《原著》あたらしい眼科36(2):291.294,2019cエシェレット回折デザインを用いた焦点深度拡張型多焦点眼内レンズの術後視機能平沢学太田友香大木伸一南慶一郎ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科CVisualFunctionafterImplantationofExtendedDepthofFocusIntraocularLensesUsingEcheletteDesignManabuHirasawa,YukaOta,ShinichiOki,KeiichiroMinamiandHirokoBissen-MiyajimaCDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospitalC目的:エシェレット回折デザインを用いた焦点深度拡張型(EDOF)多焦点眼内レンズ(IOL)の術後視機能を後向きに検討した.方法:26例C40眼(平均年齢:62.0C±10.8歳)にCIOLZXR00V(JohnsonC&CJohnsonCSurgicalVision)を挿入した.術後C1カ月時に,裸眼・遠方矯正下視力(距離:遠方,1.0m,50cm,40cm,30cm),焦点深度,コントラス感度を測定した.結果:平均自覚等価球面度数はC.0.10±0.32Dであった.裸眼視力において,遠方からC1.0m間,遠方からC40Ccmまで,それぞれ,平均小数視力C1.0以上,およびC0.7以上が得られた.遠方矯正下視力においても同様であった.また,5例(18.3%)は近方視用眼鏡が必要となった.焦点深度では,眼鏡付加度数+1.0DからC.2.0Dまで平均視力C1.0以上が得られ.コントラスト感度は各空間周波数で正常域内であった.結論:エシェレット回折デザインを用いたCEDOF型多焦点CIOLは,視機能が劣化することなく,遠方より中間距離で良好な視力を提供できると考えられた.CVisualCfunctionCwithCextendedCdepthCoffocus(EDOF)multifocalCintraocularlenses(IOL)usingCEcheletteCdesignCwasCevaluatedCretrospectively.CFortyCeyesCofC26patients(meanage:62.0C±10.8years)receivedCZXR00V(JohnsonC&JohnsonSurgicalVision)C.At1monthpostoperatively,uncorrectedanddistance-correctedvisualacu-ities(distance:far,1.0Cm,50Ccm,40Ccm,30cm)C,depthoffocusandcontrastsensitivityweremeasured.Meanmani-festrefractionsphericalequivalentwasC.0.10±0.32D.Meanvisualacuitiesof1.0orbetterand0.7orbetterwereobtainedCbetweenCfarCandC1.0CmCandCfarCandC40Ccm,Crespectively,CwhileC5patientsCrequiredCspectaclesCforCnearCvision.Depthoffocusresultofvisualacuity1.0orbetterwasobtainedbetween+1.0DandC.2.0D.Contrastsensi-tivitywaswithinthenormalrangeatallspecialfrequencies.EDOFIOLprovidedacceptablevisualacuitiesfromfartointermediatedistanceswithoutdegradationofvisualfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):291.294,C2019〕Keywords:多焦点眼内レンズ,焦点深度拡張,焦点深度,コントラスト感度.multifocalintraocularlens,extend-eddepthoffocus,depthoffocus,contrastsensitivity.Cはじめに遠方に加えて近方にも焦点を有する多焦点(正確にはC2焦点)眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が臨床使用され,白内障術後に眼鏡を使用しない,あるいは使用頻度が低い生活を提供することが可能となっている.近方視に対する加入度数は,当初は+4.0Dのみと読書を想定したもののみであったが,その後,3.5D以下2.5Dまでの加入度数を提供する多焦点CIOLも使用可能となり,患者が希望する近方視距離にあったCIOLを選択する時代となっている.