0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)113《第15回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(1):113.117,2011c〔別刷請求先〕中泉知子:〒153-8934東京都目黒区中目黒2-3-8東京共済病院眼科Reprintrequests:TomokoNakaizumi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoKyosaiHospital,2-3-8Nakameguro,Meguro-ku,Tokyo153-8934,JAPAN患者の意識改革を目指す糖尿病教育の方向性について─患者アンケート調査から─中泉知子*1善本三和子*2加藤聡*3*1東京共済病院眼科*2東京逓信病院眼科*3東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学DirectionofDiabetesMellitusEducationIntendedtoChangePatientAttitudes:BasedonPatientSurveyTomokoNakaizumi1),MiwakoYoshimoto2)andSatoshiKato3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoKyosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TokyoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:内科主導の糖尿病教室において,糖尿病患者教育に必要なことをアンケート調査にて調べた.対象および方法:三郷中央総合病院通院中の糖尿病(DM)患者のうち,DM教室出席者185名(教室群)と,眼科外来受診患者170名(外来群)を対象に,病識に関するアンケート調査(計25項目)を筆記にて行った.結果:教室群では外来群に比較して年齢が若く,DM罹病期間が短いものが多かった.DM発見契機は,両群ともDM以外の疾患の発見を契機にDMが発見された患者が半数以上を占め,最も多かった.教室群患者のDM内科以外の他科受診状況では,循環器内科を受診している患者が全体の44%を占めていた.教室群では,自分の血糖コントロール状態や,食事への配慮などDMに関する病識が乏しく,眼合併症に関する認知度も低かった.さらに,教室群の67%が眼科未受診で,そのうち18%が眼科的自覚症状(+)でも未受診であった.患者の疾病に対する意識としては,DM治療に対して,教室群のほうが積極的な関わりをもちたいと考える者が多かった.結論:教室群患者は,DMに対して危機感をもち積極的に関わろうとしているにもかかわらず,通常の入院および通院治療における関与だけでは,教育が不十分であることがわかった.合併症予防のためには,より密接な連携に基づく教育システムの構築が必要であると考えられた.Aquestionnairesurveyexaminedthenecessarycomponentsofdiabetesmellitus(DM)patienteducationwithregardtoacourseonDM.OfDMpatientswhowerevisitingMisatoCentralGeneralHospital,surveysubjectscomprised185attendeesofaDMcourse(course-attendinggroup)and170outpatientsseenbyOphthalmology(outpatientgroup).Subjectscompletedaquestionnairesurveyregardingdiseaseawareness(totalof25items).Thecourse-attendinggroupwasoftenyoungerandhadsufferedfromDMforashorterperiodoftime.RegardingtheimpetusforDM’sdetection,inmostpatientsinbothgroupstheirDMwasfoundbecauseaconditionotherthanDMhadbeendetected.OftheDMcourse-attendingpatientswhowereseenbyadepartmentotherthantheDepartmentofDiabeticMedicine,44%wereseenbyCardiovascularMedicine.Thecourse-attendinggrouphadlimitedawarenessofdealingwithDMintermsofsuchaspectsasbloodglucosecontrolanddietaryconsiderations,andhadlittleawarenessoftheocularcomplicationsassociatedwithDM.Moreover,67%ofthecourse-attendinggrouphadnotbeenseenbyOphthalmology.Ofthese,18%hadnotbeenseenbythatdepartmentdespitehavingsubjectiveophthalmicsymptoms(+).Asasignofpatients’awarenessoftheirillness,manyinthecourse-attendinggroupwishedtoplayanactiveroleintheirownDMtherapy.DespitetheiralarmathavingDM,andtheirdesiretobeactivelyinvolvedinitstreatment,patientsinthecourse-attendinggroupwerefoundtohavereceivedinadequateeducationthroughregularadmissionsandoutpatientcarealone.Sucheducationmustbebasedonclosertiesbetweendepartments,inordertoavoidcomplicationsassociatedwithDM.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):113.117,2011〕Keywords:糖尿病教室,アンケート調査,病識.diabetesmellituscourse,questionnairesurvey,diseaseawareness.114あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(114)はじめに近年,糖尿病(diabetesmellitus:DM)患者における大血管障害の重要性が論じられている1~3).それには,循環器疾患を契機とする眼科受診患者に多くの糖尿病内科未受診患者が含まれていること2)や,増殖糖尿病網膜症患者のなかに無症候性心筋虚血患者が多く存在することなどがある3,4).そこで今回循環器救急患者,なかでも虚血性心疾患患者を多く受け入れている地域循環器疾患中核病院である三郷中央総合病院において,糖尿病患者教育に何が必要であるのかを知ることを目的として,内科主導の糖尿病教室受講患者と眼科外来通院患者に対して,患者背景,糖尿病についての基礎知識などの患者アンケート調査を行ったので,その結果を報告する.I対象および方法三郷中央総合病院の通院患者のなかで自主的に内科主催の糖尿病教室に参加した患者185名(以下,教室群),眼科外来に糖尿病および糖尿病網膜症の診断で通院している患者170名(以下,外来群)を対象とした.教室群,外来群ともに無記名でアンケート〔質問項目:25項目(表1)〕用紙に回答を依頼した.アンケート内容は,性別,年齢,罹病期間などの背景因子と,糖尿病についての理解・イメージ,内科および眼科治療に対する理解などである.なお,教室群は教室終了時に回答を依頼,その後回収し,外来群は眼科外来を受診した再診患者のうち,DMの診断が明らかな患者に対し,無作為に看護師から調査票を渡して回答を依頼し,診察時に回収した.なお,複数回受診の者は1回目を採用した.アンケート実施期間は平成19年11月から平成21年3月までとし,教室参加患者の特徴を知るためにアンケート質問項目のなかの19項目(表1の*印)について,回答結果を教室群と外来群とに分けて統計学的に検討を行った.検定方法はc2検定およびt検定を用いた.表1アンケート調査用紙アンケート調査の設問を内容別に3つのグループに分け,1~9を背景因子,10~22を病識,そして設問23および24は別枠として23については統計処理上①~④を危機感あり,⑤~⑧を危機感なしに分け,設問24については①~③を積極的回答,④~⑧を消極的回答に分けた.………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………*:統計的に検討を行った項目.(115)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011115II結果アンケートの回収率は教室群で63%,外来群で91%であった.アンケート調査結果を表2a~cに示した.1.対象の背景因子(表2a)教室群は外来群より年齢が若く,DM罹病期間も短い者が多かった.DM発見契機は両群ともDM以外の主訴での受診が半数を超えて最も多かった.