《原著》あたらしい眼科39(11):1561.1563,2022c点眼麻酔20秒後と5分後の涙管通水検査時の痛みの検討頓宮真紀*1加治優一*1松村望*2松本雄二郎*1*1松本眼科*2神奈川県立こども医療センター眼科CExaminationofPainDuringLacrimalDuctDrainageTestafter20Secondsand5MinutesofOphthalmicAnesthesiaMakiHayami1),YuichiKaji1),NozomiMatsumura2)andYujiroMatsumoto1)1)MatsumotoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenterC目的:涙道疾患の涙管通水検査は外来で行われる日常的検査であるが,繊細な検査でもあり,被検者の痛みに対する恐れや訴えも少なくない.本検討では,点眼麻酔後,涙管通水検査施行のタイミングによって,痛みが変わるかどうか検討した.対象および方法:対象はボランティアC19名(男性C3名,女性C16名)で,まず両眼にC0.4%オキシブプロカイン塩酸塩を点眼した.つぎに右側は点眼C20秒後に,左側は点眼C5分後にC2段針で涙管通水検査をそれぞれ行った.検査に伴う痛みの程度を視覚評価スケールを用いC0.100のレベルで評価した.その差をCWilcoxon符号付検定にて,統計学的に検討した.結果:麻酔C20秒後に通水検査を行った際の痛みの評価は最低値C0.最高値C50(中央値C7.5),麻酔C5分後に通水検査を行った際の痛みの評価は最低値C0.最高値C30(中央値0)であった.麻酔C5分後に通水検査を行ったほうが,有意に痛みが少なかった(p=0.0027).考按:涙管通水検査の際,点眼麻酔後のC20秒後よりも,5分後に通水検査を行った場合,検査に伴う痛みの程度が有意に少ない傾向にあった.点眼麻酔をしたのちC5分待って検査を行えば,麻酔の効果は高まると考えた.CPurpose:Toexaminewhetherthetimingofthelacrimalductdrainagetest,aroutineoutpatientexaminationforClacrimal-ductCdefects,CafterCophthalmicCanesthesiaCaltersCtheCamountCofCpainCexperiencedCbyCtheCpatient.CSub-jectsandMethods:Thisstudyinvolved19volunteersubjects(3malesand16females)whounderwentlacrimalductCdrainageCtestingCusingCaCtwo-stageCneedleCafterCinstillationCofCoxybuprocaineChydrochloride0.4%CophthalmicCsolutionanesthesia,i.e.,20secondspostinstillationontherightsideand5minutespostinstillationontheleftside,respectively.Thedegreeoftest-associatedpainexperiencedbyeachsubjectwasratedonavisualanaloguescalefrom0to100.Thedi.erenceswerethenstatisticallyexaminedwiththeWilcoxonsigned-ranktest.Results:Painratingsrangedfromaminimumof0toamaximumof50(median:7.5)forwaterdrainagetestsperformedat20secondsafteranesthesiaandfromaminimumof0toamaximumof30(median:0)forwaterdrainagetestsper-formedCatC5CminutesCafterCanesthesia.CTheCwaterCdrainageCtestCperformedCatC5CminutesCafterCanesthesiaCwassigni.cantlylesspainful(p=0.0027)C.CConclusion:Painassociatedwithlacrimaldrainageducttestingtendedtobesigni.cantlylesswhenthetestwasperformedat5minutesafterthanat20secondsafterophthalmicanesthesia,thussuggestingthattheanesthesiaismoree.ectiveifthetestisperformedataround5minutesaftertheanes-thesiaisadministered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(11):1561.1563,C2022〕Keywords:涙管通水検査,点眼麻酔,涙管通水検査タイミング,痛み.lacrimalirrigation,ocularanesthesia,tim-ingofthelacrimalductdrainagetest,pain.Cはじめに行の有無や回数などは,多くの施設で検査手技の施行者に任涙管通水検査は,周知のとおり,涙道外来においてもっとされているのが現状である.以前筆者らは,松下眼科(以下,も重要で簡便な検査手技の一つであり,ほとんどの眼科施設当院)で無麻酔下にて涙管通水検査を行っていた経験より,で行われている.