一方,近方視を付加したためにコントラスト感度の低下,グレア,ハローなどの光障害も危惧されている1,2).2焦点とは異なり,遠方の焦点深度を拡張することで,広〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061千代田区神田三崎町C2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Kanda-Misakicho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(161)C291-0.30-0.40-0.20-0.100.000.100.200.30logMAR視力0.400.50平均小数視力裸眼1.221.160.870.740.46遠方矯正下1.431.200.920.750.45図1術後1カ月の裸眼(黒)・遠方矯正下(白)のlogMAR視力平均小数視力を下に示す.い視距離で良好な視力を提供する多焦点CIOLが開発されている2).これらの多焦点CIOLは,焦点深度拡張(extendedCdepthoffocus:EDOF)型とよばれている.EDOFの特性から,可視域は遠方から中間距離に限られる.わが国では,エシェレット回折デザインを用いたCIOL3)がC2017年より使用可能となった.本研究は,EDOF型多焦点CIOLの術後視機能を後向きに検討した.CI対象および方法本臨床研究は,東京歯科大学倫理審査委委員会の承認後,ヘルシンキ宣言に順守して実施された.2017年C2.8月の期間に,当院眼科にて,加齢白内障により白内障を摘出し,EDOF型多焦点CIOLZXR00V(JohnsonC&JohnsonSurgicalVision)を挿入した症例の臨床データを後向きに調査した.手術の選択基準は通常の多焦点CIOLと同様であった.患者が希望する視距離が遠方から中間であることを確認したのち,ZXR00Vの特徴,予想される不具合を十分に説明し,患者の文書による同意を取得し,手術を行った.除外基準は,本CIOLは乱視矯正が可能なトーリックタイプがないため角膜乱視がC1.5D以上,術中にCIOLを.内固定できないと判断された場合とした.使用したCZXR00Vは,回折光学デザイン以外は,紫光吸収C1ピースCIOLZCB00V(JohnsonC&CJohnsonCSurgicalVision)と同一である.回折光学は,ZMB00(JohnsonC&JohnsonCSurgicalVision)などの従来の回折型と異なり,エシェレット回折デザインとなっている.従来は,0次回折光が遠方,1次回折光が近方に用いられているが,本CIOLでは1次,2次回折光がそれぞれ遠方,近方に対応している.さらに,球面形状による屈折で生じる色収差をエシェレット回折で補正することで,視機能の低下を最小にしている4).IOL度数は,IOLCMaster700(CarlCZeissMeditec)の測定値を用いて,正視あるいはC.0.5D近視を目標屈折にし,-0.200.000.200.400.600.80logMAR視力1.001.201.40眼鏡付加度数(D)図2ZXR00挿入眼の焦点深度特性眼鏡付加度数が+1.0DからC.2.0Dまでで,視力1.0(横線)以上であった.SRK/T式で決定した.近視CLASIK(laserCin-situCkeratomi-leusis)後眼の場合は,前眼部光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)SS-1000(Tomey)にて角膜形状を測定し,光線追跡による度数計算ソフトCOKULIXを用いて度数を決定した.白内障手術は,フェムトセカンドレーザーCLenSx(Alcon)により,前.切開,核分割し,ナイフにてC2.4Cmmの角膜切開,超音波乳化吸引とCIOL挿入は,Cen-turionシステム(Alcon)を用いて行った5).IOLは専用インジェクターを用いて水晶体.内に固定した.術後C1カ月にCLandolt-Cチャート視力を測定した.裸眼視力は,遠方,1.0Cm,50Ccm,40Ccm,30Ccmで測定し,遠方矯正下の視力も測定した.多焦点性を評価するために焦点深度検査を行った.遠方矯正度数に対して,+2.0からC.5.0Dまで0.5Dステップで眼鏡加入し,視力を測定した.また,CSV-1000(VectorVision)を用いてC85Ccd/mC2照明下のコントラスト感度を測定した.CII結果対象症例はC26例C40眼,平均年齢はC62.0C±10.8歳(範囲:37.81歳),男女比はC10:16例であった.術前の眼軸長は平均C25.0C±2.3Cmm(範囲:21.2.29.0Cmm),術前角膜乱視度数は平均C0.71C±0.33mm(範囲:0.06.1.27mm),3例5眼は近視CLASIK後眼であった.