《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):738.741,2020cぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術が眼圧調整に及ぼす影響水井理恵子丸山勝彦内海卓也禰津直也小竹修後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野CE.ectofPhacoemulsi.cationandIntraocularLensImplantationonIntraocularPressureFollowingTrabeculectomyinEyeswithSecondaryGlaucomaAssociatedwithUveitisRiekoMizui,KatsuhikoMaruyama,TakuyaUtsumi,NaoyaNezu,OsamuKotakeandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityC目的:ぶどう膜炎続発緑内障に対する線維柱帯切除術後の二期的白内障手術の眼圧調整に及ぼす影響を,原発開放隅角緑内障の二期的白内障手術後の場合と比較すること.対象および方法:線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行ったぶどう膜炎続発緑内障(UG群)15例C15眼と,同様に線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行った原発開放隅角緑内障(POAG群)23例C23眼を対象とした.平均経過観察期間はCUG群がC48カ月(13.121カ月),POAG群がC37カ月(12.128カ月)で,眼圧調整の定義は,①術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし,②眼圧C12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なしの二つとし,両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,log-rank検定で比較した.また,両群における眼圧調整良好例の術後C1年の時点での眼圧を対応のないCt-検定で比較し,両群の術中,術後合併症の頻度をCFisherの正確検定で比較した.結果:術後C1年目の眼圧調整成績は,定義①ではCUG群C27%,POAG群C35%,定義②ではそれぞれC80%,70%で,両群間に差はなかった.また,術後C1年での眼圧調整良好例の眼圧は,定義①ではUG群6.5±1.3CmmHg,POAG群ではC7.3±3.5CmmHg,定義②ではそれぞれC8.5±2.3CmmHg,8.7±3.3CmmHgとなり,両群間に差はなかった.さらに,術中,術後合併症の頻度も両群間に差はなく,UG群のなかで術後に炎症の再燃をきたした症例もなかった.結論:炎症が鎮静化し,眼圧が長期間にわたって安定しているCUGの場合,その後の白内障に対してはCPOAGと同様に手術適応を決定してよいと考えられる.CPurpose:Tocomparethee.ectofphacoemulsi.cationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL)onintra-ocularpressure(IOP)followingtrabeculectomybetweenuveiticglaucoma(UG)eyesandprimaryopen-angleglau-coma(POAG)eyes.Methods:Weenrolled15eyesof15patientswithUG(UGgroup)and23eyesof23patientswithPOAG(POAGgroup,control)whounderwentPEA+IOLaftertrabeculectomy.TheprobabilityofsuccessfulIOPCcontrolCandCtheCincidenceCofCintraCandCpostoperativeCcomplicationsCwereCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:TheprobabilityofasuccessfulIOPcontrolofunder12CmmHgwithoutadditionalsurgerywas80%intheUGgroupand70%inthePOAGgroup(log-ranktest,p=0.82).Therewerenostatisticaldi.erencesintheinci-denceCofCintraCandCpostoperativeCcomplicationsCbetweenCtwoCgroups.CConclusion:TheC.ndingsCinCthisCstudyCsug-gestthattheindicationofcataractsurgeryaftertrabeculectomyinUGeyesissimilartothatinPOAGeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(6):738.741,C2020〕Keywords:ぶどう膜炎,続発緑内障,ぶどう膜炎続発緑内障,線維柱帯切除術,白内障.uveitis,secondaryglau-coma,uveitisglaucoma,trabeculectomy,cataract.Cはじめに障(uveiticglaucoma:UG)を含めたすべての緑内障病型に線維柱帯切除術は原発開放隅角緑内障(primaryCopen-適応される標準術式であるが1),術後合併症として白内障のCangleglaucoma:POAG)のみならず,ぶどう膜炎続発緑内発生が知られている2).