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網膜分離症を伴う牽引性網膜剝離を認めた 非増殖糖尿病網膜症の1 例

2023年1月31日 火曜日

《第27回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科40(1):91.94,2023c網膜分離症を伴う牽引性網膜.離を認めた非増殖糖尿病網膜症の1例伊藤駿平野隆雄知久喜明星山健村田敏規信州大学医学部眼科学教室CNon-ProliferativeDiabeticRetinopathywithTractionalRetinalDetachmentandRetinoschisisShunIto,TakaoHirano,YoshiakiChiku,KenHoshiyamaandToshinoriMurataCDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicineC目的:広角Cswept-source光干渉断層計(SS-OCT)にて周辺部に網膜分離症を伴う牽引性網膜.離を確認できた非増殖糖尿病網膜症のC1例を経験したので報告する.症例:79歳,男性.遷延する左眼硝子体出血の加療目的にて信州大学附属病院眼科を紹介受診.初診時,矯正視力は右眼C0.7,左眼C10Ccm指数弁.右眼は毛細血管瘤のみを認める非増殖糖尿病網膜症であった.1回の撮影で水平断C23Cmmの範囲を取得可能な広角CSS-OCT(OCT-S1,キャノン)にて,眼底検査で確認困難であった丈の低い網膜.離が耳側周辺部で確認された.より周辺部を広角CSS-OCTで撮影すると網膜分離症と網膜.離が描出された.同部位では強い硝子体牽引を認め,ラスタースキャンでは網膜内層・外層に裂孔を認めなかったため,牽引性網膜.離に伴う網膜分離症と診断した.左眼の硝子体手術後に右眼への外科的手術介入について説明したが,本人が手術を希望しなかったため,病変部周辺に網膜光凝固を施行.2カ月後も網膜.離の進展は認めず,網膜下液の減少を広角CSS-OCTで観察可能であった.結論:非増殖糖尿病網膜症眼において続発性網膜分離症を伴う牽引性網膜.離を認める症例を経験した.これらの病変の同定,治療後の経過観察に広角CSS-OCTは有用と考えられた.CPurpose:Toreportacaseofnon-proliferativediabeticretinopathy(NPDR)inwhichtractionalretinaldetach-mentCandCretinoschisisCwereCobservedCusingCwide-angleCswept-sourceCopticalCcoherencetomography(SS-OCT)C.CCase:ClinicalCexaminationCofCaC79-year-oldCmaleCwithCtypeC2CdiabetesCmellitusCandCpersistentCvitreousChemor-rhageinthelefteyerevealedNPDRwithmicroaneurysmsintherighteye.Wide-angleSS-OCT(OCT-S1;Can-on)imagingrevealedlowretinaldetachmentandmoreperipheralretinoschisisinthetemporalregion.Thepatientwasdiagnosedwithtractionalretinaldetachmentandsecondaryretinoschisisduetothevitreoustractionobservedatthesite,andtherasterscandidnotshowanytearsintheinnerorouterretinallayers.Afterperformingparsplanavitrectomyinthelefteye,retinalphotocoagulationwasperformedaroundthelesionintherighteyeduetotheCpatientCnotCwishingCtoCundergoCsurgicalCintervention.CTwoCmonthsClater,Cwide-angleCSS-OCTCshowedCnoCpro-gressionCofCretinalCdetachment,CandCsubretinalC.uidCdecreasedCoverCtime.CConclusion:Wide-angleCSS-OCTCwasCfoundusefulfortheevaluationofNPDRwithtractionalretinaldetachmentandsecondaryretinoschisisatbothpreandposttreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(1):91.94,2023〕Keywords:糖尿病網膜症,牽引性網膜.