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眼球結膜に発症した無色素性結膜悪性黒色腫の1例

2019年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(3):403.406,2019c眼球結膜に発症した無色素性結膜悪性黒色腫の1例古川友大*1三田村麻里*2長谷川亜里*1小島隆司*3加賀達志*1市川一夫*4*1JCHO中京病院眼科*2岐阜赤十字病院眼科*3慶應義塾大学医学部眼科学教室*4中京眼科CACaseofAmelanoticMalignantMelanomainBulbarConjunctivaYudaiFurukawa1),MariMitamura2),AsatoHasegawa1),TakashiKojima3),TatsushiKaga1)andKazuoIchikawa4)1)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospital,2)DepartmentofOphtalmology,JapaneseRedCrossGifuHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUnivercitySchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,ChukyoEyeClinicC結膜原発の悪性黒色腫は,わが国では非常に頻度が少ない.そのなかでも無色素性悪性黒色腫はさらにまれである.筆者らは,結膜に発症した無色素性悪性黒色腫を経験した.症例はC67歳,女性で,左眼耳側角膜輪部にC1Ccm程度の淡紅色で血流に富み表面に潰瘍を伴う隆起性病変を認めた.超音波生体顕微鏡では腫瘤と角膜の境界は明瞭で,MRIでは腫瘤の眼窩内浸潤は認めなかった.診断および治療目的で腫瘍摘出術を施行した.病理組織検査にて悪性黒色腫と診断,断端陽性だったため後日追加切除を施行した.追加検体には病理組織上悪性所見を認めなかった.初診時よりC2カ月後の血清C5-S-システイニルドーパはC3.1Cnmol/lで,造影CCT,PET-CTでもその他の原発巣,転移巣は認めなかった.術後C15カ月現在まで,遠隔転移および局所再発は認めていないが今後も長期間の定期観察が必要である.CTherehavebeenfewreportedcasesofconjunctivalmalignantmelanomainJapan,butconjunctivalamelanoticmalignantmelanomaisespeciallyrare.Weexperiencedacaseofconjunctivalamelanoticmalignantmelanomaina67-year-oldfemalewhopresentedwithherlefteyeshowinganabout1Ccmpolypoidlesionwithulceronthetem-poralCsideCofCtheCcornealClimbus,CwhichCwasCpaleCredCinCcolorCwithCrichCvascularization.CInCUBM,CtheCmarginCbetweentumorandcorneawasclear.MRIdidnotdiscloseanyinvasionintotheorbit.WeperformedCwideexcisionfordiagnosisandtreatment.Bypathology,wediagnosedamalignantmelanoma.Sincethetumormarginwasposi-tivewithmalignantcells,weperformedadditionalexcision.Wefoundnomalignanciesintheadditionallyobtainedtissues.CContrast-enhancedCCTCandCPET-CTCdidCnotCdiscloseCanyCotherCprimaryCtumorCorCmetastasis.CBloodC5-S-cysteinyldopawas3.1Cnmol/l.At15monthsafterinitialsurgerywehavefoundnometastasisorlocalrecur-rence.Weneedtocontinuewithlong-termfollowup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):403.406,C2019〕Keywords:無色素性悪性黒色腫.conjunctivalamelanoticmalignantmelanoma.