教室群のなかで糖尿病内科以外の受診状況では,循環器・心臓血管外科受診,および循環器内科を含む複数科受診が最も多く(44%)(図1),当院の循環器救急病院という特徴から,虚血性心疾患などを発見契機とするDM患者が対象患者のなかに多く含まれていることが考えられた.表2a背景因子教室群(n=185)外来群(n=170)p値1.年齢(歳)60.6±9.863.9±8.30.01*2.性別(男性/女性)(人)88/73(不明24)82/880.24**3.DM罹病期間(年)8±4.413±6.5<0.01*4.DM治療内容(複数回答可)(人)食事・運動内服インスリン63242411479580.09**5.DM発見契機〔人(%)〕健診・ドックDM以外の主訴その他46(28)102(61)18(11)57(35)84(52)21(13)0.21**8.DM内科以外の他科受診〔人(%)〕あるない103(61)66(39)111(69)51(31)0.15**9.眼の自覚症状〔人(%)〕あるない41(43)54(57)86(53)76(47)0.1**(*はt検定,**はc2検定.斜体は有意差を認めた項目.)表2b病識教室群(n=185)外来群(n=170)p値10.他科受診図1に記載11.レーザー既往既治療未治療不明19(22)64(72)5(6)65(40)92(58)4(2)0.01**12.糖尿病眼手帳持っている持っていない8(9)82(91)53(32)111(68)0.00003**13.血糖値・HbA1C知っている知らない120(71)48(29)140(85)25(15)0.003**14.食事に…気をつけている気をつけていない144(85)26(15)157(94)10(6)0.006**15.DM合併症知っている知らない134(76)43(24)152(90)17(10)0.0005**16.糖尿病眼手帳知っている知らない17(18)77(82)69(42)96(58)0.00001**18.糖尿病網膜症知っている知らないわからない67(74)19(21)5(5)121(77)27(17)9(6)0.8**19.糖尿病網膜症(設問15で『知っている』の人)失明する失明しないわからない56(89)4(6)3(5)107(91)5(4)6(5)0.8**〔人(%)〕(**はc2検定.斜体は有意差を認めた項目.)116あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(116)2.教室群患者の眼科受診状況と病識(表2b)教室群患者のうちの67%が眼科未受診で,そのうち18%の患者は眼科的自覚症状があるにもかかわらず眼科未受診であった(図2).循環器・心臓血管外科を受診している教室群患者には,レーザー既治療者が多く(p=0.0008)(表3),糖尿病網膜症の重症度と虚血性心疾患などの大血管障害との関連が示唆された.一方,自分の血糖コントロール状態や,食事への配慮,DM合併症,糖尿病眼手帳の認知度などはいずれも外来群よりも低い者が多く,教育の必要性を痛感した(表2b,設問13~16).3.糖尿病との関わり方とイメージ(表2c)表1にあるアンケート質問項目の設問23および24のDMという病気のイメージ,およびDM治療に対する考え方を問うものについて設問23は①~④を危機感あり,⑤~⑧を危機感なしの2つに分け,設問24は①~③を積極的回答,④~⑧を消極的回答に分けて統計学的に検討した.教室群では外来群に比べてDMという病気に対し危機感をもち(p=0.01),積極的にDM治療に関与しようとする回答が多かった(p=0.04).図2眼科未受診者のなかの自覚症状の有無教室群の67.0%が眼科未受診で,そのうち自覚症状があるにもかかわらず眼科未受診者は18%であった.眼科受診者33%眼科未受診者67%自覚症状あり18%自覚症状なし36%不明46%循環器科44%脳外科10%眼科34%腎臓・透析0%整形外科6%その他3%耳鼻科2%皮膚科1%眼科のみ30%眼科+脳外科4%循環器のみ18%循環器+眼科17%循環器+脳外科2%循環器+脳外科+眼科5%循環器+透析+眼科1%循環器+脳内科1%図1教室群でのDM患者の内科以外の他科受診状況教室群では循環器内科を含む複数科受診が最も多かった.表2cDMとの関わり方とイメージ教室群(n=185)外来群(n=170)p値23.DMという病気のイメージ(複数回答可)(人)危機感あり怖い病気治療が難しい家族の協力が必要わかりにくい病気14683885913390102610.01**危機感なしそんなに怖くない簡単な病気なんとも思わないその他41071724624.DMに対して自分では(複数回答可)(人)積極的治したい家族の協力が必要病気を知りたい123403714058360.04**(p<0.05)消極的放置で治る治らなくても食べたい現状維持できれば通院で治るその他04197501138124(**はc2検定.斜体は有意差を認めた項目.)表3循環器・心臓血管外科受診の有無と背景因子教室群(n=185)循環器p値受診循環器未受診9.