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足立区における糖尿病患者に対する重症化予防への取り組み─ UNDER 7%─

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1554.1559,2018c足立区における糖尿病患者に対する重症化予防への取り組み─UNDER7%─神前賢一*1,2,3杉浦立*4渡邉亨*4山田冬樹*4早川貴美子*4佐藤和義*5鈴木優*6大高秀明*7増田和貴*7高橋伸治*7馬場優子*7千ヶ崎純子*7江川博文*7小林智春*7鳥山律子*7大山悟*7鈴木克己*8伊東貴志*8*1こうざきアイクリニック*2東京慈恵会医科大学*3足立区眼科医会*4足立区医師会*5足立区歯科医師会*6足立区薬剤師会*7足立区衛生部*8足立区区民部CApproachtoPreventingSeverityofUntreatedDiabetesPatientsinAdachiCity─UNDER7%─KenichiKohzaki1,2,3),TatsushiSugiura4),ToruWatanabe4),FuyukiYamada4),KimikoHayakawa4),KazuyoshiSato5),CMasaruSuzuki6)CHideakiOhtaka7),KazuyoshiMasuda7),ShinjiTakahashi7)CYukoBaba7),JunkoChigasaki7),CHirofumiEgawa7),ChiharuKobayashi7),RitsukoToriyama7)CSatoruOhyama7),,KatsumiSuzuki8)andTakashiIto8)1)KohzakiEyeClinicJikeiUniversitySchoolofMedicine,3)iOphthalmologistsAssociation,4)AdachiMedicalAssociation,5)AdachiDentalAssociation,6)AdachiPharmacistsAssociation,7)AdachiCityO.ceHygieneDivision,8)Adachi,2),Adach,CityO.ceCitizensDivisionC緒言:東京都足立区の糖尿病未治療者に対して重症化予防対策を行い,平成C26年度の結果について報告した.対象および方法:足立区国民健康保険に加入し,足立区特定健診を受診したC40.59歳で,ヘモグロビンCA1c7%以上の糖尿病未治療者を対象とした.方法は自宅に訪問通知書を郵送後,保健師と栄養士が自宅訪問し,検診結果を説明し,生活状況を聞き取り,医療機関受診の勧奨を行った.結果:該当者はC231人で,男性C173人,女性C58人であった.自宅面談はC121人,保健センター面談はC13人,電話相談はC35人であり,合計C169人(73.2%)からいずれかの方法で話を聞くことができた.糖尿病診療科への継続受診者は,132人(57.1%)で,中断者はC48人(20.8%),未治療者はC51人(22.1%)であった.眼科受診者はC70人(30.3%),歯科受診者はC81人(35.1%)であった.結語:保健師および栄養士による面談は,医療機関受診の動機づけに有効であると考えられ,保健師,栄養士を含めたメディカルスタッフと患者を交えた連携が重要と考えられた.CPurpose:WepresentaprojectforpreventingseverityinuntreateddiabeticpatientsinAdachicity.Subjectsandmethods:SubjectsCwereCuntreatedCdiabeticCpatientsCwithChemoglobinCA1c7%CorCmore,CagedC40to59,whohaveCjoinedCAdachiCCityCNationalCInsuranceCandCreceivedCspeci.cCcomprehensiveCmedicalCexamination.CAfterCtheCCitymailedavisitnoticetothesubjects,apublichealthnurseandnutritionistvisitedeachhouse.Subjectsweretheninterviewedastotheresultsofthespeci.ccomprehensivemedicalexamination,lifestyleandrecommendingmedicalinstitute.Results:Visitnoticewasmailedto231patients(173males,58females).Ofthe231,169(