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MPC ポリマーが点眼用保存剤ベンザルコニウム塩化物の角膜傷害性および薬物眼内移行性へ与える影響

2020年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(10):1309.1314,2020cMPCポリマーが点眼用保存剤ベンザルコニウム塩化物の角膜傷害性および薬物眼内移行性へ与える影響南実沙*1山口瑞季*1山﨑由夏*1大竹裕子*1櫻井俊輔*2原田英治*2長井紀章*1*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2日油株式会社ライフサイエンス事業部CE.ectofMPCPolymeronCornealToxicityandCornealDrugPermeationofBenzalkoniumChlorideinCornealEpithelialCellsMisaMinami1),MizukiYamaguchi1),YukaYamasaki1),HirokoOtake1),ShunsukeSakurai2),EijiHarata2)andNoriakiNagai1)1)FacultyofPharmacy,KindaiUniversity,2)LifeScienceProductsDivision,NOFCorporationC筆者らは生体適合性ポリマーであるCMPCポリマーが一般的な点眼用添加剤ベンザルコニウム塩化物(BAC,0.005.0.02%)の角膜傷害性および薬物眼内移行性に与える影響について検討を行った.まず,不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用い,BAC角膜傷害性に対するCMPCポリマーの保護機構を評価したところ,MPCポリマーにCBAC細胞傷害軽減効果が認められた.また,これら細胞傷害軽減機構を明らかにすべく,MPCポリマー処理時におけるCHCE-T細胞増殖性,接着性およびウサギ赤血球モデルを用いた膜安定性を測定したところ,MPCポリマーに高い膜安定化作用が認められた.さらに,MPCポリマー配合または非配合とした市販チモロールマレイン酸塩(TM)点眼液を調製し,ウサギに点眼した際の薬物眼内移行量を調べたところ,MPCポリマー配合・非配合間での眼内CTM挙動は同等であった.以上,点眼剤処方におけるCMPCポリマー使用は,BACの薬物眼内移行性に影響することなく,BAC細胞傷害性を軽減する可能性を示した.本研究結果は,眼科領域におけるCMPCポリマーの応用性拡大につながるものと考えられる.CInthisstudy,weinvestigatedthee.ectof2-methacryloyloxyethylphosphorylcholine(MPC)polymeroncor-nealCtoxicityCandCcornealCdrugCpermeabilityCofCbenzalkoniumchloride(BAC)C.CWeCfoundCthatCtheCMPCCpolymerCattenuatedthedecreaseofcellviabilityinahumancornealepithelialcell-transformed(HCE-T)celllinestimulatedwith0.005-0.02%CBAC.CItCisCknownCthatCtheCcellCgrowth,CcellCadhesion,CandCtheCtolerationConCtheCcellCmembraneCareCrelatedCtoCtheCpreventiveCe.ectCofCHCE-TCviability.CTherefore,CweCinvestigatedCtheCrelationshipCbetweenCtheCMPCpolymerandthosefactors.TheMPCpolymerhadnoe.ectonthecellgrowthandadhesionintheHCE-TcellCline,CyetCitCwasCfoundCtoCenhanceCtheCtolerationConCtheCcellCmembrane,CasCitCshowedCtheCpreventiveCe.ectCforCcellstimulationofBACinrabbitredbloodcells.Inaddition,nodi.erencewasobservedinthecornealdrugperme-abilityofcommerciallyavailabletimololmaleateeyedropswithorwithoutMPCpolymer.TheseresultsshowthataCcombinationCofCBACCandCMPCCpolymerCmayCprovideCaCsafeCtherapyCforCpatientsCrequiringClong-termCeye-dropCadministration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(10):1309.1314,C2020〕Keywords:MPCポリマー,ベンザルコニウム塩化物,角膜毒性,点眼液,チモロールマレイン酸塩.MPCCpoly-mer,benzalkoniumchloride,cornealtoxicity,eyedrops,timololmaleate.Cはじめに加物(保存剤)として使用されており,かつ薬物眼内移行性ベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAC)の向上に寄与している.しかし,ドライアイ患者や長期の点は広い抗菌域を有していることから市販点眼液の約C7割に添眼や多剤点眼が必要な緑内障患者などでは,点状表層角膜症〔別刷請求先〕長井紀章:〒577-8502東大阪市小若江C3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:NoriakiNagai,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KindaiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,CJAPANCCH3CH3CH2CCH2CCOO-CH3COOCH2CH2OPOCH2CH2N+CH3C4H9OCH3mn図1MPCポリマーの化学構造式といった細胞傷害性の眼局所副作用がみられる.このため,角膜傷害性の少ない新たな添加物として,塩化ポリドロニウムやSofZia(トラバタンズ点眼液で用いられる保存システム)といった細胞毒性の低い新規保存剤の開発,配合剤やC1回使い切りタイプの容器やCPFデラミ容器などが開発されている.筆者らもまた,BACにCD-マンニトールやセリシンといった添加物を配合することで,BACの細胞傷害性が軽減できることを報告してきた1,2).このように,処方設計の変更により眼に優しい点眼製剤の開発は現在臨床で重要視されており,さらなる添加物候補の模索が続いている.MPCポリマー(図1)は日油株式会社により製造され,細胞を構成する細胞膜のホスファチジルコリンの極性基をもつ,2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとブチルメタクリレートとの共重合体である.吸保湿性にすぐれた生体親和性材料であり,すでに人工心臓,ステント,カテーテルなど臨床にて実用化されている安全性の面からも,保湿,皮膚保護,刺激緩和および肌荒れ改善への適用拡大が期待されている.また,MPCポリマーには三次元ヒト角膜モデルに対する細胞毒性軽減効果が認められることが報告されている3).本研究では,これらCMPCポリマーの眼科領域での点眼用添加物としての応用化をめざし,BAC角膜傷害に対するCMPCポリマーの軽減効果およびそのメカニズムについて評価を行った.また,MPCポリマー併用がCBACの薬物眼内移行性に及ぼす影響についても検討した.CI対象および方法1.使用薬物および実験動物点眼用保存剤として多用されているCBACは関東化学から,市販チモロールマレイン酸点眼液C0.5%(0.005%BAC含有)は参天製薬から購入した.また,MPCポリマーは日油から譲渡されたものを用いた.培養細胞は理化学研究所より供与された不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T,RCBNo.1384)4,5)を用い,5.0%ウシ胎児血清を含むCDMEM/F12培地(GIBCO社製)にて培養した.日本白色種雄性ウサギ(2.5.3.0Ckg)は清水実験材料から購入し,近畿大学実験動物規定に従い実験を行った.2.薬物による細胞傷害性評価HCE-TをC96wellプレートにC100Cμl(1C×104個)ずつ播種し,37℃,5%CO2インキュベーター内でC24時間培養後,0,30,60およびC120秒間CMPCポリマー(0.1%またはC0.5%),BAC(0.005%またはC0.02%),およびその組み合わせにて処理し,PBSにてC2回洗浄を行った.その後,各CwellにC100Cμlの培地およびCCellCCountCReagentSF(ナカライテスク製)を加え,37℃,5%CO2インキュベーター内でC1時間処理後,マイクロプレートリーダー(BIO-RAD社製)にてC450Cnmの吸光度(Abs)を測定した.本研究では,薬剤処理後の細胞死亡率(%)を次式(1)により算出した.細胞死亡率(%)=(Abs未処理.Abs薬剤処理)/Abs未処理×100(1)一般的に,点眼された薬物は涙液により希釈され,5分程度で涙点から鼻涙管を介し涙液とともに眼表面から排出される.これら背景から,BAC濃度は市販点眼液中で使用されるC0.005%およびC0.02%とし,処理時間は眼表面上での薬物滞留時間および希釈されていないCBAC濃度での処理といった点を考慮し,処理C120秒後までのCBACによるCHCE-T細胞傷害性とCMPCポリマー併用処理による保護効果を検討した.C3.MPCポリマーによる細胞増殖性評価HCE-T細胞をC96wellプレートにC100Cμl(0.5C×104個)ずつ播種し,37℃,5%CO2インキュベーター内でC24時間培養後,MPCポリマー含有CDMEM/F12培地C100Cμlにて処理を行った.その後24時間培養し,各wellにCellCCountCReagentSFを加え,37℃,5%CO2インキュベーター内で1時間処理を行い,マイクロプレートリーダーにてC450Cnmの吸光度(Abs)を測定することで細胞増殖性を調べた.細胞増殖率は次式(2)により算出した.細胞増殖率(%)=AbsMPCポリマー処理C/Abs未処理×100(2)本研究では,MPCポリマーは終濃度がC0.01,0.1および0.5%になるように添加した.4.MPCポリマーによる細胞接着性評価HCE-T細胞をC96wellプレートにC75Cμl(0.5C×104個)ずつ播種し,終濃度がC0.01,0.1およびC0.5%になるようCPBSで希釈したCMPCポリマーC25Cμlを添加し,37℃,5%CO2インキュベーター内でC12時間培養後,各CwellにCCellCountReagentSFを加え,37℃,5%CO2インキュベーター内で1時間処理を行い,マイクロプレートリーダーにてC450Cnmの吸光度(Abs)を測定することで細胞接着性を調べた.細胞接着率は次式(3)により算出した.細胞接着率(%)=AbsMPCポリマー処理C/Abs未処理×100(3)C5.BAC処理に伴うウサギ赤血球溶血率変化の測定ウサギ耳静脈より採血した血液1CmlとC100Cμlヘパリン(10mg/ml)を混和後,遠心分離(600g,37oC,5分)を行った.その後上清を捨て,沈殿物とCPBSがC1:3となるようにCPBSを加え,さらに遠心分離(400Cg,37oC,5分)を行い,沈殿物の回収を行った.これら洗浄操作をC2回繰り返したものを赤血球標品として実験に用いた.陽性対照とした完全溶血赤血球は,精製水C2Cmlに赤血球標品C40Cμlを添加することで作製した.実験は以下の方法にて行った.赤血球標品C40CμlをCMPCポリマー(0.1%またはC0.5%)およびCBAC含有または非含有の生理食塩水(BAC濃度,8.12Cμg/ml)2Cml中に加え,37oCにてC1時間インキュベートを行った.その後,遠心分離(460Cg,37oC,5分)にて上清を採取し,576Cnmにおける吸光度を測定することでCBAC刺激に伴う溶血率変化を示した.また,MPCポリマー前処理時には,赤血球標品をCMPCポリマー(0.1%またはC0.5%)含有または非含有の生理食塩水にてC30分間インキュベート後,生理食塩水にて洗浄を行い,上記に示した8.12Cμg/mlBACにより刺激を行った実験に用いた.処理後の溶血率(%)算出には次式(4)を用いた.溶血率(%)=Abs試験液/Abs陽性対照×100(4)C6.Invivo薬物眼内移行性評価ペントバルビタールC15Cmg/kg腹腔投およびイソフルランにて吸入麻酔下,ファイコンチューブをつけた注射針(26G)を雄性日本白色種ウサギの角膜輪部から前房内に挿入し,イトーマイクロシリンジ(伊藤製作所)にて眼房水C5Cμlを採取した.その後,MPCポリマー含有,非含有CTM製剤をC50μl点眼し,一定時間ごとに眼房水C5Cμlを採取し,下記CHPLC法にて薬物量の測定を行った.試料C50Cμlに内標p-オキシ安息香酸エチル(4Cμg/ml,MeOHにて溶解)100Cμlを加え,移動相:リン酸緩衝液/メタノール/アセトニトリル(70/20/10v/v/v)を用い測定することでCTM濃度測定を行った.HPLCには,高速液体クロマトグラフィー装置CLabSolutions(島津製作所),およびCInertsilODS-3(2.1C×50Cmm,ジーエルサイエンス)を用い,カラム温度はC35℃とした.また,移動相の流速C0.20Cml/分,検出波長C294(nm),試料注入量C10Cμlとし,オートインジェクターCSIL-20ACを使用した.点眼された薬物は涙液により希釈され,その濃度はおよそ点眼液中のC10%程度となる.さらに眼表面の点眼成分は涙液とともに鼻涙管から排出される.これら生体での薬物挙動とCinvitro実験の結果を考慮し,invivo実験ではCMPCポリマー濃度C10%と設定した.C7.統.計.解.析得られたデータは平均値±標準誤差(SE)として表した.各々の実験値はCStudentのCt-testまたはCDunnettの多重比較検定にて解析した.本研究ではCp値がC0.05以下を有意差ありとした.CII結果1.MPCポリマー添加時におけるBAC角膜上皮細胞傷害性の変化まず,MPCポリマーの細胞傷害性を確認したところ,0.1%およびC0.5%MPCポリマー処理では傷害性は確認されず,処理後の細胞生存率も生理食塩水と同程度であった(図2a).BAC単独処理では細胞傷害が認められ,0.005%BAC処理C120秒後におけるCHCE-T細胞生存率はC55.7%であり(図2b),0.02%BAC処理群では,生存率C0%であった(図2c).一方,これらCBACにCMPCポリマーを併用処理することでCBACの角膜細胞傷害性が軽減され,MPCポリマー併用CBAC0.02%群のC120秒時における細胞生存率はC55.3%と非併用群に比べ有意に高値を示した(図2b,Cc).また,市販TM点眼液をC120秒処理した群では細胞生存率はC49.1%であったが,MPCポリマーを併用することでC76.1%まで細胞傷害性の緩和がみられた(図2d).C2.MPCポリマー処理時における角膜細胞増殖性および細胞接着性の変化細胞が傷害を受けた際の生存率を高める因子として細胞増殖性や細胞接着性の向上が知られている.本研究では,HCE-Tを用いCMPCポリマー自身における細胞増殖性および細胞接着性を測定した(図3).まず,細胞増殖性を検討したところ,0.01.0.5%MPCポリマー処理群の増殖率はPBS処理時の増殖率と同程度であった(図3a).さらに,細胞接着性についても検討したところ,増殖性と同様C0.01.0.5%MPCポリマーに細胞接着能の向上はみられなかった(図3b).C3.CMPCポリマー処理時におけるBAC誘発ウサギ赤血球溶血率の変化図4はCBAC刺激に伴うウサギ赤血球溶血性の変化とCMPCab120120100100細胞生存率(%)8080*60604040202003060901200306090120時間(sec)時間(sec)cd1201200.02%BAC100100細胞生存率(%)*細胞生存率(%)80604080604020*20003060901200TMTM+MPC時間(sec)図2MPCポリマー(MPC)によるBAC細胞傷害軽減効果a:MPC処理がCHCE-Tに与える影響.Cb:MPC処理がC0.005%BAC傷害に及ぼす影響.Cc:MPC処理がC0.02%BAC傷害に及ぼす影響.Cd:MPC処理が市販CTM点眼液傷害に及ぼす影響.平均値C±標準誤差,n=6-10.*p<0.05,vs.BAC.#p<0.05,vs.Saline.Cポリマーによる膜保護効果を示す.BAC刺激により溶血が認められ,8Cμg/mlCBAC刺激による溶血率はC21.2%,10Cμg/CmlBAC刺激ではC98.0%であった(図4b).一方,BACとMPCポリマーを併用処理することで,赤血球の溶血は軽減され,8Cμg/mlおよびC10Cμg/mlBACとC0.5%MPCポリマー併用処理時における溶血率はそれぞれC8.9%,46.3%であり(図4b),MPCポリマーによる膜保護効果は濃度依存的であった.さらに,これらCMPCポリマーのCBAC刺激による溶血抑制効果は,MPCポリマーをC30分間前処理した系においても認められた(図4a).C4.MPCポリマー併用が市販TM点眼液の角膜透過性に与える影響BACは界面活性作用を有していることから,併用時には点眼液の薬物眼内移行性が高まることが知られている.本研究では,緑内障治療薬として多用されている市販CTM点眼液を対象に,MPCポリマー併用および非併用時におけるTMの眼内移行性をウサギにて検討した(図5).市販CTM点眼液点眼C5分後以降から房水中にてCTMが検出され,眼内CTM濃度は点眼C60分後まで緩やかに上昇し,その後減少傾向が認められた.また,MPCポリマー併用時においても点眼C5分後以降でCTMが房水中に移行し,点眼C90分後までの房水中薬物挙動はCMPCポリマー非併用時と類似していた.CIII考按MPCポリマーのCBAC角膜毒性軽減機構について検討するうえで評価モデルの選択は重要である.筆者らはこれまで,各種緑内障治療薬によるCHCE-T傷害作用が,正常ヒト角膜上皮培養細胞への傷害作用に非常に類似し,さらに細胞増殖性,感受性にばらつきが少ないため,HCE-Tが正常ヒト角膜上皮細胞の代わりにCinvitro角膜傷害性評価に使用できることを報告してきた6).そこで本研究ではまず,HCE-Tを用いCMPCポリマーのCBAC角膜毒性軽減機構について検討した.その結果,BACとCMPCポリマーを併用処理することでCBACの角膜細胞傷害性が濃度依存的に軽減された(図2).小林-安藤らはウサギ角膜上皮を用い,MPCポリマーが塩化ポリヘキサニドに対する細胞毒性軽減効果を有することを示しており7),高田らは三次元培養ヒト角膜モデルにaa120120100100細胞増殖率(%)80溶血率(%)8060604040202000PBS0.010.10.581012MPC(%)BAC(mg/ml)bb120120100100細胞接着率(%)80溶血率(%)8060604040202000PBS0.050.10.5MPC(%)BAC(mg/ml)図3MPCポリマー(MPC)がHCE.Tの細胞増図4MPCポリマー(MPC)前処理(a)または併用処理殖(a)および接着(b)に与える影響(b)がBAC刺激による赤血球溶血性に与える影響平均値±標準誤差,n=4.8C.C平均値±標準誤差,n=4.*p<0C.05,vs.Saline.C50マーの細胞毒性軽減機構を検討した.角膜細胞の生存率には細胞増殖,細胞接着および膜安定性TM濃度(mM)の三つが主として関与しており,これらのうち一つまたは複数が高まった際にCinvitro系では細胞生存率が高まると考えC4030られる.本研究にてCMPCポリマー処理時における細胞増殖,C20細胞接着性を測定したところ,MPCポリマーの両機能に対C10する影響は認められなかった(図3).このためCMPCポリマーの膜安定作用の有無について評価した.HCE-Tは刺激時C00102030405060708090にさまざまな防御機構が働き,MPCポリマーの膜のみに対時間(min)する影響を評価することはむずかしい.一方,赤血球は核を図5MPCポリマー(MPC)配合が市販TM点眼液の薬物眼内移行性に与える影響平均値±標準誤差,n=3.て種々市販点眼液の細胞毒性をCMPCポリマーが緩和することを報告している3).本結果はこれら過去の報告を支持するものであり,本結果を踏まえ,HCE-Tを用いてCMPCポリ持たないことから細胞分裂などを行わないのが特徴であり,薬剤自体の直接的な刺激性やそれに対する保護作用の評価が可能である8).この赤血球モデルを用い,BAC刺激に対するCMPCポリマーの膜保護効果を評価したところ,MPCポリマー処理により赤血球の溶血が軽減され,その保護効果は濃度依存的であった(図4).さらに,MPCポリマーを前処理した際にもCMPCポリマーの膜保護効果が認められた.MPCポリマーは生体膜の主要構成成分であるレシチンと類似した構成であり,細胞膜表面に薄い皮膜を形成することが知られている9).これら結果および過去の知見から,MPCポリマーの膜保護効果は,BACが細胞表面を直接刺激するのを防ぐ,または膜の強度を高めることに起因するものと示唆された.BACには界面活性作用があることから,薬物の角膜透過性向上にも寄与している.このためCMPCポリマーがCBACの薬物眼内移行性に影響を与えては,点眼用添加物としての有用性は十分とはいえない.そこで次に,MPCポリマーおよびCBAC併用処理時における薬物眼内移行性を評価した(図5).薬効発現において薬物眼内移行性が必須な市販緑内障治療薬CTM点眼液を対象薬物とし,点眼後の眼房水中薬物挙動をウサギにて測定したところ,MPCポリマー併用,非併用にかかわらず,点眼C5分以降でCTMが房水中に移行し,両群において点眼C90分後までの房水中薬物挙動は類似していた.本結果は,MPCポリマーの膜表面への付着は薬物の膜透過性に影響を及ぼすほどのものではなく,MPCポリマー併用はCBACの薬物角膜透過性に影響しないことを示唆した.以上,MPCポリマーはCBACの薬物角膜透過性促進効果に影響せず,副作用であるCBAC細胞毒性を軽減する可能性があることを示した.今後,MPCポリマーとCBAC抗菌作用の関係についても検討を進めていく予定である.利益相反:長井紀章(カテゴリーF,クラスCIII:日油株式会社)原田英治,櫻井俊輔(カテゴリーE)大竹裕子,南実沙,山口瑞希,山崎由夏(なし)文献1)NagaiN,YoshiokaC,TaninoTetal:DecreaseincornealdamageCdueCtoCbenzalkoniumCchlorideCbyCtheCadditionCofCmannitolCintoCtimololCmaleateCeyeCdrops.CJCOleoCSciC64:C743-750,C20152)NagaiCN,CItoCY,COkamotoCNCetal:DecreaseCinCcornealCdamageCdueCtoCbenzalkoniumCchlorideCbyCtheCadditionCofCsericinintotimololmaleateeyedrops.JOleoSciC62:159-166,C20133)高田洋平,櫻井俊輔,宮本幸治ほか:ヒト重層化培養角膜上皮モデルを用いた眼科用製剤の眼刺激性に関する新規評価手法の開発.あたらしい眼科C31:409-413,C20144)ToropainenE,RantaVP,TalvitieAetal:Culturemodelofhumancornealepitheliumforpredictionofoculardrugabsorption.InvestOphthalmolVisSciC42:2942-2948,C20015)TalianaCL,CEvansCMD,CDimitrijevichCSDCetal:TheCin.u-enceCofCstromalCcontractionCinCaCwoundCmodelCsystemConCcornealCepithelialCstrati.cation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:81-89,C20016)長井紀章,伊藤吉將,岡本紀夫ほか:抗緑内障点眼薬の角膜障害におけるCInVitroスクリーニング試験:SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた細胞増殖抑制作用の比較.あたらしい眼科C25:553-556,C20087)小林-安藤亮太,土田衛,猪又潔ほか:MPCポリマーによるポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)製剤の細胞毒性低減効果.日コレ誌C52:265-269,C20108)長井紀章,藤田裕美,伊藤吉將ほか:ウサギ赤血球を用いたベンザルコニウム塩化物の傷害性評価とセリシンによる保護効果.あたらしい眼科C31:729-732,C20149)釈政雄,黒田秀夫,大場愛ほか:両機能リン脂質ポリマー(吸保湿能と角層細胞間脂質バリヤ一機能強化)による角層機能の改善強化.日本化粧品技術者会誌C30:273-285,C1996C***

