrategyagainstmyopiaprogression.EBioMedicineC15:210-219,C20172)LinCHJ,CWeiCCC,CChangCCYCetal:RoleCofCchronicCin.am-mationinmyopiaprogression:Clinicalevidenceandexperi-mentalCvalidation.EBioMedicineC10:269-281,C20163)FledeliusCH,CZakCM,CPedersenFK:RefractionCinCjuvenileCchronicarthritis:along-termfollow-upstudy,withempha-sisConmyopia.ActaOphthalmolScandC79:237-239,C20014)HerbortCCP,CPapadiaCM,CNeriP:MyopiaCandCin.amma-tion.JOphthalmicVisResC6:270-283,C20115)WeiCC,KungYJ,ChenCSetal:Allergicconjunctivitis-inducedCretinalCin.ammationCpromotesCmyopiaCprogres-sion.EBioMedicineC28:274-286,C20186)IjazU,HabibA,RathoreHS:Ararepresentationofcycli-tisCinducedCmyopia.CJCCollCPhysiciansCSurgCPakC28:S56-S57,C20187)ShikariCH,CAntinCJH,CDanaR:OcularCgraft-versus-hostdisease:areview.SurvOphthalmolC58:233-251,C20138)OgawaY:OkamotoS,WakuiMetal:Dryeyeafterhae-matopoieticCstemCcellCtransplantation.CBrCJCOphthalmolC83:1125-1130,C19999)FerraraCJL,CLevineCJE,CReddyCPCetal:Graft-versus-hostCdisease.LancetC373:1550-1561,C200910)OgawaCY,CMorikawaCS,COkanoCHCetal:MHC-compatibleCboneCmarrowCstromal/stemCcellsCtriggerC.brosisCbyCacti-vatingChostCTCcellsCinCaCsclerodermaCmouseCmodel.CElifeC5:e09394,C201611)HerretesS,RossDB,Du.ortSetal:RecruitmentofdonorTCcellsCtoCtheCeyesCduringCocularCGVHDCinCrecipientsCofCMHC-matchedCallogeneicChematopoieticCstemCcellCtrans-plants.InvestOphthalmolVisSciC56:2348-2357,C201512)OgawaY,ShimmuraS,KawakitaTetal:Epithelialmes-enchymalCtransitionCinChumanCocularCchronicCgraft-ver-sus-hostdisease.AmJPatholC175:2372-2381,C200913)OgawaY,HeH,MukaiSetal:Heavychain-hyaluronan/CpentraxinC3fromCamnioticCmembraneCsuppressesCin.am-mationCandCscarringCinCmurineClacrimalCglandCandCcon-junctivaofchronicgraft-versus-hostdisease.SciRepC7:C42195,C201714)RiemensCA,CStoyanovaCE,CRothovaCACetal:CytokinesCinCtearC.uidCofCpatientsCwithCocularCgraft-versus-hostCdis-easeCafterCallogeneicCstemCcellCtransplantation.CMolCVisC18:797-802,C2012,15)稲本賢弘:移植後長期フォローアップと慢性CGVHD.日本造血細胞移植学会雑誌C6:84-97,C2017***

培養ヒト結膜上皮細胞における高浸透圧ストレス負荷に対するカテキンの抑制効果

2016年6月30日 木曜日

《第35回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科33(6):867.873,2016c培養ヒト結膜上皮細胞における高浸透圧ストレス負荷に対するカテキンの抑制効果木崎順一郎*1,2宇高結子*1佐々木晶子*1辻まゆみ*1友寄英士*1,2當重明子*1,2岩井信市*1,3小口勝司*1*1昭和大学医学部薬理学講座医科薬理学部門*2昭和大学医学部眼科学講座*3昭和大学薬学部社会健康薬学講座医薬品評価薬学部門Anti-inflammatoryEffectsofEGCGorEGCG3MeagainstHyperosmotic-inducedInflammationinHumanConjunctivalEpitheliumCellsJunichiroKizaki1,2),YukoUdaka1),AkikoSasaki1),MayumiTsuji1),EijiTomoyori1,2),AkikoToju1,2),ShinichiIwai1,3)andKatsujiOguchi1)1)DepartmentofPharmacology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofResearchandDevelopmentforInnovativeMedicalNeeds,Health,ShowaUniversitySchoolofPharmacyドライアイは,涙液層の浸透圧上昇と,これに伴う眼表面の炎症がおもな病態と考えられている.近年,茶カテキン,とくに(-)-EpigallocatechinGallate(EGCG)および,(-)-Epigallocatechin3-(3”-O-Methyl)Gallate(EGCG3”Me)の高い生理活性が報告されている.本研究では,培養ヒト結膜上皮細胞株を用い,培養液にスクロースを添加することで高浸透圧ストレス負荷を施し,アポトーシス解析,MAPK(ERK,JNK,p38MAPK)リン酸化能およびIL-6生成量を測定し,さらにEGCG,EGCG3”Meを前処置による抑制効果を検討した.その結果,高浸透圧ストレス負荷により,アポトーシス細胞の割合,JNK,p38MAPKリン酸化能およびIL-6生成量が有意に増加した.これに対し,EGCG3”MeはIL-6生成量とp38MAPK活性の上昇を有意に抑制したが,EGCGではIL-6生成の抑制は認めなかった.