———————————————————————-Page1???(144)0910-181008\100頁JCLS《原著》あたらしい眼科25(4):566~568,2008?はじめにヘルペス群ウイルスによって起こる重篤な眼疾患として壊死性網膜炎がある.既往歴や帯状疱疹,水痘症などの全身的合併症がない例が多い一方で,脳炎,髄膜炎との合併例が報告されている1,2).しかし,髄液所見における詳細の検討は困難である.今回筆者らは,ウイルス性髄膜炎が先行し,経過中に視力低下をきたし,前房水中からpolymerasechainereaction(PCR)法にてvaricella-zostervirus(VZV)-DNAが検出された網膜炎の症例を経験したので報告する.I症例患者:53歳,男性.主訴:左眼の視力低下,飛蚊症.既往歴:特になし.家族歴:関節リウマチ.現病歴:2005年1月11日頭痛,発熱にて近医を受診した.無菌性髄膜炎と診断され神経内科に入院.1月20日左眼視力低下,飛蚊症を自覚した.1月28日近医眼科を受診し,左眼虹彩炎,硝子体混濁と診断.1月31日急性網膜壊〔別刷請求先〕佐藤真美:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????-???????????????????-????????????????-???????????無菌性髄膜炎に併発した水痘帯状疱疹ウイルスによる網膜炎佐藤真美*1渡辺洋一郎*1門之園一明*1伊藤典彦*2木村綾子*2水木信久*2遠藤雅直*3*1横浜市立大学市民総合医療センター眼科*2横浜市立大学医学部眼科学教室*3横浜市立大学市民総合医療センター神経内科Varicella-ZosterVirusRetinitisAccompaniedwithViralMeningitisMamiSato1),YoichiroWatanabe1),KazuakiKadonosono1),NorihikoIto2),AyakoKimura2),NobuhisaMizuki2)andMasanaoEndo3)?)????????????????????????????????????????????????????????????????)???????????????????????????????????????????????????????????????????????????)???????????????????????????????????????????????????????????ウイルス性髄膜炎を発症中,varicella-zostervirus(VZV)網膜炎と診断された1例を報告する.症例は53歳,男性.無菌性髄膜炎にて入院中,左眼視力低下,飛蚊症を主訴に受診した.左眼虹彩炎,硝子体混濁と診断された.急性網膜壊死を疑われ,発症11日後当院を紹介された.Polymerasechainreaction法にて前房水中からVZVウイルスを検出したため,アシクロビル,ステロイド療法を開始し改善した.髄膜炎と帯状疱疹ウイルスによる網膜炎の同時発症はまれであるが,早期診断,治療が有効であると考えられた.Wereportacaseofvaricella-zostervirus(VZV)retinitiswithviralmeningitis.Thepatient,a53-year-oldmale,washospitalizedforvisuallossinhislefteyeandmyodesopsia.Hehasdiagnosedwithuveitisandhazyvitre-ous.Acuteretinalnecrosiswassuspected,and11daysafterdevelopmentofsymptomshehasreferredtous.WefoundVZV-DNAintheanteriorchamber?uid,andinitiatedtreatmentwithacyclovirandsteroid,towhichherespondedpositively.VZVretinitisisrarelyaccompaniedwithviralmeningitis.Inthepresentcase,earlydiagnosisandaggressivetreatmentwereimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):566~568,2008〕Keywords:無菌性髄膜炎,水痘帯状疱疹ウイルス,網膜炎,PCR(ポリメラーゼ連鎖反応).virusmeningitis,va-ricella-zostervirus,retinitis,PCR(polymerasechainreaction).———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(145)day28日間,プレドニゾロン40mg/dayから漸減していった.治療開始に伴い,血清中,前房水中,髄液中の抗ウイルス抗体価,髄液細胞数は減少傾向であった.発症21日目には硝子体混濁は軽快し,視力も左眼(矯正1.5)まで改善した.抗ウイルス抗体価の変化を表1に,経過を図1に示した.II考按VZVはHSV(herpessimplexvirus)と同じく,aヘルペスウイルス群に属し,皮膚,神経などの外胚葉起源の細胞に強い親和性をもつ.眼科領域では,古くから老人や免疫不全状態にある患者に生じる眼部帯状ヘルペスとして知られてきた.1971年にわが国では桐沢型ぶどう膜炎の原因ウイルスがVZVであることが,浦山によって初めて報告された5).桐沢型ぶどう膜炎は既往歴,全身的合併症がない例が多い一方で,HSV-1ARNがヘルペス脳炎の既往や合併がある場合に発症し,HSV-ARNでは髄膜炎との関連を指摘した例が多い.VZV-ARNに関しても髄膜炎との合併例が報告されている.VZV-ARNは,両眼性に発症,75%に網膜?離を合併し,重症化しやすい.今回もそのように経過すると思われた6,7).VZVによる髄膜炎と網膜炎との合併例は,AIDS(後天性免疫不全症候群)患者において報告8,9)がみられるが,免疫異常のない健康人での報告は現在のところない.視神経,視交叉は発生学的,解剖学的には中枢神経であり,脳組織と共通の髄膜をもつ.そのためヘルペスウイルスが視神経内で再活性した際に髄液中で抗体が産生されたと考えられる10,11).本症例のようにウイルス性髄膜炎が先行した例では,同ウイルスが視神経を介して伝播し網膜炎をきたしたとも考えられる.