レセプトデータベースを用いたレバミピド懸濁点眼液による涙囊炎・涙道閉塞関連事象の発生状況に関する検討

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1489?1492,2016cレセプトデータベースを用いたレバミピド懸濁点眼液による涙?炎・涙道閉塞関連事象の発生状況に関する検討古田英司*1柴崎佳幸*2福田泰彦*1坪田一男*3大橋裕一*4木下茂*5*1大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部*2大塚製薬株式会社医薬品事業部メディカル・アフェアーズ部*3慶應義塾大学医学部眼科学教室*4愛媛大学*5京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学RetrospectiveAnalysisofaHealth-InsuranceClaimsDatabasetoInvestigatethePrevalenceofDacryocystitisandDacryostenosisRelatedCasesanditsCorrelationwithRebamipideinOphthalmicSuspensionsAdministeredtoDry-EyePatientsEijiFuruta1),YoshiyukiShibasaki2),YasuhikoFukuta1),KazuoTsubota3),YuichiOhashi4)andShigeruKinoshita5)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofMedicalAffairs,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,4)EhimeUniversity,5)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:筆者らはレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の投薬下において涙道閉塞,涙?炎などが認められた症例について報告したが,本稿では,同薬についてレセプトデータベースを用いて,新たに検討を行ったので報告する.方法:レセプトデータベースより取得したデータに基づいて,ドライアイ患者における処方点眼薬を,含有成分別に分類し,処方点眼薬ごとに涙?炎,涙道閉塞の新規発生患者の例数および割合を算出した.結果:レバミピド懸濁点眼液を処方された患者における各関連事象の新規発生割合は,涙?炎0.079%,涙道閉塞0.315%であった.なお,処方点眼薬の含有成分による発生傾向の違いは認められなかった.結論:本検討手法は,データベースの特性を十分に配慮しつつも,同薬における,より実臨床に即した各事象の発生状況を把握する一つの手段として有効であると考えられた.Purpose:Wepreviouslyreportedaretrospectivereviewofpatientswhodevelopeddacryocystitisanddacryostenosisasadverseeventswhileundergoingtheadministrationofrebamipideophthalmicsuspension.Inthispresentstudy,weretrospectivelyanalyzedtheprevalenceofdacryocystitisanddacryostenosisinrelationtorebamipideophthalmicsuspensionuseintheclinicalsettingviatheuseofahealth-insuranceclaimsdatabase.Methods:Weretrospectivelyanalyzedahealth-insuranceclaimsdatabasetoinvestigatetheprevalenceofdacryocystitisanddacryostenosisinpatientswhowereadministeredophthalmicsolutionsforthetreatmentofdryeye.Thosesolutionswerethenclassifiedinrelationtotheirrespectivecomponents.Results:Theprevalenceratesofdacryocystitisanddacryostenosisindry-eyepatientswhounderwentrebamipideadministrationwere0.079%and0.315%,respectively.Nocorrelationwasfoundbetweentheprevalenceofdacryocystitisanddacryostenosisandthetypeofophthalmicsolutioncomponentadministered.Conclusions:Althoughlimitationsdidexistinregardtotheinterpretationofthedatabase,thefindingsofthisstudyrevealednocorrelationbetweentheprevalenceofdacryocystitisanddacryostenosisdevelopmentandtheadministrationofrebamipideophthalmicsuspensionforthetreatmentofdryeyeintheclinicalsetting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1489?1492,2016〕Keywords:レバミピド,点眼液,レセプトデータベース,涙?炎,涙道閉塞.rebamipide,ophthalmicsolution,health-insuranceclaimsdatabase,dacryocystitis,dacryostenosis.はじめにレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD0.2%,大塚製薬)は,白色を呈した水性懸濁点眼液である.おもな副作用としては,苦味,眼刺激感,眼?痒,霧視などが認められている1?3).また,2015年3月における同薬の添付文書改訂の際には,重大な副作用の項に涙道閉塞(0.1?5%未満),涙?炎(頻度不明)が追記された1).そこで筆者らは,同薬の使用による涙?炎,涙道閉塞などの発生要因を明らかにするため,大塚製薬に集積された症例,ならびに患者から採取された異物の成分分析結果について検討を行ったが,副作用の発症要因の特定には至らなかった4).そこで,筆者らは,大塚製薬に集積された症例情報ではなく,薬剤処方実態などの解析に利用されているレセプトデータベース5)を用いて,ドライアイ患者における涙?炎,涙道閉塞の発生状況を処方点眼薬の含有成分別に分類し,検討を行ったので報告する.I対象および方法日本医療データセンター(JMDC)が管理・提供しているレセプトデータベースについて,同社が提供しているWebツールであるJDM-ファーマコヴィジランスを用いて解析を行った.本データベースには,2016年2月1日時点で2,914,429人の被保険者および被扶養者が登録されていた.分析に使用したデータの抽出対象期間は,データ解析を行った時点で抽出可能であった直近1年間(2014年9月?2015年8月)とした.対象者は,ドライアイの傷病名をもつ患者群を対象とした.新規発生事象は,対象期間中(処方月?2015年8月)のレセプトに新たに記載された傷病名のうち,処方月直前の過去6カ月間に記載されていない事象と定義した.また,各薬剤の処方状況においても,対象期間中に処方された薬剤のうち,処方月直前の過去6カ月間には処方されていないものとした.対象事象は,涙?炎関連,涙道閉塞関連とし,各カテゴリーに該当するICD10コードを選定し(表1),前述の条件を満たした薬剤が処方されている患者群を対象に新規発生事象の発現例数および割合を算出した.対象薬剤は,レバミピド,フルオロメトロン(A),オキシブプロカイン塩酸塩,ネオスチグミンメチル硫酸塩・無機塩類配合,精製ヒアルロン酸ナトリウム(A),精製ヒアルロン酸ナトリウム(B),精製ヒアルロン酸ナトリウム(C),人工涙液,ジクアホソルナトリウム,精製ヒアルロン酸ナトリウム(D),フルオロメトロン(B),レボフロキサシン水和物である.また,レバミピドとその他の薬剤とにおける発生割合の比較にはc2検定を用いた.本研究では,有意水準はとくには設定せず,p値は参考値として示した.対象薬剤については,異なった含有成分であるポリビニルアルコール含有点眼薬,ホウ酸・ホウ砂含有点眼薬,ポリビニルアルコール,ホウ酸・ホウ砂非含有点眼薬の3種類の点眼薬処方について,処方患者数が多かった4剤を比較した.II結果レバミピド懸濁点眼液の適応症であるドライアイを対象に,各薬剤の処方月以降に発生した新規発生事象のうち,涙?炎関連,涙道閉塞関連に該当する事象をもつ患者数(対象総数は,レバミピド3,804名,フルオロメトロン(A)2,028名,オキシブプロカイン塩酸塩633名,ネオスチグミンメチル硫酸塩・無機塩類配合587名,精製ヒアルロン酸ナトリウム(A)5,795名,精製ヒアルロン酸ナトリウム(B)5,740名,精製ヒアルロン酸ナトリウム(C)2,423名,人工涙液2,310名,ジクアホソルナトリウム10,776名,精製ヒアルロン酸ナトリウム(D)8,596名,フルオロメトロン(B)3,523名,レボフロキサシン水和物3,286名)について表2に示した.レバミピド懸濁点眼液における各事象の発生患者数とその割合は,涙?炎関連事象3名,0.079%,涙道閉塞関連事象12名,0.315%であった.また,レバミピド懸濁点眼液の患者群における各事象の発生割合の比較を表2に示した.各事象は,含有成分である,ポリビニルアルコールやホウ酸・ホウ砂の有無にかかわらず,一定の割合で発生していることが認められた.III考按大塚製薬では,レバミピド懸濁点眼液の使用患者における涙?炎,涙道閉塞などの副作用報告を受け,その発生要因や採取された異物に残留する成分に関する検討結果の報告4),ならびに検討の継続を行っているが,いまだ発生要因を特定するには至っていない.しかしながら,同薬の使用により認められた涙?炎,涙道閉塞などには,重篤と判断された事象も存在することから,より実臨床に沿ったリスク最小化ならびに適正使用の推進を図る必要性があると考えている.その一環として,外部のデータベースであり,また,これまでに薬剤処方実態などの解析に使用されているJMDC提供のレセプトデータベースを用いて,ドライアイ患者に対するレバミピド懸濁点眼液の処方実態,ならびに点眼薬の含有成分の涙?炎,涙道閉塞発生に対する影響について検討を行った.レバミピド懸濁点眼液処方患者において,表1に定義された涙?炎,涙道閉塞などの関連事象の発生割合については,表2のとおりであり,レバミピド懸濁点眼液における各事象の発生割合が有意に高いと結論づけることはできなかった.対象患者における併用薬剤やその他の要因による影響については,本解析手法で考慮することは不可能であった.また,複数の併用薬を同時期に処方されている場合や複数の事象が認められている患者が重複して集計された発生割合となっているが,以前の報告4,6)における発症頻度とおおむね同等の範囲に入っていると考えられた.点眼液の含有成分の配合変化について,杉本ら4)は,レバミピド懸濁点眼液使用患者から採取された異物の成分分析結果などを示した.本検討においても,点眼薬の含有成分による影響について検討を試みた.しかしながら,レバミピド懸濁点眼液を含むポリビニルアルコール含有製剤,また同薬との配合変化の懸念が示唆されているホウ酸・ホウ砂含有製剤,ならびにポリビニルアルコールとホウ酸・ホウ砂の両方を含まない非含有製剤のいずれにおいても,製剤の含有成分に依存する発生傾向などを見出すには至らなかった.また,該当する患者がいない事象も存在した.なお,レボフロキサシン水和物の使用者に涙?炎,涙道閉塞が有意に多くみられるのは先行する疾病の存在を疑わせるが,オキシブプロカイン塩酸塩の使用者にも多くみられることについては原因の推定は困難であった.本稿で示した結果はレセプト情報に起因するものであるため,レセプトに記載される傷病名と報告副作用名とが必ずしも一致しない点や,処方理由,処方薬との因果関係の有無,重篤性,処方薬へのアドヒアランスについて明確にできない点など,情報源の性質による限界があることを理解しておく必要がある.また,データベースから抽出可能な項目が限られているため,交絡を調整する解析も十分になされていない.しかしながら,本手法は,大塚製薬に集積される症例情報に加え,実臨床の場における処方患者数や注目する傷病の発生傾向を把握する一つの手段として有効であると考えられる.なお,涙?炎,涙道閉塞などの発生要因は明らかでないものの,懸濁性点眼液を他の水溶性点眼液と併用する場合は,水溶性点眼液を先に点眼し,5分間以上の間隔をあけて点眼することが推奨されている7).したがって,レバミピド懸濁点眼液においても,重篤な患者の発生を抑えるため,他の点眼薬と併用する場合には,添付文書で注意喚起されているように,5分間以上の間隔をあけて,水溶性点眼液の後に点眼するなどの適正使用が望まれる.本稿は大塚製薬により実施された解析結果に基づいて執筆した.開示すべきCOIは木下茂(試験研究費・技術指導料・講演料),坪田一男(試験研究費・技術指導料・講演料),大橋裕一(技術指導料・講演料)である.文献1)大塚製薬株式会社:ムコスタR点眼液UD2%製品添付文書(2015年3月改訂,第4版)2)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:Arandomized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreatmentofdryeye.Ophthalmology120:1158-1165,20133)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Amulticenter,open-label,52-weekstudyof2%rebamipide(OPC-12759)ophthalmicsuspensioninpatientswithdryeye.AmJOphthalmol157:576-583,20144)杉本夕奈,福田泰彦,坪田一男ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙?炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討,あたらしい眼科32:1741-1747,20155)株式会社日本医療データセンター(JMDC)6)増成彰,安田守良,曽我綾華ほか:ドライアイに対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の有効性と安全性─製造販売後調査結果.あたらしい眼科33:443-449,20167)大谷道輝:点眼剤の「実践編」.JJNスペシャル80:170-176,2007〔別刷請求先〕古田英司:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通3-2-27大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:EijiFuruta,Ph.D.,PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-2-27Ote-dori,Chuo-ku,Osaka540-0021,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(103)表1検討対象事象*[]はICD10コード涙?炎関連事象[H043]涙?炎,[H043]急性涙?炎,[H044]慢性涙?炎涙道閉塞関連事象[H045]涙点閉塞症,[H045]涙小管狭窄,[H045]涙小管閉塞症,[H045]鼻涙管狭窄症,[H045]鼻涙管閉鎖症,[H045]涙道狭窄,[H045]涙道閉塞症1490あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(104)表2ドライアイ患者における処方点眼薬ごとの新規発生事象割合ポリビニルアルコール含有点眼薬レバミピド(n=3,804)実患者数(%)p値a)フルオロメトロン(A)(n=2,028)実患者数(%)p値a)オキシブプロカイン塩酸塩(n=633)実患者数(%)p値a)ネオスチグミンメチル硫酸塩・無機塩類配合(n=587)実患者数(%)p値a)涙?炎関連3(0.079)?1(0.049)0.68143(0.474)0.01230(0)0.4961涙道閉塞関連12(0.315)?7(0.345)0.849629(4.581)<0.00010(0)0.1730ホウ酸・ホウ砂含有点眼薬精製ヒアルロン酸ナトリウム(A)(n=5,795)実患者数(%)p値a)精製ヒアルロン酸ナトリウム(B)(n=5,470)実患者数(%)p値a)精製ヒアルロン酸ナトリウム(C)(n=2423)実患者数(%)p値a)人工涙液(n=2,310)実患者数(%)p値a)涙?炎関連0(0)0.03255(0.091)0.83962(0.083)0.96020(0)0.1770涙道閉塞関連13(0.224)0.391514(0.256)0.59393(0.124)0.13264(0.173)0.2910ポリビニルアルコール,ホウ酸・ホウ砂非含有点眼薬ジクアホソルナトリウム(n=10,776)実患者数(%)p値a)精製ヒアルロン酸ナトリウム(D)(n=8,596)実患者数(%)p値a)フルオロメトロン(B)(n=3523)実患者数(%)p値a)レボフロキサシン水和物(n=3,286)実患者数(%)p値a)涙?炎関連7(0.065)0.77826(0.070)0.86285(0.142)0.414112(0.365)0.0089涙道閉塞関連32(0.297)0.858125(0.291)0.816717(0.483)0.255126(0.791)0.0062a)c2検定,p値は参考値として示した.(105)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201614911492あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(106)

レバミピド懸濁点眼液(ムコスタ®点眼液UD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙囊炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討