以上より高浸透圧ストレス誘発性炎症に対し,EGCG3”Meはp38MAPKリン酸化を抑制することで,IL-6生成を抑え,抗炎症作用を示すものと考えた.Osmoticpressureoftearsindryeyepatientsisusuallyhigherthaninnormalpersons.Itisassociatedwithincreasedosmolarityofthetearfilmandinflammationoftheocularsurface.Inaddition,teacatechinssuchas(-)-EpigallocatechinGallate(EGCG)and(-)-Epigallocatechin3-(3”-O-Methyl)Gallate(EGCG3Me)havemultiplebiologicalactions,includinganti-allergy,anti-inflammatoryandanti-canceractivity.Inthisstudy,weexaminedwhetherEGCGandEGCG3Meattenuatethehyperosmosis-inducedinflammationinhumanconjunctivalepitheliumcells(HCEcells).HCEcellswereexposedtohyperosmoticmedium(423mOsm,i.e.,123mMsucroseinmedium),andthenexaminedastotherateofapoptosis,IL-6levelsandactivityofMAPKs(ERK,JNKandp38MAPK).EGCG3MesignificantlysuppressedtheincreaseinIL-6levelandelevationofphosphorylatedp38MAPK.EGCG3MeinductionofinflammationmorepotentthanEGCGwasalsoindicated.TheseresultssuggestthatEGCG3Memightbeuseableasatherapeuticapproachindryeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(6):867.873,2016〕Keywords:結膜,ドライアイ,炎症,高浸透圧,カテキン.conjunctiva,dryeye,inflammatory,hyperosmolarity,catechin.〔別刷請求先〕木崎順一郎:〒142-8555東京都品川区旗の台1丁目5-8昭和大学医学部薬理学講座医科薬理学部門Reprintrequests:JunichiroKizaki,M.D.,DepartmentofPharmacology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,1-5-8Hatanodai,Shinagawa,Tokyo142-8555,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(107)867 はじめに近年,生活環境の変化(高齢化,コンタクトレンズ装用者の増加,エアコン普及,パソコン,スマートフォン,ゲームなどのデジタル機器(visualdisplayterminals:VDT)の長時間使用などにより,ドライアイの有病率が増えている.とくにオフィスワーカーの約6割がドライアイもしくはその疑いがあり,QOLの低下や作業効率の低下などにつながるという報告もあり1),いわば現代病の一つといっても過言ではない.ドライアイの発症のメカニズムとして,眼表面の浸透圧の上昇が指摘されている.涙液の産生低下,あるいは蒸発亢進による涙液量の減少により眼表面の浸透圧が上昇すると炎症反応が起こり,結膜傷害,ゴブレット細胞の減少を引き起こし,涙液層の不安定化などにつながる.その結果,さらに涙液が減少するなどの悪循環を起こすこと2)が示されている.米国では,とくにこの考え方が強く,ドライアイの診断において眼表面の浸透圧上昇を重視しており,治療の中心は抗炎症薬投与になっている3).近年,日本緑茶に豊富に含まれるポリフェノール(greenteapolyphenol)のうち,カテキン類には,抗酸化作用,抗腫瘍作用,抗転移作用,血圧抑制作用,動脈硬化抑制作用,脂質代謝改善作用,抗菌作用,抗ウイルス作用,抗う蝕作用,抗アレルギー作用といった多様な生理作用を有することが報告されている.とくに,(-)-Epigallocatechingallate(EGCG)は,茶特有のポリフェノール成分で4),上記作用が強力に出ることが多数報告されている.いわゆる緑茶の代表的な品種「やぶきた」には,カテキン類が10.20%の割合で含まれており,その約半分をこのEGCGが占めるとされている.一方,EGCGの3つの水酸基のうちortho位をメチル化した(-)-Epigallocatechin3-(3”-O-Methyl)gallate(EGCG3”Me)の強い生理活性が最近注目されている.これは「べにふうき」「べにふじ」「べにほまれ」などの品種の茶葉に多く含まれ,「やぶきた」には含まれていない.EGCG3”Meは高い抗酸化活性を持ち,とくに抗アレルギー作用はEGCGの約2.5倍との報告がある.そこで今回,筆者らは,培養ヒト結膜上皮(humanconjunctivalepithelium:HCE)細胞を用いて,眼表面のドライアイ病態を想定した高浸透圧ストレス負荷状態における炎症誘発経路を明らかにするとともに,これに対するEGCGとEGCG3”Meの抗炎症作用およびその有用性を比較検討した.なお,今回使用した細胞株は,ヒト子宮頸癌由来上皮細胞(HeLa細胞)の混入が疑われているが,株化したヒト結膜上皮細胞の代用がないため,HCE細胞とHeLa細胞の比較検討を行った.I材料および方法1.細胞培養ヒト眼球由来結膜上皮細胞株(Clone-1-5c-4:HCE細胞)をDSファーマメディカル(大阪)より購入,細胞は2mMGlutamine+10%FetalBovineSerum(FBS)含有Medium199(Sigma-AldrichCo.,MO,USA)培地中,5%CO2,37℃にて培養した.ヒト子宮頸癌由来上皮細胞(ATCCCCL2.2:HeLa細胞)は,FBS含有E-MEMmedium培地中,5%CO2,37℃にて培養した.2.高浸透圧ストレスFBS非含有medium(289mOsm/L)に123mMのスクロース(和光純薬工業,大阪)を添加し,Hyperosmoticmedium(423mOsm/L)を調整し5),培養液をこれに置換することで,高浸透圧ストレス負荷(Hyper)群とした.対照として,スクロース非添加群をコントロール(Cont)群とした.3.使用薬物カテキン類はそれぞれEGCGを和光純薬工業から,EGCG3”Meを長良サイエンス(岐阜)から購入した.Mitogen-activatedproteinkinaseinhibitor(MAPKi)は,p38MAPKinhibitor(p38i)としてSB203585,extracellularsignal-regulatedkinase(ERK)inhibitor(ERKi)としてPD98059をSigma-AldrichCo.