しかし,その簡便さゆえに,点眼麻酔の施麻酔の有無による検査時の痛みの検討を行い,麻酔の有無に〔別刷請求先〕頓宮真紀:〒302-0014茨城県取手市中央町C2-25松本眼科Reprintrequests:MakiHayami,MatsumotoEyeClinic,2-25Chuocho,Toride,Ibaraki302-0014,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(121)C1561女性男性p=0.002760504040VAS302010020秒後5分後図1被検者ごとの麻酔後涙管通水検査時の痛みの評価点眼麻酔後の涙管通水検査のタイミングにより痛みの感じ方に差がみられた.VAS:visualanaloguescale.よる痛みの差に有意差はなく,必ずしも点眼麻酔は必要でないと報告した1).しかし,点眼麻酔の後に一定の時間をおいた場合,患者の痛みは減少する可能性もある.そこで,点眼麻酔後に涙管通水検査を施行するタイミングを変えた場合の,涙管通水検査に伴う患者の痛みの違いを検討した.CI対象および方法ボランティアC19名(男性C3名,女性C16名)を対象とした.検者はC1名であった.涙道疾患の既往はなく,すべての被検者は通水可能であった.まず両眼にC0.4%オキシブプロカイン塩酸塩を点眼した.つぎに,右側は点眼C20秒後に,左側は点眼C5分後に,2段針で涙管通水検査を行った.その後,被験者に検査に伴う痛みの程度を視覚評価スケール(visualCanaloguescale:VAS)を用いC0.100のレベルで評価した.その差をCWilcoxon符号付検定にて,統計学的に検討した.本検討は院内の倫理委員会の承認を得て行われた(倫理委員会番号:MAT2021-02).CII結果涙管通水検査に伴う痛みの程度を,点眼麻酔C20秒後とC5分後で評価してもらった結果を図1に示す.男女ともに点眼麻酔C5分後のほうが,明らかに痛みは弱かった.涙管通水時の痛みの程度の分布を図2に示す.点眼麻酔C20秒後とC5分後の涙管通水検査時の痛みの程度を比較すると,点眼麻酔後5分での痛みのほうが有意に低かった(p=0.0027).麻酔C20秒後の痛みの評価は,最低値C0.最高値C50,中央値C7.5であった.麻酔C5分後の痛みの評価は,最低値C0.最高値C30,中央値C30であった.CIII考按以上の結果より,点眼麻酔施行C20秒後より,5分後に涙50VAS3020100図2点眼麻酔20秒後と5分後の涙管通水検査時の痛みの評価点眼麻酔C20秒後より点眼麻酔C5分後のほうが痛みは低く,統計学的有意差があった(p=0.0027).VAS:visualanaloguescale.管通水検査を施行するほうが,より検査時の痛みを軽減できる可能性が示唆された.以前,筆者らは涙管通水検査における点眼麻酔の有無で,検査時の被検者の痛みに差があるかどうか検討した1).このときは,点眼麻酔後,時をおかずに検査を施行していたため,麻酔の有無で痛みの有意差は出なかった.しかし,正常眼の角膜と結膜をC18エリアに分けた知覚についての論文では,各部位によってかなりの差を認めたと報告されている2)そこで今回は,点眼麻酔の作用時間が点眼直後C16秒.約C18分と複数の論文で報告されていること3,4)を念頭に,右眼は点眼麻酔効果が始まった直後C20秒,左眼は点眼麻酔後C5分と間隔をあけ,差が出るかどうか,前回の筆者らの報告に追加すべき点がないかどうかを調べた.その結果,点眼麻酔後の涙管通水検査施行タイミングによって,被検者の感じる痛みに統計学的有意差が出た.これにより点眼麻酔の効果を十分に享受するには,点眼したあと検査するまでの時間にも留意するべきであると考えられた.前回の報告では,涙管通水検査を施行する際に点眼麻酔を施行したかどうかに注目したが,点眼麻酔後に涙管通水検査施行までどの程度待てば点眼麻酔が最大限効果を発揮するかに考えが至らなかった1).今回は,その麻酔作用時間に注目し,十分かつ有効な麻酔時間をC5分と仮定して検討した.その理由は,点眼薬剤が涙道全体に行き渡るのに,5分程度かかることが報告されているからである5).今後,通常の外来診療において涙管通水検査をする際は,必ずしも点眼麻酔を必要とはしないが,痛みに弱い,もしくは検査を怖がっている初めての患者などには,点眼麻酔をしてC5分待ってから検査を施行すれば,かなりの痛みを軽減することが可能と考える.点眼麻酔C20秒後よりC5分後のほうが,明らかに痛みが減った理由を考按し,以下の三つの説を考えた.1)麻酔の組織深達度が違うのではないか.2)点眼麻酔後C5分の場合は,20秒後5分後1562あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022(122)麻酔の効果が涙小管内組織の深部にも及び,涙小管内壁の痛覚自由神経終末枝6)や,圧受容器に麻酔がかかり,痛みが減少しているのではないか.3)麻酔直後では,麻酔の組織深達度が浅く,涙小管内壁の痛覚神経終末枝まで麻酔効果が浸透していない可能性がある.また,今後は涙道疾患を有する患者の涙管通水検査時の痛みについても検討して,涙道診療検査時の痛みのさらなる軽減に努力していきたい.文献1)頓宮真紀,加治優一,松村望ほか:点眼麻酔の有無による涙管通水検査時の痛みの検討.あたらしい眼科C38:203-1206,C20212)NornMS:ConjunctivalCsensitivityCinCnormalCeyes.CActaCOphthalmologicaC51:58-66,C19733)清水好恵,今村日利:外眼部手術の麻酔のコツ.眼科手術C31:579-584,C20184)金子吉彦:点眼麻酔薬ベノキシールとキシロカインの麻酔効果の比較.眼臨紀3:266-1267,C20105)HurwitzCJJ,CMaiseyCMN,CWelhamRAN:QuantitativeClac-rimalscintillography.BrJOphthalmolC59:308-312,C19756)BurtonH:SomaticCsensationsCfromCtheCeye.In:AdlerC’sCPhysiologyCofCtheEye(LevinCL,ed)C,Cp71-83,CSaunders,CPhiladelphia,2011C***(123)あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C1563