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久留米大学における若年者の緑内障に対する線維柱帯切開術の成績

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1765.1770,2017c久留米大学における若年者の緑内障に対する線維柱帯切開術の成績照屋健一*1山川良治*2*1出田眼科病院*2久留米大学医学部眼科学講座CResultsofTrabeculotomyforTreatmentofGlaucomainYoungPatientsatKurumeUniversityHospitalKenichiTeruya1)andRyojiYamakawa2)1)IdetaEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine20歳未満に発症した若年者の緑内障における線維柱帯切開術について検討した.初回手術に線維柱帯切開術を施行し,術後C6カ月以上経過観察できたC24例C39眼を対象とした.発症がC3歳未満の早発型発達緑内障C5例C9眼をCI群,3歳以降の遅発型発達緑内障C11例C18眼をCII群,隅角以外の眼異常を伴う緑内障とステロイド緑内障を合わせたC8例12眼をCIII群とした.各群の術前平均眼圧は,I群がC28.9C±11.2CmmHg,II群がC33.0C±10.1CmmHg,III群がC31.6C±7.4mmHgで,平均経過観察期間は,I群がC8.8C±1.6年,II群がC3.1C±1.8年,III群がC4.1C±2.6年であった.初回手術の成功率は,I群はC100%,II群はC72.2%,III群はC91.7%,全体ではC84.6%であった.39眼中C6眼(15.4%)に追加手術を施行した.若年者の緑内障において,線維柱帯切開術は有効と確認された.CWeCreviewedCtheCsurgicalCoutcomeCofCtrabeculotomyCforCglaucomaCinCyoungCpatientsCatCKurumeCUniversityCHospital.Subjectscomprised39eyesof24patientswithmorethan6months’follow-up,whohadundergonetra-beculotomyCasCtheCprimaryCsurgery.CWeCclassi.edCtheCpatientsCintoC3Cgroups:GroupCI,CdevelopmentalCglaucoma,included9eyesof5patientswithonsetwithin3yearsofage;GroupII,developmentalglaucoma,included18eyesof11patientswithonsetafter3yearsofage;GroupIII,glaucomaassociatedwithotherocularanomaliesandste-roidCglaucoma,CincludedC12CeyesCofC8Cpatients.CTheCaverageCintraocularCpressure(IOP)beforeC.rstCtrabeculotomyCwas28.9±11.2CmmHginGroupI,33.0±10.1CmmHginGroupIIand31.6±7.4CmmHginGroupIII.ThesuccessrateforCinitialCtrabeculotomyCwasC100%CinCGroupCI,C72.2%CinCGroupCII,C91.7%CinCGroupCIIICandC84.6%CinCtotal.CSixCeyes(15.4%)underwentadditionalsurgeries.Trabeculotomyiscom.rmedasusefulforglaucomainyoungpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1765.1770,C2017〕Keywords:若年者,発達緑内障,線維柱帯切開術,眼圧,手術成績.youngpatients,developmentalglaucoma,trabeculotomy,intraocularpressure,surgicale.ect.Cはじめに若年者の緑内障は,発達緑内障と続発緑内障がおもなものと考えられる.発達緑内障は隅角のみの形成異常による発達緑内障と隅角以外の先天異常を伴う発達緑内障に大別される.発達緑内障は先天的な隅角の発育異常により生じる房水流出障害が病因ゆえ,原則として外科的治療が主体になる1).また,小児の緑内障では各種検査が成人同様には行えないなどの側面から診断が遅れる場合も少なくない.さらに,角膜混濁や隅角発生異常,他の眼異常を伴うなど,手術の難度を高くする要素が多い.本疾患は早期の診断と早期手術が重要で,その成否が患児の将来を左右することはいうまでもない.若年者の緑内障の手術療法としては,濾過手術やCtubeshunt手術は術後管理がむずかしく,第一選択の術式として,術後管理が容易な線維柱帯切開術が行われている.今回,筆者らは久留米大学病院眼科(以下,当科)におけ〔別刷請求先〕照屋健一:〒860-0027熊本市中央区西唐人町C39出田眼科病院Reprintrequests:KenichiTeruya,M.D.,IdetaEyeHospital,39Nishitoujin-Machi,Chuo-ku,KumamotoCity860-0027,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(127)C1765る若年者の緑内障の初回手術としての線維柱帯切開術の成績を検討したので報告する.CI対象および方法対象は,20歳未満で発症した緑内障で,1999年C2月.2009年C12月に当科で初回手術として線維柱帯切開術を施行し,6カ月以上経過観察できたC24例C39眼(男性C15例C23眼,女性C9例C16眼)である.初診時平均年齢は,11.0C±8.2歳(1.9カ月.22.5歳)であった.病型の分類は,隅角のみの異常にとどまる発達緑内障のうち,Gorinの分類2)により,3歳未満発症の早発型をCI群,3歳以降発症の遅発型をCII群,隅角以外の眼異常を伴う発達緑内障と続発緑内障をCIII群とした.I群5例9眼,II群11例18眼,III群8例12眼であった.III群の内訳は,Sturge-Weber症候群C2例C2眼,Axen-feld-Rieger症候群C1例C1眼,無虹彩症C2例C4眼,ステロイド緑内障C3例C5眼であった.なお,II群のC3例C5眼は,初診時C20歳を超えていたが,問診や前医からの診療情報から発症はC20歳未満と推測され,さらに隅角所見が全C5眼とも高位付着を認めたため,遅発型発達緑内障と診断した.手術時の平均年齢は,I群でC0.8C±0.9(0.2.3.3)歳,II群でC19.8C±3.9(13.2.26.1)歳,III群でC10.4C±7.5(0.3.20.4)歳であった.術前の平均眼圧は,I群はC28.9C±11.2mmHg,II群はC33.0±10.1CmmHg,III群はC31.6C±7.4CmmHg,術後平均経過観察期間は,I群でC8.8C±1.6年,II群でC3.1C±1.8年,III群でC4.1±2.6年であった(表1).I群で受診の契機になったのはC5例中C4例が片眼の角膜混濁で,そのうちC2眼はCDescemet膜断裂(Haabs線)を認め,反対眼も含めてC9眼すべて角膜径は月齢の基準と比較して拡大していた(表2).他に角膜径の測定を行ったのは,II群の2眼,III群のCSturge-Weber症候群のC2眼であった.II群の2眼はC11.5Cmmで正常であったが,III群のC2眼は,それぞれC12.5CmmとC14Cmmで拡大を認めた.初回手術は熟練した同一術者により,全例に線維柱帯切開術を施行した.初回手術が奏効せず,反対眼は初回から線維柱帯切除術を行ったC1眼と術前すでに視機能がなく,初回から毛様体冷凍凝固術を行ったC1眼,そして初回の緑内障手術を他施設で行っていたC1眼は除外した.また,初回線維柱帯切開術の部位は,I群C9眼すべてとCII群のC1眼,III群のC3眼に対して上方から,他のC26眼は下方から行った.表1対象I群II群III群(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)手術時年齢(歳)C0.8±0.9C19.8±3.9C10.4±7.5術前眼圧(mmHg)C28.9±11.2C33.0±10.1C31.6±7.4術後経過観察期間(年)C8.8±1.6C3.1±1.8C4.1±2.61766あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017眼圧は,覚醒状態で測定できる場合は覚醒下にCGoldmann圧平式眼圧計にて測定し,覚醒状態での測定が無理な場合は,全身麻酔またはトリクロホスナトリウム(トリクロリール)と抱水クロラール(エスクレ)投与下で,入眠下にTono-penXLおよびCPerkins眼圧計にて測定した.両測定機器の眼圧値に大きな差がないことを確認し,また差があった場合は,角膜浮腫や角膜径の拡大の有無や視神経乳頭陥凹拡大の程度なども考慮して,おもにCPerkins眼圧計の測定値を採用した.眼圧の評価は,緑内障点眼薬の併用も含めて,覚醒時でC21CmmHg以下,入眠時でC15CmmHg以下を成功とし,2診察日以上連続してその基準値を上回ったとき,または,追加手術をした場合,その時点で不成功とした.手術の適応は,眼圧のほか,視神経乳頭陥凹の拡大の有無,角膜径の拡大の有無,可能な症例では視野の程度などを加味して決定した.初回手術の成功率,術前所見と初回線維柱帯切開術の手術成績,合併症,手術回数,最終成績について,後ろ向きに検討した.CII結果初回手術の成功率は,I群はC100%(9眼中C9眼),II群は72.2%(18眼中C13眼),III群はC91.7%(12眼中C11眼),全体では,84.6%であった(表3).I群のC9眼すべて,初回手術のみで,緑内障点眼薬なしで眼圧コントロールできた.II群では術後C6カ月でC3眼が追加手術となり,2眼は術後C3年で追加手術となった.III群は,生後C3カ月発症のCSturge-Weber症候群のC1眼が,初回手術のC6年後に追加手術となった.その結果,全C39眼の初回手術成績の累積生存率をKaplan-Meier法により生存分析したところ,初回手術後C6カ月累積生存率はC92.2%,3年後はC84.1%,6年後はC75.7%,10年累積生存率はC75.7%であった(図1).術前所見と初回線維柱帯切開術の手術成績について検討した(表4).発症が生後C3カ月未満の早期発症例はC5眼(I群1例C2眼とCIII群CSturge-Weber症候群のC1眼,無虹彩症のC1例C2眼)であったが,成功率はC5眼中C4眼(80%)で,3カ表2I群の術前プロフィール症例発症(月)症状角膜径(mm)Haabs線C1C6角膜混濁C13.0(+)C.無(僚眼)C12.5(.)C2C4角膜混濁C14.5(+)C3C6角膜混濁C13.5(.)C.無(僚眼)C13.5(.)C4C2睫毛内反C13.0(.)C2睫毛内反C12.5(.)C5C6角膜混濁C13.0(.)C.無(僚眼)C12.0(.)表3初回手術成功率(成功眼/眼数)100I群II群III群合計8075.7%(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)(n=39眼)100%72.2%91.7%84.6%60(9/9)(13/18)(11/12)(33/39)4020表4術前所見と初回手術成績0024681012成功数/眼数p値生存期間(年)累積生存率(%)発症3カ月未満C発症3カ月以上C4/529/34C0.588図1全症例の初回線維柱帯切開術の生存率眼圧C30CmmHg以上C眼圧C30CmmHg未満C0.47820/2313/16CFisher’sexactprobabilitytest.表6手術回数手術回数I群II群III群(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)表5初回線維柱帯切開術の合併症1回9C13112回C.31I群II群III群3回C.1C.(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)4回C.1C.Descemet膜.離C..1(8.3%)平均(群別)C1.0C1.4C1.1低眼圧C.2(11.1%)C.一過性高眼圧C.3(16.7%)C.合計(群別)0(0.0%)5(27.8%)1(8.3%)表7最終手術成績I群(n=9眼)II群(n=18眼)III群(n=12眼)手術回数(平均)術前眼圧(mmHg)C最終眼圧(mmHg)C最終成功眼数(成功率)1(1C.0)28.9±11.2Cp=0.03113.2±4.1C9(1C00%)1.4(1C.4)33.0±10.1Cp<C0.000117.6±3.3C15(C83.3%)1.2(1C.1)31.6±7.4p<C0.000114.3±2.112(1C00%)Paired-tCtest(p値<0.05)C月以降群のC34眼中C29眼(85.3%)に対して有意差はなかった.術前眼圧をC30CmmHgで分けてみて検討したが,統計学的有意差はなかった.角膜径に関しては,平均年齢が高いCII群とCIII群では,測定した眼数が各々C2眼ずつと少なく,統計学的に論じることは困難だが,角膜径がC12.5Cmm以上の10眼中C9眼(90%)が初回手術で眼圧コントロールされた.12.5mm以上群で追加手術が必要になったC1眼は角膜径12.5Cmmの早期発症例のCSturge-Weber症候群であった.初回線維柱帯切開術の合併症を表5に示す.II群のC2眼(11.1%)で脈絡膜.離を伴う低眼圧とC3眼(16.7%)に一過性眼圧上昇を認め,III群のC1眼(8.3%)にCDescemet膜.離を認めた.低眼圧をきたしたC2眼は術後C2週までに,眼圧上昇のC3眼はC2カ月までに正常化した.Descemet膜.離のC1眼は視機能に影響することなく経過した.手術回数を表6に示す.全症例眼数C39眼のうちC6眼(15.4%)に対して追加手術を行った.6眼の内訳は,II群C4例C5眼,III群のCSturge-Weber症候群のC1例C1眼であった.ステロイド緑内障は初回手術で全症例で眼圧コントロールできた.II群のC2眼は初回手術のC3年後に線維柱帯切開術をC1回追加し,眼圧コントロールできたが,1例C2眼は,1眼にC4回(初回手術のC6カ月後に線維柱帯切開術C1回,その後,線維柱帯切除術C1回,濾過胞再建術をC1回),1眼はC2回(初回手術のC6カ月後に線維柱帯切除術C1回)の手術を行った.他のCII群のC1眼は,3回(初回手術のC6カ月後に線維柱帯切除術C1回,その後濾過胞再建術をC1回)の手術を行った.III群のCSturge-Weber症候群のC1眼は,初回手術のC6年後に線維柱切開術をC1回追加し,その後C2年最終経過観察時点まで眼圧コントロールできた.最終手術成績の結果を表7に示す.I群は,最終平均眼圧C13.2±4.1mmHg,II群で術後C17.6C±3.3mmHg,III群で術後C14.3C±2.1CmmHgとC3群とも術前に比較して,有意に低下した.全症例C39眼中C21眼(53.8%)が緑内障点眼薬なしで眼圧コントロールが可能となった.I群のC9眼全例,III群は無虹彩症のC2例C4眼を除くC8眼は緑内障点眼薬なしで眼圧コントロールが得られた.I群は初回手術のみでC100%,II群とCIII群は追加手術も含めて,最終成功率はそれぞれCII群がC83.3%,III群がC100%,全体でC92.3%であった.CIII考按若年者の緑内障の分類はさまざまな分類2,3)があり,既報4.11)での分類もばらついているが,3歳未満で発症する場合,眼圧上昇により眼球拡大をきたしやすい側面があり,今回筆者らも隅角発生異常のみの発達緑内障に関しては,I群とCII群をC3歳で区切って,治療成績・予後をまとめた.覚醒時の眼圧測定が困難な症例に対しては,入眠時の眼圧を参考にした.全身麻酔下での眼圧に影響を与える因子としては,麻酔薬,麻酔深度,前投薬,麻酔方法があげられるが,これらの要因がどの程度,眼圧に影響を与えているかを正確に判定することは困難と考えられている12).臨床的には,条件を一定にして測定し,結果を比較するという方法がとられている.全身麻酔下の眼圧は既報12,13)によれば,5.7mmHg低めに出るとされ,そのため,入眠時眼圧の基準を15CmmHgを上限とした既報が多いと考えられる.今回の検討では,トリクロホスナトリウムの入眠下でのCPerkins眼圧計での測定を基準にしてC15CmmHgを上限値とした.若年者の緑内障の手術は,一般的に線維柱帯切開術か隅角切開術が選択されることが多く,当科では,初回手術は全例線維柱切開術を施行している.発達緑内障に対する線維柱帯切開術と隅角切開術の成績はCAndersoCn4)によれば,いずれも熟練した術者が行えば,同等の成績が得られるとしている.若年者の線維柱帯切開術において,Schlemm管の位置や形状は症例によってさまざまで,とくに乳児の強膜は成人と違って柔らかく,Schlemm管の同定が困難なことがある.Schlemm管を探すため,わずかな強膜層を残して毛様体が透見できるように強膜弁を作製するのがこつと考えている.Schlemm管あるいはそれらしいものが見つかれば,トラベクロトームを挿入するときにスムーズに入ること,そして可能であればCPosner診断/手術用ゴニオプリズムで挿入されているか確認する.トラベクロトームを回転するときはある程度抵抗があって,かつ前房にスムーズに出てきて,bloodre.uxがあると成功と考えている.Schlemm管らしきものがなく,トラベクロトームが挿入できない,挿入してもすぐ前房に穿孔する症例は,線維柱帯切除術に切り替えざるをえないと考えているが,今回の症例ではなかった.3歳未満発症の早発型発達緑内障の線維柱帯切開術の初回手術成績は,永田らはC75%5),藤田らがC79%6)と報告している.今回筆者らのCI群ではC9眼という少数例ではあるが,全例角膜径がC12Cmm以上に延長していたにもかかわらず,平均経過観察期間C8.8(6.6.11.8)年という長期間において,初回の線維柱帯切開術で,最終的に緑内障点眼薬なしで全症例眼圧コントロールできた.既報7.11,14,15)では,生後2.3カ月未満の早期発症例は難治で予後不良とするものが多い.筆者らの検討では,早期発症のC5眼中C4眼(80%)が初回手術でコントロールできた.早期発症のCI群のC1例C2眼はC10年,無虹彩のC1例C2眼はC3年,最終経過まで初回手術でコントロールできた.早期発症のCSturge-Weber症候群のC1眼は追加手術を要したが,初回手術のC6年後に線維柱帯切開術をC1回追加することで長期のコントロールが得られた.既報9,14)では,2.3カ月未満の早期発症例は,初回線維柱帯切開術が奏効しても,10.15年で再度眼圧上昇をきたす症例が散見され,今後も慎重な経過観察が必要と考えている.その一方で,Akimotoら7)の大規模症例での検討では,2カ月.2歳未満の最終手術成績はC96.3%と非常に高い奏効率を示している.永田ら14)は,このグループの早期診断と治療の成否こそがもっとも決定的に患児の将来の大きな意味をもつとしている.3歳未満の発症例では,高眼圧への曝露期間が長くなると,角膜径拡大に伴いCSchlemm管が伸展し,手術時にCSchlemm管の同定が困難になり,成人例より難度が高くなるとされる14,15).