2015年12月31日 木曜日

レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討杉本夕奈*1福田泰彦*1坪田一男*2大橋裕一*3木下茂*4*1大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3愛媛大学*4京都府立医科大学感覚器未来医療学RetrospectiveReviewofDacryostenosis,DacryocystitisandForeignBodyinEyeorLacrimalDuctunderAdministrationofRebamipideOphthalmicSuspension(MucostaROphthalmicSuspensionUD2%)YunaSugimoto1),YasuhikoFukuta1),KazuoTsubota2),YuichiOhashi3)andShigeruKinoshita4)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)EhimeUniversity,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:レバミピド懸濁点眼液投与下における涙道閉塞,涙.炎および異物の副作用発症要因を特定するため,使用実態を把握する.方法:本剤投与下において涙道閉塞,涙.炎および異物が認められた症例の背景因子をレトロスペクティブに検討した.また,患者から採取された異物の成分分析を実施した.結果:対象患者の背景因子と副作用発症との間に一定の傾向は認められなかった.異物は角膜表面,涙.内,鼻腔内などで認められた.レバミピドは定性分析で28検体中13検体に,定量分析で測定できた8検体中5検体に認められた.蛋白質が検出されたものは14検体中13検体であり,ホウ素が測定できた8検体はいずれも陰性であった.結論:本検討からこれらの副作用発症要因の特定には至らなかった.本剤の投与に際しては,眼科的観察を十分に行うことが望ましいと考えられた.Purpose:Tounderstandthedrugutilizationofrebamipideophthalmicsuspensionsoastoidentifythecauseofdacryostenosis,dacryocystitisandforeignbodyintheeyeorlacrimalductunderdrugadministration.Methods:Weretrospectivelyreviewedpatientcharacteristicsofcases,alsoanalyzedcompositionsofforeignbodiesobtainedfromthepatients.Results:Noobvioustrendshowedbetweenpatientcharacteristicsandtheseevents.Foreignbodieswerefoundincornealsurface,lacrimalsac,nasalcavityandsoon.Rebamipidewasdetectedin13of28sampleswithqualitativeanalysisandin5of8samplesmeasurablewithquantitativeanalysis.Proteinwasdetectedin13of14samples;boronwasundetectablein8samples,allofwhichweremeasurable.Conclusions:Wecouldnotidentifythecauseoftheseevents.Patientsshouldbecarefullymonitoredbyophthalmologicalexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(12):1741.1747,2015〕Keywords:レバミピド,点眼液,涙道閉塞,涙.炎,異物.rebamipide,ophthalmicsolution,dacryostenosis(lacrimalductobstruction),dacryocystitis,foreignbody.はじめに年1月の上市以降,臨床現場で幅広く用いられている.薬理レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)は,ド作用として,角結膜上皮障害の改善作用1),角結膜上皮のムライアイ治療薬として2011年9月に国内承認され,2012チン産生促進作用1,2),角結膜上皮バリア機能の増強作用3,4),〔別刷請求先〕杉本夕奈:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通3-2-27大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:YunaSugimoto,M.S.,PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-2-27,Otedori,Chuoku,Osaka-shi,Osaka540-0021,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(109)1741 結膜杯細胞数の増加作用5),角結膜最表層上皮の微絨毛の再形成促進作用6),眼表面抗炎症作用7)などが報告されている.国内臨床試験で認められたレバミピド懸濁点眼液のおもな副作用は苦味,眼刺激感,眼.痒,霧視など8.10)であったが,発売以降に涙道閉塞,涙.炎が報告された.このため大塚製薬は,2015年1月までに「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下,薬機法と記す)に従って医療従事者から報告された有害事象のうち,涙道閉塞,涙.炎,眼内異物などの副作用症例をレトロスペクティブに検討した.その結果,2015年3月に涙道閉塞,涙.炎が重大な副作用として添付文書に追記された.今回,これらの副作用症例の背景因子の検討を行い,さらに,患者から採取された異物について成分分析を実施したので報告する.I対象および方法1.涙道閉塞,涙.炎,異物に関する検討2012年1月の上市から2015年1月(添付文書改訂の必要性検討時)までにレバミピド懸濁点眼液投与に関連する可能性があると医療従事者から大塚製薬(株)に有害事象報告された涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物の症例集積は41例であった.そのうち,処方医により本剤との因果関係が否定された4例を除く,副作用と判定された37例を対象とし,年齢,性別,投与期間,既往歴などの背景因子について検討した.なお,副作用の定義は,薬機法に従って報告された有害事象報告のうち因果関係が否定されなかったものである.処方医により因果関係が否定された4例の内訳は,急性涙.炎が偶発症と判断された1例,涙.炎が原疾患の悪化によるものと判断された1例,異物(鼻に白い粉が付着するという事象)が有害事象と判断されなかった1例,点眼手技の過誤(眼の縁に点眼液があふれた)と判断された1例であった.各副作用の重篤度は,侵襲的な処置を要した場合および医師が重篤と判断した場合を重篤,それ以外を非重篤とした.2.異物の成分分析上市から2015年5月までに医療従事者から大塚製薬(株)に分析依頼のあった,患者から採取された異物(計28検体)について成分分析を実施した.なお,副作用以外(有害事象,苦情)で成分分析を依頼されたものも含まれる.28検体すべてについて,レバミピド含有の有無を調べるため定性分析を実施した.そのうち,2015年1.5月の14検体については,異物の由来を推定するためレバミピドおよびホウ素の定量分析ならびに蛋白質の定性分析を追加実施した.定性分析には赤外分光(infraredspectroscopy:IR)法による吸収スペクトル測定を行い,レバミピドの定量分析には高速液体クロマトグラフィー(highperformanceliquid1742あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015chromatography:HPLC)法,ホウ素の定量分析には誘導結合プラズマ質量分析(inductivelycoupledplasma-massspectrometry:ICP-MS)法を用いた.分析依頼のあった28検体の内訳は,副作用に該当する25検体,副作用に該当しない3検体であった.副作用25検体のうち上記1.で涙道閉塞,涙.炎,異物として症例検討された検体は5検体であり,残り20検体は上記1.の検討時以降に報告された検体,あるいは涙道閉塞,涙.炎,異物以外の副作用症例の検体であった.異物が採取された状況は,通水検査の際に逆流物に混在して出てきた場合,手術により採取された場合,角膜表面から鑷子で採取された場合,涙管チューブに白色物が付着した場合などであった.II結果1.涙道閉塞,涙.炎,異物に関する検討上市から2015年1月までに薬機法に従って医療従事者から報告された,涙道閉塞,涙.炎,異物に関する副作用37例の背景因子を表1に示す.性別は男性7例,女性30例であり,年齢分布は50歳未満4例,50歳代2例,60歳代5例,70歳代13例,80歳以上9例,年齢不詳4例,平均年齢69.6歳(年齢不詳4例を除く)であった.副作用発現までの投与期間は,19例で1日から約1年,18例で不明,平均投与期間71.9日(投与期間不明18例を除く)であった.また,副作用の症例経過を精査したところ,涙道閉塞12例,涙.炎/涙道炎10例,異物24例(うち2事象重複7例,3事象重複2例),その他2例であった.合併症あるいは既往歴として報告のあった涙道疾患は,涙道狭窄2例,涙.炎3例であった.おもな併用点眼薬はヒアルロン酸ナトリウム11例,フルオロメトロン6例であった.ただし,本剤と同時期に併用されていたかどうかは不明であった.2.異物の成分分析異物の色調は白色,黄色,青緑色などであり,形態は固体または粘性の高い液性物であった.レバミピドの定性分析を実施した28検体では,13検体(46%)が陽性であった(表2).レバミピド含量の定量分析では14検体中6検体が検体量不足のため測定できなかったが,測定できた8検体中5検体(63%)でレバミピドが検出された.また,ホウ素含量についても分析したが,14検体のうち検出感度以下であったものが8検体,検体量不足のため測定できなかったものが6検体であり,検出感度以上の陽性所見は1検体にも認められなかった.一方,蛋白質の定性分析では14検体中13検体(93%)が陽性であった.III考按レバミピド懸濁点眼液の上市以降に涙道閉塞,涙.炎およ(110) (111)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151743表1各副作用症例の背景(対象期間:2012年1月~2015年1月)症例性別年齢副作用名重篤度レバミピド投与期間併用点眼薬合併症/既往歴レバミピド測定結果1女20歳代角膜混濁a)非重篤30日ヒアルロン酸ナトリウム点状表層角膜症(両眼)/なし分析依頼なし鼻咽頭炎非重篤4日ヒアルロン酸ナトリウム,ジクアホソルナトリウム,2女40歳代鼻汁変色a)非重篤4日オフロキサシン副鼻腔炎/不明分析依頼なし3女40歳代眼内異物非重篤不明フルオロメトロン記載なし/不明分析依頼なし結膜障害非重篤不明4e)女40歳代眼内異物非重篤不明記載なしなし/なしなし5男50歳代後天性涙道狭窄非重篤不明なし不明/不明分析依頼なし6女50歳代視力障害b)非重篤不明記載なし更年期障害/乳癌手術歴分析依頼なし7f)女60歳代後天性涙道狭窄非重篤17日投与時期不明;ヒアルロン酸ナトリウム0.1%涙道狭窄(右),表在性角膜炎/不明なし8女60歳代涙.炎非重篤21日なし(OTCの併用は不明)不明/不明分析依頼なし眼内異物非重篤不明ジクアホソルナトリウム,白色ワセリン,涙道疾患はとくになし/涙道疾患はとく9女60歳代フラジオマイシン・メチルプレドニゾロン軟膏分析依頼なし眼瞼びらん非重篤不明(OTCの併用は不明)になし霧視非重篤5日デキサメタゾン投与時期不明;10女60歳代眼内異物非重篤5日シアノコバラミン,ヒアルロン酸ナトリウムびらん様上皮障害/Sjogren症候群分析依頼なし投与時期不明;レボフロキサシン0.5%,11g)女60歳代眼内異物非重篤不明フルオロメトロン0.1%記載なし/Sjogren症候群あり(11.7%)網膜静脈分岐閉塞症(右),黄斑浮腫12男70歳代涙.炎非重篤不明フルオロメトロン,レボフロキサシン,カルテオロール(右)/不明分析依頼なし鼻漏非重篤不明投与時期不明;ヒアルロン酸ナトリウム0.1%13h)男70歳代鼻出血非重篤不明高血圧/なしなし体内異物非重篤不明(OTCの併用は不明)後天性涙道狭窄非重篤不明14男70歳代眼内異物非重篤不明記載なし記載なし/不明分析依頼なし15男70歳代後天性涙道狭窄c)非重篤1日なし涙道疾患の合併なし/不明分析依頼なし16女70歳代痂皮a)非重篤15日なし両人工水晶体/なし分析依頼なし眼沈着物a)非重篤不明17女70歳代視力低下非重篤不明投与時期不明;ヒアルロン酸ナトリウム記載なし/不明分析依頼なし涙道の炎症重篤不明18女70歳代膿疱性皮疹重篤不明ヒアルロン酸ナトリウムSjogren症候群/不明分析依頼なし19女70歳代眼内異物非重篤不明なし記載なし/不明分析依頼なし後天性涙道狭窄非重篤9日投与時期不明;オロパタジン,20女70歳代塩化カリウム・塩化ナトリウム花粉症,白内障/アレルギー分析依頼なし霧視非重篤9日(塩化カリウム・塩化ナトリウム継続使用の可能性が高い) 1744あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(112)表1各副作用症例の背景(対象期間:2012年1月~2015年1月)つづき涙.炎重篤不明21女70歳代眼内異物非重篤不明OTC併用は不明記載なし/白内障手術分析依頼なし後天性涙道狭窄非重篤45日22女70歳代眼内異物非重篤45日ジクアホソルナトリウム,フルオロメトロン記載なし/不明分析依頼なし後天性涙道狭窄重篤361日記載なし/涙.炎,23女70歳代涙.炎a)重篤361日タフルプロスト涙管チューブ挿入術分析依頼なし24女70歳代涙.炎重篤204日チモロールマレイン酸記載なし/涙.炎分析依頼なし後天性涙道狭窄非重篤3日投与時期不明;レボフロキサシン0.5%,涙道狭窄(左)/涙道チューブ挿入術,25男80歳代流涙増加非重篤3日フルオロメトロン0.1%,分析依頼なし眼内異物非重篤3日塩化カリウム・塩化ナトリウム(OTCの併用なし)涙.鼻腔吻合術投与時期不明;26男80歳代眼内異物非重篤不明ヒアルロン酸ナトリウム記載なし/不明分析依頼なし流涙増加非重篤21日リウマチ,黄斑静脈(左),眼内レンズ27女80歳代後天性涙道狭窄d)非重篤21日ヒアルロン酸ナトリウム0.1%からの切り替え挿入眼(両眼)/なし分析依頼なし眼内異物非重篤15日ヒアルロン酸ナトリウム,フルオロメトロン28女80歳代角膜炎非重篤15日投与時期不明;ジクアホソルナトリウム糸状角膜炎/なし分析依頼なしリウマチ,Sjogren症候群,結膜炎(両29女80歳代眼内異物非重篤141日レボフロキサシン,オロパタジン眼),白内障,ドライマウス/間質性肺炎分析依頼なし投与時期不明;タフルプロスト,カルテオロール,30女80歳代後天性涙道狭窄a)非重篤187日ドルゾラミド,ヒアルロン酸ナトリウム,オフロキサシン点状表層角膜症(両眼)/不明分析依頼なし涙道の炎症非重篤不明31女80歳代眼内異物非重篤不明記載なし記載なし/不明分析依頼なし眼内異物非重篤42日両眼内レンズ眼/白内障手術,32i)女80歳代結膜異物除去重篤92日なし高血圧なし33女80歳代涙.炎非重篤78日なし記載なし/涙.炎分析依頼なし薬剤残留a)非重篤不明34女不明眼痛非重篤不明記載なし記載なし/不明分析依頼なし35女不明後天性涙道狭窄非重篤不明記載なし記載なし/なし分析依頼なし涙.炎非重篤168日涙道疾患の合併なし/涙道疾患の既往な36女不明後天性涙道狭窄a)非重篤不明なしし分析依頼なし37女不明後天性涙道狭窄非重篤不明記載なし記載なし/不明分析依頼なしa)症例経過より「異物」の可能性があると考えられた.b)白い塊が見えるという事象のため「その他」として分類した.c)涙点や涙道に詰まりが起きているような気がするという事象のため「その他」として分類した.d)症例経過に「涙.炎」と記載されていた.e)表2の25番目と同一症例.f)表2の23番目と同一症例.g)表2の3番目と同一症例.h)表2の24番目と同一症例.i)表2の32番目と同一症例. 表2異物の成分分析(対象期間:2012年1月~2015年5月)測定結果採取部位報告事象レバミピド定性a)レバミピド定量b)1涙道涙道洗浄で白色の逆流物を採取あり0.3%2涙道白色物,涙道閉塞疑いの通水障害なしN.D.3涙道涙道閉塞なしN.D.4涙道涙.炎なしN.A.5涙道涙.炎,眼瞼炎,涙道に白い固形物なし*6涙.涙.炎,涙道閉塞あり43.8%7涙.涙.炎,鼻涙管閉塞,白色析出物を採取あり14.4%8c)涙.涙.から白色塊を採取あり11.7%9涙.涙.炎,鼻涙管閉塞,眼瞼炎,白色析出物を採取あり*10涙.有害事象ではないあり*11涙.涙.炎,析出物を採取なしN.D.12涙.,鼻腔涙.炎,涙.内に粒子が残存,内眼角部痛あり*13涙.部圧迫白色物質,膿の排出なしN.A.14角膜角膜異物感を自覚ありN.A15角膜角膜沈着なしN.A.16角膜上皮欠損部位角膜上皮欠損部位の白色混濁,なし*17眼表面眼表面の白塊なしN.A.18眼表面結膜障害,眼の異物残留なし*19上涙点(右)涙道閉塞なし*20d)涙丘(右)涙丘異常,白色の膜(帯状)の排出なし*21e)眼白い粉状物質の眼部への付着と刺激感あり*22f)両眼白色塊の採取あり*23目尻苦情報告のみなし*24鼻鼻涙管閉塞,鼻腔から白色塊を採取あり0.7%25g)鼻鼻腔からの出血と異物なし*26口涙.結石,流涙,涙.部痛あり*27口苦情報告のみあり*28涙管チューブ白色塊が右涙管チューブに付着なしN.A.*:実施せずN.A.:検体が少量(0.1mg未満)であるため測定不可.N.D.:Notdetected.a)赤外分光(IR)法.b)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法.c)表1の11番目と同一症例.d)表1の4番目と同一症例.e)表1の7番目と同一症例.f)表1の32番目と同一症例.g)表1の13番目と同一症例.び眼表面・涙道などにおける異物の副作用報告を受け,それらの副作用が認められた症例についてレトロスペクティブに検討を行った.涙道閉塞,涙.炎が認められた症例は中高年女性が多く,副作用発現までの投与期間,既往歴,合併症,併用点眼薬などの背景因子と,涙道閉塞,涙.炎,異物の副作用発現との間に一定の傾向は認められず,要因の特定には至らなかった.これらの副作用報告や苦情情報を介して異物28検体が回収され分析に供された(2015年5月まで).その成分分析の結果,レバミピドが含まれていた異物は約半数(46%)であった.追加測定を実施した14検体において,蛋白質は13例(93%)とほぼすべての異物に含まれていた.しかしながら,今回は蛋白質の種類の同定までは至らず,炎症性細胞の有無や菌の有無などの分析についても今後検討が必要であると考えられた.なお,本剤の添加物として含まれるポリビニルアルコールは,ホウ酸イオンと反応してゲル化する性質があるため,ホウ素の分析も実施した.しかしながら,検体が少量のため測定不可,あるいは検出感度以(113)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151745 表3各点眼薬における副作用発現頻度医療用点眼薬の販売名副作用名発現件数または例数/調査例数a)発現頻度(%)クラビットR点眼液0.5%角膜上皮障害などb)12件/7,158例0.17抗菌点眼薬ガチフロR点眼液0.3%点状角膜炎1件/429例0.23ベガモックスR点眼液0.5%角膜炎1件/586例0.2コソプトR配合点眼液角膜上皮障害などc)8例/913例0.88緑内障治療薬キサラタンR点眼液0.005%角膜上皮障害などd)249件/3,424例7.27アイファガンR点眼液0.1%点状角膜炎30例/444例6.76フルメトロンR点眼液0.1%眼圧上昇13件/10,343例0.13ステロイド点眼薬フルメトロンR点眼液0.02%眼圧上昇2件/7,276例0.03リンデロンR点眼液0.1%ステロイド緑内障1例/261例0.4a)各薬剤のインタビューフォーム参照.b)角膜びらん,角膜炎,角膜上皮障害,点状角膜炎.c)角膜びらん,角膜炎,角膜上皮欠損,点状角膜炎.d)角膜びらん,角膜炎,角膜混濁,角膜上皮欠損,角膜上皮障害,点状角膜炎表4各事象発現頻度に関する文献報告報告年著者薬剤名発現例数/調査例数発現頻度(%)白内障術後眼内炎2007OshikaTetala)N.A.52例/100,539例0.052涙管チューブ挿入術後のステロイド点眼による眼圧上昇2014新田安紀芳b)0.1%フルオロメトロン点眼液11例/128例8.6N.A.:Notapplicablea)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOphthalmolScand85:848-851,2007.b)新田安紀芳:フルオロメトロン点眼による眼圧変動.臨眼68:1463-1467,2014下であった.眼表面・涙道などにおける異物の成因として,本懸濁点眼液の粒子そのものが何らかの要因により凝集したもの,本懸濁点眼液が溶けて粘性の高い液状になったもの,生体由来の白色の膿,本剤と関連しない析出物などが考えられたが,異物の発生機序は未だ不明といわざるを得ない.また,異物が涙道閉塞,涙.炎の原因となり得るのか,あるいは涙道閉塞,涙.炎の結果として異物が発現するのかについても明確にはなり得なかった.本検討の限界としては,他の点眼薬の投与期間が不明であるため本剤と同時期に併用されていたかが不明であること,既往歴,合併症などが不明である症例があることなど,患者背景や投与状況について十分な情報が得られていない点があげられる.今後もこれらの副作用の要因を解明するために,継続的な情報収集およびさらなる検討が必要であると考えられる.なお,レバミピド懸濁点眼液の推定使用患者数は約53.5万人(2012.2014年)11)であった.本剤の推定使用患者数に対する涙道閉塞,涙.炎,異物の副作用報告数(それぞれ12例,10例,24例,2015年1月現在)の割合を求めると,副作用発現頻度はそれぞれ0.002%,0.002%,0.004%となるが,副作用報告数は実際の発生数よりかなり少ないことが考えられ,仮に報告数が実際の十分の一とすると,副作用発現頻度はそれぞれ0.02%,0.02%,0.04%となり,抗菌点眼薬や緑内障治療薬における角膜上皮障害などの副作用発現頻度,ステロイド点眼薬における眼圧上昇関連の副作用発現頻度,白内障手術後眼内炎の発症頻度12)と同程度あるいはそれよりは低いと推定された.しかし,これらの事象はときに重症化するおそれがあるため,日常臨床で十分に留意すべき病態であり,副作用発現の実態をより明確にするために今後も検討が必要であると考えられる.なお,各種点眼薬における副作用発現頻度を表3に,有害事象の発現頻度に関する文献報告を表4に示した.以上のように,現時点においてこれらの副作用の発症要因は不明であるが,重篤な涙道閉塞,涙.炎の発症を防止するために,患者の状態(涙液量の増加など)を十分観察し,涙道閉塞の早期発見に努めることが重要である.涙道閉塞,涙.炎および鼻炎などの既往歴があった場合はとくに注意して観察するとともに,急激な涙液メニスカスの上昇に対する留意が必要である.また,涙液メニスカスの上昇がみられた場合は涙管通水検査の実施が推奨される.1746あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(114) 本稿は大塚製薬株式会社により実施された分析結果に基づいて報告された.開示すべきCOIは坪田一男(委託研究費,講師謝礼),大橋裕一(講師謝礼),木下茂(委託研究費,技術指導料,講師謝礼)である.文献1)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20042)UrashimaH,TakejiY,OkamotoTetal:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20123)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:RebamipideincreasesbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmol97:912-916,20134)KimuraK,MoritaY,OritaTetal:ProtectionofhumancornealepithelialcellsfromTNF-a-induceddisruptionofbarrierfunctionbyrebamipide.InvestOphthalmolVisSci54:2752-2760,20135)KaseS,ShinoharaT,KaseM:Effectoftopicalrebamipideonhumanconjunctivalgobletcells.JAMAOphthalmol132:1021-1022,20146)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,20127)UetaM,SotozonoC,YokoiNetal:RebamipidesuppressespolyI:C-stimulatedcytokineproductioninhumanconjunctivalepithelialcells.JOculPharmacolTher29:688-693,20138)大塚製薬株式会社:ムコスタR点眼液UD2%製品添付文書(2015年3月改訂)9)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:Arandomized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreatmentofdryeye.Ophthalmology120:1158-1165,201310)KinoshitaS,AwamuraS,NakamichiNetal:Amulti-center,open-label,52-weekstudyof2%rebamipide(OPC-12759)ophthalmicsuspensioninpatientswithdryeye.AmJOphthalmol157:576-583,201411)株式会社日本医療データセンター(JMDC)12)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOphthalmolScand85:848-851,2007***(115)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151747