レーザー既往(人)既治療未治療不明794125510.0008**(p<0.01)(**はc2検定.斜体は有意差を認めた項目.)(117)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011117III考按今回の調査対象病院は地域の循環器中核病院であり,その特徴としては虚血性心疾患をはじめとする循環器救急患者を多く受け入れているため,重症の循環器疾患を抱えるDM患者が多いという点があげられる.このような背景をもつ患者に対するアンケート調査である本調査は,過去の報告5~8)と比べて以下のような特徴があると思われた.まず第一に,内科主導のDM教室受講患者は,年齢が若く,DM罹病期間が短い患者が多かったが,そのなかの半数近くを占める循環器・心臓血管外科受診者では,眼科レーザー既治療患者が多かったということである.これらの患者では,虚血性心疾患などの疾患が発見されるまでDM発見が遅れ,知りえた罹病期間よりも実際の罹病期間が長いために網膜症が重症である可能性が考えられた.つぎに,教室群患者では,眼科的自覚症状があるにもかかわらず眼科未受診者が多く,さらにDM合併症,糖尿病眼手帳などに対する認知度が低い者が多かった.これは,DM発見契機が他科疾患である場合,他疾患の治療が優先されるために,DM,DM合併症,特に眼合併症に対する知識が少ない可能性を示していると考えられた.DMはDM内科のみではなく,循環器内科,眼科,腎臓内科など複数の科にまたがる疾患であり,患者教育を担う担当科相互のDMに対する認識を共有し,院内の連携をスムーズに行い,かつ患者に対して十分な教育を行う必要があると考えられた.過去の報告のなかには,眼科医と内科医の間で網膜症の管理に対する認識の差を認めるもの9)もあり,DM教室がたとえ内科主導で行われていても,眼科医が積極的に介入していく必要性があると考えられた.三郷中央総合病院でのDM教室では,眼科医も参加して糖尿病眼合併症についての講義を担当していたが,教室受講患者や家族の態度からも,病気について学び理解し,積極的に病気にかかわろうという姿勢がみられた.このように前向きに病気と向き合い,積極的に治療にかかわろうとするときこそが,DMという病気や合併症を正しく知る最も良いチャンスであると思われた.地域循環器中核病院に通院するDM患者のなかには,虚血性心疾患などの他の疾患の受診を契機にDMが発見された患者が多く,それを契機にDMに対し危機感をもつ患者が多いことがわかった.しかし糖尿病網膜症を含むDM合併症に関する教育は十分とはいえない結果であり,DMが発見された段階から各科との院内連携により合併症検索,DM教室受講という一連の流れをチーム医療としてやり遂げていく必要があると思われた.今後は院内だけでなく院外での病診連携をさらに密にし,DM教室を早期に,そしてくり返し受講することにより,医療者側と患者・家族側がしっかりと向き合って病気に取り組み,DM合併症発症予防を目指すシステムを構築していくことが非常に重要であると考えられた.文献1)大野貴之,小野稔,本村昇ほか:糖尿病網膜症患者におけるCABGの生命予後改善効果.日心臓血管外会誌35(Supple):251,20062)OnoT,TakamotoS:Diabeticretinopathyasaguidefortreatmentstrategyincoronaryrevascularization:Fromtheperspectiveofcardiacsurgeons.JCardiol49:259-266,20073)木下修,大野貴之,益澤明広ほか:東大病院における糖尿病網膜症患者を対象とした冠動脈専門外来─糖尿病網膜症患者には無症状の重症冠動脈疾患が多数潜んでいる─.糖尿病51(Supple):S255,20084)木下修,大野貴之,益澤明広ほか:周術期危険因子としての糖尿病網膜症─糖尿病網膜症患者には無症状の重症冠動脈疾患が多数潜んでいる─.日外会誌110:353,20095)菅原岳史,金子能人:岩手糖尿病合併症研究会のトライアル2─糖尿病網膜症教室におけるアンケート結果─.眼紀55:197-201,20046)菊池美知代,沢野昌子,藤川美穂:糖尿病で治療を受けている患者の眼科の定期受診行動の実態調査─受診率に影響する要因とは─.日本看護学会論文集:成人看護II(38):317-319,20087)大野敦,旭暢照,佐藤知也ほか:糖尿病指摘時からの眼科フォロー状況についてのアンケート調査.眼紀47:1372-1375,19968)飯野矢住代,井上浩義:糖尿病診断後の網膜症治療状況の実態調査─糖尿病網膜症患者の受診行動に影響を及ぼす要因.日本糖尿病教育・看護学会誌11:150-156,20079)大野敦,植木彬夫,住友秀孝ほか:糖尿病網膜症の管理に関するアンケート調査─眼科医と内科医の調査結果の比較─.眼紀58:616-621,2007***