(MO,USA)から購入,c-JunN-terminalkinase(JNK)inhibitor(JNKi)としてSP600125を和光純薬工業(東京)から購入した.4.実験プロトコール細胞を測定項目に応じて適切な濃度に調整して播種し,24時間培養後,Cont群には高浸透圧ストレス負荷の1時間前に,p38i1μM,JNKi10μM,ERKi10μM,EGCG5,10,20μM,およびEGCG3”Me5,10,20μMを添加した.その1時間後,Hyper群は培養液を高浸透圧ストレスmediumに置換し,ただちに,各MAPKiおよびカテキン類をCont群と同じ濃度で添加した.両群ともその状態で培養を続け,各時点のサンプルを実験に供した.5.高浸透圧負荷後のアポトーシス細胞の経時的解析HCE細胞を3×105cells/mLに調整し6穴プレートに播種し,先に示した条件で24時間培養後,高浸透圧負荷を行った.その後1,3,6,15,24時間時点で抽出し,MuseRCellAnalyzer(MerckMillipore,Germany)にて,MuseTMAnnexinVandDeadCellKit(EMDMilliporeCorporation,USA)を用いて,アポトーシス細胞の表面に提示されたホスファチジルセリン(PS)とアネキシンV-PEが結合する割合から,アポトーシス細胞の割合を検出した.6.高浸透圧負荷後のIL.6生成量の経時的変化測定HCE細胞を3×105cells/mLに調整し6穴プレートに播種868あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(108) し,24時間培養後,高浸透圧負荷を行った.その後1,3,6,15,24時間時点の上清をサンプルとし,Enzyme-LinkedImmunoSorbentAssay(ELISA法)にてHRP標識抗リン酸化IL-6抗体と発色試薬を用いてIL-6を検出し,HumansIL-6InstantELISA(eBioscience,AffymetrixInc,CA,USA)を用いて,マイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した.7.高浸透圧負荷1時間後のMAPK(ERK,JNK,p38MAPK)リン酸化能測定HCE細胞,HeLa細胞を1×105cells/mLに調整し,96穴プレートに播種し,24時間培養した.その後,各MAPKiおよび,HCE細胞については5,10,20μMEGCG,EGCG3”Meを,HeLa細胞については10μMEGCG,EGCG3”Meを添加し,その1時間後,高浸透圧ストレス負荷を行い,1時間後のMAPKリン酸化能を測定した.細胞は,HRP標識抗リン酸化各MAPK抗体と発色基質を用いてリン酸化各MAPKをそれぞれ検出し〔RayBioRCell-Basedp38(Thr180/Tyr182)ELISAkit,RayBioRCell-basedJNK(Thr183/Tyr185)ELISAkit,RayBioRCell-BasedERK(Thr180/Tyr182)ELISAkit(以上,RayBiotech,Inc.,GA,USA)〕を用いてマイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した.8.EGCG,EGCG3”Me添加による高浸透圧負荷24時間後のIL.6生成量の測定HCE細胞,HeLa細胞を3×105cells/mLに調整し6穴プレートに播種し,24時間培養後,EGCG(5,10,20μM),EGCG3”Me(5,10,20μM)およびp38i(1μM),JNKi(10μM),ERKi(10μM)を添加し,その1時間後,高浸透圧ストレス負荷を行い,24時間後のIL-6生成量をHumansIL-6InstantELISA(eBioscience,Inc.,CA,USA)を用いて,マイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した.9.67kDaLaminineReceptor(67LR)の免疫細胞染色HCE細胞を3×105cells/mLに調整し,ChamberSlideTMで24時間培養後,EGCG(10μM),EGCG3”Me(10μM)を添加し,その1時間後に浸透圧負荷を行った.負荷後1時間で細胞をホルマリン固定し,ENVISION染色システムを用い,一次抗体〔Anti-67kDaLamininReceptor抗体MLuC5(ab3099);Abcam,UK〕,を2時間反応させ,その後,二次抗体とパーオキシダーゼが結合しているデキストランポリマー試薬を反応させて,核や細胞質の染色を行った.10.統計処理実験結果は平均±標準偏差(n=3.12)で示した.HCE細胞,HeLa細胞におけるHyper群でのパラメーターはt検定を用いてCont群と比較検討した.また,HCE細胞における高浸透圧ストレス負荷後のMAPKリン酸化能,IL-6生成量(109)に対するカテキン類の抑制効果についてはANOVA-Bonferroni多重比較検定を用いてHyper群と比較検討し,p<0.05以下を有意とした.II結果1.高浸透圧ストレス負荷によるアポトーシス細胞の経時的変化図1AにHCE細胞に高浸透圧ストレス負荷を施した後の1,3,5,15,24時間後のアポトーシス細胞の経時的変化を,AnnexinVを用いてアポトーシス細胞の割合(%)で示した.Hyper群は高浸透圧ストレス負荷後,アポトーシス細胞の割合が経時的に上昇し,6時間以降,Cont群と比べ有意な増加を認めた(n=6,p<0.01).図1BにHCE細胞とHeLa細胞の高浸透圧ストレス負荷24時間後のアポトーシス細胞の割合(%)を示した.HeLa細胞においても,高浸透圧ストレス負荷によりアポトーシス細胞の割合は有意に上昇した(n=3,p<0.01).2.高浸透圧ストレス負荷によるIL.6生成量の経時的変化図2AにHCE細胞に高浸透圧ストレス負荷1,3,6,15,24時間後のIL-6生成量の経時的変化を示した.Hyper群は高浸透圧ストレス負荷により,IL-6生成量が経時的に上昇し,15時間以降,Cont群と比べ有意に上昇した(n=6,p<0.01).図2BにHCE細胞とHeLa細胞の高浸透圧ストレス負荷24時間後のIL-6生成量を示した.HeLa細胞もHyper群はCont群に比べ有意な増加を認めたが,その生成量はHCE細胞に比べ明らかに低値を示した.3.HCE細胞における高浸透圧ストレス負荷によるERK,JNKおよびp38MAPKリン酸化能とカテキン類の抑制効果図3にHCE細胞における高浸透圧ストレス負荷1時間後のERK(A),JNK(B),p38MAPK(C)のリン酸化能を示した.高浸透圧ストレス負荷によるERKリン酸化能の変化は認められなかった(n=6).高浸透圧ストレス負荷後1時間での,JNKおよびp38MAPKのリン酸化能はCont群と比較し有意に上昇した.JNKリン酸化能の上昇に対し,EGCGはいずれの濃度においても有意な抑制を示した(n=12,p<0.01).一方,p38MAPKリン酸化能の上昇に対しては,EGCG3”Meで濃度依存的に有意な抑制を示した(n=6,p<0.01,0.05)が,EGCGは5μMで有意な抑制効果を示した(n=6,p<0.05)が,10,20μMでは変化は認められなかった.