点眼補助具使用の有無による1日当り平均点眼使用量の差の検討

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1197.1200,2015c点眼補助具使用の有無による1日当り平均点眼使用量の差の検討森千浩*1,2池田陽子*1,2森和彦*1中野恵美*2津崎さつき*2上野盛夫*1丸山悠子*1吉川晴菜*1今井浩二郎*1木下茂*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2御池眼科池田クリニックEvaluationoftheOne-Day-AmountChangeofEyeDropswithorwithouttheAssistanceoftheXal-EaseROcularHypotensiveDeliveryDeviceinGlaucomaPatientsYukihiroMori1),YokoIkeda1,2),KazuhikoMori1),YoshimiNakano2),SatsukiTsuzaki2),MorioUeno1)Maruyama1),HarunaYoshikawa1),KojiroImai1)andShigeruKinoshita1),Yuko1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)Oike-IkedaEyeClinic目的:緑内障患者が点眼補助具Xall-Ease(ザライーズ)を使用することで,点眼ミスの減少により1日当たりの平均点眼使用量が減少するか否かを検討する.対象および方法:対象は2012年6月.2014年4月に御池眼科池田クリニックおよび京都府立医科大学附属病院に通院中の緑内障患者のうち,ラタノプロスト点眼液またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を単剤使用中の98例のなかから,点眼困難を訴えた,または点眼困難の訴えはないがXall-Ease使用を希望した62例(男女比10:52,平均年齢70.6±10.8歳).対象患者をランダムにXall-Ease先行群と後行群に分類した.1カ月ごとにXall-Ease使用あり,なしで点眼をしてもらい,それぞれ約1カ月後の受診時にボトルを回収し,使用前後の点眼ボトルの重さの差と使用日数から1日当たりの平均点眼使用量を算出した.先行群,後行群それぞれでXall-Ease使用前後での1日当たり平均点眼使用量についてWilcoxon符号順位和検定を用いて検定した.また先行,後行群ともに研究開始前,1カ月,2カ月の眼圧をアプラネーションで測定し,Xall-Ease使用のあり,なしにおける眼圧値を比較した.両眼が対象となる場合は利き腕側の片眼データを選択し,統計学的検討はMann-WhitneyU検定,Wilcoxon符号検定,c2検定を行った.結果:Xal-Easeの使用により1日当たりの平均点眼使用量が減少するわけではなく,眼圧にも影響はみられなかった.Inthisstudy,weevaluatedthe1-day-amount(1DA)changeofeyedropswithorwithouttheassistanceoftheXal-EaseR(XE)(Pfizer,NewYork,NY)eye-dropdeliverydeviceinglaucomapatients.Thisstudyinvolved62glaucomapatientswhousedlatanoprostoritsfixedcombinationeyedrops,andwhofeltthattheireye-dropadministrationproceduresweredifficultandagreedtousetheXEdevice.Thepatientswererandomlydividedintooneofthefollowingtwogroups:Group1:XEusedforthefirstmonthandnotusedforthesecondmonth,andGroup2:XEusagethereverseofGroup1.Eye-dropbottleweightsweremeasuredattheendofeachmonth.The1DAfromthechangeofbottleweightwasthencalculated.Afterexcludingdrop-outpatients,18patientsofGroup1and22patientsofGroup2(42patients)werefurtheranalyzedandthe1DAinbothgroupswerecompared.Thefindingsofthisstudyshowedsignificantdifferenceinthe1DAofEDwithorwithoutXE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1197.1200,2015〕Keywords:緑内障,ザライーズ,ラタノプロスト,点眼液.glaucoma,Xal-Ease,latanoprost,eyedrops.はじめにとして,薬物療法(点眼)が広く用いられている.しかし,緑内障において視野障害進行予防のため唯一エビデンスの緑内障点眼治療は長期に及び,また点眼が適正に行えなけれある治療法は眼圧下降療法1,2)であり,その主たる治療手段ば期待される眼圧下降効果が得られないばかりか,不要な副〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,KawaramachiHirokoji,Kamigyoku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(131)1197 図1Xal.EaseR本体作用3,4)を招く恐れがある.また,本来必要とされる滴下数以上に点眼薬を用いれば経済的な負担も問題となる.点眼薬を適正に眼の中に入れることは健常者であってもそれほど容易ではない.視機能が悪い場合,あるいは高齢者であったり,疾患により手の動きが不自由であったりした場合はなおさら困難5.7)になる.にもかかわらずその点眼困難な患者の存在割合,ならびに点眼補助具の有用性についての検討は十分なされていない.そこで筆者らが着目したのがXal-Ease(ザライーズ,図1)である.Xal-EaseRはラタノプロスト点眼薬の点眼補助具として開発され8,9),希望者および適応者に非売品として企業より無償で提供されている.今回はこのXal-EaseRを緑内障患者が使用することで点眼ミスの減少により1日当たりの平均点眼使用量が減少するか否かを検討した.I対象および方法対象は2012年6月.2014年4月に御池眼科池田クリニックおよび京都府立医科大学附属病院に通院中の緑内障患者のうち,ラタノプロスト点眼液またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を単剤使用中の98例のなかから,点眼困難を訴えた,または点眼困難の訴えはないがXal-EaseR使用を希望した患者全62例である.男女比は10:52,平均年齢は70.6±10.8歳であった.今回の研究を実施する前段階として,ラタノプロスト点眼液またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を単剤使用している患者に,日々の点眼で困難を感じているかどうかアンケートにて回答してもらった.このうち困難と感じている患者,または困難と感じていないがXal-EaseRを使用してみてもよいと回答した患者に本研究の趣旨を説明し,書面による承諾を得た患者について,今回の研究を行った.対象患者をランダムにXal-EaseR先行群と後行群に分類し,またXal-EaseRの使用法は実際にそれを用いて説明した.1カ月1198あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015ごとにXal-EaseR使用あり,なしで点眼をしてもらい,それぞれ約1カ月後の受診時にボトルを回収し,使用前後の点眼ボトルの重さの差と使用日数から1日当たりの平均点眼使用量を算出した.先行群,後行群それぞれでXal-EaseR使用前後での1日当たり平均点眼使用量についてWilcoxon符号順位和検定を用いて検定した.先行群,後行群ともに研究開始前,1カ月,2カ月においての眼圧をアプラネーションで測定し,使用のあり,なしにおける眼圧値を比較した.両眼が対象となる場合は利き腕側の片眼データを選択した.両眼使用の場合は点眼使用量を二分して片眼の使用量として解析した.統計学的検討はMann-WhitneyU検定,Wilcoxon符号検定,c2検定を行った.II結果点眼困難に関するアンケートを行った98例(図2)では,困難と感じている患者は全体の29%で,点眼を困難と感じる割合は50歳代以下でも50歳代以上でもおよそ28%と同等であった.ドロップアウト症例を除いた解析対象は40例40眼(男女比8:32,平均年齢70.6±10.4歳),先行群18例18眼,後行群22例22眼であった(表1).先行群と後行群において男女比(c2検定),年齢(Mann-WhitneyU検定)ともに有意差はなかった.次に各群の1日点眼使用量を検討したが,先行群(Xal-EaseRあり36.7±11.1,なし46.9±32.5μl),後行群(Xal-EaseRなし33.1±13.1,あり48.9±35.0μl)もXal-EaseR使用前後で有意差はなかった(Wilcoxon符号検定,図3).また,Xal-EaseR使用により1日の点眼量が15μL以上増えた症例8例(男女比2:6,平均年齢74.4±9.1歳)は,Xal-EaseR使用の有無で差がない症例31例(男女比6:25,平均年齢68.0±10.7歳)と比較して有意に高齢であった(Mann-WhitneyU検定,p<0.05,表2).先行群でのXal-EaseR使用前,使用あり,使用なしでの眼圧は,12.5±2.5,11.8±2.6,11.8±2.3mmHgで,後行群でのXal-EaseR使用前,使用なし,使用ありでの眼圧は10.5±2.9,10.2±2.1,10.3±2.5mmHgであった.先行群も後行群もXal-EaseR使用前後で眼圧経過に有意差はなかった(Wilcoxon符号検定,図4).研究終了後,Xal-EaseRの使用感についてアンケートを行ったが,Xal-EaseRを使用してみて良かった,今後も使用したいと答えた患者は全体の11例(27%)であった.使用しないほうが良いと答えた患者は全体の22例(55%)であった.また,変わらなかったと答えた患者は6例(15%)であった(図5).III考按今回の研究において50歳代未満と60歳以上に分けた場合,点眼困難を感じる割合は同等の28%であったことから,年齢に関係なく困難と感じる割合が一定に存在することが明(132) %10010028例29%70例71%8060■点眼困難と感じている40■点眼困難と感じていない20020~50歳代60~80歳代A:点眼困難者の割合B:年代別点眼困難者の割合図2点眼困難者の割合若い世代と高齢の世代で点眼困難を感じる割合は28%と同等であった.200.0180.0μlXal-Ease使用先行群μlXal-Ease使用後行群160.0100100140.040.0202020.00.0000.050.0100.0150.0200.0XE使用ありXE使用なしXE使用なしXE使用ありXE使用なしA:Xal-Ease使用者の1日点眼使用量B:各群の1日使用量図3Xal.Ease使用先行群と後行群の1日使用量先行群および後行群においてXal-Ease使用前後で1日の点眼使用量に有意差を認めなかった(Wilcoxon符号検定).表1解析対象症例の背景表2Xal.Ease使用によって1日点眼量が増減した症例80XE使用有120.0100.080.060.06040n男女比平均年齢(歳)点眼使用歴(月)先行群186/1267.7±11.56.3±6.6後行群222/2073.0±9.13.6±7.9先行群と後行群において男女比(c2検定),年齢(Mann-WhitneyU検定)に有意差は認めなかった.らかになった.ラタノプロストをはじめとするプロスタグラn年齢(歳)男女比XE使用の有無で差なし(1日±15μl以内)3168.0±10.76:25XE使用で1日使用量増加(1日15μl以上)874.4±9.12:6XE使用で1日使用量減少(1日15μl以上)1620:1ンジン系の緑内障点眼薬は,点眼液により眼瞼周辺の色素沈着を発現することが報告10)されている.点眼容器から滴下される1滴量は,結膜.に保持可能な容量である30μl程度11)だが,今回の1日の点眼使用量は平均33.1.48.9μlであり,患者は1回1滴で点眼を行えていない可能性が示唆された.Xal-EaseRを使用することにより1日の使用量が15μl以上増えた症例は,使用量の変化がない症例(±15μl以内)と比較して有意に高齢であった.Xal-EaseRを用いても,設定どおり1滴だけ滴下することが高齢者ではむずかしい可能性が示唆された.Xal-Ease使用により1日の点眼量が15μl以上増えた症例はXal-Ease使用の有無で差がない症例と比較して有意に高齢であった(Mann-WhitneyU検定,p<0.05)今回の結果から,点眼補助具は必ずしも1日の点眼量を節約できるものではなく,眼圧にも影響を与えるものではないことが判明した.筆者らの研究ではXal-EaseR使用対象を点眼困難者のみに限っておらず,そのために使用しないほうが良いと回答した割合が高くなったと考えられる.しかしながら,それでも3割近くの患者が点眼補助具を使用して良かったと感じており,引き続いての使用を希望した.これらの(133)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151199 Xal-Ease使用先行群Xal-Ease使用後行群1616141410.610.310.91212眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)12.211.811.8220XE使用前XE使用ありXE使用なしXE使用前XE使用ありXE使用なし0図4Xal.Ease使用先行群と後行群のXal.Ease使用有/無による眼圧変動経過先行群も後行群もXal-Ease使用前後で1日の点眼使用量に有意差は認めなかった(Wilcoxon符号検定).1例3%6例15%利益相反:利益相反公表基準に該当なし101088664411例27%22例55%■良かった文献■悪かった■変わらない1)HeijlA,LeskeMC,BengtssonB,etal:Reductionof■無回答図5Xal.Easeの使用感アンケートXal-Easeを使用して良かった症例は使用しないほうが良かった症例より多かった.患者においてはXal-EaseRが日々の点眼の助けとなり,点眼アドヒアランスを高める一助になっていると考えられた.今回結果としては提出していないが,今後Xal-EaseRを使用したいと答えた患者と,使用しないほうがいい,あるいは使用してもしなくても同じであったと答えた患者を二群に分けて,Xal-EaseRを使用した場合と使用しなかった日の点眼使用量および眼圧を検定したが,どの項目も2群間で有意差を認めなかった(Mann-WhitneyU検定).また,今後XalEaseRを使用したいと答えた患者のうち,そして使用しないほうがいいと答えたか使用してもしなくても同じであったという患者のなかでそれぞれXal-EaseRを使用した日と使用しなかった日の点眼使用量および眼圧の検定を行ったが,すべて有意差は認めなかった(Wilcoxon符号検定,対応のあるt検定).Xal-EaseRを使用したほうが良いと答えた患者の1日の点眼使用量が減少したり,平均眼圧が低いという傾向は認めなかった.現在はこのXal-EaseR以外に他の企業からも点眼補助具が供与または販売されている.患者から点眼困難の要望や訴えがあった場合はXal-EaseRを含め,情報提供できることが望ましい.intraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20022)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)JohnstoneMA:Hypertrichosisandincreasedpigmentationofeyelashesandadjacenthairintheregionoftheipsilateraleyelidsofpatientstreatedwithunilateraltopicallatanoprost.AmJOphthalmol124:544-547,19974)SchloteT:Side-effectsandriskprofileoflatanoprost0.005%(Xalatan).Ophthalmologe99:724-729,20025)大味和恵,黒田正子,竹内美陽ほか:老年性白内障患者の点眼指導後の自立に影響を及ぼす要因.日本看護学会論文集成人看護II33:159-161,20036)宮田美智子,稲田初穂,川口美香ほか:老人の自己点眼の優劣に関する因子の検討.日本看護学会集録老人看護26:40-43,19957)相良有美,福永智美,有賀真紀子:自己点眼の技術習得に関する患者の因子.日本看護学会集録看護総合23:201204,19928)NordmannJP,BaudouinC,BronAetal:Xal-Ease:impactofanocularhypotensivedeliverydeviceoneaseofeyedropadministration,patientcompliance,andsatisfaction.EurJOphthalmol19:949-956,20099)SemesL,ShaikhAS:EvaluationoftheXal-Easelatanoprostdeliverysystem.Optometry78:30-33,200710)GriersonI,JonssonM,CracknellK:Latanoprostandpigmentation.JpnJOphthalmol48:602-612,200411)大橋祐一:点眼薬の眼組織内移行およびドラッグデリバリーシステム.点眼薬―常識と非常識―,眼科NewInsight第2巻,p27-28,メジカルビュー社,19961200あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(134)

