レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討杉本夕奈*1福田泰彦*1坪田一男*2大橋裕一*3木下茂*4*1大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3愛媛大学*4京都府立医科大学感覚器未来医療学RetrospectiveReviewofDacryostenosis,DacryocystitisandForeignBodyinEyeorLacrimalDuctunderAdministrationofRebamipideOphthalmicSuspension(MucostaROphthalmicSuspensionUD2%)YunaSugimoto1),YasuhikoFukuta1),KazuoTsubota2),YuichiOhashi3)andShigeruKinoshita4)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)EhimeUniversity,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:レバミピド懸濁点眼液投与下における涙道閉塞,涙.炎および異物の副作用発症要因を特定するため,使用実態を把握する.方法:本剤投与下において涙道閉塞,涙.炎および異物が認められた症例の背景因子をレトロスペクティブに検討した.また,患者から採取された異物の成分分析を実施した.結果:対象患者の背景因子と副作用発症との間に一定の傾向は認められなかった.異物は角膜表面,涙.内,鼻腔内などで認められた.レバミピドは定性分析で28検体中13検体に,定量分析で測定できた8検体中5検体に認められた.蛋白質が検出されたものは14検体中13検体であり,ホウ素が測定できた8検体はいずれも陰性であった.結論:本検討からこれらの副作用発症要因の特定には至らなかった.本剤の投与に際しては,眼科的観察を十分に行うことが望ましいと考えられた.Purpose:Tounderstandthedrugutilizationofrebamipideophthalmicsuspensionsoastoidentifythecauseofdacryostenosis,dacryocystitisandforeignbodyintheeyeorlacrimalductunderdrugadministration.Methods:Weretrospectivelyreviewedpatientcharacteristicsofcases,alsoanalyzedcompositionsofforeignbodiesobtainedfromthepatients.Results:Noobvioustrendshowedbetweenpatientcharacteristicsandtheseevents.Foreignbodieswerefoundincornealsurface,lacrimalsac,nasalcavityandsoon.Rebamipidewasdetectedin13of28sampleswithqualitativeanalysisandin5of8samplesmeasurablewithquantitativeanalysis.Proteinwasdetectedin13of14samples;boronwasundetectablein8samples,allofwhichweremeasurable.Conclusions:Wecouldnotidentifythecauseoftheseevents.Patientsshouldbecarefullymonitoredbyophthalmologicalexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(12):1741.1747,2015〕Keywords:レバミピド,点眼液,涙道閉塞,涙.炎,異物.rebamipide,ophthalmicsolution,dacryostenosis(lacrimalductobstruction),dacryocystitis,foreignbody.はじめに年1月の上市以降,臨床現場で幅広く用いられている.