離,網膜分離症,広角スウェプトソース光干渉断層計.diabeticretinopa-thy,tractionalretinaldetachment,retinoschisis,wide-angleswept-sourceopticalcoherencetomography.Cはじめにの遺伝形式をとる先天性と,中年以降の網膜周辺部に生じる網膜分離症は感覚網膜がC2層に分離する疾患で,若年者の後天性に分類される1).後天性網膜分離症は成因が不明な点黄斑部および網膜周辺部に生じ,多くは伴性劣性(X-linked)が多く,臨床および病理組織学的検討から加齢による網膜周〔別刷請求先〕伊藤駿:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ShunIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-8621,JAPANC図1初診時右眼の広角眼底写真と光干渉断層計(OCT)画像a:広角眼底写真では点状・斑状の網膜出血を認める.カラーマップと比較すると,網膜肥厚部位の色調はやや暗く見える.Cb:黄斑部を通るCSD-OCT(6Cmm)水平断では異常所見を認めない.Cc:黄斑部を通るCSS-OCT(23Cmm)水平断では周辺部耳側に網膜.離(C.)を認める.d:OCTカラーマップでも周辺部耳側に網膜.離の影響と考えられる網膜厚の肥厚所見(.)を認める.図2左眼の広角眼底写真の継時的変化と超音波Bモード画像a:初診時の広角眼底写真.硝子体出血で眼底詳細不明である.Cb:初診時のCBモード.硝子体に絡まる出血を認め,網膜.離を認めない.Cc:硝子体術後C1カ月の広角眼底写真.汎網膜光凝固の瘢痕化を認めた.硝子体出血の誘因と考えられた網膜裂孔はC6時方向の網膜周辺部に認めた(眼底写真の範囲外).最終矯正視力はC0.7であった.辺部の類.胞変性が関与しているとされる.近視性牽引黄斑症や硝子体牽引症候群でみられるほか,増殖糖尿病網膜症や網膜.離に続発することも報告されている2).今回,筆者らは広角Cswept-source光干渉断層計(swept-sourceCopticalCcoherencetomography:SS-OCTであるOCT-S1,キャノン)を用い周辺部網膜の網膜分離症を伴う牽引性網膜.離を同定し,さらには治療後の経過を評価可能であった非増殖糖尿病網膜症のC1例を経験したので報告する.CI症例患者はC79歳,男性.20年来のC2型糖尿病で,直近のHbA1cはC6.2%とコントロール良好であったが定期的な眼科受診歴はなかった.左眼の視力低下を自覚し近医受診したところ,硝子体出血を指摘され,精査加療目的にて信州大学附属病院眼科に紹介受診となった.初診時視力は右眼C0.4(0.7×+3.50D),左眼C10cm指数弁(矯正不能).眼圧は右眼C11CmmHg,左眼C14CmmHgであり,眼軸長は右眼C22.30Cmm,左眼C22.58Cmmと強度近視眼ではなかった.前眼部中間透光体には両眼ともCEmery-Little分類でCgrade2の白内障を認めるのみであった.右眼には毛細血管瘤が散在していて国際重症度分類で軽度非増殖糖尿病網膜症の状態であった(図1a).左眼は硝子体出血のため眼底透見不良であったが,超音波CBモードで明らかな網膜.離は確認できなかった(図2a,b).1カ月以上遷延する消退不良の硝子体出血に対し,本人の手術希望もあり,同意を得て左眼水晶体再建術,経毛様体扁平部C25ゲージ硝子体手術を施行した.術中,左眼眼底には点状,斑状出血を認めるが増殖性変化を認めず,中等度非増殖糖尿病網膜症であった.6時方向の網膜周辺部に網膜裂孔および破綻した架橋血管が確認され硝子体出血の原因と考えられた(図2c).糖尿病罹病期間がC20年間と長く,将来的に増殖性変化出現の可能性も図3初診時右眼のパノラマ写真と耳側の広角光干渉断層計(OCT)画像a:パノラマ写真では耳側に網膜.離(.)を確認できる.Cb:耳側を撮影したCSS-OCT水平断の拡大写真.牽引性網膜.離(C.)およびその直上,耳側に網膜分離症(C.)を認める.Cc:耳側のCOCTカラーマップでは局所的な網膜厚の肥厚所見()を認める.ラスタースキャンでは裂孔や外層孔,内層孔を認めない.d:23CmmC×20Cmmの広角COCTAで広範囲の無灌流領域や新生血管を認めない.否定できないため,術中,汎網膜光凝固を施行した.一方,後極を狙った広角CSS-OCTのルーチン撮影で,通常の眼底診察およびCspectral-domainOCT(SD-OCT)では検出されなかった丈の低い網膜.離を認めた(図1c,d).さらに耳側網膜を追加撮影したところ,後部硝子体.離は既完であり,耳側と.離部位上に網膜分離症が描出された(図3a,b,c)..離部位をCOCTラスタースキャンで細かく確認したが,内層・外層ともに裂孔は確認できず,牽引性網膜.離と続発性網膜分離症と診断した.なお,光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)では広範囲の無灌流領域や新生血管を認めず,非増殖糖尿病網膜症に矛盾しない所見であった(図3d).本人に病状を説明し,右眼の牽引性網膜.離に対する硝子体手術を提案したが,左眼の手術直後ということもありこの時点での積極的な手術は希望しなかった.初診時からC1カ月後,広角CSS-OCT所見でも右眼の牽引性網膜.離の進行は認められなかったが,硝子体による牽引は継続していた(図4a).牽引性網膜.