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全周に及ぶ毛様体色素上皮断裂と網膜剝離を伴った鈍的眼外傷の1例

2011年8月31日 水曜日

1206(14あ6)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(8):1206?1208,2011cはじめに鈍的外傷を契機として,毛様体裂孔や毛様体?離が起こることが知られている1~3).これまで報告された外傷性毛様体?離例はいずれも毛様体無色素上皮?離であり,検眼鏡所見4)や超音波生体顕微鏡(UBM)所見5)に基づいて診断がなされている.今回,外傷後に毛様体色素上皮?離と網膜?離を伴った症例を経験したので報告する.診断は病理組織所見に基づいて行われた.本症例では硝子体基底部にかかる牽引によって毛様体色素上皮が,結合組織層と血管毛様体筋などが存在する毛様体実質からほぼ全周にわたってリング状にはずれ,硝子体腔内に浮遊していた.毛様体色素上皮?離はまれであり,眼外傷による毛様体障害の機序解明の一助になると考え報告する.I症例呈示患者:17歳,男児.主訴:左眼の視力低下.既往歴:小学生までアトピー性皮膚炎の治療を受けていた〔別刷請求先〕神大介:〒010-8543秋田市広面字蓮沼44-2秋田大学大学院医学系研究科病態制御医学系眼科学講座Reprintrequests:DaisukeJin,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaGraduateUniversitySchoolofMedicine,44-2HiroomoteazaHasunuma,Akita010-8543,JAPAN全周に及ぶ毛様体色素上皮断裂と網膜?離を伴った鈍的眼外傷の1例神大介藤原聡之石川誠高関早苗吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科病態制御医学系眼科学講座ACaseofCiliaryEpitheliumDetachmentinRhegmatogenousRetinalDetachmentAssociatedwithBluntEyeInjuryDaisukeJin,ToshiyukiFujiwara,MakotoIshikawa,SanaeTakasekiandTakeshiYoshitomiDepartmentofOphthalmology,AkitaGraduateUniversitySchoolofMedicine症例:17歳,男児.相撲の練習中,張り手が左眼に当たった直後から左眼の視力低下を自覚.左眼に水晶体混濁と硝子体混濁,および全周に及ぶ毛様体上皮断裂と網膜?離を認めたため,水晶体超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,硝子体切除術,輪状締結術を施行し復位を得た.術中,全周の毛様体上皮がリング状に外れ,硝子体腔内に浮遊しているのを確認した.病理組織検査で,?離した毛様体上皮は無色素上皮と色素上皮の2層構造から成ることが明らかになった.結論:鈍的眼外傷後の毛様体色素上皮?離はまれであり,硝子体基底部にかかる強い牽引が成因に関与していると考えられる.Casereport:Wereportacaseoftraumaticretinaldetachmentaccompaniedbyalargebreakintheparsplana.Thelefteyeofa17-year-oldmalewasstruckduringsumowrestlingpractice,andsufferedsuddenvisualacuityloss.Anteriorsubcapsularcataract,vitreousopacity,andretinaldetachmentwereobservedintheeye.Inthevitreouscavity,wefoundacircumferentialstring-likestructurefloatingalongtheoraserrata.Histologicalexaminationrevealedthatitwasderivedfromthedetachedciliaryepitheliumandcomprisednon-pigmentedandpigmentedepithelium.Surgerieswithscleralbucklingprocedurecombinedwithcataractsurgeryandvitrectomybroughtaboutreattachmentoftheretina.Conclusions:Thiscaseindicatesthatcontractionofthevitreousbasemightbeanindicationofciliarypigmentedepitheliumdetachment,whichcouldleadtorhegmatogenousretinaldetachment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1206?1208,2011〕Keywords:鈍的眼外傷,毛様体上皮?離,外傷性網膜?離,病理組織検査.blunteyeinjury,detachmentofciliarypigmentedepithelium,traumaticretinaldetachment,pathologicalexamination.