それゆえ,本疾患においては,線維柱帯切開術に熟練した術者が手術を行うべきと考えている.また,確実に線維柱帯切開術を遂行すればかなり長期間にわたって眼圧コントロールが得られることをふまえて,筆者らは,初回の線維柱帯切開術において確実に手術を遂行させることを優先して,年齢によって術野条件のよい上方からのアプローチを行った.角膜径がC14.5Cmmと極端に拡大していたCI群の症例C2や,生後C2カ月発症の早期発症のCI群症例C4など,Schlemm管を同定することがかなり困難な症例が含まれていた.しかし,Schlemm管と同定あるいは考えられた部位にトラベクロトームを挿入・回転することで,初回手術で長期の眼圧コントロールが得られた.追加手術が必要になったC6眼のうち,初回手術後C3年以上(II群のC2眼がC3年,III群CSturge-Weber症候群C1眼がC6年)コントロールできたC3眼は,線維柱帯切開術をC1回追加することで長期にわたる眼圧コントロールが可能であったが,他のC3眼(すべてCII群)はすべて初回手術が奏効せず,半年で追加手術に至り,最終的に線維柱帯切除術まで至った.若年者の線維柱帯切除術は既報16,17)でもCTenon.が厚いことや術後に瘢痕形成しやすいなどの問題が指摘されているように,今回のC3眼はいずれも濾過胞の縮小傾向がみられ,コントロール困難であった.Akimotoら7)の検討でも,2歳以降発症群の最終眼圧コントロール率はC76.4%と,2カ月.2歳発症群のC96.3%に比べて,やや劣る結果となっているが,その理由は検討されていない.これは,Sha.erら18)の原発先天緑内障への隅角切開術においても,2歳までの発症例の成功率がC94%に対して,2歳以降発症例がC38%と極端に不良な結果になっており,2歳以降の発症例のなかに,線維柱帯切開術や隅角切開術に抵抗性を示す症例が存在することを示唆している.今回の筆者らの検討でのCII群も,最終手術成績がC18眼中C15眼(83.3%)と既報と比較しても良好な結果であったが,追加手術になったC5眼中C3眼は最終的にコントロールが困難であった.これに対する考察として,3歳以上の症例は,角膜混濁や角膜径拡大に伴う流涙などの症状をきたしにくく,自覚症状に乏しい面があり,受診に至るまでに長期間経過し,Schlemm管の二次的な変化をきたしていた可能性が考えられた.既報5,14)では,初回の線維柱帯切開術が奏効しない症例でも追加の同手術を行うことで眼圧コントロールが得られる症例が存在するとしているが,今回の筆者らの検討では,初回手術で全例確実に線維柱帯切開術を施行したにもかかわらず,術後眼圧下降が得られなかったC3眼のうちC1眼は,追加で線維柱帯切開術を施行したが奏効しなかった.これらの症例に対する追加術式については今後も検討を要すると考えられた.III群に関しては,さまざまな病態が関与するため,既報でも成績がばらついており,また,ステロイド緑内障を含んでいることから一概に評価することは困難だが,隅角以外の異常を伴う発達緑内障は,隅角のみの異常にとどまる症例に比べて,成績が劣るとされている8,19).筆者らのCIII群のうち,成績のよいステロイド緑内障を除いても,隅角以外の眼異常を合併したC7眼中追加手術を行ったのがC1眼のみで,既報に比べてもきわめて良好な結果であった.追加手術になったSturge-Weber症候群のC1眼は,初回手術がC6年奏効した.本疾患は,眼圧上昇の機序にCSchlemm管,線維柱帯のみでなく,上強膜静脈圧の上昇まで関与するといわれているが,眼圧上昇の機転の主座がどの病巣にあるかを術前から予測することは困難で,また濾過手術での脈絡膜出血やCuveale.usionなどのリスクや術後管理などを考慮すると,やはり初回手術は線維柱帯切開術が望ましいと考えられた.ステロイド緑内障に関しては,治療の原則はステロイドの中止となるが,全身疾患に対する治療の必要性からステロイドの長期投与を余儀なくされ,中止が困難なケースも少なくない.それらのケースで点眼治療が奏効しない場合,外科的治療が必要となる.既報20,21)での若年発症のステロイド緑内障に対する線維柱帯切開術の成績は,いずれも良好な成績となっており,今回のステロイド緑内障C5眼も初回手術で全例コントロールが得られた.今回の検討から,若年者の緑内障のうち,隅角のみの異常にとどまる発達緑内障に関しては,線維柱帯切開術は原因治療であり,奏効した場合は長期の眼圧コントロールが得られることが示された.また,隅角以外の形成異常を伴う発達緑内障とステロイド緑内障に関しても,重篤な合併症が少ないことや術後管理が容易な点からも,若年者において,線維柱帯切開術が第一選択の有効な術式であることが確認できた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C3版.日眼会誌116:3-46,C20122)GorinG:Developmentalglaucoma.AmJOphthalmol58:C572-580,C19643)HoskinsCHDCJr,CSha.erCRN,CHetheringtonCJ:AnatomicalCclassi.cationCofCtheCdevelopmentalCglaucoma.CArchCOph-thalmol102:1331-1336,C19844)AndersonCDR:TrabeculotomyCcomparedCtoCgoniotomyCforCglaucomaCinCchildren.COphthalmologyC90:805-806,C19835)永田誠:乳児期先天緑内障の診断と治療.眼臨C85:568-573,C19916)藤田久仁彦,山岸和矢,三木弘彦ほか:先天緑内障の手術成績.眼臨86:1402-1407,C19927)AkimotoM,TaniharaH,NegiAetal:SurgicalresultsoftrabeculotomyCabCexternoCforCdevelopmentalCglaucoma.CArchOphthalmol112:1540-1544,C19948)太田亜希子,中枝智子,船木繁雄ほか:原発先天緑内障に対する線維柱帯切開術の手術成績.眼紀C51:1031-1034,C20009)IkedaH,IshigookaH,MutoTetal:Long-termoutcomeoftrabeculotomyforthetreatmentofdevelopmentalglau-coma.ArchOphthalmol122:1122-1128,C200410)小坂晃一,大竹雄一郎,谷野富彦ほか:先天緑内障の長期手術成績.あたらしい眼科19:925-927,C200211)原田洋介,望月英毅,高松倫也ほか:発達緑内障における線維柱帯切開術の手術成績.眼科手術23:469-472,C201012)坪田一男,平形明人,益田律子ほか:小児の全身麻酔下眼圧の正常範囲について.眼科26:1515-1519,C198413)奥山美智子,佐藤憲夫,佐藤浩章ほか:全身麻酔下における眼圧の変動.臨眼60:733-735,C200614)永田誠:発達緑内障臨床の問題点.あたらしい眼科C23:C505-508,C200615)根木昭:小児緑内障の診断と治療.あたらしい眼科C27:C1387-1401,C201016)野村耕治:小児期緑内障とトラベクレクトミー.眼臨97:C120-125,C200317)SidotiCPA,CBelmonteCSJ,CLiebmannCJMCetCal:Trabeculec-tomyCwithCmitomycin-CCinCtheCtreatmentCofCpediatricCglaucoma.Ophthalmology107:422-429,C200018)Sha.erRN:Prognosisofgoniotomyinprimaryglaucoma(trabeculodysgenesis)C.CTransCAmCOphthalmolCSocC80:C321-325,C1982C19)大島崇:血管腫を伴う先天緑内障の治療経験.眼臨C81:C1992142-145,C198721)河野友里,徳田直人,宗正泰成ほか:若年発症緑内障に対20)竹内麗子,桑山泰明,志賀早苗ほか:ステロイド緑内障にする線維柱帯切開術の成績.眼科手術28:619-623,C2015対するトラベクロトミー.あたらしい眼科C9:1181-1183,***

神経線維腫症1型を伴う発達緑内障にBaerveldt緑内障インプラントを挿入した乳児の2例

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1455~1458,2017神経線維腫症1型を伴う発達緑内障にBaerveldt緑内障インプラントを挿入した乳児の2例小松香織*1望月英毅*2,3宮城秀考*3中倉俊祐*4木内良明*3*1県立広島病院眼科*2草津眼科クリニック*3広島大学大学院医歯薬保健学研究院総合健康科学部門視覚病態学*4ツカザキ病院眼科CTwoCasesofCongenitalGlaucomaAssociatedwithNeuro.bromatosisType1RequiringBaerveldtGlaucomaImplantKaoriKomatsu1),HidekiMochizuki2,3)C,HidetakaMiyagi3),SyunsukeNakakura4)andYoshiakiKiuchi3)1)DepartmentofOphthalmology,PrefecturalHiroshimaHospital,2)KusatsuEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,TukazakiHospital神経線維腫症C1型(NF1)に伴う発達緑内障で線維柱帯切開術(TLO)が無効であった乳児C2例C2眼に,Baerveldt緑内障インプラント(BGI)挿入術を行ったので報告する.症例C1は生後C10カ月の男児.NF1であり,それに伴う左眼発達緑内障と診断され,TLOをC2回行ったが眼圧下降が得られなかったためCBGIを挿入し,その後再手術をC3回施行した.眼圧は点眼下でC17CmmHgである.症例C2は生後C5カ月の女児.左眼のCNF1に伴う発達緑内障に対してCTLOをC2回施行されたが眼圧下降せず,BGI挿入を行った.1度再手術を施行し,眼圧はC25CmmHgである.両症例ともBGIにて眼圧下降がみられたが,チューブの設置位置が変化し,複数回チューブの差し替えを行った.TLOが無効なNF1に伴う発達緑内障に対して,BGIは効果的な術式といえるが,チューブの位置変化が課題である.WeCreportCtwoCcasesCofCrefractoryCcongenitalCglaucomaCassociatedCwithCneuro.bromatosisC1(NF1)thatrequiredBaerveldtglaucomaimplant(BGI).Thesecaseshadnotachievedgoodintraocularpressure(IOP)controlwithtrabeculotomy(TLO).Case1:A10-month-oldmalewasdiagnosedwithcongenitalglaucomaincombinationwithCNF1CinChisCleftCeye.CFollowingCtwoCfailedCTLO,CweCperformedCBGICsurgery.CAfterC3Creoperations,CIOPCwas17CmmHgCwithCinstillation.CCaseC2:AC5-month-oldCfemaleCwithCcongenitalCglaucomaCinCcombinationCwithCNF1CinCherCleftCeyeCunderwentCBGICsurgeryCsubsequentCtoCtwoCunsuccessfulCTLO.CAfterConeCreoperation,CIOPCwasC25CmmHg.CTheseCcasesCexhibitedCgoodCIOPCcontrolCwithCBGI,CbutCrequiredCadditionalCsurgicalCproceduresCdueCtoCtubemalposition.BGIsurgeryisane.ectiveoptionforrefractorycongenitalglaucomaassociatedwithNF1follow.ingfailedTLO,buttubemalpositionisoneofthemostimportantproblems.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(10):1455~1458,C2017〕Keywords:発達緑内障,バルベルト緑内障インプラント,神経線維腫症C1型.congenitalglaucoma,Baerveldtglaucomaimplant,neuro.bromatosis1.Cはじめに神経線維腫症C1型(neuro.bromatosisC1:NF1)は,常染色体優性遺伝でカフェオレ斑や神経線維腫を主徴とし,骨病変や眼病変などの多彩な症候を示す全身性母斑症である.眼科領域では虹彩結節,視神経膠腫,眼瞼蔓状神経線維腫,緑内障などを合併症する1).NF1は出生約C3,000人にC1人の割合で起こり2),そのうち2~4%に発達緑内障を合併する1,3).したがって,NF1を伴う発達緑内障は出生C10万人にC1人程度の非常にまれな疾患であると推定される.治療は手術療法が主体となるが,NF1のような全身の先天異常を伴う続発性発達緑内障は隅角形成異常が高度のことが多く,手術を行っても眼圧コントロール〔別刷請求先〕小松香織:〒734-0037広島県広島市南区霞C1丁目C2-3広島大学大学院医歯薬保健学研究院総合健康科学部門視覚病態学Reprintrequests:KaoriKomatsu,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalSciences,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPANが不良である場合が多い4,5).わが国においては,難治緑内障に対してC2012年にようやくチューブシャント手術が認可されたところであり,NF1を伴う発達緑内障に対してのチューブシャント手術の報告は,国内からはまだない.今回筆者らは,NF1を伴う発達緑内障で線維柱帯切開術が無効であった乳児C2例C2眼に,Baerveldt緑内障インプラント(以下,BGI)挿入術を行い,眼圧コントロールが安定した症例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕生後C10カ月,男児.主訴:左眼の角膜混濁と角膜径拡大.家族歴:特記事項はない.現病歴:生後すぐに左眼の角膜径拡大を指摘されて近医眼科を受診した.眼圧が左眼C41CmmHg,全周性に虹彩高位付着があったため左眼発達緑内障と診断された.また,生後数カ月で左顔面優位にC6カ所以上のカフェオレ斑と神経線維腫が出現したため,NF1と診断された.生後C3カ月およびC9カ月の時点で左眼線維柱帯切開術を受けたが眼圧が下降しなかったため,広島大学附属病院眼科に紹介され受診した.初診時所見:外眼部は左眼瞼に蔓状神経線維腫と頬部にかけてカフェオレ斑が多数あった.前眼部では右眼と比較して左眼の角膜径の拡大があった(図1).全身麻酔下で精査を行い,眼圧はトノペンで右眼C14CmmHg,左眼C28CmmHg,アイケアで右眼C8CmmHg,左眼C37CmmHgで左眼の眼圧が高かった.角膜径は右眼C11Cmm,左眼C15Cmmで,左眼は角膜浮腫があった(図2).眼底は右眼には特記所見はなく,左眼は角膜浮腫のため透見は困難であった.眼軸長は右眼C20.93mm,左眼C29.54Cmmと左眼が延長しており,超音波生体顕微鏡(UBM)では左眼に虹彩前癒着がみられたが,毛様体の腫大はなかった.経過:初診からC1カ月後(生後C11カ月)にCBGI挿入術を行った.輪部結膜を切開し,BG-250を耳上側に上・外直筋下に収まるように設置し,直筋付着部よりC1Cmm後方にC7-0シルク糸で固定した(図3).チューブは前医での手術時に上方に作製された強膜弁下から前房内に挿入した(図4).眼圧は術後C4カ月にアイケアC.でC12CmmHgと安定していたが,チューブ先端が角膜内皮に接触しており,同部位の角膜が混濁するようになった.下眼瞼内反症による角膜上皮障害もあったため,1歳C3カ月時に全身麻酔下で内反症手術とCBGIのチューブのC1回目の挿入しなおしを行った.プレート部はそのままで,前回利用した自己強膜弁の耳側の角膜輪部からチューブを後房に挿入し,保存強角膜でチューブ部分を被覆した.1回目の挿入しなおしからC2カ月後に眼圧はアイケアでC35CmmHgになった.前房内にチューブの先端が確認できなかったため,眼球運動によりチューブが抜けたと考えた.1歳C6カ月時にC2回目の挿入しなおしを行った.前回より上方寄りの角膜輪部から前房内へチューブを挿入しなおし,チューブの被覆には前回の保存強角膜片をそのまま用いた.術後はタフルプロスト左眼C1回/日を点眼しながら左眼眼圧がアイケアでC21CmmHg前後で経過していた.その後,左眼白内障の進行と下眼瞼内反症の再発があり,2歳C7カ月で内反症手術と白内障手術を施行した.このときチューブの先端が角膜に近かったため,チューブ挿入しなおしも同時に行った.チューブは前回挿入部よりやや耳側から後房内に挿入し,前回の保存強角膜片でそのまま被覆した.2歳C11カ月時の受診では,ドルゾラミド・チモロール配合剤を左眼C2回/日点眼下で左眼眼圧はアイケアでC17CmmHgだった.〔症例2〕生後C5カ月,女児.主訴:左角膜径拡大.家族歴:両親ともカフェオレ斑が数カ所ある.現病歴:生下時から左眼角膜径の拡大を指摘され,近医眼科を受診したところ眼圧が右眼C8CmmHg,左眼C49CmmHgで左眼発達緑内障と診断された.小児科では右大脳萎縮と体幹部に多数のカフェオレ斑があることから,NF1と診断された.前医で生後C20日および生後C1カ月で左眼線維柱帯切開術をうけたが,眼圧を制御できなかったため,広島大学附属病院眼科を紹介され受診した.初診時所見:眼瞼や顔面にカフェオレ斑や神経線維腫はなかった.左下眼瞼には内反症があった.左眼は角膜径が拡大し,角膜混濁,ぶどう膜外反,中等度の散瞳があった.全身麻酔下で眼圧はトノペンで右眼C15CmmHg,左眼C31CmmHg,アイケアで右眼C8CmmHg,左眼C37CmmHgで左眼は高く,角膜径は右眼C11.5Cmm,左眼C16Cmmだった.眼底は右眼には特記所見はなかったが,左眼は傾斜乳頭でCC/D比はC0.9程度であった.眼軸長は右眼C20.1Cmm,左眼C28.87Cmmと左眼が延長していた.UBMでは左眼に虹彩前癒着がみられたが,毛様体の腫大はなかった.経過:初診からC8日後に左眼CBGI手術を行った.輪部結膜を切開し,BG-250を耳上側に上・外直筋下に収まるように設置し,直筋付着部よりC1Cmm後方にC7-0シルク糸で固定した.自己強膜弁は作製せず,上方やや耳側寄りの角膜輪部から前房内にチューブを挿入し,保存強膜片でチューブを被覆した.術後C3カ月の眼圧はアイケアで右眼C12CmmHg,左眼C16CmmHgであり,チューブの角膜への接触はなかった.経過に問題がないため,術後C3カ月より前医で経過をみていた.