アレルギー性結膜炎患者を対象とした0.05%エピナスチン点眼液のオープンラベル長期投与試験成績

2014年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(1):97.104,2014cアレルギー性結膜炎患者を対象とした0.05%エピナスチン点眼液のオープンラベル長期投与試験成績中川やよい*1大橋裕一*2高村悦子*3藤島浩*4*1医療法人中川医院*2愛媛大学大学院医学系研究科高次機能統御感覚機能医学視機能外科学*3東京女子医科大学医学部医学科眼科*4鶴見大学歯学部附属病院眼科SafetyandEfficacyofLong-TermTreatmentwith0.05%EpinastineOphthalmicSolutionforAllergicConjunctivitisYayoiNakagawa1),YuichiOhashi2),EtsukoTakamura3)andHiroshiFujishima4)1)NakagawaClinic,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,SchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,TsurumiUniversitySchoolofDentalMedicine0.05%エピナスチン塩酸塩点眼液(DE-114点眼液)の長期投与時の安全性と有効性を検討するため,アレルギー性結膜炎患者130例を対象としたオープンラベルによる多施設共同試験を実施した.被験薬は1回1滴,1日4回,8週間点眼とした.安全性について,副作用は,眼刺激(1.5%),眼の異物感(0.8%)および羞明(0.8%)が認められた.これらはすべて軽度であり,無処置で速やかに消失した.有効性について,眼掻痒感を含むすべての自覚症状スコアは,点眼開始1週間後より有意な減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.他覚所見スコアの多くは,点眼開始1週間後より有意な減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.以上より,DE-114点眼液のアレルギー性結膜炎患者に対する長期投与における安全性および有効性が示唆された.Thepurposeofthisstudywastoevaluatethesafetyandefficacyof0.05%epinastinehydrochlorideophthalmicsolution(DE-114)inalong-term,open-label,multicenterstudyincluding130allergicconjunctivitispatients.DE-114wasinstilledonedropatatime,QIDfor8weeks.Thefollowingadversedrugreactionsoccurred:eyeirritation(1.5%),foreignbodysensation(0.8%)andphotophobia(0.8%).Allweremildinseverityandresolvedquicklywithouttreatment.Allsubjectivesymptomscores,includingocularitching,decreasedsignificantlystartingfrom1weekpost-initiationandcontinuedtodecreasethroughoutthestudyperiod.Likewise,mostoftheobjectivesignscoresdecreasedsignificantlystartingfrom1weekpost-initiationandcontinuedtodecreasethroughoutthestudyperiod.TheaboveresultsverifythesafetyandefficacyofDE-114asalong-termtreatmentdrugforallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(1):97.104,2014〕Keywords:アレルギー性結膜炎,点眼液,エピナスチン塩酸塩,長期投与試験,DE-114.allergicconjunctivitis,ophthalmicsolution,epinastinehydrochloride,long-termstudy,DE-114.はじめにアレルギー性結膜炎は,感作された個体の眼結膜に抗原が接触することにより誘発される「I型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で,何らかの自他覚症状を伴い,結膜に増殖性変化の見られないアレルギー性結膜疾患」と定義・分類されている1).その発症機序として,肥満細胞に抗原が結合した結果起こる脱顆粒により結膜局所に遊出した炎症性のケミカルメディエーターが三叉神経第一枝のC繊維を刺激することで眼掻痒感を引き起こして,さらに毛細血管の拡張や透過性亢進などを誘発し,結膜充血などの結膜炎症状を引き起こすことが知られている1).エピナスチン塩酸塩は,ヒスタミンH1受容体に対して強く結合し,ヒスタミンH1受容〔別刷請求先〕中川やよい:〒535-0002大阪市旭区大宮2-17-23医療法人中川医院Reprintrequests:YayoiNakagawa,M.D.,NakagawaClinic,2-17-23Omiya,Asahi-ku,Osaka535-0002,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(97)97 体拮抗作用を発揮するとともに,ヒスタミンやロイコトリエンなどのメディエーター遊離抑制作用も併せて示すことにより,従来の抗アレルギー点眼液に比してアレルギー性結膜炎に対する強い治療効果を発揮すると考えられている2.5).アレルギー性結膜炎は通年性アレルギー性結膜炎と季節性アレルギー性結膜炎に分類される.特に,日本ではスギ花粉の飛散時期に季節性アレルギー性結膜炎を発症し,強い眼のかゆみや充血を訴える患者が多く,毎年同じ時期に日常生活が大きく妨げられることが,社会問題化している1).スギ花粉の季節性アレルギー性結膜炎の治療では,花粉の飛散期間中の点眼治療が主体であり,また,通年性アレルギー性結膜炎では点眼治療がさらに長期にわたることから点眼薬の安全性と有効性の確保はきわめて重要である.そこで本試験では,アレルギー性結膜炎患者を対象として0.05%エピナスチン塩酸塩点眼液(DE-114点眼液)の長期投与による安全性および有効性を検討したので,その結果を報告する.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は3医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.なお,本試験はヘルシン表1試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療法人社団信濃会左門町クリニック平岡利彦医療法人平心会大阪治験病院安藤誠医療法人平心会ToCROMクリニック松田英樹キ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.2.対象対象は季節性または通年性アレルギー性結膜炎と診断され,選択基準および除外基準を満たす患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.3.方法a.試験デザイン・投与方法本試験は多施設共同オープンラベル試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,DE-114点眼液を1回1滴,1日4回,8週間点眼した.b.被験薬被験薬であるDE-114点眼液は,1ml中にエピナスチン塩酸塩を0.5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.4.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.5.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,すべての眼局所投与製剤,他の被験薬およびエピナスチン塩酸塩は投与経路を問わず禁止した.また,試験期間中の併用療法に関しては,免疫療法,コンタクトレンズの装用,眼洗浄など薬効評価に影響を及ぼすと考えられる療法を禁止した.6.評価方法a.安全性の評価有害事象および副作用,臨床検査,眼科的検査をもとに安全性を評価した.表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)同意取得時に12歳以上で自覚症状を明確に表現できる被験者とし,性別は不問〔未成年(20歳未満)の場合,その代諾者(家族などで被験者の最善の利益を図り得る人)からも同意を得る〕(2)同意取得時にアレルギー性結膜疾患に特有な臨床症状がある(3)治療期開始時に来院前3日間(来院日を含む)に認められた眼掻痒感の平均が両眼ともに中等度(スコア値:++)以上,かつ,治療期開始時に両眼ともに眼掻痒感が中等度(スコア値:++)以上認められる(4)治療期開始時に治療期開始前2年以内の検査で,I型アレルギー検査陽性であることが確認できる(問診での確認は不可)2)おもな除外基準(1)外眼部もしくは前眼部の炎症性眼疾患(春季カタル,アトピー性角結膜炎,眼瞼炎など)またはドライアイを合併している(2)アレルギー性結膜炎以外の治療を必要とする眼疾患を有する(3)少なくとも片眼の矯正視力0.1未満(4)治療期開始前90日以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往を有する(5)涙点の閉塞を目的とした治療(涙点プラグ挿入術,外科的涙点閉鎖術など)を治療期開始前30日以内まで継続していた(6)治療期開始前7日以内に副腎皮質ステロイド,抗アレルギー薬,ヒスタミンH1受容体拮抗薬,非ステロイド抗炎症薬,免疫抑制薬および血管収縮薬の眼局所投与製剤(点眼薬,眼軟膏,結膜下注射剤など)を使用したことがある(7)アレルギー性鼻炎などで減感作療法もしくは変調療法を行っている(8)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする98あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(98) 表3おもな検査・観察項目観察項目*来院1来院2来院3来院4来院5来院6中止時0日7日(4.10日)14日(11.21日)28日(22.35日)42日(36.49日)56日(50.63日)文書同意の取得●被験者背景●I型アレルギー検査●IgE抗体測定●自覚症状●●●●●●●他覚所見●●●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●●●眼圧測定,眼底検査,視力検査●●●臨床検査●●●症例登録●点眼遵守状況●●●●●●有害事象●●*:日本アレルギー性結膜疾患標準QOL調査票については,試験途中に検査・観察項目に追加した.表4自覚症状判定基準眼掻痒感+++++++++++++.我慢できない程度.日常作業が妨げられるようなかゆみ持続的にかゆみがあり,眼をこすりたい.ただし,日常作業は妨げられていない持続的にかゆみがある時々かゆみがあるなし眼脂++++++.多量に出て朝,瞼がくっついている眼脂が多くて拭う必要あり眼脂が粘つく感じほとんどない流涙++++++.涙があふれてほほに流れる涙が出てときどき拭う必要あり涙っぽい涙は出ない異物感++++++.たえずゴロゴロして眼が開けられないゴロゴロするが努力すれば眼が開けられるときどきゴロゴロするないb.有効性の評価1)有効性評価眼有効性評価眼は,被験薬点眼開始前のアレルギー性結膜炎症状のうち眼掻痒感スコアの高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.2)自覚症状評価項目は,自覚症状(眼掻痒感,眼脂,流涙,異物感)の変化量の推移とした.なお自覚症状は,来院ごとに,問診にて来院前3日間(来院日を含む)に認められた自覚症状の平均を確認し,表4に示す基準で判定した.3)他覚所見評価項目は,眼瞼結膜(充血,腫脹,濾胞,巨大乳頭,乳頭),眼球結膜(充血,浮腫),輪部(Trantas斑,腫脹),角膜上皮障害の変化量の推移とした.なお他覚所見は,来院ごとに,他覚所見の程度を表5に示すアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン1)の判定基準に基づき,細隙灯顕微鏡を用いて判定した.4)QOL(追加評価項目)試験開始前と試験終了時の日常生活の支障度および総括的状態について,スギ花粉飛散期の季節性アレルギー性結膜炎(99)あたらしい眼科Vol.31,No.1,201499 表5アレルギー性結膜疾患の臨床評価基準眼瞼結膜充血++++++.個々の血管の識別不能多数の血管拡張数本の血管拡張所見なし腫脹++++++.びまん性の混濁を伴う腫脹びまん性の薄い腫脹わずかな腫脹所見なし濾胞++++++.20個以上10.19個1.9個所見なし巨大乳頭++++++.上眼瞼結膜の1/2以上の範囲で乳頭が隆起上眼瞼結膜の1/2未満の範囲で乳頭が隆起乳頭は平坦化所見なし乳頭++++++.直径0.6mm以上直径0.3.0.5mm直径0.1.0.2mm所見なし眼球結膜充血++++++.全体の血管拡張多数の血管拡張数本の血管拡張所見なし浮腫++++++.胞状腫脹びまん性の薄い腫脹部分的腫脹所見なし輪部Trantas斑++++++.9個以上5.8個1.4個所見なし腫脹++++++.範囲が2/3周以上範囲が1/3周以上2/3周未満1/3周未満所見なし角膜上皮障害++++++.シールド潰瘍(楯型潰瘍)または上皮びらん落屑様点状表層角膜炎点状表層角膜炎所見なし患者を対象に,試験開始時に設定した評価項目に追加して検討した.なおQOL(qualityoflife)の項目は,日本眼科アレルギー研究会による「日本アレルギー性結膜疾患標準QOL調査票(Japaneseallergicconjunctivaldiseasequality-oflifequestionnaire:JACQLQ)ver.16)」を用い,被験者が記載した.7.解析方法a.安全性解析対象安全性の解析は,被験薬を少なくとも1回点眼し,安全性100あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014に関する何らかの情報が得られている被験者を安全性解析対象集団とした.b.有効性解析対象有効性の解析は,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS)を有効性の検討に使用し,点眼前後の比較には対応のあるt検定を用いた.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.(100) また,自覚症状(眼掻痒感),他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血)について,アレルギー性結膜炎の病型別(季節性,通年性)に示した.なお,自覚症状,他覚所見において,治療期開始日(0日)以降がすべて症状なし「─」の被験者は,当該検査項目の解析から除外した.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図1に示した.文書同意を得て試験に組入れられた被験者および被験薬が点眼された被験者は130例であった.被験薬点眼開始後6例が試験を中止し,124例が試験を完了した.安全性解析対象集団における被験者背景を表6に示した.2.安全性a.有害事象および副作用治療期中には有害事象が130例中22例に認められ,そのうち被験薬との因果関係が否定できない副作用は3例であった.治療期に認められた副作用を表7に示した.副作用は,眼の異物感(0.8%,1/130例),眼刺激(1.5%,2/130例)および羞明(0.8%,1/130例)であった.これらの副作用はすべて眼障害で,重症度は軽度であり,点眼継続中に無処置で速やかに消失した.また,副作用はすべて被験薬点眼開始表6被験者背景21日後までに発現し,長期投与により発現率が上昇することはなく,被験薬投与期間が経過するにつれて発現頻度が上昇する遅発性の副作用も認められなかった.b.臨床検査臨床検査値の異常変動〔ALT(alanineaminotransferase)上昇,g-GTP(g-glutamyl-transpeptidase)上昇,白血球数上昇,リンパ球減少,好酸球上昇〕は,いずれの異常変動も被験薬との因果関係なしと判断された.c.眼科検査細隙灯顕微鏡検査,眼圧測定,視力検査および眼底検査は,被験薬点眼前後で医学的に問題となる変動は認められな図1被験者の内訳組入れられた被験者:130例被験薬が投与された被験者:130例試験を完了した被験者:124例中止した被験者:6例中止理由有害事象不適格例転院,転居,多忙などにより通院不可能:1例:3例:2例例数安全性解析対象集団130病型季節性77(59.2)通年性53(40.8)性別男61(46.9)女69(53.1)年齢(歳)最小.最大平均±標準偏差12.7040.2±13.0年齢区分(未成年者/成年者)未成年者(.19)成年者(20.)11(8.5)119(91.5)年齢区分(非高齢者/高齢者)非高齢者(.64)高齢者(65.)124(95.4)6(4.6)血清抗原特異的IgE抗体スギ陰性陽性12(9.2)118(90.8)血清抗原特異的IgE抗体ハウスダスト2陰性陽性78(60.0)52(40.0)血清抗原特異的IgE抗体ヤケヒョウダニ陰性陽性77(59.2)53(40.8)治療期開始日(0日)の眼掻痒感++++++++++++最小.最大平均±標準偏差28(21.5)96(73.8)6(4.6)2.42.8±0.5例数(%).(101)あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014101 表7治療期に認められた副作用安全性解析対象集団:130例合計累積発現時期(日)0.2122.3536.4950.発現率*眼障害眼の異物感1(0.8)───1(0.8)眼刺激2(1.5)───2(1.6)羞明1(0.8)───1(0.8)合計(件)4───4*:試験薬投与開始日=0日目例数〔Kaplan-Meierの累積発現率(%)〕事象名:MedDRA/Jver14.1かった.3.有効性a.自覚症状自覚症状スコアの推移を図2に示した.眼掻痒感は,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した(p<0.001).また,他の自覚症状の眼脂,流涙および異物感についても,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した(p<0.05).眼掻痒感について,アレルギー性結膜炎の病型別スコアの経時的推移を表8に示した.季節性,通年性のいずれの集団においても,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.b.他覚所見他覚所見スコアの推移を図3,4に示した.眼瞼および眼球結膜充血は,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した(p<0.001).また,他の他覚所見スコアについても,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.眼瞼結膜腫脹,眼瞼結膜乳頭および眼球結膜浮腫は,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認めた(p<0.01).眼瞼結膜濾胞は,点眼開始2週間後の来院3以降,有意なスコアの減少を認めた(p<0.005).輪部腫脹は点眼開始4週間後の来院4以降,有意なスコアの減少を認めた(p<0.01).なお,角膜上皮障害,眼瞼結膜巨大乳頭および輪部Trantas斑については,解析対象例数が10例以下となり,有効性の検討が困難であるため平均および標準誤差を算出しなかった.眼瞼および眼球結膜充血について,アレルギー性結膜炎の病型別スコアの経時的推移を表9に示した.季節性,通年性のいずれの集団においても,点眼開始1週間後の来院2以降,有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.c.QOL(追加評価項目)点眼前後の日常生活の支障度の合計スコアおよび総括的状102あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014スコア経過日数(日)2842560714****************************************************3.02.52.01.51.00.50:眼掻痒感:眼脂:流涙:異物感平均±標準誤差*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001対応のあるt検定(点眼開始時との比較)n=(130)(130)(126)(125)(125)(124)●(115)(115)(111)(110)(110)(109)○(116)(116)(112)(111)(111)(110)□(116)(116)(112)(111)(111)(110)×図2自覚症状スコアの推移(眼掻痒感,眼脂,流涙,異物感)表8病型別の眼掻痒感スコアの経時推移(FAS)アレルギー性結膜炎平均±標準誤差対応のある病型別(例数)t検定のp値季節性来院1(0日)2.8±0.1(77)─来院2(7日)2.5±0.1(77)<0.001来院3(14日)2.3±0.1(74)<0.001来院4(28日)1.6±0.1(73)<0.001来院5(42日)1.1±0.1(73)<0.001来院6(56日)0.5±0.1(73)<0.001通年性来院1(0日)2.8±0.1(53)─来院2(7日)1.8±0.1(53)<0.001来院3(14日)1.4±0.1(52)<0.001来院4(28日)1.3±0.1(52)<0.001来院5(42日)1.2±0.1(52)<0.001来院6(56日)0.9±0.1(51)<0.001態スコアについて,試験開始前と試験終了時のスコア(平均±標準誤差)を比較した結果,日常生活の支障度の合計スコアは試験開始前18.9±1.7から試験終了時5.7±1.2に,総括的状態スコアは試験開始前2.3±0.1から試験終了時0.8±0.1となり,それぞれ有意なスコアの減少を認めた(p<0.001).III考察アレルギー性結膜炎の治療は,安全性と有効性の面から抗アレルギー点眼薬が第一選択薬となっている1).特に,日本の多くの地域においては,毎年3月,4月にスギ花粉の大量飛散がみられることから,約2カ月間にわたる継続使用時の安全性を確保することは重要である.また,スギ花粉のみでなく複数の花粉抗原に感作されている場合や,通年性アレル(102) :眼瞼結膜充血:眼瞼結膜腫脹2.01.81.61.41.21.00.80.60.40.2******************************:眼瞼結膜濾胞:眼瞼結膜乳頭平均±標準誤差************************スコア28425607141.41.21.00.80.60.40.20:眼球結膜充血:眼球結膜腫脹:輪部膨張平均±標準誤差*************************************スコア00714284256経過日数(日)*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001経過日数(日)対応のあるt検定(点眼開始時との比較)*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001n=(130)(130)(126)(125)(124)(124)●対応のあるt検定(点眼開始時との比較)(114)(114)(110)(109)(108)(108)○n=(127)(127)(123)(122)(121)(121)●(103)(103)(99)(98)(97)(97)□(87)(87)(84)(84)(83)(83)○(100)(100)(97)(96)(95)(95)×(28)(28)(28)(28)(28)(28)□図3他覚所見スコアの推移図4他覚所見スコアの推移(眼瞼結膜充血,眼瞼結膜腫脹,眼瞼結膜濾胞,眼瞼結膜乳頭)(眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,輪部腫脹)表9病型別の眼瞼および眼球結膜充血スコアの経時推移(FAS)眼瞼結膜充血眼球結膜充血アレルギー性結膜炎病型別平均±標準誤差対応のある平均±標準誤差対応のある(例数)t検定のp値(例数)t検定のp値季節性来院1(0日)1.8±0.1(77)─1.2±0.0(74)─来院2(7日)1.6±0.1(77)0.0010.8±0.1(74)<0.001来院3(14日)1.6±0.1(74)0.0110.9±0.1(71)<0.001来院4(28日)1.3±0.1(73)<0.0010.6±0.1(70)<0.001来院5(42日)1.1±0.1(73)<0.0010.4±0.1(70)<0.001来院6(56日)0.8±0.1(73)<0.0010.3±0.1(70)<0.001通年性来院1(0日)1.8±0.1(53)─1.2±0.1(53)─来院2(7日)1.5±0.1(53)<0.0010.8±0.1(53)<0.001来院3(14日)1.4±0.1(52)<0.0010.8±0.1(52)0.001来院4(28日)1.2±0.1(52)<0.0010.6±0.1(52)<0.001来院5(42日)1.0±0.1(51)<0.0010.6±0.1(51)<0.001来院6(56日)0.9±0.1(51)<0.0010.5±0.1(51)<0.001期間を通した症状なし例を除く.ギー性結膜炎ではさらに長期間の継続使用が必要となり,安全性確保の重要性はいうまでもない.有効性の検討においては,アレルギー性結膜炎の最も代表的な症状の眼掻痒感に加え,異物感,充血,眼脂,流涙を伴うことが多く,これらの症状を改善させ,低下したQOLの向上を図ることが重要であることを深川らの調査7)および筆者らの報告8)で明らかにしている.すなわち,低下したQOLの向上を図るには,継続使用時の抗アレルギー点眼薬による副作用が少ないこと,また,アレルギー性結膜炎の症状を改善することが必須となる.DE-114点眼液はエピナスチン塩酸塩を有効成分とする抗アレルギー点眼薬であり,諸外国では1日2回点眼による安全性および有効性が報告されている9.11).日本では,2回もしくは4回点眼を想定した開発が進められていたため,本試験では,想定される最大用法として1日4回点眼を設定し,日本人のアレルギー性結膜炎患者を対象に,DE-114点眼液の長期投与(8週間)による安全性および有効性を検討した.点眼期間については,季節性の場合には臨床で使用される期間は8週間程度であると想定し,8週間とした.まず,DE-114点眼液の安全性であるが,認められた副作(103)あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014103 用は,眼の異物感,眼刺激および羞明であった.また,副作用はすべて被験薬点眼開始21日後までに発現しており,長期投与により発現率が上昇することはなく,被験薬投与期間が経過するにつれて発現頻度が上昇する遅発性の副作用も認められなかった.これらの副作用の重症度はすべて軽度であり,点眼継続中に消失したことから,DE-114点眼液の長期投与における安全性および忍容性に問題はないと考えられた.つぎに,DE-114点眼液の有効性であるが,眼掻痒感,眼脂,流涙および異物感のすべての自覚症状ならびに結膜充血を含む多くの他覚所見は,点眼開始1週間後の来院2より有意なスコアの減少を認め,点眼期間の経過に伴いスコアは減少した.すなわち,アレルギー性結膜炎に対する有効性は,長期投与において持続し減弱しないこと,QOLの改善が期待できる点眼薬であることが示された.また,本試験では,日本眼科アレルギー研究会により開発されたアレルギー性結膜疾患の標準QOL調査票(JACQLQ)による評価も行った.その結果,試験開始前と試験終了時の変化量について,日常生活の支障度の合計スコアおよび総括的状態スコアは,有意なスコアの減少を認めた.すなわち,DE-114点眼液の有するヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用により,眼掻痒感や充血などの症状を改善させ,QOLの向上が示されたと考える.以上より,DE-114点眼液は,アレルギー性結膜炎の症状を改善することで,低下したQOLを向上させる点眼薬であり,長期投与における安全性についても問題なく,有用性が高いことが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,20102)FugnerA,BechtelWD,KuhnFJetal:Invitroandinvivostudiesofthenon-sedatingantihistamineepinastine.Arzneimittel-Forschung/DrugResearch38:1446-1453,19883)TasakaK,AkagiM,IzushiKetal:Antiallergiceffectofepinastine:theelucidationofthemechanism.Pharmacometrics39:365-373,19904)MatsushitaN,AritakeK,TakadaAetal:PharmacologicalstudiesonthenovelantiallergicdrugHQL-79:II.Elucidationofmechanismsforantiallergicandantiasthmaticeffects.JpnJPharmacol78:11-22,19985)KameiC,MioM,KitazumiKetal:Antiallergiceffectofepinastine(WAL801CL)onimmediatehypersensitivityreactions:(II)Antagonisticeffectofepinastineonchemicalmediators,mainlyantihistaminicandanti-PAFeffects.ImmunopharmacolImmunotoxicol14:207-218,19926)深川和己,藤島浩,福島敦樹ほか:アレルギー性結膜疾患特異的qualityoflife調査票の確立.日眼会誌116:494502,20127)深川和己:アレルギー性結膜疾患患者に対する治療実態および治療ニーズ調査─人口構成比に基づくインターネット全国調査─.アレルギー・免疫15:1554-1565,20088)中川やよい,内尾英一,岡本茂樹ほか:アレルギー性結膜炎患者の求める診断・治療ニーズについて─インターネット患者アンケート全国調査2009年度報告─.新薬と臨牀58:2086-2098,20099)WhitcupSM,BradfordR,LueJetal:Efficacyandtolerabilityofophthalmicepinastine:arandomized,double-masked,parallel-group,active-andvehicle-controlledenvironmentaltrialinpatientswithseasonalallergicconjunctivitis.ClinTher26:29-34,200410)FigusM,FogagnoloP,LazzeriSetal:Treatmentofallergicconjunctivitis:resultsofa1-month,single-maskedrandomizedstudy.EurJOphthalmol20:811818,201011)BorazanM,KaralezliA,AkovaYAetal:EfficacyofolopatadineHCI0.1%,ketotifenfumarate0.025%,epinastineHCI0.05%,emedastine0.05%andfluorometholoneacetate0.1%ophthalmicsolutionsforseasonalallergicconjunctivitis:aplacebo-controlledenvironmentaltrial.ActaOphthalmol87:549-554,2009***104あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(104)

眼感染症由来Staphylococcus epidermidis が形成したIn Vitro バイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の殺菌効果