離に対する治療として再度,硝子体手術,網膜光凝固術を提案したところ,網膜光凝固術を希望したため,.離が進行する場合は緊急で硝子体手術を行うことを詳細に説明し,同意を得たのちに,網膜.離周囲に網膜光凝固術を施行した(図4b).右眼網膜光凝固後C2カ月で網膜.離の進展を認めず,広角CSS-OCT所見では網膜下液の経時的な減少が確認できた(図4c).この時点で左眼視力は(0.7)まで改善を認めた.今後広角CSS-OCTも含め定期的な経過観察を行う予定である.CII考察増殖糖尿病網膜症眼における網膜分離症については多くの報告がなされている.正常眼と比較すると増殖糖尿病網膜症の硝子体液では凝固,補体,キニン-カリクレインシステムなど,癒着に関与する蛋白質が有意に高いこと3)や網膜新生血管を足がかりとして牽引性網膜.離が引き起こされる際に網膜分離症が併発するためと考えられている.一方で本症例.離部後極側中心窩図4右眼の病変部の継時的変化(SS-OCT水平断)a:初診時からC1カ月後.Cb:網膜光凝固直後.網膜.離の進行を認めず,鼻側に凝固斑を確認できる.検眼鏡で網膜分離症の部位にも凝固斑を確認できた.Cc:網膜光凝固C2カ月後.硝子体による牽引は持続しているが,網膜下液は減少しており,網膜.離の進行を認めない.は明らかな増殖性変化を伴わない非増殖糖尿病網膜症眼にもかかわらず,牽引性網膜.離に伴う網膜分離症が確認された.この理由を考察する.本症例では広角CSS-OCTにて病変部での後部硝子体皮質による網膜の牽引が確認できた(図3b).この牽引は網膜光凝固術後C2カ月後にも持続しており(図4c),強い網膜-硝子体の癒着が生じていたと推察する.健常人や網膜症のない糖尿病患者と比較すると,糖尿病網膜症患者では非増殖期においても後部硝子体の厚み,硝子体分離,網膜と硝子体の癒着など網膜硝子体界面の異常の割合が有意に増加することが知られている4).長期間の糖尿病罹患により網膜-硝子体の強い癒着が生じ,後部硝子体.離に伴って牽引性網膜.離および続発性網膜分離症が発生したと推察する.また,増殖糖尿病網膜症の病理組織学的研究報告中の牽引性網膜.離と網膜分離症を同一部位に認めた写真5)と,本症例の広角CSS-OCT画像を比較すると,その構造は非常に類似している.このことはこの考えを支持する.筆者らの調べた限り,非増殖糖尿病網膜症に伴う網膜分離症の報告は確認できなかった.この理由の一つとして,周辺部の限局的な網膜分離症は通常の眼底検査や従来のCOCT検査では描出困難なことが考えられる.本症例でも,初診時の通常の眼底検査や撮像範囲がC6CmmのCSD-OCT検査(図2a,b)では牽引性網膜.離,網膜分離症は同定できなかった.同一光源から発した二つの光の光路差から光干渉現象を利用することで非侵襲的に網脈絡膜の断層画像を取得可能な手法としてC1991年に初めて報告されたCOCTは,網脈絡膜疾患にとどまらず角膜疾患や緑内障疾患など多くの疾患の評価に用いられ,日常診療には欠かせない検査となっている6).しかし,既存のCOCTは撮像範囲が後極部に限定される機器が多く,網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症といった広く眼底に病変をもつ疾患の網膜断層や循環動態を全体的に評価することは困難であった.近年,SD-OCTよりも長波長の光源を用いたCSS-OCTの登場によりこの撮像範囲の問題は解決しつつある7).本症例においては最大撮像範囲の横径がC23Cmmの広角CSS-OCT装置であるCOCT-S1を用いることで,周辺部の限局した網膜.離と網膜分離症を同定することができた.OCT-S1では長波長のCsweptsource光源の特徴を生かし,網膜にとどまらず,脈絡膜から硝子体まで深さ方向に広い範囲の情報を取得できる.本症例でもこの特徴により網膜の状態だけではなく,網膜に対する硝子体の強い牽引も詳細に観察可能であった.今後,広角CSS-OCTによる周辺部の新たな知見の報告が期待される.次に本症例の治療について考察する.後天性網膜分離症の大部分は進行が緩徐であり,経過観察を選択することが多い.治療を考慮するものとして網膜内層孔・外層孔を生じ分離症の拡大,網膜.離への移行の可能性が高い場合があげられ1),広範な網膜.離を伴った場合には網膜光凝固のほかに硝子体手術を施行することが検討される8).本症例では牽引性網膜.離の範囲は限局的で,網膜分離症に内層孔・外層孔を認めなかった.僚眼の硝子体手術直後であり,患者自身が早急な硝子体手術を希望しなかったため,網膜光凝固を選択した.現在,光凝固後C2カ月が経過したが,網膜.離,網膜分離症の進行は認めていない.網膜分離症に対し網膜光凝固術を施行した箇所に裂孔原性網膜.離を発症した例もあり9),光凝固後も定期的な経過観察が必要と考えられた.また,網膜下液の吸収は緩徐で,増殖糖尿病網膜症による牽引性網膜.離の網膜下液の自然吸収には平均C57.5日かかることが報告されている10).本症例では広角CSS-OCTによる観察で網膜光凝固後の網膜下液の継時的な減少を評価することができた.広角CSS-OCTは眼底周辺部の局所的な牽引性網膜.離や続発性の網膜分離症などの網膜硝子体界面異常の同定や治療後の経過観察に有用であることが示唆された.