(147)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111207が,現在は無治療でコントロールされている.現病歴:相撲の練習中に張り手が左眼に当たった直後から左眼の視力低下を自覚.近医受診し左眼網膜?離の診断で,平成21年5月28日,秋田大学医学部附属病院眼科に紹介となった.初診時眼所見:右眼視力0.6(1.2×?0.75D),左眼視力0.3(0.5×?0.75D(cyl?0.5DAx10°).眼圧は右眼23mmHg,左眼17mmHg.両眼ともに角膜は透明で,前眼内に炎症などはみられなかった.左眼の水晶体は前?下白内障を認めたが,水晶体偏位はみられなかった.眼底には硝子体混濁と上方と鼻下側の網膜?離を認めた(図1).右眼は中間透光体,眼底に異常は認めなかった.臨床経過:入院時,後?下白内障が進行し,左眼視力矯正(0.3×?0.75D(cyl?0.5DAx180°)と低下した.左眼白内障による視力低下と眼底視認性の低下があり,患者本人と両親の同意を得たうえで,平成21年6月9日,全身麻酔下にて左眼の水晶体超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術および20ゲージ硝子体切除術,輪状締結術を施行した.水晶体超音波乳化吸引術ならびに眼内レンズ挿入術を施行後,左眼眼底に11時から12時,7時から8時にかけての2カ所の鋸状縁裂孔と,それ以外のほぼ全周にわたる毛様体扁平部断裂を認めた.10時から12時の範囲の周辺部に網膜?離を認めた.また,有色素性のリング状構造が,水晶体後?の後面付近に浮遊しているのを確認した(図2).硝子体基底部は,網膜最周辺部および毛様体表面から全周で?離していた.リング状構造は,?離した硝子体基底部と接着していた.リング状構造周囲の硝子体を切除し遊離させた後,硝子体鑷子にてこれを把持しポートから採取した.採取した組織は綿棒先端に付着させ,ホルマリン固定を行った.視神経乳頭上で後部硝子体?離を確認し,可能な限り硝子体を切除した.全周の毛様体断裂を冷凍凝固後,輪状締結術(#240シリコーンバンド),液-ガス置換を施行し,30%SF6(六フッ化硫黄)ガスを注入して終了した.病理組織所見:リング状の組織は毛様体色素上皮が毛様体実質から?離したものであり,毛様体無色素上皮と毛様体色素上皮の2層で構成されていた(図3).毛様体色素上皮の硝子体腔面には,硝子体線維の付着が認められた.術後経過:左眼に網膜?離の再発はなく,左眼視力は0.1(0.9×?2.0D(cyl?2.25DAx180°)であった.UBMを用いて隅角を検査したが,毛様体解離は認めなかった.II考按毛様体上皮細胞は神経外胚葉に由来し,無色素上皮と色素上皮の2層で構成されている.毛様体無色素上皮は感覚網膜鋸状縁裂孔毛様体上皮と浮遊する硝子体毛様体扁平部断裂図1初診時眼底所見11時から12時,7時から8時にかけての鋸状縁裂孔と,それ以外のほぼ全周にわたる毛様体扁平部断裂を認めた.10時から12時の範囲の周辺部に網膜?離を認めた.網膜?離は有色素性リング状構造が水晶体後?の後面付近に浮遊していた.リング状構造は,?離した硝子体基底部と接着していた.図2硝子体手術中の顕微鏡写真リング状組織が,後?後面に浮遊していた.←硝子体側←無色素上皮←色素上皮図3リング状組織のHE染色パラフィン切片の光顕写真リング状の組織は毛様体無色素上皮と毛様体色素上皮の2層で構成されていた.毛様体無色素上皮の硝子体腔面には,硝子体線維が付着していた.1208あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(148)に,色素上皮は網膜色素上皮に移行する.両者の細胞頂部は互いに向き合い,豊富な細胞間結合装置によって接合されている6).本症例では無色素上皮と色素上皮間の接合は維持され,毛様体色素上皮が毛様体実質から?離していた.毛様体無色素上皮の硝子体腔面には,硝子体線維の付着が認められたことから,その成因には硝子体の牽引が関与していると考えられた.鈍的外傷を契機として発生する毛様体?離の多くは毛様体無色素上皮?離であり,毛様体色素上皮?離の報告はまれである4,5).アトピー性皮膚炎患者でみられる毛様体?離もまた毛様体無色素上皮?離7)であり,成因として毛様体色素上皮の脆弱性,および無色素上皮・色素上皮間の接着性の低下が考えられる8).本症例ではアトピー性皮膚炎の既往はあるが,現在は無治療でコントロールされている.アトピー性皮膚炎に特徴的な毛様体無色素上皮?離はみられず,アトピー性皮膚炎の関与は少ないと考えられた.III結論鈍的外傷後に水晶体後面にリング状組織がみられた.病理組織学的検査を行ったところ毛様体無色素上皮と毛様体上皮の2層で構成されていた.毛様体色素上皮?離はまれであり,その機序として硝子体基底部による強い牽引が考えられた.文献1)CoxMS,SchepensCL,FreemanHM:Retinaldetachmentduetoocularcontusion.ArchOphthalmol76:678-685,19662)LongJC,DanielsonRW:Traumaticdetachmentofretinaandofparsciliarisretinae.AmJOphthalmol36:515-516,19533)IijimaY,WagaiK,MatsuuraYetal:Retinaldetachmentwithbreaksintheparsplicataoftheciliarybody.AmJOphthalmol108:349-355,19894)AlappattJJ,HutchinsRK:Retinaldetachmentsduetotraumatictearsintheparsplanaciliaris.Retina18:506-509,19985)TanakaS,TakeuchiA,IdetaH:Ultrasoundbiomicroscopyfordetectionofbreaksanddetachmentoftheciliaryepithelium.AmJOphthalmol128:466-471,19996)大熊正人,沖波聡,塚原勇:Freeze-Fracture法による人眼毛様体上皮のTightJunctionとGapJunction.