本症例では,髄液中からPCR法で死(ARN)と疑われ,当院を紹介され受診.同日精査,加療目的で当科入院となった.初診時所見:視力は右眼0.04(矯正1.2),左眼0.03(矯正0.8),眼圧は右眼12mmHg,左眼21mmHgであった.Goldmann視野検査において左眼の軽度暗点拡大を認め,前眼部所見は左眼に前房内炎症細胞がみられた.眼底所見として,左眼硝子体混濁,網膜の下耳側に滲出斑を認めた.右眼には異常を認めなかった.蛍光眼底造影では硝子体混濁のため,詳細不明であった.入院当日前房穿刺施行し,翌日髄液穿刺施行した.血清中のVZV抗体価は上昇していた.前房水中にVZV-DNAが検出され,ウイルス量は6.9×102cop-ies/??であり,一般的なVZV-ARNの約1/1,000であった.髄液中VZV-DNAは陰性であったが,VZV抗体価(EIA),細胞数はともに上昇していた.全身的には帯状疱疹など基礎疾患はなく,血液検査にて免疫機能低下を疑う所見はなかった.経過:診断確定後,アシクロビルの点滴45mg/kg24時間持続静注14日間,ソルメドロール500mg3日間を開始した3,4).その後は内服薬に切り替え,バラシクロビル3,000mg/表1抗ウイルス抗体価検体採取時期発症後(日)検体抗ウイルス抗体価VZV-IgG(EIA)112033血清前房水髄液血清前房水髄液血清髄液2,52049.82841,51027.416.883610.116.82005/1/312/228416.816.82,52010.12/102/152/2249.81,3206/229291,5101,12027.41,00094462013887.48361.50.8静注リンデロン?点眼アシクロビル?静注バルトレックス?内服ステロイドクラビット?点眼・ミドリンP?点眼———————————————————————-Page3???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(146)ている.しかし,血清中の抗ウイルス抗体価が非常に高い今回のような症例では,Q値が参考にならないことがあり,PCR法によるウイルスの検出が確定診断に有用である.本症例は臨床的には,VZVによるARNであったが,やや軽症で抗ヘルペス薬にも反応は良好で予後も良好であった(図2).このような症例の診断は困難である.本症例では,髄液中のVZV抗体価は上昇しており,髄膜炎が先行したために液性免疫が亢進し,網膜炎は軽症で推移したと考えられる.VZVによる網膜炎の発症機序はいまだ不明であるが,早期治療で軽症化につながれば今後の治療に有効であると考える.文献1)JohnsonBL,WisotzkeyHM:Neuroretinitisassociatedwithherpessimplexencephalitisinanadult.????????????????83:481-489,19772)GanatraJB,ChandlerD,SantosCetal:Viralcausesoftheacuteretinalnecrosissyndrome.???????????????129:166-172,20003)GnannJWJr:Varicella-zostervirus:atypicalpresenta-tionsandunusualcomplications.????????????:186:S91-S98,20024)吉田昭子,成岡純二,森田真一ほか:良好な経過をたどった水痘帯状疱疹ウイルスによる急性網膜壊死の1例.眼紀54:308-312,20035)川口龍史,望月學:急性網膜壊死.眼科47:959-965,20056)浦山晃,山田酉之,佐々木徹郎ほか:網膜動脈周囲炎と網膜?離を伴う特異な片眼性急性ぶどう膜炎について.臨眼25:607-619,19717)DukerJS,BlumenkranzMS:Diagnosisandmanagementoftheacuteretinalnecrosis(ARN)syndrome.????????????????35:327-343,19918)elAzaziM,SamurlssonA,LindeAetal:Intrathecalantibodyproductionagainstvirusesoftheherpesvirusfamilyinacuteretinalnecrosissyndrome.????????????????112:76-82,19919)Franco-ParedesC,BellehemeurT,MerchantAetal:Asepticmeningitisandopticneuritisprecedingvaricella-zosterprogressiveouterretinalnecrosisinapatientwithAIDS.????16:1045-1049,200210)薄井紀夫:眼内組織におけるヘルペス群ウイルスDNAの検出.日眼会誌98:443-448,199411)薄井紀夫,今井章介,水野文雄ほか:PCR法を用いた原田病患者髄液よりのEBウイルスの検出.眼臨85:882-887,199112)飯塚裕子,阿部達也,笹川智幸ほか:桐沢型ぶどう膜炎における髄液所見.日眼会誌103:442-448,199913)毛塚剛司:水痘帯状疱疹ウイルスによる眼炎症と免疫特異性.日眼会誌108:649-653,2004VZV-DNAが検出されなかったため,VZVによる髄膜炎と断定できなかった.しかし,明らかに髄液中の抗VZV抗体価は上昇しており,アシクロビル投与開始とともにVZV抗体価は低下した.初診時,血清中の抗VZV抗体価も著明に上昇しており,眼局所だけの反応であるとは考えにくいと思われた.前房水中のVZV抗体価も上昇していたが,血中の抗VZV抗体価が高いために,抗体率(quotientratio:Q値)を算出したところ,第11病日であるにもかかわらず,Q値が1.00であった.elAzaziらがARNの3例でそれぞれHSV-1,HSV-2,VZVに対する抗体産生が髄液中にみられたと報告している.薄井らは桐沢型ぶどう膜炎患者9例において発症1~6週の髄液検査を行い,6例において髄液中でヘルペスウイルスの抗体産生があり,それらは眼内液のPCR法から証明されたウイルスと一致したウイルスに対する抗体産生であったと報告している12).毛塚ら13)は全身の免疫能の低下がなくともARNが発症することから,一見免疫能が正常と思える場合でも,個人の局所における免疫システム異畳