その白内障の進行によって視機能が〔別刷請求先〕水井理恵子:〒162-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:RiekoMizui,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishi-shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo162-0023,JAPANC738(94)表1対象の背景UG群POAG群p値眼数C1523C.年齢C55.1±10.5(35.73)歳C59.9±6.6(45.70)歳C0.11*男:女9:615:8C1.00†線維柱帯切除術から二期的白内障手術までの期間C29.5±26.6(18.43)カ月C32.5±20.7(18.32)カ月C0.70*術前眼圧C7.8±2.3(4.12)mmHgC8.5±2.4(5.12)mmHgC0.45*角膜内皮細胞密度C2,527.9±446.8(1,370.3,155)/mmC2C2,517.7±269.7(2,141.3,378)/mmC2C0.89*経過観察期間C47.9±29.6(13.121)月C37.3±29.0(12.128)月C0.30*平均C±標準偏差(レンジ).UG:uveiticglaucomaぶどう膜炎続発緑内障,POAG:primaryopen-angleglaucoma原発開放隅角緑内障.*:対応のないCt-検定,C†:Fisherの正確検定.低下した場合には水晶体再建術が行われるが,線維柱帯切除Ca100眼圧調整成績(%)80604020術後に二期的白内障手術を行うと,POAG3,4),UG5,6)のいずれの場合であっても,その後の眼圧調整が悪化することが知られている.このような二期的白内障手術後の眼圧上昇は,白内障手術後に前房内の炎症性サイトカイン濃度が上昇し7),それらの影響によって濾過胞内の創傷治癒が促進され,濾過機能が減弱して生じる8)と考えられている.したがって,潜在的に炎症反応が生じやすいCUGの場合,二期的白内障手術の成績はPOAGと異なる可能性も考えられるが,これまで両者の比較は行われていない.01020304050607080生存数期間(月)15UG群:4422223POAG群:86311b100本研究の目的は,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的眼圧調整成績(%)80604020白内障手術の成績をCPOAGと比較することである.I対象および方法線維柱帯切除術後に二期的白内障手術を行い,1年以上経過観察したCUG(UG群)15例C15眼とCPOAG(POAG群)23例C23眼を対象に,診療録を基にしたCcase-controlstudyを行った.対象の背景に両群間の差はなかった(表1).UG群のぶどう膜炎の内訳は,Behcet病,サルコイドーシス,急性前部ぶどう膜炎,サイトメガロウイルス虹彩炎が各C1眼で,他は同定不能であったが,二期的白内障術前に炎症反応を認めた症例はなかった.なお,両群とも全例が濾過胞所見によってC0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液をC1日C1.2回使用していたが,眼圧下降薬を使用していた症例はなかった.なお,白内障手術時にニードリングを含めた濾過胞再建術を併用した症例は対象から除外した.検討項目は以下のとおりである.まず,白内障術後の両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,log-rank検定で比較した.眼圧調整の定義は,①術後の眼圧値が術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし,②術後の眼圧値がC12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なし,の二つとし,3回連続でこれらの条件を満たさなかった場合は,1回目の時点で眼圧調01020304050607080生存数期間(月)UG群:151210740POAG群:231610652図1両群の眼圧調整成績の比較実線:UG群,点線:POAG群.Ca:定義①(術前眼圧以下,かつ緑内障の再手術なし)UG群C27%,POAG群C35%(術後C1年目),p=0.70.Cb:定義②(眼圧C12CmmHg以下,かつ緑内障の再手術なし)UG群C80%,POAG群C70%(術後C1年目),p=0.82.整不良と判定した.なお,白内障術後の眼圧下降薬の使用やニードリング,眼球マッサージなどの処置追加の有無は眼圧調整の定義に含めなかった.また,両群の眼圧調整良好例について,術後C1年における眼圧を対応のないCt-検定で比較した.さらに,両群の術中,術後合併症の頻度をCFisherの表2術中,術後合併症の頻度UG群POAG群(n=15)(n=23)p値‡C術中合併症後.破損0%0%C1.00結膜損傷0%0%C1.00術後合併症房水漏出0%0%C1.00低眼圧*27%9%C0.19後発白内障*0%9%C0.51角膜内皮細胞密度減少†7%0%C0.39濾過不全*20%44%C0.18緑内障再手術0%4%*:処置を要したもの,C†:術後C1年で減少率C10%以上のもの,C‡:Fisherの正確検定.正確検定で比較した.いずれもCp<0.05をもって統計学的に有意と判定した.CII結果白内障術後の眼圧調整成績を図1に示す.定義①,②の場合ともに両群間に有意差はなかった.術後C1年における眼圧調整良好例の眼圧は,定義①ではUG群C6.5C±1.3CmmHg(5.8mmHg),POAG群ではC7.3C±3.5mmHg(3.12mmHg),定義②ではそれぞれC8.5C±2.3CmmHg(5.12CmmHg),8.7C±3.3CmmHg(3.12CmmHg)で,両群間に有意差はなかった(定義①Cp=0.728,定義②Cp=0.709).術中,術後合併症の頻度を表2に示す.両群間に有意差はなく,UG群のなかで術後に炎症の再燃をきたした症例もなかった.CIII考按本研究は,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績をCPOAGと比較した初めての報告である.