はじめに結膜悪性黒色腫は,わが国ではC10万人にC0.059人と非常にまれな疾患であり結膜悪性腫瘍のC6%程度を占める1).多くは茶色から黒色,結節性の隆起性病変だが,無色素性の場合もあり,視診や細隙灯顕微鏡検査のみでは診断がむずかしい例もある.また,症例数が少ないため標準的な治療方針が定まっていない.今回,耳側眼球結膜に発生した腫瘤を摘出し,免疫組織学的検査にて無色素性結膜悪性黒色腫と診断した症例を経験したので報告する.I症例患者:67歳,女性.主訴:左眼結膜腫瘤.現病歴:数年前より左眼耳側結膜に腫瘤を認め,増大傾向であったため近医を受診し,精査目的にてCJCHO中京病院眼科を紹介受診となった.既往歴,家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼C0.4(1.2C×sph.0.5D(cyl.2.0DAx100°),左眼C0.7(矯正不能).眼圧は右眼14mmHg,左〔別刷請求先〕古川友大:〒491-8551愛知県一宮市桜C1-9-9総合大雄会病院眼科Reprintrequests:YudaiFurukawa,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,DaiyukaiGeneralHospital,1-9-9Sakura,Ichinomiya,Aichi491-8551,JAPANC図1初診時前眼部細隙灯顕微鏡所見左眼耳側角膜輪部に径C1Ccm,厚さC3Ccm程度の淡紅色で血流に富み,表面に潰瘍を伴う隆起性病変を認めた.図2初診時より1カ月後のUBM(.は腫瘤を示す)腫瘤と角膜の境界は明瞭であり,角膜への浸潤は認めなかった.〈術前〉〈術後〉図3初回手術所見安全域として腫瘤からC2Cmm離して結膜切開し,角膜実質表層レベルまでを切除した.また,強膜側は表層切除した.その後切除部位にC3分間CMMCを塗布し,生理食塩水で十分に洗浄した.その後,保存角膜を用い表層角膜移植を施行した眼C19CmmHg.前眼部細隙灯顕微鏡検査で左耳側角膜輪部に1Ccm程度の,淡紅色で血流に富み,表面に潰瘍を伴う隆起性病変(図1)を認めた.輪部は眼球との癒着が疑われ可動性は不良,角膜上は輪部からポリープ状に突出した病変で可動性はあり瞳孔領の約C1/3を占めていた.また,腫瘤および腫瘤周囲にCprimaryCacquiredmelanosis(PAM)を疑う所見はなかった.中間透光体,眼底には異常は認めなかった.超音波生体顕微鏡(Ultrasoundbiomicroscope:UBM)では腫瘤と角膜の境界は明瞭であった(図2).造影CMRIでは腫瘤の眼窩内浸潤は認めなかった.治療計画:無色素性の血流豊富な隆起性病変であることから,扁平上皮癌を疑った.また,診断および治療のため,結膜腫瘍摘出術および表層角膜移植術を予定した.初回手術所見:腫瘤は角膜には浸潤なく,耳側角膜輪部にルーズに接着していた.安全域として腫瘤からC2Cmm離して結膜切開し,角膜実質表層レベルまでを切除した後,切除部位にC3分間C0.04%マイトマイシンCC(MMC)を塗布し,生理食塩水で十分に洗浄した.その後,保存角膜を用い表層角膜移植を施行した.強膜上の保存角膜は,結膜を寄せて被覆した(図3).病理所見:異型細胞の増殖あり,多数の核分裂像を認めた.上皮内病変であるCPAMの確実な証明は困難であった.大型異型細胞は免疫染色CHMB-45染色にて陽性だった.以上より悪性黒色腫と診断した(図4).なお,耳側断端は陽性であった.初回術後経過:術後感染などの合併症はなかった.転移の可能性を除外するために造影CCT,PET-CTを施行したが,その他原発巣,転移巣は認めなかった.悪性黒色腫の腫瘍マーカーである血清C5-S-シスレイニルドーパはC3.1nmol/lと正常範囲内であった.(日本人の場合カットオフ値はC10Cnmol/l).AmericanJointCommitteeonCancer(AJCC)のCTNM分類では(pT2b,N0,M0)に該当した.病理検査にて断端陽性であったため後日追加切除施行した.追加切除所見:初回手術時の角膜移植片上を被覆した結膜に腫瘍の残存した断端があると思われた.そのため安全域として角膜移植片からC3.0Cmm離して結膜切開し,角膜移植片図4初回手術時に摘出した腫瘤の病理所見(CHE染色)Ca:潰瘍形成を伴うC7Cmm大の褐色調腫瘤で深さはC3.5Cmmであった.上皮内病変であるCPAMの確実な証明は困難であった.Cb:大型異型細胞は免疫染色CHMB-45染色にて陽性だった.