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動画説明ツールを用いた緑内障患者理解度調査

2020年8月31日 月曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(8):985.988,2020c動画説明ツールを用いた緑内障患者理解度調査猪口宗太郎*1井上賢治*1高橋篤史*2野﨑令恵*2國松志保*3石田恭子*4富田剛司*4*1井上眼科病院*2大宮・井上眼科クリニック*3西葛西・井上眼科病院*4東邦大学医療センター大橋病院眼科CGlaucomaIntelligibilityInvestigationUsinganOphthalmologySupportSystemSoutaroInoguchi1),KenjiInoue1),AtsushiTakahashi2),NorieNozaki2),ShihoKunimatsu-Sanuki3),KyokoIshida4)CandGojiTomita4)1)InouyeEyeHospital,2)OmiyaInouyeEyeClinic,3)NishikasaiInouyeEyeHospital,4)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:疾患解説用動画ツールのアイシーアイ(以下,動画)と『緑内障ハンドブック』(以下,テキスト)との理解度を緑内障患者で調査した.対象および方法:緑内障患者C39名(男性C8名,女性C31名)を対象とした.動画とテキストを閲覧後,緑内障の理解度(緑内障概要,眼圧,視野欠損,自覚症状,緑内障の見え方)を各々C5段階で判定し,比較した.結果:緑内障概要は動画C3.3C±0.7点,テキストC3.1C±0.6点,眼圧は動画C3.4C±0.6点,テキストC3.1C±0.6点,視野欠損は動画C3.2C±0.7点,テキストC2.9C±0.6点,自覚症状は動画C3.4C±0.5点,テキストC3.1C±0.7点,緑内障の見え方は動画C3.2C±0.7点,テキストC3.0C±0.7点であった.動画がテキストよりC5項目すべてで点数が有意に高かった(p<0.001).結論:緑内障患者に対して緑内障の理解を得るための動画はテキストと同様またはそれ以上に有効である.CPurpose:ToinvestigatethecomprehensionofdiseaseinglaucomapatientsusingiCeye(videotutorial)andahandbook.CSubjectsandmethods:ThisCstudyCinvolvedC39glaucomaCpatients(8males,C31females)C.OverviewCofCglaucoma,Cintraocularpressure(IOP)C,visualC.eldCdefects,CsubjectiveCsymptoms,CandCtheCappearanceCofCglaucomaCweredeterminedineachoftheC.vestagesandcomparedascomprehensionofglaucomaafterviewingthevideoandreadingtext.Results:Therespectivecomprehensionscoresofvideoandhandbookwere3.3±0.7and3.1±0.6intheoverview,3.4±0.6and3.1±0.6inIOP,3.2±0.7and2.9±0.6invisualC.elddefects,3.4±0.5and3.1±0.7insubjectivesymptoms,and3.2±0.7and3.0±0.7intheappearanceofglaucoma.Thescoreofthevideotutorialwassigni.cantlyhigherinallC.veitemsthanthatofthetextreading(p<0.001)C.Conclusions:Thevideotutorialwasfoundtobethesameormoree.ectivethanreadingtextforglaucomapatientstoobtainacomprehensionofthedisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(8):985.988,C2020〕Keywords:緑内障,動画,テキスト,理解.glaucoma,video,text,comprehension.はじめにiCeye(アイシーアイ.ミミル山房製作)(以下,動画)は,眼科患者へのインフォームド・コンセント用の疾患解説動画ツールである.東京都眼科医会の監修のもとに製作された.病状の動画ではシミュレーション映像やコンピューターグラフィックを効果的に用いており,また疾患の部位や症状,治療方法などはわかりやすい言葉で説明している.『緑内障ハンドブック』(参天製薬発行)(以下,テキスト)は「緑内障について」「治療について」「日常生活について」のC3項目に分けて,最新の情報をCQ&CA形式でわかりやすく説明するテキストである.