薬理レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)は,ド作用として,角結膜上皮障害の改善作用1),角結膜上皮のムライアイ治療薬として2011年9月に国内承認され,2012チン産生促進作用1,2),角結膜上皮バリア機能の増強作用3,4),〔別刷請求先〕杉本夕奈:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通3-2-27大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:YunaSugimoto,M.S.,PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-2-27,Otedori,Chuoku,Osaka-shi,Osaka540-0021,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(109)1741結膜杯細胞数の増加作用5),角結膜最表層上皮の微絨毛の再形成促進作用6),眼表面抗炎症作用7)などが報告されている.国内臨床試験で認められたレバミピド懸濁点眼液のおもな副作用は苦味,眼刺激感,眼.痒,霧視など8.10)であったが,発売以降に涙道閉塞,涙.炎が報告された.このため大塚製薬は,2015年1月までに「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下,薬機法と記す)に従って医療従事者から報告された有害事象のうち,涙道閉塞,涙.炎,眼内異物などの副作用症例をレトロスペクティブに検討した.その結果,2015年3月に涙道閉塞,涙.炎が重大な副作用として添付文書に追記された.今回,これらの副作用症例の背景因子の検討を行い,さらに,患者から採取された異物について成分分析を実施したので報告する.I対象および方法1.涙道閉塞,涙.炎,異物に関する検討2012年1月の上市から2015年1月(添付文書改訂の必要性検討時)までにレバミピド懸濁点眼液投与に関連する可能性があると医療従事者から大塚製薬(株)に有害事象報告された涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物の症例集積は41例であった.そのうち,処方医により本剤との因果関係が否定された4例を除く,副作用と判定された37例を対象とし,年齢,性別,投与期間,既往歴などの背景因子について検討した.なお,副作用の定義は,薬機法に従って報告された有害事象報告のうち因果関係が否定されなかったものである.処方医により因果関係が否定された4例の内訳は,急性涙.炎が偶発症と判断された1例,涙.炎が原疾患の悪化によるものと判断された1例,異物(鼻に白い粉が付着するという事象)が有害事象と判断されなかった1例,点眼手技の過誤(眼の縁に点眼液があふれた)と判断された1例であった.各副作用の重篤度は,侵襲的な処置を要した場合および医師が重篤と判断した場合を重篤,それ以外を非重篤とした.2.異物の成分分析上市から2015年5月までに医療従事者から大塚製薬(株)に分析依頼のあった,患者から採取された異物(計28検体)について成分分析を実施した.なお,副作用以外(有害事象,苦情)で成分分析を依頼されたものも含まれる.28検体すべてについて,レバミピド含有の有無を調べるため定性分析を実施した.そのうち,2015年1.5月の14検体については,異物の由来を推定するためレバミピドおよびホウ素の定量分析ならびに蛋白質の定性分析を追加実施した.定性分析には赤外分光(infraredspectroscopy:IR)法による吸収スペクトル測定を行い,レバミピドの定量分析には高速液体クロマトグラフィー(highperformanceliquid1742あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015chromatography:HPLC)法,ホウ素の定量分析には誘導結合プラズマ質量分析(inductivelycoupledplasma-massspectrometry:ICP-MS)法を用いた.分析依頼のあった28検体の内訳は,副作用に該当する25検体,副作用に該当しない3検体であった.副作用25検体のうち上記1.で涙道閉塞,涙.炎,異物として症例検討された検体は5検体であり,残り20検体は上記1.の検討時以降に報告された検体,あるいは涙道閉塞,涙.炎,異物以外の副作用症例の検体であった.異物が採取された状況は,通水検査の際に逆流物に混在して出てきた場合,手術により採取された場合,角膜表面から鑷子で採取された場合,涙管チューブに白色物が付着した場合などであった.II結果1.涙道閉塞,涙.