一方,HeLa細胞においては,高浸透圧ストレス負荷による,ERK,JNK,p38MAPKのリン酸化能に有意差は認めなかった.(ERK:Cont群1.525±0.058,Hyper群1.590±0.055;n=6.JNK:Cont群1.472±0.075,Hyper群1.556±あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016869 ABA2(%)1.8(%)#$1001001.690****901.4Phosphop38/totalp38ratioPhosphoJNK/totalJNKratioPhosphoERK/totalERKratio**80RateofApoptoticcells1.210.80.60.40.270605040303020200(μM)1010001361524Incubationtime(hours)HCEcellsHeLacellsBContHyper21.81.61.4図1高浸透圧ストレス負荷後のアポトーシス細胞の割合HCE細胞またはHeLa細胞における高浸透圧ストレス負荷後のアポトーシス細胞の割合を,MuseTMCellAnalyzerにてAnnexinVを用いて測定した.A:HCE細胞に対する高浸透圧ストレス負荷後1,3,6,15,24時間後のアポトーシス細胞の経時的変化.平均±標準偏差,n=6,*p<0.05,**p<0.01vsCont(t検定).B:高浸透圧ストレス負荷24時間後のHCE細胞とHeLa細胞におけるアポトーシス細胞の比較.平均±標準偏差,n=3,#p<0.01,$p<0.01vsCont(t検定).AB**1.2******1**0.80.60.40.20(μM)(pg/mL)(pg/mL)C24504501.81.61.41.2**1**0.8****0.60.40.2400(24h)(24h)(24h)(24h)400$#350****350300300IL-6levels2502502002001501501001005050000(1361524μM)Incubationtime(hours)HyperContHCEcellsHeLacells図2高浸透圧ストレス負荷後のIL.6生成量HCE細胞またはHeLa細胞における高浸透圧ストレス負荷後のIL-6生成量を,ELISA法を用いて測定した.A:HCE細胞に対する高浸透圧ストレス負荷後のIL-6生成量の1,3,6,15,24時間後の経時的変化.平均±標準偏差,n=6.*p<0.05,**p<0.01vsCont(t検定).B:高浸透圧ストレス負荷後24時間のHCE細胞とHeLa細胞におけるIL-6生成量の比較.平均±標準偏差,n=3,#p<0.01,$p<0.01vsCont(t検定)870あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016図3高浸透圧負荷1時間後のMAPK(ERK,JNK,p38MAPK)リン酸化能とカテキン類による抑制効果HCE細胞にMAPKi,EGCG(5,10,20μM),EGCG3Me(5,10,20μM)を添加し,1時間後に高浸透圧ストレスを負荷した.その後1時間インキュベートし,各MAPKのリン酸化能をELISA法にて測定した.結果は,全MAPKに対するリン酸化されたMAPKの割合で示した.A:ERKリン酸化能,B:JNKリン酸化能,C:p38MAPKリン酸化能.平均±標準偏差,n=6.12,*p<0.05,**p<0.01vsHyper(ANOVA-Bonferroni多重比較検定).(110) 0350400450(pg/mL)**********(ContHyperp38i(1)(10)EGCG(5)(10)(20)(5)(10)(20)0350400450(pg/mL)**********(ContHyperp38i(1)(10)EGCG(5)(10)(20)(5)(10)(20)IL-6levels300250200150図4高浸透圧負荷後24時間後のIL.6生成量に対するカテキン類の抑制効果100HCE細胞にJNKi,p38MAPKi,EGCG(5,10,20μM),50EGCG3Me(5,10,20μM)を添加し,1時間後に高浸透圧ストレスを負荷した.その後24時間インキュベートし,培養液の上清を用い,ELISA法にてIL-6生成量を測定した.平均±標準偏差,n=6.*p<0.05,**p<0.01vsHyper(ANOVA-Bonferroni多重比較検定).μM)ContHyperEGCGEGCG3”Me図5高浸透圧ストレス負荷後1時間の67LRに対する免疫細胞染色HCE細胞に,EGCG(10μM)またはEGCG3Me(10μM)を添加し,1時間後に高浸透圧ストレスを負荷した.その後1時間インキュベートし,細胞をホルマリン固定後,ENVISION染色システムを用い,一次抗体として抗67LR抗体を2時間反応させた後,二次抗体とペルオキシダーゼが結合しているデキストランポリマー試薬を1時間反応させて,核や細胞質の染色を行った(×200).(111)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016871 0.080;n=6.p38MAPK:Cont群0.529±0.060,Hyper群0.529±0.014;n=6).4.HCE細胞における高浸透圧ストレス負荷24時間後のIL.6生成に対するカテキン類の抑制効果図4にHCE細胞における高浸透圧ストレス負荷24時間後のIL-6生成量に対するEGCG,EGCG3”Meの抑制効果を示した.高浸透圧ストレス負荷後24時間で,Cont群と比べIL-6生成量は有意に上昇した(n=12,p<0.01).これに対しEGCG3”MeでIL-6生成量は濃度依存的に抑制され,20μMで有意な抑制効果を認めた(n=6,p<0.01).一方,EGCGでは抑制効果は認められなかった.5.高浸透圧ストレス負荷による67LR発現誘導の免疫細胞染色図5にEGCGまたはEGCG3”Meを添加したHCE細胞における高浸透圧ストレス負荷1時間後の67LRの免疫細胞染色を示す.67LRは,カテキンの受容体として見出されている膜蛋白で6),EGCGで67LRの明らかな発現誘導が確認された.一方,EGCG3”Meではcontrolと比べ変化は認められなかった.III考按ドライアイ患者においては,涙液浸透圧とドライアイの重症度が相関するといわれている.米国でのドライアイ診断基準にあたるDryEyeWorkShop(DEWS)Reportによると,涙液浸透圧の正常カットオフ値は316mOsm/Lとされている2,7).ドライアイ患者における涙液浸透圧は平均326.9±22.1mOsm/Lであり,健常人の平均302±9.7mOsm/Lに比べかなり高く7),涙液中に炎症性サイトカインが増加するという報告がある8,9).角膜細胞を用いて塩化ナトリウムまたはスクロースを添加した培養液(350.600mOsm/L)を用いて高浸透圧ストレス負荷を施した報告が散見され,とくに450mOsm/L以上の高浸透圧負荷により,炎症性サイトカインの著明な上昇を認めたなどの報告10,11)がある.そこで今回,HCE細胞に高浸透ストレス負荷(423mOsm/L)を行った結果,アポトーシスの割合と,炎症性サイトカイン(IL-6)の生成量の経時的増加が確認され,炎症が惹起されていることが確認された.