2012年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(12):1681.1688,2012c眼感染症由来Staphylococcusepidermidisが形成したInVitroバイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の殺菌効果井上幸次*1池田欣史*1藤原弘光*2高畑正裕*3高倉真理子*3*1鳥取大学医学部視覚病態学*2鳥取大学医学部附属病院検査部*3富山化学工業株式会社綜合研究所BactericidalActivityofTosufloxacinOphthalmicSolutionagainstInVitroBiofilmFormedbyStaphylococcusepidermidisIsolatedfromOcularInfectionYoshitsuguInoue1),YoshifumiIkeda1),HiromitsuFujiwara2),MasahiroTakahata3)andMarikoTakakura3)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,2)DivisionofClinicalLaboratory,ClinicalFacilities,TottoriUniversityHospital,3)ResearchLaboratories,ToyamaChemicalCo.,Ltd.目的:Staphylococcusepidermidisが形成したinvitroバイオフィルムに対する抗菌点眼薬の殺菌効果を検討する.対象および方法:鳥取大学医学部附属病院の眼感染症患者から分離されたS.epidermidisを用い,invitroバイオフィルムを作製し,市販点眼液の殺菌効果を検討した.トスフロキサシン,レボフロキサシン,セフメノキシムの各点眼液を最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)の10倍および30倍濃度(10MIC,30MIC)で24時間作用後の殺菌効果を,生菌数の変化,ならびに走査型電子顕微鏡(scanningelectronmicroscope:SEM)による観察で評価した.結果:バイオフィルムを形成したメチシリンおよびキノロン感受性S.epidermidis3株に対するキノロン系薬のトスフロキサシン点眼液10MICおよび30MIC作用時の殺菌効果はb-ラクタム系のセフメノキシム点眼液より有意に強かった.試験3株中2株におけるトスフロキサシン点眼液10MIC作用時の殺菌効果は同濃度のレボフロキサシン点眼液より有意に強かった.SEMによる形態観察においてもトスフロキサシン点眼液のバイオフィルム形成菌に対する強い殺菌効果が観察された.結論:トスフロキサシン点眼液はバイオフィルムを形成したメチシリンおよびキノロン感受性S.epidermidisによる眼感染症に対し,有用と考えられた.Purpose:TostudythebactericidaleffectofantibacterialophthalmicsolutiononinvitrobiofilmformedbyStaphylococcusepidermidis.MaterialsandMethods:Invitrobiofilmwasformedby3strainsofmethicillin-andquinolone-susceptibleS.epidermidis(quinolone-susceptibleMSSE)isolatedfrompatientswithocularinfectionatTottoriUniversityHospital.Bactericidalactivitiesoftosufloxacin(TFLX),levofloxacin(LVFX)andcefmenoxime(CMX)ophthalmicsolutionswereexaminedbycountingviablecellsafterexposureofS.epidermidisbiofilmtothoseagentsat10-and30-foldtherespectiveminimuminhibitoryconcentrations(MIC),andbyobservationunderascanningelectronmicroscope(SEM).Results:Afterexposureofthe3biofilm-formingstrainstotheophthalmicsolutionsat10-foldand30-foldMIC,thebactericidaleffectsoftheTFLXophthalmicsolutionsweresignificantlymorepotentthanthoseofCMXophthalmicsolution.In2ofthe3testedstrains,thebactericidaleffectoftheTFLXophthalmicsolutionat10-foldMICwasalsosignificantlystrongerthanthatofLVFXophthalmicsolution.ThepotentbactericidaleffectofTFLXophthalmicsolutionwasalsoobservedviaSEM.Conclusion:TFLXophthalmicsolutionisconsideredavaluabletherapeuticagentinthetreatmentofophthalmicinfectioncausedbybiofilm-formingquinolone-susceptibleMSSE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(12):1681.1688,2012〕Keywords:トスフロキサシン,点眼液,表皮ブドウ球菌,バイオフィルム,殺菌効果.tosufloxacin,ophthalmicsolution,Staphylococcusepidermidis,biofilm,bactericidaleffect.〔別刷請求先〕井上幸次:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学Reprintrequests:YoshitsuguInoue,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago,Tottori683-8504,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(91)1681 はじめに結膜炎や角膜炎は眼感染症の代表的な疾患であり,その検出菌はグラム陽性菌のStaphylococcusepidermidis,Staphylococcusaureusが高い比率を占めている1).また,発症頻度は低いものの,重篤な感染症である急性術後眼内炎の起因菌はグラム陽性菌の占める割合が90%と高く,なかでもS.epidermidisをはじめとするコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の分離率が高い2,3).眼感染症では,各種コンタクトレンズ,治療に用いられる眼内レンズなどのバイオマテリアルに形成されたバイオフィルム形成菌がその発症に関与している場合があり,治療の遷延化を招いているとの報告がある4.6).また,眼科周術期における創部からの常在菌の侵入,その後の縫合糸への菌の定着や,結膜瘻孔におけるバイオフィルム形成などが知られている4).バイオフィルム形成菌は生育がnon-あるいはslowgrowing状態にあると同時に,菌体を覆うexopolysaccharidematrixの薬剤低透過性,さらにmultidrug-resistancepumpsの存在などにより,抗菌薬の殺菌作用を回避していると考えられている7,8).眼感染症の原因菌として高い比率を占めるS.epidermidisやS.aureusでは菌により産生された粘液性物質(slime)がバイオフィルム形成に関与するとされ,その産生はicaA,D,Cなどの遺伝子に関連していて,ソフトコンタクトレンズ装用者における急性結膜炎患者ではslime産生株の分離頻度が高い(74.1%)との報告がある9,10).また,術後眼内炎の主要な起因菌,S.epidermidis,S.aureus,Enterococcusfaecalis,Propionibacteriumacnesのうち,バイオフィルム形成が特に問題となるのはStaphylococcus属の2菌種であり,S.epidermidisについては1980.1990年代にinvitroの試験で眼内レンズに菌を定着させ眼内炎との関連を報告したものがある4,11).当時の論文にはバイオフィルムとの記述はないが,定着菌は抗菌薬に対する感受性が低下していることもすでに明らかにされており,眼内炎とバイオフィルム形成との関連はこの頃より明らかにされてきたものと考えられる.以上のように眼感染症とバイオフィルム形成菌との関わりは深いが,抗菌点眼薬のこれに対する殺菌効果についての報告はほとんど見当たらない.今回,2010.2011年に鳥取大学医学部附属病院の眼感染症患者から分離されたS.epidermidisのうち,icaA,D,C遺伝子,薬剤感受性などを検討した3株を用いてinvitroバイオフィルムを作製し,トスフロキサシン,レボフロキサシンおよびセフメノキシム各点眼液の殺菌効果を検討した.I実験材料および方法1.使用菌株鳥取大学医学部附属病院において眼感染症患者から20101682あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012.2011年に分離されたS.epidermidis28株を用いた.さらに,これらの株からキノロン薬耐性決定領域(quinoloneresistantdeterminingregion:QRDR)遺伝子およびica遺伝子の解析,また,各種薬剤に対する感受性を調べ,planktonic菌およびバイオフィルム形成菌に対する殺菌効果の検討に用いる菌株を選定した.今回,icaA,D遺伝子保有株,非保有株について,検討薬剤に対して感性を示す株での殺菌効果を調べるため,メチシリンおよびキノロン感受性S.epidermidis(methicillin-andquinolone-susceptibleS.epidermidis:quinolone-susceptibleMSSE)F-5519(icaA,D非保有株),F-5522およびF-5545(ともにicaA,D保有株)の3株を選択した.2.QRDR遺伝子およびicaA,icaD,icaC遺伝子の解析DNAジャイレース遺伝子gyrA,gyrBおよびトポイソメラーゼIV遺伝子parC,parEのQRDR部位における遺伝子変異の解析はYamadaら12),Haasら13)の報告に基づいたpolymerasechainreaction(PCR)法で行った.また,icaA,icaD遺伝子の有無,slime産生を抑制することが報告されているicaC遺伝子へのsequenceelementIS256挿入の有無をArciolaら14),Ziebuhrら15)の方法に基づき検討した.3.使用薬剤薬剤感受性の測定にはトスフロキサシン(富山化学工業株式会社),レボフロキサシン(LKTLaboratories,Inc),セフメノキシム(ベストコールR静注用,武田薬品工業株式会社)を用いた.また,S.epidermidisのメチシリン耐性の判別のため,オキサシリン(シグマアルドリッチジャパン株式会社)を使用した.Planktonic菌およびinvitroバイオフィルム形成菌に対する殺菌効果の検討には市販のトスフロキサシン点眼液(オゼックスR点眼液0.3%,大塚製薬株式会社),レボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬株式会社),セフメノキシム点眼液(ベストロンR点眼用0.5%,千寿製薬株式会社)を目的の作用濃度になるよう25%cation-adjustedMueller-Hintonbroth(CAMHB;日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)で適宜希釈し用いた.いずれの薬剤も純度あるいは含量が明らかなものを使用し,濃度は活性本体の値として示した.4.薬剤感受性の測定抗菌薬に対する感受性の測定にはCAMHBを用い,ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)の微量液体希釈法に基づき行った16).メチシリンに対する感受性/耐性はCLSIの判定基準に基づき,オキサシリンに対する最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)(≦0.25μg/ml:感受性,≧0.5μg/ml:耐性)によって分類した17).また,キノロン薬に対する感受性/耐性は同判定基準に基づき,レボフロキサシンに対するMIC(≦1μg/ml:感(92) 受性,≧4μg/ml:耐性)によって分類した17).5.Planktonic菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果CAMHBを用いて,37℃で一夜振盪培養した菌を用いた.これを25%CAMHBで80倍希釈した菌液4mlに25%CAMHBでMICの50および150倍濃度に調製した各薬液1mlを加え(終濃度,10および30MIC),37℃で振盪培養した.培養開始24時間後に生菌数測定を行った(n=1).対照として薬剤不含CAMHB5mlを用い,同様の操作にて薬剤非添加時の生菌数を測定した.6.Invitroバイオフィルムの作製とバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果Websterら18)の方法に基づき,CAMHBで一夜培養したS.epidermidisの菌液を通常の10%培地成分濃度のMueller-Hintonagar(MHA,日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)平板上に置いたmembranefilter(MF,DURAPORERMEMBRANEFILTER0.45μmHV;MILLIPORE)上に25μl滴下した(n=3).37℃,48時間培養後,各薬剤10および30MICを含む25%濃度のCAMHB1ml中に浸漬し,さらに37℃,24時間後,MF上とCAMHB1ml中の生菌数の総計を計測した.なお,作用濃度(10および30MIC)はトスフロキサシン頻回反復点眼時の結膜.内濃度などを参考にした19).また,生菌数の測定にあたっては上述のMFと浸漬液〔薬剤含有あるいは不含(対照)CAMHB〕をMulti-BeadsShockerR(安井器械株式会社,大阪)で破砕,ホモジナイズした試料を適宜希釈し,MHA平板に塗布し,II結果1.使用菌株の各種抗菌薬に対する感受性,gyrA,gyrBおよびparC,parE遺伝子におけるQRDR部位およびicaA,icaD,icaC遺伝子の解析S.epidermidis28株に対するトスフロキサシンとレボフロキサシン,またはセフメノキシムとのMIC相関図を図1に示す.いずれの薬剤にも感受性を示した株は7株であり,28株中,メチシリン耐性S.epidermidis(methicillin-resistantS.epidermidis:MRSE)は19株(67.9%),キノロン耐性S.epidermidisは21株(75.0%)であった.Planktonic菌およびバイオフィルム形成菌に対する殺菌効果の検討に使用した菌株の各遺伝子の解析および薬剤感受性の結果を表1に示す.QRDR部位解析の結果,F-5545株のParEにIle575Thrの変異が認められたが,他の株ではいずれの部位にも変異は認められなかった(表1).icaA,icaD遺伝子については,F-5522,F-5545株は両遺伝子を保有していたが,F-5519株ではいずれも認められなかった.さらにicaA,icaD遺伝子を保有していたF-5522,F-5545にicaC遺伝子におけるsequenceelementIS256の挿入は認められなかった(表1).なお,今回の眼感染症由来のS.epidermidis28株中icaA,icaD遺伝子をともに保有していた株は8株(28.6%)であった.3336655110.25110.125113111トスフロキサシンMIC(μg/ml)≧16生育コロニー数を計測した.7.Invitroバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の作用像薬剤作用後1.5%glutaraldehyde(和光純薬工業株式会社)にて1時間固定した後,さらに1%osmiumtetroxide(TAABLaboratories)に18時間浸漬し固定した.さらにアルコール814210.55230.0611≦0.03≦0.030.1250.528≦0.030.1250.528脱水-酢酸イソアミル(和光純薬工業株式会社)置換を経た後,臨界点乾燥を行った試料を白金-パナジウム蒸着した.0.060.2514≧160.060.2514≧16レボフロキサシンMICセフメノキシムMIC(μg/ml)(μg/ml)本試料を走査型電子顕微鏡(SEM:HITACHIS-4500)で形態観察した.図1Staphylococcusepidermidis28株に対するトスフロキサシンとレボフロキサシン,またはセフメノキシムとのMIC相関図相関図中の数値は株数.表1使用菌株のDNAジャイレース,トポイソメラーゼIV遺伝子のQRDR変異,ica遺伝子の解析,および各種抗菌薬に対する感受性QRDRにおける変異IntercellularadhesiongeneMIC(μg/ml)菌株トスフロレボフロセフメノオキサGyrAGyrBParCParEicaAicaDicaCキサシンキサシンキシムシリンF-5519──────NT0.06250.250.50.125F-5522────++Normal0.06250.250.50.125F-5545───Ile575Thr++Normal0.06250.250.50.125─/+:非検出/検出,NT:試験せず,Normal:IS256挿入なし.(93)あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121683 109A887766510NSNS******薬剤10MIC30MIC10MIC30MIC10MIC30MIC**********NS******ABC5Viablecellscount(LogofCFU/MF)Viablecellscount(LogofCFU/ml)410B98765410987654薬剤C無添加トスフロキサシンレボフロキサシンセフメノキシム点眼液点眼液点眼液図2Staphylococcusepidermidisのplanktonic菌に対する各種点眼薬の殺菌効果A:F-5519株,B:F-5522株,C:F-5545株.MIC(μg/ml)は3株とも同じ.トスフロキサシン0.0625,レボフロキサシン0.25,セフメノキシム0.5,薬剤作用時間:24時間,n=1.F-5545株がparEに変異を保有していたものの,使用菌株はキノロン薬に感受性であり,MICはいずれもトスフロキサシンが0.0625μg/ml,レボフロキサシンは0.25μg/mlであった.また,オキサシリンに対するMICは,いずれの株も0.25μg/ml以下で,すべての株がMSSEであり,セフメノキシムのMICはいずれも0.5μg/mlであった(表1)17).2.Planktonic菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果Planktonic菌に対する薬剤10および30MIC,24時間作用後の生菌数を図2に示す.いずれの薬剤も10および30MIC作用後の生菌数は薬剤無添加の場合に比べ,約10.3から10.5に減少し,強い殺菌効果が認められた.セフメノキシム点眼液作用時では生菌数減少と用量との相関性が認められなかった(図2).3.Invitroバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果バイオフィルムを形成した各株に対する薬剤10および30MIC,24時間作用後の生菌数を図3に示す.S.epidermidisF-5519株におけるトスフロキサシン点眼液10MICの241684あたらしい眼科Vol.29,No.12,201210MIC30MIC10MIC30MIC10MIC30MIC987654無添加トスフロキサシンレボフロキサシンセフメノキシム点眼液点眼液点眼液図3Staphylococcusepidermidisのinvitroバイオフィルム形成菌に対する各種点眼薬の殺菌効果A:F-5519株,B:F-5522株,C:F-5545株.薬剤作用時間:24時間,n=3,同じ作用濃度間の有意差:***:p<0.001,**:p<0.01,*p<0.05vs.トスフロキサシン(Dunnetttest).NS:notsignificant,MF:membranefilter.時間作用時の殺菌効果は,10MIC濃度のレボフロキサシン(p<0.05)およびセフメノキシム点眼液(p<0.001)より有意に強かった.トスフロキサシン点眼液30MICの24時間作用時の殺菌効果は,30MIC濃度のセフメノキシム点眼液(p<0.001)より有意に強く,レボフロキサシン点眼液と同程度であった(図3A).F-5522株におけるトスフロキサシン点眼液10および30MICの殺菌効果は,同濃度のレボフロキサシン(p<0.01,図4StaphylococcusepidermidisF.5522株が形成したinvitroバイオフィルムに対する各点眼薬作用時の走査型電子顕微鏡像A:薬剤無添加,B:トスフロキサシン点眼液10MIC,C:レボフロキサシン点眼液10MIC,D:セフメノキシム点眼液10MIC,E:トスフロキサシン点眼液10MIC,F:トスフロキサシン点眼液30MIC,G:レボフロキサシン点眼液30MIC,H:セフメノキシム点眼液30MIC.矢印:破砕した菌体.MF:membranefilter.倍率=A.D,F.H:3,000倍,E:10,000倍.(94) ABCDEMFMFMFMFMFMFMFMFFABCDEMFMFMFMFMFMFMFMFFGH〔図4〕図説明は前頁参照(95)あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121685 p<0.05)およびセフメノキシム点眼液(p<0.001,p<0.001)より有意に強かった(図3B).F-5545株におけるトスフロキサシン点眼液10および30MICの殺菌効果は,それぞれ同じ濃度のセフメノキシム点眼液(p<0.001,p<0.001)より有意に強く,レボフロキサシン点眼液と同程度であった(図3C).4.F.5522株が形成したinvitroバイオフィルムに対する抗菌点眼薬の作用像F-5522株が形成したinvitroバイオフィルムに対する各点眼液10および30MIC作用時のSEM像を図4に示す.セフメノキシム点眼液24時間作用後のバイオフィルム像は10MICおよび30MIC作用時ともに薬剤無処理群(図4A)とほぼ同様であった(図4D,H).トスフロキサシン点眼液およびレボフロキサシン点眼液作用時では10MIC(図4B,C)および30MIC作用時(図4F,G)ともに,バイオフィルム構造が消失し,破砕した菌体(各矢印)が観察されたが,その程度はトスフロキサシン点眼液のほうがレボフロキサシン点眼液より強かった.トスフロキサシン点眼液10MIC作用時の形態を高倍率で観察すると,球菌の形状を留めない,多くの破砕した菌体が見られた(図4E矢印).なお,今回の試験ではicaA,D遺伝子の有無にかかわらず,他の2株でもF-5522株と同様なバイオフィルム形成像がSEMで観察された(データ示さず).また,SEM試料作製時の操作がバイオフィルム像へ影響するとの報告もあるが,今回,薬剤無処理群の形態はPalmerらの報告に示されたものに近似していた20,21).III考按臨床の多くの領域で,さまざまな感染症起因菌がバイオフィルムを形成し,病態の慢性化,治療の遷延化を招いている.バイオフィルムは細菌が付着材料とともに形成したマトリックスであり,付着材料には心臓弁,中耳や副鼻腔といった生体由来の組織,器官の場合と,生体内に留置された医療的なもの,カテーテル,ペースメーカー,人工関節などの場合がある22).眼科領域では後者に相当するものとして,コンタクトレンズ,眼内レンズ,手術時縫合糸,涙点プラグ,涙道形成用チューブなど,多くの医療材料が付着材料として存在する.眼感染症起因菌では近年,Staphylococcus属やPseudomonasaeruginosaなどによるバイオフィルム形成が臨床的に問題となっており,このうち,Staphylococcus属では涙点プラグが関連した急性結膜炎や眼内レンズに付着した菌による術後眼内炎での報告が多い4,23,24).S.epidermidisを含む眼由来分離菌における薬剤感受性を検討した報告ではレボフロキサシン,セフメノキシムに対する感受性が高いとの結果が示されている1).しかし,これらの結果はplanktonic菌に対するものであり,バイオフィル1686あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012ム形成菌に対して同じような抗菌作用が認められるかどうかは明らかでない.そこで今回,S.epidermidisのinvitroバイオフィルムを作製し,汎用されている市販抗菌点眼薬,トスフロキサシン,レボフロキサシンおよびセフメノキシム各点眼液の殺菌効果を検討した.検討にあたっては,用いたいずれの薬剤にも感受性の株を使用した.また,S.epidermidisのslime産生に関連9,10)があるとされるicaA,icaD遺伝子の有無をPCR法で確認し,非保有株1株,保有株2株で検討した.なお,icaA,icaD遺伝子を保有していた2株では,slime産生を抑制することが報告15)されているicaC遺伝子へのsequenceelementIS256の挿入は認められなかった.Staphylococciのpolysaccharideintercellularadhesin(PIA)はバイオフィルム形成との関連が報告されているslimeの主要構成成分と考えられており,その生合成にはica遺伝子locusが関連し,icaA,DはN-acetylgulcosaminetransferase,icaBはPIAdeacetylase,icaCはPIAのexporter遺伝子とされている25).しかし近年,icaA,Dを保有していなくてもバイオフィルム形成が認められるS.epidermidisの存在が報告されており,今回用いたF-5519株もバイオフィルムを形成したことなどから,今後その詳細な解明が待たれる26).使用菌株に対する抗菌活性はトスフロキサシンがレボフロキサシン,セフメノキシムに比べ4.8倍強く,2009年分離の外眼部感染症由来coagulase-negativeStaphylococcusの成績とほぼ同様であった27).Invitroバイオフィルム形成菌に対する作用濃度は,作用が薬剤間で同等になるよう,それぞれの10および30MICとし,24時間作用させた.抗菌点眼薬のヒト眼内動態についての報告はきわめて少ないが,トスフロキサシンについては,健康成人男子を対象に1回1滴,1日8回14日間点眼し,結膜.内濃度を測定した成績がある19).点眼1日目の初回点眼15分後の濃度は40.4±37.5μg/mlであり,点眼14日目の初回点眼24時間後の濃度は2.0±2.69μg/mlであった.涙液が絶え間なく流れる,限られた容量の結膜.内に局所投与された点眼液は,経口投与や,静脈内投与された抗菌薬の場合より,その眼内動態や薬効の推測はきわめて困難と考えられる.バイオフィルム形成による眼感染症であった場合,さらに薬効の推測はむずかしく,実験動物を用いたバイオフィルム感染モデルがその検討に適しているのかもしれない.しかし,現在その報告はなく,今回,invitroでバイオフィルムを作製し検討した.上述のトスフロキサシン点眼液の24時間値(約2.0μg/ml)はS.epidermidisMIC値(0.0625μg/mlとしたとき)の約32倍に相当することから,各点眼液についても,30MICおよびその1/3濃度の10MIC,24時間作用時のinvitroバイオフィルムに対する殺菌作用を検討した.(96) バイオフィルムを形成したS.epidermidisに対し,F5519,F-5522株では10MIC作用時,トスフロキサシン点眼液は同濃度で比較したレボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼液より有意に強い殺菌効果を示した.また,F-5522株でのSEMによる形態観察ではトスフロキサシン点眼液ではバイオフィルム形成菌に対する強い殺菌像が観察された.バイオフィルムを形成した細菌がplanktonic菌に比べ抗菌薬抵抗性を示すこと,また,その抵抗性には薬剤系統差があることが知られている7).S.epidermidisにおいてキノロン系抗菌薬シプロフロキサシンはplanktonic菌よりバイオフィルム形成菌に対する殺菌効果が弱いとの報告がある28).今回の試験でもplanktonic菌に比べ,バイオフィルムを形成した菌に対する殺菌作用はいずれの薬剤も弱かった(図2,3).薬剤系統差についてはP.aeruginosaバイオフィルムに対する殺菌作用が,キノロン系抗菌薬,アミノ配糖体系抗菌薬,b-ラクタム系抗菌薬の順に強いことが報告されている7).これらのことから,バイオフィルム形成菌に対しては,b-ラクタム系抗菌薬よりもキノロン系抗菌薬を,また,キノロン系抗菌薬のなかでも目標とする菌に対して,より強い抗菌活性を示す薬剤を選択すべきと考えられた.術後感染症としての眼内炎は発症すれば失明や視力低下につながる重篤な感染症であり,これらの事態をひき起こさないために手術前後に眼瞼および結膜.内を十分殺菌しておくことは重要である.キノロン系点眼薬の眼科周術期における無菌化率は高く,トスフロキサシン点眼液の場合も手術14日後に判定した術後感染症の発症は全例(108例)において認めず,また,術後無菌化率は95.1%で,類薬と同程度であった29,30).これらの成績におけるバイオフィルム形成菌関与の程度は不明であるが,感染時に菌がバイオフィルムを形成している場合の懸念を少しでも払拭する薬剤を使用することが望ましいことから,その薬剤選択には十分な配慮が必要と思われる.以上,キノロン系のトスフロキサシン点眼液はb-ラクタム系のセフメノキシム点眼液より,バイオフィルムを形成したS.epidermidisに強い殺菌効果を示した.また,試験3株中2株ではトスフロキサシン点眼液10MIC作用時の殺菌効果はレボフロキサシン点眼液の場合より強かった.トスフロキサシン点眼液はバイオフィルムを形成したメチシリンおよびキノロン感受性S.epidermidisによる眼感染症の治療,予防において有用と考えられた.文献1)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,20112)EndophthalmitisVitrectomyStudyGroup:Resultsofthe(97)EndophthalmitisVitrectomyStudy:Arandomizedtrialofimmediatevitrectomyandofintravenousantibioticsforthetreatmentofpostoperativebacterialendophthalmitis.ArchOphthalmol113:1479-1496,19953)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20064)亀井裕子:眼感染症とバイオフィルム.臨床と微生物36:439-444,20095)BehlauI,GilmoreMS:Microbialbiofilmsinophthalmologyandinfectiousdisease.ArchOphthalmol126:15721581,20086)KodjikianL,BurillonC,LinaGetal:Biofilmformationonintraocularlensesbyaclinicalstrainencodingtheicalocus:ascanningelectronmicroscopystudy.InvestOphthalmolVisSci44:4382-4387,20037)SpoeringAL,LewisK:BiofilmsandplanktoniccellsofPseudomonasaeruginosahavesimilarresistancetokillingbyantimicrobials.JBacteriol183:6746-6751,20018)MayT,ItoA,OkabeS:InductionofmultidrugresistancemechanisminEscherichiacolibiofilmsbyinterplaybetweentetracyclineandampicillinresistancegenes.AntimicrobAgentsChemother53:4628-4639,20099)ChristensenGD,BaldassarriL,SimpsonWA:Colonizationofmedicaldevicesbycoagulase-negativestaphylococci.InBisnoALandWaldvogelFA(ed.),InfectionsAssociatedwithIndwellingMedicalDevices,2nded.p45-78,AmericanSocietyforMicrobiology,Washington,D.C.,199410)CatalanottiP,LanzaM,DelPreteAetal:Slime-producingStaphylococcusepidermidisandS.aureusinacutebacterialconjunctivitisinsoftcontactlenswearers.NewMicrobiol28:345-354,200511)GriffithsPG,ElliotTS,McTaggartL:AdherenceofStaphylococcusepidermidistointraocularlenses.BrJOphthalmol73:402-406,198912)YamadaM,YoshidaJ,HatouSetal:MutationsinthequinoloneresistancedeterminingregioninStaphylococcusepidermidisrecoveredfromconjunctivaandtheirassociationwithsusceptibilitytovariousfluoroquinolones.BrJOphthalmol92:848-851,200813)HaasW,PillarCM,HesjeCKetal:Bactericidalactivityofbesifloxacinagainststaphylococci,StreptococcuspneumoniaeandHaemophilusinfluenzae.JAntimicrobChemother65:1441-1447,201014)ArciolaCR,BaldassarriL,MontanaroL:PresenceoficaAandicaDgenesandslimeproductioninacollectionofstaphylococcalstrainsfromcatheter-associatedinfections.JClinMicrobiol39:2151-2156,200115)ZiebuhrW,KrimmerV,RachidSetal:AnovelmechanismofphasevariationofvirulenceinStaphylococcusepidermidis:evidenceforcontrolofthepolysaccharideintercellularadhesinsynthesisbyalternatinginsertionandexcisionoftheinsertionsequenceelementIS256.MolecularMicrobiology32:345-356,199916)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:MethodsforDilutionAntimicrobialSusceptibilityTestsforBacteriaThatGrowAerobically;ApprovedStandard-EighthEditionM07-A8,2009あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121687 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汎用性点眼抗菌薬の小児における臨床評価基準