文献1)ByerNE:Clinicalstudyofsenileretinoschisis.ArchOph-thalmolC79:36-44,C19682)BuchCH,CVindingCT,CNielsenNV:PrevalenceCandClong-termCnaturalCcourseCofCretinoschisisCamongCelderlyCindi-viduals:theCCopenhagenCCityCEyeCStudy.COphthalmologyC114:751-755,C20073)BalaiyaS,ZhouZ,ChalamKV:Characterizationofvitre-ousCandCaqueousCproteomeCinChumansCwithCproliferativeCdiabeticretinopathyanditsclinicalcorrelation.ProteomicsInsightsC8:1178641816686078,C20174)AdhiCM,CBadaroCE,CLiuCJJCetal:Three-dimensionalCenhancedimagingofvitreoretinalinterfaceindiabeticret-inopathyCusingCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJOphthalmolC162:140-149,Ce1,C20165)FaulbornJ,ArdjomandN:Tractionalretinoschisisinpro-liferativeCdiabeticretinopathy:aChistopathologicalCstudy.CGraefesArchClinExpOphthalmolC238:40-44,C20006)HuangCD,CSwansonCEA,CLinCCPCetal:OpticalCcoherenceCtomography.ScienceC254:1178-1181,C19917)ChikuY,HiranoT,TakahashiYetal:EvaluatingposteC-riorCvitreousCdetachmentCbyCwide.eldC23-mmCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCimagingCinChealthyCsubjects.SciRepC11:19754,C20218)GotzaridisEV,GeorgalasI,PetrouPetal:Surgicaltreat-mentCofCretinalCdetachmentCassociatedCwithCdegenerativeCretinoschisis.SeminOphthalmolC29:136-141,C20149)小林英則,白尾裕,浅井宏志ほか:引き抜き血管を伴う後極部外層裂孔による網状変性網膜分離症網膜.離に対する硝子体手術のC1例.あたらしい眼科16:873-877,C199910)貝田真美,池田恒彦,澤浩ほか:糖尿病牽引性網膜.離の網膜下液の自然吸収過程と性状に関する検討.眼紀C49:501-504,C1998***

増殖糖尿病網膜症患者の受診背景と治療経過の関連

2013年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科30(9):1330.1334,2013c増殖糖尿病網膜症患者の受診背景と治療経過の関連楠元美華平田憲沖波聡佐賀大学医学部眼科学講座ProliferativeDiabeticRetinopathy:RelationshipbetweenPatientClinicalBackgroundandClinicalCourseMikaKusumoto,AkiraHirataandSatoshiOkinamiDepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine目的:定期的眼科受診の有無による糖尿病網膜症の臨床像,治療経過への影響を検討した.対象および方法:2009年1月から2011年12月までに増殖糖尿病網膜症に対し,佐賀大学医学部附属病院眼科で加療を行った175例を,受診までの眼科受診の有無をもとに,定期受診群,未受診群,受診中断群に分類し,臨床像および治療後経過を後ろ向きに検討した.結果:眼科定期受診群,未受診群,受診中断群はそれぞれ49,18,33%であった.患者年齢は未受診群および受診中断群で有意に低かった.ヘモグロビン(Hb)A1C値は未受診群が定期受診群に比して有意に高値であった.未受診群および受診中断群では牽引性網膜.離の割合が有意に高く,手術時間が有意に長かった.術後視力は3群間で差を認めなかった.結論:定期的な眼科受診は網膜症の進行,HbA1C値,牽引性網膜.離の頻度,手術時間に影響した.