今回,データは示していないが,TNF-a,IL-1bも同様に測定した結果,TNF-a生成量は有意差はなく,IL-1bは検出限界以下であった.細胞外からの種々刺激により活性化され,核へのシグナル伝達を媒介するMAPKリン酸化能を測定した結果,高浸透圧ストレス負荷1時間でJNKとp38MAPKリン酸化能の有意な上昇が確認されたが,ERKでは変化が認められなかった.MAPKのなかでもとくに,JNK,p38MAPKは,UV,ROS(reactiveoxygenspecies),高浸透圧,熱ショックなどの物理化学的ストレスなどによって活性化されるストレス応答キナーゼで,アポト872あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016ーシス誘導などに深く関与している.今回の高浸透圧ストレス負荷により,HCE細胞ではJNK,p38MAPKの活性化およびIL-6生成量の明らかな増加が確認されたが,HeLa細胞においてはいずれも認めなかった.このことから,このストレスはHCE細胞に由来するものと判断し,カテキン類による抑制効果を検討した.近年,カテキン類を代表とする茶葉成分に関する研究報告が散見される.緑茶に含まれるEGCGは茶特有のポリフェノール成分で,他の植物には見出されていない4).最近,新規カテキンのEGCG3”Meが見出された.日本緑茶の「べにふうき」「べにふじ」といった品種に多く含まれており,いわゆる代表的な品種である「やぶきた」にはまったく含まれていない.先にも述べたが,緑茶カテキンには多彩な生理機能が解明されており,なかでも,抗腫瘍作用や抗アレルギー作用は,EGCGが多種の細胞の細胞膜表面に局在している67kDalamininereceptor(67LR)に結合することで活性を示すことが報告されている6).EGCGは67LRを介した癌細胞における細胞増殖抑制作用のほか,ヒト好塩基球細胞株におけるヒスタミン放出抑制作用やIgE受容体発現低下作用などが報告されている12).今回のHCE細胞に対する高浸透圧ストレス負荷では,JNK,p38MAPKを介してIL-6を生成することで,炎症が惹起されていることが示唆された.この炎症に対する,EGCGまたはEGCG3”Meの抑制効果について検討した結果,JNKリン酸化能はEGCGで,p38MAPKリン酸化能はEGCG3”Meで抑制されることが示唆された.また,IL-6生成量はEGCG3”Meで濃度依存的に抑制されたのに対し,EGCGでは変化がないか高濃度では逆に増加する結果となった.これまでに,腫瘍細胞に対するEGCGの抗腫瘍効果なども報告されており12,13),高濃度のEGCGによる細胞障害作用が現れたものと考えられる.EGCGおよびEGCG3”Meを添加し,高浸透圧ストレス負荷1時間後,67LRの免疫細胞化学染色を行った結果,EGCG3”MeよりもEGCGで強い発現誘導が確認された.このことから,EGCGはおもに67LRへの結合を介してシグナル伝達されているのに対し,EGCG3”Meには67LRとは別の経路が関与していることが示唆された.すなわち,EGCG3”MeはEGCGに比べ脂溶性が高いことから,膜を直接透過する可能性が考えられる.以上のことから,それぞれ異なった細胞内シグナル伝達経路を介して抗炎症作用を示し,その作用はEGCGよりもEGCG3”Meのほうがより効果的である可能性が示唆された.Leeら14)は,0.1%EGCG溶液の点眼により角膜上皮障害が改善したと報告している.さらに,EGCGやEGCG3”Meは飲用後,血中への移行も確認されている.すなわち,毛細血管が豊富である結膜に移行し,眼表面の抗炎症作用を示す(112) 可能性は高い.市販のペットボトル入りべにふうき緑茶を,約200ml飲用したときの摂取量とAUC(areaunderthebloodconcentration-timecurve)の割合で比較すると,移行の割合はEGCG3”MeのほうがEGCGに比べて6.5倍高いことが示されている15).また,アレルギー性鼻炎患者を対象としたヒト介入試験において,EGCG3”Me摂取により眼の痒みや流涙を含む花粉症症状の明らかな軽減作用がみられたと報告されており,その際のEGCG3”Me摂取量は34mg/dayとされている16).これは市販のペットボトル1.5本分(約750ml)の飲用に相当する.涙液浸透圧と血漿浸透圧に強い相関があり,飲水自体に涙液浸透圧を下げるとの報告17,18)があることから,日常的に茶を飲用する習慣がある日本人にはドライアイによる高浸透圧ストレス誘発炎症に対しても,抗炎症効果が期待できるかもしれない.以上のことから,べにふうき緑茶飲用がドライアイ治療に有用である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)UchinoM,YokoiN,UchinoYetal:Prevalenceofdryeyediseaseanditsriskfactorsinvisualdisplayterminalusers:theOsakastudy.AmJOphthalmol156:759-766,20132)MichaelAL,GaryNF:Thedefinitionandclassificationofdryeyedisease.OculSurf5:75-92,20073)SternME,PflugfelderSC:Inflammationindryeye.OculSurf2:124-130,20044)山本(前田)万里:抗アレルギー効果のある茶葉成分.日本補完代替医療学雑誌3:53-60,20065)CavetME,HarringtonKL,VollmerTRetal:Antiinflammatoryandanti-oxidativeeffectsofthegreenteapolyphenolepigallocatechingallateinhumancornealepithelialcells.MolVis17:533-542,20116)TachibanaH,KogaK,FujimuraYetal:AreceptorforgreenteapolyphenolEGCG.NatStructMolBiol11:380381,20047)TomlinsonA,KhanalS,DiaperCetal:Tearfilmosmolarity-determinationofareferentfordryeyediagnosis.InvestOphthalmolVisSci47:4309-4315,20068)NaKS,MokJW,KimJYetal:Correlationsbetweentearcytokines,chemokines,andsolublereceptorsandclinicalseverityofdryeyedisease.InvestOphthalmolVisSci53:5443-5450,20129)BoehmN,RiechardtAI,WiegandMetal:Proinflammatorycytokineprofilingoftearsfromdryeyepatientsbymeansofantibodymicroarrays.InvestOphthalmolVisSci52:7725-7730,201110)LuoL,LiDQ,CorralesRMetal:Hyperosmolarsalineisaproinflammatorystressonthemouseocularsurface.EyeContactLens31:186-193,200511)LiDQ,ChenZ,SongXJetal:StimulationofmatrixmetalloproteinasesbyhyperosmolarityviaaJNKpathwayinhumancornealepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci45:4302-4311,200412)立花宏文:緑茶カテキンの受容体とシグナリング.