2012年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科29(3):425.429,2012c汎用性点眼抗菌薬の小児における臨床評価基準宮永嘉隆*1西田輝夫*2大野重昭*3*1西葛西・井上眼科病院*2山口大学*3北海道大学大学院医学研究科炎症眼科学講座ClinicalEvaluationCriteriaforGeneralPurposeAntibacterialEyedropsforChildrenYoshitakaMiyanaga1),TeruoNishida2)andShigeakiOhno3)1)NishiKasaiInouyeEyeHospital,2)YamaguchiUniversity,3)DepartmentofOcularInflammationandImmunology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:トスフロキサシントシル酸塩水和物0.3%点眼液の製造販売後調査で集積した外眼部細菌感染症症例を用い,小児臨床評価基準について検討した.方法:「汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準」(あたらしい眼科15:1735-1737,1998)をもとに新生児,乳児,幼児,学童の所見・症状の合計スコアを成人と比較した.小児臨床評価基準は,所見・症状の観察項目,効果判定の係数について検討し,細菌学的効果を指標として検証した.結果:新生児,乳児,幼児の点眼開始日スコアは成人の48.8.64.8%であった.小児臨床評価基準は,他覚所見を観察項目とし,新生児,乳児では判定時スコアが点眼開始日スコアの係数:1/2以下,幼児では係数:1/3以下になった場合を改善とした.結論:小児臨床評価基準は,製造販売後における小児の臨床評価に適用でき,今後の点眼抗菌薬の調査に示唆を与えるものと考えられた.Purpose:Toestablishpediatricclinicalevaluationcriteriaforbacterialexternaleyeinfectionsinpost-marketingsurveillanceoftosufloxacintosilatehydrate0.3%eyedrops.Method:Totalscoresforobjectivefindingsandsymptomsbasedon“Evaluationcriteriainpost-marketingsurveillanceofgeneralantibiotics”(JournaloftheEye15:1735-1737,1998)amongneonate,infant,youngchildandschool-agechildwerecomparedtothoseofadults.Assessmentcriteriaforchildrenwereinvestigatedinregardtoobservationitemsaswellasthecoefficientsofdeterminationofeffects,thecoefficientsbeingdefinedusingbacteriologicaleffectsasindicators.Results:Totalscoresforneonate,infantandyoungchildatstartofinstillationrangedfrom48.8%to64.8%ofthoseforadults.Theinvestigationitemsincludedonlyobjectiveparametersfortheagecategoriesofneonate,infantandyoungchild.Wejudgedimprovementtobeadecreaseintotalscore,fromstartofinstillationto≦1/2forneonateandinfant,and≦1/3foryoungchild.Conclusion:Thepediatricclinicalevaluationcriteriadevelopedherecanbeappliedtochildreninpost-marketingsurveillance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):425.429,2012〕Keywords:トスフロキサシン(TFLX),点眼液,評価基準,小児,製造販売後調査.tosufloxacintosilate,eyedrops,evaluationcriteria,children,post-marketingsurveillance.はじめに医療用医薬品は,製造販売後において治験時と比較して背景の異なるさまざまな患者に使用される.したがって,当該医薬品の使用実態下における有効性および安全性を確認する製造販売後調査は重要な位置付けにある.一方,製造販売後調査は多地域の施設において専門,非専門を問わず実施されるため,客観的な評価を行う臨床評価基準が必要である.点眼抗菌薬の製造販売後調査における臨床評価基準は,他覚所見および自覚症状の推移をもとに金子らにより作成された「汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準」1)(以下,従来の臨床評価基準,表1)が報告されている.トスフロキサシントシル酸塩水和物0.3%点眼液(以下,TFLX点眼液)は,小児症例に対する治験を実施し2,3),小児への適用を取得したわが国初の点眼抗菌薬である.今回,筆者らはTFLX点眼液の承認後に実施された製造販売後調査における小児の所見・症状の推移などをもとに,新たに小児〔別刷請求先〕宮永嘉隆:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YoshitakaMiyanaga,M.D.,NishiKasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(137)425 表1汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における臨床評価基準他覚所見:結膜充血,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流,その他観察項目の他覚所見自覚症状:眼脂,流涙,異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感,その他の自覚症状症状のスコア化各観察項目を3点,2点,1点,0.5点,0点の5段階で評価する観察時期点眼開始時および点眼後14(±2)日症状スコアの推移に基づく判定改善:14(±2)日以内に合計スコアが1/4以下になった場合改善せず:14(±2)日で合計スコアが1/4以下にならない場合○日で改善せず:14(±2)日の症状観察結果はないが,それまでの観察実施日の合計スコアが1/4以下にならない場合症状の軽重による係数の補正点眼開始時の合計スコアが5点以上10点未満では,14(±2)日以内の合計スコアが1/3.5以下,点眼開始時の合計スコアが10点以上では,14(±2)日以内の合計スコアが1/3以下で改善とする疾患による留意事項涙膿炎では,経過中に示した「流涙」の最低スコアを合計スコアから減点する(金子ら1),「汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準」を一部改変)表2原因菌のGroup分類の臨床評価の基準(以下,小児臨床評価基準)を作成したので報告する.I小児と成人の各種背景の比較1.対象および方法a.対象症例2006年10月から2009年9月にわたり実施したTFLX点眼液の製造販売後調査「低頻度臨床分離株の集積とTFLX点眼液の有効性と安全性の確認」および「新生児の細菌性外眼部感染症に対するTFLX点眼液の有効性と安全性の検討」4)において収集した症例のうち,所定の観察時期に所見・症状のスコア化を実施した742例(小児318例,成人424例)を対象症例とした.なお,小児は新生児(生後4週未満)49例,乳児(生後4週.1歳未満)82例,幼児(1.6歳未満)166例,学童(6.15歳未満)21例に区分した.b.細菌検査および細菌学的効果点眼開始日および判定日(小児では点眼7日後±2日以内,成人では点眼14日後±2日以内)に病巣部,眼脂などの分泌物の細菌検査を実施し,原因菌を特定した.なお,原因菌は検出された菌のうち,表2に示すグループ分類において最上位のグループに属する菌を採用した.細菌学的効果は,点眼開始時の検出菌が判定日に検出されなかった場合を消失とした.c.所見・症状スコア観察項目は,従来の評価基準1)をもとに,他覚所見としてGroupIStaphylococcusaureusStreptococcuspyogenes(GroupA)StreptococcuspneumoniaeEnterococcussp.Citrobactersp.Enterobactersp.Escherichiasp.Proteussp.Morganellasp.SerratiamarcescensOtherEnterobacteriaceaeNeisseriagonorrhoeaeOtherNeisseriaOtherMoraxellaAcinetobactersp.Achromobactersp.Haemophilussp.PseudomonasaeruginosaOtherPseudomonassp.GroupIIStreptococcusagalactiae(GroupB)StreptococcusGroupCOtherStreptococcus(GroupD,G;nongrouped;viridans)Branhamella(Moraxella)catarrhalisGroupIIIStaphylococcusepidermidisOthercoagulasenegativeStaphylococcusMicrococcussp.Bacillussp.Corynebacteriumsp.(diphtheroids)Propionibacteriumacnes結膜充血,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流,その他の他覚所見,自覚症状として眼脂,流涙,異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感,その他の自覚症状とし見・症状を程度に応じ,.(0点:なし),±(0.5点:ごくた.観察時期は点眼開始日および判定日(小児では点眼7日軽度またはごく少量),+(1点:軽度または少量),2+(2後±2日以内,成人では点眼14日後±2日以内)とし,各所点:中等度または中等量),3+(3点:強度または多量)の5426あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(138) 表3年齢別の細菌学的効果年齢例数消失例数消失率(%)新生児201575.0乳児403587.5幼児907987.8学童111090.9成人30725482.7判定日に細菌検査を実施した症例を対象とした.段階でスコア化しその平均値を求めた.d.統計解析Fisherの直接確率法を用い,有意水準は両側5%とした.2.結果a.細菌学的効果年齢別の細菌学的効果を表3に示す.新生児の菌消失率は他の年齢と比べやや低かったが,すべての年齢で有意差を認めなかった(p=0.552).b.所見・症状スコア年齢別の所見・症状スコアを表4に示す.点眼開始日の合計スコアは新生児,乳児では成人の約50%,幼児では成人の約65%であり,学童では成人と同程度であった.項目別では,自覚症状の異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感は新生児で認められず,乳児では掻痒感をわずかに認めたのみであった.また,幼児のこれらの項目のスコアは成人と比べ低かった.一方,判定日の合計スコアは,新生児,乳児,学童では成人と同程度であり,幼児では成人の50%以下であった.II小児臨床評価基準の作成と検証1.小児臨床評価基準案の作成前述のとおり,点眼開始日の合計スコアは新生児,乳児,幼児で成人との差が大きかったことから,従来の臨床評価基準の観察項目,判定方法を改変し,新生児,乳児,幼児を対象とした小児臨床評価基準の作成を試みた.観察項目は,他覚所見のみとした.すなわち,異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感を観察項目から削除し,さらに眼脂,流涙を他覚所見の観察項目とした.判定方法は,従来の臨床評価基準と同様に判定日の合計スコアが点眼開始日の合計スコアの『係数』以下になった場合を改善とする案1,点眼開始日の合計スコアを『係数』倍した後,従来の臨床評価基準で評価する案2について検討した.係数は,点眼開始日の合計スコアの差から,案1では係数を1/2,1/2.5,1/3,案2では係数を1.5,2と幅を持たせた.すなわち,案1は,点眼開始日の合計スコア3.56(新生児)が,係数1/2,1/2.5,1/3である1.78,1.42,1.19以下になった場合を改善とし,案2は点眼開始日の合計スコア3.56の1.5倍,2倍である5.34,7.12とし,従来の臨床評価基準で評価するものである.妥当性は,それぞれの改善率が細菌学的効果と同程度であることを指標とした.なお,案1,案2ともに従来の臨床評価基準よりも緩和されるため,疾患による留意を行わなかった.さらに,案1では症状の軽重による係数の補正を行わな表4所見・症状スコア開始時判定時観察項目新生児乳児幼児学童成人新生児乳児幼児学童成人他覚所見自覚症状結膜充血0.930.791.211.451.420.180.160.140.330.22眼瞼発赤0.110.310.410.930.590.010.050.030.120.08眼瞼腫脹0.120.170.300.740.440.030.0300.120.05角膜浮腫0.010.010.010.020.080000.020.01角膜浸潤0.010.010.010.100.0900000.01涙.膿汁逆流0.140.250.030.050.080.040.090.0100.03その他0.1300.0400.040.0200.0200.004小計1.461.542.003.292.740.290.340.190.600.40眼脂1.701.611.601.431.620.490.370.140.310.27流涙0.400.640.370.450.790.160.260.020.020.17異物感000.270.670.80000.010.070.11眼痛000.200.950.61000.010.070.05羞明000.060.070.21000.00300.03霧視000.060.050.22000.00300.03掻痒感00.020.170.380.3200.010.010.100.04その他0000000000小計2.102.272.734.004.570.650.630.200.570.70合計スコア3.563.814.737.297.300.940.980.391.171.10(139)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012427 表5小児臨床評価基準案による改善率小児臨床評価基準案係数新生児改善率乳児幼児1/2%(例数)83.7(41/49)82.9(68/82)97.0(161/166)案1*11/2.5%(例数)73.5(36/49)73.2(60/82)94.0(156/166)1/3%(例数)65.3(32/49)70.7(58/82)91.6(152/166)案2*21.52%(例数)73.5(36/49)73.2(62/82)94.0(156/166)%(例数)83.7(41/49)90.2(74/82)97.0(161/166)*1判定日スコアが点眼開始日スコアの『係数』以下で改善とする.*2点眼開始日スコアを『係数』倍し,成人評価基準で評価する.かった.2.小児臨床評価基準案の評価小児臨床評価基準の案1,案2における改善率を表5に示す.案1の改善率は案2より低い傾向が認められたが,案1の新生児,乳児の係数1/2としたときの改善率83.7%,82.9%,幼児の係数1/3としたときの改善率91.6%は,細菌学的効果に近似した結果が得られた.以上より,小児の細菌性外眼部感染症に対するTFLX点眼液の製造販売後調査における臨床評価基準を表6のとおり定めた.III考按小児への適用を取得する薬剤が近年増加しているが,治験時の症例数が十分ではない場合も多いため,製造販売後に小児に対する有効性や安全性を改めて確認することは重要である.一方,製造販売後調査において小児を対象とした臨床評価基準の公表は少なく,点眼抗菌薬においても成人臨床評価基準が公表されているのみである.TFLX点眼液の製造販売後調査の結果は,他のフルオロキノロン系抗菌薬で小児を対象とした製造販売後調査の結果5,6)と比較して,疾患構成等が近似したものであり偏りがないと考えられたので,小児臨床評価基準の作成に使用した.従来の臨床評価基準は,他覚所見・自覚症状の観察項目をスコア化しその合計スコアより評価を行うことから,各年齢におけるスコアの違いを検討した.その結果,新生児,乳児,幼児で点眼開始日の合計スコアに大きな差が認められたが,学童の点眼開始日の合計スコアは成人と同程度であった.そこで,新生児,乳児,幼児を対象とした小児臨床評価基準の作成を試みた.観察項目は,点眼開始日の各スコアに基づき検討した.新生児,乳児では発語の関係から自覚症状を訴えることがなく,幼児も自ら症状を明確に表現することが困難であると考えられたため,自覚症状を観察項目から削除した.さらに成人では自覚症状としている眼脂,流涙は,担当医師の確認が可能であることから他覚所見項目とした.すなわち,新生児,乳児では,生体防御系の成熟度の違いに加え眼脂や流涙の自発的な除去が困難であり,生理的眼脂と病的眼脂の区別が容易でない7)ため,他覚所見として評価することを考えた.また,自発的な除去が困難であることが影響し,新生児,乳児では判定日に眼脂,流涙スコアが残り,幼児の合計スコアと比較して高い結果となることがわかったが,小児臨床評価基準の係数を,新生児,乳児では1/2,幼児では1/3に変更することで改善率に与える影響を吸収できる結果となった.小児を対象としたTFLX点眼液の臨床試験2,3)では,治験時の臨床評価ガイドラインに基づき,「推定起因菌が4日目に消失し,かつ臨床症状のスコア合計が8日目に1/4以下になったもの」を著効,「推定起因菌が4日目に消失し,かつ臨床症状のスコア合計が8日目に1/2以下になったもの」および「推定起因菌が消失しなくても,8日目までに臨床症状のスコア合計が1/3以下になったもの」を有効と判定しており,今回作成した小児臨床評価基準は治験時の基準とほぼ整合がとれたものとなった.以上,今回作成した小児臨床評価基準は,小児を対象とし表6小児臨床評価基準【新生児,乳児,幼児】観察項目他覚所見:結膜充血,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流,眼脂,流涙,その他の他覚所見観察時期点眼開始時および点眼後7日(±2日)症状スコアの推移に基づく判定改善:7日±2日以内に合計スコアが1/2(幼児は1/3)以下になった場合改善せず:7日±2日以内に合計スコアが1/2(幼児は1/3)以下にならない場合○日で改善せず:14(±2)日の症状観察結果はないが,それまでの観察実施日の合計スコアが1/2(幼児は1/3)以下にならない場合【学童】成人臨床評価基準を適用する428あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(140) た製造販売後調査の臨床評価に十分適用できるものである.今後は小児を対象とした製造販売後調査における活用を広め,問題点などについてさらに検討していきたいと考える.謝辞:本研究に多大なご指導,ご協力を賜りました故北野周作先生に厚く御礼申し上げます.本論文の要旨は第47回日本眼感染症学会にて発表した.文献1)金子行子,内田幸男,北野周作ほか:汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準.あたらしい眼科15:1735-1737,19982)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対照非遮蔽他施設共同試験.あたらしい眼科23(別巻):118-129,20063)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児細菌性結膜炎患者に対する有効性の成人細菌性結膜炎患者との比較検討.あたらしい眼科23(別巻):130-140,20064)宮永嘉隆,東範行,大野重昭:新生児の外眼部細菌感染症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液の有効性と安全性の検討.臨眼65:1043-1049,20115)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児に対する調査)─.あたらしい眼科26:1429-1434,20096)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児および乳児に対する調査)─.あたらしい眼科24:975-980,20077)亀井裕子:主訴からみた眼科疾患の診断と治療(18.眼脂).眼科45:1665-1671,2003***(141)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012429

