‘病理検査’ タグのついている投稿

経皮的切開が必要だった大きな涙小管結石を伴った涙小管炎

2022年9月30日 金曜日

《第9回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科39(9):1245.1248,2022c経皮的切開が必要だった大きな涙小管結石を伴った涙小管炎久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科CACaseofGiantCanalicularConcretionTreatedwithTranscutaneousRemovalMasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospitalC目的:涙小管炎の根本的治療である涙点鼻側切開で治癒せず,結石部の皮膚切開を要したC1例を報告する.症例:66歳,女性.右眼充血,眼脂で近医を受診したが点眼で治癒せず吹上眼科を紹介受診した.涙道閉塞および右側上涙小管近傍の腫瘤を認め,右側上涙小管炎と診断した.涙点鼻側切開を行い,膿と少量の結石を排出したが,結石を完全に除去できず,手術はいったん終了した.自覚症状は少し改善したが,結石部分の大きさは不変で石様の塊を触知できるように変化した.2回目の手術では,結石部の皮膚切開を行い,多量の膿とC9C×7×3Cmmの巨大な緑色涙小管結石を排出した.結膜炎は改善し,涙小炎の再発は認められない.細菌培養は陰性で,結石の病理検査で放線菌を認め,結石周囲に涙小管上皮を認めず,線維化した結合組織が確認され,結石が皮下に脱出したものと考えた.結論:涙小管近傍の巨大涙小管結石が予想される涙小管炎の場合は,結石部分の皮膚切開も考慮した治療方針も必要と考えられる.CPurpose:Toreportacaseofgiantcanalicularconcretioninthecanaliculitisthatrequiredtranscutaneoussur-gicalapproach.CaseReport:Thisstudyinvolveda66-year-oldfemalewhopresentedwithchronicconjunctivitisinherrighteyeandacanalicularobstructionandtumornearthelacrimalcanaliculi.Uponexamination,wediag-nosedherasrightsuperiorcanaliculitis.Fortreatment,canaliculotomywas.rstperformed,andasmallamountofpusswasremoved.However,wewereunabletocompletelyremovetheconcretion.Thus,weperformedasecond-aryoperationviaatranscutaneousapproach.Thespace.lledbyalargeamountofyellowpusswasdilated,andagiantCcanalicularconcretion(i.e.,C9×7×3Cmm)wasCremoved.CTheCresultsCofCaCbacterialCcultureCwereCfoundCtoCbeCnegative.However,apathologicalexaminationledtothediagnosisofalacrimalstoneduetoActinomycesspecies.PostCsurgery,CtheCoutcomeCwasCdeemedCsatisfactory.CConclusion:InCcasesCwithCaClargeCconcretionCtumorClocatedCnearthecanaliculi,atranscutaneoussurgicalapproachshouldbeconsideredforremovaloftheconcretion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(9):1245.1248,C2022〕Keywords:涙小管炎,涙小管結石,病理検査,皮膚切開,治療.canalolithiasis,canalicularconcretion,stoneanalysis,transcutaneousremoval,therapy.Cはじめに涙小管炎は,涙道疾患のなかではまれな疾患である1.3).涙小管炎自体が見落とされ,慢性結膜炎と診断され治療されていることも多い疾患でもある1.5).治療は,涙小管内の結石を完全除去排出することが必要である1.5).逆に涙点鼻側切開を行えば涙小管結石を除去でき,治療できると考えられる.しかし,今回涙点鼻側切開で涙小管結石を排出できず,皮膚切開を要した症例を経験したので報告する.I症例患者はC66歳,女性.右眼充血,眼脂にて近医を受診した.点眼薬を変えながらC1カ月間加療するも変化せず,他院を受診し涙道閉塞および右側上涙小管近傍に腫瘤を認めるとの診断で,吹上眼科(以下,当院)を紹介受診した.当院初診時は,右側上涙点より膿が排出し,涙小管周囲の発赤腫脹を認め,上涙小管上方に腫瘤を認めた.腫瘤は膿が大量に存在している緊慢性で,圧迫すると涙点より膿が排出され涙小管炎〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上C2-10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10-5Fukiage,Hachinohe,Aomori031-0003,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(87)C1245図1初診時の前眼部写真a:右眼上眼瞼の内上側に腫瘤を認めた.b:涙点周囲の発赤と腫脹を認め,涙点から膿が排出された.図22回目の手術前a:涙小管結石は少し小さくなり,固いものを触れるように変化した.b:結石を圧迫すると,膿が排出された.と診断した(図1).右側上涙点より涙管通水検査を行った.通水はなく,上涙点からわずかな膿と直径C0.5Cmm程度の細かい結石がC2.3個が混じった逆流を認めた.上下交通はなかった.垂直部から水平部に移行したところで閉塞していて,涙洗針で測定すると約C3Cmmだった.右側上涙小管の涙点鼻側切開をC3Cmm行い,少量の膿と直径C1.2Cmmの涙小管結石をC4.5個排出し,結石は若干小さくなった.