生化学81:290-294,200913)SuzukiY,MiyoshiN,IsemuraM:Health-promotingeffectsofgreentea.ProcJpnAcadSerBPhysBiolSci88:88-101,201214)LeeHS,ChauhanSK,OkanoboAetal:Therapeuticefficacyoftopicalepigallocatechingallate(EGCG)inmurinedryeye.Cornea30:1465-1472,201115)Maeda-YamamotoM,EmaK,ShibuichiI:Invitroandinvivoanti-allergiceffectsof‘benifuuki’greenteacontainingO-methylatedcatechinandgingerextractenhancement.Cytotechnology55:135-142,200716)安江正明,大竹康之,永井寛ほか:「べにふうき」緑茶の抗アレルギー作用並びに安全性評価:軽症から中等症の通年性アレルギー性鼻炎患者,並びに健常者を対象として.日本食品新素材研究会誌8:65-80,200517)WalshNP,FortesMB,Raymond-BarkerPetal:Iswhole-bodyhydrationanimportantconsiderationindryeye?InvestOphthalmolVisSci53:6622-6627,201218)FortesMB,DimentBC,DiFeliceUetal:Tearfluidosmolarityasapotentialmarkerofhydrationstatus.MedSciSportsExerc43:1590-1597,2011***(113)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016873

レバミピド点眼液が奏効した糸状角膜炎の3症例

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1369.1373,2014cレバミピド点眼液が奏効した糸状角膜炎の3症例池川和加子山口昌彦白石敦坂根由梨原祐子鄭暁東鈴木崇井上智之井上康大橋裕一愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野EfficacyofRebamipideOphthalmicSolutionforTreatment-ResistantFilametaryKeratitis:ThreeCaseReportsWakakoIkegawa,MasahikoYamaguchi,AtsushiShiraishi,YuriSakane,YukoHara,XiaodongZheng,TakashiSuzuki,TomoyukiInoue,YasushiInoueandYuichiOhashiDepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine背景:糸状角膜炎(filamentarykeratitis:FK)は,角膜上皮障害を起点に角膜糸状物を形成する慢性疾患で,強い異物感を伴い治療に難渋することも多い.今回レバミピド点眼液(RM)が奏効した糸状角膜炎の3例を報告する.症例:症例1:79歳,女性.Sjogren症候群.両総涙小管閉塞にて涙小管チューブ挿入術後にドライアイが顕性化し,角膜全面にFKが多発した.ヒアルロン酸点眼,ベタメタゾン点眼,ソフトコンタクトレンズ(SCL)連続装用にて軽快せず,RMを追加したところSCL非装用でもFKの出現は認められず,RM単独で18カ月間寛解状態である.症例2:90歳,男性.両角膜実質炎後混濁の角膜移植後で,0.1%フルオロメソロン点眼(FL)が投与されている.ドライアイによる点状表層角膜症(SPK)が出現し,ジクアホソルナトリウム点眼(DQ)を追加したところFKが出現した.DQを中止したが軽快せず,RMを開始したところFKは消失し,RM単独で18カ月間寛解状態である.症例3:67歳,女性.右顔面神経麻痺の既往.最初右下方,両角膜下方にFKが出現するようになり,DQ,FLを投与したが軽快せず,DQをRMに変更したところFKは消失し,RM単独で15カ月間寛解状態である.結論:従来の治療に抵抗性のFKに対してRMは有効であると考えられた.Threecasesoffilamentarykeratitis(FK)inwhichrebamipideophthalmicsolution(RM)waseffectivearereported.Case1:FKappearedalloverthebilateralcornealsurfaces.SinceFKtherapycomprisinghyaluronicacid,betamethasoneophthalmicsolutionandsoftcontactlens(SCL)continuouswearwasnoteffective,RMwasadministrated.Subsequently,FKhasbeencontrolledwithoutSCLfor18months,withRMonly.Case2and3:DiquafosolNaophthalmicsolution(DQ)and0.1%fluorometholonewereadministratedfordry-eyetherapy;howeverFKdidnotimprove.AfterDQwasreplacedwithRM,FKimprovedimmediatelyandhasbeencontrolledfor18monthsinCase2and15monthsinCase3,withRMonly.RMisefficaciousforconventionaltreatment-resistantFK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1369.1373,2014〕Keywords:糸状角膜炎,レバミピド点眼液,ドライアイ,角膜上皮障害,炎症,ムチン.filamentarykeratitis,rebamipideophthalmicsolution,dryeye,cornealepithelialdisorder,inflammation,mucin.