治療後視力には差を認めなかった.Toevaluatetheeffectofregularproliferativediabeticretinopathy(PDR)checkupsonclinicalfeaturesandvisualprognosis,175patientswhohadreceivedtreatmentforPDRatSagaUniversityHospitalfromJanuary2009toDecember2011wereretrospectivelyclassified,basedontheregularophthalmiccheckup,intocompliant,never-examinedornon-compliantgroups;theirclinicalfeaturesandvisualprognosiswerethencompared.Astopatientgrouping,49%belongedtothecompliantgroup,18%tothenever-examinedgroupand33%tothenon-compliantgroup.Patientmeanagewassignificantlyyoungerinthelattertwogroups,whichalsoshowedsignificantlyhighhemoglobinA1c(HbA1c)level,highincidenceoftractionalretinaldetachment(TRD)andprolongedoperationtime.ComplianceinregularPDRcheckupsaffectsPDRprogress,controlofbloodglucose,incidenceofTRDandoperationtime.Visualprognosisdidnotchangeamongthegroups.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(9):1330.1334,2013〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,硝子体切除,HbA1c,牽引性網膜.離.proliferativediabeticretinopathy,vitrectomy,HbA1c,tractionalretinaldetachment.はじめに糖尿病網膜症は現在でも眼科領域における重要な疾患の一つである.2006年の厚生労働省研究班の統計によれば,糖尿病網膜症は緑内障に続き中途失明原因の第2位に位置し,重大な社会的問題であることに変わりはない1).増殖糖尿病網膜症(PDR)は牽引性網膜.離,硝子体出血,血管新生緑内障など,治療が不十分であると短期間に不可逆的な視力障害をきたす病態であり,早期の眼科受診が重要であることは言うまでもない.また,糖尿病網膜症の進行を予防するうえで,的確な血糖コントロールに加え,網膜光凝固をはじめとする早期の眼科的治療介入が重要である2).一方,大学病院を受診する患者の多くは早期の治療介入の時期を逸した活動性の高いPDR症例が数多くみられる.糖尿病網膜症患者の早期眼科受診を促すうえで,眼科受診時の糖尿病の管理状況や大学病院受診までの眼科受診状況を把握することは,糖尿病網膜症の診療,特に病診連携を考えるうえで重要である.今回,筆者らは,佐賀大学医学部附属病院眼科(以下,当科)を受診したPDR患者において,大学病院受診までの眼〔別刷請求先〕平田憲:〒849-8501佐賀市鍋島5丁目1-1佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:AkiraHirata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPAN133013301330あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(130)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY 科および内科における受診状況と,受診状況別にみた治療予後との関連について検討した.I対象および方法2009年1月から2011年12月の間に当科を受診したPDR患者のうち,加療を行った全症例175例(男性115例,女性60例),平均年齢60.9±12.9歳を対象とし,後ろ向きに調査した.片眼のみが治療対象であればその眼について,両眼ともに治療対象であった場合,最初に加療した眼を対象眼とした.診療録の記載から当科受診までに複数回の定期的な眼科受診歴がある患者を定期受診群,当科受診直前の近医受診以外に一度も眼科受診歴のない患者を未受診群,過去に1年以上の受診中断歴のある患者を受診中断群と分類した.検討項目として,1.当科受診までの眼科受診状況と内科受診状況との関連,2.眼科受診状況の地域差,3.眼科受診状況ごとの臨床所見,4.眼科受診状況ごとの治療内容の差,5.眼科受診状況ごとの初診時と最終受診時の視力を調査した.当科受診時の臨床所見の比較項目として平均年齢,ヘモグロビン(Hb)A1C値(JapanDiabetesSociety:JDS値)眼底所見(黄斑浮腫,硝子体出血,牽引性網膜.離,血管新(,)生緑内障の有無)を用いた.治療内容の比較項目は汎網膜光凝固術単独療法,硝子体切除術,線維柱帯切除術,ベバシズマブの硝子体腔内注射,トリアムシノロンのTenon.下注射の施行割合を用い,さらに硝子体手術については硝子体手術時間も調査した.統計学的検定は,眼科受診状況別の内科受診状況,各臨床像の割合および治療内容はchi-squaretestを,佐賀県内各地域の眼科受診状況はFisher’sexacttestを,平均年齢,HbA1C値および硝子体手術時間はANOVA(analysisofvariance)を,術前後の視力変化はMann-Whitneytestを,群間の視力の比較はKruskal-Wallistestを用いて検定した.