炎,異物に関する検討上市から2015年1月までに薬機法に従って医療従事者から報告された,涙道閉塞,涙.炎,異物に関する副作用37例の背景因子を表1に示す.性別は男性7例,女性30例であり,年齢分布は50歳未満4例,50歳代2例,60歳代5例,70歳代13例,80歳以上9例,年齢不詳4例,平均年齢69.6歳(年齢不詳4例を除く)であった.副作用発現までの投与期間は,19例で1日から約1年,18例で不明,平均投与期間71.9日(投与期間不明18例を除く)であった.また,副作用の症例経過を精査したところ,涙道閉塞12例,涙.炎/涙道炎10例,異物24例(うち2事象重複7例,3事象重複2例),その他2例であった.合併症あるいは既往歴として報告のあった涙道疾患は,涙道狭窄2例,涙.炎3例であった.おもな併用点眼薬はヒアルロン酸ナトリウム11例,フルオロメトロン6例であった.ただし,本剤と同時期に併用されていたかどうかは不明であった.2.異物の成分分析異物の色調は白色,黄色,青緑色などであり,形態は固体または粘性の高い液性物であった.レバミピドの定性分析を実施した28検体では,13検体(46%)が陽性であった(表2).レバミピド含量の定量分析では14検体中6検体が検体量不足のため測定できなかったが,測定できた8検体中5検体(63%)でレバミピドが検出された.また,ホウ素含量についても分析したが,14検体のうち検出感度以下であったものが8検体,検体量不足のため測定できなかったものが6検体であり,検出感度以上の陽性所見は1検体にも認められなかった.一方,蛋白質の定性分析では14検体中13検体(93%)が陽性であった.III考按レバミピド懸濁点眼液の上市以降に涙道閉塞,涙.炎およ(110)(111)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151743表1各副作用症例の背景(対象期間:2012年1月~2015年1月)症例性別年齢副作用名重篤度レバミピド投与期間併用点眼薬合併症/既往歴レバミピド測定結果1女20歳代角膜混濁a)非重篤30日ヒアルロン酸ナトリウム点状表層角膜症(両眼)/なし分析依頼なし鼻咽頭炎非重篤4日ヒアルロン酸ナトリウム,ジクアホソルナトリウム,2女40歳代鼻汁変色a)非重篤4日オフロキサシン副鼻腔炎/不明分析依頼なし3女40歳代眼内異物非重篤不明フルオロメトロン記載なし/不明分析依頼なし結膜障害非重篤不明4e)女40歳代眼内異物非重篤不明記載なしなし/なしなし5男50歳代後天性涙道狭窄非重篤不明なし不明/不明分析依頼なし6女50歳代視力障害b)非重篤不明記載なし更年期障害/乳癌手術歴分析依頼なし7f)女60歳代後天性涙道狭窄非重篤17日投与時期不明;ヒアルロン酸ナトリウム0.1%涙道狭窄(右),表在性角膜炎/不明なし8女60歳代涙.炎非重篤21日なし(OTCの併用は不明)不明/不明分析依頼なし眼内異物非重篤不明ジクアホソルナトリウム,白色ワセリン,涙道疾患はとくになし/涙道疾患はとく9女60歳代フラジオマイシン・メチルプレドニゾロン軟膏分析依頼なし眼瞼びらん非重篤不明(OTCの併用は不明)になし霧視非重篤5日デキサメタゾン投与時期不明;10女60歳代眼内異物非重篤5日シアノコバラミン,ヒアルロン酸ナトリウムびらん様上皮障害/Sjogren症候群分析依頼なし投与時期不明;レボフロキサシン0.5%,11g)女60歳代眼内異物非重篤不明フルオロメトロン0.1%記載なし/Sjogren症候群あり(11.7%)網膜静脈分岐閉塞症(右),黄斑浮腫12男70歳代涙.炎非重篤不明フルオロメトロン,レボフロキサシン,カルテオロール(右)/不明分析依頼なし鼻漏非重篤不明投与時期不明;ヒアルロン酸ナトリウム0.1%13h)男70歳代鼻出血非重篤不明高血圧/なしなし体内異物非重篤不明(OTCの併用は不明)後天性涙道狭窄非重篤不明14男70歳代眼内異物非重篤不明記載なし記載なし/不明分析依頼なし15男70歳代後天性涙道狭窄c)非重篤1日なし涙道疾患の合併なし/不明分析依頼なし16女70歳代痂皮a)非重篤15日なし両人工水晶体/なし分析依頼なし眼沈着物a)非重篤不明17女70歳代視力低下非重篤不明投与時期不明;ヒアルロン酸ナトリウム記載なし/不明分析依頼なし涙道の炎症重篤不明18女70歳代膿疱性皮疹重篤不明ヒアルロン酸ナトリウムSjogren症候群/不明分析依頼なし19女70歳代眼内異物非重篤不明なし記載なし/不明分析依頼なし後天性涙道狭窄非重篤9日投与時期不明;オロパタジン,20女70歳代塩化カリウム・塩化ナトリウム花粉症,白内障/アレルギー分析依頼なし霧視非重篤9日(塩化カリウム・塩化ナトリウム継続使用の可能性が高い)1744あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(112)表1各副作用症例の背景(対象期間:2012年1月~2015年1月)つづき涙.