73.2%)ChadCsomeCformCofCinterviewCbyCaCpublicChealthnurse:121atChome,C13atCaChealthCcenterCandC35byCtelephoneCcounseling.CPeriodicCvisitsCtoCdiabetesCdepartmentCtotaled132(57.1%)patients;cessationsCnumbered48(20.8%).Untreatedpatientsnumbered51(22.1%).Visitstoophthalmologytotaled70(30.3%)patientsandtodentistry81(35.1%).Conclusions:AnCinterviewCbyCpublicChealthCnurseCandCnutritionistCwasCe.ectiveCinCmotivatingCmedicalCinstitution.CCooperationCbetweenCmedicalCsta.,CincludingCpublicChealthCnurse,CnutritionistCandCpatientsCwasCconsid-eredimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1554.1559,C2018〕〔別刷請求先〕神前賢一:〒121-0815東京都足立区島根C3-8-1山一ビル島根CII-2FこうざきアイクリニックReprintrequests:KenichiKohzaki,M.D.,KohzakiEyeClinic,YamaichibuildingShimaneII-2F,3-8-1Shimane,Adachi-ku,Tokyo121-0815,JAPANC1554(106)Keywords:足立区,特定健診,糖尿病,重症化予防,メディカルスタッフ.AdachiCcity,medicalcare,diabetesmellitus,preventionofseverity,medicalsta.Cはじめに生活習慣病は若年時からの生活環境を改善することで,その発症を予防することができるが,むずかしいのも事実である.InternationalCDiabetesFederationによると糖尿病は世界的に増加傾向にあり1),国ごとにさまざまな対策がなされている2.5).また,近年ではさまざまなCIT機器を利用した介入も試みられている6).これは日本においても同様であり,糖尿病の予防,重症化予防,合併症予防のために,各市町村や各地域の医師会などで特定健診7)をはじめとする積極的な取り組みが行われている.東京都足立区は,以前から区民の健康維持増進に取り組んでいたものの,いずれも本質的な改善には至らなかった.糖尿病に関する新たな事業を発足させるにあたり,過去C10年間の健康調査を行ったところ,①足立区国民健康保険における医療費は糖尿病および腎不全が毎年上位を占め,②糖尿病患者一人当たりの医療費は東京C23区内で最高位であり,③糖尿病患者の腎透析に至る割合は,特別区および東京都の平均値を上回り,④区民は糖尿病が重症化するまで放置する傾向にあるということが判明した8).これらのことを踏まえて,平成C25年に足立区は「糖尿病対策アクションプラン」を発足した.このアクションプランには,「野菜を食べる・野菜から食べることを推進する」「乳幼児期からよい生活習慣づくりを推進する」「糖尿病を重症化させない取り組みを推進する」という三つの基本方針が掲げられている.足立区眼科医会は平成C26年度から,糖尿病を重症化させない取り組みである糖尿病重症化予防対策事業に参加を始めた.この事業では,糖尿病の重症化および合併症により区民の生活の質が低下するのを抑制することを目標としている.今回筆者らは,足立区の糖尿病重症化予防対策における平成C26年度の結果について報告する.本研究は,東京慈恵会医科大学倫理委員会の承認を得て行った〔臨床研究CNo.29-334(8950)〕.CI対象および方法足立区国民健康保険に加入し,平成C26年C5月.平成C27年C3月に足立区特定健診7)を受診した区民のうち,年齢が40.59歳,ヘモグロビンCA1c値がC7%以上,糖尿病未治療者を糖尿病重症化予防対策の対象者とした.対象者はC231人で,男性はC173人(40歳代C79人,50歳代C94人),女性58人(40歳代C20人,50歳代C38人)であった.平均年齢は,40歳代でC45.3C±2.8歳,50歳代でC54.7C±2.9歳であった.また,足立区特定健診の検査内容は身長体重,肥満度,腹囲,血圧の計測,胸部CX線,心電図,血液,尿検査であった.はじめに足立区国民健康保険課より対象者の自宅に訪問通知書を発送した.