薬局における炭酸脱水酵素阻害薬点眼液の使用感調査

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(97)12850910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):12851289,2008cはじめに緑内障の薬物療法では,眼圧を下げる目的でプロスタグランジン製剤,b遮断薬(マレイン酸チモロールなど)が第一選択薬としておもに使用され1),これらの薬剤が不十分な場合に,炭酸脱水酵素阻害薬(塩酸ドルゾラミド,ブリンゾラミド)などが併用薬として使用されている.市販されている炭酸脱水酵素阻害薬のドルゾラミド点眼液とブリンゾラミド点眼液の効果を比較した報告では,眼圧降下作用に有意差がないこと2)や,有効成分の物理化学的特性,製剤学的特徴から使用感が異なることが知られている3,4).しかし,これらの報告にみられる使用感調査は医師によって外来診療中に行われている.一般に,外来診療中の調査では患者から十分な時間をかけた聞き取り調査はむずかしいことが多い.さらに,データは限られた診療施設から収集されるために,精度の高い解析に必要なデータ数を確保するには長期間〔別刷請求先〕高橋現一郎:〒125-8506東京都葛飾区青戸6-41-2東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科Reprintrequests:Gen-ichiroTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversity,AotoHospital,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPAN薬局における炭酸脱水酵素阻害薬点眼液の使用感調査高橋現一郎*1山村重雄*2*1東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科*2城西国際大学薬学部ResearchonObjectiveSymptomsafterGlaucomaEyedropAdministration,UsingDataObtainedbyPharmacistsatPharmaciesGen-ichiroTakahashi1)andShigeoYamamura2)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeikaiUniversity,AotoHospital,2)FacultyofPharmaceuticalSciences,JosaiInternationalUniversity緑内障治療薬として用いられる2種の炭酸脱水酵素阻害薬(塩酸ドルゾラミド,ブリンゾラミド)の使用感について薬局店頭での薬剤師による聞き取り調査を行った.調査対象は単剤投与あるいは両剤の使用感に影響が少ないと考えられるプロスタグランジン関連点眼薬またはマレイン酸チモロールの併用患者とした.調査の結果,気になる症状として,塩酸ドルゾラミド投与患者では刺激感を,ブリンゾラミド投与患者では霧視を指摘する人が多かった.年齢的には,70歳以下の患者で刺激感を気にする人が多かった.また,気になる症状を医師へ相談するかどうかを尋ねたところ,女性で刺激感,掻痒感がある場合に相談する可能性が高いことが示された.これらの結果は,医師による診療時,薬剤師による薬剤投与の際には,製剤の特徴,年齢層,性別などを考慮した説明が重要であることを示している.Weinvestigatedtheworrisomeobjectivesymptomsofpatientswhoadministeredcarbonicanhydraseinhibitor(CAI)(dorzolamidehydrochlorideorbrinzolamide)fortreatmentofglaucoma.Whenpharmacistslledthepre-scriptions,theyaskedthepatientswhethertheyhadexperiencedworrisomesymptoms(blurredvision,foreignbodysensation,itchingparaesthesia,feelingofstimulation)afteradministratingCAIeyedrops.Afeelingofstimula-tionandblurredvisionwerecitedasworrisomesymptomsby25.9%ofpatientstakingdorzolamidehydrochlorideand30.8%ofpatientstakingbrinzolamide.Patientsaged70yearsoryoungertendedtoexperienceafeelingofstimulation.Femalepatientswhoexperiencedafeelingofstimulationoritchingparaesthesiaexpressedthedesiretoconsulttheirdoctorregardingthesymptom.Becausethesesymptomsareknownnottoinuencethepharmaco-logicaleectsofCIA,doctorsandpharmacistsshouldcrediblyexplainthemedicationtopatients,takingintoaccountCAIproductproperties,aswellaspatientageandsex.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):12851289,2008〕Keywords:炭酸脱水酵素阻害薬,緑内障,点眼液,使用感,薬局.carbonicanhydraseinhibitor,glaucoma,eyedrops,objectivesymptom,pharmacy.———————————————————————-Page21286あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(98)を要することになる.これらの問題点を解決するために,調剤薬局の薬剤師による服薬指導の際に,炭酸脱水酵素阻害薬を点眼している緑内障患者へのインタビューを通じて使用感を聞き取り調査した.得られた結果から,患者が医師へ相談する背景を探索し,患者個別の適切な指導方法への応用を考察した.I対象および方法平成18年11月12日から12月15日までに,49の薬局で緑内障治療のために塩酸ドルゾラミド(トルソプトR点眼液)またはブリンゾラミド(エイゾプトR懸濁性点眼液1%)を含む処方せんが調剤された患者のうち,初回処方以外の患者(318名)を対象とした.緑内障患者では複数の点眼液が処方されていることが多いので,調査対象の両剤の使用感に影響が少ないと考えられるプロスタグランジン関連点眼薬(キサラタンR点眼液)またはマレイン酸チモロール(チモプトールR点眼液)の2つの製剤に関してはどちらかの併用を認め,これら以外の点眼薬を併用している患者および3剤以上の点眼液を使用している患者は除外した.最終的な調査対象者は,ドルゾラミド投与群85名,ブリンゾラミド投与群78名の計163名であった.併用の有無は,単独投与36名,チモプトールRまたはキサラタンRのいずれか1剤の併用が120名であった.調査は,薬局で薬剤師による服薬指導の一環として行われ,調査目的を口頭で説明し,同意が得られた患者から以下の質問項目に対して口頭で回答を得た.質問内容は,1)年代,性別,2)使用薬剤および併用薬剤,3)初回処方からの経過期間,4)目薬をさした直後に気になる症状(「眼がかすむ」(霧視),「眼がごろごろする,目やにがでる」(異物感),かゆい(掻痒感),しみる(刺激感)の4つのなかから1つを選択),5)これら使用感について医師への相談の有無.統計解析はJMP6.0.3(SASInstituteJapan,Tokyo)を用いた.比率の検定はc2検定,“医師への相談”に関連する因子の探索はロジスティック回帰分析で行った.II結果患者背景を表1にまとめた.患者背景の一部に欠測がみられたが,本調査の主目的が使用感を比較することにあるので,“気になる症状”の有無のデータが聴取できた患者データはすべて解析対象症例とした.ドルゾラミド投与群とブリンゾラミド投与群間で,性別,年齢層,併用薬の有無,処方期間に患者背景として差はみられなかった.全体として,60歳以上の年齢層の患者で,処方期間は3カ月以上である患者が多くみられた.“気になる症状”があると回答した患者は,ドルゾラミド投与群では85名中44名(51.7%),ブリンゾラミド投与群では78名中45名(57.7%)であり,半数以上の患者が点眼に伴ってなんらかの気になる症状がある表1患者背景背景合計ドルゾラミド投与群ブリンゾラミド投与群p値1)組み入れ患者数1638578性別2)男性/女性64/6337/3127/320.3309年齢層2)20歳代1100.497830歳代10140歳代106450歳代169760歳代1911870歳代50222880歳代以上301911併用薬の有無3)あり/なし120/3663/2257/140.3628処方期間4)3カ月以上14673730.375213カ月10551カ月未満220気になる症状の有無あり/なし89/7444/4145/330.44771)c2検定.2)ドルゾラミド投与群17名,ブリンゾラミド投与群19名のデータが不明.3)ブリンゾラミド投与群7名のデータが不明.4)ドルゾラミド投与群5名のデータ不明.ただし,初回処方ではない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081287(99)と答えた.しかし,その割合は両群で有意差はみられなかった(p=0.4477,c2検定).図1にドルゾラミド投与群とブリンゾラミド投与群の“気になる症状”として4つの項目のいずれかを選択した人の割合と人数をまとめた.「異物感」,「掻痒感」は,両群で差はみられなかったが,ドルゾラミド投与群では「刺激感」を指摘する患者が多く(p=0.0360,c2検定),ブリンゾラミド投与群では「霧視」を指摘する患者が多かった(p=0.0498,c2検定)が,症状はいずれも軽度であった.気になる症状があると回答した患者のうち,医師に相談した経験がない患者の割合は両群とも8割以上であった.また,両製剤の使用方法の違いとして1日の点眼回数があげられるが,緑内障患者は複数の点眼薬を併用していることが多く,投与回数が多くなりがちであり,ドルゾラミド投与患者においても,58/76名(76.3%)は1日3回の投与回数は気にならないと回答した.図2に,患者の年齢(70歳以上と70歳以下)による気になる症状の違いをまとめた.70歳以下の患者で「刺激感」を“気になる症状”としてあげている割合が高いことが認められた(p=0.0079,c2検定).図3に,性別による“気になる症状”の違いをまとめた.男女間で“気になる症状”に違いはなかったが,女性のほうが症状を医師に相談する割合が高い傾向が認められた(p=0.0682,c2検定).“医師へ相談する”因子を解析した結果を表2に示した.年代はリスク因子とならなかったので説明変数から除き,“気になる症状”をすべて説明変数とし,どの症状が気になったときに医師に相談するかをロジスティック回帰分析で解表2症状を医師に相談するリスク因子因子オッズ比95%信頼区間p値性別[女]3.84921.009019.28470.0484霧視3.23470.569817.16080.1738異物感3.85740.475623.92620.1842掻痒感19.86401.9185199.62520.0149刺激感7.73661.674941.56570.0092ロジスティック回帰分析.オッズ比は,相談するオッズ/相談しないオッズ.35302520151050(%)霧視異物感掻痒感刺激感p=0.0498p=0.4879p=0.9008p=0.03601524810442210:ドルゾラミド:ブリンゾラミド図1ドルゾラミド投与群とブリンゾラミド投与群の“気になる症状”としてあげた人の割合と人数ドルゾラミド投与群85人,ブリンゾラミド投与群78人.カラム内の数値は人数,p値はc2検定.80706050403020100p=0.0010p=0.2040p=0.0981p=0.8485p=0.0079p=0.2944333212138624151047:70歳以下*:70歳以上**症状全体霧視異物感掻痒感刺激感症状を医師に相談する***(%)図2年代による“気になる症状”の違い*70歳以下群47人,**70歳以上群80人,***気になる症状を医師に相談すると回答した患者(70歳以下33人中,70歳以上32人中).カラム内の数値は人数.p値はc2検定.6050403020100p=0.6587p=0.2040p=0.9751p=0.9842p=0.7894p=0.0682313414117733121338:男性*:女性**症状全体霧視異物感掻痒感刺激感症状を医師に相談する***(%)図3性別による“気になる症状”の違い*男性群64人,**女性群63人,***気になる症状を医師に相談すると回答した患者(男性34人中,女性31人中).カラム内の数値は人数.p値はc2検定.———————————————————————-Page41288あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(100)析し,“医師に相談する”リスクをオッズ比と95%信頼区間で示した.その結果,「性別」(オッズ比で3.8倍,p=0.0484),「掻痒感」(オッズ比で19.9倍,p=0.0179),「刺激感」(オッズ比で7.7倍,p=0.0092)が有意となり,女性であり,「掻痒感」や「刺激感」が“気になる症状”となった場合にして,患者は医師へ相談する傾向があることが示された.III考察ドルゾラミド投与群,ブリンゾラミド投与群いずれにおいても“気になる症状”があると回答した患者は,約半数であり,その割合に差はみられなかった.2つの点眼薬臨床試験で報告された副作用は,ドルゾラミドで23.4%(145例中34例)5,6),ブリンゾラミドで2025%である7).今回の調査の結果,実際に副作用で報告されている割合の約2倍の患者が,“気になる症状”をあげている.副作用と“気になる症状”は必ずしも同一ではないが,すでに報告されている副作用の割合以上に患者が気になる症状を認識している実態が明らかになった.“気になる症状”として指摘された項目を比較すると,ドルゾラミド投与群で「刺激感」,ブリンゾラミド投与群では「霧視」が多かった.ドルゾラミド点眼液のpHは5.55.9と涙液に比べて低く,これが刺激性の原因と考えられている5,6).一方,ブリンゾラミド点眼液は白色の懸濁製剤であることから,視界が白く曇り霧視が多くみられるものと考えられる7,8).ドルゾラミド投与群で刺激感,ブリンゾラミド投与群では霧視が副作用として指摘されることはこれまでにも報告されており,今回の調査はその結果を裏付けるものとなった3).このことから,炭酸脱水酵素阻害薬を初回処方する際には,それぞれの使用感の特徴を,患者にあらかじめよく伝えておく必要があると思われる.それ以外の症状については指摘される頻度も低く,異物感,掻痒感に関しては,両剤とも差はないと考えられる.70歳以下の患者で,刺激感を“気になる症状”としてあげる割合が高かったが,高齢の患者では,刺激を感じる閾値が上昇しており,さらに,刺激感は連続点眼で軽減するためと考えられる.この結果は,70歳以下の患者に投与を開始する際には「刺激感」に対する指導がなされる必要があることを示している.“気になる症状”の内容に性差はみられなかったが,女性のほうが“症状を医師に相談する”傾向がみられた.これは女性のほうが,“気になる症状”に対する不安感を示しているものと考えられる.特に,女性に対して“気になる症状”の不安感を取り除くような服薬説明が必要であることを示している.“症状を医師へ相談する”リスク因子を探索したところ,「性別」,“気になる症状”として「掻痒感」と「刺激感」の3つの因子が選択された(表2).図3に示したとおり,女性は“気になる症状”に対して不安感をもっていると思われる.したがって,これらの製剤の処方時や服薬指導時にはあらかじめ点眼液の特徴を説明して,不安を取り除く十分な説明が必要となるであろう.また,投与回数に関しては,高齢者,または罹患期間が長い,症状が重篤であるなどの背景をもつ緑内障患者では,点眼回数が多い治療を容認することが報告されており9),年齢や重症度を考慮した説明が必要であると考えられる.一般の外来診療において,点眼薬が初めて処方されたときに,その薬剤の特徴などが説明され,使用感に関して最初のうちは確認されると思われるが,その後は,使用感よりも効果(眼圧下降)や角膜などへの副作用に注意が向かうと思われる.限られた診療時間内では,病状,検査結果などの説明に時間を取られた場合や,同じ処方が続いた場合などは,患者サイドからの申し出がないと使用感は確認されない可能性もある.また,年齢,性別によっては,第三者には言えても医師の前では自分の感想,意見を言えない人もいることが推察される.今回の結果は,患者の年齢,性別,点眼液の特徴などを考慮することによって,患者に不安を与えず,コンプライアンスを向上させるための説明が可能となることを示している.今回の薬局での緑内障治療のための点眼液の使用感調査は,組み入れた患者数が両群で163名であり,これまでに日本で行われた炭酸脱水酵素阻害薬の点眼液の使用調査の例数を大きく上回っている24).今回の,調査期間がほぼ1カ月間と短期間であったことを考え合わせると,点眼液の使用感の調査は,外来診療時に行うよりも薬局で調剤時に行ったほうが効率的に行うことができることを示している.さらに,薬剤師は服薬指導時に患者と比較的時間をかけて話をすることができるので,より正確な使用感の調査ができると期待できる.ただしこの場合,薬局での調査結果が的確に医師側にフィードバックされることが重要であり,処方決定の際の情報として提供することができれば,医師と薬剤師の信頼関係も築くことができ,新たな医師-薬剤師の連携のモデルになると期待される.文献1)緑内障診療ガイドライン(第2版):日眼会誌110:777-814,20062)小林博,小林かおり,沖波聡:ブリンゾラミド1%とドルゾラミド1%の降圧効果と使用感の比較.臨眼58:205-209,20043)添田祐,塚本秀利,野間英孝ほか:日本人における1%ブリンゾラミド点眼薬と1%ドルゾラミド点眼薬の使用感の比較.あたらしい眼科21:389-392,2004———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081289(101)4)長谷川公,高橋知子,川瀬和秀:ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え効果の検討.臨眼59:215-219,20055)北澤克明,塚原重雄,岩田和雄:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するMK-507,0.5%点眼液の長期投与試験.眼紀46:202-210,19946)TheMK-507ClinicalStudyGroup:Long-termglaucomatreatmentwithMK-507,Dorzolamide,atopicalcarbonicanhydraseinhibitor.JGlaucoma4:6-10,19957)SilverLH,theBrinzolamideComfortStudyGroup:Ocu-larcomfortofbrinzolamide1.0%ophthalmicsuspensioncomparedwithdorzolamide2.0%ophthalmicsolution:resultsfromtwomulticentercomfortstudies.SurvOph-thalmol44(Suppl2):S141-S145,20008)石橋健,森和彦:二種類の炭酸脱水酵素阻害点眼薬に伴う「霧視」について.日眼会誌110:689-692,20069)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,2003***