炎重篤不明21女70歳代眼内異物非重篤不明OTC併用は不明記載なし/白内障手術分析依頼なし後天性涙道狭窄非重篤45日22女70歳代眼内異物非重篤45日ジクアホソルナトリウム,フルオロメトロン記載なし/不明分析依頼なし後天性涙道狭窄重篤361日記載なし/涙.炎,23女70歳代涙.炎a)重篤361日タフルプロスト涙管チューブ挿入術分析依頼なし24女70歳代涙.炎重篤204日チモロールマレイン酸記載なし/涙.炎分析依頼なし後天性涙道狭窄非重篤3日投与時期不明;レボフロキサシン0.5%,涙道狭窄(左)/涙道チューブ挿入術,25男80歳代流涙増加非重篤3日フルオロメトロン0.1%,分析依頼なし眼内異物非重篤3日塩化カリウム・塩化ナトリウム(OTCの併用なし)涙.鼻腔吻合術投与時期不明;26男80歳代眼内異物非重篤不明ヒアルロン酸ナトリウム記載なし/不明分析依頼なし流涙増加非重篤21日リウマチ,黄斑静脈(左),眼内レンズ27女80歳代後天性涙道狭窄d)非重篤21日ヒアルロン酸ナトリウム0.1%からの切り替え挿入眼(両眼)/なし分析依頼なし眼内異物非重篤15日ヒアルロン酸ナトリウム,フルオロメトロン28女80歳代角膜炎非重篤15日投与時期不明;ジクアホソルナトリウム糸状角膜炎/なし分析依頼なしリウマチ,Sjogren症候群,結膜炎(両29女80歳代眼内異物非重篤141日レボフロキサシン,オロパタジン眼),白内障,ドライマウス/間質性肺炎分析依頼なし投与時期不明;タフルプロスト,カルテオロール,30女80歳代後天性涙道狭窄a)非重篤187日ドルゾラミド,ヒアルロン酸ナトリウム,オフロキサシン点状表層角膜症(両眼)/不明分析依頼なし涙道の炎症非重篤不明31女80歳代眼内異物非重篤不明記載なし記載なし/不明分析依頼なし眼内異物非重篤42日両眼内レンズ眼/白内障手術,32i)女80歳代結膜異物除去重篤92日なし高血圧なし33女80歳代涙.炎非重篤78日なし記載なし/涙.炎分析依頼なし薬剤残留a)非重篤不明34女不明眼痛非重篤不明記載なし記載なし/不明分析依頼なし35女不明後天性涙道狭窄非重篤不明記載なし記載なし/なし分析依頼なし涙.炎非重篤168日涙道疾患の合併なし/涙道疾患の既往な36女不明後天性涙道狭窄a)非重篤不明なしし分析依頼なし37女不明後天性涙道狭窄非重篤不明記載なし記載なし/不明分析依頼なしa)症例経過より「異物」の可能性があると考えられた.b)白い塊が見えるという事象のため「その他」として分類した.c)涙点や涙道に詰まりが起きているような気がするという事象のため「その他」として分類した.d)症例経過に「涙.炎」と記載されていた.e)表2の25番目と同一症例.f)表2の23番目と同一症例.g)表2の3番目と同一症例.h)表2の24番目と同一症例.i)表2の32番目と同一症例.表2異物の成分分析(対象期間:2012年1月~2015年5月)測定結果採取部位報告事象レバミピド定性a)レバミピド定量b)1涙道涙道洗浄で白色の逆流物を採取あり0.3%2涙道白色物,涙道閉塞疑いの通水障害なしN.D.3涙道涙道閉塞なしN.D.4涙道涙.炎なしN.A.5涙道涙.炎,眼瞼炎,涙道に白い固形物なし*6涙.涙.炎,涙道閉塞あり43.8%7涙.涙.炎,鼻涙管閉塞,白色析出物を採取あり14.4%8c)涙.涙.から白色塊を採取あり11.7%9涙.涙.炎,鼻涙管閉塞,眼瞼炎,白色析出物を採取あり*10涙.有害事象ではないあり*11涙.涙.炎,析出物を採取なしN.D.12涙.,鼻腔涙.炎,涙.内に粒子が残存,内眼角部痛あり*13涙.部圧迫白色物質,膿の排出なしN.A.14角膜角膜異物感を自覚ありN.A15角膜角膜沈着なしN.A.16角膜上皮欠損部位角膜上皮欠損部位の白色混濁,なし*17眼表面眼表面の白塊なしN.A.18眼表面結膜障害,眼の異物残留なし*19上涙点(右)涙道閉塞なし*20d)涙丘(右)涙丘異常,白色の膜(帯状)の排出なし*21e)眼白い粉状物質の眼部への付着と刺激感あり*22f)両眼白色塊の採取あり*23目尻苦情報告のみなし*24鼻鼻涙管閉塞,鼻腔から白色塊を採取あり0.7%25g)鼻鼻腔からの出血と異物なし*26口涙.結石,流涙,涙.部痛あり*27口苦情報告のみあり*28涙管チューブ白色塊が右涙管チューブに付着なしN.A.