術後C1年C8カ月の眼圧はアイケアCPROで左眼C18CmmHgと眼圧は落ち着いていたが,チューブ先端が角膜に近く(図5),下眼瞼内反症もあるため,初回術後C2年C3カ月(2歳C9カ月)で前医にて内反症手術とチューブの挿入しなおしを行った.チューブは前回挿入部より耳側から前房に挿入し,保存強角膜片でチューブを被覆した.術後眼圧は無点眼下にて図1症例1:左頬部のカフェオレ斑と左眼瞼蔓状神経線維腫(矢印)図3症例1:プレート設置位置図4症例1:初回BGI手術時の術中写真アイケアCPROで左眼C25CmmHgであった.チューブの先端は次第に角膜に近づいており,白内障も進行している.CII考按今回筆者らは,NF1に併発する発達緑内障で線維柱帯切除術施行後も眼圧が下降しなかった症例に対してCBGI手術図2症例1:前眼部写真(上:右眼,下:左眼)図5症例2:チューブ先端が角膜に接近しているを行い,良好な眼圧下降を得た.しかし,チューブの先端部の移動に伴う合併症も多く,位置修正のために複数回の手術を要した.NF1の眼合併症は,虹彩結節がC64%と最多で,そのほかに視神経膠腫がC9%,眼瞼蔓状神経線維腫がC6%,発達緑内障をC2~4%の割合で併発するとの報告がある1,3).なお,NF1に続発した緑内障では同側の眼瞼蔓状神経線維腫(神経に沿って蔓状に増殖する腫瘍の塊)を合併することが多い1).今回の症例では,併発する頻度の高い虹彩結節や視神経膠腫はなかった.眼瞼蔓状神経線維腫はC1例目では緑内障眼と同側にあり,2例目ではなかった.NF1での緑内障の発生機序は,隅角形成異常もしくは神経線維腫が二次的に隅角を閉塞させるためと考えられているが3,6),そのほかに角膜内皮細胞の隅角への増殖が隅角閉塞を引き起こしている,との報告もある4).今回はC2症例とも線維柱帯切開術が有効ではなかった.その理由の一つとして,発達緑内障にみられる隅角形成異常が眼圧上昇の原因ではなく,神経線維腫がCSchlemm管を閉塞したために線維柱帯切開術の効果がなかったということが考えられる.また,両症例とも患眼の角膜径はC15Cmm以上である.角膜径が大きいほど線維柱帯切開術の効果が少ないと報告されている7).よって二つ目の理由として,角膜径が大きく重症であったために線維柱帯切開術が奏効しなかった可能性もある.小児発達緑内障に対する治療は,線維柱帯切開術を行い,効果がなければわが国においてはマイトマイシン併用の線維柱帯切除術を行うことが多かった8).線維柱帯切除術の問題点として,・小児は代謝がよく創部が閉じやすい,・マイトマイシンCC(MMC)が長期的にどう影響がでるか不明である,・術後の濾過胞管理がむずかしい,などがあげられる.これらの問題点を克服できるのがチューブシャント手術である.Beckらの報告9)では,2歳以下での発達緑内障治療の成績を比較すると,術後C12カ月地点で眼圧がC23CmmHg以下に抑えられている状態の割合は,MMC併用の線維柱帯切除術がC36.0C±8.0%,BGIではC87.0C±5.0%であり,72カ月後でも前者はC19.0C±7.0%,後者はC53.0C±12%とされており,BGIの術後成績が線維柱帯切除術より良好である.近年ではわが国においても線維柱帯切除術に代わって,もしくはその難治例に対してチューブシャント手術が行われた症例が報告されるようになった10).NF1のように全身疾患を併発した発達緑内障は前眼部の形成異常を伴うことが多く,難治例が多いためである5).しかし,BGIにも以下のような物理的な問題点がある.・チューブ先端が角膜へ接触することがあり,長期的な接触で角膜内皮障害が起こる可能性がある.・無水晶体の場合は硝子体でチューブが閉塞することがある.今回の症例でもチューブ先端の角膜への接触やチューブのずれが生じたために,チューブの位置を修正するための再手術を複数回行っている.Beckらの報告9)でもチューブの位置変更などで再手術をした割合がCBGIの場合C45.7%であり,線維柱帯切除術の12.5%に比べ高頻度であることが示されている.この理由として小児の場合,成人と比べて眼組織の柔軟性が高いことや運動量が活発であること,眼部の擦過が多いことが影響してチューブの位置不良を起こしやすいと考えられており,1年以内に修正手術が行われる場合が多い11,12).初回手術の時点で症例C1の眼軸長はC29.54Cmmで,症例C2の眼軸長はC28.87mmであった.そのため,眼球の成長がプレートおよびチューブの変位に影響を及ぼしたとは考えにくい.プレートやチューブ変位の予防策として直筋下にプレートを固定すること,保存強膜で挿入部を補強することや,角膜輪部に対し斜めにチューブを挿入することなどが奨励されている13).筆者らの症例でも直筋の下にプレートを固定し,全層の強膜を通してチューブを挿入しているが,それでも変位が生じた.今回筆者らはCNF1を伴う発達緑内障の生後C11カ月およびC5カ月の乳児C2例C2眼に,BGI挿入術を行った.隅角に異形成を伴う発達緑内障に対して,BGIは線維柱帯切除術と同等もしくはそれ以上に効果的な術式と考える.しかし,角膜への接触などチューブシャント手術特有の術後合併症を起こす可能性がある.文献1)石戸岳仁,松村望他,平田菜穂子ほか:神経線維腫症C1型における眼合併症と頻度.臨眼C66:629-632,C20122)神経線維腫症C1型の診断基準・治療ガイドライン作成委員会:神経線維腫症C1型(レックリングハウゼン病)の診断基準および治療ガイドライン.日皮会誌118:165-1666,C20083)有井潤子,田辺雄三:小児の神経線維腫C1型における合併症診断と全身管理.日児誌C104:346-350,C20004)EdwardCDP,CMoralesCJ,CBouhenniCRACetCal:CongenitalCectropionuveaandmechanismsofglacomainneuro.bro.matosistype1.OphthalmologyC119:1485-1494,C20125)BudenzDL,GeddeSJ,BrandtJDetal:Baerveldtglauco.maCimplantCinCtheCmanagementCofCrefractoryCchildhoodCglaucomas.OphthalmologyC111:2204-2210,C20046)福村美帆,山田裕子,金森章秦ほか:神経線維腫症に合併した先天緑内障のC1例.眼臨C98:31-34,C20047)久保田敏昭,高田陽介,猪俣孟:隅角発育異常緑内障の手術成績.臨眼C54:75-78,C20008)根木昭:小児緑内障の診断と治療.あたらしい眼科C27:C1387-1401,C20109)BeckAD,FreedmanSF,KammerJetal:AqueousshuntdevicescomparedwithtrabeculectomywithMitomycin-CforCchildrenCinCtheC.rstCtwoCyearsCofClife.CAmCJCOphthal.molC136:994-1000,C200310)田口万蔵,中村友美,小林隆幸ほか:チューブシャント手術を行った発達緑内障のC2例.あたらしい眼科C29:1411.1414,C201211)MakiCJL,CNestiCHA,CShettyCRKCetCal:TranscornealCtubeCextrusionCinCaCchildCwithCaCBaervertCglaucomaCdrainageCdeveice.JAAPOSC11:395-397,C200712)DonahueCSP,CKeechCRV,CMundenCPCetCal:BaerveldtCImplantCSurgeryCinCtheCTreatmentCofCAdvancedCChild.hoodGlaucoma.JAAPOSC1:41-45,C199713)WeinrebCR,CGrajewskiCA,CPapadopoulousCMCetCal:Child.hoodCGlaucomaCConsensusCSeries-9,CKuglerCPublications,CAmsterdam,TheNetherlands,2013***

Rubinstein-Taybi 症候群に伴う発達緑内障に線維柱帯切開術が奏効した1例

2016年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(6):899.902,2016cRubinstein-Taybi症候群に伴う発達緑内障に線維柱帯切開術が奏効した1例山田哉子*1小嶌祥太*2中島正之*3植木麻理*2杉山哲也*2柴田真帆*2小林崇俊*2荻原享*4池田恒彦*2*1八尾徳洲会総合病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室*3中島眼科クリニック4)大阪医科大学小児科学教室ACaseofDevelopmentalGlaucomawithRubinstein-TaybiSyndromeSuccessfullyTreatedbyTrabeculotomyKanakoYamada1),ShotaKojima2),MasayukiNakajima3),MariUeki2),TetsuyaSugiyama2),MahoShibata2),TakatoshiKobayashi2),RyoHagihara4)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,3)NakajimaEyeClinic,4)DepartmentofPediatrics,OsakaMedicalCollege目的:Rubinstein-Taybi症候群(Rubinstein-Taybisyndrome:RTS)に発達緑内障を合併し,線維柱帯切開術が奏効した1例を経験したので報告する.症例:生後1カ月,男児.在胎37週,2,200gで出生.全身的に多毛で幅広い母指を呈し小児科にてRTSと診断,眼合併症の検索のため眼科紹介となる.初診時,角膜横径は両眼11.5mm,両眼に角膜浮腫,左眼に角膜部分混濁を認めた.眼圧は右眼21.31mmHg,左眼34.41mmHg,視神経乳頭の陥凹乳頭比は右眼0.5,左眼0.7であった.RTSに伴う発達緑内障と診断し,生後40日目に両眼の線維柱帯切開術を施行した.眼圧は術後7日目には右眼8mmHg,左眼13mmHgとなった.術後約6年2カ月を経過し,現在も眼圧コントロール良好である.結論:特徴的な身体所見からRTSが疑われる児は,発達緑内障および前眼部形成異常の合併を疑って眼科的検査を行うことが重要だと考えられた.Purpose:ToreportacaseofdevelopmentalglaucomawithRubinstein-Taybisyndrome(RTS)thatwassuccessfullytreatedbytrabeculotomy.Case:A1-month-oldmalewaspresentedatourdepartmentforinvestigationofRTS-relatedeyeabnormalities.Hehadgeneralhypertrichosis,broadthumbs,andwasdiagnosedwithRTSinthepediatricsdepartment.Atfirstvisit,bothcorneaswereedematousandfocalopacitywasseeninthelefteye.Thehorizontaldiameterofeachcorneawas11.5mm.Intraocularpressure(IOP)was21-31mmHgOD/34-41mmHgOS;cup-to-discratiooftheopticdiscwas0.5OD/0.7OS.WediagnoseddevelopmentalglaucomawithRTSandperformedtrabeculotomyonbotheyesat40dayspost-delivery.Undergeneralanesthesia,IOPwas24mmHgOD/22mmHgOS,yetitgraduallydecreasedto8mmHgOD/13mmHgOSat7dayspostoperatively,remainingcontrolledfor6yearsand2monthsthereafter.Conclusion:ItisimportanttoinvestigateRTS-suspectedinfantsforassociateddevelopmentalglaucomaanddysgenesisoftheanteriorocularsegment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(6):899.902,2016〕Keywords:Rubinstein-Taybi症候群,発達緑内障,線維柱帯切開術,前眼部形成異常.Rubinstein-Taybisyndrome,developmentalglaucoma,trabeculotomy,dysgenesisofanteriorocularsegment.はじめに角解離,長い睫毛,後方へ回旋した耳介,つきでた鼻翼や下Rubinstein-Taybi症候群(Rubinstein-Taybisyndrome:唇),精神運動発達遅滞を3徴とする先天異常症候群で,わRTS)は1963年にRubinsteinとTaybiが報告1)した,幅広が国では発症率が12万5千出生に1例とまれな疾患であい母指と第一趾,特徴的顔貌(小頭,瞼裂の下方傾斜,内眼る2).責任遺伝子は16番染色体のCBP(CREB-bindingpro〔別刷請求先〕山田哉子:〒581-0011大阪府八尾市若草町1番17号八尾徳洲会総合病院眼科Reprintrequests:KanakoYamada,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusacho,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(139)899 tein)遺伝子と判明しているが3),検出率は高くなく臨床的診断が重視され,とくに幅広い母指はほぼ全例にみられる2,4,5).眼科的に鼻涙管閉塞,外斜視,発達緑内障,先天性白内障,網脈絡膜コロボーマといった種々の合併症が報告されている6).今回発達緑内障を合併し線維柱帯切開術を施行した1症例を経験したので報告する.I症例患者:生後1カ月,男児.主訴:眼科的スクリーニングの依頼.既往歴:中腸軸捻転症,動脈管開存症.家族歴:母親は36歳,父親は36歳の第2子.第1子は正常出生.血族結婚ではなく,特記すべきことはなし.現病歴:在胎37週3日,骨盤位のため帝王切開にて平成21年8月19日に2,200gで出生.生後7日目に中腸軸捻転症のため開腹整復術を施行した.全身的に体毛が多く,幅広い母指を有し,小児科でRubinstein-Taybi症候群と臨床的に診断された.染色体は検査の結果,正常であった.眼合併症の検索のため9月15日眼科紹介となった.初診時所見:外見は逆蒙古様顔貌,内眼角解離,弓状の眉を有し,全身的に多毛であった(図1).手足の母指は幅広くばち状であった(図2).角膜は右眼:縦径11mm×横径11mm,左眼:縦径10.5mm×横径11mm,両眼浮腫状で左眼に部分混濁を認めた(図3).啼泣のため眼圧測定値は変動を認め,右眼21.31mmHg,左眼34.41mmHg(覚醒下,トノペン)であった.前房は清明で深く,虹彩および水晶体に明らかな異常は認めなかった.眼底検査では,視神経乳頭の陥凹対乳頭比(C/D比)は右眼0.5,左眼0.7と左眼が優位に陥凹が拡大していた(図4)が,その他の異常は認めなかった.超音波生体顕微鏡では虹彩は平坦化しており,強膜岬より後方で隅角に付着していると考えられた.経過:術前は非鎮静下の測定であり眼圧測定値の変動が大きかったが,いずれの測定でも高眼圧で推移した(表1).9月29日(生後40日目)の全身麻酔下での術前眼圧は右眼24mmHg,左眼22mmHg(Perkins圧平眼圧計)であった.高眼圧,角膜径の拡大および視神経乳頭所見から発達緑内障と診断,両眼の線維柱帯切開術を同日施行した.線維柱帯切開術は一重強膜弁で12時方向から切開を行った.Schlemm管は後方への偏位を認めず,解剖学的にほぼ正常位置に同定され(図5),13mmのトラベクロトーム挿入の際に軽度抵抗を認めた.線維柱帯切開時に前房出血を認めたが軽度であった.術翌日は左眼優位に前房出血を認め,眼圧は右眼20mmHg,左眼25mmHgであったが,術後2日目には前房出血は消失しており,眼圧も徐々に下降した(表2).術後7日目には右眼8mmHg,左眼13mmHgとなり,以後眼圧はコ900あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016ントロールは良好であった.手術11カ月後には両眼とも角膜浮腫は消失し,左眼の角膜部分混濁も軽減しており,眼圧は右眼9mmHg,左眼10mmHg,C/D比は右眼0.5,左眼0.5と左眼で陥凹が縮小していた(図4).術後4年2カ月で眼圧は右眼14mmHg,左眼16mmHgで,角膜は右眼:縦径12mm×横径12mm,左眼:縦径12mm×横径11.5mmであった.平成27年11月(6歳3カ月)現在で眼圧は右眼8mmHg,左眼13mmHgで,左眼の角膜部分混濁は軽度であるが残存している.発達指数(developmentalquotient:DQ)は35以下で重度知的障害があるが,TellerAcuityCardsTM(9.6cy/cm,検査距離:55cm)による指差しで視力検査を行い,VD=(0.33×sph+2.5D(cyl.0.75DAx180°),VS=0.33(矯正不能)であった.右眼遠視性乱視のため眼鏡を装用しており,軽度の間欠性外斜視を認めている.涙道通水検査を施行したが,両眼とも異常なく,鼻涙管閉塞は合併していない.II考按今回,筆者らはRTSに発達緑内障を合併した1症例を経験した.RTSに発達緑内障を合併する割合は2.4%程度と報告6)があるが,過去の症例報告7.12)では,本例のように生後1年以内の早発型発達緑内障の報告が多い.流涙,角膜混濁,角膜径の左右差に気づき発達緑内障が発見された症例5,7.9)では線維柱帯切開術,隅角切開術,緑内障点眼で加療されている.隅角の形成異常が軽度とされる遅発型発達緑内障も報告されている13).一方で,前眼部形成異常が強く前部ぶどう腫による眼球突出が進行し,生後半年以内に眼球摘出に至った症例の報告もあり11,12),RTSに合併する隅角および前眼部形成異常の重症度には幅があると考えられる.RTSに伴う緑内障は緑内障診療ガイドライン14)では他の先天異常を伴う発達緑内障に分類され,胎生期の神経堤細胞遊走不全にもとづく隅角形成異常が原因と考えられている15,16).神経堤細胞は胎生5.7週に前眼部の角膜内皮,実質,虹彩実質,隅角線維柱帯へと遊走し分化するため,神経堤細胞の遊走不全の場合,角膜,虹彩,隅角の異常を複数認める可能性がある15.17).神経堤細胞の遊走不全に起因する発達緑内障は他にPeters奇形,強膜化角膜,無虹彩症,Axenfeld-Rieger症候群があげられる.過去の報告でもRTSの眼合併症としてPerters奇形,強膜化角膜,前部ぶどう腫を認めた症例が複数報告されており10,11),RTSの症例の診察では緑内障だけでなく,これらの前眼部形成異常の合併を念頭に考える必要がある.一般に前眼部形成異常が強い発達緑内障は隅角の異常も強く出現し,線維柱帯切開術の有効性は低くなると報告されて(140) 図1顔貌と背部所見顔貌:逆蒙古様顔貌,内眼角解離,弓状の眉が特徴的であった.背部:全身的に多毛であった.図3前眼部所見両眼とも角膜は浮腫状で,左眼に部分混濁が認められた(.).