挿入CIOLの度数は,平均C17.2±6.3D(範囲:5.0.28.0D),30眼は術後屈折を正視に,10眼はC.0.5D狙いであった.対象症例では術中,術後に合併症はみられなかった.術後C1カ月の裸眼・遠方矯正視力を図1に示す.平均自覚等価球面度数はC.0.10±0.32D(範囲:C.0.75.0.75D)であった.平均小数視力C1.0以上,および,0.7以上は,遠方からC1.0Cm間,遠方からC40Ccmまで得られた.本症例中C5例は近方視用の眼鏡が処方された.焦点深度とコントラスト感度の両検査は,17例C26眼に対2.01.00.0-1.0-2.0-3.0-4.0-5.0遠方1.0m50cm40cm30cm292あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(162)表1EDOF多焦点IOL挿入後の平均logMAR裸眼視力臨床研究平均自覚裸眼遠方視力裸眼中間視力裸眼近方視力著者,掲載年症例数等価球面度数(距離)(距離)(距離)AttiaMSAetal,20176)15例30眼C.0.18D0.03(4m)C.0.03(80cm)0.20(40cm)CPedrottiEetal,20187)55例C100眼C.0.19DC.0.04(5m)0.05(60cm)0.18(40cm)CPilgerDetal,20188)CHogartyDTetal,20189)15例30眼C.0.68DC.0.02(5m)C.0.13(80cm)0.11(40cm)43例86眼C.0.19D0.04(3m)0.10(1m)0.28(40cm)本検討26例40眼C.0.10DC.0.09(5m)0.06(1m)0.13(40cm)して行われた.平均焦点深度の結果を図2に示す.平均視力1.0以上が得られたのは,眼鏡付加度数が+1.0DからC.2.0Dまでとなり,良好な明視域はC3.0D程度得られていた.コントラスト感度は,各空間周波数で対象症例の年齢における正常域内であった.CIII考按本後向き研究では,EDOF挿入後C1カ月の視力は,遠方からC1mで良好であり,焦点深度曲線よりC3.0D程度の焦点深度の拡張が確認された.紫光吸収のCZXR00Vは,わが国のみで使用されており,国外では着色のないCIOLCZXR00(JohnsonC&JohnsonVision)の報告が散見される.表1にZXR00の臨床成績と本結果を示す.既報6.9)と同様,またはより良好な裸眼視力が得られていた.視力が良好となったのは,自覚屈折がほぼ正視になったためと考えられた.本検討と既報の結果から,本CEDOF型多焦点CIOLは,遠方より中間距離において良好な視力を提供できると考えられた.本検討で得られた焦点深度曲線では,約C3.0Dの範囲で視力C1.0が得られた.この結果から,本CEDOFIOLの度数を調整する(図2の結果をC.1.0Dずらす)ことにより,遠方からC33Ccmまで視力C1.0を得ることが可能と考えられる.本IOLのデザインに関する文献では4),近方加入度数はC1.75Dとなっているが,本結果における被写体深度はそれより広かった.IOL挿入後における被写体深度が定義されていないが,臨床において有用であると考えられる.また,この焦点深度曲線では,遠方,近方といった顕著なピークがなく,従来の多焦点CIOLとは異なる機序とも推察される.近方視力は視距離C40cm以下では顕著に低下した.本EDOF多焦点CIOLの設定によるもので,焦点深度曲線からもその可視域と一致している.本CEDOF多焦点CIOL挿入前に,可視域(遠方から中間距離まで)を十分説明していたが,26例中C5例(19.2%)は近方視用の眼鏡が必要となっている.目標屈折値をC.0.5D付近に設定し,近方視力を改善する試みも行われている10)が,通常の多焦点CIOLを選択する場合よりも患者の説明がより重要と考える11).術後のコントラスト感度は正常域であった.回折型多焦点IOLでは,コントラスト感度の低下,ハロー,グレアの発生(163)CSV-1000ContrastSensitivity8.8.7.7.6.5.4.3.2.1..}20/1001.4.3..X-ODO-OS.2.Ages60-691.Ages70-80.Spatialfrequency─(Cyclesperdegree)図3コントラスト感度全空間周波数で正常域内だった.が問題となっている12).近方加入度数が小さくなるとこれらの問題は低減されるが,EDOF多焦点CIOLではさらに軽減され,単焦点CIOLレベルに達すると期待されている13).しかしながら,単焦点とCEDOFIOL挿入眼のコントラスト感度はほとんど比較されていない.差異は小さいと考えられるため,片眼に単焦点CIOL,僚眼にCEDOFIOLを挿入し,比較検討が必要と思われる.