涙小管の状態は,手術前の検査と同様に垂直部までは問題なく,水平部が始まったところで閉塞していた.結石を強く圧迫し排出を試みるもできず,涙点より鋭匙を入れて結石を取り出そうとしたが,水平部の閉塞部に膜様の厚い壁があり取り出すことはできなかった.結石の完全除去を断念して手術をいったん終了とした.閉塞部位より涙.側の涙小管以降の状態は検査は行わなかった.手術後は自覚症状が少し良くなったが(図2),涙点からの膿の排出は持続した.結石の大きさは変化なく,石様の塊を触知するようになった.約C1カ月後にC2回目の手術を行った.結石部分の皮膚切開を行うと,皮下に線維化した被膜があり,切開し多量の膿とC9C×7×3Cmm程度の緑色の巨大な涙小管結石を排出した(図3).結石周囲の内腔は平滑な組織で,皮膚創口より観察したが涙小管との交通の有無は不明だった.内腔と涙小管の交通を確認するため,上涙小管よりブジーを入れたがC1Cmm程度で閉塞し,涙小管と内腔との交通は確認できなかった.涙小管閉塞の穿破は過度な侵襲と考え,それ以上は行わなかった.内腔が涙小管の拡張か否かを病理学的に検索するため,結石を覆っていた組織をC2カ所切除し(図3d)病理検査を行った.創を縫合して終了した.翌日から結膜炎や涙小管からの膿の排出は消失し,結石も消失した(図4).涙小管結石の病理検査で放線菌を認め(図5a,b),膿からの細菌発育はなく,結石周囲の組織は,線維化した結合組織であり(図5c),涙小管上皮は確認できなかった.術後経過は良好で,涙小管炎の再発は確認されていない.CII考按涙小管炎は,結膜炎と症状が似ているため見落とされがちな疾患である1.5).いったん診断がつき菌石を除去すれば,治療は容易と考えられてきた1.5).結石が少量の場合は,圧1246あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(88)図32回目手術の術中写真a:被膜が観察される.Cb:多量の膿を排出した.Cc:大きい結石が見える.Cd:厚い被膜断面..の部分を切除し,病理検査を行った.図42回目手術翌日の前眼部写真a:涙小管炎は消失した.b:涙点の発赤・腫脹および膿の排出も消失した.出や掻把でも治癒可能である疾患である5).しかし,今回は涙小管鼻側切開を行ったほかに,皮膚切開の手術を要した.今回の症例は,涙点からの膿の排出や涙点周囲発赤,腫瘤を圧迫すると膿の排出があり,涙小管炎の診断は容易であった1.5).触診では結石そのものは触れず,膿などで満たされていると考えた.涙小管鼻側切開を行えば大量に膿と結石が排出されて治癒できると考えた.涙道造影CCTは当院では施設がなく,MRIは近くの公立病院で可能だったが予約時間が長く,現実的でなく断念した.涙道内視鏡検査は炎症悪化の可能性もあり行わなかったがやってみてもよかったと反省している.また,Bモード超音波検査で腫瘤内を調べれば,さらに治療に役立つ情報が得られた可能性もあった.初回手術後に結石は石様のものを触れるように変化した.周囲の膿などの液性の物質が出たため,膿の中心部に浮かんでいた大きな涙小管結石が触れるように変化したものと考えた.涙小管結石の病理検査では放線菌が確認され以前の報告と同様だった6).涙小管内にできた結石が,強い炎症や長い経(89)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C1247過のため涙小管を破り憩室を作り7),その憩室の壁も破り皮下に飛び出し,周囲組織が線維化したものと考えられた.結石を圧迫すると,残った交通路を経由して涙点より膿が出てきたものと考えられた.涙小管結石の治療は,涙点鼻側切開による菌石の完全除去が原則である1.5).しかし,今回のように涙点切開では治癒に至らなかった症例の報告もある8).皮膚切開を行い治癒した症例報告は少なく,珍しい症例と考えた7,9,10).廣瀬の文献に,「まれに巨大な霰粒腫様の腫瘤があり,治療で皮膚側から横切開皮膚切開すると多量の菌石が確認される」とある2).手術治療を行ったあと涙小管炎・涙小管結石が判明したという報告もあり10),涙小管および涙小管近傍の腫瘤の治療について再考されられた.涙小管近傍の大きい涙小管結石が予想される涙小管炎の場合は,涙点鼻側切開による治療のほかに,腫瘤部分の皮膚切開の可能性を考慮し手術に臨む必要があると考えられる.文献1)岡島行伸:眼感染症レビュー涙.炎・涙小管炎.OCU-図5病理検査の結果a,b:涙小管結石の病理検査(a:HE染色,b:Grocott染色)..部分に放線菌が確認される.Cc:結石周囲の組織(HE染色).上部が結石側で,強い出血と炎症が認められる.下部は皮膚側で,線維化した結合組織が観察される.barは,Ca:50Cμm,Cb:100μm,Cc:200Cμm.倍率はそれぞれC10C×40倍,10C×20倍,10C×10倍.CLISTAC72:66-71,C2019002)廣瀬浩士:エキスパートに学ぶ眼科手術の質問箱涙小管炎の診断と治療方針について教えてください.眼科手術C34:106-107,C20213)鶴丸修士:涙小管疾患の治療-涙小管再建できる場合.COCULISTAC35:30-36,C20164)AnandCS,CHollingworthCK,CKumarCVCetal:Canaliculitis:CtheCincidentCofClong-termCepiphoraCfollowingCcanaliculoto-my.OrbitC23:19-26,C20045)後藤聡:感染性涙道疾患の臨床.日本の眼科C89:25-29,C20186)久保勝文,櫻庭知己,板橋智映子:涙小管炎病因精査での涙小管結石の病理検査の有用性.眼科手術C21:399-402,C20087)水戸毅,児玉俊夫,大橋裕一:憩室を形成した涙小管放線菌症のC1例.眼紀56:349-354,C20058)SerinCD,CKarabayCO,CAlagozCGCetal:MisdiagnosisCinCchroniccanaliculitis.OphthalPlastReconstrSurgC23:255-256,C20079)北山瑞恵,大島浩一:大きな涙小管結石の手術療法.臨眼C60:1313-1316,C200610)小嶌洋和,藤村貴志,松本美千代:霰粒腫の涙小管炎への波及として治療した涙小管炎の一例.眼臨紀C12:650-650,C2019C***1248あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(90)