有意差の基準はp値0.05未満を採用した.II結果1.当科受診までの眼科受診状況と内科受診状況との関連当科受診に至るまでの眼科および内科受診状況を表1に示す.全症例175例のうち当科受診までに他院で眼科診察を定期的に受けていた定期受診群は85例(49%),一度も眼科受診歴がない未受診群が32例(18%),当科受診までに1年以上の眼科受診中断歴がある受診中断群が57例(33%)であった.一方,内科受診状況は,当科受診までに定期的な内科受診歴がある患者が144例(82%),一度も内科受診歴がない患者が13例(8%),一度は内科受診歴があるものの1年以上の受診中断歴がある患者が18例(10%)であった.内科受診状況を眼科の受診歴の違いにより調査すると,眼(131)表1佐賀大学医学部附属病院受診患者の眼科および内科の受診状況の内訳定期受診群未受診群受診中断群p値症例数853258性別(M/F)患眼(R/L)内科受診状況(%)定期受診未受診受診中断56/2943/4282(96)03(4)23/915/1718(56)11(34)3(10)26/2223/3544(76)2(3)12(21)0.22†0.44†<0.0001‡†Fisher’sexacttest,‡chi-squaretest.EBCDAFG定期受診群の割合(%)A:唐津地区14/22(64%)B:佐賀市地区29/56(52%)C:鳥栖・三養基・神埼地区3/7(43%)*D:伊万里・有田地区3/15(20%)*E:小城・多久地区14/31(45%)F:武雄・杵島地区11/19(58%)G:嬉野・鹿島・太良地区13/22(59%)図1患者の居住地区別にみた定期受診群の割合*:定期受診群の最も高い地域(A:唐津地区)に比べ定期受診群の割合が有意に低かった.科定期受診群では内科定期受診が82例(96%),受診中断3例(4%)で,内科定期受診例が大多数であるのに対し,眼科未受診群では内科定期受診18例(56%),未受診11例(34%),受診中断3例(10%)と内科未受診例の割合が高くなり,眼科受診中断群では内科定期受診44例(76%),未受診2例(3%),受診中断12例(21%)と内科受診中断例の割合が高くなった(p<0.0001,chi-squaretest).あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131331 2.眼科受診状況の地域差眼科受診状況の地域差の有無について,佐賀県内の患者の居住地区別にみた眼科受診状況の割合を図1に示す.居住地を図のように7つの地区(唐津地区/佐賀市地区/鳥栖・三養基・神埼地区/伊万里・有田地区/小城・多久地区/武雄・杵島地区/嬉野・鹿島・太良地区)に分類し,各々の地域における未受診群および受診中断群の割合を比較した.図1のごとく,地域により定期受診群の割合は20%から64%と2倍以上の開きを示した.眼科的受診の最も低い地区は上位の地区に比べ有意に低かった.3.眼科受診状況ごとの臨床所見眼科受診状況各群の平均年齢および血糖コントロールの指標であるHbA1Cの平均値を表2に示す.平均年齢は定期受診群が63.8±12.1歳,未受診群が59.2±11.7歳,受診中断群が58.0±13.8歳と未受診群および受診中断群は定期受診群に比べ有意に低かった(p=0.023,ANOVA).各患者のHbA1C値は当科初診時の紹介状に記載されていた他院での採血結果,もしくは当科で初診時に施行した採血結果の値を採用した.定期受診群が7.4±1.8%,未受診群が8.4±2.1%,受診中断群が8.0±2.0%と3群間で有意な差を認め(p=0.020,ANOVA),特に未受診群は定期受診群に比べ有意に高値であった(p<0.05,Turkey’smultiplecomparisontest).眼底に黄斑浮腫,硝子体出血,牽引性網膜.離,血管新生緑内障を認めた症例の割合を眼科受診状況別に評価した(表2).所見が重複する場合はそれぞれ独立して数えた.黄斑浮腫の有無は光干渉断層計(NIDEK社製RS-3000)で中心窩網膜厚を計測し,350μmを超えるものを黄斑浮腫とした.黄斑浮腫を認めた症例は定期受診群が29例(34%),未受診群が12例(38%),受診中断群が17例(29%)であった.牽引性網膜.離を認めた症例は定期受診群が4例(5%),未受診群が4例(13%),受診中断群が11例(19%)であり,未受診群,受診中断群が定期受診群に比べ有意に高い割合を示した(p=0.025,Fisher’sexacttest).同様に硝子体出血を認めた症例は定期受診群が44例(52%),未受診群が18例(56%),受診中断群が28例(48%)であり,血管新生緑内障を認めた症例は定期受診群が6例(7%),未受診群が0例,受診中断群が5例(9%)であった.黄斑浮腫,硝子体出血,血管新生緑内障では定期受診群,未受診群,受診中断群間に有意差を認めなかった(表2).4.眼科受診状況ごとの治療内容の差眼科受診状況別に汎網膜光凝固術,硝子体切除術,線維柱帯切除術,ベバシズマブの硝子体腔内注射またはトリアムシノロンのTenon.下注射を施行した症例を調査した.