つぎに保健師および栄養士が自宅を訪問し,本人または家族と面談を行った.自宅での面談が困難な場合は保健センターでの面談や電話による相談を行った.面談時の内容は,過去の通院歴や治療内容の把握,特定健診結果の状況および病気の説明,医療機関への受診の必要性などであった.また,個人の生活習慣の把握および改善へのアドバイス,栄養指導なども行った.その後,対象者の追跡調査を行うために,複数回の訪問や面談を行う症例があった.面談後の各診療科への受診状況,糖尿病網膜症や歯周病の有無の判定,継続通院・中断状況などは,足立区国民健康保険課のレセプトデータから抽出し解析した.対象者の特定健診結果は平均値±標準偏差で示し,平成C26年の厚生労働省の国民健康・栄養調査の結果を基準値とし,年代別および性別ごとに血糖値,ヘモグロビンCA1c値,血圧,脂質代謝,腎機能,肥満度を比較検討した.また,網膜症の有無との関連についても検討した.CII結果今回の対象者C231人は,同年代(40.59歳)の足立区特定健診受診者C17,140人のうちのC1.4%であった.自宅にて面談できたのはC231人中C121人で,訪問回数は延べC263回であった.自宅での面談がむずかしく保健センターで面談できたものはC13人で,延べC26回であった.直接の面談が困難で電話による相談となったものはC35人で,その回数はC236回であった.全体でC231人中C169人(73.2%)にいずれかの方法で聞き取り調査ができた.また,訪問時の面談拒否や不在,自宅の特定ができないものがC62人(26.8%)みられた.訪問時の面談拒否の理由としては,「自己管理しているので必要ない」,「医療機関は信用できない」などが聴取できた.また,このC62人に対して不在票をポスティングしたところ,後日C22人(35.5%)から連絡をもらうことができた.足立区国民健康保険課のレセプトデータによる解析では,面談後に眼科受診をしているものはC70人(30.3%)であり,そのうち網膜症あり(以下,DR+群)と診断されたものは43人(61.4%)で,男性C33人,女性C10人であった.一方で網膜症なし(以下,DRC.群)のものはC27人で,男性C17人,女性C10人であった.歯科受診はC81人(35.1%)で,うちC72人(88.9%)は歯周病の診断を受けていた.面談後に糖尿病診療科へ受診し継続中のものはC132人(57.1%)で,治療歴はあるものの通院を中断した者はC48人(20.8%),面談後も未治療だったのはC51人(22.1%)であった(表1).複数回の面談において,中断者C48人の中断理由は,糖尿病に対する理解不足がC22人(45.8%),このうちC6人は外国人であった.残りのC26人(54.2%)は経済的問題,時間的制約,家庭事情などであった.未治療者C51人の理由は,中断者と同様に糖尿病に対する理解不足が原因と考えられるものはC21人(41.2%)であり,30人(58.8%)が医療不信,経済的問題,時間的制約,家庭事情などであった.対象者の特定健診結果の検討(表2)では,空腹時血糖値およびヘモグロビンCA1c値は性別および年代に関係なく基準値を有意に上回っていた.また,血圧,脂質代謝,腎機能および肥満度に関しても,多くの項目で対象者は有意に高値であった.さらに眼科受診をしたC70人を網膜症の有無で比較すると,DR+群の平均血糖値はC236.7C±98.3Cmg/dlで,40歳代C253.2C±104.7mg/dl,50歳代C223.7C±93.2mg/dlであった.一方でCDRC.群はC190.7C±54.2mg/dlで,40歳代C232.8±85.6mg/dl,50歳代C181.2C±41.5mg/dlであった.血糖値においてはC40歳代,50歳代とも基準値と比較して有意に高値であった.DR+群の血糖値は,40歳代とC50歳代ともにCDRC.群に比べ高い傾向を示したが,有意な差はみられなかった(図1a).同様に平均ヘモグロビンCA1c値ではCDR+群はC10.4C±2.5%で,40歳代C10.8C±2.0%,50歳代C10.1C±2.8%であった.DRC.群ではC8.7C±1.5%で,40歳代C10.1C±1.5%,50歳代C8.4C±1.4%であった.ヘモグロビンCA1c値に関しても血糖値と同様にC40歳代,50歳代ともに有意に高値であった.DR+群のヘモグロビンCA1c値もまた,40歳代とC50歳代ともにCDRC.群に比べ高い傾向がみられ,50歳代においては有意差を認めた(図1b).CIII考按以前より,足立区は区民に対して健康維持についての啓発を行っていたが,本質的な改善には至らなかった.足立区民の平均寿命は東京都の平均を下回り,足立区の医療費は糖尿病および腎不全による部分が上位を占めていた.