少数例ではあるが,今回の筆者らの検討では,線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績はCPOAGと同等で,眼圧調整良好の術後眼圧や術中術後合併症の頻度も同等という結果になった.線維柱帯切除術後のCUGに対する二期的白内障手術の成績に関しては,Almobarakら5)が,27眼(術前眼圧:14mmHg,線維柱帯切除術から二期的白内障手術までの期間:平均C28カ月)を対象とした後ろ向き研究の結果,眼圧下降薬の併用なしで眼圧をC6.21CmmHgの間に調整できたのは術後C1年目でC84%であったと報告している.本報告では白内障術後の眼圧調整のカットオフ値の上限をC12CmmHgに設定したところ,術後C1年目ではC80%と良好な成績であったが,これは今回,筆者らが対象とした症例の術前眼圧が比較的低かったことを反映した結果と考えられる.有濾過胞眼に対して二期的白内障手術を行う際には,それまで良好にコントロールされていた眼圧が上昇する可能性を考慮し,眼圧値や濾過胞形態から症例に応じて白内障手術にニードリングを含めた濾過胞再建術を併用することもある.本研究の対象は,それらの操作を併用する必要がないと判断された症例のみであり,術前眼圧は平均C7.8CmmHg,最高でもC12CmmHgとかなり低い値に調整されており,これらの背景が好成績につながった可能性も考えられる.線維柱帯切除術既往眼に対する二期的白内障手術の成績に影響する因子として,線維柱帯切除術から白内障手術までの期間が知られている.すなわち,線維柱帯切除術後C1年以内に白内障手術を施行した場合の眼圧調整成績は,POAG,UGのいずれも不良であることが報告されている4,6).本研究では線維柱帯切除術から白内障手術までの期間が平均C2年以上と長期間であったことも良好な成績につながった理由の一つと考えられる.今回の結果では,術後合併症のなかで,処置を要する低眼圧の頻度がCPOAG群よりCUG群で高い傾向があった.経結膜的強膜弁縫合などの処置を行ったあとで,両群とも全例が改善したことから,低眼圧の主原因は過剰濾過であったと考えられる.それに加えてCUG群では房水産生の低下も低眼圧発生に関与していた可能性があるが,正確に同定することは困難である.有濾過胞眼に対する二期的白内障手術後の濾過胞不全や眼圧上昇は,白内障手術により炎症性サイトカインの一つであるCmonocyteCchemoattractantprotein-1の前房内濃度が上昇し7),その影響により結膜下の線維化や濾過胞の瘢痕化が促進され,濾過機能が減弱することが推測されている8).潜在的に炎症反応が生じやすいCUGの場合,POAGと比較して二期的白内障手術後の眼圧調整成績は不良となる可能性は十分に考えられるが,今回の筆者らの検討では同等の成績となった.むろん,本研究は単一施設における少数例を対象とした後ろ向き研究であり,症例の選択バイアスの影響は否定できないが,炎症が鎮静化し,眼圧が長期間にわたって安定しているCUGの場合,その後の白内障に対してはCPOAGと同様に手術適応を決定して良いことが示唆された.今後はさらに症例数を重ね,長期経過やぶどう膜炎の原因別に成績を検討していくことが必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FellmanCRL,CGroverD:Trabeculectomy.In:Glaucoma,SurgicalManagement(EdbyShaarawyTMetal)p749-780,Amsterdam,Elsevier,20152)BronAM,LabbeA,AptelF:Cataractfollowingtrabecu-lectomy.In:Glaucoma,CSurgicalCManagement(EdCbyCShaarawyTMetal)p882-999,Amsterdam,Elsevier,20153)RebolledaCG,CMunoz-NegreteFJ:Phacoemulsi.cationCineyeswithfunctioning.lteringblebs:aprospectivestudy.OphthalmologyC109:2248-2255,C20024)Awai-KasaokaCN,CInoueCT,CTakiharaCYCetal:ImpactCofCphacoemulsi.cationConCfailureCofCtrabeculectomyCwithCmitomycin-C.JCataractRefractSurgC38:419-424,C20125)AlmobarakCFA,CAlharbiCAH,CMoralesCJCetal:TheCin.u-enceCofCphacoemulsi.cationConCintraocularCpressureCcon-trolCandCtrabeculectomyCsurvivalCinCuveiticCglaucoma.CJGlaucomaC26:444-449,C20176)NishizawaCA,CInoueCT,COhiraCSCetal:TheCin.uenceCofCphacoemulsi.cationConCsurgicalCoutcomesCofCtrabeculecto-myCwithCmitomycin-CCforCuveiticCglaucoma.CPLoSCOneC11:e0151947,C20167)KawaiCM,CInoueCT,CInataniCMCetal:ElevatedClevelsCofCmonocytechemoattractantprotein-1intheaqueoushumorafterCphacoemulsi.cation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:C7951-7960,C20128)TakiharaY,InataniM,Ogata-IwaoMetal:Trabeculec-tomyforopen-angleglaucomainphakiceyesvsinpseu-dophakicCeyesCafterphacoemulsi.cation:aCprospectiveCclinicalcohortstudy.JAMAOphthalmolC132:69-76,C2014***