〈術前〉〈術後〉羊膜図5拡大切除所見安全域として角膜移植片からC3.0Cmm離して結膜切開し,角膜移植片の下の角膜および強膜も層状に切除した.その後,角膜移植片を再度縫着し,羊膜を結膜欠損部へ移植し終了した図6拡大切除術後10カ月の前眼部細隙灯顕微鏡所見および角膜形状解析装置所見a:局所再発は認めないが,拡大切除により一部強膜が菲薄化していた.Cb:角膜トポグラフィーでは切除部にわずかに不正乱視を認める程度であった.の下の角膜および強膜も層状に切除した.その後,角膜移植瘍の残存はなかった.一部強膜の菲薄化を認めていたが,保片を再度縫着し,羊膜を結膜欠損部へ移植し終了した(図5).存角膜にて十分覆われていた(図6).術後視力は左眼C0.9追加切除後術後経過:拡大切除の検体には病理検査上,腫(1.2C×sph.0.50D(cyl.1.5DAx45°)であった.術後C15カ月現在まで造影CCTなどにて経過観察中だが,全身転移および局所再発は認めていない.CII考察結膜悪性黒色腫は,角膜以外のすべての眼表面組織より発生し,角膜や眼窩,眼内にも浸潤しうる.欧米の報告では発生母地としてCPAMが約C75%,母斑が約C20%,denovoが約5%と報告されている2).本症例では病理所見においてCPAMを確実に証明できなかったが,臨床的には他に原発巣がないため,結膜の原発と考えられる.また,問診をし直すと過去に腫瘤の隆起のみではなく,褐色調であったと答えられた.これがCPAMであった可能性もあり,臨床的にCPAM由来の悪性黒色腫が考えられる.術前の詳細な問診と無色素性であっても悪性黒色腫を否定しないことが重要だと思われた.現在治療法として外科的切除のほか,冷凍凝固術,MMCなどの代謝拮抗薬,インターフェロンなどの補助療法の併用などが主流となりつつあるが,これらの治療を行っても局所再発や遠隔転移をきたす症例があると報告されている3).本症例では初回手術でCMMCを用いた外科的切除と角膜移植術を施行した.初回手術では断端陽性であったが,追加切除にて腫瘍を認めなかったためMMCが奏効した可能性も考えられる.一方でCMMCの晩期副作用として強膜融解が知られているが,本症例では拡大切除が避けられなかったことから強膜を広範囲に切除することになり,一部強膜が菲薄化している.今後強膜融解が生じるリスクは高いと思われ,慎重に経過観察する必要がある.また,初診時左眼の腫瘍が角膜部に接触していたため,不正乱視が生じ視力低下をきたしていたと考えられた.本症例に対して単純切除のみを施行した場合は,角膜および結膜の組織欠損により不正乱視が生じ術後の視力も限定されると予想されたため,本症例では角膜移植を施行した.このことにより術後の不正乱視も小さく良好な視力を得ることができたと思われた.結膜悪性黒色腫のC5年生存率はC53.4%4),約C50%に局所再発をきたすとされ,再発巣の治療後も約C25%で再々発を生じ,45.60%がリンパ節転移する5)とも報告されている.木村らの報告では耳下腺,顎下,頸部リンパ節へのリンパ節転移を認めた3).また,涙丘,角膜実質,円蓋部,瞼結膜の病変は再発リスクが高いとされる一方で,球結膜病変の症例は再発の可能性は低いとの報告がある6).木村らの報告では初回治療から初めての再発までの期間は約C2年であり,2年再発率が約C4割であったことから,少なくともC2年間は密な経過観察が必要だと報告されている3).本症例では球結膜の腫瘤に対しCMMCを用いた外科的切除を施行し,現在までC1年C15カ月再発や遠隔転移はないものの,今後も長期間の経過観察が必要である.文献1)金子明博:日本における眼部悪性腫瘍の頻度について.臨眼33:941-947,C19792)FolbergR,McLeanIW,ZimmermanLE:Malignantmela-nomaoftheconjunctiva.HumPatholC16:136-143,C19853)木村圭介,臼井嘉彦,後藤浩:結膜悪性黒色腫C11例の臨床像と治療予後.日眼会誌116:503-509,C20124)松本章代,稲富勉,木下茂ほか:結膜原発の悪性黒色腫の長期予後に関する調査および統計学的検討.日眼会誌C103:449-455,C19995)WerschnikCC,CLommatzschPK:Long-termCfollowCupCofCpatientsCwithCconjunctivalCmelanoma.CAmCJCClinCOncolC25:248-255,C20026)MissottenGS,KeijserS,DeKeizerRJetal:ConjunctivalmelanomaintheNetherlands:anationwidestudy.InvestOphthalmolVisSciC46:75-82,C2005***