図5術中所見一重強膜弁,Schlemm管(.)は解剖学的に正常位置に存在してた.いる17).今回の症例では左眼の下方に角膜部分混濁を認めており,眼圧の下降とともに軽快傾向であったが,現在も残存しており,軽度の前眼部形成異常を伴った可能性がある.なお,発生学的にSchlemm管は中胚葉由来で前眼部と発生が図2手足手足の母指は幅広くばち状であった(矢印).C/D比:0.5C/D比:0.7C/D比:0.5C/D比:0.5図4視神経乳頭上段:術前.左眼優位に視神経乳頭陥凹が拡大していた.下段:術後.左眼視神経乳頭陥凹は縮小傾向だった.表1術前眼圧測定日9/179/189/29(手術日)右眼(mmHg)21.3128.4424左眼(mmHg)34.4121.2522測定方法覚醒トノペン覚醒トノペン全身麻酔下Perkins異なるため,隅角,前眼部に形成異常がある症例でもSchlemm管の低形成はまれで線維柱帯切開術の際にSchlemm管の同定は比較的容易との報告が散見され16,17),今回の症例でもSchlemm管の同定に苦慮することはなかった.本症例で線維柱帯切開術が有効であった理由として,早期に眼圧上昇が発見され,角膜混濁や角膜径拡大が進行しないうちに手術を施行できたこと,および本症例では前眼部の形成異常が軽度であったことが考えられる.RTSに合併した発達緑内障に線維柱帯切開術が有効であ(141)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016901 表2術後眼圧測定日術後1日術後2日術後3日術後1週間術後1カ月術後3カ月術後11カ月術後4年2カ月術後6年2カ月右眼(mmHg)20176810109148左眼(mmHg)252216131412101613測定方法鎮静Perkins左眼優位に前房出血鎮静Perkins両眼の前房出血消失鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静時は体重に応じて,トリクロホスホナトリウムシロップ,抱水クロラール座薬,ミダゾラムを適宜使用した.術前,術後とも眼圧下降薬は使用していない.った1症例について報告した.RTSに合併する発達緑内障の早期発見のために,特徴的な身体所見からRTSが疑われる児は生後より発達緑内障および前眼部形成異常の合併を疑って眼科的検査を行うことが重要だと考えられた.文献:1)RubinsteinJH,TaybiH:Broadthumbsandtoesandfacialabnormalities.Apossiblementalretardationsyndrome.AmJDisChild105:588-608,19632)黒澤健司:Rubinstein-Taybi症候群.小児科診療72:82,20093)PetrijF,GilesRH,DauwerseHGetal:Rubinstein-TaybisyndromecausedbymutationsinthetranscriptionalcoactivatorCBP.Nature376:348-351,19954)塚原正人,辻野久美子:Rubinstein-Taybi症候群.小児内科35:230-231,20035)神原諒子,山田貴之,足立徹ほか:発達緑内障と鼻涙管閉塞を伴ったRubinstein-Taybi症候群の2例.眼科手術26:299-302,20136)GenderenMM,KindsGF,RiemslagCCetal:OcularfeaturesinRubinstein-Taybisyndrome:investigationof24patientsandreviewoftheliterature.BrJOphthalmol84:1177-1184,20007)林みゑ子,北沢克明:先天緑内障を伴ったRubinsteinTaybi症候群の1例.臨眼37:843-846,19838)山口慶子,原敏:先天性緑内障を合併したRubinsteinTaybi症候群.臨眼45:678-679,19919)佐野秀一,箕田健生,小島孚允:先天緑内障を合併したRubinstein-Taybi症候群の1例.臨眼46:694-695,199210)森田由香,岡本史樹,高松俊行ほか:1眼にコロボーマ,他眼にanteriorcleavagesyndromeを伴うRubinstein-Taybi症候群の1例.眼臨94:946-950,200011)松島千景,後藤浩,毛塚潤ほか:SclerocorneaとPeters奇形を合併したRubinstein-Taybi症候群の1例.あたらしい眼科18:105-108,200112)北澤憲孝,川目裕,若林真澄ほか:眼球摘出に至ったRubinstein-Taybi症候群に伴う眼球形成不全.眼臨紀3:378-380,201013)立花敦子,高島弘至,吉岡郁恵ほか:Rubinstein-Taybi症候群に発達緑内障遅発型を合併した1例.眼科53:117121,201114)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,201215)尾関年則,佐野雅洋,森宏明ほか:神経堤細胞遊走不全と前眼部形成異常.臨眼45:1419-1423,199116)稲谷大:発達緑内障の病態と神経堤細胞の分化遊走.FrontiersinGlaucoma8:184-186,200717)野崎実穂,水野晋一,尾関年則ほか:前眼部形成異常を合併した先天緑内障に対する線維柱帯切開術.臨眼54:331334,2000***902あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(142)

線維柱帯切開術を施行したDown症候群を伴う発達緑内障の1例

2016年1月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(1):133.139,2016c線維柱帯切開術を施行したDown症候群を伴う発達緑内障の1例小澤由明*1,2東出朋巳*1杉山能子*1杉山和久*1*1金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学*2南砺市民病院眼科TrabeculotomyinaCaseofDevelopmentalGlaucomawithDownSyndromeYoshiakiOzawa1,2),TomomiHigashide1),YoshikoSugiyama1)andKazuhisaSugiyama1)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,2)DepartmentofOphthalmology,NantoMunicipalHospital目的:まれなDown症候群を伴う発達緑内障に対し線維柱帯切開術を施行した1例を経験したので報告する.症例:生後6カ月,女児.抗緑内障薬物治療に抵抗性を示し角膜浮腫を伴っていた.全身麻酔下検査で眼圧は右眼34mmHg,左眼33mmHg,陥凹乳頭径比は両眼0.7,角膜径は両眼13mm,隅角検査で虹彩高位付着を認めた.両眼に線維柱帯切開術を施行後,両眼とも角膜浮腫は消失し陥凹乳頭径比は0.3に改善した.術後111カ月間の測定眼圧は,薬物治療の追加なしで両眼12mmHg程度に安定した.中心角膜厚は両眼400μm以下,眼軸長は両眼25mm以上であった.考察と結論:Down症候群を伴う両眼の発達緑内障に対し線維柱帯切開術が長期に奏効している.角膜が菲薄化し強度近視になったのは,乳児期の高眼圧だけでなくDown症候群に伴う膠原線維異常が関与した可能性がある.Purpose:WereportararecaseofdevelopmentalglaucomawithDownsyndromethatreceivedtrabeculotomy.Case:A6-month-oldfemalewithDownsyndromeandbilateralcornealedemawasresistanttoanti-glaucomatousmedicaltherapy.OcularexaminationundergeneralanesthesiashowedIOP(intraocularpressure)R.E.:34mmHg,L.E.:33mmHg;cup-to-discratio0.7andcornealdiameter13mm;gonioscopyrevealedanterioririsinsertionsineacheye.Aftertrabeculotomyonbotheyes,cornealedemadisappeared,andcup-to-discratioreducedto0.3.For111monthssincesurgery,measuredIOPshavebeenmaintainedaround12mmHgineacheyewithoutmedication.Centralcornealthicknesshasremainedlessthan400μmandaxiallengthhasexceeded25mmineacheye.Discussion:TrabeculotomyhasbeensuccessfulfordevelopmentalglaucomawithDownsyndromeforalongterm.Thinnercorneaandhighmyopiaarepossiblytheresultnotonlyofocularhypertensionduringinfancy,butalsoofcollagenfiberabnormalityinassociationwithDownsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):133.139,2016〕Keywords:ダウン症候群,発達緑内障,線維柱帯切開術,眼圧,中心角膜厚.Downsyndrome,developmentalglaucoma,trabeculotomy,intraocularpressure,centralcornealthickness.はじめに発達緑内障は,胎生期における前房隅角の形成異常が原因で眼圧上昇をきたす緑内障で,早発型,遅発型と他の先天異常を伴う発達緑内障の3型に分類される1).早発型は,生後早期からの高度な眼圧上昇に伴って,角膜浮腫・混濁,Haab’sstriae(Descemet膜破裂)を認めるだけでなく,組織柔軟性に起因した眼軸長の伸長,角膜径の増大,角膜厚の菲薄化などの特徴的な所見を示す2).遅発型は前房隅角の形成異常が軽度なために3.4歳以降に初めて眼圧上昇を認めるため,早発型のような特徴的な徴候を欠き,視野進行を認めるまで気づかれないことが多く,成人になってから発症することさえある3).他の先天異常を伴う発達緑内障には,無虹彩症,Axenfeld-Rieger症候群,Peters奇形,SturgeWeber症候群,神経線維腫症,PierreRobin症候群,Rubinstein-Taybi症候群,Lowe症候群,Stickler症候群,先天小角膜,先天風疹症候群などがあり,発達緑内障のほか〔別刷請求先〕小澤由明:〒920-8641金沢市宝町13番1号金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学Reprintrequests:YoshiakiOzawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takara-machi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(133)133 に特徴的な眼合併症を伴う3,4).発達緑内障は約80%が生後1年以内に診断され3,5,6),発症頻度は国や人種によって差があるが,わが国では早発型と遅発型を合わせたものが約11万人に1人,Peters奇形が約40万人に1人,AxenfeldRieger症候群とSturge-Weber症候群がそれぞれ約60万人に1人,無虹彩症と角膜ぶどう腫が各々約121万人に1人との報告5)がある.Down症候群に緑内障が合併する頻度ついては,わが国で0%との報告7)があり,海外でも多くの報告が1%以下であるとしている8.12).しかし一部に6.7%(4人)13),5.3%(10人)14),1.9%(3人)15)という報告もあるので緑内障の合併には注意が必要であるが,Down症候群児の出生が600.800人に1人であることから,発症率は0.01%以下と推定される.一方,Down症候群に伴う眼合併症には,瞼裂異常,屈折異常,眼球運動障害,涙道疾患,白内障のほか,円錐角膜16,17)やBrushfield斑17,18)といった膠原線維異常に起因した所見の報告が多い7.17)が,緑内障の合併はまれなこともあり,前述の疫学調査に含まれた症例のほかに症例報告がわずかにあるのみである.一般的に,発達緑内障は薬物療法に抵抗性を示し,眼球成長期の持続的な高眼圧が視機能障害の原因となるため,診断後早急に手術加療する必要がある3,4).視機能障害として,強度軸性近視のほか,菲薄化した角膜も術後の眼圧管理において注意すべき問題である.今回筆者らは,Down症に伴う両眼性の発達緑内障というまれな症例に対し,生後早期の線維柱帯切開術が奏効し,長期に良好な経過が得られている1例を経験したので報告する.I症例患児:6カ月,女児.家族歴:特記事項なし.現病歴:2005年6月20日,在胎38週,体重3,242gで出生した.生後1カ月検診でDown症候群を指摘され,眼科的精査のため同年10月19日に前医へ紹介された.軽度の筋緊張低下と巨舌を認めたが,心疾患や白血病などの重大な全身合併症は認めなかった.両眼に角膜浮腫および角膜混濁を認め眼圧が32.57mmHgであったため,0.5%チモロ上方左眼下方右眼図1全身麻酔下検査時(2006年2月21日,生後8カ月)の前眼部写真手術顕微鏡での前眼部観察のため上方が足側で下方が頭側,左側が右眼で右側が左眼である.下段はスリット照明による観察.両眼に軽度の角膜浮腫を認める.134あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(134) 図2全身麻酔下検査時(2006年2月21日,生後8カ月)の隅角写真右眼下方の隅角.虹彩高位付着と一部に虹彩突起を認める.図4全身麻酔下検査時(2007年9月11日,2歳2カ月,術後19カ月)の左眼散瞳下検査上耳側の水晶体に混濁を認めた.手術顕微鏡での観察のため倒像.ール両眼2回を処方されたが,その後の眼圧も右眼39mmHg,左眼28mmHgと高値のため,2006年1月11日に金沢大学附属病院眼科へ紹介された.初診時所見:トリクロホスナトリウムによる催眠鎮静下で,眼圧は右眼32mmHg,左眼24mmHg(トノペンR)であった.手持ち細隙灯顕微鏡検査では,右眼に角膜浮腫・混濁を認め,左眼は角膜清明で,両眼とも前房は深く前房内に炎症所見は認めなかった.眼底検査では,両眼とも視神経乳頭に同心円状陥凹(陥凹乳頭径比0.7)を認めた.経過:乳幼児への安全性を考慮し,当科初診時に0.5%チモロール両眼2回をイソプロピルウノプロストン両眼2回とプリンゾラミド両眼2回に変更したうえで,2006年2月21日(生後8カ月)に全身麻酔下での眼科的精査を施行した.(135)図3全身麻酔下検査時(2006年2月21日,生後8カ月)の超音波生体顕微鏡検査上段が右眼耳側,下段が左眼下側の隅角.両眼とも虹彩の平坦化および菲薄化を認め,前房深度は深く,隅角は開大している.毛様体の扁平化と角膜の菲薄化も認める.眼圧は,右眼34mmHg,左眼33mmHg(トノペンR)で,両眼とも軽度の角膜浮腫を認めた(図1).両眼の角膜径は13×13mm(横径×縦径),中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT)は,右眼468μm,左眼504μm,隅角所見では虹彩高位付着を認めた(図2).超音波生体顕微鏡では,前房深度が深く虹彩が平坦化(図3)していた.眼底所見は,両眼とも視神経乳頭に同心円状陥凹を認め,陥凹乳頭径比は両眼とも0.7であった.非散瞳下では中間透光体に明らかな異常は認めなかった.以上の所見から手術加療が必要と判断し,全身麻酔下検査に引き続き両眼の線維柱帯切開術を施行した.手術は右眼,左眼の順に施行した.手術手技:両眼とも同様に,①円蓋部基底で結膜切開し,②12時の強膜を止血して4×4mmの2重強膜弁を作製した後,③Schlemm管を開放し,④両側に径15mmのトラベクロトームを挿入後,⑤ゴニオプリズムでトラベクロトームの位置を確認して回転・抜去し,⑥深層弁を切除して浅層弁を10-0ナイロンRで2糸縫合後,結膜縫合した.術後経過:術後10日目のトリクロホスナトリウムによる催眠鎮静下での眼圧は,眼圧下降薬を使用することなく両眼15mmHg(トノペンR)であり,角膜浮腫も消失していた.あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016135 図5全身麻酔下検査時(2007年9月11日,2歳2カ月,術後19カ月)の右眼視神経乳頭手術顕微鏡下でスリット照明と硝子体レンズを使用して観察(倒像).手術時と比較し陥凹乳頭径比が0.3に減少していた.051015202530354045-1012345678910眼圧(mmHg)右眼(mmHg)左眼(mmHg)術後年数(year)図7眼圧経過生後246日,全身麻酔下で精査後,両眼TLO施行.術前までは,イソプロピルウノプロストンとプリンゾラミドを点眼していたが,術後より111カ月間,眼圧下降薬の点眼なしで,右11.6±3.0mmHg,左11.8±3.2mmHgを維持している.矢印:両眼トラベクロトミー施行,術後は両眼に眼圧下降薬の追加はしていない.その後も催眠鎮静下での測定眼圧は良好のまま経過し,外来通院にて経過観察を継続した.2007年9月11日(2歳2カ月,術後19カ月)に再び全身麻酔下で精査を行ったところ,角膜径は,右眼12.5mm(横径),左眼12.5mm(横径)と角膜径の増大は認めなかった.CCTは,右眼363μm,左眼369μmであり,術前に認めた角膜浮腫の影響がなくなったことで著明な菲薄化が確認された.眼軸長は右眼24.76mm,左眼24.80mm,屈折値は右136あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016図6眼底写真(2012年10月4日,7歳3カ月,術後79カ月)上段が右眼,下段が左眼の視神経乳頭写真.右眼陥凹乳頭径比はさらに減少した.眼:.11.50D(cyl.0.75DAx75°,左眼:.10.00D(cyl.3.00DAx90°(トロピカミド+フェニレフリン塩酸塩による調節麻痺下)と強度の軸性近視が認められた.この時期のTAC(TellerAcuityCards)による両眼視力は(0.02)であったため,屈折矯正眼鏡による弱視治療を開始した.また,左眼の瞳孔領から離れた白内障(図4)以外には,両眼とも中間透光体に明らかな異常は認めなかった.全身麻酔下の眼圧は,右眼10mmHg,左眼11mmHg(トノペンR)であり,陥凹乳頭径比は両眼0.3(右眼:図5)に減少していた.2010年11月4日(5歳4カ月,術後56カ月)に再び施行した全身麻酔下での精査では,角膜径は右眼12.5mm(横径),左眼12.5mm(横径)と変化は認めず,CCTは右眼395μm,左眼373μm,眼軸長は右眼25.62mm,左眼26.26mmであった.2012年10月4日(7歳3カ月,術後79カ月)に,トリク(136) ロホスナトリウムによる催眠鎮静下で検査を施行し,眼圧は右眼11mmHg,左眼12mmHg,陥凹乳頭径比は0.3であった(図6).