日本眼科医会と日本緑内障学会の監修のもとに製作された.患者がこのテキストを読むことで緑内障に対する理解を深めることができる.また,別冊の「緑内障手帳」を医師とのコミュニケーション手段の一つとして活用することで,患者に安心して治療を受けてもらうことを目的としている.井上眼科病院グループでは従来から職員の教育にテキストを用いた講義を行っていたが,職員が疾患について正しく理〔別刷請求先〕猪口宗太郎:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SoutaroInoguchi,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(85)C985解できているか不明であった.そこで新たにテキスト以外に有効なツールはないか模索していた.そのころ動画の存在を知り,動画の使用により理解度が向上すると考えた.そこで職員を対象として緑内障の理解に対する動画とテキストの有効性の比較試験を行った1).その結果,緑内障の理解を得るためのツールとして動画による説明はテキストと同等あるいはより有効であることが判明した.井上眼科病院では,緑内障患者に満足度の高い診療を提供するためにC2010年より緑内障患者集団説明会(以下,説明会)を開催している.現在までに説明会をC16回行い,合計140名の緑内障患者が参加した.説明会では,医師が緑内障の病態と治療,薬剤師が緑内障治療薬の点眼指導,視能訓練士が補助具の指導,栄養士が食生活,看護師が患者から寄せられた質問について答えている.今回,緑内障の病態についての理解を得るためのツールとして,動画とテキストのどちらが有効かを検証することを目的に,この説明会の直近C4回に参加した緑内障患者を対象に両ツールの理解度を調査した.CI対象および方法2018年C2月.2019年C4月に行われたC4回の説明会に参加したC39名を対象とした.男性C8名,女性C31名,平均年齢C65.5±11.1歳(51.88歳)であった.病型は原発開放隅角緑内障C19名,正常眼圧緑内障C16名,原発閉塞隅角緑内障C3名,落屑緑内障C1名であった.視野良好眼のCHumphrey視野検査C30-2(SITA-StandardのCmeandeviation値はC.2.59C±5.81CdB,C.25.19.2.46CdB)であった.「緑内障の概要」「眼圧とは」「視野欠損の仕組み」「自覚症状がないのはなぜか」「緑内障患者の見え方」のC5項目について動画とテキストで理解力の比較を行った.「眼圧とは」「視野欠損の仕組み」「緑内障患者の見え方」のC3項目は動画のイメージに近い図がテキストにもあり,比較に使用した.一方「緑内障の概要」「自覚症状がないのはなぜか」のC2項目については,テキストのほうに図がないため該当の文章とその文章イメージに近い動画を比較した.動画とテキストは前回井上眼科病院職員を対象として比較検討を行ったもの1)と同じものを用いた.具体的にはまず説明会に参加した全員,前述したC5項目について約C10分間の動画視聴を行い,その後,同様にC5項目のテキストを配布し,時間制限約C10分間で閲覧した.各々の理解度を動画,テキストともにC5段階で評価し,点数化した.とても理解できたC4点,理解できたC3点,どちらともいえないC2点,わかりにくかったC1点,まったくわからないC0点とした.動画とテキストの点数を各項目で比較した.また,各項目の感想を動画,テキストともに記載してもらった.統計学的解析にはCc2検定を用い,有意水準はCp<0.05とした.対象者へのインフォームド・コンセントと井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を得た.CII結果1.「緑内障の概要」(図1,表1)点数は動画C3.3C±0.7点でテキストC3.1C±0.6点より有意に高かった(p<0.05).感想は,動画では理解するまでに画像が変わってしまう,テキストでは何度でも読み返すことができた,などであった.C2.「眼圧とは」(図2)点数は動画C3.4C±0.6点でテキストC3.1C±0.6点より有意に高かった(p<0.001).感想は,動画では印象に残りやすい,テキストでは全体像がつかみにくい,などであった.C3.「視野欠損の仕組み」(図3)点数は動画C3.2C±0.7点でテキストC2.9C±0.6点より有意に高かった(p<0.05).感想は,動画では画像で見えなくなることを体験し怖かった,テキストでは時間がかかり読んでいると眼が痛くなる,などであった.C4.「自覚症状がないのはなぜか」(図4)点数は動画C3.4C±0.5点でテキストC3.1C±0.7点より有意に高かった(p<0.001).感想は,動画では動きがあるのでわかりやすい,テキストではイラストもわかりやすかったなどであった.C5.「緑内障患者の見え方」(図5)点数は動画C3.2C±0.7点でテキストC2.8C±0.8点より有意に高かった(p<0.001).感想は,動画ではイメージしやすくわかりやすい,テキストでは図解が理解の助けになった,などであった.CIII考按筆者らは緑内障の病態の理解を深めるために動画の有効性を,緑内障を有せず,緑内障の知識のない井上眼科病院グループ事務職員C39名で検証した1).