複数の治療を行った場合,それぞれ独立して数えた.結果を表3に示す.汎網膜光凝固術を施行した症例は定期受診群が781332あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013表2眼科受診状況ごとの臨床所見定期受診群未受診群受診中断群p値年齢(歳)63.8±12.159.2±11.758.0±13.80.023*HbA1C(%)7.4±1.88.4±2.18.0±1.90.020*眼底所見(%)黄斑浮腫29(34)12(38)17(29)0.706‡牽引性網膜.離4(5)4(13)11(19)0.025†硝子体出血44(52)18(56)28(48)0.766‡血管新生緑内障6(7)05(9)0.250†年齢およびHbA1Cは平均±標準偏差で表示した.*ANOVA,‡chi-squaretest,†Fisher’sexacttest.表3眼科受診状況ごとの治療内容の比較定期受診群未受診群受診中断群p値汎網膜光凝固術(%)78(92)32(100)57(98)0.073†硝子体切除術(%)67(79)28(88)43(74)0.398†線維柱帯切除術(%)5(6)1(3)2(3)0.720†IVB,TA-STI(%)12(14)6(19)8(14)0.790‡IVB:ベバシズマブ硝子体内注射,TA-STI:トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射.‡chi-squaretest,†Fisher’sexacttest.例(92%),未受診群が32例(100%),受診中断群が57例(98%),硝子体切除術を施行した症例は定期受診群が67例(79%),未受診群が28例(88%),受診中断群が43例(74%),線維柱帯切除術を施行した症例は定期受診群が5例(6%),未受診群が1例(3%),受診中断群が2例(3%),ベバシズマブの硝子体腔内注射またはトリアムシノロンのTenon.下注射を施行した症例は定期受診群が12例(14%),未受診群が6例(19%),受診中断群が8例(14%)であった.未受診群で線維柱帯切除術を施行した1例は原発開放隅角緑内障を合併しており血管新生緑内障には至っていなかった.すべての治療において3群間に差はなかった.硝子体手術を施行した138例中,同一術者で硝子体手術を行った108例において眼科受診状況別に手術時間を比較した.手術時間は診療録の麻酔記録から硝子体切除術のみ(ポート作製から創閉鎖)の時間を用いた.定期受診群(48例)の平均手術時間は38.6±12.0分であるのに対し,未受診群(24例)および受診中断群(36例)では平均手術時間がそれぞれ51.1±18.6分,50.0±22.9分と,3群間で有意な差を認めた(p=0.0035,ANOVA).特に未受診群および受診中断群は定期受診群に比べ有意に長時間であった(いずれもp<0.05,Turkey’smultiplecomparisontest).5.眼科受診状況ごとの初診時と最終受診時の視力治療前後(外来受診時および最終受診時)の視力経過を,全症例,定期受診群,未受診群,受診中断群に分け図2に示した.全症例では治療前相乗平均視力0.11から治療後相乗(132) ab110.010.010.0010.0010.0010.010.110.0010.010.11治療前視力治療前視力cd11治療後視力0.1治療後視力0.1治療後視力0.1治療後視力0.10.010.010.0010.001治療前視力0.010.1図2治療前後の視力変化0.00110.001治療前視力0.010.11当科初診時視力を治療前視力,最終受診時視力を治療後視力としてa:全症例,b:定期受診群,c:未受診群,d:受診中断群ごとに表示した.指数弁/5cm以下の視力を0.001として表示した.平均視力0.39,定期受診群では治療前視力0.09から治療後0.33,未受診群では治療前0.11から治療後0.47,受診中断群では治療前0.13から治療後0.43といずれの群も有意に視力改善を認めた(おのおのp<0.0001,p<0.0001,p<0.0001,p=0.0002,Mann-Whitneytest).3群間で術前,術後視力いずれにおいても差は認めなかった(おのおのp=0.449,p=0.070,Kruskal-Wallistest).III考按当科で加療を行った増殖糖尿病網膜症患者のうち51%は定期的な眼科受診を行っていないという結果であった.植木らは硝子体手術を施行した増殖糖尿病網膜症194例のうち71例(約36.5%)が眼科受診をせずに放置していたと報告しており3),Itoh-Tanimuraらは硝子体手術をした増殖糖尿病網膜症128眼を眼科受診状況別に分類し,未受診群,受診中断群を合わせると79%であったと報告している4).今回の報告では定期的眼科受診が行われていない割合は他施設と同程度であることがわかる.また,今回検討した患者の約35%は定期的に内科を受診しているものの,眼科の受診状況は(133)不良であった.眼科受診状況別に内科受診状況を比較すると,眼科未受診群では内科未受診の割合が高く,眼科受診中断群では内科受診中断の割合が高いという傾向がみられた.内科-眼科間の連携が良好であると考えられる一方,定期的受診の必要性の啓蒙が今後も必要であると考える.