この時期の屈折値は右眼:.12.00D(cyl.2.00DAx90°,左眼:.9.00D(cyl.1.00DAx90°(シクロペントレート調節麻痺下)であった.発達遅延のためLandolt環による視力検査はできなかったが,絵視標によるこの時期の視力は,VD=(0.1),VS=(0.1)であった.最終観察時である2015年6月4日(9歳11カ月,術後111カ月)にトリクロホスナトリウムによる催眠鎮静下で施行した検査では,眼圧が右眼12mmHg,左眼12mmHg,陥凹乳頭径比は0.3のままであった.この時期の屈折値は右眼:.12.50D(cyl.3.00DAx90°,左眼:.11.00D(シクロペントレート調節麻痺下)であった.絵視標によるこの時期の視力は,VD=(0.15),VS=(0.15)であった.術後111カ月間の眼圧は,眼圧下降薬の使用なしで,右眼11.6±3.0mmHg,左眼11.8±3.2mmHg(トノペンRおよびicareR)に安定していた(図7).II考按Down症候群は,21番染色体のトリソミーを呈する常染色体異常症で,わが国でも出生600.700人に対し1人と発症頻度が高く,多彩な全身合併症17)が知られており,眼合併症状も多岐にわたる7.17).緑内障の合併に関して,LizaSharminiらが6.7%(4例)と報告13)しているが,彼らの報告のなかの4例のうち,2例は発達緑内障,1例は緑内障疑い,1例は慢性ぶどう膜炎に伴う続発性緑内障であったと考察で述べている.Caputoらは5.3%(10例)と報告14)しているが詳細は不明であり,他の疫学調査報告8.10,12,15)も発達緑内障と記載されているものもあるが詳細不明である.一方で所見や治療経過などについて書かれた症例報告は,筆者らが調べた限りでは,Down症候群以外の先天異常を合併しないものでは,Traboulsiらの5症例の報告19),白柏らの1症例の報告20),McClellanらの1症例の報告21),およびJacobyらの1症例の報告22)のみである.しかし,McClellanらの症例は47歳で発症した毛様体ブロック緑内障,Jacobyらの症例は42歳で発症した悪性緑内障であり,どちらも発達緑内障ではない.また,Down症候群以外の先天異常も伴うものでは,Rieger奇形を伴っていたDarkらの報告23)と,ICE症候群を伴っていたGuptaらの報告24)があるが,どちらの報告もDown症候群ではないほうの先天異常に特徴的な所見が原因で緑内障を発症している.筆者らの症例のように,Down症候群以外の先天異常を伴わない発達緑内障であるTraboulsiらの5症例と白柏らの1症例について以下で比較検討してみる.なお,本症例を含め全症例でステロイド治療歴はない.隅角所見については,Traboulsiらの報告では1症例での(137)みで記載されており,両眼に虹彩根部からSchwalbe線に至る半透明膜を認め,右眼に線維柱帯から虹彩根部に伸びる白い虹彩歯状突起を認めたと記されている.また,白柏らの症例では右眼の虹彩高位付着と色素沈着と記されている.筆者らの症例も両眼の虹彩高位付着であった.治療に関して,Traboulsiらの症例は,4例が両眼でgoniotomyを施術され,1例が両眼でトラベクロトミーを施術されてすべて有効であったと記されている.白柏らの症例は,右眼のみの発症でND:YAGレーザー隅角穿刺術とbブロッカー点眼でいったん眼圧は正常化したが,再び上昇してトラベクロトミーを施術され,その後は緑内障点眼なしで経過良好であったと記されている.筆者らの症例もトラベクロトミーが奏効した.したがって,Down症候群の隅角異常は染色体異常との因果関係は不明だが,隅角所見と手術成績から他の発達緑内障と共通するものと考えられる.Catalanoはその希少性から染色体異常とは無関係に発症するものと考えている17).角膜厚について,Down症候群児では正常小児のCCT(500.600μm程度)より50μm程度薄いことが知られているが25,26),本症例での術後19カ月でのCCT(右眼363μm,左眼369μm)は,Down症候群児のCCTの平均値(約490μm)と比べて約25%も菲薄化していた.Traboulsiらの報告も白柏らの報告も角膜厚についての記載はなかった.薄い角膜厚によって眼圧測定値が過小評価されることが報告されており,角膜厚による眼圧補正に関して,Kohlhaasら27)が前房カニューラとGoldmann眼圧計を用いて導いた健常成人に対する眼圧補正回帰式ΔIOP=(.0.0423×CCT+23.28)mmHgを報告している.これによると,CCTが550μmよりも100μm薄いと約4mmHg眼圧が低く測定されることになる.しかし,これはCCTが462.705μmの範囲で決められたものであるうえ,Down症候群児では角膜性状が健常児と同等とは限らず,本症例に適用することはできない(本症例ではさらに眼圧測定にトノペンRおよびi-careRを使用した).したがって,先天異常を伴う発達緑内障では,角膜性状が先天異常の種類によってもまたDown症候群児間でも同等とは限らず,角膜厚もさまざまであるので,眼圧測定値を過去の文献データなどとは単純には比較できず,病状管理には眼圧以外の指標も重要である.本症例では,術後の乳頭陥凹の回復28)が維持されていたことから,術後の眼圧コントロールは良好であったと考えられる.白柏らの症例は20歳で発見された片眼の症例であるが,術後に乳頭陥凹が回復したことを乳頭形状立体解析装置(TopconIMAGEnet)によって証明している.乳頭陥凹の回復に関しては健常成人での報告もあり29,30),組織柔軟性が高い小児では陥凹乳頭径比が眼圧コントロールのよい指標である.しかし,早発型発達緑内障の術後で乳頭陥凹を認めない場合でも著明な眼軸伸長を認めた症例を松岡らが報告31)しており,眼軸長にも注あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016137 意が必要である.本症例では,2歳2カ月(術後19カ月)での眼軸長が25mm弱と,健常児の21.22mm32)に比べると3mm程度も長く,等価球面度数で.11.00D以上の強度軸性近視となっていた.Down症候群児に屈折異常が多いことは数多く報告されているが7.15,33),わが国において,富田らの報告では,健常児と同様に遠視が多いことが示されている一方で近視側には幅広い分布を示すことが示されており,.6D以上の強度近視が4.0%,そのうち.10D以上の強度近視も413眼中12眼(2.9%)に認めたと記されている7).また,伊藤らの報告も同様の傾向を示しており,.6.0D以上の強度近視が278眼中6眼(2.2%)に認めたと記されている33).彼らの報告にはどちらも緑内障の合併例はない.一方,発達緑内障を合併したDown症候群では,Traboulsiらの症例5例10眼中4例7眼が.8.00D以上の強度近視であった.したがって,Down症候群児では何らかの近視化要因があるために,早発型の発達緑内障を合併すると高眼圧による眼球伸展によってより高度の近視となる可能性がある.その機序として,薄い角膜,円錐角膜やBrushfield斑に関連する膠原線維異常が強膜にも存在し,眼圧負荷による眼球伸展が起こりやすいことが示唆される.本症例では,眼圧下降後の2歳2カ月(術後19カ月).5歳4カ月(術後57カ月)の38カ月間での眼軸伸長は,右眼で+0.86mm,左眼で+1.46mmであった.健常児の成長曲線31)によるとこの年齢では約+0.7±0.9mm(平均±標準偏差)の眼軸伸長があることから,本症例での眼軸伸長は健常児の2標準偏差以内にあり,眼軸伸長から推測すると眼圧経過は良好であったと考えられる.一方,弱視治療開始前の最高両眼視力(0.02)(TACで両眼視力しか測定できず)に対し,弱視治療開始から最終観察時までの絵視標による視力は,VD=(0.15),VS=(0.15)と向上していたが,こうした高度の軸性近視は弱視だけでなく網膜.離のリスクも高くなるので,強度近視に伴う眼底疾患にも注意が必要である.前述のTraboulsiらの5症例の報告では,強度近視の4例中,長期に経過観察できた2例が最終的には網膜.離により高度の視力障害を残したと記されている19).おわりに今回筆者らは,Down症候群を伴う両眼性の発達緑内障というまれな症例に対し,生後早期の線維柱帯切開術が奏効し10年という長期にわたり良好な経過が得られている1例を報告し,現在も経過観察中である.Down症候群では膠原線維異常も認められるが,1歳未満の急激な眼球成長期における高眼圧曝露が角膜の菲薄化と強度軸性近視を残したと考えられるため,できる限り早期に眼圧を正常化し,こうした視機能障害を軽減させることが重要である.138あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌116:1-46,20122)HenriquesMJ,VessaniRM,ReisFAetal:Cornealthicknessincongenitalglaucoma.JGlaucoma13:185-188,20043)前田秀高,根木昭:小児緑内障.眼科43:895-902,20014)勝島晴美:先天緑内障の治療.臨眼56:241-244,20025)滝沢麻里,白土城照,東郁郎:先天緑内障全国疫学調査結果(1992年度).あたらしい眼科12:811-813,19956)BardelliAM,HadjistilianouT,FrezzottiR:Etiologyofcongenitalglaucoma.Geneticandextrageneticfactors.OphthalmicPaediatrGenet6:265-270,19857)富田香,釣井ひとみ,大塚晴子ほか:ダウン症候群の小児304例の眼所見.日眼会誌117:749-760,20138)RoizenNJ,MetsMB,BlondisTA.:OphthalmicdisordersinchildrenwithDownsyndrome.DevMedChildNeurol36:594-600,19949)WongV,HoD:OcularabnormalitiesinDownsyndrome:ananalysisof140Chinesechildren.PediatrNeurol16:311-314,199710)KimJH,HwangJM,KimHJetal:CharacteristicocularfindingsinAsianchildrenwithDownsyndrome.Eye(Lond)16:710-714,200211)FimianiF,IovineA,CarelliRetal:IncidenceofocularpathologiesinItalianchildrenwithDownsyndrome.EurJOphthalmol17:817-822,200712)CreavinAL,BrownRD:OphthalmicabnormalitiesinchildrenwithDownsyndrome.JPediatrOphthalmolStrabismus46:76-82,200913)Liza-SharminiAT,AzlanZN,ZilfalilBA:OcularfindingsinMalaysianchildrenwithDownsyndrome.SingaporeMedJ47:14-19,200614)CaputoAR,WagnerRS,ReynoldsDRetal:Downsyndrome.Clinicalreviewofocularfeatures.ClinPediatr28:355-358,198915)KarlicaD,SkelinS,CulicVetal:TheophthalmicanomaliesinchildrenwithDownsyndromeinSplit-DalmatianCounty.CollAntropol35:1115-1118,201116)CullenJF,ButlerHG:Mongolism(Down’ssyndrome)andkeratoconus.BrJOphthalmol47:321-330,196317)CatalanoRA:Downsyndrome.SurvOphthalmol34:385-398,199018)DonaldsonDD:Thesignificanceofspottingoftheirisinmongoloids(Brushfield’sspots).ArchOphthalmol65:26-31,196119)TraboulsiEI,LevineE,MetsMBetal:InfantileglaucomainDown’ssyndrome(trisomy21).AmJOphthalmol105:389-394,198820)白柏麻子,白柏基宏,高木峰夫ほか:発育異常緑内障と種々の眼疾患を合併したダウン症候群の1例.眼紀41:21082111,199021)McClellanKA,BillsonFA:SpontaneousonsetofciliaryblockglaucomainacutehydropsinDown’ssyndrome.AustNZJOphthalmol16:325-327,1988(138) 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線維柱帯切開術が有効であった色素血管母斑症を伴う発達緑内障の1例

2013年7月31日 水曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(7):1014.1016,2013c線維柱帯切開術が有効であった色素血管母斑症を伴う発達緑内障の1例岡安隆松原みどり小林かおり岡田守生倉敷中央病院眼科PhacomatosisPigmentovascularisResultinginDevelopmentalGlaucomaforwhichTrabeculotomywasClinicallyEffectiveTakashiOkayasu,MidoriMatsubara,KaoriKobayashiandMorioOkadaDepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital太田母斑とSturge-Weber症候群(以下,SW症候群)を合併した色素血管母斑症による発達緑内障で,線維柱帯切開術が奏効した症例を報告する.症例は,生後22日に左眼角膜が大きく,ときに白濁することを主訴に当科を受診した女児.初診時の眼圧は正常であったが左眼角膜浮腫を認め,顔面の血管腫と色素性母斑,体幹四肢に血管腫があり,太田母斑とSW症候群が併存する色素血管母斑症と診断した.その後の経過観察中に,左眼眼圧上昇と左眼視神経乳頭陥凹が拡大してきたため,3歳2カ月時に左眼線維柱帯切開術を施行した.術中所見でSchlemm管内壁に強い色素沈着を認めた.術後,左眼眼圧は下降した.本例では隅角線維柱帯に著しい色素沈着を認め,術後速やかに眼圧下降を得たことなどから,眼圧上昇の原因として母斑症に伴う線維柱帯の色素沈着による房水流出抵抗の増加が考えられた.WedescribeacaseofphacomatosispigmentovasculariswithnevusofOtaandSturge-Webersyndromeresultingindevelopmentalglaucomaforwhichtrabeculotomywasclinicallysuccessful.A22-day-oldfemalepresentedwithedemaoftheleftcorneaandcornealwhitening.Physicalfindingsrevealednoelevationofintraocularpressure,butrevealedhemangiomaofthefaceandextremities,andfacialnevuspigmentosus.Thepatientwasdiagnosedwithphacomatosispigmentovascularisandfollow-upwascarriedout.At3yearsand2monthsofage,elevatedintraocularpressurewasobservedinthelefteyeandtrabeculotomywasperformed,revealingpigmentationoftheinnerwallofSchlemm’scanal.Postoperatively,intraocularpressurereductionwasobserved,thepatient’sclinicalcoursebeingsatisfactory.IncreasedaqueousoutflowresistanceresultingfromnevusofOtawithtrabecularmeshworkpigmentationwasconsideredtobethecauseoftheelevatedintraocularpressure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(7):1014.1016,2013〕Keywords:発達緑内障,色素血管母斑症,太田母斑,Sturge-Weber症候群.developmentalglaucoma,phacomatosispigmentovascularis,nevusofOta,Sturge-Webersyndrome.はじめに太田母斑とSturge-Weber症候群(以下,SW症候群)は,それぞれ単独でも緑内障を合併することが知られている.太田母斑などの色素性母斑と,SW症候群などの単純性血管腫が併存する病態が,色素血管母斑症である.色素血管母斑症の報告は多いが,緑内障を合併し手術を行った報告は少ない1).今回,太田母斑とSW症候群を合併した色素血管母斑症の発達緑内障に対して,線維柱帯切開術を施行し良好な結果を得たので報告する.I症例患者:生後22日,女児.主訴:左眼角膜が大きく,ときに白濁する.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:生下時より左右顔面と体幹,左の上下肢に皮膚血管腫と,左大脳半球の萎縮,頭蓋内血管腫による右半身麻痺,てんかん重積発作を認めておりSW症候群と診断された.角膜径の左右差と左眼角膜混濁の消長がみられるため,〔別刷請求先〕岡安隆:〒710-8602倉敷市美和1-1-1倉敷中央病院眼科Reprintrequests:TakashiOkayasu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital,Miwa1-1-1,Kurashiki,Okayama710-8602,JAPAN101410141014あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(132)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図1眼瞼所見写真両眼瞼に血管腫と色素性母斑を認めるが,形成外科にて5回レーザー照射療法を施行されており淡くなっている.30250:右眼:左眼右眼ラタノプロスト,チモロール図4強膜所見写真20強膜表層に色素沈着を認める(▲).15105眼圧(mmHg)図2術前眼圧推移鎮静下アプラネーション眼圧計にて眼圧を測定した.図3強膜所見写真上強膜血管異常を認める.平成20年10月,生後22日に当院小児科より紹介となった.初診時,鎮静下での眼圧は右眼6.7mmHg,左眼12.18mmHgであった.両眼の上強膜血管異常,強膜色素性母斑,左眼角膜浮腫を認めた.