日眼会誌80:1593-1597,19767)八木橋朋之,岩崎拓也,中田安彦ほか:アトピー性皮膚炎に発症した毛様体突起部無色素上皮?離の検討.臨眼54:1062-1066,20008)小田仁,桂弘:アトピー性皮膚炎患者に伴う毛様体皺襞部裂孔の5例.臨眼48:1533-1537,1994***

成人発症の膠様滴状角膜ジストロフィの2症例

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(83)3610910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):361365,2010cはじめに膠様滴状角膜ジストロフィ(gelatinousdrop-likecornealdystrophy:GDLD)は,角膜上皮下混濁と膠状隆起物を認め,羞明・異物感を伴った視力低下を生じる疾患である.通常は10歳前より発症する症例がおもであるが,ときに成人で発症し診断に至るまで時間を要する例も経験する.今回成人発症例を2例経験したので報告する.I症例〔症例1〕39歳,男性.現病歴:2007年頃から右眼霧視を自覚し,さらに2008年初めごろより異物感が出現したため,同年6月18日に両眼視力低下を主訴として東京歯科大学市川総合病院(以下,当院)紹介受診となった.既往歴に特記事項はなく,2007年以前には眼症状はなかった.家族歴として,過去に母,姉がGDLDと診断されている.〔別刷請求先〕織地宣嘉:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科Reprintrequests:NobuhiroOrichi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital,5-11-13Sugano,Ichikawa-shi,Chiba272-8513,JAPAN成人発症の膠様滴状角膜ジストロフィの2症例織地宣嘉*1山本祐介*1田聖花*1辻川元一*2田中陽一*3島潤*1*1東京歯科大学市川総合病院眼科*2大阪大学大学院医学系研究科臓器制御医学専攻感覚器外科学講座*3東京歯科大学市川総合病院臨床検査科TwoCasesofAdult-OnsetGelatinousDrop-LikeCornealDystrophyNobuhiroOrichi1),YusukeYamamoto1),SeikaDen1),MotokazuTsujikawa2),YohichiTanaka3)andJunShimazaki1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityMedicalSchool,3)DepartmentofClinicalLaboratory,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital成人発症の膠様滴状角膜ジストロフィ(GDLD)2例を経験したので報告する.症例1:39歳,男性.2007年より右眼霧視と異物感が出現し,東京歯科大学市川総合病院(以下,当院)紹介受診.家族歴:母,姉GDLD.初診時視力は右眼(0.5),左眼(0.6).両上皮下混濁を伴った角膜中央部の灰白色隆起物を認めた.症例2:26歳,男性.2007年より左眼霧視と異物感が出現し当院紹介受診.家族歴:特になし.初診時視力は右眼(1.0),左眼(0.2p).左眼角膜鼻側中央に多数のドーム状隆起があり,右眼にも淡い上皮下混濁を認めた.症例1は右眼,症例2は左眼に,各々角膜表層切除術を施行し,病理学的に角膜実質内のアミロイド沈着を認めた.症例2では遺伝子検査の結果,Q118X変異を認めた.GDLDは多彩な角膜所見を呈し,特に成人発症の場合は他疾患との鑑別が問題となり,病理組織検査,遺伝子解析が診断に有用である.Purpose:Toreporttwocasesofadult-onsetgelatinousdrop-likecornealdystrophy(GDLD).Cases:Case1,a39-year-oldmale,presentedwithphotophobiainhisrighteye.HismotherandsisterhadbeendiagnosedwithGDLD.Visualacuitywas0.5and0.6inhisrightandlefteye,respectively.Dome-likelesionswerenotedinthecentralcorneas.Case2,a26-year-oldmale,wasreferredtouswithforeignbodysensationinhislefteye.Hehadnofamilyhistory.Visualacuitywas1.0inhisrighteyeand0.2inhisleft.Multipledome-shapedmasseswereseenintheleftcornea;subepithelialhazewasnotedintherighteye.Findings:Lamellarkeratectomywasperformedinbothcases;histopathologyrevealedamyloiddepositioninthecornealstroma.GeneticanalysisrevealedQ118XmutationinCase2.Conclusion:Adult-onsetGDLDisvariableinclinicalappearance.Histopathologyandmolecu-largeneticanalysisareusefulfordiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):361365,2010〕Keywords:膠様滴状角膜ジストロフィ,遺伝子解析,病理組織検査.gelatinousdrop-likecornealdystrophy,geneanalysis,pathologicalexamination.———————————————————————-Page2362あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(84)初診時所見:矯正視力は右眼0.5(矯正不能),左眼0.5(0.6×cyl1.00DAx180°).眼圧は右眼14mmHg,左眼16mmHg,角膜内皮細胞密度は右眼3,174/mm2,左眼2,777/mm2とともに正常範囲内であった.前眼部所見において,両眼角膜中央部に半球状の隆起と上皮下混濁を認めた(図1).フルオレセインでは染色を認めず上皮は欠損していなかったが,角膜中央部上皮に表面不整を認めた(図1).その他,結膜,中間透光体,および眼底に異常所見は認めなかった.経過:2008年7月7日,視力改善と確定診断目的で,隆図1症例1の初診時前眼部所見左上下:右眼,右上下:左眼.上:両眼角膜中央部に半球状の隆起と上皮下混濁を認める.下:フルオレセイン染色.両眼角膜中央部上皮の表面不整を認める.図2症例1の病理組織検査左:ヘマトキシリン-エオシン染色,×20.アミロイド沈着は明らかでない.右:Congored染色,×20.Congored陽性のアミロイド沈着(矢印)を認める.図3症例1の術後2週間の右眼前眼部所見左:隆起物は切除されている.右:上皮欠損は認めない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010363(85)起性病変を認める右眼中央部に対して角膜表層切除術を施行し,病理組織検査を行った.病理組織検査の結果,ヘマトキシリン-エオシン染色では明確ではなかったが,Congored染色では角膜上皮下にCongored陽性のアミロイド沈着を認めた.偏光顕微鏡では緑色の偏光が確認されアミロイド沈着と診断した(図2).術後2週間の前眼部所見(図3)では,初診時の隆起性病変は切除され上皮欠損は認められなかった.術後から治療用ソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用開始し,切除後11カ月間再発を認めていない.術後視力はVD=0.3(0.7×+4.00D)と改善した.〔症例2〕26歳,男性.2007年5月から左眼の霧視と異物感が出現し,同年11月7日左眼視力低下を主訴に当院紹介受診.家族歴・既往歴に特記事項はなく,2007年4月の健診時には視力障害は認められていなかった.初診時所見:矯正視力は右眼1.0(矯正不能),左眼0.2p(矯正不能).眼圧は右眼12mmHg,左眼13mmHg,角膜内皮細胞密度は右眼2,061/mm2,左眼2,915/mm2であった.前眼部所見において,右眼に淡い角膜上皮下混濁を認め,左眼には角膜鼻側から中央にかけて多数のドーム状隆起と血管侵入を認めた(図4).その他,結膜,中間透光体,眼底には異常を認めなかった.経過:2008年1月10日,視力改善と確定診断目的で,左眼のドーム状隆起性病変を認める角膜中央から鼻側にかけて角膜表層切除術を施行し,病理組織検査を行った.病理組織検査の結果,ヘマトキシリン-エオシン染色では上皮下組織に好酸性の不均一な物質を認め,アミロイド沈着が疑われた.同部位はCongored染色陽性であり,偏光顕微鏡所見で緑色の偏光が確認され(図5),アミロイド沈着と診断した.また,文書による同意を得て,血液検査による遺伝子解析を行ったところ,Q118Xの変異を認めた(図6).術後1カ月の前眼部所見(図7)では,右眼は初診時に比べ上皮下混濁が増加し,左眼は隆起物が切除され,わずかに上皮下混濁を認めた.同時期の視力は右眼0.9,左眼0.5であった.さらに術後約4カ月の前眼部所見では,右眼角膜上皮のわずかな凹凸を認めたが,左眼には認めず上皮下混濁を残すのみとなっていた.視力は右眼0.8,左眼0.9と左眼視力は改善した.術後,異物感を理由に治療用SCL装用ができなかったが,この頃より開始し,切除後18カ月まで再発を認めていない.II考按GDLDはアミロイド沈着を特徴とする重篤な角膜変性症であり,諸外国ではきわめてまれな疾患で,おもに日本にお図4症例2の初診時前眼部所見左:右眼.淡い上皮下混濁を認める.右:左眼.角膜鼻側から中央に多数のドーム状隆起と血管侵入を認める.図5症例2の病理組織検査左:ヘマトキシリン-エオシン染色,×20.上皮下組織に好酸性の不均一な物質(矢印)を認める.中:Congored染色,×20.