佐賀県内の眼科受診状況の地域差について検討を行い眼科的受診の最も低い地区は上位の地区に比べ有意に低いという結果であった.各地域の施設数,眼科医および内科医の数,配置などが影響しているとも考えられるが,県内の医療体制の整備の不均衡の是正が急がれる.過去の結果では増殖糖尿病網膜症を増悪させる因子として糖尿病罹患期間が長期間であること,HbA1Cの高値,高血圧があげられた5.7).またBrownらは,早期の糖尿病診断と,より厳格な血糖管理,血圧管理が糖尿病網膜症の発症を遅らせると報告している8).今回の結果でも定期受診群は患者の平均年齢が高く,HbA1Cの値は低値であった.定期的に眼科を受診している患者はより良好な血糖コントロールを得られており,その結果増殖糖尿病網膜症への進行を遅らせあたらしい眼科Vol.30,No.9,20131333 ることが示唆される.眼底所見では眼科未受診群,受診中断群において牽引性網膜.離の発生率が高かった.血管新生緑内障や比較的急激に視力低下をもたらす硝子体出血・黄斑浮腫の発生率は差がみられなかった.Itoh-Tanimuraらは定期的に眼科受診している増殖糖尿病網膜症患者は黄斑部牽引性網膜.離の発生率が低く,黄斑部牽引性網膜.離を伴わない硝子体出血の発生率が高かったと報告しており4),対象群に黄斑浮腫例が除外されているため筆者らの結果とは厳密な比較はできないが,同様の結果といえよう.今回の検討では眼科受診状況と治療内容に有意な差は認められなかったが,同一術者で行った硝子体手術時間には有意な差を認めた.牽引性網膜.離例や硝子体の付着が強い例など手術手技が煩雑な症例が,未受診群,受診中断群に多いことが示唆される.一方,視力経過は3群間で有意差はみられなかった.術後視力については有意差を認めないものの,定期受診群が他の群に比して悪い傾向がみられた.理由として,定期受診群が他の群に比べやや高齢であることや,いずれの群も黄斑浮腫を主体とする症例が含まれており,治療後に大きな視力改善が得られなかった症例が一定の割合で含まれること,さらには紹介元の病医院から当科に紹介される段階で症例の選別がはかられ,一定の重症度以上の症例が当科に集まっていることが考えられる.硝子体手術が早急に行える施設であるため,術後視力が良好となる症例が多く含まれることも,術後視力に差が生じなかった理由であるとも考えられる.しかしながら,手術時間の差や眼底所見の差が明確であること,さらに今回提示しなかったが,当科受診時にすでに他眼が失明している割合が眼科未受診群で高いことを考えると,眼科定期受診の重要性は今後も周知されるべきである.文献1)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業.網脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究.平成17年度総括・分担研究報告書,p263-267,20062)池田恒彦:糖尿病網膜症:最近の動向増殖糖尿病網膜症.眼科52:163-171,20103)植木麻理,佐藤文平,大西直武ほか:硝子体手術に至った糖尿病網膜症患者背景の検討.眼紀55:479-482,20044)Itoh-TanimuraM,HirakataA,ItohYetal:Relationshipbetweencompliancewithophthalmicexaminationspreoperativelyandvisualoutcomeaftervitrectomyforproliferativediabeticretinopathy.JpnJOphthalmol56:481-487,20125)HenricssonM,NissonA,GroopLetal:Prevalenceofdiabeticretinopathyinrelationtoageatonsetofthediabetes,treatment,durationandglycemiccontrol.ActaOphthalmolScand74:523-527,19966)Ismail-BeigiF,CravenT,BanerjiMAetal:Effectofintensivetreatmentofhyperglycaemiaonmicrovascularoutcomesintype2diabetes:ananalysisoftheACCORDrandomizedtrial.Lancet376:419-430,20107)KleinR,KnudtsonMD,LeeKEetal:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy:thetwenty-five-yearprogressionofretinopathyinpersonswithtype1diabetes.Ophthalmology115:1859-1868,20088)BrownJB,PedulaKL,SummersKH:Diabeticretinopathy:contemporaryprevalenceinawell-controlledpopulation.DiabetesCare26:2637-2642,2003***1334あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(134)