角膜横経は右眼10mm,左眼11mmであった.両眼前房深度は正常で中間透光体,網膜,脈絡膜に異常はなかった.陥凹・乳頭比は,右眼0.2,左眼(133)図5Schlemm管所見写真Schlemm管内壁に強い色素沈着を認める(▲).0.2であり,視神経乳頭陥凹拡大に左右差はなく,明らかな眼圧上昇もなかったため経過観察した.てんかん重積発作を繰り返すため,平成21年5月に他院にて大脳離断術を施行されたが,他院入院中に左眼眼圧が25mmHgまで上昇したため,ラタノプロストとチモロールの点眼を開始された.平成21年6月に当院形成外科にて両側三叉神経第1枝領域に太田母斑を指摘され,色素性母斑と単純性血管腫が併存する色素血管母斑症と診断された(図1).両眼に色素血管母斑症を認めたが,右眼は眼圧10mmHg台前半でほぼ推移していたため無点眼で経過観察した.左眼は眼圧降下剤2剤を継続していたが,平成23年11月,3歳2カ月時に左眼眼圧上昇(図2)と左眼視神経乳頭陥凹の拡大〔C/D(陥凹乳頭)比0.5〕を認めたため,同月に左眼線維柱帯切開術を施行した.手術は一重強膜弁で11時方向から行った.術中,上強膜血管の異常と,強膜浅層の色素沈着,Schlemm管内壁に強い色素沈着があった(図3.5).強膜厚は正常で,Schlemmあたらしい眼科Vol.30,No.7,20131015 30管母斑症による緑内障患者の特徴的所見として,顔面の血管眼圧(mmHg)252015105:右眼:左眼性母斑と上強膜の血管異常,前眼部の色素性母斑がある1,9).また,隅角の色素沈着が高度であるほど,眼圧上昇が大きく,発症が早い傾向を認めるとの報告がある1).本症例は,両眼瞼に血管腫を認めたが,とりわけ左眼の血管腫が大きかった.左眼術中所見で上強膜の血管異常と上強膜の色素性母斑,Schlemm管内壁には高度色素沈着がみられた.太田母斑に緑内障が合併する機序として,線維柱帯でのメラノサイトやメラニン顆粒の増加による房水流出障害と先天性の隅角形成異常などから眼圧上昇をきたすと推測されている4,5)が,結論は得られていない.他方SW症候群では上強膜静脈圧の上昇と,隅角の発生異常が眼圧上昇の機序として推測されている.組織学的にはSchlemm管の形態異常や,Schlemm管に相当する部位に弾性線維を取り巻く顆粒状物質やコラーゲン線維,線維柱帯細胞,メラノサイト,血管様構造などが存在しSchlemm管が確認できない症例が報告されている7).本症例で線維柱帯切開術を選択した理由は,隅角の形成異常は明らかでないが,線維柱帯の高度色素沈着を認めており太田母斑による緑内障では線維柱帯切開術が奏効している報告があること,若年者であり線維柱帯切除術では術後濾過胞の管理がむずかしいと考えたためである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TeekhasaeneeC,RitchR:Glaucomainphakomatosispigmentovascularis.Ophthalmology104:150-157,19972)OtaM:Naevusfusco-caeruleusophthalmo-maxillaris.TokyoMedJ63:1243-1245,19393)TeekhasaeneeC,RitchR,RutninUetal:Glaucomainoculodermalmelanocytosis.Ophthalmology97:562.570,19904)藤田智純,藤井一弘,田中茂登ほか:線維柱帯切開術が奏効した太田母斑に伴った遅発型発達緑内障の1例.あたらしい眼科25:1027-1030,20085)若山かおり,国松志保,鈴木康之ほか:線維柱帯切開術が奏効した太田母斑に伴った開放隅角緑内障の1例.あたらしい眼科17:1689-1693,20006)SujanskyE,ConradiS:OutcomeofSturge-Webersyndromein52adults.AmJMedGenet57:35-45,19957)赤羽典子,浜中輝彦:Sturge-Weber症候群に伴う緑内障について組織学的検討を行った1例.日眼会誌105:705710,20018)HasegawaY,YasuharaM:PhakomatosispigmentovascularistypeIVa.ArchDermatol121:651-655,19859)LeeH,ChoiSS,KinSSetal:AcaseofglaucomaassociatedwithSturge-WebersyndromeandnevusofOta.KoreanJOphthalmol15:48-53,2001(134)0図6術後眼圧推移無点眼で左眼眼圧コントロール良好となった.管は正常な位置に同定された.両側の線維柱帯を切開し手術を終了した.Bloodrefluxは両側に通常程度みられた.術直後より左眼眼圧は下降し,術後10カ月の経過は無点眼にて眼圧コントロール良好であった(図6).II考按今回,筆者らは太田母斑とSW症候群を合併した続発緑内障に対して,線維柱帯切開術を施行し緑内障点眼なしで10台前半の眼圧下降を得ることができた.術中,上強膜血管異常およびSchlemm管内壁に著明な色素沈着があった.線維柱帯切開術を行うことで速やかに眼圧が房水静脈圧に等しい値まで下降していることから,本症例の眼圧上昇機序は上強膜静脈圧の上昇ではなく,母斑症に伴う線維柱帯色素によるSchlemm管内壁の房水流出抵抗の上昇と推測された.太田母斑は,1939年に太田・谷野により初めて報告2)され,三叉神経第1,2枝領域に生じる褐青色母斑と定義されている.日本での発症頻度は1万人に1人であり,太田母斑患者の半数で強膜,虹彩,眼底に色素沈着を認める.太田母斑患者で眼圧上昇を認める症例は約10%という報告がある3)が,眼圧上昇は軽度な症例が多い.手術療法に至った症例は少ないが,線維柱帯切開術が奏効した報告が散見される4,5).SW症候群は,胎生6週に形成される一次血管叢が,神経堤の障害により残存し,間葉組織由来の皮膚組織,脈絡膜,脳軟膜などが傷害される症候群であり,30.60%に緑内障が合併するとの報告がある6,7).SW症候群に合併する緑内障の眼圧上昇の機序は上強膜静脈圧によるものと,強膜岬の欠損や形成障害,線維柱帯の肥厚や膜様組織の形成などの隅角形成異常が報告されている.色素血管母斑症は,皮膚単純性血管腫と色素性母斑が同部位で合併するものであり,ほぼアジア人にしか報告がなく,遺伝性はない8).合併する母斑の形態によってサブタイプに分類されており2型の青色母斑によるものが全体の8割を占める.本症例は太田母斑が合併する2型に相当する.色素血1016あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013

チューブシャント手術を行った発達緑内障の2 例

2012年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(10):1411.1414,2012cチューブシャント手術を行った発達緑内障の2例田口万藏*1中村友美*2小林隆幸*2竹中丈二*3木内良明*3*1済生会呉病院眼科*2市立三次中央病院眼科*3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)TubeShuntOperationsinTwoCasestoRemedyDevelopmentalGlaucomaManzoTaguchi1),TomomiNakamura2),TakayukiKobayashi2),JojiTakenaka3)andYoshiakiKiuchi3)1)DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiKureHospital,2)DepartmentofOphthalmology,MiyoshiCentralHospital,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity複数回の線維柱帯切開術(TLO)や線維柱帯切除術(TLE)を行ったが,良好な眼圧コントロールが得られずチューブシャント手術を行った発達緑内障を2例経験したので報告する.症例1は0歳,女児.両眼Peters’anomaly,発達緑内障と診断し,TLOとTLEを2回ずつ行ったが眼圧コントロールが不良のためにチューブシャント手術を行った.症例2は0歳,女児.両眼先天無虹彩症,発達緑内障に対してTLOを2回とTLEを1回行ったが眼圧コントロールが不良でありチューブシャント手術を行った.計4眼のうち3眼は最終手術から1年以上22mmHg未満の眼圧を維持している.1眼は白内障術後に眼内炎を生じて眼球癆になった.チューブシャント手術は難治性の小児緑内障に対して適した術式の一つになりうる.Wereporttubeshuntoperationsthatwereperformedtocorrecttwocasesofdevelopmentalglaucoma,becausegoodintraocularpressurecontrolwasnotprovidedbyrepeatedtrabeculotomy(TLO)andtrabeculectomy(TLE).Case1,afemale(age:0years),wediagnosedasbilateralPerters’anomalyanddevelopmentalglaucoma.SheunderwentTLOandTLEtwiceeach,butgoodintraocularpressurecontrolwasnotachieved.Wethereforeperformedtubeshuntoperations.Case2,afemale(age:0years),wediagnosedasbilateralaniridiaanddevelopmentalglaucoma.SheunderwentTLOtwiceandTLEonce,butgoodintraocularpressurecontrolwasnotachieved.Wethereforeperformedtubeshuntoperations.Intraocularpressurewasmaintainedatlessthan22mmHgin3of4eyesforover12monthssincethelastoperation.Theremainingeyesufferedendophthalmitisaftercataractsurgery;phthisisbulbiresulted.Tubeshuntoperationcanbeoneofthesuitabletreatmentforrefractoryinfantiledevelopmentalglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1411.1414,2012〕Keywords:発達緑内障,チューブシャント手術,アーメド緑内障バルブ,バルベルト緑内障インプラント.developmentalglaucoma,tubeshuntoperation,AhmedTMGlaucomaValve,BaerveldtRGlaucomaImplant.はじめに発達緑内障は隅角の発達異常のために房水流出が障害されて眼圧が上昇する.本疾患の発生頻度は出産10,000.12,500に1人で,平均的な眼科医が経験する率は5.10年に1例といわれているまれな疾患である1).その発症が視力発達の時期と重なるため,現在でもなお主要な小児の失明原因の一つであり,わが国の盲学校の失明者のうち4.1%が本症によると報告されている2).本症の治療は手術療法が主体であり,房水流出抵抗の最も高い傍Schlemm管結合組織の抵抗を解除する目的で,線維柱帯切開術や隅角切開術が第一選択とされる.しかし,複数回の手術を行っても眼圧のコントロールが不良な場合も少なくない.欧米において難治性緑内障に対してはチューブシャント手術を行うことが一つの選択肢とされる.今回,複数回の線維柱帯切開術や線維柱帯切除術を行ったが,良好な眼圧コントロールが得られなかったためにチューブシャント手術を行った難治性の発達緑内障の2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕0歳,女児.〔別刷請求先〕田口万藏:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学Reprintrequests:ManzoTaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(95)1411 abab図1症例1の初回手術時の前眼部写真a:右眼,b:左眼.両眼とも高度の角膜混濁がある.主訴:両眼角膜混濁.既往歴:ラトケ(Rathke).胞.家族歴:特記事項なし.現病歴:2008年4月1日帝王切開(在胎40週,2,812g)で出生した.出生時から両眼の角膜混濁があるため4月9日(生後8日目)広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初回手術時検査所見:角膜は両眼とも中央部は混濁し,輪部からの血管侵入があり,混濁は左眼のほうが強かった(図1).超音波生体顕微鏡では角膜中央部が周辺部よりも薄く,両眼とも瞳孔縁と角膜後面の癒着はなかった.網膜徹照は良好であったが,角膜混濁のため眼底は透見不良であった.超音波Bモード上,眼内に異常はなかった.眼圧はSchotz眼圧計で右眼24.4mmHg,左眼37.2mmHg,Tonopen眼圧計で右眼19.0mmHg,左眼32.0mmHgであった.角膜横径は右眼12.0mm,左眼12.0mmであった.経過:両眼Peters’anomalyあるいは前眼部形成不全に続発した緑内障と診断し,2008年4月11日に両眼とも上方から線維柱帯切開術を行った.5月9日に右眼は耳下側から,左眼は鼻下側から線維柱帯切開術を行い,6月6日に両眼と1412あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012図2症例1の初回チューブシャント手術時の術中写真右眼.GDDを挿入しているところ.も上方からマイトマイシンC併用線維柱帯切除術,8月26日に両眼濾過胞再建術を追加した.しかし,良好な眼圧コントロールが得られなかったため,12月12日に両眼とも耳下側からglaucomadrainagedevices(GDD)(AhmedTMGlaucomaValveFP8)を挿入した(図2).GDD周囲に線維膜増殖が生じて眼圧が上昇してきたために2009年3月6日と6月19日に両眼GDD周囲の癒着を.離した.7月15日,左眼の眼脂が急に増えGDD周囲から上下眼瞼結膜に強い充血を伴っていた.結膜創が解離してGDDを含んだ領域が感染症を生じていたために7月17日に左眼GDDを除去した.炎症がおさまると再度眼圧が高くなったために8月21日に再び左眼の耳上側からGDD(AhmedTMGlaucomaValveFP8)を挿入した.9月29日に左眼,2010年2月5日に両眼のGDD周囲の癒着を.離した.8月27日に右眼のGDD周囲の癒着を.離し,左眼に対し耳下側から2個目のGDD(BaerveldtRGlaucomaImplant250)を挿入した.2011年1月14日に右眼に対しても耳上側から2個目のGDD(BaerveldtRGlaucomaImplant250)を挿入した.左眼の眼圧コントロールは良好であったが超音波生体顕微鏡上,水晶体の著明な膨隆があったため,2月4日に内視鏡下で左眼の白内障手術を行った.経角膜的に23ゲージ硝子体カッターで混濁した水晶体物質を吸引するとともに,水晶体.と前部硝子体の切除を行った.しかし,術後に眼内炎を生じ,3月2日に左眼硝子体手術を行ったが,網膜.離を生じ眼球癆となった.右眼はチューブシャント最終手術後の眼圧は経過良好である.〔症例2〕0歳,女児.主訴:両眼角膜混濁.既往歴:眼以外に異常を指摘されていない.家族歴:特記事項なし.現病歴:2010年9月24日に出生した.出生時から両眼の角膜混濁があり,9月29日(生後5日目)に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.(96) aaaab図3症例2の初回手術時の前眼部写真a:右眼,b:左眼.両眼とも角膜混濁がある.初回手術時検査所見:角膜は両眼とも中央部の混濁,肥厚化および輪部からの血管侵入があった(図3).虹彩は両眼とも根部を残し欠損していた(図4).網膜の徹照は良好であったが,角膜混濁のため眼底は透見不良であった.超音波Bモード上,眼内に異常はなかった.眼圧はSchotz眼圧計で右眼22.8mmHg,左眼22.8mmHg,Tonopen眼圧計で右眼47.3mmHg,左眼52.7mmHgであった.角膜横径は右眼11.6mm,左眼11.0mmであった.経過:小児科で行った腹部エコーで左腎に低エコー領域があったが,病的意義はなく両腎に明らかな腫瘤はなかった.両眼先天無虹彩症,続発発達緑内障と診断し,2010年10月12日に両眼とも上方から線維柱帯切開術を行った.眼圧が下降しても角膜の混濁は改善せず,角膜中央部の角膜厚も周辺部と比べて厚いままであった.そのため先天角膜内皮欠損を伴っていると判断した.眼圧が再度上昇したため11月30日に両眼の耳下側から線維柱帯切開術を施行した.さらには2011年1月11日に両眼の上方からマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を行った.しかし良好な眼圧コントロールが得られなかったため,2011年2月15日に両眼の耳上側からGDD(AhmedTMGlaucomaValveFP8)を挿入した(図5).6月3日に両眼のGDD周囲の癒着.離を必要としたが,両眼とも術後1年間の眼圧経過は良好であった.(97)b図4症例2の初回手術時の超音波生体顕微鏡画像a:右眼,b:左眼.両眼とも角膜中央部は肥厚しており虹彩は短く写っている.図5症例2の初回チューブシャント手術時の術中写真左眼.矢印が指す方向にチューブの先端がある.II考察今回,度重なる線維柱帯切開術や線維柱帯切除術にても眼圧コントロールが不良な難治性の発達緑内障2症例4眼に対し,チューブシャント手術を行うことによって,4眼中3眼は最終手術後良好な眼圧コントロールが得られた.1眼は白内障手術後に眼内炎となった後に網膜.離を生じて,眼球癆になった.発達緑内障の治療は線維柱帯切開術または隅角切開術が第一選択とされている.複数回手術を要する難治症例にはマイあたらしい眼科Vol.29,No.10,20121413 トマイシンC併用線維柱帯切除術を行う.線維柱帯切開術による治療成績は過去の報告によると目標眼圧を20mmHgとした場合,原発性の発達緑内障では65.85%がコントロール良好であったのに対し,他の先天異常を伴う発達緑内障では30.80%と隅角発達異常のみの症例に比べ,手術成績は劣るとの報告がある3).今回は2例とも隅角の発達異常以外の合併症をもっていた.また,早期に発見される先天緑内障は予後不良といわれている4)が,今回の2症例とも出生直後から緑内障と診断されている.線維柱帯切開術の予後が不良であり,複数回の手術を要したことは過去の報告と矛盾しない.度重なる線維柱帯切除術でもコントロール不良となった難治性緑内障への対応は困難である.つぎの選択肢としては毛様体光凝固術,毛様体冷凍凝固術などとともにチューブシャント手術があげられる.毛様体破壊術の侵襲性や合併症を考慮すると,毛様体破壊術の前にチューブシャント手術を行うという選択肢もありうる.