文献1)AlioCJL,CPlaza-PucheCAB,CFernandez-BuenagaCRCetal:Multifocalintraocularlenses:Anoverview.SurvOphthal-molC62:611-634,C20172)BreyerDRH,KaymakH,AxTetal:Multifocalintraocu-larlensesandextendeddepthoffocusintraocularlenses.AsiaPacJOphthalmol(Phila)C6:339-349,C20173)PedrottiCE,CBruniCE,CBonacciCECetal:ComparativeCanalyC-sisoftheclinicaloutcomeswithamonofocalandanextend-edCrangeCofCvisionCintraocularClens.CJCRefractCSurgC32:C436-442,C2016あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C2934)MillanCMS,CVegaF:ExtendedCdepthCofCfocusCintraocularlens:ChromaticCperformance.CBiomedCOptCExpressC8:C4294-4309,C20175)Bissen-MiyajimaCH,CHirasawaCM,CNakamuraCKCetal:CSafetyCandCreliabilityCofCfemtosecondClaser-assistedCcata-ractCsurgeryCforCJapaneseCeyes.CJpnCJCOphthalmolC62:C226-230,C20186)AttiaMSA,Au.arthGU,KretzFTAetal:Clinicalevalu-ationCofCanCextendedCdepthCofCfocusCintraocularClensCwithCtheCSalzburgCreadingCdesk.CJCRefractCSurgC33:664-669,C20177)PedrottiE,CaronesF,AielloFetal:Comparativeanaly-sisCofCvisualCoutcomesCwithC4intraocularlenses:Monofo-cal,Cmultifocal,CandCextendedCrangeCofCvision.CJCCataractCRefractSurgC44:156-167,C20188)PilgerCD,CHomburgCD,CBrockmannCTCetal:ClinicalCout-comeCandChigherCorderCaberrationsCafterCbilateralCimplan-tationofanextendeddepthoffocusintraocularlens.EurJOphthalmolC28:425-432,C20189)HogartyDT,RussellDJ,WardBMetal:Comparingvisualacuity,rangeofvisionandspectacleindependenceintheextendedCrangeCofCvisionCandCmonofocalCintraocularClens.CClinExpOphthalmol46:854-860,C201810)CochenerB;ConcertoStudyGroup:Clinicaloutcomesofanewextendedrangeofvisionintraocularlens:Interna-tionalMulticenterConcertoStudy.JCataractRefractSurgC42:1268-1275,C201611)ビッセン宮島弘子,南慶一郎,神前太郎ほか:多焦点眼内レンズの挿入を検討している患者に対する多施設アンケート調査.あたらしい眼科35:1281-1285,C201812)deCVriesCNE,CNuijtsRM:MultifocalCintraocularClensesCinCcataractsurgery:literatureCreviewCofCbene.tsCandCsideCe.ects.JCataractRefractSurgC39:268-278,C201313)YooYS,WhangWJ,ByunYSetal:Through-focusopti-calCbenchCperformanceCofCextendedCdepth-of-focusCandCbifocalintraocularlensescomparedtoamonofocallens.JRefractSurgC34:236-243,C2018***294あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(164)