今回と同様の調査を行ったが「緑内障の概要」「視野欠損の仕組み」「緑内障患者の見え方」で,動画がテキストに比べて有意に点数が高かった(p<0.05).今回はC5項目すべてで動画がテキストに比べて有意に点数が高かった.しかし,各項目の点数は動画は前回3.3.3.5点,今回C3.2.3.4点,テキストは前回C2.8.3.2点,今回C2.8.3.1点でほぼ同等だった.性別は前回男性C23名,女性C16名,今回男性C8名,女性C31名,平均年齢は前回C39.9C±9.4歳,今回C65.5C±11.1歳と異なった.背景は異なっていたが,緑内障患者に対しても動画が有効であると思われる.患者に疾患の治療や手術の説明をするあるいはインフォームド・コンセントを取得する際に,従来は口頭による説明が多かったが,パンフレット(説明用紙)を追加することで患者の理解度が向上したと報告されている2,3).筆者らは眼科外来で光干渉断層計検査をする際に,看護師が説明用紙を作986あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020(86)表1動画とテキストの理解度の比較動画(点)テキスト(点)p値緑内障の概要C3.3±0.7C3.1±0.6p<C0.05眼圧とはC3.4±0.6C3.1±0.6p<C0.001視野欠損の仕組みC3.2±0.7C2.9±0.6p<C0.05自覚症状がないのはなぜかC3.4±0.5C3.1±0.7p<C0.001緑内障患者の見え方C3.2±0.7C2.8±0.8p<C0.001どちらともどちらともわかりにくかったいえない5%どちらともいえない2%どちらとも2名5%1名2名動画テキスト図1「緑内障の概要」の理解度わかりにくかったどちらとも2%いえない1名とても理解8%3名動画テキスト図3「視野欠損の仕組み」の理解度成して指導したところ有効な援助ができた2).禿らはパンフレットを作成して緑内障手術患者への説明に使用したところ,「病識」「手術治療の目的」「術前説明の理解度」のすべてで良好な理解が得られた3).これらの報告よりパンフレットは口頭説明だけよりも有効であると考えられる.動画の有効性も報告されている4,5).米田らは白内障手術の患者説明用ビデオを作成し,白内障手術の説明に利用した4).ビデオの評価は高く,患者の理解度は向上した.綾木らはインフォームド・コンセントにおいて手術の動画や過去の論文からのエビデンス(疾患の疫学,診断方法,治療方法,予後)を追加したところ,患者や家族に好評であった5).今回は手術についての理解度調査は行わなかったが,疾患の病(87)動画テキスト図2「眼圧とは」の理解度わかりどちらともにくかったいえない3%2%1名1名動画テキスト図4「自覚症状がないのはなぜか」の理解度図5「緑内障患者の見え方」の理解度あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020C987態についても動画を用いることで三次元的にイメージができたので,そのことが有効性につながったと思われる.説明文書には問題点も指摘されている6).酒井は患者向けに配布している説明文の可読性を検討した6).長くて読みにくく難解であると思われるC4文字以上の漢字文字列をカウントした.「入院案内」や「移植の説明」が上位であった.漢字文字列のC1文中の割合や文の長さなどを考慮する必要があると述べている.今回のテキストは全部でC72文あり,4文字以上の漢字文字列のC1文中の数は全C72文中C1.07であった.酒井の報告6)のC10文書中C3位の多さとなっていたので,今回のテキストは対象症例にとって見づらい文書であった可能性が考えられる.一方,動画にも問題点が考えられる.動画ではスピードを変えることができないので認知機能が低下した患者では理解がむずかしい可能性がある.ロービジョン患者では動画を見ること自体がむずかしい可能性がある.緑内障に対して理解を得るためのツールとして動画の視聴はテキストの閲覧と同様に緑内障患者に対しても有用であると考えられる.しかし,現状ではテキストだけ,あるいは動画だけでなく,両方ともに利用するのが最善であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)猪口宗太郎,井上賢治,高橋篤史ほか:眼科CIC支援システム「iCeyeアイシーアイ」を用いた緑内障理解度調査.あたらしい眼科35:1127-1132,C20182)飯倉宏美,三浦樹絵,川喜田洋子ほか:OCT説明用紙導入の効果.日本視機能看護学会誌2:59-62,C20173)禿早百合,村上ルミ子,外来スタッフ:緑内障手術におけるパンフレット作成の取り組み.日本視機能看護学会誌C3:55-59,C20124)米田和代,川端由希子,伊藤朝美ほか:手術に対する患者説明会用ビデオ導入を試みて.日本視機能看護学会誌C3:C50-51,C20125)綾木雅彦,谷口重雄,陰山俊之ほか:動画とエビデンスを眼科画像ファイリングシステムに導入したインフォームドコンセントの技法.眼科45:1071-1075,C20036)酒井由紀子:日本の医療現場における患者向け説明文書の実態とヘルスリテラシー研究の課題.三田図書館・情報学会研究大会.発表論文集.p29-32,2007C***988あたらしい眼科Vol.37,No.8,2020(88)