はじめに糸状角膜炎(filamentarykeratitis:FK)は,種々の眼表面疾患や眼瞼疾患が複合的に関与して発症し,眼手術後や眼外傷後などに発症頻度が高まることが知られている1,2).FKの治療は,綿棒などにより角膜糸状物を物理的に除去した後,多くの症例で合併しているドライアイに対して,人工涙液点眼やヒアルロン酸点眼などを用い,ほとんどの例において眼表面炎症が病態に関与しているため,低濃度ステロイド点眼やシクロスポリン点眼を併用する.しかし,これらの保存療法だけでは再発を繰り返す場合も多く,バンデージ効果を図るためにメディカルユースソフトコンタクレンズ(MSCL)の連続装用を行うが,寛解状態を保つためには,〔別刷請求先〕山口昌彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:MasahikoYamaguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)1369 しばしばMSCLから離脱困難となり,継続中に角膜感染症の発生などが問題となる.このように,FKに対してはさまざまな治療が行われるものの,治癒させるのはきわめて困難な疾患であるといえる.レバミピド点眼液(ムコスタRUD点眼液2%,大塚製薬,以下RM)は,2012年1月にドライアイ治療薬として発売され,実験的には,結膜杯細胞増加作用3),角膜ムチン様物質増加作用3,4),角膜上皮創傷治癒促進作用3,4)を有することが報告されている.また臨床的にも,ドライアイの自他覚症状を改善させる5,6)ことが明らかになっており,新しい作用機序をもったドライアイ治療薬として注目されている.今回筆者らは,これまでの既存の治療には抵抗性であったFKに対し,RMを投与することによって,長期寛解状態に持ち込めた3症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕69歳,女性.既往例として,Sjogren症候群が存在する.2006年10月,両側の総涙小管狭窄症による流涙症に対して,両側の鼻涙管シリコーンチューブ挿入術を施行した.2008年5月から両眼の乾燥感を自覚し始め,軽度の角結膜上皮障害がみられたため,人工涙液点眼(ソフトサンティア点眼液,参天製薬)と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレインR点眼液0.1%,参天製薬)をそれぞれ両眼に1日6回投与し,途中からヒアルロン酸点眼液を防腐剤無添加の0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,日本点眼薬研究所)に変更して経過観察していた.2012年2月8日に左眼角膜下方にFKが出現し異物感が増強してきたため,オフロキサシン眼軟膏(タリビッドR眼軟膏,参天製薬,以下TV)を開始したが軽快せず,2週間後には左眼角膜中央にも多数のFK(図1b)がみられるようになってきたため,消炎が必要と考えて0.1%ベタメタゾン点眼液(リンベタPF眼耳鼻科用液0.1%,日本点眼薬研究所)を左眼に1日3回で開始した.しかし,左眼はFKによる異物感が軽快しないため,MSCL連続装用を開始したところ,異物感はコントロール可能になり,左眼の0.1%ベタメタゾン点眼は中止した.4月5日には右眼にもFKを認めるようになり異物感が増強してきたため(図1a),両眼ともMSCL連続装用となった.その後,右眼はMSCL装用を中止しても異物感のコントロールは可能であったが,左眼はMSCL装用を止めるとFKが増悪する状態を繰り返したため,左眼はMSCL継続のまま6月21日にRM両眼1日4回を開始した.右眼は8月2日以降FKがほとんど認められなくなり(図1c),左眼は9月6日以降MSCLを中止してもFKの再発はみられず(図1d),異物感も消失した.その後,ときに軽微なFKの再発がみられるものの,強い異物感を訴えるようなFKの出現はなくなり,RM単独投与で18カ月間,寛解状態を維持している.〔症例2〕60歳,男性.両眼の角膜実質炎後の角膜混濁に対して,右眼は表層角膜移植術,左眼は全層角膜移植術をacbd図1症例1a:右眼FK多発期.角膜中央.下方にFKを認める.b:左眼FK多発期.角膜ほぼ全面にFKを認める.c:右眼RM投与6週目.FKはほぼ消失している.d:左眼RM投与11週目.FKはほぼ消失している.1370あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(122) acbdacbd図2症例2a:右眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.b:左眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.c:右眼RM投与3週目.FKは消失している.d:左眼RM投与3週目.FKはほぼ消失している.受けている.2008年ごろから両眼のSPKが増加し,FKを繰り返すようになった.2011年4月,右眼に再度表層角膜移植を行い,0.1%フルオロメソロン点眼液(フルメトロンR点眼液0.1%,参天製薬,以下FL)とレボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬)を1日3回投与していた.2012年1月,両眼角膜中央の点状表層角膜症(superficialpunctatekeratitis:SPK)が軽快せず,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)も両眼とも1秒と短縮していたため,ドライアイ改善の目的でジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,参天製薬,以下DQ)を追加したが,同年3月に右眼角膜下方に,4月に左眼角膜下方にFKを認めるようになった(図2a,b).FKが改善しないため,DQとFLを中止し,RMを両眼に1日4回で開始したところ,投与後3週目に両眼のFKが消失した(図2c,d).その後,RM投与のみとしたが,自覚症状を伴うようなFKの出現はなくなり,RM単独投与で18カ月間,寛解状態を保っている.〔症例3〕57歳,女性.右側顔面神経麻痺の既往はあるが,閉瞼状態は回復しており,明らかな兎眼はみられなかった.2011年7月,右眼の充血,流涙感,異物感を訴え,両眼のBUTは1秒,両角膜下方にSPKが存在し,右眼角膜下方にはFKがみられたため,ドライアイ治療の目的でDQとFLを開始した.その後,右眼のFKは出現,消失を繰り返していたが,2012年6月には左眼角膜下方にもFKを認(123)めるようになったため,TVOを追加した(図3a,b).同年8月再診時,両眼のFKが軽快しないため,DQを中止し,RMを両眼に1日4回で開始したところ,投与2週間目にFKは消退した(図3c,d).その後,RM単独投与で15カ月間,寛解状態を維持している.3症例のまとめを表1に示す.II考察Taniokaらは,臨床例から得られた角膜糸状物サンプルを免疫組織化学的に解析し,その発生メカニズムについて詳細に考察している7).すなわち,角膜上皮障害を起点として,上皮細胞成分をコアにその周囲にムチンが絡みつき,瞬目に伴う摩擦ストレスの影響下に基底細胞レベルから上皮が.離されることにより形成されるという.