症例はいずれも乳児であり,眼球の発育や正常機能を抑制してしまうという点でも,毛様体破壊術はやはり最後に選択されるべきである5).足立ら6)は数回の毛様体破壊術を行ったが,眼圧の改善がなかった発達緑内障の1症例に対し,チューブシャント手術を行ったところ,良好な眼圧コントロールが得られたことも報告している.チューブシャント手術はGDDを設置して房水を眼外に導出させる手術であり,1906年のRolletらの報告に始まり,100年以上にわたり素材や形状の改良を受け今日に至る術式である7).従来,チューブシャント手術は難治性緑内障に対してのみ行われてきたが,前房にGDDを挿入したBaerveldtRGlaucomaImplantとマイトマイシンC併用線維柱帯切除術との前向き比較試験であるTheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)Study8)にて,比較的軽症な緑内障症例でもマイトマイシンC併用線維柱帯切除術群よりもチューブシャント手術群の眼圧成績が良く,合併症も少ないという報告があった.その結果を受け,米国では従来よりも早い段階からチューブシャント手術を導入する傾向がある9,10).国内において前房留置型チューブシャント手術の成績は必ずしも良いものではない.その理由として,対象が難治性の緑内障であることの他に,人種が異なる影響も示唆されている11).一方で,同じ黄色人種である中国人ではチューブシャント手術の結果は白色人種と変わらないという報告もある12).今回の2例は難治性の発達緑内障であるが,4眼中3眼は最終手術から12カ月以上良好な眼圧が維持できた.症例1はAhmedTMGlaucomaValve挿入時には繰り返しGDD周囲の線維膜の.離が必要であったが,BaerveldtRGlaucomaValve手術後の眼圧は良好に保たれている.TheAhmedBaerveldtComparison(ABC)Study13)においては,1年後の目標眼圧を14mmHg以下とすると眼圧下降率がBaerveldtRGlaucomaImplantのほうが良好であるが,重篤な合併症はAhmedTMGlaucomaValveのほうが少ないと報1414あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012告されている.一方で眼圧下降率や合併症などは両者に差はないとする報告がある14).AhmedTMGlaucomaValveの最大の特徴は内圧が8mmHgで開放する弁を有していることである.素材は従来はポリプロピレンであったが,最近はシリコーン製であり,プレート面積は184mm2と96mm2の製品があるが,今回は小児用のサイズの小さいAhmedTMGlaucomaValveFP8を挿入した.BaerveldtRGlaucomaImplantは弁を有していない.素材はシリコーン製であり,プレート面積は350mm2と250mm2の製品があるが,今回は250mm2のサイズのものを挿入している.それらの要因が今回の結果に影響を与えていることが推測される.小児では,レーザー切糸術を含めて術後のケアを十分に行うことは困難である.したがって合併症がより少なく,術後の処置が少ない術式を選択したい.現時点で,チューブシャント手術は小児の難治性の緑内障に対して適した術式の一つになりうると思われる.文献1)前田秀高,根木昭:小児緑内障.眼科43:895-902,20012)山本節,溝上國義,勝盛紀夫ほか:先天緑内障の長期予後.あたらしい眼科4:1503-1508,19873)原田陽介,望月英毅,高松倫也ほか:発達緑内障における線維柱帯切開術の手術成績.眼科手術23:469-472,20104)根木昭:小児緑内障の診断と治療.あたらしい眼科27:1387-1401,20105)福地健郎:毛様体破壊術に踏み切るとき.あたらしい眼科19:1441-1446,20026)足立初冬,高橋宏和,庄司拓平ほか:経毛様体扁平部挿入型インプラントで治療した難治性緑内障.日眼会誌112:511-518,20087)RolletM,MoreauM:Traitementdelehypopyonparledrainagecapillariedelachamberanterieure.RevGenOphthalmol25:481-489,19068)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:Three-yearfollow-upoftheTubeVersusTrabeculectomyStudy.AmJOphthalmol148:670-684,20099)石田恭子:インプラント手術の可能性.あたらしい眼科27:1089-1090,201010)石田恭子:インプラント手術.臨眼65(増刊号):228-232,201111)高本紀子,林康司,前田利根ほか:AhmedTMGlaucomaValveの手術成績.あたらしい眼科17:281-285,200012)LaiJS,PoonAS,ChuaJKetal:EfficacyandsafetyoftheAhmedglaucomavalveimplantinChineseeyeswithcomplicatedglaucoma.BrJOphthalmol84:718-721,200013)BudenzDL,BartonK,FeuerWJetal:TreatmentoutcomesintheAhmedBaerveldtComparisonStudyafter1yearoffollow-up.Ophthalmology118:443-452,201114)SyedHM,LawSK,NamSHetal:Baerveldt-350implantversusAhmedvalveforrefractoryglaucoma:acase-controlledcomparison.JGlaucoma13:38-45,2004(98)

早発型発達緑内障の兄妹発症例

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)1577《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(11):1577.1580,2010cはじめに早発型発達緑内障は,先天的隅角形成異常に起因する疾患である.発症頻度はわが国での全国調査によると10万人に1人である1).約10%の症例で常染色体劣性遺伝形式をとるが,ほとんどが孤発例であり2),同胞発症は非常に珍しいと考えられる.今回早発型発達緑内障の兄妹発症例にトラベクロトミーを行い,眼圧は下降したものの角膜の改善に時間を要した症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕生後3日目の男児.現病歴:他院産婦人科にて在胎38週6日,出生時体重3,000g,正常分娩にて出生した翌日,看護師が両眼の角膜混濁に気づき,生後3日目の2002年7月18日,他院小児科より関西医科大学滝井病院眼科を紹介受診した.両眼とも角膜は混濁し,横径11mmであったが,それ以上の詳細な検査は行えなかったため,精査,加療目的で入院となった.なお,母親の妊娠中は特に異常はみられず,また生後小児科〔別刷請求先〕田中春花:〒573-1191枚方市新町2-3-1関西医科大学枚方病院眼科Reprintrequests:HarukaTanaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2-3-1Shinmachi,Hirakata-shi,Osaka573-1191,JAPAN早発型発達緑内障の兄妹発症例田中春花*1南部裕之*1,3城信雄*1二階堂潤*1西川真生*1加賀郁子*1安藤彰*2松村美代*1,3髙橋寛二*1*1関西医科大学枚方病院眼科*2関西医科大学滝井病院眼科*3永田眼科SiblingCaseofDevelopmentalGlaucomaHarukaTanaka1),HiroyukiNambu1,3),NobuoJo1),JunNikaido1),MakiNishikawa1),IkukoKaga1),AkiraAndo2),MiyoMatsumura1,3)andKanjiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityTakiiHospital,3)NagataEyeClinic早発型発達緑内障の兄妹発症例を経験した.症例1は生後3日目の男児で,生後1日目に両眼に角膜混濁がみられた.症例2は生後19日目の女児,症例1の妹で,生後6日目に右眼に同様の角膜混濁がみられた.両者とも眼圧上昇,角膜径の増大および虹彩高位付着がみられ早発型発達緑内障と診断した.トラベクロトミー施行後眼圧は下降したが,角膜混濁が残存し当初は先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)の合併も疑った.しかし両者とも術後1~2カ月で角膜は透明になり,のちに症例1の右眼で測定できた角膜内皮撮影によりCHEDの合併は否定された.わが国での早発型発達緑内障の同胞発症の確かな報告は筆者らが調べた限り初めてである.非常にまれなケースと考えられるが,このような症例もあることを念頭におく必要があると思われる.ThisisthefirstreportinJapanofsiblingearlyonsetdevelopmentalglaucoma.Case1,a3-day-oldmale,presentedcornealopacityinbotheyes.Case2,a19-day-oldfemale,theyoungersisterofcase1,presentedcornealopacityintherighteye.Developmentalglaucomawasdiagnosedonthebasisofelevatedintraocularpressure(IOP),buphthalmosandhighirisrootinsertions.AlthoughIOPdecreasedaftertrabeculotomyinbothcases,thecornealopacitiesremained.Congenitalhereditarycornealendothelialdystrophy(CHED)combinedwithdevelopmentalglaucomawasinitiallysuspected,butwasnotsustained,becausetheopacitiesreturnedatseveralweeksafterthesurgery.Intherighteyeofcase1thecornealendothelialcells,whichcouldbecountedaftersurgery,numberedabout2,600/mm2.Siblingcasesofdevelopmentalglaucomaarerare,butaresometimesencountered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1577.1580,2010〕Keywords:発達緑内障,同胞発症,トラベクロトミー,先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ.developmentalglaucoma,siblingonset,trabeculotomy,congenitalhereditarycornealendothelialdystrophy.1578あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(96)にて精査されたが,全身的な異常はみられなかった.家族歴(図1):聴取可能であった家系内で,兄妹以外に緑内障の症例は認めず,血族結婚もなかった.なお,図1にある家系への病歴聴取は両親によって行われたもので,両親以外に眼科検診にて緑内障を含む眼疾患がないことを確認できた者はなかった.両親には関西医科大学枚方病院眼科(以下,当科)で診察を行ったが,隅角・眼底を含め異常はみられなかった.全身麻酔下での所見(生後14日):眼圧は右眼20mmHg,左眼20mmHg(Perkins眼圧計),角膜径(縦×横)右眼11.0×11.0mm,左眼11.0×11.0mmで,両眼とも著明な角膜上皮浮腫がみられた(図2).前房深度は正常で,中間透光体には異常はみられなかった.隅角には虹彩高位付着がみられた.視神経乳頭は蒼白であったが明らかな乳頭陥凹拡大はみられなかった.網膜には異常はみられなかった.経過:眼圧値,角膜および隅角所見より早発型発達緑内障と診断し,同日(生後14日)両眼にトラベクロトミーを12時方向で施行した.術後7日目にトリクロホスナトリウム(10%トリクロリールシロップR)とジアゼパム(ダイアップR)座薬下にて,眼圧は両眼とも15mmHgであった.以後,両眼とも眼圧は14~15mmHgで経過した.角膜上皮浮腫は,右眼は術後1カ月,左眼は術後2カ月で消失した.角膜上皮浮腫消失後に精査したが,Haab’sstriaeはみられなかった.以後5歳まで両眼とも眼圧は14~15mmHgで経過した.2007年10月(生後5歳3カ月),当科受診時,眼圧は両眼とも20mmHgを示した.同年12月に全身麻酔下で再検したところ,右眼28mmHg,左眼22mmHgであったので,両眼にトラベクロトミーを8時方向で再度施行した.なお,再手術時には角膜上皮浮腫はみられなかった.以後眼圧は16mmHg前後で経過し,2009年12月24日(生後7歳5カ月)再来時,ラタノプロスト(キサラタンR)点眼下にて右眼15mmHg,左眼16mmHg(局所麻酔下,Goldmann眼圧計),視力は右眼(0.6×sph.4.5D(cyl.2.75DAx180°),左眼(0.5×sph.2.75D(cyl.0.75DAx180°)であった.なお,角膜内皮細胞数は右眼のみしか測定できなかったが2,666/mm2であった(図3).〔症例2〕生後19日目の女児(症例1の妹).現病歴:関西医科大学枚方病院産婦人科にて在胎40週3日,出生時体重3,320g,正常分娩にて出生した.生後6日目に母親が右眼の角膜混濁に気づき,生後19日目の2008年6月26日,当院小児科より当科紹介受診した.右眼に角膜混濁がみられ,両眼とも角膜横径11mmであったが,それ以上の詳細な検査は行えなかったため,精査,加療目的で入院となった.なお,母親の妊娠中は特に異常はみられず,生後小児科にて精査されたが,全身的な異常はみられなかった.全身麻酔下での所見(生後22日):眼圧は右眼22mmHg,左眼16mmHg(Perkins眼圧計),角膜径(縦×横)右眼11.0×10.5mm,左眼10.5×10.0mmで両眼とも症例1と同様の角膜上皮浮腫がみられたが右眼のほうが著明であった(図4).前房深度は正常で,中間透光体には異常はみられなかった.隅角には虹彩高位付着がみられた.視神経乳頭はC/D比(陥凹乳頭比)(縦)右眼0.7,左眼0.6で網膜には異常は:男:女:緑内障:眼科検診を受けた者症例1症例2図1症例1,症例2の家系図症例1,2の兄妹以外に緑内障の症例はなかった.両親に対しては眼科検診を行ったが異常はなかった.図2症例1の前眼部写真両眼とも角膜径の増大と角膜上皮浮腫がみられる.図3症例1の右眼角膜内皮細胞写真角膜内皮細胞数は2,666/mm2であった.(97)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101579みられなかった.経過:眼圧値,角膜,隅角および視神経乳頭陥凹拡大所見より早発型発達緑内障と診断し,同日(生後22日)両眼にトラベクロトミーを12時方向で施行した.術後7日目に全身麻酔下にて眼圧は右眼10mmHg,左眼12mmHgであった.以後,トリクロホスナトリウム(10%トリクロリールシロップR)とジアゼパム(ダイアップR)座薬下にて眼圧測定を行っているが,10mmHg台前半で経過し,2009年12月24日(生後1歳6カ月)再来時,眼圧は両眼とも13mmHgであった.角膜上皮浮腫は両眼とも術後3週で消失した.なお,Haab’sstriaeは症例1と同様みられなかった.II考按最初にも述べたように,早発型発達緑内障はわが国では10万人に1人の頻度である1).約10%の症例で常染色体劣性遺伝形式をとるほかは孤発例であり2),さらに第一子が早発型発達緑内障であった場合,第二子が緑内障になる確率は3%との報告がある3).よって発達緑内障の同胞発症はまれであると考えられる.1992年のわが国の全国調査1)でも同胞発症に関しての記述はなく,新潟大学での臨床研究では対象となった53例のなかに同胞発症例はなかったと記載されている4).わが国での発達緑内障の同胞発症の報告は,晩発型では報告されている5)が,早発型に関しては兄が発達緑内障であったため受診したという一文の記載がある1例のみ6)で,早発型発達緑内障における同胞発症のわが国での確かな報告は筆者らが調べた限り初めてで非常にまれなケースと考えられる.本報告のみで遺伝相談に生かせるとまでは言えないが,少なくともこのような症例もあることを念頭におく必要がある.最近,早発型発達緑内障の原因遺伝子として,前房隅角の発達に関与するCYP1B1遺伝子の変異が報告されている7~9).一般的に発達緑内障では男児の患者が多いとされている1)が,CYP1B1遺伝子変異群は,非変異群と比べて,女児の占める割合が有意に多く,発症時期は,変異群では非変異群と比べて有意に早期に発症すると報告されている7).今回の症例では遺伝子検査は行っていないが,男児と女児の同胞発症であること,発症時期は男児が生後1日,女児が生後6日と早期の発症であった.既報7)のCYP1B1遺伝子変異群の臨床的特徴を示すものと考えるが,今後患者家族の同意が得られれば,遺伝子検査を行い,CYP1B1をはじめとする既知の緑内障関連遺伝子に関してスクリーニングを行いたい.今回報告した2症例の臨床的特徴として,両者とも生後早期の角膜混濁で発見され,術後に眼圧が下降したにもかかわらず角膜上皮浮腫が1~2カ月残存したことがあげられる.新生児にみられる角膜混濁の原因としては,強膜化角膜やPeters奇形などの先天的奇形,角膜ジストロフィ,先天風疹症候群などに伴う角膜炎,ムコ多糖症などの代謝異常などがあげられる10)が,角膜に血管進入がみられなかったこと,虹彩前癒着がなかったこと,妊娠中に異常がなかったこと,出生後の全身検索で異常がみられなかったことより,角膜ジストロフィの可能性が疑われた.特に角膜全体の上皮浮腫がみられたことから,先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(congenitalhereditarycornealendothelialdystrophy:CHED)の合併を疑った.1995年MullaneyらはCHEDと早発型発達緑内障の合併例について報告し,眼圧下降したのにもかかわらず角膜混濁が残存すれば両者の合併を考慮する必要があるとしている11).症例1の初回の術直後はCHEDの合併を疑ったが,その後患児が成長してのちの角膜内皮撮影では右眼角膜内皮細胞数が約2,600/mm2であった.2症例とも現在も角膜は透明性を維持しておりCHEDの合併例とは考えにくい.通常発達緑内障では眼圧が下降すると速やかに角膜上皮浮腫も消失する.この兄妹例で眼圧下降後も角図4症例2の前眼部写真左:右眼,右:左眼.右眼のほうが角膜上皮浮腫が著明であった.1580あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(98)膜上皮浮腫が遷延した原因は不明だが,角膜内皮に関しては今後も注意深く経過をみる予定である.文献1)滝沢麻里,白土城照,東郁郎:先天緑内障全国調査結果(1992年度).あたらしい眼科12:811-813,19952)DeluiseVP,AndersonDR:Primaryinfantileglaucoma(Congenitalglaucoma).SurvOphthalmol28:1-19,19833)JayMR,PhilM,RiceNSC:Geneticimplicationsofcongenitalglaucoma.MetabOphthalmol2:257-258,19784)今井晃:小児先天緑内障に関する臨床的研究第1報統計的観察.日眼会誌87:456-463,19835)中瀬佳子,吉川啓司,井上洋一:Developmentalglaucoma晩発型の1家系.眼臨86:650-655,19926)森俊樹,加宅田匡子,八子恵子:小児緑内障の手術予後.眼臨92:1236-1238,19987)OhtakeY,TaninoT,SuzukiYetal:PhenotypeofcytochromeP4501B1gene(CYP1B1)mutationsinJapanesepatientswithprimarycongenitalglaucoma.BrJOphthalmol87:302-304,20038)SuriF,YazdaniS,Narooie-NejhadMetal:VariableexpressivityandhighpenetranceofCYP1B1mutationsassociatedwithprimarycongenitalglaucoma.Ophthalmology116:2101-2109,20099)FuseN,MiyazawaA,TakahashiKetal:MutationspectrumoftheCYP1B1geneforcongenitalglaucomaintheJapanesepopulation.JpnJOphthalmol54:1-6,201010)AllinghamR,DamjiK,FreedmanSetal:Congenitalglaucoma.Shield’stextbookofglaucoma.5thedition,p244-246,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,200511)MullaneyPB,RiscoJM,TeichmannKetal:Congenitalhereditaryendothelialdystrophyassociatedwithglaucoma.Ophthalmology102:186-192,1995***