平成C20年における糖尿病外来患者数の全国比較において,東京都は人口C10万人に対してC123件と報告9)され,全国でC41位であった.しかしながら,足立区国民健康保険課が独自に算出した足立区の糖尿病患者レセプト件数は,人口千人に対して継続中132(C57.1)C..治療歴があるが中断48(C20.8)22(C45.8)26(C54.2)未治療51(C22.1)21(C41.2)30(C58.8)中断・未治療の理由受診状況(n=231)人(%)理解不足その他表1面談後の受診状況表2特定健診結果の比較男性女性40歳代50歳代40歳代50歳代対象者基準値対象者基準値対象者基準値対象者基準値血糖値(mg/dl)C206.3±89.0**C93.3±11.4C189.0±82.7**C97.4±13.7C193.8±56.0**C94.9±13.7C198.1±75.3**C97.0±17.9CHbA1c(%)C9.6±2.2**C5.5±0.3C8.8±2.0**C5.6±0.4C9.2±1.9**C5.5±0.4C9.2±2.2**C5.6±0.5収縮期血圧(mmHg)C136.3±23.0**C124.4±12.1C133.4±16.4C132.7±17.9C134.8±21.5**C118.2±14.7C134.4±16.2**C124.0±15.8拡張期血圧(mmHg)C86.0±13.0**C81.2±10.0C83.2±11.2C85.6±11.3C81.3±12.6C75.8±10.2C81.7±10.5*C77.5±10.2LDL(mg/dl)C146.0±44.3**C119.2±27.2C135.0±39.1**C122.0±30.1C129.5±27.9**C110.0±27.5C149.5±36.8**C129.9±31.0中性脂肪(mg/dl)C244.1±302.5C182.1±131.4C223.4±189.7*C177.0±163.8C167.9±117.9*C111.1±100.0C211.3±171.0**C130.2±80.0HDL(mg/dl)C49.5±13.8**C55.9±16.2C50.8±13.4**C58.6±15.5C54.7±11.4**C67.2±15.7C55.9±11.6**C68.6±15.6尿酸(mg/dl)C5.5±1.3**C6.0±1.4C5.4±1.2*C5.8±1.3C4.5±1.0C4.1±1.0C4.5±1.4C4.5±1.0eGFR(ml/min/1.73mC2)C90.7±17.9**C79.3±12.0C84.5±17.7**C73.5±12.8C96.6±25.4*C82.2±13.3C86.4±15.5**C75.3±13.0Cr(mg/dl)C0.8±0.2**C0.9±0.1C0.8±0.2**C0.9±0.5C0.6±0.1C0.6±0.1C0.6±0.1C0.6±0.1腹囲(cm)C96.3±13.2.92.4±13.2.93.9±14.4.95.2±16.4.BMI(kg/mC2)C28.3±5.1**C24.0±3.6C26.2±4.4**C23.9±3.3C28.0±6.1**C22.2±3.6C27.8±5.3**C22.7±3.6CHbA1c:ヘモグロビンCA1c値,LDL:低比重リポ蛋白,HDL:高比重リポ蛋白,eGFR:推算糸球体濾過量,Cr:クレアチニン値,BMI:BodyMassIndex.UnpairedCtCtestCwithCWelch’scorrection*:p<0.05,**:p<0.01.47.9件で,その医療費も患者一人当たりC1143.8円となり,ある.東京都内で最高位となった(図2).そこで足立区は,平成今回の検討で,面談後の継続通院者は全体のC57.1%であ25年に「糖尿病対策アクションプラン」を発足させ,糖尿った.一方で,継続通院できない理由として,自身の問題,病を重症化させないために訪問面談を取り入れた糖尿病重症化予防対策を開始した.Ca400*訪問面談の取り組みは,日常診療と異なる環境で血糖値や****血糖値(mg/dl)300**ヘモグロビンCA1c値の再確認,病気の説明を受けることができ,さらに食生活や生活習慣の改善に向けての相談も可能200である.この訪問面談が動機づけとなり,医療機関へ導き,継続受診につなげることが今回の事業の目的であり,医師,100歯科医師,薬剤師とメディカルスタッフの役割でもある.糖尿病患者の受診に関して,村田10)はメディカルスタッフがC040歳代50歳代受診行動を支援し,同居家族の存在が受診行動継続への動機CDR+群DR-群基準DR+群DR-群基準づけになると報告し,飯野ら11)は,健診後の眼科受診において,十分な説明と患者の納得が重要であることを報告している.