その結果,瞬目とともに糸状物が動くことで角膜知覚が刺激され,持続的な異物感を伴うようになる.したがって,治療戦略としては,起点となっている角膜上皮障害を速やかに修復させるとともに,炎症などによる分泌型ムチンの増加を抑制し,ドライアイやその他の要因による涙液クリアランスの悪化を改善させ,炎症起因物質やムチンをできる限り早く眼表面から排除することが必要である.しかし,SCLによる眼表面保護効果を除けば,ヒアルロン酸など,これまでの点眼薬治療では,上記の病態を持続的に改善させるのは困難であった.RMは,動物実験や培養角膜上皮による実験から,結膜杯あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141371 acbdacbd図3症例3a:右眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.b:左眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.c:右眼RM投与2週目.FKは消失している.d:左眼RM投与2週目.FKは消失している.表1糸状角膜炎3症例の所見と治療(まとめ)症例1(79歳,女性)症例2(90歳,男性)症例3(67歳,女性)全身疾患Sjogren症候群――眼疾患の既往総涙小管閉塞にて両)涙小管チューブ挿入術後角膜実質炎にて両)角膜移植後右)顔面神経麻痺(閉瞼不全なし)FK出現部位両)角膜全面,右<左両)下方,右≒左両)下方,右≒左RM投与前治療軟膏――オフロキサシン眼軟膏ステロイド点眼0.1%ベタメタゾン点眼0.1%フルオロメトロン点眼0.1%フルオロメトロン点眼ドライアイ治療0.1%ヒアルロン酸点眼ジクアホソル点眼ジクアホソル点眼SCL装用+――RM投与後FK消失までの期間右)6週,左)11週両)3週両)2週RM投与後FK寛解持続期間18カ月18カ月15カ月FK:filamentarykeratitis,RM:rebamipideophthalmicsolution.細胞増加作用3),角膜ムチン様物質増加作用3,4),角膜上皮創傷治癒促進作用3,4)が確認されている.また,治験における結果から,臨床的にもドライアイの治療に有効であることが報告されている5,6).さらに,抗炎症作用を介して,角膜上皮の治癒促進に働く可能性が示されている8,9).RMは,分泌型および膜結合型ムチンの増加による涙液安定性の向上と抗炎症作用を含む角膜上皮創傷治癒作用によって,FKの起点となる遷延性の角膜上皮障害を改善させ,FKの再発を抑制している可能性がある.症例2と3においては,ドライアイによる角膜上皮障害の1372あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014悪化と考えられたため,DQを追加したがFKは改善しなかった.DQには,RMと同様に分泌型ムチンおよび膜結合型ムチンを増やす作用があり,そのうえ,結膜上皮細胞からの水分移動作用があるため,RMと同様に涙液安定性を向上させて,ドライアイを改善し,FK抑制の方向へ働くことが予想される.しかし,この2症例ではDQの追加投与では改善がみられず,RMへの変更によって改善が得られた.このことは,RMが眼表面ムチンを増やすうえに,角膜上皮障害の治癒促進という作用も持ち合わせているため,FKの発症をその機序のより上流で抑制している可能性があるのではない(124) かと推察される.また,3症例とも最終的には,ヒアルロン酸点眼やステロイド点眼を使用せずにRMのみでFKがコントロールできている点においても,FKに対するRMの有効性が示されているところであると思われた.他方,眼瞼下垂や眼瞼内反症などの眼瞼疾患においては,涙液クリアランスの悪化や眼表面摩擦の亢進がFK発症の原因になることが知られている10).これらのケースではFKの発症部位もドライアイによるものとは異なっており,観血的な眼瞼異常の是正により初めて寛解する.今回の3症例には,眼瞼下垂や眼瞼内反症などの要因はみられなかったが,眼瞼異常が主因となって生じるFKに対するRM投与の有効性については今後の検討課題である.以上,種々の治療に対する反応が不良で,RMへの変更投与が奏効したFKの3症例を提示した.RMは,その薬理作用によって種々のFKの発症要因を抑制し,長期間にわたって自覚症状および他覚所見を寛解させるのではないかと考えられた.文献1)KinoshitaS,YokoiN:Filamentarykeratitis.TheCorneafourthedition(FosterCS,AzarDT,DohlmanCHeds),p687-692,Philadelphia,20052)DavidsonRS,MannisMJ:Filamentarykeratitis.Cornea2ndedition(KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJeds),p1179-1182,ElsevierInc,20053)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20044)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreasesthemucin-likeglycoproteinproductionincornealepithelialcells.JOculPharmacolTher28:259-263,20125)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20126)KashimaT,AkiyamaH,MiuraFetal:Resolutionofpersistentcornealerosionafteradministrationoftopicalrebamipide.ClinOphthalmol6:1403-1406,20127)TaniokaH,YokoiN,KomuroAetal:Investigationofcornealfilamentinfilamentarykeratitis.InvestOphthalmolVisSci50:3696-3702,20098)KimuraK,MoritaY,OritaTetal:ProtectionofhumancornealepithelialcellsfromTNF-a-induceddisruptionofbarrierfunctionbyrebamipide.InvestOphthalmolVisSci54:2572-2760,20139)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:RebamipideincreasesbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmol97:912-916,201310)北澤耕司,横井則彦,渡辺彰英ほか:難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討.日眼会誌115:693-698,2011***(125)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141373