心因性視覚障害に発達緑内障を合併した1例

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(117)15870910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15871591,2008cはじめに学童児の原因不明の視機能障害は,心因性視覚障害の診断で経過観察されていることが少なくなく,器質的疾患が潜在あるいは発症しても,その非特異的な視野異常ゆえ,その発見が遅れたり,見逃されたりする場合がある1).今回筆者らは,心因性視力低下および高眼圧の診断で経過観察されていた11歳児に対し,眼科学的検査を行い,発達緑内障が合併していることをつきとめた.さらに眼圧下降目的に線維柱帯切開術を施行したところ,視力および視野の改善が得られ,まれな1症例と思われたので報告する.I症例患者:11歳,男児.主訴:両眼視力低下.既往歴:なし.家族歴:いとこに心因性視力低下.〔別刷請求先〕竹森智章:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目291番地札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TomoakiTakemori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,S-1W1-16,Chuo-ku,Sapporo060-8543,JAPAN心因性視覚障害に発達緑内障を合併した1例竹森智章*1片井麻貴*2田中祥恵*1大黒幾代*1大黒浩*1*1札幌医科大学医学部眼科学講座*2札幌逓信病院眼科ACaseofPsychogenicVisualDisturbanceComplicatingDevelopmentalGlaucomaTomoakiTakemori1),MakiKatai2),SachieTanaka1),IkuyoOhguro1)andHiroshiOhguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,SapporoTeishinHospital症例は11歳,男児.両心因性視力低下,高眼圧の精査目的に札幌医科大学附属病院眼科を紹介受診.初診時視力は右眼0.02(0.25×3.0D),左眼0.04(0.32×2.5D),眼圧は右眼26mmHg,左眼26mmHgであった.隅角所見は,虹彩の高位付着と多数の虹彩突起を認めた.眼底所見は,両眼とも視神経乳頭陥凹拡大あり,緑内障性変化が考えられた.静的視野検査で両眼に著明な求心性視野狭窄を認め,緑内障性変化は不明であったが,以前にも動的視野検査にて求心性視野狭窄があることから,心因性視覚障害も有しているものと思われた.両眼に対し線維柱帯切開術を行ったところ,視力,眼圧に加えて視野も改善がみられた.本症例は緑内障と心因性視力障害が合併し,緑内障の発見が遅れた可能性がある.よって,心因性視覚障害が疑われた場合にも,くり返し隅角検査や眼底検査,眼圧検査などを行い,緑内障の有無を検索することが必要と思われた.本症例が緑内障手術を契機に視力,視野が改善した詳細な機序については不明であり,今後も経過をみていきたいと考えている.An11-yearoldmalewasreferredtoourhospitalcomplainingofbothvisualdisturbanceandocularhyperten-sion.VisualacuitywasVD=0.02(0.25×3.0D),VS=0.04(0.32×2.5D).Intraocularpressurewas26mmHginbotheyes.Gonioscopydisclosedhighinsertionoftheirisandmanyirisprocessesinbotheyes,buttherewasnoperipheralanteriorsynechia.Funduscamerashowedenlargedcuppingoftheopticnerveheadinbotheyes,indi-catingglaucomatouschange.Furthermore,staticperimetryrevealedconcentriccontractioninbotheyes,indicatingpsychogenicvisualdisturbance.Weperformedtrabeculotomyinbotheyes,afterwhichvisualacuity,intraocularpressureandvisualeldimproved,whichsuggestedthatthepatienthadalsodevelopmentalglaucoma.Althoughitisrareforapatienttohavebothglaucomaandpsychogenicvisualdisturbance,sinceglaucomamaybediscoveredlateritisnecessarytorepeatedlyperformgonioscopy,funduscopy,andtonometry,soastodeterminewhetherthepatienthasglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15871591,2008〕Keywords:心因性視覚障害,発達緑内障,求心性視野狭窄,トラベクロトミー.psychogenicvisualdisturbance,developmentalglaucoma,concentriccontraction,trabeculotomy.———————————————————————-Page21588あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(118)現病歴:2004年5月(9歳時),学校健診の際に視力低下を指摘され近医初診.視力右眼0.1(1.2×1.0D),左眼0.1(1.2×1.25D)で眼鏡処方.2005年4月(10歳時),再度学校健診の際に視力低下を指摘され前医再診.視力右眼0.02(0.06),左眼0.03(0.2)と矯正視力の低下を認め,眼圧右眼21mmHg,左眼21mmHgとやや高値であった.また,動的視野検査(図1)で右眼に著明な求心性視野狭窄,左眼にはイソプター全体の軽度の沈下が認められたため,心因性視覚障害の診断で経過観察していたところ,7月に右眼0.05(0.1),左眼0.1(1.2)と矯正視力改善するも,2006年11月(11歳時),視力右眼0.04(0.1),左眼0.04(0.1)と再び低下,眼圧も右眼24.7mmHg,左眼22.0mmHgと高値となったため,精査加療目的で2007年1月札幌医科大学附属病院(以下,当院)眼科外来を紹介受診となった.初診時所見:瞳孔は正円同大,対光反応迅速,左右差を認めなかった.視力;右眼0.02(0.25×3.0D),左眼0.04(0.32×2.5D).眼圧;右眼26mmHg,左眼26mmHg.隅角所見;虹彩の高位付着と多数の虹彩突起を認めた.前眼部,中間透光体;異常所見なし.眼底所見(図2);両眼とも乳頭径(DD)と乳頭中心から中心窩までの距離(DM)の比(DM/DD)は2.5で正常範囲であった.右眼の陥凹乳頭比(C/D比)は0.8で,上耳側にリムのnotchを認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.左眼はC/D比は0.7で,上方リムの狭細化を認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.黄斑部および周辺網膜に異常はなかった.静的視野検査(図3,当院初診時施行);両眼に著明な求図1前医で施行の動的視野検査(2005年5月)右眼に著明な求心性視野狭窄を認めた.また,左眼も軽度の求心性視野狭窄を認める.右左右左図2初診時の眼底所見両眼ともDM/DD比は2.5で正常範囲であった.右眼のC/D比は0.8で,上耳側にリムのnotchを認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.左眼はC/D比は0.7で,上方リムの狭細化を認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081589(119)心性視野狭窄を認めた.経過:2007年1月29日に当院眼科に入院.隅角所見,視神経乳頭所見,および高眼圧が続いていることから,以前より発達緑内障があるものと考えられた.さらに,視力の動揺がみられること,今回の視野検査で乳頭所見から想定される以上の著しい求心性の視野狭窄が認められることから,心因性視覚障害も合併していると考えられた.そこで,眼圧下降目的に1月31日,全身麻酔下にて両トラベクロトミーを施行した.手術は下耳側より行い,二重強膜弁を作製し,内方弁は後に切除するという定型的なもので,特に合併症はなか図4眼圧推移1月31日手術施行前は両眼とも20mmHg台の高眼圧であったが,施行後は1517mmHgで推移している.1月31日トラベクロトミー05101520253011月1月19日1月29日2月1日2月28日4月4日5月9日6月22日7月18日眼圧(mmHg)右眼眼圧左眼眼圧図3初診時当院で施行の静的視野検査両眼に著明な求心性視野狭窄を認めた.1月31日トラベクロトミー矯正視力00.20.40.60.811.21.42007/1/172007/1/312007/2/142007/2/282007/3/142007/3/282007/4/112007/4/252007/5/92007/5/232007/6/62007/6/202007/7/42007/7/182007/8/12007/8/152007/8/292007/9/12:右眼:左眼図5矯正視力の経過術後早期は測定ごとにばらつきがみられたが,4月頃改善傾向となり,9月には右眼1.25,左眼1.0まで回復している.図6平成19年6月22日施行の動的視野検査内部イソプターでnasalstepを示しており,緑内障性の変化があることをうかがわせるが,視野は両眼とも著明に改善している.———————————————————————-Page41590あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(120)った.手術施行前は両眼とも20mmHg台の高眼圧であったが,施行後は1517mmHgで推移した(図4).また,矯正視力も徐々に改善し,術後半年以上経過した9月には右眼1.25,左眼1.0であった(図5).さらに,2007年6月22日施行の動的視野検査において,右眼下耳側内部イソプターのわずかな低下を認めたほかに異常なく,両眼とも著明な改善がみられた(図6).II考按心因性視覚障害に発達緑内障を合併した症例を経験した.心因性視覚障害は,近年小児によくみられ,このなかでも視力障害が最も多いが,視野障害,色覚異常なども検査を行うと合併していることも多い1).発症は614歳の小中学校学齢期に集中し,女子が男子の34倍を占めている2).本疾患に明らかな心因を見出せることはまれで,あっても思春期によくみられる学校や家庭などの身近な問題であり,普遍的一般的で何ら特有のものではない.一方で,同胞間の葛藤や母子関係などに心因との関連を見出すことも多いとの報告もある3).一般に心因性視覚障害では,裸眼視力の大部分(75%)が0.20.7にあり矯正不能で,ほとんど(95%以上)が両眼性である.Goldmann視野検査においては,約半数が正常であるが,らせん状視野・求心狭窄・不規則反応が約半数にみられる4).また,SPP(標準色覚検査表)-Ⅱ検査で約半数に色覚のメカニズムからは説明しえない異常がみられる5).治療法としては箱庭療法に代表される芸術療法,行動療法,精神療法などがあげられおり6),予後はGoldmann視野検査所見ならびにSPP-Ⅱ所見に異常がみられた場合に視力上昇が遅れることが多いが,ほとんどが16歳までに視力を回復し,いわば学童期にみられる特異的な疾患とされている7).今回の症例は視力右眼0.02(0.25),左眼0.04(0.32)と両眼に強い視力低下および両眼の著しい求心性視野狭窄を認め,黄斑に器質的変化を認めなかったことにより心因性視覚障害と診断された.さらに,眼圧推移,隅角検査,視神経乳頭所見より発達緑内障が合併していると考えられたが,視野は非特異的であったため,緑内障の発見が遅れた可能性がある.また,本症例はトラベクロトミー施行により良好な眼圧コントロールが得られたばかりか,以降の経過において矯正視力,視野の改善もみられたことは非常に興味深い点である.もし緑内障が進行していれば視野所見は改善しないはずであり,当初の視野障害は心因性の要素も関連していると考えられた.問題点としては,視野障害のうち,何%が発達緑内障の影響で,何%が心因性視覚障害の影響なのかを定量的に測定できないこと,および前医のGoldmann視野検査と当院のGoldmann視野検査の施行者が当然ながら異なるため,アプローチの方法により得られる結果が異なっていたかもしれないという点がある.実際,他院より著明な両求心性視野狭窄にて紹介された小児の症例に対し,以下の方法によってGoldmann視野検査を行ったところ,両眼とも正常視野が得られたとの報告もある8).その方法とは,1.検者は患児に対して毅然とした態度で接する,2.測定前に30cmのところに示される視標を識別する検査であると説明する,3.両眼性であれば,低視力のほうから測定する,4.視認可能な最小の視標(可能ならⅠ/1)からⅤ/4のイソプターへと逆順に測定する,5.視標を切り替える際に,患児に視標が見やすくなることを伝える,というものである.したがって,図2のような著明な求心性視野狭窄が,はたしてどこまで正確に測定されたものであるかというところに議論の余地は残る.ただし,図6に示すように,視野が改善した後も内部イソプターでnasalstepを示しており,緑内障性の変化があったことをうかがわせる.まとめとしては,当院受診時,心因性視覚障害と発達緑内障を合併していた可能性が非常に高いと考えられ,海外の文献においても心因性視覚障害の原因,もしくは同時期の発症として発達緑内障を取り上げている文献は調べる限りにおいてなく911),非常にまれな症例であると考えられた.しかし,経過および大学初診時の所見から考えるに,発達緑内障が元々あり,それに心因性視覚障害を合併したという可能性も否定できない.特に小児においては,実際に器質的な疾患があるが,その症状を自分でうまく形容しづらいがために,その転換反応として心因性視覚障害が現れた可能性もあるからである.本症例では明らかな心因は発見できなかったが,手術を契機に視覚障害が改善しており,早期の発達緑内障が手術により進行が抑えられ,治療がうまくいったということが心身の安定にもつながったのではないかと考える.本例は11歳という就学児童であり,今後心因性視覚障害の再発もありうると思われるので,注意して経過をみていくつもりである.本症例のように,心因性視覚障害が疑われた場合でも,くり返し隅角検査や眼底検査,眼圧検査などを行い,緑内障の有無の検索をすることが必要と考えられた.本論文の要旨は第18回日本緑内障学会にて発表した.文献1)小口芳久:心因性視力障害.日眼会誌104:61-67,20022)横山尚洋:心因性視覚障害の病態と治療方針─精神医学の立場から─.眼臨92:669-673,19983)大辻順子,内海隆:心因性視覚障害児の治療経験およびその母子関係.眼臨89:750-754,19954)大辻順子,内海隆:心因性視覚障害児の病態と治療方針─母子関係に注目して─.眼臨92:658-664,1998———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081591(121)5)山出新一,黄野桃世:エゴグラムから見た心因性視覚障害.眼臨89:247-253,19956)松村香代子,中田記久子,児嶋加代ほか:心因性視力障害児の治療.眼臨94:626-630,20007)内海隆:小児の心因性視覚障害の病態と治療.神経眼科21:417-422,20048)山本節:小児の視野検査.あたらしい眼科19:1297-1301,20029)CatalanoRA,SimonJW,KrohelGBetal:Functionalvisuallossinchildren.Ophthalmology93:385-390,198610)BrodskyMC,BakerRS,HamedLM:Transient,unex-plained,andpsychogenicvisuallossinchildren.Pediatric-Neuro-Ophthalmology,p164-200,Springer-Verlag,NewYork,199611)BainKE,BeattyS,LloydC:Non-organicvisuallossinchildren.Eye14:770-772,2000***