実際の面談では,「受診の際に医師からあまり説明がない」という声も聴取されたため,訪問時の面談内容を充実させることが治療への意識改革と受診率の向上につながる可能性があると考えられた.一般的に未治療の糖尿病患者は,まず糖尿病診療科に受診し,その後に眼科や歯科へ紹介となることが多い.しかしながら,受診の動機づけという観点かヘモグロビンA値(%)1Cb15.010.05.00.0らは,眼科や歯科から糖尿病診療科へ紹介するという違った視点の動機づけも必要であると考えられる.2010年に足立区薬剤師会は「糖尿病診断アクセス革命」12,13)を開始した.これは患者が薬局にて自己指先採血を行い,ヘモグロビンA1c値を簡易測定器にて測定し,薬剤師から説明を受けるという内容である.この革命も薬局から医療機関への受診勧奨であり,違った視点の動機づけとなりうる.とくに過去に受診歴や中断歴がある患者に対しては,再診を促す可能性が(円/人)1,20040歳代50歳代DR+群DR-群基準DR+群DR-群基準図1血糖値およびヘモグロビンA1c値の比較40歳代およびC50歳代の平均血糖値(Ca)は,DR+群およびCDRC.群ともに基準値と比較して有意に高値を示した.平均ヘモグロビンCA1c値(Cb)においても,DR+群およびCDR.群ともに基準値と比較して有意に高値を示した.さらに,50歳代においてはCDR+群とCDRC.群との間に有意差を認めた.UnpairedCtCtestwithWelch’scorrection*:p<0.05,**:p<0.01.(件/千人)60.01,10050.01,00040.090030.080020.070010.06000.0足立区特別区東京都A区B区C区D区E区F区G区H区I区J区K区L区M区N区O区P区Q区R区S区T区U区V区図240~74歳における糖尿病に関する比較(平成27年5月)足立区の糖尿病患者件数と医療費は東京都および特別区平均を有意に上回る.A.V区:足立区以外のC23区.データは東京都国民健康保険連合会「特定健診・保健指導支援システム」より足立区国民健康保険課が独自に算出したものである.また,医療費は保険診療のC10割相当分である.サポートの問題,金銭的な問題,時間的制約などがあげられた.藤原ら14)は医療機関を受診しない理由として,健診結果の軽視,生活の変更に対する抵抗感,家族や経済状況などを報告している.平谷ら15)は,保健指導の基本に,「自分の生活を日常的に振り返る習慣を身に着けさせる」ことの重要性を述べている.以前から「糖尿病患者の病識不足」という言葉があげられているが,今回の対象者もしくは家族は糖尿病の病態を詳しく知らなくても,血糖値が高いこと,食生活の乱れ,生活習慣,受診の必要性などについて意識している様子はうかがえた.しかしながら,経済問題,とくに金銭面や仕事に追われる時間的制約は,医療機関への受診を遠ざける要因となる.Hayashinoら16)の報告からも受診には多方面の介入が重要であり,医師やメディカルスタッフだけではなく,患者自身や家族も医療行為の実践者17)であり,今回の事業を継続することで,医療行為のチームの輪が広がれば,糖尿病受診者の増加と中断者の減少が期待できると考えられた.今回の検討において,糖尿病診療科への継続受診者がC132人(57.1%)であったにもかかわらず,眼科受診者はC70人(30.3%),歯科受診者はC81人(35.1%)に留まった.残念ながら,今回の報告はレセプトを利用しての検討であり,眼科検査の詳細は個人情報の問題から不明である.しかし,眼科受診者C70人の比較では,40歳代とC50歳代の血糖値およびヘモグロビンCA1c値はともにCDR+群がCDRC.群より高く,40歳代でその傾向はより強くみられた.DR+群は,平均血糖値がC200Cmg/dl以上または平均ヘモグロビンCA1c値がC10%以上であり,これに当てはまる対象者は網膜症を発症している可能性が高いと考えられ,今後の面談において活用できると思われる.最後に,今後の事業の問題点として,訪問先が不明,面談の拒否,面談内容が医療者側に伝わらないことがあげられる.面談拒否の理由に,「自己管理しているので必要ない」「医療機関は信用できない」などが聴取できた.加藤ら18)は,雑談方式の勉強会においてお互いの顔を覚えることで,医療への心理的なハードルを下げる働きがあると述べている.初回訪問時に反応なく不在票をポスティングしたC62人中C22人(35.5%)から後日連絡があったことから,患者または家族と何らかのかかわりを継続することが重要であると考えられた.一方,医療機関側,おもに糖尿病診療科では,面談時の内容が不明で診察の際の説明に困惑するという意見があげられた.現状では,患者が受診した際に保健師との面談について話さない限り,対象者かどうかは不明である.今後,患者本人の同意が得られれば,面談内容を医療機関へフィードバックする方法も検討中である.