*:実施せずN.A.:検体が少量(0.1mg未満)であるため測定不可.N.D.:Notdetected.a)赤外分光(IR)法.b)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法.c)表1の11番目と同一症例.d)表1の4番目と同一症例.e)表1の7番目と同一症例.f)表1の32番目と同一症例.g)表1の13番目と同一症例.び眼表面・涙道などにおける異物の副作用報告を受け,それらの副作用が認められた症例についてレトロスペクティブに検討を行った.涙道閉塞,涙.炎が認められた症例は中高年女性が多く,副作用発現までの投与期間,既往歴,合併症,併用点眼薬などの背景因子と,涙道閉塞,涙.炎,異物の副作用発現との間に一定の傾向は認められず,要因の特定には至らなかった.これらの副作用報告や苦情情報を介して異物28検体が回収され分析に供された(2015年5月まで).その成分分析の結果,レバミピドが含まれていた異物は約半数(46%)であった.追加測定を実施した14検体において,蛋白質は13例(93%)とほぼすべての異物に含まれていた.しかしながら,今回は蛋白質の種類の同定までは至らず,炎症性細胞の有無や菌の有無などの分析についても今後検討が必要であると考えられた.なお,本剤の添加物として含まれるポリビニルアルコールは,ホウ酸イオンと反応してゲル化する性質があるため,ホウ素の分析も実施した.しかしながら,検体が少量のため測定不可,あるいは検出感度以(113)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151745表3各点眼薬における副作用発現頻度医療用点眼薬の販売名副作用名発現件数または例数/調査例数a)発現頻度(%)クラビットR点眼液0.5%角膜上皮障害などb)12件/7,158例0.17抗菌点眼薬ガチフロR点眼液0.3%点状角膜炎1件/429例0.23ベガモックスR点眼液0.5%角膜炎1件/586例0.2コソプトR配合点眼液角膜上皮障害などc)8例/913例0.88緑内障治療薬キサラタンR点眼液0.005%角膜上皮障害などd)249件/3,424例7.27アイファガンR点眼液0.1%点状角膜炎30例/444例6.76フルメトロンR点眼液0.1%眼圧上昇13件/10,343例0.13ステロイド点眼薬フルメトロンR点眼液0.02%眼圧上昇2件/7,276例0.03リンデロンR点眼液0.1%ステロイド緑内障1例/261例0.4a)各薬剤のインタビューフォーム参照.b)角膜びらん,角膜炎,角膜上皮障害,点状角膜炎.c)角膜びらん,角膜炎,角膜上皮欠損,点状角膜炎.d)角膜びらん,角膜炎,角膜混濁,角膜上皮欠損,角膜上皮障害,点状角膜炎表4各事象発現頻度に関する文献報告報告年著者薬剤名発現例数/調査例数発現頻度(%)白内障術後眼内炎2007OshikaTetala)N.A.52例/100,539例0.052涙管チューブ挿入術後のステロイド点眼による眼圧上昇2014新田安紀芳b)0.1%フルオロメトロン点眼液11例/128例8.6N.A.:Notapplicablea)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOphthalmolScand85:848-851,2007.b)新田安紀芳:フルオロメトロン点眼による眼圧変動.臨眼68:1463-1467,2014下であった.眼表面・涙道などにおける異物の成因として,本懸濁点眼液の粒子そのものが何らかの要因により凝集したもの,本懸濁点眼液が溶けて粘性の高い液状になったもの,生体由来の白色の膿,本剤と関連しない析出物などが考えられたが,異物の発生機序は未だ不明といわざるを得ない.また,異物が涙道閉塞,涙.炎の原因となり得るのか,あるいは涙道閉塞,涙.炎の結果として異物が発現するのかについても明確にはなり得なかった.本検討の限界としては,他の点眼薬の投与期間が不明であるため本剤と同時期に併用されていたかが不明であること,既往歴,合併症などが不明である症例があることなど,患者背景や投与状況について十分な情報が得られていない点があげられる.今後もこれらの副作用の要因を解明するために,継続的な情報収集およびさらなる検討が必要であると考えられる.なお,レバミピド懸濁点眼液の推定使用患者数は約53.5万人(2012.2014年)11)であった.本剤の推定使用患者数に対する涙道閉塞,涙.