上皮下組織にCongored陽性のアミロイド沈着(矢印)を認める.右:Congored染色,×20.偏光フィルター使用.偏光顕微鏡にてアミロイド沈着による緑色偏光が確認される.———————————————————————-Page4364あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(86)いて多くみられ,その頻度は日本人口の30万人に1人とされている14).日本におけるGDLDの報告の約70%は家族性発症であり,そのうち40%に血族婚が背景にあったと報告されている.常染色体劣性の遺伝形式をとり,おもに両眼性,対称性に発生する.病初期には角膜中央に黄白色の上皮下混濁が出現する.進行に伴い,さらに角膜表面全体にドーム状の膠状隆起物および血管侵入がみられるようになり,角膜透過性が著しく低下する5,6).10歳前までに発症する場合がほとんどで,徐々に進行する視力低下に加え,異物感,霧視,羞明などの症状が出現する.実際にはGDLDのなかには上記のような典型的臨床所見だけではなく,多彩な角膜所見を呈することがあり,井出らは①bandkeratopathytype,②stromalopacitytype,③kumquat-liketype,④typicalmulberrytype,と4種の臨床所見に基づくGDLDの分類を報告している7).また,近年クロモソーム1上のM1S1遺伝子がGDLDの原因遺伝子であることが特定された8).M1S1の変異はQ118X(82.5%で最多),623delA,Q207X,S170Xの4typeが報告されている.しかしながら,M1S1蛋白が実際に角膜にどのような影響を与えているのかはまだ明らかではない.今回の報告における症例1,2とも成人発症であり,比較的視力低下の進行も速く,症例2では片眼性に進行した臨床所見を認めた.成人発症であっても,幼少時から病変が多少存在し,2030歳代になって悪化,自覚症状が出現した可能性も考慮しなければならない.今回,非典型的な成人発症のGDLDの2例を経験し,症例2では診断に苦慮したが,病理組織でアミロイド沈着を確認し,遺伝子解析によりQ118Xの変異を認めたことにより,GDLDの診断に至ることができた.GDLDは多彩な角膜所見を呈するため,特に成人発症の場合には,フリクテンなどの他疾患との鑑別が問題となる.劣性遺伝であるために家族歴をもたない症例もあり,GDLDの診断には病理組織検査,遺伝子解析が有用であると考えられる.図7症例2の術後約4カ月の前眼部所見左:右眼.わずかに凹凸を認める.右:左眼.凹凸は認めず上皮下混濁を残すのみ.図6症例2の遺伝子解析結果Q118Xの変異を認める.?????変異部TACSTD2(1>2080)denc-3F/EO4_10.ob1(1>289)Denc1-F_A02_02.ob1(97>379)den1-3R_B04_04.ob1(1>349)den2-3R_D04_08.ob1(1>442)denc-3R_F04_12.ob1(1>430)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010365(87)文献1)AkiyaS,FurukawaH,SakamotoHetal:Histopathologicandimmunohistochemicalndingsingelatinousdrop-likecornealdystrophy.OphthalmicRes22:371-376,19902)KanaiA,KaufmanHE,SakamotoH:Electronmicroscopicstudiesofprimaryband-shapedkeratopathyandgelati-nousdrop-likecornealdystrophyintwobrothers.AnnOphthalmol14:535-539,19823)NakaizumiGA:Ararecaseofcornealdystrophy.ActaSocOphthalmolJpn18:949-950,19144)SantoRM,YamaguchiT,KanaiAetal:Clinicalandhis-topathologicfeaturesofcornealdystrophiesinJapan.Oph-thalmology102:557-567,19955)LiS,EdwardDP,RatnakarKSetal:Clinicohistopatho-logicalndingsofgelatinousdrop-likecornealdystrophyamongAsians.Cornea15:355-362,19966)ShimazakiJ,HidaT,InoueMetal:Long-termfollow-upofpatientswithfamilialsubepithelialamyloidosisofthecornea.Ophthalmology102:139-144,19957)IdeT,NishidaK,MaedaNetal:ASpectrumofclinicalmanifestationsofgelatinousdrop-likecornealdystrophyinJapan.AmJOphthalmol137:1081-1084,20048)TsujikawaM,KurahashiH,TanakaTetal:Identicationofthegeneresponsibleforgelatinousdrop-likecornealdystrophy.NetGenet21:420-423,1999***