患者自身の意識改革や長年続けてきた生活習慣の改善は短時間ではむずかしく,時間をかけて説明を繰り返す必要があり,そこには患者とメディカルスタッフとの十分なコミュニケーション19)が必要であると思われる.今回の事業から,保健師および栄養士による自宅訪問面談は,受診の動機づけとして有効であると考えられた.保健師,栄養士を含めたメディカルスタッフが患者に寄り添い,繰り返し観察・指導していくことが,糖尿病ひいては糖尿病網膜症の重症化予防に大きく貢献すると考えられた.本内容は,第C22回日本糖尿病眼学会にて報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FederationCInternationalDiabetes:IDFCDIABETESCATLASCSeventhCEditionC2015.Chttp://www.diabetesatlas.Corg/2)梶尾裕:世界のなかの糖尿病戦略特に東アジアの糖尿病診療の現状をふまえて.プラクティスC29:516-524,C20123)浅尾啓子:米国の糖尿病事情.プラクティスC29:525-530,C20124)中神朋子:欧州の糖尿病事情デンマークを中心に.プラクティスC29:531-541,C20125)田中治彦,植木浩二郎,門脇孝:世界の糖尿病臨床・研究における日本の位置づけ.プラクティスC29:510-515,C20126)GrockCS,CKuCJH,CKimCJCetal:ACreviewCofCtechnology-assistedCinterventionsCforCdiabetesCprevention.CCurrCDiabCRepC17:107,C20177)厚生労働省:特定健診・特定保健指導について.http://Cwww.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.Chtml8)足立区データヘルス計画:妊娠早期から始める生活習慣病予防.www.gikai-adachi.jp/iinkai/shidai/kousei/pdf/2017C0419houkoku4.pdf9)厚生労働省:平成C21年地域保健医療基礎統計.http://www.Cmhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/hoken/kiso/21.html10)村田祐子:糖尿病新規患者の背景が受診継続に影響する要因A病院内科外来における糖尿病新規患者の教育指標を求めて.山口県看護研究学会論文集C2:1-6,C201611)飯野矢住代,井上浩義:糖尿病診断後の網膜症治療状況の実態調査糖尿病網膜症患者の受診行動に影響を及ぼす要因.日本糖尿病教育・看護学会誌C11:150-156,C200712)足立区薬剤師会:http://a1c.umin.jp/index.shtml13)ShonoCA,CKondoCM,CHoshiCSLCetal:Cost-e.ectivenessCofCaNewOpportunisticScreeningStrategyforWalk-inFin-gertipHbA1CCTestingatCommunityPharmaciesinJapan.DiabetesCareC41:1218-1226,C201814)藤原絢子,原祥子:糖尿病が強く疑われる高齢者が受診をしない理由に関する質的研究.島根大学医学部紀要C38:C45-53,C2016C15)平谷恵,中村繁美,中西早百合ほか:特定保健指導の効果に関する検討4年後の状況.日本農村医学会雑誌C64:C34-40,C201516)HayashinoY,SuzukiH,YamazakiKetal:Aclusterran-domizedCtrialConCtheCe.ectCofCaCmultifacetedCinterventionCimprovedthetechnicalqualityofdiabetescarebyprima-ryCcarephysicians:TheCJapanCDiabetesCOutcomeCInter-ventionTrial-2(J-DOIT2)C.DiabetMedC33:599-608,C201617)村上陽一郎:新しい医師・患者関係.jams.med.or.jp/sym-posium/full/100s06.pdf18)加藤公則,上村伯人,布施克也ほか:地域包括糖尿病総合対策新潟県魚沼地域CProject8.内分泌・糖尿病・代謝内科C42:431-437,C201619)西垣悦代,浅井篤,大西基喜ほか:日本人の医療に対する信頼と不信の構造:医師患者関係を中心に.対人社会心理学研究C4:11-20,C2004***