炎,異物の副作用報告数(それぞれ12例,10例,24例,2015年1月現在)の割合を求めると,副作用発現頻度はそれぞれ0.002%,0.002%,0.004%となるが,副作用報告数は実際の発生数よりかなり少ないことが考えられ,仮に報告数が実際の十分の一とすると,副作用発現頻度はそれぞれ0.02%,0.02%,0.04%となり,抗菌点眼薬や緑内障治療薬における角膜上皮障害などの副作用発現頻度,ステロイド点眼薬における眼圧上昇関連の副作用発現頻度,白内障手術後眼内炎の発症頻度12)と同程度あるいはそれよりは低いと推定された.しかし,これらの事象はときに重症化するおそれがあるため,日常臨床で十分に留意すべき病態であり,副作用発現の実態をより明確にするために今後も検討が必要であると考えられる.なお,各種点眼薬における副作用発現頻度を表3に,有害事象の発現頻度に関する文献報告を表4に示した.以上のように,現時点においてこれらの副作用の発症要因は不明であるが,重篤な涙道閉塞,涙.炎の発症を防止するために,患者の状態(涙液量の増加など)を十分観察し,涙道閉塞の早期発見に努めることが重要である.涙道閉塞,涙.炎および鼻炎などの既往歴があった場合はとくに注意して観察するとともに,急激な涙液メニスカスの上昇に対する留意が必要である.また,涙液メニスカスの上昇がみられた場合は涙管通水検査の実施が推奨される.1746あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(114)本稿は大塚製薬株式会社により実施された分析結果に基づいて報告された.開示すべきCOIは坪田一男(委託研究費,講師謝礼),大橋裕一(講師謝礼),木下茂(委託研究費,技術指導料,講師謝礼)である.文献1)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20042)UrashimaH,TakejiY,OkamotoTetal:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20123)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:RebamipideincreasesbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmol97:912-916,20134)KimuraK,MoritaY,OritaTetal:ProtectionofhumancornealepithelialcellsfromTNF-a-induceddisruptionofbarrierfunctionbyrebamipide.InvestOphthalmolVisSci54:2752-2760,20135)KaseS,ShinoharaT,KaseM:Effectoftopicalrebamipideonhumanconjunctivalgobletcells.JAMAOphthalmol132:1021-1022,20146)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,20127)UetaM,SotozonoC,YokoiNetal:RebamipidesuppressespolyI:C-stimulatedcytokineproductioninhumanconjunctivalepithelialcells.JOculPharmacolTher29:688-693,20138)大塚製薬株式会社:ムコスタR点眼液UD2%製品添付文書(2015年3月改訂)9)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:Arandomized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreatmentofdryeye.Ophthalmology120:1158-1165,201310)KinoshitaS,AwamuraS,NakamichiNetal:Amulti-center,open-label,52-weekstudyof2%rebamipide(OPC-12759)ophthalmicsuspensioninpatientswithdryeye.AmJOphthalmol157:576-583,201411)株式会社日本医療データセンター(JMDC)12)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOphthalmolScand85:848-851,2007***(115)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151747